IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ケロッグ ブラウン アンド ルート エルエルシーの特許一覧

<>
  • 特許-酢酸製造方法 図1
  • 特許-酢酸製造方法 図2
  • 特許-酢酸製造方法 図3
  • 特許-酢酸製造方法 図4
  • 特許-酢酸製造方法 図5
  • 特許-酢酸製造方法 図6
  • 特許-酢酸製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】酢酸製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/44 20060101AFI20240220BHJP
   C07C 53/08 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C07C51/44
C07C53/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019161901
(22)【出願日】2019-09-05
(65)【公開番号】P2021038182
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】508364749
【氏名又は名称】ケロッグ ブラウン アンド ルート エルエルシー
【住所又は居所原語表記】601 Jefferson Street Houston TX 77002(US)
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松本 忠士
(72)【発明者】
【氏名】平井 寿英
(72)【発明者】
【氏名】小谷 唯
(72)【発明者】
【氏名】本田 大輔
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057085(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/179239(WO,A1)
【文献】特開2005-028224(JP,A)
【文献】特開2003-135902(JP,A)
【文献】特開昭62-251801(JP,A)
【文献】特開平09-120315(JP,A)
【文献】特開2017-165693(JP,A)
【文献】特開平03-026301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール、ジメチルエーテル及び酢酸メチルから選択される1種以上の化合物からなる原料物質を一酸化炭素でカルボニル化して酢酸を製造する方法であって、反応器内で前記原料物質を触媒の存在下に一酸化炭素と反応させることにより酢酸を含む反応混合物を形成する反応工程と、該反応工程で形成された反応混合物を精製することにより製品酢酸を取得する精製工程を含み、
前記精製工程が、前記反応混合物をフラッシャー容器内に導入してその一部を気化させることにより、酢酸及び酢酸より沸点が低い低沸点成分を含む気相混合物と酢酸及び酢酸より沸点が高い高沸点成分を含む液相混合物とに分離するフラッシュ蒸発工程と、該気相混合物を少なくとも1塔からなる軽質留分カラム内に導入して蒸留することにより、前記低沸点成分の少なくとも一部を該気相混合物から分離除去して粗酢酸を得る第1蒸留工程と、該粗酢酸を重質留分カラム内に導入して蒸留することにより更に精製して製品酢酸を得る第2蒸留工程を含み、
前記第2蒸留工程では、粗酢酸中に残留する前記低沸点成分を前記重質留分カラムの塔頂部から抜き出し、前記重質留分カラムの中間抜出し段から前記製品酢酸を抜き出し、該中間抜出し段からの抜出し量を調整することで該重質留分カラムのボトム液面レベルを制御し、
前記中間抜出し段の液面レベルに基づいて、該中間抜出し段からの抜出し量を調整する、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第2蒸留工程において、前記重質留分カラムの塔頂部から抜き出される前記低沸点成分は水を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塔頂部からの抜出し量と前記中間抜出し段からの抜出し量を併せて調整する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ボトム液面レベルの変動に基づいて、前記塔底部におけるリボイラー炊上げ量と、前記中間抜出し段からの抜出し量を調整する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ボトム液面レベルの変動に基づいて、前記塔底部におけるリボイラー炊上げ量を調整する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記中間抜出し段から抜出した前記製品酢酸の一部を前記重質留分カラムの下部に戻すことにより、前記中間抜出し段からの抜出し量を調整する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応工程において、前記反応器内に助触媒としてヨウ化メチルを存在させ、前記精製工程において、前記重質留分カラムの前段または塔内に、水を含むアルカリ剤を添加する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
水を含むアルカリ剤は、前記第1蒸留工程で得られた粗酢酸に添加する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記反応工程において、前記触媒は液相中に金属塩として溶存している、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記反応工程において、前記触媒は粒状担体に担持された金属として存在している、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールのカルボニル化により酢酸を製造する方法に関する。特に本発明は、酢酸を含む反応生成物から製品酢酸を最終的に分離する蒸留工程において、当該蒸留塔を安定して運転する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロジウム触媒の存在下にメタノールと一酸化炭素(CO)とを反応させて酢酸を製造する方法は、いわゆる「モンサント法」としてよく知られている。当初、この方法は、水を含む酢酸溶媒に、触媒金属としてロジウム化合物、および助触媒(反応促進剤)としてヨウ化メチルなどのヨウ素化合物を溶解させた反応液中で、メタノールと一酸化炭素とを反応させる均一系触媒反応によるもの(特許文献1)として開発されたが、その後、その変法として、ロジウム化合物を担持した固体触媒を用いる不均一系触媒反応によるもの(特許文献2)が開発された、という経緯がある。均一系触媒反応の場合でも、不均一系触媒反応の場合でも、高温加圧下の反応器から取り出される液体反応生成物中には、酢酸以外に、メタノール、溶存CO、ヨウ化メチル、酢酸メチル、ジメチルエーテル、無水酢酸、水などが含まれるため、製品酢酸を得るためには、反応生成物から酢酸以外の成分を除去するための精製工程が必要になる。
【0003】
そのような精製工程は、例えば、フラッシャーと軽質留分カラムと乾燥(脱水)カラムと重質留分カラムとを含む一連の装置(特許文献3)により実施される。高温高圧の反応器からの液体反応生成物は、まず、反応器より低圧のフラッシャー容器内に噴射されて一部が気化し、気化した蒸気(酢酸を含む)は軽質留分カラム(前段蒸留塔)に導入され、フラッシャー容器の底から抜き出された液体は反応器にリサイクルされる。軽質留分カラムにおいては、CO、ジメチルエーテル、ヨウ化メチル、酢酸メチル、メタノールなど、主として酢酸(沸点118.1℃)より沸点が50度以上低い成分が塔頂流として抜き出され、反応器にリサイクルされる。一方、軽質留分カラムの中間部ないし下部からは、主として酢酸と水からなる液が抜き出されて乾燥カラム(中間蒸留塔)に導入され、塔底部からは一部の酢酸とともに無水酢酸等の重質成分が抜き出されて反応器にリサイクルされる。乾燥カラムにおいては、主として水が一部の酢酸とともに塔頂流として抜き出され、若干の不純物を含む酢酸(粗酢酸)が下部ないし塔底部から抜き出される。抜き出された粗酢酸は重質留分カラム(後段蒸留塔)に導入され、ここで製品酢酸が塔頂流として抜き出され、塔底部からは重質成分等の不純物が一部の酢酸とともに抜き出される。
【0004】
なお、上記一連の装置において、乾燥カラムを軽質留分カラムとは別途に設けずに、軽質留分カラムの塔頂部から低沸点成分と水とを一緒に抜き出すことで、軽質留分カラムの下部ないし塔底部から直接粗酢酸を抜き出すようにすれば、乾燥カラムを省略することもできる。また、ヨウ化メチルと水との反応により生成したヨウ化水素が重質留分カラム内で濃縮されると装置の腐食を招くおそれがあるため、重質留分カラムの前段あるいは塔内に腐食防止の目的で水酸化カリウム等のアルカリ剤の水溶液を添加する(特許文献4)ことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭47-3334号公報
【文献】特開昭63-253047号公報
【文献】特開2014-131977号公報
【文献】特許第6007108号公報(2012年6月28日国際公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載されるように、従来、製品酢酸は重質留分カラムの塔頂部から抜き出されていた。しかしながら、そうした構成では、粗酢酸中に多少水分が含まれていても、それを塔頂部から抜き出して製品酢酸中の水分含有量を調整することができないという問題がある。とりわけ、プロセス上流の運転変動などによって重質留分カラムへの水分流入量が増加した場合や、重質留分カラム内でヨウ化水素が濃縮されて装置が腐食するのを防止するために、重質留分カラムの前段や塔内に水を含むアルカリ剤(アルカリ金属水酸化物の水溶液など)を添加した場合には、製品酢酸中の水分含有量が上昇して品質を損ねるおそれが出てくる。
【0007】
本発明は、上の問題に鑑み、重質留分カラムにおいて粗酢酸中に含まれる水分を除去することができる方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、メタノール、ジメチルエーテル及び酢酸メチルから選択される1種以上の化合物からなる原料物質を一酸化炭素でカルボニル化して酢酸を製造する方法であって、反応器内で前記原料物質を触媒の存在下に一酸化炭素と反応させることにより酢酸を含む反応生成物を形成する反応工程と、該反応工程で得られた反応生成物を精製することにより製品酢酸を取得する精製工程を含み、
前記精製工程が、前記反応生成物をフラッシャー容器内に導入してその一部を気化させることにより、酢酸及び酢酸より沸点が低い低沸点成分を含む気相混合物と酢酸及び酢酸より沸点が高い高沸点成分を含む液相混合物とに分離するフラッシュ蒸発工程と、該気相混合物を少なくとも1塔からなる軽質留分カラム内に導入して蒸留することにより、前記低沸点成分の少なくとも一部を該気相混合物から分離除去して粗酢酸を得る第1蒸留工程と、該粗酢酸を重質留分カラム内に導入して蒸留することにより更に精製して製品酢酸を得る第2蒸留工程を含み、
前記第2蒸留工程では、粗酢酸中に残留する前記低沸点成分を前記重質留分カラムの塔頂部から抜き出し、前記重質留分カラムの中間抜出し段から前記製品酢酸を抜き出し、該中間抜出し段からの抜出し量を調整することで該重質留分カラムのボトム液面レベルを制御することを特徴とする方法を提供し、これにより前記課題を解決する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の方法の実施に好適な装置のプロセスフローの一例を示す。
図2図1の装置の軽質留分カラム(脱水カラム)上部の詳細フローを示す。
図3図1の装置の重質留分カラム(仕上げカラム)上部の詳細フローを示す。
図4】実施例1における重質留分カラム周りのフローと制御の様子を示す。
図5】実施例1および実施例3におけるボトム液面レベルの変動の様子を模式的に示す。
図6】実施例3における重質留分カラム周りのフローと制御の様子を示す。
図7】比較例における重質留分カラムまわりのフローと制御の様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、メタノール、ジメチルエーテル及び酢酸メチルから選択される1種以上の化合物からなる原料物質を一酸化炭素(CO)でカルボニル化して酢酸を製造する方法に関するものである。適当な金属(ロジウム、イリジウム等)触媒の存在下に、メタノールをCOでカルボニル化すると主として酢酸が生成する。同様にして、ジメチルエーテルをCOでカルボニル化すれば主として酢酸メチルが生成し、酢酸メチルをCOでカルボニル化すれば主として無水酢酸が生成する。もっとも、これらの主生成物は、更なるカルボニル化や脱カルボニル化あるいは加水分解や脱水縮合などにより相互に変換可能であるから、反応器内の液体(酢酸を含む反応生成物)は、通常、これらの物質の混合物として存在している。従って、原料物質としては、メタノールに代えて(あるいはメタノールと共に)ジメチルエーテルや酢酸メチルを用いても、酢酸を含む反応生成物を同様にして得ることができる。なお、上に述べたように、反応器内の金属触媒は、液相(反応器内の液体)中に金属塩として溶存していてもよいし、液相中に浮遊懸濁させた(樹脂等からなる)粒状担体に担持された金属として存在していてもよい。
【0011】
また、これらの物質は反応生成物であると同時に反応溶媒としても機能するから、新たに添加される原料物質がこれらの物質を含む反応溶媒中でCOと反応するということもできる。すなわち、平衡状態にある反応器内の液体の組成は、投入する原料物質の組成や投入量と温度や圧力や触媒の組成などの反応条件によって変わり、そうした液体組成物を反応器から(反応生成物として)抜き出した後、蒸留等により精製することで所望の製品化合物(本発明では酢酸)が得られることになる。従って、本発明の方法は、必然的に、反応器内で原料物質を触媒の存在下に一酸化炭素(CO)と反応させることにより酢酸を含む反応生成物を形成する反応工程と、反応工程で生成された反応生成物を精製することにより製品酢酸を取得する精製工程を含む。なお、精製工程において分離された所望の製品化合物以外の成分は、通常、反応器等へのリサイクルや廃棄処分にまわされる。
【0012】
本発明の方法において、前記精製工程は、反応器から抜き出した反応生成物をフラッシュ蒸発させるフラッシュ蒸発工程と、フラッシュ蒸発工程で気化して気相側に分離された混合物(気相混合物)を軽質留分カラムと呼ばれる前段の(少なくとも1塔からなる)蒸留塔で蒸留分離して最終精製前の酢酸生成物(粗酢酸)を得る第1蒸留工程と、第1蒸留工程で得られた粗酢酸を最終精製して少量の水や重質成分等の残留不純物を重質留分カラムと呼ばれる後段の蒸留塔で除去する第2蒸留工程を含む。フラッシュ蒸発工程においては、反応生成物はフラッシャー容器内に導入(噴射)され、その一部が周囲圧力の低下により気化することで、酢酸及び酢酸より沸点が低い低沸点成分を含む気相混合物と酢酸及び酢酸より沸点が高い高沸点成分を含む液相混合物とに分離される。第1蒸留工程においては、フラッシュ蒸発工程で分離された気相混合物が軽質留分カラムに導入され、蒸留操作により前記低沸点成分の少なくとも一部が塔頂流として分離除去されることにより、気相混合物から低沸点成分(の少なくとも一部)が除去された粗酢酸が(下部ないし塔底部から)得られる。第2蒸留工程においては、第1蒸留工程で得られた粗酢酸が重質留分カラム内に導入され、蒸留により更に精製されて製品酢酸が得られる。
【0013】
重質留分カラム内に導入された粗酢酸は、もともと反応器から抜き出された反応生成物のうちフラッシュ蒸発工程で気相側に分離した成分からなるものであって、それから更に第1蒸留工程で水と低沸点成分が除去されたものであるから、前段の工程で除去されずに残った少量の水と重質(高沸点)成分以外は殆ど含まない酢酸である。従来の重質留分カラムは、そのような粗酢酸生成物から重質成分を除去することを目的としており、水を除去することは基本的に考えていないため、製品酢酸を塔頂流として抜き出している。これに対し、本発明では、水も場合によっては除去しないと製品酢酸の品質低下につながるおそれがあるとの観点から、製品酢酸を重質留分カラムの中間抜出し段から側流として抜き出し、塔頂部からは水(を含む酢酸)を抜き出すように構成している。
【0014】
先に述べたように、メタノールカルボニル化法による酢酸製造において、特に、助触媒としてヨウ化メチルを用いた場合には、粗酢酸中にヨウ化メチルが水と反応して生成するヨウ化水素が含まれることから、これが重質留分カラム内で濃縮されて装置の腐食が生じることがある。そして、この問題を低減するために、水酸化カリウムのようなアルカリ剤の水溶液を重質留分カラムの上流側(粗酢酸中)に添加すると、それに伴って重質留分カラムに流入する粗酢酸中の水分含有量が上昇し、結果的に製品酢酸中の水分含有量も上昇してしまう。従って、重質留分カラムの塔頂部から水を除去することが望ましいのであるが、従来の重質留分カラムでは、塔頂部から製品酢酸を抜き出しているので、塔頂部から水を抜き出すことで製品酢酸中の水分含有量を低減することはできない。これに対し、本発明の方法では、製品酢酸を中間抜出し段から抜き出すので、塔頂部からの抜出し量を調整することで製品酢酸中の水分含有量を調整することができる。
【0015】
ところで、酢酸の製造プラントでは、通常、製品酢酸は需要に応じて生産量が調整される。製品酢酸の生産量の調整は、通常、原料物質(メタノール)及びCOの供給量を調整し、併せて重質留分カラムにおける製品酢酸の抜出し量を調整することで行われるが、このとき、重質留分カラムのボトム液面レベルが大きく変動しないように注意する必要がある。というのは、リボイラー炊上げ量に対する塔内の液流下量と脱水塔(または軽質留分カラム)からの液(粗酢酸)供給量の和が不足して重質留分カラムのボトム液面が低下すると、蒸留不良を起こして製品酢酸の品質を低下させるおそれがあるからである。すなわち、重質留分カラムのボトム液面レベルを一定に制御することは、連続的且つ安定的な酢酸製造には欠かせない。
【0016】
ボトム液面レベルを一定に制御するためには、ボトム液面レベルを監視し、変動が生じた場合には塔底部におけるリボイラー炊上げ量を増減させて、ボトム液面レベルの変動を抑制するように調整すればよい。これは、原料物質の供給量を調整して酢酸の生産量を調整する際に、一般に行われる手法である。原料物質の供給量が変動すれば、それに伴って重質留分カラムへの粗酢酸の流入量も変動するから、塔内の液流下量が変わらなければボトム液面レベルも変動する。このとき、当該変動を相殺するようにリボイラー炊上げ量を増減させれば、ボトム液面レベルの変動は抑制されるわけである。ただし、リボイラー炊上げ量を増減させると重質留分カラムの分離領域における液ホールドアップも増減し、それに伴って塔内の液流下量も増減する。従って、リボイラー炊上げ量を増減しても、それに合わせて製品酢酸の抜出し量を増減させて塔底部への液流下量を調整しなければ、最終的にボトム液面レベルを一定に維持することはできない。この点において、従来のように塔頂部から製品酢酸を抜き出す場合には、リボイラー炊上げ量の増減と製品酢酸の抜出し量の増減とを併行してほぼ同時に行うことで、塔内の液ホールドアップ(垂直方向液量分布プロファイル)を維持することができたため、比較的容易にボトム液面レベルを一定に維持することができた。
【0017】
しかしながら、製品酢酸を重質留分カラムの中間抜出し段から側流として抜き出すという構成をとると、リボイラー炊上げ量を増加(または減少)させても、中間抜出し段における液面レベル(その位置での液流下量)が上昇(または低下)するまでには、塔頂部から中間抜出し段までの液体積(液の滞留時間)に応じた一定の時間差(タイムラグ)が生ずる。すなわち、中間抜出し段における液面レベルは、リボイラー炊上げ量を変えても即座には変わらないので、製品酢酸の抜出し量の調整は、リボイラー炊上げ量の調整とは一定の時間差をもって行う必要がある。また、リボイラー炊上げ量をステップ状に変化させたとしても、中間抜出し段における液面レベルは必ずしもステップ状には変化しない。従って、製品酢酸の抜出し量の調整は、リボイラー炊上げ量の変動に対する中間抜出し段の液面レベルの応答特性を考慮して行うことが重要であり、ボトム液面レベルの変動を検知し、その変動を抑制するようにリボイラー炊上げ量と製品酢酸の抜出し量を併せて調整する必要がある。
【0018】
上記調整を簡易に行うための1つの方法は、リボイラー炊上げ量の調整はボトム液面レベルの変動に基づいて行うが、製品酢酸の抜出し量の調整は中間抜出し段の液面レベルの変動に基づいて行うことである。上に述べたように、本発明において、リボイラー炊上げ量の変動に対する中間抜出し段における液面レベルの応答性が悪い(時間差があることに加えて変動プロファイルが崩れる)場合、ボトム液面レベルの変動に基づいて製品酢酸の抜出し量を調整するには、そうした応答性の悪さを考慮する必要がある。このとき、製品酢酸の抜出し量の調整を、リボイラー炊上げ量の調整とは分けて、中間抜出し段の液面レベルの変動に基づいて行うようにすれば、より容易にボトム液面レベルを制御することができる。
【0019】
図1は、本発明の方法の実施に好適な装置の全体のプロセスフローの一例を示す。図1において、反応器1は、ロジウム触媒の存在下にメタノールを一酸化炭素(CO)でカルボニル化して酢酸を製造する反応を行わせる、不均一系触媒反応装置である。反応器1の垂直カラム1a内にはロジウム触媒を担持した粒状担体(触媒粒子)が充填されており、主成分として酢酸や酢酸メチルを含む液状反応媒体が底部1bより導入されて垂直カラム1a内を上昇することにより、垂直カラム内に液系流動層が形成される。液系流動層を形成する触媒粒子は、液状反応媒体の上昇流に乗って垂直カラム1a内をゆっくりと上昇した後、首部1cで液上昇流から分離されて触媒循環路1dに入り、そのまま触媒循環路内をゆっくりと下降する。触媒循環路1dの途中には冷却器1eが設けられており、触媒粒子は触媒循環路内を下降する際に冷却されて底部1bに戻る。反応原料であるメタノールとCOも反応器底部1bより反応器1内に導入され、メタノールは液状反応媒体と一体になって垂直カラム1a内を上昇し、COは細かい気泡となって垂直カラム1a内を上昇する。液状反応媒体中のメタノールとCOの気泡とは、触媒粒子の存在下に反応して酢酸を生成しながら垂直カラム1a内を上昇し、首部1cで触媒粒子から分離される。その後、COの気泡を含む液状反応媒体は反応器1内を更に上昇し、未反応のCOを含むガスは、反応器1の径大部1f内に形成された液面で分離されて頂部のガス出口1gから反応器外に排出される。ガスが分離した後の液状反応媒体は径大部1fの側面に設けられた液出口1hから反応器外に抜き出される。
【0020】
液出口1hから反応器外へ抜き出された液状反応媒体は、フラッシャー容器2内に噴射される。フラッシャー容器2内の圧力は反応器1内の圧力よりも低く保たれており、フラッシャー容器2内に噴射された液状反応媒体の一部は気化して、主として酢酸と低沸点成分(酢酸より沸点が低い成分で水もこれに含まれる)の蒸気を含む気相混合物となる。フラッシャー容器2内に形成された気相混合物は頂部2aから抜き出されて、軽質留分カラム(ここでは脱水カラムを兼ねる)3に導入される。軽質留分カラム3内では導入された気相混合物の蒸留分離が行われ、ヨウ化メチル、酢酸メチル、メタノール、水等の低沸点成分と一部の酢酸が塔頂部3aから抜き出され、酢酸を主成分とする液(粗酢酸)が塔底部3bから抜き出されて、重質留分カラム(仕上げカラム)4に粗酢酸入口4aから導入される。重質留分カラム4内では仕上げの蒸留分離が行われ、粗酢酸入口4aよりやや高い位置(中間抜出し段)にある製品酢酸出口4bより、側流として製品酢酸が抜き出される。抜き出された製品酢酸は製品調整槽5に一次貯留されて最終調整が行われた後、製品酢酸として取り出される。
【0021】
反応器1のガス出口1gから排出された未反応COを含むガスは、高圧吸収塔6で原料メタノールの流れ(シャワー)と接触してCOが回収された後、焼却炉7で焼却処分される。高圧吸収塔6でCOを含むガスと接触してCOを吸収した原料メタノールは、塔底部から反応器1の底部1bに導かれて反応器1内に導入される。また、軽質留分カラム3の塔頂部3aから抜き出された低沸点成分と一部の酢酸は、図2に示されるように、凝縮器3cで一部が液化され、液化した成分は気液分離器3dで分離されて、一部は軽質留分カラムに還流され、一部は液回収槽8を経て反応器1にリサイクルされ、一部は余剰水カラム9で再度気液分離される。一方、気液分離器3dで気相として分離された成分は主として水以外の低沸点成分を含むため、低圧吸収塔10で原料メタノールの流れ(シャワー)と接触して低沸点成分が回収された後、焼却炉7で焼却処理される。また、余剰水カラム9の底部から抜き出された液体成分は液回収槽8を経て反応器1にリサイクルされ、余剰水カラム9の中間部から抜き出された液体成分はヨウ化エチル回収カラム11に送られ、そこでヨウ化エチルが回収された後、排水処理装置に送られる。また、フラッシャー容器2の底に溜まった液も液回収槽8を経て反応器1にリサイクルされる。なお、重質留分カラム4の底部からは、粗酢酸から不純物として分離された少量の重質(高沸点)成分を含む液が抜き出され、これは焼却炉7で焼却処分される。
【0022】
重質留分カラム4は、上に述べたように、粗酢酸生成物の最終的な精製すなわち仕上げの蒸留分離を行うための蒸留塔である。この蒸留塔は格別特殊なものである必要はなく、塔底部には溜まった液を炊き上げるリボイラーを備え、図3に示されるように、塔頂部には抜き出された蒸気を凝縮させるコンデンサー(凝縮器)41及び気液分離器42を備える、通常の形式の段塔や充填塔でよい。重質留分カラム4の塔底部の液溜りに溜まった液の深さ(ボトム液面レベル)は、リボイラーにより加熱されて気化する量(リボイラー炊上げ量)と塔内上部からの液流下量(軽質留分カラム3から塔内に導入される粗酢酸を含む)とのバランスによって変動するが、定常状態においては両者のバランスがとれているため、ボトム液面レベルは一定に維持されている。しかしながら、もしボトム液面レベルが変動(特に急激に低下)すると、リボイラーは空焚き状態になり蒸気が上がらなくなるので蒸留操作ができなくなる。ボトム液面レベルの変動は、特に塔内の液流下量の変動により生じることが多く、液流下量を変動させる原因は大きく分けて2つある。その1つは気液分離器42から塔頂に戻される液の量の変動であり、他の1つは粗酢酸入口4aから導入される粗酢酸生成物の供給量の変動である。
【0023】
先に述べたように、従来は、重質留分カラムの塔頂から抜き出された蒸気を凝縮器41で凝縮させて気液分離器42で分離した液の一部を製品酢酸として引き抜いている。粗酢酸入口4aから塔内に導入される粗酢酸は酢酸の含有率が98%以上であって、通常、低沸点成分を殆ど含まない(多少の水は含む)ため、塔頂から低沸点成分を分離する必要性が低いからである。ただし、高沸点成分(少量含まれるプロピオン酸等に加えて、特にアルカリ剤水溶液を添加したときに生成するヨウ化ナトリウムや酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩)は、少量でも製品の品質に影響することから、これを重質留分カラムの塔底部から抜き出して分離除去する。なお、重質留分カラム4の塔底部からの抜出し量は粗酢酸入口4aからの流入量の1000分の1程度であり、この量を調整してもボトム液面レベルには殆ど影響を与えない。
【0024】
これに対し、本発明では、重質留分カラムの中間部にある抜出し口(中間抜出し段)4bから抜き出された液を製品酢酸とし、塔頂から抜き出す蒸気の量を調整することで製品酢酸の水分含有量を制御する。そして、この中間抜出し段の液面レベルに基づいて製品酢酸の抜出し量を調整することが、ボトム液面レベルを一定に維持するには好ましいことを先に述べた。ここで、中間抜出し段の液面レベルとは、段塔の場合には当該抜出し段を相当する棚段上の液の深さとして定めてもよいが、充填塔の場合はそのようにして中間抜出し段の液面レベルを定めることができない。そこで、充填層内に埋設された集液器(コレクター)に接続した管内を流れる液の流量など、中間抜出し段における液量(液流下量)を反映する尺度を設定して、それを中間抜出し段の液面レベルとすればよい。このように定めれば、中間抜出し段の液面レベルという尺度は、段塔だけでなく、充填塔にも適用できる概念となる。
【実施例
【0025】
(実施例1)
図4は、重質留分カラム51の中間高さ(中間抜出し段)の抜出し口(中間抜出し口)52から側流として製品酢酸を抜き出し、塔頂部に設けた抜出し口(塔頂抜出し口)53から抜き出した蒸気は凝縮器54で凝縮させて凝縮液受容槽55に受け入れ、凝縮液受容槽から取り出した流出液の一部は塔外へ排出し必要に応じて不図示の反応器にリサイクルする一方、流出液の残部は塔上部に還流するように構成した例を示す。不図示の軽質留分カラム(または脱水カラム)から抜き出された粗酢酸は塔下部に導入され、塔底部の液溜りに溜まった液はリボイラー56で加熱されて蒸気となり、塔内を流下する液と向流接触して熱交換(および物質交換)しながら塔内を上昇して塔頂部に達する。なお、塔底部の抜出し口(塔底抜出し口)57からは重質成分を含む液が抜き出され、反応器へリサイクルされるか廃棄処分される。
【0026】
製品酢酸を抜き出す中間抜出し口52は、段塔であれば中間段(最上段と最下段の間にある棚段)の液を抜き出すように構成され、充填塔であれば充填層の上表面より下で下表面より上に設けられた集液装置から液を抜き出すように構成される。本明細書では、段塔および充填塔について共通に、当該中間高さにおける製品酢酸を抜き出す位置を中間抜出し段とよぶことにする。
【0027】
本実施例では、重質留分カラムへの供給量が変動して塔底部の液溜りに溜まった液の液面高さ(ボトム液面レベル)が変化した場合、その変化に基づいて、ボトム液面レベルが原位置に戻るように中間抜出し口52からの製品酢酸抜出し量を調整する。この製品酢酸抜出し量の調整手法は特に限定されず、PID制御等のフィードバック制御で行ってもよいし、反応器から重質留分カラムまでの一連の装置からなるシステムの(原料投入量の変化に対する粗酢酸流入量の)応答特性を利用した自動制御手法を用いてもよい。
【0028】
製品酢酸抜出し量を変更すると中間抜出し段より下の領域における液流下量が変動するが、中間抜出し段から塔底部まで液が降下するにはある程度の滞留時間が必要なので、ボトム液面レベルに対する影響は直ちに顕れるわけではない。しかしながら、所定の時間を経過すると製品酢酸抜出し量変更の効果がボトム液面レベルに出始める。従って、製品酢酸の抜出し量を調整(変更)すれば、ボトム液面レベルが安定するまでにある程度の時間は必要とするものの、リボイラー炊上げ量を維持したままボトム液面レベルを原位置に戻すことができる。
【0029】
例えば、重質留分カラム51への粗酢酸の流入量を100としたときに、塔頂抜出し口53から抜き出されて凝縮した凝縮液のうち反応器へのリサイクルまたは廃棄処分にまわされる液量が1であり、塔底抜出し口57から抜き出されて廃棄処分にまわされる液量が0.1であれば、中間抜出し口52から抜き出される製品酢酸量を98.9としたときに定常状態が維持される。ここで、何らかの原因で粗酢酸の流入量が100から98に減少し、それに伴ってボトム液面レベルが低下し始めたとする。すると、ボトム液面レベルの低下を検知した液面計からの信号により、中間抜出し口52からの製品酢酸抜出し量を減少させるように制御システムが動作することで、中間抜出し段より下の領域における液流下量が増加するため、所定の時間経過とともにボトム液面レベルの低下が収まって元のレベルに戻ることになる。フィードバック制御(PID制御)の場合には、ボトム液面レベル自体の変位(比例因子)及びその変位の積算量(積分因子)並びにその変化速度(微分因子)に基づいて中間抜出し口52からの抜出し流量を調整することになるが、中間抜出し段から塔底部までの液滞留時間があるため、従来の受動型の制御ではボトム液面レベルが収束するまでにある程度の時間を要することも想定される。従って、収束を早めるためには、学習機能を有するAIを利用した能動型(フィードフォワード型)の制御とすることが好ましい。いずれにしても、最終的には中間抜出し口52から抜出される製品酢酸抜出し量が96.9に落ち着いた状態で新たな定常状態に達する。
【0030】
(実施例2)
本実施例では、重質留分カラム周りの構造自体は図4に示すとおりであって、実施例1と同様である。ただし本実施例では、プロセス上流の運転変動などによって重質留分カラムへの水分の供給量(粗酢酸中の水分の含有量)が増えた場合を想定する。この場合、重質留分カラム内の水分量が増加するが、ボトム液面レベルは変わらず炊き上げ量も変わらない。一方、系内の水分量を調整するためには塔頂からの抜出し量を増やす(凝縮液の塔上部への還流量を減らす)必要があるので、中段からの酢酸抜出し量をそれに合わせて減らすようにすれば、結果的に塔底部に流下する液量は変わらないことになり、ボトム液面レベルを維持することができ、かつ、製品酢酸の水分含有量を上昇させずに品質を保つことができる。
【0031】
(実施例3)
実施例1及び実施例2では、リボイラー炊上げ量を維持したまま、中間抜出し口からの製品酢酸の抜出し量を調整することで、ボトム液面レベルを一定に維持している。しかしながら、上に述べたように、従来(受動)型のフィードバック制御では、中間抜出し口から塔底部までの間に液滞留時間があることに起因して、ボトム液面レベルが収束するまでにかなりの時間を要する場合がある。例えば、実施例1において、粗酢酸流入量の減少によるボトム液面レベルの低下に基づいて中間抜出し口からの製品酢酸の抜出し量を減らしても、その影響はすぐにはボトム液面レベルの低下抑止に顕れず、ボトム液面レベルは一時的にそのまま低下し続けることになる。そして、それに呼応して中間抜出し量を絞りすぎると、所定時間経過後に一転してボトム液面レベルが上昇することになる。さらにまた、それに呼応して中間抜出し量を増やしすぎると、再びボトム液面レベルが低下する。これを繰り返すと、図5(a)に示すように、ボトム液面レベルは大きく変動しながら次第に収束するという挙動を示すことになる。
【0032】
そこで本実施例では、実施例1において起こり得る上に述べたような挙動を防止するため、ボトム液面レベルに応じてリボイラー炊上げ量を調整し、併せて中間抜出し口からの製品酢酸の抜出し量を調整する。すなわち、図4ではボトム液面レベルを監視する制御器LCからの制御信号により中間抜出し口からの製品酢酸抜出し量を調整するように構成しているが、これを変更して、ボトム液面レベルを監視する制御器LCからの制御信号によりリボイラー56の加熱用スチームの流量を調整するように構成する。このように構成することで、粗酢酸流入量の変化に対するボトム液面レベル調整の応答性が向上するので、図5(b)に示すように、ボトム液面レベルの変動幅や収束に至るまでの時間は実施例1の場合に比べて小さくなる。具体的には、制御システムの構成や中間抜出し段より下の領域における液滞留時間にもよるが、実施例1の場合に比べて、収束に至るまでの時間は10分の1から500分の1程度に短縮される。
【0033】
なお、本実施例では、ボトム液面レベルの制御を直接的にはリボイラー炊上げ量の調整で行うが、リボイラー炊上げ量の調整により生ずる塔内の液ホールドアップの変動に対しては、所定の時間差をおいて中間抜出し口からの製品酢酸抜出し量を調整することで対処することになる。従って、全体としては、やはり中間抜出し口からの抜出し量を調整することでボトム液面レベルを制御していることになる。
【0034】
(実施例4)
本実施例では、実施例3と同様にボトム液面レベルの制御をリボイラー炊上げ量の調整で行うが、重質留分カラムへの粗酢酸流入量が増えただけでなく、水分の供給量も増えた(粗酢酸の水分濃度も上昇した)場合を想定する。このとき、重質留分カラムのボトム液面の上昇に応じて炊き上げ量を増やせば、塔頂抜出し口53からの蒸気抜出し量が増え、凝縮液受容槽55の液面が上昇する。そして、凝縮液受容槽の液面上昇に応じて凝縮液の塔内への還流量を増やせば、水と酢酸とがより分離され易くなる。
【0035】
すなわち、重質留分カラムから水分を除去するには塔頂抜出し口53からの蒸気抜出し量を増やすのが効果的であるが、実施例2では、リボイラー炊上げ量を一定にしていたので、塔頂抜出し口からの抜出し量自体は変わらず、凝縮液の反応器へのリサイクル量の増加に伴って塔上部への還流量が変わる(減少する)だけである。しかしながら、本実施例では、リボイラー炊上げ量を増加させることで塔頂抜出し口53からの蒸気抜出し量を増加させ、その増加分に見合う量の凝縮液を塔内への還流(中間抜出し段より上の領域での蒸留分離性能を左右する)に当てるため、水と酢酸がより分離されやすくなる。従って、実施例2と比べて、より多くの水分を塔頂から効率よく分離除去することができる。
【0036】
なお、上では粗酢酸の水分含有量の増加とともに粗酢酸流入量も増加した場合を想定したため、リボイラー炊上げ量の増加と還流量の増加とが均衡しているが、粗酢酸の流入量が増加しなくても水分含有量が増加した場合には、リボイラー炊上げ量を増やして水分の除去効率を上げることもできる。いずれの場合においても、最終的にボトム液面レベルを維持するためには、中間抜出し口からの製品酢酸の抜出し量を調整する必要がある。換言すれば、本実施例も、全体としては、中間抜出し口からの抜出し量を調整することでボトム液面レベルを制御していることになる。
【0037】
(実施例5)
本実施例では、実施例3及び4の構成をさらに進めて、図6に示すように、ボトム液面レベルの制御自体は、ボトム液面レベルを監視してリボイラー56の加熱用スチームの流量(すなわちリボイラー炊上げ量)を調整することにより一定に保つように制御し、これとは別に、中間抜出し段における液面レベルを監視する液面計(液量計)58を設け、中間抜出し段における液面レベル(液流下量)がリボイラー炊上げ量の調整により変化したときに、それに呼応して中間抜出し口52からの製品酢酸の抜出し量を増減させるように調整する。このように構成することで、中間引抜き口からの製品酢酸抜出し量の調整のタイミングをより正確に制御することができるため、ボトム液面レベルの変動幅や収束に至るまでの時間を実施例3や実施例4の場合と比べてもさらに小さくすることができる。そして、本実施例でも、ボトム液面レベルの制御を直接的にはリボイラー炊上げ量の調整で行っているが、リボイラー炊上げ量の調整により多少のタイムラグを伴って顕れる中間抜出し段における液面レベルの変動を監視し、それに基づいて中間抜出し口からの製品酢酸抜出し量を増減させているのであるから、全体としては、中間抜出し口からの抜出し量を調整することでボトム液面レベルを制御していることになる。
【0038】
本実施例でも、粗酢酸の水分濃度が上昇した場合には、ボトム液面レベルの変動の有無にかかわらず、リボイラー炊上げ量を増加させることで塔頂抜出し口53からの蒸気抜出し量を増やし、その増加分に見合う量の凝縮液を塔内への還流量(中間抜出し段より上の領域での蒸留分離性能を左右する)の増加分に当てることにより、水と酢酸との分離効率を上げて、より多くの水分を塔頂から分離除去することができる。このとき、粗酢酸流入量が変わらないにもかかわらず、いきなりリボイラー炊上げ量を増加するとボトム液面レベルが低下する。そこで、このような場合、最初に、中間抜出し口52から一旦抜出した製品酢酸の一部を塔底部に戻すようにして(すなわち中間引抜き口からの引抜き量を実質的に減らして)ボトム液面レベルを上昇させ、その後、リボイラー炊上げ量を増加するという手順をふめば、ボトム液面レベルの低下を抑えることができる。こうして塔底部に戻された製品酢酸は、一旦中間抜き出し口から抜き出されたとしても、結果的には外部に抜き出されなかったことになるから、この場合も全体としては中間抜出し口からの抜出し量を調整することでボトム液面レベルを制御していることになる。そして、上に述べたように、リボイラー炊上げ量の増加に先駆けて製品酢酸の一部を塔底部に戻すように制御することで、ボトム液面レベルの低下を極力抑えるように構成することができる。
【0039】
(比較例)
本比較例は、図7に示すように、中間抜出し口を設けず、製品酢酸を塔頂抜出し口53からのみ抜き出すものである。本実施例では、塔頂抜出し口から製品酢酸を抜き出すことになるので、製品酢酸の抜出し量を調整することでボトム液面レベルを調整することは可能であるが、上流域での運転変動やアルカリ水溶液の添加などにより、粗酢酸中に含まれる水分量が上昇した場合に、製品酢酸から水分を分離することができないため、製品酢酸中に含まれる水分量が多くなり、製品品質に影響を及ぼすおそれがある。
【符号の説明】
【0040】
1 反応器
1a 垂直カラム
1b 底部
1c 首部
1d 触媒循環路
1e 冷却器
1f 径大部
1g ガス出口
1h 液出口
2 フラッシャー容器
2a 頂部
3 軽質留分カラム
3a 塔頂部
3b 塔底部
4 重質留分カラム
4a 粗酢酸入口
4b 製品酢酸出口
5 製品調整槽
6 高圧吸収塔
7 焼却炉
8 液回収槽
9 余剰水カラム
10 低圧吸収塔
11 ヨウ化エチル回収カラム
41 凝縮器(コンデンサー)
42 気液分離器
43 外部への抜出し流
44 塔頂部への戻し流
51 重質留分カラム
52 中間抜出し口
53 塔頂抜出し口
54 凝縮器
55 凝縮液受容槽
56 リボイラー
57 塔底抜出し口
58 中間抜出し段の液面計(液量計)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7