(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】成形型及びカバー部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 51/34 20060101AFI20240220BHJP
B29C 51/36 20060101ALI20240220BHJP
B29C 51/10 20060101ALI20240220BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
B29C51/34
B29C51/36
B29C51/10
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2020038609
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】595067877
【氏名又は名称】株式会社丸三金属
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 一晴
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-123877(JP,A)
【文献】特開2004-136455(JP,A)
【文献】特開2004-142234(JP,A)
【文献】特開2019-014178(JP,A)
【文献】特開平11-165349(JP,A)
【文献】特開2004-209844(JP,A)
【文献】特開2012-101404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00-51/46
B29C 33/00-33/76
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のグリップ型外部ドアハンドルの表面を覆う加飾フィルムを、真空成形、圧空成形又は真空圧空成形によって、前記外部ドアハンドルの表面形状に対応する形状に賦形するための成形型であって、
前記外部ドアハンドルの表面形状に対応する形状を有する畝状の膨隆部を上部に備え、
前記膨隆部には、少なくとも、短手方向の両側と、長手方向の一側の少なくとも三方に、前記加飾フィルムをアンダーカット形状に賦形するためのアンダーカット形成部が設けられており、
型本体と、一端側を前記型本体に軸支され、他端側を前記型本体に対して上下に傾動可能な傾動端とする長尺な傾動型とを備え、
前記アンダーカット形成部は、前記傾動型の短手方向の両側と前記傾動端側に形成されており、
前記傾動型は、所定の成形位置に付勢されており、前記加飾フィルムの離型時に、前記加飾フィルムに上方へ押圧されることによって前記成形位置から上方傾動するよう構成されて
おり、
前記型本体及び前記傾動型には、型の表面から空気を排出するための通気路が形成されており、
前記傾動型の前記通気路は、少なくとも、前記アンダーカット形成部の表面に開口する微細な吸気口と、前記傾動型の底部に開口する傾動側接続口とを連通しており、
前記型本体の前記通気路は、少なくとも、前記型本体の上部に開口して前記傾動型の前記成形位置で前記傾動側接続口と接続する固定側接続口と、前記型本体の外側に開口する排気口とを連通していることを特徴とする成形型。
【請求項2】
自動車のグリップ型外部ドアハンドルの表面を覆う加飾フィルムを、真空成形、圧空成形又は真空圧空成形によって、前記外部ドアハンドルの表面形状に対応する形状に賦形するための成形型であって、
前記外部ドアハンドルの表面形状に対応する形状を有する畝状の膨隆部を上部に備え、
前記膨隆部には、少なくとも、短手方向の両側と、長手方向の一側の少なくとも三方に、前記加飾フィルムをアンダーカット形状に賦形するためのアンダーカット形成部が設けられており、
型本体と、一端側を前記型本体に軸支され、他端側を前記型本体に対して上下に傾動可能な傾動端とする長尺な傾動型とを備え、
前記アンダーカット形成部は、前記傾動型の短手方向の両側と前記傾動端側に形成されており、
前記傾動型は、所定の成形位置に付勢されており、前記加飾フィルムの離型時に、前記加飾フィルムに上方へ押圧されることによって前記成形位置から上方傾動するよう構成され
、成形位置において、前記傾動端側が斜め上方を向くように傾いていることを特徴とする成形型。
【請求項3】
前記傾動型は、自重のみによって成形位置に付勢されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の成形型。
【請求項4】
前記傾動型は、前記成形位置から上方に所定角度傾動した位置で、上方傾動を規制されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の成形型。
【請求項5】
自動車のグリップ型外部ドアハンドルの表側に配設される、表面に加飾フィルムが接合されたカバー部材の製造方法であって、
請求項1乃至請求項
4のいずれか1項に記載の成形型を用いて、前記加飾フィルムを、真空成形、圧空成形又は真空圧空成形によって、前記カバー部材の表面形状に対応する形状に賦形する賦形工程と、
前記賦形工程で賦形した前記加飾フィルムから、前記カバー部材に接合しない不要部位を切除する裁断工程と、
前記裁断工程を経た前記加飾フィルムを金型にセットした状態で支持基材を射出成形して、前記カバー部材を成形する射出成形工程と
を含むことを特徴とするカバー部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車のグリップ型外部ドアハンドルの表側に配設されるカバー部材の製造方法及び、該カバー部材を加飾する加飾フィルムを賦形するための成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、自動車のドアAの外側には、外板に形成された凹部Bを横断するようにグリップ型の外部ドアハンドル1が配設される(例えば、特許文献1)。
図2(a)は、従来構成の外部ドアハンドル1の斜視図である。かかる外部ドアハンドル1は、ドアAの外側に露出する横長形状のドアハンドル本体2を主体とする。ドアハンドル本体2は、長手方向の両端部が凹部Bの両側に配置され、長手方向の中央部が凹部Bを横断するように架設されて、ドアAの開閉時に把持する棒状のグリップ部6を構成する。ドアハンドル本体2の両端部の裏側には、ドアAに連結される連結部3,4が配設される。また、ドアハンドル本体2の内部には、電波通信用のアンテナ等等の電装品(図示省略)を内蔵する中空部5が形成される。
【0003】
外部ドアハンドル1の表面は、加飾フィルムによって加飾されている。具体的には、外部ドアハンドル1は、
図2(b)に示すように、表側を構成するカバー部材7と、裏側を構成するベース部材8の二つの樹脂部材を具備してなり、表側のカバー部材7の表面に加飾フィルム10が接合されている。カバー部材7は、
図2(b)に示すように、横長棒状をなしており、ベース部材8がドアAの表側から視認されないように、ベース部材8を表側から覆うように組み付けられる。
【0004】
カバー部材7は、支持基材11の表面に一枚の加飾フィルム10を一体的に接合した樹脂部材である。加飾フィルム10は、
図3(a)~3(c)に示すように、ベース部材8が内嵌する凹部12が形成されるカバー部材7の背面側を除き、支持基材11の略全てを覆うように接合される。
図3(d)~3(f)に示すように、加飾フィルム10は、カバー部材7の長手方向の一側において、水平断面形状が略C字状をなすように支持基材11の端縁を覆って、支持基材11の端縁を裏側まで被覆している。また、
図4(a),4(b)に示すように、加飾フィルム10は、支持基材11の短手方向の両側において、垂直断面形状が略C字状をなすように支持基材11の端縁を覆って、支持基材11の端縁を裏側まで被覆している。このようにカバー部材7の端縁において、加飾フィルム10を裏側内方に折り返すのは、カバー部材7の端縁部分の裏側は、外部ドアハンドル1の上方や側方から視認され易いためである。
【0005】
上記カバー部材7の製造方法は、
図5(a)→5(b)に示すように、加飾フィルム10を、カバー部材7の表面形状に対応する形状に賦形する賦形工程と、
図5(b)→5(c)に示すように、賦形工程で賦形した加飾フィルム10から、カバー部材7に接合しない不要部位を切除する裁断工程と、
図5(c)→5(d)に示すように、裁断工程を経た加飾フィルム10を金型にセットした状態で支持基材11を射出成形してカバー部材7を成形する射出成形工程とを含んでいる。
【0006】
上記賦形工程では、真空成形や圧空成形、真空圧空成形によって加飾フィルム10を成形型に密着させて賦形する。
図6は、賦形工程で用いる従来の成形型30aの斜視図である。かかる成形型30aの上部には、カバー部材7の表面形状に対応する形状を有する畝状の膨隆部32aが形成されており、
図7(a)→7(b)に示すように、圧空成形であれば、加熱軟化させた加飾フィルム10を成形型30aと圧空ボックス31との間に挟み込み、圧空ボックス31側から加熱圧縮空気を注入するとともに、成形型30a側から空気を自然排気することにより、膨隆部32aを含む成形型30aの表面に加飾フィルム10を密着させる。
【0007】
ここで、
図3(e),
図4(b)に示すように、加飾フィルム10は、カバー部材7の長手方向の一側と短手方向の両側で裏側内方に折り返される部分が、アンダーカット形状13a~13cとなっており、
図6に示すように、成形型30aの膨隆部32aには、各アンダーカット形状13a~13cを形成するためのアンダーカット形成部40a~40cが三方に設けられている。かかるアンダーカット形成部40a~40cは、離型時に加飾フィルム10と係合することとなるが、加飾フィルム10は、可撓性を有しているため、
図7(c)に示すように、従来の賦形工程では加飾フィルム10を撓ませてアンダーカット形成部40a~40cから無理抜きしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した賦形工程では、加飾フィルム10を離型させる際に、膨隆部32aの三方に形成されたアンダーカット形成部40a~40cから加飾フィルム10を無理抜きしているが、加飾フィルム10の撓みにも限度があるため、アンダーカット形成部40a~40cが比較的大きい場合や、加飾フィルム10が比較的撓み難い場合に、加飾フィルム10の無理抜きが上手くいかず、加飾フィルム10が裏返ってしまったり、塑性変形してしまったりする。このように、アンダーカット形成部40a~40cから加飾フィルム10を無理抜きする従来の成形型30aでは、アンダーカット形成部40a~40cの大きさが、加飾フィルム10が無理なく撓み得る範囲に制限されるため、カバー部材7のデザインの自由度が低く、また、比較的撓み難い加飾フィルム10を採用し難いという問題がある。
【0010】
本発明はかかる現状に鑑みて為されたものであり、外部ドアハンドルの表面を覆う加飾フィルムを賦形する際に、加飾フィルムを従来よりも容易に離型可能な成形型、及び該成形型を用いた外部ドアハンドルのカバー部材の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、自動車のグリップ型外部ドアハンドルの表面を覆う加飾フィルムを、真空成形、圧空成形又は真空圧空成形によって、前記外部ドアハンドルの表面形状に対応する形状に賦形するための成形型であって、前記外部ドアハンドルの表面形状に対応する形状を有する畝状の膨隆部を上部に備え、前記膨隆部には、少なくとも、短手方向の両側と、長手方向の一側の少なくとも三方に、前記加飾フィルムをアンダーカット形状に賦形するためのアンダーカット形成部が設けられており、型本体と、一端側を前記型本体に軸支され、他端側を前記型本体に対して上下に傾動可能な傾動端とする長尺な傾動型とを備え、前記アンダーカット形成部は、前記傾動型の短手方向の両側と前記傾動端側に形成されており、前記傾動型は、所定の成形位置に付勢されており、前記加飾フィルムの離型時に、前記加飾フィルムに上方へ押圧されることによって前記成形位置から上方傾動するよう構成されていることを特徴とする成形型である。なお、本発明に係る加飾フィルムには、金属調の光沢を有する光輝フィルムが含まれる。
【0012】
かかる成形型によれば、加飾フィルムを離型する際に、傾動型の傾動端側が上方に傾動するため、加飾フィルムの傾動型からの離型は、傾動軸側から始まって、傾動端側に向けて進んで行き、最後に傾動端から離型することとなる。このように、本実施例では、加飾フィルムの傾動型からの離型が、傾動型の長手方向に沿って徐々に進行するため、アンダーカット形成部から離型する際の加飾フィルムの撓み量を低減できる。すなわち、アンダーカット形成部が上方に傾動しない従来の成形型では、離型する際に加飾フィルムを全てのアンダーカット形成部に対して同時に撓ませなくてはならないが、本発明の成形型では、加飾フィルムを、傾動軸側のアンダーカット形成部から傾動端側のアンダーカット形成部へ順番に撓ませていくことで離型できるため、加飾フィルムを一度に変形させる度合いを、従来構成に比べて小さくできる。
また、かかる成形型では、傾動型の傾動端側に形成されたアンダーカット形成部が、傾動型の上方傾動によって、加飾フィルムのアンダーカット形状から退避する方向に移動するため、加飾フィルムを傾動型の傾動端から比較的少ない撓み量で離型させることができるという利点がある。
このように、本発明の成形型によれば、加飾フィルムを同じ形状に賦形する場合でも、離型時の撓みが従来構成よりも低減されるため、比較的大きなアンダーカット形成部を採用して、カバー部材のデザインの自由度を高めることが可能となる。また、比較的撓み難い加飾フィルムを採用可能となるため、加飾フィルムの材料や厚みの選択自由度も向上できる。
【0013】
本発明にあって、前記型本体及び前記傾動型には、型の表面から空気を排出するための通気路が形成されており、前記傾動型の前記通気路は、少なくとも、前記アンダーカット形成部の表面に開口する微細な吸気口と、前記傾動型の底部に開口する傾動側接続口とを連通しており、前記型本体の前記通気路は、少なくとも、前記型本体の上部に開口して前記傾動型の前記成形位置で前記傾動側接続口と接続する固定側接続口と、前記型本体の外側に開口する排気口とを連通していることが提案される。
【0014】
かかる構成にあっては、アンダーカット形成部の表面に形成した吸気口から空気を排出可能となるため、加飾フィルムをアンダーカット形成部に適切に密着させ易くなる。
【0015】
また、本発明にあって、前記傾動型は、自重のみによって成形位置に付勢されることが提案される。
【0016】
かかる構成にあっては、ばね等の付勢手段や動力を必要としないため成形型の構成を簡素化できる。また、ばね等の付勢手段を用いて傾動型を成形位置に付勢すると、ばね等の付勢力の分だけ傾動型の上方傾動に抗する力が増加するため、離型時に加飾フィルムに加わる負荷が大きくなるが、傾動型を自重のみで成形位置に付勢すれば、離型時に加飾フィルムに加わる負荷を最低限に抑えることができる。
【0017】
また、本発明にあって、前記傾動型は、前記成形位置から上方に所定角度傾動した位置で、上方傾動を規制されることが提案される。
【0018】
かかる構成とすれば、加飾フィルムの離型時に、傾動型が過度に上方傾動することがないため、上方傾動した傾動型を成形位置に確実に復帰させることができ、また、加飾フィルムを比較的安定に離型させることができる。なお、前記所定角度は、5°~30°の範囲が望ましい。5°未満の場合は、加飾フィルムのたわみ量を十分に低減できず、30°を上回ると、傾動型を成形位置に自動復帰させ難いためである。
【0019】
また、本発明にあって、前記傾動型は、成形位置において、前記傾動端側が斜め上方を向くように傾いていることが提案される。
【0020】
かかる構成によれば、離型時に加飾フィルムから加わる押圧力によって、傾動型を円滑に上方傾動させ易くなる。傾動端側を上方に傾斜させる角度は、3°~10°の範囲が望ましい。3°未満の場合は傾動型の上方傾動がぎこちなくなり易く、10°を上回る場合は、成形位置における加飾フィルムに対する傾動型の傾きが大きくなって、真空成形や圧空成形、真空圧空成形で加飾フィルムを傾動型に密着させ難くなる。
【0021】
本発明の別の態様として、自動車のグリップ型外部ドアハンドルの表側に配設される、表面に加飾フィルムが接合されたカバー部材の製造方法であって、上述の成形型を用いて、前記加飾フィルムを、真空成形、圧空成形又は真空圧空成形によって、前記カバー部材の表面形状に対応する形状に賦形する賦形工程と、前記賦形工程で賦形した前記加飾フィルムから、前記カバー部材に接合しない不要部位を切除する裁断工程と、前記裁断工程を経た前記加飾フィルムを金型にセットした状態で支持基材を射出成形して、前記カバー部材を成形する射出成形工程とを含むことを特徴とするカバー部材の製造方法が提案される。
【0022】
かかる製造方法では、賦形工程において加飾フィルムを従来よりも離型し易くなるため、比較的大きなアンダーカット形状を適切に形成でき、カバー部材のデザインの自由度を向上できる。また、比較的撓み難い加飾フィルムを採用可能となるため、加飾フィルムの材料の選択自由度も向上できる。
【発明の効果】
【0023】
以上に述べたように、本発明によれば、外部ドアハンドルの表面を覆う加飾フィルムを賦形する際に、成形型から加飾フィルムを容易に離型可能となるため、外部ドアハンドルのデザインの自由度や、加飾フィルムの選択自由度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施例の外部ドアハンドル1を装着した自動車のドアAの正面図である。
【
図2】(a)は外部ドアハンドル1の斜視図であり、(b)は外部ドアハンドル1の分解斜視図である。
【
図3】(a)カバー部材7の正面図である。(b)カバー部材7の背面図である。(c)カバー部材7の底面図である。(d)カバー部材7の水平断面図である。(e)水平断面図(d)におけるX部分の拡大図である。(f)水平断面図(d)におけるY部分の拡大図である。
【
図4】(a)カバー部材7の左側面図である。(b)カバー部材7の垂直断面図である。
【
図5】カバー部材7の製造工程を示す説明図である。
【
図6】賦形工程に用いる従来の成形型30aの斜視図である。
【
図9】膨隆部32を短手方向に切断した、成形型30の断面図である。
【
図10】膨隆部32を長手方向に切断した、成形型30の断面図である。
【
図13】離型時の加飾フィルム10と成形型30の動きを示す説明図である。
【
図14】離型時の加飾フィルム10と成形型30の動きを別の角度から示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態を、以下の実施例によって説明する。
本実施例は、上述した外部ドアハンドル1のカバー部材7(
図2,3参照)の製造方法である。本実施例のカバー部材7の製造方法は、以下に述べる成形型30を賦形工程で使用することを特徴とする。賦形工程で使用する成形型30以外は、背景技術の欄で説明した従来の製造方法と同じであるため、その他についての説明は、共通符号を使用して省略する。また、本実施例の製造方法で製造されるカバー部材7の構成は、背景技術の欄で述べたとおりであるため、符号を共通させて、詳細な説明は省略する。
【0026】
図8は、本実施例に係る成形型30の斜視図である。かかる成形型30は、上述した従来の成形型30a(
図6参照)と同様に、圧空成形用の成形型であり、上部の外周部には、加飾フィルム10を挟んで圧空ボックス31と圧接する挟圧部34が形成される。そして、挟圧部34の内側に、カバー部材7の表面形状に対応する形状を有する畝状の膨隆部32が形成される。
図9,10に示すように、膨隆部32は、短手方向の断面が茸状をなしており、膨隆部32の短手方向の両側と、長手方向の一側の三方には、加飾フィルム10にアンダーカット形状13a~13cを賦形するためのアンダーカット形成部40a~40cが設けられている。なお、本実施例の成形型30は金属製であるが、本発明の成形型は樹脂型や木型であっても構わない。
【0027】
図11に示すように、本実施例の成形型30は、型本体35と、型本体35の上に配設された長尺な傾動型36とで構成される。
図10に示すように、傾動型36は、型本体35の上面側で一端側を軸支されて、他端側を型本体35に対して上下に傾動可能な傾動端としている。具体的には、
図9~11に示すように、傾動型36は、短手方向の断面形状が略T字状をなしており、膨隆部32の上部を構成する幅広な上部膨隆部41と、型本体35に嵌合する幅狭な嵌合部43とで構成される。膨隆部32のアンダーカット形成部40a~40cは、上部膨隆部41の傾動端側と、短手方向の両側下部の全長に亘って形成される。また、傾動型36の傾動軸側には、傾動軸となるピン47を挿通するための軸孔46が形成される。
【0028】
一方、型本体35には、膨隆部32の下部を構成する下部膨隆部42が設けられており、下部膨隆部42の上部に、傾動型36の嵌合部43が内嵌する嵌合溝44が長手方向に形成される。また、嵌合溝44の一端側には、傾動型36を軸支するピン47を挿通する軸孔45が形成される。
【0029】
図9,10に示すように、傾動型36は、自重により、上部膨隆部41を下部膨隆部42の上に載せて、上部膨隆部41と下部膨隆部42によって膨隆部32を形成する成形位置αに保持される。
図10に示すように、傾動型36は、成形位置αにおいて、水平よりも傾動端側が斜め上方に5°傾いている。傾動型36は、自重のみによって成形位置αに付勢されるため、傾動型36の自重を上回る力で傾動型36を引き上げれば、傾動型36の傾動端側を成形位置αから上方に傾動させることができる。傾動型36は、傾動端側が斜め上方に15°傾くと、傾動型36の傾動軸側が型本体35と干渉することにより、それ以上の上方傾動を規制される。すなわち、傾動型36は、成形位置αから傾動端側を上方に0°~10°の範囲で傾動させ得るよう構成されている。
【0030】
図9に示すように、型本体35と傾動型36には、型の表面から空気を排出するための通気路49a,49bが形成される。
図9では、模式化しているが、通気路49a,49bは、型本体35の表面と、傾動型36の表面の各所に開口する微小な吸気口50と、型本体35の底部に開口する排気口51とを連通し、成形型30側の空気を吸気口50から吸い出して、排気口51から外部に排出し得るよう構成されている。
【0031】
型本体35の通気路49aと、傾動型36の通気路49bは、傾動型36の成形位置αにおいて相互に接続されて、傾動型36の吸気口50から型本体35の排気口51へ空気を排出可能となる。具体的には、
図11に示すように、型本体35の通気路49aは、下部膨隆部42の上面に開口する固定側接続口52を具備し、また、傾動型36の通気路49bは、上部膨隆部41の底面に開口する傾動型接続口53を具備しており、傾動型36の成形位置αで、かかる固定側接続口52と傾動側接続口53が重なり合うことにより、型本体35の通気路49aと傾動型36の通気路49bが接続されるよう構成されている。このように、本実施例の成形型30では、傾動型36の表面からも空気が排出されるため、加飾フィルム10を膨隆部32に密着させ易い。特に、
図9に示すように、本実施例では、傾動型36のアンダーカット形成部40a~40cにも吸気口50が開口しているため、比較的加飾フィルム10を密着させ難いアンダーカット形成部40a~40cに加飾フィルム10を密着させ易いという利点がある。
【0032】
次に、本実施例の成形型30を用いた賦形工程を説明する。
賦形工程では、まず、
図12(a)に示すように、賦形前の平坦な加飾フィルム10の周囲をクランプ24で挟持し、ヒーター25によって加熱軟化させる。なお、加飾フィルム10の種類は、真空成形や圧空成形、真空圧空成形が可能なものであれば、特に限定されるものではない。続いて、
図12(b)に示すように、加熱軟化した加飾フィルム10を、成形型30と圧空ボックス31の間に挟み込む。この時、加飾フィルム10は、表側が圧空ボックス31を向いた状態とする。そして、
図12(c)に示すように、圧空ボックス31の通気孔26から加熱圧縮空気を注入するとともに、通気路49a,49bを介して成形型30の型面を外気と連通させることにより、加飾フィルム10の両側に差圧を発生させて、成形型30側の空気を外部に排出する。これにより、加飾フィルム10が、成形型30の型面に強く押し付けられて密着し、膨隆部32において、カバー部材7の表面形状に対応する形状に賦形される。
【0033】
賦形工程では、その後、通気孔26を外気と連通させて圧空ボックス31の内部を大気圧として、
図13(a),14(a)に示すように、成形型30から圧空ボックス31を退避させて、加飾フィルム10を冷却する。そして、加飾フィルム10の周囲のクランプ24を上昇させるか、成形型30を下降させることにより、加飾フィルム10を成形型30から引き上げて離型させる。離型の際には、
図13(b),14(b)に示すように、加飾フィルム10は、膨隆部32のアンダーカット形成部40a~40cに引っ掛かることにより、アンダーカット形状13a~13cが外側に拡がるように撓むこととなる。一方、傾動型36は、アンダーカット形成部40a~40cに引っ掛かった加飾フィルム10によって、自重を上回る力で上方へ押圧されることにより、傾動端側を加飾フィルム10に追従させるように、成形位置αから上方へ傾動する。なお、離型時には、加飾フィルム10が成形型30の表面から剥がれ易いように、排気口51から通気路49bへ空気を圧入して、吸気口50から成形型30側へ空気を吹き出させるようにしてもよい。そして、加飾フィルム10が成形型30から完全に離型した後は、
図13(c),14(c)に示すように、上方傾動した傾動型36は、自重によって下方傾動して成形位置αに復帰することとなる。
【0034】
このように、本実施例の成形型30は、離型の際に加飾フィルム10を無理抜きをするという点で、上述した従来の成形型30a(
図6参照)と共通しているが、アンダーカット形成部40a~40cが形成された傾動型36が離型時に上方傾動することにより、従来構成比べて、離型時の加飾フィルム10の撓み量を低減できるという利点がある。
【0035】
具体的には、
図14(b)に示すように、本実施例では、加飾フィルム10の離型時に、傾動型36の傾動端側が、加飾フィルム10に追従するように上方に傾動するため、加飾フィルム10の傾動型36からの離型は、傾動軸側から始まって、傾動端側に向けて進んで行き、最後に傾動端が離間することとなる。このように、本実施例では、離型時に傾動型36が上方傾動することにより、加飾フィルム10のアンダーカット形状13a~13cの離型が、傾動型36の長手方向に沿って進むため、加飾フィルム10を一度に変形させる度合いを、従来構成に比べて小さくできるという利点がある。
【0036】
また、本実施例では、
図14(b)に示すように、加飾フィルム10は、傾動型36が成形位置αから上方傾動した状態で、傾動型36の傾動端から離間することとなるが、傾動型36は、上方傾動に伴って、傾動端側のアンダーカット形成部40aを、加飾フィルム10の端部のアンダーカット形状13aから退避する方向に移動させるため、加飾フィルム10を傾動型36の傾動端から離間させる際に、傾動端側のアンダーカット形成部40aは、加飾フィルム10のアンダーカット形状13aに殆ど引っ掛からない。このため、本実施例では、傾動型36の傾動端側に関して、加飾フィルム10のアンダーカット形状13aを殆ど撓ませることなく、離型させることができる。
【0037】
このように、本実施例の成形型30は、加飾フィルムを離型させる時の撓み量を、従来構成よりも低減できる。したがって、本実施例の成形型30を使用してカバー部材を製造すれば、比較的大きなアンダーカット形状を有する加飾フィルムを適切に離型可能となり、カバー部材のデザインの自由度を向上することが可能となる。また、本実施例の成形型30を用いれば、比較的撓み難い加飾フィルムを使用可能となるため、加飾フィルムの材料や厚みの選択自由度も向上できる。
【0038】
特に、本実施例の成形型30では、型本体35と傾動型36に形成された通気路49a,49bが、傾動型36の成形位置αで相互接続されて、アンダーカット形成部40a~40cに形成された吸気口50から空気を外部へ排出可能となっているため、アンダーカット形成部40a~40cに加飾フィルム10を密着させ易いという利点がある。
【0039】
また、本実施例の成形型30は、傾動型36を、自重のみによって成形位置αに付勢するため、比較的簡単な構成によって、傾動型36を成形位置αに付勢できる。また、ばね等によって傾動型36を成形位置αに付勢すると、ばね等の付勢力の分だけ傾動型36の上方傾動に抗する力が増加するため、離型時に加飾フィルム10に加わる負荷が大きくなるが、本実施例では、離型時に加飾フィルム10に加わる負荷を最低限に抑えることができる。
【0040】
また、本実施例では、傾動型36は、成形位置αにおいて、傾動端側が斜め上方に5°傾いているため、離型時に加飾フィルム10から加わる押圧力によって、傾動型36を円滑に上方傾動させることができるという利点がある。
【0041】
また、本実施例では、傾動型36が、成形位置αから上方に10°傾動した位置で、上方傾動を規制されるよう構成されているため、加飾フィルム10の離型時に、傾動型36が過度に上方傾動せず、上方傾動した傾動型36を自重によって成形位置αに確実に復帰させられるという利点がある。
【0042】
なお、本発明は、上記実施例の形態に限らず本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。例えば、上記実施例の製造方法で製造されるカバー部材7は、左右両側のドアで外部ドアハンドル1を共通部品化するために上下対称形状をなしているが、本発明に係るカバー部材は上下非対称形状であってもよい。すなわち、本発明に係る膨隆部や傾動型も対称形状でなくてもよい。
【0043】
また、上記実施例では、加飾フィルム10の両側のアンダーカット形状13b,13cが、カバー部材7の全長に亘って形成されているが、かかるアンダーカット形状は、カバー部材の全長に限らず、その一部に形成されたものであってもよい。
【0044】
また、上記実施例に係るカバー部材7は、括れのない横長棒状であるが、本発明に係るカバー部材7は、中央部が膨らんだり、括れたりしたものであってもよい。
【0045】
また、上記実施例の成形型30は一個取りのものであるが、本発明に係る成形型は、上面に膨隆部が複数形成された複数個取りのものであってもよい。膨隆部が複数形成された複数個取りの成形型の場合は、膨隆部毎に傾動型を配設してもよいし、複数の膨隆部で共通の傾動型を配設してもよい。
【0046】
また、上記実施例の成形型30には、膨隆部32の三方にアンダーカット形成部40a~40cが設けられているが、膨隆部の両端にアンダーカット形成部を配設して、アンダーカット形成部を膨隆部32の四方に設けるようにしてもよい。比較的小さいアンダーカット形状であれば、傾動型36の傾動軸側に形成しても、比較的簡単に無理抜きできるためである。
【0047】
また、上記実施例の成形型30は圧空成形用であるが、本発明の成形型は真空成形用や真空圧空成形用であってもよい。同様に、本発明に係る賦形工程は、加飾フィルムを真空成形や真空圧空成形で賦形するものであってもよい。
【0048】
また、上記実施例の成形型30は、自重のみで成形位置αに付勢されているが、自重に加えて、ばね等によって成形位置αに付勢するようにしてもよい。ただし、ばね等で成形位置に付勢すると、成形型の構造が複雑となり、また、ばね等の付勢力の分だけ傾動型36の上方傾動に抗する力が増加して、離型時に加飾フィルムに加わる負荷が大きくなるため、自重のみで成形位置αに付勢することが望ましい。
【0049】
また、上記実施例では、膨隆部32のアンダーカット形成部40a~40cの全体が傾動型36に設けられているが、加飾フィルム10を比較的小さく撓ませるだけで離型させることができる部位に関しては、アンダーカット形成部40a~40cを型本体35側に配設するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 外部ドアハンドル
2 ドアハンドル本体
7 カバー部材
10 加飾フィルム
13a,13b,13c アンダーカット形状
24 クランプ
30,30a 成形型
31 圧空ボックス
32,32a 膨隆部
34 挟圧部
35 型本体
36 傾動型
40a,40b,40c アンダーカット部
41 上部膨隆部
42 下部膨隆部
43 嵌合部
44 嵌合溝
45,46 軸孔
47 ピン
49a,49b 通気路
50 吸気口
51 排気口
52 固定側接続口
53 傾動側接続口