(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】核酸封入AAV中空粒子
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20240220BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20240220BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12N15/35
C12N15/864 100Z
(21)【出願番号】P 2022171573
(22)【出願日】2022-10-26
(62)【分割の表示】P 2018564684の分割
【原出願日】2018-01-29
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2017014461
(32)【優先日】2017-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 医療分野研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 「AAV中空粒子を用いる臓器特異的DDSの臨床応用に向けた開発」 委託事業 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】302019245
【氏名又は名称】タカラバイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】岡田 尚巳
(72)【発明者】
【氏名】岡田 浩典
(72)【発明者】
【氏名】宮川 世志幸
(72)【発明者】
【氏名】峰野 純一
(72)【発明者】
【氏名】蝶野 英人
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-506318(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0182595(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00 - 7/08
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含むAAVの核酸封入中空粒子の製造方法;
(a)(i)AAV ITRのA領域-D’領域の配列を
順向きに、隣接して又はスペーサーを介して少なくとも3つ
含む核酸を調製する工程、
(b)AAVの中空粒子を産生する細胞に(a)の核酸を導入する工程、
(c)(b)の細胞を培養する工程。
【請求項2】
核酸がプラスミドである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
中空粒子を産生する細胞が、AAVのCap遺伝子、Rep遺伝子及びAAVのヘルパー機能が導入された細胞である、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸が封入されたAAV中空粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトを含む哺乳動物細胞、組織又は個体に目的の遺伝子を導入し、発現させるために、様々な遺伝子導入技術が開発されている。ウイルスベクターも、その一つであり、レンチウイルス、オンコレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等に由来する種々のベクターが知られている。
【0003】
中でも、アデノ随伴ウイルス(AAV:Adeno-Associated Virus)ベクターは、近年、遺伝子治療において有用な遺伝子導入ベクターとして期待されている。AAVは、パルボウイルスに属する非病原性のウイルスで、自己複製能を欠損しているため自律的増殖ができず、増殖にはアデノウイルスやヘルペスウイルスの共感染を必要とするため伝搬性が低いとされている。また宿主において免疫原性が低い性質も有する。そのような特徴から遺伝子導入ベクターとして、安全性が高いという利点を有している。加えて、宿主域が広いことから種々の細胞に感染可能であり、各血清型AAV(例えば、AAV1~AAV9)に由来するベクターも開発されていることから、それぞれの血清型における感染標的細胞の特異性を応用して、神経細胞、筋細胞、肝細胞等、特定の細胞、組織及び器官への遺伝子導入に利用されている。しかし、AAVをはじめとする従来のウイルスベクターは、自己複製能の獲得や、野生型ウイルス混入等の様々な問題点があった。
【0004】
上記問題点を解決するため、Samulskiらは、AAVの外殻タンパク質を構成するキャプシドを調製し、これを薬剤の送達担体として利用することを提唱した(特許文献1)。キャプシドで形成され、内部にAAVウイルスゲノムを含まないAAV中空粒子は、標的細胞の特異的認識、細胞への吸着と侵入、脱穀等のウイルスの初期感染活性は有するが、自己複製に必要なウイルス由来の遺伝子を有さないためウイルスの増殖活性はない。したがって、中空粒子は、タンパク質や核酸等の薬剤を標的細胞に特異的に送達させることが可能であり、投与個体に対する安全性を兼ね備えた理想的な薬剤送達系(DDS:Drug Delivery System)の担体である。
【0005】
Samulskiらは、中空粒子を尿素、熱やpHの条件によって一旦変性させ、薬剤を内部に取り込ませた後に再構成させる導入方法を提示している(特許文献1)。しかし、尿素等の変性剤を中空粒子に作用させると、キャプシドが有する初期感染活性が低下し、送達担体としての機能が損なわれる問題があった。また、Okadaらは、界面活性剤を用いて中空粒子にタンパク質や核酸を導入する方法を開示している(特許文献2)。
【0006】
AAVの複製過程において、DNAゲノムが環状の2本鎖DNA(cAAV)の形態を取りうることが知られている。この2本鎖DNAは、逆位末端反復(ITR)配列を1つ有している。Musatovらは、AAVのゲノムDNAの複製及び封入には、ITRのA領域の配列及びD’領域の配列からなる配列が必要であることを報告している(非特許文献1)。Musatovらは、A領域-D’領域の配列を含む環状2本鎖DNAを細胞に導入させて、DNAが封入されたAAV中空粒子を製造することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第5,863,541号公報
【文献】国際公開第2012/144446号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【文献】Musatov,et al.,2002,vol.76,No.24, p.12792-12802
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、より簡便で効率的な中空粒子内への核酸封入方法を開発し、それを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、より簡便かつ効率的な方法で、ウイルスの初期感染活性を維持したまま核酸が封入された中空粒子を製造することに成功した。また、この核酸封入中空粒子と標的細胞を混合することにより、中空粒子に内包された核酸を該標的細胞内に効果的に導入できることも確認した。本発明は、これらの知見と結果に基づくものであり、以下を提供するものである。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1] 以下の工程を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)の核酸封入中空粒子の製造方法;
(1)(i)AAV逆位末端反復配列(ITR)のA領域の配列、
(ii)AAV ITRのA’領域の配列、及び
(iii)AAV ITRのD領域の配列及び/又はD’領域の配列、を含む直鎖状核酸断片を調製する工程、
(2)AAVの中空粒子を産生する細胞に(1)の核酸断片を導入する工程、および
(3)(2)の細胞を培養する工程。
[2] 核酸断片が、5’末端から3’末端に向かって、A’領域の配列、A領域の配列及びD’領域の配列を含む、[1]記載の方法。
[3] 核酸断片が、5’末端から3’末端に向かって、D領域の配列、A’領域の配列及びA領域の配列を含む、[1]記載の方法。
[4] 核酸断片が、5’末端から3’末端に向かって、D領域の配列、A’領域の配列、A領域の配列及びD’領域の配列を含む、[1]記載の方法。
[5] 核酸断片を調製する工程が、核酸増幅反応による核酸断片の増幅を含む工程である、[1]記載の方法。
[6] 中空粒子を産生する細胞が、AAVのCap遺伝子、Rep遺伝子及びAAVのヘルパー機能が導入された細胞である、[1]記載の方法。
[7] 以下の工程を含むAAVの核酸封入中空粒子の製造方法;
(a)(i)AAV ITRのA領域-D’領域の配列を少なくとも3つ、又は
(ii)A領域-D’領域に相補的な配列、
を含む核酸を調製する工程、
(b)AAVの中空粒子を産生する細胞に(a)の核酸を導入する工程、
(c)(b)の細胞を培養する工程。
[8] 核酸がプラスミドである、[7]記載の方法。
[9] 中空粒子を産生する細胞が、AAVのCap遺伝子、Rep遺伝子及びAAVのヘルパー機能が導入された細胞である、[7]記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、より簡便で効率的に、核酸が封入された中空粒子を製造する方法が提供される。本発明における「核酸が封入されたAAV中空粒子」は、完全なAAVゲノムを保持していないAAV様粒子であり、通常のAAVとは相違する。
【0013】
本発明の中空粒子の製造方法によれば、ウイルスに由来する配列を少なくし、簡便かつ効率的に目的の核酸を中空粒子に封入することができる。それによって安全性が高く、かつ標的細胞特異性を有する中空粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】A領域-D’領域の配列を含むプラスミドの構造を示す図である。
【
図2】A領域-D’領域の配列を含むプラスミドを用いて調製したAAV中空粒子を接触させたCHO-K1細胞の蛍光を観察した図である。
【
図3】A領域-D’領域の配列を含む直鎖状核酸断片の構造を示す図である。
【
図4】A領域-D’領域の配列を含む直鎖状核酸断片を用いて調製したAAV中空粒子力価を測定した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において「逆方向末端反復(ITR:inverted terminal repeat)」は、AAVのゲノムDNAの両端に存在するシス要素を意味する。ITRはAAVゲノムDNAの複製、増幅、封入に必須である。ITRにはRep結合部位(RBS、RBEとも記載される)および末端分離部位(TRS)ならびにヘアピン形成を可能にする回文配列が含まれる。ITRは末端から順に、A領域、B領域、B’領域、C領域、C’領域、A’領域を含む。A領域とA’領域、B領域とB’領域、C領域とC’領域はそれぞれ逆方向の相補配列であり、それぞれの領域がアニーリングして2本鎖となり
図5に示すようなハンマーヘッド構造を形成する。A’領域の末端のうち、C’領域の反対側(3’末端側又は5’末端側)にD領域が存在する。
【0016】
本明細書において「3’末端側」とは、ある配列(領域)の3’末端部分の、さらに3’末端の方向に位置することを意味する。同様に、「5’末端側」とは、ある配列(領域)の5’末端部分の、さらに5’末端の方向に位置することを意味する。したがって、本明細書において「3’末端側」または「5’末端側」と記載されている場合、ある配列(領域)の3’末端部分または5’末端部分に接して目的の配列等が配置されること、およびある配列(領域)の3’末端部分または5’末端部分に接しないで目的の配列等が配置される(すなわち、ある配列(領域)の3’末端部分または5’末端部分と目的の配列等の間に任意の配列が介在する)ことの両方を包含する。
【0017】
本発明において「キャプシド(capsid)」は、ウイルス粒子(virion)を構成する要素の1つで、ゲノムDNA又はコアを取り囲む複数の単位タンパク質(カプソメア:capsomere)からなる外皮(coat)又は殻(shell)を意味する。キャプシドの内部にウイルス核酸、コア又は他の物質を何も含まないキャプシドタンパク質のみから構成された粒子を、本明細書では「中空粒子(empty particle)」と呼び、「中空キャプシド粒子(empty capsid particle)」と呼ぶ場合もある。
【0018】
本発明において「目的の遺伝子」は、中空粒子に封入され標的細胞に導入されることが望まれる任意の遺伝子を意味する。目的の遺伝子は、構造遺伝子(例えば、酵素、転写因子、レポーター分子、増殖因子等の機能性タンパク質の遺伝子)および調節遺伝子(例えば、アンチセンスRNA、siRNA、miRNA、リボザイム等の機能性核酸をコードする遺伝子)を含む。さらに、目的の遺伝子は、転写や翻訳を制御する調節エレメント、例えばプロモーター配列、エンハンサー配列、ポリA付加シグナル配列、ターミネーター配列等を含んでいてもよい。
【0019】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0020】
1つの態様として、本発明は以下の工程を含むAAVの核酸封入中空粒子の製造方法である;
(1)(i)AAV ITRのA領域の配列、
(ii)AAV ITRのA’領域の配列、及び
(iii)AAV ITRのD領域の配列及び/又はD’領域の配列、を含む直鎖状核酸断片を調製する工程、
(2)AAVの中空粒子を産生する細胞に(1)の核酸断片を導入する工程、および
(3)(2)の細胞を培養する工程。
【0021】
(A)核酸を調製する工程
前記(1)工程の直鎖状核酸断片は、(i)ITRのA領域の配列、(ii)ITRのA’領域の配列、及び(iii)D領域の配列及び/又はD’領域の配列を含む。これらの配列は、公知の天然AAV血清型のゲノムDNAの配列(例えば、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または11)が使用できる。各血清型のITRにおいて、A領域、B領域、B’領域、C領域、C’領域、A’領域が特定されている。D領域は、ITRのA’領域の末端のうち、C’領域の反対側(3’末端側又は5’末端側)に存在する。各血清型のD領域の配列及びそのD領域の配列に相補的で逆方向の配列であるD’領域の配列も特定されている。A領域、A’領域、D領域、及びD’領域は、異なる血清型に由来してもよい。さらに、Repとの結合能及びヘアピン形成能を保持する範囲内において、天然のA領域の配列の変異体も使用でき、その場合のA’領域の配列は変異体のA領域の配列と相補的である。また、本発明は天然のD領域の配列の変異体も使用でき、その場合のD’領域の配列は変異体のD領域の配列と相補的である。
【0022】
本発明の一態様として、前記(1)工程の直鎖状核酸断片は、5’末端から3’末端に向かって、A’領域の配列、A領域の配列及びD’領域の配列を含む。また、別の態様の直鎖状核酸断片は、5’末端から3’末端に向かって、D領域の配列、A’領域の配列及びA領域の配列を含む。さらに、別の態様の直鎖状核酸断片は、5’末端から3’末端に向かって、D領域の配列、A’領域の配列、A領域の配列及びD’領域の配列を含む。
【0023】
前記(1)工程の直鎖状核酸断片は、A’領域の配列とA領域の配列の間にループ配列(スペーサー配列)を含んでも良い。ループ配列はA’領域とA領域の配列と共にステムループ構造(ヘアピン構造)を形成し得る配列であればよい。ループ配列の鎖長は3~500bp、好ましくは5~200bp、より好ましくは7~100bpである。
【0024】
前記(1)工程の直鎖状核酸断片は、さらに目的の遺伝子を含むことができる。目的の遺伝子はAAVに対して外来性であり得る。目的の遺伝子は、A’領域の配列の5’末端側、A’領域の配列とA領域の配列の間、A領域の配列の3’末端側のいずれにも配置することができ、1カ所又は複数の箇所に配置することができる。
【0025】
前記(1)工程の直鎖状核酸断片は、少なくとも1組の(i)、(ii)及び(iii)の配列を含む。本発明は、前記の配列を1組含む核酸断片、2組含む核酸断片、3組含む核酸断片、4組含む核酸断片又は5組以上含む核酸断片が使用できる。
【0026】
前記(1)工程の直鎖状核酸断片は、DNA又はRNAであり、好ましくはDNAである。さらに当該核酸断片は、相補的な2分子の核酸がアニールした2本鎖の核酸でもよく、1分子の1本鎖の核酸でもよい。なお、直鎖状の核酸とは、核酸の両端が共有結合により結合していないことを意味する。
【0027】
前記(1)工程の直鎖状核酸断片は、公知の核酸調製方法により調製することができる。当該核酸断片は、PCR等の核酸増幅反応、化学合成によりインビトロで調製することができる。また当該核酸は、真核細胞内、原核細胞内などのインビボで、ポリメラーゼ反応、複製及び転写により生成した核酸を細胞から抽出して調製することができる。
【0028】
1つの態様として、本発明は以下の工程を含むAAVの核酸封入中空粒子の製造方法である;
(a)(i)AAV ITRのA領域-D’領域の配列を少なくとも3つ、又は
(ii)A領域-D’領域に相補的な配列(D領域-A’領域の配列)、
を含む核酸を調製する工程、
(b)AAVの中空粒子を産生する細胞に(a)の核酸を導入する工程、
(c)(b)の細胞を培養する工程。
【0029】
前記(a)工程の核酸は、(i)AAV ITRのA領域-D’領域の配列を少なくとも3つ、又は(ii)A領域-D’領域に相補的な配列を含む。ここで、「A領域-D’領域の配列」とは、AAV ITRのA領域からD’領域にわたる連続的な配列又はA領域及びD’領域を断続的に含む配列を意味する。同様に、「D領域-A’領域の配列」とは、AAV ITRのD領域からA’領域にわたる連続的な配列又はD領域及びA’領域を断続的に含む配列を意味する。A領域-D’領域の配列、この領域に相補的な配列(D領域-A’領域の配列)は、公知の天然AAV血清型のゲノムDNAの配列(例えば、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または11)が使用できる。A領域、A’領域、D領域、及びD’領域は、異なる血清型に由来してもよい。さらに、Rep結合活性及びヘアピン形成を保持する範囲内において、天然のA領域の配列の変異体も使用でき、その場合のA’領域の配列は変異体のA領域の配列と相補的である。また、本発明は天然のD領域の配列の変異体も使用でき、その場合のD’領域の配列は変異体のD領域の配列と相補的である。
【0030】
前記(a)工程の核酸のうちA領域-D’領域の配列(以下、「AD’配列」ともいう)を少なくとも3つ含む核酸は、1のAD’配列と別のAD’配列が隣接しても良く、又は1のAD’配列と別のAD’配列の間にスペーサー配列を含んでも良い。スペーサー配列は、3~500bp、好ましくは5~200bp、より好ましくは7~100bp塩基長である。
【0031】
前記(a)工程の核酸は、さらに目的の遺伝子を含むことができる。目的の遺伝子はAAVに対して外来性であり得る。目的の遺伝子は、A領域-D’領域の配列の5’末端側、又は3’末端側のいずれにも、1カ所又は複数の箇所に配置することができる。
【0032】
前記(a)工程の核酸は、DNA又はRNAであり、好ましくはDNAである。相補的な2分子の核酸がアニールした2本鎖の核酸でもよく、1分子の1本鎖の核酸でもよい。さらに、環状の核酸でもよく、直鎖状の核酸でもよい。本発明の一態様として、前記(a)工程の核酸は、環状の2本鎖DNAであり、好ましくはプラスミドである。
【0033】
前記(a)工程の核酸を細胞内で複製させることが望まれる場合は、当該核酸はさらに宿主細胞で機能する複製起点を含みうる。例えば、原核細胞の複製起点(ColE1 ori、f1 ori等)及び/又は真核細胞の複製起点(SV40 ori、EBV ori等)が挙げられる。前記複製起点を有する核酸は、宿主細胞内にエピソーマルで維持され得る。
【0034】
本発明の一態様として、前記(1)工程の核酸断片及び前記(a)工程の核酸はAAV2由来の配列であり、そのA’領域の配列を配列番号8に、A領域の配列を配列番号9に示す。さらに、D領域の配列を配列番号7に、D’領域の配列を配列番号10に示す。
【0035】
前記(1)工程の核酸断片及び前記(a)工程の核酸は、天然型核酸、化学修飾核酸、人工核酸、核酸類似体及びそれらの組合せを含む。天然型核酸は、自然界に存在する天然型ヌクレオチドのみが連結してなるDNA及びRNAである。化学修飾核酸は、人工的に化学修飾をされた核酸であり、例えば、メチルホスホネート型DNA/RNA、ホスホロチオエート型DNA/RNA、ホスホルアミデート型DNA/RNA、2’-O-メチル型DNA/RNA等が例示される。人工核酸は、天然型核酸の一部に非天然型ヌクレオチドを含む核酸又は非天然型ヌクレオチドのみが連結してなる核酸である。ここでいう「非天然型ヌクレオチド」とは、前記天然型ヌクレオチドに類似の性質及び/又は構造を有する人工的に構築された又は人工的に化学修飾された自然界に存在しないヌクレオチドをいう。核酸類似体は、天然型核酸に類似の構造及び/又は性質を有する人工的に構築された高分子化合物である。例えば、ペプチド核酸(PNA:Peptide Nucleic Acid)、ホスフェート基を有するペプチド核酸(PHONA)、架橋化核酸(BNA/LNA:Bridged Nucleic Acid/Locked Nucleic Acid)、モルフォリノ核酸(ホルフォリノオリゴを含む)等が例示される。
【0036】
前記核酸は、必要に応じて、リン酸基、糖及び/又は塩基が標識されていてもよい。標識には、当該分野で公知の標識物質を利用することができる。例えば、放射性同位元素(例えば、32P、3H、14C)、DIG、ビオチン、蛍光色素(例えば、FITC、Texas、cy3、cy5、cy7、FAM、HEX、VIC、JOE、Rox、TET、Bodipy493、NBD、TAMRA)、又は発光物質(例えば、アクリジニウムエステル)が挙げられる。
【0037】
前記(1)工程の核酸断片及び前記(a)工程の核酸は、公知の精製方法や市販の製品を使用して精製・抽出した核酸を使用することができる。公知の精製方法としては、フェノール/クロロホルム混合液による抽出、アルコール沈澱、カラム精製、フィルター濾過、アガロースゲル電気泳動等による精製方法が例示される。
【0038】
前記核酸断片及び核酸のサイズは、AAV中空粒子に包含可能なサイズであれば限定はされないが、通常は5kb以下である。また、前記(1)工程の核酸断片及び前記(a)工程の核酸は天然の完全なAAVゲノムの配列を含まず、AAVのRep遺伝子及び/又はAAVのCap遺伝子の配列を欠損している。好適には、前記核酸断片及び核酸は天然の完全なITRの配列を保持しておらず、前記(1)工程及び前記(a)工程に記載した範囲内でA領域、A’領域、B領域、B’領域、C領域、C’領域、D領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域の配列を欠損している。より好適には、前記核酸断片及び核酸はB領域、B’領域、C領域及びC’領域の配列を欠損している。
【0039】
(B)核酸を細胞に導入する工程
前記(1)工程の核酸断片又は前記(a)工程の核酸を、AAVの中空粒子を産生する細胞に導入する。核酸断片又は核酸を導入する細胞は、例えば、マウス細胞、及び霊長類細胞(例えば、ヒト細胞)などを含む哺乳類細胞、昆虫細胞などの様々な真核細胞が使用できる。本明細書において、AAVや核酸封入中空粒子を産生する細胞をパッケージング細胞又はプロデューサー細胞ともいうことがある。適当な哺乳類細胞は、初代細胞及び細胞株を含むがこれらに限定されるものではなく、適当な細胞株として、HEK293細胞、293EB細胞、COS細胞、HeLa細胞、Vero細胞、3T3マウス線維芽細胞、C3H10T1/2線維芽細胞、CHO細胞やこれらの細胞から派生した細胞などが挙げられる。適当な昆虫細胞は、初代細胞及び細胞株を含むがこれらに限定されるものではなく、適当な細胞株として、Sf9細胞やこれらの細胞から派生した細胞などが挙げられる。
【0040】
中空粒子を産生する細胞は、AAV rep遺伝子産物およびcap遺伝子産物を発現する細胞が使用される。これらの遺伝子産物は、細胞のゲノムに安定に組み込まれたAAV rep遺伝子およびcap遺伝子によりコードされていてもよく、前記核酸断片又は核酸の導入前、導入と同時に、または導入後に細胞中に導入されるベクターによりコードされてもよい。rep遺伝子およびcap遺伝子がベクターによりコードされている場合、rep遺伝子およびcap遺伝子は同一のベクターにコードされていてもよく、それぞれが別のベクターにコードされていてもよい。rep遺伝子およびcap遺伝子はいずれの血清型のAAVの配列(例えば、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または11)であっても使用できる。さらに、rep遺伝子及びcap遺伝子は同じ血清型由来の配列であってもよく、異なる血清型由来の配列であってもよい。
【0041】
rep遺伝子およびcap遺伝子をコードするベクターには、中空粒子を産生し得る限りにおいて導入する細胞に適した発現ベクターを用いることができ、ウイルスベクター、プラスミドベクター、コスミドベクター、及び人工染色体が例示される。プラスミドベクターは、必要に応じて、エピソーマルで維持され得るものを使用できる。さらに、ベクターは、rep遺伝子およびcap遺伝子が細胞内で発現可能なように、適当な発現システム内のプロモーターとターミネーターの制御下に配置してもよい。核酸発現システムとは、遺伝子の発現に必要な発現調節エレメントを、機能可能な状態で少なくとも1組有する系である。発現調節エレメントには、プロモーター及びターミネーターの他、必要に応じてエンハンサー及びポリA付加シグナルが含まれる。
【0042】
中空粒子を産生する細胞には、さらにヘルパー機能が導入され得る。ヘルパー機能は、ヘルパーウイルス機能、アクセサリー機能とも呼ばれる。ヘルパー機能の導入には一般にアデノウイルスが使用されるが、例えば1型又は2型単純ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスなどのウイルスも使用することができる。ウイルスを使用する場合は、細胞にウイルスをヘルパーウイルスとして感染させる。例えば、アデノウイルスの初期遺伝子の発現のみがAAV粒子のパッケージングに必要なので、後期遺伝子発現を呈さないアデノウイルスを用いてもよい。後期遺伝子発現を欠損するアデノウイルス変異体(例えばts100K又はts149アデノウイルス変異体)を使用することができる。あるいは、ヘルパーウイルスから単離したヘルパーウイルス機能に必要な核酸を使用し、ヘルパーウイルス機能を提供する核酸構築物を作製して細胞に導入することができる。ヘルパーウイルス機能を提供する構築物はE1遺伝子領域、E2A遺伝子領域、E4orf6遺伝子及びVA RNAをコードする遺伝子を含む、1種又は複数種のヘルパーウイルス機能を提供するヌクレオチド配列を含み、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド又は他のウイルスの形で宿主細胞に提供される。
【0043】
前記(1)工程の核酸断片及び前記(a)工程の核酸を細胞に導入する方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、ポリエチレンイミン法、エレクトロポレーション法、直接的微量注入法、高速微粒子銃などが使用可能である。また市販の試薬、例えばTransIT(登録商標)-293 Reagent、TransIT(登録商標)-2020(以上、Mirus社製)、Lipofectamine 2000 Reagent、Lipofectamine 2000CD Reagent(以上、ライフテクノロジーズ社製)、FuGene(登録商標)Transfection Reagent(プロメガ社製)、PEI max(コスモバイオ社製)などを用いてもよい。
【0044】
前記(1)工程の核酸断片は、106細胞あたり、1ng~10μg、好ましくは5ng~1μg、より好ましくは10ng~500ng導入する。前記(a)工程の核酸は、106細胞あたり、100ng~1000μg、好ましくは1μg~100μg、より好ましくは5μg~50μg導入する。
【0045】
(C)細胞を培養する工程
前記(B)で核酸断片又は核酸を導入した細胞の培養は、細胞に応じて公知の培養条件で行うことができる。例えば温度30~37℃、湿度95%、CO2濃度5~10%での培養が例示されるが、本発明はこのような条件に限定されるものではない。所望の細胞の増殖、核酸封入中空粒子の産生が達成できるのであれば前記の範囲以外の温度、湿度、CO2濃度で実施してもよい。
【0046】
培養用培地は公知の培地を使用することができ、例えばDMEM、IMDM、ハムF12、RPMI-1640などを使用してもよく、これらはLonza社、ライフテクノロジーズ社、シグマ・アルドリッチ社などから市販品として入手することができる。培地は無血清培地でもよく、ウシ胎児血清(FBS)やヒト血清由来のアルブミン等を添加した培地でもよい。
【0047】
培養器材としてシャーレ、フラスコ、バッグ、大型培養槽又はバイオリアクター等の細胞培養用器材(容器)を使用することができる。なお、バッグとしては、細胞培養用CO2ガス透過性バッグが好適である。大量の細胞を必要とする場合には大型培養槽を使用してもよい。
【0048】
培養期間は特に限定はなく、例えば12時間~10日間、好適には24時間~7日間が好ましい。培養中に、細胞内及び/又は培養上清に核酸封入中空粒子、すなわち内部に核酸を保持するAAV様の粒子が産生される。
【0049】
さらに本発明では、細胞の培養上清や回収した細胞を適当な緩衝液に再懸濁して破砕したもの(細胞破砕液)の遠心上清から、核酸が封入された中空粒子を取得する工程を実施し得る。本発明では、こうして得られた培養上清や細胞破砕液上清は、そのまま、あるいは更に、例えばフィルターろ過、CsCl密度勾配遠心分離など公知の方法や市販の製品により中空粒子の濃縮、精製等を実施した後、適切な方法、例えば凍結して所望の用途に使用するまで保存することができる。
【0050】
(D)核酸封入中空粒子及び組成物
本発明は、前記(1)工程の核酸断片又は前記(a)工程の核酸が封入された中空粒子を提供する。本発明の中空粒子は天然の完全なAAVゲノムを保持しておらず、AAVのRep遺伝子及び/又はAAVのCap遺伝子の配列を含む核酸を保持していない。好適には、本発明の中空粒子はさらに、天然の完全なITRを保持しておらず、A領域、A’領域、B領域、B’領域、C領域、C’領域、D領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域の配列を保持していない。さらに、本発明は前記の核酸封入中空粒子を含む組成物を提供する。本発明の組成物は、本発明の方法で得られる核酸封入中空粒子の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0051】
本発明の組成物は、核酸封入中空粒子を有効成分として含む他、担体、及び/又は他の薬剤を含むことができる。組成物中に含まれる核酸封入中空粒子は、異なる2以上のものであってもよい。この場合、異なる2以上の核酸封入中空粒子は、キャプシド等が互いに異なるウイルス由来であってもよいし、及び/又は封入された核酸が互いに異なる種類であってもよい。例えば、標的細胞の異なる複数の核酸封入中空粒子を含んでいてもよい。担体は、組成物の製剤化や生体への適用を容易にし、その作用を阻害又は抑制しない範囲で添加される物質であり、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤又は潤滑沢剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好適には、本発明の組成物には薬学的に許容される担体が使用される。
【0052】
本発明の組成物における核酸封入中空粒子の含有量には特に限定はない。その粒子に包含される核酸の種類及び/又はその有効量、適用される細胞又は個体、適用の方法・経路、適用の目的、組成物の形態(形態、大きさを含む)、並びに前記の担体の種類などを勘案し、適宜定められる。
【0053】
前記の、本発明の核酸封入中空粒子ならびに当該中空粒子を含む組成物を使用することにより、細胞や動物個体に遺伝子を導入することができる。このような遺伝子導入方法も本発明の一態様である。細胞への遺伝子導入は、インビトロで中空粒子と細胞を接触することにより実施することができる。また、ヒトを含む動物個体への遺伝子導入は本発明の核酸封入中空粒子、好ましくは当該中空粒子を含む適切な組成物を、組織内(例えば筋肉内)、静脈内、皮下及び腹腔内投与等の経路で投与することにより実施される。
【実施例】
【0054】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
実施例1 AAV中空粒子に対するプラスミドDNAのパッケージング
(1)AD’搭載プラスミドの構築
AAV2ゲノムDNAのITRに存在するAD’配列(A領域-D’領域にわたる61bp:配列番号1)を含み、その両端に制限酵素AflIIIの認識配列を有する二本鎖DNAを、それぞれ化学合成した両鎖をアニーリングさせることにより調製した。この二本鎖DNAをpAcGFP1-N1 Vector(クロンテック、タカラバイオUSA社製)のCMVプロモーターの上流にあるAflIIIサイトに、AD’配列が5’から3’に順向き挿入されたプラスミドAD-F、逆向きに挿入されたプラスミドAD-Rを調製した。さらに、3つのAD’配列が順向きに挿入されたプラスミドAD-3Fを調製した。また、陰性コントロールとして人工遺伝子を挿入しないプラスミドAD(-)を調製した。さらに、陽性コントロールとして、AcGFP遺伝子を搭載するAAVゲノムを生成するプラスミドss-AAV、プラスミドds-AAVを調製した。プラスミドss-AAVは、AAV Helper-Free System(Agilent Technologies社製)のpAAV-MSCベクターのマルチクローニングサイトにAcGFP遺伝子が挿入されている。プラスミドds-AAVは、Arun Srivastava博士より供与されたプラスミドpdsAAV-CB-eGFPのeGFP遺伝子をAcGFPに置換している。各プラスミドの概略図を
図1に示す。
図1中、AD’配列は「AD」と記載している。
【0056】
(2)293EB細胞へのプラスミド導入
実施例1-(1)で得た各プラスミドを1μg/μLに調製し、AAV9のCapとAAV2のRepを発現するpAAV2/9 Vector(配列番号11)及びpAd5N(Agilent Technologies)とともに、Polyethyleneimine”Max”(コスモバイオ社製)を用いて293EB細胞(国際公開第2012/144446号パンフレット)にトランスフェクションした。トランスフェクション後、293EB細胞を1/100容量のGlutaMax(Gibco社製)を含むDMEM培地中で、37℃、5%CO2で3日間培養した。
【0057】
(3)核酸封入AAV中空粒子の回収
実施例1-(2)で培養した293EB細胞の培養上清から、塩化セシウム密度勾配遠心法にて核酸封入AAV中空粒子(AAV様粒子)を精製した。
【0058】
こうして得られた精製AAV様粒子溶液2μL、dH2O 116μL、50mM MgCl2 15μL、0.1% Triton X-100 15μL、250U/μL Benzonase 2μLを混合し、37℃で30分インキュベートし、遊離のゲノムDNAやプラスミドDNAを分解した。次にAL buffer(Qiagen社製) 100μLを加えてAAVキャプシドを溶解し、中空粒子にパッケージングされたDNAを抽出した。このDNAを鋳型として、AcGFP-fプライマー(配列番号2)とAcGFP-rプライマー(配列番号3)、及びSYBR(登録商標) Premix DimerEraser(商標) (Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)を使用して、キットに添付の説明書に従い、AAV中空粒子に含まれるベクターコピー数(vector genome:v.g./μL)を測定した。
【0059】
(4)標的細胞への導入
実施例1-(3)で培養上清から得られたそれぞれのAAV様粒子を、CHO-K1細胞に以下のごとく感染させた。感染前日、2.8×10
4cellのCHO-K1細胞を48ウェルプレート上に播種した。翌日、実施例1-(3)で得たそれぞれのAAV様粒子を4.0×10
5v.g./cellで感染させた。感染後、CHO-K1細胞を37℃、5%CO
2で3日間した後、AcGFPの発現を蛍光顕微鏡で観察した(
図2)。
図2に示すように、AD’配列が逆向きに搭載されたプラスミドおよび3つのAD’配列が順向きに搭載されたプラスミドは、順向きのAD’配列搭載プラスミドに比べて、効果的に中空粒子に取り込まれ、感染細胞におけるAcGFPの発現が確認された。AD’配列を含むプラスミドが導入された細胞からAcGFP遺伝子を含有するAAV様粒子が産生されたことが示された。
【0060】
実施例2 DNA断片の導入によるAAVゲノムのパッケージング
(1)AD配列を含むDNA断片の調製
配列番号4に記載するオリゴヌクレオチドFull、配列番号5に記載するオリゴヌクレオチドPlus、配列番号6に記載するオリゴヌクレオチドMinusを化学合成し、さらに、それぞれの相補鎖も化学合成し、それぞれアニーリングさせることにより二本鎖DNAを調製した。
図3に各二本鎖DNAの構成を示す。AAVのITRのA領域の配列、D’領域の配列、A’領域の配列(A領域に相補的な配列)、D領域の配列(D’領域に相補的な配列)をそれぞれA配列、D’配列、A’配列、D配列と称し、
図3中ではそれぞれA、D(+)、A’、D(-)と示す。
図3に示すように、オリゴヌクレオチドFullは5’末端から順に、D配列及びA’配列、ループ配列、A配列、D’配列からなる。オリゴヌクレオチドPlusは5’末端から順に、A’配列、ループ配列、A配列、D’配列からなる。オリゴヌクレオチドMinusは5’末端から順に、D配列、A’配列、ループ配列、A配列からなる。D配列を配列番号7に、A’配列を配列番号8に、A配列を配列番号9に、D’配列を配列番号10にそれぞれ示す。
【0061】
前記DNA断片をZero Bluntクローニングキット(ThermoFisher社製)のpCR-Bluntベクターにそれぞれ連結し、説明書に従ってプラスミドDNAを調製した。これらのプラスミドDNAを鋳型に、M13 Forward(-20)プライマー及びM13 Reverseプライマー(ThermoFisher社製)を用いたPCRを実施し、DNA断片Full、DNA断片Plus、DNA断片Minusの増幅を行った。また、陰性コントロールとして介在配列を含むpCR-Bluntベクターを鋳型にPCRを実施し、DNA断片Mockを増幅した。
【0062】
PCR反応液を1.5%アガロースゲル電気泳動に供し、前記DNA断片を泳動後のゲルより抽出、精製した。DNA断片Fullからは2本のバンドが生じ、DNA断片Full-H、DNA断片Full-Mとして別々に抽出した。
【0063】
(2)293EB細胞への導入
実施例2-(1)で得た各DNA断片75ngを、pAAV2/9 Vector及びpAd5N(pHelper Vector)とともに、Polyethyleneimine”Max”を用いて293EB細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション2日後、293EB細胞をグルコース、重炭酸ナトリウム、1/100容量のGlutaMaxを含むDMEM/F12(ThermoFisher社)培地に交換した。その後、37℃、5%CO2で5日間培養した。
【0064】
(3)AAV様粒子の回収
実施例2-(2)で培養した293EB細胞の培養上清を回収後、上清にDNaseIを添加し、遊離DNAの分解を行った。分解後、上記同様にAL buffer (Qiagen社製)を加えて、AAVキャプシドを溶解し、パッケージングされたDNAの抽出を行った。AAV様粒子に含まれるDNA断片コピー数は、3’senseプライマー(配列番号12)と3’antisenseプライマー(配列番号13)を使用した定量PCRにより解析した(
図4)。
図4に示すように、AAVのITR由来する配列を含むDNA断片を導入することにより、当該DNA断片のAAV中空粒子へのパッケージングが起こることが示された。このようなDNA断片はPCRにより大量に調製することができ、AAV様粒子をより簡便に調製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明により、より簡便で効率的な中空粒子内への核酸封入方法が提供される。本発明の方法を用いて製造された核酸封入中空粒子や当該核酸封入中空粒子を有効成分とする組成物は、遺伝子治療の研究又は臨床の分野における遺伝子導入方法として有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0066】
SEQ ID NO: 1: AD’ region sequence
SEQ ID NO: 2: AcGFP-f
SEQ ID NO: 3: AcGFP-r
SEQ ID NO: 4: Oligonucleotide Full
SEQ ID NO: 5: Oligonucleotide Plus
SEQ ID NO: 6: Oligonucleotide Minus
SEQ ID NO: 7: D region sequence
SEQ ID NO: 8: A’ region sequence
SEQ ID NO: 9: A region sequence
SEQ ID NO: 10: D’ region sequence
SEQ ID NO: 11: pAAV2/9 Vector
SEQ ID NO: 12: 3’ sense primer
SEQ ID NO: 13: 3’ antisense primer
【配列表】