(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】電子デバイス封止層形成用のインク組成物及び電子デバイス封止層形成方法
(51)【国際特許分類】
H10K 71/15 20230101AFI20240220BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240220BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20240220BHJP
C09D 11/00 20140101ALI20240220BHJP
H05B 33/04 20060101ALI20240220BHJP
H10K 50/844 20230101ALI20240220BHJP
H01L 31/048 20140101ALN20240220BHJP
【FI】
H10K71/15
H05B33/14 A
H05B33/10
C09D11/00
H05B33/04
H10K50/844
H01L31/04 560
(21)【出願番号】P 2021565400
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2020043482
(87)【国際公開番号】W WO2021124802
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2019226917
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】広沢 昇太
(72)【発明者】
【氏名】竹村 千代子
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-056587(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047362(WO,A1)
【文献】特開2011-238560(JP,A)
【文献】特開2019-036517(JP,A)
【文献】特開2017-031040(JP,A)
【文献】特開2009-111029(JP,A)
【文献】特開2014-051637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/04
H10K 50/10
H05B 33/10
C09D 11/00
H01L 31/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子デバイス封止層形成用のインク組成物であって、
ポリシラザンを含有し、
当該インク組成物が、20℃における蒸気圧が、8.0×10
2Pa以上の高乾燥性溶媒Aと、4.0×10
2Pa以下である低乾燥性溶媒Bとをそれぞれ少なくとも1種以上含有し、
溶媒全量に対する前記高乾燥性溶媒Aのモル分率をm
a1,m
a2,…とし、前記低乾燥性溶媒Bのモル分率をm
b1,m
b2,…とし、前記高乾燥性溶媒Aの蒸気圧をP
a1,P
a2,…とし、前記低乾燥性溶媒Bの蒸気圧をP
b1,P
b2,…としたとき、下記式(i)で表されるP
totalが、0.5×10
2~3.6×10
2Paの範囲内である電子デバイス封止層形成用のインク組成物。
(式i)P
total=P
a1×m
a1+P
a2×m
a2+…、P
b1×m
b1+P
b2×m
b2+…
【請求項2】
前記高乾燥性溶媒Aが、ジブチルエーテルである請求項1に記載の電子デバイス封止層形成用のインク組成物。
【請求項3】
前記低乾燥性溶媒Bが、デカリンである請求項1又は請求項2に記載の電子デバイス封止層形成用のインク組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の電子デバイス封止層形成用のインク組成物を用いて、封止層を形成する方法であって、
電子デバイス上に気相法により第1封止層を形成する工程と、
前記第1封止層上に前記電子デバイス封止層形成用のインク組成物を塗布することにより第2封止層を形成する工程と、を備える電子デバイス封止層形成方法。
【請求項5】
前記第2封止層上に、気相法により第3封止層を形成する工程を備える請求項4に記載の電子デバイス封止層形成方法。
【請求項6】
前記第2封止層を形成する工程が、インクジェット法を用いる請求項4又は請求項5に記載の電子デバイス封止層形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイス封止層形成用のインク組成物及び電子デバイス封止層形成方法に関し、特に、封止性能及び屈曲耐性に優れ、電子デバイスの劣化を抑制することができる電子デバイス封止層形成用のインク組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス、特に有機エレクトロルミネッセンスデバイス(以下、「有機ELデバイス」又は「有機EL素子」ともいう。)は、用いられている有機材料や電極が水分により劣化することを防止するため、有機EL素子の表面を封止層により覆うことが提案されている。
【0003】
有機EL素子を封止する技術として、例えば、特許文献1に記載の技術では、有機EL素子を覆うように有機EL素子の表面上に乾式法(CVD法)により形成された第1の保護膜と、当該第1の保護膜の表面上に湿式法により形成され、かつ、第1の保護膜の未付着部分を穴埋めするための第2の保護膜とを備えた有機EL装置が開示されている。また、第2の保護膜としてポリシラザンを用いることが記載されている。
しかしながら、前記特許文献1に記載の有機EL装置では、85℃85%RH100時間以上の高温高湿下において、第1の保護膜と第2の保護膜との界面密着が劣化することに起因する(と推定される)第1の保護膜と第2の保護膜との界面における水分透過の問題があり、封止性能が劣っていた。
また、前記第2の保護膜のパターニングとしてインクジェットを用いたときに、特許文献1に開示されている組成物にてインクジェット法を適用したところ、インクの吐出性やパターニング精度に問題があった。さらに、インクジェット印刷法により形成された第2の保護膜の粒界が発生して、前記界面における水分透過の問題が顕著であった。
【0004】
一方、特許文献2では、ケイ素含有重合体と、少なくとも2種の溶媒を含む混合溶媒とを含有し、前記混合溶媒が25℃で5~35nN/mの表面張力を有するシリカ膜形成用組成物が開示されている。
さらに、特許文献3では、ポリシラザンを含有する塗布液であって、前記ポリシラザンと、前記ポリシラザンの一部に酸素原子が導入され、シリコン(Si)原子に対する酸素(O)原子の原子組成比(O/Si)が0.01~0.1の範囲内である酸化ポリシラザンと、を含有する塗布液が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の組成物又は特許文献3に記載の塗布液を用いて、気相法によるCVD層上にインクジェットにより塗布して封止層を形成したところ、インクの吐出性は改善されていたものの、CVD層と当該CVD層上の塗布膜との界面における水分透過が問題であった。また、屈曲時における界面の密着性も低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-056587号公報
【文献】特開2017-031040号公報
【文献】特開2019-036517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、封止性能及び屈曲耐性に優れ、電子デバイスの劣化を抑制することができる電子デバイス封止層形成用のインク組成物及び電子デバイス封止層形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、ポリシラザンと、高乾燥性溶媒A及び低乾燥性溶媒Bを含有し、かつ、各溶媒のモル分率と各溶媒の蒸気圧の積の和を特定範囲に規定したインク組成物を、封止層の形成に用いることで、封止性能及び屈曲耐性に優れ、電子デバイスの劣化を抑制することができることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.電子デバイス封止層形成用のインク組成物であって、
ポリシラザンを含有し、
当該インク組成物が、20℃における蒸気圧が、8.0×102Pa以上の高乾燥性溶媒Aと、4.0×102Pa以下である低乾燥性溶媒Bとをそれぞれ少なくとも1種以上含有し、
溶媒全量に対する前記高乾燥性溶媒Aのモル分率をma1,ma2,…とし、前記低乾燥性溶媒Bのモル分率をmb1,mb2,…とし、前記高乾燥性溶媒Aの蒸気圧をPa1,Pa2,…とし、前記低乾燥性溶媒Bの蒸気圧をPb1,Pb2,…としたとき、下記式(i)で表されるPtotalが、0.5×102~3.6×102Paの範囲内である電子デバイス封止層形成用のインク組成物。
(式i)Ptotal=Pa1×ma1+Pa2×ma2+…、Pb1×mb1+Pb2×mb2+…
【0010】
2.前記高乾燥性溶媒Aが、ジブチルエーテルである第1項に記載の電子デバイス封止層形成用のインク組成物。
【0011】
3.前記低乾燥性溶媒Bが、デカリンである第1項又は第2項に記載の電子デバイス封止層形成用のインク組成物。
【0012】
4.第1項から第3項までのいずれか一項に記載の電子デバイス封止層形成用のインク組成物を用いて、封止層を形成する方法であって、
電子デバイス上に気相法により第1封止層を形成する工程と、
前記第1封止層上に前記電子デバイス封止層形成用のインク組成物を塗布することにより第2封止層を形成する工程と、を備える電子デバイス封止層形成方法。
【0013】
5.前記第2封止層上に、気相法により第3封止層を形成する工程を備える第4項に記載の電子デバイス封止層形成方法。
【0014】
6.前記第2封止層を形成する工程が、インクジェット法を用いる第4項又は第5項に記載の電子デバイス封止層形成方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記手段により、封止性能及び屈曲耐性に優れ、電子デバイスの劣化を抑制することができる電子デバイス封止層形成用のインク組成物、電子デバイス封止層形成方法及び電子デバイス封止層を提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
ポリシラザンと、高乾燥性溶媒A及び低乾燥性溶媒Bを含有し、かつ、各溶媒のモル分率と各溶媒の蒸気圧の積の和を特定範囲に規定したインク組成物を封止層の形成に用いることにより、溶媒が乾燥する過程において高乾燥性溶媒Aと低乾燥性溶媒Bの乾燥速度に差異が生じる。高乾燥性溶媒Aと低乾燥性溶媒Bとの乾燥速度差により、高乾燥性溶媒Aが先に乾燥されることによりピニングされ、気相法により形成された下層(第1封止層)への安定な密着に寄与されるものと推定される。また、前記下層への密着により界面が強くなることで、界面の水分拡散が抑制され、界面を透過する水分による電子デバイスの劣化を防ぐことが推察される。
また、低乾燥性溶媒Bを含有することにより、インクジェット法を用いた場合にもインクの吐出性やパターニング精度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の電子デバイス封止層の断面画像を示した図(電子顕微鏡写真)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の電子デバイス封止層形成用のインク組成物は、電子デバイス封止層形成用のインク組成物であって、ポリシラザンを含有し、当該インク組成物が、20℃における蒸気圧が、8.0×102Pa以上の高乾燥性溶媒Aと、4.0×102Pa以下である低乾燥性溶媒Bとをそれぞれ少なくとも1種以上含有し、溶媒全量に対する前記高乾燥性溶媒Aのモル分率をma1,ma2,…とし、前記低乾燥性溶媒Bのモル分率をmb1,mb2,…とし、前記高乾燥性溶媒Aの蒸気圧をPa1,Pa2,…とし、前記低乾燥性溶媒Bの蒸気圧をPb1,Pb2,…としたとき、下記式(i)で表されるPtotalが、0.5×102~3.6×102Paの範囲内である。
(式i)Ptotal=Pa1×ma1+Pa2×ma2+…、Pb1×mb1+Pb2×mb2+…
この特徴は、下記各実施形態に共通又は対応する技術的特徴である。
【0020】
本発明の実施態様としては、前記高乾燥性溶媒Aが、ジブチルエーテルであることが、ポリシラザンの溶解性の観点で好ましく、前記低乾燥性溶媒Bが、デカリンであることが、適切なインクの吐出性やパターニング性を得ることができる点で好ましい。
【0021】
本発明の電子デバイス封止層形成方法は、前記電子デバイス封止層形成用のインク組成物を用いて、封止層を形成する方法であって、電子デバイス上に気相法により第1封止層を形成する工程と、前記第1封止層上に前記電子デバイス封止層形成用インクを塗布することにより第2封止層を形成する工程と、を備える。
これにより、前記インク組成物に含有される高乾燥性溶媒Aと低乾燥性溶媒Bとの乾燥速度差により、高乾燥性溶媒Aが先に乾燥されることによりピニングされ、気相法により形成された第1封止層と第2封止層との密着性に優れ、封止性能及び屈曲耐性に優れる。
また、第1封止層と第2封止層の密着により界面が強くなることで、界面の水分拡散が抑制され、界面を透過する水分による電子デバイスの劣化を抑制することができる。
【0022】
また、前記第2封止層上に、気相法により第3封止層を形成する工程を備えることが、封止性能により優れる点で好ましい。
前記第2封止層を形成する工程が、インクジェット法を用いることが、高精度に層形成できる点で好ましい。
【0023】
本発明の電子デバイス封止層は、窒化ケイ素、酸化ケイ素又は酸窒化ケイ素を含有する第1封止層と、前記第1封止層に混在する欠陥領域と、前記第1封止層に隣接して設けられ、ポリシラザンを含有する第2封止層と、前記欠陥領域と前記第1封止層との間の隙間に充填されたポリシラザン領域と、を有する。
これにより、欠陥領域と第1封止層との間の隙間に充填されたポリシラザン領域によって、第1封止層と第2封止層との密着性に優れ、封止性能及び屈曲耐性に優れる。また、第1封止層と第2封止層との密着により界面が強くなることで、界面の水分拡散が抑制され、界面を透過する水分による電子デバイスの劣化を抑制することができる。
【0024】
前記隙間の間隔が、電子顕微鏡を用いて断面観察した際に15nm以下であることで、従来のインクよりも優位な効果が得られる点で好ましい。
【0025】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0026】
[本発明の電子デバイス封止層形成用のインク組成物の概要]
本発明の電子デバイス封止層形成用のインク組成物(以下、単にインク組成物ともいう。)は、電子デバイス封止層形成用のインク組成物であって、ポリシラザンを含有し、当該インク組成物が、20℃における蒸気圧が、8.0×102Pa以上の高乾燥性溶媒Aと、4.0×102Pa以下である低乾燥性溶媒Bとをそれぞれ少なくとも1種以上含有し、溶媒全量に対する前記高乾燥性溶媒Aのモル分率をma1,ma2,…とし、前記低乾燥性溶媒Bのモル分率をmb1,mb2,…とし、前記高乾燥性溶媒Aの蒸気圧をPa1,Pa2,…とし、前記低乾燥性溶媒Bの蒸気圧をPb1,Pb2,…としたとき、下記式(i)で表されるPtotalが、0.5×102~3.6×102Paの範囲内である。
(式i)Ptotal=Pa1×ma1+Pa2×ma2+…、Pb1×mb1+Pb2×mb2+…
【0027】
ここで、本発明における「電子デバイス」とは、電子のもつ運動エネルギー、位置エネルギーなどを利用して電気信号の発生、増幅、変換、又は制御などを行う素子をいう。例えば、発光ダイオード素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、光電変換素子及びトランジスターなどの能動素子が挙げられる。また、本発明においては、他からの働きかけに対し、「抵抗する」「蓄える」などの受け身的な仕事をする受動素子、例えば、抵抗器・コンデンサーなども電子デバイスに含める。
したがって、本発明のインク組成物は、前記した電子デバイスを封止するための封止層を形成するために用いられる。
【0028】
<高乾燥性溶媒A>
本発明に係る高乾燥性溶媒Aは、20℃における蒸気圧が8.0×102Pa以上であり、上限値としては2.0×104Pa以下である。
本発明の課題を解決するために適切な乾燥速度を得るために8.0×102Pa以上である必要があり、また、インク吐出前やインク吐出時の自然乾燥による組成変化に対する安定性を得るために2.0×104Pa以下である必要がある。
【0029】
本発明に係る高乾燥性溶媒Aの20℃における蒸気圧(Pa)は、下記の方法に準じ求めることができる。例えば、JIS K2258-1:2009に準拠したリード法やJIS K2258-2:2009に準拠した3回膨張法等を挙げることができる。また、一般的な蒸気圧の測定方法として知られている、静止法、沸点法、アイソテニスコープ、気体流通法、DSC法も適用することができる。さらには、公知文献、例えば、「新版 溶剤ポケットブック」(有機合成化学教会編、オーム社)に記載されている蒸気圧データを活用することもできる。
【0030】
前記蒸気圧が8.0×102Pa以上の高乾燥性溶媒Aとしては、ポリシラザンと反応しない溶媒であれば特に制限されず、適宜公知のものを使用することができる。具体的には、芳香族系溶媒、アルカン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、他の溶媒等が挙げられる。例えば、キシレン、エチレングリコールモノメチルエーテル(別名:メチルセロソルブ)、酢酸イソペンチル(別名:酢酸イソアミル)、ジブチルエーテル(DBE)、クロルベンゼン、酢酸ノルマル-ブチル、メチル-ノルマル-ブチルケトン、テトラクロルエチレン(別名:パークロルエチレン)、酢酸イソブチル、メチルイソブチルケトン、酢酸ノルマル-プロピル、トルエン、1,4-ジオキサン、イソプロピルアルコール、トリメチルペンタン(TMP)、酢酸イソプロピル、トリクロルエチレン、1,2-ジクロルエタン(別名:二塩化エチレン)、酢酸エチル、メチルエチルケトン、四塩化炭素、1,1,1-トリクロルエタン、ノルマルヘキサン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらの中でも、DBE、キシレンが好ましく、また、1種類を用いてもよいし、複数種用いてもよい。
【0031】
<低乾燥性溶媒B>
本発明に係る低乾燥性溶媒Bは、20℃における蒸気圧が4.0×102Pa以下であり、下限値としては、1.0×10-1Pa以上である。
本発明の課題を解決するために適切な乾燥速度を得るために4.0×102Pa以下である必要があり、塗膜後に溶剤を除去するための乾燥性を得るために1.0×10-1Pa以上である必要がある。
低乾燥性溶媒Bの20℃における蒸気圧(Pa)の測定方法は、前記した高乾燥性溶媒Aの蒸気圧の測定方法と同様の方法を採用することができる。
【0032】
前記蒸気圧が4.0×102Pa以下の低乾燥性溶媒Bとしては、ポリシラザンと反応しない溶媒であれば特に制限されず、適宜公知のものを使用することができる、具体的には、芳香族系溶媒、アルカン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、他の溶媒等が挙げられる。例えば、ヘキサデカン、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、ジフェニルエーテル、エチレングリコール、1-メチルナフタレン、シクロヘキシルベンゼン、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール、4′-メチルアセトフェノン、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、N-メチルピロリドン(NMP)、4-エチルアニソール、テトラリン、クレゾール、安息香酸ブチル、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテル(別名:ブチルセロソルブ)、n-ブチルベンゼン、酢酸シクロヘキシル、1,2-ジクロロベンゼン、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(別名:セロソルブアセテート)、メチルシクロヘキサノール、フェネトール、sec-ブチルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、デカリン(別名:デカヒドロナフタレン)、1,3,5-トリメチルベンゼン(メシチレン)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、メチルシクロヘキサノンン、エチレングリコールモノフェニルエーテル(EGMPE)等が挙げられる。これらの中でも、デカリン、DEGDBE、テトラリンが好ましく、また、1種類を用いてもよいし、複数種用いてもよい。
【0033】
本発明のインク組成物は、溶媒全量に対する高乾燥性溶媒Aのモル分率をma1,ma2,…とし、低乾燥性溶媒Bのモル分率をmb1,mb2,…とし、高乾燥性溶媒Aの蒸気圧をPa1,Pa2,…とし、低乾燥性溶媒Bの蒸気圧をPb1,Pb2,…としたとき、下記式(i)で表されるPtotalが、0.5×102~3.6×102Paの範囲内であり、より好ましくは、1.4×102~3.4×102Paの範囲内である。
(式i)Ptotal=Pa1×ma1+Pa2×ma2+…、Pb1×mb1+Pb2×mb2+…
【0034】
前記高乾燥性溶媒Aと低乾燥性溶媒Bのモル分率は、前記式(i)を満たせば、特に限定されるものではないが、例えば、高乾燥性溶媒Aのモル分率が、5~40の範囲内で、低乾燥性溶媒Bのモル分率が、95~60の範囲内であることが好ましい。
【0035】
<ポリシラザン>
本発明に用いられる「ポリシラザン」とは、構造内にケイ素-窒素結合を持つポリマーで、酸窒化ケイ素の前駆体となるポリマーであり、下記一般式(1)の構造を有するものが好ましく用いられる。
【0036】
【0037】
式中、R1、R2、及びR3は、各々水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、又はアルコキシ基を表す。
【0038】
本発明では、得られる封止層としての緻密性の観点からは、R1、R2及びR3の全てが水素原子であるパーヒドロポリシラザンが特に好ましい。
【0039】
また、本発明に用いられるポリシラザンは、重量平均分子量Mwが1000以上であることが好ましく、より好ましくは3000以上であり、特に7000以上であることが好ましい。また、このような高分子のポリシラザンを全ポリシラザンに対して50質量%以上含有することが好ましい。高分子のポリシラザンを含有することで、インク組成物の粘度調整を行うことができる。
Mwが、3000以上のポリシラザンとしては、例えば、特許第5172867号公報に記載の方法を参考にして、重量平均分子量Mwが3000以上の高分子量成分のみを有するポリシラザンを得ることができる。
【0040】
本発明に用いられるポリシラザンは、有機溶媒に溶解した溶液の状態で市販されているものを使用することができる。
有機溶媒としては、ポリシラザンを溶解できるものであれば特に制限されないが、ポリシラザンと容易に反応してしまう水及び反応性基(例えば、ヒドロキシ基、又はアミン基等)を含まず、ポリシラザンに対して不活性の有機溶剤が好ましく、非プロトン性の有機溶剤がより好ましい。
具体的には、溶剤としては、非プロトン性溶剤;例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターペン等の、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒;塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類:例えば、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、モノ-及びポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(ジグライム類)などを挙げることができる。上記溶剤は、ポリシラザンの溶解度や溶剤の蒸発速度等の目的にあわせて選択され、単独で使用されても又は2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
また、ポリシラザンが有機溶媒に溶解したポリシラザン原溶液は、無触媒であってもよいし、触媒を含んでいてもよい。
触媒としては、塩基性触媒が好ましく、特に、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、3-モルホリノプロピルアミン、N,N,N',N'-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N,N',N'-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン等のアミン触媒、Ptアセチルアセトナート等のPt化合物、プロピオン酸Pd等のPd化合物、Rhアセチルアセトナート等のRh化合物等の金属触媒、N-複素環式化合物が挙げられる。これらのうち、アミン触媒を用いることが好ましい。この際添加する触媒の濃度としては、ケイ素化合物を基準としたとき、好ましくは0.1~5質量%の範囲内、より好ましくは0.5~2質量%の範囲内である。触媒添加量をこの範囲とすることで、反応の急激な進行による過剰なシラノール形成及び膜密度の低下、膜欠陥の増大などを避けることができる。また、これらの触媒を添加することで、より微量の水分量でポリシラザンの酸化を進行する。
ポリシラザン溶液の市販品としては、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のNN120-20、NAX120-20、NL120-20などが挙げられる。
【0041】
その他、ポリシラザンの詳細については、従来公知である特開2013-255910号公報の段落「0024」~「0040」、特開2013-188942号公報の段落「0037」~「0043」、特開2013-151123号公報の段落「0014」~「0021」、特開2013-052569号公報の段落「0033」~「0045」、特開2013-129557号公報の段落「0062」~「0075」、特開2013-226758号公報の段落「0037」~「0064」等を参照して採用することができる。
【0042】
本発明のインク組成物の粘度は、20℃において1~20mPa・sの範囲内であることが、適度な粘度を有し、インクジェット法による吐出安定性が良好となる点で好ましい。
粘度の測定は、市販されている回転式や振動式の粘度計によって行うことができる。
【0043】
また、本発明のインク組成物は、揮発性増粘剤を含有することが、インク組成物の粘度調整を行うことができる点で好ましい。
揮発性増粘剤としては、インク組成物の膜形成を阻害しない程度の揮発性を有し、20℃における粘度が概ね1mPa・s以上の液状化合物、又は、混合することで1mPa・s以上の粘度となるような液状混合物であれば特に制限されないが、前述した高乾燥性溶媒A、低乾燥性溶媒B及びポリシラザンとの相溶性があり、ポリシラザンとの反応性を有さないような非プロトン性で、水の溶解度が低い非水溶性の揮発性オイルやグリコールエーテルが好ましい。
具体的には、揮発性オイルとしては、例えば、テレピン、ペトロール、ミネラルスピリット、α-ピネン、イソパラフィン、揮発性シリコーンオイルなど、グリコールエーテルとしては、例えば、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられ、中でも、ジエチレングリコールジブチルエーテルや、揮発性シリコーンオイルなどの適度な粘度と揮発性と非水溶性を有する化合物は、希釈溶剤と兼用することができる点で好ましい。
【0044】
本発明のインク組成物は、上記有機溶媒に溶解したポリシラザン原溶液に、高乾燥性溶媒A及び低乾燥性溶媒Bを所定のモル分率となるように添加することによって得ることができる。
【0045】
また、ポリシラザン原溶液に、前記高乾燥性溶媒A及び低乾燥性溶媒Bの他に、前記揮発性増粘剤を添加することが好ましい。
前記高乾燥性溶媒A、低乾燥性溶媒B及び揮発性増粘剤の添加中から添加後にかけて撹拌することが好ましく、さらに、加熱撹拌することが好ましい。加熱温度としては、前記高乾燥性溶媒A及び低乾燥性溶媒Bの沸点以下であることが好ましく、50~120℃の範囲内がより好ましい。加熱手段や撹拌手段としては特に制限はなく、溶液を加熱、撹拌するための一般的な方法を適用することができるが、加熱する場合は、間接的に溶液の入った容器や釜を温めることで液を加熱する方法が好ましい。また、撹拌の場合は、撹拌羽を取り付けたシャフトをモーターにより回転させる方法、液が少量であれば撹拌子とスターラーを用いて撹拌する方法などが適用できる。
また、塗布液を安定化(脱泡)させるために、加熱、撹拌又は超音波分散させることが好ましい。
【0046】
本発明のインク組成物は、溶存ガス量の経過時間後の増加量(ΔV)が、ΔV<100ppm/dayであることが、気泡が発生せずに、安定化したインク組成物とすることができる点で好ましい。また、ΔV<10ppm/dayであることがより好ましく、ΔV<1ppm/dayであることが特に好ましい。
溶存ガス量の測定方法は、例えば、インク組成物を加熱、撹拌又は超音波分散後に発生したガスを捕集し、GC/MS及び検出したいガスに適した検出器を組み合わせることで、ガスの同定及び定量が可能となる。また、ポリシラザンの酸化反応で発生し塗布液への溶存が懸念されるガスとしては、アンモニアガス、シランガスであることが分かっているため、対象となるガスに応じたガス検知管やガス検知器を用いて発生量を定量し、その総量を溶存ガス量として推算することも可能である。
【0047】
[電子デバイス封止層形成方法]
本発明の電子デバイス封止層形成方法は、前記した本発明のインク組成物を用いて、封止層を形成する方法であって、電子デバイス上に気相法により第1封止層を形成する工程と、前記第1封止層上に前記インク組成物を塗布することにより第2封止層を形成する工程と、を備える。
また、前記第2封止層上に、気相法により第3封止層を形成する工程を備えることが、電子デバイスの封止性能をより高めることができる点で好ましい。
【0048】
<第1封止層形成工程>
第1封止層形成工程は、電子デバイス上に気相法により第1封止層を形成する。
気相法としては、スパッタリング法(例えば、マグネトロンカソードスパッタリング、平板マグネトロンスパッタリング、二極AC平板マグネトロンスパッタリング、二極AC回転マグネトロンスパッタリングなど、反応性スパッタ法を含む。)、蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、イオンビーム蒸着、プラズマ支援蒸着など)、熱CVD法、触媒化学気相成長法(Cat-CVD)、容量結合プラズマCVD法(CCP-CVD)、光CVD法、プラズマCVD法(PE-CVD)、エピタキシャル成長法、原子層成長法等の化学蒸着法等が挙げられる。中でも、CVD法により形成することが好ましい。
第1封止層は、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(一酸化ケイ素、二酸化ケイ素等)又は酸窒化ケイ素を含有する。
第1封止層の厚さは、例えば、10~1000nmの範囲内であることが好ましく、100~500nmの範囲内であることがより好ましい。
【0049】
<第2封止層形成工程>
第2封止層形成工程は、前記第1封止層上に前記した本発明のインク組成物を塗布することにより第2封止層を形成する。
具体的には、前記第1封止層上に、前記インク組成物を塗布し(塗布工程)、得られた塗布膜を乾燥させる乾燥工程をさらに行うことが好ましく、また、乾燥工程後、得られた塗布膜に窒素雰囲気下にて真空紫外線照射して改質処理する工程を有してもよい。
【0050】
(塗布工程)
インク組成物の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができ、例えば、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。中でも、インクジェット法を用いることが有機EL素子などの電子デバイスを封止する際に求められる微細なパターニングをオンデマンドで行える点で好ましい。
【0051】
インクジェット方式としては、公知の方法を用いることができる。
インクジェット方式は、大別するとドロップオンデマンド方式とコンティニュアス方式二つに分けられ、どちらも使用することができる。ドロップオンデマンド方式としては、電気-機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気-熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)等がある。インクジェットヘッドのコストや生産性の観点からは、電気-機械変換方式、又は電気-熱変換方式のヘッドを用いることが好ましい。なお、インクジェット方式により、液滴(例えば、塗布液)を滴下させる方法を「インクジェット法」と呼ぶ場合がある。
【0052】
前記インク組成物を塗布する際には、窒素雰囲気下にて行うことが好ましい。
【0053】
(乾燥工程)
前記乾燥工程では、前記インク組成物と塗布して得られた塗布膜を乾燥することによって、塗布膜中に含有される溶媒(高乾燥性溶媒A及び低乾燥性溶媒B等を含む溶媒)を除去する。
乾燥工程も、窒素雰囲気下にて行うことが好ましい。乾燥方法については、従来公知である特開2014-151571号公報の段落「0058」~「0064」、特開2011-183773号公報の段落「0052」~「0056」等を参照して採用することができる。
【0054】
(改質処理工程)
前記改質処理工程では、乾燥工程後、得られた塗布膜に窒素雰囲気下にて真空紫外線照射して改質処理する工程を有してもよい。
改質処理とは、ポリシラザンの酸化ケイ素又は酸窒化ケイ素への転化反応をいう。改質処理も、同様に、グローブボックス内といった窒素雰囲気下や減圧下で行う。
本発明における改質処理は、ポリシラザンの転化反応に基づく公知の方法を選ぶことができる。本発明においては、低温で転化反応が可能なプラズマやオゾンや紫外線を使う転化反応が好ましい。プラズマやオゾンは従来公知の方法を用いることができる。本発明においては、上記塗布膜を設け、波長200nm以下の真空紫外光(VUVともいう。)を照射して改質処理することにより、本発明の第2封止層を形成することが好ましい。
【0055】
第2封止層の厚さは、10~1000nmの範囲内が好ましく、より好ましくは100~500nmの範囲内である。
当該第2封止層のうち、層全体が改質された層であってもよいが、改質処理された改質層の厚さは、1~50nmの範囲内が好ましく、1~30nmの範囲内がさらに好ましい。
【0056】
前記真空紫外線を照射して改質処理する工程において、塗布膜が受ける塗布膜面での該真空紫外線の照度は30~200mW/cm2の範囲内であることが好ましく、50~160mW/cm2の範囲内であることがより好ましい。真空紫外線の照度を30mW/cm2以上とすることで、改質効率を十分に向上することができ、200mW/cm2以下では、塗布膜への損傷発生率を極めて抑え、また、基材への損傷も低減させることができるため、好ましい。
【0057】
真空紫外線の照射は、塗布膜面における真空紫外線の照射エネルギー量は、1~10J/cm2の範囲内であることが好ましく、デシカント機能を維持するためのバリアー性及び湿熱耐性の観点から、3~7J/cm2の範囲内であることがより好ましい。
【0058】
なお、真空紫外線の光源としては、希ガスエキシマランプが好ましく用いられる。真空紫外光は、酸素による吸収があるため真空紫外線照射工程での効率が低下しやすいことから、真空紫外光の照射は、可能な限り酸素濃度の低い状態で行うことが好ましい。すなわち、真空紫外光照射時の酸素濃度は、10~10000ppmの範囲内とすることが好ましく、より好ましくは50~5000ppmの範囲内、さらに好ましくは80~4500ppmの範囲内、最も好ましくは100~1000ppmの範囲内である。
【0059】
改質処理は、加熱処理と組み合わせて行うこともできる。加熱条件としては、好ましくは50~300℃の範囲内、より好ましくは60~150℃の範囲内の温度で、好ましくは1秒~60分間、より好ましくは10秒~10分間、加熱処理を併用することで、改質時の脱水縮合反応を促進し、より効率的に改質体を形成することができる。
【0060】
加熱処理としては、例えば、ヒートブロック等の発熱体に基材を接触させ熱伝導により塗膜を加熱する方法、抵抗線等による外部ヒーターにより雰囲気を加熱する方法、IRヒーターのような赤外領域の光を用いた方法等が挙げられるが、特に限定されない。また、ケイ素化合物を含有する塗膜の平滑性を維持できる方法を適宜選択してよい。
【0061】
<第3封止層形成工程>
第3封止層形成工程は、前記第2封止層上に気相法により第3封止層を形成する。
気相法としては、第1封止層形成工程で用いた気相法と同様に、スパッタリング法(例えば、マグネトロンカソードスパッタリング、平板マグネトロンスパッタリング、二極AC平板マグネトロンスパッタリング、二極AC回転マグネトロンスパッタリングなど、反応性スパッタ法を含む。)、蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、イオンビーム蒸着、プラズマ支援蒸着など)、熱CVD法、触媒化学気相成長法(Cat-CVD)、容量結合プラズマCVD法(CCP-CVD)、光CVD法、プラズマCVD法(PE-CVD)、エピタキシャル成長法、原子層成長法等の化学蒸着法等が挙げられる。中でも、CVD法により形成することが好ましい。
第3封止層は、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(一酸化ケイ素、二酸化ケイ素等)又は酸窒化ケイ素を含有する。
第3封止層の厚さは、例えば、10~1000nmの範囲内であることが好ましく、100~500nmの範囲内であることがより好ましい。
【0062】
<第2封止層がポリシラザン由来であることの判定>
本発明に係る第2封止層においては、前駆体としてポリシラザン、特に好ましくはパーヒドロポリシラザンを用いて形成することが好ましい態様であるが、最終完成物である第2封止層が、ポリシラザンにより形成された層であることは、下記の方法により分析することにより実証することができる。
【0063】
本発明においては、ポリシラザンとしてはパーヒドロポリシラザンを適用した例について説明する。
【0064】
市販のパーヒドロポリシラザンの一般的な組成をSiNvHwとしたときに、vは0.78~0.80となる。パーヒドロポリシラザンから形成された前駆体層は、形成雰囲気の水分や酸素を取り込み、アンモニアや水素を放出して、下式(A)及び式(B)で示すように組成が変化していく。
【0065】
【0066】
その過程において、窒素が1個放出されるのに対し、酸素が3個取り込まれるという法則におおよそ従う。これは、上述の種々の改質処理を行った場合にもあてはまるものである。したがって、パーヒドロポリシラザンから塗布形成された第2封止層の組成をSiOxNyで示した際に、xとyの関係は下式(C)に従う。
【0067】
式(C)
y=0.8-x/3、x≧0、y≧0、
元の組成がSiN0.8Hwの場合、パーヒドロポリシラザンから塗布形成された層の厚さ方向の組成分布をXPSにより分析した場合、厚さ方向の各測定点でのいずれの組成も上記式にあてはまることになる(数%の誤差は存在する)。
【0068】
したがって、Siを含有する層の厚さ方向の組成分布を分析して、SiOxNyで示した際に、その形成した第2封止層の厚さに対して、その80%以上となる測定点の組成が、yの値が(0.8-x/3)の±2%の範囲に入っていた場合、その膜はパーヒドロポリシラザンから形成された封止層であると推定することが可能となる。
【0069】
[電子デバイス封止層]
本発明の電子デバイス封止層は、窒化ケイ素、酸化ケイ素又は酸窒化ケイ素を含有する第1封止層と、前記第1封止層に混在する欠陥領域と、前記第1封止層に隣接して設けられ、ポリシラザンを含有する第2封止層と、前記欠陥領域と前記第1封止層との間の隙間に設けられ、ポリシラザンが充填されたポリシラザン領域と、を有する。
本発明の電子デバイス封止層は、前記電子デバイス封止層形成方法により形成される。すなわち、前記した本発明のインク組成物を用いて第2封止層及びポリシラザン領域が形成される。
また、本発明の電子デバイス封止層は、前記第2封止層上に、さらに気相法により形成される第3封止層を設けてもよい。
【0070】
<第1封止層>
第1封止層は、電子デバイス上に前記した気相法により形成される層である。具体的には、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(一酸化ケイ素、二酸化ケイ素等)又は酸窒化ケイ素を含有する。
【0071】
<欠陥領域>
前記第1封止層には、欠陥領域が混在している。
本発明でいう「欠陥領域」とは、前記第1封止層を形成する際の気相法により、当該第1封止層中に混在する異物、及び、当該異物により前記気相法による成膜が異常成長した部分をいう。
具体的には、
図1に示すように、異物4と、当該異物4の周囲の異常成長した部分5を含む領域を欠陥領域6という。また、このような欠陥領域6と前記第1封止層2との間には、隙間7が生じている。当該隙間7の間隔Pは、電子顕微鏡(例えば、JEOL社製のJEM-2010F)を用いて200k倍率(加速電圧200kV)で断面観察した際に15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
前記隙間7の間隔Pは、以下のとおりにして計測した。
まず、第1封止層2の厚さの下側から1/3の位置の水平線A
1と、2/3の位置の水平線A
2とをそれぞれ引く。次いで、第1封止層2において、前記1/3の位置の水平線A
1と、前記2/3の位置の水平線A
2との交差する点同士をそれぞれ結ぶ接線B
1を引く。同様にして、異常成長した部分5においても、前記1/3の位置の水平線A
1と、前記2/3の位置の水平線A
2との交差する点同士をそれぞれ結ぶ接線B
2を引く。そして、第1封止層2側の前記接線B
1と、異常成長した部分5側の前記接線B
2の中点同士の距離を計測する。
なお、
図1中、符号1は電子デバイス、符号3は第2封止層を示す。
【0072】
前記隙間には、ポリシラザンが充填されたポリシラザン領域が設けられている。
前記ポリシラザン領域は、前記第1封止層上に、ポリシラザン、高乾燥性溶媒A及び低乾燥性溶媒Bを含有した本発明のインク組成物を塗布すること(第2封止層形成工程)によって、前記隙間にインク組成物が塗布されて形成される。そのため、前記インク組成物を塗布した塗布膜を乾燥することによって、塗布膜中に含有される溶媒(高乾燥性溶媒A及び低乾燥性溶媒B等を含む溶媒)が除去されてポリシラザンを含有するポリシラザン領域が、前記隙間に形成されることになる。このようなポリシラザン領域により、第1封止層と欠陥領域との間の隙間が封止されるため、封止性能が向上する。
【0073】
<第2封止層>
第2封止層は、前記第1封止層に隣接して設けられ、ポリシラザンを含有する層である。第2封止層は、前記第1封止層上に前記インク組成物を塗布することにより形成される。
したがって、第2封止層は、前記ポリシラザン領域と同様に、前記インク組成物を塗布した塗布膜を乾燥することによって、塗布膜中に含有される溶媒(高乾燥性溶媒A及び低乾燥性溶媒B等を含む溶媒)が除去されてポリシラザンを含有する層となる。
【0074】
<第3封止層>
第3封止層は、前記第2封止層に隣接して設けられ、前記した気相法により形成される層である。具体的には、第1封止層と同様に窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(一酸化ケイ素、二酸化ケイ素等)又は酸窒化ケイ素を含有する。
【0075】
[電子デバイス]
本発明の電子デバイス封止層形成方法及び電子デバイス封止層において、封止される電子デバイスとしては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子(LCD)、薄膜トランジスター、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池(PV)等を挙げることができる。本発明の効果がより効率的に得られるという観点から、有機EL素子又は太陽電池が好ましく、有機EL素子が特に好ましい。
【0076】
<有機EL素子>
本発明に係る電子デバイスとして採用される有機EL素子は、ボトムエミッション型、すなわち、透明基材側から光を取り出すようにしたものであってもよい。
ボトムエミッション型は、具体的には、透明基材上に、カソードとなる透明電極、発光機能層、アノードとなる対向電極をこの順で積層することにより構成されている。
また、本発明に係る有機EL素子は、トップエミッション型、すなわち、基材とは逆のカソードとなる透明電極側から光を取り出すようにしたものであってもよい。
トップエミッション型は、具体的には、基材側にアノードとなる対向電極を設け、この表面に発光機能層、カソードとなる透明電極を順に積層した構成である。
【0077】
以下に、有機EL素子の構成の代表例を示す。
(i)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(ii)陽極/正孔注入輸送層/発光層/正孔阻止層/電子注入輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔注入輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子注入輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(v)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(vi)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
さらに、有機EL素子は、非発光性の中間層を有していても良い。中間層は電荷発生層であっても良く、マルチフォトンユニット構成であっても良い。
本発明に適用可能な有機EL素子の概要については、例えば、特開2013-157634号公報、特開2013-168552号公報、特開2013-177361号公報、特開2013-187211号公報、特開2013-191644号公報、特開2013-191804号公報、特開2013-225678号公報、特開2013-235994号公報、特開2013-243234号公報、特開2013-243236号公報、特開2013-242366号公報、特開2013-243371号公報、特開2013-245179号公報、特開2014-003249号公報、特開2014-003299号公報、特開2014-013910号公報、特開2014-017493号公報、特開2014-017494号公報等に記載されている構成を挙げることができる。
【0078】
<基材>
前記有機EL素子に用いることのできる基材(以下、支持基板、基体、基板、支持体等ともいう。)としては、具体的には、ガラス又は樹脂フィルムの適用が好ましく、フレキシブル性を要求される場合は、樹脂フィルムであることが好ましい。
また、透明であっても不透明であってもよい。基材側から光を取り出す、いわゆるボトムエミッション型の場合には、基材は透明であることが好ましい。
【0079】
好ましい樹脂としては、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸-マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂を含む基材が挙げられる。該樹脂は、単独でも又は2種以上組み合わせても用いることができる。
【0080】
基材は、耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、線膨張係数が15ppm/K以上100ppm/K以下で、かつガラス転移温度(Tg)が100℃以上300℃以下の基材が使用される。
該基材は、電子部品用途、ディスプレイ用積層フィルムとしての必要条件を満たしている。すなわち、これらの用途に本発明の封止膜を用いる場合、基材は、150℃以上の工程に曝されることがある。この場合、基材の線膨張係数が100ppm/Kを超えると、前記のような温度の工程に流す際に基板寸法が安定せず、熱膨張及び収縮に伴い、遮断性性能が劣化する不都合や、又は熱工程に耐えられないという不具合が生じやすくなる。15ppm/K未満では、フィルムがガラスのように割れてしまいフレキシビリティが劣化する場合がある。
【0081】
基材のTgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。
基材として用いることができる熱可塑性樹脂のより好ましい具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET:70℃)、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン株式会社製、ゼオノア(登録商標)1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001-150584号公報に記載の化合物:162℃)、ポリイミド(例えば三菱ガス化学株式会社製、ネオプリム(登録商標):260℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF-PC:特開2000-227603号公報に記載の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP-PC:特開2000-227603号公報に記載の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002-80616号公報に記載の化合物:300℃以上)等が挙げられる(括弧内温度はTgを示す)。
【0082】
本発明に係る電子デバイスは、有機EL素子等の電子デバイスであることから、基材は透明であることが好ましい。すなわち、光線透過率が通常80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。光線透過率は、JIS K7105:1981に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率及び散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
【0083】
また、上記に挙げた基材は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。当該基材は、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。これらの基材の製造方法については、国際公開第2013/002026号の段落「0051」~「0055」の記載された事項を適宜採用することができる。
【0084】
基材の表面は、密着性向上のための公知の種々の処理、例えばコロナ放電処理、火炎処理、酸化処理、又はプラズマ処理等を行っていてもよく、必要に応じて上記処理を組み合わせて行っていてもよい。また、基材には易接着処理を行ってもよい。
【0085】
該基材は、単層でもよいし2層以上の積層構造であってもよい。該基材が2層以上の積層構造である場合、各基材は同じ種類であってもよいし異なる種類であってもよい。
【0086】
本発明に係る基材の厚さ(2層以上の積層構造である場合はその総厚)は、10~200μmであることが好ましく、20~150μmであることがより好ましい。
【0087】
また、フィルム基材の場合は、ガスバリアー層付きフィルム基材であることが好ましい。
【0088】
前記フィルム基材用のガスバリアー層は、フィルム基材の表面には、無機物、有機物の被膜又はその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/m2・24h以下のバリアー性フィルムであることが好ましく、さらには、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10-3mL/m2・24h・atm以下、水蒸気透過度が、1×10-3g/m2・24h以下の高ガスバリアー性フィルムであることが好ましい。
【0089】
前記ガスバリアー層を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸炭化ケイ素等を用いることができる。
【0090】
当該ガスバリアー層は、特に限定されないが、例えば、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸炭化ケイ素等の無機ガスバリアー層の場合は、無機材料をスパッタリング法(例えば、マグネトロンカソードスパッタリング、平板マグネトロンスパッタリング、二極AC平板マグネトロンスパッタリング、二極AC回転マグネトロンスパッタリングなど)、蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、イオンビーム蒸着、プラズマ支援蒸着など)、熱CVD法、触媒化学気相成長法(Cat-CVD)、容量結合プラズマCVD法(CCP-CVD)、光CVD法、プラズマCVD法(PE-CVD)、エピタキシャル成長法、原子層成長法、反応性スパッタ法等の化学蒸着法等によって層形成することが好ましい。
【0091】
さらに、ポリシラザン、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)などの無機前駆体を含む塗布液を支持体上に塗布した後、真空紫外光の照射などにより改質処理を行い、無機ガスバリアー層を形成する方法や、樹脂基材への金属めっき、金属箔と樹脂基材とを接着させる等のフィルム金属化技術などによっても、無機ガスバリアー層は形成される。
【0092】
また、無機ガスバリアー層は、有機ポリマーを含む有機層を含んでいてもよい。すなわち、無機ガスバリアー層は、無機材料を含む無機層と有機層との積層体であってもよい。
【0093】
有機層は、例えば、有機モノマー又は有機オリゴマーを樹脂基材に塗布し、層を形成し、続いて、例えば、電子ビーム装置、UV光源、放電装置、又はその他の好適な装置を使用して重合及び必要に応じて架橋することにより形成することができる。また、例えば、フラッシュ蒸発及び放射線架橋可能な有機モノマー又は有機オリゴマーを蒸着した後、有機モノマー又は有機オリゴマーからポリマーを形成することによっても形成することができる。コーティング効率は、樹脂基材を冷却することにより改善され得る。
【0094】
有機モノマー又は有機オリゴマーの塗布方法としては、例えば、ロールコーティング(例えば、グラビアロールコーティング)、スプレーコーティング(例えば、静電スプレーコーティング)等が挙げられる。また、無機層と有機層との積層体の例としては、例えば、国際公開第2012/003198号、国際公開第2011/013341号に記載の積層体などが挙げられる。
【0095】
無機層と有機層との積層体である場合、各層の厚さは同じでもよいし、異なっていてもよい。無機層の厚さは、好ましくは3~1000nmの範囲内、より好ましくは10~300nmの範囲内である。有機層の厚さは、好ましくは100nm~100μmの範囲内、より好ましくは1~50μmの範囲内である。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0097】
<インク組成物1の調製>
パーヒドロポリシラザン(PHPS)20質量%のジブチルエーテル(DBE)溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)を減圧乾燥機にて溶媒を除去した。
溶媒を除去したのち、パーヒドロポリシラザン濃度が10質量%になるように、高乾燥性溶媒A及び低乾燥性溶媒Bで希釈した。具体的には、窒素環境下にて高乾燥性溶媒AとしてDBEの全溶媒におけるモル分率が0.11、及び、低乾燥性溶媒BとしてDEGDBEの全溶媒におけるモル分率が0.89となるように、各溶媒を加え、十分に撹拌することでインク組成物1を得た。
なお、インク組成物1の調製において、GPC(Gel Permeation Chromatography ゲル浸透クロマトグラフィー)ポリスチレン換算から求めたポリシラザンの重量平均分子量(Mw)は、7000であった。ポリシラザンの分子量は、ポリシラザンの合成時に調整した。
得られたインク組成物1における各溶媒のモル分率、蒸気圧、及びPtotal等を下記表に示した。
【0098】
<インク組成物2~39の調製>
前記インク組成物1の調製において、PHPSの重量平均分子量(Mw)、PHPS濃度(質量%)、高乾燥層性溶媒A及び低乾燥溶媒Bの種類、各溶媒におけるモル分率を下記表に示すように変更した以外は同様にして、インク組成物2~39を調製した。
【0099】
<有機EL素子1-1の作製>
(1)基板の準備
基板として、無アルカリガラス基板を準備した。
(2)第1電極の形成
前記ガラス基板の一方の面に、第1電極(金属層)として下記条件でAl膜を形成した。形成した第1電極の厚さは150nmであった。なお、第1電極の厚さは、接触式表面形状測定器(DECTAK)により測定した値である。
Al膜は、真空蒸着装置を用い、真空度1×10-4Paまで減圧した後、タングステン製の抵抗加熱用るつぼを使用して形成した。
【0100】
(3)有機EL層の形成
まず、真空蒸着装置内の蒸着用るつぼの各々に、有機機能層の各層を構成する下記に示す材料を各々素子作製に最適の量で充填した。蒸着用るつぼは、モリブデン製又はタングステン製の抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
【0101】
(3-1)正孔注入層の形成
真空度1×10-4Paまで減圧した後、下記化合物A-1の入った蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で第1電極(金属層側)上に蒸着し、厚さ10nmの正孔注入層を形成した。
【0102】
(3-2)正孔輸送層の形成
次に、下記化合物M-2の入った蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で正孔注入層上に蒸着し、厚さ30nmの正孔輸送層を形成した。
【0103】
(3-3)発光層の形成
次に、下記化合物BD-1及び下記化合物H-1を、化合物BD-1が7質量%の濃度になるように蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、厚さ15nmの青色発光を呈する発光層(蛍光発光層)を形成した。
次に、下記化合物GD-1、下記化合物RD-1及び下記化合物H-2を、化合物GD-1が20質量%、RD-1が0.5質量%の濃度になるように蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、厚さ15nmの黄色を呈する発光層(リン光発光層)を形成した。
【0104】
(3-4)電子輸送層の形成
その後、電子輸送材料として下記化合物T-1の入った加熱ボートを通電し、Alq3(トリス(8-キノリノール))よりなる電子輸送層を、発光層上に形成した。この際、蒸着速度を0.1~0.2nm/秒の範囲内とし、厚さを30nmとした。
【0105】
(3-5)電子注入層(金属親和性層)の形成
次に、電子注入材料として下記化合物I-1の入った加熱ボートに通電して加熱し、Liqよりなる電子注入層を、電子輸送層上に形成した。この際、蒸着速度を0.01~0.02nm/秒の範囲内とし、厚さを2nmとした。なお、この電子注入層は金属親和性層の機能を果たす。
以上により、白色に発光する有機EL層を形成した。
【0106】
【0107】
(4)第2電極の形成
さらに、Mg/Ag混合物(Mg:Ag=1:9(vol比))を厚さ10nmで蒸着して第2電極と、その取り出し電極を形成した。
【0108】
(5)キャッピング層の形成
その後、元の真空槽内に移送し、第2電極上に、α-NPD(4,4′-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル)を蒸着速度0.1~0.2nm/秒の範囲内で厚さが40nmとなるまで蒸着し、光取り出し改良を目的とするキャッピング層を形成した。
【0109】
(6)第1封止層の形成
次に、前記で作製した有機EL素子の発光部を覆う第1封止層として、プラズマCVD法により厚さ500nmの窒化珪素(SiN、ビッカース硬度HV900)を形成した。
【0110】
(7)第2封止層の形成
次に、窒素環境下で、インクジェット装置のカートリッジ一体型ヘッドへ、前記で調製したインク組成物1を充填した。そして、前記第1封止層まで形成した有機EL素子を窒素環境下にてインクジェット法を用いてインク組成物1を塗布し、その後、ホットプレートへ素子を移動して100℃5分乾燥処理を行い、厚さ300nmの第2封止層を形成した。
【0111】
(8)第3封止層の形成
次に、第2封止層上に第3封止層として、プラズマCVD法により厚さ500nmの窒化珪素(SiN、ビッカース硬度HV900)を形成し、第1~第3封止層が形成された評価用の有機EL素子1-1を得た。
【0112】
<有機EL素子1-2~1-39の作製>
前記有機EL素子1-1の作製において、前記第2封止層の形成におけるインク組成物1を下記表に示すとおりにそれぞれ変更した以外は同様にして、評価用の有機EL素子1-2~1-39を作製した。
【0113】
[封止性能評価]
評価用の各有機EL素子1-2~1-39を高温高湿下(温度85℃、相対湿度85%)の恒温恒湿槽に放置し加速劣化試験を行った。一定時間ごとに恒温恒湿槽から各有機EL素子を取り出して室温下で発光させ、85℃85%での加速劣化時のダークスポット(DS)の有無を確認した。発光領域内におけるダークスポット面積比率が0.5%に到達するまでの時間を寿命と定義し、寿命を評価した。寿命が長いほど、封止性能が高いことを示している。下記評価基準のランク3~5を合格とした。
(評価基準)
ランク1:寿命50時間未満
ランク2:寿命50時間以上100時間未満
ランク3:寿命100時間以上300時間未満
ランク4:寿命300時間以上500時間未満
ランク5:寿命500時間以上
【0114】
<有機EL素子2-1~2-39の作製>
前記有機EL素子1-1の作製において、前記無アルカリガラス基板の代わりに、15ミクロンのポリイミドフィルムに変更し、かつ、第1封止層及び第3封止層の厚さを1000nmに変更した以外は同様にして評価用の有機EL素子2-1を作製した。
また、有機EL素子2-1の作製において、前記第2封止層の形成におけるインク組成物1を下記表に示すとおりにそれぞれ変更した以外は同様にして、評価用の有機EL素子2-2~2-39を作製した。
【0115】
[屈曲耐性評価]
評価用の各有機EL素子2-1~2-39を、直径10mmの金属製ローラーの周囲に巻き付かせて高温高湿下(温度60℃、相対湿度90%)の恒温恒湿槽に放置して加速劣化試験を行った。このとき、ポリイミドフィルムが金属製ローラーへ接するように巻き付かせている。1500時間後に恒温恒湿槽から各有機EL素子を取り出し室温下で顕微鏡確認及び発光状態(ダークスポット面積比率)を確認した。下記評価基準のランク3~5を合格とした。
(評価基準)
ランク1:封止層の剥離又は非発光
ランク2:ダークスポット面積比率が1%以上
ランク3:ダークスポット面積比率が0.5%以上1%未満
ランク4:ダークスポット面積比率が0.1%以上0.5%未満
ランク5:ダークスポット面積比率が0.1%未満
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
上記結果に示されるように、本発明のインク組成物を用いた封止層が形成された有機EL素子は、比較例の有機EL素子に比べて、封止性能が高く、かつ、屈曲時における封止層と電子デバイスとの密着性が良好で、発光性能に優れていることが分かる。
【0121】
また、本発明のインク組成物を用いた封止層が形成された有機EL素子について、表面のSEM観察(日立ハイテク S4800)で異物箇所を特定し、異物箇所についてFIB装置(JEOL製JIB-4000PLUS )にて断面の薄片試料を作製した。作製した断面をTEM(JEOL製JEM-2010F、加速電圧200kV)にて200k倍率で観察したところ、いずれも第1封止層中の欠陥領域と、第1封止層との間の隙間にはポリシラザン領域が確認された。したがって、当該ポリシラザン領域及び第2封止層によって、封止性能及び屈曲耐性に優れた有機EL素子が得られることが認められる。また、隙間の間隔はいずれも15nm以下であった。
一方、比較例の有機EL素子では、ポリシラザン領域の代わりに空隙の領域が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、封止性能及び屈曲耐性に優れ、電子デバイスの劣化を抑制することができる電子デバイス封止層形成用のインク組成物、電子デバイス封止層形成方法及び電子デバイス封止層に利用することができる。
【符号の説明】
【0123】
1 電子デバイス
2 第1封止層
3 第2封止層
4 異物
5 異常成長した部分
6 欠陥領域
7 隙間(ポリシラザン領域)