(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】4~7個の炭素原子を有する炭化水素の接触分解から軽質オレフィンを製造するための触媒、およびその触媒を使用して軽質オレフィンを製造するための工程
(51)【国際特許分類】
B01J 29/89 20060101AFI20240220BHJP
B01J 29/86 20060101ALI20240220BHJP
B01J 29/65 20060101ALI20240220BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20240220BHJP
【FI】
B01J29/89 M
B01J29/86 M
B01J29/65 M
B01J35/60 A
(21)【出願番号】P 2022538696
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(86)【国際出願番号】 IB2020062373
(87)【国際公開番号】W WO2021130686
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-08-17
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TH
(73)【特許権者】
【識別番号】513160707
【氏名又は名称】ピーティーティー グローバル ケミカル パブリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワタナキット、チュララット
(72)【発明者】
【氏名】ロダウム、チャダティップ
(72)【発明者】
【氏名】ティヴァサシス、アナワット
(72)【発明者】
【氏名】ペンパニッチ、シッティフォン
(72)【発明者】
【氏名】タボンプラサート、ケオ-アルファ
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第10427142(US,B1)
【文献】特表2010-527769(JP,A)
【文献】国際公開第2019/088935(WO,A1)
【文献】MICROPOROUS AND MESOPOROUS MATERIALS,2016年,VOL:219,PAGE(S):1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4~7個の炭素原子を有する炭化水素の接触分解から軽質オレフィンを生成するための触媒であって、前記触媒は、環状に配置された8~10個のシリコン原子を有
し、0.1~2nmのマイクロ細孔、
および2~50nmのメソ細孔
を有する階層型ゼオライト
を備え、前記メソ細孔は、全細孔容積の40%~60%であり、前記触媒は、前記触媒の0.1~3重量%の、2
+~4
+の酸化状態を有する元素を備える、触媒。
【請求項2】
前記
階層型ゼオライトは、0.35nm~0.54nmの細孔サイズを有する、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記階層型ゼオライトは、0.35~0.54nmのマイクロ細孔および2~10nmのメソ細孔を含む、請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
前記
階層型ゼオライトは、フェリエライトである、請求項1から3のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項5】
前記
階層型ゼオライトは、20~60のシリカのアルミナに対するモル比を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項6】
前記元素は、ゲルマニウム、ジルコニウム、またはホウ素から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項7】
前記元素は、ゲルマニウムである、請求項6に記載の触媒。
【請求項8】
前記元素は、前記触媒の0.2~1重量%である、請求項1から7のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項9】
550~650℃の温度および1~3barの圧力で、4~7個の炭素原子を有する炭化水素を触媒に接触させる段階を備える、軽質オレフィンを製造する
方法であって、前記触媒は、環状に配置された8~10個のシリコン原子を有
し、0.1~2nmのマイクロ細孔、
および2~50nmのメソ細孔を含む階層型ゼオライト
を備え、前記メソ細孔は、全細孔容積の40~60%であり、前記触媒は、前記触媒の0.1~3重量%の、2
+~4
+の酸化状態を有する元素を有する、軽質オレフィンを製造する
方法。
【請求項10】
前記
階層型ゼオライトは、0.35nm~0.54nmの細孔サイズを有する、請求項9に記載の
方法。
【請求項11】
前記階層型ゼオライトは、0.35~0.54nmのマイクロ細孔および2~10nmのメソ細孔を含む、請求項9または10に記載の
方法。
【請求項12】
前記
階層型ゼオライトは、フェリエライトである、請求項9から11のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項13】
前記
階層型ゼオライトは、20~60のシリカのアルミナに対するモル比を有する、請求項9から12のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項14】
前記元素は、ゲルマニウム、ジルコニウム、またはホウ素から選択される、請求項9から13のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項15】
前記元素は、ゲルマニウムである、請求項14に記載の
方法。
【請求項16】
前記元素は、前記触媒の0.2~1重量%である、請求項9から15のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項17】
4~7個の炭素原子を有する前記炭化水素は、ブタン、ペンタン、ヘキサン、およびヘプタンから選択され得る、請求項9から16のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項18】
前記軽質オレフィンは、エチレン、プロピレン、またはそれらの混合物である、請求項9から17のいずれか一項に記載の
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学分野に関し、詳細には、4~7個の炭素原子を有する炭化水素の接触分解から軽質オレフィンを製造するための触媒、およびその触媒を使用して軽質オレフィンを製造するための工程に関する。
【背景技術】
【0002】
軽質オレフィンの生成産業において、エチレンおよびプロピレンは、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどの多くの重要な重合体の生成において重要な前駆体として一般に使用されており、用いられる生成方法は、熱水蒸気分解工程によって、天然ガスから分離されたエタンまたはナフサ化合物などの前駆体を分解することである。しかしながら、この工程は大変高い温度(800~900℃)で行われるため、高い生成エネルギを必要とする。さらに、この生成工程により、多量の軽質オレフィン、特にエチレンを生成することができるものの、多量の望ましくない副生成物が生成される。副生成物とはメタン、エタン、およびプロパンなどの軽質炭化水素、ならびに生成工程において、蓄積またはいわゆるコーキングを多量に生じ得る9個より多い炭素原子を含有する重質炭化水素である。したがって、反応器を規則的に維持するために、生成工程を停止する必要がある。上述の観点から、軽質オレフィンの生成を向上してより選択的にするために、かつ生成において使われる温度およびエネルギを低減し、コーキングを低減し、かつ頻繁な反応器の維持管理を低減するために、接触分解反応のために好適な化学触媒による、ナフサ化合物を前駆体として使用する軽質オレフィンの生成により、温度およびエネルギを低減することができ、多量の軽質オレフィン生成が可能である。これらの得られた結果は、産業において大変重要であり、従来の生成と比較して環境への有害影響はより少ない。
【0003】
ゼオライト化合物は、関心対象の反応に応じて調整可能である酸性度-塩基性度、熱的安定性、化学的安定性、および形状選択性などの化学的および物理的特性が良好であるために、これまでゼオライト化合物に関して調査および開発がされてきた。これらの特性のために、ゼオライトは、吸着剤、イオン交換体、および不均一系触媒などの様々な用途において適用されてきた。
【0004】
最も高い効力を有して生じる接触分解反応による軽質オレフィンの生成を提供するためには、使用されるゼオライト触媒は、副反応からの副生成物、特に、メタン、エタン、およびプロパンなどの軽質アルカン生成物、芳香族化合物、ならびにコーキングと比較して、関心対象のオレフィンに対して最も高い選択性を与えなければならない。したがって、上記工程において使用されるゼオライト触媒は、オレフィン生成物に対する高い選択性、および触媒の失活を低減するための触媒の開発などに関して継続的に開発されてきた。
【0005】
好適な触媒上での接触分解反応による、ナフサ化合物からの軽質オレフィンの生成工程に関して、Honeywell UOP LLCの研究者ら(US7981273B2、US8157985B2、およびUS20100105974A1)は、好適な触媒を開発し、開発された触媒はアルミノケイ酸塩またはゼオライトの群に属した。この触媒群は、カリウム、ナトリウム、ガリウム、および有機アンモニウムカチオン化合物を添加することによって改変された。有機アンモニウムカチオン化合物は、エチルトリメチルアンモニウム(ETMA)、ジエチルジメチルアンモニウム(DEDMA)、およびテトラエチルアンモニウム(TEA)などであった。さらに、彼らはまた、菱沸石、エリオン沸石、フェリエライト、およびZSM-22などの様々なアルミノケイ酸塩またはゼオライト触媒を調査開発し、ナノ-シリカライトである触媒の第2の群と、200より大きいシリカのアルミナに対する比で混合した。
【0006】
Exxon Mobil Oil Corporationの研究者ら(US6222087B1およびUS20050070422A1)は、前駆体として4~7個の炭素原子を有する炭化水素化合物を使用して軽質オレフィンの生成のための触媒を調査開発した。調査開発された触媒は、300より大きいシリカのアルミナに対する比を有するゼオライトを含むZSM-22、ZSM-35、SAPO-34、ZSM-5、およびZSM-11などの様々なゼオライト触媒であった。さらに、彼らは、酸化リン、ならびにガリウム、チタン、およびジルコニアなどの金属酸化物を添加することによって、ゼオライト触媒を改変させて軽質オレフィンの生成において効率的なものとし、より選択的にし、かつ芳香族化合物およびコーキングを含む軽質アルカンなどの望ましくない副生成物を低減させた。
【0007】
それにもかかわらず、産業における、細孔サイズ、酸性度、および好適な活性部位が改変されていない従来のゼオライト類の使用には、不良な触媒効力、速い失活、ならびに触媒再生の困難さおよび複雑化などの制限がある。従来のゼオライトに制限を与える主たる理由は、オングストロームレベルの小さいサイズを有するゼオライト構造の細孔サイズに起因する物質移動および拡散における制限である。ゼオライト結晶の大きい構造により、前駆体分子が活性部位に入り込むのを困難にする臨界物質移動状態を引き起こし、中間体の再結合反応に起因するコーキングによって触媒失活を引き起こすリスクが高くなる。さらに、外側面上の活性部位での副反応由来の生成物形成など、軽質オレフィンに対する高い選択性を与えるための炭化水素化合物の接触分解反応による軽質オレフィンの生成における従来のゼオライトの使用の他の制限もある。
【0008】
小さい細孔を含み、8~10個のシリコン原子の環配置を有する階層型ゼオライト触媒の開発は、接触分解工程によるナフサ化合物からの軽質オレフィンの生成において重要であり、大変特有である。小さい細孔を含む階層型ゼオライト触媒の発明に関連する特許文献は、以下のものである。特許文献WO2014074492A1は、シリカ、アルミナ、およびアルカリ金属を含む前駆体、ならびに2つのタイプの有機構造指向剤(OSDA)(1つ目はテトラメチルアンモニウムであり、2つ目はピロリジン、1,3-ジアミノプロパン、1-メチルピロリジン、ピペリジン、ピリジン、エチレンジアミン、または1,4-ジアミノブタンであった)から調製される約200nmの小結晶を有するフェリエライトゼオライトであった上記ゼオライト触媒の調製を開示している。さらに、特許文献US4000248は、窒素を含有する有機構造指向剤は、高純度であるフェリエライトゼオライト触媒の合成において構造指向剤として一般に使用されることを確認し、開示している。さらに、これは、有機構造指向剤の不在と比較して、合成において使われる温度および時間を低減し、約500nmの結晶サイズを有することができる。
【0009】
さらに、R.Ahedi et al.(J.Porous Mater.4(1997)171-179)からの研究活動は、シリカおよびアルミナを含有する前駆体、ならびにピロリジンであった有機構造指向剤からのフェリエライトゼオライト触媒の調製を開示している。これは、純度を有し、約10μmでの大きい構造を有し、様々な構造を有するフェリエライトゼオライト触媒をもたらした。次に、P.Wuamprakhon et al.(Micropor. Mesopor.Mater.219(2016)1-9)からの研究活動は、フェリエライトゼオライト触媒の合成において、シリカおよびアルミナを含有する前駆体、ならびにピロリジンであった有機構造指向剤、テンプレート物質を使用してナノ-シート結晶特徴を有するように改変して、ジメチルオクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]塩化アンモニウム(TPOAC)であった規則的なナノ-シート構造、および20~30より大きいシリカのアルミナに対する比を有するフェリエライトゼオライト結晶を得ることを開示している。しかしながら、上記活動は、接触分解工程における使用を開示していない。
【0010】
上述のすべてから、A.Thivasasith et al.(Phys.Chem.Chem.Phys.,21(2019)22215-22223)からの研究活動により、ペンタンのエチレンおよびプロピレンへの接触分解工程のための異なるゼオライトの使用が開示されている。この調査において使用されたゼオライトはフェリエライト、ZSM-5、およびフォージャサイトであった。調査から、上記他のゼオライトと比較して、最小の細孔サイズを有するフェリエライトゼオライトが最も多いエチレンおよびプロピレンを生成できたことを開示している。
【0011】
さらに、ZSM-5ゼオライト上に添加された金属上で5個の炭素原子を有する炭化水素化合物を軽質オレフィンに転化する接触分解工程についての開示があり、その中で、Xu Hou et al. (Micropor.Mesopor.Mater.276(2019)41-51)は、ZSM-5ゼオライト上のジルコニウム(Zr)触媒が、軽質オレフィンの生成において良好な効力を示し、そのようなジルコニウム金属を添加することによるゼオライト触媒の改変を含浸および化学液相成長(CLD)法によって行うことができたことを開示している。
550℃の温度で触媒効力の試験を実行した。触媒は、5個の炭素原子を有する炭化水素化合物の73%を他の生成物に転化することができ、エチレンに対し18%の、プロピレンに対し28%の、およびブテンに対し13%の選択性を有した。さらに、他の金属を添加することによるゼオライトの改変もある。F.Momayez et al.(J.Anal.Appl.Phyrro.112(2015)135-140)からの活動により、5個の炭素原子を有する炭化水素化合物の分解反応のためのゼオライト上の金属触媒の調製および改変が開示されている。含浸法によって金属がゼオライトに添加され、添加された金属の種類はセリウムおよびジルコニウムであった。触媒効力は、600~700℃の温度で試験された。ゼオライト上にジルコニウム金属を添加すると、20%のエチレン生成、および37%のプロピレン生成をもたらすことがわかった。
【0012】
上述のすべての理由から、本発明は、4~7個の炭素原子を有する炭化水素の接触分解からの軽質オレフィン生成のための、8~10個のシリコン原子の環配置を有し、20~80のシリカのアルミナに対するモル比(SiO2/Al2O3)を有する階層型ゼオライト触媒を調製することを目的とし、上記触媒構造は、炭化水素のより良好な流動を提供し、接触分解後、ゼオライトの小さい細孔サイズにより、生成物が軽質オレフィンに対する選択性を有するように制御することができ、コーキング、またはゼオライト細孔内で目詰まりする9個より多い炭素原子を有する炭化水素の低減を含む。これにより、この触媒の使用寿命はより長くなる。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、4~7個の炭素原子を有する炭化水素の接触分解から軽質オレフィンを製造するための触媒、およびその触媒を使用して軽質オレフィンを製造するための工程に関し、上記触媒は、8~10個のシリコン原子の環配置を有するゼオライトと、0.1~2nmのマイクロ細孔、2~50nmのメソ細孔、および50nmより大きいマクロ細孔を含む階層型ゼオライトとを含み、メソ細孔およびマクロ細孔は、全細孔容積と比較して40%より多いか等しく、上記触媒は、触媒の0.1~3重量%で2+~4+の酸化状態を有する元素を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明によるサンプルおよび比較サンプルの結晶の特性を示す。
【
図2】(A)比較サンプルAの走査型電子顕微鏡からの結果を示す。(B)本発明によるサンプル1の走査型電子顕微鏡からの結果を示す。(C)本発明によるサンプル2の走査型電子顕微鏡からの結果を示す。(D)本発明によるサンプル3の走査型電子顕微鏡からの結果を示す。
【
図3】本発明によるサンプルおよび比較サンプルの酸性度を示す。
【
図4】ペンタンの接触分解に関する、本発明によるサンプルおよび比較サンプルの、反応物の生成物への転化率を示す。
【
図5】反応物の生成物への転化率約50%での、ペンタンの接触分解に関する本発明によるサンプルおよび比較サンプルの生成物選択性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、4~7個の炭素原子を有する炭化水素の接触分解から軽質オレフィンを生成するための触媒、およびその触媒を使用して軽質オレフィンを生成するための工程に関し、これらは以下の本発明の態様において説明される。
【0016】
本明細書で説明される任意の態様はまた、別段の定めがない限り、本発明の他の態様への適用を含むことを意味する。
【0017】
本明細書で使用される技術的用語または科学的用語は、別段の定めがない限り、当業者によって理解されるような定義を有する。
【0018】
本明細書において挙げられる任意の器具、設備、方法、または化学物質は、本発明においてのみ特定の器具、設備、方法、または化学物質であるという別段の定めがない限り、当業者によって一般的に操作されるか、または使用される器具、設備、方法、または化学物質を意味する。
【0019】
特許請求の範囲または明細書における「含む(comprising)」を伴う単数名詞または単数代名詞の使用は「1つ」を意味し、かつ「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、「1つ以上」も含む。
【0020】
本願における、開示されるすべての組成物および/または方法ならびに特許請求の範囲は、本発明と著しく異なるいかなる実験も行うことなく、任意の因子の任意の操作、実行、修正、または調節による実施形態を包含し、特許請求の範囲で具体的に記述されていなくても、当業者によれば本実施形態と同じ実用性および結果を有する目的物に当てはまることを意図するものである。したがって、当業者には明白であり得る任意の小幅な修正または調節を含む、本発明の実施形態に対して代替可能な、または同様の目的物は、添付の特許請求の範囲に現れるように、発明の趣旨、範囲、および概念内にとどまるものとして解釈されるべきである。
【0021】
本願を通して、「約(about)」という用語は、装置、方法、または上記装置もしくは方法の個人の使用の任意のエラーの結果変動または逸脱され得る、本明細書において現れるか、または表される任意の数を意味する。
【0022】
以下、発明実施形態が、本発明の任意の範囲を限定するいかなる目的もなしに、示される。
【0023】
本発明は、4~7個の炭素原子を有する炭化水素の接触分解から軽質オレフィンを生成するための触媒に関し、上記触媒は、8~10個のシリコン原子の環配置を有するゼオライトと、0.1~2nmのマイクロ細孔、2~50nmのメソ細孔、および50nmより大きいマクロ細孔を含む階層型ゼオライトとを含み、メソ細孔およびマクロ細孔は、全細孔容積と比較して40%より多いか等しく、上記触媒は、触媒の0.1~3重量%で2+~4+の酸化状態を有する元素を含む。
【0024】
本発明の一態様において、本発明によるゼオライトは、0.35nm~0.54nmの細孔サイズを有する。
【0025】
好ましくは、上記階層型ゼオライトは、0.35~0.54nmの範囲のサイズを有するマイクロ細孔、2~10nmの範囲のサイズを有するメソ細孔を含み、メソ細孔は、全細孔容積と比較して40%より多いか等しい。最も好ましくは、メソ細孔は、全細孔容積と比較して40~60%である。
【0026】
本発明の一態様において、8~10個のシリコン原子の環配置を有するゼオライトはフェリエライトである。
【0027】
本発明の一態様において、ゼオライトは、20~60のシリカのアルミナに対するモル比を有する。
【0028】
本発明の一態様において、2+~4+の酸化状態を有する元素は、ゲルマニウム、ジルコニウム、またはホウ素から選択され、好ましくはゲルマニウムである。
【0029】
本発明の一態様において、上記元素は、触媒の0.1~3重量%の量であり、好ましくは触媒の0.2~1重量%の量である。
【0030】
本発明の一態様において、本発明による触媒は、以下のステップ
(a)アルミナ化合物、シリカ化合物、および軟らかい構造指向剤を含有する溶液を調製するステップと、
(b)ステップ(a)から得られた混合物に階層型ゼオライトを形成させるために、上記混合物を決められた温度および時間で水熱工程に供するステップと、
(c)ステップ(b)からの階層型ゼオライトを乾燥させるステップであって、
ステップ(a)における軟らかい構造指向剤はピロリジンおよび3-(トリメトキシシリル)-プロピル-オクタデシル-ジメチル-アンモニウムクロリド(TPOAC)であり、
ステップ(a)における軟らかい構造指向剤は、シラン基を含有する四級アンモニウム塩である、ステップによって調製されてもよい。
【0031】
本発明の一態様において、ステップ(a)において、ゼオライトを調製するための化合物は、アルミニウムイソプロポキシド、アルミン酸ナトリウム、または硫酸アルミニウムから選択されるアルミナ化合物と、オルトケイ酸テトラエチル、ケイ酸ナトリウム、またはシリカゲルから選択されるシリカ化合物との混合物である。
【0032】
本発明の一態様において、ステップ(a)は、2+~4+の酸化状態を有する元素の前駆体化合物をさらに含んでもよく、前駆体化合物は、酸化ゲルマニウム、塩化ゲルマニウム、ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、またはホウ酸から選択されてもよい。
【0033】
本発明の一態様において、ステップ(b)は、約130~180℃の範囲の温度で3~6日間、行われる。
【0034】
別の態様において、上記触媒調製工程は、乾燥および焼成するステップをさらに含んでもよい。
【0035】
乾燥するステップは、オーブン、真空乾燥、撹拌蒸発、およびロータリエバポレータによる乾燥を用いて、従来の乾燥法によって実行されてもよい。
【0036】
焼成は、大気条件下で約4~10時間、および約400~650℃の範囲の温度で、好ましくは約4~6時間、および約550~600℃の範囲の温度で実行されてもよい。
【0037】
本発明の別の態様において、本発明は、軽質オレフィンを生成するための工程に関し、工程は、約550~650℃の温度および約1~3barの圧力で、4~7個の炭素原子を有する炭化水素化合物を触媒に接触させることを含み、触媒は、上に説明される本発明による触媒から選択される。
【0038】
本発明の一態様において、4~7個の炭素原子を有する炭化水素化合物は、ブタン、ペンタン、ヘキサン、およびヘプタンから選択され得る。
【0039】
本発明の一態様において、接触分解は、固定床方式、移動床方式、流動床方式、またはバッチ方式で行ってもよい。
【0040】
接触分解における炭化水素化合物のフィードラインの単位時間当たりの重量空間速度(WHSV)は、1時間当たり約1~6.5の範囲、好ましくは1時間当たり約2~5の範囲である。
【0041】
一般に、当業者であれば、フィードライン、触媒、および反応器系のタイプおよび組成物に好適であるように接触分解条件を調整することができる。
【0042】
以下の実施例は、本発明の一態様を示すためのみのものであり、いかなる形でも本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0043】
触媒の調製
本発明による触媒の調製は、以下の方法によって行うことができる。
【0044】
その構造中に2+~4+の酸化状態を有する元素を含有する階層型ゼオライトの調製
シリカのアルミナに対するモル比約44で、かつゼオライトの構造指向剤としてピロリジンおよびトリメトキシシリル-プロピル-オクタデシル-ジメチル-アンモニウムクロリドを使用して、硫酸アルミニウムおよびケイ酸ナトリウムを含有する溶液を調製した。インサイチュ法による2+~4+の酸化状態を有する元素の添加は、所望元素の前駆体化合物を、約0.2~1重量%の所望元素のゼオライトに対する比で、アルミナ化合物とシリカ化合物と構造指向剤との混合物に添加することによって行うことができた。次いで、得られた混合物を、上記混合物にゼオライトを形成させるために、約130~180℃の温度、約3~6日間、水熱工程に供した。
【0045】
次いで、得られたゼオライトを、洗浄した水のpHが9より小さくなるまで脱イオン水で洗浄した。得られた物質を約100~200℃の温度で12~24時間乾燥した。次いで、構造指向剤を除去するために、約500~650℃の温度で約8~12時間、物質を焼成した。階層型ゼオライトを白色粉末として得た。
【0046】
次いで、得られたゼオライトを、約80℃の温度で約0.1Mの硝安溶液(NH4NO3)中に溶解することによって、合成されたゼオライト触媒にイオン交換を実行した。混合物を約2時間撹拌し、精製水で洗浄し、次いでゼオライトを乾燥させた。次いで、ゼオライトを約550℃の温度で約6時間焼成した。
【0047】
比較サンプルCat A
比較サンプルCat Aは、硫酸アルミニウムおよびケイ酸ナトリウムを含有する溶液を用いて調製された従来のフェリエライトゼオライトである。
シリカのアルミナに対するモル比は44とし、ゼオライトの構造指向剤としてピロリジンのみを使用した。次いで、得られた混合物を、上記混合物にゼオライトを形成させるために、約130~180℃の温度、約3~6日間、水熱工程に供した。次いで、合成されたゼオライト触媒を洗浄し、得られたゼオライトを、約80℃の温度で約0.1Mの硝安溶液(NH4NO3)中に溶解することによってイオン交換に供した。混合物を約2時間撹拌し、精製水で洗浄し、次いでゼオライトを乾燥させた。次いで、ゼオライトを約550℃の温度で約6時間焼成した。
【0048】
本発明によるサンプルCat 1
ジルコニウムのゼオライトに対する比約0.2重量%で触媒組成物中にジルコニウムを含有するために硝酸ジルコニルを前駆体化合物として使用して階層型ゼオライトを調製するために説明される方法によって、本発明によるサンプルCat 1を調製した。
【0049】
本発明によるサンプルCat 2
ホウ素のゼオライトに対する比約0.5重量%で触媒組成物中にホウ素を含有するためにホウ酸を前駆体化合物として使用して階層型ゼオライトを調製するために説明される方法によって、本発明によるサンプルCat 2を調製した。
【0050】
本発明によるサンプルCat 3
ゲルマニウムのゼオライトに対する比約0.2重量%で触媒組成物中にゲルマニウムを含有するために酸化ゲルマニウムを前駆体化合物として使用して階層型ゼオライトを調製するために説明される方法によって、本発明によるサンプルCat 3を調製した。
【0051】
本発明によるサンプルCat 4
ゲルマニウムのゼオライトに対する比約0.5重量%で触媒組成物中にゲルマニウムを含有するために酸化ゲルマニウムを前駆体化合物として使用して階層型ゼオライトを調製するために説明される方法によって、本発明によるサンプルCat 4を調製した。
【0052】
本発明によるサンプルCat 5
ゲルマニウムのゼオライトに対する比約1重量%で触媒組成物中にゲルマニウムを含有するために酸化ゲルマニウムを前駆体化合物として使用して階層型ゼオライトを調製するために説明される方法によって、本発明によるサンプルCat 5を調製した。
【0053】
生成物として軽質オレフィンを生成するための4~7個の炭素原子を有する炭化水素の接触分解の試験
軽質オレフィンを生成するための4~7個の炭素原子を有する炭化水素の接触分解の試験は、以下の条件下で実行されてもよい。
【0054】
約0.5gの触媒を使用して固定床反応器において接触分解を行った。反応に先立って、約3時間、約40mL/minの流速を有するヘリウムに水素を混合したガスと触媒を接触させた。次いで、5個の炭素原子を有する炭化水素を流速約1g/時間で供給した。大気圧下約600~625℃の温度で反応を行い、単位時間当たりの重量空間速度(WHSV)は1時間当たり約2であった。
【0055】
次いで、固定床反応器の出口を備えたガスクロマトグラフィ法を用い、検出器としてフレームイオン化検出器(FID)、および上記化合物の各組成物の分析を分離するためにGASPROキャピラリカラムを使用して、反応物、および任意の時点で触媒にさらした後の生成組成物の形成の変化を測定することによって反応を監視した。
【0056】
図1は、本発明によるサンプルおよび比較サンプルの結晶の特性を示し、フェリエライトゼオライト構造を示す。
【0057】
さらに、結晶構造を示すために、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、
図2に示すように分析した。
図2は、比較サンプルCat Aは結晶の特定の特徴を有していなかったが、本発明によるサンプルは、3~6μmの範囲の結晶サイズを有し、かつ、比較サンプルより多孔質である球状結晶を有していたことを示す。
【0058】
表1は、比較サンプルおよび本発明によるサンプルの物理的特性を示す。結果によれば、本発明から調製されるゼオライトは、マイクロ細孔およびメソ細孔を含む階層型細孔を有し、メソ細孔は、全細孔容積と比較して40%より多いか等しく、従来のゼオライトより多い量を有したことがわかった。さらに、結晶構造の特徴を示すために、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して分析した。結果を
図2に示した。
図2は、本発明によるゼオライトは、従来のゼオライトと比較して粗い表面を含む階層型細孔を有していたことを示す。
【0059】
【0060】
図3は、本発明による触媒および比較サンプルの酸性度を示す。本発明によるサンプルは、比較サンプルより低い酸性度を有することがわかった。
【0061】
4~7個の炭素原子を有する炭化水素の接触分解からの軽質オレフィンの生成効力について、階層型ゼオライトであり、かつ、金属をその構造の内側に有する触媒の効果を調査するために、本発明による種々の触媒を、比較サンプルを用いて調査した。結果を
図4および
図5に示す。
【0062】
図4は、ペンタンの接触分解に関する、本発明によるサンプルおよび比較サンプルの、反応物の生成物への転化率を示す。本発明によるサンプルは、比較サンプルより良好な効力を与えることがわかった。特に、本発明による触媒の構造は、触媒失活を著しく低減したことがわかった。
【0063】
図5は、反応物の生成物への転化率約50%での、ペンタンの接触分解に関する本発明によるサンプルおよび比較サンプルの生成物選択性を示す。本発明によるサンプルは、比較サンプルと比較して、軽質オレフィンに対する、より高い選択性を与えることがわかった。
【0064】
上述の結果から、本発明の目的において述べたように、階層型ゼオライトであり、かつ、その構造内に2+~4+の酸化状態を有する元素を有する触媒は、4~7個の炭素原子を有する炭化水素の接触分解に関して、反応物の生成物への高い転化率、および軽質オレフィンに対する高い選択性を与えると言うことができる。
[本発明の最良の様式または好ましい実施形態]
【0065】
本発明の最良の様式または好ましい実施形態は、本発明の説明において提供されているとおりである。
[他の可能な項目]
[項目1]
4~7個の炭素原子を有する炭化水素の接触分解から軽質オレフィンを生成するための触媒であって、上記触媒は、環状に配置された8~10個のシリコン原子を有するゼオライトと、0.1~2nmのマイクロ細孔、2~50nmのメソ細孔、および50nmより大きいマクロ細孔を有する階層型ゼオライトとを備え、上記メソ細孔およびマクロ細孔は、全細孔容積の40%またはそれより多く、上記触媒は、上記触媒の0.1~3重量%の、2+~4+の酸化状態を有する元素を備える、触媒。
[項目2]
上記ゼオライトは、0.35nm~0.54nmの細孔サイズを有する、項目1に記載の触媒。
[項目3]
上記階層型ゼオライトは、0.35~0.54nmのマイクロ細孔および2~10nmのメソ細孔を含み、上記メソ細孔は、上記全細孔容積の40%またはそれより多い、項目1に記載の触媒。
[項目4]
上記メソ細孔は、上記全細孔容積の40~60%である、項目3に記載の触媒。
[項目5]
上記ゼオライトは、フェリエライトである、項目1に記載の触媒。
[項目6]
上記ゼオライトは、20~60のシリカのアルミナに対するモル比を有する、項目1に記載の触媒。
[項目7]
上記元素は、ゲルマニウム、ジルコニウム、またはホウ素から選択される、項目1に記載の触媒。
[項目8]
上記元素は、ゲルマニウムである、項目7に記載の触媒。
[項目9]
上記元素は、上記触媒の0.2~1重量%である、項目1、7、または8に記載の触媒。
[項目10]
550~650℃の温度および1~3barの圧力で、4~7個の炭素原子を有する炭化水素を上記触媒に接触させる段階を備える、軽質オレフィンを生成するための工程であって、上記触媒は、環状に配置された8~10個のシリコン原子を有するゼオライトと、0.1~2nmのマイクロ細孔、2~50nmのメソ細孔、および50nmより大きいマクロ細孔を含む階層型ゼオライトとを有し、上記メソ細孔およびマクロ細孔は、上記全細孔容積の40%またはそれより多く、上記触媒は、上記触媒の0.1~3重量%の、2+~4+の酸化状態を有する元素を有する、工程。
[項目11]
上記ゼオライトは、0.35nm~0.54nmの細孔サイズを有する、項目10に記載の工程。
[項目12]
上記階層型ゼオライトは、0.35~0.54nmのマイクロ細孔および2~10nmのメソ細孔を含み、上記メソ細孔は、上記全細孔容積の40%またはそれより多い、項目10に記載の工程。
[項目13]
上記メソ細孔は、上記全細孔容積の40~60%である、項目10に記載の工程。
[項目14]
上記ゼオライトは、フェリエライトである、項目10に記載の工程。
[項目15]
上記ゼオライトは、20~60のシリカのアルミナに対するモル比を有する、項目10に記載の工程。
[項目16]
上記元素は、ゲルマニウム、ジルコニウム、またはホウ素から選択される、項目10に記載の工程。
[項目17]
上記元素は、ゲルマニウムである、項目16に記載の工程。
[項目18]
上記元素は、上記触媒の0.2~1重量%である、項目10、15、または16に記載の工程。
[項目19]
4~7個の炭素原子を有する上記炭化水素は、ブタン、ペンタン、ヘキサン、およびヘプタンから選択され得る、項目10に記載の工程。
[項目20]
上記軽質オレフィンは、エチレン、プロピレン、またはそれらの混合物である、項目10に記載の工程。