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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】差動信号伝送用ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/00 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
H01B11/00 J
H01B11/00 G
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021574355
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2020003326
(87)【国際公開番号】W WO2021152757
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健吾
(72)【発明者】
【氏名】細江 晃久
(72)【発明者】
【氏名】小林 優斗
(72)【発明者】
【氏名】越智 祐司
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-160414(JP,A)
【文献】特開2009-123490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
H01B 7/18
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動信号伝送用ケーブルであって、
前記差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在している絶縁層と、
前記長手方向に沿って延在しており、前記絶縁層の内部に埋設されている一対の信号線と、
前記絶縁層の外周面を被覆している中間層と、
前記中間層の外周面を被覆しているシールドと、
触媒粒子とを備え、
前記シールドは、前記中間層の外周面を被覆している無電解めっき層を有し、
前記触媒粒子は、前記中間層と前記無電解めっき層との間に分散されている、差動信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記差動信号伝送用ケーブルに含まれている前記触媒粒子の含有量は、前記長手方向に沿った1cmあたり0.1μg以上10μg以下である、請求項1に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記絶縁層の外周面における算術平均粗さは、2.0μm以下である、請求項1又は請求項2に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項4】
前記絶縁層の外周面における算術平均粗さは、0.6μm未満である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項5】
前記中間層と前記無電解めっき層との間の接着強度は、0.1N/cm以上6N/cm以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項6】
前記中間層の厚さは、1μm以下である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項7】
前記無電解めっき層の厚さは、0.05μm以上0.5μm以下である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項8】
前記シールドは、前記無電解めっき層の外周面を被覆している電解めっき層をさらに有する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項9】
前記電解めっき層は、電解銅めっき層であり、
前記電解めっき層中における銅結晶粒の平均粒径は、0.5μm以上である、請求項8に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項10】
前記無電解めっき層の厚さ及び前記電解めっき層の厚さの合計は、0.05μmより大きく6μm以下である、請求項8又は請求項9に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項11】
前記触媒粒子は、パラジウムを含有している、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項12】
前記絶縁層は、融点が140℃以上のポリオレフィンを含む、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項13】
前記絶縁層は、ポリプロピレン、環状オレフィンポリマー及びポリメチルペンテンの少なくともいずれかを含む、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項14】
前記絶縁層は、ポリプロピレン結晶粒を含み、
前記ポリプロピレン結晶粒は、以下の式(1)により算出される結晶化度Xが0.3以上であり、
前記式(1)において、Iは結晶成分のX線回折強度であり、Iは非晶質成分のX線回折強度である、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【数1】
【請求項15】
差動信号伝送用ケーブルであって、
前記差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在している絶縁層と、
前記長手方向に沿って延在しており、前記絶縁層の内部に埋設されている一対の信号線と、
前記絶縁層の外周面を被覆している中間層と、
前記中間層の外周面を被覆しているシールドとを備え、
前記シールドは、前記中間層の外周面を被覆している無電解めっき層を有し、
前記絶縁層は、ポリプロピレン結晶粒を含み、
前記ポリプロピレン結晶粒は、単斜晶の結晶構造、六方晶の結晶構造又はそれらの少なくとも一方が共存した状態を有するとともに、特定の2つ以下の結晶軸に沿って配向されており、
前記絶縁層において、以下の式(2)により算出される結晶配向度O110が0.65以下であり、
前記式(2)において、I110は指数110のX線回折の積分強度であり、I040は指数040のX線回折の積分強度である、差動信号伝送用ケーブル。
【数2】
【請求項16】
差動信号伝送用ケーブルであって、
前記差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在している絶縁層と、
前記長手方向に沿って延在しており、前記絶縁層の内部に埋設されている一対の信号線と、
前記絶縁層の外周面を被覆している中間層と、
前記中間層の外周面を被覆しているシールドとを備え、
前記シールドは、前記中間層の外周面を被覆している無電解めっき層を有し、
前記絶縁層は、ポリプロピレン結晶粒を含み、
前記ポリプロピレン結晶粒は、以下の式(1)により算出される結晶化度Xが0.3以上であり、
前記式(1)において、Iは結晶成分のX線回折強度であり、Iは非晶質成分のX線回折強度である、差動信号伝送用ケーブル。
【数3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、差動信号伝送用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2019-16451号公報)には、差動信号伝送用ケーブルが記載されている。特許文献1に記載されている差動信号伝送用ケーブルは、絶縁層と、一対の信号線と、無電解めっき層とを有している。一対の信号線は、絶縁層の内部に埋設されている。無電解めっき層は、絶縁層の外周面に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-16451号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る差動信号伝送用ケーブルは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在している絶縁層と、長手方向に沿って延在しており、絶縁層の内部に埋設されている一対の信号線と、絶縁層の外周面を被覆している中間層と、シールドと、触媒粒子とを備えている。シールドは、中間層の外周面を被覆している無電解めっき層を有する。触媒粒子は、中間層と無電解めっき層との間に分散されている。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、差動信号伝送用ケーブル10の斜視図である。
図2A図2Aは、差動信号伝送用ケーブル10の断面図である。
図2B図2Bは、中間層40と無電解めっき層51との界面近傍における図2Aの拡大図である。
図3図3は、差動信号伝送用ケーブル10の製造方法を示す工程図である。
図4図4は、準備工程S1において準備される処理対象部材10Aの断面図である。
図5図5は、中間層形成工程S2が行われた後の処理対象部材10Aの断面図である。
図6図6は、触媒粒子配置工程S3が行われた後の処理対象部材10Aの断面図である。
図7図7は、無電解めっき工程S4が行われた後の処理対象部材10Aの断面図である。
図8図8は、差動信号伝送用ケーブル70の中間層40と無電解めっき層51との界面近傍における拡大断面図である。
図9A図9Aは、差動信号伝送用ケーブル70における減衰特性を示すグラフである。
図9B図9Bは、差動信号伝送用ケーブル10における減衰特性を示すグラフである。
図10図10は、差動信号伝送用ケーブル80の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1に記載されている差動信号伝送用ケーブルにおいては、絶縁層の外周面がエッチングにより粗面化されている。これにより、絶縁層と無電解めっき層との間のアンカー効果が得られるため、絶縁層と無電解めっき層との間の密着性が確保されている。
【0007】
しかしながら、エッチングにより絶縁層の外周面が均一に粗面化されるため、エッチング後の絶縁層の外周面には、微少な凹凸が周期的に存在することになる。この周期的に存在する微少な凹凸は、30GHz以上の高周波領域において、減衰特性を悪化させる原因となる。
【0008】
本開示は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本開示は、高周波領域における減衰特性を悪化させることなく、無電解めっき層の密着性を確保することが可能な差動信号伝送用ケーブルを提供するものである。
【0009】
[本開示の効果]
本開示に係る差動信号伝送用ケーブルによると、高周波領域における減衰特性の悪化を抑制しつつ、無電解めっき層の密着性を確保することができる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
まず、本開示の実施形態を列記して説明する。
【0011】
(1)一実施形態に係る差動信号伝送用ケーブルは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在している絶縁層と、長手方向に沿って延在しており、絶縁層の内部に埋設されている一対の信号線と、絶縁層の外周面を被覆している中間層と、シールドと、触媒粒子とを備えている。シールドは、中間層の外周面を被覆している無電解めっき層を有する。触媒粒子は、中間層と無電解めっき層との間に分散されている。
【0012】
上記(1)の差動信号伝送用ケーブルによると、高周波領域における減衰特性の悪化を抑制しつつ、無電解めっき層の密着性を確保することができる。
【0013】
(2)上記(1)の差動信号伝送用ケーブルでは、差動信号伝送用ケーブルに含まれている触媒粒子の含有量が、長手方向に沿った1cmあたり0.1μg以上10μg以下であってもよい。
【0014】
上記(2)の差動信号伝送用ケーブルによると、高周波領域における減衰特性の悪化を抑制しつつ、無電解めっき層の密着性を確保することができる。
【0015】
(3)上記(1)又は上記(2)の差動信号伝送用ケーブルでは、絶縁層の外周面における算術平均粗さが、2.0μm以下であってもよい。
【0016】
上記(3)の差動信号伝送用ケーブルによると、高周波領域における減衰特性の悪化をさらに抑制することができる。
【0017】
(4)上記(1)~上記(3)の差動信号伝送用ケーブルでは、絶縁層の外周面における算術平均粗さが、0.6μm未満であってもよい。
【0018】
上記(4)の差動信号伝送用ケーブルによると、高周波領域における減衰特性の悪化をさらに抑制することができる。
【0019】
(5)上記(1)~上記(4)の差動信号伝送用ケーブルでは、中間層と無電解めっき層との間の接着強度が、0.1N/cm以上6N/cm以下であってもよい。
【0020】
上記(5)の差動信号伝送用ケーブルによると、複数の差動信号伝送用ケーブルを撚線にする際に無電解めっき層が剥がれてしまうことを抑制しつつ、差動信号伝送用ケーブルの端末処理を行う際に絶縁層が中間層とともに剥がれてしまうことを抑制することができる。
【0021】
(6)上記(1)~上記(5)の差動信号伝送用ケーブルでは、中間層の厚さが、1μm以下であってもよい。
【0022】
上記(6)の差動信号伝送用ケーブルによると、絶縁層及び無電解めっき層と中間層とのインピーダンスの不一致に起因した高周波領域での減衰特性の悪化を抑制することができる。
【0023】
(7)上記(1)~上記(6)の差動信号伝送用ケーブルでは、無電解めっき層の厚さが、0.05μm以上0.5μm以下であってもよい。
【0024】
上記(7)の差動信号伝送用ケーブルによると、無電解めっき層形成中のガス発生に起因して無電解めっき層と中間層との界面におけるボイドの発生を抑制しつつ、中間層の外周面上に無電解めっき層が未着となる領域が発生することを抑制できる。
【0025】
(8)上記(1)~上記(7)の差動信号伝送用ケーブルでは、シールドが、無電解めっき層の外周面を被覆している電解めっき層をさらに有していてもよい。
【0026】
上記(8)の差動信号伝送用ケーブルによると、シールドの電気抵抗値を低減することができる。
【0027】
(9)上記(8)の差動信号伝送用ケーブルでは、電解めっき層が、電解銅めっき層であってもよい。電解めっき層中における銅結晶粒の平均粒径は、0.5μm以上であってもよい。
【0028】
上記(9)の差動信号伝送用ケーブルによると、差動信号伝送用ケーブルが曲げられた際に電解めっき層にクラックが発生することを抑制できる。
【0029】
(10)上記(8)又は上記(9)の差動信号伝送用ケーブルでは、無電解めっき層の厚さ及び電解めっき層の厚さの合計が、6μm以下であってもよい。
【0030】
上記(10)の差動信号伝送用ケーブルによると、シールドを形成することに伴う製造コストを低減することができる。
【0031】
(11)上記(1)~上記(10)の差動信号伝送用ケーブルでは、触媒粒子が、パラジウムを含有していてもよい。
【0032】
(12)上記(1)~上記(11)の差動信号伝送用ケーブルでは、絶縁層が、融点が140℃以上のポリオレフィンを含んでいてもよい。
【0033】
(13)上記(1)~上記(11)の差動信号伝送用ケーブルでは、絶縁層が、ポリプロピレン、環状オレフィンポリマー及びポリメチルペンテンの少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0034】
(14)上記(1)~上記(11)の差動信号伝送用ケーブルでは、絶縁層が、ポリプロピレン結晶粒を含んでいてもよい。ポリプロピレン結晶粒は、以下の式(1)により算出される結晶化度Xが0.3以上であってもよい。式(1)において、Iは結晶成分のX線回折強度であり、Iは非晶質成分のX線回折強度である。
【0035】
【数1】
【0036】
上記(14)の差動信号伝送用ケーブルによると、無電解めっき層の密着性が高くなることにより、差動信号伝送用ケーブルの伝送損失を抑制することができる。
【0037】
(15)他のの実施形態に係る差動信号伝送用ケーブルは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在している絶縁層と、長手方向に沿って延在しており、絶縁層の内部に埋設されている一対の信号線と、絶縁層の外周面を被覆している中間層と、中間層の外周面を被覆しているシールドとを備えている。シールドは、中間層の外周面を被覆している無電解めっき層を有している。絶縁層は、ポリプロピレン結晶粒を含む。ポリプロピレン結晶粒は、単斜晶の結晶構造、六方晶の結晶構造又はそれらの少なくとも一方が共存した状態を有しているとともに、特定の2つ以下の結晶軸に沿って配向されている。絶縁層において、以下の式(2)により算出される結晶配向度O110が0.65以下である。式(2)において、I110は指数110のX線回折の積分強度であり、I040は指数040のX線回折の積分強度である。
【0038】
【数2】
【0039】
上記(15)の差動信号伝送用ケーブルによると、無電解めっき層の密着性が高くなることにより、差動信号伝送用ケーブルの伝送損失を抑制することができる。
【0040】
(16)他の実施形態に係る差動信号伝送用ケーブルは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在している絶縁層と、長手方向に沿って延在しており、絶縁層の内部に埋設されている一対の信号線と、絶縁層の外周面を被覆している中間層と、中間層の外周面を被覆しているシールドとを備えている。シールドは、中間層の外周面を被覆している無電解めっき層を有している。絶縁層は、ポリプロピレン結晶粒を含む。ポリプロピレン結晶粒は、上記の式(1)により算出される結晶化度Xが0.3以上である。
【0041】
上記(16)の差動信号伝送用ケーブルによると、無電解めっき層の密着性が高くなることにより、差動信号伝送用ケーブルの伝送損失を抑制することができる。
【0042】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、実施形態の詳細を、図面を参酌しながら説明する。以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さない。
【0043】
(第1実施形態)
以下に、第1実施形態に係る差動信号伝送用ケーブル(以下「差動信号伝送用ケーブル10」とする)を説明する。
【0044】
<差動信号伝送用ケーブル10の構成>
図1は、差動信号伝送用ケーブル10の斜視図である。図2Aは、差動信号伝送用ケーブル10の断面図である。図2Bは、中間層40と無電解めっき層51との界面近傍における図2Aの拡大図である。図1図2A及び図2Bに示されるように、差動信号伝送用ケーブル10は、絶縁層20と、信号線30と、中間層40と、シールド50と、触媒粒子60とを有している。
【0045】
絶縁層20は、差動信号伝送用ケーブル10の長手方向に沿って延在している。絶縁層20は、絶縁性の材料により形成されている。絶縁層20は、例えば、ポリエチレンにより形成されている。但し、絶縁層20は、ポリエチレン以外の材料により形成されていてもよい。絶縁層20は、例えば、ポリオレフィンにより形成されていてもよい。このポリオレフィンの融点は、耐熱性の観点から、例えば140℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。
【0046】
絶縁層20は、外周面20aを有している。外周面20aにおける算術平均粗さは、2μm以下であることが好ましい。外周面20aにおける算術平均粗さは、0.6μm未満であることがさらに好ましい。外周面20aにおける算術平均粗さは、レーザ顕微鏡VM-X150(株式会社キーエンス製)により測定される。より具体的には、外周面20aを50倍の対物レンズを用いて観察し、その観察結果に対して解析ソフトウェアVK-H1XMを適用することにより差動信号伝送用ケーブルの長手方向における算術平均粗さが算出される。
【0047】
信号線30は、一対になっている(以下において、一対になっている信号線30を、それぞれ「信号線30a」及び「信号線30b」とする)。信号線30bには、信号線30aに印加される信号とは反対位相の信号が印加される。これにより、差動信号伝送用ケーブル10を介して差動信号が伝送される。
【0048】
信号線30a及び信号線30bは、絶縁層20の内部に埋設されている。信号線30a及び信号線30bは、差動信号伝送用ケーブル10の長手方向に沿って延在している。信号線30a及び信号線30bは、導電性の材料により形成されている。信号線30a及び信号線30bは、例えば、銅(Cu)により形成されている。但し、信号線30a及び信号線30bは、銅以外により形成されていてもよい。
【0049】
中間層40は、外周面20aを覆うように形成されている。中間層40は、厚さT1を有している。厚さT1は、例えば、1.5μm以下である。厚さT1は、1μm以下であることが好ましい。中間層40は、外周面40aを有している。中間層40は、絶縁性の材料により形成されている。中間層40は、例えば、ポリオレフィンにより形成されている。但し、中間層40は、ポリオレフィン以外の材料により形成されていてもよい。
【0050】
シールド50は、外周面40aを覆うように形成されている。シールド50は、導電性を有している。シールド50は、無電解めっき層51を有している。なお、無電解めっき層51は、無電解めっき法により形成されためっき層である。
【0051】
無電解めっき層51は、外周面40aを覆うように形成されている。無電解めっき層51は、厚さT2を有している。厚さT2は、例えば、0.05μm以上である。厚さT2は、例えば、0.5μm以下である。厚さT2は、0.05μm以上0.5μm以下であることが好ましい。無電解めっき層51は、例えば、無電解銅めっき層である。無電解めっき層51は、外周面51aを有している。
【0052】
無電解めっき層51の電気抵抗値は、50mΩ/cm未満であることが好ましい。無電解めっき層51における欠陥率は、1.5未満であることが好ましい。無電解めっき層51における欠陥率は、無電解めっき層51の電気抵抗値の実測値を無電解めっき層51の電気抵抗値の理論値で除した値である。
【0053】
中間層40と無電解めっき層51との間の接着強度は、例えば、0.1N/cm以上である。中間層40と無電解めっき層51との間の接着強度は、例えば、6N/cm以下である。中間層40と無電解めっき層51との間の接着強度は、好ましくは、0.3N/cm以上6N/cm以下である。なお、中間層40と無電解めっき層51との間の接着強度は、引張試験により測定される。
【0054】
シールド50は、さらに、電解めっき層52を有していてもよい。なお、電解めっき層52は、電解めっき法により形成されためっき層である。電解めっき層52は、外周面51aを覆うように形成されている。電解めっき層52は、厚さT3を有している。厚さT2及び厚さT3の合計は、6μm以下であることが好ましい。電解めっき層52は、例えば、電解銅めっき層である。
【0055】
電解めっき層52が電解銅めっき層である場合、電解めっき層52中には、複数の銅結晶粒が含まれている。電解めっき層52中における銅結晶粒の平均粒径は、例えば0.5μm以上である。電解めっき層52中における銅結晶粒の平均粒径は、電解めっき層52の断面をSEM(Scanning Electron Microscope、走査型電子顕微鏡)により観察し、所定の測定視野(例えば、30μm×20μm)における電解めっき層52の厚さを5箇所測定した平均値とされる。
【0056】
触媒粒子60は、無電解めっき層51と中間層40との間(無電解めっき層51と中間層40との界面)に分散している。すなわち、触媒粒子60は、無電解めっき層51と中間層40との間において、層状になっていない。外周面40aのうちの触媒粒子60が配置されていない領域の面積が外周面40a全体の面積の90パーセント以上であるときには、「触媒粒子60が無電解めっき層51と中間層40との間に分散している」ことになる。触媒粒子60の間の距離の平均値は、50nm以上であることが好ましい。
【0057】
触媒粒子60の平均粒径は、例えば、300nm以下である。触媒粒子60の平均粒径は、TEM(Transmission Electron Microscope、透過型電子顕微鏡)を用いて測定される。触媒粒子60は、例えば、パラジウム(Pd)を含有している。但し、触媒粒子60は、パラジウム以外の材料を含有していてもよい。触媒粒子60は、例えば、銅、銀(Ag)、金(Au)等を含有していてもよい。
【0058】
差動信号伝送用ケーブル10に含まれている触媒粒子60の含有量は、差動信号伝送用ケーブル10の長手方向に沿った1cmあたり、例えば、0.1μg以上である。差動信号伝送用ケーブル10に含まれている触媒粒子60の含有量は、差動信号伝送用ケーブル10の長手方向に沿った1cmあたり、例えば10μg以下である。差動信号伝送用ケーブル10に含まれている触媒粒子60の含有量は、差動信号伝送用ケーブル10の長手方向に沿った1cmあたり、0.1μg以上10μg以下であることが好ましい。
【0059】
差動信号伝送用ケーブル10の長手方向に沿った1cmあたりの触媒粒子60の含有量は、誘導結合プラズマ質量分析計を用いて測定される。本発明者らが見出した知見によると、差動信号伝送用ケーブル10の長手方向に沿った1cmあたりの触媒粒子60の含有量が0.1μg以上10μg以下であるとき、触媒粒子60は、無電解めっき層51と中間層40との間において層状にならず、無電解めっき層51と中間層40との間に分散する。
【0060】
<差動信号伝送用ケーブル10の製造方法>
図3は、差動信号伝送用ケーブル10の製造方法を示す工程図である。図3に示されるように、差動信号伝送用ケーブル10の製造方法は、準備工程S1と、中間層形成工程S2と、触媒粒子配置工程S3と、無電解めっき工程S4と、電解めっき工程S5とを有している。
【0061】
中間層形成工程S2は、準備工程S1の後に行われる。触媒粒子配置工程S3は、中間層形成工程S2の後に行われる。無電解めっき工程S4は、触媒粒子配置工程S3の後に行われる。電解めっき工程S5は、無電解めっき工程S4の後に行われる。
【0062】
準備工程S1においては、処理対象部材10Aが準備される。図4は、準備工程S1において準備される処理対象部材10Aの断面図である。図4に示されるように、処理対象部材10Aは、絶縁層20及び信号線30を有している。処理対象部材10Aにおいて、中間層40、シールド50及び触媒粒子60は未形成である。
【0063】
図5は、中間層形成工程S2が行われた後の処理対象部材10Aの断面図である。図5に示されるように、中間層形成工程S2においては、外周面20aを覆うように中間層40が形成される。中間層形成工程S2においては、外周面20aに中間層40を構成する材料が塗布されるとともに、塗布された当該材料を硬化させることにより、外周面20aを覆うように中間層40が形成される。
【0064】
図6は、触媒粒子配置工程S3が行われた後の処理対象部材10Aの断面図である。図6に示されるように、触媒粒子配置工程S3においては、外周面40a上に、触媒粒子60が分散配置される。触媒粒子配置工程S3においては、触媒粒子60を含む溶液が外周面40aに塗布されるとともに、当該溶液を揮発させることにより、外周面40a上に触媒粒子60が分散配置される。
【0065】
図7は、無電解めっき工程S4が行われた後の処理対象部材10Aの断面図である。図7に示されるように、無電解めっき工程S4においては、外周面40aを覆うように無電解めっき層51が形成される。無電解めっき工程S4においては、無電解めっき層51に含まれる材料が溶解しているめっき液中に、処理対象部材10Aが浸漬される。これにより、外周面40a上に分散配置されている触媒粒子60を触媒として外周面40aを覆うように無電解めっき層51を構成する材料が析出し、無電解めっき層51が形成される。
【0066】
電解めっき工程S5においては、外周面51aを覆うように電解めっき層52が形成される。電解めっき工程S5においては、電解めっき層52に含まれる材料が溶解しているめっき液中に処理対象部材10Aが浸漬されるとともに、無電解めっき層51に通電がなされる。これにより、外周面51a上に電解めっき層52を構成する材料が析出し、図2A及び図2Bに示される構造の差動信号伝送用ケーブル10が製造される。
【0067】
<差動信号伝送用ケーブル10の効果>
差動信号伝送用ケーブル10においては、中間層40と無電解めっき層51との間に触媒粒子60が分散配置されている。そのため、外周面40aには、触媒粒子60に起因した微細な凹凸が存在していることになる。この微細な凹凸は、外周面40aを覆うように形成されている無電解めっき層51と中間層40との接着においてアンカー効果を生じさせるため、無電解めっき層51の密着性が確保される。
【0068】
上記のとおり、中間層40と無電解めっき層51との間に触媒粒子60を分散配置することにより無電解めっき層51の密着性が確保されるため、外周面20aを粗面化する必要がない。そのため、差動信号伝送用ケーブル10においては、外周面20aを粗面化することに伴う高周波領域での減衰特性が悪化しがたい。このように、差動信号伝送用ケーブル10によると、高周波領域における減衰特性の悪化を抑制しつつ、無電解めっき層51の密着性を確保することができる。
【0069】
差動信号伝送用ケーブル10において、差動信号伝送用ケーブル10の長手方向に沿った1cmあたりの触媒粒子60の含有量が0.1μg未満である場合、外周面40a上に無電解めっき層51と接着されていない箇所が生じるおそれがある。
【0070】
他方で、差動信号伝送用ケーブル10において、差動信号伝送用ケーブル10の長手方向に沿った1cmあたりの触媒粒子60の含有量が10μgを超える場合、外周面20aにある触媒粒子60に起因した凹凸が大きくなり過ぎ、高周波領域での減衰特性が悪化するおそれがある。そのため、差動信号伝送用ケーブル10の長手方向に沿った1cmあたりの触媒粒子60の含有量を0.1μg以上10μg以下とすることにより、高周波領域における減衰特性の悪化を抑制しつつ、無電解めっき層51の密着性を確保することができる。
【0071】
外周面20aにおける算術平均粗さが2.0μm以下(特に、0.6μm未満)である場合には、高周波領域における減衰特性の悪化をさらに抑制することができる。
【0072】
差動信号伝送用ケーブル10は、複数本撚り集められて撚線にされることがある。中間層40と無電解めっき層51との間の接着強度が0.1N/cm未満である場合、差動信号伝送用ケーブル10が撚線にされる際に、無電解めっき層51が剥がれてしまうおそれがある。
【0073】
また、差動信号伝送用ケーブル10をコネクタ等に接続する際に、シールド50を剥がす端末処理が行われる。中間層40と無電解めっき層51との間の接着強度が6N/cmを超える場合、この端末処理の際に、シールド50が無電解めっき層51と中間層40との界面において剥がれず、シールド50を剥がす際に、絶縁層20の一部が中間層40とともに剥がれてしまうおそれがある。
【0074】
そのため、中間層40と絶縁層20との間の接着強度を0.1N/cm以上6N/cm以下とすることにより、複数の差動信号伝送用ケーブル10を撚線にする際に無電解めっき層51が剥がれてしまうことを抑制しつつ、差動信号伝送用ケーブル10の端末処理を行う際に絶縁層20が中間層40とともに剥がれてしまうことを抑制することができる。
【0075】
厚さT1が1μm以下である場合、絶縁層20及び無電解めっき層51と中間層40とのインピーダンスの不一致に起因した高周波領域での減衰特性の悪化を抑制することができる。厚さT2及び厚さT3の合計が6μm以下である場合、シールド50の形成に伴う製造コストを低減することができる。
【0076】
シールド50が電解めっき層52をさらに有している場合、シールドの電気抵抗値を低減することができる。電解めっき層52中における銅結晶粒の平均粒径が1μm以上である場合、電解めっき層52が比較的軟質であるため、差動信号伝送用ケーブルが曲げられた際(例えば、曲げ半径が300mm程度の曲げ変形を受けた際)に電解めっき層52にクラックが発生することが抑制される。
【0077】
<実験例>
比較例に係る差動信号伝送用ケーブル(以下「差動信号伝送用ケーブル70」とする)と差動信号伝送用ケーブル10との比較試験結果を説明する。差動信号伝送用ケーブル70は、絶縁層20と、信号線30と、中間層40と、無電解めっき層51及び電解めっき層52を含むシールド50と、触媒粒子60とを有している。この点に関して、差動信号伝送用ケーブル70の構成は、差動信号伝送用ケーブル10の構成と共通している。
【0078】
図8は、差動信号伝送用ケーブル70の中間層40と無電解めっき層51との界面近傍における拡大断面図である。図8に示されるように、差動信号伝送用ケーブル70において、触媒粒子60が、中間層40と無電解めっき層51との間に層状に配置されている。差動信号伝送用ケーブル70において、触媒粒子60の層は、内部に空隙を含むポーラスな構造になっている。これらの点に関して、差動信号伝送用ケーブル70の構成は、差動信号伝送用ケーブル10の構成と異なっている。
【0079】
図9Aは、差動信号伝送用ケーブル70における減衰特性を示すグラフである。図9Bは、差動信号伝送用ケーブル10における減衰特性を示すグラフである。図9A及び図9B中において、横軸は信号線30に印加される信号の周波数(単位:GHz)であり、縦軸はSdd21(ディファレンシャル挿入損失)で評価した伝送損失(単位:dB)である。なお、図9A及び図9Bに示されるグラフにおいて、無電解めっき層51の厚さT2及び欠陥率は、それぞれ5μm及び1.1とされた。
【0080】
図9Aに示されるように、差動信号伝送用ケーブル70においては、50GHz近傍において、触媒粒子60の内部に存在している空隙に起因して、伝送損失が局所的に大きく増加している周波数帯域が存在している。他方で、図9Bに示されるように、差動信号伝送用ケーブル10においては、少なくとも60GHzまでの周波数領域において、伝送損失が局所的に大きく増加している周波数帯域は存在しなかった(サックアウトが生じていなかった)。このように、中間層40と無電解めっき層51との間に触媒粒子60を分散配置させることにより高周波領域における減衰特性の悪化を抑制できることが、実験的にも示された。
【0081】
なお、触媒粒子60が中間層40と無電解めっき層51との間に層状に配置されている差動信号伝送用ケーブル70においては、無電解めっき層51と中間層40との間の接着強度が高くなり過ぎ、端末処理においてシールド50(無電解めっき層51)を剥がす際に絶縁層20の一部が中間層40とともに剥がれてしまうおそれがある。
【0082】
(第2実施形態)
以下に、第2実施形態に係る差動信号伝送要ケーブル(以下「差動信号伝送用ケーブル80」とする)を説明する。ここでは、差動信号伝送用ケーブル10と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0083】
<差動信号伝送用ケーブル80の構成>
図10は、差動信号伝送用ケーブル80の断面図である。図10に示されるように、差動信号伝送用ケーブル80は、絶縁層20と、信号線30と、中間層40と、シールド50と、触媒粒子60(図10中において図示せず)とを有している。なお、差動信号伝送用ケーブル80は、触媒粒子60を有していなくてもよい。
【0084】
差動信号伝送用ケーブル80において、シールド50は、無電解めっき層51と、電解めっき層52とを有している。差動信号伝送用ケーブル80において、触媒粒子60は、中間層40と無電解めっき層51との間に分散している。これらの点に関して、差動信号伝送用ケーブル80の構成は、差動信号伝送用ケーブル10の構成と共通している。しかしながら、差動信号伝送用ケーブル80の構成は、絶縁層20がポリプロピレンにより形成されている点に関して、差動信号伝送用ケーブル10の構成と異なっている。
【0085】
絶縁層20は、ポリプロピレンの結晶粒(以下「ポリプロピレン結晶粒」という)を含んでいる。絶縁層20は、ポリプロピレンの非晶質相を含んでいてもよい。絶縁層20を構成しているポリプロピレンの結晶化度Xは、0.3以上になっている。なお、結晶化度Xは、上記の式(1)により算出される。
【0086】
絶縁層20中のポリプロピレン結晶粒は、単斜晶の結晶構造、六方晶の結晶構造又はそれらの少なくとも一方が共存した状態を有している。絶縁層20中のポリプロピレン結晶粒は、特定の2つ以下の結晶軸に沿って配向されている。絶縁層20中のポリプロピレン結晶粒の結晶配向度O110は、0.65以下となっている。なお、絶縁層20中のポリプロピレン結晶粒の結晶配向度は、上記の式(2)により算出される。
【0087】
<変形例>
上記においては、絶縁層20がポリプロピレンにより形成されるものとしたが、絶縁層20は、ポリプロピレン以外の材料により形成されていてもよい。より具体的には、絶縁層20は、環状オレフィンポリマー又はポリメチルペンテンにより形成されてもよい。
【0088】
<差動信号伝送用ケーブル80の効果>
差動信号伝送用ケーブル80によると、絶縁層20と中間層40との間の密着性及び中間層40と触媒粒子60との間の密着性が改善され、ひいては無電解めっき層51の密着性が高くなるため、差動信号伝送用ケーブルの伝送損失を抑制することができる。結晶化度Xが0.3以上である場合、絶縁層20と中間層40との間の密着性及び中間層40と触媒粒子60との間の密着性がさらに改善され、ひいては無電解めっき層51の密着性がさらに高くなるため、差動信号伝送用ケーブルの伝送損失をさらに抑制することができる。
【0089】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0090】
10,70,80 差動信号伝送用ケーブル、10A 処理対象部材、20 絶縁層、20a 外周面、30,30a,30b 信号線、40 中間層、40a 外周面、50 シールド、51 無電解めっき層、51a 外周面、52 電解めっき層、60 触媒粒子、S1 準備工程、S2 中間層形成工程、S3 触媒粒子配置工程、S4 無電解めっき工程、S5 電解めっき工程、T1,T2,T3 厚さ。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10