(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】固定抵抗器用のケース及び固定抵抗器
(51)【国際特許分類】
H01C 1/03 20060101AFI20240220BHJP
H01C 3/00 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
H01C1/03
H01C3/00 W
(21)【出願番号】P 2020144937
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000215833
【氏名又は名称】帝国通信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094226
【氏名又は名称】高木 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100087066
【氏名又は名称】熊谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】川崎 大宇
(72)【発明者】
【氏名】森 康裕
【審査官】多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-004701(JP,A)
【文献】特開2020-107765(JP,A)
【文献】実開昭54-061229(JP,U)
【文献】実公昭49-024055(JP,Y1)
【文献】特開2004-303965(JP,A)
【文献】実開昭50-088838(JP,U)
【文献】実開平07-029804(JP,U)
【文献】特開平08-273909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 1/03
H01C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端にリード線を接続した抵抗素子
がその一方のリード線を折り返して
前記抵抗素子と並列にさせた状態で収納
され且つ充填材が充填される収納部を有する固定抵抗器用のケースにおいて、
前記ケースの一面に前記収納部の開口を設け、且つ前記ケースの前記収納部周囲の一側壁に、前記一対のリード線を引き出す引出部を設け、
前記ケースの開口側から前記収納部底面を投影した際に、前記折り返したリード線を配置する収納部底面の少なくとも前記引出部近傍の高さを、前記抵抗素子を配置する収納部底面の高さ
、及び、他方の折り返していないリード線を配置する収納部底面の少なくとも前記引出部近傍の高さよりも高い位置としたことを特徴とする固定抵抗器用のケース。
【請求項2】
請求項1に記載の固定抵抗器用のケースと、両端にリード線を接続した抵抗素子と、充填材と、を具備し、
前記抵抗素子はその一方のリード線を折り返して前記抵抗素子と並列にさせた状態で前記ケースの収納部に収納されており、且つ前記抵抗素子に接続されている一対のリード線は前記ケースの引出部から引き出されており、
前記充填材は前記ケースの収納部に充填されている固定抵抗器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給湯器の凍結防止ヒータ用の抵抗器などとして用いて好適な固定抵抗器用のケース及び固定抵抗器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、給湯器の通水パイプの凍結防止のため、通水パイプにヒータ用の抵抗器を取り付ける場合がある。この種の抵抗器は、例えば特許文献1に示すように、セラミック製のケース(4)の収納部(10)内に、両端にリード線(1),(2)を接続した抵抗素子(3)を収納し、その際、予め一方のリード線(1)を他方のリード線(2)と平行になるように折り曲げておくことで両リード線(1),(2)をケース(4)の同一の側壁に設けた一対の溝(6),(6´)に挿入し、さらに当該収納部(10)内に充填材(11)を充填して構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記充填材(11)として、従来は、液体ワニスを使用した液体セメントが用いられていた。しかし、ケースの収納部内に液体セメントを充填した後、すぐに熱を加えて乾燥しようとすると、気泡が発生して乾燥後に空洞ができてしまう虞があった。空洞ができると、通水パイプなどの被加熱体の加熱効率が悪くなる。一方、前記液体セメントを充填した後、24時間程度自然乾燥させれば気泡の発生を防ぐことはできるが、製品完成までに時間を要してしまう。
【0005】
そこで本願発明者は、液体セメントの代わりに、粉体セメントを使用することを試みた。粉体セメントは、絶縁粉体の表面にワニスを塗布したものであり、これをケースの収納部内に充填した後に加熱し、前記ワニスを溶かして粉体同士を接着後、冷却・硬化(固化)させる。このように粉体セメントを使用した場合は、上記液体セメントのような長時間の自然乾燥の必要がないので、製品完成までの時間を短縮することができる。
【0006】
しかし、液体セメントに比べて粉体セメントは粘性がないため、狭い隙間(特にケース内で折り返して収納するリード線の下側)への充填が行いにくく、このため抵抗素子及びリード線を収納したケースの収納部内に粉体セメントが充分に充填されず、内部に空間が残ってしまう虞があった。内部に空間が残った状態で加熱すると、充填材の中に空洞ができてしまい、所望の加熱性能が発揮できない虞があった。さらにリード線の下に空間があると、粉体セメントを加熱して固める際に、当該空間の膨張によってリード線が持ち上がってしまい、当該リード線を正規の位置に位置させることができず、同時にリード線の持ち上がりに伴って充填材も持ち上がってしまう虞もあった。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものでありその目的は、ケースの収納部内にリード線付きの抵抗素子を収納して充填材を充填した際、充填材の充填されない空間(特にリード線下側の空間)が生じにくい固定抵抗器用のケース及び固定抵抗器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、両端にリード線を接続した抵抗素子がその一方のリード線を折り返して前記抵抗素子と並列にさせた状態で収納され且つ充填材が充填される収納部を有する固定抵抗器用のケースにおいて、前記ケースの一面に前記収納部の開口を設け、且つ前記ケースの前記収納部周囲の一側壁に、前記一対のリード線を引き出す引出部を設け、前記ケースの開口側から前記収納部底面を投影した際に、前記折り返したリード線を配置する収納部底面の少なくとも前記引出部近傍の高さを、前記抵抗素子を配置する収納部底面の高さ、及び、他方の折り返していないリード線を配置する収納部底面の少なくとも前記引出部近傍の高さよりも高い位置としたことを特徴としている。
本発明によれば、収納部内に抵抗素子を収納した際、折り返したリード線と、これに対向する収納部底面との間の隙間を小さくすることができるので、当該収納部内に充填材を充填した際、収納部底面と折り返したリード線の間に生じる空間(空洞)の発生を効果的に抑制・防止することができる。
【0010】
また本発明は、上記固定抵抗器用のケースと、両端にリード線を接続した抵抗素子と、充填材と、を具備し、前記抵抗素子はその一方のリード線を折り返して前記抵抗素子と並列にさせた状態で前記ケースの収納部に収納されており、且つ前記抵抗素子に接続されている一対のリード線は前記ケースの引出部から引き出されており、前記充填材は前記ケースの収納部に充填されている固定抵抗器にある。
本発明によれば、ケースの収納部底面と折り返したリード線の間に生じる空間の発生を効果的に抑制・防止した固定抵抗器を提供することができる。この固定抵抗器によれば、充填材中に空洞が生じにくいので、所望の加熱性能を発揮することができる。また空間(空洞)によるリード線の持ち上がりを防止でき、当該リード線を正規の位置に位置させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ケースの収納部内にリード線付きの抵抗素子を収納して充填材を充填した際、収納部底面と折り返したリード線の間に生じる空間(空洞)の発生を抑制・防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】ケース10を示す図であり、
図3(a)は斜視図、
図3(b)は平面図、
図3(c)は
図3(b)のA-A断面矢視図、
図3(d)は
図3(b)のB-B断面矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の1実施形態にかかる固定抵抗器1の斜視図、
図2は固定抵抗器1の分解斜視図である。これらの図に示すように、固定抵抗器1は、両端にリード線51,53を接続した抵抗素子40を、その一方のリード線51を折り返して抵抗素子40と並列にさせた状態で、ケース10に設けた収納部11内に収納すると共に、当該収納部11内に充填材60を充填して構成されている。なお以下の説明において、「上」とはケース10から充填材60を見る方向をいい、「下」とはその反対方向をいうものとする。
【0014】
図3はケース10を示す図であり、
図3(a)は斜視図、
図3(b)は平面図、
図3(c)は
図3(b)のA-A断面矢視図、
図3(d)は
図3(a),(b)のB-B断面矢視図である。これらの図に示すように、ケース10は、略四角柱状のセラミックス製であって、その上面(天面)10aに略矩形凹状の収納部11の開口13を設け、またケース10の下面10bをこの固定抵抗器1によって加熱される図示しない被加熱体を当接する被装着面として構成されている。
【0015】
収納部11は、抵抗素子40を収納できる寸法形状に形成されており、
図3(d)に示すように、その横断面は、略U字形状になっている。また収納部11の外周4つの側壁101,103,105,107の内の一つの側壁101(ケース10の長手方向に直交する一対の側壁の一方)には、その上辺に凹溝状(略U字状)となる一対の引出部15,17が並列に形成されている。引出部15,17は、収納部11に連通している。引出部15,17は同一形状であり、その幅寸法は、リード線51,53の外径寸法と略同じ寸法に形成されている。
【0016】
また、ケース10の開口13側から収納部底面111(111A,111B)を投影した際、折り返したリード線51を配置する収納部底面111Aの部分、即ち、収納部底面111の内の、折り返したリード線51に対向する部分は、前記引出部15を設けた側壁101側から当該側壁101に対向する側壁105側に向けて高さが徐々に低くなっていく勾配面(スロープ)となっている。さらに言えば、前記収納部底面111(111A,111B)の内の、折り返したリード線51を配置する収納部底面111Aの少なくとも前記引出部15近傍の高さを、抵抗素子40を配置する収納部底面111Bの高さよりも高い位置としている。
【0017】
抵抗素子(固定抵抗素子)40は、円柱状の絶縁棒の外周に抵抗線を巻き付け、その両端に金属製のキャップ41,43を被せ、その際、リード線51,53から引き出した電線52,54をキャップ41,43に挟み込み、この状態でキャップ41,43の外周側面をかしめて構成されている。なお抵抗素子40の構造がこの実施形態の構造に限定されないことは言うまでもない。
【0018】
充填材60は、この実施形態では、粉体セメントを用いている。粉体セメントとは、粒径の異なる複数種類の絶縁粉(この例では珪石の粉)にワニスを塗布した粉体であり、熱を加えることでワニスを溶融して粉体同士を相互に結合して接着し、冷却することで一体に固化するものである。
【0019】
次に、固定抵抗器1の製造方法を説明する。
図4乃至
図9は、固定抵抗器1の製造方法説明図であり。
図6,
図8は
図3(c)に相当する断面を示し、
図7,
図9は
図3(a),(b)のC-C線における断面相当部分を示している。まず
図2に示すように、一方のリード線51をその電線52部分からキャップ41の端面の外側を回して折り返し、抵抗素子40と並列させた状態とする。そしてこの状態の抵抗素子40及びリード線51,53を、
図4,
図5に示すように、ケース10の開口13から収納部11内に収納し、その際、両リード線51,53をそれぞれケース10の各引出部15,17に挿入(圧入)する。
【0020】
このとき、
図7に示すように、上記折り返した側のリード線51は、折り返した位置から引出部15に向けてその高さを高くしていくように勾配を有しているが、同時にケース10のリード線51に対向する収納部底面111Aも同様に傾斜しているので、リード線51は収納部底面111A上に略当接・載置される状態、即ちリード線51と収納部底面111Aとの間に隙間が略存在しない状態となる。
【0021】
そして、
図1,
図8,
図9に示すように、抵抗素子40などを収納した収納部11及び両引出部15,17内に充填材60を充填する。このとき、もしケース10の収納部底面111Aに勾配を設けていなかったとすると、抵抗素子40に接続して折り返したリード線51が引出部15に向かって斜め上方に傾斜することでその下側に形成される収納部底面111Aとの間の隙間(スペース)が大きくなり、この隙間に上記充填材60が充填されにくくなり、空間が生じ、上記「発明が解決しようとする課題」で説明したような問題が生じる。一方、本実施形態のように、ケース10の収納部底面111Aに勾配を形成しておくと、上記空間がほとんど生じず、下記する充填材60の加熱時に、当該空間によるリード線51の持ち上がりを防止できる。
【0022】
そして前記充填した充填材60を加熱乾燥して粉体同士を接着・一体化した後に冷却して固化する。これによって、抵抗素子40は密封され、固定抵抗器1が完成する。なお上記組立手順はその一例であり、他の各種異なる組立手順を用いて組み立てても良いことはいうまでもない。
【0023】
そして組み立てられた固定抵抗器1は、例えば給湯器用の熱交換器の通水パイプの外周面に、その被装着面(底面)10bが当接するように装着される。そして一対のリード線51,53間に通電を行えば、抵抗素子40が加熱され、通水パイプが加熱され、その凍結が防止される。この固定抵抗器1の充填材60中には、上述のように空洞が生じにくいので、所望の加熱性能を発揮することができる。
【0024】
ところで上記ケース10では、リード線51を配置する収納部底面111Aを直線状の勾配面とすることで、当該勾配面とリード線51との間の隙間を小さくする構成としたが、勾配面以外の各種形状によって、収納部底面111Aとリード線51との間の隙間を小さくするように構成しても良い。即ち、折り返したリード線51を配置する収納部底面111Aの少なくとも引出部15近傍の高さを、抵抗素子40を配置する収納部底面111Bの高さよりも高い位置とすることで、収納部底面111Aとリード線51との間の隙間(少なくともその一部)を小さくする構成であればよい。
【0025】
また上記実施形態では、充填材60として粉体セメントを用いたが、その代わりに液体セメントを用いても良い。粉体セメントを充填する場合に比べて液体セメントを充填する方が、収納部底面111Aとリード線51との間の空隙は生じにくいが、空隙が生じる場合もあるので、液体セメントからなる充填材においても効果がある。
【0026】
以上説明したように、固定抵抗器1用のケース10は、両端にリード線51,53を接続した抵抗素子40を、その一方のリード線51を折り返して抵抗素子40と並列にさせた状態で収納する収納部11を有し、前記ケース10の上面(一面)10aに前記収納部11の開口13を設け、且つ前記ケース10の前記収納部11周囲の一側壁101に、前記一対のリード線51,53を引き出す引出部15,17を設け、前記ケース10の開口13側から前記収納部底面111を投影した際に、前記折り返したリード線51を配置する収納部底面111Aの少なくとも前記引出部15近傍の高さを、前記抵抗素子40を配置する収納部底面111Bの高さよりも高い位置としたので、収納部11内に抵抗素子40を収納した際、折り返したリード線51と、これに対向する収納部底面111Aとの間の隙間を小さくすることができる。これによって当該収納部11内に充填材60を充填した際、収納部底面111Aとリード線51の間に生じる空間(空洞)の発生を効果的に抑制・防止することができる。
【0027】
特に上記ケース10は、折り返したリード線51を配置する収納部底面111Aに、前記引出部15を設けた側壁101側から当該側壁101に対向する側壁105側に向けて高さが低くなるような勾配を設けているので、ケース10の収納部11内に抵抗素子40を収納した際、折り返したリード線51は、折り返した部分から引出部15に向けて徐々に高さが高くなるような勾配を有するが、当該勾配に合わせた上記収納部底面111Aによって、両者間の隙間を全体にわたって小さくすることができる。これによって、当該収納部11内に充填材60を充填した際、収納部底面111Aとリード線51の間に生じる空間の発生をさらに効果的に抑制・防止することができる。
【0028】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造や材質であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば、本発明にかかる固定抵抗器は、ヒータ用の固定抵抗器とそのケースに限定されず、ヒータ用以外の各種用途に用いる固定抵抗器とそのケースに適用しても良い。また上記実施形態では、リード線51,53として、電線をビニールなどの絶縁被覆で覆った構造の電線(ビニール等の被覆電線)を用いたが、鋼線などの他の構造のリード線を用いても良い。鋼線を用いた場合は、鋼線をキャップ41,43に溶接してもよい。その際、折り返した鋼線には被覆を施すことが好ましい。また、上記記載及び各図で示した実施形態は、その目的及び構成等に矛盾がない限り、互いの記載内容を組み合わせることが可能である。また、上記記載及び各図の記載内容は、その一部であっても、それぞれ独立した実施形態になり得るものであり、本発明の実施形態は上記記載及び各図を組み合わせた一つの実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0029】
1 固定抵抗器
10 ケース
10a 上面(天面)
10b 下面
101,103,105,107 側壁
11 収納部
111(111A,111B) 収納部底面
13 開口
15 引出部
17 引出部
40 抵抗素子
51 リード線
53 リード線