(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】眼鏡及びそのヒンジ構造
(51)【国際特許分類】
G02C 5/22 20060101AFI20240220BHJP
G02C 1/02 20060101ALI20240220BHJP
G02C 5/16 20060101ALI20240220BHJP
F16C 11/04 20060101ALI20240220BHJP
F16C 11/10 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
G02C5/22
G02C1/02
G02C5/16
F16C11/04 D
F16C11/10 C
(21)【出願番号】P 2022003666
(22)【出願日】2022-01-13
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】521064325
【氏名又は名称】株式会社エスケイワイ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】大森 雅希
(72)【発明者】
【氏名】松下 智之
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第98/45747(WO,A1)
【文献】中国実用新案第209821532(CN,U)
【文献】特開2004-333656(JP,A)
【文献】特開2001-249308(JP,A)
【文献】特開2001-83464(JP,A)
【文献】実開平6-10924(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0107606(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
F16C11/04
F16C11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のレンズと、
前記各レンズの外側端部に接続された金属線材から成るヨロイ部材と、
ヒンジ構造を介して前記ヨロイ部材に回動可能に接続された金属線材から成るテンプル部材とを備え、
前記ヒンジ構造が、
側周面に穴が形成された胴部と、該胴部よりも径が大きく、軸方向に沿ったネジ穴がその頂面に形成された頭部とを有する軸芯部材と、
前記軸芯部材のネジ穴に螺合する胴部と、該胴部よりも径が大きい頭部とを有するネジ部材と、
前記ヨロイ部材が有する2つの線端部と、
前記テンプル部材が有する1つの線端部とを備え、
前記ヨロイ部材の一方の線端部が前記軸芯部材の穴に差し込まれるとともに、他方の線端部が前記軸芯部材の頭部の頂面と前記ネジ部材の頭部の座面との間に挟まれ、前記ネジ部材を前記軸芯部材に締結することにより当該2つの線端部が固定されており、
前記テンプル部材の線端部が、前記軸芯部材の胴部の側周面における前記穴よりも頭部側の領域に巻き付けられている眼鏡。
【請求項2】
前記軸芯部材の胴部の側周面に螺旋溝が形成されており、前記テンプル部材の線端部が当該螺旋溝に螺合するように巻き付けられている請求項1に記載の眼鏡。
【請求項3】
前記テンプル部材を回動させて畳んだ状態から開いていくと、前記テンプル部材の線端部が、前記軸芯部材の螺旋溝に沿って回転することでその軸方向に沿って移動し、前記軸芯部材の頭部又は前記穴に差し込まれた前記ヨロイ部材の線端部に接触することにより前記テンプル部材の回動動作が制限されて全開状態となる請求項2に記載の眼鏡。
【請求項4】
前記ヨロイ部材の他方の線端部が、前記軸芯部材の頭部の頂面と前記ネジ部材の頭部の座面との間から突出する突出部分を有しており、
前記テンプル部材の全開状態において、前記テンプル部材の線端部と前記ヨロイ部材の線端部の突出部分とが接触して干渉するように構成されている請求項3に記載の眼鏡。
【請求項5】
前記穴は、左右方向の内側を向くように前記軸芯部材の胴部の側周面に形成されており、
前記胴部の側周面に形成された前記螺旋溝の向きと、前記頭部に形成された前記ネジ穴のネジ溝の向きとが互いに同じである請求項2~4のいずれか一項に記載の眼鏡。
【請求項6】
右側の前記ヒンジ構造と左側の前記ヒンジ構造とは、前記軸芯部材に形成された前記螺旋溝が互いに逆向きである請求項2~5のいずれか一項に記載の眼鏡。
【請求項7】
前記螺旋溝の表面に固体潤滑処理が施されている請求項2~6のいずれか一項に記載の眼鏡。
【請求項8】
前記ヨロイ部材の他方の線端部が、前記軸芯部材の頭部の頂面と前記ネジ部材の頭部の座面との間において、前記軸芯部材のネジ穴を取り囲む輪状を成すように形成されている請求項1~7のいずれか一項に記載の眼鏡。
【請求項9】
リムレスタイプのものである請求項1~8のいずれか一項に記載の眼鏡。
【請求項10】
左右一対のレンズと、前記各レンズの外側端部に接続された金属線材から成るヨロイ部材と、当該ヨロイ部材に接続された金属線材から成るテンプル部材とを備える眼鏡において、前記ヨロイ部材と前記テンプル部材とを回動可能に接続するヒンジ構造であって、
側周面に穴が形成された胴部と、該胴部よりも径が大きく、軸方向に沿ったネジ穴がその頂面に形成された頭部とを有する軸芯部材と、
前記軸芯部材のネジ穴に螺合する胴部と、該胴部よりも径が大きい頭部とを有するネジ部材と、
前記ヨロイ部材が有する2つの線端部と、
前記テンプル部材が有する1つの線端部とを備え、
前記ヨロイ部材の一方の線端部が前記軸芯部材の穴に差し込まれるとともに、他方の線端部が前記軸芯部材の頭部の頂面と前記ネジ部材の頭部の座面との間に挟まれ、前記ネジ部材を前記軸芯部材に締結することにより当該2つの線端部が固定されており、
前記テンプル部材の線端部が、前記軸芯部材の胴部の側周面における前記穴よりも頭部側の領域に巻き付けられているヒンジ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼鏡及びそのヒンジ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、眼鏡においてヨロイ部材とテンプル部材とを回動可能に接続するヒンジ構造としては、特許文献1に示すものが知られている。このヒンジ構造は、ヨロイ部材の端部に形成された上下二段のソケットの間に、挿通孔が形成されたテンプル部材を挿入し、これをネジで締めるようにすることで、ヨロイ部材とテンプル部材とが回動可能な構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記したような従来のヒンジ構造は、その連結部において、テンプル部材とヨロイ部材とを上下からネジで締めて固定するような構成であるため、テンプル部材の開閉を繰り返すにつれて徐々にネジが緩くなってしまい装着感が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、開閉を繰り返しても緩みにくい新規なヒンジ構造を備える眼鏡を提供することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係る眼鏡は、左右一対のレンズと、前記各レンズの外側端部に接続された金属線材から成るヨロイ部材と、ヒンジ構造を介して前記ヨロイ部材に回動可能に接続された金属線材から成るテンプル部材とを備え、前記ヒンジ構造が、側周面に穴が形成された胴部と、該胴部よりも径が大きく、軸方向に沿ったネジ穴がその頂面に形成された頭部とを有する軸芯部材と、前記軸芯部材のネジ穴に螺合する胴部と、該胴部よりも径が大きい頭部とを有するネジ部材と、前記ヨロイ部材が有する2つの線端部と、前記テンプル部材が有する1つの線端部とを備え、前記ヨロイ部材の一方の線端部が前記軸芯部材の穴に差し込まれるとともに、他方の線端部が前記軸芯部材の頭部の頂面と前記ネジ部材の頭部の座面との間に挟まれ、前記ネジ部材を前記軸芯部材に締結することにより当該2つの線端部が固定されており、前記テンプル部材の線端部が、前記軸芯部材の胴部の側周面における前記穴よりも頭部側の領域に巻き付けられていることを特徴とする。
【0007】
このような構成であれば、ネジ部材はヨロイ部材の線端部を軸芯部材に固定するためだけに用いられており、軸芯部材の胴部に巻き付けられたテンプル部材の線端部にはネジ部材の締め付け応力が一切かからないように構成しているので、テンプル部材の開閉を繰り返すことによるヒンジ構造における緩みを防止することができる。
【0008】
また前記眼鏡は、前記軸芯部材の胴部の側周面に螺旋溝が形成されており、前記テンプル部材の線端部が当該螺旋溝に螺合するように巻き付けられているのが好ましい。
このような構成であれば、テンプル部材の線端部を螺旋溝に螺合させるようにすることで、軸芯部材とテンプル部材との間に適度な摩擦を設け、テンプル部材がパタパタと勝手に開閉しないようにできる。
【0009】
また前記眼鏡は、前記テンプル部材を回動させて畳んだ状態から開いていくと、前記テンプル部材の線端部が、前記軸芯部材の螺旋溝に沿って回転することでその軸方向に沿って移動し、前記軸芯部材の頭部又は前記穴に差し込まれた前記ヨロイ部材の線端部に接触することにより前記テンプル部材の回動動作が制限されて全開状態となるのが好ましい。
このような構成であれば、テンプル部材を全開状態にすると、軸芯部材の頭部又はヨロイ部材の線端部と螺旋溝とにより、テンプル部材の先端部に対して上下から締結力を加えることができ、テンプル部材を全開状態でしっかりと固定することができるようになる。
【0010】
テンプル部材が想定している全開状態を超えて過度に開いてしまうことを防止するには、前記ヨロイ部材の他方の線端部が、前記軸芯部材の頭部の頂面と前記ネジ部材の頭部の座面との間から突出する突出部分を有しており、前記テンプル部材の全開状態において、前記テンプル部材の線端部と前記ヨロイ部材の線端部の突出部分とが接触して干渉するように構成されているのが好ましい。
【0011】
また前記眼鏡は、前記穴は、左右方向の内側を向くように前記軸芯部材の胴部の側周面に形成されており、前記胴部の側周面に形成された前記螺旋溝の向きと、前記頭部に形成された前記ネジ穴のネジ溝の向きとが互いに同じであるのが好ましい。
このようにすれば、胴部の側周面の穴にヨロイ部材の一方の線端部を左右方向の内側から差し込むようにできるので、テンプル部材をたたむ際における軸芯部材の回転を制限できる。一方で、胴部の側周面に形成された螺旋溝の向きと頭部に形成されたネジ穴のネジ溝の向きとが互いに同じになるようにすることで、テンプル部材を開く際に、ネジ部材に対して軸芯部材が緩む方向への回転を制限できる。
【0012】
前記眼鏡の具体的構成としては、右側の前記ヒンジ構造と左側の前記ヒンジ構造は、前記軸芯部材に形成された前記螺旋溝が互いに逆向きであるのが好ましい。
このようにすれば、全開状態にした際に、右側と左側の両方のテンプル部材の線端部が、軸芯部材の頭部又はヨロイ部材の線端部に同じように接触するようにできるので、全開状態における右側と左側のテンプル部材を同程度の力で固定することができ、装着感をより向上できる。
【0013】
前記眼鏡は、前記軸芯部材の螺旋溝が、これに螺合する前記テンプル部材の線端部との嵌合公差が、好ましくは8μm以下、より好ましくは6μm以下、さらに好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下となるように形成されているのが好ましい。また前記螺旋溝の表面に固体潤滑処理が施されているのがより好ましい。
このようにすれば、テンプル部材の線端部と螺旋溝との間におけるカジリの発生を抑えられるので、テンプル部材をスムーズに開閉できるとともに、テンプル部材の開閉に伴う螺旋溝の破損を防止することができる。
【0014】
また前記眼鏡は、前記ヨロイ部材の他方の線端部が、前記軸芯部材の頭部の頂面と前記ネジ部材の頭部の座面との間において、前記軸芯部材のネジ穴を取り囲む輪状を成すように形成されているのが好ましい。
このようにすれば、軸芯部材の頭部の頂面及びネジ部材の頭部の座面と、ヨロイ部材の線端部との接触面積を増やすことができ、しっかりと挟んで固定することができるようになる。
【0015】
また本発明の効果を顕著に奏する態様としては、前記眼鏡がリムレスタイプのものであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
このように構成した本発明によれば、開閉を繰り返しても緩みにくい新規なヒンジ構造を備える眼鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】同実施形態の眼鏡の全体を上方から視た平面図。
【
図3】同実施形態の眼鏡の全体を左方向ら視た平面図。
【
図4】同実施形態の眼鏡の全体を後方から視た平面図。
【
図5】同実施形態のブリッジ部材の構成を示す斜視図。
【
図6】同実施形態のブリッジ部材近傍を上方から視た平面図。
【
図7】同実施形態のブリッジ部材を左方向から視た平面図。
【
図8】同実施形態の左側のテンプル部材のヒンジ構造近傍の構成を上方から視た平面図。
【
図9】同実施形態の左側のテンプル部材のヒンジ構造近傍の構成を左方向から視た平面図。
【
図10】同実施形態の右側のヒンジ構造を左方向から視た示す平面図。
【
図11】同実施形態の右側のヒンジ構造を分解して示す平面図。
【
図12】同実施形態のヒンジ構造の軸芯部材の構成を示す斜視図。
【
図13】同実施形態の右側のヒンジ構造の動作を説明する平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<全体構成>
以下に、本発明に係る眼鏡100の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態の眼鏡100は、レンズ1の外周を支えるリムを有しない、所謂リムレスタイプ(ツーポイントタイプ)のものである。具体的にこの眼鏡100は、
図1~
図4に示すように、左右一対のレンズ1と、一対のレンズ1を連結するブリッジ部材2と、各レンズ1の外側端部に設けられた左右一対のヨロイ部材3と、各ヨロイ部材3から前後方向に延びて装着者の側頭部をホールドする一対のテンプル部材4と、各ヨロイ部材3と各テンプル部材4とを回動可能に接続する一対のヒンジ構造5とを有する。
【0020】
この眼鏡100は、ブリッジ部材2とヨロイ部材3とテンプル部材4が、いずれも金属製の線材からなるものである。具体的にはブリッジ部材2、ヨロイ部材3及びテンプル部材4の各々は、一本の線材を複数個所で曲げ加工することにより形成されたものである。ブリッジ部材2、ヨロイ部材3及びテンプル部材4の各々を構成する線材は、ここでは同じ金属材料からなるものであり、例えば純チタン又はチタン合金等からなるものが挙げられるがこれに限らない。なお、ブリッジ部材2、ヨロイ部材3及びテンプル部材4が互いに異なる金属材料から成る線材により構成されていてもよい。
【0021】
(1)レンズ1
本実施形態の眼鏡100のレンズ1は、種類及び形状は特に限定されず任意のものであってよい。レンズ1は例えば、焦点レンズや、遠近両用レンズ、中近レンズ又は近々レンズ等の累進レンズであってよく、球面レンズ、非球面レンズ又は両面非球面レンズ等であってもよい。またレンズ1の材質はプラスチックでもガラスでもよく、その表面に各種のコーティング加工(例えばUVカット、傷防止、反射防止等)が施されていてもよい。
【0022】
各レンズ1には、ブリッジ部材2及びヨロイ部材3を接続するための接続孔がその厚み方向に貫通して形成されている。具体的には、各レンズ1における内側(ブリッジ側)端部近傍にはブリッジ部材2を接続するためのブリッジ接続孔11が形成され、各レンズ1における外側(ヨロイ側)端部近傍にはヨロイ部材3を接続するためのヨロイ接続孔12が形成されている。
【0023】
(2)ブリッジ部材2
ブリッジ部材2は、一本の線材から形成されてなるものであり、線材の長手方向に沿った複数箇所(ここでは約20か所)で曲げ加工を施して形成されたものである。このブリッジ部材2は、
図5~
図7に示すように、中央に設けられて左右のレンズ1間に架け渡されるブリッジ部21と、ブリッジ部21を各レンズ1に接続するためのレンズ接続部22と、鼻当て6(クリングス)を保持するための鼻当て保持部23とを有する。
【0024】
ブリッジ部21は前方に向かって凸となるアーチ形状を成すアーチ部分21aをその中央に有している。このアーチ部分21aは、線材に対して長手方向に沿って略一定の間隔を空けて複数個所で曲げ加工を施すことにより形成された、左右対称形状をなすものである。このように、複数個所で曲げ加工を行いアーチ部分21aを形成することで、加工硬化によりブリッジ部21の強度を向上させることができる。ブリッジ部21の強度を向上させる観点から、アーチ部分21aにおける曲げ加工の間隔は短いほど好ましく、例えば2mm以下が好ましく、約1mm程度が好ましい。そして、線材の長手方向に沿ったアーチ部分21aの両端部は、曲げ加工を施すことにより、屈曲点21bを介して前方に向かって折れ曲がるように形成されている。アーチ部分21aの両端部をこのように折り曲げることで、ブリッジ部21の変形強度をより向上させることができる。
【0025】
レンズ接続部22はブリッジ部21の両端部に形成されている。このレンズ接続部22は、前方に向かって突き出すヘアピン形状となるように線材を曲げ加工して形成したものである。レンズ接続部22における前方に突き出す先端部22aは、レンズ1に形成されたブリッジ接続孔11に差し込まれて保持されており、これによりブリッジ部材2と各レンズ1とが接続されている。なおブリッジ接続孔11に差し込まれたレンズ接続部22の先端部22aは、接着剤等を用いてレンズ1に接着させるようにしてもよい。
【0026】
鼻当て保持部23は、ブリッジ部材2における線材の長手方向に沿った両端部に形成されている。具体的にこの鼻当て保持部23は、線材の両端部に曲げ加工を施して形成した輪状を成すものであり、この輪状部分に鼻当て6が差し込まれて保持される。
【0027】
(3)ヨロイ部材3
ヨロイ部材3は、一本の線材から形成されてなるものであり、線材の長手方向に沿った複数箇所(ここでは約10か所)で曲げ加工を施して形成されたものである。ヨロイ部材3は、
図8~
図10に示すように、前方に向かって突き出すヘアピン形状となるように形成されたレンズ接続部31を有している。ブリッジ部材2と同様に、このヨロイ部材3は、レンズ接続部31における前方に突き出す先端部が、レンズ1に形成されたヨロイ接続孔12に差し込まれて保持されている。ヨロイ部材3を構成する線材の両端部(2つの線端部53,54)は、レンズ接続部31から後方に向かって延伸しており、ヒンジ構造5を介してテンプル部材4に接続されている。
【0028】
(4)テンプル部材4
次に
図2~
図4、
図8及び
図9を参照してテンプル部材4の構成を説明する。テンプル部材4は、一本の線材から形成されてなるものであり、線材の長手方向に沿った複数箇所(ここでは約40か所)で曲げ加工を施すとともに、長手方向に沿ってローラ加工を部分的に施すことにより形成されたものである。テンプル部材4は、その基端部4aがヒンジ構造5を介してヨロイ部材3に接続されており、上下方向に直交する平面内においてヒンジ構造5を軸中心に回転して開閉するように構成されている。開いた状態においてテンプル部材4は、基端部4aから後方に向かって延伸し、その先端部4bが装着者の耳裏の側頭部に接触する形状を成している。以下、眼鏡100を開いた状態におけるテンプル部材4の形状を、基端側から先端側に向かって順に説明する。
【0029】
ヒンジ構造5に接続するテンプル部材4の基端側線端部41は、上下方向から視て、左右方向の内向きにヒンジ構造5から飛び出した後、複数回折れ曲がって左右方向の外向きに延伸する略U字形状を成している。この線端部41は、ヒンジ構造5よりも外側まで延伸して、以下に説明する前方突出部42に接続するようにされている。
【0030】
テンプル部材4における基端側線端部41よりも先端側には、前方に向かって突き出すように折り曲げられた前方突出部42が形成されている。この前方突出部42は、左右方向から視てヘアピン形状を成すように線材を曲げ加工して形成されたものであり、前方に向かって延伸した後、折れ曲がって後方に向かって延伸する形状を成している。
【0031】
この前方突出部42はヒンジ構造5の近傍に形成されており、具体的には左右方向においてヒンジ構造5よりも外側に位置するように形成されている。またここでは、前方突出部42はヒンジ構造5よりも前方に突出しないように形成されており、前方突出部42の突出端42aが前後方向においてヒンジ構造5の軸中心と同じ位置になるように形成されている。
【0032】
そしてテンプル部材4における前方突出部42よりも先端側には、上下方向から視て左右方向に変位するように段状に屈曲した第1段曲げ部43と、左右方向から視て上下方向に変位するように段状に屈曲した第2段曲げ部44とが形成されている。
【0033】
第1段曲げ部43は、上下方向から視て、線材を複数回(ここでは2回)屈曲させる(段曲げ加工、Z曲げ加工ともいう))ことにより形成されている。この第1段曲げ部43には、テンプル部材4の基端側から先端側に向かって順に、第1屈曲点431と第2屈曲点432が設けられている。前方突出部42から後方に向かって延伸する線材は、第1屈曲点431において左右方向の外側に向かって(ここでは、後方斜め外向きに)屈曲した後、第2屈曲点432において後方に向かって屈曲する形状をなしている。この第1段曲げ部43において、線材は左右方向の外側にオフセットされるとも言える。またこの第1段曲げ部43は、左右方向においてヒンジ構造5よりも外側に形成されており、より具体的には第1屈曲点431と第2屈曲点432の両方がヒンジ構造5よりも外側に形成されている。
【0034】
第2段曲げ部44は、左右方向から視て、線材を複数回(ここでは2回)屈曲させる(段曲げ加工、Z曲げ加工ともいう))ことにより形成されている。この第2段曲げ部44には、テンプル部材4の基端側から先端側に向かって順に、第3屈曲点441と第4屈曲点442が設けられている。前方突出部42から後方(具体的には後方斜め下向き)に向かって延伸する線材は、第3屈曲点441において上方に向かって(ここでは、後方斜め上向きに)屈曲した後、第4屈曲点442において後方に向かって屈曲する形状をなしている。この第2段曲げ部44において、線材は上方にオフセットされるとも言える。ここでは、第4屈曲点442は、上下方向においてヒンジ構造5を超えないようにその位置が設定されている。
【0035】
そしてここでは、第1段曲げ部43と第2段曲げ部44は、テンプル部材4を構成する線材における共通の線材部分に形成されており、第1屈曲点431と第2屈曲点432の間に、第3屈曲点441と第4屈曲点442が位置するように形成されている。つまり、テンプル部材4を構成する線材は、第1段曲げ部43において外側に変位している間に、第2段曲げ部44により上下方向に変位するように形成されている。
【0036】
そしてテンプル部材4における第1段曲げ部43と第2段曲げ部44よりも先端側には、左右方向の内向きに湾曲する内向き湾曲部45が形成されている。この内向き湾曲部45は、線材をロール曲げ加工(送り曲げ加工)することにより、一定の曲率半径で内向きになだらかに湾曲して装着者の側頭部の形状にフィットするように形成されたものである。
【0037】
そしてテンプル部材4における内向き湾曲部45よりも先端側には、装着者の耳裏の側頭部を左右から挟んで保持するためのホールド部46が形成されている。このホールド部46は、前後方向から視てテンプル部材4の先端が内側下方を向くように、曲げ加工により癖付けられている。
【0038】
具体的にこのホールド部46は、内向き湾曲部45の端から内向き下方向に向かって弧を描くように曲げられた曲線部461と、その後テンプル部材4の先端まで真っすぐ延伸する直線部462とを有する。この曲線部461は、線材に対して、長手方向に沿って複数個所で曲げ加工を施すことにより形成されている。ここでは、線材に対して、略一定の間隔(例えば0.5mm以上2mm以下であり、約1mmが好ましい)を空けて28か所で曲げ加工を施すことにより曲線部461が形成されている。
【0039】
(5)ヒンジ構造5
ヒンジ構造5は、
図10~
図12に示すように、側周面51cに穴51h(線材係止穴51hともいう)が形成された胴部511と、該胴部511よりも径が大きく、軸方向に沿ったネジ穴51sがその頂面51aに形成された頭部512とを有する軸芯部材51と、軸芯部材51のネジ穴51sに螺合する胴部521と、該胴部521よりも径が大きい頭部522とを有するネジ部材52と、ヨロイ部材3が有する2つの線端部53,54と、テンプル部材4が有する1つの線端部55(基端側線端部41)とを備えて構成されている。そしてこのヒンジ構造5では、ヨロイ部材3の一方の線端部53が軸芯部材51の線材係止穴51hに差し込まれるとともに、他方の線端部54が軸芯部材51の頭部512の頂面51aとネジ部材52の頭部522の座面52aとの間に挟まれており、ネジ部材52を軸芯部材51に締結することにより当該2つの線端部53,54が固定されている。そしてテンプル部材4の線端部55は、軸芯部材51の胴部511の側周面51cにおいて線材係止穴51hよりも頭部512側(上側)に設定された領域(巻き付け領域51rともいう)に巻き付けられており、これにより、軸芯部材51を軸中心としてテンプル部材4を開閉できるようになっている。
【0040】
線材係止穴51hは、胴部511の側周面51cにおいて、軸芯部材51の軸方向に直交する方向に沿って形成された止まり穴(非貫通穴)であり、ヨロイ部材3を構成する線材がガタつきなく嵌まり込む程度の穴径を有している。より具体的にこの線材係止穴51hは、左右方向の内側を向いて開口するように、軸芯部材51の胴部511に形成されている。これにより、線材係止穴51hにヨロイ部材3の一方の線端部53を左右方向の内側から差し込むようにしているので、テンプル部材4をたたむ際における軸芯部材51の回転を制限できるようになっている。
【0041】
またヨロイ部材3の他方の線端部54は、軸芯部材51の頂面51aとネジ部材52の座面52aとの間において、軸芯部材51のネジ穴51sを取り囲む輪状を成すように形成された輪状部分を有している。この輪状部分はその中心位置がネジ穴51sの中心位置と一致するようにして軸芯部材51の頂面51aとネジ部材52の座面52aとの間に挟んで固定されている。
【0042】
軸芯部材51の胴部511の巻き付け領域51rには、側周面51cを螺旋状に周回する螺旋溝51gが形成されている。テンプル部材4の線端部55は螺旋形状に形成されており、胴部511に形成された螺旋溝51gに螺合するように巻き付けられている。このためテンプル部材4を開閉すると、テンプル部材4の線端部55が軸芯部材51の螺旋溝51gに沿って回転することで、その軸方向に沿って上下に移動するようになっている。本実施形態の眼鏡100では、右側のヒンジ構造5と左側のヒンジ構造5は、軸芯部材51に形成した螺旋溝51gの向きが互いに逆向きになっており、左右のテンプル部材4を開閉させるとこれらは同じ方向に上下移動するようになっている。なおこの実施形態では軸芯部材51はその頭部512が上向きになるように設けられている。
【0043】
またこの軸芯部材51では、胴部511の側周面51cに形成された螺旋溝51gの向きと、頭部512に形成されたネジ穴51sのネジ溝の向きとが互いに同じになるようにしており、テンプル部材4を開く際に、ネジ部材52に対して軸芯部材51が緩む方向への回転を制限できるようになっている。
【0044】
さらに軸芯部材51の螺旋溝51gは、これに螺合するテンプル部材4の線端部55との嵌合公差が、好ましくは8μm以下、より好ましくは6μm以下、さらに好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下となるように形成されており、また螺旋溝51gの表面には固体潤滑処理が施されている。
【0045】
そしてこのヒンジ構造5では、テンプル部材4を回動させて畳んだ状態から開いていくと、テンプル部材4の線端部55が上方向に移動していき、最終的に軸芯部材51の頭部512の座面51bに接触することによってテンプル部材4の回動動作が制限されて全開状態となるようにしている。つまりテンプル部材4の線端部55は、全開状態でのみ軸芯部材51の頭部512の座面51bに接触するようになっている。また螺旋形状に形成されたテンプル部材4の線端部55は、畳んだ状態から全開状態までの間は、軸芯部材51の胴部511の側周面51cにのみ接触しており、他の要素(具体的には、ヨロイ部材3の線端部53,54、軸芯部材51の頭部512)には接触しないように構成されている。
【0046】
またこのヒンジ構造5は、ヨロイ部材3の他方の線端部54が、軸芯部材51の頂面51aとネジ部材52の座面52aとの間から外部に突出する突出部分54aを有しており、
図13に示すように、全開状態において、テンプル部材4の線端部55とヨロイ部材3の線端部54の突出部分54aとが接触して干渉するように構成されている。
【0047】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態の眼鏡100によれば、ネジ部材52はヨロイ部材3の線端部を軸芯部材51に固定するためだけに用いられており、軸芯部材51の胴部511に巻き付けられたテンプル部材4の線端部55にはネジ部材52の締め付け応力が一切かからないように構成しているので、テンプル部材4の開閉を繰り返すことによるヒンジ構造5における緩みを防止することができる。
【0048】
またテンプル部材4の線端部55を螺旋溝51gに螺合させるようにすることで、軸芯部材51とテンプル部材4との間に適度な摩擦を設け、テンプル部材4がパタパタと勝手に開閉しないようにできる。しかもテンプル部材4を全開状態にすると、軸芯部材51の頭部512と螺旋溝51gとにより、テンプル部材4の先端部4bに対して上下から締結力を加えることができ、テンプル部材4を全開状態でしっかりと固定することができるようになる。
【0049】
さらには、胴部511の側周面51cの穴にヨロイ部材3の一方の線端部53を左右方向の内側から差し込むようにできるので、テンプル部材4をたたむ際における軸芯部材51の回転を制限できる。一方で、胴部511の側周面51cに形成された螺旋溝51gの向きと頭部512に形成されたネジ穴51sのネジ溝の向きとが互いに同じになるようにすることで、テンプル部材4を開く際に、ネジ部材52に対して軸芯部材51が緩む方向への回転を制限できる。
【0050】
<その他の実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0051】
例えば前記実施形態のヒンジ構造5は、テンプル部材4を畳んだ状態から開いていくと、その線端部55が軸芯部材51の頭部512の座面51bに接触してその回動動作が制限されるようにしていたが、これに限らない。他の実施形態では、テンプル部材4を開いていくと、その線端部55が下方向に移動し、線材係止穴51hに差し込まれているヨロイ部材3の一方の線端部53に接触してその回動動作が制限されるようにしてもよい。
【0052】
また他の実施形態のヒンジ構造5では、軸芯部材51はその頭部512が下向きになるように設けられていてもよい。また他の実施形態のヒンジ構造5では、軸芯部材51の胴部511には螺旋溝51gが形成されていなくてもよい。
【0053】
また他の実施形態のヒンジ構造5では、ヨロイ部材3の他方の線端部54が突出部分54aを有しておらず、全開状態において、テンプル部材4の線端部55とヨロイ部材3の線端部54とが干渉しないように構成してもよい。
【0054】
また前記実施形態の眼鏡100は所謂リムレスタイプのものであったがこれに限らない。他の実施形態の眼鏡100はリムを有するタイプのものであってもよい。また前記実施形態の眼鏡100は、装着者の視力を矯正することを目的とするものに限らず、紫外線から眼を守ることを目的とするサングラスであってもよい。
【0055】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
100・・・眼鏡
1 ・・・レンズ
3 ・・・ヨロイ部材
4 ・・・テンプル部材
5 ・・・ヒンジ構造
51 ・・・軸芯部材
511・・・胴部
512・・・頭部
51h・・・穴(線材係止穴)
51s・・・ネジ穴
52 ・・・ネジ部材
521・・・胴部
522・・・頭部
53 ・・・一方の線端部(ヨロイ)
54 ・・・他方の線端部(ヨロイ)
55 ・・・線端部(テンプル)