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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 6/405 20071001AFI20240220BHJP
   B60K 6/36 20071001ALI20240220BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20240220BHJP
   F16H 1/06 20060101ALI20240220BHJP
   F16H 57/03 20120101ALI20240220BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20240220BHJP
【FI】
B60K6/405
B60K6/36 ZHV
B60K6/442
F16H1/06
F16H57/03
F16H57/04 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019208558
(22)【出願日】2019-11-19
(65)【公開番号】P2021079814
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】松本 尚之
(72)【発明者】
【氏名】グエン デュイ ソン
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-100528(JP,A)
【文献】特開2011-105188(JP,A)
【文献】特開2012-163146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/405
B60K 6/36
B60K 6/442
F16H 1/06
F16H 57/03
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の動力源および第2の動力源から車軸へトルクを出力する動力伝達装置であって、
前記第1の動力源と結合する第1のドライブシャフトと、
前記第2の動力源と結合する第2のドライブシャフトと、
前記車軸と結合するデファレンシャルと、
前記第1のドライブシャフトと前記デファレンシャルとをギア結合するギア組と、
前記第2のドライブシャフトとギア結合し、前記第2のドライブシャフトを前記デファレンシャルへ切断可能に接続するクラッチと、
少なくとも前記第1のドライブシャフトと、前記第2のドライブシャフトと、前記デファレンシャルと、前記クラッチとを幅方向に実質的に平行に回転可能に支持する側壁と、前記側壁とそれぞれ一体であって前記幅方向に分割可能な周壁と、を備え、互いに結合した前記周壁は前記デファレンシャルと前記ギア組と前記クラッチとを囲むケーシングと、
前記周壁からは独立して前記側壁を互いに結合するセンターボスと、
前記センターボスから連続して前記クラッチへ向けて延びたリブであって、前記デファレンシャルに面したリブと、
を備えた動力伝達装置であって、
前記デファレンシャルは、前記ギア組および前記クラッチにギア結合するリングギアを備え、前記リブの側面は前記リングギアに面して前記リングギアから前記クラッチへ潤滑油を案内する、動力伝達装置。
【請求項2】
一方の前記側壁の外面は、前記第2の動力源を受容するベセル部を備え、前記リブは少なくとも部分的に前記ベセル部の裏面に延びる、請求項1の動力伝達装置。
【請求項3】
一方の前記側壁の内面は、前記クラッチのシャフトを回転可能に軸受けするべく内方に突出したレース部と、前記レース部の外部と内部とを連通する切欠きと、を備え、前記リブは前記レース部に連続して前記潤滑油を前記切欠きへ案内する、請求項の動力伝達装置。
【請求項4】
前記レース部の前記内部は前記切欠きから前記レース部の中心に向かうガターと、前記ガターに連続して前記潤滑油を前記クラッチの前記シャフトの内部流路へ案内するべく前記内面から突出したビークと、を備える、請求項の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の開示は、二以上の電動モータあるいは燃焼機関を組み合わせた車両において、トルクを車軸に伝達するための動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギ効率の向上のために、二以上の動力源を組み合わせた車両が市場に登場している。その代表的な例は、所謂ハイブリッド車である。燃焼機関の出力は、車軸の駆動のみならず、バッテリの充電にも利用され、その際にはモータはジェネレータとして作用し、燃焼機関の出力の一部を受けて発電する。また多くの場合において、車両が減速する際にもモータはジェネレータとして作用し、車両の慣性エネルギを電力として回生する。すなわちトルクは二以上の動力源と車軸の間で、三方向にやりとりされる必要がある。そのような動力伝達を可能にするトランスミッションは必然的に多軸のギア組を必要とし、多数の平行軸を支持するべくケーシングは高さ方向と長さ方向には大きくならざるを得ない。他方、エンジンルームは二以上の動力源を搭載せねばならないので、利用可能な空間に乏しく、幅方向にはケーシングを可能な限り薄くせざるを得ない。
【0003】
特許文献1,2は、関連する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-072052号
【文献】国際公開公報WO2018/008160A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高さ方向と長さ方向に大きく幅方向には薄い扁平な構造は、容易に理解できるように、強度および剛性の点では不利である。ケーシングが僅かでも変形すればギアの噛み合いに支障が生じ、エネルギ損失、噛み合いノイズ、ギア寿命等の多くの点で問題を生じる。特に、静粛性を追求するために各ギアにヘリカルギアを適用した場合には、各シャフトにはスラスト反力が生じ、ギアを支持するケーシングにはこれを幅方向に押し広げる方向に力が作用する。小出力のモータおよび燃焼機関と組み合わせる時にはそれほど問題でなくても、より大きなトルクを伝達しようとするほど、トランスミッションを構造的に維持することはより困難となる。
【0006】
一方、扁平な構造では、その隅々に潤滑油を届けることにも技術課題が存する。 常識に従って予想されるところによれば、ケーシングの上方や前方寄りの位置にある要素に潤滑油が届きにくく、潤滑の問題が生じそうである。ところが発明者らが検討したところによれば、予想に反して比較的に中央下部に位置するクラッチに課題があることが分かった。すなわち、回転が生ずる遠心力により、また締結したときには締結力によっても、クラッチからは潤滑油が外部へ排除される傾向が生ずる一方、これに釣り合うべき潤滑油の供給は不足しがちである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に開示する装置は、上述の問題を一体に解決するべく創作されたものである。
【0008】
一局面によれば、第1の動力源および第2の動力源から車軸へトルクを出力する動力伝達装置は、前記第1の動力源と結合する第1のドライブシャフトと、前記第2の動力源と結合する第2のドライブシャフトと、前記車軸と結合するデファレンシャルと、前記第1のドライブシャフトと前記デファレンシャルとをギア結合するギア組と、前記第2のドライブシャフトとギア結合し、前記第2のドライブシャフトを前記デファレンシャルへ切断可能に接続するクラッチと、少なくとも前記第1のドライブシャフトと、前記第2のドライブシャフトと、前記デファレンシャルと、前記クラッチとを幅方向に実質的に平行に回転可能に支持する側壁と、前記側壁とそれぞれ一体であって前記幅方向に分割可能な周壁と、を備え、互いに結合した前記周壁は前記デファレンシャルと前記ギア組と前記クラッチとを囲むケーシングと、前記周壁からは独立して前記側壁を互いに結合するセンターボスと、前記センターボスから連続して前記クラッチへ向けて延びたリブであって、前記デファレンシャルに面したリブと、を備え、前記デファレンシャルは、前記ギア組および前記クラッチにギア結合するリングギアを備え、前記リブの側面は前記リングギアに面して前記リングギアから前記クラッチへ潤滑油を案内する
【0009】
好ましくは、一方の前記側壁の外面は、前記第2の動力源を受容するベセル部を備え、前記リブは少なくとも部分的に前記ベセル部の裏面に延びる。また好ましくは、一方の前記側壁の内面は、前記クラッチのシャフトを回転可能に軸受けするべく内方に突出したレース部と、前記レース部の外部と内部とを連通する切欠きと、を備え、前記リブは前記レース部に連続して前記潤滑油を前記切欠きへ案内する。さらに好ましくは、前記レース部の前記内部は前記切欠きから前記レース部の中心に向かうガターと、前記ガターに連続して前記潤滑油を前記クラッチの前記シャフトの内部流路へ案内するべく前記内面から突出したビークと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
特定の位置および向きのリブと連絡したセンターボスにより、トランスミッションの構造が維持されることに加え、十分な潤滑油がクラッチへ供給される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、車両の概括的なブロックダイアグラムである。
図2図2は、一実施形態による動力伝達装置の側面図であって、その内部を見せた側面図である。
図3図3は、動力伝達装置の側面図であって、エンジンに対向する側を、図2とは反対の向きに見せた側面図である。
図4図4は、動力伝達装置の立面部分断面図であって、特にクラッチを拡大した立面部分断面図である。
図5図5は、動力伝達装置のケーシングの斜視図であって、ケーシングを分割してその内側、特にセンターボス、リブおよびクラッチを支持するレース部の周囲を見せた斜視図である。
図6図6は、切欠きとベアリングとの関係を表す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付の図面を参照して以下に幾つかの例示的な実施形態を説明する。
【0013】
図1において、Fは前を、Aは後ろを、Rは右を、Lは左を、Uは上を、Dは下を、それぞれ表す。以下の説明および添付の特許請求の範囲を通じて、図1において前後を貫く方向が長さ方向に対応し、左右を貫く方向が幅方向に、両者に直交する方向が高さ方向に対応する。これらの区別は説明の便宜のために過ぎず、向きを任意に入れ替えた実施形態が可能である。
【0014】
本実施形態による動力伝達装置は、第1の動力源(電動モータ)、第2の動力源(ジェネレータを含む燃焼機関)および車軸の間で三方向にトルクを伝達する用途に利用され、例えばハイブリッド車に適用される。図1は動力伝達装置がハイブリッド車の前車軸に適用される例を示すが、もちろん後車軸に適用することもできる。
【0015】
図1を参照するに、車両は、概して、前車輪を駆動するための動力伝達装置1と、後車輪のためのギアボックス15と、を備える。ギアボックス15は、右および左の車軸間の差動を許容するデファレンシャルを含むが、さらに後車輪を駆動する電動モータやその他の装置を含んでもよい。また電子的に制御するべく各要素にはワイヤリングWを介してエレクトリックコントロールユニット(ECU)11が接続されている。ECU11にはバッテリ13が接続されており、ワイヤリングWを介して各要素に電力を供給している。
【0016】
動力伝達装置1には、その構成要素として、あるいは外部要素として、電動モータ3、ジェネレータ5、および燃焼機関7が結合している。電動モータ3は本実施形態において車両を駆動する主動力源であって車軸に常時結合しており、燃焼機関7とジェネレータ5との組み合わせは副動力源であって、図2,4に示すクラッチ9が連結したときにのみ車軸と駆動的に結合する。さらにまた、クラッチ9を駆動する油圧を生み出すため、あるいは潤滑油を循環させるために、ポンプ17およびこれを駆動するためのサブモータ19を、動力伝達装置1は備えてもよい。
【0017】
燃焼機関7は、ジェネレータ5を駆動してこれに発電せしめる。燃焼機関7には、よく知られている通り、ガソリンエンジンないしディーゼルエンジンを利用することができるが、他の形式の機関を利用してもよい。ジェネレータ5が発生した電力はバッテリ13の充電に利用され、さらにバッテリ13を介して、ジェネレータ5自身、電動モータ3および各種電装品に供給されて、これらの駆動に利用される。またジェネレータ5に電力を投入して、燃焼機関7の始動に利用することもできる。
【0018】
なお車両を制動するときには電動モータ3は発電に利用されてエネルギを回生するし、またジェネレータ5に電力を投入して車両を駆動することも可能である。すなわち容量や寸法の問題を別にすれば、電動モータ3とジェネレータ5との間に機能の点で本質的な相違はない。
【0019】
動力伝達装置1に関して電動モータ3およびジェネレータ5は燃焼機関7と反対側に配置することができ、以下の説明もそのような配置に基づくが、これは必須ではない。
【0020】
図2を参照するに、動力伝達装置1は、概して、電動モータ3に駆動的に結合する第1のギア組43と、右および左の前車軸へトルクを差動的に分配するデファレンシャル35と、燃焼機関7およびジェネレータ5に駆動的に結合する第2のギア組45と、を備える。デファレンシャル35のサイドギアは、それぞれ動力伝達装置1のケーシング21の両側に臨んでいる。図2に組み合わせて図3,4を参照するに、サイドギアにそれぞれ対応してケーシング21はアクスルホール35Hを備え、ここへ挿入された前車軸はサイドギアにそれぞれスプライン結合することができる。デファレンシャル35には、ベベルギア式、フェースギア式、あるいはヘリカルギア式等の公知の形式から選択された適宜の差動ギア組が適用でき、あるいは差動ギア組に代えて、左右の車軸を独立に制御可能なクラッチパックを利用してもよい。
【0021】
主に図2を参照するに、第1のギア組43はデファレンシャル35に常時駆動的に結合しており、従って電動モータ3と車軸との間においてトルクは双方向にやりとりされる。一方、第2のギア組45とデファレンシャル35との間にはクラッチ9が介在しており、その間は切断可能であるので、クラッチ9が連結したときにのみ燃焼機関7およびジェネレータ5は車軸の駆動に参加する。
【0022】
より詳しくは、動力伝達装置1は、電動モータ3に駆動的に結合する第1のドライブシャフト31を備え、その両端はケーシング21に支持され、またその一端はケーシング21の外部に臨んでいる。かかる一端は、結合のためのスプラインを備えてもよい。第1のドライブシャフト31はまたピニオンを、一体または別体として備え、デファレンシャル35が備えるリングギア41に駆動的に結合する。その間には、リングギア33Gおよびピニオンを備えた中間シャフト33が介在していてもよい。これらの互いに噛合したギアは、第1のギア組43を構成する。これらのギアにはヘリカルギアを適用することができるが、あるいは平歯車等他の形式であってもよい。
【0023】
電動モータ3をより高回転域において運用するべく、第1のギア組43は減速ギアにすることができる。第1のギア組43がリングギア41を介してデファレンシャル35を回転せしめ、以って電動モータ3のトルクが右および左の前車軸に差動的に分配される。
【0024】
図2に組み合わせて図3,4を参照するに、動力伝達装置1は、また、第2のドライブシャフト37を備え、その両端はケーシング21に支持され、またその一端はシャフトホール37Hを通じて外部に引き出される。燃焼機関7に対応してケーシング21は燃焼機関7を受容するベセル部47を備え、ここに固定された燃焼機関7は、シャフトホール37Hから引き出された第2のドライブシャフト37の一端に結合する。かかる一端は、結合のためのスプラインを備えてもよい。燃焼機関7とシャフト37との間には、ドライクラッチやトルクダンパのごとき他の装置が介在していてもよい。
【0025】
ジェネレータ5は、第2のドライブシャフト37に直接に、あるいはこれと別体のドリブンシャフト39に、結合する。ドリブンシャフト39の両端もケーシング21に支持され、またその一端にスプラインを有してもよい。ドライブシャフト37はリングギア37Gを、一体または別体として備え、ドリブンシャフト39はこれに噛合するピニオンを備え、これらは第2のギア組45を構成する。これらのギアにもヘリカルギアないし他の形式を適用することができる。
【0026】
ジェネレータ5をより高回転域において運用するべく、ジェネレータ5から見たときには第2のギア組45も減速ギアにすることができる。燃焼機関7から見たときには、第2のギア組45は等速ないし増速ギアにすることができる。
【0027】
主に図4を参照するに、クラッチ9のシャフト53に対して相対回転できるよう、シャフト53にはリングギア53Gが嵌合しており、リングギア53Gは第2のギア組45に噛合する。またデファレンシャル35のリングギア41に噛合するピニオン53Pが、シャフト53にスプライン結合しており、これはリングギア53Gに軸方向に隣接するように配置されていてもよい。
【0028】
クラッチ9は、シャフト53に固定的に結合したクラッチドラム55と、リングギア53Gに固定的に結合したクラッチハブ57とを備え、これらは同軸であって入れ子になっている。クラッチドラム55およびクラッチハブ57にそれぞれ結合した複数のクラッチプレートが交互に配列しており、かかる複数のクラッチプレートは多板クラッチを構成する。あるいは多板クラッチに代えて適宜の摩擦クラッチ、ないしスプライン、ドッグ、シンクロコーン等の他の形式のクラッチを利用してもよい。
【0029】
図中左方より押圧力を付与してクラッチプレートを押圧すると、クラッチ9は連結し、副動力源がデファレンシャル35に駆動的に結合する。押圧力を除けば脱連結する。押圧力の付与には、既に述べた通り、ポンプ17を利用した油圧によることができるが、必ずしもこれに限られず、空圧や歯車機構によることができる。
【0030】
シャフト53は、また、その中心を貫くように流路53Hを備えてもよい。流路53Hはシャフト53の一端において開口し、またシャフト53の側面に開口してクラッチ9の内部に連通している。潤滑油がシャフト53の端の開口に供給されたときには、流路53Hはこれをクラッチ9内に輸送する流路として作用する。クラッチプレートへの潤滑油の供給を促すべく、クラッチハブ57は径方向に貫通した複数の開口を有してもよい。クラッチ9が回転することによる遠心力は、流路53Hからクラッチプレートへの潤滑油の供給に有利に働く。
【0031】
図4から特によく理解される通り、ケーシング21はこれらの全てのシャフトを互いに平行に、また特に幅方向に平行に、回転可能に支持する。幅方向にコンパクトにするべく、各ギアはこれらのシャフトに直交する一の平面付近に配列することができる。また図2から特によく理解される通り、これらのシャフトは高さ方向に異なる高さに配列することができ、例えば第1のドライブシャフト31および第2のドライブシャフト37をより上方に、デファレンシャル35およびクラッチ9のシャフト53をより下方に配置することができる。このことによりケーシング21を長さ方向に圧縮することができる。これらの配置によれば、クラッチ9はケーシング21において中央付近の下部に位置し、デファレンシャル35のリングギア41はこれに隣接する。
【0032】
ケーシング21は、二以上に分割することができる。特に2つに分割するときには、側壁21Sはそれぞれ一体のまま、周壁21Wに沿って幅方向に分割することができる。両側壁21Sは各シャフトの両端付近を支持する軸受けとして働き、周壁21Wが結合したときには内部に単一の空間を囲み、かかる空間に各シャフト、デファレンシャル35、ギア組43,45、およびクラッチ9が収容される。車軸や動力源との結合のために幾つかの開口があるが、これらは適宜のシール手段により液密に封ずることができ、以って内部の潤滑油が漏れることはない。
【0033】
ケーシング21は、その下方にオイル溜り21Rを備えることができる。ケーシング21内に分散した潤滑油は重力によりオイル溜り21Rに戻り、各ギアの回転により再びケーシング21内を循環する。特に、最も下方まで延びるリングギア41が先ず潤滑油を掻き上げ、次いで他のギアがこれを受容して輸送することにより、潤滑油がケーシング21の全体を循環すると推定される。
【0034】
分割されたケーシング21は、例えばその周壁21Wにおいてボルト等により互いに結合することができるが、これに加えて、ケーシング21は周壁21Wから独立したセンターボス23を備える。センターボス23は、一方のまたは両方の側壁から一体的に突出した突起であり、ボルト穴を備えて側壁21Sを互いに結合する。センターボス23は、好ましくは側面視においてケーシング21の中央付近であり、例えばリングギア41とリングギア37Gとの間に配置することができる。かかる位置において結合することは、高さ方向にも長さ方向にも大きいケーシング21の補強および補剛に有利である。
【0035】
さらにケーシング21は、センターボス23から連続するリブ25を備えることができる。リブ25は側壁21Sの内面と一体であって、これを補強および補剛することができる。センターボス23およびリブ25はケーシング21の中央付近にあり、また図2,3より理解される通り、ベセル部47の裏側に相当する位置にある。かかる位置はケーシング21において特に構造的に弱い部分であるので、かかる位置にセンターボス23から連続するリブ25が位置してケーシング21を補強および補剛することは、トランスミッションの構造を維持するのに特に有利である。
【0036】
図2に組み合わせて図5を参照するに、リブ25は、クラッチ9に向けて延長されていてもよい。かかるリブ25は必然的にリングギア41に近接し、これに沿い、またこれに面するので、その側面25Sはリングギア41が掻き上げた潤滑油の流れFを受容し、これをクラッチ9に誘導することができる。
【0037】
主に図5を参照するに、クラッチ9のシャフト53の一端を支持するべく、ケーシング21は、その側壁21Sの内面から内方に突出する、概ね筒状のレース部27を備える。図4,6に示される通り、ベアリング59がシャフト53とレース部27との間に介在して、シャフト53を回転可能に支持する。ベアリング59には例えばボールベアリングを適用することができるが、これに代えてローラベアリング等の他のベアリングでもよい。
【0038】
リブ25はレース部27の外周に連続していてもよい。あるいはケーシング21は他のリブ29を備え、リブ25はまずリブ29に連続し、次いでリブ29がレース部27に連続していてもよい。またレース部27は、リブ25に沿うように、切欠き27Cを備えてもよく、さらに切欠き27Cを通りレース部27の中心に向かうガター49が側壁21Sの内面に穿たれていてもよい。さらにまたガター49に連続して、内面から突出したビーク(注ぎ口として作用する嘴のような構造物)51を備えてもよい。ビーク51は、好ましくはシャフト53内の流路53Hに部分的に嵌入する。これらの構造は、リブ25の側面25Sが受容する潤滑油の流れFを流路53Hに効率よく誘導するに有利である。
【0039】
側壁21Sの内面上には、レース部27の外部であってリブ29に隣接して、切欠き27Cを中心に展開する扇型の面25Fが広がっている。かかる扇型の面25Fは、ガター49に向かって傾斜する斜面になっていてもよい。潤滑油は、図中の矢印Fに示される通り、側面25Sのみならず、かかる扇型の面25Fにも誘導されて切欠き27Cへ集まる。図6より理解される通り、扇型の面25Fおよびガター49は、切欠き27Cを通り、ベアリング59を潜って、レース部27の外部と内部とを連通する経路として働き、潤滑油を流路53Hへ供給することを可能にしている。すなわちこれらの構造も、潤滑油の流れFを流路53Hに効率よく誘導するに有利である。
【0040】
既に述べた通り、本実施形態のごとき動力伝達装置は多軸を平行に支持する必要があるために、そのケーシングは高さ方向と長さ方向に大きく幅方向には薄い扁平な構造を有し、その構造の維持にも潤滑油の循環にも課題がある。本実施形態においては、主に、デファレンシャルに面したセンターボスおよびリブを備えることにより、両方の課題を解決している。
【0041】
幾つかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正ないし変形をすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
主にハイブリッド車に好適な動力伝達装置が提供される。
【符号の説明】
【0043】
1 動力伝達装置
3 電動モータ
5 ジェネレータ
7 燃焼機関
9 クラッチ
11 ECU
13 バッテリ
15 ギアボックス
17 ポンプ
19 サブモータ
21 ケーシング
21R オイル溜り
21S 側壁
21W 周壁
23 センターボス
25 リブ
25F 扇型の面
25S 側面
27 レース部
27C 切欠き
29 リブ
31 第1のドライブシャフト
33 中間シャフト
33G リングギア
35 デファレンシャル
35H アクスルホール
37 第2のドライブシャフト
37G リングギア
37H シャフトホール
39 ドリブンシャフト
41 リングギア
43 第1のギア組
45 第2のギア組
47 ベセル部
49 ガター
51 ビーク
53 シャフト
53G リングギア
53H 流路
53P ピニオン
55 クラッチドラム
57 クラッチハブ
59 ベアリング
F 流れ
W ワイヤリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6