IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サイトベーション エーエスの特許一覧

<>
  • 特許-新生物性病変治療用ペプチド含有組成物 図1
  • 特許-新生物性病変治療用ペプチド含有組成物 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】新生物性病変治療用ペプチド含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20240220BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20240220BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240220BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240220BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20240220BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240220BHJP
   C07K 14/16 20060101ALI20240220BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 15/49 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P17/00
A61P35/00
A61P31/20
A61K47/34
A61K47/10
A61K47/06
A61K9/06
C07K14/16 ZNA
C07K14/47
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/49
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022541709
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 EP2020056324
(87)【国際公開番号】W WO2021139901
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】2000167.3
(32)【優先日】2020-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512200169
【氏名又は名称】サイトベーション エーエスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】エヴァンス、チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴンソン、キャメロン
(72)【発明者】
【氏名】エドモンズ、スザンヌ
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/243471(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/040894(WO,A1)
【文献】特表2013-517787(JP,A)
【文献】国際公開第2017/214201(WO,A1)
【文献】History of Changes for Study: NCT03846648,ClinicalTraials.gov archive,2019年03月15日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、C07K、C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性医薬組成物であって、
前記組成物は、
(i)0.1w/w%以上5w/w%以下の治療用オリゴペプチドと、
(ii)0.1w/w%以上5w/w%以下の防腐剤と、
(iii)0.1w/w%以上5w/w%以下のシリコーンと、
(iv)10w/w%以上20w/w%以下のジ(エチレングリコール)エチルエーテルと、
(v)0.005w/w%以上0.1w/w%以下のブチル化ヒドロキシアニソールと、
(vi)1w/w%以上10w/w%以下の流動パラフィンと、
(vii)1w/w%以上10w/w%以下の軟パラフィンと、
(viii)1w/w%以上10w/w%以下のセトステアリルアルコールと、
(ix)0.1w/w%以上5w/w%以下のポリオキシル20セトステアリルエーテルと、
を含み、
前記治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列、または前記配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、水性医薬組成物。
【請求項2】
(i)0.5w/w%以上2w/w%以下の治療用オリゴペプチドと、
(ii)0.5w/w%以上2w/w%以下の防腐剤と、
(iii)0.5w/w%以上2w/w%以下のシリコーンと、
(iv)14w/w%以上16w/w%以下のジ(エチレングリコール)エチルエーテルと、
(v)0.01w/w%以上0.05w/w%以下のブチル化ヒドロキシアニソールと、
(vi)4w/w%以上6w/w%以下の流動パラフィンと、
(vii)5w/w%以上7w/w%以下の軟パラフィンと、
(viii)4.5w/w%以上6.5w/w%以下のセトステアリルアルコールと、
(ix)1w/w%以上3w/w%以下のポリオキシル20セトステアリルエーテルと、
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記治療用オリゴペプチドは、前記配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むか、または前記配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記オリゴペプチド化合物は、全てのアミノ酸がD-アミノ酸であるインベルソ化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
(i)前記防腐剤は、フェノキシエタノールである、および/または
(ii)前記シリコーンは、ジメチコンである、および/または、
(iii)前記軟パラフィンは、白色軟パラフィンである、
請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ジメチコンは、25℃における粘度が350cStのジメチコン(ジメチコン350cSt)である、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
前記セトステアリルアルコールは、セチルアルコールとステアリルアルコールとの比が50:50の混合物(セトステアリルアルコール50:50)である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、
(i)1w/w%の治療用オリゴペプチドと、
(ii)1w/w%のフェノキシエタノールと、
(iii)1w/w%のジメチコン350cStと、
(iv)15w/w%のジ(エチレングリコール)エチルエーテルと、
(v)0.02w/w%のブチル化ヒドロキシアニソールと、
(vi)4.8w/w%の流動パラフィンと、
(vii)6.3w/w%の白色軟パラフィンと、
(viii)5.5w/w%のセトステアリルアルコール50:50と、
(ix)2.4w/w%のポリオキシル20セトステアリルエーテルと、
(x)62.98w/w%の水と、
を含み、
前記治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなり、かつ全てのアミノ酸がD-アミノ酸であるインベルソ化合物である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
新生物の治療に使用するための、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記新生物は、疣贅である、請求項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
前記治療は、前記疣贅に前記組成物を局所投与することを含む、請求項10に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
前記治療は、前記疣贅に前記組成物を約4週間毎日投与することを含む、請求項11に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
前記疣贅は、皮膚疣贅である、請求項1012のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
前記新生物は、皮膚の新生物である、請求項に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
前記皮膚の新生物は、光線性角化症、脂漏性角化症、ボーエン病、基底細胞がんまたは扁平上皮がんである、請求項14に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疣贅または他の新生物性病変の治療のための医薬組成物であって、有効成分として、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドCyPep-1の配列に基づく治療用ペプチドを含む、医薬組成物を提供する。本発明は、本発明の組成物を用いた疣贅または他の新生物性病変の治療方法も提供する。
【0002】
疣贅は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって引き起こされる良性皮膚腫瘍(病変)である。尋常性疣贅(verruca vulgaris)は、小さくて、硬く、表面がざらざらした突起として皮膚上に現れる傾向があり、最も一般的には手にできやすい。疣贅が足の裏にできる場合、通常、足底疣贅(verruca plantaris)と呼ばれる。疣贅は、一般的に性器または肛門に発生するが、その場合は、肛門性器疣贅(condylomata acuminata)として知られている。他にも、あまり一般的ではないタイプの疣贅としては、顔または首、手、手首および膝に多発する扁平疣贅(verruca plana)、顔によくできる糸状疣贅、および手指の爪または足指の爪の周囲に集団で生じる爪囲疣贅が挙げられる。
【0003】
疣贅は、通常、損傷した皮膚がHPVに曝されることで、皮膚のHPV感染の主要な標的である基底ケラチノサイトにウイルスが侵入することによって発生すると考えられている。疣贅からHPVが放出されることにより、直接的および間接的な人から人への疣贅の感染が起こる(Lipke, Clinical Medicine and Research 4(4): 273-293, 2006)。HPVの血清型が異なれば、疣贅の種類も異なる。例えば、皮膚の尋常性疣贅および足底疣贅は、HPV27、57、2および1型が原因であることが最も多い(Bruggink et al., Journal of Clinical Virology 55(3): 250-255, 2012)。一方、性器疣贅は、HPV6および11型が原因であることが最も多い(Lowy & Schiller, Journal of Clinical Investigation 116(5): 1167-1173, 2006)。
【0004】
疣贅は非常に一般的であるため、大多数の人が生涯のある時点で疣贅を患うと考えられている。疣贅は無害とみなされることもあるが、ほとんどの患者は不快に感じており、恥ずかしいと思っている患者も多い。ゆえに、患者の生活の質が損なわれている(Lipke、上記参照)。しかしながら、疣贅の有効な治療法は不足している。いくつかの治療法はあるものの(例えば、サリチル酸、凍結療法、レーザー治療、5-フルオロウラシル等)、それらの大部分には、治療効果についてのエビデンスがない(Sterling et al., British Journal of Dermatology 171:696-712, 2014)。成功した治療がないので、疣贅は、通常、自己限定的であるが、治癒するまでに2年かかることもある。成功したように見受けられる治療でさえも、疣贅の再発はよくある。従って、疣贅の新たな治療法が必要とされている。他の新生物性病変の新たな治療法も有益となるだろう。
【0005】
WO2011/092347は、CyPep-1を含み、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる抗新生物性ペプチドを開示している。WO2011/092347に示されているように、CyPep-1は、新生細胞に対して選択的細胞毒性を有する。また、同時係属出願PCT/EP2019/066295において、CyPep-1をチェックポイント阻害剤と併用すると、がん治療に極めて効果的であることが立証されている。CyPep-1は、疣贅の治療に特に有効であることが分かっている。
【0006】
CyPep-1は、HIV-TAT細胞透過性ペプチドのC末端に結合した腫瘍抑制タンパク質コンダクチン/アキシン2(Conductin/Axin2)のフラグメントに基づく融合ペプチドである。HIV-TAT細胞透過性ペプチドはカチオン性ペプチドであり、理論に拘束されることなく、新生細胞に対するCyPep-1の選択的細胞毒性は、新生細胞膜に保持された負電荷によるものと考えられている(一方で、健康な哺乳類細胞の細胞膜は、より中性の電荷を持つ傾向がある)。有利なことに、CyPep-1は、標的細胞の溶解を促進するため、細胞死と同時に細胞内容物が放出される。HPVに感染した疣贅細胞に関しては、これにより、HPV抗原も放出される。免疫系は、放出されたHPV抗原に暴露されると、T細胞応答を誘導する。その結果、疣贅の破壊だけでなく、HPV(または少なくとも感染HPV株)に対する持続的な免疫も得られる。従って、CyPep-1を用いた疣贅の治療は、既存の疣贅を破壊するだけでなく、その再発の可能性も阻止または抑制する。
【0007】
CyPep-1は抗菌特性も有し(おそらくこれも多くの細菌細胞膜に保持された負電荷に起因する)、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の医学的に関連のある種に対して強力な殺菌効果を有することが明らかになっている(WO2011/092347を参照)。
【0008】
本発明は、疣贅または実際には他の新生物の治療に適したCyPep-1組成物を提供する。この組成物は、組成物中のCyPep-1の溶解性および安定性の点で特に有利な特性を有し、かつ、疣贅治療の成功に必要な、CyPep-1の適用頻度を限定するCyPep-1の徐放性を有することが示されている。このCyPep-1製剤を疣贅治療に用いることが有効であることが見出された。
【0009】
従って、第1の態様において、本発明は、
(i)0.1%~5%の治療用オリゴペプチドと、
(ii)0.1%~5%の防腐剤と、
(iii)0.1%~5%のシリコーンと、
(iv)10%~20%のジ(エチレングリコール)エチルエーテルと、
(v)0.005%~0.1%のブチル化ヒドロキシアニソールと、
(vi)1%~10%の流動パラフィンと、
(vii)1%~10%の軟パラフィンと、
(viii)1%~10%のセトステアリルアルコールと、
(ix)0.1%~5%のポリオキシル20セトステアリルエーテルとを含む医薬水性組成物であって、前記治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、医薬水性組成物を提供する。
【0010】
本発明の組成物は、疣贅治療に適しているが、以下に説明するように、他の目的に用いることもできる。
【0011】
別の態様において、本発明は、治療に使用するための上記組成物を提供する。
【0012】
別の態様において、本発明は、皮膚新生物等の、体表面の新生物の治療に使用するための上記組成物を提供する。特に、上記組成物は、疣贅の治療に用いられうる。別の実施形態において、上記組成物は、皮膚がんの治療に用いられうる。
【0013】
関連する態様において、本発明は、上記組成物を投与することを含む、被験者の疣贅等の新生物を治療する方法を提供する。
【0014】
別の関連する態様において、本発明は、疣贅等の新生物を治療するための薬剤の製造における、上記組成物の使用を提供する。
【0015】
上記組成物において、各成分の量は、本発明の組成物中の該成分の含有率として表される。上記組成物において、また本明細書全体にわたって、全ての含有率の値は重量パーセント(%w/w)で示される。
【0016】
従って、本発明は、治療用ペプチドを送達するための製薬上許容される組成物を提供する。これは、疣贅治療に関して特に有用であると考えられうる。すなわち、本明細書で提供される組成物は、疣贅の治療に適している。本明細書で使用されている「医薬の」または「製薬上許容される」とは、上記組成物を投与されるレシピエントにとって、上記組成物が生理学的に許容されることを意味する。本発明の組成物は、局所投与(すなわち、皮膚への投与)に適したクリーム剤である。ゆえに、本発明の組成物は、製薬上許容されるクリーム剤である。クリーム剤としては、本発明の組成物は半固体である。製薬上許容されるクリーム剤は、非毒性であり、好ましくは非刺激性であるとともに、特に標的の疣贅に有効成分(後述)を送達するための好適なビヒクルである。医薬クリーム剤としては、本発明の組成物は、水相および油相を含むエマルジョンである。本発明の組成物は、特に水中油型エマルジョンであってもよい。本発明の組成物は、好ましくは無菌である。
【0017】
本発明の組成物は、水性組成物である。本明細書に記載されている水性組成物は、水を含む組成物または水で構成された組成物(composition made up with water)である。すなわち、本発明の組成物は、水に加えて、有効成分および後述する様々な賦形剤を含む。上記組成物は水性であるが、組成物の全ての成分が水に溶解しているわけではない。上述のように、上記組成物は、水相および油相の両方を含むエマルジョンである。しかし、水性組成物として、その水は、通常、上述のように水中油型エマルジョンであるエマルジョンの連続相を形成する。本明細書において、本発明の組成物が記載され、各賦形剤の含有率が合計して100%にならない(または100%にならないことがある)場合、組成物の残り(すなわち、残部)は水である。
【0018】
上述のように、本発明の組成物は、新生物の治療に適している。「新生物」は、悪性、前悪性または非悪性のあらゆる新生物疾患を含むように広く定義されている。新生物は、制御されていない、または望ましくない細胞増殖によって特徴づけられうる。新生物は、特に、皮膚がんもしくは非悪性皮膚新生物を含む皮膚の新生物でもよく、またはクリーム剤を塗布するような体の表面または部位に発生する新生物でもよい。より詳しくは、本発明の組成物は、疣贅の治療に適している。本明細書で定義されている「疣贅」は、以下にさらに説明するように、全ての種類の疣贅を包含する。本発明の組成物を用いた疣贅または他の新生物の治療は、その有効成分によって達成される。「有効成分」という用語は、組成物の成分のうち、治療効果を有する成分、すなわち、抗新生物効果または抗疣贅効果がある成分を表すのに用いられる。本発明の組成物中の有効成分は、治療用オリゴペプチドである。被験者の疣贅または他の新生物に本発明の組成物を投与すると、治療用オリゴペプチドがそれらの疣贅または他の新生物と接触し、破壊する。従って、本発明で用いられる治療用オリゴペプチドは、抗疣贅活性、より一般的には、新生細胞に対する活性を有する。
【0019】
本発明の組成物に用いられる治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列、または配列番号1と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。上述のように、配列番号1の治療用オリゴペプチド(CyPep-1)は、WO2011/092347に開示されている。配列番号1は、HIV-TAT細胞透過性ペプチドのC末端に結合した腫瘍抑制タンパク質コンダクチン/アキシン2のフラグメントで構成されている。上記コンダクチン/アキシン2のフラグメントは、配列番号2に記載のアミノ酸配列(配列番号1のアミノ酸番号13~27に相当)を有し、HIV-TAT細胞透過性ペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列(配列番号1のアミノ酸番号1~12に相当)を有する。
【0020】
オリゴペプチドは、ペプチド結合によってアミノ酸が互いにつながったポリマーである。本明細書で定義されているように、オリゴペプチドは少なくとも3個のアミノ酸を含むが、本明細書に記載されている治療用オリゴペプチドが3個を超えるアミノ酸を含むことは明らかである。本明細書で定義されているオリゴペプチドは、その最大長は特に限定されないが、例えば、最大で30、40、50または100個のアミノ酸を含むことがあり、それ以上を含むこともある。しかし、一般的に「オリゴ」という接頭語は、比較的少数のアミノ酸サブユニット、すなわち、200個未満、好ましくは100、90、80、70、60または50個未満のアミノ酸を表すのに用いられる。従って、本発明の組成物に用いられる治療用オリゴペプチドは、23個以上200個以下のアミノ酸を含み得る。いくつかの実施形態において、治療用オリゴペプチドは、24、25、26または27個以上のアミノ酸を含む。別の定義としては、治療用オリゴペプチドは、50、45、40、35、30、29、28または27個以下のアミノ酸を含む。従って、治療用オリゴペプチドは、サブユニットの最小数または最大数について、上記整数のいずれかで規定される範囲内の数のアミノ酸を含み得る。代表的なサブユニットの範囲としては、23~150、23~100、23~80、23~50、23~40、23~30、25~150、25~100、25~80、25~50、25~40、25~30、26~150、26~100、26~80、26~50、26~40、26~30、27~150、27~100、27~80、27~50、27~40、27~30、27~29および27~28等が挙げられる。
【0021】
本発明の組成物に用いられる治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも85%、90%もしくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。特定の実施形態において、治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む。別の実施形態において、治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも85%、90%もしくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる。別の実施形態において、治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる。
【0022】
配列アラインメントを行うことによって、2つの配列(例えば、対象のオリゴペプチド配列および配列番号1に記載の配列)間の配列同一性レベルを判断することができる。配列アラインメントは、適切な方法を用いて行うことができる。
例えば、ペアワイズ(pairwise)配列アライメントには、コンピュータープログラムのEMBOSS NeedleまたはEMBOSS stretcher(共にRice, P. et al., Trends Genet. 16(6): 276-277, 2000)が用いられる。一方、多重配列アラインメントには、Clustal Omega(Sievers, F. et al., Mol. Syst. Biol. 7:539, 2011)またはMUSCLE(Edgar, R.C., Nucleic Acids Res. 32(5): 1792-1797, 2004)が用いられる。このようなコンピュータープログラムは、標準入力パラメータと共に用いてもよい。標準的な入力パラメータとしては、例えば、標準的なClustal Omegaパラメータ:matrix Gonnet、gap opening penalty 6、gap extension penalty 1、または標準的なEMBOSS Needleパラメータ:matrix BLOSUM62、gap opening penalty 10、gap extension penalty 0.5が挙げられる。他に適切なパラメータがあれば、代わりに用いてもよい。配列アラインメントは、全体的に行わなければならず、すなわち、比較された配列の全長にわたって行わなければならない。
【0023】
本発明で用いられる治療用オリゴペプチドは、タンパク質構成アミノ酸(proteinogenic amino acids)(すなわち、標準遺伝コードによってコードされるL-アミノ酸)のみを含み得る。あるいは、本発明で用いられる治療用オリゴペプチドは、1個以上の非タンパク質構成アミノ酸を含み得る。例えば、本発明で用いられる治療用オリゴペプチドは、1個以上のD-アミノ酸(例えば、1、2、3、4、5、6、7または8個以上のD-アミノ酸)、人間工学的(human-engineered)アミノ酸、または天然の非タンパク質構成アミノ酸(例えば、代謝過程で形成されるアミノ酸)を含み得る。使用可能な非タンパク質構成アミノ酸としては、例えば、オルニチン(尿素サイクルの生成物); HYPERLINK "http://en.wikipedia.org/wiki/9H-fluoren-9-ylmethoxycarbonyl" \o "9H-fluoren-9-ylmethoxycarbonyl" 9H-フルオレン-9-イルメトキシカルボニル(Fmoc)保護アミノ酸、tert-ブチルオキシカルボニル(Boc)保護アミノ酸および2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル(Pmc)保護アミノ酸等の人工的に修飾されたアミノ酸;およびカルボキシベンジル(Z)基を有するアミノ酸が挙げられる。
【0024】
治療用オリゴペプチドは、インビトロおよび/またはインビボでの安定性を、当該技術分野において公知の安定化手段または保護手段を用いて改善または向上することができ、例えば、保護基もしくは安定化基の付加、アミノ酸誘導体もしくはアミノ酸類似体の組み込み、またはアミノ酸の化学修飾等を用いて改善または向上することができる。このような保護基または安定化基は、例えばN末端および/またはC末端に付加され得る。このような基としてはアセチル基が挙げられ、他の保護基やペプチドを安定化させうる基は当該技術分野において公知である。
【0025】
全てがL-アミノ酸からなるペプチドは、当技術分野においてL-ペプチドとして知られ、全てがD-アミノ酸からなるペプチドは、当該技術分野においてD-ペプチドとして知られている。「インベルソ(inverso)ペプチド」という用語は、L-ペプチドと同じアミノ酸配列を有するが、全てがD-アミノ酸からなるペプチド(つまり対応するL-ペプチドと同じ配列を有するD-ペプチド)を表すのに用いられる。インベルソペプチドは、それと対応するL-ペプチド(つまり同じアミノ酸配列のL-ペプチド)に対してミラー構造をもつ。インベルソペプチドは、一般的に血清プロテアーゼによる分解の影響を受けにくいため(インベルソペプチドは、その人為的な構造により、プロテアーゼ酵素に認識されない場合がある)、(L-ペプチドに比べて)臨床現場での使用に有利となり得る。特定の実施形態において、本発明で用いられる治療用オリゴペプチドは、その全てのアミノ酸はD-アミノ酸であるインベルソ化合物である。すなわち、治療用オリゴペプチドはD-ペプチドであってもよい。オリゴペプチド化合物は、特に、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるD-ペプチドを含むか、または該D-ペプチドからなり得る。
【0026】
本明細書に記載されている治療用オリゴペプチドは、当業者であれば標準的な生化学的手法を用いて合成することができる。上記オリゴペプチドがタンパク質構成アミノ酸のみを含むL-ペプチドである場合、組み換えDNA技術によって合成することができる。すなわち、上記オリゴペプチドをコードするDNA配列をクローン化して、発現ベクターに導入すればよい。本明細書に記載されている治療用オリゴペプチドをコードするDNA配列は、配列番号1に記載のアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも85%、90%もしくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むか、または該ヌクレオチド配列からなる。このようなヌクレオチド配列は、当業者であれば容易に生成および合成することができる。
【0027】
本明細書に記載されている治療用オリゴペプチドをコードするDNA配列は、当該技術分野において公知の標準的な方法を用いて、テンプレートからの増幅(例えばPCR)または人工遺伝子合成によって生成され得る。上記オリゴペプチドをコードするDNA配列は、制限酵素またはギブソン・アセンブリ等の標準的な分子クローニング技術を用いて発現ベクターに導入され得る。適切な発現ベクターは、当該技術分野において公知である。次に、発現ベクターは、標準的な手法を用いて細胞発現系に導入され得る。適切な発現系としては、細菌細胞および/または真核細胞(例えば、酵母菌)、昆虫細胞または哺乳類細胞が挙げられる。本明細書に記載されている治療用オリゴペプチドが(上述のように)細菌細胞に対して毒性があるとすれば、真核細胞は、オリゴペプチド化合物の製造により適した細胞発現系であると考えられる。
【0028】
細胞発現系の代わりに、無細胞インビトロタンパク質発現系を用いて、本明細書に記載されているL-ペプチド化合物を合成してもよい。このような系において、オリゴペプチドをコードするヌクレオチド配列はmRNAに転写され、該mRNAはインビトロでタンパク質に翻訳される。無細胞発現系キットは広く市販されており、例えばThermo Fisher Scientific社(米国)から購入することができる。
【0029】
あるいは、本発明で用いられるオリゴペプチドは、非生物系において化学的に合成され得る。D-アミノ酸または他の非タンパク質構成アミノ酸を含むオリゴペプチドは、この場合、通常、生物学的合成が不可能であることから、特に化学合成され得る。液相タンパク質合成または固相タンパク質合成を用いて、本発明で用いられるオリゴペプチド化合物を構成するポリペプチドまたはそれに含まれるポリペプチドを生成してもよい。そのような方法は当業者にとって周知であり、当業者ならば、当該技術分野において一般的で、適切な技法を用いて、オリゴペプチドを容易に製造することができる。
【0030】
上述のように、本発明の組成物に用いられる治療用オリゴペプチドは、抗疣贅活性を有する。これは、被験者の疣贅に治療用オリゴペプチドを適用した場合、疣贅の治癒には、一定期間(例えば、少なくとも4週間)がかかることを意味する。例えば、疣贅が縮小したり、剥がれ落ちたりすることもあれば、疣贅を形成した皮膚が正常に戻ることもある。オリゴペプチドに抗疣贅活性があるかどうかを確認するために、数人の被験者の疣贅に、対象のオリゴペプチドを含む組成物を適用し、その結果を、プラセボ(すなわち、対象のオリゴペプチドを含まないが、それ以外は同一の組成物またはクリーム剤)で治療された被験者から得られた結果と比較してもよい。プラセボよりも、対象のオリゴペプチドを含む組成物による結果の方が優れていれば、このオリゴペプチドは、抗疣贅活性を有すると考えられ、よって本明細書で定義されている治療用オリゴペプチドを構成すると考えられる。
【0031】
本発明の組成物は、0.1%~5%の範囲で治療用オリゴペプチドを含む。特定の実施形態において、上記組成物は、0.5%~2%、0.5%~2.5%または0.5%~3%の治療用オリゴペプチドを含む。好ましい実施形態において、上記組成物は、1%の治療用オリゴペプチドを含む。最も好ましくは、上記組成物は、1%のCyPep-1を含む。すなわち、上記組成物は、1%の治療用オリゴペプチドを含み、この治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるD-ペプチドである。
【0032】
本発明の組成物は、さらに防腐剤を含む。防腐剤は、上記組成物の無菌性を維持するように機能する(すなわち、抗菌作用を有する)。特に、防腐剤は、細菌および酵母等の真菌を死滅させるか、またはそれらの増殖を抑制する殺菌特性を有し得る。従って、防腐剤は、抗細菌作用および抗真菌作用を有していてもよい。特に好ましい防腐剤は、フェノキシエタノールである。
【化1】
【0033】
他の好適な防腐剤としては、当該技術分野において公知であり、パラベン(メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンおよびブチルパラベンを含む)、ソルビン酸(2,4-ヘキサジエン酸としても知られている)およびその塩(ソルビン酸ナトリウムおよびソルビン酸カリウムを含む)、ならびに安息香酸およびその塩(安息香酸ナトリウムおよび安息香酸カリウムを含む)等が挙げられる。
【0034】
本発明の組成物は、0.1%以上5%以下の防腐剤を含む。特定の実施形態において、上記組成物は、0.5%以上2%以下、0.5%以上2.5%以下または0.5%以上3%以下の防腐剤を含む。好ましい実施形態において、上記組成物は、1%の防腐剤を含む。好ましくは、本発明の組成物は、0.1%以上5%以下のフェノキシエタノールを含む。特に、上記組成物は、0.5%以上2%以下、0.5%以上2.5%以下または0.5%以上3%以下のフェノキシエタノールを含んでもよい。特に好ましい実施形態において、上記組成物は、1%のフェノキシエタノールを含む。
【0035】
本発明の組成物は、さらにシリコーン(ポリシロキサン)を含む。シリコーンは、上記組成物に心地よい質感を与える働きをする。通常、本発明の組成物に用いられるシリコーンは、ジメチコン(ジメチルポリシロキサン)である。ポリマーの平均長さが異なるジメチコンは、動粘度の違いによって区別される(ポリマーの平均長さが長いほど、粘度は高くなり、その逆も同様である)。ジメチコンとの関連において、動粘度は、センチストークス(cSt)を用いて測定される。動粘度のSI単位はm2/sである。動粘度1m2/sは動粘度106cStと同等であり、逆に、動粘度1cStは動粘度10-62/sと同等である。粘度は、25℃で測定される。広範囲の粘度を有するジメチコンは、医薬組成物における賦形剤として用いることができる。例えば、組成物中のジメチコンの濃度および組成物全体としての所望の粘度に応じて、20cStから1000cStの間の粘度が適しているとされる。本発明の組成物は、25℃における粘度が350cStのジメチコン(一般的には、ジメチコン350cStと称される)を含むことが特に好ましい。
【0036】
本発明の組成物は、0.1%以上5%以下のシリコーン(好ましくはジメチコン)を含む。特定の実施形態において、上記組成物は、0.5%以上2%以下、0.5%以上2.5%以下または0.5%以上3%以下のシリコーン(好ましくはジメチコン)を含む。好ましい実施形態において、上記組成物は、1%のジメチコンを含む。好ましくは、本発明の組成物は、0.1%以上5%以下のジメチコン350cStを含む。特に、上記組成物は、0.5%以上2%以下、0.5%以上2.5%以下または0.5%以上3%以下のジメチコン350cStを含んでもよい。特に好ましい実施形態において、上記組成物は、1%のジメチコン350cStを含む。
【0037】
本発明の組成物は、さらにジ(エチレングリコール)エチルエーテル(DEGEE)を含む。これは、一般的には、その商品名であるトランスクトールP(Transcutol-P)と称される。
【化2】
DEGEEは、溶媒および浸透促進剤として作用する。「浸透促進剤」とは、被験者に本発明の組成物を適用した際に、DEGEEが皮膚を通した有効成分の吸収を向上させることを意味する。本発明の組成物は、10%以上20%以下のDEGEEを含む。特定の実施形態において、上記組成物は、10%以上18%以下、10%以上16%以下、12%以上20%以下、12%以上18%以下、12%以上16%以下、14%以上20%以下、14%以上18%以下または14%以上16%以下のDEGEEを含み、好ましくは14%以上16%以下のDEGEEを含む。最も好ましくは、上記組成物は、15%のDEGEEを含む。
【0038】
本発明の組成物は、さらにブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)を含む。BHAは、異性化合物である2-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソールと3-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソールとの混合物である。
【化3】
【0039】
本発明の組成物に用いられるBHAは、2-tert異性体および3-tert異性体を任意の比率で含んでもよい。特定の実施形態において、BHAは、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%または95%の3-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソールを含む。
【0040】
BHAは、その芳香環に、組成物中の遊離基を隔離することができるという点で、酸化防止剤である。これにより、組成物の他の成分の酸化および分解を防ぐため、組成物の安定性が向上する。本発明の組成物は、0.005%以上0.1%以下のBHAを含む。特定の実施形態において、上記組成物は、0.01%以上0.1%以下、0.01%以上0.09%以下、0.01%以上0.08%以下、0.01%以上0.07%以下、0.01%以上0.06%以下または0.01%以上0.05%以下のBHAを含み、好ましくは0.01%以上0.05%以下のBHAを含む。さらなる実施形態において、上記組成物は、0.01%以上0.04%以下または0.01%以上0.03%以下のBHAを含む。最も好ましくは、上記組成物は、0.02%のBHAを含む。
【0041】
本発明の組成物は、さらに流動パラフィン(鉱油としても知られている)を含む。流動パラフィンは皮膚軟化剤(または保湿剤)として機能し、上記組成物が適用される皮膚の水和を維持する。本発明の組成物は、1%以上10%以下の流動パラフィンを含む。特定の実施形態において、上記組成物は、2%以上10%以下、2%以上8%以下、2%以上6%以下、4%以上10%以下、4%以上8%以下または4%以上6%以下の流動パラフィンを含み、好ましくは4%以上6%以下の流動パラフィンを含む。最も好ましくは、上記組成物は、4.8%の流動パラフィンを含む。
【0042】
本発明の組成物は、さらに軟パラフィン(ワセリンとしても知られている)を含む。本発明の組成物には、白色または黄色の軟パラフィン(白色ワセリンまたは黄色ワセリン)のいずれかを用いることができる。好ましくは、白色軟パラフィン(白色ワセリン)が用いられる(白色軟パラフィンは、本質的に脱色されるように、高度に精製されたワセリンである)。軟パラフィン(白色軟パラフィンを含む)も、皮膚軟化剤として機能する。
【0043】
本発明の組成物は、1%以上10%以下の軟パラフィン(好ましくは白色軟パラフィン)を含む。特定の実施形態において、上記組成物は、1%以上9%以下、1%以上7%以下、3%以上10%以下、3%以上9%以下、3%以上7%以下、5%以上10%以下、5%以上9%以下または5%以上7%以下の軟パラフィン(好ましくは白色軟パラフィン)を含む。好ましくは、本発明の組成物は、5%以上7%以下の軟パラフィン(好ましくは白色軟パラフィン)を含む。最も好ましくは、上記組成物は、6.3%の軟パラフィンを含み、特に6.3%の白色軟パラフィンを含む。
【0044】
本発明の組成物は、さらにセトステアリルアルコールを含む。セトステアリルアルコールは、固体アルコールであるセチルアルコール(ヘキサデカン-1-オール)とステアリルアルコール(オクタデカン-1-オール)との混合物である。セトステアリルアルコールは乳化剤として機能することで、本発明の組成物のエマルジョンを安定化させ、相分離を防止する。
【0045】
セトステアリルアルコール中のセチルアルコールおよびステアリルアルコールの割合は調節可能である。通常、本明細書に記載されているセトステアリルアルコールは、セチルアルコールおよびステアリルアルコールを、それぞれ30%以上70%以下含むことができる。また、セトステアリルアルコールは、セチルアルコールおよびステアリルアルコールの純粋な混合物ではなく、少量の他のアルコール(ミリスチルアルコール等)を含むことがある。セトステアリルアルコールは、セチルアルコールとステアリルアルコールとの比が(ほぼ)70:30、60:40、50:50、40:60または30:70の混合物であればよい。最も好ましくは、セトステアリルアルコールは、セチルアルコールとステアリルアルコールとの比が50:50の混合物である。本明細書において、セチルアルコールとステアリルアルコールとの比が50:50の混合物であるセトステアリルアルコールは、セトステアリルアルコール50:50と称される。
【0046】
本発明の組成物は、1%以上10%以下のセトステアリルアルコール(好ましくはセトステアリルアルコール50:50)を含む。特定の実施形態において、上記組成物は、2%以上10%以下、2%以上8%以下、2%以上6.5%以下、2%以上6%以下、4%以上10%以下、4%以上8%以下、4%以上6.5%以下、4%以上6%以下、4.5%以上8%以下、4.5%以上6.5%以下、4.5%以上6%以下または5%以上6%以下のセトステアリルアルコール(好ましくはセトステアリルアルコール50:50)を含む。好ましい実施形態において、上記組成物は、4.5%以上6.5%以下のセトステアリルアルコール(好ましくはセトステアリルアルコール50:50)を含む。別の好ましい実施形態において、上記組成物は、5%以上6%以下のセトステアリルアルコール(好ましくはセトステアリルアルコール50:50)を含む。最も好ましくは、上記組成物は、5.5%のセトステアリルアルコールを含み、特に5.5%のセトステアリルアルコール50:50を含む。
【0047】
本発明の組成物は、さらにポリオキシル20セトステアリルエーテル(セテアレス-20またはマクロゴールセトステアリルエーテルとしても知られている)を含む。ポリオキシル20セトステアリルエーテルは、エトキシ化セチルアルコールとエトキシ化ステアリルアルコールとの混合物であり、エトキシ化セチルアルコールおよびエトキシ化ステアリルアルコールは、それぞれ平均エトキシ単位数が17.2個から25個の間である。好ましくは、エトキシ化セチルアルコールおよびエトキシ化ステアリルアルコールは、それぞれ平均20個のエトキシ単位を有する。特定の実施形態において、エトキシ化セチルアルコールおよびエトキシ化ステアリルアルコールは、どちらも20個のエトキシ単位を含む。ポリオキシル20セトステアリルエーテルは、乳化剤としても非イオン界面活性剤としても機能することで、本発明の組成物のエマルジョンの形成および安定化を促進する。
【0048】
本発明の組成物は、0.1%以上5%以下のポリオキシル20セトステアリルエーテルを含む。特定の実施形態において、上記組成物は、0.1%以上4%以下、0.1%以上3%以下、0.5%以上5%以下、0.5%以上4%以下、0.5%以上3%以下、1%以上5%以下、1%以上4%以下、1%以上3%以下、2%以上5%以下、2%以上4%以下または2%以上3%以下のポリオキシル20セトステアリルエーテルを含む。好ましい実施形態において、上記組成物は、1%以上3%以下のポリオキシル20セトステアリルエーテルを含む。別の好ましい実施形態において、上記組成物は、2%以上3%以下のポリオキシル20セトステアリルエーテルを含む。最も好ましくは、上記組成物は、2.4%のポリオキシル20セトステアリルエーテルを含む。
【0049】
本発明の組成物に用いられる賦形剤は、通常、医薬品添加物ハンドブック、第6版(編者:Raymond C Rowe、Paul J Sheskey、Marian E Quinn、出版社:Pharmaceutical Press (UK)およびAmerican Pharmacists Association、2009)に記載されている。使用される全ての賦形剤は、当該技術分野において一般的であり、商業的供給業者から広く入手可能である。上述のように、本発明の組成物は水性組成物であるため、有効成分および賦形剤の合計量が組成物全体の100%にならない場合、その残部は水とすればよい。
【0050】
本発明の組成物に用いられる水は殺菌されており、好ましくは、脱イオン化もされている。好ましい実施形態において、灌注用水(water for irrigation)が用いられる。灌注用水は、当該技術分野において周知である。灌注用水は浸透圧が0Osm/Lであり、低張である。
【0051】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、
(i)0.1%以上5%以下の治療用オリゴペプチドと、
(ii)0.1%以上5%以下の防腐剤と、
(iii)0.1%以上5%以下のシリコーンと、
(iv)10%以上20%以下のジ(エチレングリコール)エチルエーテルと、
(v)0.005%以上0.1%以下のブチル化ヒドロキシアニソールと、
(vi)1%以上10%以下の流動パラフィンと、
(vii)1%以上10%以下の軟パラフィンと、
(viii)1%以上10%以下のセトステアリルアルコールと、
(ix)0.1%以上5%以下のポリオキシル20セトステアリルエーテルと
を含み、
前記治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、組成物である。
【0052】
別の実施形態において、本発明の組成物は、
(i)0.1%以上5%以下の治療用オリゴペプチドと、
(ii)0.1%以上5%以下のフェノキシエタノールと、
(iii)0.1%以上5%以下のジメチコン350cStと、
(iv)10%以上20%以下のジ(エチレングリコール)エチルエーテルと、
(v)0.005%以上0.1%以下のブチル化ヒドロキシアニソールと、
(vi)1%以上10%以下の流動パラフィンと、
(vii)1%以上10%以下の白色軟パラフィンと、
(viii)1%以上10%以下のセトステアリルアルコール50:50と、
(ix)0.1%以上5%以下のポリオキシル20セトステアリルエーテルと
を含み、
前記治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなり、かつ全てのアミノ酸がD-アミノ酸であるインベルソ化合物である、組成物である。
【0053】
別の実施形態において、本発明の組成物は、
(i)0.5%以上2%以下の治療用オリゴペプチドと、
(ii)0.5%以上2%以下の防腐剤と、
(iii)0.5%以上2%以下のシリコーンと、
(iv)14%以上16%以下のジ(エチレングリコール)エチルエーテルと、
(v)0.01%以上0.05%以下のブチル化ヒドロキシアニソールと、
(vi)4%以上6%以下の流動パラフィンと、
(vii)5%以上7%以下の軟パラフィンと、
(viii)4.5%以上6.5%以下のセトステアリルアルコールと、
(ix)1%以上3%以下のポリオキシル20セトステアリルエーテルと
を含み、
前記治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、組成物である。
【0054】
別の実施形態において、本発明の組成物は、
(i)0.5%以上2%以下の治療用オリゴペプチドと、
(ii)0.5%以上2%以下のフェノキシエタノールと、
(iii)0.5%以上2%以下のジメチコン350cStと、
(iv)14%以上16%以下のジ(エチレングリコール)エチルエーテルと、
(v)0.01%以上0.05%以下のブチル化ヒドロキシアニソールと、
(vi)4%以上6%以下の流動パラフィンと、
(vii)5%以上7%以下の白色軟パラフィンと、
(viii)4.5%以上6.5%以下のセトステアリルアルコール50:50と、
(ix)1%以上3%以下のポリオキシル20セトステアリルエーテルと
を含み、
前記治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなり、かつ全てのアミノ酸がD-アミノ酸であるインベルソ化合物である、組成物である。
【0055】
別の実施形態において、本発明の組成物は、
(i)1%の治療用オリゴペプチドと、
(ii)1%の防腐剤と、
(iii)1%のシリコーンと、
(iv)15%のジ(エチレングリコール)エチルエーテルと、
(v)0.02%のブチル化ヒドロキシアニソールと、
(vi)4.8%の流動パラフィンと、
(vii)6.3%の軟パラフィンと、
(viii)5.5%のセトステアリルアルコールと、
(ix)2.4%のポリオキシル20セトステアリルエーテルと、
(x)62.98%の水と
を含み、
前記治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、組成物である。
【0056】
別の実施形態において、本発明の組成物は、
(i)1%の治療用オリゴペプチドと、
(ii)1%のフェノキシエタノールと、
(iii)1%のジメチコン350cStと、
(iv)15%のジ(エチレングリコール)エチルエーテルと、
(v)0.02%のブチル化ヒドロキシアニソールと、
(vi)4.8%の流動パラフィンと、
(vii)6.3%の白色軟パラフィンと、
(viii)5.5%のセトステアリルアルコール50:50と、
(ix)2.4%のポリオキシル20セトステアリルエーテルと、
(x)62.98%の水と
を含み、
前記治療用オリゴペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなり、かつ全てのアミノ酸がD-アミノ酸であるインベルソ化合物である、組成物である。
【0057】
本発明の組成物はクリーム剤であり、チューブ(例えば、プラスチック製)、タブもしくはポット(例えば、プラスチック製、金属製またはガラス製)、または他の適切な容器に入れて提供され得る。
本発明は、さらに、治療に使用するための上記組成物を提供する。治療とは、病気または疾患を患う被験者の治療のことである。本明細書において、通常、治療とは、疾患に罹患している被験者を治す目的で行われる治療を意味する。本明細書で定義されている被験者とは、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタもしくはヤギ等の家畜、ウサギ、ネコもしくはイヌ等の愛玩動物、またはサル、チンパンジー、ゴリラもしくはヒト等の霊長類といったあらゆる哺乳動物を対象とする。最も好ましくは、ほとんどの状況において、被験者はヒトである。
【0058】
本発明は、新生物の治療に使用するための上記組成物も提供する。一実施形態において、本発明は、皮膚新生物(すなわち、皮膚の新生物疾患)の治療に使用するための上記組成物を提供する。より詳しくは、本発明は、疣贅の治療に使用するための上記組成物を提供する。同様に、本発明は、被験者(より詳しくは、その新生物)に本発明の組成物を投与することを含む、被験者の新生物を治療する方法を提供する。一実施形態において、本発明は、被験者(より詳しくは、その新生物)に本発明の組成物を投与することを含む、被験者の皮膚新生物を治療する方法を提供する。特に、本発明は、被験者(より詳しくは、その疣贅)に本発明の組成物を投与することを含む、被験者の疣贅を治療する方法を提供する。同様に、本発明は、新生物を治療するための薬剤の製造における、本発明の組成物の使用を提供する。一実施形態において、本発明は、皮膚新生物を治療するための薬剤の製造における、本発明の組成物の使用を提供する。特に、本発明は、疣贅を治療するための薬剤の製造における、本発明の組成物の使用を提供する。つまり、本発明の組成物は、疣贅等の新生物を破壊または縮小させる、および/または疣贅等の新生物がうつることを防ぐために、疣贅等の皮膚の新生物に罹患している被験者(すなわち、疣贅等の新生物の治療を必要としている被験者)の治療に用いられる。
【0059】
本発明の組成物は、疣贅(上記参照)、光線性角化症、脂漏性角化症およびボーエン病(扁平上皮内がん)を含む、皮膚の非悪性新生物疾患を治療するのに用いてもよい。光線性角化症(日光性角化症としても知られている)は、太陽暴露による皮膚の損傷に起因する、非悪性の、ざらざらした皮膚の斑点である。脂漏性角化症は、原因不明のろう状/いぼ状の増殖物である。一般的には、光線性角化症も、脂漏性角化症も治療を必要としない。ただし、これらの疾患による皮膚病変が炎症を起こす場合は、治療が必要になることもある。光線性角化症は皮膚がんを発症する可能性があるため、この疾患に対する治療の選択肢を用意することは、皮膚がんの予防にとって重要である。ボーエン病を治療しないままでいると、悪性扁平上皮がんになることがある。本発明の組成物は、上記疾患に対する重要かつ新たな治療の選択肢を提供する。
【0060】
本発明の組成物は、皮膚の悪性新生物疾患(すなわち、皮膚がん)を治療するのにも用いられる。例えば、本発明の組成物は、扁平上皮がんおよび基底細胞がんの治療に用いてもよい。
【0061】
本発明の組成物を用いて治療され得る全ての新生物皮膚疾患において、本発明の組成物は、皮膚病変に直接(局所的に)適用される。
【0062】
上述のように、本発明の組成物による治療対象は、例示したような家畜または愛玩動物等のあらゆる哺乳動物を含むが、好ましくはヒトである。本発明の組成物は、新生物(例えば、疣贅)に罹患しているヒトであれば、性別(男性または女性)および年齢(成人または小児)に関わりなく、あらゆるヒトの治療に用いることができる。
【0063】
上述のように、本明細書で使用されている「疣贅」とは、あらゆる種類の疣贅を意味する。好ましい実施形態において、本発明の組成物は、皮膚疣贅の治療に用いられる。皮膚疣贅としては、尋常性疣贅(verruca vulgaris)、足底疣贅(verruca plantaris)、扁平疣贅(verruca plana)、中間疣贅(尋常性疣贅および扁平疣贅の両方の特徴を有する)、糸状疣贅および爪囲疣贅が挙げられる。基本的に、肛門性器疣贅を除く全ての疣贅は、本明細書では皮膚疣贅として定義されている。例えば、本発明の組成物は、尋常性疣贅の治療に用いてもよい。本発明の組成物は、足底疣贅の治療に用いてもよい。本発明の組成物は、扁平疣贅または中間疣贅の治療に用いてもよい。本発明の組成物は、糸状疣贅の治療に用いてもよい。本発明の組成物は、爪囲疣贅の治療に用いてもよい。別の実施形態において、本発明の組成物は、肛門性器疣贅の治療に用いられる。
【0064】
本発明の組成物は、被験者の任意の数の疣贅を同時に治療するために用いることができる。上記組成物は、一つの疣贅のみを治療するのに用いてもよく、あるいは、複数の疣贅を同時に治療するのに用いてもよい。例えば、本発明の組成物を用いて、単一の被験者の2、3、4または5個以上の疣贅を同時に治療することができる。類推により、他の新生物性病変の治療にも同様の考察が当てはまる。
【0065】
疣贅等の治療を必要とする被験者に、本発明の組成物の治療有効量を投与する。「治療有効量」とは、被験者の病態に効果を発揮するのに十分な量のことである。被験者の病態に効果を発揮するのに十分な量であるかどうかは、被験者自身か、または医師/獣医師によって判断され得る。特に、治療する疣贅を縮小または破壊するために十分な量の組成物が投与される。
【0066】
通常、本発明の組成物は、治療される被験者に局所的に投与される。上記組成物のクリーム剤は、新生物、例えば疣贅の表面に直接投与される。被験者自身、医師または第三者(例えば、親等の被験者の親族)によって、クリーム剤が新生物(例えば、疣贅)に塗布されてもよい。クリーム剤は、容器(例えば、チューブ)から直接、または指を介して容易に塗布することができる。通常、上記組成物は、治療対象の病変または疣贅を覆うのに十分な量で、その都度塗布される。クリーム剤の投与後、病変または疣贅の部位にクリーム剤が保持されるように、絆創膏または包帯(好ましくは閉鎖性の絆創膏または包帯)で病変または疣贅を覆ってもよい。本発明の組成物を用いて複数の病変または疣贅を同時に治療する場合、クリーム剤は、治療対象の病変または疣贅のそれぞれに、別々に塗布される。
【0067】
本発明の組成物は、治療対象の新生物(例えば、疣贅)に、毎日、例えば、1日1回、1日2回または1日3回適用され得る。あるいは、本発明の組成物は、1日おきに、2日おきに、または毎週適用されてもよい。好ましい実施形態において、本発明の組成物は、治療対象の新生物/疣贅に、1日1回適用される。別の好ましい実施形態において、上記組成物は、治療対象の新生物/疣贅に、1日2回適用される。本発明の組成物による新生物/疣贅の治療は、不特定の期間、例えば、新生物/疣贅が破壊されるまで、すなわち、治療が成功するまで行うことができる。あるいは、本発明の組成物による疣贅の治療は、指定された期間、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11もしくは12週間以上、または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11もしくは12週間以上行うことができる。治療期間は、1、2もしくは3ヵ月以上、または約1、2もしくは3ヵ月以上であってもよい。例えば、治療期間は、2~8週間でもよく、例えば、4~8週間または6~8週間、2~4週間または2~6週間であってもよい。好ましい実施形態において、治療期間は4週間くらいである。
【0068】
特に好ましい実施形態において、治療は、4週間または約4週間の間、治療対象の疣贅にクリーム剤を1日1回投与することを含む。別の好ましい実施形態において、治療は、2~8週間(例えば、4~8週間)の間、治療対象の疣贅にクリーム剤を1日1回投与すること、または2~8週間(例えば、4~8週間)の間、治療対象の疣贅にクリーム剤を1日2回投与することを含む。
【0069】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することによって、さらに理解される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1図1は、HPLC(実施例1の方法を使用)でCyPep-1濃度を測定する較正実験の結果を示す。図1Aは、2.5~500μg/mlの濃度範囲にわたって脱イオン水中で調製されたCyPep-1標準物質の代表的な検量線を示す。グラフに示された点は、3回のHPLC測定の平均値である。図1Bは、CyPep-1の較正標準のサンプルクロマトグラム(この場合、100μg/mlのCyPep-1の濃度で)を示す。
図2図2は、試験した5つの医薬製剤からアイソポア(isopore)膜を通ってレセプター溶液(脱イオン水)に放出された、1~7時間の間の単位面積(μg/cm2)当たりのCyPep-1の平均累積量(時間の平方根として表される)を示す。データは平均値±標準偏差(n=6)として示された。
【実施例
【0071】
実施例1-分析法の開発
試験された医薬製剤中のCyPep-1の安定性を測定するために、以下のHPLCによるCyPep-1の定量分析法を開発した。様々な条件(温度、流量等)を試験した上で(データは示さず)、以下の手順が最適であることが判明した。
HPLCは、Phenomenex(米国)Kinetex C18,5μm,100Å,4.6×250mmカラムおよびPhenomenex SecurityGuard C18,5μm保護カラムを用いて以下のように行った。
【表1】
【0072】
このHPLC法は、CyPep-1の定量下限値が2.5μg/mlとなるように定められた。図1Aおよび図1Bは、それぞれ、上記HPLC法により得られたCyPep-1標準物質の代表的な検量線および較正標準を表すサンプルクロマトグラムを示す。
【0073】
実施例2-製剤開発
最初の実験では、脱イオン水(pH4、5、6または7)、エタノール、フェノキシエタノールおよびベンジルアルコールへのCyPep-1の高い溶解度が示された(それぞれにおけるCyPep-1の飽和溶解度は10%w/wを超えていた)。これらの液体中のCyPep-1の安定性を試験した。脱イオン水(pH4~7)中で40℃および50℃で4週間保存した後と、エタノールとフェノキシエタノールとの混合物中で40℃で4週間保存した後とにおいて、CyPep-1は良好な回収率(少なくとも95%)を示した。
【0074】
溶解度試験-方法
様々な液体賦形剤中のCyPep-1の飽和溶解度を以下のように評価した。
(i)CyPep-1(約20.0mg)を適切な大きさのガラスバイアル中に秤量した。
(ii)工程(i)のガラスバイアルのそれぞれに、各賦形剤(約500mg)を添加した。
(iii)CyPep-1および賦形剤系を、予め較正された25℃の水浴中で(飽和が観察されたら)24時間撹拌した。
(iv)CyPep-1が賦形剤に溶解したかどうかを確認するために、24時間の撹拌の間、1時間ごとに溶液を目視で検査した(可能な場合)。
(v)CyPep-1が溶解したことを確認したら、次に、前記ガラスバイアルにCyPep-1を約20.0mgずつ、飽和に達するまで添加するか、または溶解度が10%w/w以上として報告された点まで、合計60mg添加した。
(vi)飽和系では、約16000×gで10分間遠心分離を行ったことにより、飽和溶液から未溶解のCyPep-1を除去した。ライカ(ドイツ)製DME光学顕微鏡を用いた、倍率200~1000倍の光学顕微鏡検査法により、飽和上清のサンプルを調べた。顕微鏡のスライドに飽和上清を載せ、偏光および非偏光の両方を用いて、CyPep-1結晶の存在を直ちに調べた。希釈(工程(vii))は、遠心分離工程の直後に行った。
(vii)上記賦形剤におけるCyPep-1の溶解度は未知なので、分析の前に、適切な希釈を行って、試料希釈液(脱イオン水)中のCyPep-1濃度がHPLC法の定量限界を超えるようにした。CyPep-1を約20mg添加後に飽和した賦形剤については、以下の希釈を行った。
(a)約50mgの飽和溶液を10mLメスフラスコ中に秤量した。
(b)工程(a)のメスフラスコに試料希釈液(脱イオン水)を加えて定容とし、30秒間渦流(vortex)混合した。
(c)工程(b)で希釈したサンプルのアリコートをHPLCバイアルに移し、上記HPLC法によって分析した。
(viii)CyPep-1を約40mg添加後に飽和した賦形剤については、20mLメスフラスコを用いた以外は、工程(vii)に記載したような希釈を行った。
【0075】
安定性試験-方法
CyPep-1の飽和溶解度が10%(w/w)を超える液体賦形剤において、CyPep-1の安定性を評価した。上記賦形剤中のCyPep-1の安定性は、以下のように評価した。
(i)CyPep-1(40.0±0.1mg)を適切な大きさのガラスバイアル中に秤量した。
(ii)工程(i)の適切な大きさのガラスバイアルのそれぞれに、各賦形剤(39.96±0.2g)を添加した。
(iii)工程(ii)の混合物に、PTFEマグネチックスターラーを加えて、約16時間混合した。
(iv)工程(iii)の溶液を、テフロン(登録商標)で裏打ちされた蓋を備えた3mLのホウケイ酸ガラスバイアルに移した。t=0の時点およびさらに2つの時点で、25、40および50℃での試験のために、十分なバイアルを用意した。各時点のn=1アリコートを採取した。
(v)プラセボ溶液(CyPep-1を添加していない)も調製し、工程(iv)に従い安定に配置した。
(vi)40℃および50℃で保存し、評価時点をt=0、2週間および4週間とした。各時点において、溶液中のCyPep-1含有量および%a/aを以下のように分析した。
a)それぞれのCyPep-1溶液(500±10mg)を3つの別々の10mLメスフラスコ中に秤量した。
b)上記メスフラスコに試料希釈液(脱イオン水)を加えて定容とし、30秒間渦流混合した後、5回反転させて完全に混合した。
c)賦形剤が試料希釈液と混合しないことが認められた場合(工程(b))、抽出物を周囲温度で約2時間攪拌してから、約16000×gで10分間遠心分離にかけた。
d)工程(b)または(c)の各サンプルのアリコートをアンバーHPLCバイアルに移し、実施例1に記載したHPLC法を用いて分析した。
e)プラセボ溶液については、工程(a)~(d)に従ったが、複製物(replicate)を1つだけ準備し、分析した。
【0076】
これらの初期溶解度および安定性実験に基づき、さらなる試験のために、以下に示すCyPep-1製剤を合成した。
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【0082】
【表7】
【0083】
【表8】
【0084】
【表9】
【0085】
【表10】
【0086】
【表11】
【0087】
【表12】
【0088】
【表13】
【0089】
【表14】
【0090】
【表15】
【0091】
【表16】
【0092】
【表17】
【0093】
【表18】
【0094】
【表19】
【0095】
【表20】
【0096】
実施例3-製剤試験
軟膏1および非水性ゲル剤1は、CyPep-1がこれらの製剤に溶けないことが判明したため、直ちに廃棄された。次に、製剤を16分間遠心分離にかけた。その間に分離した製剤は、不安定とみなして廃棄された。遠心分離中に分離したため不安定であるとみなして廃棄されたのは、クリーム剤01および軟膏02であった。水性ゲル剤01および02は、ゲル化剤(カルボポール974)が十分に水和されなかったことを示唆する、濁りを生じたため廃棄された。これは、カルボポール974とCyPep-1とが互いに相溶性がないことによるものと判断された。クリーム剤2、クリーム剤3および水性ゲル剤3も廃棄された。その後、様々な製剤におけるCyPep-1の安定性を調査した。
【0097】
CyPep-1の抽出-方法
安定性試験に先立ち、CyPep-1抽出法を作成した。いくつかの方法が試された(データは示さず)。開発された最適な抽出法を以下のように実施した。
(i)150gの製剤を10mLメスフラスコ中に秤量した。
(ii)上記フラスコに50:50(v/v)の水:エタノールを加えて定容とした。
(iii)上記メスフラスコに対して30秒間の渦流混合を行って製剤を分散させた。その結果、濃度150μg/mlのCyPep-1を含む抽出溶液を得た。
(iv)工程(iii)のメスフラスコに、PTFEマグネチックスターラーを加えて、メスフラスコの内容物を500rpmで2時間撹拌した。
(v)工程(iv)の抽出溶液を遠心分離管に移し、サンプルを25℃、16000×gで10分間遠心分離にかけた。
(vi)0.2μmのPTFEフィルターを用いて、上清を濾過した。
得られた濾過液をHPLC分析に用いた。この方法により、製剤から推定96%のCyPep-1が回収されたことが分かった。
【0098】
短期安定性試験
廃棄されなかった10個の上記製剤について、安定性試験を行った。製剤のサンプルを2~8℃、25℃および40℃でそれぞれ保存した。2週間後に、25℃および40℃で保存したサンプルを評価した。4週間後および11週間後に、2~8℃および25℃で保存したサンプルを評価した。
【0099】
いずれの製剤についても、あらゆる時点で、巨視的(目測で)外観にも、微視的(倍率400倍)外観にも変化は見られなかった。
各製剤中のCyPep-1の安定性は、それぞれの温度における、それぞれの時点で、どのくらいのCyPep-1を回収できたかに基づいて決定した。結果を以下の表に示す。データは、括弧内の範囲の平均値として示されている(他に指定がない限り、n=2)。
【表21】
t=0のとき、短期安定性を評価するために調製した全ての製剤からのCyPep-1回収率は、理論濃度の94.14~103.15%であることが確認された。この例外は水性ゲル剤5であり、t=0のCyPep-1回収率が理論濃度の74.26%であった。しかし、その後の各時点でのCyPep-1回収率は、理論濃度の96.68~106.26%であることから、t=0における結果は異常だった可能性がある。
【0100】
40℃でt=2週間保存した後、評価した全てのクリーム剤および軟膏について、CyPep-1回収率の低下が確認された(66.45~78.11%)。これらの結果に基づき、40℃ではCyPep-1が不安定になると考えられたため、その後の安定性評価は、2~8℃および25℃で実施した。25℃でt=2、4および11週間保存した後も、2~8℃でt=4および11週間保存した後にも、CyPep-1回収率の実質的な変化(<10%)は確認されなかった。このことは、試験した保存条件下で11週間まで、これらの製剤中のCyPep-1が安定していたことを示している。この例外は軟膏3であり、25℃で保存した場合、CyPep-1回収率は、時間とともに低下傾向を示した。
【0101】
上記結果の組み合わせと各製剤の審美性とに基づいて、さらなる研究のために以下の製剤が選択された。
・クリーム剤05
・クリーム剤09
・クリーム剤10
・水性ゲル剤4
・水性ゲル剤5
【0102】
なお、以下の製剤は廃棄された。
・クリーム剤04:この製剤は、安定性が比較的低く、審美的にも劣っている(オフホワイト色で脂っぽい)ことが分かった。
・クリーム剤06:この製剤は、安定性が比較的低かった。
・クリーム剤07:この製剤は、安定性が比較的低かった。
・クリーム剤08:この製剤は、選択された上記製剤と同等の安定性を示したが、酸化防止剤を含有していない。酸化は、CyPep-1酸化の潜在的な経路であることが判明したため(データは示さず)、この製剤は廃棄された。
・軟膏3:この製剤は、安定性が比較的低く、審美的にも劣っている(オフホワイト色で脂っぽい)ことが分かった。
【0103】
実施例4-インビトロ薬物放出試験
CyPep-1は、ガラスおよびプラスチックに対して最小限の非特異的結合しか示さないことが判明した。よって、非特異的結合を防止するために、レセプター溶液に界面活性剤を含む必要がなかった。そこで、調査のためのレセプター溶液として、脱イオン水が選ばれた。
次に、製剤の逆拡散について、5つの合成膜を評価した。試験した膜はスーポア(Supor)、ニトロセルロース、アイソポア、セルロースおよびナイロンであった。セルロース膜だけが、レセプター溶液として脱イオン水を用いた製剤の適用後に逆拡散を起こした。これは、適用された製剤の組成を変化させた可能性がある。試験した他の膜では逆拡散は認められなかった。
【0104】
CyPep-1の結合について、同じ膜を評価した。膜とともにインキュベーションした後のCyPep-1回収率を以下に示す(平均回収率、n=3、膜なしのコントロールとの比較、32℃でのインキュベーション)。
【表22】
アイソポア膜は、CyPep-1回収率が最も高く、逆拡散も見られなかったので、薬物放出研究に用いる膜として選ばれた。
【0105】
インビトロ薬物放出実験-方法
この方法では、個別に較正した静置型フランツセルを使用した。各セルの平均表面積および体積は、それぞれ約2cm2および10mlであった。静置型フランツセルにアイソポア膜を取り付け、そして脱イオン水を充填した。次に、静置型フランツセルを水浴中で32℃に平衡化し、30分後に「無限用量」(300mg/cm2)の試験製剤を適用した。ブランクとして機能させるために、1つのフランツセルには、アイソポア膜を取り付けたが、製剤を適用しなかった。
各時点(0、1、2、3、4、5、6および7時間)において、サンプリングアームを介して、シリンジを用いることにより、フランツセルからレシーバー流体(脱イオン水)の1mlのアリコートを採取した。それぞれの1mlアリコートの代わりに、1mlの予め加温した脱イオン水を加えて一定量を保ち、セル内に気泡が生じないようにした。採取したアリコートを、上記方法を用いてHPLCで分析し、アイソポア膜を通って放出されたCyPep-1の累積量を算出した。実験期間中、フランツセルをパラフィルムで密封し、光から保護した。
【0106】
インビトロ薬物放出実験-結果
各製剤を用いた7時間の実験期間にわたって、アイソポア膜を通ってレセプター溶液中に放出されたCyPep-1の量を図2に示す。図2に示されているように、ゲル製剤である、水性ゲル剤4および水性ゲル剤5は、試験した製剤のうち最も高いレベルのCyPep-1を放出することが確認された。これらの製剤からは、実験期間の最初の1時間にCyPep-1の急速な放出があり、その後、追加の放出は極めて少なかった。クリーム製剤である、クリーム剤05、クリーム剤09およびクリーム剤10は、ゲル製剤に比べると、1時間の時点で、CyPep-1の放出量が当初は少なかったが、1時間から7時間の間にCyPep-1を放出し続けた。
【0107】
これらの実験により、クリーム剤09が医薬として使用するのに最も有利な特性を有することが明らかになった。上記実施例3に示されているように、CyPep-1はこのクリーム剤中で非常に安定している。また、実施例4の結果は、このクリーム剤からの高いレベルのCyPep-1の持続放出を示す。CyPep-1の持続放出が望ましいのは、疣贅に製剤を1回適用しただけで、この疣贅に対してCyPep-1が連続的に放出されることになり、クリーム剤を適用するごとに、治療効果が長時間持続するからである。その結果として、試験した水性ゲル剤のような製剤に比べて、クリーム剤の適用頻度が少なくて済むことになる。水性ゲル剤の場合、そのCyPep-1含有量を実質的に瞬時に放出するため、治療する疣贅に対して、比較的短時間の治療効果しか有さない。クリーム剤09は、試験したクリーム剤(それぞれがペプチドの持続放出を示す)のうち最も高いレベルのCyPep-1をゆっくり放出する。従って、クリーム剤09は、試験した全ての製剤の中で最も有利な特性を有し、疣贅治療において最高レベルの効力を発揮することが期待される。
【0108】
実施例5-クリーム剤09の製造
製造工程中に、2つの容器、すなわち容器Aおよび容器Bを用いた。容器Aに、フェノキシエタノールおよびトランスクトールPを加えた後、BHAを加えた。BHAが溶解するまで、容器の内容物を攪拌した。次に、容器Aに水を加え、さらにCyPep-1を加えた。透明な溶液(粒子または結晶を含まない)が得られるまで、この混合物を攪拌した。
容器Bに、流動パラフィン、白色軟パラフィン、セトステアリルアルコールおよびポリオキシル20セトステアリルエーテルを加えた。容器Bの内容物を65℃に加熱し、溶融した。容器Aの内容物も65℃に加熱した。次に、容器Aに容器Bの内容物を加えて、10000rpmで数分間均質化した。均質化プロセスの間に、ジメチコンを加えた。その後、連続的に攪拌しながら、製剤を室温まで冷却した。
【0109】
実施例6-クリーム剤09による疣贅治療
クリーム剤09に関して、CyPep-1の皮膚疣贅への効果を調べる臨床試験を実施した。患者を2つのグループに分け、一方のグループにはクリーム剤09を与え、他方のグループにはプラセボを与えた(プラセボ09、CyPep-1の代わりに水を用いた以外はクリーム剤09と同等)。
クリーム剤は、各患者に対して、28日間、1日1回、治療する疣贅に直接、局所的に投与された。クリーム剤の塗布後、クリーム剤で覆われた疣贅を、透明フィルムで8~12時間覆うことで、疣贅からクリーム剤が失われないようにした。毎週、患者の追跡調査を行った。
図1
図2
【配列表】
0007440126000001.app