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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】砂防ソイルセメント材の品質管理方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/00 20060101AFI20240220BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20240220BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
E02D1/00
E02D3/12 102
G01N33/38
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023133422
(22)【出願日】2023-08-18
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】399035386
【氏名又は名称】株式会社本久
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(72)【発明者】
【氏名】小布施 栄
(72)【発明者】
【氏名】嶋 丈示
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特許第2751839(JP,B2)
【文献】特許第6569966(JP,B2)
【文献】特開平07-246032(JP,A)
【文献】特開平11-198271(JP,A)
【文献】特許第6601830(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00
E02D 3/12
G01N 33/00-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂防ソイルセメント材の製造工程において、練上がった砂防ソイルセメント材を締め固めて対象表面部を形成し、
前記対象表面部に吸水性シートである含水状態判定シートを載せて、
前記含水状態判定シートを前記対象表面部に接触させ、
前記含水状態判定シートが締め固めにより対象表面部に出た砂防ソイルセメント材が含んでいた水を吸水して示した湿潤状態によって、砂防ソイルセメント材の含水状態が砂防ソイルセメント材による構築物の構築に適しているかの適否を判定する、
ことを特徴とする砂防ソイルセメント材の品質管理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の砂防ソイルセメント材の品質管理方法であって、
前記含水状態判定シートが示す湿潤状態は、
前記含水状態判定シートの色、質感の少なくともいずれか一方が変化することにより示される、
ことを特徴とする砂防ソイルセメント材の品質管理方法。
【請求項3】
請求項1に記載の砂防ソイルセメント材の品質管理方法であって、
前記含水状態判定シートは、
新聞用紙、非塗工の印刷用紙である中質紙、非塗工の下級印刷紙のいずれかにより構成されている、
ことを特徴とする砂防ソイルセメント材の品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂防ソイルセメント材の含水状態の適否を容易に判断するための砂防ソイルセメント材の品質管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
砂防ソイルセメント工法(転圧タイプ)は、現地発生土砂にセメントと水を混ぜて砂防ソイルセメント材を練り上げて、その砂防ソイルセメント材を敷き均して、例えば3~4t級振動ローラーにて無振動2回、有振動で6~10回ほど転圧(締め固め)して砂防施設を構築する工法である。
砂防ソイルセメント(砂防ソイルセメント材で構築した砂防施設、構造)は、例えば3.0N/mm以上の圧縮強度が得られるよう適切な水を加えてセメントの水和反応によって硬化させるものであり、土砂量やセメントの添加量管理だけでなく水の量的管理も重要な品質管理要素となっている。
そのため、土砂の含水比が変化したり含水比が異なる土砂を使用する場合には、土砂に対する加水量を適切に調整して所定の圧縮強度を確保することが重要である。
【0003】
砂防ソイルセメント材を練り上げる際の加水量は、施工に先立ちサンプル採取した土砂の含水比を測定し、用いられる土砂の含水比(含水量)と砂防ソイルセメント材に必要な水の差を加水量として決定することが一般的であり、適切な加水量を決定するために種々の技術が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
このような土砂の含水比の測定は施工日に一回行われるのが一般的であり、この一回の含水比測定でその施工日の砂防ソイルセメント材の加水量が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-111879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、砂防ソイルセメント工法(転圧タイプ)を行う現場の土砂の含水状態は必ずしも一様ではない。例えば、砂防ソイルセメント材に供する土砂そのものの土質は採取位置が異なり、採取位置が近接していても含水比が大きく異なる場合があり、それ以外にも異なる性状の土砂の混入、ストック時における土砂の養生状況(養生の有無など)、土砂移動の際に生じる表面乾燥、降雨時の雨との接触、高温時における水分の蒸発など様々な要因が重なって土砂の含水量は変化し一様とはなりえない。
【0006】
また、川床の砂礫や砂質土は一般的に良質材料とされ少量のセメントで高い圧縮強度と密度が得られる場合が多いが、一方で砂礫・砂質土砂は水分が飛びやすくばらつきが大きくなる(土が暴れる)ことを認識する必要がある。そのため、例えば、気温が高いことによる水分の蒸発や製造工程や転圧(締め固め)のタイムラグによって生ずる水分蒸発の影響のほか,掘削や粒径処理および砂礫や砂質土からなる母材の運搬に伴う含水比の変化や母材の養生状態の有無などの現場状況によって含水比が著しく変化しやすく、加水量の決定時に比べて乾燥状況が著しく速く進行した場合には、砂防ソイルセメント材の含水量が少なくなり、期待どおりの水和反応が起こらず所定の品質を確保できない場合がある。
したがって、施工日に一回の土砂の含水比測定で砂防ソイルセメント材の加水量を決定する場合、土砂の含水比が変化して所定の圧縮強度の確保が困難となる場合がある。
【0007】
一方、施工管理では所定の手順で厳格に作業を行うことが求められるため、含水比測定後に土砂が急速に乾燥して含水比が低下していたとしても状況に応じた加水量の調整ができない実態があるが、一日に何度も含水比を測定することは実務上合理的とはいえない。
そこで、練り混ぜた砂防ソイルセメント材の表面状態の目視確認や触診(砂防ソイルセメント材を掌で握ったときの付着状態)を参考にして砂防ソイルセメント材の含水状態の適否を判断(判定)せざるを得ない場合がある。
【0008】
しかしながら、目視確認は、熟練が必要なうえに母材の表面状態だけで含水状態を判断するため砂防ソイルセメント材の含水比を適切に把握することは容易ではなく母材の表面だけが乾燥している場合にはさらに困難となる。
また、触診による含水状態の判断は、熟練や経験が求められるだけでなく,発注者側の経験が不足していると、発注者が含水状態が適切かどうかを判断することは困難であり、母材の含水状況に応じた柔軟な加水量の調整添加が認められない場合もあり、結果的に砂防ソイルセメント材が水量不足による品質不良を内包して工法の信頼性を損ねるとともに施工管理の難しさがクローズアップされる一因となり、本工法が敬遠される一因ともなっていると考えられる。
そこで、砂防ソイルセメント材の含水量の適否を作業現場(施工現場)においても容易かつ適切に判断(判定)するための砂防ソイルセメント材の品質管理方法に関する技術が望まれている。
【0009】
本発明はかかる技術的背景に基づいて創案されたものであって、砂防ソイルセメント材の含水状態を容易かつ適切に判定することが可能な砂防ソイルセメント材の品質管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
砂防ソイルセメント材の製造工程において、練上がった砂防ソイルセメント材を締め固めて対象表面部を形成し、
前記対象表面部に吸水性シートである含水状態判定シートを載せて、
前記含水状態判定シートを前記対象表面部に接触させ、
前記含水状態判定シートが締め固めにより対象表面部に出た砂防ソイルセメント材が含んでいた水を吸水して示した湿潤状態によって、砂防ソイルセメント材の含水状態が砂防ソイルセメント材による構築物の構築に適しているかの適否を判定する、
ことを特徴とし、
または、
前記含水状態判定シートが示す湿潤状態は、
前記含水状態判定シートの色、質感の少なくともいずれか一方が変化することにより示される、
ことを特徴とし、
または、
前記含水状態判定シートは、
新聞用紙、非塗工の印刷用紙である中質紙、非塗工の下級印刷紙のいずれかにより構成されている、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る砂防ソイルセメント材の品質管理方法によれば、砂防ソイルセメント材の含水状態を容易かつ適切に判定することができる。
また、砂防ソイルセメント材の含水状態を評価する際の客観性が高くなり、水の調整が容易となることで、砂防ソイルセメント材の品質、品質の信頼性の向上することができる。
ひいては、施工現場における施工管理が容易となり、土砂の含水比が変化した場合でも適切に対応して充分な強度の砂防セメント材の構築物を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る砂防ソイルセメント材の品質管理方法の概略を説明するフローチャートである。
図2】一実施形態に係る砂防ソイルセメント材の品質管理方法の概略を説明する概念図である。
図3】一実施形態に係る砂防ソイルセメント材の含水比と施工適否および含水状態判定の一例を説明する図であり、砂防ソイルセメント材の含水比と圧縮強度、施工可否、湿潤状態、含水状態判定、対応の関係を示す図である。
図4】一実施形態に係る砂防ソイルセメント材の品質管理における含水状態判定シートの斑状湿潤状態の一例を説明する写真である。
図5】一実施形態に係る砂防ソイルセメント材の品質管理における含水状態判定シートのほぼ湿潤状態の一例を説明する写真である。
図6】一実施形態に係る砂防ソイルセメント材の品質管理における含水状態判定シートの全面湿潤状態の一例を説明する図である。
図7】一実施形態に係る砂防ソイルセメント材の品質管理における含水状態判定シートの浸水(冠水)湿潤状態の一例を説明する写真である。
図8】本発明に係る吸水性シートの適用可能性を示す図である。
図9】本発明に係る吸水性シートがティッシュペーパーである場合の例を説明する図である。
図10】本発明に係る吸水性シートがキッチンペーパーである場合の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1図2を参照して、本発明の一実施形態に係る砂防ソイルセメント材の品質管理方法(含水状態の適否判定方法)について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る砂防ソイルセメント材の品質管理方法の概略を説明するフローチャートであり、図2は品質管理方法の一例を示す概念図である。図2において、符号Tは砂防ソイルセメント材を、符号Sは対象表面部を、符号Mは供試体形成用モールドを、符号Cは含水状態判定シート(吸水性シート)を示している。また、図2(C)に符号Wで示した「●」は吸水性シートに吸着された水を強調して図示したものである。
【0014】
(1)対象表面部の形成(S01)
まず、砂防ソイルセメント材の対象表面部を形成する。
砂防ソイルセメント材の対象表面部は、練り上げた砂防ソイルセメント材を敷き均し、締め固め(転圧)をしてその上面に形成する。図2は、砂防ソイルセメント材Tが3層で構成されていることを示している。
なお、対象表面部の形態は任意に設定してもよい。例えば、供試体を形成するための供試体形成用モールドに砂防ソイルセメント材を注型して形成した砂防ソイルセメント材の供試体の表面(上面)を対象表面部としてもよいし、施工現場で砂防ソイルセメント材を敷き均して締め固め(転圧)をした構築物の表面(上面)を対象表面部としてもよい。
なお、砂防ソイルセメント材の敷き均し、締め固めを複数回実施して複数の層が形成される場合は、その最上面を対象表面部としてもよいし、供試体や構築物を形成する際の一つ又は複数の任意の層の上面を対象表面部として判定してもよい。
例えば、供試体形成用の供試体形成用モールドを用いる場合は、図2(A)に示すように、有底円筒状の供試体形成用モールドMに砂防ソイルセメント材Wを注型して締め固める。
具体的には、例えば砂防ソイルセメント材を3回に分けて供試体形成用モールドMに注型して敷き均し、砂防ソイルセメント材を締め固める。この作業を3回繰り返して3層の砂防ソイルセメント材からなる供試体が形成される。図2(A)では3層目の砂防ソイルセメント材の上面に対象表面部Sを形成する際の締め固め(転圧)を矢印で示している。
なお、締め固め条件は、例えば、直径15cm、高さ30cmのモールドを用いる場合は、1層あたり突き棒で25回突き、振動締め固め機にて10秒締め固める。この作業を3層繰り返して供試体を形成する。また、直径12.5cm、高さ25cmの供試体を作成する場合は、1層あたり突き棒で18回突き、、振動締め固め機にて6秒締め固める作業を3層繰り返して供試体を形成する。
適切な加水状態で配合された砂防ソイルセメント材Tは適切に締め固めを行うと対象表面部Sにうっすらと水(ノロ)が浮く状態となる。
【0015】
(2)対象表面部に含水状態判定シート(吸水性シート)を載置、押圧圧着(S02)。
対象表面部に含水状態判定シート(吸水性シート)を載置し、押圧することにより、含水状態判定シート(吸水性シート)が対象表面部に圧着されて、含水状態判定シート(吸水性シート)が吸水し易くなる。圧着させることで表面にうっすら浮いた水が含水状態判定シート(吸水性シート)に吸水される。
具体的には、図2(B)に示すように、砂防ソイルセメント材Tの対象表面部Sに含水状態判定シート(吸水性シート)Cを載置する。そして、含水状態判定シート(吸水性シート)Cを押圧部材(不図示)により対象表面部Sに押圧、接触(圧着)させる。
なお、一実施形態では、図4図7に示すような供試体形成用モールドMの内径と対応する円形の含水状態判定シート(吸水性シート)を用いたが、対象表面部Sの表面状態を併せて対比するために半円形の含水状態判定シート(吸水性シート)を用いてもよいし、供試体形成用モールドMの内径に対して大幅に小径に形成された円形、半円形や矩形のものを用いてもよい。
また、含水状態判定シート(吸水性シート)Cとしては、砂防ソイルセメント材Tの対象表面部Sを通じて染み出した水分を吸水して目視可能な湿潤状態を示すものであれば種々のものを適用してもよく、例えば、新聞用紙(新聞紙を含む)を用いることができる。
【0016】
含水状態判定シート(吸水性シート)Cとして新聞紙(新聞用紙)を用いることは、吸水性が良いので短時間で水分(ノロ)が短時間(例えば2秒~3秒)で吸水され、白色度(明度)の変化や湿潤斑(吸水状態の斑)などによって湿潤状態を容易に目視確認できる点で好適である。
また、新聞用紙は吸水による白色度(明度)の変化が顕著で、しかも充分な強度があり破れにくいので、施工時における砂防ソイルセメント材の含水状態の適否を画像として取得する際に、対象表面部から安定して剥がすことが可能であり、第三者が客観的に確認可能な画像を取得する際の自由度が高く客観的な状態で画像を取得、保管することができる。
【0017】
(3)含水状態判定シート(吸水性シート)による吸水(S03)。
砂防ソイルセメント材Wの対象表面部Sに押圧された含水状態判定シート(吸水性シート)Cは、図2(C)に示すように、砂防ソイルセメント材Wが含水状態にある場合は水分(ノロ)を吸水し、含水状態判定シート(吸水性シート)Cのすき間に水分Wが取り込まれて、含水状態判定シート(吸水性シート)Cが湿潤状態となる。
その結果、例えば、含水状態判定シート(吸水性シート)Cの白色度(明度)が変化して、湿潤状態を目視することが可能となる。
【0018】
(4)湿潤状態の目視確認(S04)。
対象表面部に含水状態判定シート(吸水性シート)を圧着して所定時間が経過したら含水状態判定シート(吸水性シート)を目視確認する。
対象表面部に押圧され、圧着された含水状態判定シート(吸水性シート)は、図3に示すように、砂防ソイルセメント材の含水比(含水状態)により乾燥状態から湿潤状態(含む浸水状態)へと変化する。
含水状態判定シート(吸水性シート)の目視確認については、下記(5)含水状態の判定(S05)と合わせて説明する。
【0019】
(5)含水状態の判定(S05)。
次いで、砂防ソイルセメント材の含水状態を判定する。
また、必要に応じて、含水状態判定シートの表面状態(湿潤状態)をカメラ等の撮像手段によって撮影し、施工時の記録として保管してもよい。この場合、含水状態判定シート(吸水性シート)を対象表面部から剥がすかどうかは含水状態を示す特性に基づいて適宜設定してもよい。
【0020】
以下、図3図4図7を参照して、湿潤状態の目視確認(S04)、含水状態の判定(S05)について説明する。
図3は、砂防ソイルセメント材の含水比と施工適否および含水状態判定の一例を説明する図であり、含水比、圧縮強度、施工適否(圧縮強度が基準を満足するかどうか)、含水状態判定シート(吸水性シート)表面の湿潤状態、含水状態判定シートによる含水状態判定(施工の適否判定)、対応の関係を示す図である。
また、図4図7は含水状態判定シート(吸水性シート)の湿潤状態(斑状湿潤状態、ほぼ湿潤状態、全面湿潤状態、浸水状態(冠水状態))の一例を示す写真である。
【0021】
まず、図3を参照して、砂防ソイルセメント材の含水比、圧縮強度、施工適否について説明する。
CASE1~CASE7は、いずれも河床砂礫にセメントと水を混ぜて練り上げて生成した砂防ソイルセメント材であり、CASE1~CASE7は、含水比を5.0%(CASE1)~14.0%(CASE7)までとし、含水比を1.5%間隔で変化させた。
そして、砂防ソイルセメント材を振動締め固め機により3層で締め固めて供試体を作成し、JIS―A1108の方法により材齢28日の供試体の圧縮強度を測定した。
その結果、基準を圧縮強度3.0(N/mm)とした場合、図3に示すように、CASE1、CASE2(含水比5.0%、7.5%)では強度が不足し「施工適否」は「×」(否)であり、CASE3~CASE7(含水比8.0%以上14.0%以下)では圧縮強度3.0(N/mm)に対して強度が確保され「施工適否」が施工可を示す「〇」(適)であった。
【0022】
一方、含水状態判定シートの湿潤状態は、図3に示すように、この実施形態では、「乾燥状態」、「湿潤状態」、「浸水状態」の3通りに分類した。なお、図3の含水状態判定に示した「〇」(適)は湿潤状態が目視確認できることを、「×」(否)は湿潤状態が目視確認できないことを示している。
これによると、CASE1~CASE3(含水比5.0%~8.0%)では含水状態判定シートは吸水していない乾燥状態を示した。
また、CASE4~CASE6(含水比9.5%~12.5%)では含水状態判定シートは「湿潤状態」を示し、CASE7(含水比14.0%)では含水状態判定シートの表面(上側面)に水が浮き上がり浸水状態(冠水状態)を示した。
含水状態判定シートの湿潤状態は、例えば、吸水した領域と吸水していな領域がまだらに分散し斑状に吸水された「斑状湿潤状態」(図4参照)、全面が概ね湿潤である「ほぼ湿潤状態」(図5参照)、全面が湿潤状態となった「全面湿潤状態」(図6参照)、含水状態判定シート(吸水性シート)が水(ノロ)の上まで位置された「浸水状態(冠水状態)」(図7参照)に分類される。なお、「ほぼ湿潤状態」は、「斑状湿潤状態」と「全面湿潤状態」の間の状態である。
【0023】
一実施形態では、CASE4(含水比9.5%)は、図4に示すような斑状に吸水された斑状湿潤状態を示した。
また、CASE5(含水比11.0%)は図5に示すようなほぼ全面が吸水したほぼ湿潤状態を示し、CASE6(含水比12.5%)は図6に示すような全面が吸水した全面湿潤状態を示し、含水状態判定シート(吸水性シート)を目視確認することにより施工が「適」であることが確認できた。
なお、一実施形態における含水状態判定シート(吸水性シート)の湿潤状態は、吸水による含水状態判定シート(吸水性シート)の白色度(JISP8148:2018(ISO2470-2016))や(明度(JISZ8721:1993))が変化することにより形成されたものである。
以上のことから、一実施形態の場合には、含水状態判定シートが湿潤状態を示した場合には、砂防ソイルセメント材に充分な強度が確保されることが確認できた。
【0024】
一方、CASE3では、砂防ソイルセメント材に充分な強度があるにも関わらず、含水状態判定シートは乾燥状態であり、含水状態判定シートの湿潤状態に基づく判定では含水状態が適切であることを検知できなかった。
適否判定では、施工に適した砂防ソイルセメント材と施工に適さない砂防ソイルセメント材を明確に選別可能であることが望ましい。
しかしながら、仮に施工に適したものが使用できない場合があったとしても、施工に適さないものを確実に排除して施工に適した砂防ソイルセメント材だけを確実に選別できれば、十分な強度が得れる砂防ソイルセメント材を用いて施工することが可能となるので実用上十分である。
【0025】
なお、CASE7(含水比14.0)は湿潤状態を超えて、図7に示すような浸水状態(冠水状態)を示し、圧縮強度3.0(N/mm)に対するマージンが湿潤状態のものに対して低下が見られることから、砂防ソイルセメント材に用いる現地土砂の性状等と圧縮強度の関連を充分に把握したうえで判定することが望ましい。
【0026】
以上のように、上記実施形態においては、含水状態判定シートを用いて「適」と判定した場合は圧縮強度が十分確保でき、施工前の砂防ソイルセメント材の含水状態が施工に適切かどうかを管理監督者によって容易かつ簡易に判定して安定した施工ができる。
【0027】
なお、含水状態判定シート(吸水性シート)による砂防ソイルセメント材の含水状態の判定については、例えば、吸水による色(明度や白色度)の変化に限定されるものではなく、色(明度や白色度)変化に代えて、または色(明度や白色度)変化に加えて、表面のしわや不透明度(JISP8149:2000)の変化による対象表面部の透過可視性や湿潤状態に基づいて示される発色性等に基づいて判定してもよい。
また、含水状態判定シート(吸水性シート)が示す状態変化は可逆的、不可逆的のいずれであってもよい。
【0028】
また、含水状態の判定に際して、含水比が既知のサンプルを用いて作成した品質基準(色やしわ、不透明度等の品質見本、限度見本等の画像など)と対比して判定してもよい。このようにすることにより、施工に適した含水状態のなかからさらに適した強度が得られる砂防ソイルセメント材を選別することができる。
〔含水状態判定シート(吸水性シート)〕
【0029】
以下、図8図10を参照して、含水状態判定シートを構成する吸水性シート(吸水性材料)について説明する。
図8は本発明に係る吸水性シートの適用可能性を示す図であり、図9図10は吸水状態を説明する図であり、図9はティッシュペーパーの例を、図10はキッチンペーパーの例を示す図である。
【0030】
含水状態判定シートは、対象表面部からの水分(ノロ)を吸水して含水状態を目視確認可能であれば任意に適用することが可能であり、紙材料、吸水性のある布地(布材料)を用いることができる。
紙としては、例えば、図8に示す「JISP0001:1998、 紙・板紙及びパルプ用語」に規定された以下の紙を適用してもよい。
(1)新聞用紙(新聞印刷用紙、新聞巻取紙)
(2)下級印刷紙(印刷せんか紙、更紙)
(3)書籍,雑誌などの印刷用として製造した非塗工紙である印刷用紙(上質紙である印刷用紙A、中質紙である印刷用紙B、印刷用紙C、印刷用紙D、及びグラビア用紙)
(4)ティッシュペーパー
(5)キッチンペーパー
(6)ろ紙
(7)和紙
【0031】
新聞用紙(既に印刷されたものを含む)は、図8に示すように、吸水性がよく吸水に適度な時間が必要なため吸水状態の差異が明確となり、吸水による明度や白色度の変化により湿潤状態が目視確認し易いく含水状態を把握しやすいことから好適である。
また、輪転機等で高速印刷する際にも破れない高い強度を有しているので、吸水状態でも対象表面部から剥がして記録し易い。また、新聞紙であればどこでも容易に入手(調達)が可能であり簡易的に使用することができる。
【0032】
また、下級印刷紙(印刷せんか紙、更紙)は古紙を主体としているので吸水性がよく、吸水による明度や白色度の変化により湿潤状態が目視確認し易いことから好適である。
以上のように、機械パルプが多く配合された紙は短い繊維が多く繊維と繊維のすき間が拡がって吸水性が高くなるうえに、吸水による明度や白色度の変化が大きくなることから湿潤状態を容易に目視確認することが可能である。
【0033】
印刷用紙としては、上質紙である印刷用紙A、中質紙である印刷用紙B、印刷用紙C、印刷用紙D、及びグラビア用紙が挙げられる。
しかしながら、化学パルプ100%使用した印刷用紙A(上質紙)や比較的多量のてん(填)料が配合されたグラビア用紙は一般的に吸水性が低く、吸水による白色度の変化が小さい。
【0034】
したがって、吸水性がよく、吸水による白色度(明度)の変化が大きく湿潤状態を目視確認し易いことを考慮して、中質紙(化学パルプが70%以上配合された非塗工印刷用紙であり主に文庫本、雑誌本文などに用いられる印刷用紙B、化学パルプ40%以上70%未満配合された非塗工印刷用紙であり雑誌本文、電話番号簿などに用いられる印刷用紙C、化学パルプが40%未満配合された非塗工印刷用紙であり雑誌本文、謄写版印刷などに用いられる印刷用紙D)を用いることがより好適である。
【0035】
ティッシュペーパー、キッチンペーパー、ろ紙、和紙(例えば美濃和紙)は、吸水性がよく、湿潤状態が目視確認し易い。
ティッシュペーパー、キッチンペーパーは、吸水して湿潤状態になると、不透明度(JISP8149:2000)が低下して対象表面部が透過するなど、湿潤状態がより確認し易くなる。
また、ティッシュペーパー、キッチンペーパー、ろ紙、和紙は、吸水性がよいことから、水分(ノロ)が汚れて不透明な不純物を含む場合には、表側(上面)の吸水範囲に汚れによる着色(色変化)が生じた場合にはより目視確認が容易になる。
また、砂防ソイルセメント材の表面が乾燥気味で新聞紙による評価が容易でない場合などに、新聞用紙に代えてティッシュペーパーやキッチンペーパーを用いると、対象表面部に載置した後短時間で吸水するので含水量が少ない場合でも検知可能な場合がある。
ティッシュペーパーやキッチンペーパーは、白色度が高く吸水による白色度変化は小さいが、吸水により不透明性が低下し、対象表面部が透過しやすくなる。なお、ティッシュペーパーやキッチンペーパーは任意に枚数を調整してもよい。
【0036】
また、密度(緊度)を数値で表すと、ティッシュの密度(緊度)は約0.2g/cm、新聞用紙や下級印刷紙は約0.6g/cmであり、コピー用紙などの上質紙(約0.8g/cm)と比較して小さく、密度(緊度)が小さいことで、空隙率(繊維間の隙間)が大きく毛細管現象により多くの水を速く吸水する。
なお、密度(緊度)は、下記数式で定義される。
密度(緊度)(g/cm)=坪量(g/m)/厚さ(mm)×1000
また、吸水性(JISL1907:2010 繊維製品の吸水性試験方法バイレックス法 参照)については、浸せき後10分間放置後の値は、新聞紙 約35mm、ティッシュペーパー 約81mm、キッチンペーパー 約80mm、美濃和紙 約91mm、半紙 約43mmである。
また、白色度は、新聞用紙が約55%、下級印刷紙は約50~60%、中質紙は約55~70%、コピー用紙などの上質紙が約75%以上である。
【0037】
なお、吸水性布地(布材料)としては、例えば、綿、麻、レーヨン、ポリエステル等を適用してもよく、これらは吸水性があり色変化または質感変化が目視確認し易い。また、適用可能な範囲で不織布を用いてもよい。
【0038】
含水状態判定シート(吸水性シート)による含水状態の判定は、例えば、含水状態判定シート(吸水性シート)が吸水した際の色(明度や白色度)の変化により判定する。
なお、色(明度や白色度)の変化に代えて、または色(明度や白色度)の変化に加えて、表面のしわや不透明度の変化による対象表面部の透過等により判定してもよい。
また、含水状態の判定に際して、含水比が既知のサンプルを用いて作成した品質基準(色やしわ、不透明度の品質見本、限度見本等や画像など)と対比して判定してもよい。
【0039】
また、含水状態を示す特性としては色変化により目視可能な湿潤状態が客観性が高く好適であるがそれに限定されない。
色の変化としては、例えば、白色度(JISP8148:2018(ISO2470-2016))の変化や色相、彩度、明度(JISZ8721:1993)のうち少なくとも一つの変化を適用してもよく、色相に関しては吸水により発色する顔料等を塗布又は含有したものを適用してもよい。
また、質感の変化としては、シート表面のしわやうねり等、不透明度(JISP8149:2000)の変化を適用してもよい。
また、これらが全面に示されるか斑状に発生するかどうかの程度によって判定してもよく、目視可能な程度の変化があれば色や質感の変化に限定されることなく、種々の特性の変化を適用してもよい。
〔適否判断に基づく運用〕
【0040】
一実施形態における砂防ソイルセメント材の含水状態の判定において、含水状態判定シート(吸水性シート)による判定が「適」でない場合、例えば、含水状態判定シート(吸水性シート)が乾燥状態である場合は、含水状態判定シート(吸水性シート)による判定が「適」となるまで砂防ソイルセメント材に加水を試みる。一方、含水量が過多であると判定された場合は、例えば「適」となるまで対象箇所を除去または/および離隔したうえで曝気したのちに活用してもよい。
【0041】
すなわち、含水状態判定シートによる適否判断では、目視により湿潤状態であると確認できたものは充分な圧縮強度が確保され施工に適しているが、充分な圧縮強度が確保される含水状態の砂防ソイルセメント材を適合と判断できない場合があることから、含水状態判定シートが湿潤状態であることをもって施工に適していると結論付けることは可能である。
言い換えると、含水状態判定シートを用いた湿潤状態の目視確認は、充分な圧縮強度が確保されない砂防ソイルセメント材を確実に排除することができる。
【0042】
一実施形態に係る品質管理方法によれば、新聞紙の湿潤状態(吸水状態)により、砂防ソイルセメント材の含水状態を容易に判定し使用可否を判断することができる。
さらに、砂防ソイルセメント材の含水の調整行為が容易となることで、砂防ソイルセメント材の品質、品質の信頼性の向上に寄与し、施工管理が容易になり、土砂の含水比が変化した場合でも適切に対応して充分な強度の砂防セメント材の構築物を構築することができる。
【0043】
また、砂防ソイルセメント材を製造する直前などいつどの時点でも客観的(客観性を高くして)に判定することができる。その結果、特殊な熟練を要することなく、砂防ソイルセメント材の適切な含水状態を個人差なく(小さな個人差で)判定することができる。また、管理監督者が施工現場で簡易的に確認するための品質確認ツールとして活用することができる。
また、対象表面部に圧着した含水状態判定シートの上面の斑、染みの範囲、染みの状態を視覚的に把握して判定するので、客観性が高くなり画像として記録、保管することができ、適切な照査を可能とし、ひいては砂防ソイルセメント材を用いた工事の信頼性を向上することができる。
また、製造時だけでなく,敷き均しや締め固め時において適切な含水状態を把握したいときにも適用が可能である。特に砂防ソイルセメント材の製造地点と施工場所に距離や時間差が生じる場合にも有効な品質判断手段となる。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態においては、含水状態判定シートが新聞紙(新聞用紙)とされ、含水状態判定シートの湿潤状態により含水状態を判定する場合について説明したが、新聞紙(新聞用紙)に代えて種々の紙や吸水性布地を用いてもよいし、含水状態判定シートの湿潤状態に代えて又は湿潤状態と共に他の状態変化(色相、不透明度ほか)を適用してもよい。
【0045】
また、含水状態判定シートを対象表面部に押圧するかどうかについては任意に設定してもよく、載せただけで含水状態判定シートが対象表面部に接触する場合は押圧する必要はない。
また、上記実施形態においては、砂防ソイルセメント材の製造時に供試体を形成して含水状態判定シートによる品質管理を実施する場合について説明したが、砂防ソイルセメント材の敷き均しや締め固め時に含水状態が適切であるかどうかを把握するために適用してもよく、例えば砂防ソイルセメント材の製造地点と施工場所に距離がある場合や製造後に時間経過がある場合において適用してもよい。
【符号の説明】
【0046】
C 含水量判定シート(吸水性シート)
M 供試体形成用モールド
S 対象表面部
T 砂防ソイルセメント材
【要約】
【課題】本発明は、砂防ソイルセメント材の含水状態を容易かつ適切に判定することが可能な砂防ソイルセメント材の品質管理方法を提供する。
【解決手段】本発明は、砂防ソイルセメント材Tの品質管理方法であって、練上がった砂防ソイルセメント材Tを締め固めて対象表面部Sを形成し、前記対象表面部Sに吸水性シートである含水状態判定シートCを載せて、前記含水状態判定シートCを前記対象表面部Sに接触させ、前記含水状態判定シートCが吸水して示した湿潤状態によって、砂防ソイルセメント材Tの含水状態の適否を判定すること、を特徴とする。
【選択図】図2
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