(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】水中騒音監視装置及び水中騒音処理方法
(51)【国際特許分類】
G01H 9/00 20060101AFI20240220BHJP
G01H 3/00 20060101ALI20240220BHJP
B63C 11/48 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
G01H9/00 E
G01H3/00 A
B63C11/48 Z
(21)【出願番号】P 2022542593
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2021024443
(87)【国際公開番号】W WO2022034748
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020136553
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】矢野 隆
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-148835(JP,A)
【文献】特開昭62-024116(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044054(WO,A1)
【文献】特表2019-537721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 9/00
G01H 3/00
B63C 11/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中又は水底に設置される
光ケーブルに備えられた光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における騒音又は振動を表すデータにより、前記データが取得された時刻及び前記位置における、前記騒音又は振動の量の統計値を導出する、処理手段と、
前記統計値を出力する、出力手段と、
を備
え、
前記処理手段は、別途入力された前記光ケーブルの種類又は前記光ケーブルの設置工法に関する、前記光ケーブルの場所ごとの情報を基に、前記量から、前記光ケーブルの種類又は前記光ケーブルの設置工法の違いによる感度への影響を低減する処理を行う、
水中騒音監視装置。
【請求項2】
前記統計値は、前記騒音又は振動の、振幅もしくは強度の、平均値もしくは尖頭値である、請求項1に記載された水中騒音監視装置。
【請求項3】
前記処理手段は、取得した前記データのうち、前記騒音又は振動の源からの距離が、別途規定されている距離に対応する前記位置の前記データを用いて、前記統計値の導出を行う、請求項1又は請求項2に記載された水中騒音監視装置。
【請求項4】
前記処理手段は、前記統計値を、前記騒音又は振動の周波数帯ごとの前記量について算出する、請求項1乃至請求項3のうちのいずれか一に記載された水中騒音監視装置。
【請求項5】
前記統計値から、前記騒音又は振動の量が設定値を超えたか否かについての判定を行う、判定手段をさらに備える、請求項1乃至請求項4のうちのいずれか一に記載された水中騒音監視装置。
【請求項6】
前記処理手段は、前記データを、前記騒音又は振動の源の稼働情報により区別した上で、前記統計値を導出する、請求項1乃至請求項5のうちのいずれか一に記載された水中騒音監視装置。
【請求項7】
前記処理手段が前記データから取得した前記騒音又は振動の特徴から、前記騒音又は振動の源の種類又は位置を特定する源特定手段をさらに備える、請求項1乃至請求項6のうちのいずれか一に記載された水中騒音監視装置。
【請求項8】
水中又は水底に設置される
光ケーブルに備えられた光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における騒音又は振動を表すデータにより、前記データが取得された時刻及び前記位置における、前記騒音又は振動の量の統計値を導出し、
前記光ケーブルの種類又は前記光ケーブルの設置工法に関する、前記光ケーブルの場所ごとの情報を基に、前記量から、前記光ケーブルの種類又は前記光ケーブルの設置工法の違いによる感度への影響を低減し、
前記統計値を出力する、
水中騒音処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の騒音や振動を監視するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
人の海洋での活動により、水中には様々な騒音や振動が発生している。ここで、以下、騒音と振動を併せて単に「騒音」という場合がある。また音と振動を併せて単に「音」という場合がある。そして、騒音の種類や大きさによっては、海洋の生態系に悪影響が及ぼされることが知られている。そのような騒音には例えば洋上風力発電の海底杭打ち工事による音、海底地下構造探査のためのエアガンによる音、船の航行音などがある。エアガンによる音により、周辺のプランクトンが死滅する事象の報告がある。プランクトンが死滅すればそれを餌とする魚なども一時的に減少し、漁業にも影響する。
【0003】
そのような背景から水中騒音の規制が国際的に検討されている。例えばISOではTC43/SC3にて水中騒音が議論され、標準化が進められている。ここで、ISOは、International Organization for Standardizationの略である。例えば、非特許文献1は、海底への杭打ち工事の際の水中騒音の測定法に関する標準規格文書である。
【0004】
また、船の航行音に関しては、IMOでも低減に向けての行動の必要性が認識されており、2014年に低減手法と測定方法のガイドラインが出されている。ここで、IMOは、International Maritime Organizationの略である。
【0005】
これらの文書に記載されている標準的な測定手法においては、水中音の取得に、ハイドロフォンと呼ばれる水中音響センサ(水中マイク)が用いられている。しかし、浅海や湾内などでは反射波が生じ、それらが複雑に重なり合うため、少ない測定点(音データの取得位置)の数で周囲の騒音分布状況を把握することは難しい。騒音規制のためには標準化された測定方法及び規制値が必要であるが、このような複雑な多重反射がある状況で規制適合性を判断できる測定方法や規制値については現在も議論が行われている。
【0006】
[一般的な騒音測定]
今日の社会では、騒音に限らず環境を悪化させないための様々な規制があるが、その規制方法には、個々の発生源ごとの規制と、所定の区域における総量規制、の2通りがあり、それらを組合せて環境の悪化を防いでいる。水中の騒音についても同様であり、個々の騒音源ごとの規制(例えば船、杭打機、エアガン)と、特定の海域の総量規制(例えば船舶往来が激しい海峡における騒音)が、議論・検討されている。
【0007】
個々の騒音源の騒音発生量の測定は、周囲が静かな場所に騒音源を設置して測定することにより行うことができる。例えば船舶の航行に伴う騒音のように、音源が移動する場合は、反射の影響が少ない場所に十分な数の測定点を設置した騒音測定用の区域を用意して、船舶を通過させて騒音を測定する方法が用いられる。
【0008】
一方、特定の区域の騒音の測定は、基本的には現場の騒音量(騒音及び振動の量)が規制値を満たしているか否かを判定するものである。従い、音の内容や音源との距離は、この判定には使われない。しかし規制値を超過した場合には、その低減のために主な騒音の発生源や音源との距離を調べることになる。そのため測定時に、注目する主な騒音源(多くは人工的な音源)と測定点との位置関係を把握しながら騒音量測定をすることも求められる。
【0009】
つまり、騒音環境測定の形態には、騒音源の種類や位置は問わず騒音の総量のみを監視する形態と、注目する主な騒音源(その多くは人工的な音源)と測定点との位置関係を把握しつつ監視する形態の、2つの形態がある。
【0010】
特に騒音が問題になりそうな人工的な騒音源については、音を発する前に、音源から予め定められた距離だけ離れたところに騒音測定点を配置して、騒音量を監視することが一般的に行われる。このように、現場における騒音環境測定は、前述の騒音源ごとの測定と、現場環境の総量測定が合わさったものになる。つまり、種類と距離を把握している音源からの音に加えて、それ以外の周囲の音も加わって、その総量で環境基準を満たしているかどうかが判定される。
【0011】
なお、人工的な騒音源には、工事騒音のように音源が移動しない場合と、航行中の船舶の騒音のように音源が移動する場合がある。移動する音源であってもその位置をリアルタイムに把握するシステムからの情報を得ることで、各音源と測定点との距離を把握することができる。例えば船舶の位置情報を把握するシステムとして、AIS:Automatic Identification Systemが広く用いられている。
【0012】
ここで、特願2020-013946は、分布型音響センシング(DAS:Distributed Acoustic Sensing)により光ファイバ周辺の音を取得する方法を開示する。
【0013】
また、非特許文献2は、DASの原理を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】ISO18406:2017,Underwater acoustics - Measurement of radiated underwater sound from percussive pile driving
【文献】R. Posey Jr, G. A. Johnson and S.T. Vohra, ”Strain sensing based on coherent Rayleigh scattering in an optical fibre”, ELECTRONICS LETTERS, 28th September 2000, Vol. 36 No. 20, p.1688-p.1689
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
背景技術の項で説明したように、水中騒音の分布を調査するには、多重反射など複雑な音の伝搬を考慮すると、音源を取り囲むようになるべく多くの測定点を配置して監視することが望ましい。しかしながら、背景技術の項で説明したハイドロフォンによる観測では測定点を増やして分布的に配置することには制約がある。その理由は、電子回路で構成されるセンサであるため絶縁不良を始めとする可用性(長期信頼性)と電力供給の問題、測定点が有線で結ばれていない設置形態の場合は、水中には無線電波が届かないため内部に記憶されたデータを回収する手間がかかる問題、分布的な測定をするために測定点を増やすとコストも急激に増加すること、などである。
【0016】
そのため現在は、個々の発生源ごとの騒音規制から取り組みが始まっている。しかし現場の騒音環境を把握する必要性があることは変わらない。例えば、個々の船の出す騒音は速度(エンジンやプロペラの回転数)や整備状況などにより変わる。さらに特定海域の騒音の総量は、そこを同時に通過する船舶の種類や数によって変わる。したがって個々の騒音源の規制だけでは環境を守るには不十分である。そのため、将来的には、船舶が航行する実際の海域での騒音を監視するよう、測定点を分布的に広げていく必要性があると考えられている。
【0017】
本発明は、多数の騒音測定点を分布的に配置することが容易な水中騒音監視装置等の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の水中騒音監視装置は、水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における騒音又は振動を表すデータにより、前記データが取得された時刻及び場所における、前記騒音又は振動の量の統計値を導出する、処理部と、前記統計値を出力する、出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水中騒音監視装置等は、多数の騒音測定点を分布的に配置することが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態の水中騒音監視システムの構成例を表す概念図である。
【
図2】水中騒音監視システムの光ケーブルの設置のされ方(水平方向)の例を表す概念図である。
【
図3】水中騒音監視システムの光ケーブルの設置のされ方(垂直方向)の例を表す概念図である。
【
図4】水中騒音情報処理装置の処理内容の説明図である。
【
図5】水中騒音情報処理装置の処理内容の詳細の説明図である。
【
図6】水中騒音情報処理装置の処理の効果を表すデータの一例である。
【
図7】実施形態の水中騒音監視装置の最小限の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第一実施形態>
本実施形態の水中騒音監視装置等は、背景技術の項で説明したDASを用い、水中に設置される光ケーブルに備えられる光ファイバを用いて、水中騒音を監視する。これにより、本実施形態の水中騒音監視装置は、多数の騒音測定点(音データの取得位置)を分布的に配置することを容易にする。
[構成と動作]
図1は本実施形態の水中騒音監視システムの例である水中騒音監視システム300の構成を表す概念図である。水中騒音監視システム300は、光ファイバ200、インテロゲーター100および水中騒音情報処理装置120を備える。インテロゲーター100と水中騒音情報処理装置120は統合されても構わない。
【0022】
本実施形態では、光ファイバを備える光ケーブルは、環境騒音測定を少なくとも目的の一つとして製造され、騒音測定する区域に測定用として設置される光ケーブルである。
【0023】
光ファイバセンシング用途では、光ケーブル内には光ファイバ心線があればよく、給電や信号伝送のための電線は要しない。電線を含めないことで絶縁不良による障害などを起こりにくくすることができる。
[光ケーブルの配置]
図2は、
図1の水中騒音監視システム300における光ケーブル920の設置例を説明する概念図である。音源からの規定の距離に測定点(音データの取得位置)が並ぶように、一筆書きの要領で光ケーブル920を設置する。
図2は、音源は杭打ち工事現場のような騒音源が移動しない場合で、音源からの距離が距離1および距離2において騒音の監視が求められている場合の例である。
【0024】
音源が1つの場合、
図2(a)のように半径1と半径2の同心円を一筆書きで描いたように光ケーブルを設置する。洋上風力発電ファームのように風車(音源)が複数並んでいる場合は、
図2(b)のように音源の並びと平行に、距離1と距離2だけ離れたところを通過するように光ケーブルを配置する。例えば海峡において船の航行音を測定するような場合にも
図2(b)のような光ケーブル配置が適する。
【0025】
図1に表される水中騒音監視システムでは、光ファイバの両端のどちらか一方がインテロゲーター100に接続される必要があり、他方は光終端されていればよく、両端ともインテロゲーターに接続される必要はない。
図2の例では、万一、光ケーブルが断線しても反対側の接続端から測定できるように、光ケーブルの両端ともインテロゲーターまで戻した上で、一方はインテロゲーターと接続し、もう一方は終端している。なお、
図2においては、
図1の水中騒音情報処理装置120は図示が省略されている。
【0026】
インテロゲーター100及び水中騒音情報処理装置120は、陸上に設置されても、監視船等の船に設置されてもよい。これらは、騒音を監視する役割の人間が、リアルタイムに監視できる場所に置かれることが望ましい。水中騒音情報処理装置120は、インテロゲーター100の近傍に設置されても離れて設置されても構わない。
【0027】
[光ケーブルの垂直方向の設置の形態]
図3は、光ケーブル920の、水面に対して垂直方向の設置のされ方の例を表す概念図である。光ケーブル920は、水底に置かれても、水底に埋設されてもよい。測定点を水中に配置するためには、係留ブイなどを用いて光ケーブル920を水中に持ち上げればよい。水底の近くは地面の起伏により直接波が遮蔽されることがあるので、測定点を水底から離した方が良い場合もある。
【0028】
図3(a)は光ケーブル920のほとんどの区間が水中に懸架される光ケーブル920の配置例を表す。また、
図3(b)は光ケーブル920の大部分は水底に置かれ、一部が水中を測定するように持ち上げられている光ケーブルの配置例を表す。このように、監視現場の水深などにより適切な光ケーブル920の設置方法が選択される。
【0029】
杭打ち工事の場合には、杭から発せられる水中音に加えて水底の地面を伝わる振動もあり、水底に光ケーブルを配置することで地面を伝わる振動も監視できる。
【0030】
水中工事現場では舞い上がった泥などの拡散を抑えるためのシルトカーテンが用いられることがあるが、そのような周囲の構造物に光ケーブルを取り付けても良い。
【0031】
以上のように、測定用の光ケーブルは、音源周辺の近いところ、遠いところ、水底からの高さなど多様な場所で音のデータを取得する。したがって、光ケーブルの設置位置(水深を含む地理座標)、設置状況などの正確な情報は、測定された音を分析する際に重要な情報となるため、光ケーブル設置の際に正確に記録されるべきである。以降ではこの記録を「光ケーブルの地理座標データ」とも称する。
【0032】
[音源と測定点との距離の測定]
光ケーブルと音源との距離が、規定の距離から若干ずれていても、距離のずれ量が分かれば、測定値は規定の距離での測定値に補正できる。音源と光ケーブルとの距離は次のようにして予め実測することが可能である。騒音源のある地点にパルス音源を置き、光ケーブルの各地点でそのパルス音が検知されるまでの時間から距離を求める。パルス幅は、直接波と反射波が区別できるように十分狭く設定する。
【0033】
ただしこの補正方法は、距離のずれが大きくなると、測定する場所ごとに反射波の影響が異なる現象が現れてくるため、測定される騒音量が不正確になることがある。できる限り規定の距離に近い設置が望まれる。
[インテロゲーター100の動作]
光ファイバ200は、光伝送等に用いられる一般的な光ファイバである。一般的な光ファイバは、音を含む振動の存在等の環境により変化を受けた後方散乱光を生じる。当該後方散乱光は、典型的には、レイリー後方散乱によるものである。その場合、前記変化は主として位相の変化(位相変化)である。
【0034】
光ファイバ200は、複数の光ファイバが増幅中継器等により接続されたものであっても構わない。光ファイバ200を含む光ケーブルは、インテロゲーター100を備える図示されない光通信装置と他の光通信装置との間に接続されていても構わない。
【0035】
インテロゲーター100は、OTDR方式の光ファイバセンシングを行うためのインテロゲーターである。ここでOTDRはOptical Time-Domain Reflectometryの略である。そのようなインテロゲーターについては、例えば、前述の特願2020-013946に説明がある。
【0036】
インテロゲーター100は、取得処理部101と、同期制御部109と、光源部103と、変調部104と、検出部105とを備える。変調部104は光ファイバ201及び光カプラ211を介して、検出部105は光カプラ211及び光ファイバ202を介して、それぞれ、光ファイバ200に接続されている。
【0037】
光源部103は、レーザ光源を備え、連続的なレーザ光を変調部104に入射する。
【0038】
変調部104は、同期制御部109からのトリガ信号に同期して、光源部103から入射された連続光のレーザ光を、例えば振幅変調し、センシング信号波長のプローブ光を生成する。プローブ光は、例えば、パルス状である。そして、変調部104は、プローブ光を、光ファイバ201及び光カプラ211を介して、光ファイバ200に送出する。
【0039】
同期制御部109は、また、トリガ信号を取得処理部101に送付し、連続してA/D(アナログ/デジタル)変換されて入力されるデータのどこが時間原点かを伝える。
【0040】
当該送出が行われると、光ファイバ200の各位置からの戻り光が、光カプラ211から光ファイバ202を介して、検出部105に到達する。光ファイバの各位置からの戻り光は、インテロゲーター100に近い位置からのものほど、プローブ光の送出を行ってから短い時間でインテロゲーター100に到達する。そして、光ファイバ200のある位置が音の存在等の環境の影響を受けた場合には、その位置において生じた後方散乱光には、その環境により、送出時のプローブ光からの変化が生じている。後方散乱光がレイリー後方散乱光の場合、当該変化は、主として位相変化である。
【0041】
当該位相変化が生じている戻り光は、検出部105により検波される。当該検波の方法には、周知の同期検波や遅延検波があるが、いずれの方法が用いられても構わない。位相検波を行うための構成は周知であるので、ここでは、その説明は省略される。検波により得られた電気信号(検波信号)は、位相変化の程度を振幅等で表すものである。当該電気信号は、取得処理部101に入力される。
【0042】
取得処理部101は、まず前述の電気信号をA/D変換してデジタルデータとする。次に、光ファイバ200の各点で散乱されて戻ってきた光の、前回の測定からの位相変化を、例えば、同じ地点の前回の測定との差の形で求める。この信号処理はDASの一般的な技術であるので詳しい説明は省略される。
【0043】
取得処理部101は、光ファイバ200の各センサ位置に、仮想的に点状の電気センサを数珠繋ぎに並べて得たのと同様の形のデータを導出する。このデータは、信号処理の結果として得られる仮想的なセンサアレイ出力データである。以降では説明の簡単化のためこれをRAWデータと呼ぶ。RAWデータは、各時刻において、また光ファイバ200の各点(センサ位置)において、光ファイバが検出した音の強度を表すデータである。RAWデータについては、例えば、前述の特願2020-013946の背景技術の項に説明がある。取得処理部101は、RAWデータを水中騒音情報処理装置120に出力する。
【0044】
[水中騒音情報処理装置120の動作概要]
水中騒音情報処理装置120の構成及び動作の詳細は、
図4乃至
図6を参照して後述されるが、ここではその概要を説明する。
【0045】
水中騒音情報処理装置120は、取得処理部101から入力されたRAWデータを取得する。RAWデータは、前述のように、各時刻において、また光ファイバ200の各点(センサ位置)において、光ファイバが検出した音の強度を表すデータである。
【0046】
水中騒音情報処理装置120は、まず光ケーブル上の位置(例えば光ケーブル端からの距離)で表現されている各測定点の位置情報に、光ケーブルが設置されている地理座標データを対応づける。
【0047】
続いて水中騒音情報処理装置120は、取得したRAWデータを分析し、騒音が規制値を超過していないか判定する。
【0048】
水中騒音情報処理装置120は、各時刻及び各位置における、騒音レベル、分析結果、判定結果を、記録すると共に、例えばディスプレイ等に出力する。
[騒音の分析・評価]
図4は、水中騒音情報処理装置120が行う騒音の分析・評価のデータ処理例を表す概念図である。処理1から処理6までの処理のうち、ほとんどの適用場面において行われると考えられるのは処理5であり、それ以外の処理は騒音の分析性能向上のための処理や付加機能処理であるので実施されない場合もある。ある処理が実施されない場合は、前の処理で処理されたデータはそのまま次の処理の処理対象データとなる。
【0049】
ここでは、説明の都合上、処理5,6,3の順で説明する。また処理1の「光ケーブル上の位置ごとの感度補正」の内容は第2の実施形態にて説明される。
【0050】
水中騒音情報処理装置120には、
図1の取得処理部101から、前述のRAWデータが入力される。RAWデータは、前述のように、各時刻における、また光ファイバ200の各点(センサ位置)における、光ファイバが検出した音の瞬時強度(波形)を表すデータである。
【0051】
「処理5:統計値算出」は、ほとんどの適用場面において実施される処理である。水中騒音情報処理装置120は、各測定点ごとに、後述する処理3が実施されていれば周波数帯ごとに分けたデータについて、設定された時間ごとの、検出した騒音の瞬時強度(波形)の統計値を算出する。
【0052】
ここで言う統計値は、設定された時間幅における、音の瞬時強度の代表値を算出したものである。強度の統計値は、例えば平均値や尖頭値である。音の瞬時強度(波形)にさらに演算を加えたのちに統計値を算出しても構わない。設定された時間幅は、例えば10秒間である。処理3で述べる周波数帯ごとに分ける処理を行う場合は、設定された時間幅は、周波数帯ごとに設定される。例えば、1から10Hzの帯域では100秒間,10から100Hzでは10秒間、のように設定される。
【0053】
このように統計値すなわち代表値を算出することで、音の瞬時強度(波形)よりもデータサイズが大幅に少なくなる。また次に説明する、しきい値超過判定を行いやすくなる。
【0054】
「処理6:超過判定」は、
図1の水中騒音監視システム300の適用状況により、実施されるか否かが選択されるものである。
【0055】
水中騒音情報処理装置120は、以上のようにして得た分析データを用いて、指定されたしきい値を超過したかどうかを随時評価する。分析データは例えば平均値や尖頭値である。指定されたしきい値は、典型的には騒音規制値である。
【0056】
「処理3:各周波数帯に分ける」は、
図1の水中騒音監視システム300の適用状況により、実施されるか否かが選択されるものである。
【0057】
処理3における、音データを「各周波数帯ごとに分ける」の内容は、例えば、極低周波から0.1Hz,0.1から1Hz,1から10Hz,10から100Hz,100Hz以上、のような分け方をすることである。この周波数帯の設定は騒音規制に沿うように行われることが望ましい。
【0058】
騒音を周波数帯ごとに分けて評価する理由は大きく2つある。一つは水中生物に与える影響が、騒音の周波数帯により異なるためである。もう一つは騒音に含まれる周波数の区別である。例えば、波が岸へ打ち付ける場所のように自然由来の騒音が大きい場所において、工事など人工的な騒音を監視したい場合がある。騒音を周波数帯ごとに分けて、自然由来の騒音は大きくなく、工事機械が出す音は大きい周波数域で騒音を評価すれば、自然由来の騒音が人工的な騒音の評価に与える影響を低減できる。以上のような理由により、騒音規制において周波数帯を定め、その帯域内の騒音で規制されるのが通例である。そのため、騒音を周波数帯ごとに分けて評価する処理が必要に応じて行われる。
【0059】
図5は、以上説明した処理3、処理5、処理6のデータの流れの一例を模式的に示すものである。RAWデータは、周波数帯ごとに分けられることで複数に分割され、枝分かれする。図の左側からRAWデータが入り、RAWデータが処理された結果が右側に出力される。一番上は、RAWデータが周波数帯ごとに分けられずに処理されるもので、処理されずに出力される、統計値が算出され出力される、さらに統計値のしきい値超過判定が行われた結果が出力される、の3種類の出力形態がある。出力されるデータは、波形データ、統計値データ、判定結果データの順にデータサイズが小さくなる。これらのどれを記録に残すかは設定により変更可能である。同様の処理が、各周波数帯に分けられた後にも行われる。1つの測定点からのRAWデータに対して以上の処理が行われる。多数ある測定点の数だけ、この処理が実行される。有用性が低い測定点のデータが処理されることは非効率なため、後述する処理1や処理2では、データ処理する必要がある測定点だけに絞って、
図5の処理が行われる。
【0060】
「処理2:音源からの距離、設置状況、空間的な場所の違いにより、分ける」は、水中騒音監視システム300の適用状況により実施するか否かが選択されるものである。
【0061】
水中騒音情報処理装置120は、少なくとも各測定点の地理座標を保持しており、場合により音源の地理座標も保持している。音源の数は1つとは限らず複数の場合もある。音源の地理座標は、杭打機のように動かぬ音源であれば固定的に設定、保持される。一方、航行する船舶のように移動する音源であれば、音源の地理座標は、例えばAISなどの船舶位置情報システムから取得され保持される。
【0062】
水中騒音情報処理装置120は、音源と各測定点との距離や設置状況に基づき、測定点を選択して分析する。その一例を
図2(a)の設置例について説明する。この設置例では、光ケーブル920は、騒音源を2重に囲むように設置されている。ここで、半径1は250m、半径2は500mとする。
【0063】
図6(a)は、ある時刻に測定された音の強度の平均値を、光ケーブル920上の位置の順でプロットされたものである。
図6(b)は、同じデータが、各測定点の音源からの距離の順にプロットされたものである。
図6(b)を見ると分かるように、音源からの距離が250m(半径1)と500m(半径2)の位置に測定点が集中している。上述のように、これら2つの距離は騒音を測定する際の規定距離であるので、これらの2つの距離にある測定点のデータが有用であり、その他の測定点のデータについては以降の処理を省くことも可能である。これら2つの距離にある測定点は、若干の距離のずれに対しては、距離250m、500mでの値に補正されたのち、平均を取るなどされて、音源から規定距離だけ離れた場所の騒音量として出力される。
図6(b)の例においては既定の距離から±30mの範囲の測定点については、必要に応じて距離を補正した上で使用する様子を示している。
【0064】
また
図2(b)に一例を示すように、複数の騒音源が空間的に異なる場所にあり、それらから発せられた騒音が光ケーブルの複数の場所で時間的に重なって検出される場合もある。この場合、各々の測定点における騒音量の監視ができるだけでなく、長尺な光ファイバそれ自体をセンサアレイとして利用し、周知である音源分離技術を用いて、騒音源を空間的に分離・識別することもできる。これにより、例えば各測定点を騒音規制値以内に抑えるにはどの騒音源の騒音を低減すべきか、という情報を得ることができる。また、特定の場所の騒音源からの騒音を除いた、各測定点の騒音量を見積もることができる。ここでいう音源分離技術は、例えばビームフォーミング技術である。
【0065】
「処理4:騒音源の稼働情報との相関をとる」は、騒音監視システム300の適用状況により実施されるか否かがが選択されるものである。
【0066】
以上の騒音観測データに、人工的な騒音源の稼働情報との相関を加えた分析が有効である。
【0067】
例えば工事機械が動作状態によって騒音を出す時とほとんど出さない時とがある場合、稼働状態の情報との相関を考慮すれば、それぞれの動作状態の騒音値(騒音、振動の量)が正しく評価され、騒音を出す時の騒音増加量が明確に示され得る。具体的な処理方法としては、例えば、音データは騒音源の稼働時と非稼働時に分けて評価される。
【0068】
もし、稼働状態の情報が無いと、騒音観測データの長時間平均値は騒音がある時とない時の平均値になってしまい正しく評価できない場合がある。また尖頭値がばらつき、騒音が出ているときの尖頭値を知ることが困難となる。人工的な騒音源の稼働情報を加えることは、騒音がある時とない時の強度差がはっきりしない時に特に有効である。
【0069】
騒音がある時とない時の強度差が明瞭な場合、例えばエアガンのようにインパルス的な騒音では、騒音源の稼働情報がなくても騒音自体から判別できる。その理由は、オシロスコープにおける自己トリガと同じ要領で、常時リングメモリに上書き保持することで、トリガの前の強度波形も評価に含めることができるためである。
【0070】
[出力処理]
図1の水中騒音情報処理装置120は、以上の分析結果を、のちに参照されるために、適宜、水中騒音情報処理装置120内もしくは外部に備えるデータベース等に記録する。
【0071】
ここで、騒音を表すオリジナル(各周波数帯に分ける前)のセンシングデータも、併せて記録されても構わない。オリジナルのセンシングデータは、例えば後に例えばオフラインで詳しく分析したい場合などに利用することができる。記録されるデータは、このような、用途や状況に応じた動作の細かな設定を可能にする仕様であることが望ましい。
【0072】
図1の水中騒音情報処理装置120は、例えば、外部からの指示情報に従い、これらの分析データおよび評価結果を出力する。当該出力に係る出力先は、例えば、外部のディスプレイ、プリンタ又は通信装置である。
【0073】
水中騒音情報処理装置120は、さらに次のような処理や機能を備えてもよい。その処理や機能は、例えば地図情報と組み合わせたマッピング可視化処理である。その処理や機能は、あるいは、例えばデータベースに蓄積した履歴を分析する機能である。これにより、例えば、騒音の長期的な変化の傾向の把握や、工事開始前後の比較などが可能となる。
【0074】
[外部システムとの連携による自動的な騒音抑制]
さらに水中騒音監視システム300は、規制値を超過したことを表示や通知するだけでなく、外部のシステムと連携して、現場の騒音量を規制値を下回る状態を維持する制御を行っても構わない。その場合、水中騒音情報処理装置120は、当該外部のシステムに対し、現場の騒音量を規制値を下回る状態を維持するための制御情報を送付する。
【0075】
当該制御は、例えば、ある海域の騒音規制の場合は、騒音が規制値以下となるように、船舶の速度を制限する、通行量を制限する、などの制御である。
【0076】
[効果]
本実施形態の水中騒音監視システムは、光ケーブルを水中音響センサとして用いるため、前述のように多数の騒音測定点を分布的に配置することが容易である。多数の測定点配置を容易にすることで、本実施形態の水中騒音監視システムは、多重反射や海底地形、底質などによって複雑に伝播する水中騒音の監視の労力を軽減する。また光ケーブルをセンサアレイとして使うことで、複数の騒音源を区別して監視することを容易化する。
【0077】
本実施形態の水中騒音監視システムは、水中音響センサに電子回路を要しないため絶縁不良障害が起きず、広範囲かつ長期に渡る監視網の維持を容易にする。
<第二実施形態>
第二実施形態は、水中騒音監視の目的で設置されたものではない光ケーブルを用いて水中騒音監視を行う実施形態である。以下、本実施形態の水中騒音情報処理装置120の第一実施形態のものと異なる点を主に説明する。
【0078】
[一般的な光ケーブルの騒音測定利用]
本実施形態の水中騒音監視システムの構成例は
図1に表される第一実施形態の水中騒音監視システム300と同じである。ただし、本実施形態の光ケーブル920は、通信や送電などの目的で用いられる一般的な光ケーブルである。
【0079】
また光ケーブル920は、光通信やケーブル式波浪計、ケーブル式海底地震計などの他の用途と兼用しても構わない。光ケーブル内に複数の光ファイバ心線を備えることで、また同一の光ファイバ心線の中であっても互いに波長を異ならせることで、騒音センシング機能を共存させることができる。
【0080】
光ケーブル920は水中騒音監視の目的で製造、設置されたものではないため、ケーブルの種類や被覆、設置方法などは様々である。そのため音センサとしての特性を確認し、取得した音データを可能な限りそれらの影響が取り除かれた信号に近づけるような補正処理を行うことが望ましい。
図1の水中騒音情報処理装置120は、その補正を、例えば
図4における処理1において行う。
【0081】
ここで、光ケーブルの種類や被覆の違いは、例えば送電用/通信用などによる断面構造の違い、保護被覆の構造の違い(外装鉄線の有無やその種類)などである。また、設置工法の違いは、例えば光ケーブルを海底表面に置くだけの工法や、海底に溝を掘って光ケーブルを埋める工法などの違いである。
【0082】
これらの違いにより、取得された音データには、特定の周波数域が減衰し又は強調される伝達関数(フィルタ関数)が掛かっているとみなすことができる。
【0083】
[センサ特性の不均一性:一義的な補正]
これらの光ケーブルの場所ごとの違いは、製造記録(例えばSLD:Straight Line Diagram)、施工記録(例えばRPL:Route Position List)を参照すれば分かるので、光ケーブル920の場所ごとにほぼ一義的に補正できる。具体的な補正方法は、例えばフィルタによる、特定の周波数帯の音データの振幅の増大である。
【0084】
[センサ特性の不均一性:測定点ごとの違いと校正]
設置されている光ケーブル920の各測定点のセンサ特性のばらつきの要因は、前述の施工記録などから一義的に決まる(推定できる)ものだけではない。例えば、一律の深さで埋設されているという施工記録であっても、実際は場所ごとに埋設深さがばらついていたり、被せていた土砂が部分的に流されて露出していることもある。
【0085】
この課題に対しては、現地に広範囲に伝わる音をリファレンス音として利用して校正する方法が考えられる。リファレンス音には、人工的な音の他、自然に生ずる音が利用されてよい。その場合、同じ音が光ケーブル920上の各測定点で観測されるので、水中騒音情報処理装置120は、それらが同一に近づくように、もしくは音源からの距離に応じた値に近づくように、各測定点ごとに補正係数を求める。
【0086】
またこの校正により、光ケーブル920上の各点の、目的とする騒音測定の適否も把握することが可能になる。当該適否は、例えば、ある点は感度が非常に低くて補正しきれない、またある点は特定の周波数帯で共鳴しやすく補正も難しい、などである。これら騒音測定にやや難のある測定点は、例えば、前後の測定点についての音データの移動平均と比べることで抽出できる。そしてこれら難のある測定点を、測定点の分布を意識しつつ除外して、ほぼ平均的な騒音測定が取得できていると思われる測定点からの音データを利用することで、監視精度を改善できる。
【0087】
以上、第二の実施形態で述べた補正処理は、騒音監視用に製造され、騒音監視用に設置された光ケーブルに対して行われてもよい。その場合、測定精度のさらなる改善が期待される。
【0088】
[効果]
本実施形態の水中騒音監視システムは、第一実施形態の水中騒音監視システムと同様の構成を備え、同様の効果を奏する。それに加え、本実施形態の水中騒音監視システムは、既設の通信用や送電用の光ケーブルに騒音監視の機能を付加する手段を提供する。これにより、本実施形態の水中騒音監視システムは、広い海域に渡る騒音監視網の構築を容易化する効果を奏する。
<第三実施形態>
第一及び第二の実施形態では、騒音の評価方法は、周波数帯ごとに分けた分析は行うものの、規制に適合しているかどうかは、そこに含まれる騒音の総量で評価するものである。これに対して第三実施形態は、第一及び第二の実施形態において行われる動作に加えて、個々の騒音源の分類処理を行う水中騒音情報処理装置120に関する実施形態である。以下、本実施形態の水中騒音情報処理装置120の第一及び第二の実施形態のものと異なる点を主に説明する。
【0089】
[取得された音データの音源を分類するニーズ]
所得された音データには、複数の音源からのものが含まれる。その音源には、人工的なものと自然由来のものとがある。それの中から注目する騒音を分類したのち評価したいニーズが存在する。
【0090】
例えば、騒音の総量規制から自然由来の騒音は除外して評価されるべきという考え方がある。自然由来の水中騒音には、海面の波浪騒音、波が岸に打ち寄せる騒音、海洋生物が発する音などがある。
【0091】
また、人工的な騒音であっても、発生要因ごとに分けたいニーズがある。例えば、杭打ち工事の騒音と、船の航行音(エンジン音、プロペラ音)を区別したいというニーズが存在する。さらには同種の騒音源であっても、個体を区別したいというニーズもある。
【0092】
水中騒音情報処理装置120が行う、音を区別するための特有の処理には大きく分けて次の3つがある。一つ目は、音を複数の測定点で捉えて、個々の測定点と音源との位置関係から音源を区別する処理である。さらに、音源の位置が固定的な場合と移動する場合とがあり、これらを区別する処理である。本実施形態では、音源の移動範囲も含めた広い範囲に音センサを分布的に配置することを容易化するので、いずれの処理も実施が容易となる。
【0093】
二つ目は、騒音源ごとの特徴を分類のキーとして特徴で区別する処理である。この区別処理には種類を区別するレベルのものと、同種の音源の中でも個体まで区別するレベルとがある。
【0094】
三つ目は、移動する音源について、移動モデルを用いて音源を追尾する処理である。
【0095】
[その1:音源と測定点との位置関係から区別]
ここでは、水中騒音情報処理装置120は、光ケーブル920上の各測定点の地理座標(水深を含む)は精度よく把握しており、測定点は音源の周囲に十分広く分布しているものとする。
【0096】
位置が不明の音源の数が1つであれば、ケーブル上の各測定点での音量や、音の到達時刻の差により、音源の位置を推定することが可能である。またアレイアンテナの要領で方向を絞ることができる。
【0097】
また、位置が明確な複数の音源があれば、各測定点で測定された音のどれがどの騒音源が出たものかを推定することができる。また、音源が移動していてもその位置が把握できるのであれば、同様に推定することができる。
【0098】
さらに、音源が移動するケースでは、後述する移動モデルに当てはめることで推定確度を高めることができる。
【0099】
また、第一の実施形態で述べたように、各音源の稼働情報があれば、より推定確度を高めることができる。
【0100】
[その2:音の特徴による区別]
ここでは、水中騒音情報処理装置120は、既知の原因の騒音それぞれに固有の特徴を、分類条件として予め保持しているものとする。水中騒音情報処理装置120は、その特徴により、騒音の種類を識別、分類する。分類条件に用いられる特徴は、例えば、騒音の周波数、周波数の時間変化、強度包絡線の時間変化などに存在する特徴である。水中騒音情報処理装置120は、分類の際の分類手法として、類比判定、パターン識別、機械学習などの技術を組み合わせて用いても良い。
【0101】
水中騒音情報処理装置120は、騒音の分類処理を、第一の実施形態で述べたような、周波数帯に分けた上で行うことがより望ましい。その場合、水中騒音情報処理装置120は、各帯域に分けられた音データそれぞれについて、既知の騒音に識別・分類する。水中騒音情報処理装置120は、これら複数の周波数帯の検知結果の組合せにより騒音の種類を分類してもよい。
【0102】
音データを周波数帯に分けたのちに分類することで、検知不要だが振幅が大きい種類の騒音と、測定すべき種類の騒音が同時に存在している場合に、それらを周波数帯で分離できる可能性がある。これにより、より信頼度の高い分類が可能となる。
【0103】
また周波数帯に応じてデータサイズが大きく異なるので、周波数帯ごとに分けた方がパターン識別などの演算処理がしやすくなるメリットもある。
【0104】
水中騒音情報処理装置120は、取得した音データの中に含まれる既知の騒音種類を分類条件に照らして分類し、各々ごとに強度の統計値を算出し、規制値に対する超過の有無を判定する。強度の統計値を算出して超過判定を行う処理は、第一の実施形態で述べたものと同じものである。
【0105】
騒音の分類条件は、光ケーブル920の設置状況などが異なっても、騒音を正しく分類できるように予め用意される。水中騒音情報処理装置120は、その分類を、例えば、光ケーブルの設置状況などに影響されにくい、個々の騒音の種類の特徴を見出して、それを基に行う。もし同一の騒音の種類が、光ケーブル920の設置状況などによって1つの分類条件では正しく分類できない場合には、水中騒音情報処理装置120は、例えば、複数の分類条件のいずれか1つで検知されるようにして、同一の騒音の種類に紐づける。
【0106】
これらの分類の精度を高めるためには、事前に、各種の騒音の事例データを多数入手して、特定の騒音にのみ存在する特徴を見つけ出して、分類条件とすることが有効である。もし事例データの数が十分でない場合は、騒音を模擬的に発生させて、その時の音・振動を、様々な状況に置かれた光ケーブル920で取得して、より信頼度の高い分類条件とすることが望ましい。
【0107】
例えば、杭打機が出す騒音の事例データは、打ち込み力の違いや海底土質の違いなど複数のケースについて採取される。また地震や雷音の事例データは、複数のケースについて採取される。そして、地震や雷音にはほとんど含まれず、杭打機が出す騒音には共通して見られる特徴が、分類条件とされる。
【0108】
[その3:移動する音源の識別・追尾]
航行する船のように騒音源が移動する場合、音を出す物体が移動しているモデルを水中騒音情報処理装置120に持つことで、水中騒音情報処理装置120は、音源を追尾することが可能になる。同一の音源が移動していることが仮定されることにより、音源が毎回新規に識別同定される場合よりも識別精度を高めることができる。また移動モデルから、音源の速度と進行方向の把握と、少し先の音データの予測が可能となる。
【0109】
一例として、船舶が光ケーブル920から少し離れた海域を進んでいる場合を考える。船がAISトランスポンダを搭載しており、AISから船の同定と位置情報が把握できれば、音源の移動モデルを維持更新することが容易である。またAISのような位置情報が参照できない場合も、音の特徴による個体識別ができれば、移動モデルに当てはめて音源を追尾することができる。
【0110】
水中騒音情報処理装置120は、船舶が進む際に発する騒音の特徴パターンを分類条件として予め備えているものとする。水中騒音情報処理装置120は、取得したRAWデータの中に船舶が進む際に生じる騒音の特徴パターンがあることを光ケーブル上の複数の個所で検知する。同様の検知が繰り返され、水中騒音情報処理装置120は、それらを移動モデルに当てはめて、当該船舶の速度と進行方向をおおよそ把握する。
【0111】
そして、移動モデルから次に検出される場所が予想できるので、同じ種類の騒音が予想地点付近で再び検出される可能性が高い。そのため、その騒音の種類の検出しきい値を下げるなどして、水中騒音情報処理装置120において生じる、新規に識別同定することで生じる誤分類の確率を下げることができる。また、水中騒音情報処理装置120が、次に検知されると予想される地点を、空間的・時間的により細かに調べるようにすることなども可能である。
【0112】
例えば、航行船舶の騒音を、船舶の移動モデルに当てはめて追尾できれば、水中騒音情報処理装置120は、大きな騒音を出しながら航行している船を特定でき、その船に対して改善を求めるなどを行うことも可能となる。
【0113】
この、同一音源の識別追尾の処理は、水中音に対してだけでなく、海底の地面を伝わってくる振動についても同様に行うことができる。
【0114】
[効果]
本実施形態の水中騒音監視システムは、第一及び第二実施形態の水中騒音監視システムと同様の構成を備え、同様の効果を奏する。それに加え、本実施形態の水中騒音監視システムは、騒音の種類を分類し、騒音の種類ごとに騒音規制値を超過しているか判定する。これにより、本実施形態の水中騒音監視システムは、騒音の種類ごとに騒音規制値が設定されている場合などにおける、騒音監視を容易化する。
【0115】
なお、以上説明した例では光ファイバを含む光ケーブルが海洋に設置される例で説明した。しかしながら、光ケーブルは、湾やカスピ海等の海洋以外の海、湖沼、川又は運河に設置されるものであっても構わない。その場合、実施形態の水中騒音監視システムは、海、湖沼、川又は運河の水の中に生息する水中騒音を監視する水中騒音監視システムである。
【0116】
図9は、実施形態の水中騒音監視システムの最小限の構成である水中騒音監視装置140xの構成を表すブロック図である。水中騒音監視装置140xは、処理部140axと出力部140bxとを備える。処理部140axは、水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における騒音又は振動を表すデータにより、前記データが取得された時刻及び場所における、前記騒音又は振動の量の統計値を導出する。出力部140bxは、前記統計値を出力する。
【0117】
水中騒音監視装置140xは、水中に設置される光ケーブルの光ファイバを利用して、水中騒音又は振動を監視するため、多数の騒音測定点を分布的に配置することが容易である。そのため、水中騒音監視装置140xは、前記構成により、[発明の効果]の項に記載した効果を奏する。
【0118】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の基本的技術的思想を逸脱しない範囲で更なる変形、置換、調整を加えることができる。例えば、各図面に示した要素の構成は、本発明の理解を助けるための一例であり、これらの図面に示した構成に限定されるものではない。
【0119】
また、前記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記述され得るが、以下には限られない。
(付記1)
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における騒音又は振動を表すデータにより、前記データが取得された時刻及び前記位置における、前記騒音又は振動の量の統計値を導出する、処理部と、
前記統計値を出力する、出力部と、
を備える、水中騒音監視装置。
(付記2)
前記統計値は、前記騒音又は振動の、振幅もしくは強度の、平均値もしくは尖頭値である、付記1に記載された水中騒音監視装置。
(付記3)
前記処理部は、取得した前記データのうち、前記騒音又は振動の源からの距離が、別途規定されている距離に対応する前記位置の前記データを用いて、前記統計値の導出を行う、付記1又は付記2に記載された水中騒音監視装置。
(付記4)
前記処理部は、前記統計値を、前記騒音又は振動の周波数帯ごとの前記量について算出する、付記1乃至付記3のうちのいずれか一に記載された水中騒音監視装置。
(付記5)
前記統計値から、前記騒音又は振動の量が設定値を超えたか否かについての判定を行う、判定部をさらに備える、付記1乃至付記4のうちのいずれか一に記載された水中騒音監視装置。
(付記6)
前記処理部は、前記データを、前記騒音又は振動の源の稼働情報により区別した上で、前記統計値を導出する、付記1乃至付記5のうちのいずれか一に記載された水中騒音監視装置。
(付記7)
前記光ファイバは光ケーブルに備えられ、前記処理部は、別途入力された前記光ケーブルの種類又は前記光ケーブルの設置工法に関する情報を基に、前記量から、前記光ケーブルの種類又は前記光ケーブルの設置工法の違いによる感度への影響を低減する処理を行う、付記1乃至付記6のうちのいずれか一に記載された水中騒音監視装置。
(付記8)
前記光ファイバは光ケーブルに備えられ、前記処理部は、前記光ケーブルの広範囲に伝わるリファレンス音を用いて、前記量の前記データが取得された位置の差異の程度を取得し、前記差異の程度の情報に基づき、前記量から、前記データが取得された位置による感度の差異を低減する処理を行い、又は、前記量を取得する位置を選択する、付記1乃至付記6のうちのいずれか一に記載された水中騒音監視装置。
(付記9)
前記処理部が前記データから取得した前記騒音又は振動の特徴から、前記騒音又は振動の源の種類又は位置を特定する源特定部をさらに備える、付記1乃至付記8のうちのいずれか一に記載された水中騒音監視装置。
(付記10)
前記源特定部は、前記源の前記特定を、別途入力された前記源の位置の候補と前記データが取得された位置とから行う、付記9に記載された水中騒音監視装置。
(付記11)
前記処理部は、前記データから、前記騒音又は振動の源の位置を推定して監視する、付記1乃至付記10のうちのいずれか一に記載された水中騒音監視装置。
(付記12)
前記処理部は、前記光ファイバの複数の位置で検出された前記騒音又は振動を、センサアレイ出力として用いて、複数の前記源を空間的に分離して監視する、付記11に記載された水中騒音監視装置。
(付記13)
前記処理部は、移動する前記騒音又は振動の源を、移動モデルに当てはめて追尾して監視する、付記1乃至付記12のうちのいずれか一に記載された水中騒音監視装置。
(付記14)
前記処理部は、前記量が前記設定値を下回るように制御する制御情報を、外部システムに送付する、付記5に記載された水中騒音監視装置。
(付記15)
前記光ファイバは光ケーブルに備えられ、光ファイバ心線を分ける、もしくは、波長を分けることにより、前記光ケーブルを他の用途と共用する、付記1乃至付記6のうちのいずれか一に記載された水中騒音監視装置。
(付記16)
前記光ファイバにより前記データを取得し、取得した前記データを前記処理部へ送付する、データ取得部をさらに備える、付記1乃至付記15のうちのいずれか一に記載された水中騒音監視装置。
(付記17)
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における騒音又は振動を表すデータにより、前記データが取得された時刻及び前記位置における、前記騒音又は振動の量の統計値を導出し、
前記統計値を出力する、
水中騒音処理方法。
(付記18)
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における騒音又は振動を表すデータにより、前記データが取得された時刻及び前記位置における、前記騒音又は振動の量の統計値を導出する処理と、
前記統計値を出力する処理と、
をコンピュータに実行させる水中騒音処理プログラム。
(付記19)
前記処理部は、前記位置を地理座標に結び付ける、付記1に記載された水中騒音監視装置。
(付記20)
前記処理部は、検出対象の音が含まれていない部分を除外した後に前記騒音又は振動の分類を行う、付記1に記載された水中騒音監視装置。
(付記21)
前記処理部は、前記源の付近から発せられた音が各測定点までの到達する時間により、前記源と各測定点との間の距離を求める、付記9に記載された水中騒音監視装置。
【0120】
ここで、付記における、「光ファイバ」は、例えば、
図1の光ファイバ200、又は、
図2の光ケーブル920が備える光ファイバである。また、「位置」は、例えば、前述の測定点である。また、「騒音及び振動を表すデータ」は、例えば、前述の音データ又はRAWデータである。
また、「処理部」は、例えば、
図1の水中騒音情報処理装置120、又は、
図7の処理部120axである。また、「出力部」は、例えば、
図1の水中騒音情報処理装置120における
図4の処理6の結果を出力する部分、又は、
図7の出力部120bxである。また、「水中騒音監視装置」は、例えば、
図1の水中騒音情報処理装置120、又は、
図7の水中騒音監視装置140xである。また、「光ケーブル」は、例えば、
図2の光ケーブル920である。また、「データ取得部」は、例えば、
図1のインテロゲーター100である。
【0121】
また、前記水中騒音監視システムは、例えば、
図1の水中騒音監視システム300である。また、前記コンピュータは、例えば、
図1の水中騒音情報処理装置120が備えるコンピュータである。また、前記水中騒音監視プログラムは、前記コンピュータに処理を実行させるプログラムである。
【0122】
以上、上述した実施形態を模範的な例として本発明を説明した。しかしながら、本発明は、上述した実施形態には限定されない。即ち、本発明は、本発明のスコープ内において、当業者が理解し得る様々な態様を適用することができる。
【0123】
この出願は、2020年8月13日に出願された日本出願特願2020-136553を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0124】
100 インテロゲーター
101 取得処理部
103 光源部
104 変調部
105 検出部
120 水中騒音情報処理装置
120ax 処理部
120bx 出力部
140、140x 水中騒音監視装置
200、201、202 光ファイバ
211 光カプラ
300 水中騒音監視システム
920 光ケーブル