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特許7440181フィブリル状、長尺状、又は円盤状の粒子をベースとする高散乱多孔質材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】フィブリル状、長尺状、又は円盤状の粒子をベースとする高散乱多孔質材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20240220BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240220BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240220BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C08J9/28 CEP
C09D7/61
C09D7/65
D21H11/18
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020537874
(86)(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 EP2018076186
(87)【国際公開番号】W WO2019063647
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】20175855
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】520097560
【氏名又は名称】アアルト コルケアコウルサーティオ エスアール
【氏名又は名称原語表記】AALTO KORKEAKOULUSAATIO SR
(73)【特許権者】
【識別番号】507200787
【氏名又は名称】ケンブリッジ エンタープライズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】トイヴォネン, マティ
(72)【発明者】
【氏名】イカラ, オリ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィグノリニ, シルヴィア
(72)【発明者】
【氏名】オネリ, オリンピア ドミティラ
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-163028(JP,A)
【文献】国際公開第2011/070923(WO,A1)
【文献】特開2010-107336(JP,A)
【文献】特開2009-299043(JP,A)
【文献】Cellulose Nanopaper Structures of High Toughness,Biomacromolecules,2008年08月23日,9,6,1579-1585
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
C09D 7/65
C09D 7/61
D21B 1/00-D21J7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリル状、長尺状又は円盤状の粒子をベースとする多孔質材料を製造する方法であって、
溶液中のコロイド粒子を用意するステップ、
前記コロイド粒子を、直径が150~500nmの範囲内で分布しているコロイド粒子を含む多分散の画分を含む、画分に分離するステップ、
少なくとも、直径が150~500nmの範囲内で分布しているコロイド粒子を含む多分散の前記画分を水に分散させて、水性混合物を生じるステップ、
得られた水性混合物をろ過するステップ、及び任意選択で前記粒子を濃縮するステップ、
前記コロイド粒子を揮発性溶媒に分散させるステップ、及び
乾燥ステップを実施するステップ
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記水性混合物がろ過され、その直後に、前記コロイド粒子を揮発性溶媒に分散させる前記ステップが行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記画分の分離が、遠心分離、例えば、連続遠心分離を用いて達成される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
揮発性溶媒に分散されたコロイド粒子の前記画分が、オクタンに、最も適切には5重量%以下の濃度で分散された、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記コロイド粒子が、任意選択で漂白されている、フィブリル状、長尺状、又は円盤状の粒子、例えば、セルロース、キチン、藻類、竹、合成若しくは天然クレイ、無機チタン若しくはアルミニウム化合物、又は結晶化したワックス、脂肪若しくは糖から選択され、
前記粒子が、好ましくはフィブリルの形態である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記コロイド粒子が、セルロース粒子、例えば、セルロースパルプ化プロセスから得られた、最も適切にはカバノキパルプから形成されたセルロース粒子である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水性混合物が、5重量%以上、好ましくは10重量%以上、最も適切には20~50重量%の粒子含有量に濃縮される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記材料が、粉末として回収され、又は層に塗布されてフィルムを形成する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記材料が、通常、前記最終乾燥ステップの前に、層に塗布されてフィルムを形成して、濃縮された湿潤ゲルケーキを得る、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
着色剤又は香料が、好ましくはコロイド粒子の所望の画分に添加される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
直径が150~500nmの範囲内で分布している多分散の画分を少なくとも含む、フィブリル状、長尺状又は円盤状のコロイド粒子、及び
空気又は別の雰囲気ガス、
を含む多孔質フィブリル系材料であって、
気孔率20%以上及び密度400~950kg/mを有する、多孔質フィブリル系材料。
【請求項12】
前記粒子が、セルロース、キチン、藻類、竹、合成若しくは天然クレイ、無機チタン若しくはアルミニウム化合物、又は結晶化したワックス、脂肪若しくは糖から形成され、
好ましくは対数正規分布による約250nmの平均直径又は厚さを有する、請求項11に記載の多孔質フィブリル系材料。
【請求項13】
20~80体積%の固体、好ましくは最大70体積%の固体、最も適切には約50%を含む、請求項11又は12に記載の多孔質フィブリル系材料。
【請求項14】
0.1~100μm、好ましくは3~50μmの厚さを有する膜の形態である、請求項11~13のいずれか一項に記載の多孔質フィブリル系材料。
【請求項15】
粉末の形態である、請求項11~13のいずれか一項に記載の多孔質フィブリル系材料。
【請求項16】
波長500nmを用いて測定したときに、材料厚さ10μmに対して、全透過率90%未満、通常、全透過率70%未満、好ましくは全透過率50%未満、より好ましくは全透過率30%未満、最も適切には全光線透過率10%未満を有する、請求項11~15のいずれか一項に記載の多孔質フィブリル系材料。
【請求項17】
材料厚さ2.5μmに対して全反射率40%超、又は材料厚さ10μmに対して全反射率30%超、通常、材料厚さ10μmに対して全反射率50%超、好ましくは材料厚さ10μmに対して全反射率70%超、最も適切には材料厚さ10μmに対して全反射率90%超を有する、請求項11~16のいずれか一項に記載の多孔質フィブリル系材料。
【請求項18】
100~150m/gの比表面積を有する、請求項11~17のいずれか一項に記載の多孔質フィブリル系材料。
【請求項19】
出発原料粒子を分画するステップ、
前記粒子の画分を水に分散させて水性分散液を生じるステップ、
得られた前記水性分散液をろ過して、粒子の所望の画分を得るステップ、
粒子の前記所望の画分を揮発性溶媒に移すステップ、及び
乾燥ステップを実施するステップを含む、請求項11~18のいずれか一項に記載の多孔質フィブリル系材料を製造する方法。
【請求項20】
出発原料粒子を分画する前記ステップが連続遠心分離により達成される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記揮発性溶媒がオクタンである、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記出発原料粒子が、セルロース、キチン、藻類、竹、合成若しくは天然クレイ、無機チタン若しくはアルミニウム化合物、又は結晶化したワックス、脂肪若しくは糖から選択される、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記出発原料粒子がセルロース、特にナノセルロースである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記材料が粉末として又はフィルムの形態で回収される、請求項19~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記水性分散液をろ過して湿潤ゲルケーキを得る、請求項19~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
着色剤又は香料が添加される、請求項19~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
顔料、色、白色増強剤若しくは塗料としての、又は保護フィルムとしての、又は化粧品若しくは薬剤での、又は太陽電池中の集光要素としての、請求項11~18のいずれか一項に記載の又は請求項1~10のいずれか一項に記載の方法で製造される、多孔質フィブリル系材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリル状、長尺状、又は円盤状の粒子をベースとする多孔質材料、その気孔率を維持する、そのような材料の製造方法、並びにそのような材料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバー、ナノフィブリル化セルロース(NFC)、又はミクロフィブリル化セルロース(MFC)とも表されるセルロースナノフィブリル(CNF)は、高い機械的特性及び目的に適合した不透明度(透明~半透明)、再生可能性、利用性、生体適合性、したがって、高度な機能性材料としての使用の可能性のその魅力的な組み合わせのため、近年大いに注目されてきた。透明で耐水性のナノペーパー、ナノ構造フォーム、細胞増殖支援ヒドロゲル(cell-growth supporting hydrogel)、機械的に頑強で透明なエアロゲル及び膜、並びに強く機能的なファイバーを含めた多数の多用途材料を形成する上で、CNFの汎用性が示された。
【0003】
透明性は、小さな大きさのフィブリル及び緻密フィルムを生じる従来の方法を用いて容易に達成可能であるので、透明性は、CNF系材料でしばしば試みられ、強調される。また、高い気孔率が達成された。
【0004】
例えば、Fang Zら(2014)は、高いヘイズを有する透明フィルム用のCNFの使用について記載し、これはその散乱特性に由来する。
【0005】
Caixeiro S.ら(2017)は、次に、逆球状要素をベースとする高散乱材料を製造するための、セルロースナノ結晶(CNFと異なる)の使用について記載する。しかし、CNCをベースとするそのような材料は、通常、多くの用途に対して脆い。
【0006】
種々の屈折率を有する媒体を通過する光の伝搬により散乱が生じ、これらの屈折率の変化が光の波長と同等の大きさの構造体で起きる場合に、この散乱は最も効率的になる。強い散乱は、持続可能なセルロース系技術に対し強く求められている特性である。
【0007】
例えば、強い散乱は、染色したファイバーに対する色収率を改善する助けとなり、これは、一般のマクロファイバーと比較してナノファイバーでは達成するのが困難であると知られている。さらに、紙の白色度は、添加剤を使用することでしばしば向上するが、添加剤はアレルギー反応及び健康への悪影響を引き起こす可能性があり、大量の場合は、環境に悪影響を及ぼすことがある。
【0008】
例えば、二酸化チタンナノ粒子は、食物に添加した場合、ラットの健康に悪影響を及ぼすことがわかった(Bettini S.ら(2017)を参照のこと)。
【0009】
したがって、紙と他の製品、特に食用及び皮膚用の製品の両方で、そのような添加剤を置き換える必要がある。薄い厚さで高い拡散反射率を示す高散乱材料が、非常に望ましい。材料には、異常拡散が見られ、この望ましい光学特性を提供する。この現象は、これまでに報告されている(Barthelemyら、Nature 453、495~498、(2008))。しかし、そのような特性が、食用の又はバイオセーフ材料、特に有機材料、さらにより詳細にはセルロースで達成し得ることは予測されなかった。
【0010】
ナノファイバーでは、ファイバーの形態(すなわち、ファイバーの直径、そのより大きい凝集物への詰め込み(packing)、並びに巨視的構造の密度及び気孔率)が、どのように光が材料中を透過し、ファイバーにより散乱するかを定めるので、これを変更することによって光学特性に影響を及ぼすことができる。
【0011】
1つの可能性は、エアロゲルの形成においてナノフィブリルを使用することであり、これは、高比表面積を有する多孔質で低密度の固体材料であり、有益な機械的、光学的及びガス輸送の特性、並びに再生可能性、利用性及び生体適合性を示す。しかし、無機エアロゲル、特に、例えば、シリカエアロゲルは、通常、脆い欠点がある。
【0012】
Toivonenらの刊行物(Adv.Funct.Mater.2015;25:6618~6626)は、5~20nmの直径を有するフィブリルを形成する、そのような高透過性CNFエアロゲル膜の製造方法を記載する。しかし、前述のように、これらのエアロゲルは、以下に記載するものと対照的に透明である。
【0013】
高い散乱レベルを有する材料は、例えば、不透明度(又は白色度)を達成するために利用することもでき、これは、数多くの工業製品、例えば、練り歯磨き及び白色塗料において望まれる光学特性である。これらの材料では、高い不透明度は、通常、チタン誘導体、例えば、二酸化チタン(TiO)、又は酸化亜鉛(ZnO)を使用することにより達成される。これらの粒子は、別の光散乱体として作用し、それによって材料の白色度を強化する。しかし、前述のように、これらの別の散乱体は、健康への悪影響を有することがわかった。
【0014】
米国特許出願公開第2015234098号は、可視光範囲の電磁放射線を遮断することができる不透明層を含む軽量の物品を記載する。材料は、多孔質粒子(大きさ2~50μm)及び所定の電磁放射線を吸収する別の不透明着色剤を含む。
【0015】
しかし、添加剤により、通常、材料がより脆くなり、毒性並びに環境危険を引き起こす可能性があり、したがって、これらの添加剤の濃度は、低く維持されなければならず、好ましくは避けられなければならない。添加剤を使用しない場合は、材料の不透明度は減少する。したがって、十分なレベルの不透明度を達成するために、大量の材料が必要である。すなわち、均一に被覆するために、より大きい厚さが必要である。
【0016】
さらに、フィブリル状の強いナノ材料、例えば、CNFを添加すると、材料を機械的により強く、より強靭にすることができる。
【0017】
米国特許出願公開第2012/0132381号は、紙での使用のためのナノセルロース含有材料を議論している。材料は、セルロースを溶媒に単に分散させ、次いで、セルロースをろ過し、乾燥してフィルムを形成することにより作製する。膜は、厚く、139μm~190μmであり、中程度の不透明度をもたらす。
【0018】
それによって、より効率的で、薄く(10マイクロメートル未満)、強く、毒性を示さない不透明材料に対する継続的な要求がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、独立請求項の特徴により定義される。いくつかの特定の実施形態は、従属請求項で定義される。
【0020】
本発明は、不透明度又は白色度が、生物学的に及び環境的に安全な材料、例えば、CNFから適切に多孔質な構造を作り出すことにより提供できるという発見に基づく。実際、後方散乱光/材料厚さの%の意味での最大散乱は、サイズ、屈折率、及び充填率(すなわち、空間的配置)に関する粒子の最適化により達成し得る。本明細書に記載される材料、例えば、繊維状又はシート状粒子を用いる場合、微粒子と組み込み媒体との間の屈折率の十分大きい差異を維持しながら、最適化されるべきものは、粒子の空間分布及びサイズである。異方性と等方性のどちらの材料も、使用することができる。
【0021】
本発明の第1の態様によれば、フィブリル状、長尺状、又は円盤状の粒子をベースとする高散乱材料が提供される。
【0022】
本発明の第2の態様によれば、比較的薄い膜厚を維持しながら非常に不透明な膜、コーティング又はフィルムを形成できる、フィブリル状、長尺状、又は円盤状の粒子をベースとする材料が提供される。
【0023】
第3の態様によれば、そのような材料の製造方法が提供される。
【0024】
薄い構造を用いて達成される不透明度は、光が散乱媒体内を伝搬する方法を変えることにより強化することができる。厚さLの材料の全透過率Tは、等式T=1/(1-A*Lα/2)(式中、A及びαは定数)を用いて記載することができる。典型的な散乱媒体では、光の伝搬は、正常拡散により起こり、このとき定数α=2である。しかし、散乱媒体の微細構造が、ヘビーテイルを有するステップ長(すなわち、散乱事象間の距離)の分布(すなわち、非常に長いステップが、無視できないほど確実になる)を生じる場合、定数α<2であり、光の伝搬は超拡散により起こる。より大まかには、α≠2の場合、拡散は、異常拡散と呼ばれる。異常拡散及び超拡散を生じ得る2つの構造は、図8で模式的に示される。定数αの実用的関連性は、非常に薄い厚さに対しては、定数Aが同じままと仮定してαの値が下がると、全透過率がより低くなり得ることである。本質的に、このことは、薄いコーティングの全反射率が向上することになることを意味する。
【0025】
第4の態様によれば、通常、粉末状の材料を塗布することによる、例えば、パッド印刷、噴霧又は静電沈着による、コーティング又は保護フィルムとしてのそのような材料の新しい使用が提供される。
【0026】
第5の態様によれば、例えば、粉末状の材料を所与の溶媒、水、又はエマルション系に分散させることにより、液体又は固体製剤に埋め込まれた、散乱強化成分としての上記材料の新しい使用が提供され、このことから材料はさらに所望の生成物に塗布することができる。
【0027】
したがって、本発明は、フィブリル状、長尺状、又は円盤状の粒子をベースとする材料、そのような材料の製造方法、及び材料の使用に関する。
【0028】
本発明の材料は、光を非常に効率よく散乱し、したがって、非常に薄い膜でも白く、又は霜で覆われたように見える。従来になく強い応答は、材料の適切に緻密(散乱効率に関して最適密度で)で多孔質のランダム網状構造の結果である。
【0029】
密度に関して、密度が高すぎる場合、散乱は抑制され、密度が低すぎる場合、散乱は大きくは増加せず、不透明な外観を達成するために必要な厚さ/体積は増加すると言うことができる。
【0030】
材料は、異なる直径を有するフィブリル状のナノ材料、又は直径10nmから最大で1000nmを有する材料、例えば、セルロースナノフィブリル(CNF)から構築することができる。
【0031】
本発明を用いて、いくつかの利点が達成される。中でも、本発明は、より薄い厚さの不透明表面要素、例えば、塗料及びコーティングの使用を可能にし、それによって、その塗布の総費用を低減し、重量比(又は体積比)での生成物全体の割合を下げる。このことは、例えば、物流に好影響も及ぼす。
【0032】
本発明の材料は、基材特性に依存して、固体支持体がなければ、3マイクロメートルもの薄い厚さで不透明コーティングを達成することができる。これは、現在の最先端技術のコーティングより20~100倍も薄い。さらに、材料は、環境にやさしく、また、無毒性が重要な意味を持つ用途、例えば、紙製品、並びに化粧品又は食用製品に適しており、後者の例には、医薬品、食品及び局所適用可能な製剤が含まれる。
【0033】
本発明の材料は、一部には、材料内の光の超拡散又は異常拡散により光の伝搬が起きる材料の微細構造のため、前記の薄い厚さで不透明コーティングを達成することができる。
【0034】
特に、セルロースをベースとする出発原料の場合、製品の製造方法は、特に種々の添加剤の使用と比較して比較的安価であり、持続可能である。さらに、最終製品は、生体適合性を有する。軽量であり、少量で使用できることから、その持続可能性は、さらに高まる。
【0035】
材料の製造方法は、エアロゲルを製造するために通常用いられる、時間を要し、高価な凍結又は超臨界乾燥法と比べて、いくつかの利点を有する。これらの乾燥条件の代わりに、本方法は、周囲条件で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】分画遠心法により分画したCNF分散液の調製手順の略図である。
図2】試料の厚さの関数としての600nmでの全透過率を示すグラフである。データ系列は、最小二乗法回帰(線)により近似し、薄い(10~30μm)透明膜(四角)は、入射光の約90%を透過し、不均一性が増加する(三角)と、透過のより急激な減衰をもたらし(それでも厚さ10μmで約65%の光を透過する)、最も不透明なフィルム(丸)は、厚さ約3μmでも40%の光しか透過しない。
図3】(A)透明、(B)半透明、及び(C)白色膜の測定した反射率を示す一連のグラフである。
図4】膜の上面(a~c)及びそれに対応する破断面(d~f)の一連のSEM顕微鏡写真である。顕微鏡写真は、(a、d)透明、(b、e)半透明、及び(c、f)白色膜のものである。
図5】(a、b、c)最も細かい、(d、e)中間、及び(f、g)最も粗いフィブリルの一連のAFM顕微鏡写真である。
図6】(a)最も細かい、(b)中間、及び(c)最も粗いフィブリルのフィブリル直径ヒストグラム及び近似対数正規モデルを示すグラフである。(d)に示す近似対数正規モデルの比較では、有意に厚いフィブリルの存在が少量であることを強調するために、縦軸は対数で示す。
図7】透明膜(四角)半透明膜(三角)、及び不透明膜(丸)に分けた、多孔質膜の細孔粒度分布を示すグラフである。
図8】ある種の材料構造がどのように光の超拡散を引き起こし得るかを示す略図である。左の図は、様々な散乱強度の散乱体がランダムに分布した構造であり、そのため強い散乱体が少なく、したがってより離れて存在し、弱い散乱体はより多く、したがってより密に存在する。右の図は、散乱体の集合が、媒体中にランダムに分布するクラスターを形成したクラスター構造である。
図9】液滴に集合し散乱体として作用する、固化されて平らな小板となったワックス配合物(1-オクタデカノール、Tween80、及びキトサン)を有する水エマルションを乾燥することにより形成された明るい白色のコーティングの写真である。
図10】ほぼ1-オクタデカノールからなる平らな小板が集合したワックス液滴の走査電子顕微鏡写真(SEM)である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
定義:
本発明は、1nm~1μmの範囲の少なくとも1つの寸法を有する構造単位を含む、「コロイド粒子」から形成される材料に基づく。その形状は、棒状、フィブリル状、球状、板状及びシートから、さらにより複雑な形状にまで大きく異なり得るが、通常、フィブリル状、長尺状、円盤状、棒状又は板状粒子、例えば、フィブリル又はシートなどの形状をした粒子から形成される。また、コロイド構造単位の組成は、有機から無機材料、複合材まで大きく異なり得、本文脈では、持続可能な材料が好ましく、生物学的に安全な材料がさらにより好ましく、食用の材料が最も好ましい。コロイド構造単位は、処理及び材料の選択に依存して、本発明に適切な分岐、非分岐のフィブリル状の付加体又はシートを構築することができる。
【0038】
「食用」という用語は、国の機関又は国際機関に承認された材料、例えば、Annex of Commission Regulation(EU)No1130/2011に列挙された材料を網羅するものである。
【0039】
本発明の材料に用いられる別の用語は、フィブリル状、長尺状、又は円盤状の粒子をベースとする材料である。これに関連して、「フィブリル状、又は長尺状粒子をベースとする」という用語は、材料の固体重量から算出される40%以上の分岐又は非分岐フィブリル、又は上記したコロイドなどから形成される全ての材料を網羅するものである。同様に、「円盤状の粒子をベースとする」という用語は、材料の固体から算出される40%以上のシート状構造から形成される全ての材料を網羅するものである。より低い散乱で十分な場合は、材料中のより少ない量のフィブリルで十分となる場合もある。
【0040】
しかし、本発明の材料では、出発原料の固体の90%以上が、ナノファイバー、ナノフィブリル又は他のナノ構造体の形態であることが好ましく、本文脈では500nm以下の直径又は厚さを有する構造を網羅するものである。固体の残りの部分は、好ましくは、最大で1000nmの直径を有する少なくともいくつかの粒子を含む。
【0041】
「不透明」又は「不透明度」という用語は、本文脈では本発明の材料の視覚的な質を規定するものであり、「透明」と反対を意味する。以下では、本発明の材料は、その外観に対応して「透明」、「半透明」、及び「白色」又は「不透明」と称されることになる。
【0042】
しかし、実際には、透明度又は不透明度にはいくつかのグレードが存在するため、これらの用語の意味は、より複雑である。通常、本材料は、一般に透明と考えられる従来技術の材料よりもかなり高い不透明度を有すると視覚的に決定することができる。
【0043】
本発明の材料は、「多孔質」であると、又は「マクロ多孔質ファイバー網状構造」、「メソ多孔質ファイバー網状構造」、又はこれらの組み合わせから形成されると考えられる。粉末の形態である多孔質粒子も本発明の範囲に入るが、上記のような網状構造は、通常、フィルム又は膜の形態である。これに関連して、「多孔質」は、部分的に固体材料により、及び部分的に非固体材料、例えば、気体により充填されている構造を指す。
【0044】
したがって、本発明は、フィブリル状、長尺状又は円盤状の粒子をベースとするフィルム又は粉末の形態である多孔質材料を製造する方法であって、粒子の水性分散液をろ過し、所望のフィブリル画分(複数可)を、例えば溶媒交換により、揮発性溶媒、例えば、オクタンに移し、次いで自然乾燥する、方法に関する。生成物は、粉末として回収することもでき、又は層に塗布してフィルムを形成することもできる。
【0045】
方法は、1000nm以下の直径又は厚さを有するフィブリル状、長尺状、又は円盤状の粒子、又は他の類似の粒子構造をベースとする出発原料を用意するステップを含む。
【0046】
1つの選択肢に基づけば、幅広いフィブリル直径の分布を有する未処理の原料は、通常、連続遠心分離の手法により、例えば、図1に示す手順に従い、分画することができる。この手順により、種々の透明度の分散液が得られ、散乱は、最も細かいフィブリルを有する分散液で最も弱く、最も粗いフィブリルを有する分散液で最も強い。次いで、散乱強度は、適切な直径分布のフィブリルを有する分散液を選択することにより、要求に応じて調整することができる。
【0047】
分散液の透明度/不透明度の傾向は、散乱効率及び個々の粒子間の距離の増加が原因であり、これは、粒径が拡大した結果である。本発明の多孔質材料内の細孔それ自体は、散乱中心として作用することもできる。その細孔形成能力のため、したがって、従来の透明な生成物より大きい直径が好ましいが、パルプ材料、例えば、紙で通常利用されているものより小さい。散乱能の最適条件は、50~500nmの範囲の直径を有するフィブリル又は他の類似の粒子をベースとする構造で見出されているが、10~1000nmの直径範囲で十分に強い散乱能が得られる。
【0048】
本不透明コーティングは、通常、微細構造のため、光の伝搬が、材料内の光の超拡散又は異常拡散により起こる材料を用いて達成されてきた。
【0049】
任意選択で、ポリマー又はモノマーの形態である1つ又は複数のさらなる成分を、出発原料又は形成された分散液のいずれかに添加することもできる。
【0050】
粒子の所望の画分(複数可)を含有する分散液を得た後、任意選択の架橋ステップの後に、乾燥ステップが、通常、実施される。乾燥は、周囲条件、又は真空若しくは低圧力、又は高温若しくは低温で達成することができる。凍結乾燥の手法でさえ使用することができる。
【0051】
本発明の一実施形態によれば、分散液から多孔質膜を製造するために、分散液を、通常は、真空ろ過によりろ過して湿潤ゲルケーキを得る。好ましくは、ろ過後に、水から、例えば、オクタンへの溶媒交換を行い、任意選択で1つ又は複数の中間溶媒及び2つ以上の溶媒交換ステップを用いる。この溶媒溶液から、ゲルは周囲条件でゆっくり乾燥する。
【0052】
膜では、フィブリル間の水素結合が水と競合しないので、フィブリルの交点でより低い表面張力及びより強い結合が達成されるため、オクタンは、好ましい溶媒である。このため、形成された多孔質膜が乾燥後にしわくちゃになるか、しわが寄り、緻密になる傾向が減少する。他の選択肢には、種々の非極性揮発性有機溶剤、例えば、ヘキサン、ベンゼン及びトルエンが含まれる。
【0053】
粉末では、異なる乾燥手順を使用することができる。例えば、水又は、通常、非極性溶媒である、別の溶媒からのスプレードライを使用することができる。そのような粉末の場合は、例えば、酵素加水分解及び軽度の機械的分解により形成される、10~1000nm、より好ましくは150~500nmの直径を有するフィブリルを使用することも好ましい。
【0054】
そのようにして得られた材料の密度は、通常、400~950kgm-3の範囲にあり、これらの密度限度内では膜間の系統的差異は見られない。
【0055】
材料のフィブリルの気孔率、又は充填率、及びランダム分布は、効率的な広帯域の光散乱にとって重要である。緻密フィルム又は他の構造では、散乱中心が接近しすぎていれば、光学的クラウディング(optical crowding)が起こるであろう。
【0056】
透明及び半透明膜と比較して、白色膜に微細構造的な差があり、これは細孔幅分布に対応し、次に異なる気孔率を生じる。透明、半透明及び白色膜の比表面積は、1つの実験から、それぞれ約190、175及び122m/gであることがわかった。
【0057】
したがって、本発明の材料は、通常、150m/g以下の、好ましくは100~140m/gの範囲の比表面積を有する。
【0058】
本発明の一実施形態によれば、着色剤又は香料は、材料の色、味覚又は匂いを変えるために添加することができる。本発明の材料の気孔率のため、これらは、例えば、単に吸収によって添加することができる。しかし、これらの添加剤の量は、例えば、細孔の充填のためによる、材料の特性の顕著な変化を防ぐために少なくなければならない。
【0059】
本発明はまた、網状構造の形態である多孔質フィブリル系材料、例えば、フィルム又は粉末としての形状を有し、フィブリル状の固体及び細孔を充填する空気又は他の類似の気体薬剤を含む、上記の方法に従って調製した材料であって、20~80体積%の固体、好ましくは最大70体積%の固体材料を含む、材料に関する。
【0060】
一実施形態によれば、材料は、架橋フィブリルの網状構造で形成される。架橋は、いくつかの利点、例えば、最終製品の強度の向上を有することになる。さらに、架橋が乾燥前(すなわち、溶媒蒸発の前)に起こる場合、生成物は、収縮、崩壊及びコンパクト化への高い耐性を有し、したがって、より高い気孔率及び不透明度を維持することになる。
【0061】
本発明の目的は、最大散乱を達成することであり、それによって本発明は、サイズ、屈折率、及び充填率、並びに膜厚に関して、粒子の最適化に焦点を合わせる。例えば、本発明の膜を用いる場合、紙の厚さの十分の一の厚さは、紙のものと同等量の散乱を起こすのに十分である。言い換えれば、本発明の膜は、従来の紙より10倍強く光を散乱する。
【0062】
さらに、上記で挙げる所望の生成物特性を達成するために、フィブリル状の固体の少なくとも一部分のフィブリルは、10~1000nmの範囲の分布内の直径を有するものから選択され、多分散が効果を上げるために必要である。この画分の粒子が、150~500nmの範囲の直径を有することが好ましい。
【0063】
細孔が粒子間に形成され、適切な薬剤は、細孔を充填し、より長く続く気孔率を生じるために使用することができる。この薬剤は、好ましくは空気であるが、低屈折率を有する他の任意の材料から選択することもできる。
【0064】
本発明の好ましい実施形態では、フィブリル状の固体は、ナノフィブリル又はナノ結晶の形態である。ナノフィブリルは、通常、より長い構造で形成され、それによって構造内のより強い連結が可能になり、互いの間に大量の接点/交差を有するため、それによって機械的により強い材料を提供する。
【0065】
好ましいフィブリル状の材料は、セルロース、特にナノセルロースである。セルロースパルプ化から得られるセルロース微粉も、又はバクテリアセルロースも、使用することができる。例えば、漂白したカバノキパルプは、所望の種類のフィブリルを提供することが分かった。
【0066】
本発明のさらなる実施形態によれば、セルロースナノフィブリルとの類似性のため、ナノフィブリル化キチンは、原料として使用される。他の選択肢は、ケラチン、又は固体化してフィブリル状構造になる小分子、例えば、いくつかのワックス、脂肪及び糖を含む。例えば、図9は、固体ワックス小板が集合した液滴のエマルションを乾燥することにより形成したフィルムを示し、その構造はSEM像で図10に示す。しかし、無毒性、最も適切には食用でもある原料を選択することが、特に好ましい。
【0067】
通常、生成物の望ましい最終用途は、出発原料のさらなる要件に影響を与えることになる。例えば、セルロース系原料を用いる場合、リグニンが存在すると茶色がかった生成物を生じることになる。それによって、白色が望ましい場合は、構造による散乱が、吸収を無視できるレベルに下げるのに十分に効果がなければ、リグニンは、通常、除去される。いくつかの最終用途で求められる、毒性がないこと、味覚、又はアレルギー活性も、原料の選択に影響を与える。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、本発明の生成物が、多孔質膜又はコーティングの形態で提供される。
【0069】
別の実施形態によれば、生成物が粉末の形態で提供される。粉末は、エアロゲルと同じ方法を用いて製作することができるが、溶媒の濃度は、例えば、スプレードライによって、より低い、又は低下している必要がある。
【0070】
結論として、本発明は、出発原料の分別により光輸送特性を調整することができるセルロース系システムを提供する。CNFと空気との間の低屈折率の対比にもかかわらず、散乱中心の最適化された形態及び空間分布のおかげで、大きな散乱強度が観察された。
【0071】
本発明の特に好ましい生成物は、膜の形態であり、光散乱/膜厚の比は、最適化、すなわち、最大化された。
【0072】
上記のように、別の選択肢は、粉末又は粉末コーティングの形態である材料を提供することである。
【0073】
上記の生成物は、記載した方法を用いることにより、又は単に異なるサイズの粒子を混合して、所望の粒子から形成される所望の材料を用意することにより、製造することができる。
【0074】
本発明の材料の考えられる最終用途は、例えば、塗料中の着色剤又は白色増強剤として、又はその一部としての使用、又は保護フィルムとしての使用を含む。顔料及び他の着色剤の使用と共に、本発明の材料は、白以外の他の色の増強剤として使用することもできる。
【0075】
本発明の生成物は、無毒性で、食用でもあるので、食品、薬剤及び化粧品関連の使用は、紙での使用と共に好ましい代替である。
【0076】
さらに、材料は、白色を提供することができ、匂い及び味覚という意味で不活性であり、それによって、例えば、薬剤で一般的に用いられるTiOフィルムの置換として使用することができる。本材料の気孔率のため、及び種々の添加剤を加えることにより、材料の気孔率及び強度に影響を与えることができることから、これらの材料は、これらの薬剤の活性薬剤の放出速度に変化を引き起こす可能性もある。
【0077】
生成物の光散乱特性は、少量が求められる点と並び、これらの使用に極めて適している。
【0078】
別の代替は、適切に疎水化されるか、湿度の作用から保護されるならば、車両用塗料での材料の使用である。特に、材料が、例えば疎水化により適切に化学修飾される場合は、これは代替となる。航空機では、そのような撥水剤の使用は、着氷のリスクを低減することにもなるであろう。これらの車両用塗料では、官能化フィブリルは、例えば、フッ素化フィブリルと考えられ、その理由は、そのような材料が、水の吸収をさらに下げることになるからである。
【0079】
本発明の材料のさらなる用途領域は、太陽電池の集光要素である。材料は、異方性散乱媒体としての集光に適している。材料平面での光の伝搬に対し、散乱事象が、より弱いか、よりまばらに存在する場合は、材料の平面に交差ではなく沿った好ましい伝搬方向を光が有することが可能である。したがって、例えば、ソーラーパネルでは、材料は、太陽電池の効率を高めることができるであろう。
【0080】
開示される本発明の実施形態は、本明細書で開示される特定の構造、プロセスステップ、又は材料に限定されないが、当業者によって認識されるようなその等価物に拡張されることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的でのみ使用され、限定的であることを意図しないことも理解されたい。
【0081】
本明細書中での一実施形態(one embodiment)又は一実施形態(an embodiment)への参照は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書中の種々の箇所での表現「一実施形態では(in one embodiment)」又は「一実施形態では(in an embodiment)」の出現は、必ずしも全て同じ実施形態を参照していない。例えば、約又は実質的になどの用語を用いる数値を参照する場合は、正確な数値も開示される。
【0082】
本明細書では、複数の事項、構造要素、組成要素、及び/又は材料は、便宜上、共通のリストに表すことができる。しかし、これらのリストは、リストの各メンバーが、別の及び独自のメンバーとして個々に識別されるように解釈されるべきである。したがって、そのようなリストの個々のメンバーは、それとは反対の指示がない限り、共通の群に存在するというだけで、同じリストの他の任意のメンバーと事実上、等価であると解釈されるべきではない。さらに、本発明の種々の実施形態及び実施例は、その種々の構成要素の代替と共に本明細書で言及することができる。そのような実施形態、実施例、及び代替は、互いに事実上等価と解釈されるべきではなく、本発明の別の及び自立した代表と考えるべきであることが理解されよう。
【0083】
さらに、記載した特徴、構造、又は特性は、1つ又は複数の実施形態で任意の適切な方法により組み合わせることができる。この説明では、本発明の実施形態の完全な理解を可能にするために、多くの具体的詳細、例えば、長さ、幅、形状などの例が提供される。しかし、当業者は、本発明が、1つ又は複数の具体的詳細なしで、又は他の方法、成分、材料などを用い実施できることを認識するであろう。
【0084】
前述の実施例は、1つ又は複数の特定の用途での本発明の原理を例示するが、発明力の行使なしに、及び本発明の原理及び概念から逸脱することなく、形態、使用及び実施の詳細について多くの改変が実施できることが当業者に明らかであろう。したがって、以下に記載する特許請求の範囲による場合を除いて、本発明が制限されることは意図しない。
【0085】
以下の非限定例は、本発明の実施形態で得られる利点を単に示すものである。
【実施例
【0086】
実施例1-多孔質CNF膜の製造及び分析
材料:
フリューダイザー(Microfluidics Corp.,Newton,MA,USA)によりパルプを6回分解することにより、未乾燥のカバノキパルプからCNFを調製し、ヒドロゲルの濃度は約1.5重量%であった。
【0087】
連続遠心分離によるCNF分散液の分画:
脱イオン水を添加し、次に高せん断ホモジナイザー(Ultra Turrax T25 basic IKA Labortechnik)を用い11,000rpmで30分間激しく撹拌し均質化することにより、ヒドロゲルを0.3重量%に希釈した。希釈及び均質化の後に、元のCNF分散液を図1に示すように遠心分離し、それによって、5,000gでの最初の遠心分離を行い、上清を収集した。この第1の画分のCNFは、以下で「最も細かいフィブリル」と呼ばれる。
【0088】
次いで、上清の小さな分散フィブリルによる光の散乱から得られる青みがかった色合いが、観察されなくなるまで、上記のように堆積物を繰り返し希釈し、再分散させ、再び遠心分離した。次いで、4,000gのより低い遠心分離速度で同じプロセスを繰り返し、上清を再び収集した。この第2の画分のCNFは、以下で「中間フィブリル」と呼ばれる。
【0089】
最後に、上清が光の散乱から得られる青みがかった色合いを示さなかった場合は、堆積物を回収し、希釈し、再分散させた。この最後の画分中のCNFは、本文中で「最も粗いフィブリル」と呼ばれる。連続遠心分離プロセスにより、種々の透明度を有する分散液が得られ、散乱は、第1の分散液で最も弱く、最後の分散液で最も強い。
【0090】
メソ多孔質CNF膜の製造:次いで、多孔質膜を製造した。湿潤ゲルケーキが形成され、ろ過装置を激しくたたいた時に水層の振動が観察されなくなるまで、3つの分画したCNF分散液の1つの所定量を親水性ポリフッ化ビニリデンフィルター膜(0.45μm、GVWP、Millipore)上に真空ろ過した。ろ過ステップは、通常、15分間で完了した。ゲルケーキへの過剰な機械的擾乱を避けながら、フィルター及びゲルケーキを注意深くガラスシャーレに移し、ゲルケーキの乾燥が起こる前にエタノールをろ紙の端にピペットで、両方がエタノールに完全に浸漬するまで添加した。エタノールに約5分間浸漬後、フィルター及びゲルケーキを平滑ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート上に裏返して置き、ゲルケーキをPTFE上に置き、フィルター膜を上面にした。乾燥を避けるため少量のエタノールをピペットでゲルケーキ上に加え、フィルター膜をゲルケーキから注意深く剥がし、捨てた。ゲルケーキを、2-プロパノールで、通常、5分間覆って、ゲルに残る水及びエタノールを2-プロパノールに交換し、その後、使用した2-プロパノールを捨て、新しいものを添加した。これを3回繰り返した。2-プロパノールへの溶媒交換後に、オクタンを使用して同じ手順を繰り返した。ゲルケーキをオクタンに3回浸漬した後、過剰のオクタンを捨て、ガラスシャーレで部分的に覆いながらゲルケーキをPTFEシート上で周囲条件下ゆっくり乾燥させた。全ての浸漬ステップ中に、乾燥を避けるために、ゲルケーキ及び溶媒を反転したシャーレで覆った。
【0091】
多孔質膜と対照的に、フィルター膜の剥離後に溶媒を交換して水に戻したという違いを有する、膜と類似の方法で緻密CNF膜を製造した。この場合、ゲルケーキをPTFEシート上でゆっくり乾燥し、水を除いた。
【0092】
厚み測定:変位センサー(LGF-0110L-B、ミツトヨ)、デジタルリーダー(EH-10P、ミツトヨ)及びセンサーの支持体を有する測定テーブル(215-514コンパレータスタンド、ミツトヨ)からなる膜厚測定セットアップを用いてフィルムの厚さを測定した。
【0093】
分画したCNFのAFM物性評価:分画したCNFの形態を、NanoScopeVコントローラ(Veeco)を備えたDimension5000走査プローブ顕微鏡を用いて調べた。分画したCNFの分散液を脱イオン水で約0.001重量%に最初に希釈して試料を調製し、きれいな顕微鏡スライドガラス上にピペットで移した。スライドガラスを垂直に向けて、過剰の分散液を除去した。次いで、測定前に試料を室温で24時間乾燥した。MicroMash(Tallinn、Estonia)製のシリコンカンチレバー(NSC15/AIBS)を使用して、空気中でタッピングモードにて像を走査した。基材のバックグラウンドを平坦化し、走査アーチファクトから縞を除去するためにデータを後処理した。
【0094】
全透過率測定:光ファイバー(Thorlabs FC-UV100-2-SR)と連結したキセノンランプOcean Optics HPX-2000を用いて、試料に光を当てた。積分球(Labsphere)により、透過光を集光し、シグナルを分光計Avantes HS2048により取得した。積算時間を1秒に設定し、各様々な厚さの試料について10スペクトルを取得し、平均値を求めた。結果を図2に示す。
【0095】
さらに、透明、半透明、及び白色の膜の反射率値を測定した。測定は、標準白色ディフューザに関して正規化し、開口数(NA)0.95を用いて収集した。結果を図3(A~C)に示す。フィルムの厚さを凡例に記載する。
【0096】
SEM物性評価:乾燥した多孔質CNF膜の上面図及び断面図をSEMで画像化した。上面図の画像化では、膜の小片を切断し、カーボンテープを用いアルミニウムSEMスタブに貼付した。約2nm厚の金膜をスパッタした(Emitech K100X)。画像化は、加速電圧1~2kVのZeiss Sigma VP走査電子顕微鏡で行った。結果を図4に示す。
【0097】
したがって、膜を形成する前に、粒子の画像化も行った。この目的のため、図5に示すように一連のAFM顕微鏡写真を得た。
【0098】
ファイバー直径のヒストグラムを図6に示し、パラメーターは以下の表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
窒素吸着による比表面積及び細孔粒度分布:Micromeritics TriStar II自動システムを用いて、3つの同一条件で製造したCNF膜の各々について少なくとも一度はN2物理吸着データを測定した。トランスデューサをゼロ点調整し、ヘリウムを用い室温と測定温度(77K)の両方で自由空間測定を行う前に、試料各10~20mgをその測定容器内で1時間真空下で安定化させた。100以上のデータ点を記録しながら、相対圧力を0から0.99に増加させ、元に戻すことにより、吸着等温線を収集した。Brunauer-Emmett-Teller比表面積分析(BET)は、0.05~0.30の相対N2蒸気圧で行った。全吸着等温線範囲からBarrett-Joyner-Halenda(BJH)法に従い、細孔粒度分布を決定した。
【0101】
結果を図7に示す。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本材料は、白色増強剤として、及び一般に従来の白化材料の置換のために使用することができる。この増強により、材料は、他の色を強化するために、例えば、強い着色に必要な顔料の量を下げるために使用することもできる。
【0103】
本発明を利用する可能性には、例えば、セキュリティ印刷、塗料、顔料及び種々の異なる種類のコーティングがある。さらに、本材料は、少量ですでに効率的である無毒性材料をベースとするので、食品及び化粧品業界での添加剤として有用である。
【0104】
[項目]
以下の項目は、本発明の実施形態を示す。
1.フィブリル状、長尺状又は円盤状の粒子をベースとする多孔質材料を製造する方法であって、
10~1000nmの直径を有するコロイド粒子の1つ又は複数の画分を用意するステップ、
コロイド粒子を溶媒に分散させるステップ、及び任意選択で粒子を濃縮するステップ、
任意選択で、粒子を再分散させるステップ又は粒子を分散させる溶媒を変更するステップ、及び
乾燥ステップを実施するステップ
を特徴とする方法。
2.画分の分離が、遠心分離、例えば、連続遠心分離を用いて達成される、項目1に記載の方法。
3.コロイド粒子が、任意選択で漂白されている、フィブリル状、長尺状、又は円盤状の粒子、例えば、セルロース、キチン、藻類、竹、合成若しくは天然クレイ、無機チタン若しくはアルミニウム化合物、又は結晶化したワックス、脂肪若しくは糖から選択され、粒子が、好ましくはフィブリルの形態である、項目1又は2に記載の方法。
4.分散液が、セルロースパルプ化プロセスから得られた、最も適切にはカバノキパルプから形成されたセルロース分散液である、項目1~3のいずれか一つに記載の方法。
5.コロイド粒子の1つ又は複数の画分が、揮発性溶媒に、好ましくはオクタンに、最も適切には5重量%以下の濃度で分散させる項目1~4のいずれか一つに記載の方法。
6.分散液が、5重量%以上、好ましくは10重量%以上、最も適切には20~50重量%の粒子含有量に濃縮される、項目1~5のいずれか一つに記載の方法。
7.対数正規分布による10~1000nmの直径、好ましくは約250nmの平均直径又は厚さを有するコロイド粒子の1つ又は複数の画分が、分散液から分離される、項目1~6のいずれか一つに記載の方法。
8.材料が、粉末として回収され、又は層に塗布されてフィルムを形成する、項目1~7のいずれか一つに記載の方法。
9.材料が、通常、最終乾燥ステップの前に、層に塗布されてフィルムを形成して、濃縮された湿潤ゲルケーキを得る、項目1~8のいずれか一つに記載の方法。
10.着色剤又は香料が、好ましくはコロイド粒子の所望の画分に添加される、項目1~9のいずれか一つに記載の方法。
11.フィブリル状、長尺状又は円盤状のコロイド粒子、少なくとも10~1000nmの直径を有する画分、及び空気又は別の雰囲気ガスから形成され、気孔率20%以上を有する多孔質フィブリル系材料。
12.粒子が、セルロース、キチン、藻類、竹、合成若しくは天然クレイ、無機チタン若しくはアルミニウム化合物、又は結晶化したワックス、脂肪若しくは糖から形成され、好ましくは対数正規分布による10~1000nm、好ましくは150~500nmの直径又は厚さ、最も適切には約250nmの平均直径又は厚さを有する、項目11に記載の多孔質フィブリル系材料。
13.20~80体積%の固体、好ましくは最大70体積%の固体、最も適切には約50%を含む、項目11又は12に記載の多孔質フィブリル系材料。
14.10~1400kgm-3、好ましくは400~950kgm-3の範囲の密度を有する、項目11~13のいずれか一つに記載の多孔質フィブリル系材料。
15.0.1~100μm、好ましくは3~50μmの厚さを有する膜の形態である、項目11~14のいずれか一つに記載の多孔質フィブリル系材料。
16.粉末の形態である、項目11~14のいずれか一つに記載の多孔質フィブリル系材料。
17.波長500nmを用いて測定したときに、材料厚さ10μmに対して、全透過率90%未満、通常、全透過率70%未満、好ましくは全透過率50%未満、より好ましくは全透過率30%未満、最も適切には全光線透過率10%未満を有する、項目11~16のいずれか一つに記載の多孔質フィブリル系材料。
18.材料厚さ2.5μmに対して全反射率40%超、又は材料厚さ10μmに対して全反射率30%超、通常、材料厚さ10μmに対して全反射率50%超、好ましくは材料厚さ10μmに対して全反射率70%超、最も適切には材料厚さ10μmに対して全反射率90%超を有する、項目11~17のいずれか一つに記載の多孔質フィブリル系材料。
19.請求項1~10のいずれか一つに記載の方法を用いて製造される、項目11~19のいずれか一つに記載の多孔質フィブリル系材料。
20.顔料、色、白色増強剤若しくは塗料としての、又は保護フィルムとしての、又は化粧品若しくは薬剤での、又は太陽電池中の集光要素としての、項目11~19のいずれか一つに記載の又は請求項1~10のいずれか一つに記載の方法で製造される、多孔質フィブリル系材料の使用。
【0105】
[引用文献リスト]
本明細書中に記載した全ての文献を、参照によりその全体を本明細書に組み込む。
特許文献
US2015234098
非特許文献
Bettini S, Boutet-Robinet E, Cartier C, et al (2017) Food-grade TiO2impairs intestinal and systemic immune homeostasis, initiates preneoplasticlesions and promotes aberrant crypt development in the rat colon.
Caixeiro S, Peruzzo M, Onelli OD, et al (2017) DisorderedCellulose-Based Nanostructures for Enhanced Light Scattering. ACS Appl MaterInterfaces 9:7885-7890.
Fang Z, Zhu H, Yuan Y, et al (2014) Novel nanostructured paper withultrahigh transparency and ultrahigh haze for solar cells. Nano Lett 14:765-773.
Toivonen et al. (2015) Ambient-Dried Cellulose Nanofibril AerogelMembranes with High Tensile Strength and Their Use for Aerosol Collection andTemplates for Transparent, Flexible Devices. Adv. Funct. Mater. 25: 6618-6626
【0106】
[関連出願]
本件は、参照により本明細書にその内容の全体を組み込む、2017年9月26日(26/09/2017)に出願されたフィンランド特許出願第FI20175855号の優先権及び利益を主張する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10