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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】ゴム成形物用の全芳香族ポリアミド粒子
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20240220BHJP
   C08G 69/32 20060101ALI20240220BHJP
   C08L 77/10 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C08L21/00
C08G69/32
C08L77/10
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020041961
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021143248
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小宮 直也
(72)【発明者】
【氏名】岡村 脩平
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-032123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メジアン径D50が20~250μm、粒子の体積平均径が20~250μmであって、10μm以下の粒子が1%以下であり、300μm以上の粒子が5%以下、粒子径のばらつきであるCV値が70%以下、10%径D 10 が10μm以上、90%径D 90 が300μm以下であり、粒子がメタ型全芳香族ポリアミドであることを特徴とするゴム成形物用の全芳香族ポリアミド粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム成形物用の全芳香族ポリアミド粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト、ホースあるいはタイヤなどのゴム成形物には、機械特性、耐熱性、耐摩耗性、耐屈曲性および静粛性が求められている。例えば、耐摩耗性を改善するため、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂あるいは金属の粒子を用いることが提案されている(特許文献1、2)。また、全芳香族ポリアミド粒子は機械特性、耐疲労性、耐熱性および化学的に性質に優れていることが知られている。例えば、特許文献3では撹拌条件、及び初期縮合物の分散液と炭酸ソーダ水溶液との体積比などを調整した全芳香族ポリアミド粒子を粉砕機によって粉砕した粒子を用いたゴム成形物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-90051号公報
【文献】特開2017-137994号公報
【文献】特開平8-92410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゴム成形物は全芳香族ポリアミド粒子を配合することによって、耐摩耗性を改善することが可能であるが、そのトレードオフとして機械特性が低下する課題があった。ゴム成形物は、近年の市場の要求から、機械物性の低下を抑制した、さらなる高性能化が求められていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐摩耗性と機械特性の両方に優れたゴム成形物用の全芳香族ポリアミド粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、特定の範囲の粒子径を有する全芳香族ポリアミド粒子によって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、メジアン径D50が20~250μm、粒子の体積平均径が20~250μmであって、10μm以下の粒子が1%以下であり、300μm以上の粒子が5%以下、粒子径のばらつきであるCV値が70%以下、10%径D 10 が10μm以上、90%径D 90 が300μm以下であり、粒子がメタ型全芳香族ポリアミドであることを特徴とするゴム成形物用の全芳香族ポリアミド粒子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゴム成形物は、特定の範囲の粒子径を有する全芳香族ポリアミド粒子を含有することで、優れた耐摩耗性と機械特性の両方に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<芳香族ポリアミド>
本発明における全芳香族ポリアミド粒子とは、芳香族環を有する繰り返し単位が全体の少なくとも80%以上を占める重合体からなる粒子を意味する。これらの重合体、または、共重合体からなる粒子の代表例として、パラ型全芳香族ポリアミド、メタ型全芳香族ポリアミド、ポリパラアミノベンズアミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラアミノベンズヒドラジドテレフタルアミド、ポリテレフタル酸ヒドラジド、ポリメタフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド等、もしくはこれらの共重合体からなる粒子を挙げることができる。
【0010】
本発明における好ましい全芳香族ポリアミドとしては、ポリマー繰り返し単位の40モル%、好ましくは55モル%以上がメタフェニレンイソフタルアミド単位であるホモポリアミドまたはコポリアミドがあげられる。かかるホモポリアミドまたはコポリアミドは酸成分としてイソフタル酸ハライド、ジアミン成分としてメタフェニレンジアミンを用い、さらに必要に応じて小量の第3成分、例えば、テレフタル酸ハライド、メチルテレフタル酸ハライド、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸ハライド、パラフェニレンジアミン、3,4または4,4-ジアミノジフェニルエーテル、メタキシリレンジアミン等あるいはメタまたはパラ安息香酸ハライド等を用いてこれらを縮合させることによって製造することができる。
【0011】
<芳香族ポリアミド粒子>
本発明の全芳香族ポリアミド粒子は、以下に規定される特定の範囲の粒子径を有している。全芳香族ポリアミド粒子は、例えば、ジェット気流によって粒子を加速し、粒子同士の衝突によって粉砕する方式や、スラリーをボール状の媒体と接触させ粉砕する方式や、高速回転するハンマーによって供給粒子に衝撃を加え粉砕する方法を採用することができる。また、例えば晶析のようなポリマーを溶媒に再溶解させた濃厚溶液を温度差や減圧下で溶媒を蒸発させることにより粒子を析出・成長させる方法や超希薄溶液を撹拌している貧溶媒中に滴下させる方法も採用することでも特定の範囲の粒子径を得ることができる。また、特定の範囲の粒子径を得るにあたって、上記で得られた粒子を分級しても良い。分級方法は特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、目開きの異なる篩で分級する方式や空気の旋回流による遠心力を利用した方式などを採用することができる。
【0012】
<全芳香族ポリアミド粒子径>
[メジアン径D50
メジアン径D50は、20~250μmである。好ましくは、25~200μmであり、さらに好ましくは30~150μmである。20μmより小さい場合はゴム成形物の弾性率や耐摩耗性が低くなるため好ましくない。250μmより大きい場合は、ゴム成形物の強度の低下を招くため好ましくない。
【0013】
[10%径D10
粒子の10%径D10は、10μm以上である。好ましくは15μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上である。当該径の上限は、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。10μmより小さい場合はゴム成形物の弾性率や耐摩耗性が低くなり、全芳香族ポリアミド粒子を配合した効果がないため好ましくない。
【0014】
[90%径D90]
粒子の90%径D90は、300μm以下である。好ましくは250μm以下であり、さらに好ましく200μm以下である。当該径の下限は、150μm以上であることが好ましく、より好ましくは170μm以上であり、さらに好ましくは190μm以上である。300μm以上である場合は強度が低下するため好ましくない。
【0015】
[粒子径および頻度(%)]
10μm以下の全芳香族ポリアミド粒子が1%以下である。好ましくは0.5%以下である。該粒子の下限は0%以上(10μm以下の全芳香族ポリアミド粒子を含まないことを含む)であることが好ましく、さらには0.005%以上であることが好ましく、より好ましくは0.01%以上である。1%以上である場合、ゴム成形物の弾性率や耐摩耗性が低くなり、全芳香族ポリアミド粒子を配合した効果がないため好ましくない。
300μm以上の全芳香族ポリアミド粒子が5%以下である。好ましくは3%以下であり、さらに好ましく1%以下である。該粒子の下限は0%以上(300μm以下の全芳香族ポリアミド粒子を含まないことを含む)であることが好ましく、さらには0.005%以上であることが好ましく、より好ましくは0.01%以上である。5%以上である場合は強度が低下するため好ましくない。
なお、上記した粒子の頻度(%)は後述するレーザー回折・散乱法によって、粒子径の分布を計測することによって算出された値である。
【0016】
[体積平均径]
粒子の体積平均径は、20~250μmであることが好ましく、さらに好ましくは30~150μmである。20μmより小さい場合はゴム成形物の弾性率や耐摩耗性が低くなるため好ましくない。250μmより大きい場合は、ゴム成形物の強度の低下を招くため好ましくない。
【0017】
[CV値(Coefficient of Variation)]
粒子のCV値は、70%以下であることが好ましく、さらに好ましくは50%以下である。下限値は30%以上であることが好ましく、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは40%以上である。70%以上である場合は、粒度分布がブロードであるため、微粒子や粗大粒子の影響を受け、ゴム補強性能の低下を招くため好ましくない。
【0018】
<ゴム成形物>
本発明の全芳香族ポリアミド粒子含有ゴム成形物(ゴムシート)の成分は、特に限定されるものでなく一般的に公知なものを用いることができる。例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴム(水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含む)など)、エチレン-α-オレフィンエラストマー、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらの成分は単独又は組み合わせて使用できる。これらのゴム成分のうち、ジエン系ゴム(天然ゴム、クロロプレンゴム、水素化ニトリルゴムなど)、エチレン-α-オレフィンエラストマー(エチレン-プロピレンゴム(EPR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDMなど)などのエチレン-α-オレフィン系ゴム)などが好ましい。
【0019】
また、粒子の分散性の確保およびゴム組成物としての性能を向上するためにも、全芳香族ポリアミド粒子を未加硫ゴム中へ配合する際に、全芳香族ポリアミド粒子をゴムポリマー当たり5~25重量%となるように配合することが好ましい。
【0020】
[ゴムダンベルの降伏点応力]
ゴムダンベルの降伏点応力は、9N/mm以上であることが好ましく、さらに好ましくは9.5N/mm以上であり、特に好ましくは10N/mm以上である。上限は40N/mmが好ましく、より好ましくは30N/mm、さらに好ましくは20N/mmである。8N/mmより小さい場合はゴム成形物の強度が著しく低いために、ゴム成形物が破断し易くなるため好ましくない。
【0021】
[ゴムダンベルの5%伸長時応力]
ゴムダンベルの5%伸長時応力は、1.0N/mm以上であることが好ましく、さらに好ましくは1.1N/mm以上である。上限は5N/mmが好ましく、より好ましくは3N/mm、さらに好ましくは1.5N/mmである。1.0N/mmより小さい場合はゴム成形物に応力が加わった際に伸びやすくなり好ましくない。
【0022】
[ゴム成形物の摩擦係数]
ゴム成形物の摩擦係数は、0.90以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.85以下であり、最も好ましくは0.80以下である。0.90より大きい場合は、ゴムのみと同等であるため、芳香族ポリアミド粒子を配合した効果がないと見なすことができる。
【0023】
[ゴム成形物の摩耗特性]
ゴム成形物の摩耗特性は、1.00mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.90mm以下であり、最も好ましくは0.80mm以下である。下限は0よりも大きいことが好ましく、より好ましくは0.1mm以上、さらに好ましくは0.2mm以上である。1.00mmより大きい場合は、摩耗が大きすぎるため好ましくない。
【実施例
【0024】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0025】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、下記の項目について、下記の方法によって測定・評価を行った。
【0026】
(1)全芳香族ポリアミド粒子のメジアン径D50、10%径D10、90%径D90、頻度(%)
粒子の粒径をJIS Z 8825に従って測定し各値得た、合わせて頻度(%)を算出した。具体的には、マイクロトラック・ベル株式会社のMicrotrac MT3000を使用し、レーザー波長:780nmm、測定時間:30sec、測定回数:2回、透過性:反射、溶媒:イオン交換水、溶媒屈折率:1.33でレーザー回折・散乱法にて測定した。
【0027】
(2)全芳香族ポリアミド粒子含有ゴムダンベルの降伏点応力、5%伸長時応力
JIS K6251に従い、3号ダンベル状試験片を500mm/minの引張速度で測定し、5%伸長時荷重および一次降伏点荷重を試験片の断面積で割った値を5%伸長時応力および一次降伏点応力とした。
【0028】
(3)全芳香族ポリアミド粒子含有ゴム成形物の摩擦特性
全芳香族ポリアミド粒子含有ゴム成形物(ゴムシート)の表面を360番のサンドペーパーで摩擦し、耐摩耗性の指標とした。具体的には、オリエンテック株式会社の摩擦摩耗試験機を用い、サンドペーパーを取り付けた金属板にゴム試験片が当たるようにし、2kgfの荷重を負荷した状態で周速100rpmの速度で回転摩耗させ、10分間経過後の動摩擦係数の平均値と摩耗した部分の深さ測定した。
【0029】
<実施例1>
[全芳香族ポリアミド粒子]
乾燥窒素雰囲気下の反応容器に、水分率が100ppm以下のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)721.5質量部を秤量し、このDMAc中にメタフェニレンジアミン97.2質量部(50.18モル%)を溶解して0℃に冷却した。この冷却したDMAc溶液に、さらにイソフタル酸クロライド(以下IPCと略す)181.3質量部(49.82モル%)を徐々に攪拌しながら添加し、重合反応を行った。次に、平均粒径が10μm以下の水酸化カルシウム粉末を66.6質量部秤量し、重合反応が完了したポリマー溶液に対してゆっくり加え、中和反応を実施した。水酸化カルシウムの投入が完了した後、さらに40分間攪拌し、透明なポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液からポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離して固有粘度(I.V.)を測定したところ、1.65であった。そして、得られたポリマー溶液をDMAcにて10倍に希釈した後、ミキサーで撹拌している水中に滴下しメタ型全芳香族ポリアミド粒子を得た。得られたメタ型全芳香族ポリアミド粒子を篩やサイクロン式分級機により、所望の粒度分布となるように分級を行った。分級後の粒子のサイズを表2に示す。
【0030】
[ゴム成形品サンプル]
得られたメタ型全芳香族ポリアミド粒子を、表1に示す組成のゴム中に配合し、MS式加圧ニーダで3分間混練した。その後、適当な厚さにシート出しを行い、プレス加硫によりゴムシートを作製し、サンプルをダンベル状に切り出し、性能評価を行った。得られた物性、特性を表3に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
<実施例2~5>
分級により粒子のサイズを変えた以外は、実施例1と同様の方法で、ゴム成形品サンプルを得た。得られた物性、特性を表2、表3に示す。
【0033】
<比較例1>
全芳香族ポリアミド粒子を加えずにゴムのみでゴム成形品サンプルを作成した。の強度は低くなった。得られた物性、特性を表2、表3に示す。
【0034】
<比較例2>
分級により粒子径を小さくした以外は、実施例1と同様の方法で、ゴム成形品サンプルを得た。得られた物性、特性を表2、表3に示す。
【0035】
<比較例3>
分級により粒子径を大きくした以外は、実施例1と同様の方法で、ゴム成形品サンプルを得た。得られた物性、特性を表2、表3に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】