(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】複合繊維、マルチフィラメントおよび繊維製品
(51)【国際特許分類】
D01F 8/14 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
D01F8/14 B
(21)【出願番号】P 2022572392
(86)(22)【出願日】2022-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2022043081
(87)【国際公開番号】W WO2023095764
(87)【国際公開日】2023-06-01
【審査請求日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2021189921
(32)【優先日】2021-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 知彦
(72)【発明者】
【氏名】増田 正人
(72)【発明者】
【氏名】中道 慎也
(72)【発明者】
【氏名】稲田 康二郎
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-098907(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110523(WO,A1)
【文献】特開2008-013887(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142718(WO,A1)
【文献】特開2013-174039(JP,A)
【文献】特開平11-093021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00- 8/18
D02G 1/00- 3/48
D03D 1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維横断面において、
分子量分布における高分子量成分と低分子量成分の分子量の差が5,000
~30,000の2種のポリエステルからなり、高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われており、
前記低分子量成分の最小厚みS
min
の繊維径Dに対する比S
min
/Dが0.01~0.1であり、前記高分子量成分の配向パラメータが1.5~3.0、結晶化度が0~40%であることを特徴とする複合繊維。
【請求項2】
前記高分子量成分が、第三成分の共重合率が
0モル%以上5モル%未満のポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1に記載の複合繊維。
【請求項3】
繊維横断面において、
分子量分布における高分子量成分と低分子量成分の分子量の差が5,000
~30,000の2種のポリエステルからなり、高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われており、
前記低分子量成分の最小厚みS
min
の繊維径Dに対する比S
min
/Dが0.01~0.1であり、前記高分子量成分の配向パラメータが5.0~15.0、結晶化度が20~50%である複合繊維からなることを特徴とするマルチフィラメント。
【請求項4】
繊維横断面において
、繊維全体の周長に対す
る低分子量成分の薄皮部の比率が30
~70%である複合繊維からなることを特徴とする請求項3に記載のマルチフィラメント。
(低分子量成分の薄皮部)
繊維外周上の前記低分子量成分における繊維中心方向への厚みが、繊維断面の面積を真円換算して求められる繊維径の0.01~0.1倍となる部分を表す。
【請求項5】
捲縮発現率が10
~80%であることを特徴とする請求項3に記載のマルチフィラメント。
【請求項6】
弾性率が30
~100cN/dtexであることを特徴とする請求項3に記載のマルチフィラメント。
【請求項7】
請求項3~6のいずれか一項に記載のマルチフィラメントが一部に含まれる繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸加工に適した複合繊維、衣料用テキスタイルに適したマルチフィラメント、およびマルチフィラメントを含む繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルやポリアミドなどからなる合成繊維は優れた力学特性や寸法安定性を有しているため、衣料用途から非衣料用途まで幅広く利用されている。
【0003】
人々の生活が多様化し、より快適な生活を求めるようになった昨今においては、身の回りにある繊維製品に更なる高機能化を求めるようになり、特に、人々が身にまとう衣料においては、高度な触感や機能を有する繊維が求められている。
【0004】
着用快適性を備えた高機能衣料に用いられる、より着心地の良い触感や快適な機能を有する繊維として、異なるポリマーが接合された断面を有する複合繊維からなるマルチフィラメントを用いる方法が提案されている。
【0005】
該複合繊維は、ポリマー間の熱収縮差により捲縮を発現させることで、適度な反発性やストレッチ性などの着用快適性にかかわる機能を発現するものであるが、テキスタイルとした際には、マルチフィラメントにおける複合繊維毎の捲縮形態が均質なものになることによって外観や風合いに乱れのない、均一なテキスタイルになる傾向にある。
【0006】
一方、衣料用テキスタイルにおいては、天然素材の有する適度なムラ感を有したテキスタイルが好まれる傾向にある。古くから衣料用テキスタイルに多く使用されてきた羊毛(ウール)、綿(コットン)、絹(シルク)などの天然素材の持つ風合いや機能は非常にバランスに優れたものであり、ムラ感を有した外観や触感が人間に魅力や高級感を与えるのである。
【0007】
天然素材の触感や外観を合成繊維で実現する試みは古くから取り組まれており、合成繊維を複合繊維毎に異なる不均一な形態に変化させることで、得られる触感や風合いを複雑にする糸加工技術が提案されている。
【0008】
汎用樹脂であるポリエステルは、その基本特性が天然繊維の特性に近いことから、このポリエステル繊維を用いた様々な取り組みが存在し、ストレッチによる着用快適性と、天然繊維に近い外観や触感を両立することを狙いとして、2種類のポリエステル繊維を左右に貼り合わせた複合繊維技術と、繊維束の形態を制御することを目的とした糸加工技術を組み合わせる技術が種々提案されている。
【0009】
特許文献1では、2種の粘度が異なるポリエステルが接合された複合繊維に延伸同時仮撚加工を施すことで、延伸時に高粘度側が高収縮、低粘度側が低収縮となることで発現する収縮差による捲縮と仮撚加工により付与された機械捲縮が相まった多重捲縮形態となり、製編織した際には、ストレッチ性、反発性、ドレープ性、ソフト感などの機能性や風合いが向上した布帛が得られるとしている。
【0010】
また特許文献2では、2種の粘度が異なるポリエステルをサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に紡糸して一旦巻き取り、次いで自然延伸倍率を越えない範囲の延伸倍率で不均一延伸加工を施し、太細を有するマルチフィラメントとすることで、該マルチフィラメントを用いた布帛は、ナチュラルスパナイズドタッチ、繊細な梳毛感、深みのあるナチュラル外観といった高感性と、ストレッチ性といった機能性をも兼ね備えた梳毛調布帛が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】日本国特開平10-72732号公報
【文献】日本国特開2003-328248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1、2のように、2種の粘度が異なるポリエステルが接合された複合繊維を紡糸して一旦巻き取り、次いで延伸を伴う糸加工を施すことで、ポリエステル由来の高弾性と捲縮発現により得られる適度な反発性やストレッチ性といった着用快適性と、糸加工による繊維形態変化で得られる特異的な触感や風合いを両立できる可能性がある。
【0013】
しかしながら、特許文献1は、延伸同時仮撚加工を施すために、2500~3000m/分で高速紡糸した複合繊維を用いる技術である。特許文献1のような高速紡糸では、粘度によっては高粘度成分が不必要に結晶化してしまうことで、高粘度成分と低粘度成分の収縮差が生まれなくなる場合があり、糸加工後に、収縮差による捲縮が発現できない場合があった。
【0014】
一方、特許文献2では、特許文献1と比べてやや低速度な1000~2500m/分で巻き取った複合繊維を利用している。しかしながら、特許文献2では、分子鎖の配向がほとんど進行しておらず、糸加工条件を狭い範囲で制御しないと、捲縮が発現しづらい場合があったり、繊維構造が十分に発達していないことで、糸加工時の擦過で工程通過中の糸切れや毛羽が頻発する等の加工糸やテキスタイルの品位を低下させる場合があった。
【0015】
本発明の目的は上記した従来技術の問題点を解消し、複合繊維に用いるポリマーと、該複合繊維の繊維軸と垂直方向における複合断面の制御により、紡糸時に形成される繊維構造を特定の範囲とすることで、加工条件に制約がなく、加工後には良好な捲縮発現が可能な糸加工に適した複合繊維、および布帛とした際に良好な反発性やストレッチ性といった着用快適性を有した衣料用テキスタイルに適したマルチフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的は、以下の手段によって達成される。すなわち、
(1)繊維横断面において、分子量の差が5,000以上の2種のポリエステルからなり、高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われており、前記高分子量成分の配向パラメータが1.5~3.0、結晶化度が0~40%であることを特徴とする複合繊維、
(2)前記高分子量成分が、第三成分の共重合率が5モル%未満のポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする(1)に記載の複合繊維、
(3)繊維横断面において、分子量の差が5,000以上の2種のポリエステルからなり、高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われており、前記高分子量成分の配向パラメータが5.0~15.0、結晶化度が20~50%である複合繊維からなることを特徴とするマルチフィラメント、
(4)繊維横断面において、前記低分子量成分の薄皮部の最小厚みSminと繊維径Dの比Smin/Dが0.01~0.1であり、かつ繊維全体の周長に対する前記低分子量成分の薄皮部の比率が30%以上である複合繊維からなることを特徴とする(3)に記載のマルチフィラメント、(5)捲縮発現率が10%以上であることを特徴とする(3)または(4)に記載のマルチフィラメント、
(6)弾性率が30cN/dtex以上であることを特徴とする(3)~(5)のいずれか一に記載のマルチフィラメント、
(7)(3)~(6)のいずれか一に記載のマルチフィラメントが一部に含まれる繊維製品、
である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態の複合繊維は、ポリマーと複合断面を制御することで、紡糸時に形成される繊維構造が特定の範囲となり、加工条件に制約がなく、加工後にはポリエステル由来の高弾性と良好な捲縮発現が可能なマルチフィラメントを得ることができる。
【0018】
また、本発明の一実施形態のマルチフィラメントは、ポリマーと複合断面を制御することで、製糸時に形成される繊維構造が特定の範囲となり、ポリエステル由来の高弾性と良好な捲縮発現が可能となることから、布帛とした際には適度な反発性やストレッチ性といった着用快適性を有した衣料用テキスタイルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態の複合繊維及びマルチフィラメントにおける横断面構造の一例の概略図である。
【
図2】
図2の(a)、(b)は、本発明の一実施形態の複合繊維及びマルチフィラメントにおける横断面構造の一例の概略図である。
【
図3】
図3の(a)、(b)は、従来の複合繊維における横断面構造に係る図であって、
図3の(a)はサイドバイサイド断面の一例の概略図、
図3の(b)は偏心芯鞘断面の一例の概略図である。
【
図4】
図4は、実施例5の複合繊維及びマルチフィラメントにおける横断面構造の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態の複合繊維は、繊維横断面において、分子量の差が5,000以上の2種のポリエステルからなり、高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われており、前記高分子量成分の配向パラメータが1.5~3.0、結晶化度が0~40%である。
また、本発明の一実施形態のマルチフィラメントは、繊維横断面において、分子量の差が5,000以上の2種のポリエステルからなり、高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われており、前記高分子量成分の配向パラメータが5.0~15.0、結晶化度が20~50%である複合繊維からなる。
以下、本発明について望ましい実施形態と共に詳述する。
【0021】
分子量が異なる2種のポリエステルが接合された複合繊維において、優れた糸加工性やこれらの工程通過性を満足するものとするには、高速紡糸等することによって分子鎖を配向させ、繊維強度や耐熱性を向上する必要がある。一方で、高速紡糸された複合繊維では高分子量成分と低分子量成分の収縮差が小さくなることで、この収縮差に起因して発現する捲縮が良好に発現しないという糸加工性と捲縮性を両立できない、トレードオフの関係にあった。
【0022】
このような高速紡糸で得られる複合繊維の繊維構造を分析すると、紡糸速度が大きいほど高分子量成分が高結晶化度となり、それに伴い延伸後の高分子量成分の収縮挙動は低収縮となることが分かる。これは、繊維構造が高結晶化度であると、分子鎖が結晶で拘束される確率が高くなり、熱処理時の分子鎖の配向緩和が阻害されることが低収縮となる要因と考えられる。このため、高速紡糸で得られた複合繊維では、高分子量成分と低分子量成分間での収縮差が小さくなり、良好な捲縮発現が達成されないと考える。
【0023】
そこで、高速紡糸における高分子量成分の高配向と低結晶化度を両立することを目的に本発明者らが鋭意検討した結果、2種の分子量が異なるポリエステルにおいて、高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われた断面とすることで、高分子量成分が高配向でありながら、結晶化度を抑制できることを発見した。さらに、高速紡糸ではその現象が顕著になることを見出し、従来のサイドバイサイド断面や偏心芯鞘断面では得ることが難しかった糸加工性に優れ、かつ糸加工後には良好な捲縮発現が可能な複合繊維を達成することに成功したのである。
【0024】
すなわち、繊維表面に高分子量成分が露出した従来のサイドバイサイド断面や偏心芯鞘断面では、紡糸において口金からポリマーを吐出する際に、口金内の吐出孔壁面から高分子量成分が受ける流動抵抗が大きく、分子鎖の変形により過剰に結晶核が生成する。この過剰な結晶核の生成により、紡糸時の巻取や糸加工時の延伸で高応力が加わった際には、配向結晶化が進行して高結晶化度になる場合がある。
【0025】
一方で、吐出孔壁面と高分子量成分との間に低分子量成分を被膜することで、最も流動抵抗の大きい壁面付近が滑りやすくなり、流動全体にかかる流動抵抗が低下する栓流効果が生まれる。この栓流効果を利用したことが本願発明の技術ポイントであり、これによって高分子量成分の流動抵抗が低減でき、過剰な結晶核生成が抑えられることで、紡糸時に高応力のかかりやすい高速紡糸においても、高分子量成分の高配向と低結晶化度の両立を実現したことが本発明の根幹をなしている。
【0026】
この着想に基づいて本発明は、組み合わせるポリマーの分子量差が大きいほど、その効果を発揮し、本願発明の目的を達成するという観点では、繊維横断面において、分子量の差が5,000以上の2種のポリエステルからなり、高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われていることが重要となる。
【0027】
なお、本発明における分子量とは、チップまたは繊維3mgに溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノール5mLを加え、室温で緩やかに攪拌し、その後、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置として昭和電工製「RI-104型」を用いて、標準試料を単分散ポリメチルメタクリレート(PMMA)として求め分子量分布から算出した重量平均分子量Mwを意味する。なお、複合繊維をサンプルとして測定を行い、分子量分布においてダブルピークが得られた場合には、低分子量側のピーク値を低分子量成分の分子量、高分子量側のピーク値を高分子量成分の分子量とする。
【0028】
本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントにおいて、糸加工後や布帛形成後に良好な捲縮を発現し、適度な反発性やストレッチ性といった着用快適性を有した衣料用テキスタイルを得るには、繊維横断面において、分子量の差が5,000以上の2種のポリエステルからなることが必要となる。
【0029】
分子量の差が5,000以上となると、紡糸・延伸工程においてそれぞれの成分にかかる応力に差が生まれ、高分子量成分では高応力がかかることで高配向となり、低分子量成分では低応力がかかることで低配向となる。その後、熱処理を施した際には配向緩和量の違いにより収縮差が生まれて、繊維が高収縮である高分子量成分側に大きく湾曲した捲縮形態を発現できるのである。
【0030】
さらに、本願発明においては、組み合わせるポリマーの分子量差が大きくなると、収縮差が大きくなり、より良好な捲縮を発現できるのである。これにより、布帛とした際のストレッチ性も高まることから、本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントにおける分子量の差としては7,500以上とすることがより好ましく、さらに10,000以上とすれば、高捲縮により繊維間での空隙が生まれ、布帛とした際のふくらみや反発性も向上できることから、特に好ましい範囲として挙げられる。
【0031】
また、捲縮発現の観点からは分子量差を大きくするほど好ましい一方、低分子量成分が過剰に低配向となることで強度や耐熱性に劣り、糸加工や布帛形成工程において糸切れや毛羽が頻発する場合があることから、分子量差の実質的な上限は30,000となる。
【0032】
高分子量成分の分子量としては20,000以上であることが好ましい。係る範囲とすれば、分子鎖が長いことで分子鎖同士が適度に絡み合い、絡み合いが起点となった配向が促進されやすく、高分子量成分の高配向化が容易になる。さらに25,000以上とすれば、より高配向となることで、繊維の弾性率も高まり、布帛とした際の反発性も向上することから、より好ましい範囲として挙げられる。また、分子量が大きくなると配向の観点では好ましい一方、吐出孔内における流動抵抗が大きくなることで、配向結晶化が進行して低収縮となることから、高分子量成分の分子量の実質的な上限は50,000となる。
【0033】
本発明の一実施形態の複合繊維及びマルチフィラメントを構成するポリマーとしては、テキスタイルに仕立てた際に、高弾性から適度な反発性が得られるという本願発明を達成するという観点、および染色した際に良好な発色性が得られるという観点では、主鎖中に存在する結合がエステル結合であるポリエステルの中から選択することが重要となる。
【0034】
本発明における高分子量成分/低分子量成分の2種のポリエステルの組合せとしては、例えばポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート/ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル系エラストマー/ポリエチレンテレフタレートなどの種々の組み合わせが挙げられるが、剥離を抑制して糸加工時の安定性や布帛に使用耐久性を付与するという観点からすると、ポリマーの組合せとしては、主鎖が同じ組成のポリエステル同士を組合せることが好ましく、さらに、高い弾性率を有し、より反発性を高めることができるという観点からは、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレートまたは共重合ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレートの組合せとすることが、特に好ましい範囲として挙げられる。
【0035】
また共重合ポリエチレンテレフタレートにおける共重合成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられるが、共重合成分による高収縮化の効果を得つつ、高速紡糸の際の配向が阻害されずに高配向化できるという観点から、上記共重合成分、すなわち、ポリエチレンテレフタレートを構成するモノマー以外の第三成分の共重合率は5モル%未満とすることが好ましい。さらに、第三成分の共重合率を3モル%未満とすれば、ポリエチレンテレフタレートの有する高弾性特性も維持できることで、熱処理で発現した捲縮形態を伸縮しても元の形態に回復しやすくなることから、より好ましい範囲として挙げられる。
【0036】
すなわち、高分子量成分が、第三成分の共重合率が5モル%未満のポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0037】
また、酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤をポリマー中に含んでいてもよく、特に酸化チタンを1.0wt%以上含有すれば、繊維表面の酸化チタンが光を乱反射することで、光の入射角による反射の増減に起因する外観ムラ(ギラツキ)を抑制できるといった外観品位の良化のみならず、繊維内部の酸化チタンにより防透けや紫外線遮蔽といった機能性も得られるため、より好ましい範囲として挙げられる。
【0038】
環境負荷低減という観点で、本発明においても植物由来のバイオポリマーやリサイクルポリマーを用いることは好適なことであり、本発明においては、上記したポリマーは、ケミカルリサイクル、マテリアルリサイクルおよびサーマルリサイクルのいずれの手法で再資源化されたリサイクルポリマーを用いることができる。バイオポリマーやリサイクルポリマーを用いる場合にも、ポリエチレンテレフタレートはそのポリマー特性として、本発明の特徴を顕著化することができることから、リサイクルポリエチレンテレフタレートが好適に用いることができる。
【0039】
本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントにおいて、高分子量成分の高配向と低結晶化度の両立を実現し、熱処理により良好な捲縮を発現するには、繊維横断面において、高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われている必要がある。
【0040】
高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われていることで、紡糸において口金からポリマーを吐出する際に、口金内の吐出孔壁面と高分子量成分との間に低分子量成分が被膜され、最も流動抵抗の大きい壁面付近が滑りやすくなり、流動全体にかかる流動抵抗が低下する栓流効果が生まれる。これにより、高分子量成分の流動抵抗が低減でき、過剰な結晶核生成が抑えられることで、高分子量成分の高配向と低結晶化度の両立を実現できるのである。
【0041】
また本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントにおける複合断面としては、高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われていればよく、
図1、
図2の(a)、(b)のような偏心芯鞘型の他にも、海島型やブレンド型などが挙げられるが、栓流効果を得つつ、収縮差による捲縮を最大限発現できるという観点からすると、
図1、
図2の(a)、(b)に示すような、鞘成分の薄皮部分が精密に制御された偏心芯鞘断面とすることが好ましい。
ここで、本発明で言う偏心とは、繊維横断面において、高分子量成分の重心点が繊維断面の中心と異なっていることを意味する。
【0042】
本発明においては、高分子量成分(
図1のA)の重心点(
図1のa)と繊維断面の中心(
図1のc)が離れていることが重要であり、これにより熱処理後に繊維が高収縮である高粘度成分側に大きく湾曲することになる。このため、繊維が繊維軸方向に湾曲し続けることにより、3次元的なスパイラル構造となり、良好な捲縮発現を達成できるのである。
【0043】
加えて、本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントを製造する際に、分子量差の大きいポリマーの溶融体を複合流として口金から紡出すると、吐出後の流動抵抗差から、高分子量ポリマーが低分子量ポリマー側に湾曲する糸曲がりが発生し、口金下面に接触あるいは別箇所から紡出した複合流に干渉して糸切れの原因となるが、栓流効果により高分子量成分の流動抵抗が低減されることで、糸曲がりが抑制でき安定製糸が可能となることからも、やはり好ましい範囲といえる。
【0044】
また、本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントにおいて、繊維全体の周長に対する低分子量成分の薄皮部の比率が30%以上であることが好ましい。これは、繊維の輪郭に沿って高分子量成分が存在していることを意味しており、繊維断面において高分子量成分の重心点と繊維断面の中心の距離が最大化することからより良好な捲縮を発現できる。さらに、高分子量成分の重心点と繊維断面の中心を最大化でき、収縮差による捲縮発現のポテンシャルを最大限に発揮するためには上記比率が40~70%であることがより好ましく、さらに好ましくは50~60%である。
【0045】
ここで、本発明で言う低分子量成分の薄皮部とは、繊維外周上の低分子量成分における繊維中心方向への厚み(
図1のS)が、繊維断面の面積を真円換算して求められる繊維径の0.01~0.1倍となる部分を意味する。
【0046】
また本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントにおいて、高分子量成分(
図1のA)を覆っている低分子量成分(
図1のB)の薄皮部の最小厚みS
minと繊維径Dの比S
min/Dが0.01~0.1であることが好ましい。係る範囲とすることで、高分子量成分の重心点と繊維断面の中心が離れることから、収縮差による捲縮を最大限発現することができるのである。さらにS
min/Dを0.02~0.08とすれば、収縮差による捲縮を最大限発揮しつつ、繊維や布帛に摩擦や衝撃が加わっても、耐摩耗性に劣る高分子量成分起因の白化現象や毛羽立ちなどが生じることなく、糸加工安定性や布帛品位を保つことができるため、より好ましい範囲として挙げられる。
【0047】
すなわち、本発明の一実施形態のマルチフィラメントは、繊維横断面において、低分子量成分の薄皮部の最小厚みSminと繊維径Dの比Smin/Dが0.01~0.1であり、かつ繊維全体の周長に対する低分子量成分の薄皮部の比率が30%以上である複合繊維からなることが好ましい。
【0048】
本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントにおいては、低分子量成分の薄皮部全体に対して薄皮部の厚みS(
図2の(a)、(b)のS)と繊維径D(
図2の(a)、(b)のD)の比S/Dが0.05~0.10となる部分の比率が5~70%であることが好ましい。S/Dが0.05以上の部分が5%以上存在することで、高分子量成分への栓流効果を発揮しつつ、S/Dが0.05未満となる部分が30%以上の比率を占めていることで、高分子量成分の重心点と繊維断面の中心が離れることから、収縮差による捲縮を最大限発現することができるのである。
【0049】
さらに、紡糸時に高応力のかかりやすい高速紡糸においても、栓流効果を十分に発揮するためには、薄皮部全体に対する薄皮部の厚みSと繊維径Dの比S/Dが0.05~0.10となる部分の比率が10~60%であることがより好ましく、さらに好ましくは15~50%である。
【0050】
また、低分子量成分の薄皮部全体に対して薄皮部の厚みSと繊維径Dの比S/Dが0.05~0.10となる部分の比率が5~70%である断面としては、例えば
図2の(a)のような薄皮部の厚みSが繊維外周上で交互に変化する凹凸構造、
図2の(b)のような薄皮部の厚みSが繊維外周上で徐々に変化する傾斜構造などが挙げられるが、栓流効果をより効果的に発現できるという観点からは、
図2の(a)のような薄皮部の厚みSが繊維外周上で交互に変化する構造とすることが好ましい。
【0051】
本発明における低分子量成分の薄皮部の最小厚みSminと繊維径Dの比Smin/D、繊維全体の周長に対する低分子量成分の薄皮部の比率、および低分子量成分の薄皮部全体に対する薄皮部の厚みSと繊維径Dの比S/Dが0.05~0.10となる部分の比率は、以下に示す方法で求めることができる。なお、複合繊維が繊維軸方向に延伸部と未延伸部を有している場合には、延伸部のみを選択して評価する。
【0052】
まず、複合繊維をエポキシ樹脂などの包埋剤にて包埋した後、この横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で10本以上の繊維が観察できる倍率として画像を撮影し、複合断面を観察する。この際、金属染色を施すとポリマー間の染め差ができることを利用して、複合断面の接合部のコントラストを明確にする。撮影された画像の複合断面が
図1または
図2の(a)、(b)に示すような偏心芯鞘断面であった場合には、各画像から同一画像内で無作為に抽出した10本の複合繊維について、
図1または
図2の(a)、(b)の符号「S」のような繊維外周上の低分子量成分における繊維中心方向への厚みが、繊維断面の面積を真円換算して求められる繊維径の0.01~0.1倍となる部分の周長を求め、繊維全体の周長で割り返して100をかけた値をそれぞれ算出し、これらの単純な数平均を求め、小数点第1位を四捨五入した値を「繊維全体の周長に対する低分子量成分の薄皮部の比率(%)」とする。
【0053】
また前記10本の複合繊維において、薄皮部の厚みSの最小値を、繊維の面積を測定して真円換算で求められる直径をμm単位で小数点1桁目まで測定して求めた繊維径Dの値で割り返した値をそれぞれ算出し、これらの単純な数平均を求め、小数点第3位を四捨五入した値を、「低分子量成分の薄皮部の最小厚みSminと繊維径Dの比Smin/D」とする。
【0054】
また、前記10本の複合繊維において、薄皮部の厚みSの値を、繊維の面積を測定して真円換算で求められる直径をμm単位で小数点1桁目まで測定して求めた繊維径Dの値で割り返し、小数点第3位を四捨五入することで得られる、薄皮厚みSと繊維径Dの比S/Dが0.05~0.10となる部分の周長を求め、薄皮部全体の周長で割り返して100をかけた値をそれぞれ算出し、これらの単純な数平均を求め、小数点第1位を四捨五入した値を、「低分子量成分の薄皮部全体に対する薄皮部の厚みSと繊維径Dの比S/Dが0.05~0.10となる部分が占める比率(%)」とする。
【0055】
本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントにおける複合断面内の高分子量成分と低分子量成分の面積比としては、高分子量成分/低分子量成分が70/30~30/70の範囲であることが好ましい。かかる範囲であれば、高分子量成分の重心点と繊維断面の中心が十分に離れることで、収縮差による捲縮を十分に発現することができる。
【0056】
本発明の一実施形態の複合繊維においては、高速紡糸においても高分子量成分の高配向と低結晶化度が両立できることで、従来のサイドバイサイド断面等では得ることが難しかった糸加工性に優れ、かつ糸加工後には良好な収縮差による捲縮発現が達成できることから、高分子量成分の配向パラメータが1.5~3.0、結晶化度が0~40%であることが重要となる。
【0057】
ここで、本発明でいう高分子量成分の配向パラメータとは、レーザーラマン分光法にて、繊維縦断面における高分子量成分にレーザーを照射し、繊維軸と平行および垂直方向の偏光方位で測定を行い、それぞれで得られるラマンスペクトルから、C=Cの伸縮振動モードに帰属される1615cm-1付近のラマンバンドの強度(平行:I1615平行、垂直:I1615垂直)を求め、その比I1615平行/I1615垂直を算出し、小数点第2位で四捨五入した値とする。なお、無配向の場合、配向パラメータは1となる。また、繊維が繊維軸方向に延伸部と未延伸部を有している場合には、延伸部のみを選択して評価する。
【0058】
また、本発明でいう高分子量成分の結晶化度は、以下のようにして求められる。すなわち、レーザーラマン分光法にて、繊維縦断面における高分子量成分にレーザーを照射し、繊維軸と平行する偏光方位で測定を行い、C=Oの伸縮振動モードに帰属される1730cm-1付近のラマンバンドの半値全幅(Δν1730)を求め、下記の式(1)に代入して得られた値を密度ρとする。さらに求めた密度ρを下記の式(2)に代入して得られた値について、小数点第1位で四捨五入した値を、結晶化度(%)とする。なお、ポリエチレンテレフタレートの結晶化度を求める場合は、完全非晶の密度を1.335g/cm3、完全結晶の密度を1.455g/cm3として計算する。また、繊維が繊維軸方向に延伸部と未延伸部を有している場合には、延伸部のみを選択して評価する。
密度ρ(g/cm3)=(305-Δν1730)/209・・・式(1)
結晶化度(%)=100×(ρ-完全非晶の密度)/(完全結晶の密度-完全非晶の密度)
・・・式(2)
【0059】
ポリエステルからなる繊維においては、紡糸時において高速で巻き取ることで繊維の配向が高まって繊維強度が向上し、加工時の擦過等で糸切れのない良好な糸加工性が得られるのみならず、繊維が十分に配向されていることで経時変化が少なく、複合繊維を1ヶ月以上保管した後の糸加工でも良好な加工通過性が得られる。
【0060】
特に分子量の異なる2種のポリエステルからなる繊維の場合は、高応力が掛かり高配向化しやすい高分子量成分の配向パラメータが繊維強度に強い影響を及ぼすことになることから、本発明の一実施形態の複合繊維においては、高分子量成分の配向パラメータを1.5以上とする必要があり、係る範囲とすることで、経時変化が少ないことから取扱い性に優れ、仮撚加工などの糸加工において良好な加工通過性を得ることができるのである。さらに配向パラメータを2.0以上とすれば、糸加工後の配向も高まることで、収縮差による捲縮発現をより高めることができるのみならず、延伸前の耐熱性も向上することから、不均一延伸加工などの糸加工で未延伸部が発生し、高温のヒーターに接触しても、融着による毛羽や糸切れがない優れた加工通過性を得ることができ、特に好ましい範囲として挙げることができる。
【0061】
一方、配向パラメータが高くするには、紡糸時の巻取速度をより高速にする必要があり、これにより紡糸時の安定性が損なわれる場合もあることから、本発明における配向パラメータの上限は3.0となる。
【0062】
本発明の一実施形態の複合繊維においては、高速紡糸において高分子量成分を低結晶化度とすることで、熱処理時の分子鎖の配向緩和が大きくなり、高分子量成分を高収縮とできることから、本発明においては、高分子量成分の結晶化度を40%以下とする必要がある。
【0063】
係る範囲とすることで、糸加工におけて高分子量成分と低分子量成分間での収縮差が大きくなり、熱処理後に良好な捲縮発現を達成することができる。この観点でいえば、結晶化度を下げるほど良好な捲縮が得られることから、高分子量成分の結晶化度を30%以下とすることがより好ましく、さらに結晶化度を20%以下とすれば、糸加工時の延伸の際に結晶で分子鎖の配向が阻害されることもなく、さらなる高配向化も達成でき、特に好ましくは、10%以下である。
【0064】
本発明の一実施形態のマルチフィラメントにおいては、高分子量成分の高配向と低結晶化度の両立によりポリエステル由来の高弾性と良好な捲縮を発現し、布帛とした際には適度な反発性やストレッチ性といった着用快適性を有した衣料用テキスタイルを得ることができることから、高分子量成分の配向パラメータが5.0~15.0、結晶化度が20~50%であることが重要となる。
【0065】
本発明の一実施形態のマルチフィラメントにおいては、布帛とした際に良好な反発性とストレッチ性を得るために、高分子量成分の配向パラメータを5.0以上とする必要がある。係る範囲とすれば、熱処理時の配向緩和が大きくなることで、高分子量成分が高収縮となり、布帛とした際にストレッチ性を得るのに必要な高度な捲縮発現が達成されるのみならず、高配向に伴う弾性率の向上により、反発性も得ることができる。この観点からすると、配向パラメータを6.5以上とすれば、高捲縮により繊維間での空隙が生まれるのみならず、高弾性率化により反発性がさらに高まり、布帛にハリコシやふくらみが生まれることで、衣料用テキスタイルとしてより好適に用いることができるため好ましい。
【0066】
さらに配向パラメータを8.0以上とすれば、高捲縮による高ストレッチと高反発性が際立つことで、ゴムのような弾力を有した特異な風合いを有したテキスタイルが得られることから特に好ましい範囲として挙げられる。一方、配向パラメータが高くなりすぎると、繊維の残伸度が失われ、布帛とする際に糸切れや毛羽の要因となり布帛品位を低下させる場合があることから、本発明における配向パラメータの上限は15.0となる。
【0067】
本発明の一実施形態のマルチフィラメントにおいては、高速紡糸において高分子量成分を低結晶化度とすることで、熱処理時の分子鎖の配向緩和が大きくなり、高分子量成分を高収縮とできることから、高分子量成分の結晶化度を50%以下とする必要があり、係る範囲とすることで、高分子量成分と低分子量成分間での収縮差が大きくなり、熱処理により良好な捲縮を発現することができる。この観点でいえば、結晶化度を下げるほど良好な捲縮が得られることから、高分子量成分の結晶化度を40%以下とすることがより好ましく、さらに結晶化度を30%以下とすれば、結晶による分子鎖の拘束が少ないことによる収縮応力の向上も達成でき、布帛組織による繊維の拘束状態に関わらず、捲縮を発現することが可能となることから、特に好ましい範囲として挙げられる。
【0068】
一方、結晶化度が低くなりすぎると寸法安定性が損なわれ、熱処理時に過剰に収縮して目付詰まりによる風合い硬化が引き起こす場合があることから、本発明の一実施形態のマルチフィラメントにおける高分子量成分の結晶化度の下限は20%となる。
【0069】
本発明の一実施形態のマルチフィラメントにおいては、収縮差による捲縮発現の度合いを表す捲縮発現率が10%以上であることが好ましい。
【0070】
ここで本発明における捲縮発現率は、以下のようにして求められる。すなわち、繊維を10m長にカセ取りし、90℃水中で20分間無荷重(0cN/dtex)で処理し、24時間風乾する。その後、室温(25℃)の水中で初荷重0.0018cN/dtex(2mgf/d)をかけ、2分後のカセ長L1を測定し、次に、室温(25℃)の水中で上記初荷重0.0018cN/dtexを除き、0.09cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重に交換し、2分後のかせ長L0を測定することで得られたL0とL1から、下式により求めた値について小数点以下を四捨五入して得られた値を捲縮発現率(%)とする。
捲縮発現率(%)=[(L0-L1)/L0]×100(%)
【0071】
捲縮発現率が10%以上の良好な捲縮が発現していることで、布帛にした際に良好なストレッチ性が得ることができる。さらに捲縮発現率を20%以上とすれば、ストレッチ性がより向上するのみならず、マルチフィラメント中の繊維がそれぞれ高捲縮を発現することによる排除体積効果で繊維間空隙が増大し、ふくらみの向上効果も得られることから、より好ましい範囲として挙げられる。一方、捲縮発現率が高くなりすぎると目付詰まりによる風合い硬化を引き起こす場合があることから、本発明における捲縮発現率の上限は80%となる。
【0072】
本発明の一実施形態のマルチフィラメントにおいては、弾性率が30cN/dtex以上であることが好ましい。
【0073】
ここで本発明でいう弾性率(cN/dtex)は、JIS L1013(2010)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件に準じて、テンシロン引張試験機により試料長20cm、引張速度20cm/分で初荷重0.1cN/dtexから最大応力0.5cN/dtexまで伸長させた後、得られた応力-歪曲線における引張荷重:0.3~0.5cN/dtexの傾きについて算出し、これをマルチフィラメント10本について行った結果の単純な数平均を求め、小数点以下を四捨五入した値とする。
【0074】
弾性率が30cN/dtex以上の高弾性率を有していれば、曲げ剛性が高くなることから、布帛とした際には良好な反発性を得ることができる。さらに弾性率を50cN/dtex以上とすれば、曲げ剛性がより高まることで布帛にハリコシが生まれ、衣料用途としてより好適に用いることができることから、特に好ましい範囲として挙げられる。一方、弾性率が高くなりすぎると、柔軟性が損なわれ、着用快適性が低下する場合があることから、弾性率の上限としては100cN/dtexとなる。
【0075】
本発明の一実施形態のマルチフィラメントにおいては、伸長回復時のヒステリシスロス率が0~70%であることが好ましい。
【0076】
ここで本発明における伸長回復時のヒステリシスロス率は、以下のようにして求められる。すなわち、JIS L1013(2010)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件に準じて、テンシロン引張試験機により試料長20cm、引張速度20cm/分で初荷重0.1cN/dtexから最大応力0.5cN/dtexまで伸長させた後、同速度で元の試長の位置まで回復させ、ヒステリシス曲線を描き、伸長時の曲線と回復時の曲線の間に挟まれた面積(A1)と、伸長時の曲線と横軸(伸度の軸)の間に挟まれた面積(A2)を求め、A1をA2で割り返して100をかけた値を算出し、これをマルチフィラメント10本について行った結果の単純な数平均を求め、小数点以下を四捨五入した値を、伸長回復時のヒステリシスロス率(%)とする。
【0077】
伸長回復時のヒステリシスロス率を0~70%とすることで、捲縮を伸縮しても元の形態に回復しやすくなることから、布帛とした際には伸長してもひずみが少なくなり、身体の動きに合わせて伸長することの多い衣料用テキスタイルとして好適に用いることができる。さらに、ヒステリシスロス率を30~60%とすれば、伸長後の衣服による過度な締め付け少なく、着用快適性が高まることから、より好ましい範囲として挙げられる。
【0078】
本発明の一実施形態のマルチフィラメントにおいては、繊維径を10μm以上とすることが好ましい。係る範囲とすれば、繊維径が太いことで曲げ剛性や染料の吸塵量が大きくなり、布帛とした際の反発性や発色性が高まるため、衣料用テキスタイルとして好適に用いることができる。さらに繊維径を18μm以上とすれば、より曲げ剛性が高まるのみならず、捲縮径やピッチが大きくなることでふくらみも増し、パンツやシャツ等のふくらみやハリコシのある風合いが求められる衣料用途に好適な範囲となる。
【0079】
ただし、繊維径が30μm以上となると、曲げ剛性が高すぎることで、衣料用テキスタイルとしては風合いが硬くなる場合があることから、本発明における繊維の繊維径は30μm未満とすることが好適である。
【0080】
本発明は、上述の本発明の一実施形態のマルチフィラメントが一部に含まれる繊維製品にも関する。
本発明の一実施形態のマルチフィラメントが少なくとも一部に含まれる繊維製品とした際には、本発明の一実施形態のマルチフィラメントが高分子量成分の高配向と低結晶化度を両立でき、ポリエステル由来の高弾性と良好な捲縮を発現できることから、適度な反発性やストレッチ性といった着用快適性が得られるため、ジャケット、スカート、パンツ、下着などの一般衣料から、スポーツ衣料、衣料資材などの衣料用テキスタイル全般に加えて、その快適性を生かしてカーペット、ソファーなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、健康用品などの生活用途など多岐にわたる繊維製品に好適に用いることができる。
【0081】
以下に本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントの製造方法の一例を詳述する。
【0082】
本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントを製糸する方法としては長繊維の製造を目的とした溶融紡糸法、湿式および乾湿式などの溶液紡糸法、シート状の繊維構造体を得るのに適したメルトブロー法およびスパンボンド法などが挙げられるが、生産性を高めるという観点から、溶融紡糸法が好適である。
【0083】
また、溶融紡糸法においては、後述する複合口金を用いることにより製造可能であり、その際の紡糸温度については、用いるポリマー種のうち、主に高融点や高粘度ポリマーが流動性を示す温度とすることが好ましい。この流動性を示す温度としては、分子量によっても異なるが、そのポリマーの融点から融点+60℃の間で設定すると安定して製造することができるため好ましい。
【0084】
2種のポリエステルからなる本発明の一実施形態の複合繊維を製造する際に用いる複合口金としては、本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントの特徴である、高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われており、かつ低分子量成分の薄皮部の最小厚みや薄皮部の周囲長が精密に制御された偏心芯鞘断面を製造できるという観点から、例えば国際公開WO2020/095861に記載される分配プレートを用いた複合口金が好適に用いられる。
【0085】
従来公知の複合口金を用いて偏心芯鞘型の断面を有する複合繊維を製造する場合、芯の重心位置や鞘厚みの精密な制御が非常に困難となる場合が多い。例えば、低分子量成分の薄皮部の最小厚みが薄くなり、高分子量成分が露出された場合には、本発明の目的である高分子量成分の高配向と低結晶化度の両立が達成できないだけでなく、摩擦や衝撃による布帛の白化現象や毛羽の原因となり、逆に低分子量成分の薄皮部の最小厚みが厚くなってしまった場合には、捲縮発現が低下するために、ストレッチ性能が低下するといった問題が生じる場合がある。
【0086】
一方、分配プレートを用いた方法では、複数枚で構成される分配プレートの内、最も下流に設置された最終分配プレートにおける分配孔の配置により、複合繊維の断面形態を制御することができる。具体的には、低分子量成分の分配孔の少なくとも一部を、半円状配列の複数の高分子量成分の分配孔の円周部の外側に半円周状配列で配置すれば、複合ポリマー流が口金吐出孔から吐出されることで得られる複合繊維を
図1または
図2の(a)、(b)のような偏心芯鞘断面とすることができ、好ましい。なお、高分子量成分の分配孔の円周部の外側に半円周状配列で配置された低分子量成分の分配孔の孔数や孔辺りのポリマーの吐出量を変更するようにアレンジすることで、繊維断面において、薄皮部の形状を制御することが可能である。
【0087】
このようにして分配プレートにより断面形成されたポリマー流は、縮流され、紡糸口金の吐出孔より吐出される。このとき、吐出孔は、複合ポリマー流の流量、すなわち吐出量を再度計量する点と紡糸線上のドラフト(=引取速度/吐出線速度)を制御する目的がある。孔径および孔長は、ポリマーの粘度および吐出量を考慮して決定するのが好適である。
【0088】
また、本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントにおいては、高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われていることで、分子量、すなわち粘度差が大きく異なる2種のポリマーからなる複合繊維を製造する際の課題であった、口金吐出時の2種のポリマーの流速差のため起こる、吐出線曲がり(ニーイング現象)による製糸性の悪化も抑制できる。すなわち、高分子量成分の外側に低分子量成分が存在することで、ポリマー流が曲がる方向とは逆方向への力が生じる結果、口金吐出時の2種のポリマーの流速差から生じる、紡糸線と垂直方向への力を抑制することができるのである。
【0089】
さらに、高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われていることで、高速製糸安定性に優れることも見出されている。これは、低分子量成分が外側に配置されることで口金吐出後の伸長変形に高分子量成分が追従しやすくなった効果であり、この観点からも本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントにおいては、高分子量成分が低分子量成分に完全に覆われている断面であることが必要となる。
【0090】
本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントを紡糸する際の吐出量は、安定して吐出できる範囲としては、吐出孔当たり、0.1g/min/hole~20.0g/min/holeを挙げることができる。この際、吐出量は、巻き取り条件や延伸倍率等を考慮し、所望とする繊維径に応じて、決定することが好ましい。
【0091】
吐出孔から溶融吐出されたポリマー流は、冷却固化され、油剤等を付与することにより集束し、周速が規定されたローラーによって引き取られる。ここで、この引取速度は、吐出量および目的とする繊維径から決定するものである。本発明では、複合繊維およびマルチフィラメントを安定に製造するという観点から、ローラーの引取速度については、500~6000m/分程度にするとよく、ポリマーの物性や繊維の使用目的によって変更可能である。
【0092】
紡糸された複合繊維およびマルチフィラメントは、繊維の一軸配向の促進により力学特性が向上できるだけでなく、複合したポリマー間での延伸時の応力差と延伸時の配向差から生じる熱収縮差の拡大により捲縮発現を向上できるという観点から、延伸を行うことが好ましい。この延伸条件としては、例えば、一対以上のローラーからなる延伸機において、一般に溶融紡糸可能な熱可塑性を示すポリマーからなる繊維であれば、ガラス転移温度以上融点以下温度に設定された第1ローラーと結晶化温度相当とした第2ローラーの周速比によって、繊維軸方向に無理なく引き伸ばされ、且つ熱セットされて巻き取られる。また、ガラス転移を示さないポリマーの場合には、複合繊維の動的粘弾性測定(tanδ)を行い、得られるtanδの高温側のピーク温度以上の温度を予備加熱温度として、選択すればよい。
【0093】
また、延伸については、紡糸した複合繊維およびマルチフィラメントを一旦巻き取った後で延伸を施すこともよいし、一旦、巻き取ることなく、紡糸に引き続いて延伸を行うこともよいが、複合繊維毎に異なる不均一な形態に変化させて得られる触感や風合いを複雑にすることで、布帛にした際の着用快適性を高めるという観点からすると、延伸を伴う糸加工を施すことがより好ましい。
【0094】
ここで、延伸を伴う糸加工を施す場合には、高速紡糸から得られる高配向未延伸糸を用いることが好ましい。高配向未延伸糸は、配向パラメータが特定の範囲であることで、配向非晶と適度な結晶核を有した構造となり、結晶化速度が速く、ヒーター内での融着防止による糸切れの抑制や延伸張力低下による毛羽の抑制ができることから糸加工に適しているのである。このような高配向未延伸糸を製造する方法としては、繊維径やポリマー品種、粘度によって多少の差異はあるが、本発明者等の検討においては、紡糸時の巻取速度を2000~4000m/minの範囲から選択することで、本発明の配向パラメータや結晶化度を満たす、良好な糸加工性を有した複合繊維を得ることができる。
【0095】
糸加工としては仮撚加工や不均一延伸加工など、公知の糸加工技術であれば特に限定されないが、捲縮形態を不均一な形態に変化させ、得られる触感や風合いを複雑にできるという観点からすると、仮撚加工や不均一延伸加工を施すことがより好ましい。
【0096】
仮撚加工を施す方法としては、ポリエステルで汎用的に用いられている方法であれば特に限定するものではないが、生産性を考慮するとディスクやベルトを用いた摩擦仮撚機を用いて加工することが好ましい。仮撚加工を施すことで、収縮差による捲縮と仮撚加工により付与された機械捲縮が相まった多重捲縮形態となり、布帛とした際には布帛表面にランダム凹凸が生まれ、天然素材のようなドライタッチが得られるのである。
【0097】
仮撚加工によって本発明を用いた捲縮糸を安定的に製造するには、加撚領域での糸束の実撚数により捲縮形態をコントロールすることが好適である。
【0098】
すなわち、加撚領域での糸束の撚数である仮撚数T(単位は回/m)が、仮撚加工後の糸束の総繊度Df(単位はdtex)に応じて決定される、以下の条件を満たすように、加撚機構の回転数や加工速度等の仮撚条件を設定することが好ましい。
20000/Df0.5≦T≦40000/Df0.5
ここで仮撚数Tは、次の方法で測定したものである。すなわち、仮撚工程の加撚領域で走行している糸束を、ツイスター直前で撚りをほどかないよう、50cm以上の長さで採取する。そして、採取した糸サンプルについて検撚機に取り付け、JIS L1013(2010)8.13に記載の方法にて撚数を測定したものが仮撚数Tである。仮撚数が上述の条件を満たすことで、収縮差による捲縮と仮撚加工により付与された機械捲縮が相まった多重捲縮形態となり、布帛とした際には布帛表面にランダム凹凸が生まれ、天然素材のようなドライタッチが得られるのである。
【0099】
また、上記の仮撚条件において、加撚領域での延伸倍率を調整するとよい。ここで言う延伸倍率とは加撚領域に糸を供給するローラーの周速V0と加撚機構の直後に設置されたローラーの周速Vdを用い、Vd/V0として算出されるものであり、供給糸に延伸糸を使用する場合には、Vd/V0を0.9~1.4倍とすれば良く、供給糸に高配向未延伸糸を使用する場合には、Vd/V0を1.2~2.0倍として、仮撚加工と同時に延伸を行うこともよい。延伸倍率を係る範囲とすることで、加撚領域での過張力や糸束のたるみが発生することなく、マルチフィラメント中の複合繊維全体に捲縮を付与できる。
【0100】
さらに、仮撚工程で得られる捲縮を強固に固定する観点から仮撚温度は複合したポリマーにおける高Tg側のポリマーのTgを基準として、Tg+50~Tg+150℃の範囲から決定することが好ましい。ここで言う仮撚温度とは、加撚領域に設置されたヒーターの温度を意味する。仮撚温度を係る範囲とすることで、複合繊維断面内で大きく捻り変形したポリマーを十分に構造固定できるため、仮撚工程で得られる捲縮の寸法安定性を良好にすることができる。
【0101】
また、不均一延伸加工により、複合繊維の自然延伸倍率を越えない範囲の延伸倍率で延伸加工することで、延伸部と未延伸部が繊維軸方向にランダムに出現した太細(シックアンドシン)を得るのも好ましい。不均一延伸加工を行うことで、単糸間の染色性の差に加え、延伸部と未延伸部でも染色性の差異が生じるために、色の濃淡がより強調され、さらに延伸部と未延伸部で捲縮形態も異なることで、布帛とした時に天然素材のような杢調や風合いを表現することができる。
【0102】
不均一延伸加工を施す方法としては、延伸倍率を自然延伸倍率の上限×0.8倍~上限の範囲とすることが好ましい。上限×0.8倍以上で延伸することで、本発明で重要となる高分子量成分の配向パラメータを満たしつつ、杢調を得ることができるのである。また不均一延伸加工後に連続して仮撚加工を行うと、杢調と多重捲縮形態による風合いが相まった素材を得ることができるため、好ましい範囲として挙げられる。
【0103】
不均一延伸加工が施された本発明の一実施形態のマルチフィラメントにおいては、繊維軸方向への太部長(Lthick)と細部長(Lthin)との比LR(Lthin/Lthick)が1.40以上であることが好ましい。LRを1.40以上とすることで、繊維軸方向に延伸部である細部が占める割合が多くなり、マルチフィラメントにおいて良好な捲縮と高い弾性率を発現できるのである。
【0104】
なお、ここでいう繊維軸方向への太部長(Lthick)および細部長(Lthin)とは、マルチフィラメントに荷重0.00135cN/dtex(1.5mgf/d)を加えた時の直径を1.0mm間隔で50カ所を測定し、50カ所のうち、平均直径より大きい箇所の総数に1mmをかけた値を太部長(Lthick)、小さい箇所の総数に1mmをかけた値を細部長(Lthin)とする。なお、LR(Lthin/Lthick)は、細部長(Lthin)を太部長(Lthick)で割り返し、小数点以下3桁目を四捨五入して得られる値である。
【0105】
また、本発明の一実施形態のマルチフィラメントに対して糸加工前もしくは糸加工後に、他の繊維を混繊してもよい。混繊方法は特に限定されず、インターレース混繊、タスラン混繊等の一般的な混繊方法を用いることができる。
【0106】
本発明の一実施形態のマルチフィラメントにおいては、糸加工後に撚糸加工を施すことが好ましい。200~2000回/m程度の撚りを付与すると、熱処理で捲縮が発現した際に捲縮位相が揃いやすくなることでマルチフィラメントに中空構造が生まれ、ふくらみや反発性を向上できる。
【0107】
本発明の一実施形態のマルチフィラメントは織物または編物に成形することが好ましく、さらに必要に応じて、常法の精練、リラックス処理、中間熱セット、染色加工、仕上げ熱セットなどの熱処理を伴う高次加工を施すことで、収縮差による捲縮が発現して良好な反発性やストレッチ性といった着用快適性を有した衣料用テキスタイルに好適な織編物を得ることができる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例を挙げて、本発明の一実施形態の複合繊維およびマルチフィラメントについて具体的に説明する。
【0109】
実施例および比較例については下記の評価を行った。
【0110】
A.ポリマーの分子量
チップまたは繊維3mgに溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノール5mLを加え、標準温度(25℃)で緩やかに攪拌し、その後、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置として昭和電工製「RI-104型」を用いて、標準試料を単分散ポリメチルメタクリレート(PMMA)として求め分子量分布から算出した重量平均分子量Mwをポリマーの分子量とした。なお、複合繊維をサンプルとして測定を行い、分子量分布においてダブルピークが得られた場合には、低分子量側を低分子量成分の分子量、高分子量側を高分子量成分の分子量とした。
【0111】
B.繊度
100mの繊維の重量を測定し、その値を100倍した値を算出した。この動作を10回繰り返し、その平均値の小数点第2位を四捨五入した値を繊度(dtex)とした。
【0112】
C.繊維径D
繊維をエポキシ樹脂などの包埋剤にて包埋し、繊維軸に垂直方向の繊維横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で10フィラメント以上の繊維が観察できる倍率として画像を撮影して求める。撮影された各画像から同一画像内で無作為に抽出した繊維の面積を測定し、真円換算で求められる直径をμm単位で小数点1桁目まで測定し、これを10フィラメントについて行った結果の単純な数平均を求め、小数点第1位を四捨五入した値を繊維径D(μm)とした。なお、繊維が繊維軸方向に延伸部と未延伸部を有している場合には、延伸部のみを選択して評価した。
【0113】
D.複合断面(低分子量成分の薄皮部の最小厚みS
minと繊維径Dの比S
min/D、繊維全体の周長に対する低分子量成分の薄皮部が占める比率、低分子量成分の薄皮部全体に対する薄皮厚みSと繊維径Dの比S/Dが0.05~0.10となる部分が占める比率)
複合繊維をエポキシ樹脂などの包埋剤にて包埋した後、この横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で10本以上の繊維が観察できる倍率として画像を撮影し、複合断面を観察した。この際、金属染色を施すとポリマー間の染め差ができることを利用して、複合断面の接合部のコントラストを明確にした。撮影された画像の複合断面が
図1または
図2の(a)、(b)に示すような偏心芯鞘断面であった場合には、各画像から同一画像内で無作為に抽出した10本の複合繊維について、
図1または
図2の(a)、(b)の符号「S」のような繊維外周上の低分子量成分における繊維中心方向への厚みが、繊維断面の面積を真円換算して求められる繊維径の0.01~0.1倍となる部分の周長を求め、繊維全体の周長で割り返して100をかけた値をそれぞれ算出し、これらの単純な数平均を求め、小数点第1位を四捨五入した値を「繊維全体の周長に対する低分子量成分の薄皮部が占める比率(%)」とした。
【0114】
また前記10本の複合繊維において、薄皮部における厚みSの最小値を、繊維の面積を測定して真円換算で求められる直径をμm単位で小数点1桁目まで測定して求めた繊維径Dの値で割り返した値をそれぞれ算出し、これらの単純な数平均を求め、小数点第3位を四捨五入した値を、「低分子量成分の薄皮部の最小厚みSminと繊維径Dの比Smin/D」とした。
【0115】
また、前記10本の複合繊維において、薄皮部における厚みSの値を、繊維の面積を測定して真円換算で求められる直径をμm単位で小数点1桁目まで測定して求めた繊維径Dの値で割り返し、小数点第3位を四捨五入することで得られる、薄皮厚みSと繊維径Dの比S/Dが0.05~0.10となる部分の周長を求め、薄皮部全体の周長で割り返して100をかけた値をそれぞれ算出し、これらの単純な数平均を求め、小数点第1位を四捨五入した値を、「低分子量成分の薄皮部全体に対する薄皮厚みSと繊維径Dの比S/Dが0.05~0.10となる部分が占める比率(%)」とした。
なお、複合繊維が繊維軸方向に延伸部と未延伸部を有している場合には、延伸部のみを選択して評価した。
【0116】
E.高分子量成分の配向パラメータ
レーザーラマン分光法にて、繊維縦断面における高分子量成分にレーザーを照射し、繊維軸と平行および垂直方向の偏光方位で測定を行い、それぞれで得られるラマンスペクトルから、C=Cの伸縮振動モードに帰属される1615cm-1付近のラマンバンドの強度(平行:I1615平行、垂直:I1615垂直)を求め、その比I1615平行/I1615垂直を算出し、小数点第2位で四捨五入した値を、配向パラメータとした。なお、無配向の場合、配向パラメータは1となる。また、繊維が繊維軸方向に延伸部と未延伸部を有している場合には、延伸部のみを選択して評価した。
【0117】
F.高分子量成分の結晶化度
レーザーラマン分光法にて、繊維縦断面における高分子量成分にレーザーを照射し、繊維軸と平行する偏光方位で測定を行い、C=Oの伸縮振動モードに帰属される1730cm-1付近のラマンバンドの半値全幅(Δν1730)を求め、下記の式(1)に代入して得られた値を密度ρとした。さらに求めた密度ρを下記の式(2)に代入して得られた値について、小数点第1位で四捨五入した値を、結晶化度(%)とした。
密度ρ(g/cm3)=(305-Δν1730)/209・・・式(1)
結晶化度(%)=100×(ρ-完全非晶の密度)/(完全結晶の密度-完全非晶の密度)
・・・式(2)
なお、ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートの結晶化度を求める場合は、完全非晶の密度を1.335g/cm3、完全結晶の密度を1.455g/cm3として計算した。また、繊維が繊維軸方向に延伸部と未延伸部を有している場合には、延伸部のみを選択して評価した。
【0118】
G.糸加工安定性
各実施例についての糸加工において、1千万m当たりの糸切れ回数(回/千万m)から製糸安定性をそれぞれ次の基準に基づき4段階判定した。
S:優れた糸加工安定性(糸切れ回数<1.0)
A:良好な糸加工安定性(1.0≦糸切れ回数<2.0)
B:糸加工安定性がある(2.0≦糸切れ回数<3.0)
C:糸加工安定性に劣る(3.0≦糸切れ回数)。
【0119】
H.捲縮発現率
繊維を10m長にカセ取りし、90℃水中で20分間無荷重(0cN/dtex)で処理し、24時間風乾した。その後、室温(25℃)の水中で初荷重0.0018cN/dtex(2mgf/d)をかけ、2分後のカセ長L1を測定し、次に、室温(25℃)の水中で上記初荷重0.0018cN/dtexを除き、0.09cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重に交換し、2分後のかせ長L0を測定することで得られたL0とL1から、下式により求めた値について小数点以下を四捨五入して得られた値を捲縮発現率(%)とした。
捲縮発現率(%)=[(L0-L1)/L0]×100(%)
【0120】
I.弾性率
JIS L1013(2010)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件に準じて、テンシロン引張試験機により試料長20cm、引張速度20cm/分で初荷重0.1cN/dtexから最大応力0.5cN/dtexまで伸長させた後、得られた応力-歪曲線における引張荷重:0.3~0.5cN/dtexの傾きについて算出し、これをマルチフィラメント10本について行った結果の単純な数平均を求め、小数点以下を四捨五入した値を弾性率(cN/dtex)とした。
【0121】
J.伸長回復時のヒステリシスロス率
JIS L1013(2010)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件に準じて、テンシロン引張試験機により試料長20cm、引張速度20cm/分で初荷重0.1cN/dtexから最大応力0.5cN/dtexまで伸長させた後、同速度で元の試長の位置まで回復させ、ヒステリシス曲線を描き、伸長時の曲線と回復時の曲線の間に挟まれた面積(A1)と、伸長時の曲線と横軸(伸度の軸)の間に挟まれた面積(A2)を求め、A1をA2で割り返して100をかけた値を算出し、これをマルチフィラメント10本について行った結果の単純な数平均を求め、小数点以下を四捨五入した値を、伸長回復時のヒステリシスロス率(%)とした。
【0122】
K.布帛特性(ふくらみ、反発性)
経糸方向のカバーファクター(CFA)が800、緯糸方向のカバーファクター(CFB)が1200となるように繊維本数を調整し、3/1ツイル織物を作成した。ただし、ここで言うCFAおよびCFBとは、織物の経密度および緯密度をJIS L1096:2010 8.6.1に準じて2.54cmの区間にて測定し、CFA=経密度×(経糸の繊度)1/2、CFB=緯密度×(緯糸の繊度)1/2の式より求めた値である。得られた織物について精練、湿熱処理、熱セットを行った後、以下の手法を用いてふくらみ感、反発感の2つの風合いを評価した。
【0123】
ふくらみは、テロテック製定圧厚さ測定器(PG-14J)を用いて、20cm×20cmの織物の厚み(cm)を一定圧力下(0.7kPa)で測定し、織物の体積を算出した後、該織物の重量(g)を得られた体積で除した値を求め、小数点第2位を四捨五入した値を織物の見掛け密度(g/cm3)とした。得られた見掛け密度からふくらみ感をそれぞれ次の基準に基づき4段階判定した。
S:優れたふくらみ(見掛け密度≦0.5)
A:良好なふくらみ(0.5<見掛け密度≦0.8)
B:ふくらみがある(0.8<見掛け密度≦1.1)
C:ふくらみに劣る(1.1<見掛け密度)。
【0124】
反発性は、カトーテック製純曲げ試験機(KES-FB2)を用いて、20cm×20cmの織物を有効試料長20cm×1cmで把持し、緯糸方向に曲げたときの、曲率±1.0cm-1におけるヒステリシスの幅(gf・cm/cm)を算出した。この動作を1箇所あたり3回行い、これを合計10箇所について行った結果の単純な数平均を求め、小数点第4位を四捨五入した後に100を掛けた値を曲げ回復2HB×10-2(gf・cm/cm)とした。なお、1gf・cm/cm=0.0098N・cm/cmである。得られた曲げ回復2HB×10-2から反発感をそれぞれ次の基準に基づき4段階判定した。
S:優れた反発性(曲げ回復2HB×10-2≦0.8)
A:良好な反発性(0.8<曲げ回復2HB×10-2≦1.3)
B:反発性がある(1.3<曲げ回復2HB×10-2≦2.0)
C:反発性に劣る(2.0<曲げ回復2HB×10-2)。
【0125】
L.布帛特性(ストレッチ性)
経糸方向のカバーファクター(CFA)が800、緯糸方向のカバーファクター(CFB)が1200となるように繊維本数を調整し、3/1ツイル織物を作成した。ただし、ここで言うCFAおよびCFBとは、織物の経密度および緯密度をJIS L1096:2010 8.6.1に準じて2.54cmの区間にて測定し、CFA=経密度×(経糸の繊度)1/2、CFB=緯密度×(緯糸の繊度)1/2の式より求めた値である。得られた織物について精練、湿熱処理、熱セットを行った後、JIS L1096:2010の第8.16.1項に記載の伸び率A法(定速伸長法)に準じてストレッチ性を評価した。なお、ストリップ法の17.6N(1.8kg)荷重時を採用し、試験条件は、サンプル幅5cm×長さ20cm、クランプ間隔10cm、引張速度20cm/分とした。また、初荷重は、JIS L1096:2010の方法に準じて、試料幅1m相当の重さを使用した。織物のヨコ方向に試験を3回行った結果の単純な数平均を求め、小数点以下を四捨五入した値を布帛伸長率(%)とした。得られた布帛伸長率からストレッチ性をそれぞれ次の基準に基づき3段階判定した。
S:優れたストレッチ性(25≦伸長率)
A:良好なストレッチ性(15≦伸長率<25)
B:ストレッチ性がある(5≦伸長率<15)
C:ストレッチ性に劣る(伸長率<5)。
【0126】
[実施例1]
ポリマーAとしてポリエチレンテレフタレート(PET、分子量:25,700)、ポリマーBとしてポリエチレンテレフタレート(PET、分子量:16,900)を準備した。
【0127】
これらのポリマーを290℃で別々に溶融後、ポリマーA/ポリマーBを複合断面における面積比が50/50となるように計量して、同一の紡糸パックに別途流入させて、口金に穿設された吐出孔から吐出した。なお、実施例1の複合繊維は、
図1に例示するような高分子量PETのポリマーAが低分子量PETのポリマーBに完全に覆われており、低分子量PETからなる薄皮部において、繊維全体の周長に対する薄皮部が占める比率が50%、薄皮部全体に対する薄皮厚みSと繊維径Dの比S/Dが0.05~0.10となる部分が占める比率が1%となる偏心芯鞘断面を形成するものである。
【0128】
吐出された複合ポリマー流に冷却固化後油剤を付与し、紡糸速度2500m/minで巻き取ることで、複合繊維を製糸した。得られた複合繊維の高分子量PETの配向パラメータは2.1、高分子量PETの結晶化度は24%であり、本発明の一実施形態の複合繊維であることが確認できた。
【0129】
得られた本発明の一実施形態の複合繊維を標準状態(温度23℃、相対湿度65%)で一か月間保管した後、300m/分の速度で延伸装置に送糸し、複合繊維の自然延伸倍率の上限と同じ延伸倍率にてホットピン温度70℃、セット温度150℃で不均一延伸加工を施すことで、115dtex-24フィラメント(繊維径21μm)のマルチフィラメントを得た。このときの糸切れ回数は1.5回/千万mであり、良好な糸加工安定性であった。
【0130】
得られたマルチフィラメントは、
図1に例示するような高分子量PETのポリマーAが低分子量PETのポリマーBに完全に覆われており、低分子量PETからなる薄皮部において、繊維全体の周長に対する薄皮部が占める比率が50%、薄皮部全体に対する薄皮厚みSと繊維径Dの比S/Dが0.05~0.10となる部分が占める比率が1%となる偏心芯鞘断面を有していた。また延伸部と未延伸部が繊維軸方向にランダムに出現した太細を有しており、延伸部における高分子量PETの配向パラメータは7.0、高分子量PETの結晶化度は33%であり、本発明の一実施形態のマルチフィラメントであることが確認できた。
【0131】
さらにマルチフィラメントの特性においては、良好な収縮差による捲縮発現性(捲縮発現率:23%)とポリエステル由来の高弾性(弾性率:62cN/dtex)を有しており、捲縮を伸長させた際の回復性(ヒステリシスロス率:53%)も良好であった。
【0132】
次に、得られたマルチフィラメントに1000T/mの撚りを付与したものを経糸および緯糸として用い、経糸方向のカバーファクター(CFA)が800、緯糸方向のカバーファクター(CFB)が1200となるように繊維本数を調整し、3/1ツイル組織で製織し、80℃での精練処理および130℃での湿熱処理を施した後、180℃で熱セットを加えることで、マルチフィラメントからなる織物を得た。
【0133】
該マルチフィラメントからなる織物は、マルチフィラメントを構成する全ての複合繊維で良好な捲縮と高弾性が発現していることで、適度な反発感(曲げ回復2HB:1.0×10-2gf・cm/cm)や優れたストレッチ性(布帛伸長率:20%)を有していた。また複合繊維間では複雑な空隙が生まれることで、ふくらみ(見掛け密度:0.7g/cm3)のある風合いも有しており、人の着心地に直結する風合いや機能を両立した着用快適性に優れた衣料用テキスタイルに適した織物であった。結果を表1に示す。
【0134】
[実施例2]
吐出された複合ポリマー流に冷却固化後油剤を付与し、紡糸速度2250m/minで巻き取るように変更する以外は全て実施例1に従い実施した。
【0135】
実施例2においては、巻取速度を遅くすることで、高分子量PETの配向結晶化が抑制され、得られた複合繊維の高分子量PETが低結晶化度となった。また、不均一延伸加工後に得られたマルチフィラメントは、延伸時の高分子量PETの配向が結晶で阻害されないことで、捲縮発現率や弾性率が向上し、得られる織物のふくらみやストレッチ性、反発性も良好であった。結果を表1に示す。
【0136】
[比較例1]
複合断面を
図3の(a)に示すような高分子量PETと低分子量PETがサイドバイサイド型に接合された複合断面に変更し、紡糸速度1400m/minで巻き取ることで、複合繊維を製糸した以外は実施例1に従い実施した。
【0137】
比較例1においては、標準状態(温度23℃、相対湿度65%)で一か月間保管したことによる経時変化で繊維強度や耐熱性が低下し、不均一延伸加工時に糸切れが頻発して加工不可であった。結果を表1に示す。
【0138】
[比較例2、3]
比較例2は複合断面を
図3の(a)に示すような高分子量PETと低分子量PETがサイドバイサイド型に接合された断面に、比較例3は複合断面を
図3の(b)に示すような高分子量PETが表層に露出した偏心芯鞘断面に変更した以外は実施例1に従い実施した。
【0139】
比較例2、3においては、高分子量PETが表層に露出していることで、紡糸において口金からポリマーを吐出する際に、口金内の吐出孔壁面から高分子量成分が受ける流動抵抗が大きく、分子鎖の変形により過剰に結晶核が生成し、紡糸時の高速巻取で配向結晶化が進行したことで、得られた複合繊維の高分子量PETが高結晶化度となった。また、不均一延伸加工後に得られたマルチフィラメントは、延伸時の高分子量PETの配向が結晶で阻害されたことで、捲縮発現率や弾性率が低下しており、高分子量PETが表層に露出していることで、実施例1に比して糸加工安定性にも低下がみられた。
【0140】
また得られた織物は、マルチフィラメントの捲縮発現率が小さいことでふくらみやストレッチ性にかけ、さらに比較例2では、マルチフィラメントが低弾性率であることにより反発性にも欠けるものであった。結果を表1に示す。
【0141】
[実施例3、4]
ポリマーAのPETの分子量を30,900(実施例3)、23,400(実施例4)となるように変更する以外は全て実施例1に従い実施した。
【0142】
実施例3においては、分子量を大きくすることで、高分子量PETの配向が高まり、マルチフィラメントにおける捲縮発現率や弾性率が向上することで、得られる織物のふくらみやストレッチ性、反発性も良好となった。
実施例4において、分子量を小さくした場合も、得られる織物のふくらみやストレッチ性、反発性は良好な水準を維持していた。なお、分子量を小さくすることで、マルチフィラメントは低弾性となり、得られる織物の柔軟性が向上するものであった。結果を表1に示す。
【0143】
[比較例4]
ポリマーAのPETの分子量を19,500に変更する以外は全て実施例1に従い実施した。
【0144】
比較例4においては、高分子量PETの分子量が20,000以下であることで、高速紡糸による高分子量PETの配向が促進されず、高分子量PETが低配向となることで実施例1に比して糸加工安定性に低下がみられた。また得られたマルチフィラメントは、高分子量PETと低分子量PETの配向緩和の差が小さいことで、捲縮発現率が低く、織物とした際のふくらみやストレッチ性にも劣るものであった。結果を表1に示す。
【0145】
[実施例5]
複合断面を
図4に示すような高分子量PETが低分子量PETに覆われた偏心芯鞘断面に変更した以外は実施例1に従い実施した。
【0146】
実施例5においては、繊維全体の周長に対する薄皮部が占める比率が小さいことで、高分子量PETが低分子量PETに厚く覆われていることから、糸加工安定性に優れ、また高分子量PETの口金吐出孔壁面から受ける流動抵抗が小さくなることで結晶化度も抑制でき、マルチフィラメントが高弾性率となることで、織物の反発性も向上するものであった。結果を表1に示す。
【0147】
[実施例6、7]
低分子量成分の薄皮部の最小厚みSminと繊維径Dの比Smin/Dを0.01(実施例6)、0.1(実施例7)となるように変更する以外は全て実施例1に従い実施した。
【0148】
実施例6において、Smin/Dを小さくした場合も、得られる織物のふくらみやストレッチ性、反発性は良好な水準を維持していた。なお、Smin/Dを小さくすることで、マルチフィラメントは低弾性となり、得られる織物の柔軟性が向上するものであった。実施例7においては、Smin/Dを大きくすることで、高分子量PETの配向が高まり、マルチフィラメントにおける弾性率が向上することで、得られる織物の反発性も良好となるものであった。結果を表2に示す。
【0149】
[実施例8]
複合繊維が、
図2の(a)に例示するような高分子量PETのポリマーAが低分子量PETのポリマーBに完全に覆われており、低分子量PETからなる薄皮部において、繊維全体の周長に対する薄皮部が占める比率が51%、薄皮部全体に対する薄皮厚みSと繊維径Dの比S/Dが0.05~0.10となる部分が占める比率が25%となる偏心芯鞘断面となるように変更する以外は全て実施例1に従い実施した。
【0150】
実施例8においては、薄皮厚みSが繊維外周上で変化することで栓流効果が向上し、高速紡糸による高分子量PETの配向結晶化が抑制され、得られるマルチフィラメントにおける高分子量PETの配向が高まり、マルチフィラメントにおける捲縮発現率や弾性率が向上することで、得られる織物の反発性、ストレッチ性も良好となるものであった。結果を表2に示す。
【0151】
[実施例9、10]
ポリマーAをイソフタル酸4モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA4モル%共重合PET、分子量:25,500)(実施例9)、イソフタル酸7モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA7モル%共重合PET、分子量:25,300)(実施例10)となるように変更する以外は全て実施例1に従い実施した。
【0152】
実施例9、10においては、IPA共重合率が増加するほど、マルチフィラメントの捲縮発現が良好となり、得られる織物のふくらみやストレッチ性が向上するものであった。結果を表2に示す。
【0153】
[実施例11]
ポリマーAをポリブチレンテレフタレート(PBT、分子量:31,400)に変更する以外は全て実施例1に従い実施した。
実施例11においては、PBTが有するゴム弾性の特性が相まって、得られる織物のストレッチ機能が大幅に向上するものであった。なお、柔軟性にも優れた風合いを発現するものであった。結果を表2に示す。
【0154】
[実施例12、13]
繊維径を15μm(実施例12)、8μm(実施例13)となるように吐出量を変更する以外は全て実施例1に従い実施した。
【0155】
実施例12、13においては、繊維径を小さくした場合も、得られる織物のふくらみやストレッチ性、反発性は良好な水準を維持していた。なお、繊維径を小さくすることで、繊維径が細いことで光の乱反射が増し、テキスタイルとした際の外観ムラ(ギラツキ)を抑制して外観品位が向上することに加えて、繊維一本の曲げ剛性が低下することで柔軟性も向上するものであった。結果を表2に示す。
【0156】
[実施例14]
得られた本発明の一実施形態の複合繊維を標準状態(温度23℃、相対湿度65%)で一か月間保管した後、加工速度を250m/分、延伸倍率を自然延伸倍率の上限の1.2倍としたローラーローラ間で、160℃に設定したヒーターにて加熱しながら、フリクションディスクを用い、仮撚数が3000T/mとなるような回転数にて仮撚加工を施し、110dtex-24フィラメントの本発明の一実施形態のマルチフィラメントを得る以外は全て実施例1に従い実施した。
【0157】
なお、仮撚加工において、糸切れ回数は1.2回/千万mと良好な糸加工安定性であり、複合繊維同士の融着は見られず、毛羽やネップ等といった欠点のない加工通過性に優れるものであった。
【0158】
実施例14においては、仮撚加工により多重捲縮形態となったことで、得られたマルチフィラメントの捲縮発現が良好であった。また、織物とした際には、ふくらみやストレッチ性の向上に加えて、織物表面にランダム凹凸が生まれ、天然素材のようなドライタッチが得られるものであった。結果を表2に示す。
【0159】
【0160】
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明の一実施形態の複合繊維は、ポリマーと複合断面を制御することで、紡糸時に形成される繊維構造が特定の範囲となり、加工条件に制約がなく、加工後にはポリエステル由来の高弾性と良好な捲縮発現が可能なマルチフィラメントを得ることができる。
【0162】
また、本発明の一実施形態のマルチフィラメントは、ポリマーと複合断面を制御することで、製糸時に形成される繊維構造が特定の範囲となり、ポリエステル由来の高弾性と良好な捲縮発現が可能となることから、布帛とした際には適度な反発性やストレッチ性といった着用快適性が得られるため、ジャケット、スカート、パンツ、下着などの一般衣料から、スポーツ衣料、衣料資材などの衣料用テキスタイル全般に加えて、その快適性を生かしてカーペット、ソファーなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、健康用品などの生活用途など多岐に渡る繊維製品に好適に用いることができる。
【0163】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2021年11月24日出願の日本特許出願(特願2021-189921)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0164】
A:高分子量成分
B:低分子量成分
a:複合繊維断面における高分子量成分の重心点
c:複合繊維断面の中心
S:偏心芯鞘断面における低分子量成分の厚み
D:繊維径