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特許7440125バクテリオファージ、青枯病防除剤および青枯病防除方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】バクテリオファージ、青枯病防除剤および青枯病防除方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/34 20060101AFI20240220BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240220BHJP
   C07K 14/01 20060101ALI20240220BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240220BHJP
   A01N 63/40 20200101ALI20240220BHJP
【FI】
C12N15/34
C12N7/00 ZNA
C12N7/01
C07K14/01
A01P3/00
A01N63/40
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022539892
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029189
(87)【国際公開番号】W WO2022024287
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-01-24
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-03186
(73)【特許権者】
【識別番号】591100448
【氏名又は名称】パネフリ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原島 俊明
(72)【発明者】
【氏名】中野 和真
(72)【発明者】
【氏名】狩俣 徹
(72)【発明者】
【氏名】外間 久美子
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/104347(WO,A1)
【文献】特開2018-024589(JP,A)
【文献】特開2012-231731(JP,A)
【文献】Archives of Virology,2017年,162,3919-3923
【文献】putative phage tail fiber protein [Ralstonia phage RSJ5],GenBank [online],2014年08月26日,[検索日 2020.09.23],インターネット: <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/BAP34930.1/>
【文献】Cell Systems,2015年,1,187-196
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00-7/08,15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
tail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、
青枯病菌に感染すること、
を特徴とする第1群、カウドウイルス目、ポドウイルス科に属するバクテリオファージ。
【請求項2】
頭部の径が30~90nmであり、尾部の長さが5~30nmであり、幅が5~20nmであり、
ゲノム鎖が2本鎖であり、
ゲノムサイズが6,000~280,000bpであり、
GC含量が55~75%であり、
10~330個の遺伝子を有し、
ゲノムDNAが制限酵素Eco 81 Iにより断片となる請求項1に記載のバクテリオファージ。
【請求項3】
青枯病菌が、MAFF107624株、MAFF211266株、MAFF211270株、MAFF211543株、MAFF301859株、MAFF311644株、MAFF730103株、MAFF730131株、MAFF302745株、MAFF311632株、MAFF211536株、MAFF331041株、MAFF730139株、MAFF211280株、MAFF211533株、MAFF211468株、MAFF211516株、MAFF311101株、MAFF311102株、MAFF211479株、MAFF211471株、MAFF211483株、MAFF211484株、MAFF211486株、MAFF211272株、MAFF211276株、MAFF211278株、MAFF211490株、MAFF211492株、MAFF211497株、MAFF211476株、MAFF211414株、MAFF211429株およびMAFF301558株である請求項1または2に記載のバクテリオファージ。
【請求項4】
RKP181(NITE BP-03186)である請求項1~3の何れか1に記載のバクテリオファージ。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1に記載のバクテリオファージを有効成分とする青枯病防除剤。
【請求項6】
請求項5記載の青枯病防除剤を植物または植物生長媒体に投与することを特徴とする植物の青枯病防除方法。
【請求項7】
配列番号1で示されるtail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列からなるポリペプチド
【請求項8】
配列番号1で示されるtail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリオファージ、青枯病防除剤および青枯病防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
青枯病菌(Ralstonia solanacearum)はナス科植物等の200種以上の植物に感染し、青枯病を引き起こす。青枯病が進行すると、青枯病菌に感染した植物は枯死してしまう。
【0003】
これまで青枯病の対策に使用されてきた主な化学農薬は、劇物であるクロルピクリン又は臭化メチルである。
【0004】
しかし、有効散布量の増大、環境汚染、オゾン層破壊、健康への影響及び残留農薬等の問題から、化学農薬に代わる安全な代替農薬及び防除技術の開発が望まれている。
【0005】
これまで化学農薬に代わる安全な代替農薬及び防除技術としては、例えば、バクテリオファージを用いる技術(特許文献1~3)が知られているが、これらは限られた種類の青枯病菌に効果があるものであり、より幅広い種類の青枯病菌に効果のあるものが要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-252351号公報
【文献】特開2018-24589号公報
【文献】国際公開番号WO2017/104347号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、より幅広い種類の青枯病菌に効果のあるバクテリオファージおよびそれを用いた青枯病防除方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、tail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列が特定の配列であるバクテリオファージが幅広い青枯病菌に感染することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、tail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、青枯病菌に感染すること、を特徴とするバクテリオファージである。
【0010】
また、本発明は、上記バクテリオファージを有効成分とすることを特徴とする青枯病防除剤である。
【0011】
更に、本発明は、上記青枯病防除剤を植物または植物生長媒体に投与することを特徴とする植物の青枯病防除方法である。
【0012】
また更に、本発明は、配列番号1で示されるtail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列およびそれをコードする塩基配列である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバクテリオファージは、幅広い種類の青枯病菌に感染するため、青枯病の防除に有効である。
【0014】
また、本発明のtail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列(配列番号1)やこれをコードする塩基配列を利用して、このアミノ酸配列を常法により他のバクテリオファージ等のtail fiber proteinの宿主認識部位に組み込む(あるいは置換する)ことにより、幅広い種類の青枯病菌への感染が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明のバクテリオファージRKP181の外観の一例を示す。図中のバーの長さは20nmである。
図2図2はRKP181のDNA packaging protein B遺伝子のアミノ酸配列に基づく系統樹 (Maximum Likelihood)を示す。
図3図3はRKP181とRSB2の主要な遺伝子地図の比較を示す。
図4図4はRKP181とRSB2の全ゲノム配列の比較を示す。
図5図5はRKP181の尾部繊維遺伝子がコードするアミノ酸配列に基づく系統樹 (Maximum Likelihood)を示す。
図6図6はRKP181とT7とRSB2の尾部繊維遺伝子産物の相同性比較を示す。
図7図7はRKP181の1感染サイクルを示す(mean±SD(N=3))。
図8図8はRKP181の継代増幅後の遺伝的安定性を示す(左:全ゲノム長、右:制限酵素Eco81I切断後)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のバクテリオファージは、tail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、青枯病菌に感染するものである。
【0017】
配列番号1で示されるバクテリオファージのtail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列は、従来より知られているバクテリオファージのtail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列と大きく異なっていて、これにより幅広い種類の青枯病菌に感染する。例えば、本発明のバクテリオファージと近縁のバクテリオファージRSJ5およびRSB2のtail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列と、本発明のバクテリオファージのtail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列とは、ClustalW解析によると38%および23%の相同性しかない(実施例参照)。
【0018】
上記したとおり、本発明のバクテリオファージは、tail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であることにより、幅広い種類の青枯病菌に感染する。
【0019】
なお、本発明のtail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列(配列番号1)やこれをコードする塩基配列を利用して、このアミノ酸配列を常法により他のバクテリオファージ等のtail fiber proteinの宿主認識部位に組み込む(あるいは置換する)ことにより、幅広い種類の青枯病菌への感染が可能となる(文献1. (Ando H, Lemire S, Pires DP, Lu TK. 2015. Engineering Modular Viral Scaffolds for Targeted Bacterial Population Editing. Cell Systems 1:187-196.))。本発明のバクテリオファージが有するtail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列(配列番号1)をコードする塩基配列としては、前記アミノ酸配列に対応する塩基配列であれば特に限定されないが、配列番号3に記載の塩基配列(RKP181の全ゲノム配列)の34,313番目~35,968番目が好ましい。
【0020】
本発明のバクテリオファージが感染する青枯病菌は、ナス科、ショウガ科、シソ科植物等の200種以上の植物から見出されるものであれば特に限定されないが、少なくとも、MAFF107624株、MAFF211266株、MAFF211270株、MAFF211543株、MAFF301859株、MAFF311644株、MAFF730103株、MAFF730131株、MAFF302745株、MAFF311632株、MAFF211536株、MAFF331041株、MAFF730139株、MAFF211280株、MAFF211533株、MAFF211468株、MAFF211516株、MAFF311101株、MAFF311102株、MAFF211479株、MAFF211471株、MAFF211483株、MAFF211484株、MAFF211486株、MAFF211272株、MAFF211276株、MAFF211278株、MAFF211490株、MAFF211492株、MAFF211497株、MAFF211476株、MAFF211414株、MAFF211429株およびMAFF301558株の全て、更には本発明者らが採取した70種類以上の青枯病菌に感染する。なお、MAFFの番号がついている青枯病菌は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構農業生物資源ジーンバンクから入手可能なものである。
【0021】
なお、ここで感染とは、RKP181存在下で青枯病菌の生育する寒天培地上で溶菌斑(プラーク)を形成する状態、または液体培地中で溶菌する状態のことをいう。
【0022】
上記した本発明のバクテリオファージは、公知のバクテリオファージの中から、上記したtail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するものを常法に従ってスクリーニングすることによって得ることができる。
【0023】
また、本発明のバクテリオファージは、上記アミノ酸配列を有するものであればよい。そのため、本発明のバクテリオファージは、どのような群、目、科に属していてもかまわないが、好ましくは第1群、カウドウイルス目、ポドウイルス科に属するものである。
【0024】
本発明のバクテリオファージは、頭部の径が30~90nm、好ましくは55~66nmであり、尾部の長さが5~30nm、好ましくは11~17nmであり、幅が5~20nm、好ましくは10~17nmである。
【0025】
本発明のバクテリオファージのゲノム鎖は2本である。
【0026】
本発明のバクテリオファージのゲノムサイズは、特に限定されないが、例えば、6,000~280,000bp、好ましくは38,000~40,000bpである。なお、このゲノムサイズは全ゲノム塩基配列の値である。
【0027】
本発明のバクテリオファージのGC含量は、特に限定されないが、例えば、55~75%であり、好ましくは61~64%である。なお、このGC含量は全ゲノム塩基配列から算出される値である。
【0028】
本発明のバクテリオファージがコードする遺伝子数は、特に限定されないが、例えば、10~330個であり、好ましくは50個である。この50個の遺伝子のうち、49個の遺伝子が同一方向にコードされている。
【0029】
本発明のバクテリオファージのゲノムDNAは、制限酵素Eco 81l処理により断片となることが好ましく、特に2kb以上の5つの断片となることが好ましい。制限酵素Eco 81lで処理する条件は、35~40℃で1~3時間である。
【0030】
更に、本発明のバクテリオファージは、例えば、lysozyme、typeII holin等の遺伝子、また環状または線状ゲノムを有していてもよい。
【0031】
以上説明した本発明のバクテリオファージの好ましいものとしては、本発明者らが見出したRKP181が挙げられる。このRKP181は、NITE BP-03186として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(住所:〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に2020年3月27日付で国際寄託されている。
【0032】
なお、本発明のバクテリオファージには、上記性質を維持したまま、改変、変異等をしたものも含まれる。
【0033】
本発明のバクテリオファージは、幅広い青枯病菌に感染できることから、これを有効成分とすることにより青枯病防除剤とすることができる。
【0034】
なお、ここで防除とは、青枯病菌の植物への感染の抑制と軽減、青枯病菌による青枯病の発病抑制と軽減、青枯病の感染拡大の抑制と軽減、青枯病菌の駆除のことをいう。
【0035】
この青枯病防除剤における、本発明のバクテリオファージの含有量は、防除の目的に合わせて適宜設定すれば良いが、例えば、本発明のバクテリオファージを力価で10~1012pfu/mL、好ましくは10~1011pfu/mL含有させればよい。
【0036】
また、この青枯病防除剤には、有効成分である本発明のバクテリオファージだけでもよいが、更に、農学的、薬学的、植物学的に許容されるタンパク質安定剤など、他の物質や組成物等を含有させてもよい。
【0037】
上記した青枯病防除剤は、植物または植物生長媒体に投与することにより、植物の青枯病を防除することができる。植物としては、例えば、ナス科のトマトやナス、ピーマン、タバコ、シソ科のシソやエゴマ、ショウガ科のショウガやウコン、クルクマ等が挙げられる。また、植物生長媒体としては、土壌、有機物を含むマットなどの固形媒体、また養液を含む液体等が挙げられる。これら植物または植物生長媒体に青枯病防除剤を投与する方法や条件は、特に限定されないが、例えば、植物体や植物生長媒体への散布や投下、植物体への注入等である。
【実施例
【0038】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
実 施 例 1
バクテリオファージの分離:
土壌を水に懸濁した後、静置し、上清を得た。この上清を0.25μmのフィルターで濾過し、濾液を青枯病菌を宿主としたプラークアッセイに供試した。生じたプラークを単離する事でバクテリオファージRKP181を得た。
【0040】
実 施 例 2
バクテリオファージRKP181の解析:
(1)電子顕微鏡解析
2X1011pfu/mLのファージ懸濁液を1%uranyl acetateで染色し、電子顕微鏡(JEM-1400Pus、日本電子社製)で撮影した。
【0041】
(2)ゲノムサイズの決定
フェノール・クロロホルム抽出によってファージ粒子からゲノムDNAを調整した。ゲノムのサイズを決めるため、精製したゲノムDNAに対して、0.3%アガロース(Agarose H、ニッポンジーン社製)を用いてMupid-2plus電気泳動装置(Mupid社製)でアガロースゲル電気泳動法を実施した。また、制限酵素EcoRI(東洋紡社製)およびEco81I(タカラバイオ社製)それぞれで処理をしたゲノムDNAに対して、0.8%アガロース(Agarose 1200 Standard Type、ピーエイチジャパン社製)または0.3%アガロース(Agarose H、ニッポンジーン社製)を用いてMupid-2plus電気泳動装置でアガロースゲル電気泳動法を実施した。
【0042】
サイズマーカーのバンドを参照することで、RKP181のゲノムサイズは38,400~48,500bpと予想された。また、サイズマーカーのバンドと比較することで、EcoRI制限酵素処理で得られるバンドサイズは21.1kb、16.1kb、1.3kb、1kbであり、一方Eco81I処理では12.9kb、10.2kb、7kb、6.3kb、2kbと、2kb以上の断片が5片となった。これらから、RKP181のゲノムサイズは38.4~39.5kbpであることが分かった。
【0043】
(3)ゲノム構造の決定
上記で精製したゲノムDNAを1本鎖DNA分解酵素(S1 Nuclease、プロメガ社製)およびDNA分解酵素(Recombinant DNase I、タカラバイオ社製)、RNA分解酵素(RNase A、タカラバイオ社製)、線状DNA分解酵素(BAL31 nuclease, ニュー・イングランド・バイオラボ社製)で処理し、上記実施例に記載の方法で電気泳動を実施した。また、ゲノムの末端構造は、線状DNA分解酵素(BAL31 nuclease)で経時的に処理したゲノムDNAを制限酵素Eco81I(タカラバイオ社)で処理し、上記実施例に記載の方法で電気泳動を実施し、決定した。
【0044】
RKP181のゲノムDNAは1本鎖DNA分解酵素(S1 Nuclease)およびRNA分解酵素(RNase A)では分解されなかったが、DNA分解酵素(Recombinant DNase I)および線状DNA分解酵素(BAL31 nuclease)では分解されたことから、RKP181のゲノムは線状2本鎖DNAであることが分かった。また、線状DNA分解酵素(BAL31 nuclease)によって、Eco81I処理で得られる12.9kb、10.2kb、7kb、6.3kb、2kbの断片は10.2kbと6.3kbの断片から経時的に消失した。
【0045】
(4)ゲノム解析
RKP181の全ゲノム塩基配列をPacBio RS II (PACIFIC BIOSCIENCES社製)によって決定した。決定した塩基配列のアセンブリをRS_HGAP Assembly2.3.0で行った。ゲノムの末端構造と末端配列の長さの推定にはPhageTerm(Galaxy)を用いた。また、末端重複配列をサンガー法(Applied Biosystems 3730xl DNA analyzer)によって決定した。全ゲノム配列による近縁株の検索はBLASTNによるホモロジー検索で実施した(表1)。オープンリーディングフレーム(ORF)はMiGAP ver2.23 (ライフサイエンス統合データベースセンター)におけるMetaGeneAnnotator 1.0 及び、tRNAscan-SE 1.23、BLAST 2.2.18を用いて推定した(表2)。さらに、検出されたORFの機能はMiGAP/BLASTおよびPSI-BLASTによるホモロジー検索で得られた最上位のものについてCOGおよびRefseq、TrEMBL、nrデータベースを用いることで予測した(表2)。DNA packaging protein B遺伝子のアミノ酸配列に基づく分子系統樹は、NCBIデータベースから近縁株のDNA packaging protein B遺伝子のアミノ酸配列を取得し、MEGA7.0.26のClustalWでアライメントし、Maximum Likelihood法で作成した(図2)。
【0046】
該ゲノムのサイズは39,455bpで、両末端に重複配列を含み、その末端重複配列は239bp長であった。該ゲノムのGC含量は62.6%であった。RKP181はゲノムの相同性比較からはカウドウイルス(Caudovirales)目ポドウイルス(podovirus)科T7様ウイルス(T7-like virus) 属のファージと近縁であり、電子顕微鏡解析の結果と一致した(表1、図1、2)。最近縁株は既知のRalstonia phage phiITL-1株で(表1、図2)、BLSATNによると、相同性が87%(被覆率84%)であった。次いでRalstonia phage RSB2株と相同であった(被覆率70%、相同性77%)。PhageTermによる解析結果およびDNA packaging DNA protein B遺伝子に基づく系統分類解析(図2)から、RKP181のゲノムの末端構造は上記のように、短鎖末端重複配列[short direct terminal redundancy ; short DTR]構造で、T7型と予測された。PacBio RS IIで決定したRKP181の全ゲノムを配列番号3に示した。また、表2に示すように、RKP181のゲノムには計50個の遺伝子がコードされており、うち49個の遺伝子が同一方向にコードされていた。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
(5)遺伝子地図
PHASTERを用いてゲノム中の主要な遺伝子の地図を作成し、RKP181と特開2018-24589号公報のRalstonia phage RSB2(AB597179.1)とを比較した(図3)。また、比較ゲノムソフトLAGANを用いて、全塩基配列も比較した(図4)。
【0050】
RKP181のゲノムには、RSB2と同様にクラスI、クラスII及びクラスIIIの3つの明確な機能モジュールがそれぞれ存在していた(図3、文献2(Kawasaki T, Narulita E, Matsunami M, Ishikawa H, Shimizu M, Fujie M, Bhunchoth A, Phironrit N, Chatchawankanphanich O, Yamada T. 2016. Genomic diversity of large-plaque-forming podoviruses infecting the phytopathogen Ralstonia solanacearum. Virology 492:73-81.)、文献3(特開2018-24589号公報))。さらにRSB2と同様に、RKP181のゲノムでもT7型RNAポリメラーゼ遺伝子(RNAP)がクラスI内にコードされていることから、RSB2と同様に、RNAポリメラーゼが迅速に発現することで感染サイクルの時間が他のバクテリオファージよりも短いと考えられる(図3、下記参照)。
【0051】
RKP181の全ゲノム塩基配列と遺伝子地図はRSB2のものと似ている一方、尾部繊維遺伝子(tail fiber gene)についてはRKP181のORF45とそのRSB2のホモログとの間で相同性が顕著に低い(下記参照)。
【0052】
(6)tail fiber proteinをコードする遺伝子(尾部繊維遺伝子)の解析
BLASTPを用いてRKP181の尾部繊維遺伝子がコードするORF45のアミノ酸配列(配列番号2)のホモロジー検索を行った(表3)。また、ORF45のアミノ酸配列と相同性のある公知の尾部繊維遺伝子産物をMEGA7.0.26のClustalWでアライメントし、Maximum Likelihood法で分子系統樹を作成した(図5)。さらにBLASTPを用いてORF45のドメインを検索した。T7の尾部繊維遺伝子(AAM43540.1)のファージ本体(tail tube)接続部位1-149アミノ酸配列とRKP181のORF45(配列番号2に記載)の1-148アミノ酸の相同性比較は、BLASTPによって行った。続いて、同定された2つのドメイン、すなわちN末端側のアミノ酸配列1-160とC末端側の161-711について、BLASTPによってホモロジー検索を行った(表4、表5)。RKP181とT7とRSB2の尾部繊維遺伝子産物の相同性比較は、NCBIのデータベースからRSB2の尾部繊維遺伝子(ORF46)の配列(BAJ51834.1)とT7の尾部繊維遺伝子gp17の配列(P03748.1)を取得し、MEGA7.0.26におけるClustalWを用いて、相同性比較を行った(図6)。
【0053】
BLASTPによるホモロジー検索では、RKP181のORF45は Ralstonia phage RSJ5のtail fiber proteinと最も相同であった(被覆率64%、相同性42%)(表3)。また、Ralstonia phage RSB2のtail fiber proteinとの相同性は53%(被覆率53%)、Ralstonia phage phiITL-1のtail fiber proteinとの相同性は85%(被覆率22%)、Enterobacteria phage T7のtail fiber proteinのとの相同性42%(被覆率37%)であった。さらに、ClustalW解析によってtail fiber protein全長で相同性比較した場合、RKP181のORF45とRSJ5のtail fiber proteinとの間では38%、RSB2のtail fiber proteinとの間では23%と、全ゲノムの塩基配列比較で得られた相同性(表1)よりも顕著に低いことが分かった。すなわち、これらの解析結果はRKP181の尾部繊維遺伝子がコードするORF45のアミノ酸配列(配列番号2に記載)がユニークであることを示す(下記参照)。
【0054】
【表3】
【0055】
全ゲノム配列に基づく相同性比較では、RKP181はT7様バクテリオファージであるRSB2やphiITL-1と近縁で(表1)、DNA packaging protein B遺伝子のアミノ酸配列に基づく分子系統解析でも同様であったが(図2)、尾部繊維遺伝子のアミノ酸配列で分子系統樹を作成すると、図2とは異なり、RSB2やphiITL-1、またT7とも異なる系統群に属した(図5)。
【0056】
バクテリオファージT7の尾部繊維遺伝子は、N末端側1-149アミノ酸にファージ本体(tail tube)接続部位を有し、C末端側465-553アミノ酸に宿主認識部位(tip domain)を有する(文献4( Steven AC, Trus BL, Maizel JV, Unser M, Parry DAD, Wall JS, Hainfeld JF, Studier FW. 1988. Molecular substructure of a viral receptor-recognition protein: The gp17 tail-fiber of bacteriophage T7. J Mol Biol 200:351-365.)、文献5(Garcia-Doval C, Raaij MJ van. 2012. Structure of the receptor-binding carboxy-terminal domain of bacteriophage T7 tail fibers. PNAS 109:9390-9395.))。
【0057】
BLASTPを用いてRKP181のORF45のドメイン検索をしたところ、T7 のtail fibre protein (pfam03906)とファージタンパク質であるエンドシアリダーゼのシャペロンドメイン(pfam13884)が同定された。このtail fibre protein(pfam03906)においては、T7の尾部繊維遺伝子(AAM43540.1)のファージ本体(tail tube)接続部位1-149アミノ酸配列とRKP181のORF45(配列番号2に記載)の1-148アミノ酸の間で、58%の相同性(被覆率96%)が検出された。また、RKP181のORF45の1-148アミノ酸配列を用いてBLASTP検索すると、Ralstonia phage phiITL-1とRalstonia phage RSB2のtail fiber proteinの相同部位と各々、相同性85%(被覆率100%)と73%(被覆率100%)であった。さらに、BLASTPやClustalWを用いて解析すると、RKP181のORF45の1-160アミノ酸とそれ以降のC末端側の配列では相同性が大きく異なっていた(表4、5)。すなわち、RKP181のORF45のN末端側1-160アミノ酸は、phiITL-1のtail fiber proteinの相同領域と相同性85%(被覆率99%)、RSB2では相同性72%(被覆率99%)、T7では相同性58%(被覆率89%)であった(表4)。
【0058】
【表4】
【0059】
上記のようにtail fiber proteinのファージ本体(tail tube)接続部位であるN末端側は既知のバクテリオファージの間で広く保存され、特にRKP181と近縁なバクテリオファージ間では相同性の高いドメインとなっている一方、宿主認識に関わるC末端側のドメインはバクテリオファージ間で多様であった。RKP181のように、エンドシアリダーゼのシャペロンドメイン(pfam13884) をC末端側に配置する尾部繊維遺伝子をもつ青枯病菌に感染するバクテリオファージはRSJ5とRS-PI-1のみであった。また、ファージ本体接続部位を除いたRKP181のアミノ酸配列161-711でBLASTPを用いてホモロジー検索をすると、最も相同なRSJ5のtail fiber proteinでさえ相同性42%(被覆率83%)、RS-PI-1のtail fiber proteinとは相同性35%(被覆率60%)と、ファージ本体(tail tube)接続部位のN末端側に比べ宿主認識に関わるC末端側の相同性は顕著に低かった(表5)。同様に、シャペロンドメイン(pfam13884)を持たないRSB2のtail fiber proteinとも相同性51%(被覆率17%)と、顕著に低い相同性であった。
【0060】
【表5】
【0061】
(7)まとめ
以上の結果より、バクテリオファージRKP181は以下の性質を有することが分かった。
・RKP181はカウドウイルス(Caudovirales)目ポドウイルス(podovirus)科T7様ウイルス属 (T7-like virus)に分類される。
・RKP181のゲノムは線状2本鎖DNAである。
・ゲノム構造は短鎖末端重複配列構造を有するT7型である。
・ゲノムサイズは39,200bp~39,500bpで、好ましくは39,455bp(2つの末端重複配列を含む)、または39,216bp(末端重複配列を一つ含む)。
・ゲノム末端には200~250bp、好ましくは239bpの末端重複配列があってもよい。
・GC含量は62.6%である。
・既知の最近縁株はRalstonia phage phiITL-1株で、相同性87%である。次いでRalstonia phage RSB2株で、相同性77%である。
・tail fiber proteinの宿主認識部位を含むC末端側のアミノ酸配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列である。
【0062】
実 施 例 3
青枯病菌の分離およびその防除:
(1)発病株からの分離
発病株の茎を切断し、菌泥を回収した。その菌泥を滅菌水で適当に希釈した。その希釈液を改変SMSA培地に塗布し、生じたコロニーをCPG寒天培地(1L当たりペプトン10g、カザミノ酸1g、グルコース5g、寒天1.7%)に分離した。
【0063】
(2)土壌からの分離
土壌と水をよく混合し、静置後、上清を分離した。分離した上清を水で適当に希釈し、その希釈液を改変SMSA培地に塗布した。生じたコロニーはCPG寒天培地に分離した。
<改変SMSA培地(1L当たり)>
ペプトン 10g
グルコース 5g
カザミノ酸 1g
寒天 18g
バシトラシン(10 mg/mL) 2.5mL
ポリミキシンB硫酸塩(50mg/mL) 2mL
クロラムフェニコール(10 mg/mL) 0.5mL
ぺニシリンGカリウム塩(1 mg/mL) 0.5mL
クリスタルバイオレット(1mg/mL) 5mL
テトラゾリウムクロライド(10mg/mL) 5ml
【0064】
(3) 結果
上記した方法によって1圃場から1株の青枯病菌を分離し、ナス科、ショウガ科、シソ科などを宿主とする計70株以上の青枯病菌株を分離した。
【0065】
実 施 例 4
RKP181の宿主域の検討:
(1)感染の有無
感染の有無はプラークアッセイまたはスポットテストによって調べた。
【0066】
(2)プラークアッセイ
青枯病菌をCPG培地(1L当たりペプトン10g、カザミノ酸1g、グルコース5g)で28℃、一晩培養した。この菌培養液をCPG培地でOD600が0.25となるよう調整した。また、ファージ液については段階希釈液を調整した。菌液とファージ希釈液を混合し、28℃で静置した。30分後、トップアガー(1L当たりペプトン3g、カザミノ酸0.3g、グルコース1.7g、寒天5g)3mlに上記の菌/ファージ混合液を混ぜ、CPG寒天培地に重層した。28℃で一晩培養後、感染の有無をプラークの有無で確認した。
【0067】
(3)スポットテスト
CPG培地で28℃、一晩培養した青枯病菌培養液をCPG培地でOD600が0.25となるよう調整した。この菌液250μLとトップアガー3mlを混合し、CPG寒天培地に重層した。トップアガーが固まった後、ファージ液をスポットし、溶菌斑の有無を観察し、感染の有無を調べた。
【0068】
(4)結果
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構農業生物資源ジーンバンク(茨城県つくば市)から入手可能な表6に記載の34株を含む自然界から分離したナス科、ショウガ科、シソ科などを宿主とする計100株以上の青枯病菌株全てに感染することが分かった。
【0069】
【表6】
【0070】
実 施 例 5
ワンステップ増殖法による感染サイクルの評価
CPG培地でOD600が0.15となるまで培養した青枯病菌MAFF730131株の培養液990μLとRKP181ファージ液(2X1010pfu/mL)10μLを混合した後、室温で静置し、菌とファージを吸着させた。10分後、5,000Xgで10分間遠心し、上清を回収した後、プラークアッセイを行い、吸着したファージ数を算出した。沈殿物は1mLのCPG培地に再懸濁したのち、150μLを29,850μLのCPG培地に添加し、28℃で振盪培養した。振盪培養開始後から100分間、10分毎に10μLを採取し、990μLのCPG培地に混和した。混和後必要に応じ段階希釈し、直ちに10μLを採取し、OD600が0.22~0.24となるよう調整したMAFF730131株の培養液250μLに添加攪拌し、直ちに全量をトップアガーに加え、撹拌後CPG培地に重層した。生じたプラーク数を計測し、力価を算出した。各時間の力価と吸着したファージ数から1感染サイクルから生じるファージ数(バーストサイズ)を算出した。結果は図7に図示し、表7にまとめた。
【0071】
【表7】
【0072】
これより、RKP181の潜伏時間は30分、感染サイクルは80分、1感染サイクルから生じるファージ数は61±7pfuであることが明らかになった。
【0073】
実 施 例 6
遺伝的安定性:
RKP181を10世代継代増幅し、7個のプラークを単離した。単離した7個のファージを更にもう1世代増幅した上でゲノムを調整し、ゲノムサイズを上記電気泳動法によって確認した(図8:左)。さらに、調整したゲノムを制限酵素Eco81I処理し、制限パターンを調べ、上記実施例1の記載事項と違いないことを確認し、遺伝的に安定であることを明らかにした(図8:右)。
【0074】
実 施 例 7
防除試験:
トマト大玉種世界一のセル苗(10株)に1X10pfu/mLのファージ液を5mL株元灌注した。対照区(10株)は無処理とした。6日後、ポットに定植するとともに、OD660=0.1(約1X10cfu/mL相当)に調整したMAFF730131株の菌培養液5mLを株元に灌注した。その後、22日間観察を続けた。結果を表8に示す。
【0075】
【表8】
【0076】
菌接種後22日目でファージ無処理区では10株中6株が枯死し、4株が健常であったが、RKP181ファージ処理区では10株中3株の枯死に止まり、7株が健常で、防除価50となり、RKP181ファージの防除性が示された。
【0077】
実 施 例 8
青枯病防除剤の調製:
実施例1で分離したバクテリオファージRKP181を、1X10pfu/mLの力価に調整して青枯病防除剤とした。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のバクテリオファージは、青枯病の防除に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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