(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】放射線撮像装置および光子計数型検出器の較正方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20240220BHJP
A61B 6/00 20240101ALI20240220BHJP
A61B 6/58 20240101ALI20240220BHJP
【FI】
A61B6/03 570G
A61B6/00 533
A61B6/58 500A
(21)【出願番号】P 2020002682
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】横井 一磨
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-125334(JP,A)
【文献】特表2019-520909(JP,A)
【文献】特開2012-081108(JP,A)
【文献】特開2009-014624(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0371378(US,A1)
【文献】特開2019-058488(JP,A)
【文献】特開2014-061286(JP,A)
【文献】国際公開第2016/171186(WO,A1)
【文献】特開2018-179983(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158234(WO,A1)
【文献】特開2009-261942(JP,A)
【文献】特開2012-245235(JP,A)
【文献】特開昭55-129037(JP,A)
【文献】国際公開第2018/131611(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0084069(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/58 、
G01N23/00-23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射する放射線光子のエネルギーである光子エネルギーに対応する電気信号を出力する光子計数型検出器を備える放射線撮像装置であって、
複数の物質について線減弱係数と前記光子エネルギーとの関係を記憶する記憶部と、
光子エネルギー毎の線減弱係数を所定の光子エネルギーの線減弱係数で除算することより規格化された線減弱係数である規格化減弱係数を各物質について算出する算出部と、
弁別される物質である弁別物質に対して用いられる基底物質を前記規格化減弱係数に基づいて選択する選択部を備え
、
前記選択部は、前記弁別物質の規格化減弱係数よりも小さい規格化減弱係数を有する物質群において前記弁別物質の規格化減弱係数との差異がより小さい規格化減弱係数を有する物質と、前記弁別物質の規格化減弱係数よりも大きい規格化減弱係数を有する物質群において前記弁別物質の規格化減弱係数との差異がより小さい規格化減弱係数を有する物質とを前記基底物質として選択することを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線撮像装置であって、
前記選択部は、前記弁別物質が水である場合、前記基底物質としてPMMAとPTFEを選択することを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項3】
請求項1に記載の放射線撮像装置であって、
前記選択部は、前記弁別物質が脂肪組織である場合、前記基底物質としてポリエチレンとPTFEを選択することを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項4】
入射する放射線光子のエネルギーである光子エネルギーに対応する電気信号を出力する光子計数型検出器の較正方法であって、
複数の物質について線減弱係数と前記光子エネルギーとの関係を取得する取得ステップと、
光子エネルギー毎の線減弱係数を所定の光子エネルギーの線減弱係数で除算することより規格化された線減弱係数である規格化減弱係数を各物質について算出する算出ステップと、
弁別される物質である弁別物質に対して用いられる基底物質を前記規格化減弱係数に基づいて選択する選択ステップを備え
、
前記選択ステップでは、前記弁別物質の規格化減弱係数よりも小さい規格化減弱係数を有する物質群において前記弁別物質の規格化減弱係数との差異がより小さい規格化減弱係数を有する物質と、前記弁別物質の規格化減弱係数よりも大きい規格化減弱係数を有する物質群において前記弁別物質の規格化減弱係数との差異がより小さい規格化減弱係数を有する物質とが前記基底物質として選択されることを特徴とする光子計数型検出器の較正方法。
【請求項5】
請求項4に記載の光子計数型検出器の較正方法であって、
前記選択ステップでは、前記弁別物質が水である場合、前記基底物質としてPMMAとPTFEが選択されることを特徴とする光子計数型検出器の較正方法。
【請求項6】
請求項4に記載の光子計数型検出器の較正方法であって、
前記選択ステップでは、前記弁別物質が脂肪組織である場合、前記基底物質としてポリエチレンとPTFEが選択されることを特徴とする光子計数型検出器の較正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光子計数型検出器を備える放射線撮像装置に係り、光子計数型検出器の較正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトンカウンティング方式を採用する検出器である光子計数型検出器を備えるPCCT(Photon Counting Computed Tomography)装置の開発が進められている。光子計数型検出器は、検出器に入射する放射線光子のエネルギーである光子エネルギーを計測できるので、PCCT装置は従来のCT装置よりも多くの情報を含んだ医用画像、例えば組成の異なる物質が弁別された医用画像を提示できる。より具体的には血管造影に用いられるヨード造影剤と血管中の石灰化プラークが区別された医用画像が得られる。なお物質が弁別された医用画像を得るには、組成や厚さが既知の物質である複数の基底物質の組み合わせを光子計数型検出器で計測したときの出力と光子エネルギーとの関係を検出器素子毎に予め較正する必要がある。
【0003】
特許文献1には、被検体のマルチスペクトルX線投影から被検体の組成情報を決定できるように、基底物質のマルチスペクトルX線投影を用いて訓練されたANN(Artificial Neural Network)が開示されている。また特許文献1では、二つの基底物質を使用する場合には原子番号の低い物質と高い物質を使用することが望ましく、PMMA(Poly-Methyl Meth-Acrylate)とアルミニウムや、ポリスチレンとPVC(Poly-Vinyl Chloride)の使用例が示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1では、筋肉等の軟組織や脂肪組織を高精度に弁別することに対する配慮がなされていない。体内組織に含まれる脂肪の割合の差異を評価することは診断上重要であるので、軟組織や脂肪組織を高精度に弁別する必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、軟組織や脂肪組織を高精度に弁別可能な放射線撮像装置および光子計数型検出器の較正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、入射する放射線光子のエネルギーである光子エネルギーに対応する電気信号を出力する光子計数型検出器を備える放射線撮像装置であって、複数の物質について線減弱係数と前記光子エネルギーとの関係を記憶する記憶部と、光子エネルギー毎の線減弱係数を所定の光子エネルギーの線減弱係数で除算することより規格化された線減弱係数である規格化減弱係数を各物質について算出する算出部と、弁別される物質である弁別物質に対して用いられる基底物質を前記規格化減弱係数に基づいて選択する選択部を備えることを特徴とする。
【0008】
また本発明は、入射する放射線光子のエネルギーである光子エネルギーに対応する電気信号を出力する光子計数型検出器の較正方法であって、複数の物質について線減弱係数と前記光子エネルギーとの関係を取得する取得ステップと、光子エネルギー毎の線減弱係数を所定の光子エネルギーの線減弱係数で除算することより規格化された線減弱係数である規格化減弱係数を各物質について算出する算出ステップと、弁別される物質である弁別物質に対して用いられる基底物質を前記規格化減弱係数に基づいて選択する選択ステップを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軟組織や脂肪組織を高精度に弁別可能な放射線撮像装置および光子計数型検出器の較正方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】光子計数型検出器の較正について説明する図である。
【
図3】本実施例の機能ブロック図の一例を示す図である。
【
図4】光子計数型検出器を較正する処理の流れの一例を示す図である。
【
図5】複数の物質について線減弱係数と光子エネルギーの関係の例を示す図である。
【
図6】複数の物質について規格化減弱係数と光子エネルギーの関係の例を示す図である。
【
図7】複数の基底物質の組み合わせによる水の分解・再合成残差と光子エネルギーの関係の例を示す図である。
【
図8】複数の基底物質の組み合わせによる脂肪組織の分解・再合成残差と光子エネルギーの関係の例を示す図である。
【
図9】ポリエチレンの厚さとPTFEの厚さの組み合わせの範囲の設定について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。本発明の放射線撮像装置は、放射線源と光子計数型検出器とを備える装置に適用される。以降の説明では、放射線がX線であり、放射線撮像装置がX線CT装置である例について述べる。
【実施例1】
【0012】
図1に本実施例のX線CT装置101の全体構成図を示す。X線CT装置101は、ガントリ102、X線管103、ボウタイフィルタ104、寝台105、検出器パネル107、演算装置108、入力装置109、表示装置110を備える。X線管103から放射されたX線は、ボウタイフィルタ104により被検体106の大きさに適したビーム形状に成形されて被検体106に照射され、被検体106を透過したのち検出器パネル107に検出される。X線管103と検出器パネル107は、被検体106を挟んで対向配置されるようにガントリ102に取り付けられ、ガントリ102の回転駆動により被検体106の周りを回転する。ガントリ102の回転駆動とともに、X線管103からのX線照射と検出器パネル107でのX線計測が繰り返されることにより、様々な投影角度での投影データが取得される。取得された投影データが演算装置108にて画像再構成処理されることにより、被検体106の断層画像が生成され、表示装置110に表示される。また被検体106を載せた寝台105とガントリ102とが被検体106の体軸方向に相対的に移動しながら投影データが取得されると、被検体106のボリューム画像が生成される。なお、X線管103から照射されるX線量や、ガントリ102の回転速度、ガントリ102と寝台105との相対移動速度は、入力装置109を介して操作者が入力するスキャン条件に基づいて設定される。また演算装置108は一般的なコンピュータ装置と同様のハードウェア構成であり、CPU(Central Processing Unit)やメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等を備え、投影データ等に対する補正処理や各部の制御を行う。
【0013】
検出器パネル107は、複数の検出器ピクセルPがX線管103のX線焦点を中心とした円弧形状に配置されることより構成される。検出器ピクセルPは、入射するX線光子のエネルギーである光子エネルギーを計測する光子計数型検出器であり、光子エネルギーに応じた出力をする。
【0014】
光子計数型検出器を備えるX線CT装置101では、被検体106の投影データに関する光子エネルギースペクトルが取得できるので、組成の異なる物質が弁別された医用画像や複数のエネルギー成分に分けられた医用画像を生成できる。なお組成の異なる物質が弁別された医用画像等を得るには、組成や厚さが既知の物質である複数の基底物質の組み合わせを光子計数型検出器で計測したときの出力と光子エネルギーとの関係を検出器素子毎に予め較正する必要がある。
【0015】
図2を用いて、光子計数型検出器の較正について説明する。光子計数型検出器の較正には、組成や厚さが既知の複数の基底物質、例えば二つの基底物質の組み合わせ201が用いられる。基底物質の組み合わせ201には、基底物質毎に複数の異なる厚さの板が用いられてもよく、例えば一方の厚さがJ種類、他方の厚さがK種類であれば、J×K種類の基底物質の組み合わせ201が用いられ、各組み合わせについて光子エネルギースペクトルが取得される。
図2ではJ=3、K=3であるので、九種類の光子エネルギースペクトルが示される。
【0016】
被検体106の中の所望の組織、例えば脂肪組織を高精度に弁別するには適切な基底物質を選択しなければならない。本実施例では、弁別される物質である弁別物質に応じて基底物質が選択される。
【0017】
図3を用いて、本実施例の機能ブロック図の一例について説明する。なおこれらの機能は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)等を用いた専用のハードウェアで構成されても良いし、演算装置108で動作するソフトウェアで構成されても良い。以降の説明では各機能がソフトウェアで構成された場合について説明する。本実施例は、記憶部301と算出部302と選択部303を備える。以下、各部について説明する。
【0018】
記憶部301は、複数の物質についてX線の線減弱係数と光子エネルギーとの関係を記憶する。
図5には線減弱係数と光子エネルギーとの関係の例が示される。
図5に示される物質は、カルシウム、アルミニウム、PTFE(Poly-Tetra-Fluoro-Ethylene)、軟組織、水、PMMA、脂肪組織、グラファイト、ポリエチレンである。
【0019】
算出部302は、光子エネルギー毎の線減弱係数を所定の光子エネルギーの線減弱係数で除算することより規格化された線減弱係数である規格化減弱係数を各物質について算出する。
図6には、
図5の各物質について120keVでの線減弱係数で光子エネルギー毎の線減弱係数を除算して算出された規格化減弱係数と光子エネルギーとの関係の例が示される。
【0020】
選択部303は、弁別物質に対して用いられる基底物質を規格化減弱係数に基づいて選択する。より具体的には、弁別物質の規格化減弱係数よりも小さい規格化減弱係数を有する物質と大きい規格化減弱係数を有する物質との組み合わせが基底物質として選択される。また弁別物質の規格化減弱係数との差異がより小さい規格化減弱係数を有する物質が基底物質として選択される。なお選択された基底物質は異なる厚さの板として扱われて、光子計数型検出器を備えるX線CT装置101によって計測されるので、常温常圧において安定した固体であって、均一性が高く、入手が容易で、加工しやすい物質であることが好ましい。
【0021】
図4を用いて、光子計数型検出器を較正する処理の流れについて説明する。
【0022】
(S401)
算出部302は、記憶部301から複数の物質について線減弱係数を取得する。なお線減弱係数は、記憶部301に記憶される線減弱係数に限定されず、ネットワークなどを介して外部から取得されても良い。
【0023】
図5に示されるように、各物質の線減弱係数は光子エネルギーの増加にともなって減少するものの、減少の程度が物質によって異なるので線減弱係数の曲線が互いに交差する。このような曲線の交差は、物質間の関係を不明確にし、弁別物質に対する基底物質の選択を困難にする。
【0024】
(S402)
算出部302は、S401にて取得した線減弱係数を用いて、規格化減弱係数を算出する。具体的には、光子エネルギー毎の線減弱係数が所定の光子エネルギーの線減弱係数で除算されることにより、規格化減弱係数が算出される。なお所定の光子エネルギーは、全物質について共通の光子エネルギーであり、X線CT装置101によって計測される光子エネルギーの範囲の最大エネルギーであることが好ましい。例えば、X線管103に印加される管電圧が120kVであるときには、120keVでの線減弱係数で光子エネルギー毎の線減弱係数が除算される。
【0025】
図6に示されるように、各物質の規格化減弱係数の曲線は互いに交差しないので、物質間の関係は規格化減弱係数の比較により明確になる。すなわち、規格化減弱係数を用いることにより、弁別物質に対する基底物質の選択が容易になる。なお
図6では、規格化減弱係数の大きさの順は凡例に示す順である。
【0026】
(S403)
選択部303は、S402にて算出された規格化減弱係数に基づいて、基底物質を選択する。例えば、弁別物質の規格化減弱係数よりも小さい規格化減弱係数を有する物質群である第一物質群の中の物質である第一物質が基底物質の一つとして選択される。第一物質には、第一物質群の中で最大の規格化減弱係数を有する物質が選択されることが好ましい。また弁別物質の規格化減弱係数よりも大きい規格化減弱係数を有する物質群である第二物質群の中の物質である第二物質が基底物質のもう一つとして選択される。第二物質には、第二物質群の中で最小の規格化減弱係数を有する物質が選択されることが好ましい。
【0027】
図6において水と脂肪組織を弁別物質とした場合、水と脂肪組織よりも規格化減弱係数が小さい物質であるグラファイトとポリエチレンのいずれか一つが基底物質の候補となる。また水と脂肪組織よりも規格化減弱係数が大きい物質であるPTFE、アルミニウム、カルシウムのいずれか一つが基底物質の候補となる。なお、弁別物質である水や脂肪組織の規格化減弱係数との差異の大きさや、常温常圧における安定性を含めて、ポリエチレンとPTFEの組み合わせが基底物質として選択されても良い。
【0028】
図7と
図8を用いて、基底物質の組み合わせが物質分解の精度に与える影響について説明する。
図7は、異なる基底物質の組み合わせによって水を分解し、分解によって得られた基底係数を用いて光子エネルギー毎に再合成された線減弱係数から水の線減弱係数を減算した結果である。すなわち縦軸の値が光子エネルギーの全範囲においてゼロに近いほど物質分解の精度が高い。PMMAを含む三つの組み合わせを比較すると、カルシウム、アルミニウム、PTFEの順に物質分解の精度が向上する。またPTFEを含む二つの組み合わせを比較すると、PMMAのほうがポリエチレンよりも高精度であるもののどちらも0.1%未満である。
【0029】
図8は、異なる基底物質の組み合わせによって脂肪組織を分解し、分解によって得られた基底係数を用いて再合成された線減弱係数から脂肪組織の線減弱係数を減算した結果である。PMMAを含む三つの組み合わせを比較すると、水の場合と同様に、カルシウム、アルミニウム、PTFEの順に物質分解の精度が向上する。またPTFEを含む二つの組み合わせを比較すると、ポリエチレンのほうがPMMAよりも高精度であり、ポリエチレンとPTFEの組み合わせは0.1%未満である。
【0030】
図6に戻り、水と脂肪組織の規格化減弱係数を
図7と
図8に示す組み合わせの規格化減弱係数と比較すると、水により近いのはPMMAとPTFEであり、脂肪組織により近いのはポリエチレンとPTFEである。すなわち、弁別物質の規格化減弱係数との差異がより小さい規格化係数を有する物質を基底物質として選択することにより、物質分解の精度を向上できる。
【0031】
(S404)
演算装置108は、S403で選択された基底物質を用いて光子計数型検出器を較正する。より具体的には、
図2に示される構成により、基底物質の厚さの組み合わせを変える毎に光子スペクトルが計測される。なお、弁別物質が決まっている場合は、基底物質の厚さの組み合わせの範囲を限定して設定しても良い。
【0032】
図9を用いて、基底物質の厚さの組み合わせの範囲の設定について説明する。
図9の横軸は一方の基底物質であるポリエチレンの厚さ、縦軸は他方の基底物質であるPTFEの厚さであり、両軸のフルスケールは水の単位厚さに対応する。弁別物質である水と脂肪組織をポリエチレンとPTFEに分解すると、水と脂肪組織のポリエチレン厚さの割合はそれぞれ60%と88%である。そこで88%に2%を加算した90%をポリエチレン割合の上限901とし、60%から5%を減算した55%をポリエチレン割合の下限902とする。さらにポリエチレン厚さの割合とPTFE厚さの割合の和が100%以下であることからポリエチレンとPTFEの組み合わせ上限903が設定される。そしてポリエチレン割合の上限901と下限902と組み合わせ上限903に囲われる範囲がポリエチレンとPTFEの組み合わせ範囲904となる。
【0033】
弁別物質である水と脂肪組織が混在する領域をポリエチレンとPTFEに分解した結果は組み合わせ範囲904の中におさまるので、光子計数型検出器の較正に用いられるポリエチレンとPTFEの厚さの組み合わせを組み合わせ範囲904に限定しても良い。基底物質の厚さの組み合わせの範囲を限定することにより、較正に要する時間と手間を抑制することができる。
【0034】
以上説明した処理の流れにより、軟組織や脂肪組織を高精度に弁別できるように光子計数型検出器を較正することができる。またこのように較正された光子計数型検出器を搭載するX線CT装置101によって、体内組織に含まれる脂肪の割合の差異を評価できるので、画像診断において有用である。
【0035】
以上、本発明の放射線撮像装置および光子計数型検出器の較正方法の実施例について説明した。なお、本発明の放射線撮像装置および光子計数型検出器の較正方法は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0036】
101:X線CT装置、102:ガントリ、103:X線管、104:ボウタイフィルタ、105:寝台、106:被検体、107:検出器パネル、108:演算装置、109:入力装置、110:表示装置、201:基底物質の組み合わせ、301:記憶部、302:算出部、303:選択部、901:ポリエチレン割合の上限、902:ポリエチレン割合の下限、903:組み合わせ上限、904:組み合わせ範囲