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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】ステージ
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
C23C14/24 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020039166
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2021139018
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】599176344
【氏名又は名称】株式会社アドバンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】荒木 幹雄
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-230631(JP,A)
【文献】特開2007-046106(JP,A)
【文献】実開昭60-117855(JP,U)
【文献】特開昭56-123368(JP,A)
【文献】特開平06-212425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着装置チャンバ内に設置され,対象物に金属を蒸着させるために溶融金属を蒸発させるためのステージ(1)であって,
前記ステージ(1)の表面は,前記溶融金属を収容するための窪み部(3)を有し,
前記窪み部(3)は,
前記ステージ(1)の端部領域(5)における窪み部(3)の幅(W)に比べて,前記ステージ(1)の中央部領域(7)における窪み部(3)の幅(W)が大きいステージ(1)であって,
前記ステージの裏面のうち中央部領域(11)のみに,粗面化部(13)を有し,
前記粗面化部(13)は、前記ステージの裏面のうち前記粗面化部(13)の周囲の部分に比べて表面粗さが粗い部分である
ステージ(1)。
【請求項2】
請求項1に記載のステージ(1)であって,
前記窪み部(3)は,樽型である,ステージ(1)。
【請求項3】
請求項2に記載のステージ(1)であって,
/Wが1.1以上2.5以下である,ステージ(1)。
【請求項4】
請求項1に記載のステージ(1)であって,
前記窪み部(3)は,楕円形状である,ステージ(1)。
【請求項5】
請求項1に記載のステージ(1)であって,
前記ステージ(1)の両端に接続されるそれぞれの装置電極の幅をWELとしたときに,Wが,WEL≦W≦2WEL
であるか,
が,40mm以上60mm以下である,ステージ(1)。
【請求項6】
蒸着装置チャンバ内に設置され,対象物に金属を蒸着させるために溶融金属を蒸発させるためのステージ(1)であって,
前記ステージ(1)の表面は,前記溶融金属を収容するための窪み部(3)を有し,
前記窪み部(3)は,
前記ステージ(1)の端部領域(5)における窪み部(3)の幅(W)に比べて,前記ステージ(1)の中央部領域(7)における窪み部(3)の幅(W)が大きいステージ(1)であって,
前記ステージの裏面のうち中央部領域(11)のみに,前記ステージの裏面の上に,放熱体を含む放熱材層(15)を有し,
前記放熱材層(15)の輻射率は、前記ステージの裏面のうち前記放熱材層(15)を有さない部分の輻射率よりも高い,
ステージ(1)。
【請求項7】
請求項6に記載のステージ(1)であって,前記放熱材層(15)は輻射率が0.01以上0.4以下である,ステージ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のステージを複数有する溶融金属蒸発システムであって,
複数の前記ステージのそれぞれは,中央部領域(7)に短軸(21)を有する形状を有し,複数の前記ステージは,それぞれの長軸(23)が平行となるように隣接して設置され,
複数の前記ステージの間隔は,W/10以上W/4以下である,溶融金属蒸発システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,金属膜蒸着のための蒸発器(ステージ)に関する。
【背景技術】
【0002】
特表2011-510178号公報には,金属膜蒸着のための蒸発器(ステージ)が記載されている。蒸発器は,例えば,ロールツーロール(R2R)の蒸着装置の金属蒸発ステージとして用いられる。金属膜を蒸着する際に,ロールツーロール(R2R)用の蒸発器のほぼ中央付近に金属のワイヤを連続的に供給する。そして,蒸発器が高温になると金属のワイヤが溶融して,対象となる基盤への蒸着が行われる。基盤への蒸着膜厚が均一となりスプラッシュ等の欠陥を防ぐために,溶融金属が蒸発器全面にわたり均一な厚さで濡れることが望ましい。均一な濡れ性を確保するためには、蒸発器全面の温度が均一であることが望まれる。これが実現できれば、欠陥が発生することなく基盤へ均一な厚さの蒸着膜を形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2011-510178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この明細書に記載されるある発明は,溶融金属の温度が均一となる金属膜蒸着のための蒸発器(ステージ)を提供することを目的とする。
【0005】
この明細書に記載されるある発明は,溶融金属の濡れ性が均一となる金属膜蒸着のための蒸発器(ステージ)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は,ステージの窪み部の幅を調整することで,溶融金属の温度や濡れ性が均一となるという知見に基づく。この明細書に記載される発明の好ましい態様は,ステージの窪み部の幅を,温度勾配を考慮して調整することで,溶融金属の温度や濡れ性が均一となるという知見に基づく。
【0007】
この明細書に記載される最初の発明は,蒸着装置チャンバ内に設置され,対象物に金属を蒸着させるために溶融金属を蒸発させるためのステージに関する。
そして,ステージ1の表面は,溶融金属を収容するための窪み部3を有する。
窪み部3は,ステージ1の端部領域5における窪み部3の幅Wに比べて,ステージ1の中央部領域7における窪み部3の幅Wが大きい。
【0008】
上記したステージの好ましい例は,窪み部3が,樽型のものである。
【0009】
上記したステージの好ましい例は,W/Wが1.1以上2.5以下である。
【0010】
上記したステージの好ましい例は,窪み部3が,楕円形状のものである。
【0011】
上記したステージの好ましい例は,ステージ(1)の両端に接続されるそれぞれの装置電極の幅をWELとしたときに,Wが,WEL≦W≦2WELであるか,又はWが,40mm以上60mm以下のものである。
【0012】
上記したステージの好ましい例は,ステージの裏面のうち中央部領域11に,粗面化部13を有するものである。
【0013】
上記したステージの好ましい例は,ステージの裏面のうち中央部領域11に,放熱材層15を有するものである。そして,放熱材層15は輻射率が0.01以上0.4以下であるものが好ましい。
【0014】
この明細書に記載される第2の発明は,上記したいずれかのステージを複数有する溶融金属蒸発システムに関する。
そして,複数のステージのそれぞれは,中央部領域7に短軸21を有する形状を有し,複数のステージは,それぞれの長軸23が平行となるように隣接して設置される。
そして,複数のステージの間隔Wは,W/10以上W/4以下である。
【発明の効果】
【0015】
この明細書に記載される発明によれば,溶融金属を有用する窪み部の形状などを制御することで,溶融金属の温度や濡れ性が均一となる蒸発器(ステージ)をできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は,本発明のステージを説明するための概念図である。
図2図2は,装置電極を取り付けたステージの例を示す概念図である。
図3図3は,窪み部が,樽型のステージを示す概念図である。
図4図4は,裏面に粗面化部を有するステージを説明するための概念図である。
図5図5は,裏面に放熱材層を有するステージを説明するための概念図である。
図6図6は,溶融金属蒸発システムを説明するための概念図である。
図7図7は,従来の蒸着装置を説明するための概念図である。
図8図8は,従来の蒸着装置を用いた際の溶融金属の様子を示す図面に代わる写真である。
図9図9は,従来の蒸着装置を使用し続けた後の蒸着装置を示す図面に代わる写真である。
図10図10は,コンピュータシミュレーションによる本発明の蒸発装置を用いた溶融金属の濡れ性評価の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0018】
図1は,本発明のステージを説明するための概念図である。ステージ1は,蒸着装置チャンバ内に設置され,溶融金属を蒸発させるために用いられる。
そして,ステージ1の(上方)表面には,溶融金属を収容するための窪み部3が設けられる。窪み部3は,周囲に比べて低くなっている箇所を意味する。ステージ1の表面には窪み部3が設けられるので,窪み部3の周囲には壁4が形成されている。
【0019】
図1の例では,窪み部の平面形状は,対向する辺がいずれも並行となる8角形である。この場合,窪み部の平面形状(上面から見た形状)が8角形状であり,底部分もそれに対応した8角形状となっている。この窪み部3は,平行な2つの長辺と,2つの長辺と垂直に存在し,端部領域5に存在する2つの短辺と,長辺と短辺とを接続する4つの斜辺を有する。窪み部が多角形のものは,成型が容易であり作成コストを軽減できる。
【0020】
窪み部3は,ステージ1の端部領域5における窪み部3の幅Wに比べて,ステージ1の中央部領域7における窪み部3の幅Wが大きい。端部領域5とは,窪み部のうち長軸の両端が存在する部位を意味する。例えば,窪み部が長方形の場合,短辺が存在する領域が端部領域であり,窪み部が楕円形の場合は2点が上下の端部領域を形成する。ステージの好ましい例は,W/Wが1.1以上2.5以下である,この値は1.2以上2.5以下でもよいし,1.3以上2.4以下でもよいし,1.5以上2.3以下でもよい。図1の例では,Wは20mm以上50mm以下であり,30mm以上40mm以下でもよく,具体的な例は35mmである。一方,Wは,Wより大きく,40m以上70mm以下でもよいし,40mm以上60mm以下でもよいし,50mm以上60mm以下でもよい。この大きさは,溶融金属に応じて調整してもよい。具体的には,所定の供給速度で金属を提供し続けた場合のステージの温度変化を計算し,適切な幅とすればよい。
【0021】
図2は,装置電極を取り付けたステージの例を示す概念図である。図2に示されるように,蒸発器(ステージ)は,例えば2つの電極6a,6bにより左右から支えられている。そして,2つの電極は,通常液体により冷却されている。このため,電極を通じて熱損失がおこり、蒸発器端部の温度が低下する。このため,ステージ上の溶融金属の温度を一定にするためには,ステージの中央付近を冷却することが望ましい。このような観点から,窪み部3の形状の好ましい例は,ステージ1の両端に接続されるそれぞれの装置電極の幅をWELとしたときに,Wが,WEL≦W≦2WELであるか,又はWが,40mm以上60mm以下のものである。
【0022】
通常,ステージは,電極6a,6bは,6~8kW/hの電力を消費し,これにより高温となる。
【0023】
図3は,窪み部が,樽型のステージを示す概念図である。この場合,窪み部の平面形状(上面から見た形状)が樽型であり,底部分もそれに対応した樽型となっている。窪み部の長辺が湾曲しているので,ステージの温度変化を適切に考慮し,溶融金属の温度をより均一化できる。樽型とは,2つの端部に存在する2つの短辺と,2つの短辺をつなぐ2つの歪曲した曲線(弧)からなる形状を有する。窪み部3の形状は,溶融金属を収容でき,溶融金属の温度や濡れ性を調整できるものであればよい。特に図示しないものの,窪み部の平面形状は,6角形であってもよいし,12角形であってもよいし,楕円形状であってもよい。
【0024】
窪み部3の深さは一定であることが好ましい。深さの例は,0.5mm以上4mm以下であり,0.5mm以上3mm以下でもよいし,1mm以上2mm以下でもよい。
【0025】
図4は,裏面に粗面化部を有するステージを説明するための概念図である。図4に示す例では,ステージの裏面のうち中央部領域11に,粗面化部13を有する。粗面化部は,表面積を大きくし,これにより熱の放出を大きくするために設けられる。粗面化部とは,周囲に比べて表面粗さが粗い部分を意味する。粗面化部は,例えば粗面化部以外をマスクしたサンドブラストにより表面を荒くしてもよいし,化学的なエッチングにより表面を荒くすることにより得てもよい。例えば,粗面化しない部分をマスクした状態で,粗面化処理を施せばよい。粗面化部3は表面粗さの値であるRz値が8以上14以下(好ましくは,9以上13以下,又は9.5以上12.5以下,又は10以上12以下)であり,Ra値が0.65以上1.5以下(好ましくは0.7以上1.4以下,又は0.8以上1.3以下)であってもよい。これらの値は,JIS B 0601-2001に準拠して求めればよい。
【0026】
図5は,裏面に放熱材層を有するステージを説明するための概念図である。図5に示す例では,ステージの裏面のうち中央部領域11に,放熱材層15を有する。そして,放熱材層15は輻射率が0.01以上0.4以下であるものが好ましい。所定の輻射率を有する放熱体は,例えば特許6266162号公報,特許6196078号公報に記載される通り,公知である。放熱材層は,ステージの他の部位に比べて輻射率が高い層を意味する。
【0027】
次に,溶融金属蒸発システムについて説明する。
図6は,溶融金属蒸発システムを説明するための概念図である。図6に示される通り,この溶融金属蒸発システム19は,複数のステージ1を有する。そして,複数のステージのそれぞれは,中央部領域7に短軸21を有する形状を有し,複数のステージは,それぞれの長軸23が平行となるように隣接して設置される。換言すると,図6に示される例では,複数のステージが横一列になるように配置される。そして,複数のステージの間隔Wは,W/10以上W/4以下であり,W/8以上W/6以下でもよいし,W/10以上W/5以下でもよいし,W/5以上W/4以下でもよい。
【実施例
【0028】
以下,実施例を用いて本発明を具体的に説明する。本発明は,上記の実施の態様及び以下の実施例に限定されるものではなく,公知の要素を適宜含めたものも本発明に含まれる。
【0029】
[比較例1]
図7は,従来の蒸着装置を説明するための概念図である。従来の蒸着装置は,窪み部が矩形であった。矩形の窪み部の中心にワイヤを送り込む。送り込み速度は,1500mm/分であり,アルミニウムワイヤーの場合は,蒸発装置1つあたり約10g/分である。ステージの大きさは,およそ120mm×35mm×10mmの四角柱であり,表面部分に図7に示されるように長方形の窪み部を有する。窪み部の深さは1~2mmである。
【0030】
図8は,従来の蒸着装置を用いた際の溶融金属の様子を示す図面に代わる写真である。図8に示されるように,従来の蒸着装置を用いると,濡れ性が一様ではなく,両端に溶融金属が偏っている。このように溶融金属が偏っているので,対象に均一な蒸着膜を形成することは困難であった。
【0031】
図9は,従来の蒸着装置を使用し続けた後の蒸着装置を示す図面に代わる写真である。図9に示されるように,従来の蒸着装置を用い続けると,中央部分が摩耗してすり減ることが分かる。
【0032】
[実施例]
図10は,コンピュータシミュレーションによる本発明の蒸発装置を用いた溶融金属の濡れ性評価の結果を示す。図10に示されるように,本発明の蒸発装置を用いることで,溶融金属の濡れ性が均一化し,ステージ全体に溶融金属がいきわたることが分かる。このため,この発明の蒸発装置を用いれば,溶融金属の温度が均一となり,対象に均一な蒸着膜を形成できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明は,金属蒸着の分野で利用されうる。
【符号の説明】
【0034】
1 ステージ
3 窪み部
5 端部領域
7 中央部領域
11 裏面の中央部領域
13 粗面化部
15 放熱材層
21 短軸
23 長軸

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10