(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】茶葉加工物、茶葉加工品およびこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/14 20060101AFI20240220BHJP
A23F 3/06 20060101ALI20240220BHJP
A23F 3/12 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
A23F3/14
A23F3/06 A
A23F3/12 Z
(21)【出願番号】P 2019190865
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹目 正巳
(72)【発明者】
【氏名】坂田 匡孝
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-230106(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109924287(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生茶葉を殺青することにより該生茶葉の酵素を失活させ(この工程を「酵素失活工程」と称する)、
得られた酵素失活茶葉を粉砕し(この工程を「粉砕工程」と称する)、
得られた粉砕酵素失活茶葉を搾汁し、
当該搾汁により得られた液部(「茶葉エキス部」とも称する)
とそれ以外の非液部(「非茶葉エキス部」とも称する)とに分離し(この工程を「分級工程」と称する)、
前記非茶葉エキス部を茶葉固形部と非茶葉固形部とに選別し(この工程を「選別工程」と称する)、
前記茶葉エキス部と
前記茶葉固形部とを混合して茶葉加工物を得る(この工程を「混合工程」と称する)、ことを特徴とする茶葉加工物の製造方法
(但し、生茶葉を殺青することにより該生茶葉の酵素を失活させ、得られた酵素失活茶葉を切断し、得られた茶葉切断物を含む溶液を濾過し、濾液を得ると共に、前記濾液の濾過残渣物を加圧圧搾し、圧搾抽出物を得、前記圧搾抽出物と前記濾液を混合する工程を備えた茶葉加工物の製造方法を除くと共に、生茶葉を殺青することにより該生茶葉の酵素を失活させ、得られた酵素失活茶葉と氷水を混合して叩解し、それを濾布で包んで、茶葉スラリー沈殿物と茶葉スラリーを得る工程を備えた茶葉加工物の製造方法を除く)。
【請求項2】
得られた茶葉加工物に対して、さらに香味調整して茶葉加工品とする(「香味調整工程」と称する)、
請求項1に記載の茶葉加工品の製造方法。
【請求項3】
前記香味調整工程では、凍結、冷却、濃縮、乾燥、粉末化及び顆粒化からなる群から選ばれる1種の処理又は2種以上の処理を組み合わせた処理を行う、請求項
2に記載の茶葉加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生茶葉を加工して得られる新規の茶葉加工物、該茶葉加工物をさらに香味調整して得られる茶葉加工品、および、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
緑茶は、日本において古くから愛飲されており、広く親しまれてきた食品の一つである。緑茶を飲用する場合、市販の乾燥した緑茶葉を購入して必要量を急須に入れ、熱水と共に所定時間で抽出することにより緑茶葉の抽出液を得て、これを湯飲み等に注いで飲用するのが典型的な飲み方であった。
【0003】
しかし、時代の変化に伴い、緑茶に対する消費者ニーズも様々に多様化してきている。例えば、上述のように、急須を用いて緑茶葉の抽出液を得てこれを飲用する方法は、抽出後の緑茶葉、すなわち茶殻を始末しなければならないが、この手間を忌避したいというニーズがある。このニーズに応えるべく、紙製やナイロン製の包材に持ち手を備えたものに乾燥緑茶葉を封入したもの(いわゆるティーバッグ)を用いて、急須や湯のみ等に熱水を注いだものに浸漬することにより緑茶葉の抽出液を得る方法があり、この方法も広く普及している。
【0004】
さらに、飲用シーンの多様化に応じて、夏場等で冷たい緑茶を飲用したい時などは、抽出溶媒に水を用いて、緑茶葉やティーバッグを浸漬して、いわゆる水出し緑茶として抽出液を得る方法も用いられるようになってきた。しかし、従来の茶葉では、揉んで乾燥を繰り返しており、茶葉が締まって撚っており抽出する際は、まず茶葉が溶媒を吸収し膨潤して、撚りが解れてから抽出を始めるため、抽出時間がかかり、手軽に作れてすぐに飲用できる状態ではなく、より涼を求めて氷水などを用いた場合は、更にその現象が顕著になり、不便であった。
【0005】
また、このような緑茶飲用において簡便性を求めるニーズに対しては、緑茶葉の抽出液を工業的に容器詰めしたものであって開栓すれば直ちに飲用できるもの(いわゆるRTD)や、緑茶葉の抽出液を工業的に粉末状に乾燥したものを湯のみ等に熱水や水を注ぐことにより緑茶葉液を得て飲用するもの(いわゆるインスタント茶)等を提供することにより応えてきた。
【0006】
このように多様な市場ニーズに応えようとするには、技術面における開発や改良が様々な形で積み重ねて行われてきた。しかしながらその反面、古くからある従来技術の範囲を大きく超えて新たな市場ニーズを生み出したり、既存技術で現状は対応できるが故に、香味や抽出効率、さらに生産効率の大幅な向上を狙おうとする野心的な試みは決して多いとはいえない。
【0007】
日本における緑茶の大半は、摘採された生葉を蒸気で蒸して生葉に含まれる酸化酵素を不活性化(殺青)させた後、粗揉、揉捻、中揉及び精揉などの各工程において揉込み、さらに乾燥させるという一連の工程を経て製造されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】静岡県茶業会議所編、1988、「新茶業全書」、静岡県茶業会議所、p275-276
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、緑茶葉を容器詰飲料に用いる場合も、粉末茶として用いる場合も、冷凍茶葉として保管する場合も、上述のように、生茶葉を殺青させた後、粗揉、揉捻、中揉及び精揉を行い、続いて乾燥させるという一連の工程を経て製造された乾燥茶葉を原料茶葉として用いることが多かった。
【0010】
しかしながら、粗揉、揉捻、中揉及び精揉という一連の工程は、原料の種類・条件や温度・湿度などの気候条件などに応じて微調整が必要であるため、実施者にとって負担が大きいばかりか、工業生産を実施するには大型で複雑な製造設備が必要であった。
【0011】
また、上記原料茶葉を用いて容器詰飲料を製造する場合、抽出効率を高めるためには抽出強度を強めにすることが望ましいものの、抽出強度が過剰になると呈味として好ましくなくなる。したがって、茶葉の抽出により得られる成分には一定程度の限界があった。
【0012】
そこで本発明は、茶葉加工における従来からの製法を見直すことにより、従来にない茶葉加工物及びその製造方法を提供することを目的とする。
その一態様としては、茶葉加工物は、いわば「茶殻がでないお茶」であって、茶液と茶殻を分離することなく飲用できるものを提供するものである。
また、前記茶葉加工物は、香味調整工程等を経ることにより、様々な態様の製品(茶葉加工品)を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、殺青茶葉を茶葉エキス部と非茶葉エキス部とに分離し、得られた非茶葉エキス部を茶葉固形部と非茶葉固形部(「茶殻部」とも称する)とに選別し、該茶葉エキス部と該茶葉固形部とを混合する、茶葉加工物の製造方法を提案する。
【0014】
本発明は、以下のとおりである。
(1) 殺青茶葉を茶葉エキス部と非茶葉エキス部とに分離し、得られた非茶葉エキス部を茶葉固形部と非茶葉固形部とに選別し、該茶葉エキス部と該茶葉固形部とを混合する、茶葉加工物の製造方法。
(2) 粗揉、揉捻、中揉及び精揉からなる群から選ばれる1種又は2種以上の処理を含まない、茶葉加工物の製造方法。
(3) 殺青茶葉又はその処理物における、繊維含有量、タンパク質量、糖類量、カテキン類量、テアニン量及び水分含有量からなる群から選ばれる1又は2以上の量乃至含有割合を調整する、茶葉加工物の製造方法。
(4) 殺青茶葉又はその処理物における、繊維含有量、タンパク質量、糖類量、カテキン類量、テアニン量、水分含有量からなる群から選ばれる2つの組み合わせの比率を調整する、茶葉加工物の製造方法。
(5) 上記1~4のいずれかに記載の茶葉加工物の製造方法により得られた茶葉加工物に対して、さらに香味調整して茶葉加工品とする(「香味調整工程」と称する)、茶葉加工品の製造方法。
(6) 前記香味調整工程では、凍結、冷却、濃縮、乾燥、粉末化及び顆粒化からなる群から選ばれる1種の処理又は2種以上の処理を組み合わせた処理を行う、請求項5に記載の茶葉加工品の製造方法。
(7) 生茶葉を殺青することにより該生茶葉の酵素を失活させ(この工程を「酵素失活工程」と称する)、
得られた酵素失活茶葉を粉砕し(この工程を「粉砕工程」と称する)、
得られた粉砕酵素失活茶葉を搾汁し、液部(「茶葉エキス部」とも称する)とそれ以外の非液部(「非茶葉エキス部」とも称する)とに分離し(この工程を「分級工程」と称する)、
前記非茶葉エキス部を茶葉固形部と非茶葉固形部とに選別し(この工程を「選別工程」と称する)、
前記茶葉エキス部と茶葉固形部とを混合して茶葉加工物を得る(この工程を「混合工程」と称する)、
ことを特徴とする茶葉加工物の製造方法。
(8) (1)茶葉エキス部と(2)茶葉固形部とを含有し、(3)非茶葉固形部を含有しない、茶葉加工物。
(9) 水分含有量が1~80質量%である、請求項8に記載の茶葉加工物。
(10) 上記8又は9に記載の茶葉加工物を香味調整することにより得られる、茶葉加工品。
(11) 冷凍茶葉、粉体茶葉、容器詰飲料用原料、包装資材入り茶葉の添加物のいずれかである、茶葉加工品。
【0015】
本発明はまた、(1)茶葉エキス部と(2)茶葉固形部とを含有し、(3)非茶葉固形部(茶殻部)を含有しない、茶葉加工物を提案すると共に、当該茶葉加工物を香味調整することにより得られる、茶葉加工品を提案する。
【発明の効果】
【0016】
本発明が提案する茶葉加工物の製造方法により、例えば(1)茶葉エキス部と(2)茶葉固形部とを含有し、(3)非茶葉固形部(茶殻部)を含有しない、茶葉加工物を得ることができ、上記課題を解決することができる。
また、本発明が提案する製造方法によって製造できる茶葉加工物は、そのまま利用することもできるし、また、加工を施した茶葉加工品として利用することもできる。例えば冷凍茶葉、粉体茶葉、容器詰飲料用原料、包装資材入り茶葉(ティーバッグ製品)の添加物などとして利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態の一例について説明する。但し、本発明の技術的範囲が、下記実施の形態の一例に制限されるものでない。
【0018】
<茶葉加工物・茶葉加工品>
本発明における茶葉加工物は、(1)茶葉エキス部(「液部」とも称する)と(2)茶葉固形部(「固形部」とも称する)とを含有し、(3)非茶葉固形部(茶殻部)を含有しないものである。
また、本発明における茶葉加工物は、水分含有量が1~80質量%であるのが好ましく、20~80質量%であるのがより好ましく、30~80質量%であるのがより好ましい。
また、本発明における茶葉加工品は、茶葉加工物を香味調整することにより得られるものをいう。
【0019】
本発明における「茶葉加工物」は、摘採した生茶葉を人為的に加工処理したものであり、好ましくは該生茶葉由来の成分のみからなる物である。
「茶葉エキス部」とは、蒸熱処理した生茶葉を人為的に加工処理することにより得られる液部をいい、「非茶葉エキス部」とは、前記加工処理をすることにより得られる非液部をいう。かかる人為的な加工処理は、「茶葉エキス部」と「茶葉固形部」とを分離することができれば特に限定されるものではないが、例えば搾汁工程などを挙げることができる。
また、「非茶葉エキス部」を人為的に加工処理することにより「茶葉固形部」(可溶性固形部)と「非茶葉固形部」(茶殻部)に選別する。ここで、「茶葉固形部」(可溶性固形部)とは、可溶性固形分を含む飲用可能なものをいい、「非茶葉固形部」(茶殻部)とは、不溶性固形分(食物繊維)を含みそのままでは飲用に適さないものをいう。
本発明における「茶葉加工物」は、茶葉において飲用に適した部分、すなわち「茶葉エキス部」と「茶葉固形部」(可溶性固形部)とからなるものであって、そのままの飲用に適さない「非茶葉固形部」(茶殻部)を含まないものである。
【0020】
<茶葉加工物の製法>
本発明における茶葉加工物は、殺青茶葉を茶葉エキス部と非茶葉エキス部とに分離し、得られた非茶葉エキス部を茶葉固形部と非茶葉固形部(茶殻部)とに選別し、該茶葉エキス部と該茶葉固形部とを混合することにより、得ることができる。
この際、殺青茶葉を茶葉エキス部と非茶葉エキス部とに分離する具体的方法や、得られた非茶葉エキス部を茶葉固形部と非茶葉固形部(茶殻部)とに選別する具体的方法や、該茶葉エキス部と該茶葉固形部とを混合する具体的方法は、本発明における茶葉加工物が得られる限りにおいて特に限定されるものではない。
【0021】
また、本発明における茶葉加工物は、加工時間の短縮、熱履歴(加工段階における累積的な熱ダメージ)軽減による品質保持の観点から、粗揉、揉捻、中揉及び精揉からなる群から選ばれる1種又は2種以上の処理を含まない製法により得ることができる。
【0022】
さらに、本発明における茶葉加工物の製造においては、殺青茶葉又はその処理物における、殺青茶葉又はその処理物における、繊維含有量、タンパク質量、糖類量、カテキン類量、テアニン量及び水分含有量からなる群から選ばれる1又は2以上の量乃至含有割合を調整することもできる。
かかる成分調整は、本発明における茶葉加工物の製造において必須の処理を行う際に各成分を指標として調整することもできるし、必須の処理以外に付加的に調整工程を設けることもできる。中でも、加工時間の短縮、熱履歴(加工段階における累積的な熱ダメージ)軽減による品質保持の観点から、茶葉加工物の製造において必須の処理を行う際に各成分を指標として調整することが好ましい。
【0023】
また、殺青茶葉又はその処理物における、繊維含有量、タンパク質量、糖類量、カテキン類量、テアニン量、水分含有量からなる群から選ばれる2つの組み合わせの比率、すなわち、繊維含有量、タンパク質量、糖類量、カテキン類量、テアニン量、水分含有量からなる群から選ばれる1つの量乃至含有割合に対する、前記とは異なる、繊維含有量、タンパク質量、糖類量、カテキン類量、テアニン量、水分含有量からなる群から選ばれる1つの量乃至含有割合の比率を調整するようにしてもよい。
【0024】
上記量乃至含有割合、又は上記比率の具体例としては、本発明における茶葉加工物が、茶殻部を含有しない特徴に基づき、食物繊維の含有量や、食物繊維とタンパク質との含量比率(食物繊維/タンパク質)、食物繊維と糖類との含量比率(食物繊維/糖類)、食物繊維とカテキン類との含量比率(食物繊維/カテキン類)、食物繊維とテアニンとの含量比率(食物繊維/テアニン)、食物繊維と水分の含量比率(食物繊維/水分)などを挙げることができる。
【0025】
また、例えば、本発明における茶葉加工物が、熱履歴が少ない特徴に基づき、タンパク質の含有量や、食物繊維とタンパク質との含量比率(食物繊維/タンパク質)、食物繊維と糖類との含量比率(食物繊維/糖類)、食物繊維とカテキン類との含量比率(食物繊維/カテキン類)、食物繊維とテアニンとの含量比率(食物繊維/テアニン)、食物繊維と水分の含量比率(食物繊維/水分)などを挙げることができる。
【0026】
<製法の一態様>
本発明における茶葉加工物の製造の具体的な一態様として、例えば、生茶葉を殺青することにより該生茶葉の酵素を失活させ(この工程を「酵素失活工程」と称する)、得られた酵素失活茶葉を粉砕し(この工程を「粉砕工程」と称する)、得られた粉砕酵素失活茶葉を搾汁し、液部(「茶葉エキス部」とも称する)とそれ以外の非液部(「非茶葉エキス部」とも称する)とに分離し(この工程を「分級工程」とも称する)、前記非茶葉エキス部を茶葉固形部と非茶葉固形部(茶殻部)とに選別し(この工程を「選別工程」とも称する)、前記茶葉エキス部と茶葉固形部とを混合して茶葉加工物を得る(この工程を「混合工程」と称する)方法を挙げることができる。
【0027】
なお、本発明において「工程」とは、一連の製造ラインで行うものでなくてもよく、断続的であってもよく、その際、時間をおいたり、装置を変えたり、場所を変えたりして断続的に行うものであってもよい。
【0028】
(生茶葉)
上記の「生茶葉」及び「生葉」とは、酵素の失活処理(殺青)が為されていない茶葉をいう。
【0029】
摘採する茶は、その品種、栽培方法及び摘採時期を限定するものではない。例えば、収穫前に一定期間被覆栽培して摘採した覆下茶葉を使用してもよいし、被覆栽培しない茶葉を使用することもできる。また、一番茶、二番茶、三番茶、四番茶、秋冬番茶などを使用することもできる。
また、茶の品種や、茶の栽培方法や、摘採時期などが異なる二種類以上の茶葉を組み合わせて使用することも可能である。
【0030】
摘採した茶葉は、茶葉茎部及び茶葉非茎部からなるものである。通常は、一本の茎部に2~5枚の茶葉が結合した状態である。
茶葉茎部は、茎及び葉柄であり、茶葉非茎部は、当該茶葉茎部以外の部分である。
【0031】
(酵素失活工程)
酵素失活工程では、生茶葉を加熱して酵素を失活させて酵素失活茶葉を得るようにすればよく、その方法は現在知られている又は今後開発される方法を採用すればよい。
例えば蒸機による蒸熱処理や炒り蒸処理のほか、蒸気が発生する熱風乾燥、釜炒りなどの直火加熱、熱風を当てる熱風殺青などの殺青方法を挙げることができる。また、これらを組み合わせて行うこともできる。例えば蒸機により蒸熱処理を行った後、熱風を当てる熱風殺青を行ってもよい。
【0032】
(粉砕工程)
粉砕工程では、酵素失活茶葉を粉砕して粉砕酵素失活茶葉を得るようにすればよい。
ここで、粉砕とは、茶葉をより細かな状態にすることをいい、具体的手段としては、例えば切断、裁断、圧搾などの各処理を挙げることができ、これらを単独で実施しても、これらのうちの二種以上の処理を組み合わせて実施してもよい。
粉砕の具体的方法としては、例えば、生葉カッター、フードプロセッサー、スライサー、ミンチ機、ローターバン、CTC機等による切断処理、石臼、ボールミル、ジェットミル、ピンミル、気流式粉砕機等の粉砕機を使用して既知の手法により粉砕する方法を挙げることができる。
さらに必要に応じて、高圧ホモジナイザー、遊星型ボールミル、振動ボールミル、超音波ボールミル、コロイドミルなどを用いて、微粉砕するようにしてもよい。
【0033】
(分級処理)
分級処理工程では、粉砕酵素失活茶葉を搾汁し、液部(茶葉エキス部)とそれ以外の非液部(非茶葉エキス部)とに分離する。
この際、粉砕酵素失活茶葉を搾汁して固液分離したもののうち、液部を茶葉エキス部といい、それ以外の非液部を非茶葉エキス部若しくは茶葉繊維部という。
【0034】
ここで、固液分離とは、粉砕酵素失活茶葉を搾汁して得た結果物に対して人為的な加工処理をすることにより、液部(茶葉エキス部)とそれ以外の非液部(非茶葉エキス部)に分離することをいう(分級処理とも呼ぶ)。
また、分級処理とは、茶葉エキス部とそれ以外の非茶葉エキス部とに分離する処理を意味する。
【0035】
固液分離の具体的方法は、特に限定するものではない。例えば、各種の搾汁処理や抽出処理などを挙げることができる。
具体的な分級の方法としては、例えば搾汁、圧搾、濾過、遠心分離、沈降分級、機械的分級の各処理などを挙げることができる。
これらの処理は単独で実施しても、これらのうちの二種以上の処理を組み合わせて実施してもよい。
【0036】
(選別工程)
選別工程では、前記非茶葉エキス部を茶葉固形部と非茶葉固形部(茶殻部)とに選別する(「選別処理」とも称する)。
ここで、茶葉固形部とは、可溶性固形分を含む飲用可能なものをいい、非茶葉固形部(茶殻部)とは、不溶性固形分(食物繊維)を含みそのままでは飲用に適さないものをいう。
また、選別処理の具的な方法は、非茶葉エキス部を茶葉固形部と非茶葉固形部(茶殻部)とに選別できる方法であれば特に限定されないが、例えば、各種の搾汁処理や抽出処理、濾過、比重選別、機械的分級、裏ごしの各処理などを挙げることができる。
【0037】
(混合工程)
次の混合工程では、分級工程で得られた茶葉エキス部と、選別工程で得られた茶葉固形部とを混合して茶葉加工物を得る。
なお、分級工程で得た茶葉エキス部を全部混合しても、その一部を混合するようにしてもよい。
また、選別工程で得た茶葉固形部を全部混合しても、その一部を混合するようにしてもよい。
【0038】
(他の処理工程)
本発明の茶葉加工物が得られる限りにおいて、その製法は特に限定されるものではないが、加工時間の短縮、熱履歴(加工段階における累積的な熱ダメージ)軽減による品質保持の観点から、粗揉、揉捻、中揉及び精揉からなる群から選ばれる1種又は2種以上の処理を含まないのが好ましい。
【0039】
(成分調整)
本発明においては、茶葉に含まれる各種成分に着目してその成分を調整する方法として解することもできる。この方法は、茶葉加工物の品質安定性の観点から好適に用いることができる。かかる成分としては、繊維含有量、タンパク質量、糖類量、カテキン類量、テアニン量、水分含有量からなる群から選ばれる1又は2以上の量乃至含有割合を挙げることができる。
例えば、殺青茶葉又はその処理物における、繊維含有量、タンパク質量、糖類量、カテキン類量、テアニン量、水分含有量からなる群から選ばれる1又は2以上を調整することにより、茶葉加工物を製造することもできるし、殺青茶葉又はその処理物における、繊維含有量、タンパク質量、糖類量、カテキン類量、テアニン量、水分含有量からなる群から選ばれる2つの組み合わせの比率を調整することもできる。
【0040】
(製造物としての茶葉加工物)
上記製造方法により得られる茶葉加工物は、非茶葉固形部(茶殻部)を除去している点で、生茶葉や従来技術により得られる茶葉加工品と、その構成要素や成分において異なる。
また、該茶葉加工物の水分量の水分含有量は、1~80質量%であってよい。
【0041】
<茶葉加工品>
本発明における茶葉加工物、例えば上記製造方法により得られる茶葉加工物は、そのままでも製品として提供することができるが、さらに香味を調整すること(香味調整工程)により、より最終製品に近い態様である茶葉加工品を得ることができる。
ここで、香味を調整する方法は、温度処理を加えることですなわち、凍結、冷却、濃縮、乾燥、粉末化及び顆粒化からなる群から選ばれる1種の処理又は2種以上の温度処理を組み合わせたものであってよい。
【0042】
次に、上記茶葉加工品の具体的な態様を以下に例示する。但し、本発明は、以下に記載の具体的な態様に限定されるものではない。
【0043】
(冷凍茶葉)
茶葉加工品の一例として冷凍茶葉を挙げることができる。茶葉加工物を凍結することにより、茶葉加工物に含まれる水分が凍結した冷凍茶葉を得ることができる。
【0044】
昨今では、冷凍流通の技術及び市場が発達しており、様々な種類の冷凍食品が流通している。かかる冷凍による流通態様は、一定期間の保存もできる上に鮮度保持において有利であるため、野菜や果実の流通に好適である。
【0045】
茶についていえば、容器詰緑茶飲料を容器のまま冷凍して販売するという態様は存在していた。しかしながら、茶葉をそのまま冷凍したものはこれまでに存在していない。茶葉には茶殻に相当する、繊維質を多く含む部位が含まれるため、茶葉をそのまま冷凍しても飲用することができなかったためと考えられる。
【0046】
冷凍茶葉は、例えば、溶媒を加えてマイボトル等に入れて自然に又は人為的に溶解すれば、高い鮮度感が保持されているものの、上述の茶殻の問題が生じない、これまでにない緑茶を楽しむことができる。
【0047】
(緑茶エキス粉末)
茶葉加工品の一例として緑茶エキス粉末を挙げることができる。茶葉加工物を乾燥処理することにより、茶葉加工物に含まれる水分が蒸発して乾燥茶葉としての緑茶エキス粉末を得ることができる。
【0048】
昨今では、いわゆるインスタント茶といわれる緑茶粉末(パウダー茶)が、その取り扱いの簡便さから市場伸長が続いており、様々な製品が上市されている。従来、上市されている緑茶粉末は、従来技術の項目にて上述したとおり、摘採された生葉を蒸気で蒸して生葉に含まれる酸化酵素を不活性化(殺青)させた後、粗揉、揉捻、中揉及び精揉などの各工程において揉込み、さらに乾燥させるという一連の工程を経て製造した茶葉を原料として用いるのが通常である。しかしながら、その結果、茶葉の製造工程において相当程度の熱がかかるため(熱履歴が高い)、緑茶粉末の品質の向上が頭打ちになるばかりでなく、場合によっては品質を損なう恐れもある。
【0049】
緑茶エキス粉末は、茶葉加工物の上記製造方法により得られた茶葉加工物を乾燥処理したものであるから、上述のとおり、製造段階における熱によるダメージが少ない(熱履歴が低い)ため、緑茶エキス粉末の品質が飛躍的に向上する。
【0050】
さらに云えば、既存のインスタント茶を製造する場合、茶顆粒体を結合させるために結合剤(バインダー)として例えばデキストリン等を用いることも多い。これに対して、緑茶エキス粉末は、デキストリン等を添加して調製することもできるが、上述の香味調整処理において、茶葉由来の天然の結合剤(例えば、茶葉細胞由来のタンパク質等)を用いることができるため、結合剤の使用量を低減する又は全く使用しなくとも「緑茶エキス粉末」を調製することができる。
【0051】
(容器詰飲料用原料)
茶葉加工品の一例として容器詰飲料用原料を挙げることができる。上記緑茶エキス粉末は、容器詰飲料(RTD)用の原料(「容器詰飲料用原料」と称する)として用いることができる。
【0052】
容器詰飲料用原料は、茶葉加工物製造方法により得られた茶葉加工物を乾燥処理したものであるから、上述のとおり、製造段階における熱によるダメージが少ない(熱履歴が低い)ため、加熱処理が含まれる飲料化工程に供したとしても、工程全体としては過剰に熱履歴が高まるものにはならない。
【0053】
容器詰飲料用原料としての緑茶エキス粉末は、液状態様よりも軽量で取り扱いやすいため、茶葉加工工場から飲料化工場への搬送に極めて好適である。日本における物流は、人手不足を背景に社会問題化しつつあるが、品質を低下させずに物流効率を向上させることは、コスト低減や環境負荷軽減の観点からも望ましい。さらには、容器詰飲料用原料は、設備的に制限がある飲料化工場においても、容器詰緑茶飲料の製造を可能にするものである。
【0054】
容器詰緑茶飲料は、ニーダーと呼ばれるいわば大型の「急須」を用いて製造されるのが一般的であるが、容器詰緑茶飲料の製造に特化したこのような装置は、あらゆる工場に設備されているわけではない。しかしながら、容器詰飲料用原料は、そのような装置がない工場であっても、基本的には粉末を溶媒に溶解するだけで容器詰飲料を製造することが可能になるため、生産効率の向上に大きく寄与するものである。
【0055】
また、このような事情を背景に考えると、容器詰飲料用原料は、日本国以外の各国における飲料工場において容器詰緑茶飲料を製造することが可能である。海外各国における飲料工場がニーダーを設備しているということは無いため、従来の発想であれば、海外各国の工場で容器詰緑茶飲料を製造するには新たな設備をしなければならない。しかしながら、容器詰飲料用原料は、そのような設備をせずとも海外各国の工場で容器詰緑茶飲料の製造を可能にする点でも特徴的である。さらに言えば、日本で調製した緑茶原料を海外各国の工場に搬送する場合も、粉末状体であれば相当程度に容易である。なお、容器詰飲料用原料は、そのままでも容器詰飲料原料として利用してもよいし、また、飲料化する前に火入れ処理をすれば香味が付与されるためより好ましい。
【0056】
(包装資材入り茶葉用添加物)
茶葉加工品の一例として包装資材入り茶葉用添加物を挙げることができる。
茶葉加工物を加熱乾燥処理したものは、包装資材入り茶葉(ティーバッグ茶)の添加物(「包装資材入り茶葉用添加物」と称する)として利用することができる。
【0057】
従来技術でも述べたとおり、包装資材入り茶葉(ティーバッグ茶)は、茶殻を処理する手間が省けることから、簡便性製品として広く普及している。しかしながら、包装資材入り茶葉は、抽出時間が極めて限られているため、味と水色の点で十分に抽出されない場合も多い。このような問題を解決するために様々な提案がされており、そのひとつとしては、包装資材の表面に孔を空けることにより茶葉の抽出性を向上させるというものがある(意匠登録第1630082号公報,意匠登録第1633057号公報)。
【0058】
包装資材入り茶葉用添加物は、例えば、包装資材入り茶葉の添加物として茶葉と共に包装資材に配合することができる。これにより、包装資材入り茶葉を溶媒に浸漬した際に茶葉から抽出が進むのと併せて、添加物としての本発明の茶葉加工品が別途溶出することにより、茶抽出液の味と水色が向上する。この際、包装資材に封入する茶葉や包装資材の素材や形状等は特に限定されるわけではない。