(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】肥料原料の保管方法
(51)【国際特許分類】
C05B 13/00 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
C05B13/00
(21)【出願番号】P 2021031286
(22)【出願日】2021-02-27
【審査請求日】2023-07-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523234898
【氏名又は名称】伏木 静子
(73)【特許権者】
【識別番号】523234902
【氏名又は名称】伏木 龍之介
(73)【特許権者】
【識別番号】523234913
【氏名又は名称】伏木 千夏
(74)【代理人】
【識別番号】100184273
【氏名又は名称】川上 則明
(72)【発明者】
【氏名】伏木正清
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-177381(JP,A)
【文献】特開2010-235383(JP,A)
【文献】特開2011-20904(JP,A)
【文献】特開2016-44117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肥料原料の保管方法において,
前記肥料原料は少なくともリンを含有する、下水汚泥,家畜ふん尿,家庭食品残渣,食品流通残渣,農作物非食部残渣,または漁業残渣より選択される少なくとも1つを含む被溶融物を溶融し得られるスラグであり,
前記スラグは降雨を伴う屋外で保管されることを特徴とする肥料原料の保管方法。
【請求項2】
前記溶融は,回転式表面溶融炉または旋回流式溶融炉によるものであることを特徴とする請求項1に記載の肥料原料の保管方法。
【請求項3】
前記被溶融物は,リン酸に加え,加里,苦土,石灰,ケイ酸,または鉄より選択される少なくとも1つの肥料成分を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の肥料原料の保管方法。
【請求項4】
前記肥料原料はヒルガード法で測定した最大容水量が200以下であることを特徴とする請求項1乃至
3の何れか1項に記載の肥料原料の保管方法
【請求項5】
前記溶融は,石灰系および/または鉄系の助剤が使用されることを特徴とする請求項1乃至
4の何れか1項に記載の肥料原料の保管方法。
【請求項6】
前記溶融における溶融炉内の雰囲気を半還元状態または還元状態とすることにより,被溶融物に含まれる鉄の一部またはすべてを金属形態の鉄として組成分離した形態とするとともに,該鉄をスラグ組成から分離除去することを特徴とする請求項1乃至
5の何れか1項に記載の肥料原料の保管方法。
【請求項7】
前記溶融で得られる溶融物を急冷後,前記金属形態の鉄を磁力選別または比重選別によりスラグから分離除去することを特徴とする請求項
6に記載の肥料原料の保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,下水汚泥,家畜ふん尿,家庭食品残渣,食品流通残渣,食品工業残渣,農地における農作物非可食部残渣,漁業残渣等の有用資源から生成される肥料原料において,肥料成分品質を劣化させることなく,しかも経済的に保管する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
わが国は肥料及び肥料原料の殆どを輸入に依存している。肥料は我々が生きていく上で欠くことのできない食料生産資材である。食料供給が安定しているからこそ,高次産業分野の発展が約束されると言っても過言ではない。輸入依存率が高い状態は,為替やエネルギーコストの影響を受けやすく,食料供給の安定化を維持するには,輸入商,肥料商,農家,畜産家,酪農家,食料卸業,食品加工業,食品小売業,消費者の何れかの商流段階に価格転嫁というしわ寄せを生じさせることとなる。
【0003】
一方,下水汚泥,家畜ふん尿,家庭食品残渣,食品流通残渣,食品工業残渣,農地における農作物非可食部残渣,漁業残渣等の有用資源は,乾燥による方法(以下,乾燥法という。),発酵による方法(以下,発酵法という。),焼成による方法(以下,焼成法という。),化学的処理による方法(以下,化学法という。),溶融による方法(以下,溶融法という。)など様々な肥料化方法が先行特許技術として提供されている(特許文献1乃至5)。
【0004】
前記有用資源には窒素,リン酸,加里,石灰,苦土,けい酸,鉄,などの肥料養分が含まれている。これら肥料養分の中でも特にリン酸の元となるリン鉱石の寿命は,2013年時点の経済埋蔵量と採掘量から200年~300年と試算されている。世界人口はこの先2100年まで増加の一途を辿るとも言われており,今後のリン需要の増加は不可避でありリン鉱石寿命をさらに縮めてしまうことが予想される。リン鉱石の枯渇は食糧難を招き,紛争要因の一つとなり得ることが懸念される。これを回避するために,リンを含む肥料原料を,品質安定性・経済性に優れた方法で確保・備蓄し,必要な時に必要な量を供給できる技術を提供することが極めて重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-256400号公報
【文献】特開2004-89931号公報
【文献】特開2014-122132号公報
【文献】特開2001-80979号公報
【文献】特開2003-62547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,特許文献1から5に開示された技術は,いずれも肥料用途の可能性を有する有用資源を肥料製品化するための手段に限定されている。これら技術を用いた肥料事業を考える上で,大量の肥料原料を備蓄保管するステップは避けて通れないにもかかわらず,先行技術文献では有効な備蓄保管技術について言及すらされていない。肥料は食料生産に必要不可欠の材料であるため,国民の日常的な負担を大きくしないためにも,肥料製造工程に至るまでのコストも極力増加させないような技術導入が必要となる。
【0007】
大量の肥料原料を保管する場合,最も経済的な方法として露天保管(屋外ヤードでの保管)が容易に想起される。しかしながら,肥料原料を屋外で保管する場合、降雨により肥料成分が流亡してしまうなど,肥料原料としての品質が劣化するおそれがあるが,そのための有効な対処法は知られていなかった。このため,倉庫を利用し屋内などの雨除けできる施設内で保管することにより肥料品質を維持する必要があったが,これは経済性の面で課題が残る保管方法であった。
【0008】
ここで,先行技術文献において登場する“ク溶性”及び“可溶性”成分表記の意味について,曖昧な解釈や誤解を払拭するための説明を補足する。
【0009】
ク溶性成分とは,2%クエン酸液に可溶な性質の成分である。成分名称から,クエン酸にのみ溶ける性質の成分であると誤解しがちであるが,分析手法によると,分析試料をそのまま2%クエン酸液を加えて抽出が行われるため,正確には,水溶性の形態で存在している成分も含まれていることに注意が必要である。可溶性成分については0.5mol/リットル濃度の塩酸に可溶な性質の成分であるが,これもク溶性成分と同様の注意が必要である。
【0010】
このように,ク溶性や可溶性の解釈を誤ると,肥料原料の屋外保管において保管期間が長いほど貴重な有効成分は流亡することになる。
【0011】
発明者は,この点に留意しつつ,肥料生産工程に至るまでの保管期間中(待機期間中)に,経済性と成分品質安定性を維持できるような性質に変換するための前記有用資源の処理方法及び保管方法の究明が解決すべき真の課題であると確信した。
すなわち,本発明の目的は、リンを含む肥料原料を品質安定性・経済性に優れた方法で確保・備蓄し,必要な時に必要な量を供給できる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために発明者が思考と努力を重ねた結果,スラグ系肥料原料は,流亡指数,保水力,固結性といった屋外保管特性に優れることを見出した。なお,本明細書においてスラグ系肥料原料とは,下水汚泥等の有用資源を溶融して得られるスラグからなる肥料原料のことをいう。本発明はこの新たに見出されたスラグ系肥料原料の特性に基づくものであり,その発明は,肥料原料の保管方法において,前記肥料原料は少なくともリンを含有する被溶融物を溶融して得られるスラグであり,前記スラグは屋外で保管されることを特徴とする。スラグ系肥料原料を保管対象とすることで,肥料原料としての品質を維持したまま,長期間屋外保管することが可能となる。
【0013】
また,前記溶融は,回転式表面溶融炉または旋回流式溶融炉によるものであることを特徴とする。溶融装置として回転式表面溶融炉または旋回流式溶融炉を用いることにより,肥料成分品質を保持させながら溶融することが可能となる。
【0014】
また,前記被溶融物は,下水汚泥,家畜ふん尿,家庭食品残渣,食品流通残渣,農作物非食部残渣,または漁業残渣から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする。
また,前記被溶融物は,リン酸に加え,加里,苦土,石灰,ケイ酸,または鉄より選択される少なくとも1つの肥料成分を含むことを特徴とする。
また,前記肥料成分の流亡指数は0.5以下であることを特徴とする。
また,前記肥料成分はヒルガード法で測定した最大容水量が200以下であることを特徴とする。
【0015】
また,前記溶融は,石灰系および/または鉄系の助剤が使用されることを特徴とする。これら助剤の使用によって,溶融装置の燃費向上や,得られる肥料原料の肥料成分品質の向上,排ガス処理のための煙道や集塵装置におけるリンの乾留による閉塞や濾布機能低下等のトラブル防止などの効果が得られるほか,特に回転式表面溶融炉においては,炉内雰囲気が半還元状態乃至還元状態となるため,助剤として添加した鉄系材料の一部が還元されてスラグ組成とは独立した金属形態の鉄となり,磁力選別や比重選別などの方式により必要に応じて除外する際に有効となる。
【0016】
また,前記溶融において,溶融炉内の雰囲気を半還元状態乃至は還元状態とすることにより,被溶融物に含まれる鉄の一部またはすべてを金属形態の鉄として組成分離した形態とするとともに,該鉄をスラグ組成から分離除去し易くすることを特徴とする。金属形態の鉄を除去することは,スラグを肥料化する際に肥効成分を高めることに寄与する点で有利なものづくりの方法になるとともに,除去した金属形態の鉄をスクラップなどの金属資源としてリサイクルすれば,廃棄物を余すことなく循環させる仕組みの構築に貢献するものとなる。
【0017】
また,前記溶融で得られる溶融物を急冷後,前記金属形態の鉄を磁力選別または比重選別によりスラグから分離除去し易くする手段とは,溶融炉から排出される溶融物を急冷することで,溶融物は物理的衝撃(ヒートショック)を受け急速減容自壊され,スラグ相と金属形態の鉄の相とが独立し,金属形態の鉄の除去が容易になる。
【0018】
また,本発明の屋外保管用肥料原料は,少なくともリンを含む被溶融物を溶融することで得られるスラグからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば,スラグ系肥料原料を保管対象とすることで,肥料原料としての品質を維持したまま,肥料原料の長期間の屋外保管が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】有用資源を溶融炉でスラグ化して得られた肥料原料を屋外保管する工程の一例を示すフローチャートである。
【
図2】各肥料原料の固結強度結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を
図1のフローチャートを用いて説明する。なお,以下に説明する実施形態は,いずれも本発明の一例であり,該記載により本発明が限定されるものではなく,本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【0022】
本発明の被保管物であるスラグ系肥料原料は,有用資源を汚泥化する工程と,溶融工程と,冷却工程と,を含む工程により製造される。こうして製造された肥料原料は屋外保管することができる。そして,該肥料原料に対し肥料化工程を施すことにより,最終的に肥料公定規格を満たす肥料が製造される。
【0023】
なお,本明細書において,有用資源とは,下水汚泥,家畜ふん尿,家庭食品残渣,食品流通残渣,食品工業残渣,農地における農作物非可食部残渣,漁業残渣等の肥料原料となり得る資源のことをいう。
【0024】
以下,各工程について説明する。
【0025】
(汚泥化工程)
汚泥化工程は有用資源を汚泥化する工程であり、有用資源の種類に応じ、その具体的態様は異なる。例えば、家庭食品残渣等のいわゆる生ゴミの場合、微細化(スラリー化)装置により汚泥が生成される。ここでは、有用資源が下水汚泥の場合について詳細に説明する。
下水汚泥の汚泥化は、下水汚泥から水分を分離することで達成される。
まず、下水汚泥を下水処理場又は下水処理機能を有する施設に流入させる。次いで施設に流入させた流入水を,重力沈降させた後ろ過し,処理水1と初沈汚泥とに分離する(第1次分離)。なお,施設に流入される流入水の成分は,施設ごと及び発生時期よって大きく変動する。
【0026】
次に処理水1に対し,微生物処理(活性汚泥法,散水ろ床法,嫌気性消化法等)を行い,処理水1中の有機物を分解して沈降させた後,ろ過して処理水2と濃縮汚泥とに分離する(第2次分離)。
【0027】
処理水2に対して凝集剤を添加して,該処理水2中の懸濁粒子同士を接着させてフロックを生成させる。そして,該フロックを重力によって沈降させた後,ろ過し,処理水3と濃縮汚泥とに分離する(第3次分離)。
【0028】
そして,第1次乃至第3次分離で得た濃縮汚泥をフィルタープレスやスクリュープレス等で機械濃縮し,処理水4と脱水汚泥とに分離する。
【0029】
なお、上記第3次分離処理において使用される凝集剤としては,アルミ系凝集剤,鉄塩系凝集剤,石灰系凝集剤,ケイ酸系凝集剤及び高分子系凝集剤が挙げられるが,アルミ系凝集剤の使用は,難溶性のリン酸アルミニウムを生成するため,得られるスラグのク溶性リン酸含有量及びク溶性リン酸率(リン酸全量に占めるク溶性リン酸含有量の割合),いわゆる肥料的効果を損なわせるおそれがある。また,石灰系凝集剤の適度な使用はク溶性リン酸含有率及びク溶性リン酸率の向上に寄与するが,過度な使用は相対的な成分減少を招くおそれがある。さらに,ケイ酸系凝集剤の使用はク溶性リン酸の相対的減少を招くおそれがある。一方,高分子系凝集剤及び/又は鉄塩系凝集剤は,スラグ中のク溶性リン酸含有率及びク溶性リン酸率を高めるため選択的に使用することが最も好ましい。
【0030】
(溶融・冷却工程)
汚泥化で得られた脱水汚泥を加熱・乾燥させた後,溶融助剤(Ca、Feなど)を添加して1300℃前後以上の温度で溶融処理した後,水冷(急冷)あるいは空冷(徐冷)してスラグ化する。生成されるスラグは水冷の場合,最大径が概ね20mm以上50mm以下の脆い礫状となる。
【0031】
なお,有用資源は、汚泥化を経由せずに溶融工程に投入しても良い。また,溶融工程においては,汚泥を乾燥させた後、該汚泥を焼却する工程を挿入しても良く,焼却工程で得られる焼却灰に対して溶融助材や成分調整剤などを添加した後に溶融してスラグを得ても良い。
【0032】
また,シャフト炉に代表されるコークスベット式溶融炉のような溶融方式では,溶融に必要な熱量を得るために大量のコークスを使用するため,コークスに由来するSiO2やAl2O3が大量に持ち込まれてしまい,作物生育にとって重要な肥効成分であるリン成分を難溶化させるとともに相対的に低下させてしまう。このことから,SiO2やAl2O3の持ち込みによるリン成分の相対的低下が起こらない方式として回転式表面溶融炉や旋回流式溶融炉のような溶融方式が好ましい。また,耐火物の消耗頻度(耐火物の寿命)や燃費等の経済的観点を加えると,表面溶融式溶融炉がより好ましい。
【0033】
さらに,回転式表面溶融炉においては,炉内雰囲気が半還元状態乃至は還元状態となるため,助剤として添加した鉄系材料の一部またはすべてが還元されてスラグ組成とは独立した金属形態の鉄となり,磁力選別や比重選別などの方式により必要に応じて除外することができる。また,回転式表面溶融炉から排出される溶融物を急冷することで物理的衝撃(ヒートショック)を与えて急速減容させることで自壊させれば,さらにスラグ相と金属形態の鉄の相に独立させることができ,金属形態の鉄の除外が容易になる。
【0034】
この金属形態の鉄を除去することは,スラグを肥料化する際に肥効成分を高めることに寄与する点で有利なものづくりの方法になるとともに,除去した金属形態の鉄はスクラップなどの金属資源としてリサイクルすれば廃棄物を余すことなく循環させる仕組みの構築に貢献するものとなる。
【0035】
なお,鉄の除去は,保管工程前に限らず,屋外保管時あるいは屋外保管後に行ってもよい。これは、生成される金属鉄は球形状であり,屋外で長期間保管して酸化が進行しても,酸化は表面部分に留まるため,強磁性は失われないことによる。
【0036】
(保管工程)
溶融・冷却工程で得たスラグは,屋根のある倉庫で屋内保管し得ることはもちろんであるが,この場合,肥料品質は維持されるが倉庫が必要となる分,経済性に劣る。これに対し,本発明におけるスラグ系肥料原料は,屋根のない屋外に露天保管しても肥料成分品質に影響を与えることない。このため肥料原料保管用の倉庫を用意する必要がなく,高い経済的効果を得ることができる。
【0037】
肥料成分は,一般的に比表面積が大きいほど流亡する傾向にあるが,生成されたスラグはそのままの形状で屋外保管しても良い。また,後述するように,スラグ系肥料原料は,流亡指数を始めとする野外保管特性(流亡指数、吸水力、固形性)が非常に優れているので,必要に応じ,所望の大きさに粉砕しても,肥料品質を低下させずに屋外保管することができる。
【0038】
例えば,スラグをジョークラッシャ,二軸粉砕機またはロールクラッシャなどにより粉砕し,粉砕後のサイズが目開き10mmのメッシュのスクリーンを8割以上が通過する大きさにすることで,保管の際のハンドリング性が向上されるとともに,混合により肥料原料の成分の均質性を向上させることができる。なお,均質性をより高めたい場合は,目開き5.6mmのメッシュのスクリーンを8割以上が通過する大きさとすることがより好ましく,さらに好ましくは目開き2mmのメッシュのスクリーンを8割以上が通過することが好ましい。
【0039】
ただし,過粉砕すると,降雨の際の粒子そのものの流出や,スラグの吸水力が増してしまうおそれがあるので,粉砕機のスラグ通過箇所のクリアランスを2mmで設定することが望ましい。
【0040】
また,保管にあたっては,スラグに対し特別な被覆処理を施す必要はなく,スラグの状態のままで山積みすれば良い。
【0041】
屋外保管が実施される場所は,特に限定されないが,重機によるハンドリングの際に,地盤を構成する母材の混入を避けるため,コンクリート又はアスファルト舗装されたヤードが好ましく,降雨後の水切り性を高めるために該ヤードが一方向に傾斜していることがより好ましい。また,例えば重機の加重に耐えられる厚みの鉄板を敷き詰めた形式のヤードでも良い。
【0042】
(肥料化工程)
肥料化工程では,保管していた肥料原料としてのスラグをロータリードライヤーなどの乾燥装置で乾燥した後に,ボールミルなどの粉砕装置で粉砕し,目開き1mmのメッシュのスクリーンを8割以上が通過するように篩分けすることにより,肥料の粒状化に適したサイズとする。これは,流通する肥料製品の殆どが粒状製品で占められており,多数派の需要に応えるためである。また,併せて肥料の成分規格を満たすように成分調整を行う。これらの処理が完了後,包装し,製品化される。
【0043】
なお,最終品としての肥料の形態で保管することも考えられるが,この場合,包装後にあっては包装紙等を濡らさない必要上,屋内保管が求められる。また,包装直前の肥料を保管する場合にあっても,肥料サイズが小さいため,仮に屋外で降雨に遭遇すると流出,紛失,大量吸水,固結してしまうおそれが生じるため,やはり屋内保管する必要がある。
【0044】
以上の理由により,肥料化工程後の肥料としてではなく,肥料原料の状態で保管することにより,野外保管が可能となる。
【実施例】
【0045】
以下,本発明を実施例により説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0046】
(流亡指数)
溶融法で得たスラグ系肥料原料(実施例11),焼却法による灰系肥料原料(比較例11)、発酵法による有機物系肥料原料(比較例12),化学法による結晶系肥料原料(比較例13)からなる試料それぞれを目開き4mmの網篩に全通させ,試料:溶媒=1:10の割合で混合後,常温・常圧下で6時間振とうした。振とう後,濾過することにより得た濾液中に含まれる肥効成分を分析し,単位重量あたりの溶出量を算出した。なお,溶媒には,屋外保管期間に降雨に晒されることを想定し,蒸留水を用いた。各成分の分析方法,分析装置を表1に示す。また、実験に用いた各肥料原料の成分値および溶出試験の結果得られた溶出量を表2に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
次に,算出した溶出量に基づき,流亡指数を以下の式で求めた。なお,成分の全量値または溶出値が検出限界値未満のデータは0とした。
【0050】
流亡指数=[各成分の溶出値(mg/L)]/[各成分の全量値(%)] ・・・・(式1)
【0051】
求めた各肥料原料の成分ごとの流亡指数を表3にまとめた。
【0052】
【0053】
溶出試験の結果,スラグ系肥料原料の流亡指数は,すべての肥効成分において,0.5以下と極めて小さい値となった。また,灰系肥料原料,有機物系肥料原料,結晶系肥料原料のいずれよりも小さかった。屋外保管を前提とした備蓄保管を行う上で,降雨の影響による肥料成分品質の劣化を抑えることは必須であることから,溶融法によるスラグ系肥料原料が最も好ましい保管形態といえる。
【実施例2】
【0054】
(最大容水量による吸水力評価)
実施例1で用いた各肥料原料について,ヒルガード法により吸水力(最大容水量)を評価した。ヒルガード法では,内径φ56×H10mm、穴径φ1.0mm(4mm間隔)のヒルガード皿を使用した。測定結果を表4に示す。
【0055】
【0056】
試験の結果,スラグ系肥料原料の吸水量は,自重(充填量)の20%以下に過ぎなかった(実施例21)。これに対し,灰系肥料原料の吸水量は,自重の半分を超える量であった(比較例21)。また,有機物系肥料原料では,自重の凡そ1.2倍(比較例22),結晶系肥料原料では,自重とほぼ等しい量であった(比較例23)。最大容水量はこれらに対応し,スラグ系肥料原料では200以下であったのに対し,灰系肥料原料では500以上,有機物系肥料原料,結晶系肥料原料では,1000以上であった。
【0057】
最大容水量が多いことは屋外保管での降雨時に肥料原料が不要な吸水をすることを意味する。この場合,肥料化工程前に乾燥などの予備処理などの負荷工程が必要となる。よって,最大容水量が小さい溶融法によるスラグ系肥料原料が,最も好ましい保管形態であるといえる。
【実施例3】
【0058】
(固結性評価)
固結性評価では,実施例2の保水力評価を行ったヒルガード皿中の吸水済み試料を用いた。これらの試料を80℃,10時間乾燥した後,ヒルガード皿の上面に厚紙を被せて裏返し,ヒルガード皿の底面を薬匙で軽く叩き,各試料を取り出した。取り出した試料を
図2に示す。そして各試料を目視にて観察することで固結の有無を判定した。固結強度は木屋式硬度計((株)藤原製作所製,製造番号No.6110,最大加重=49N)を用いて測定した。固結性評価試験結果を表5に示す。
【0059】
なお,表5における固結強度欄の「測定不能」は固結がないことを意味し,「計測限界未満」は硬度計の針は動いたものの,最低目盛に到達しなかったことを表す。
【0060】
【0061】
固結性評価試験の結果,スラグ系肥料原料では固結が見られなかった(実施例31)が,その他の肥料原料では固結が観察された(比較例31乃至33)。
固結性評価において固結が生じることは,実際に肥料原料を屋外保管した際,降雨に遭遇し,その後に好天となる場合に,肥料原料が固結するおそれがあることを意味する。固結した場合,肥料化工程の前に破砕などの予備処理が必要となるため(負荷要因となる),溶融法によるスラグ系肥料原料が最も好ましい保管形態であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の肥料原料の保管方法は,肥料原料の肥料品質を低下させることなく,しかも経済的に長期間に亘り保管できるものである。このため,雨の多い地域,時期にも適用することができる。