IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ト−ヨの特許一覧

<>
  • 特許-作業用防護具 図1
  • 特許-作業用防護具 図2
  • 特許-作業用防護具 図3
  • 特許-作業用防護具 図4
  • 特許-作業用防護具 図5
  • 特許-作業用防護具 図6
  • 特許-作業用防護具 図7
  • 特許-作業用防護具 図8
  • 特許-作業用防護具 図9
  • 特許-作業用防護具 図10
  • 特許-作業用防護具 図11
  • 特許-作業用防護具 図12
  • 特許-作業用防護具 図13
  • 特許-作業用防護具 図14
  • 特許-作業用防護具 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】作業用防護具
(51)【国際特許分類】
   A41D 31/00 20190101AFI20240220BHJP
   A41D 31/14 20190101ALI20240220BHJP
   A41D 13/015 20060101ALI20240220BHJP
   A41D 31/24 20190101ALI20240220BHJP
   D04B 21/20 20060101ALI20240220BHJP
   D04B 21/00 20060101ALI20240220BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
A41D31/00 502D
A41D31/14
A41D13/015
A41D31/24 100
A41D31/00 503F
A41D31/00 503H
D04B21/20 Z
D04B21/00 A
D04B21/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020185183
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2021092009
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019216584
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501442253
【氏名又は名称】株式会社ト-ヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 学
【審査官】原田 愛子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05415007(US,A)
【文献】特開2015-151646(JP,A)
【文献】特開2018-094549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 31/00
A41D 31/14
A41D 13/015
A41D 31/24
D04B 21/20
D04B 21/00
D04B 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦方向に隣接して配置した2本の経糸を経糸ペアと称呼するとき、当該経糸ペアと隣接する経糸ペアのあいだに所定の間隔を設けて多数の経糸ペアを配置し、上記多数の経糸ペアの上の横方向に所定間隔で多数の緯糸を配置し、上記経糸と緯糸の上に鎖編みで編まれた多数の鎖編みの列を縦方向に並列して配置し、一方の鎖編みの列と他方の鎖編みの列を開き目となるように留め糸で留めることにより緯糸を経糸に固定することを特徴とする作業用防護具。
【請求項2】
Nを任意の自然数として、鎖編みの連続している編み目を第一番の編み目、第二番の編み目、第三番の編み目、・・・、第N番の編み目、第N+1番の編み目、第N+2番の編み目、第N+3番の編み目、・・・と称呼するとき、当該鎖編みの列の第N番の編み目と第N+1番の編み目の接続部から、当該鎖編みの列に対して2列目の鎖編みの列の第N+1番の編み目と第N+2番の編み目の接続部を経て、当該鎖編みの列の第N+2番の編み目と第N+3番の編み目の接続部に至るように留め糸を配置することを特徴とする請求項1に記載の作業用防護具。
【請求項3】
鎖編みの裏山の糸と編み目とのあいだの開口部を緯糸が挿通することを特徴とする請求項1又は2に記載の作業用防護具。
【請求項4】
経糸が66ナイロン繊維の1000デニール以上の太さの糸で、緯糸が高強度ポリエチレン繊維に対して66ナイロン繊維を重量比率で2倍以下の範囲で混合してなる1000デニール以上の太さの糸であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の作業用防護具。
【請求項5】
緯糸の打ち込み本数が4~18本/インチであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の作業用防護具。
【請求項6】
目付が95~150g/mであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の作業用防護具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンソーを用いて森林での伐木や園芸などに従事する作業者が、誤って作動中のチェーンソー刃を、身体、特には腰部より下に当ててしまった際にも傷つけることのないように開発された、チェーンソー事故により作業者に生じ得る切創を完全に防止するのみならず、作業性にも極めて優れた作業用防護具に関する。
【背景技術】
【0002】
チェーンソーは、木材切断に不可欠な道具であり、林業の伐採や、製材所での木材切断、或は家庭における日曜大工等に多用されている。チェーンソーの構成は、エンジンと、該エンジンで駆動されるスプロケットと、該スプロケットで旋回駆動されるチェーンと、該チェーンの前後回転を案内するチェーンバーとを有し、例えば両手でエンジン部分に設けた把手を持ち、前記チェーンバーを前方に位置させ、前記チェーンソーに取付けた刃物で木材を切断することができる。従って、チェーンソーは、チェーン部分即ち、刃部を剥き出しにした状態で高速回転するので、木材切断能力が高いと同時に、とても危険な道具でもある。このため、チェーンソーによる事故としては、林業家においては、木材切断中に山で足を滑らせ、刃を脚や手に当ててしまったり、製材所や家庭では、木材切断中、木材上に乗せている左脚を切断終了と同時にチェーン方向、即ち刃に当ててしまったりする事故が度々生じていた。
【0003】
従来のチェーンソー防護具としては、以下の特許文献1、2、3に記載されている。すなわち、特許文献1に記載された防護具は、林業従業者の腕あるいは脚を防護することを目的として、高粘度のエチレン系超高分子量重合体の分子配向成形体で編織物を構成し、耐クリープ性が高く、軽量、高強度で適度の柔軟性を有する防護具としたものである。この防護具は、耐切創性に優れ、誤った刃物の操作などによっても、人体を傷害から保護することができ、特に林業従業者等の腕カバー或は脚カバー等の防護具として好適であるとされている。
【0004】
特許文献2に記載された防護具は、上記と同一の目的で、特に引張強度と弾性率を高めた芯層を設け、その内外面に不織布から成るクッション性積層体を設け、その外面には編織物の補強層を配置し、耐切創性を高めたものである。
【0005】
特許文献3に記載された防護具は、上記と同一の目的で、特許文献2に記載の防護具の芯層の外面に、少なくとも表面を構成する層が複数のあぜ状に形成された補強層を配置し、この補強層の介在により安全性を増すようにしたものである。
【0006】
これら従来の防護具は、防護具であることを意識し、耐切創性を高めることを目的とするため、頑丈ではあるが、柔軟性に欠け、それを身につけると動きが制限されて作業がしづらく、通気性が悪いという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-212504号公報
【文献】特開平6-128421号公報
【文献】特開平6-126877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、通気性が良好で違和感なく着衣し得て作業性を害することが無く、誤って刃が作業者に当った場合でも、繊維をチェーンソーに噛み込ませてチェーンの回転を瞬時に停止させると共に、その間に刃が人体に接触する恐れが無く、チェーンソーを安全に使用することができる理想的な作業用防護具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、第一の発明の作業用防護具は、縦方向に隣接して配置した2本の経糸を経糸ペアと称呼するとき、当該経糸ペアと隣接する経糸ペアのあいだに所定の間隔を設けて多数の経糸ペアを配置し、上記多数の経糸ペアの上の横方向に所定間隔で多数の緯糸を配置し、上記経糸と緯糸の上に鎖編みで編まれた多数の鎖編みの列を縦方向に並列して配置し、一方の鎖編みの列と他方の鎖編みの列を開き目となるように留め糸で留めることにより緯糸を経糸に固定することを特徴としている。
【0010】
第二の発明の作業用防護具は、第一の発明において、Nを任意の自然数として、鎖編みの連続している編み目を第一番の編み目、第二番の編み目、第三番の編み目、・・・、第N番の編み目、第N+1番の編み目、第N+2番の編み目、第N+3番の編み目、・・・と称呼するとき、当該鎖編みの列の第N番の編み目と第N+1番の編み目の接続部から、当該鎖編みの列に対して2列目の鎖編みの列の第N+1番の編み目と第N+2番の編み目の接続部を経て、当該鎖編みの列の第N+2番の編み目と第N+3番の編み目の接続部に至るように留め糸を配置することを特徴としている。
【0011】
第三の発明の作業用防護具は、第一又は第二の発明において、鎖編みの裏山の糸と編み目とのあいだの開口部を緯糸が挿通することを特徴としている。
【0012】
第四の発明の作業用防護具は、第一ないし第三の発明において、経糸が66ナイロン繊維の1000デニール以上の太さの糸で、緯糸が高強度ポリエチレン繊維に対して66ナイロン繊維を重量比率で2倍以下の範囲で混合してなる1000デニール以上の太さの糸を含むことを特徴とする。
【0013】
第五の発明の作業用防護具は、第一ないし第四の発明において、緯糸の打ち込み本数が4~18本/インチであることを特徴としている。
【0014】
第六の発明の作業用防護具は、第一ないし第五の発明において、目付が95~150g/mであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の作業用防護具は、開き目となるように留め糸で留めることにより緯糸を経糸に固定するので、緯糸が抜けやすく、また、鎖編みの裏山の糸と編み目とのあいだの開口部に緯糸を挿通すれば、緯糸が抜けやすい。そのようにして、抜け出た緯糸はチェーンソーの刃にからみつきやすい。その結果、チェーンソーを回転させているモータを停止させることができる。経糸を2本隣接して配置することで、強度を高めることができる。経糸が66ナイロン繊維の1000デニール以上の太さの糸で、緯糸が高強度ポリエチレン繊維に対して66ナイロン繊維を重量比率で2倍以下の範囲で混合してなる1000デニール以上の太さの糸を含めば、さらに強度を高めることができる。そのため、チェーンソーの刃が当たった場合に切れにくい。そのため、大量の経糸と緯糸が引き出されてチェーンソーの刃にからみつくので、大きなブレーキ効果が発揮され、チェーンソーを回転させているモータを速やかに停止させることができる。また、緯糸の打ち込み本数が4~18本/インチであれば、通気性が向上するという効果がある。さらに、目付が95~150g/mであれば、軽量化と柔軟性を付与することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、鎖編みの編み方を説明するための図である。
図2図2は、鎖編みの編み方を説明するための図である。
図3図3は、鎖編みの編み方を説明するための図である。
図4図4は、鎖編みの編み方を説明するための図である。
図5図5は、鎖編みの編み方を説明するための図である。
図6図6は、鎖編みの編み方を説明するための図である。
図7図7は、鎖編みの編み方を説明するための図である。
図8図8は、鎖編みの編み方を説明するための図である。
図9図9は、鎖編みの裏山を説明するための図である。
図10図10は本発明の作業用防護具の一実施形態の表側を示す概略図である。
図11図11は本発明の作業用防護具の一実施形態の裏側を示す概略図である。
図12図12は本発明の作業用防護具の一実施形態の表側の拡大図である。
図13図13図12の一部をさらに拡大した図である。
図14図14は編物の開き目と閉じ目を示す拡大図である。
図15図15はISO-11393-1に準拠して作製された試験装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
チェーンソーによりもたらされる切創を排除または緩和するために、チェーンソーを回転させるモータを停止させるのに有効な手段を提供することが本発明の目的である。本発明の作業用防護具の編物を構成する糸は、チェーンソーの刃にからみつき易いことが必要である。本発明者は、そのような機能を備えたものは、鎖編みを開き目という留め方で留めることであることを見出した。
【0018】
《鎖編み》
鎖編みは基本的な編み方である。鎖編みを得るには、図1において、かぎ針1を利き手に持ち、糸2の端をかぎ針1の方に向ける。次に、図2に示すように、糸2の輪っか2aを作る。次に、図3に示すように、輪っか2aの中にかぎ針1を入れ、長い方の糸2を下からすくうように、かぎ針1のフック1aに引っ掛ける。さらに、そのまま、かぎ針1の先で糸2を引っ掛けながら、図4に示すように、輪っか2aの中に糸2を引き込んで糸2を引き抜く。図4では、輪っか2aを介して両側にある糸2は緩い状態なので、糸2、2を引っ張って輪を引き締めるようにすると、図5に示す状態が得られる。さらに、図6に示すように、長い方の2を下からすくうように、かぎ針1のフック1aに引っ掛け、その糸2を、図5に示すように得られた輪2bの中に引き込んで引き抜くと、図7に示すような鎖編みの1目2cができ上がる。以後、上記の操作を繰り返すことで、図8に示すような鎖編みが得られる。
【0019】
図8に示すように、鎖編みの表側にはきれいな鎖状の編み目3が見られるが、鎖編みの裏側には、図9に示すように、ボコッと山のように突出した部分ができ上がる。この突出した部分4は、一般的に「裏山」と呼ばれている。
【0020】
図10は、そのような鎖編みを用いて得られた本発明の作業用防護具の一実施形態の表側を示す概略図であり、図11はそのような鎖編みを用いて得られた本発明の作業用防護具の一実施形態の裏側を示す概略図である。図12は、そのような鎖編みを用いて得られた本発明の作業用防護具の一実施形態の表側の拡大図であり、図13は、図12の一部をさらに拡大した図である。
【0021】
図12において、縦方向に隣接して配置した2本の経糸5、5を経糸ペアと称呼するとき、当該経糸ペアと隣接する経糸ペアのあいだに所定の間隔を設けて多数の経糸ペアが配置されている。上記多数の経糸ペアの上の横方向に所定間隔で多数の緯糸6a、6b、6a、・・・が配置されている。上記経糸と緯糸の上に鎖編みで編まれた多数の鎖編みの列7、7、・・・を縦方向に並列して配置する。そして、一方の鎖編みの列7と他方の鎖編みの列7を開き目となるように留め糸8で留めることにより、緯糸6a、6bを経糸5に固定する。また、鎖編みの裏山の糸と編み目とのあいだの開口部を緯糸6a、6bが挿通する。編物の開き目とは、図14(b)の丸印で示すように、編み目が交差せずに左右に開いており、編物の閉じ目とは、図14(a)の丸印で示すように、編み目が交差したループを形成しているものをいう。
【0022】
図13において、Nを任意の自然数として、鎖編みの連続している編み目を「第一番の編み目」1、「第二番の編み目」2、「第三番の編み目」3、・・・、「第N番の編み目」n、「第N+1番の編み目」(n+1)、「第N+2番の編み目」(n+2)、「第N+3番の編み目」(n+3)、・・・と称呼するとき、当該鎖編みの列Lの「第N番の編み目」nと「第N+1番の編み目」(n+1)の接続部から、当該鎖編みの列Lに対して2列目の鎖編みの列(L+2)の「第N+1番の編み目」(n+1)と「第N+2番の編み目」(n+2)の接続部を経て、当該鎖編みの列Lの「第N+2番の編み目」(n+2)と「第N+3番の編み目」(n+3)の接続部に至るように、経糸5、5と緯糸6a、6bが離れないようにするための留め糸8を配置する。このような操作を繰り返して、2本の鎖編みを開き目となるように留め糸で留めることにより、経糸と緯糸が離れないようにするという独創的な構造の作業用防護具が得られる。
【0023】
経糸5は66ナイロン製の1000デニール以上の太さの糸であることが好ましい。このように、比較的太い経糸を2本隣接して配置することで、強度を高めることができる。また、緯糸6a、6bの少なくとも一方の緯糸は高強度ポリエチレン繊維に対して66ナイロン繊維を重量比率で2倍以下の範囲で混合してなる1000デニール以上の太さの糸であることが好ましい。従って、緯糸6a、6bの両方が高強度ポリエチレン繊維に対して66ナイロン繊維を重量比率で2倍以下の範囲で混合してなる1000デニール以上の太さの糸であってもよく、緯糸6aのみが高強度ポリエチレン繊維に対して66ナイロン繊維を重量比率で2倍以下の範囲で混合してなる1000デニール以上の太さの糸であり、緯糸6bが66ナイロン繊維のみからなる1000デニール以上の太さの糸であってもよい。このように、緯糸が高強度ポリエチレン繊維を含むことで強度を高めることができる。緯糸6aと6bは、同じ素材(両方の緯糸が高強度ポリエチレン繊維を含む場合)であっても、異なる素材(いずれか一方の緯糸が高強度ポリエチレン繊維を含む場合)であってもよい。経糸ペア5、5上の横方向に所定間隔で緯糸6aと6bを配置する方法は、緯糸を構成する繊維の長さ方向に沿って、緯糸6a、緯糸6b、緯糸6a、緯糸6bというように、緯糸6aと緯糸6bを交互に配置する方法でもよく、緯糸6a、緯糸6a、緯糸6b、緯糸6a、緯糸6a、緯糸6bというように、2本の緯糸6aを配置した後に緯糸6bを配置する方法でもよく、限定されない。しかし、緯糸6aと6bは一定の規則に従って配置するのが好ましい。鎖編み7の糸と留め糸8は比較的細いものが好ましく、例えば、ポリエステル繊維の50~150デニール程度のものを使用することができる。
【0024】
縦方向に隣接して配置した2本の経糸を経糸ペアと称呼するとき、当該経糸ペアと隣接する経糸ペアのあいだに所定の間隔を設けることで、通気性を確保することができる。
【0025】
次に、本発明の作業用防護具の切断抵抗性について試験したので、以下に説明する。図15はISO-11393-1(チェーンソー防護衣類の切断抵抗性試験方法)に準拠して作製された試験装置の側面図である。図15において、この試験装置10は、図示しない電源部と接続されるモータMを備え、このモータMで本体ケース11内に収めたスプロケット12を回転駆動するようになっている。ケース11の後部の一端は水平な軸13の回りで上下振動可能に支持されている。スプロケット12は、前後に張られたチェーン14を、チェーンバー15を介して回転駆動するようになっている。チェーン14の周縁には、所定の間隔を置いて刃が固定される。刃は、移動方向20に沿って移動する。
【0026】
上記試験装置10において、前記チェーンバー15の先端で下方位置には、前記チェーンバー15が水平姿勢となった位置で上面が接触する半円弧状のパッド16が配置され、そのパッド16の上に作業用防護具の試験サンプルを固定し、チェーンソーを自由支持した状態で、刃の移動速度を22m/sec、24m/sec、又は26m/secとして、作業用防護具の試験サンプルの破損状態を評価した。
【0027】
この試験で用いた作業用防護具の糸の種類は以下のとおりである。
経糸は、66ナイロン繊維の1000デニールを用いた。鎖編みの糸と留め糸は、ポリエステル繊維の75デニールを用いた。緯糸は、66ナイロン繊維の1000デニールのみか、高強度ポリエチレン繊維の1760デニールのみか、66ナイロン繊維の1000デニールと高強度ポリエチレン繊維の1760デニールを2対1~1対2の重量比率で混合したものか、66ナイロンの1000d(デニール)と高強度ポリアリレート繊維の1670d(デニール)を2対1の重量比率で混合したものか、66ナイロン繊維の1000デニールとビニロン繊維の2000デニールを2対1の重量比率で混合したものを用いた。これらの経糸、緯糸、鎖編みの糸及び留め糸を用いて作製した、図10及び図11に示すような作業用防護具を6層積層したものについて、試験装置10を用いて行った切断抵抗性の試験結果を表1と表2に示す。表1及び表2において、「66」は「66ナイロン繊維」を示し、「HPE」は「高強度ポリエチレン繊維」を示し、「HPA」は「高強度ポリアリレート繊維」を示し、「viny」は「ビニロン繊維」を示す。「経取り」及び「緯取り」は試験サンプルの採取方向を示し、「経取り」は経糸の配置方向に沿って試験サンプルを採取した場合を示し、「緯取り」は緯糸の配置方向に沿って試験サンプルを採取した場合を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
表1及び表2において、「6/6」という表記は、6層のすべてが図15のチェーンソーの刃にからみついてチェーンソーの回転を停止させたことを示し、「5/6」という表記は、5層が図15のチェーンソーの刃にからみついてチェーンソーの回転を停止させたことを示し、「4/6」という表記は、4層が図15のチェーンソーの刃にからみついてチェーンソーの回転を停止させたことを示す。すなわち、分子の数値が小さいほど、切断抵抗が大きいことを示す。当然のことながら、速度が大きくなるほどチェーンソーの回転を停止しにくくなるが、緯糸の高強度ポリエチレン繊維の比率が高いNo15やNo16やNo19は4層でチェーンソーの回転を停止させることができる場合があり、切断抵抗が大きいことが分かる。特に、緯糸が高強度ポリエチレン繊維のみからなるNo20は、緯取りのすべてが4層でチェーンソーの回転を停止させており、切断抵抗が極めて大きいことが分かる。なお、チェーンソーの回転を停止させる層の数量に差はあっても、チェーンソーの回転を停止させたものは作業用防護具として合格である。
【0031】
しかし、「カット」の表記があるものは、チェーンソーの回転を停止させることができずに、チェーンソーの刃によって6層の作業用防護具が切断されたことを示す。例えば、「8mmカット」は、長さ8mmに渡って作業用防護具が切断されたことを示し、その時点で試験を終了した。たとえ僅かな長さでも切断されれば、その作業用防護具は商品として採用することはできない。
【符号の説明】
【0032】
1 かぎ針
2 糸
3 鎖状の編み目
4 裏山
5 経糸
6a、6b 緯糸
7 鎖編み
8 留め糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15