(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】減速機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
F16H1/32 A
(21)【出願番号】P 2019116966
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】鎌形 州一
(72)【発明者】
【氏名】三好 洋之
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-132523(JP,A)
【文献】特開2013-061038(JP,A)
【文献】特開2015-197158(JP,A)
【文献】特開2006-029393(JP,A)
【文献】特開2012-247026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯を有するケースと、
前記内歯と噛み合う外歯及び第1貫通孔を有する第1外歯歯車と、
前記内歯と噛み合う外歯及び第2貫通孔を有する他の第2外歯歯車と、
前記第1貫通孔及び前記第2貫通孔に設けられたクランク軸と、
前記第1外歯歯車によって前記クランク軸の軸方向に沿う一方向への移動が制限された第1保持器、及び、前記第1貫通孔において前記第1保持器に保持された第1転動体を有する第1クランク軸受と、
前記第2外歯歯車によって前記クランク軸の軸方向に沿う前記一方向とは逆向きの他方向への移動が制限された第2保持器、及び、前記第2貫通孔において前記第2保持器に保持された第2転動体を有する第2クランク軸受と、
を備え、
前記第1保持器の前記他方向への移動は、前記第2保持器により制限される、
減速機。
【請求項2】
前記第1外歯歯車は、前記クランク軸の軸方向と交差する方向に支持面を有し、
前記第1保持器は、前記支持面において前記第1外歯歯車に支持される、
請求項1に記載の減速機。
【請求項3】
前記第1保持器は、前記クランク軸の軸方向と交差する方向にフランジを有し、前記フランジにおいて前記第1外歯歯車の前記支持面に支持される、
請求項2に記載の減速機。
【請求項4】
前記第1保持器は、前記クランク軸の回転軸の周りに周壁を有し、
前記フランジは、前記周壁から前記クランク軸の回転軸の反対方向に形成された、
請求項3に記載の減速機。
【請求項5】
前記第1外歯歯車は、前記支持面が前記第2外歯歯車と対向するように配置される、
請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の減速機。
【請求項6】
前記ケースと相対回転可能に設けられたキャリアを備え、
前記クランク軸は、他のクランク軸受を介して前記キャリアに支持され、
前記
第1保持器は、前記他のクランク軸受から離間して設けられている、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の減速機。
【請求項7】
前記第2保持器の前記一方向への移動は、前記第1保持器により制限されている、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボット、工作機械、及びこれら以外のトルク入力により動作する様々な機械において減速機が用いられている。減速機は、電動モータ等の駆動源から入力された回転を減速して駆動対象の相手装置に出力する。減速機の一種として偏心揺動型の減速機が知られている。従来の偏心揺動型の減速機は、特開平5-180278号公報に記載されている。
【0003】
偏心揺動型の減速機は、偏心体を有するクランク軸と、当該偏心体を介してクランク軸に取り付けられた外歯歯車と、当該外歯歯車と噛み合う内歯を有するケースと、当該ケースに対して相対回転可能に設けられたキャリアと、を有する。このような偏心揺動型の減速機において、駆動源からの回転は、インプットギヤからクランク軸に伝達される。クランク軸が回転すると偏心体に押されて外歯歯車も回転する。この外歯歯車の回転に応じて、キャリアがケースに対して相対回転する。これにより、減速された回転がキャリア又はケースから相手装置に対して出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クランク軸は、クランク軸受を介して外歯歯車に連結され、また、テーパー軸受を介してキャリアに支持される。従来の減速機は、クランク軸受の軸方向への移動を制限するためにワッシャを備える。このワッシャは、例えば、クランク軸受の軸方向の一端とテーパー軸受の内輪との間に設けられる。ワッシャの軸方向への移動は、テーパー軸受により制限されている。
【0006】
従来の減速機においては、クランク軸受の軸方向への移動を制限するワッシャが摩耗するという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点を解消または緩和することである。本発明の具体的な目的の一つは、ワッシャの摩耗の問題を生じさせずにクランク軸受を支持することができる新規な減速機を提供することである。本発明の上記以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態による減速機は、内歯を有するケースと、前記内歯と噛み合う外歯及び貫通孔を有する外歯歯車と、前記貫通孔に設けられたクランク軸と、クランク軸受と、を備える。当該クランク軸は、前記外歯歯車によって前記クランク軸の軸方向への移動が制限された保持器、及び、前記貫通孔において前記保持器に保持された転動体を有する。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記外歯歯車は、前記クランク軸の軸方向と交差する方向に支持面を有し、前記保持器は、前記支持面において前記外歯歯車に支持される。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記保持器は、前記クランク軸の軸方向と交差する方向にフランジを有し、前記フランジにおいて前記外歯歯車の前記支持面に支持される。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記保持器は、前記クランク軸の回転軸の周りに周壁を有し、前記フランジは、前記周壁から前記クランク軸の回転軸の反対方向に形成される。
【0012】
本発明の一実施形態による減速機は、前記内歯と噛み合う外歯を有する他の外歯歯車を備える。一実施形態において、前記外歯歯車は、前記支持面が前記他の外歯歯車と対向するように配置される。
【0013】
本発明の一実施形態による減速機は、前記ケースと相対回転可能に設けられたキャリアを備える。一実施形態において、前記クランク軸は、他のクランク軸受を介して前記キャリアに支持され、前記保持器は、前記他のクランク軸受から離間して設けられている。
【0014】
本発明の一実施形態による減速機は、内歯を有するケースと、前記内歯と噛み合う外歯及び貫通孔を有する外歯歯車と、前記貫通孔に設けられたクランク軸と、保持器に保持された転動体を有するクランク軸受と、前記ケースと相対回転可能に設けられたキャリアと、他のクランク軸受と、を備える。当該他のクランク軸受は、前記キャリアに支持された外輪と、前記クランク軸の軸方向における前記保持器の移動を制限する内輪と、前記内輪と前記外輪との間に設けられた他の転動体と、を有する他のクランク軸受と、を備える。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記保持器は、前記クランク軸の回転軸の周りの周方向において180°以上の範囲で前記内輪に接している。
【0016】
本発明の一実施形態において、前記内輪は、前記保持器を支持する支持面を有し、前記内輪の前記支持面におけるビッカース硬度が650HV以上である。
【0017】
本発明の一実施形態において、前記保持器は、前記内輪の前記支持面に接する端面を有し、前記保持器の前記端面におけるビッカース硬度と前記内輪の前記支持面におけるビッカース硬度との差が100HV以下である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施形態によれば、ワッシャが摩耗するという問題を生じさせずにクランク軸受を支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態による減速機をその回転軸に沿って切断した断面を示す断面図である。
【
図2】
図1の減速機のクランク軸を拡大して示す拡大断面図である。
【
図3】本発明の別の実施形態による減速機のクランク軸を拡大して示す拡大断面図である。
【
図4】
図3のクランク軸をB-B線で切断した断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、各図面において共通する構成要素に対しては同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0021】
図1及び
図2を参照して、本発明の一実施形態による減速機1について説明する。
図1は、減速機1の中心軸A1に沿った断面を示す断面図であり、
図2は、減速機1に備えられるクランク軸12を拡大して示す図である。
【0022】
これらの図には、本発明を適用可能な減速機の一種である偏心揺動型の減速機1が示されている。この減速機1は、スパーギヤ11と、クランク軸12と、減速機構20と、を備える。
【0023】
スパーギヤ11は、不図示の駆動源から入力された回転をクランク軸12に伝達する回転伝達機構の例である。スパーギヤ11は、駆動源からの回転が入力される入力ギヤと噛み合っていてもよい。減速機1に適用可能な回転伝達機構は、スパーギヤ11に限られない。減速機1用の回転伝達機構として、駆動源からの入力をクランク軸12に伝達可能な任意の機構が用いられ得る。
【0024】
クランク軸12は、軸心A2に沿って延びる概ね円柱形状の部材である。図示の実施形態において、クランク軸12は、スパーギヤ11とスプライン結合している。これにより、駆動源から入力された回転入力がスパーギヤ11を介してクランク軸12に伝達される。
【0025】
減速機構20は、クランク軸12から入力された回転を減速して駆動対象の相手装置に伝達する。減速された回転は、中心軸A1周りの回転として相手装置に出力される。減速機1は、産業用ロボットに備えられてもよい。この場合、駆動対象の相手装置は、例えば産業用ロボットのアームである。減速機構20の詳細は後述する。
【0026】
次に、クランク軸12についてより具体的に説明する。クランク軸12は、軸心A2に沿って延びる概ね円柱形状の部材であり、スパーギヤ11から伝達された回転入力により軸心A2の周りで回転(自転)する。クランク軸12は、第1ジャーナル部12aと、第2ジャーナル部12bと、偏心部12cと、偏心部12dと、ヘッド12eと、を有する。第1ジャーナル部12a、第2ジャーナル部12b、偏心部12c、偏心部12d、及びヘッド12eは、一体に形成されてもよい。言い換えると、第1ジャーナル部12a、第2ジャーナル部12b、偏心部12c、偏心部12d、及びヘッド12eは、軸心A2周りの周方向において互いに対して相対移動しないワンピース構造を有していてもよい。
【0027】
第1ジャーナル部12a及び第2ジャーナル部12bはそれぞれ、軸心A2方向に延びる円柱形状を有している。第1ジャーナル部12aは、軸受25aによってキャリア24(具体的には、第1キャリア体24a)に支持されており、第2ジャーナル部12bは、軸受25bによってキャリア24(具体的には、第2キャリア体24b)に支持されている。
【0028】
偏心部12cは、軸心A2方向において第1ジャーナル部12aよりもX2側に設けられている。偏心部12dは、軸心A2方向において偏心部12cよりもX2側に設けられている。一実施形態において、偏心部12c及び偏心部12dはいずれも円筒形状を有する。この場合、偏心部12c及び偏心部12dは、軸心A2方向からの視点で、軸心A2から径方向に変位した位置に中心を有する円形を呈する。つまり、偏心部12c及び偏心部12dは、軸心A2に対して偏心している。偏心部12cと偏心部12dとは互いと異なる位相を有する。例えば、偏心部12cの位相と偏心部12dの位相とは互いに180°ずれている。
【0029】
ヘッド12eは、軸心A2方向において第1ジャーナル部12aよりもX1側に設けられている。つまり、ヘッド12eは、第1ジャーナル部12aに対して偏心部12cと反対側に設けられている。ヘッド12eは、概ね円柱形状を有する。ヘッド12eは、スパーギヤ11とスプライン結合している。
【0030】
次に、減速機構20の詳細についてより具体的に説明する。図示の実施形態において、減速機構20は、外歯歯車23a,23bと、キャリア24と、ケース28と、を有する。
【0031】
外歯歯車23a及び外歯歯車23bはいずれも概ねリング状の形状を有する。外歯歯車23a及び外歯歯車23bの各々の中央には、中心軸A1に沿って延びる貫通孔が設けられている。この中心軸A1に沿って延びる貫通孔には、例えばケーブルが収容される。また、外歯歯車23aはクランク貫通孔23a1を有し、外歯歯車23bはクランク貫通孔23b1を有する。説明の簡略化のため、以下では、クランク貫通孔23a1を単に貫通孔23a1と呼び、クランク貫通孔23b1を単に貫通孔23b1と呼ぶ。貫通孔23a1は、中心軸A1から径方向外側にシフトした位置において外歯歯車23aを中心軸Aに沿う軸方向に貫く貫通孔である。貫通孔23b1は、中心軸A1から径方向外側にシフトした位置において外歯歯車23bを中心軸Aに沿う軸方向に貫く貫通孔である。貫通孔23a1及び貫通孔23b1には、クランク軸12が設けられている。貫通孔23a1及び貫通孔23b1は、クランク軸12の一部を収容している。図示の実施形態において、クランク軸12は、貫通孔23a1内に偏心部12cが位置し、貫通孔23b1内に偏心部12dが位置するように配置されている。
【0032】
偏心部12cと貫通孔23a1と間にはクランク軸受30aが設けられており、偏心部12dと貫通孔23b1と間にはクランク軸受30bが設けられている。これにより、外歯歯車23aはクランク軸受30aによりクランク軸12の偏心部12cに支持され、外歯歯車23bはクランク軸受30bによりクランク軸12の偏心部12dに支持される。図示の実施形態において、クランク軸受30a及びクランク軸受30bはいずれもニードル軸受である。クランク軸受30a及びクランク軸受30bは、ニードル軸受以外の種類の軸受であってもよい。
【0033】
クランク軸受30aは、保持器31aと、この保持器31aに保持される転動体32aと、を有する。
図2に示されているように、保持器31aは、軸心A2周りに設けられた周壁31a1と、この周壁31a1のX1側の端から径方向内側に延びる一方の保持部31a2と、この周壁のX2側の端から径方向内側に延びる他方の保持部31a3と、周壁31a1のX2側の端から径方向外側に延びるフランジ31a4と、を有する。周壁31a1は、軸心A2の周りを囲むように構成されてもよい。フランジ31a4は、周壁31a1に対して軸心A2の反対方向にある。保持部31a2、31a3及びフランジ31a4はいずれも、軸心A2と交差する方向に延びている。保持部31a2、31a3及びフランジ31a4は、例えば軸心A2と直交する方向に延びる。一実施形態において、フランジ31a4は、外歯歯車23aの支持面23a4と対向する位置に配置される。外歯歯車23aの支持面23a4は、外歯歯車23aのX2方向を向く面である。外歯歯車23aの支持面23a4は、軸心A2と交差する方向に延びている。支持面23a4は、軸心A2と直交する方向に延びていてもよい。
【0034】
図示の実施形態において、クランク軸受30bは、クランク軸受30aと同様に構成されている。具体的には、クランク軸受30bは、保持器31bと、この保持器31bに保持される転動体32bと、を有する。保持器31bは、軸心A2周りに設けられた周壁31b1と、この周壁31b1のX2側の端から径方向内側に延びる一方の保持部31b2と、この周壁のX1側の端から径方向内側に延びる他方の保持部31b3と、周壁31b1のX1側の端から径方向外側に延びるフランジ31b4と、を有する。周壁31b1は、軸心A2の周りを囲むように構成されてもよい。フランジ31b4は、周壁31b1に対して軸心A2の反対方向にある。保持部31b2、31b3及びフランジ31b4はいずれも、軸心A2と交差する方向に伸びている。保持部31b2、31b3及びフランジ31b4は、例えば軸心A2と直交する方向に延びる。一実施形態において、フランジ31b4は、外歯歯車23bの支持面23b4と対向する位置に配置される。外歯歯車23bの支持面23b4は、外歯歯車23bのX1方向を向く面であり、軸心A2と交差する方向に延びている。支持面23b4は、軸心A2と直交する方向に延びていてもよい。
【0035】
一実施形態において、外歯歯車23aの支持面23a4は、外歯歯車23bの支持面23b4と対向している。
【0036】
保持器31aは、そのX2側の端部において保持器31bのX1側の端部と接している。一実施形態において、保持器31aの保持部31a3は保持器31bの保持部31b3と接しており、保持器31aのフランジ31a4は保持器31bのフランジ31b4と接している。
【0037】
保持器31aは、フランジ31a4において外歯歯車23aに支持されているため、軸心A2に沿ったX1方向への移動が制限されている。保持器31bは、フランジ31b4において外歯歯車23bに支持されているため、軸心A2に沿ったX2方向への移動が制限されている。保持器31aは、そのX2側の端部において保持器31bのX1側の端部と接しているので、保持器31aのX2方向への移動は、保持器31bにより制限される。同様に、保持器31bのX1方向への移動は、保持器31aにより制限される。
【0038】
保持器31a、保持器31b、保持器31aを支持する支持面23a4、及び保持器31bを支持する支持面23b4の具体的な形状、構造、及び配置は、本明細書及び図面に明示的に示されているものには限定されない。
【0039】
外歯歯車23a,23bは、後述する第1キャリア体24aのボス部24b2を受け入れるための貫通孔を有する。具体的には、外歯歯車23aは、中心軸A1の径方向外側に貫通孔23a3を有し、外歯歯車23bは、中心軸A1の径方向外側に貫通孔23b3を有する。貫通孔23a3及び貫通孔23b3は互いに対向する位置に設けられる。
図1には、単一の貫通孔23a3及び単一の貫通孔23b3が示されているが、外歯歯車23aは複数の貫通孔23a3を有していてもよく、外歯歯車23bは複数の貫通孔23bを有していてもよい。
【0040】
外歯歯車23a,23bはいずれも外歯を有する。具体的には、外歯歯車23aは外歯23a2を有し、外歯歯車23bは外歯23b2を有している。中心軸A1の方向から視た外歯歯車23a及び外歯23b2の形状は、例えばペリサイクロイド曲線である。
【0041】
ケース28は、外歯歯車23a及び外歯歯車23bの径方向外側に設けられている。ケース28は、中空の円筒形状を有するケース本体28aと、ケース本体28aの径方向外側に設けられたフランジ28bと、を有する。フランジ28bは、中心軸A1と平行に延びるボルト孔28cを有する。フランジ28bには、例えば、駆動対象の相手装置(不図示)が連結される。駆動対象の相手装置は、例えば、産業用ロボットのアームである。駆動対象の相手装置は、ボルトによりフランジ28bに連結され得る。
【0042】
ケース本体28aの内周面には中心軸A1に沿って延びる溝28a1が複数形成されている。言い換えると、ケース本体28aは、中心軸A1に沿って延びる複数の溝28a1を有する。複数の溝28a1の各々にはピン27が設けられる。ピン27の数は、外歯歯車23a,23bの歯数と異なっている。図示の実施形態では、ピン27の数は、外歯歯車23a,23bの歯数よりも1つだけ多い。ピン27は、外歯歯車23aの外歯23a2及び外歯歯車23bの外歯23b2と噛み合う内歯の一例である。
【0043】
ケース28の径方向内方には、キャリア24が設けられている。キャリア24は、ケース28に対して相対回転可能に設けられる。キャリア24は、第1キャリア体24aと、第2キャリア体24bと、を有する。第1キャリア体24aは、中心軸A1に沿う軸方向において第2キャリア体24aよりもX1側に設けられている。第1キャリア体24aと第2キャリア体24aとはボルト26により連結されている。第1キャリア体24aと第2キャリア体24bとの間にはギャップが設けられている。この第1キャリア体24aと第2キャリア体24bとの間のギャップに外歯歯車23a及び外歯歯車23bが配置されている。
【0044】
第1キャリア体24aは、概ね円盤形状を有する。第2キャリア体24bは、概ね円盤形状を有する基部24b1と、中心軸A1よりも径方向外方においてX1方向に突出するボス部24b2と、を有する。ボス部24b2には、ボルト26を受け入れるボルト穴が設けられている。
【0045】
第1キャリア体24aは、主軸受29aを介してケース28に支持されている。第2キャリア体24bは、主軸受29bを介してケース28に支持されている。このように、第1キャリア体24a及び第2キャリア体24bは、ケース28に対して相対回転可能に取り付けられる。第1キャリア体24a及び第2キャリア体24bは、ボルト26により連結されているので、第1キャリア体24a及び第2キャリア体24bは一体にケース28に対して相対回転する。
【0046】
第1キャリア体24a及び第2キャリア体24bの各々には、クランク軸12を受け入れる貫通孔が設けられている。クランク軸12は、軸受25aを介して第1キャリア体24aに支持され、軸受25bを介して第2キャリア体24bに支持されている。したがって、クランク軸12は、第1キャリア体24a及び第2キャリア体24bに対して相対回転することができる。
【0047】
軸受25aは、第1キャリア体24aに取り付けられた外輪25a1と、クランク軸12の第1ジャーナル部12aに取り付けられた内輪25a2と、外輪25a1と内輪25a2との間に設けられた転動体25a3と、を有する。外輪25a1のX1方向への移動は止め輪25a4により制限されている。軸受25bは、概ね軸受25aと同様に構成される。具体的には、軸受25bは、第2キャリア体24bに取り付けられた外輪25b1と、クランク軸12の第2ジャーナル部12bに取り付けられた内輪25b2と、外輪25b1と内輪25b2との間に設けられた転動体25b3と、を有する。外輪25b1のX2方向への移動は止め輪25b4により制限されている。軸受25a,25bは、例えば、円錐ころ軸受である。
【0048】
軸受25aは、保持部31a2との間に隙間Gaが設けられるように、保持部31a2からX1方向に離間した位置に設けられる。一実施形態において、隙間Gaは、軸心A2の周りに360°延びている。軸受25bは、保持部31b2との間に隙間Gbが設けられるように、保持部31b2からX2方向に離間した位置に設けられる。一実施形態において、隙間Gbは、軸心A2の周りに360°延びている。これにより、この隙間Ga及び隙間Gbから、クランク軸12へ潤滑剤を円滑に流入させることができる。
【0049】
一実施形態において、キャリア24は、その自転が制限されるように他の部材に接続される。ケース28が産業用ロボットのアームと連結される場合には、キャリア24は、例えば当該産業用ロボットの台座に接続されることによりその自転が制限される。産業用ロボットの台座は、当該産業用ロボットの設置場所のフロア等の固定面に当該産業用ロボットを固定する。他の実施形態において、ケース28は、その自転が制限されるように他の部材に接続される。
【0050】
続いて、減速機1の動作について説明する。駆動源からの回転駆動力によりスパーギヤ11が回転すると、その回転は、スパーギヤ11と噛み合っているヘッド12eからクランク軸12に伝達される。この駆動源から入力された回転により、クランク軸12の偏心部12c及び偏心部12dが軸心A2の周りで偏心回転する。このため、クランク軸12が1回転分自転すると、外歯歯車23a,23bがケース28に対してケース28のピン27の数と外歯歯車23a,23bの歯数との差だけ相対回転する。キャリア24の自転が拘束される場合には、ケース28がピン27の数と外歯歯車23a,23bの歯数との差である1歯分だけ回転する。このようにして、クランク軸12の回転が(外歯歯車23a,23bの歯数)/(ピン27の数-外歯歯車23a,23bの歯数)の減速比で減速されてケース28に伝達される。
【0051】
以上のようにして、駆動源から入力された回転は、減速機構20において上記の減速比で減速されてケース28から相手装置に出力される。
【0052】
次に、
図3及び
図4を参照して、本発明の別の実施形態による減速機101について説明する。本発明の別の実施形態による減速機101は、クランク軸受30aに代えてクランク軸受130aを備え、クランク軸受30bに代えてクランク軸受130bを備え、軸受25aに代えて軸受125aを備え、軸受25bに代えて軸受125bを備える点で減速機1と異なっている。
図3及び
図4に示されている減速機101の構成要素のうち
図1に示されている減速機1の構成要素と同一又は類似のものには
図1と同じ又は類似の参照符号を付し、これらと同一又は類似の構成要素については詳細な説明を省略する。クランク軸受130a、クランク軸受130b、軸受125a、及び軸受125b以外の減速機101の構成要素は、減速機1と同じであってもよい。
【0053】
図3に示されている減速機101において、クランク軸受130aは、保持器131aと、この保持器131aに保持される転動体32aと、を有する。保持器131aは、軸心A2周りに延びる周壁131a1と、この周壁131a1のX1側の端から径方向内側に延びる一方の保持部131a2と、この周壁のX2側の端から径方向内側に延びる他方の保持部131a3と、を有する。図示の実施形態において、保持器131aは、保持器31aと異なり、周壁のX2側の端から径方向外側に延びるフランジを有していない。保持器131aは、周壁131a1のX2側の端から径方向外側に延びるフランジを有していてもよい。周壁131a1、一方の保持部131a2、及び他方の保持部131a3はそれぞれ、保持器31aの周壁31a1、一方の保持部31a2、及び他方の保持部31a3と同様に構成される。
【0054】
クランク軸受130bは、クランク軸受130aと同様に構成される。具体的には、クランク軸受130bは、保持器131bと、この保持器131bに保持される転動体32bと、を有する。保持器131bは、軸心A2周りに延びる周壁131b1と、この周壁のX2側の端から径方向内側に延びる一方の保持部131b2と、この周壁のX1側の端から径方向内側に延びる他方の保持部131b3と、を有する。図示の実施形態において、保持器131bは、保持器31bと異なり、周壁のX1側の端から径方向外側に延びるフランジを有していない。他の実施形態において、保持器131bは、周壁131b1のX1側の端から径方向外側に延びるフランジを有していてもよい。周壁131b1、一方の保持部131b2、及び他方の保持部131b3はそれぞれ、保持器31bの周壁31b1、一方の保持部31b2、及び他方の保持部31b3と同様に構成される。
【0055】
軸受125aは、第1キャリア体24aに取り付けられた外輪125a1と、クランク軸12の第1ジャーナル部12aに取り付けられた内輪125a2と、外輪125a1と内輪125a2との間に設けられた転動体125a3と、を有する。外輪125a1のX1方向への移動は止め輪125a4により制限されている。内輪125a2の軸心A2方向における寸法は、止め輪125a4の軸心A2方向における寸法よりも2倍以上、3倍以上、4倍以上、又は5倍以上大きい。内輪125a2は、保持器131aの一方の保持部131a2と接する。一実施形態において、内輪125a2は、そのX2方向の端部から径方向外側に突出する突出部126aを有する。一実施形態において、内輪125a2は、この突出部126aにおいて保持器131aの一方の保持部131a2と接する。内輪125a2は、支持面S1において保持部131a2のX1方向の端面を支持している。支持面S1は、内輪125a2のX2方向の端面の少なくとも一部である。これにより、内輪125a2は、保持器131aのX1方向への移動を制限する。
【0056】
内輪125a2は、例えばクロム鋼(SCr)から成る母材層に常法に従って浸炭処理を行って浸炭層を形成することで作成される。一実施形態において、内輪125a2の支持面S1におけるビッカース硬度は650HV以上である。一実施形態において、保持器131aの一方の保持部131a2のビッカース硬度と支持面S1のビッカース硬度との差は100HV以下である。
【0057】
軸受125bは、第2キャリア体24bに取り付けられた外輪125b1と、クランク軸12の第2ジャーナル部12bに取り付けられた内輪125b2と、外輪125b1と内輪125b2との間に設けられた転動体125b3と、を有する。外輪125b1のX2方向への移動は止め輪125b4により制限されている。内輪125b2の軸心A2方向における寸法は、止め輪125b4の軸心A2方向における寸法よりも2倍以上、3倍以上、4倍以上、又は5倍以上大きい。内輪125b2は、保持器131bの一方の保持部131b2と接する。一実施形態において、内輪125b2は、そのX1方向の端部から径方向外側に突出する突出部126bを有する。一実施形態において、内輪125b2は、この突出部126bにおいて保持器131bの一方の保持部131b2と接する。内輪125b2は、支持面S2において保持部131b2のX2方向の端面を支持している。支持面S2は、内輪125b2のX1方向の端面の少なくとも一部である。これにより、内輪125b2は、保持器131bのX2方向への移動を制限する。
【0058】
内輪125b2は、例えばクロム鋼(SCr)から成る母材層に常法に従って浸炭処理を行って浸炭層を形成することで作成される。一実施形態において、内輪125b2の支持面S2におけるビッカース硬度は650HV以上である。一実施形態において、保持器131bの一方の保持部131b2のビッカース硬度は、支持面S2のビッカース硬度よりも100HV以上小さい。
【0059】
外輪125a1、転動体125a3、及び止め輪125a4はそれぞれ、軸受25aの外輪25a1、転動体25a3、及び止め輪25a4と同様に構成される。外輪125b1、転動体125b3、及び止め輪125b4はそれぞれ、軸受25bの外輪25b1、転動体25b3、及び止め輪25b4と同様に構成される。
【0060】
図4に示されているように、一実施形態において、保持器131aの一方の保持部131a2は、軸心A2方向からみたときに軸心A2の周りの周方向において180°以上の範囲で内輪125a2に接している。図示のように、保持部131a2及び内輪125a2はいずれも軸心A2方向から視たときに円形形状を有する。内輪125a2の中心C1は軸心A2から偏心しており、保持部131a2は軸心A2から内輪125a2とは反対側に偏心している。このため、軸心A2方向から視たときに、保持部131a2と内輪125a2とは軸心A2周りに延びる領域R1において重複する。一実施形態においては、この領域R1が軸心A2の周りの周方向において180°以上延びている。保持部131b2と内輪125b2との関係は、保持部131a2と内輪125a2との関係と同様であってもよい。例えば、保持器131bの一方の保持部131b2は、軸心A2方向からみたときに軸心A2の周りの周方向において180°以上の範囲で内輪125b2に接していてもよい。
【0061】
続いて、上記実施形態が奏する作用効果について説明する。上記の一実施形態によれば、保持器31aは、フランジ31a4において外歯歯車23aに支持されているため軸心A2に沿ったX1方向への移動が制限されている。このため、ワッシャを設けなくとも保持器31aのX1方向への移動を制限することができる。また、保持器31bは、フランジ31b4において外歯歯車23bに支持されている。このため、ワッシャを設けなくとも保持器31bのX2方向への移動を制限することができる。
【0062】
上記の一実施形態によれば、クランク軸12を支持する軸受25aは、保持器31aとの間に隙間Gaが設けられるように配置される。これにより、この隙間Gaから、クランク軸12へ潤滑剤を円滑に流入させることができる。また、クランク軸12を支持する軸受25bは、保持器31bとの間に隙間Gbが設けられるように配置される。これにより、この隙間Gbからも、クランク軸12へ潤滑剤を円滑に流入させることができる。
【0063】
上記の一実施形態によれば、軸受125aの内輪125a2は、支持面S1において保持器131aの保持部131a2のX1方向を向く端面を支持している。これにより、ワッシャを設けなくとも軸受125aの内輪125a2によって保持器131aのX1方向への移動を制限することができる。同様に、軸受125bの内輪125b2は、支持面S2において保持器131bの保持部131b2のX2方向を向く端面を支持している。これにより、ワッシャを設けなくとも軸受125bの内輪125b2によって保持器131bのX1方向への移動を制限することができる。
【0064】
上記の一実施形態によれば、保持器131aは、クランク軸12の回転軸の周りの周方向において180°以上の範囲で内輪125a2に接している。これにより、減速機101の動作中に保持器131aが内輪125a2に対して傾くことを抑制できる。また、保持器131aがクランク軸12の回転軸の周りの周方向において180°以上の範囲で内輪125a2と接するので、内輪125a2と保持器131aとの接触面積を大きくすることができ、これにより内輪125a2及び保持器131aの摩耗を抑制することができる。保持器131a及び内輪125a2について述べた効果は、保持器131b及び内輪125b2にも当てはまる。
【0065】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0066】
上記の各実施形態は、適宜組み合わされてもよい。複数の実施形態を組み合わせることで実現される態様も、本発明の一実施形態となり得る。
【符号の説明】
【0067】
1、101 減速機
12 クランク軸
20 減速機構
23a,23b 外歯歯車
23a1,23b1 クランク貫通孔
23a2,23b2 外歯
23a4、23b4 支持面
24 キャリア
25a,25b,125a,125b 軸受
27 ピン
28 ケース
31a,31b,131a,131b 保持器
31a4,31b4 フランジ
A1 中心軸
A2 軸心