(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】抗ウイルス性合金及び抗ウイルス性部材
(51)【国際特許分類】
C22C 9/02 20060101AFI20240220BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240220BHJP
A01N 59/20 20060101ALI20240220BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C22C9/02
A01P1/00
A01N59/20 Z
A01N59/16 Z
(21)【出願番号】P 2023150680
(22)【出願日】2023-09-19
【審査請求日】2023-09-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592258133
【氏名又は名称】相田化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】和気 康弘
(72)【発明者】
【氏名】野上 秀之
(72)【発明者】
【氏名】松前 裕稀
【審査官】浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-008341(JP,A)
【文献】特許第6774690(JP,B1)
【文献】特開2021-175819(JP,A)
【文献】特開2006-342418(JP,A)
【文献】特開平03-219033(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2022-0013102(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/02
C22F 1/08
A01P 1/00
A01N 59/20
A01N 59/16
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅(Cu)、錫(Sn)、金(Au)
からなる抗ウイルス性合金であって、
前記銅の含有率が60重量%から
79重量%であり、
前記錫の含有率が20重量%から
39重量%であり、
前記金の含有率が0.01重量%から2.0重量%である、
ことを特徴とする抗ウイルス性合金。
【請求項2】
前記銅の含有率が68.0重量%から69.9重量%であり、
前記錫の含有率が30重量%であり、
前記金の含有率が0.1重量%から2.0重量%である、
ことを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性合金。
【請求項3】
請求項1に記載の抗ウイルス性合金を含む、
ことを特徴とする
抗ウイルス性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性合金及びこの抗ウイルス性合金を用いた抗ウイルス性部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合金は、優れた加工特性を有するため、装飾品や金属材料に使用され、様々な分野で使用されている。
抗ウイルス性を有する合金やその合金を含む抗ウイルス性素材や抗ウイルス性部材が開示されている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。中でも、銀が含有された合金は、高い抗菌性や抗ウイルス性を有するため、医療現場で使用される金属材料や衛生用品に使用されている。
【0003】
特許文献1に記載の抗ウイルス性素材は、基材と、基材に形成された金属の薄膜と、を有し、金属の薄膜は、純銅、または銅と亜鉛を含む合金を用いた金属成膜手段によって形成されている。この抗ウイルス性素材は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して高い不活化効果を有し、新型コロナウイルス対策のための様々な製品に適用可能であることが示されている。
一方、特許文献2に記載の抗ウイルス性部材は、抗ウイルス性を有する合金から成り、2.5重量%から10.0重量%の錫と、0.01重量%から1.0重量%の金と、が含まれ、残部が銀で構成されている。この抗ウイルス性部材は、純銀よりも高い抗ウイルス性を示すことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2023-008341号公報
【文献】特許第6774690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抗ウイルス性合金は、全てのウイルスに対し、効果を発揮するものはほとんどなく、特定のウイルスには効果が低いものもある。ノンエンベロープウイルスは、一般的なアルコールで除菌されづらいことが知られている。抗ウイルス性合金の中で、例えば、特許文献2に記載の銀をベースとした抗ウイルス性合金を含む抗ウイルス性部材は、エンベロープを有しないウイルス(以下、「ノンエンベロープウイルス」と記す)に対し、所望の効果が得られないことがある。
【0006】
病院や高齢者施設、子どもが利用する施設などでは、人の肌が触れる場所や物に対し、ノンエンベロープウイルスへの高い除菌効果が求められている。一般的にアルコールが効きにくいとされるノンエンベロープウイルスは、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系の除菌剤が有効とされている。しかし、塩素濃度によっては危険が伴い、取り扱いに注意が必要となるため、病人や高齢者、子どもが利用する施設では、塩素系除菌剤を利用せず、ノンエンベロープウイルスを除菌できるものが望まれる。
【0007】
そこで、本発明は、ノンエンベロープウイルスに対し、十分な効果が発揮される抗ウイルス性合金及びこの抗ウイルス性合金を含む抗ウイルス性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る抗ウイルス性合金は、銅(Cu)、錫(Sn)、金(Au)を含み、銅の含有率が60重量%から80重量%、錫の含有率が20重量%から40重量%、金の含有率が0.01重量%から2重量%であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る抗ウイルス性合金は、銅、錫、金のみから構成されることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る抗ウイルス性合金は、銅の含有率が68.0重量%から69.9重量%であり、錫の含有率が30重量%であり、金の含有率が0.1重量%から2.0重量%であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る抗ウイルス性部材は、上記の抗ウイルス性合金を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗ウイルス性合金は、銅の含有率が60重量%から80重量%、錫の含有率が20重量%から40重量%、金の含有率が0.01重量%から2.0重量%である。この抗ウイルス性合金は、ノンエンベロープウイルスに対する抗ウイルス性が高く、ノンエンベロープウイルスに対し、短時間で十分な効果が発揮できる。
【0013】
また、本発明の抗ウイルス性部材は、上記合金を用いて構成され、例えば、病院や高齢者施設に備えつけられる部材に利用できる。この抗ウイルス性部材を使用することで、病院内や施設内において、患者や利用者のより高い安全性を確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係る抗ウイルス性合金及びこの抗ウイルス性合金を含む抗ウイルス性部材について説明する。
【0015】
本実施形態に係る抗ウイルス性合金は、ノンエンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する。そして、この抗ウイルス性合金は、銅(Cu)、錫(Sn)、金(Au)を含み、銅の含有率が60重量%から80重量%、錫の含有率が20重量%から40重量%、金の含有率が0.01重量%から2重量%である。この抗ウイルス性合金は、銅、錫、金の2種類の金属のみで構成されていることが好ましい。また、銅の含有率が68.0重量%から69.9重量%、錫の含有率が30重量%、金の含有率が0.1重量%から2.0重量%であることがより好ましい。
【0016】
本実施形態に係る抗ウイルス性部材は、上記の抗ウイルス性合金を含んで構成される。具体的には、抗ウイルス性合金を部材の表面にコーティングしたり、抗ウイルス性合金の粉末を樹脂と混合したりすることで、抗ウイルス性部材が作製される。
抗ウイルス性部材は、例えば、病院などの医療施設や高齢者施設で、人の肌に接触する部材や物に使用される。例えば、階段の手すり、部屋の壁、机、椅子に使用される。本実施形態に係る抗ウイルス性部材は、上記の施設及び部材以外でも、使用することができ、特に、ノンエンベロープウイルスに対し高い不活性化効果が求められる部材等に使用される。
なお、ノンエンベロープウイルスは、アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ポリオウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトパルボウイルス、脳心筋炎ウイルス、ポリオーマウイルス、BKウイルス、ライノウイルスなどが挙げられる。
【実施例】
【0017】
本実施形態では、表1に示した含有率で各合金を作製し、各合金のノンエンベロープウイルスに対する抗ウイルス性能を調べた。
【0018】
本実施形態では、表1に示した組成(割合)で合金(実施例1から実施例6及び比較例1から比較例16)を作製し、これらの合金に対する抗ウイルス性を調べた。
【0019】
実施例1から実施例6の合金の組成は、以下の通りである。
[実施例1]:銅(60重量%)、錫(39重量%)、金(1.0重量%)
[実施例2]:銅(68重量%)、錫(30重量%)、金(2.0重量%)
[実施例3]:銅(69重量%)、錫(30重量%)、金(1.0重量%)
[実施例4]:銅(69.9重量%)、錫(30重量%)、金(0.1重量%)
[実施例5]:銅(69.99重量%)、錫(30重量%)、金(0.01重量%)
[実施例6]:銅(79重量%)、錫(20重量%)、金(1.0重量%)
【0020】
比較例1から比較例16の合金の組成は、以下の通りである。
[比較例1]:銅(40重量%)、錫(50重量%)、金(10重量%)
[比較例2]:銅(69.995重量%)、錫(30重量%)、金(0.005重量%)
[比較例3]:銅(70重量%)、錫(30重量%)
[比較例4]:銅(75重量%)、錫(15重量%)、金(10重量%)
[比較例5]:銅(84重量%)、錫(15重量%)、金(1.0重量%)
[比較例6]:銅(89重量%)、錫(10重量%)、金(1.0重量%)
[比較例7]:銅(99重量%)、金(1.0重量%)
[比較例8]:銅(100重量%)
[比較例9]:錫(100重量%)
[比較例10]:金(100重量%)
[比較例11]:銅(69重量%)、錫(30重量%)、銀(1.0重量%)
[比較例12]:銅(69重量%)、錫(30重量%)、ニッケル(1.0重量%)
[比較例13]:銅(69重量%)、錫(30重量%)、亜鉛(1.0重量%)
[比較例14]:銅(5.0重量%)、銀(95重量%)
[比較例15]:銅(7.5重量%)、銀(92.5重量%)
[比較例16]:錫(3.95重量%)、金(0.1重量%)、銀(95.95重量%)
【0021】
各合金に対する抗ウイルス性は、JIS R 1756:2020及びISО 21702を参照し、バクテリオファージを用いた抗ウイルス性能評価試験を行った。
具体的には、各合金(サイズ:50mm×50mm×厚さ1mm)をバクテリオファージQβ(NBRC20012)[宿主大腸菌(NBRC106373)]の希釈液(1/500NB)に、25℃の環境下で、5分間浸漬させた。なお、密着フィルムには、ポリプロピレンフィルム(VF-10、KOKUYO、40mm×40mm)を使用した。
浸漬後、各合金試験体のバクテリオファージQβ(宿主大腸菌)に対する不活性化率を以下の式から算出した。
V=A0-A1
不活性化率=100-{(10-V)×100}
V:抗ウイルス活性値
A0:0.1ml接種ファージの単位面積あたりの感染価の対数値
A1:試験片の反応後の単位面積あたりの感染価の対数値
【0022】
評価基準は以下の通りとした。
◎:不活性化率99.9%以上
〇:不活性化率99%以上99.9%未満
×:不活性化率99%未満
【0023】
【0024】
抗ウイルス性能評価試験の結果から、銅、錫、金を含み、銅の含有率が60重量%から80重量%、錫の含有率が20重量%から40重量%、金の含有率が0.01重量%から2重量%である合金(実施例1から実施例6)が、バクテリオファージQB(宿主大腸菌)に対し、高い不活性化率を示すことが分かった。実施例2から実施例4の合金は、不活性化率99.9%以上を示し、特に不活性化率が高いことが分かった。
【0025】
本実施形態に係る抗ウイルス性合金の作用効果について、説明する。
【0026】
本実施形態に係る抗ウイルス性合金は、銅に、錫及び金を所定量加えることで、短時間で、ノンエンベロープウイルスに対し、抗ウイルス性の効果が発揮される。そのため、この抗ウイルス性合金を、免疫が低下している病人、高齢者、子どもが利用する部材に応用することで、病人等への感染や感染後の重症化を防ぐことができる。
【0027】
本実施形態に係る抗ウイルス性合金は、安全性の高い銅、錫、金の3種類の金属のみから構成されている。この抗ウイルス性合金は、新規な合金であり、汎用性が高い。
【0028】
本実施形態に係る抗ウイルス性合金は、加工特性にも優れている。そのため、この抗ウイルス性合金を含む抗ウイルス性部材として、以下の様々な分野で適用できる。
医療分野では、例えば、吐しゃ物・排泄物処理用シート材、ドアハンドル、医療用メス、医療用ピンセット、医療用バット、回診車、食品分野では、例えば、トング、食器、厨房機器、日用品分野では、例えば、つめきり、毛抜き、耳かき、住宅関連分野では、例えば、三角コーナー、排水口、洗面台、シンク、家電分野では、例えば、空気清浄機フィルター、エアコンフィルター、掃除機、機械設備関連分野では、例えば、不特定多数の人が触れるエスカレーターや階段の手すり、人が指で触れるディスプレイ・パネル、操作ボタン、ボルト、ねじ、自動車関連分野では、例えば、車のハンドルやシフトレバー、ドアの内装材、カーナビのタッチ・ディスプレイ画面、及び畜産関連分野では防鳥ネット、床、壁に応用することができる。
【0029】
本実施形態に係る抗ウイルス性合金は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法の薄膜形成用ターゲット材として使用し、材料の表面に被膜することができる。材料表面に合金薄膜を形成することで、材料に抗ウイルス性を付与することができる。
また、本実施形態に係る抗ウイルス性合金を粉末化して樹脂や塗料等の種々素材に添加して抗ウイルス性を付与することができる。
【0030】
以上、本実施形態について説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【要約】
【課題】ノンエンベロープウイルスに対し、十分な効果が発揮される抗ウイルス性合金及び抗ウイルス性部材を提供する。
【解決手段】抗ウイルス性合金は、銅(Cu)、錫(Sn)、金(Au)を含み、銅の含有率が60重量%から80重量%であり、錫の含有率が20重量%から40重量%であり、金の含有率が0.01重量%から2重量%である。また、抗ウイルス性部材は、上記の抗ウイルス性合金を含んで構成されている。これら抗ウイルス性合金及び抗ウイルス性部材は、ノンエンベロープウイルスに対し、短時間で効果が発揮される。
【選択図】なし