(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】微細繊維集合体の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
D04H 1/728 20120101AFI20240220BHJP
【FI】
D04H1/728
(21)【出願番号】P 2023516359
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2022013371
(87)【国際公開番号】W WO2022224676
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2021071514
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591244199
【氏名又は名称】廣瀬製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】江 厚志
(72)【発明者】
【氏名】中越 巧
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 雅男
(72)【発明者】
【氏名】水野 祥樹
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特許第3918179(JP,B1)
【文献】中国実用新案第207904414(CN,U)
【文献】特表2011-518259(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112275045(CN,A)
【文献】岸本祐揮(廣瀬製紙株式会社),エレクトロバブルスピニング法によるナノファイバーの量産技術開発~エアフィルターからIPS細胞培養基材まで~,機能紙研究会誌,日本,特定非営利活動法人 機能紙研究会,2020年,No.58,pp25-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
D01D 1/00-13/02
D01F 1/00- 6/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸発生部に収容された高分子溶液に、泡発生手段によって連続的に泡を発生させ、前記泡に電圧印加手段によって電圧を印加することで、前記泡の表面から微細繊維を生成させ、前記高分子溶液の表面全体から生成が起こった前記微細繊維を基材に堆積させることで微細繊維集合体を紡糸する、静電紡糸法による微細繊維集合体の製造方法において、
前記泡に連続的に風を供給
し、前記風は、前記高分子溶液の泡発生面に対して略平行に、互いに対向する向きから供給されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記風は、前記泡が連続的に振動する状態を維持し得る風であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記紡糸発生部がパイプ形状であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記高分子溶液を前記紡糸発生部内で循環させることを特徴とする請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも前記高分子溶液に発生
させた泡と前記基材との間の空間を含む
微細繊維集合体の紡糸を行う空間を外気と遮断し、前記
微細繊維集合体の紡糸を行う空間内の温度を34℃~37℃の範囲内に制御し、絶対湿度を6g/m
3以下に制御することを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記
微細繊維集合体の紡糸を行う空間を複数設け、前記基材を前記複数の空間に連続的に通過させることを特徴とする請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記
微細繊維集合体の紡糸を行う空間の上部に温度及び絶対湿度の調節用の吸気部を設け、前記空間の下部に温度及び絶対湿度の調節用の排気部を設けることを特徴とする請求項
5又は
6に記載の方法。
【請求項8】
前記高分子溶液のポリマーがポリフッ化ビニリデン(PVDF)であり、溶媒がジメチルアセトアミド(DMAc)であることを特徴とする請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記基材が、不織布又は織布であることを特徴とする請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記基材が、エレクトレット化した不織布又は織布であることを特徴とする請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
静電紡糸法による微細繊維集合体の製造装置であって、
1以上の紡糸ユニットと、
微細繊維を堆積させる基材と、
を備え、
前記紡糸ユニットは、
高分子溶液を収容する1以上の紡糸発生部と、
前記高分子溶液に連続的に泡を発生させる泡発生手段と、
前記泡に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記泡に連続的に風を供給する風供給手段と、
を備え、
前記泡の表面から発生した微細繊維が前記基材に堆積するように構成されて
おり、
前記紡糸ユニットは、前記風供給手段を複数備え、前記高分子溶液の泡発生面に対して略平行に、互いに対向する向きから風を供給するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項12】
前記風供給手段は、前記泡が連続的に振動する状態を維持し得る風を供給することを特徴とする請求項
11に記載の装置。
【請求項13】
前記紡糸発生部がパイプ形状であることを特徴とする請求項
11又は12に記載の装置。
【請求項14】
前記高分子溶液が前記紡糸発生部内で循環するように構成されていることを特徴とする請求項
13に記載の装置。
【請求項15】
温度・湿度制御手段をさらに備え、
前記紡糸ユニットは、
少なくとも前記高分子溶液に発生
させた泡と前記基材との間の空間を含む
微細繊維集合体の紡糸を行う空間を外気と遮断する遮断部材をさらに備え、
前記温度・湿度制御手段は、前記
微細繊維集合体の紡糸を行う空間内の温度及び絶対湿度を制御するように構成されていることを特徴とする請求項
11~
14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記紡糸ユニットを複数備え、
前記基材が前記複数の紡糸ユニットを連続的に通過するように構成されていることを特徴とする請求項
15に記載の装置。
【請求項17】
前記遮断部材の上部に温度及び絶対湿度の調節用の吸気部を備え、
前記遮断部材の下部に温度及び絶対湿度の調節用の排気部を備えることを特徴とする請求項
15又は
16に記載の装置。
【請求項18】
前記基材が、不織布又は織布であることを特徴とする請求項
11~
17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記基材が、エレクトレット化した不織布又は織布であることを特徴とする請求項
18に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細繊維集合体の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願の出願人は、電池用セパレータや各種フィルターのような、微細孔を必用とする繊維集合体を製造する方法に関し、生産性に優れ、メンテナンスの容易な静電紡糸法による繊維集合体の製造方法について特許出願している(特許文献1)。特許文献1には、高分子溶液に連続的に発生した泡に電圧を印加することにより静電紡糸を行うことを特徴とする微細繊維集合体の製造方法が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の方法は、高分子溶液表面に発生した泡において、繊維を形成する鎖状高分子が極薄膜化して物理的・化学的分子間力が減少し、そして静電気の場で繊維に分散しようとする性質を利用することにより、泡表面から微細繊維を発生させることを特徴としているため、従来のノズルを使用する静電紡糸法と異なり、ノズル閉塞のため紡糸装置を停止させる必要がない。
【0004】
また、特許文献1に記載の方法では、微細繊維が発生する部位は泡表面であることから、高分子溶液全体に泡の発生があるため、高分子溶液全体から微細繊維が紡糸されることとなり、従来のノズルを使用する静電紡糸法や回転ロールを使用する静電紡糸法と比較して格段に生産性が良好である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、特許文献1に記載の方法においては、高分子溶液に発生させた泡表面からの微細繊維の生成、及び、生成した微細繊維の紡糸をより安定して行うことに関し、更なる改良の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、高分子溶液に連続的に発生した泡に電圧を印加することにより静電紡糸を行う微細繊維集合体の製造方法において、微細繊維集合体の紡糸安定性を向上させることを課題とする。また、本発明は、そのような微細繊維集合体の紡糸安定性の向上を可能とする、微細繊維集合体の製造装置を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。
【0009】
[1] 高分子溶液に連続的に発生した泡に電圧を印加することにより静電紡糸を行い基材上に微細繊維を堆積させる微細繊維集合体の製造方法において、前記泡に連続的に風を供給することを特徴とする方法。
[2] 前記風は、前記泡が連続的に振動する状態を維持し得る風であることを特徴とする[1]に記載の方法。
[3] 前記高分子溶液の泡発生面に対して略平行に、互いに対向する向きから風を供給することを特徴とする[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 高分子溶液を収容したパイプ形状の紡糸発生部から静電紡糸を行うことを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記高分子溶液を前記紡糸発生部内で循環させることを特徴とする[4]に記載の方法。
[6] 少なくとも前記高分子溶液に発生した泡と前記基材との間の空間を含む静電紡糸を行う空間を外気と遮断し、前記静電紡糸を行う空間内の温度を34℃~37℃の範囲内に制御し、絶対湿度を6g/m3以下に制御することを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記静電紡糸を行う空間を複数設け、前記基材を前記複数の空間に連続的に通過させることを特徴とする[6]に記載の方法。
[8] 前記静電紡糸を行う空間の上部に温度及び絶対湿度の調節用の吸気部を設け、前記空間の下部に温度及び絶対湿度の調節用の排気部を設けることを特徴とする[6]又は[7]に記載の方法。
[9] 前記高分子溶液のポリマーがポリフッ化ビニリデン(PVDF)であり、溶媒がジメチルアセトアミド(DMAc)であることを特徴とする[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10] 前記基材が、不織布又は織布であることを特徴とする[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11] 前記基材が、エレクトレット化した不織布又は織布であることを特徴とする[10]に記載の方法。
[12] 静電紡糸法による微細繊維集合体の製造装置であって、1以上の紡糸ユニットと、微細繊維を堆積させる基材と、を備え、前記紡糸ユニットは、高分子溶液を収容する1以上の紡糸発生部と、前記高分子溶液に連続的に泡を発生させる泡発生手段と、前記泡に電圧を印加する電圧印加手段と、前記泡に連続的に風を供給する風供給手段と、を備え、前記泡の表面から発生した微細繊維が前記基材に堆積するように構成されていることを特徴とする装置。
[13] 前記風供給手段は、前記泡が連続的に振動する状態を維持し得る風を供給することを特徴とする[12]に記載の装置。
[14] 前記紡糸ユニットは、前記風供給手段を複数備え、前記高分子溶液の泡発生面に対して略平行に、互いに対向する向きから風を供給するように構成されていることを特徴とする[12]又は[13]に記載の装置。
[15] 前記紡糸発生部がパイプ形状であることを特徴とする[12]~[14]のいずれかに記載の装置。
[16] 前記高分子溶液が前記紡糸発生部内で循環するように構成されていることを特徴とする[15]に記載の装置。
[17] 温度・湿度制御手段をさらに備え、前記紡糸ユニットは、少なくとも前記高分子溶液に発生した泡と前記基材との間の空間を含む静電紡糸を行う空間を外気と遮断する遮断部材をさらに備え、前記温度・湿度制御手段は、前記静電紡糸を行う空間内の温度及び絶対湿度を制御するように構成されていることを特徴とする[12]~[16]のいずれかに記載の装置。
[18] 前記紡糸ユニットを複数備え、前記基材が前記複数の紡糸ユニットを連続的に通過するように構成されていることを特徴とする[17]に記載の装置。
[19] 前記遮断部材の上部に温度及び絶対湿度の調節用の吸気部を備え、前記遮断部材の下部に温度及び絶対湿度の調節用の排気部を備えることを特徴とする[17]又は[18]に記載の装置。
[20] 前記基材が、不織布又は織布であることを特徴とする[12]~[19]のいずれかに記載の装置。
[21] 前記基材が、エレクトレット化した不織布又は織布であることを特徴とする[20]に記載の装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の微細繊維集合体の製造方法によれば、高分子溶液に発生した泡に連続的に風を供給し、泡、及び泡の表面から発生した微細繊維に対して外力(より具体的には風力)を加えることにより、微細繊維集合体の紡糸安定性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の微細繊維集合体の製造装置によれば、高分子溶液に発生した泡に連続的に風を供給する風供給手段を備えることにより、微細繊維集合体の紡糸安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る微細繊維集合体の製造装置の構成を示す模式図。
【
図2】
図1に示す製造装置において、風供給手段の構成の別の例を示す模式図。
【
図3】(a)~(c)
図1に示す製造装置において、紡糸ユニットの紡糸発生部の構成の別の例を示す模式図。
【
図4】(a)、(b)
図1に示す製造装置において、紡糸ユニットの泡発生手段の構成の別の例を示す模式図。
【
図5】
図1に示す製造装置において、紡糸ユニットの紡糸発生部が、その長手方向に一定の長さを有するパイプ形状である態様の例を示す模式図。(a)紡糸発生部の長手方向の断面図、(b)(a)のXX断面図。
【
図6】
図5に示す態様において、紡糸ユニットの紡糸発生部に収容した高分子溶液を循環式とする構成の例を示す模式図。
【
図7】
図1に示す製造装置において、1つの紡糸ユニットに複数の紡糸発生部を設ける態様の例を示す模式図。
【
図8】
図1に示す製造装置において、静電紡糸を行う空間を外気と遮断し、当該空間の温度及び絶対湿度を制御する構成の一例を示す模式図。
【
図9】
図1に示す製造装置において、静電紡糸を行う空間を外気と遮断し、当該空間の温度及び絶対湿度を制御する構成の別の例を示す模式図。
【
図10】
図8及び
図9に示す態様において、紡糸ブースの遮断部材の上部に、温度及び絶対湿度調節用の吸気部を備え、遮断部材の下部に、温度及び絶対湿度調節用の排気部を備える構成の例を示す模式図。
【
図11】
図9に示す製造装置において、1つの紡糸ブースに複数の紡糸ユニットを含める態様の例を示す模式図。
【
図12】
図11に示す製造装置の、紡糸ブースの内部の平面図を示す模式図。
【
図13】
図11及び
図12に示す製造装置の変形例であり、紡糸ブースを複数備え、基材が複数の紡糸ブースを連続的に通過する構成の例を示す模式図。
【
図14】実施例で得られた微細繊維集合体のSEM像を示す図。(a)風を供給した場合、(b)風を供給しない場合。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施の形態を説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
【0014】
[実施の形態1]
本発明の微細繊維集合体の製造装置は、静電紡糸法による微細繊維集合体の製造装置であって、高分子溶液に連続的に発生した泡に電圧を印加することにより静電紡糸を行い、基材上に微細繊維を堆積させるものである。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る微細繊維集合体の製造装置の構成を示す模式図である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の微細繊維集合体の製造装置100(以下、単に装置100とも称する。)は、紡糸ユニット110と、微細繊維を堆積させる基材120とを備える。
【0017】
紡糸ユニット110は、高分子溶液PSを収容する紡糸発生部111と、高分子溶液PSに連続的に泡Bを発生させる泡発生手段112と、泡Bに電圧を印加する電圧印加手段113と、泡Bに連続的に風を供給する風供給手段114と、を備える。
【0018】
そして、装置100は、泡Bの表面から発生した微細繊維(図示せず。)が基材120に堆積するように構成されている。その基本的な紡糸原理は、特許文献1に記載の方法と同様である。
【0019】
具体的には、紡糸発生部111に収容された高分子溶液PSに、泡発生手段112によって連続的に泡Bを発生させ、泡Bに電圧印加手段113によって電圧が印加されることで、微細繊維が生成される。この時、微細繊維は泡Bの表面から発生するため、高分子溶液PSの表面全体から微細繊維の生成が起こり、この微細繊維が基材120に堆積することで、微細繊維集合体が紡糸される。
【0020】
泡発生手段によって高分子溶液に泡を発生させる方法としては、多孔質材料を介して圧縮空気を通過させる方法や、細管を通じて圧縮空気を通過させる方法が有効である。
図1には、前者の方法を採用した場合の構成例を示している。すなわち、装置100は、泡発生手段112として、紡糸発生部111の上部に設けられたシート状の多孔質材料112aと、紡糸発生部111の下部に設けられた、圧縮空気CAが通過可能な気体通過部112bと、圧縮空気CAを供給する気体供給手段(図示せず。)を備えている。本実施形態では、気体通過部112bから多孔質材料112aを介して高分子溶液PSに圧縮空気CAを通過させることにより、高分子溶液PSに連続的に泡Bを発生させる。
【0021】
多孔質材料112a、又は上述した後者の方法を採用した場合に使用する細管(以下、単に細管という。)は、高分子溶液PSに泡Bを発生させるに充分な気孔を有していることと、高分子溶液PSに対する耐久性が確保できる材質であることを満たし、また、圧縮空気CAの圧力に耐え得る構造を有していれば、特に限定されない。したがって、プラスチック、セラミックス、及び金属材料からなる群より選ばれる1種又は2種以上の組み合わせの材料を使用することができる。また、その形状においても、フィルム状、シート状、ブロック状等、様々な態様が使用可能である。
【0022】
多孔質材料112a又は細管に供給する圧縮空気CAの圧力は、多孔質材料112a又は細管中に存在する最大気孔径に依存する。すなわち、この最大気孔径を有する多孔質材料112a又は細管から圧縮空気CAを通過させ、泡Bを発生させるに必要な圧力以上の圧縮空気CAを供給する必要がある。この圧縮空気CAの圧力は、次式で表される圧力Pより高いことが望ましい。
P=4×γ×cosθ/D
(上記式中、γは、高分子溶液PSの表面張力であり、θは、多孔質材料112a又は細管と高分子溶液PSとの接触角であり、Dは、多孔質材料112aの最大気孔直径又は細管の最大直径である。)
【0023】
本発明の微細繊維集合体の製造装置を用いて実施可能な本発明の微細繊維集合体の製造方法は、高分子溶液表面に発生させた泡表面から静電紡糸を行うものであるが、この紡糸が効率的に行われるためには、泡の生成と崩壊を効率よく繰り返す必要がある。したがって、上記の関係式で表される圧力以上の圧縮空気を絶えず供給することが重要である。
【0024】
本発明で紡糸可能なポリマー(すなわち、高分子溶液の溶質である高分子)は、溶液化可能なものであれば、特に限定されず使用可能である。このようなポリマーの例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリアクリロニトリル、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。これらのポリマーは、単独もしくは2種以上を混合して使用することも可能である。
【0025】
上記ポリマーを溶液化させる際の溶媒(すなわち、高分子溶液の溶媒)としては、ポリマーを完全に溶解させ、静電紡糸中に高分子溶液からのポリマー成分の再沈殿が起こらない溶媒であれば、特に限定されず使用可能である。このような溶媒の例としては、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスロホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、水などが挙げられる。これらの溶媒は、単独もしくは2種以上を混合して使用することも可能である。
【0026】
中でも、高分子溶液のポリマーがポリフッ化ビニリデン(PVDF)であり、溶媒がジメチルアセトアミド(DMAc)であると、圧縮空気による泡の発生と崩壊に伴う溶媒の揮発が生じにくく、また、静電紡糸中に空気中の水分との反応が起こることが抑制され、微細繊維集合体の紡糸安定性が増すため、好ましい。
【0027】
高分子溶液のポリマー濃度としては、圧縮空気による泡の発生と崩壊が連続して維持される粘性であれば、特に限定されることはないが、0.5重量%~40重量%程度が好ましい。例えば、高分子溶液のポリマーがポリフッ化ビニリデン(PVDF)であり、溶媒がジメチルアセトアミド(DMAc)である態様では、ポリマー濃度は、1重量%~30重量%が好ましく、5重量%~20重量%がより好ましく、10重量%~15重量%がさらに好ましい。
【0028】
また、高分子溶液には、任意の添加剤が添加されていてもよい。添加剤の用途(使用目的)は特に限定されないが、例えば、泡Bの表面から発生した微細繊維がより微細な繊維へ分化するのを助ける目的で使用されるもの等が挙げられる。また、添加剤の濃度としては、微細繊維集合体の紡糸の安定性を損なわない濃度であれば、特に限定されることはなく、高分子溶液のポリマー及び溶媒の種類、ポリマーの濃度等を考慮して、適宜調節可能である。具体的には、高分子溶液のポリマーがポリフッ化ビニリデン(PVDF)である態様では、添加剤として、塩化カルシウムを用いることができる。例えば、10重量%~15重量%の濃度でポリフッ化ビニリデン(PVDF)をジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させた高分子溶液では、塩化カルシウムの濃度は、0重量%超~0.01重量%の範囲とすることができる。塩化カルシウムの濃度を0.01重量%程度とすると、微細繊維の分化が促進されやすく、基材上に形成される微細繊維集合体を構成する微細繊維は、平均繊維径が小さく、かつ、アスペクト比が大きくなる。この場合に得られる微細繊維集合体は、必要に応じて基材から分離させることも比較的容易であるので、自立膜として利用する場合や、基材以外の材料と組み合わせて使用する場合に有利である。塩化カルシウムの濃度を0.008重量%程度とすると、微細繊維の分化が促進されることで、主として細く枝分かれした形状の微細繊維で構成された微細繊維集合体が得られやすい。この場合に得られる微細繊維集合体は、基材の材質を適切に選択することで、基材との密着性が良好な材料として利用できる。塩化カルシウムの濃度を0.005重量%程度もしくはそれ以下とすると、上述した場合と比べて微細繊維の分化は生じにくいが、微細繊維集合体の繊維径分布を広くすることができるので、微細繊維集合体の用途等に応じて、そのような濃度を選択することも有効である。
【0029】
本発明の微細繊維集合体の製造装置の一実施形態に係る装置100において、静電紡糸を行う際に、電圧印加手段113によって高分子溶液PSに印加する電圧は、紡糸が連続的に行われる状態を維持し得る電圧であれば、特に限定されることはない。通常、0.5kV~100kVの範囲が好適に使用される。
【0030】
基材120としては、対向電極としての機能を果たすものであれば、特に限定されず、各種の材料が使用可能である。基材120の材質としては、例えば、樹脂、ガラス、金属、紙、布などが挙げられる。また、基材120は、不織布であってもよく、織布であってもよい。さらに、基材120として使用する不織布及び織布は、任意の方法でエレクトレット化されたものであってもよい。
【0031】
装置100において、電界紡糸を行う際の泡Bと基材120の間隔は、紡糸により生成した微細繊維集合体の構造が維持できる間隔であれば、特に限定されることなく、適宜選択可能である。この間隔が短すぎる場合は、圧縮空気CAにより発生した泡Bからの水滴が、基材120上に堆積した微細繊維集合体に付着し、繊維構造が破壊される危険性がある。また、この間隔が長すぎる場合は、高分子溶液全体から微細繊維が効率的に発生せず、微細繊維集合体を作製することが困難な場合がある。泡Bの表面から基材120までの好ましい間隔は、3cm~30cmである。また、泡Bの表面から基材120までの間隔は、微細繊維集合体の製造スケール、すなわち、紡糸発生部111の容積や基材120のサイズなどを考慮して選択することがより好ましい。例えば、比較的小さいスケール(ラボスケールなど)では、泡Bの表面から基材120までの間隔は、3cm~15cmであってよく、より大きいスケール(工場レベルでの製造、プラントスケール)では、泡Bの表面から基材120までの間隔は、14cm~30cmであってよい。
【0032】
紡糸発生部111の材質は、特に限定されないが、通常、ステンレススチールなどの耐食性に優れる金属製であることが好ましい。
【0033】
ここで、装置100では、風供給手段114によって泡Bに連続的に風が供給される。
【0034】
泡Bに風が供給されることにより、泡Bに対して風力、すなわち外力が与えられ、泡Bが振動する。また、高分子溶液PSの表面に発生した複数の泡Bが振動することで、泡B同士が衝突する頻度が高くなる。これにより、泡Bにおいて物理的・化学的分子間力が減少した状態にある鎖状高分子が静電気の場で繊維に分散しやすくなり、泡Bの表面からの微細繊維の発生が促進される。さらに、泡Bの表面から発生した微細繊維に対しても風力(外力)が作用し、より微細な繊維への分化が生じる。そのため、従来の方法と比べて微細繊維の生成と紡糸をより安定して行うことでき、かつ、従来と比べてより微細な繊維の集合体を得ることができる。
【0035】
静電紡糸法においてこのような構成を採用することは、本発明とは紡糸原理を全く異にする、従来のノズルを使用する静電紡糸法や回転ロールを使用する静電紡糸法では着想し得ないことである。また、特許文献1に記載の方法において、微細繊維が発生する部位に外力(具体的には風力)を加えることで微細繊維集合体の紡糸安定性が向上する効果が得られることは思いもよらぬ、驚くべきことであった。
【0036】
ここで、泡Bに対して外力を加える観点からは、例えば、風供給手段114の代わりに、高分子溶液PSを収容した紡糸発生部111を振動可能に構成された振動手段(図示せず。)を設けることで、高分子溶液PSの表面に発生した泡Bを振動させるようにしてもよい。このような構成は、比較的小さいスケール(ラボスケールなど)で微細繊維集合体を作製する場合に有効であり得る。
【0037】
一方、上記振動手段のように泡Bに対して間接的に外力を加える態様では、泡Bの表面から発生した微細繊維に対して外力を加えることが難しいため、製造スケールの大きさにかかわらず、上記振動手段を用いる場合には、風供給手段114と併用することがより好ましい。また、工場レベルでの製造(プラントスケール)においては、省エネルギー性やメンテナンス性の観点などから、装置構成を簡略化することが望ましく、上記振動手段を用いることは必ずしも要しない。言い換えると、風供給手段114を備える装置100によれば、上述した効果を確実に、かつ、効率的に得ることができる。
【0038】
風供給手段114としては、泡Bに連続的に風を供給することができるものであれば、特に限定されることはない。例えば、風供給手段114としては、一般的な送風機を使用することができる。送風機としては、例えば、軸流送風機(プロペラファン)、輻流送風機(シロッコファン、ターボファン)、斜流送風機(斜流ファン)、横断流送風機(クロスフローファン)などが挙げられる。
【0039】
ここで、風供給手段114から供給される風の量(風量:風供給手段が単位時間当たりに移動させる空気量)、速さ(風速:風供給手段により泡に与えられる風の速さ)、及び向き(風向:風供給手段により泡に与えられる風の向き)などは、上述した風供給手段114によってもたらされる効果に鑑みて、適宜調節することができ、特定の条件に限定されないことに留意されたい。
【0040】
例えば、風供給手段114から供給される風が弱すぎる(風速が小さすぎる)と、上述した効果が十分に得られない場合がある。一方、泡Bに対して外力を加える観点からは、風供給手段114から供給される風は強い(風速が大きい)ことが望ましいが、過剰に強すぎる(風速が大きすぎる)と、泡Bが風下に集まり、高分子溶液PSから基材120への紡糸に支障が出る虞がある。しかし、そのような場合であっても、例えば、紡糸発生部111の開口部(高分子溶液PSの表面)に対する基材120の位置を風下側に調整したり、基材120を可動式にしたりすることで対処することは可能である。
【0041】
言い換えると、風供給手段114から供給される風は、高分子溶液PSの表面に発生した泡Bが連続的に振動する状態を維持し得る風であればよい。
【0042】
[実施の形態2]
本発明の別の実施形態では、高分子溶液の泡発生面に対して略平行に、互いに対向する向きから風を供給する構成を採用することができる。
【0043】
図2は、装置100において、風供給手段114の構成の別の例を示す模式図である。なお、
図2では、
図1と同様の構成要素には同じ符号を付し、以下では詳細な説明を省略する。また、
図2では、分かりやすさのために、電圧印加部113、及び電圧印加部113と紡糸発生部111、基材120をつなぐ配線等は省略している。
図3~
図13についても同様に、
図1と同様の構成要素には同じ符号を付し、また、装置100の構成要素の一部を省略する場合がある点に留意されたい。
【0044】
図2に示す態様では、紡糸発生部111の両側に、2つの風供給手段114a、114bが配置されている。風供給手段114aからは、
図2の紙面右側から左側に向けて風が供給され、風供給手段114bからは、
図2の紙面左側から右側に向けて風が供給される。これにより、
図2に示す態様では、装置100は、風供給手段114a、114bから、高分子溶液PSの泡発生面に対して略平行に、互いに対向する向きから風を供給するように構成されている。
【0045】
ここで、装置100では、高分子溶液PSの表面全体に泡Bの発生があるため、装置100が稼働した状態では、高分子溶液PSの泡発生面は一様ではない。また、実際に風供給手段114から供給される風の向きは、完全に一方向ではなく、一定の幅を有し得る。そのため、本発明においては、装置100が停止した状態において、紡糸発生部111に収容された高分子溶液PSの表面(上面)に対する、風供給手段114から供給される風の主たる向き(例えば、軸流送風機の場合には軸の向き)を表すベクトルが、水平視において略平行であればよい。なお、略平行とは、両者が完全に平行である場合のみならず、少し傾きがあったとしても実質的に平行であると評価される場合を含む意味であり、一方に対する他方の傾きが例えば-10°~+10°の場合を含む。
【0046】
図2に示す態様によれば、
図1に示すように、1つの風供給手段114により、一定の方向から風を供給する態様と比較して、風の強さ(風速)や風量などに起因する、高分子溶液PSから基材120への紡糸に対する意図しない影響を抑制することが容易になる。例えば、風供給手段114a、114bから供給される風の強さ(風速)を同じに設定した場合には、風を供給することによる効果を損なうことなく、基材120上の意図した位置に、高分子溶液PSから微細繊維を安定して紡糸することができる。もちろん、必要に応じて、風供給手段114a、114bから供給される風の強さ(風速)を互いに異なるようにしてもよく、その場合であっても、基材120の位置を適切に調整するなどすることによって、風を供給することによる効果を損なうことなく、基材120上の意図した位置に、高分子溶液PSから微細繊維を安定して紡糸することは可能である。
【0047】
[実施の形態3]
本発明のさらに別の実施形態では、紡糸発生部の形状を変更することができる。言い換えると、装置100において、紡糸発生部111の形状は、
図1に示すような断面が矩形のもの(外観形状が円筒形状のもの、直方体形状のものなど)に限定されない。
【0048】
図3(a)~(c)は、装置100において、紡糸ユニット110の紡糸発生部111の構成の別の例を示す模式図である。
【0049】
図3(a)に示す態様では、紡糸発生部111は、断面が、下部(底部)にかけてややすぼまった形状(逆台形)である。本態様では、紡糸発生部111は、上面側から見た平面視において、外形が円形であってもよく、矩形であってもよく、多角形であってもよい。
【0050】
図3(b)に示す態様では、紡糸発生部111は、断面が、略半円形状である。本態様では、紡糸発生部111は、上面側から見た平面視において、外形が円形であってもよく、楕円形であってもよい。
【0051】
図3(c)に示す態様では、紡糸発生部111は、断面が、
図3(b)に示す態様の略半円形状よりも開口部が狭い、略円形である。本態様では、紡糸発生部111は、上面側から見た平面視において、外形が円形であってもよく、楕円形であってもよい。
【0052】
ここで、上述したように、装置100では、泡発生手段によって高分子溶液に泡を発生させる方法として、細管を通じて圧縮空気を通過させる方法を採用することも可能である。
図4(a)及び
図4(b)は、装置100において、紡糸ユニット110の泡発生手段112の構成の別の例を示す模式図である。
【0053】
図4(a)に示す態様では、泡発生手段112は、
図1に示したシート状の多孔質材料112aに代えて、気体通過部112bを介して紡糸発生部111に収容された高分子溶液PS内に挿入された細管112cを備えている。すなわち、
図4(a)に示す態様では、気体通過部112bは、紡糸発生部111の内部に細管112cを導入するための導入部としての役割を果たし、気体供給手段(図示せず。)から供給される圧縮空気CAが、気体通過部112bを介して高分子溶液PS内に挿入された細管112cを通じて通過することで、高分子溶液PSに泡Bを発生させる。
図4(b)に示す態様は、紡糸発生部111の形状が、
図3(c)に示す態様であることを除いて、
図4(a)に示す態様と同様である。
【0054】
図4(a)及び
図4(b)に示す態様において、細管112cは、多孔質素材で形成された中空の筒状体であり、その一端から圧縮空気CAが通過可能とされており、他端(圧縮空気CAの流れの下流側の端部)は閉じている。当該他端は開いていてもよいが、閉じていると、細管112cに圧縮空気CAが供給されたときに、高分子溶液PS内に挿入された部分のより広い範囲から、高分子溶液PSに対して圧縮空気CAが供給され、泡Bが発生しやすくなるため、好ましい。
【0055】
ここで、
図4(a)及び
図4(b)に示したように、装置100が、泡発生手段112として細管112cを備える態様では、
図1に示すようなシート状の多孔質材料112aと比べて、より効率的に高分子溶液PSに連続的に泡Bを発生させることが可能であり得る。加えて、紡糸発生部111の形状が、
図4(b)に示すような断面略円形である態様の場合、
図4(a)に示すような断面矩形である態様と比べて、発生した泡Bが、紡糸発生部111の上部の開口部に集まりやすく、高分子溶液PSの表面により多くの泡Bが集中する結果、泡Bの表面での微細繊維の発生も起こりやすくなる。また、
図4(b)に示す態様では、
図4(a)に示す態様と比べて、紡糸発生部111の開口部が狭く、高分子溶液PSの表面から発生する泡Bの範囲が狭い。そのため、
図4(b)に示す態様では、風供給手段114から供給される風を、泡Bに対してより効率よく当てることができる。これにより、微細繊維集合体の紡糸をより安定させることができる。すなわち、装置100では、紡糸発生部111の形状と泡発生手段112の構成を適宜変更して組み合わせることにより、基材120上への微細繊維の堆積様式を所望のものとすることができる。
【0056】
ここで、例示的な一局面として、工場レベルでの製造(プラントスケール)に好適な態様について説明する。本態様では、基材は一定の厚みを有するシート状であり、任意の供給手段によって紡糸発生部の上部に連続的に供給され、基材の所定の範囲に微細繊維集合体を連続的に紡糸する場合を想定する。このような場合、紡糸発生部は、その長手方向(言い換えると、基材の幅方向(基材の供給方向に直行する向き))に、一定の長さを有する構成であることが望ましい。すなわち、本態様では、紡糸発生部が、その長手方向に一定の長さを有するパイプ形状であり、高分子溶液を収容したパイプ形状の紡糸発生部から静電紡糸を行うことが好ましい。
【0057】
図5(a)及び
図5(b)は、装置100において、紡糸ユニット110の紡糸発生部111の構成が上記態様である場合の例を示す模式図である。
図5(a)は、紡糸発生部111の長手方向の断面図であり、
図5(b)は、
図5(a)のXX断面図である。
【0058】
図5(a)及び
図5(b)に示す態様では、紡糸発生部111の長手方向の断面は矩形である。すなわち、紡糸発生部111は、断面が略円形(
図3(c)に示す態様と同様)であり、かつ、長手方向の断面は矩形であり、外観形状としてパイプ形状を有する。また、紡糸発生部111は、その上部において長手方向に延びる開口部を有し、当該開口部において、高分子溶液PSの表面に発生した泡Bが露出されるように構成されている。なお、紡糸発生部111の開口部は、単なる空間であってもよいが、任意の補助部材を設けることで隙間(例えば、スリット状の隙間)111sを備えるようにしてもよい。
図5(a)及び
図5(b)に示す態様は、後者の場合の一例であり、このようなスリット状の隙間111sを備えることで、発生した泡Bが意図せずに分散することが抑制され、基材120上への微細繊維の紡糸がより安定する。
【0059】
また、本態様では、
図5(a)に示すように、泡発生手段112は、2つの細管112cを備え、それぞれの細管112cは、紡糸発生部111の長手方向の両端に設けられた気体通過部112bを介して、紡糸発生部111に収容された高分子溶液PS内に挿入されている。そして、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、2つの細管112cは、紡糸発生部111の長手方向の中央部付近において、互いにすれ違うように配置されている。なお、
図5(b)では、2つの細管112cが、左右方向にずれた配置である例を示しているが、紡糸発生部111の内径及び細管112cの外径などを考慮して、左右方向のずれがない配置としてもよい。
【0060】
ここで、上述したように、本態様では、シート状の基材の所定の範囲に微細繊維集合体を連続的に紡糸する場合を想定しているため、紡糸発生部111において、微細繊維の紡糸に十分な量の高分子溶液PSを維持することが望ましい。そのための構成の一例を
図6に示す。
【0061】
図6は、
図5に示す態様において、紡糸ユニット110の紡糸発生部111に収容した高分子溶液PSを循環式とする構成の例を示す模式図である。なお、
図6では、紡糸発生部111及び後述する回収手段115は、その長手方向から見た側面視で示している。
【0062】
図6に示す態様では、装置100は、紡糸発生部111の開口部において、高分子溶液PSの表面での泡Bの発生と崩壊の繰り返しに伴って、高分子溶液PSの一部が紡糸発生部111の外側に出ることを許容する構成とされている。すなわち、
図6に示す態様では、高分子溶液PSは、紡糸発生部111の開口部に任意的に設けられた補助部材の間(スリット状の隙間111s)から、紡糸発生部111の外側に出て、オーバーフローすることが可能とされている。
図6では、この様子を、矢印と符号PS-OFで示している。
【0063】
オーバーフローした高分子溶液PSは、紡糸発生部111の下側に設けられた回収手段115によって回収される。そして、回収された高分子溶液PSは、回収手段115の底部に設けられた回収部115aを通じて、回収手段115と連結されたタンク116に集められるように構成されている。
図6では、この様子を、矢印と符号PS-REで示している。ここで、回収手段115としては、例えば、一定の深さを有する部材(いわゆる樋もしくは受け皿)が挙げられるが、これに限定されない。また、
図6では、回収手段115が2つの回収部115aを有する態様を示しているが、回収部115aの数はこれに限定されず、任意の数とすることができる。
【0064】
タンク116は、紡糸発生部111の底部に設けられた高分子溶液供給部111aと連結されており、集められた高分子溶液PSは、タンク116から紡糸発生部111へ供給可能とされている。
図6では、この様子を、矢印と符号PS-INで示している。なお、タンク116には、回収手段115によって回収された高分子溶液PSだけでなく、装置100の始動時に必要とされる量の高分子溶液PS、あるいは、さらに予備の分量を含めた量の高分子溶液PSが収容されていてもよい。なお、
図6では、紡糸発生部111が3つの高分子溶液供給部111aを有する態様を示しているが、高分子溶液供給部111aの数はこれに限定されず、任意の数とすることができる。
【0065】
このような構成を有する装置100によれば、高分子溶液PSが、紡糸発生部111内で循環を繰り返すことにより、紡糸発生部111に収容した高分子溶液PSの濃度の偏りやよどみを抑制もしくは低減することができるので、微細繊維集合体の紡糸の安定性が向上する。また、本態様では、回収手段115によって回収された高分子溶液PSを再利用し、紡糸発生部111に高分子溶液PSを連続的もしくは間欠的に供給することが可能な構成であるので、高分子溶液PSのロスを低減することができ、ひいては、微細繊維集合体の製造コストを抑えることができる。そのため、特にプラントスケールでの製造において好適である。
【0066】
さらに、紡糸発生部がパイプ形状である態様では、1つの紡糸ユニット当たりの紡糸発生部の数は1つに限定されず、2つ以上とした構成とすることも容易である。
図7は、装置100において、1つの紡糸ユニット110に複数の紡糸発生部111を設ける態様の例を示す模式図である。なお、
図7では、紡糸発生部111は、その開口部(上部)側から見た平面視で示し、任意的に設けられる補助部材、及び
図6を参照して説明した回収手段115等は省略している。
【0067】
図7に示す態様では、紡糸ユニット110は、3つの紡糸発生部111を有し、各々の紡糸発生部111は、外観形状がパイプ形状である。また、
図7に示す態様では、紡糸発生部111の長手方向の両端に、風供給手段114a、114bが配置されている。本態様においても、
図2を参照して説明したように、風供給手段114a、114bから、紡糸発生部111の開口部、すなわち、高分子溶液PSの泡発生面に対して略平行に、互いに対向する向きから風を供給するように構成されている。言い換えると、1つの紡糸ユニット110に複数の紡糸発生部111を設ける態様では、各々の紡糸発生部111に対して風供給手段114を設けることは必ずしも要せず、高分子溶液PSの泡発生面に対して略平行に、互いに対向する向きから風を供給する構成とすることは可能である。具体的には、例えば、風供給手段14が軸流送風機である場合、プロペラ(羽根)の大きさと紡糸発生部111のサイズ(パイプ形状の短手方向の長さ(径))を適宜調節すればよい。
【0068】
[実施の形態4]
本発明のさらに別の実施形態では、静電紡糸を行う空間を外気と遮断し、当該空間の温度及び絶対湿度を制御する構成を採用することができる。
図8は、装置100において、当該構成の一例を示す模式図である。
図9は、装置100において、当該構成の別の例を示す模式図である。
【0069】
図8に示す態様において、紡糸ユニット110及び基材120は、
図1と同様の構成である。そして、本態様では、紡糸ユニット110は、遮断部材117を備え、遮断部材117は、静電紡糸を行う空間ESを外気と遮断している。ここで、静電紡糸を行う空間ESは、少なくとも、高分子溶液PSに発生した泡Bと基材120との間の空間Sを含む。なお、以下では、遮断部材117を備えた紡糸ユニット110を、紡糸ブース110Bとも称する。
【0070】
また、
図8に示す態様では、装置110は、温度・湿度制御手段130を備える。温度・湿度制御手段130は、通気管130aを介して紡糸ブース110Bの遮断部材117と連結されており、紡糸ブース110B内の(すなわち、静電紡糸を行う空間ES内の)温度及び絶対湿度を制御可能に構成されている。
【0071】
図9に示す態様では、紡糸発生部111が、
図5(a)及び
図5(b)を参照して説明したようなパイプ形状であり、泡発生手段112として2つの細管112cを備え、紡糸発生部111の長手方向の両端に、風供給手段114として風供給手段114a、114bが配置されていることを除いて、紡糸ユニット110及び基材120の構成は、
図8に示す態様と同様である。
【0072】
そして、
図9に示す態様でも、
図8に示す態様と同様に、紡糸ユニット110は、遮断部材117を備え、遮断部材117は、静電紡糸を行う空間ESを外気と遮断している。ここで、静電紡糸を行う空間ESは、少なくとも、高分子溶液PSに発生した泡Bと基材120との間の空間Sを含む。
【0073】
また、
図9に示す態様でも、
図8に示す態様と同様に、装置110は、温度・湿度制御手段130を備える。温度・湿度制御手段130は、通気管130aを介して紡糸ブース110Bの遮断部材117と連結されており、紡糸ブース110B内の(すなわち、静電紡糸を行う空間ES内の)温度及び絶対湿度を制御可能に構成されている。
【0074】
なお、
図8及び
図9に示す態様において、温度・湿度制御手段130としては特に限定されず、従来の空調機等を使用することができる。また、通気管130aとしては特に限定されず、従来のダクト等を使用することができる。
【0075】
このように、紡糸ユニット110を紡糸ブース110Bとして構成し、温度・湿度制御手段130を用いて、静電紡糸を行う空間ES内の温度及び絶対湿度を所定の範囲内に制御することにより、微細繊維集合体の紡糸安定性を高めることができる。
【0076】
温度・湿度制御手段130によって制御される、静電紡糸を行う空間ES内の温度範囲としては特に限定されることはないが、例えば、25℃~42℃の範囲内であってもよく、30℃~40℃の範囲内であってもよく、34℃~37℃の範囲内であってもよい。また、静電紡糸を行う空間ES内の絶対湿度としては特に限定されることはないが、例えば、10g/m3以下であってもよく、8g/m3以下であってもよく、6g/m3以下であってもよい。
【0077】
ここで、
図8及び
図9に示す態様では、紡糸ブース110Bの左上部において、通気管130aを介して紡糸ブース110Bの遮断部材117と温度・湿度制御手段130が連結されている状態を示しているが、当該連結の態様はこれに限定されず、装置100のサイズ、すなわち、微細繊維集合体の製造スケール等に応じて適宜設計することができる。
【0078】
例示的な一局面として、工場レベルでの製造(プラントスケール)においては、
図10に示すように、紡糸ブース110Bの遮断部材117の上部に、温度及び絶対湿度調節用の吸気部(吸気口、通風孔)117aを備え、遮断部材117の下部に、温度及び絶対湿度調節用の排気部(排気口、通風孔)117bを備えることが好ましい。プラントスケールでは、微細繊維集合体の製造に用いる高分子溶液PSの量、つまり、ポリマーを溶液化させる際に使用する溶媒の量が多いため、微細繊維集合体の紡糸中に不可避的に生じ得る溶媒の揮発による影響に留意する必要がある。例えば、高分子溶液の溶媒としてジメチルアセトアミド(DMAc)を用いる場合、DMAcの蒸気密度は3.01(空気=1)であるため、揮発した溶媒が紡糸ブース110Bの下部(底部)に滞留しやすく、これにより、微細繊維集合体の紡糸安定性に意図しない影響を及ぼしたり、紡糸ブース110B内の作業者の安全性が損なわれたりする虞がある。そこで、遮断部材117の下部に、温度及び絶対湿度調節用の排気部117bを設けることによって、このような事象に対処することが可能となる。また、遮断部材117の上部に、温度及び絶対湿度調節用の吸気部117aを設けると、高分子溶液PSに発生した泡Bと基材120との間の空間Sに対して、温度・湿度制御手段130から供給される空気が直接的に作用することを回避しやすいため、望ましい。
【0079】
[実施の形態5]
本発明のさらに別の実施形態では、複数の紡糸ユニットを一組として、静電紡糸を行う空間を外気と遮断し、当該空間の温度及び絶対湿度を制御する構成を採用することができる。言い換えると、紡糸ブース内に含まれる紡糸ブースは1つに限定されず、1つの紡糸ブースの内部に、2つ以上の紡糸ユニットが含まれていてもよい。
【0080】
図11は、
図9に示す装置100において、1つの紡糸ブース110Bに複数の紡糸ユニット110を含める態様の例を示す模式図である。
図12は、
図11に示す装置100の、紡糸ブース110Bの内部の平面図を示す模式図である。
【0081】
図11に示す態様では、装置100は、1つの紡糸ブース110B、基材120、及び温度・湿度制御手段130を備えている。基材120は、基材ロール120aから連続的に供給され、
図11の紙面左側から右側に向かって紡糸ブース110Bを通過可能とされている。
【0082】
紡糸ブース110Bは、遮断部材117を備え、遮断部材117の上部に、温度及び絶対湿度調節用の吸気部117aを備え、遮断部材117の下部に、温度及び絶対湿度調節用の排気部117bを備える。紡糸ブース110Bの吸気部117aは、通気管130aを介して温度・湿度制御手段130と連結されている。
【0083】
また、紡糸ブース110Bは、x個の紡糸ユニット110a、110b、・・・、110xを備え、各々の紡糸ユニットは、支持台118に固定された2つの紡糸発生部111を備える。なお、
図11に示す態様では、紡糸発生部111はパイプ形状である例を示しているが、紡糸発生部111の形状はこれに限定されない。また、支持台118に固定される紡糸発生部111の数は例示であり、1つであってもよく、3つ以上であってもよい。加えて、支持台118には、
図6を参照して説明した回収手段115やタンク116、及び回収手段115とタンク116と紡糸発生部111をそれぞれ連結するための連結部材が配置されていてもよいが、
図11ではこれらの構成要素は省略している。
【0084】
すなわち、
図11に示す態様では、装置100は、x個の紡糸ユニット110を備え、各々の紡糸ユニットは、2つの紡糸発生部111を備える。そして、x個の紡糸ユニットが一組となり、遮断部材117によって紡糸ブース110Bとして構成されている。
【0085】
さらに、
図11に示す態様では、
図12に示すように、各々の紡糸ユニットについて、紡糸発生部111の長手方向の両端に、風供給手段114として風供給手段114a、114bが配置されている。これにより、
図11及び
図12に示す態様では、装置100は、紡糸ブース110B内の各々の紡糸ユニットについて、風供給手段114a、114bから、高分子溶液PSの泡発生面に対して略平行に、互いに対向する向きから風を供給するように構成されている。
【0086】
このように、複数の紡糸ユニット110を一組として紡糸ブース110Bを構成し、温度・湿度制御手段130を用いて、静電紡糸を行う空間ES内の温度及び絶対湿度を所定の範囲内に制御することにより、微細繊維集合体の紡糸安定性を高めることができるとともに、より大きいサイズを有する基材120に微細繊維を連続的に堆積させて大面積の微細繊維集合体を紡糸することができる。
【0087】
[実施の形態6]
本発明のさらに別の実施形態では、上述した実施の形態5の変形例として、紡糸ブースを複数備え、基材がこれら複数の紡糸ブースを連続的に通過する構成を採用することができる。
図13は、装置100において、当該構成の一例を示す模式図である。
【0088】
図13に示す態様では、装置100は、2つの紡糸ブース110B1、110B2、基材120、及び温度・湿度制御手段130を備えている。基材120は、基材ロール120aから連続的に供給され、
図13の紙面左側から右側に向かって紡糸ブース110B1、110B2を連続的に通過可能とされている。
【0089】
紡糸ブース110B1、110B2は、それぞれ、遮断部材117を備え、遮断部材117の上部に、温度及び絶対湿度調節用の吸気部117aを備え、遮断部材117の下部に、温度及び絶対湿度調節用の排気部117bを備える。紡糸ブース110B1、110B2の吸気部117aは、それぞれ、通気管130aを介して温度・湿度制御手段130と連結されている。
【0090】
また、紡糸ブース110B1、110B2は、それぞれ、2つの紡糸ユニット110a、110bを備える。紡糸ユニット110a、110bは、それぞれ、支持台118に固定された2つの紡糸発生部111を備える。なお、
図13に示す態様では、紡糸発生部111はパイプ形状である例を示しているが、紡糸発生部111の形状はこれに限定されない。また、支持台118に固定される紡糸発生部111の数は例示であり、1つであってもよく、3つ以上であってもよい。加えて、支持台118には、
図6を参照して説明した回収手段115やタンク116、及び回収手段115とタンク116と紡糸発生部111をそれぞれ連結するための連結部材が配置されていてもよいが、
図13ではこれらの構成要素は省略している。
【0091】
すなわち、
図13に示す態様では、装置100は、計4つの紡糸ユニット110を備え、各々の紡糸ユニットは、2つの紡糸発生部111を備える。そして、4つの紡糸ユニット110は、2つずつが一組となり、各組が遮断部材117によって紡糸ブース110B1、110B2として構成されている。
【0092】
さらに、
図13に示す態様では、各々の紡糸ユニットについて、紡糸発生部111の長手方向の両端に、風供給手段が配置され得るが、当該態様は
図12と同様であるので、図示を省略する。
【0093】
このように、複数の紡糸ユニット110を一組として紡糸ブース110Bを構成する際に、1つの紡糸ブース当たりの紡糸ユニットの数を一定の範囲に設定することで、温度・湿度制御手段130を用いて行われる、静電紡糸を行う空間ES内の温度及び絶対湿度の制御がより効率的になり、微細繊維集合体の紡糸安定性をより高めることができる。加えて、1つの紡糸ブースの大きさ、すなわち、遮断部材の大きさをコンパクトにすることができるので、装置全体の大きさもコンパクトになり、微細繊維集合体の生産性の向上が期待できる。なお、1つの紡糸ブース当たりの紡糸ユニットの数は特に限定されないが、例えば、1つの紡糸ブース当たり、紡糸ユニットの数は、10台以下であってもよく、7台以下であってもよく、5台以下であってもよく、3台以下であってもよい。
【0094】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は、以下の実施例の範囲に制限されるものではない。
【実施例】
【0095】
[実施例1]
図11に模式的に示したように、複数の紡糸ユニットを一組として、静電紡糸を行う空間を外気と遮断し、当該空間の温度及び絶対湿度を制御する構成を備える製造装置を用いて、微細繊維集合体の製造を行った。
【0096】
ここで、紡糸ブース110B内の紡糸ユニット110の数は7つとし、1つの紡糸ユニット110当たり3つの紡糸発生部111を設け、紡糸発生部111の長手方向の両端に、風供給手段114a、114bを配置した(
図7参照)。
【0097】
紡糸発生部111は、外観形状がパイプ形状であり、短手方向の長さ(外径)が34.0mm(呼径25A)、長手方向の長さが2mの、ステンレススチール(SUS304)製とした。紡糸発生部111は、その上部において長手方向に延びる開口部を有し、補助部材を設けることでスリット状の隙間111sを備えるように構成した。紡糸発生部111の下側には回収手段115を設け、オーバーフローした高分子溶液PSが回収手段115によって回収され、回収された高分子溶液PSがタンク116を通じて紡糸発生部111に供給される、循環式とした(
図5(a)、
図5(b)及び
図6参照)。
【0098】
風供給手段114a、114bとしては軸流送風機(羽根の直径が約450mmのプロペラファン)を用い、風の強さ(風速)を三段階(弱・中・強)に設定可能な構成とした。なお、事前の予備実験において、いずれの強さの風(弱風、中風及び強風)でも、高分子溶液PSの表面に発生した泡Bが連続的に振動する状態を維持し得る風であることを確認した。また、風速メーターを用いて、1つの紡糸ユニットを構成する3つの紡糸発生部の両端及び中央の3箇所(計9箇所)における風速を測定し、これらの平均値を算出したところ、本実施例で用いた装置構成では、弱風、中風及び強風の風速は、それぞれ、2.23m/s、2.68m/s、3.39m/sと計算された。
【0099】
高分子溶液PSとして、13.5重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)をジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させた溶液を調製した。なお、高分子溶液PSには、添加剤として、0.008重量%の塩化カルシウムを含めた。
【0100】
基材120としてはエレクトレット化した不織布を用い、基材ロール120aから供給される基材120の供給速度を14.4m/minに設定した。ここで、基材120と、高分子溶液PSに発生させる泡Bとの間隔が22.5cm±3cmとなるように調整した。
【0101】
温度・湿度制御手段130としては従来の空調機を使用し、通気管130aとして配設したダクトを介して紡糸ブース110B内の温度及び絶対湿度を制御可能とした。基材120への微細繊維集合体の紡糸中の、紡糸ブース110B内の温度及び絶対湿度は、約35℃及び約3.74g/m3であった。
【0102】
調製した高分子溶液PSを紡糸発生部111に投入し、気体通過部112bを介して高分子溶液PS内に挿入された細管112cを通じて、0.05MPa~0.06MPa(50kPa~60kPa)の圧縮空気CAを供給し、高分子溶液PSの表面に泡Bを発生させた。泡Bは、高分子溶液PSの表面において発生と崩壊を繰り返しながら、紡糸発生部111の開口部に設けた補助部材の間のスリット状の隙間111sから紡糸発生部111の上部に露出し、風供給手段114a、114bから供給される風によって振動可能な状態であった。
【0103】
高分子溶液PSの表面における泡Bの発生が略均一になったところで、電圧印加手段113によって高分子溶液PSに85kV~89kVの電圧を印加し、基材120上に微細繊維集合体を形成させた。
【0104】
その結果、風供給手段114a、114bから供給される風が弱風、中風、及び強風のいずれの場合にも、基材120上に微細繊維集合体が首尾よく形成され、風を供給しない場合と比べて紡糸安定性が向上していることが確認された。また、パイプ形状の紡糸発生部111において高分子溶液PSを循環式とし、温度・湿度制御手段130によって静電紡糸を行う空間内の温度及び絶対湿度を所定の値に制御することにより、製造装置を長時間(目安として18時間程度)稼働させた場合でも安定して微細繊維集合体を基材120上に形成させることができた。
【0105】
図14(a)は、風の強さを強風に設定して得られた微細繊維集合体のSEM像であり、
図14(b)は、風を供給せずに得られた微細繊維集合体のSEM像である。
図14(a)及び
図14(b)のSEM像から、それぞれ任意の8箇所を選択し、繊維径を測定した結果、
図14(a)では、平均値が68.8nmであり、
図14(b)では、平均値が94.3nmであった。この結果から、高分子溶液に発生させた泡に連続的に風を供給することによって、泡の表面からの微細繊維の発生が促進されるだけでなく、泡の表面から発生した微細繊維に対して風力(外力)が作用し、より微細な繊維への分化が生じていることが分かった。
【0106】
加えて、風の供給の有無以外は同一の製造条件で、製造装置を一定時間稼働させて得られた微細繊維集合体の紡糸量(単位面積、単位時間当たりの紡糸重量)(g/(h・m2))を比較したところ、風(特に強風)を供給した場合には、風を供給しない場合よりも明らかな紡糸重量の増加が認められた。この結果は、高分子溶液に発生させた泡に連続的に風を供給することによって、微細繊維集合体の紡糸安定性が向上するだけでなく、微細繊維集合体の製造効率が高まることを示唆している。
【0107】
[実施例2]
次に、実施例1で用いたのと同様の構成を備える製造装置を用いて、風供給手段114a、114bから供給される風の強さ(風速)を変化させて、微細繊維集合体の製造を行った。
【0108】
具体的には、「風供給手段114aから供給される風の強さ/風供給手段114bから供給される風の強さ」の組み合わせ(風条件)を、以下の5通りに設定した。
風条件1:「弱風/弱風」
風条件2:「弱風/中風」
風条件3:「中風/中風」
風条件4:「中風/強風」
風条件5:「強風/強風」
【0109】
その結果、風条件1~5のいずれの場合でも、得られた微細繊維集合体の平均繊維径は、風を供給しない場合と比べて小さくなる傾向が見られたが、風条件1~5の間では顕著な差は見られなかった。
【0110】
実施例1及び実施例2で得られた結果より、本実施例で用いた装置構成では、風供給手段から供給される風の強さ(風速)が約2.0m/s以上であれば、微細繊維集合体の紡糸安定性の向上効果、及び、微細繊維集合体を構成する微細繊維の分化の促進効果が得られること、また、風の強さ(風速)が約3.0m/s以上であると、微細繊維集合体の製造効率がより高まることが確認された。
【0111】
なお、上述したような実施形態に基づいて、本実施例で用いた製造装置とは異なる構成を採用した製造装置においては、紡糸発生部の形状や寸法、及び、風供給手段の数や風供給手段から供給される風の強さ(風速)を調節することによって、基材上に形成される微細繊維集合体の繊維径を制御することも可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明によれば、高分子溶液に連続的に発生した泡に電圧を印加することにより静電紡糸を行う微細繊維集合体の製造方法において、高分子溶液に発生した泡に連続的に風を供給し、泡、及び泡の表面から発生した微細繊維に対して外力(より具体的には風力)を加えることにより、微細繊維集合体の紡糸安定性を向上させることができる。そのため、比較的簡単な装置構成により、ラボスケールからプラントスケールまで、様々なスケールでの微細繊維集合体の製造が可能である。また、紡糸ユニットに遮断部材を配置してブースを構成したり、そのようなブースを複数設けたりすることも容易であるので、製造規模に応じた装置設計が可能である。このように、本発明は、各種産業用の微細繊維集合体の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0113】
100 微細繊維集合体の製造装置
110 紡糸ユニット
110a、110b、110x 紡糸ユニット
110B、110B1、110B2 紡糸ブース
111 紡糸発生部
111s 隙間(スリット状の隙間)
111a 高分子溶液供給部
112 泡発生手段
112a 多孔質材料
112b 気体通過部
112c 細管
113 電圧印加手段
114 風供給手段
114a、114b 風供給手段
115 回収手段
115a 回収部
116 タンク
117 遮断部材
117a 吸気部(吸気口、通風孔)
117b 排気部(排気口、通風孔)
118 支持台
120 基材
120a 基材ロール
130 温度・湿度制御手段
130a 通気管
PS 高分子溶液
PS-OF 高分子溶液のオーバーフロー
PS-IN 高分子溶液の供給
PS-RE 高分子溶液の回収
B 泡
CA 圧縮空気
S 泡と基材との間の空間
ES 静電紡糸を行う空間