IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 味の素株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学の特許一覧

<>
  • 特許-組成物 図1
  • 特許-組成物 図2
  • 特許-組成物 図3
  • 特許-組成物 図4
  • 特許-組成物 図5
  • 特許-組成物 図6
  • 特許-組成物 図7
  • 特許-組成物 図8
  • 特許-組成物 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/856 20230101AFI20240220BHJP
   H10N 10/855 20230101ALI20240220BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20240220BHJP
   C08L 89/00 20060101ALI20240220BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240220BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20240220BHJP
【FI】
H10N10/856
H10N10/855
C08K3/01
C08L89/00
C08L101/00
B82Y30/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019001455
(22)【出願日】2019-01-08
(65)【公開番号】P2020113583
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井之上 一平
(72)【発明者】
【氏名】岡本 尚文
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅一
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-241355(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047882(WO,A1)
【文献】特開2017-011107(JP,A)
【文献】特開2015-115476(JP,A)
【文献】特開2016-171313(JP,A)
【文献】特開2010-123885(JP,A)
【文献】特開2011-046608(JP,A)
【文献】特開2014-033189(JP,A)
【文献】特開2014-146708(JP,A)
【文献】特開2015-073085(JP,A)
【文献】特開2015-103609(JP,A)
【文献】特開2004-121154(JP,A)
【文献】国際公開第2006/068250(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/086647(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/022051(WO,A1)
【文献】特開2017-224815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/856
H10N 10/855
C08K 3/01
C08L 89/00
C08L 101/00
B82Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)導電性材料、
(B)タンパク質、及び
(C)高分子材料、を含む組成物であって、
(A)成分の含有量が、組成物中の固形分を100質量%とした場合、10質量%以上75質量%以下であり、
(B)成分の含有量が、組成物中の固形分を100質量%とした場合、1質量%以上50質量%以下であり、
(C)成分の含有量が、組成物中の固形分を100質量%とした場合、0.01質量%以上0.2質量%以下であり、
(A)成分が、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、金属ウィスカー繊維、及び金属酸化物ウィスカー繊維から選択される1種以上であり
(B)成分が、フェリチンであり
(C)成分が、ポリビニルアルコールを含み、
(A)成分が、(B)成分中に内包されており、
(C)成分が、(A)成分及び(B)成分の複合体を被覆している、組成物。
【請求項2】
(A)導電性材料、
(B)タンパク質、及び
(C)高分子材料、を含む組成物であって、
(A)成分の含有量が、組成物中の固形分を100質量%とした場合、10質量%以上75質量%以下であり、
(B)成分の含有量が、組成物中の固形分を100質量%とした場合、1質量%以上50質量%以下であり、
(C)成分の含有量が、組成物中の固形分を100質量%とした場合、1質量%以上10質量%以下であり、
(A)成分が、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、金属ウィスカー繊維、及び金属酸化物ウィスカー繊維から選択される1種以上であり
(B)成分が、フェリチンであり、
(C)成分が、ポリエチレンイミンを含み、
(A)成分が、(B)成分中に内包されており、
(C)成分が、(A)成分及び(B)成分の複合体を被覆している、組成物。
【請求項3】
導電性繊維が、カーボンナノチューブである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
(i)請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物を、吐出口を有する容器に充填する工程、及び
(ii)吐出口を有する容器に充填された組成物を貧溶媒中に吐出する工程、を含む、半導体の製造方法。
【請求項5】
n型半導体である、請求項に記載の半導体の製造方法
【請求項6】
糸状の半導体である、請求項又はに記載の半導体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、当該組成物を使用した半導体、及び熱電変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料は、熱と電力とを変換する素子であり、p型半導体及びn型半導体を組み合わせて用いることにより、熱電変換材料の両端に温度差を生じさせて起電力が生じるゼーベック効果を利用したものが一般的である。
【0003】
このような熱電変換材料は、様々なものが提案されており、例えば特許文献1には、複数の導電性材料と、導電性コア部及び絶縁性シェル部を有するコアシェル粒子を有する熱電変換材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-241355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱電変換材料の性能は、パワーファクターPF(=ασ)及び無次元性能指数ZT(=ασT/κ)で評価される(ここで、αはゼーベック係数、σは導電率、κは熱伝導率、Tは絶対温度である。)。パワーファクターPFは、熱電変換材料から得られる電力に対応し、無次元性能指数ZTは、エネルギー変換効率に対応しており、ともに値が大きい方が熱電変換材料としての性能がよい。また、ゼーベック係数の絶対値が大きければ、パワーファクターPF及び無次元性能指数ZTはともに値が大きくなり、熱電変換材料としての性能がより向上する。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、実用的な新たな半導体を形成し得る組成物、当該組成物を使用した半導体、及び熱電変換材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、(A)導電性材料、(B)タンパク質、及び(C)高分子材料を含む組成物を用いて形成した半導体は、ゼーベック係数の絶対値が大きい半導体になり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
[1] (A)導電性材料、
(B)タンパク質、及び
(C)高分子材料、を含む組成物。
[2] 組成物に含まれる固形分が、組成物を100質量%としたとき、0.2質量%以上51質量%以下である、[1]に記載の組成物。
[3] (A)成分の含有量が、組成物中の固形分を100質量%とした場合、0.2質量%以上81質量%以下である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] (B)成分の含有量が、組成物中の固形分を100質量%とした場合、0.1質量%以上70質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] (C)成分の含有量が、組成物中の固形分を100質量%とした場合、0.001質量%以上99.7質量%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] (A)成分が、導電性繊維である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7] 導電性繊維が、カーボンナノチューブである、[6]に記載の組成物。
[8] (B)成分が、かご状タンパク質である、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9] かご状タンパク質が、球殻状タンパク質である、[8]に記載の組成物。
[10] (C)成分が、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、非イオン性ポリマー、及び生体適合性ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11] (C)成分が、カチオン性ポリマー、及びアニオン性ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12] (C)成分が、ポリビニルアルコール、及びポリエチレンイミンから選ばれる少なくとも1種である、[1]~[11]のいずれかに記載の組成物。
[13] (A)導電性材料、(B)タンパク質、及び(C)高分子材料を含む、半導体。
[14] n型半導体である、[13]に記載の半導体。
[15] 糸状の半導体である、[13]又は[14]に記載の半導体。
[16] [13]~[15]のいずれかに記載の半導体を有する熱電変換材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゼーベック係数の絶対値が大きい半導体を形成し得る組成物、当該組成物を使用した半導体、及び熱電変換材料を提供できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、調製例2で得たCNT-CDps複合体の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
図2図2は、実施例1Bで、組成物を貧溶媒に吐出した直後に得られたPVA添加CNT-CDps糸の写真図(左)及びそれを乾燥させた写真図(右)である。
図3図3は、ゼーベック係数αを測定するために使用した装置の概略図である。
図4図4は、比較例1の伸び率及び応力の値を1としたときの実施例1A~32AにおけるPVA添加CNT-CDps糸の伸び率及び応力の相対値を示すグラフである。
図5図5は、比較例1の導電率σ、ゼーベック係数α、及びパワーファクターPFの値を1としたときの実施例1D~3DにおけるPVA添加CNT-CDps糸の導電率σ、ゼーベック係数α、及びパワーファクターPFの相対値を示すグラフである。
図6図6は、実施例1D~3Dにおける(C)成分の終濃度とゼーベック係数αとの関係性を示したグラフである。
図7図7は、実施例1F~3Fにおける(C)成分の終濃度とゼーベック係数αとの関係性を示したグラフである。
図8図8は、実施例1Hにおける(C)成分の終濃度とゼーベック係数αとの関係性を示したグラフである。
図9図9は、実施例1Iで製造したフィルム状のPVA添加CNT-CDps複合体を示した写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態及び例示物を示して、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に挙げる実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
[組成物]
本発明の組成物は、(A)導電性材料、(B)タンパク質、及び(C)高分子材料を含む。また、この組成物は、さらに溶剤を含み得る。本発明の組成物から形成された半導体は、ゼーベック係数の絶対値が大きい半導体になり得る。
【0013】
<(A)導電性材料>
組成物は(A)導電性材料を含有する。(A)導電性材料としては、導電性を有する材料であれば特に制限されず、例えば、金属、半導体材料、炭素材料等が挙げられる。金属としては、例えば、金、銀、ニッケル、銅、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム、鉄、コバルト、スズ、アルミニウム、タリウム、亜鉛、ニオブ、チタン、インジウム、タングステン、モリブデン、クロム、バナジウム、タンタル、及びこれらの酸化物等が挙げられる。半導体材料としては、シリコン、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(SiN)、ゲルマニウム(Ge)、窒化ガリウム(GaN)、ヒ化ガリウム(GaAs)、ガリウムリン(GaP)、インジウムリン(InP)、インジウム砒素(InAs)、インジウムアンチモン(InSb)、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの中でも、好適な熱電変換材料とする観点から炭素材料であることが好ましい。導電性材料は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
(A)導電性材料は、好適な熱電変換材料を得る観点から、導電性繊維であることが好ましい。導電性繊維としては、例えば、炭素材料からなる導電性繊維、金属からなる導電性ナノワイヤ等が挙げられる。炭素材料からなる導電性繊維としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、金属ウィスカー繊維、金属酸化物ウィスカー繊維などが挙げられ、これらの中でもカーボンナノチューブ、カーボンナノホーンが好ましい。
【0015】
(A)導電性材料のアスペクト比としては、好適な熱電変換材料を得る観点から、好ましくは1以上、より好ましくは10以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは100,000以下である。アスペクト比とは、導電性材料の長軸(粒子径の最も長い部分の長さ)の長さを短軸(長径の垂直方向の長さ)の長さで除して求めたものを意味する。
【0016】
(A)導電性材料の長軸の長さとしては、好適な熱電変換材料を得る観点から、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは1μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは10μm以下である。
【0017】
(A)導電性材料の短軸の長さとしては、好適な熱電変換材料を得る観点から、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは1nm以上であり、好ましくは1000nm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0018】
(A)導電性材料の含有量としては、好適な熱電変換材料を得る観点から、組成物中の固形分を100質量%とした場合、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上であり、好ましくは81質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下、55質量%以下、45質量%以下、35質量%以下である。
【0019】
なお、後述する(C)高分子材料がアニオン性ポリマーを含む場合、剛性に優れる半導体を得る観点から、(A)導電性材料の含有量としては、組成物中の固形分を100質量%とした場合、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上であり、好ましくは75質量%以下、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下、45質量%以下、35質量%以下である。
【0020】
後述する(C)高分子材料がカチオン性ポリマーを含む場合、n型半導体を得る観点から、(A)導電性材料の含有量としては、組成物中の固形分を100質量%とした場合、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上であり、好ましくは81質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下、55質量%以下、45質量%以下、35質量%以下である。
【0021】
<(B)タンパク質>
タンパク質としては、導電性材料に吸着できる限り特に限定されず、導電性材料に対する特異的または非特異的な結合能を有するタンパク質を利用することができる。タンパク質としては、無機粒子を内包できるかご状タンパク質が好ましく、球殻状タンパク質がより好ましい。
【0022】
好ましくは、球殻状タンパク質は、フェリチンである。フェリチンは、動植物から微生物まで普遍的に存在する、複数の単量体から構成される内腔を有する球殻状タンパク質である。動植物(例、ヒト等の哺乳動物、ダイズ等の植物)では、フェリチンとしてH鎖およびL鎖の2種の単量体が存在すること、フェリチンは24個の単量体から構成される多量体であること、ならびにフェリチンを構成する24個の単量体は、H鎖もしくはL鎖のみ、またはH鎖またはL鎖の混合物が可能であることが知られている。一方、微生物では、フェリチンは、Dps(DNA-binding protein from starved cells)とも呼ばれており、12個の単量体から構成される多量体であることが知られている。フェリチンは、生体あるいは細胞中の鉄元素のホメオスタシスに深く関わっており、その内腔中に鉄を保持できるため、鉄の輸送・貯蔵等の生理学的機能の役割を担うことが知られている。フェリチンは、鉄以外にも、ベリリウム、ガリウム、マンガン、リン、ウラン、鉛、コバルト、ニッケル、クロムなどの金属の酸化物、また、セレン化カドミウム、硫化亜鉛、硫化鉄、硫化カドミウムなどの半導体・磁性体などのナノ粒子を人工的に貯蔵できることが示されており、半導体材料工学分野や医療分野での応用研究が盛んに行われている。したがって、本発明では、このようなフェリチンを利用することができる。
【0023】
フェリチンを発現する動植物としては、例えば、霊長類(例、ヒト、サル、チンパンジー)、齧歯類(例、マウス、ラット、ウサギ)、家畜または使役動物(例、ウシ、ブタ、ウマ)、愛玩動物(例、イヌ、ネコ)等の哺乳動物、および植物(例、ダイズ)等が挙げられる。
【0024】
フェリチンを発現する微生物としては、例えば、リステリア(Listeria)属細菌〔例、リステリア・イノキュア(Listeria innocua)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)〕、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌〔例、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus Aureus)〕、バチルス(Bacillus)属細菌〔例、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)〕、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌〔例、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)〕、エスケリシア(Escherichia)属細菌〔例、エスケリシア・コリ(Escherichia coli)〕、ならびにコリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌〔例、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)〕が挙げられる。
【0025】
本発明では、組成物およびそれにより作製される半導体の特性の調整等の観点より、上述したようなナノ粒子を内包する球殻状タンパク質を使用してもよい。ナノ粒子を内包する球殻状タンパク質の調製は、周知である(例、国際公開第2012/086647号、国際公開第2013/022051号、特開2017-224815号公報)。
【0026】
上述の球殻状タンパク質のサブユニットは、多量体の形成能を維持するように1または数個若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加、または挿入された変異体であってもよい。なお、変異体は、公知の遺伝子工学的手法を使用することによって作製することができる。
【0027】
球殻状タンパク質はまた、導電性材料への強い結合能を有するように、導電性材料への結合能を有するペプチドが融合(例、付加、または挿入)された単量体タンパク質から構成されるタンパク質であってもよい。導電性材料としては、例えば、カーボンナノ材料〔例、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノファイバー(CNF)〕、フラーレン(C60)、グラフェン、グラファイト、金属ウィスカー繊維、および金属酸化物ウィスカー繊維が挙げられること、ならびにこれらの導電性材料への結合能を有する種々のペプチドが存在することが知られている(例、特開2004-121154号公報;特開2004-121154号公報;M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40-44;国際公開第2006/068250号;国際公開第2012/086647号;国際公開第2013/022051号;特開2014-241355号公報)。
【0028】
好ましくは、導電性材料への結合能を有するペプチドは、カーボンナノチューブ(CNT)またはカーボンナノホーン(CNH)等のカーボンナノ材料に対する結合能を有するペプチドであってもよい。このようなペプチドとしては、例えば、国際公開第2006/068250号に記載されるペプチド(例、DYFSSPYYEQLF(配列番号3))、M.J.Pender et al.,Nano Lett.,2006,vol.6,No.1,p.40-44に開示されるペプチド(HSSYWYAFNNKT(配列番号4))、ならびに特開2004-121154号公報に開示されるペプチド(例、YDPFHII(配列番号5))、またはそれらの変異ペプチド(例、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基の保存的置換等の変異)、あるいはこのようなアミノ酸配列を1個または複数有するペプチドが挙げられる。
【0029】
また、球殻状タンパク質に上記のようなペプチドを化学的に結合させてもよい。このような化学的な結合方法としては、公知の方法を用いることができる(例、Proteins second edition, T. E. Creighton, W. H. Freemen and Company, New York, 1993.;G. T. Hermanson, in Bioconjugate Techniques, ed. G. T. Hermanson, Academic Press, San Diego CA, 1996, pp. 169-186;特開2014-241355号公報)。
【0030】
タンパク質の含有量としては、本発明の効果を顕著に得る観点から、組成物中の固形分を100質量%とした場合、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、5質量%以上、9質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、45質量%以下、35質量%以下、25質量%以下である。
【0031】
なお、後述する(C)高分子材料がアニオン性ポリマーを含む場合、剛性に優れる半導体を得る観点から、タンパク質の含有量としては、組成物中の固形分を100質量%とした場合、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、好ましくは65質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下、35質量%以下、25質量%以下である。
【0032】
後述する(C)高分子材料がカチオン性ポリマーを含む場合、n型半導体を得る観点から、タンパク質の含有量としては、組成物中の固形分を100質量%とした場合、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは9質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、45質量%以下、35質量%以下、25質量%以下である。
【0033】
また、タンパク質の含有量としては、(A)導電性材料を100質量%とした場合、好ましくは40質量%以上、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0034】
<(C)高分子材料>
組成物は(C)高分子材料を含有する。(C)高分子材料は、(A)導電性材料及び(B)タンパク質の複合体を被覆する形態となり得る。(C)高分子材料を組成物に含有させることで、剛性に優れる半導体を得ることができるようになり、(C)高分子材料によってはn型の半導体を得やすくなる。
【0035】
(C)高分子材料の数平均分子量としては、好適な熱電変換材料を得る観点から、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、さらに好ましくは300以上であり、好ましくは1000000以下、より好ましくは500000以下、さらに好ましくは100000以下である。(C)高分子材料の数平均分子量は、ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定することができる。
【0036】
(C)高分子材料としては、好適な熱電変換材料を得る観点から、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、非イオン性ポリマー、及び生体適合性ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。高分子材料は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
カチオン性ポリマーは、一般に(A)導電性材料に付着している酸素の吸着能を有することから、組成物から得られる半導体をn型にし得る。カチオン性ポリマーとしては、カチオン性基を有するポリマーを用いることができ、例えば、第1級~第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、ヒドラジン等のNH結合又はアミノ基を有するポリマーであることが好ましい。
【0038】
カチオン性ポリマーの具体例としては、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド-SO共重合物、ジメチルアミノエチルメタクリレート重合物又はそれらの酸中和物、ポリメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、アミン-エピクロロヒドリン共重合体、ポリビニルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、(メタ)アクリレート及びこれらの酸中和物やブロックポリマー等の共重合体が挙げられる。これらはカチオン性基等の導入基により変性されていてもよい。中でも、カチオン性ポリマーとしては、n型の半導体を得る観点から、ポリエチレンイミンが好ましい。
【0039】
カチオン性ポリマーは、市販品を用いてもよく、市販品としては、シグマアルドリッチ社製の「408719」(Cas.No.25987-06-8)、「408727」(Cas.No.9002-98-6)、「764892」、「764647」、「764965」、「479136」(Cas.No.30551-89-4)、「479144」(Cas.No.30551-89-4)、「522376」(Cas.No.26062-79-3)、「409022」(Cas.No.26062-79-3)、「409030」(Cas.No.26062-79-3)等が挙げられる。
【0040】
(A)導電性材料及び(B)タンパク質の複合体は、アニオン性ポリマーにより被覆されることで、組成物から形成される半導体の剛性を向上させることができる。アニオン性ポリマーとしては、アニオン性基を有するポリマーを用いることができ、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン基等を有するポリマーであることが好ましい。
【0041】
アニオン性ポリマーの具体例としては、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ポリ酢酸ビニル、アニオン性基により変性された重合体、及びこれらの共重合体等が挙げられる。これらはアニオン性基等の導入基により変性されていてもよい。中でも、アニオン性ポリマーとしては、半導体の剛性を向上させる観点から、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0042】
アニオン性ポリマーは、市販品を用いてもよく、市販品としては、日本合成化学工業社製のニチゴーGポリマーシリーズの「AZF8035W」、「AYB8041W」;日本合成化学工業社製のゴーセネックスシリーズの「K-434」、「T-330H」、「L-3266」、「WO-320-N」、日本酢ビ・ポバール社製の「JP-05」、「JP-18」、「JF-17」、「JC-25」等が挙げられる。
【0043】
非イオン性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、及びこれらの共重合体等が挙げられる。
【0044】
生体適合性ポリマーとしては、例えば、プルラン、コラーゲン及びこれらの共重合体等が挙げられる。
【0045】
(C)高分子材料は、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、非イオン性ポリマー、及び生体適合性ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、カチオン性ポリマー、及びアニオン性ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、ポリビニルアルコール及びポリエチレンイミンから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0046】
(C)高分子材料の含有量としては、n型の半導体及び剛性に優れる半導体のいずれか得る観点から、組成物中の固形分を100質量%とした場合、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは、0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上、0.1質量%以上であり、0.2質量%以上、0.3質量%以上であり、好ましくは99.7質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、45質量%以下、35質量%以下、25質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下である。
【0047】
また、(C)高分子材料の含有量としては、n型の半導体及び剛性に優れる半導体のいずれか得る観点から、(A)導電性材料を100質量%とした場合、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは、0.01質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上、0.2質量%以上であり、0.4質量%以上、0.6質量%以上であり、好ましくは99.7質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、45質量%以下、35質量%以下、25質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、5質量%以下である。
【0048】
(C)高分子材料がカチオン性ポリマーを含む場合、カチオン性ポリマーの含有量としては、n型の半導体を得る観点から、組成物中の固形分を100質量%とした場合、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上であり、好ましくは99.7質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、55質量%以下である。
【0049】
また、(C)高分子材料がカチオン性ポリマーを含む場合、カチオン性ポリマーの含有量としては、n型の半導体を得る観点から、(A)導電性材料を100質量%とした場合、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、好ましくは99.7質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、55質量%以下である。
【0050】
(C)高分子材料がアニオン性ポリマーを含む場合、アニオン性ポリマーの含有量としては、剛性に優れる半導体を得る観点から、組成物中の固形分を100質量%とした場合、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは、0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上であり、好ましくは55質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下、25質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下である。
【0051】
また、(C)高分子材料がアニオン性ポリマーを含む場合、アニオン性ポリマーの含有量としては、剛性に優れる半導体を得る観点から、(A)導電性材料を100質量%とした場合、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは、0.03質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは55質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下、25質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下である。
【0052】
<溶剤>
組成物は、溶剤を含有していてもよい。溶剤としては、水溶性の有機溶剤、無機溶剤を利用することができる。水溶性の有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;ギ酸、酢酸等のカルボン酸類等が挙げられる。無機溶剤としては、例えば、水等が挙げられる。これらの中でも、n型の半導体を得る観点から、水が好ましい。ここで、本発明の組成物のうち、溶剤として水を含有する、即ち組成物の水溶液を水性組成物ということがある。
【0053】
上述した組成物中に含まれる溶剤の含有量は、組成物の吐出にしやすさの観点から、組成物の全質量に対して、好ましくは99.8質量%以下、より好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは98質量%以下、97質量%以下、96質量%以下、95質量%以下であり、好ましくは49質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上である。
【0054】
<他の添加剤>
組成物には、さらに必要に応じて、他の添加剤を含んでいてもよく、斯かる他の添加剤としては、例えば、pH調整剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、及び着色剤等の添加剤等が挙げられる。
【0055】
組成物に含まれる固形分としては、組成物を100質量%としたとき、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上、1質量%以上、1.5質量%以上であり、好ましくは51質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、35質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、5質量%以下である。
【0056】
<組成物の製造方法>
組成物は、例えば、下記(I)及び(II)の工程を含む方法により製造することができる。
(I)(A)導電性材料及び(B)タンパク質を含む複合体を調製する工程
(II)複合体及び(C)高分子材料を、溶剤中で懸濁する工程
【0057】
(I)工程では、(A)導電性材料及び(B)タンパク質を含む複合体を調製する。通常は、(B)タンパク質を(A)導電性材料に吸着させて、(B)タンパク質が(A)導電性材料に吸着した複合体を得る。この工程は、例えば、金属酸化物に結合するタンパク質を用いて実施することもでき、また、例えば、複合体は、(B)タンパク質としてのかご状タンパク質とその中に内包された(A)導電性材料とを含んでいてもよい。なお、(I)工程の前に(B)タンパク質を準備する工程を含んでいてもよい。
【0058】
吸着は、(B)タンパク質の(A)導電性材料に対する吸着を促進する観点から、超音波処理にて行うことが好ましい。超音波の出力としては、(B)タンパク質の(A)導電性材料に対する吸着を促進する観点から、好ましくは50W以上、より好ましくは100W以上、さらに好ましくは150W以上であり、好ましくは500W以下、より好ましくは300W以下、さらに好ましくは250W以下である。また、超音波処理時間としては、(B)タンパク質の(A)導電性材料に対する吸着を促進する観点から、好ましくは0.5分間、より好ましくは1分間、さらに好ましくは2分間であり、好ましくは15分間、より好ましくは10分間、さらに好ましくは5分である。
【0059】
前記の吸着は、例えば水又は緩衝液等の溶液中で(A)導電性材料と(B)タンパク質とを混合することにより行ってもよい。緩衝液としては、(B)タンパク質が(A)導電性材料と吸着可能とする緩衝液を用いることができる。このような緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液;HEPES緩衝液等のグッド緩衝液;トリス塩酸緩衝液等が挙げられ、リン酸緩衝液、グッド緩衝液が好ましく、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液がより好ましい。緩衝液は、例えば(B)タンパク質の表面電荷や親水度を変化させることを目的として、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム等の成分をさらに含んでいてもよい。
【0060】
緩衝液の水素イオン濃度指数(pH)は、(A)導電性材料としての材料及び(B)タンパク質に応じて任意好適な範囲に調整することができる。(A)導電性材料として、カーボンナノチューブ(CNT)を用いる場合には、(B)タンパク質の(A)導電性材料に対する吸着性を良好にする観点から、pHを4以上、好ましくは5以上、さらに好ましくは5.5以上であり、好ましくは9以下、より好ましくは7以下、さらに好ましくは7.5以下である。
【0061】
(I)工程終了後、通常は緩衝液中に複合体を含む複合体含有溶液(複合体溶液)が得られる。必要に応じて、この複合体溶液から緩衝液を除去するとともに(A)導電性材料に吸着しなかった(B)タンパク質を除去する。好適な一実施形態としては、得られた複合体溶液の余分な水分を除去した後、さらに純水を滴下する。
【0062】
複合体における(B)タンパク質の量としては、導電性に優れる熱電変換材料を得る観点から、(A)導電性材料1mgあたり、好ましくは0.5mg、より好ましくは1mg、さらに好ましくは2mgであり、好ましくは10mg、より好ましくは5mg、さらに好ましくは3mgである。タンパク質の量は、後述する実施例に記載の方法により行うことができる。
【0063】
(II)工程では、複合体及び(C)高分子材料を、溶剤中で懸濁する。詳細は、(I)工程で調製した複合体と(C)高分子材料とを溶剤中で懸濁させ、複合体が(C)高分子材料で被覆された複合体(以下、(C)成分が添加された複合体ということがある。)溶液を得る。
【0064】
(II)工程にて用いる溶剤としては、[組成物]欄の<溶剤>にて説明したとおりである。
【0065】
複合体及び(C)高分子材料の懸濁は、撹拌により行う。撹拌時の温度としては、複合体における(C)高分子材料の被覆を促進する観点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上であり、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下である。また、撹拌時間としては、複合体における(C)高分子材料の被覆を促進する観点から、好ましくは15分間以上、より好ましくは30分間以上、さらに好ましくは1時間以上であり、好ましくは3時間以下、より好ましくは2.5時間以下、さらに好ましくは2時間以下である。
【0066】
[半導体、半導体の製造方法]
本発明の半導体は、(A)導電性材料、(B)タンパク質、及び(C)高分子材料を含む。通常は、(A)導電性材料及び(B)タンパク質を含む複合体を(C)高分子材料が吸着している。半導体は、液状の組成物により形成されることから、様々な形状の半導体となり得る。本発明の半導体の形状としては、例えば、糸状、フィルム状、ペレット状等が挙げられる。
【0067】
半導体が糸状の場合、直径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは900μm以下、さらに好ましくは800μm以下である。また、長さは、好ましくは1cm以上、より好ましくは1.5cm以上、さらに好ましくは2cm以上であり、好ましくは100m以下、より好ましくは50m以下、さらに好ましくは10m以下である。
【0068】
半導体の製造方法の好適な一実施形態としては、組成物を用いて、下記(i)及び(ii)の工程を含む方法により製造することができる。
(i)組成物を、吐出口を有する容器に充填する工程
(ii)吐出口を有する容器に充填された組成物を貧溶媒中に吐出する工程
【0069】
(i)工程では、組成物を、吐出口を有する容器に充填する。(i)工程にて用いる吐出口を有する容器としては、例えば、シリンジ、ディスペンサー等が挙げられ、シリンジが好ましい。容器の吐出口の形状、又はシリンジ等に設ける針の形状によって、半導体の形状を変えることができる。
【0070】
(ii)工程では、吐出口を有する容器に充填された組成物を貧溶媒中に吐出する。組成物中の(C)成分の種類及び含有量等によっても異なるが、組成物を吐出させる貧溶媒を変えることによって得られる半導体をn型又はp型に変えることができる。
【0071】
貧溶媒としては、例えば、メタノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)等のアルコール類;アセトン等のケトン類等が挙げられる。これら貧溶媒の中でも、p型の半導体を得る場合は貧溶媒としてメタノールを用いることが好ましい。また、n型の半導体を得る場合は、貧溶媒として2-プロパノール、ケトン類を用いることが好ましい。
【0072】
吐出速度としては、組成物中の固形分の種類等によっても異なるが、所望の半導体を得る観点から、好ましくは1ml/h以上、好ましくは3ml/h以上、より好ましくは5ml/h以上であり、好ましくは20ml/h以下、より好ましくは15ml/h以下、さらに好ましくは10ml/h以下である。
【0073】
貧溶媒は、回転可能なディッシュ中に収納されていてもよい。この場合、ディッシュの回転速度としては、所望の半導体を得る観点から、好ましくは1ml/h以上、好ましくは3ml/h以上、より好ましくは5ml/h以上であり、好ましくは20ml/h以下、より好ましくは15ml/h以下、さらに好ましくは10ml/h以下である。
【0074】
半導体の製造方法の他の好適な一実施形態としては、組成物をナイロンシート等の支持体上に塗布することにより半導体を形成する。塗布の方法としては、すでに知られている方法を用いることができる。
【0075】
<半導体の物性等>
半導体は、通常、伸び率に優れるという特性を示す。伸び率としては、好ましくは4%以上、より好ましくは7%以上、さらに好ましくは10%以上である。上限は特に制限はないが、50%以下等とし得る。伸び率の測定は、後述する実施例に記載に従って測定することができる。
【0076】
半導体は、通常、応力に優れるという特性を示す。応力としては、好ましくは30MPa以上、より好ましくは40MPa以上、さらに好ましくは50MPa以上、73MPa以上である。上限は特に制限はないが、200MPa以下等とし得る。応力の測定は、後述する実施例に記載に従って測定することができる。
【0077】
本発明の半導体は、p型及びn型の場合もゼーベック係数の絶対値が高いことから、熱電変換材料として有用であるという特性を示す。半導体がp型である場合、ゼーベック係数としては、好ましくは20μV/K以上、より好ましくは21μV/K以上、さらに好ましくは22μV/K以上である。上限は特に制限はないが、100μV/K以下等とし得る。また、半導体がn型である場合、ゼーベック係数としては、好ましくは-3μV/K以下、より好ましくは-5μV/K以下、さらに好ましくは-10μV/K以下である。下限は特に制限はないが、-100μV/K以上等とし得る。ゼーベック係数の測定は、後述する実施例に記載に従って測定することができる。
【0078】
半導体は、通常、導電率が高いという特性を示す。導電率としては、好ましくは5S/cm以上、より好ましくは7S/cm以上、さらに好ましくは10S/cm以上である。上限は特に制限されないが、100S/cm以下等とし得る。導電率の測定は、後述する実施例に記載に従って測定することができる。
【0079】
半導体は、ゼーベック係数の絶対値が高いことから、パワーファクターも高いという特性を示す。パワーファクターとしては、半導体がp型である場合、好ましくは3μW/mK以上、より好ましくは4μW/mK以上、さらに好ましくは5μW/mK以上である。上限は特に制限されないが、10μW/mK以下等とし得る。また、半導体がn型である場合、好ましくは0.1μW/mK以上、より好ましくは0.2μW/mK以上、さらに好ましくは0.3μW/mK以上である。上限は特に制限されないが、10μW/mK以下等とし得る。パワーファクターの測定は、後述する実施例に記載に従って測定することができる。
【0080】
本発明の半導体としては、n型半導体に対する知見があまり知られていない観点から、n型半導体であることが好ましい。
【0081】
[熱電変換材料]
本発明の熱電変換材料は、本発明の半導体を有する。熱電変換材料に有する半導体はn型半導体であることが好ましい。
【0082】
熱電変換材料は、本発明の半導体を有することから、熱電変換効率が高く、例えば糸状に加工でき、様々な形状の表面に対応できる柔軟性を有するため、例えば、衣服などのウェアブルデバイスの電源;配管の排熱利用のための電源;スマートハウスやスマートビルディングなどにおけるセンサマトリクスを形成するための分散電源;体温、脈拍、心電等を計測するステッカー型の生体情報計測器の電源;カーエレクトロニクスのための駐車時補助電源などの各種電源に好適に利用することができる。
【実施例
【0083】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。これらの実施例により本発明はなんら限定されない。また、以下に説明する操作は、別途明示の無い限り、常温常圧の環境で行った。
【0084】
<調製例1:カーボンナノチューブ結合性カゴ状タンパク質の調製>
カーボンナノチューブへの吸着性を有するタンパク質CDps(配列番号1、M.Kobayashi et al.,Chem.Commun.、2011、vol.47、p.3475参照)を調製した。タンパク質CDpsは、Listeria innocuaの無機ナノ粒子内包性タンパク質Dps(配列番号2)のN末端に対して、ナノ炭素材結合ペプチド(CNHBP(アミノ酸配列DYFSSPYYEQLF(配列番号3)からなる。国際公開第2006/068250号を参照)))が融合された融合タンパク質である。
【0085】
pET20(メルク社製)にCDps遺伝子が搭載された発現ベクターを導入したEscherichia coli BL21(DE3)をLB培地(10g/lのBacto-typtone、5g/l Bacto-yeast extract、5g/lのNaCl、100mg/lのアンピシリンを含む)100ml、37℃で24時間フラスコ培養した。得られた菌体を超音波破砕した後、上清を60℃で20分間加熱した。加熱後得られた上清を、50mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiPerp Q HPカラム(GE healthcare社)に注入し、0mMから500mM NaClを含む50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で塩濃度勾配をかけることで、目的タンパク質を分離精製した。そのタンパク質を含む溶液の溶媒をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)に置換した。その溶液を、10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiPrep 26/60 Sephacryl S-300 HRカラム(GE healthcare社)に注入し、サイズによってCDpsを分離精製した。そのCDpsを含む溶液をVivaspin 20-100K(GE healthcare社)を用いた遠心限外濾過にて濃縮し、CDps溶液を得た。溶液中のタンパク質濃度はプロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。
【0086】
<調製例2:CNT-CDps複合体の調製>
カーボンナノチューブ(CNT)(TUBALL、OCSiAl社製)を終濃度4g/L、CDpsを終濃度20g/Lで各々含むリン酸緩衝液(40mM、pH6.0)1.25mlを、超音波処理(200W、20%Duty、1秒/ON、3秒/OFF、ON合計2分間、4℃)することで、CNT-CDps複合体を形成させた。得られたCNTとCDpsの混合溶液を、直径6mmのディスク状のメンブレンフィルター(0.2μmポア、MF-ミリポアメンブレンフィルターGSWP、メルク社製)に載せ、メンブレンフィルターの下にひかれた吸水紙に余分な水分をしみ込ませた。その後、純水0.1mlをゆっくりと滴下し、水分を除去する工程を4回繰り返すことで、CNTに吸着しなかったCDpsを除去した。その後、メンブレンフィルター表面に残ったCNT-CDps複合体を懸濁回収することでCNT-CDps複合体を得た。CNT-CDps複合体とは、CNTにCDpsが吸着した複合体を表す。
【0087】
CNT-CDps複合体溶液中のCNT濃度は、濃硫酸分析法により定量した。具体的には、分析対象のCNT-CDps複合体水溶液10μl分を濃硫酸990μlに投入し、超音波処理(200W、18%Duty、1秒/ON、3秒/OFF、ON合計2分間、4℃)した。その溶液を濃硫酸で1万倍から10万倍程度に希釈し、波長520nmの吸光を測定した。同時に、濃度のわかっているCNT水溶液を同様の工程で処理し、検量線を作成することで、CNT-CDps複合体溶液中のCNT濃度を決定した。
【0088】
また、CNT-CDps複合体溶液中のCDps濃度は、CBB法により定量した。具体的には、分析対象のCNT-CDps複合体水溶液10μl分を50mMトリス塩酸緩衝液990μlに投入し、超音波処理(200W、18%Duty、1秒/ON、3秒/OFF、ON合計2分間、4℃)し、CNT表面に吸着したCDpsを遊離させた。続いて、80000rpmで10分間遠心分離し、上清中のCDpsを回収し、含有タンパク質濃度をプロテインアッセイCBB溶液(ナカライテスク社)にて、ウシアルブミンを標準として決定した。
【0089】
今回調製したCNT-CDps複合体は、CNT-CDps複合体溶液中のCNT濃度及びCNT-CDps複合体溶液中のCDps濃度から、CNT1.0mgあたり、0.7mgのCDpsが吸着していた。
【0090】
得られたCNT-CDps複合体を3%リン酸タングステン酸染色により、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL日本電子社製「JEM-2200FS」)により解析したところ、図1に示したようにCNTの断片化やCNT同士のバンドルはほとんど見られず、CNTに吸着していないCDpsも観察されなかった。
【0091】
<実施例1A:組成物(水性組成物)の作製>
調製例2で調製されたCNT-CDps複合体をCNT濃度換算で終濃度が0.5質量%、ポリビニルアルコール(PVA)(AZF8035W、製品名「ニチゴーGポリマー」、けん化度98%以上、1,2-エチレンジオール基が導入されたポリビニルアルコール、日本合成化学工業社製)を、終濃度が0.01質量%となるように水で温度25℃、30分間懸濁し、組成物(PVA添加CNT-CDps複合体水溶液)を得た。
【0092】
<実施例1B:PVA添加CNT-CDps糸の作製>
実施例1Aで作製した組成物0.1mlを容量1mlのシリンジに入れ、内径1.0mm、長さ30cmのPTFEチューブ(アズワン社製)から、一定速度で回転している直径90mmのディッシュ中に含まれるメタノール中に吐出した。この時の吐出速度は9ml/時間で、ディッシュの外周速度は6.9ml/時間とした。吐出により得られたメタノール中のPVA添加CNT-CDps糸を引き上げ、一晩乾燥させることでCNT-CDps糸を得た。図2にPVA添加CNT-CDps糸の写真を示す(図2の左側の写真は、組成物を貧溶媒に吐出した直後に得られたPVA添加CNT-CDps糸の写真であり、図2の右側の写真は、乾燥させたPVA添加CNT-CDps糸の写真である。)。PVA添加CNT-CDps糸とは、PVA添加CNT-CDps複合体を用いて形成された糸状の半導体を表す。
【0093】
<PVA添加CNT-CDps糸の物性評価>
(伸び率、及び応力の測定)
引張試験機引張試験機(IMADA社製、計測スタンド「MX2-500N」、デジタルフォースゲージZTA-2N)の上下のチャックでPVA添加CNT-CDps糸を挟み、チャック間が1cmになるよう固定した後、10mm/分の引張速度でPVA添加CNT-CDps糸が破断するまで引っ張り、その初期長さからの伸び率を求めた。また、破断時の最大荷重をPVA添加CNT-CDps糸の断面積で割ることにより最大応力を算出した。PVA添加CNT-CDps糸の断面積は無染色での走査型電子顕微鏡(SEM、超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡SU9000、日立社製)解析によって求めた。
【0094】
(ゼーベック係数αの測定)
熱電特性の一つであるゼーベック係数αは、PVA添加CNT-CDps糸の両端に温度差を与え、発生する電位差を測定することで求めた。すなわち、図3に一例を示したように、サファイア基板1(京セラ社製)上に、4つの第1の金めっき銅ブロック2を銀ペーストで固定した。内側の銅ブロック間の距離を1cm、外側の銅ブロック間の距離を2cmとした。その第1の金めっき銅ブロック2上にインジウムを用いて、長さが14mm以上のPVA添加CNT-CDps糸3を固定した。PVA添加CNT-CDps糸3の熱電対4側から2mmの位置に第2の金めっき銅ブロック21を2つ10mm間隔で固定し、その第2の金めっき銅ブロック21上に熱電対(アルメル-クロメル)4を銀ペーストで接合した。その後、試料ホルダを熱電評価装置の温度制御ステージに固定し、探針間の距離を10mmとして測定を行った。サファイア基板1の下方に位置するヒーター5の電源として定電流-定電圧電源(TEXIO、PU100-7.5)を用いて第1の金めっき銅ブロック間に温度差を与えた。温度測定及び電位差測定は共にデジタルマルチメータ(Keithley2000、テクトロニクス社製)を用いた。測定は計測制御システム開発用ソフトウェア(LabVIEW、Capital Equipment Corporation社製)を用いて行った。温度差を変えたときの電位差を、横軸を温度差、縦軸を電位差としてプロットし、線形最小2乗法によりその傾きからゼーベック係数αを決定した。
【0095】
(導電率σの測定)
PVA添加CNT-CDps糸の導電率σは、ゼーベック係数αの測定と同様のシステムを用いて、PVA添加CNT-CDps糸の電流Iと電圧Vとの測定を行った。得られたI-Vグラフの傾きからコンダクタンスを求め、コンダクタンスの逆数である抵抗Rから、次式で導電率σを算出した。
【数1】
式1中、σは導電率、Lは電極間隔、Wは膜幅、dは膜厚、Rは抵抗を表す。dはPVA添加CNT-CDps糸の直径として計算し、WはPVA添加CNT-CDps糸の長さとして計算した。
【0096】
(パワーファクターPFの測定)
熱電変換材料の性能を示すパワーファクターPFはασとして算出した。
【0097】
<実施例2A~32A、比較例1:組成物の作製>
実施例1Aにおいて、ポリビニルアルコールの種類、ポリビニルアルコールの終濃度を下記表2に示すように配合した以外は実施例1Aと同様にして実施例2A~32Aの組成物、PVA添加CNT-CDps糸を作製した。各実施例で使用したポリビニルアルコールの名称、けん化度、導入基、製造会社名等の詳細は表1に示した。
また、実施例1A~32Aの伸び率、応力、ゼーベック定数、導電率及びパワーファクターを比較するため、実施例1Aにおいて、PVAを添加しなかった以外は同様にして作製して得たCNT-CDps糸を比較例1とした。
【0098】
<実施例2B~32B:PVA添加CNT-CDps糸の作製>
実施例1Bにおいて、実施例1Aで作製した組成物を、実施例2A~32Aで作製した組成物に代えた以外は実施例1Bと同様にして実施例2B~32BのPVA添加CNT-CDps糸を作製し、伸び率、応力、導電率σ、ゼーベック係数α及びパワーファクターPFを測定した(表中の結果は、3から5サンプルの平均値を示す。)。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
表中、PVA濃度は、紡糸に使用された組成物質量を100質量%としたときの組成物中に添加されたPVAの質量濃度を表す。
【0101】
<PVA添加濃度依存性の評価>
図4では、比較例1の伸び率及び応力の値を1としたときの実施例1A~32AのPVA添加CNT-CDps糸の伸び率及び応力の相対値を示す。その結果、応力は、0.05質量%から0.2質量%のPVAが添加されることで向上する傾向にあり、これらの濃度のPVAが添加されたCNT-CDps糸の剛性は向上していることが分かった。また、伸び率は、比較例1とほぼ同等もしくはそれ以上の結果が得られたことがわかった。
【0102】
図5では、比較例1の導電率σ、ゼーベック係数α、及びパワーファクターPFの値を1としたときの実施例1A~32AのPVA添加CNT-CDps糸の導電率σ、ゼーベック係数α、及びパワーファクターPFの相対値を示す。その結果、実施例では、ゼーベック係数αは比較例1と比較して向上傾向にあり、熱電変換材料として有用であることがわかる。導電率σとゼーベック係数αとから求められるパワーファクターPFは、0.05質量%から0.2質量%のPVAが添加されることでより向上していた。これは、添加PVA濃度により導電率σの低下率が異なり、比較的低下率が小さかった濃度域で大きなパワーファクターPFが観察されたと考えられる。
【0103】
<実施例1C:組成物(水性組成物)の作製>
調製例2で調製されたCNT-CDps複合体をCNT濃度換算で終濃度が0.1質量%、ポリエチレンイミン(PEI)(408719、シグマアルドリッチ社製、分枝状、重量平均分子量800以下、数平均分子量600以下)を終濃度が0.1質量%となるように水で懸濁し、組成物(PEI添加CNT-CDps複合体水溶液)を得た。
【0104】
また、ポリエチレンイミンの終濃度が、1質量%、10質量%、20質量%、及び50質量%とした場合についても、ポリエチレンイミンの終濃度が、0.1質量%の場合と同様にして組成物を得た。さらに、比較のためにポリエチレンイミンの終濃度が0質量%の組成物も作製した。
【0105】
<実施例1D:PEI添加CNT-CDps糸の作製>
実施例1Cで作製した各組成物水溶液60μlを容量1mlのシリンジに入れ、内径1.0mm、長さ30cmのPTFEチューブ(アズワン社製)から、一定速度で回転している直径90mmのディッシュ中に含まれるメタノールへ吐出した。この時の吐出速度は9ml/時間で、ディッシュの外周速度は6.9ml/時間とした。吐出により得られたメタノール中のPEI添加CNT-CDps糸を引き上げ、一晩乾燥させることでPEI添加CNT-CDps糸を得た。PEI添加CNT-CDps糸とは、PEI添加CNT-CDps複合体を用いて形成された糸状の半導体を表す。
【0106】
<実施例2D~3D:PEI添加CNT-CDps糸の作製>
実施例1Dにおいて、ディッシュ中に含まれるメタノールを、表3に記載の貧溶媒に変えた。以上の事項以外は実施例1Dと同様にしてPEI添加CNT-CDps糸を得た。
【0107】
また、実施例1D~3Dで作製した各PEI添加CNT-CDps糸の導電率σ、ゼーベック係数α、及びパワーファクターPFを、実施例1Bと同様にして測定し、その結果を表3に示した。
【0108】
【表3】
表中、PEI濃度及びPVA濃度は、紡糸に使用された組成物質量を100質量%としたときの組成物中に添加されたPEI濃度及びPVAの質量濃度を表す。
【0109】
図6は、実施例1D~3DのPEIの終濃度とゼーベック係数αとの関係性を示したグラフである。実施例1D~3Dは、同一のPEI添加CNT-CDps糸にもかかわらず、吐出先の貧溶媒によりゼーベック係数αの値が大きく変化していた。アセトンにPEI添加CNT-CDps糸を吐出した実施例2Dの場合、PEIの終濃度が0.1質量%以上の添加で負のゼーベック係数αが確認され、PEI添加CNT-CDps糸はn型半導体となっていることがわかった。これに対し、メタノールにPEI添加CNT-CDps糸を吐出した実施例1Dの場合、PEIの終濃度が50質量%であっても、正のゼーベック係数αが確認され、PEI添加CNT-CDps糸はp型半導体となっていることがわかった。
【0110】
一方、2-プロパノールにPEI添加CNT-CDps糸を吐出した実施例3Dの場合、PEIの終濃度が10質量%以上で負のゼーベック係数αが確認され、PEI添加CNT-CDps糸はn型半導体になっていることがわかった。
【0111】
以上のことから、貧溶媒に依存するものの、CNT-CDps複合体に終濃度0.1質量%以上の濃度でPEIを添加することでn型半導体が得られることが分かった。
【0112】
<実施例1E:組成物(水性組成物)の作製>
調製例2で調製されたCNT-CDps複合体をCNT濃度換算で終濃度が0.2質量%、PVA(AZF8035W、製品名「ニチゴーGポリマー」、けん化度98%以上、1,2-エチレンジオール基が導入されたポリビニルアルコール、日本合成化学工業社製)を終濃度0.1質量%、及びPEI(408719、シグマアルドリッチ社製、分枝状、重量平均分子量800以下、数平均分子量600以下)を終濃度0.1質量%となるように水で懸濁し、組成物(PVA、PEI添加CNT-CDps複合体水溶液)を得た。
【0113】
また、ポリエチレンイミンの終濃度が、1質量%、10質量%、20質量%、及び50質量%とした場合についても、ポリビニルアルコールの終濃度が0.1質量%及びポリエチレンイミンの終濃度が0.1質量%の場合と同様にして組成物を得た。さらに、比較のためにポリエチレンイミンの終濃度が0質量%の組成物も作製した。
【0114】
<実施例1F:PVA、PEI添加CNT-CDps糸の作製>
実施例1Eで作製した各組成物水溶液60μlを容量1mlのシリンジに入れ、内径1.0mm、長さ30cmのPTFEチューブ(アズワン社製)から、一定速度で回転している直径90mmのディッシュ中に含まれるメタノールへ吐出した。この時の吐出速度は9ml/時間で、ディッシュの外周速度は6.9ml/時間とした。吐出により得られたメタノール中のPVA、PEI含有CNT-CDps糸を引き上げ、一晩乾燥させることでPVA、PEI添加CNT-CDps糸を得た。PVA、PEI添加CNT-CDps糸とは、PVA、PEI添加CNT-CDps複合体を用いて形成された糸状の半導体を表す。
【0115】
<実施例2F~3F:PVA、PEI添加CNT-CDps糸の作製>
実施例1Fにおいて、ディッシュ中に含まれるメタノールを、表4に記載の貧溶媒に変えた。以上の事項以外は実施例1Fと同様にしてPVA、PEI添加CNT-CDps糸を得た。
【0116】
また、実施例1F~3Fで作製した各PVA、PEI添加CNT-CDps糸の導電率σ、ゼーベック係数α、及びパワーファクターPFを、実施例1Bと同様にして測定し、その結果を表4に示した。
【0117】
【表4】
表中、PEI濃度及びPVA濃度は、紡糸に使用された組成物質量を100質量%としたときの組成物中に添加されたPEI濃度及びPVAの質量濃度を表す。
【0118】
図7は、実施例1F~3FのPEIの終濃度とゼーベック係数αとの関係性を示したグラフである。実施例1F~3Fは、同一のPVA、PEI添加CNT-CDps糸にもかかわらず、吐出先の貧溶媒によりゼーベック係数αの値が大きく変化していた。アセトンや2-プロパノールにPVA、PEI添加CNT-CDps糸を吐出した実施例2F、3Fの場合、PEIの終濃度が0.1質量%以上又は1質量%以上の添加で負のゼーベック係数αが確認され、PVA、PEI添加CNT-CDps糸はn型半導体となっていることがわかった。
【0119】
一方、メタノールにPVA、PEI添加CNT-CDps糸を吐出した実施例1Fの場合、PEIの終濃度が20質量%の場合で負のゼーベック係数αが確認され、PVA、PEI添加CNT-CDps糸はn型半導体となっていることがわかった。
【0120】
以上のことから、貧溶媒に依存するものの、PVAを添加すると半導体のn型化が起こりやすく、PVAと共にCNT-CDps複合体に終濃度0.1質量%以上の濃度でPEIを添加することでn型半導体のCNT-CDps糸が得られることが分かった。
【0121】
<実施例1G:CNT-酸化鉄ナノ粒子封入CDps複合体水溶液の調製>
調製例1で調製されたCDpsを含むHEPES緩衝液(80mMl、HEPES-NaOH(pH7.5)、0.5mg/mL、CDpsと1mM硫酸アンモニウム鉄を各々終濃度で含む)を1mL調製し、4℃で3時間放置した。冷蔵放置後、遠心分離(15,000rpm、5分間)し、上清を回収した後、溶媒を遠心濃縮チューブ(Vivaspin 20-100K、GE healthcare社製)を用いた遠心限外濾過にて10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)に置換した。その溶液を、10mMのTrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHRカラム(HiPrep 16/60、Sephacryl、S-300、HRカラム、GE healthcare社製)に注入し、酸化鉄ナノ粒子を封入したCDps(Fe-CDps)を分離精製した。
【0122】
得られたFe-CDpsを終濃度20g/L、CNT(TUBALL、OCSiAl製)を終濃度4g/Lで各々含むリン酸緩衝液(40mM、pH6.0)1.25mlを、超音波処理(200W、20%Duty、1秒/ON、3秒/OFF、ON合計2分間、4℃)することで、CNT-酸化鉄ナノ粒子封入CDps複合体(CNT-Fe-CDps複合体)を形成させた。
【0123】
得られたCNTとFe-CDpsの混合溶液を、直径6mmのディスク状のメンブレンフィルター(0.2μmポア、MF-ミリポアメンブレンフィルターGSWP、メルク社製)に載せ、メンブレンフィルターの下にひかれた吸水紙に余分な水分をしみ込ませた。その後、純水0.1mlをゆっくりと滴下し、水分を除去する工程を4回繰り返すことで、CNTに吸着しなかったCDpsを除去した。その後、メンブレンフィルター表面に残ったCNT-Fe-CDps複合体を懸濁回収し、CNT-Fe-CDps複合体を得た。
【0124】
CNT-Fe-CDps複合体をCNT濃度換算で終濃度0.1質量%、ポリエチレンイミン(PEI)(408719、シグマアルドリッチ社製、分枝状、重量平均分子量800以下、数平均分子量600以下)を終濃度が1質量%となるように水で懸濁し、PEI添加CNT-Fe-CDps複合体水溶液(組成物)を得た。
【0125】
また、ポリエチレンイミンの終濃度が、3質量%、5質量%、及び10質量%とした場合についても、ポリエチレンイミンの終濃度が、1質量%の場合と同様にして組成物を得た。
【0126】
<実施例1H:PEI添加CNT-Fe-CDps糸の作製>
実施例1Gで調製された各組成物60μlを容量1mlのシリンジに入れ、内径1.0mm、長さ30cmのPTFEチューブ(アズワン社製)から、一定速度で回転している直径90mmのディッシュ中に含まれるアセトン中へ吐出した。この時の吐出速度は9ml/時間で、ディッシュの外周速度は6.9ml/時間とした。吐出により得られたアセトン中のPEI添加CNT-Fe-CDps糸を引き上げ、一晩乾燥させることでPEI含有CNT-Fe-CDps糸を得た。PEI添加CNT-Fe-CDps糸とは、PEI添加CNT-Fe-CDps複合体水溶液を用いて形成された糸状の半導体を表す。
【0127】
図8は、実施例1HのPEIの終濃度とゼーベック係数αとの関係性を示したグラフである。アセトンにPEI添加CNT-Fe-CDps糸を吐出した場合、PEIの終濃度が1質量%以上の添加で負のゼーベック係数αが確認され、PEI添加CNT-Fe-CDps糸はn型半導体となっていることがわかった。
【0128】
<実施例1I:PVA添加CNT-CDps複合体フィルムの作製>
貧溶媒を用いずにPVA添加CNT-CDps複合体フィルムの作製を行った。はじめに、ナイロンシート上に、イクロステープ(三井化学東セロ社製)で幅0.3mm、長さ120mmの溝構造を構築した。溝に、実施例1Aで得た組成物60μlを流し込み、大気下室温で一晩放置し、乾燥させた。それをピンセットではがすことで、フィルム状のPVA添加CNT-CDps複合体フィルムを得ることができた。図9に、フィルム状のPVA添加CNT-CDps複合体の写真を示した。
【符号の説明】
【0129】
1 サファイア基板
2 第1の金めっき銅ブロック
21 第2の金めっき銅ブロック
3 PVA添加CNT-CDps糸
4 熱電対
5 ヒーター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
0007440028000001.app