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特許7440296非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/449 20210101AFI20240220BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240220BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240220BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240220BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240220BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
H01M50/449
H01M50/414
H01M50/489
H01M10/0569
H01M10/052
C08J9/26 102
C08J9/26 CFG
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020034134
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021136222
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森村 亘
(72)【発明者】
【氏名】西川 聡
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-536672(JP,A)
【文献】特表2016-532240(JP,A)
【文献】特表2018-511156(JP,A)
【文献】特開2012-033315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M、C08J
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン微多孔膜からなる多孔質基材と、
前記多孔質基材の片面のみに、アミド結合、イミド結合及びスルホニル結合の群から選ばれる少なくとも1つの結合基を有する樹脂を含む多孔質層と、
を備え、
前記多孔質基材は、示差走査熱量分析(DSC)測定において、窒素雰囲気下、温度変化速度5℃/分で連続的に30℃から200℃まで昇温する昇温工程1と、200℃から30℃まで降温し、30℃から200℃まで昇温する昇温工程2と、を設けた場合に、昇温工程1における120℃~145℃にみられる吸熱ピークの温度及び昇温工程2における120℃~145℃にみられる吸熱ピークの温度の差の絶対値が1.50℃以上である、
非水系二次電池用セパレータ。
【請求項2】
前記多孔質層は、無機粒子を含む請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記樹脂は、全芳香族ポリアミドを含む請求項1又は請求項2に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
下記式で求められるマクミラン数Mnが20以下である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
Mn=(σe)/(σs)
σs=t/Rm
式中、σeは、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの混合溶媒(混合比1:1[質量比])に1mol/lのLiPFを溶解させた電解液の20℃での導電率(S/m)を表し、σsは、前記電解液を含浸させた20℃でのセパレータの導電率(S/m)を表し、tは、膜厚(m)を表し、Rmは、セパレータの膜抵抗(ohm・cm)を表す。
【請求項5】
前記多孔質層は、厚みが0.3μm~5.0μmである請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
前記多孔質基材の孔内部、及び、前記多孔質基材の前記多孔質層を有する側とは反対側の表面に前記樹脂を有する請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータと、環状カーボネートを溶媒の全質量に対して90質量%以上含む溶媒にリチウム塩を溶解した電解液と、を備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水系二次電池は、ノートパソコン、携帯電話、デジタルカメラ、カムコーダ等の携帯型電子機器の電源として広く用いられている。非水系二次電池に備えられたセパレータとしては、ポリエチレン膜等の基材にポリアミド(アラミドともいう。)を含む層が塗設されたセパレータ、及びポリエチレン膜にナイロンを練り込んだセパレータが従来から知られている。
【0003】
例えば特許文献1のように、ポリエチレン膜にアラミドを含む層を塗設したセパレータは、通常、ポリエチレン膜の両面にアラミドが塗工されている。アラミドの塗工がポリエチレン膜の両面に行われるので、製造されるセパレータは、必然的にある程度の厚みを有し、薄膜化は難しい。
【0004】
また、アラミド又はナイロンは、分子中に極性基を有している。そのため、アラミド又はナイロンを用いたセパレータは、静電気を帯びやすく、滑り性に乏しいという特性がある。セパレータが静電気を帯びると、製造の過程で異物が付着し、不具合を生じることがある。また、セパレータの滑り性が悪くなると、例えば巻芯を用いてセパレータと電極を重ねて巻回した巻回体を巻芯から引き抜く製造過程において、巻回体がタケノコ状に延びて型崩れする現象又は巻回体にシワが形成される現象を招来することもある。
【0005】
上記に鑑みると、基材に塗工膜を設ける場合、塗工膜は基材の片面にのみ設けられることが好ましい。例えば、基材の片側に耐熱性含窒素芳香族重合体を含む層を有する非水電解質電池セパレーターが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2008/062727号
【文献】特許第3175730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、塗工膜がポリエチレン膜等の基材の片面のみに設けられる態様では、塗工膜がポリエチレン膜の両面に設けられている態様に比べて、電解液がセパレータ内に浸透しにくいという課題がある。セパレータ内への電解液の浸透が充分でない場合、セパレータの抵抗値(膜抵抗)が大きくなり、特許文献2に記載の技術では、所望とする電池特性が期待できない。
【0008】
本開示は、上記状況に鑑みてなされたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、電解液が浸透しやすい非水系二次電池用セパレータを提供することにある。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、電池特性に優れた非水系二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> ポリオレフィン微多孔膜を含む多孔質基材と、前記多孔質基材の片面のみに、アミド結合、イミド結合及びスルホニル結合の群から選ばれる少なくとも1つの結合基を有する樹脂を含む多孔質層と、を備え、
前記多孔質基材は、示差走査熱量分析(DSC)測定において、窒素雰囲気下、温度変化速度5℃/分で連続的に30℃から200℃まで昇温する昇温工程1と、200℃から30℃まで降温し、30℃から200℃まで昇温する昇温工程2と、を設けた場合に、昇温工程1における120℃~145℃にみられる吸熱ピークの温度及び昇温工程2における120℃~145℃にみられる吸熱ピークの温度の差の絶対値が1.50℃以上である、
非水系二次電池用セパレータである。
【0010】
<2> 前記多孔質層は、無機粒子を含む<1>に記載の非水系二次電池用セパレータである。
【0011】
<3> 前記樹脂は、全芳香族ポリアミドを含む<1>又は<2>に記載の非水系二次電池用セパレータである。
【0012】
<4> 下記式で求められるマクミラン数Mnが20以下である<1>~<3>のいずれか1つに記載の非水系二次電池用セパレータである。
Mn=(σe)/(σs)
σs=t/Rm
式中、σeは、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの混合溶媒(混合比1:1[質量比])に1mol/lのLiPFを溶解させた電解液の20℃での導電率(S/m)を表し、σsは、前記電解液を含浸させた20℃でのセパレータの導電率(S/m)を表し、tは、膜厚(m)を表し、Rmは、セパレータの膜抵抗(ohm・cm)を表す。
【0013】
<5> 前記多孔質層は、厚みが0.3μm~5.0μmである<1>~<4>のいずれか1つに記載の非水系二次電池用セパレータである。
【0014】
<6> 前記多孔質基材の孔内部、及び、前記多孔質基材の前記多孔質層を有する側とは反対側の表面に前記樹脂を有する<1>~<5>のいずれか1つに記載の非水系二次電池用セパレータである。
【0015】
<7> 正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された<1>~<6>のいずれか1つに記載の非水系二次電池用セパレータと、環状カーボネートを溶媒の全質量に対して90質量%以上含む溶媒にリチウム塩を溶解した電解液と、を備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池である。
【発明の効果】
【0016】
本開示の一実施形態によれば、電解液が浸透しやすい非水系二次電池用セパレータが提供される。
本開示の他の実施形態によれば、電池特性に優れた非水系二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
【0018】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0019】
本明細書において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の成分の合計量を意味する。
【0020】
本明細書における「固形分」の語は、溶媒を除く成分を意味し、溶剤以外の低分子量成分などの液状の成分も本明細書における「固形分」に含まれる。
本明細書において「溶媒」とは、水、有機溶剤、及び水と有機溶剤との混合溶媒を包含する意味で用いられる。
【0021】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0022】
なお、本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0023】
本開示における重量平均分子量(Mw)は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)で測定される値とする。
具体的には、ポリエチレン微多孔膜の試料をo-ジクロロベンゼン中に加熱溶解し、GPC(Waters社製 Alliance GPC 2000型、カラム;GMH6-HTおよびGMH6-HTL)により、カラム温度135℃、流速1.0mL/分の条件にて測定することでMwを得る。分子量の校正には、分子量単分散ポリスチレン(東ソー社製)を用いることができる。
【0024】
<非水系二次電池用セパレータ>
本開示の非水系二次電池用セパレータ(以下、「本開示のセパレータ」又は「セパレータ」ともいう。)は、ポリエチレン微多孔膜を含む多孔質基材と、多孔質基材の片面のみに、アミド結合、イミド結合及びスルホニル結合の群から選ばれる少なくとも1つの結合基を有する樹脂を含む多孔質層と、を備え、多孔質基材は、示差走査熱量分析(DSC)測定において、窒素雰囲気下、温度変化速度5℃/分で連続的に30℃から200℃まで昇温する昇温工程1と、200℃から30℃まで降温し、30℃から200℃まで昇温する昇温工程2と、を設けた場合に、昇温工程1における120℃~145℃にみられる吸熱ピークの温度及び昇温工程2における120℃~145℃にみられる吸熱ピークの温度の差の絶対値(以下、単に「吸熱ピークの温度差」ともいう。)を1.50℃以上としたものである。
【0025】
従来から、非水系二次電池に備えられるセパレータとして、例えば、ポリエチレン膜の両面にアラミドを含む層が塗設された3層構造のものが知られている。そして、アラミド又はナイロンを用いたセパレータは、静電気を帯びやすく、滑り性に乏しいという特性がある。かかる特性に起因して、製造の過程で異物が付着し不具合を生じたり、巻芯にセパレータと電極を巻回して製造される巻回体に型崩れ又はシワが形成される等の支障を来たす場合がある。
このような状況に鑑み、本開示の非水系二次電池用セパレータでは、特定樹脂を含む多孔質層を多孔質基材の片面のみに形成する。これにより、セパレータ全体を薄膜化することができ、静電気による不具合及び型崩れ並びにシワ等の発生が抑制される。しかしながら、多孔質層が多孔質基材の一方側のみに形成され、他方側には多孔質層は形成されず多孔質基材の表面が露出する状態では、電解液との親和性が乏しいため、セパレータに電池特性の観点から必要とされる量の電解液が含浸されないことが懸念される。電解液の含浸が不充分であると、所望とする電池特性が期待できなくなる。
【0026】
この点に鑑み、本開示の非水系二次電池用セパレータでは、多孔質層を、アミド結合、イミド結合及びスルホニル結合の群から選ばれる結合基を有する樹脂を含むものとし、かつ、多孔質層が付される多孔質基材を、DSC測定の際、窒素雰囲気下、温度変化速度5℃/分で連続的に30℃から200℃まで昇温する昇温工程1と、200℃から30℃まで降温し、30℃から200℃まで昇温する昇温工程2と、を設けた場合に、昇温工程1及び昇温工程2のそれぞれにおいて120℃~145℃にみられる吸熱ピークの温度の差の絶対値が1.50℃以上であるものとする
かかる構成を有する本開示の非水系二次電池用セパレータが効果を奏する理由は必ずしも明確ではないが、以下のように推定される。
【0027】
まず、多孔質層について、アミド結合、イミド結合及びスルホニル結合の群から選ばれる結合基を有する樹脂を含むものとする。これにより、樹脂がアミド結合、イミド結合及びスルホニル結合から選ばれる結合基を有するので、多孔質基材(特にポリエチレン膜)に対する親和性が良好になり、かつ、電解液との間の親和性も高いため、電解液の多孔質層への浸透性が良好なものとなる。
次に、多孔質層が付される多孔質基材について、DSC測定の際、窒素雰囲気下、温度変化速度5℃/分で連続的に30℃から200℃まで昇温する昇温工程1と、200℃から30℃まで降温し、30℃から200℃まで昇温する昇温工程2と、を設け、昇温工程1及び昇温工程2のそれぞれにおいて120℃~145℃にみられる吸熱ピークの温度の差の絶対値を1.50℃以上であるものとする。昇温工程1での吸熱ピークの温度は、多孔質基材に物理的な変形を与えて生じた結晶状態の変化の履歴を反映している。つまり、多孔質基材が延伸処理を経た基材である場合、多孔質基材を延伸した際に未延伸基材中に存在する球晶が変化した結晶と変化せず残っている球晶との双方が影響して現れる融解温度を表す。昇温工程2での吸熱ピークは、昇温工程1の熱で変形の履歴が解消された状態を反映している。つまり、物理的な変形が与えられる前の基材の結晶状態、換言すると、球晶のみの融解温度を表す。
ここで、多孔質基材は、多数のポリエチレン(PE)分子がネットワーク状に絡み合って構成されており、球晶とは、複数のPE分子鎖が絡み合って球状になった部分をいい、結晶とは、真っ直ぐに伸ばされた複数のPE分子鎖が整列した部分をいう。球晶等の分子構造の状態は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡により確認することができる。
上記において、昇温工程1の吸熱ピークの温度と昇温工程2の吸熱ピークの温度との差(絶対値)は、延伸等の物理的な変形を与えることによって生じた結晶の、球晶に対する量的な変化を表している。つまり、2つの昇温工程での吸熱ピークの温度差は、多孔質基材に施された物理的な変形度合い(例えば、延伸処理を行った延伸フィルム等の場合は延伸処理が施された程度)を表し、温度差が大きいということは基材中に結晶が多いことを意味している。即ち、本開示における多孔質基材は、結晶の部分が多い構造となっている。
本開示において、2つの昇温工程での吸熱ピークの温度差が1.50℃以上であることは、多孔質基材が延伸等の物理的な処理が施されて球晶の部分が減少した状態の基材であって、基材中の結晶状態が電解液の付着に影響し、結果、多孔質基材が液の浸透作用を発現していると推測される。
【0028】
非水系二次電池用セパレータは、電池特性の観点から、基材が電解液を含浸しやすい性質をそなえていることが重要であり、2つの昇温工程での吸熱ピークの温度差が1.50℃以上であると、電解液が浸透しやすいということができる。
上記のように多孔質層及び多孔質基材の双方の機能が相俟って、本開示の非水系二次電池用セパレータは、電解液の浸透が速やかに進みやすく、電解液が良好に含浸されたものが得られやすい。
【0029】
(多孔質基材)
本開示における多孔質基材は、少なくともポリエチレンを含むポリオレフィン微多孔膜を有する基材であり、ポリエチレンを含むポリオレフィン微多孔膜からなる基材であってもよい。
【0030】
多孔質基材は、層の内部に複数の細孔を有し、複数の細孔が互いに連結された構造を有しており、層の一方の面から他方の面へと気体又は液体が通過可能とされている。ポリオレフィン微多孔膜も同様である。
【0031】
本開示における多孔質基材は、示差走査熱量分析(DSC)測定において、窒素雰囲気下、温度変化速度5℃/分で連続的に30℃から200℃まで昇温する昇温工程1と、200℃から30℃まで降温し、30℃から200℃まで昇温する昇温工程2と、を設けた場合に、昇温工程1における120℃~145℃にみられる吸熱ピークの温度及び昇温工程2における120℃~145℃にみられる吸熱ピークの温度の差の絶対値(吸熱ピークの温度差)が1.50℃以上である。
吸熱ピークの温度差が1.50℃以上であることで、多孔質基材への電解液の浸透性が良好である。吸熱ピークの温度差としては、1.60℃以上が好ましく、1.70℃以上がより好ましい。吸熱ピークの温度差の上限は、耐熱性、熱収縮の観点から、15℃以下であることが好ましく、10℃以下がより好ましく、5℃以下が更に好ましい。
【0032】
昇温工程1は、DSC測定時に多孔質基材に与える最初の昇温であり、多孔質基材中の結晶の状態が解かれて球晶となる。
昇温工程2は、昇温工程1後に降温し、再び多孔質基材に与える昇温過程である。
120℃~145℃にみられる吸熱ピークは、ポリエチレンに由来して現れるピークであることを意味する。
【0033】
多孔質基材のDSCの吸熱ピークの温度を制御する方法としては、ポリエチレン等に対する延伸条件(例えば、一軸延伸、二軸延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸)、熱処理条件等を変化させることなどが挙げられる。例えば逐次二軸延伸及び同時二軸延伸は、吸熱ピークの温度差を大きくできる点で好ましい。
【0034】
本開示においては、DSC測定における吸熱ピークの温度差が1.50℃以上である多孔質基材を選定するか、又はDSC測定における吸熱ピークの温度差が1.50℃以上になる物理的処理を与えて作製した多孔質基材を使用することで、電解液が浸透しやすい非水系二次電池用セパレータとすることができる。
【0035】
DSC測定は、多孔質層等の層が設けられていない多孔質基材に対して行ってもよいし、多孔質層等の層が設けられた多孔質基材の多孔質層等を除去した後の多孔質基材に対して行ってもよい。
多孔質基材上の層を除去する方法としては、樹脂の良溶媒でセパレータを洗浄する方法等が挙げられる。この場合、樹脂の良溶媒でセパレータを洗浄、乾燥して重量測定する操作を複数回繰り返し行ってセパレータの重量変化が無くなった時点を層の除去が完了したとみなすことができる。
【0036】
DSC測定における吸熱ピークの温度差が1.50℃以上であることの確認は、以下の方法により行うことができる。
多孔質層が設けられていない多孔質基材を5mg±1mgになるように切り出し、示差走査熱量計を用いて測定する。示差走査熱量計としては、例えば、TAインスツルメント社製のQ20を用いて測定することができる。具体的には、窒素雰囲気下において昇温速度5℃/分で30℃から200℃に昇温し(昇温工程1)、5℃/分で30℃まで降温し、さらに5℃/分で200℃まで昇温する(昇温工程2)設定にしてDSC測定を行う。1回目と2回目の測定は連続的に行い、昇温と降温との間に休止時間は設けずに測定を行う。そして、測定により得られるDSCチャートから120℃~145℃の間の吸熱ピーク(トップピーク)の温度を求める。1回目の120℃~145℃の吸熱ピーク(トップピーク)の温度と、2回目の120℃~145℃の吸熱ピーク(トップピーク)の温度と、の差を算出する。
【0037】
多孔質基材としては、ポリエチレンを含む微多孔膜(本明細書において、「ポリエチレン微多孔膜」という。)を用いた態様が好ましい。ポリエチレン微多孔膜としては、従来の非水系二次電池用セパレータに適用されているポリエチレン微多孔膜の中から選択することができ、良好な力学特性及びイオン透過性を有するものが好ましい。
【0038】
多孔質基材は、力学特性とシャットダウン特性の観点からポリエチレン微多孔膜からなる基材でもよい。
多孔質基材は、ポリエチレンとポリエチレン以外のポリオレフィンとを含む微多孔膜を用いることもできる。ポリエチレンとポリエチレン以外のポリオレフィンとを含む微多孔膜は、膜中の樹脂成分に占めるポリエチレンの含有量が95質量%以上である膜が好ましい。ポリエチレンとポリエチレン以外のポリオレフィンとを含む微多孔膜としては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンを含む微多孔膜であってもよく、ポリエチレン及びポリプロピレンを95:5の比率(=ポリエチレン:ポリプロピレン[質量比])で含む微多孔膜であってもよい。
【0039】
多孔質基材として、例えばポリエチレン及びポリプロピレンを含む微多孔膜を用いる場合、DSC測定により得られるDSCチャートのうち、ポリエチレンに由来する吸熱ピーク、即ち120℃~145℃の間の吸熱ピーク(トップピーク)の温度を求めることによりDSC測定における吸熱ピークの温度差を求めることができる。ポリエチレン及びポリプロピレンの組み合わせ以外の2種を組み合わせて含む微多孔膜についても同様である。
【0040】
ポリエチレン微多孔膜に含まれるポリエチレンは、重量平均分子量が10万~500万の範囲であることが好ましい。重量平均分子量が10万以上であると、良好な力学特性を確保できる。一方、重量平均分子量が500万以下であると、膜を成形しやすい。
【0041】
ポリエチレン微多孔膜は、例えば以下の方法で製造可能である。すなわち、溶融したポリエチレン樹脂をT-ダイから押し出してシート化し、これを結晶化処理した後延伸し、さらに熱処理をして微多孔膜とする方法、又は流動パラフィンなどの可塑剤と一緒に溶融したポリエチレン樹脂をT-ダイからシート状に押し出し、押出された樹脂を冷却し、延伸した後、可塑剤を抽出し熱処理をして微多孔膜とする方法である。
【0042】
多孔質基材の平均孔径としては、20nm以上100nm以下の範囲が好ましい。多孔質基材の平均孔径が20nm以上であると、イオンが移動しやすく、良好な電池性能が得やすくなる。このような観点では、多孔質基材の平均孔径は、30nm以上がより好ましく、40nm以上が更に好ましい。一方、多孔質基材の平均孔径が100nm以下であると、多孔質基材と多孔質層との間の剥離強度が向上する。このような観点では、多孔質基材の平均孔径は、90nm以下がより好ましく、80nm以下が更に好ましい。
なお、多孔質基材の平均孔径は、パームポロメーターを用いて測定される値であり、例えば、ASTM E1294-89に準拠し、パームポロメーター(PMI社製のCFP-1500-A)を用いて測定できる。
【0043】
多孔質基材の厚さは、良好な力学物性と内部抵抗を得る観点から、3μm以上25μm以下の範囲が好ましい。特に、多孔質基材の厚さは、5μm以上20μm以下の範囲がより好ましい。
【0044】
多孔質基材のガーレ値(JIS P8117:2009)は、イオン透過性を得る観点から、50秒/100ml以上400秒/100ml以下の範囲が好ましい。
【0045】
多孔質基材の空孔率は、適切な膜抵抗を得る観点から、20%以上60%以下の範囲が好ましい。
【0046】
多孔質基材の突刺強度は、製造歩留まりを向上させる観点から、200g以上であることが好ましい。
【0047】
多孔質基材は、各種の表面処理が施されていることが好ましい。表面処理を施すことで、後述する多孔質層を形成するための塗工液との濡れ性を向上させることができる。表面処理の具体的な例としては、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、紫外線照射処理等が挙げられ、多孔質基材の性質を損なわない範囲で処理することができる。
【0048】
(多孔質層)
本開示における多孔質層は、上記多孔質基材の片面のみに、アミド結合、イミド結合及びスルホニル結合の群から選ばれる少なくとも1つの結合基を有する樹脂(以下、特定樹脂ともいう。)を含む。本開示における多孔質層は、無機粒子を含むことが好ましく、必要に応じて、更に、特定樹脂以外の樹脂、添加剤等の他の成分を含んでもよい。
【0049】
多孔質層は、層の内部に複数の細孔を有し、複数の細孔が互いに連結された構造を有しており、層の一方の面から他方の面へと気体又は液体が通過可能とされている。
【0050】
-樹脂-
多孔質層は、アミド結合、イミド結合及びスルホニル結合の群から選ばれる少なくとも1つの結合基を有する樹脂(特定樹脂)の少なくとも一種を含む。樹脂がアミド結合、イミド結合及びスルホニル結合から選ばれる結合基を有するので、多孔質基材(特にポリエチレン膜)に対する親和性が良好になり、かつ、電解液との間の親和性も高いため、電解液の多孔質層への浸透性が良好なものとなる。これにより、本開示の非水系二次電池用セパレータは、電解液の浸透が速やかに進みやすく、電解液が良好に含浸されたものが得られやすい。結果、二次電池を作製した際の電池特性の向上に寄与する。
【0051】
本開示における特定樹脂は、アミド結合、イミド結合及びスルホニル結合の群から選ばれる少なくとも1つの結合基を有するポリマーであり、上記結合基を有するポリマーであればいずれの構造を有してもよい。
【0052】
アミド結合を有する樹脂には、ナイロン、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド等が含まれる。
イミド結合を有する樹脂には、ポリアミドイミド、ポリイミド等が含まれる。
スルホニル結合を有する樹脂には、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等が含まれる。
【0053】
特定樹脂の中でも、多孔質基材(特にポリエチレン膜)及び電解液に対する親和性が良好な点に加え、耐熱性に優れたものとなる点で、全芳香族ポリアミドが好ましい。全芳香族ポリアミドは、アミド系溶剤に代表される極性有機溶剤に適当な濃度で溶解することが可能である。そのため、全芳香族ポリアミドを有機溶剤に溶解した溶液(塗工液)を、ポリエチレン微多孔膜を含む多孔質基材上に塗工し、塗工膜を凝固、水洗、及び乾燥することにより、容易に多孔質層を形成することができる。また、多孔構造の制御もしやすい。更に、塗工液が多孔質基材の空孔に侵入しやすいため、多孔質基材の電解液含浸性も高めることができる。
また、全芳香族ポリアミドの融点は200℃以上であるので、セパレータの耐熱性を高め、二次電池の安全性を向上させる。
【0054】
全芳香族ポリアミドには、メタ型のポリアミド(本明細書中、メタアラミドともいう。)とパラ型のポリアミドとが含まれる。これらのうち、メタ型のポリアミドは、パラ型のポリアミドに比べて、結晶性の観点から多孔質層の形成が容易である点で好適である。
【0055】
メタ型のポリアミドの例としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド等が挙げられる。また、パラ型のポリアミドの例としては、コポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレン・テレフタラミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド等が挙げられる。
全芳香族ポリアミドは、上市されている市販品を用いてもよい。市販品の例としては、帝人テクノプロダクツ社製のコーネックス(登録商標;メタ型)、テクノーラ(登録商標;パラ型)、トワロン(登録商標;パラ型)等を用いることができる。
【0056】
樹脂(好ましくは全芳香族ポリアミド)の多孔質層中における含有量としては、多孔質層の全固形分に対して、10質量%~40質量%が好ましく、15質量%~35質量%がより好ましい。
【0057】
-粒子-
多孔質層は、粒子を含むことが好ましく、粒子は、無機粒子、有機粒子のいずれも含まれる。多孔質層は、無機粒子を含むことが好ましい。
【0058】
多孔質層に無機粒子を含めることにより、耐熱性の向上、膜抵抗の低減(電解液の染み込み易さ、及び空孔の形成し易さの向上)、及び、摩擦係数の低減を図ることができる。
【0059】
無機粒子の例としては、アルミナ、ジルコニア、イットリア、セリア、マグネシア、チタニア、シリカ等の金属酸化物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物;炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属塩;水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;などが挙げられる。
【0060】
上記のうち、無機粒子としては、耐熱性の向上、膜抵抗の低減(電解液の染み込み易さ、及び空孔の形成し易さの向上)、及び摩擦係数の低減の点で、2価金属含有粒子が好ましく、2価金属の硫酸塩の粒子又は2価金属の水酸化物の粒子がより好ましい。例えば、マグネシウム含有粒子又はバリウム含有粒子が好ましい。
マグネシウム含有粒子としては、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等の粒子が好ましく、水酸化マグネシウムの粒子がより好ましい。
バリウム含有粒子としては、硫酸バリウムの粒子が好ましい。
【0061】
無機粒子の平均一次粒子径は、0.01μm~2.0μmであることが好ましい。平均一次粒子径が0.01μm以上であると、セパレータの製造工程において多孔構造を形成しやすい。また、平均一次粒子径が2.0μm以下であると、多孔質層の薄膜化に有利であり、耐熱性多孔質層内における無機粒子及び樹脂の充填密度が高まる。
無機粒子の平均一次粒子径は、0.02μm~1.5μmがより好ましく、0.03μm~0.9μmが更に好ましい。
【0062】
平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察において無作為に選んだ無機粒子100個の長径を計測し、100個の長径を平均することで求める。SEM観察に供する試料は、耐熱性多孔質層の材料である無機粒子、又は、セパレータから取り出した無機粒子である。セパレータから無機粒子を取り出す方法に制限はなく、例えば、セパレータを800℃程度に加熱してバインダ樹脂を消失させ無機粒子を取り出す方法、セパレータを有機溶剤に浸漬して有機溶剤でバインダ樹脂を溶解させ無機粒子を取り出す方法などが挙げられる。
無機粒子の平均一次粒子径が小さい場合、又は無機粒子の凝集が顕著であり無機粒子の長径が測定できない場合は、無機粒子の比表面積をBET法にて測定し、無機粒子を真球と仮定して、下記の式に従い、無機粒子の比重と比表面積から粒子径を算出する。
平均一次粒子径(μm)=6÷[比重(g/cm)×BET比表面積(m/g)]
なお、BET法による比表面積測定においては、吸着質として不活性ガスを使用し、無機粒子表面に液体窒素の沸点温度(-196℃)で吸着させる。試料に吸着する気体量を吸着質の圧力の関数として測定し、吸着量から試料の比表面積を求める。
【0063】
無機粒子の形状には制限はなく、球もしくは球に近い形状、板状、又は繊維状の形状であってもよい。
【0064】
-他の成分-
本開示における多孔質層は、上記成分に加え、必要に応じて、特定樹脂以外の樹脂、添加剤等の他の成分を含むことができる。
特定樹脂以外の樹脂は、目的又は場合に応じて公知の任意の樹脂の中から本開示の効果を著しく損なわない範囲で適宜選択すればよい。
添加剤としては、界面活性剤等の分散剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0065】
多孔質層は、多孔質層形成用の塗工液を調製し、塗工液を多孔質基材に塗工することで形成することができる。塗工は、接触角を上記の範囲に調整する観点から、リバースコーターを用いた方法等の、押し付けて塗工する方式の塗布法により行うことができる。
【0066】
~多孔質層の性状~
[厚み]
多孔質基材の片面に有する多孔質層の厚みは、0.3μm以上5.0μm以下であることが好ましい。多孔質層の厚みが0.3μm以上であると、平滑で均質な層となり、電池のサイクル特性がより向上する。同様の観点から、多孔質層の片面の厚みは、1.5μm以上であることがより好ましい。
一方、多孔質層の片面の厚みが5.0μm以下であると、イオン透過性がより良好になり、電池の負荷特性により優れたものとなる。同様の観点から、多孔質層の片面の厚みは、4.0μm以下がより好ましく、3.0μm以下が更に好ましく、2.5μm以下が特に好ましい。
【0067】
[空孔率]
多孔質層の空孔率としては、30%以上80%以下の範囲が好ましい。空孔率が80%以下であると、力学物性の確保が容易であり、表面開口率が高くなり過ぎず、接着力を確保するのに適している。一方、空孔率が30%以上であると、イオン透過性がより良好になる。
なお、空孔率(ε)は、下記式より求められる値である。
ε={1-Ws/(ds・t)}×100
式中、εは空孔率(%)を、Wsは目付(g/m)を、dsは真密度(g/cm)を、tは膜厚(μm)をそれぞれ表す。
【0068】
[平均孔径]
多孔質層の平均孔径としては、10nm以上300nm以下の範囲が好ましい。平均孔径が300nm以下であると、孔の不均一性が抑えられ、接着点が比較的均等に散在し、接着性がより向上する。また、平均孔径が300nm以下であると、イオンの移動の均一性が高く、サイクル特性及び負荷特性がより向上する。一方、平均孔径が10nm以上であると、多孔質層に電解液を含浸させた場合に、多孔質層を構成する樹脂が膨潤して孔を閉塞することでイオン透過性が阻害される現象が生じにくい。
【0069】
なお、多孔質層の平均孔径(直径、単位:nm)は、窒素ガス吸着量から算出される全芳香族ポリアミドからなる多孔質層の空孔表面積Sと、空孔率から算出される多孔質層の空孔体積Vと、を用い、全ての孔が円柱状であると仮定して下記式より算出される。
d=4・V/S
式中、dは多孔質層の平均孔径(nm)を表し、Vは多孔質層の1m当たりの空孔体積を表し、Sは多孔質層の1m当たりの空孔表面積を表す。
また、多孔質層の1m当たりの空孔表面積Sは、以下の方法で求められる。
窒素ガス吸着法でBET式を適用することにより、多孔質基材の比表面積(m/g)と、多孔質基材及び多孔質層を積層した複合膜の比表面積(m/g)と、を測定する。それぞれの比表面積にそれぞれの目付(g/m)を乗算し、それぞれの1m当たりの空孔表面積を算出する。次いで、多孔質基材1m当たりの空孔表面積をセパレータ1m当たりの空孔表面積から減算して、多孔質層1m当たりの空孔表面積Sを算出する。
【0070】
~セパレータの性状~
【0071】
[マクミラン数(Mn)]
本開示の非水系二次電池用セパレータは、イオン透過性の観点から、下記式で求められるマクミラン数(Mn)が20以下であることが好ましい。
マクミラン数とは、イオン透過性の指標であり、電解液のみの伝導度を、セパレータに電解液を含浸させた際の伝導度で割った値のことである。つまり、Mnが大き過ぎると、イオン透過性は不十分となる。
Mnは、15以下であることがより好ましく、12以下であることが更に好ましく、10以下であることが更に好ましい。Mnの下限値としては、1以上とすることができ、4以上が好ましい。
【0072】
Mn=(σe)/(σs)
σs=t/Rm
【0073】
σeは、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの混合溶媒(混合比1:1[質量比])に1mol/lのLiPFを溶解させた電解液の、20℃での導電率(S/m)を表す。σeは、東亜ディケーケー社製の電気伝導率計CM-41X、電気伝導率セルCT-5810Bにより測定される値である。
σsは、前記電解液を含浸させた20℃でのセパレータの導電率(S/m)を表す。σsは、膜厚を膜抵抗で除することにより測定される値である。
tは、膜厚(m)を表す。膜厚は、下記[厚み]と同様の方法で求められる値である。
Rmは、セパレータの膜抵抗(ohm・cm)を表す。Rmは、下記「[膜抵抗(イオン透過性)]」と同様の方法で求められる値である。
【0074】
[厚み]
本開示の非水系二次電池用セパレータは、厚みが7.5μm以上20μm以下であることが好ましい。
セパレータの厚みが7.5μm以上であると、セパレータをハンドリング可能な十分な強度を保ちやすい。また、セパレータの厚みが20μm以下であると、イオン透過性を良好に維持することができ、電池の放電性及び低温特性を保持しやすく、電池のエネルギー密度を良好に保持することができる。
中でも、同様の理由から、セパレータの厚みは、7.6μm~14μmがより好ましい。
厚みは、接触式の厚み計(ミツトヨ社製、LITEMATIC)を用い、直径5mmの円柱状の測定端子にて測定される値である。測定中は、0.01Nの荷重が印加されるように調整し、10cm×10cm内の任意の20点を測定してその平均値を算出する。
【0075】
[膜抵抗(イオン透過性)]
セパレータの膜抵抗は、電池の負荷特性を確保する点で、1ohm・cm~10ohm・cmの範囲であることが好ましい。
膜抵抗は、セパレータに電解液を含浸させた状態での抵抗値を指し、交流法にて測定される値である。膜抵抗の測定は、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの混合溶媒(混合比1:1[質量比])に1mol/lのLiPFを溶解させた電解液を用い、20℃で行う。詳細な測定方法については、実施例において説明する。
【0076】
多孔質基材の孔内部、及び、多孔質基材の多孔質層を有する側とは反対側の表面に樹脂を有していることが好ましい。これにより、セパレータの全体に亘って電解液を含浸させることができる。
多孔質基材の孔内部に樹脂を有するとは、多孔質基材の孔の内部の一部又は全部に樹脂が染み込んでいる状態をいう。
多孔質基材の多孔質層を有する側とは反対側の表面に樹脂を有するとは、多孔質基材の一方面に多孔質層形成用の塗布液を塗設する際、塗布液中の樹脂が多孔質基材の一方面から染み込んで多孔質基材中の孔内部を通過し、他方面に樹脂が達して樹脂の存在が確認できる状態をいう。樹脂の存在の確認は、多孔質層形成用の塗工液を塗工後の接触角が、多孔質層形成用の塗工液を塗工する前の多孔質基材の表面の接触角よりも低くなっていることで判断できる。
【0077】
多孔質基材の孔の内面に樹脂が付着していることの確認は、エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX;Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)、二次イオン質量分析法(SIMS;Secondary Ion Mass Spectrometry)、X線光電子分光法(ESCA;Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)による観察、樹脂を染色して観察すること等に行える。
【0078】
<非水系二次電池>
本開示の非水系二次電池は、正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された既述の本開示の非水系二次電池用セパレータと、環状カーボネートを溶媒の全質量に対して90質量%以上含む溶媒にリチウム塩を溶解した電解液と、を備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得るものである。
【0079】
ドープとは、吸蔵、担持、吸着、又は挿入を意味し、正極等の電極の活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。
【0080】
本開示の非水系二次電池は、正極及び負極の間にセパレータが配置された構造を有するリチウムイオン二次電池が好ましく、(1)正極、負極及びセパレータ等の電池要素が電解液とともに外装材内に封入された二次電池、(2)電極を含む全ての電池要素に樹脂を用いた全樹脂電池等が含まれる。
【0081】
上記(1)の二次電池については、国際公開第2008/062727号の段落0056~0061に記載の材料等を参照することができる。
【0082】
上記(2)の全樹脂電池は、電解液を吸収させたゲル状の高分子で覆われた電極活物質と、導電助剤及び導電性繊維等と、を混合して合材とし、正極用合材と負極用合材とをセパレータを挟んで重ね、更に好ましくは合材の表面に集電体を設けた二次電池である。
【0083】
正極は、正極活物質、正極活物質を覆うゲル状の電解質、導電性繊維を混合した合材を成形した正極層としてもよい。正極層は、更に導電助剤を含んでもよい。
【0084】
負極は、負極活物質、負極活物質を覆うゲル状の電解質、導電性繊維を混合した合材を成形した負極層としてもよい。負極層は、更に導電助剤を含んでもよい。
【0085】
正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn1/2Ni1/2、LiCo1/3Mn1/3Ni1/3、LiMn、LiFePO、LiCo1/2Ni1/2、LiAl1/4Ni3/4等を挙げることができる。
【0086】
負極活物質としては、例えば、ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)が挙げられる。
【0087】
ゲル状の電解質は、ゲル状の高分子(高分子ゲル)に電解液を吸収させたものが挙げられる。
【0088】
電解液は、リチウム塩を非水溶媒に溶解した溶液である。
リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO等が挙げられる。
非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。非水溶媒は、一種単独で用いるほか、二種以上を混合して用いてもよい。非水溶媒としては、比誘電率が大きく、融点の低いものが好適であり、環状カーボネートがより好ましく、環状カーボネートを非水溶媒の全質量に対して90質量%以上含む混合溶媒がより好ましい。
【0089】
EC及びPC等の環状カーボネート系の非水溶媒は、比較的高粘度の溶媒である。
EC及びPC等の環状カーボネート系の非水溶媒を含有する電解液は、電解質を多く保持しやすく、電気化学的安定性に優れる点で好ましい。従来、電解液のセパレータへの浸透性が必ずしも充分でない場合には、含浸される電解液が不充分となるため、電解質を多く含む高濃度の電解液は希釈して用いられることが一般的であった。この点、本開示の非水系二次電池は、既述のように、電解液の浸透性に優れた本開示の非水系二次電池用セパレータを備えるので、溶媒として比較的粘度の高い環状カーボネートを用いることができる。そして、環状カーボネートを用いた高濃度の電解液を非水系二次電池に用いることができ、電解液の含浸性に優れるので、電池特性に優れたものとなる。
【実施例
【0090】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0091】
(測定)
後述する実施例及び比較例で作製した多孔質基材及びセパレータについて、以下の測定を行った。
【0092】
[膜厚]
多孔質基材及びセパレータの厚さ(μm)は、接触式の厚み計(ミツトヨ社、LITEMATIC VL-50)にて20点を測定し、これを平均することで求めた。測定端子は直径5mmの円柱状の端子を用い、測定中に0.01Nの荷重が印加されるように調整した。
【0093】
[多孔質層の膜厚]
セパレータの厚さと多孔質基材の厚さとの差を多孔質層の膜厚とした。
【0094】
[膜抵抗]
作製したセパレータを2.6cm×2.0cmサイズのサンプル片に切り出す。厚さ20μmのアルミ箔を2.0cm×1.4cmに切り出し、リードタブを付ける。このアルミ箔を2枚用意して、アルミ箔間に、切り出したサンプル片をアルミ箔が短絡しないように挟む。サンプル片に電解液であるエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの混合溶媒(混合比1:1[質量比])に1mol/lのLiPFを溶解させた電解液を含浸させる。これをアルミラミネートパック中にタブがアルミパックの外に出るようにして減圧封入してセルとする。このようなセルをアルミ箔中にサンプル片(セパレータ)が1枚、2枚、3枚となるようにそれぞれ作製する。このセルを20℃の恒温槽中に入れ、交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗を測定する。測定されたセルの抵抗値をセパレータの枚数に対してプロットし、このプロットを線形近似し傾きを求める。この傾きに電極面積である2.0cm×1.4cmを乗じてセパレータ1枚当たりの膜抵抗(ohm・cm)を求めた。
【0095】
[マクミラン数]
マクミラン数(Mn)は以下の式から算出した。
Mn=(σe)/(σs)
σs=t/Rm
式中、σeは、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの混合溶媒(混合比1:1[質量比])に1mol/lのLiPFを溶解させた電解液の20℃での導電率(S/m)を表し、σsは、前記電解液を含浸させた20℃でのセパレータの導電率(S/m)を表し、tは、膜厚(m)を表し、Rmは、セパレータの膜抵抗(ohm・cm)を表す。σeは、東亜ディケーケー社製の電気伝導率計CM-41X、電気伝導率セルCT-58101Bにより測定し、σsは、膜厚を膜抵抗で除することにより測定した。t、Rmはそれぞれ上記の[多孔質層の膜厚]、[膜抵抗]と同様の方法で測定した。
【0096】
[DSC測定]
塗工前の多孔質基材を5mg±1mgになるように切り出し、示差操作熱量計(TAインスツルメント社製、Q20)を用いてDSC測定を行った。
DSC測定は、窒素雰囲気下で昇温速度5℃/分で30℃から200℃に昇温し(昇温工程1)、その後5℃/分で30℃まで降温し、さらに5℃/分で200℃まで昇温する(昇温工程2)ことにより行った。1回目の測定と2回目の測定は連続的に行い、昇温と降温の間に休止時間は設けずに測定した。そして、得られたDSCチャートから120℃~145℃の吸熱ピーク(トップピーク)の温度を求めた。1回目の昇温のDSCチャートと2回目の昇温のDSCチャートとから120℃~145℃におけるトップピーク温度の差(吸熱ピークの温度差)を算出した。
【0097】
[非水系二次電池の試作]
コバルト酸リチウム(LiCoO;日本化学工業社製)粉末94質量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製;商品名デンカブラック)3質量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)3質量部となるようにN-メチル-2ピロリドン溶媒を用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが20μmのアルミ箔上に塗布乾燥後プレスし、100μmの正極を得た。
ハードカーボン(ベルファインLN-0001:ATエレクトロード社製)粉末87質量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製;商品名デンカブラック)3質量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)10質量部となるようにN-メチル-2ピロリドン溶媒を用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが18μmの銅箔上に塗布乾燥後プレスし、90μmの負極を得た。
上記の正極及び負極を、セパレータを介して対向させた。これに電解液を含浸させアルミラミネートフィルムからなる外装に封入して非水系二次電池を作製した。ここで、電解液には、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの混合溶媒(混合比1:1[質量比])に1mol/lのLiPFを溶解させた溶液をそのまま用いた。
ここで、この試作電池は正極面積が5.0×3.0cm、負極面積は5.2×3.2cmで、設定容量は10mAh(4.2V-2.5Vの範囲)である。
【0098】
(評価)
[放電性]
上記のような方法で作製した電池を用いて放電性評価を実施した。1mA、4.2Vで15時間定電流・定電圧充電、1mA、2.5Vで定電流放電という充放電サイクルを5サイクル実施し、2サイクル目に得られた放電容量を5サイクル目の電池の放電容量で割り、得られた数値を放電性の指標とし、以下の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:85%以上
B:70%以上85%未満
C:70%未満
【0099】
[耐熱性]
作製したセパレータを18cm(MD;Machine Direction)×6cm(TD;Transverse Direction)に切り出す。TDを2等分する線上に上部から2cm、17cmの箇所(点A、点B)に印をする。また、MDを2等分する線上に左から1cm、5cmの箇所(点C、点D)に印をする。これにクリップをつけ(クリップを付ける場所はMDの上部2cm以内の箇所)120℃に調整したオーブンの中につるし、無張力下で60分熱処理をする。2点AB間、CD間の長さを熱処理前後で測定し、以下の式から熱収縮率を求めた。
MD熱収縮率(%)={(熱処理前のABの長さ-熱処理後のABの長さ)/熱処理前のABの長さ}×100
TD熱収縮率(%)={(熱処理前のCDの長さ-熱処理後のCDの長さ)/熱処理前のCDの長さ}×100
<評価基準>
A:MD熱収縮率及びTD熱収縮率がいずれも5%未満である。
B:MD熱収縮率及びTD熱収縮率のいずれかが5%以上である。
【0100】
(実施例1)
メタ型全芳香族ポリアミド(メタアラミド)を、濃度が4.5質量%となるようにジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、さらに硫酸バリウム粒子(平均一次粒子径0.05μm)を攪拌しながら混合し、塗工液(A)を得た。次いで、リバースロールコーターで塗工液(A)をポリエチレン微多孔膜A(厚さ7μm)の片面に塗工し、塗工膜を形成した。ポリエチレン微多孔膜AのDSC測定による吸熱ピークの温度差は、1.77℃であった。
そして、塗工膜を、凝固液(DMAc:水=50:50[質量比]、液温40℃)に浸漬し、塗工層を固化させた。次いで、塗工層を水温40℃の水洗槽で洗浄し、乾燥した。評価の結果、多孔質層中のメタアラミド:硫酸バリウムの比率は20:80(質量比)であった。このようにして、ポリエチレン微多孔膜の片面に膜厚2.2μmの多孔質層が形成されたセパレータを作製した。
【0101】
(実施例2)
実施例1において、硫酸バリウム粒子を水酸化マグネシウム粒子(平均一次粒子径0.88μm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
【0102】
(実施例3)
実施例1において、ポリエチレン微多孔膜Aをポリエチレン微多孔膜B(厚さ7μm、DSC測定による吸熱ピークの温度差:3.53℃)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
【0103】
(実施例4)
実施例1において、ポリエチレン微多孔膜Aをポリエチレン微多孔膜C(厚さ7μm、DSC測定による吸熱ピークの温度差:2.57℃)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
【0104】
(実施例5)
実施例1において、硫酸バリウム粒子を加えずに塗工液を作製したこと以外は、実施例1と同様にして、セパレータを作製しポリエチレン微多孔膜の片面に膜厚0.6μmの多孔質層が形成されたセパレータを作製した。
【0105】
(比較例1)
実施例1において、塗工液(A)をポリエチレン微多孔膜Aの両面に塗工し、ポリエチレン微多孔膜Aの表裏に塗工膜を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
【0106】
(比較例2)
ポリフッ化ビニリデン系樹脂(VDF-HFP共重合体、VDF:HFP(モル比)=97.6:2.4、重量平均分子量113万)を、濃度が4質量%となるようにジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)の混合溶媒(DMAc:TPG=80:20[質量比])に溶解し、さらに硫酸バリウム粒子(平均一次粒子径0.05μm)を攪拌しながら混合することにより、塗工液(P)を得た。
リバースロールコーターで塗工液(P)をポリエチレン微多孔膜Bの片面に塗工し、塗工膜を形成した。塗工膜を、凝固液(DMAc:TPG:水=30:8:62[質量比]、液温40℃)に浸漬し、塗工膜を固化させた。次いで、水温40℃の水洗槽で塗工膜を洗浄し、乾燥した。このようにして、ポリエチレン微多孔膜の片面に多孔質層が形成されたセパレータを得た。
【0107】
(比較例3)
実施例1において、ポリエチレン微多孔膜Aをポリエチレン微多孔膜D(厚さ7μm、DSC測定による吸熱ピークの温度差:1.25℃)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
【0108】
(比較例4)
実施例1において、ポリエチレン微多孔膜Aをポリエチレン微多孔膜E(厚さ10.4μm、DSC測定による吸熱ピークの温度差:1.45℃)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
【0109】
(比較例5)
実施例1において、ポリエチレン微多孔膜Aをポリエチレン微多孔膜F(厚さ7μm、DSC測定による吸熱ピークの温度差:0.89℃)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セパレータを作製した。
【0110】
【表1】

【0111】
表1に示すように、実施例では、多孔質層が特定樹脂を含み、かつ、多孔質基材における2回昇温時の吸熱ピークの温度差が特定の範囲を満たすことで、比較例に比べて、良好な膜抵抗が達成された。即ち、実施例のセパレータは、電解液の含浸性に優れるものと評価できる。結果、セパレータにおける電解液との親和性が向上し、電解液の含浸性が高まる。したがって、実施例の放電特性も、比較例の放電特性に比べ、高い結果となっている。