(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】プレストレスト木質構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E04C 3/12 20060101AFI20240220BHJP
E04C 5/08 20060101ALI20240220BHJP
E04B 1/26 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
E04C3/12
E04C5/08
E04B1/26 Z
(21)【出願番号】P 2023216143
(22)【出願日】2023-12-21
【審査請求日】2023-12-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518235952
【氏名又は名称】森田 明
(73)【特許権者】
【識別番号】323012922
【氏名又は名称】福井 剛
(73)【特許権者】
【識別番号】591043905
【氏名又は名称】株式会社建研
(73)【特許権者】
【識別番号】593045466
【氏名又は名称】藤寿産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076255
【氏名又は名称】古澤 俊明
(72)【発明者】
【氏名】森田 明
(72)【発明者】
【氏名】福井 剛
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直人
(72)【発明者】
【氏名】染谷 俊章
(72)【発明者】
【氏名】岩見 遼平
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-007708(JP,A)
【文献】特開2014-005587(JP,A)
【文献】特開平09-220707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/00 - 3/46
E04C 5/08
E04B 1/06,1/22,1/26
E04B 2/02
B27M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維方向が長手方向の複数枚のひき板を形成するひき板形成工程と、
前記一方のひき板における他方のひき板との接合面に緊張鋼線挿通溝を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部を形成する緊張鋼線挿通溝形成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝を形成した前記一方のひき板と前記緊張鋼線挿通溝を形成していない前記他方のひき板とを接合して木質構造体を構成する木質構造体構成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝にプレストレス装置の緊張鋼線を挿通してこの緊張鋼線を緊張することで前記木質構造体に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線の両端を前記木質構造体の両端部で定着装置により定着する軸圧縮力付与工程と
からなることを特徴とするプレストレスト木質構造体の製造方法。
【請求項2】
繊維方向が長手方向の複数枚のひき板を形成するひき板形成工程と、
繊維方向が互いに交差する前記複数枚のひき板を接合して平面部材を形成する平面部材形成工程と、
前記平面部材を形成する前記一方のひき板における他方のひき板との接合面に緊張鋼線挿通溝を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部を形成する緊張鋼線挿通溝形成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝を形成した前記一方のひき板と前記緊張鋼線挿通溝を形成していない前記他方のひき板とを接合して平面状の木質構造体を構成する木質構造体構成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝にプレストレス装置の緊張鋼線を挿通してこの緊張鋼線を緊張することで前記木質構造体に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線の両端を前記木質構造体の両端部で定着装置により定着する軸圧縮力付与工程と
からなることを特徴とするプレストレスト木質構造体の製造方法。
【請求項3】
繊維方向が長手方向の複数枚のひき板を形成するひき板形成工程と、
前記複数枚のひき板を接合して柱部材を形成する柱部材形成工程と、
前記柱部材を形成する前記一方のひき板における他方のひき板の少なくとも2個所の接合面に緊張鋼線挿通溝を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部を形成する緊張鋼線挿通溝形成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝を形成した前記一方の柱部材と前記緊張鋼線挿通溝を形成していない前記他方の柱部材とを接合し柱状の木質構造体を構成する木質構造体構成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝にプレストレス装置の緊張鋼線を挿通してこの緊張鋼線を緊張することで前記木質構造体に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線の両端を前記木質構造体の両端部で定着装置により定着する軸圧縮力付与工程と
からなることを特徴とするプレストレスト木質構造体の製造方法。
【請求項4】
前記突起部は、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から前記ひき板の幅方向に突出して形成したことを特徴とする請求項1、2又は3記載のプレストレスト木質構造体の製造方法。
【請求項5】
前記突起部は、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から前記ひき板の幅方向と直交する方向に突出して形成したことを特徴とする請求項1、2又は3記載のプレストレスト木質構造体の製造方法。
【請求項6】
繊維方向が長手方向の複数枚のひき板を接合した木質構造体において、
前記一方のひき板における他方のひき板との接合面に緊張鋼線挿通溝を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝の途中の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部を形成し、前記木質構造体は、前記緊張鋼線挿通溝と突起部を形成したひき板と前記緊張鋼線挿通溝と突起部を形成していないひき板とを複数枚接合して構成し、前記緊張鋼線挿通溝にプレストレス装置の緊張鋼線を挿通してこの緊張鋼線を緊張することで前記木質構造体に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線の両端を前記木質構造体の両端部で定着装置により定着し、前記緊張鋼線に、前記突起部の弱軸方向で接するように前記木質構造体に軸圧縮力を付与したものからなることを特徴とするプレストレスト木質構造体。
【請求項7】
繊維方向が互いに直交する複数枚のひき板を接合して形成した平面部材を、平面方向に2個以上接合してなる木質構造体であって、接合されるいずれか一方の前記平面部材の接合面に緊張鋼線挿通溝を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部を形成し、前記緊張鋼線挿通溝と突起部を形成した平面部材と、前記緊張鋼線挿通溝と突起部を形成していない平面部材とを接合して平面状の木質構造体を構成し、前記緊張鋼線挿通溝にプレストレス装置の緊張鋼線を挿通してこの緊張鋼線を緊張することで前記木質構造体に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線の両端を前記木質構造体の両端部で定着装置により定着したものからなることを特徴とするプレストレスト木質構造体。
【請求項8】
繊維方向が長手方向のひき板を複数枚接合して柱部材を構成してなる木質構造体であって、前記柱部材を形成する前記一方のひき板における他方のひき板の少なくとも2個所の接合面に緊張鋼線挿通溝を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部を形成し、前記一方の突起部は、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から前記ひき板の幅方向に突出して形成したものからなり、前記他方の突起部は、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から前記ひき板の幅方向と直交する方向に突出して形成したものからなり、前記緊張鋼線挿通溝と突起部を形成したひき板と前記緊張鋼線挿通溝と突起部を形成していないひき板を接合して柱状の木質構造体を構成し、前記緊張鋼線挿通溝にプレストレス装置の緊張鋼線を挿通してこの緊張鋼線を緊張することで前記木質構造体に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線の両端を前記木質構造体の両端部で定着装置により定着したものからなることを特徴とするプレストレスト木質構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集成材、CLT材(直交木目材)、LVL材(平行木目材)、梁材、柱材、平面材などの木質構造体の座屈を防止したプレストレスト木質構造体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、
図11に示すようなプレストレスを付与した長尺構造体10を提案した(特許文献1)。
この長尺構造体10は、3本の座屈長さ以内の長さのものを連結したものからなり、軸方向に貫通孔11を穿設し、この貫通孔11における前記長尺構造体10の連結面に嵌合凹部19を形成して緊張材位置保持駒18を配置し、この緊張材位置保持駒18に、緊張材12と略同一径の円孔18aを穿設し、緊張材12を貫通孔11と緊張材位置保持駒18の円孔18aに貫通し、両端にプレート13を介して定着装置14で所定の圧縮力となるようにプレストレスを付与してなるものである。
このような構成により、3本連結の長尺構造体10は、座屈による湾曲が防止される。
【0003】
また、前記特許文献1には、1本の長尺構造体が座屈長さ以上である場合、その途中の座屈長さの位置に側方から嵌合孔を掘削し、緊張材位置保持駒を嵌め込み、緊張材を挿入する例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の長尺構造体10は、座屈長さ以内に分割した複数本を連結した長尺構造体10の連結面毎に、緊張材位置保持駒18を配置しなければならないので、構造がやや複雑になるとともに、緊張材位置保持駒18を配置する嵌合凹部19を形成するのがやや面倒で、しかも、嵌合凹部19が長尺構造体10の軸(長手)方向に対して直交しているので、構造上の弱点になる問題点があった。
また、1本の長尺構造体の部材長が座屈長さ以上である場合、その途中に側方から嵌合孔を掘削し、緊張材位置保持駒を嵌め込み、緊張材を挿入するので、側方から掘削した嵌合孔の位置が長尺構造体の構造上の弱点になる問題点があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、木質構造体の特性を生かし、木質構造体として積層する前のひき板単体又は複数枚からなるひき板ブロックの段階で緊張鋼線をセットする挿通溝を形成し、この部材を挿通溝の形成していないひき板とともに積層接着して木質構造体を構成してプレストレスを付加するようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のプレストレスト木質構造体の製造方法は、
繊維方向が長手方向の複数枚のひき板30を形成するひき板形成工程と、
前記一方のひき板30における他方のひき板30との接合面に緊張鋼線挿通溝20を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部21を形成する緊張鋼線挿通溝形成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝20を形成した前記一方のひき板30と前記緊張鋼線挿通溝20を形成していない前記他方のひき板30とを接合して木質構造体29を構成する木質構造体構成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝20にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿通してこの緊張鋼線28をジャッキ等で緊張することで前記木質構造体29に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線28の両端を前記木質構造体29の両端部で定着装置32により定着する軸圧縮力付与工程と
からなることを特徴とする。
【0008】
木質構造体が平面部材35からなる場合のプレストレスト木質構造体の製造方法は、
繊維方向が長手方向の複数枚のひき板30を形成するひき板形成工程と、
繊維方向が互いに交差する前記複数枚のひき板30を接合して平面部材35を形成する平面部材形成工程と、
前記平面部材35を形成する前記一方のひき板30における他方のひき板30との接合面に緊張鋼線挿通溝20を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部21を形成する緊張鋼線挿通溝形成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝20を形成した前記一方のひき板30と前記緊張鋼線挿通溝20を形成していない前記他方のひき板30とを接合して平面状の木質構造体29を構成する木質構造体構成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝20にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿通してこの緊張鋼線28をジャッキ等で緊張することで前記木質構造体29に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線28の両端を前記木質構造体29の両端部で定着装置32により定着する軸圧縮力付与工程と
からなることを特徴とする。
【0009】
木質構造体が柱部材34からなる場合のプレストレスト木質構造体の製造方法は、
繊維方向が長手方向の複数枚のひき板30を形成するひき板形成工程と、
前記複数枚のひき板30を接合して柱部材34を形成する柱部材形成工程と、
前記柱部材34を形成する前記一方のひき板30における他方のひき板30の少なくとも2個所の接合面に緊張鋼線挿通溝20を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部21を形成する緊張鋼線挿通溝形成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝20を形成した前記一方の柱部材34と前記緊張鋼線挿通溝20を形成していない前記他方の柱部材34とを接合し柱状の木質構造体29を構成する木質構造体構成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝20にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿通してこの緊張鋼線28を緊張することで前記木質構造体29に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線28の両端を前記木質構造体29の両端部で定着装置32により定着する軸圧縮力付与工程と
からなることを特徴とする。
【0010】
木質構造体29の幅方向の座屈を防止するため、前記突起部21は、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈変形の節としたい位置の両壁から前記ひき板30の幅方向に突出して形成したことを特徴とする。
【0011】
木質構造体29の幅方向と直交する方向の座屈を防止するため、前記突起部21は、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈変形の節としたい位置の両壁から前記ひき板30の幅方向と直交する方向に突出して形成したことを特徴とする。
【0012】
本発明のプレストレスト木質構造体は、
繊維方向が長手方向の複数枚のひき板30を接合した木質構造体29において、
前記一方のひき板30における他方のひき板30との接合面に緊張鋼線挿通溝20を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝20の途中の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部21を形成し、前記木質構造体29は、前記緊張鋼線挿通溝20と突起部21を形成したひき板30と形成していないひき板30とを複数枚接合して構成し、前記緊張鋼線挿通溝20にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿通してこの緊張鋼線28を緊張することで前記木質構造体29に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線28の両端を前記木質構造体29の両端部で定着装置32により定着し、前記緊張鋼線28に、前記突起部21の弱軸方向で接するように前記木質構造体29に軸圧縮力を付与したものからなることを特徴とする。
【0013】
本発明の平面部材からなるプレストレスト木質構造体は、
繊維方向が互いに直交する複数枚のひき板30を接合して形成した平面部材35を、平面方向に2個以上接合してなる木質構造体29であって、接合されるいずれか一方の前記平面部材35の接合面に緊張鋼線挿通溝20を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部21を形成し、前記緊張鋼線挿通溝20と突起部21を形成した平面部材35と形成していない平面部材35とを接合して平面状の木質構造体29を構成し、前記緊張鋼線挿通溝20にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿通してこの緊張鋼線28をジャッキ等で緊張することで前記木質構造体29に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線28の両端を前記木質構造体29の両端部で定着装置32により定着したものからなることを特徴とする。
【0014】
本発明の柱部材からなるプレストレスト木質構造体は、
繊維方向が長手方向のひき板30を複数枚接合して柱部材34を構成してなる木質構造体29であって、前記柱部材34を形成する前記一方のひき板30における他方のひき板30の少なくとも2個所の接合面に緊張鋼線挿通溝20を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部21を形成し、前記一方の突起部21は、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈変形の節としたい位置の両壁から前記ひき板30の幅方向に突出して形成したものからなり、前記他方の突起部21は、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈変形の節としたい位置の両壁から前記ひき板30の幅方向と直交する方向に突出して形成したものからなり、前記緊張鋼線挿通溝20と突起部21を形成したひき板30と形成していないひき板30を接合して柱状の木質構造体29を構成し、前記緊張鋼線挿通溝20にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿通してこの緊張鋼線28をジャッキ等で緊張することで前記木質構造体29に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線28の両端を前記木質構造体29の両端部で定着装置32により定着したものからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によれば、プレストレスト長尺木質構造体の製造方法は、
繊維方向が長手方向の複数枚のひき板を形成するひき板形成工程と、
前記一方のひき板における他方のひき板との接合面に緊張鋼線挿通溝を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部を形成する緊張鋼線挿通溝形成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝を形成した前記一方のひき板と前記緊張鋼線挿通溝を形成していない前記他方のひき板とを接合して木質構造体を構成する木質構造体構成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝にプレストレス装置の緊張鋼線を挿通してこの緊張鋼線を緊張することで前記木質構造体に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線の両端を前記木質構造体の両端部で定着装置により定着する軸圧縮力付与工程と
からなるので、従来のように、緊張材位置保持駒を配置することがなく、構造が簡単になるとともに、緊張材位置保持駒を配置する嵌合凹部を形成するひつようがなく、直交している嵌合凹部が構造上の弱点になることもない。
また、長尺構造体の途中に側方から嵌合孔を掘削する必要がなく、木質構造体の構造上の弱点になることがない。しかも作業工程が容易である。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、
繊維方向が長手方向の複数枚のひき板を形成するひき板形成工程と、
繊維方向が互いに交差する前記複数枚のひき板を接合して平面部材を形成する平面部材形成工程と、
前記平面部材を形成する前記一方のひき板における他方のひき板との接合面に緊張鋼線挿通溝を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部を形成する緊張鋼線挿通溝形成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝を形成した前記一方のひき板と前記緊張鋼線挿通溝を形成していない前記他方のひき板とを接合して平面状の木質構造体を構成する木質構造体構成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝にプレストレス装置の緊張鋼線を挿通してこの緊張鋼線を緊張することで前記木質構造体に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線の両端を前記木質構造体の両端部で定着装置により定着する軸圧縮力付与工程と
からなるので、本発明は、平面部材を形成する場合に利用できる。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、
繊維方向が長手方向の複数枚のひき板を形成するひき板形成工程と、
前記ひき板を複数枚接合して柱部材を形成する柱部材形成工程と、
前記柱部材を形成する前記一方のひき板における他方のひき板の少なくとも2個所の接合面に緊張鋼線挿通溝を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部を形成する緊張鋼線挿通溝形成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝を形成した前記一方の柱部材と前記緊張鋼線挿通溝を形成していない前記他方の柱部材とを接合し柱状の木質構造体を構成する木質構造体構成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝にプレストレス装置の緊張鋼線を挿通してこの緊張鋼線を緊張することで前記木質構造体に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線の両端を前記木質構造体の両端部で定着装置により定着する軸圧縮力付与工程と
からなるので、本発明は、柱部材を形成する場合に利用できる。
【0018】
請求項4記載の発明によれば、
前記突起部は、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から前記ひき板の幅方向に突出して形成したので、座屈が木質構造体の幅方向に発生する場合に効果がある。
【0019】
請求項5記載の発明によれば、
前記突起部は、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から前記ひき板の幅方向と直交する方向に突出して形成したので、座屈が木質構造体の幅方向に直交する方向に発生する場合に効果がある。
【0020】
請求項6記載の発明によれば、
繊維方向が長手方向の複数枚のひき板を接合した木質構造体において、
前記一方のひき板における他方のひき板との接合面に緊張鋼線挿通溝を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝の途中の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部を形成し、前記木質構造体は、前記緊張鋼線挿通溝と突起部を形成したひき板と前記緊張鋼線挿通溝と突起部を形成していないひき板とを複数枚接合して構成し、前記緊張鋼線挿通溝にプレストレス装置の緊張鋼線を挿通してこの緊張鋼線を緊張することで前記木質構造体に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線の両端を前記木質構造体の両端部で定着装置により定着し、前記緊張鋼線に、前記突起部の弱軸方向で接するように前記木質構造体に軸圧縮力を付与したものからなるので、請求項1同様の効果がある。
【0021】
請求項7記載の発明によれば、
繊維方向が互いに直交する複数枚のひき板を接合して形成した平面部材を、平面方向に2個以上接合してなる木質構造体であって、接合されるいずれか一方の前記平面部材の接合面に緊張鋼線挿通溝を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部を形成し、前記緊張鋼線挿通溝と突起部を形成した平面部材と、前記緊張鋼線挿通溝と突起部を形成していない平面部材とを接合して平面状の木質構造体を構成し、前記緊張鋼線挿通溝にプレストレス装置の緊張鋼線を挿通してこの緊張鋼線を緊張することで前記木質構造体に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線の両端を前記木質構造体の両端部で定着装置により定着したものからなるので、請求項2同様の効果がある。
【0022】
請求項8記載の発明によれば、
繊維方向が長手方向のひき板を複数枚接合して柱部材を構成してなる木質構造体であって、前記柱部材を形成する前記一方のひき板における他方のひき板の少なくとも2個所の接合面に緊張鋼線挿通溝を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部を形成し、前記一方の突起部は、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から前記ひき板の幅方向に突出して形成したものからなり、前記他方の突起部は、前記緊張鋼線挿通溝の座屈変形の節としたい位置の両壁から前記ひき板の幅方向と直交する方向に突出して形成したものからなり、前記緊張鋼線挿通溝と突起部を形成したひき板と前記緊張鋼線挿通溝と突起部を形成していないひき板を接合して柱状の木質構造体を構成し、前記緊張鋼線挿通溝にプレストレス装置の緊張鋼線を挿通してこの緊張鋼線を緊張することで前記木質構造体に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線の両端を前記木質構造体の両端部で定着装置により定着したものからなるので、請求項3同様の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明によるプレストレス木質構造体及びその製造方法の実施例1を示す一部切り欠き拡大した平面図である。
【
図2】
図1における緊張鋼線挿通溝20の斜視図である。
【
図3】(a)は、
図1における木質構造体29の側面図、(b)は、
図1におけるA-A線拡大断面図である。
【
図4】(a)は、突起部21の傾斜面22が曲線の例を示す断面図、(b)は、対向する突起部21の緊張鋼材接触面23が位置ずれしている例を示す断面図である。
【
図5】繊維が互いに交差する方向のひき板30を接合した平面部材35からなる木質構造体29に交差する方向にプレストレスを施した例を示す斜視図である。
【
図6】2個の平面部材35の接合面に緊張鋼線挿通溝20を形成した例を示す斜視図である。
【
図7】複数枚のひき板30を接合した柱部材34からなる木質構造体29において、(a)~(f)は、X軸用緊張線挿通溝20XとY軸用緊張線挿通溝20Yを形成した異なる例を示す端面図である。
【
図8】複数枚のひき板30を接合した柱部材34からなる木質構造体29において、X軸用緊張線挿通溝20XとY軸用緊張線挿通溝20Yを形成した例を示す端面図である。
【
図9】長尺木質構造体29を湾曲した状態になるようにプレストレスを施した例を示す断面図である。
【
図10】長尺木質構造体29に複数個所(2個所)に突起部21を形成したことにより、座屈長さが長尺木質構造体29の長さに対して3分割されている例を示す断面図である。
【
図11】プレストレスを施した従来例を示す一部切り欠いた平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のプレストレス長尺木質構造体は、
繊維方向が長手方向のひき板30を形成するひき板形成工程と、
前記ひき板30における他のひき板30との接合面に緊張鋼線挿通溝20を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈発生位置の両壁から突出した突起部21を形成する緊張鋼線挿通溝形成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝20を形成した前記ひき板30と形成していない前記ひき板30とを接合して木質構造体29を構成する木質構造体構成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝20にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿通してこの緊張鋼線28を前記木質構造体29の両端部で定着装置32により定着する緊張鋼線定着工程と、
定着した前記緊張鋼線28に、弱軸方向の前記突起部21に接して前記木質構造体29に軸圧縮力を付与する軸圧縮力付与工程と
からなる。
【0025】
本発明の平面部材35からなるプレストレス長尺木質構造体は、
繊維方向が長手方向のひき板30を形成するひき板形成工程と、
繊維方向が互いに交差するひき板30を接合して平面部材35を形成する平面部材形成工程と、
前記平面部材35における他の部材との接合面に緊張鋼線挿通溝20を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈発生位置の両壁から突出した突起部21を形成する緊張鋼線挿通溝形成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝20を形成した前記平面部材35と形成していない他の部材とを接合して平面状の木質構造体29を構成する木質構造体構成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝20にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿通してこの緊張鋼線28を前記木質構造体29の両端部で定着装置32により定着する緊張鋼線定着工程と、
定着した前記緊張鋼線28に、弱軸方向の前記突起部21に接して前記木質構造体29に軸圧縮力を付与する軸圧縮力付与工程と
からなる。
【0026】
本発明の柱部材34からなるプレストレス長尺木質構造体は、
繊維方向が長手方向のひき板30を形成するひき板形成工程と、
前記ひき板30を複数枚接合して柱部材34を形成する柱部材形成工程と、
前記柱部材34における他の部材との少なくとも2個所の接合面に緊張鋼線挿通溝20を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈発生位置の両壁から突出した突起部21を形成する緊張鋼線挿通溝形成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝20を形成した前記柱部材34と形成していない前記柱部材34とを接合し柱状の木質構造体29を構成する木質構造体構成工程と、
前記緊張鋼線挿通溝20にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿通してこの緊張鋼線28を前記木質構造体29の両端部で定着装置32により定着する緊張鋼線定着工程と、
定着した前記緊張鋼線28に、弱軸方向の前記突起部21に接して前記木質構造体29に軸圧縮力を付与する軸圧縮力付与工程と
からなる。
【0027】
座屈が木質構造体19の幅方向に発生する場合に利用するため、前記突起部21は、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈発生位置の両壁から前記ひき板30の幅方向に突出して形成する。
【0028】
座屈が木質構造体19の幅方向に直交する方向に発生する場合に利用するため、前記突起部21は、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈発生位置の両壁から前記ひき板30の幅方向と直交する方向に突出して形成する。
【0029】
繊維方向が長手方向の複数枚のひき板30を接合した木質構造体29において、
前記ひき板30の接合面に緊張鋼線挿通溝20を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝20の途中の座屈発生個所の両壁から突出した突起部21を形成し、前記木質構造体29は、前記緊張鋼線挿通溝20と突起部21を形成したひき板30と形成していないひき板30とを複数枚接合して構成し、前記緊張鋼線挿通溝20にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿通してこの緊張鋼線28を前記木質構造体29の両端部で定着装置32により定着し、前記緊張鋼線28に、前記突起部21の弱軸方向で接するように前記木質構造体29に軸圧縮力を付与したものからなる。
【0030】
繊維方向が互いに直交するひき板30を接合して形成した平面部材35を、平面方向に2個以上接合してなる木質構造体29であって、接合されるいずれか一方の前記平面部材35の接合面に緊張鋼線挿通溝20を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈発生位置の両壁から突出した突起部21を形成し、前記緊張鋼線挿通溝20と突起部21を形成した平面部材35と形成していない平面部材35とを接合して平面状の木質構造体29を構成し、前記緊張鋼線挿通溝20にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿通してこの緊張鋼線28を前記木質構造体29の両端部で定着装置32により定着し、定着した前記緊張鋼線28に、弱軸方向の前記突起部21に接して前記木質構造体29に軸圧縮力を付与したものからなる。
【0031】
繊維方向が長手方向のひき板30を複数枚接合して柱部材34を構成してなる木質構造体29であって、前記ひき板30における他のひき板30との少なくとも2個所の接合面に緊張鋼線挿通溝20を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈発生位置の両壁から突出した突起部21を形成し、前記一方の突起部21は、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈発生位置の両壁から前記ひき板30の幅方向に突出して形成したものからなり、前記他方の突起部21は、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈発生位置の両壁から前記ひき板30の幅方向と直交する方向に突出して形成したものからなり、前記緊張鋼線挿通溝20と突起部21を形成したひき板30と形成していないひき板30を接合して柱状の木質構造体29を構成し、前記緊張鋼線挿通溝20にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿通してこの緊張鋼線28を前記木質構造体29の両端部で定着装置32により定着し、定着した前記緊張鋼線28に、弱軸方向の前記突起部21に接して前記木質構造体29に軸圧縮力を付与したものからなる。
【実施例1】
【0032】
以下、本発明の実施例1を
図1~
図4に基づき説明する。
図1及び
図2は、本発明の長尺の木質構造体29を示している。この木質構造体29は、ひき板30を(繊維)木目が同一方向になるようにして積層したLVLタイプ26タイプの構造用梁材にプレストレスを施した例を示しており、側面図は、
図3(a)に示される。
この長尺の木質構造体29は、例えば、幅220mm、厚さ570mm、長さ10~15mの梁部材37を例としている。積層されるひき板30の厚さは、20~50mm程度で、厚さ方向の積層だけでなく、長さ方向にも必要に応じて木口をV字状等にカットして連結される。
【0033】
前記ひき板30には、
図1、
図2に示すように、積層される前に、プレストレス装置36の緊張鋼線28が挿通される緊張鋼線挿通溝20が形成される。この緊張鋼線挿通溝20は、例えば、幅が40mm、深さが20mmで、この緊張鋼線挿通溝20の途中には、両側の壁面から内方(幅方向)に突出して対抗する突起部21が形成されている。この突起部21は、緊張鋼材接触面23と傾斜面22で山形に形成され、対峙する緊張鋼材接触面23の間には、緊張鋼線28が通るだけの隙間33を有する。前記緊張鋼材接触面23と傾斜面22の長さは、30~50mm程度で、この突起部21は、前記木質構造体29の座屈長さに応じて1~複数位置に形成される。PC鋼より線等からなる前記緊張鋼線28の直径が17.8mmとすると、前記隙間33の幅は、前記緊張鋼線28の直径よりわずかに広い18~20mm程度とする。前記傾斜面22は、前記木質構造体29が屈曲したときの構造上の弱点とならないようにできるだけなだらかに形成される。
【0034】
より具体的には、前記緊張鋼線挿通溝20は、前記ひき板30の厚さが40mmとすると、深さ20mm×幅30~40mm程度とし、
図2に示すように、前記緊張鋼線挿通溝20における前記木質構造体29の屈曲位置に突起部21を形成する。
前記
図1及び
図2に示す実施例では、突起部21を直線的な緊張鋼材接触面23と傾斜面22で構成したが、この例に限られず、
図4(a)に示すように、緊張鋼材接触面23と傾斜面22に境界のない円弧状に形成してもよい。また、
図4(b)に示すように、対峙する突起部21の緊張鋼材接触面23は、所定の距離Bだけずらして形成してもよい。この距離Bは、あまり大きすぎないことが望ましい。
【0035】
以上のように緊張鋼線挿通溝20の形成されたひき板30と緊張鋼線挿通溝20を形成していないひき板30を
図3(a)(b)のように順次積層して接合する。
積層接着完了後、前記緊張鋼線挿通溝20には、緊張鋼線挿通溝20内の対峙する突起部21の隙間33にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿入し、緊張鋼線28の両端をひき板30の両側から突出させた状態とする。
前記緊張鋼線挿通溝20を形成したひき板30の積層位置は、木質構造体29の幅方向の中央位置とするが、厚さ方向のほぼ中央でもよいし、上下にややずらした位置でもよい。
前記両端から突出した緊張鋼線28にプレート31と定着装置32をはめ込み、所定の負荷をかけて木質構造体29にプレストレスをかける。すると、木質構造体29は、導入プレストレス力が木質構造体29の座屈荷重を超えている場合には座屈しようとするが、緊張鋼線28は、
図1に示すように、隙間33内の座屈しようとする弱軸側の緊張鋼材接触面23に密接してそれ以上の湾曲変形が抑制され、座屈することのない長尺の木質構造体29となり、横反りが防止される。
【実施例2】
【0036】
前記
図1~
図4の実施例1では、木質構造体29は、幅220mm、厚さ570mm、長さ10~15mの梁部材37を例としているので、厚さの薄い幅方向に座屈が発生し易いが、実施例2では、
図5及び
図6に示すような平面部材35を接合したものを例として説明する。
図5に示すように、ひき板30の繊維方向が互いに直交するように積層接着した平面部材35からなる木質構造体29にも応用することができる。
なお、
図5は、図面の説明上Z方向の厚さに比較して、X方向とY方向の長さが短いので、座屈の発生しない部材のように表されているが、X方向とY方向の長さが十分長く、座屈が発生する可能性がある場合に、本発明を応用するものとする。
この
図5において、X方向のひき板30とY方向のひき板30に、それぞれ積層前に、緊張鋼線挿通溝20と突起部21を形成する。これらの緊張鋼線挿通溝20と突起部21にそれぞれプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿入し、緊張鋼線28の両端をひき板30の両側から突出させた状態とする。
前記緊張鋼線挿通溝20の両端から突出した緊張鋼線28にプレート31と定着装置32を嵌め込み、所定の負荷をかけて木質構造体29にプレストレスをかける。すると、平面部材35からなる木質構造体29は、プレストレスが付与されてX方向にもY方向にも座屈することのない長尺の木質構造体29となり、横反りが防止される。
【0037】
図6は、
図5と同様の平面部材35を2枚接合する例を示すもので、前記平面部材35における他の平面部材35との接合面に緊張鋼線挿通溝20を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈発生位置の両壁から突出した突起部21を形成する。
前記緊張鋼線挿通溝20を形成した前記平面部材35と形成していない他の平面部材35とを接合して平面状の木質構造体29を構成する。
前記緊張鋼線挿通溝20にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿通してこの緊張鋼線28をジャッキ等で緊張することで前記木質構造体29に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線28の両端を前記木質構造体29の両端部で定着装置32により定着する。
このようにして、座屈することのない平面部材35からなる木質構造体29が得られる。
なお、
図6は、前記緊張鋼線挿通溝20が形成される接合面が短く記載されているが、座屈が発生する恐れのある長さのものに対して大きな効果がある。
【実施例3】
【0038】
図7、
図8は、本発明を縦横の厚さが略同一の柱部材34に応用した例である。
図8において、柱部材34は、縦横の厚さが略同一である場合、座屈を生じる方向が図中X方向であるか、Y方向であるか不明である。そこで、例えば、一方のX軸用緊張鋼線挿通溝20Xの突起部21(図中上側)には、X方向(横方向)にプレストレスが作用するように前記突起部21は、座屈発生位置の両壁から前記ひき板30の幅方向に突出して形成する。
また、他方のY軸用緊張鋼線挿通溝20Yの突起部21(図中下側)は、Y方向(縦方向)にプレストレスが作用するように形成する。このような構成とすることにより、XYいずれの方向の座屈にも機能するように構成することができる。
【0039】
図7は、左側の柱部材34aと右側の柱部材34bとを接合して縦横の厚さが略同一の柱部材34とし、X軸用緊張鋼線挿通溝20XとY軸用緊張鋼線挿通溝20Yとを形成した例を示している。
(a)は、左側の柱部材34aの上側にX軸用緊張鋼線挿通溝20Xを形成し、下側にY軸用緊張鋼線挿通溝20Yを形成し、右側の柱部材34bの上側にX軸用緊張鋼線挿通溝20Xを形成し、下側にY軸用緊張鋼線挿通溝20Yを形成した例を示している。
(b)は、左側の柱部材34aの上側にX軸用緊張鋼線挿通溝20Xを形成し、右側の柱部材34bの下側にY軸用緊張鋼線挿通溝20Yを形成した例を示している。
(c)は、左側の柱部材34aの上側にX軸用緊張鋼線挿通溝20Xを形成し、下側にY軸用緊張鋼線挿通溝20Yを形成し、右側の柱部材34bの上側にY軸用緊張鋼線挿通溝20Yを形成し、下側にX軸用緊張鋼線挿通溝20Xを形成した例を示している。
(d)は、左側の柱部材34aの上側にX軸用緊張鋼線挿通溝20Xを形成し、右側の柱部材34bの上側にY軸用緊張鋼線挿通溝20Yを形成した例を示している。
(e)は、左側の柱部材34aと右側の柱部材34bの接合面の上側にX軸用緊張鋼線挿通溝20Xを形成し、下側にY軸用緊張鋼線挿通溝20Yを形成した例を示している。
(f)は、左側の柱部材34aの下側にY軸用緊張鋼線挿通溝20Yを形成し、右側の柱部材34bの上側にX軸用緊張鋼線挿通溝20Xを形成した例を示している。
以上は、例示であって、同様の他の構成とすることができる。
【実施例4】
【0040】
図9において、2組の突起部21の隙間33の幅を広くして、木質構造体29にプレストレスを付加したときに、長尺木質構造体29に積極的に距離Cだけ湾曲させた湾曲木質構造体29とした例を示している。
【実施例5】
【0041】
図10において、木質構造体29に形成した緊張鋼線挿通溝20の略中央に1個の突起部21を形成するだけでなく、緊張鋼線挿通溝20の距離D毎に突起部21を形成してこの突起部21に緊張鋼線28を通してプレストレスを付加するようにしてもよい。
【0042】
なお、前記ひき板30の厚さが前記緊張鋼線挿通溝20の形成される深さであるとき、同一層に積層される左右の2枚の前記ひき板30の対向面間の隙間をもって前記突起部21を有する前記緊張鋼線挿通溝20とすることもできる。
【符号の説明】
【0043】
10…長尺構造体、11…貫通孔、12…緊張材、13…プレート、14…定着装置(ナット)、18…緊張材位置保持駒、19…嵌合凹部、20…緊張鋼線挿通溝、20X…X軸用緊張鋼線挿通溝、20Y…Y軸用緊張鋼線挿通溝、21…突起部、22…傾斜面、23…緊張鋼材接触面、24…溝加工型、25…隙間形成型、26…LVLタイプ、27…CLTタイプ、28…緊張鋼線、29…木質構造体、30…ひき板、31…プレート、32…定着装置、33…隙間、34…柱部材、35…平面部材、36…プレストレス装置、37…梁部材。
【要約】
【課題】ひき板における緊張鋼線を挿通する溝緊張鋼線挿通溝の形成が容易で、構造上の弱点を可能な限りなくしたプレストレス木質構造体を得ること。
【解決手段】
繊維方向が長手方向の複数枚のひき板30を形成する工程と、前記ひき板30の接合面に緊張鋼線挿通溝20を全長に亘って形成するとともに、前記緊張鋼線挿通溝20の座屈変形の節としたい位置の両壁から突出した突起部21を形成する工程と、前記緊張鋼線挿通溝20を形成したひき板30と形成していないひき板30とを接合して木質構造体29を構成する工程と、前記緊張鋼線挿通溝20にプレストレス装置36の緊張鋼線28を挿通してこの緊張鋼線28を緊張することで前記木質構造体29に軸圧縮応力を付与し、この緊張鋼線28の両端を前記木質構造体29の両端部で定着装置32により定着する工程とからなる。
【選択図】
図1