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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
H01L21/304 648G
H01L21/304 647Z
H01L21/304 644A
H01L21/304 651B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020053309
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021153139
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸史
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-036012(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0035561(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105321855(CN,A)
【文献】特開2019-212889(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0366394(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110556314(CN,A)
【文献】特開2015-119164(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0128994(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104637784(CN,A)
【文献】特開2010-212690(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0224215(US,A1)
【文献】特開2006-032416(JP,A)
【文献】特開2001-053050(JP,A)
【文献】特開2010-211153(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0233449(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101840152(CN,A)
【文献】特開2020-016699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面を親水化する親水化工程と、
親水化された前記基板の表面に処理液を供給する処理液供給工程と、
前記基板の表面に供給された前記処理液を固化または硬化させて、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、
前記基板の表面に剥離液を供給して、前記除去対象物を保持している状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離する剥離工程とを含み、
前記剥離工程が、前記剥離液に前記処理膜を部分的に溶解させて前記処理膜に貫通孔を形成する貫通孔形成工程を含み、
前記親水化工程が、前記基板の表面に対する純水の接触角が41.7°よりも小さくなるように前記接触角を低減する接触角低減工程を含む、基板処理方法。
【請求項2】
前記剥離工程が、前記基板の表面と前記処理膜との間に剥離液を進入させる剥離液進入工程を含む、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記親水化工程が、前記基板の表面に親水化液を供給することによって、前記基板の表面を親水化する工程を含む、請求項1または2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記親水化液が、酸化液または有機溶剤である、請求項3に記載の基板処理方法。
【請求項5】
Si、SiN、SiO、SiGe、Ge、SiCN、W、TiN、Co、Cu、Ruおよびアモルファスカーボンのうちの少なくともいずれかが前記基板の表面から露出している、請求項1~4のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記基板の表層が、前記基板の表面から露出するTiN層を含み、
前記親水化液が、酸化液である、請求項3に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記処理膜に対する純水の接触角が52°よりも大きく61°よりも小さい、請求項1~のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記処理液が、溶媒および溶質を含有しており、
前記溶質が、高溶解性成分と前記高溶解性成分よりも前記剥離液に対する溶解性が低い低溶解性成分とを有し、
前記処理膜形成工程が、前記高溶解性成分によって形成される高溶解性固体と前記低溶解性成分によって形成される低溶解性固体とを有する前記処理膜を形成する工程を含み、
前記剥離工程が、前記高溶解性固体を前記剥離液に溶解させて、前記除去対象物を保持している状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離する、請求項1~のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項9】
基板の表面を親水化する親水化工程と、
親水化された前記基板の表面に処理液を供給する処理液供給工程と、
前記基板の表面に供給された前記処理液を固化または硬化させて、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、
前記基板の表面に剥離液を供給して、前記除去対象物を保持している状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離する剥離工程とを含み、
前記親水化工程が、前記基板の表面に対する純水の接触角が41.7°よりも小さくなるように前記接触角を低減する接触角低減工程を含む、基板処理方法。
【請求項10】
前記処理膜に対する純水の接触角が52°よりも大きく61°よりも小さい、請求項に記載の基板処理方法。
【請求項11】
基板の表面を親水化する親水化工程と、
親水化された前記基板の表面に処理液を供給する処理液供給工程と、
前記基板の表面に供給された前記処理液を固化または硬化させて、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、
前記基板の表面に剥離液を供給して、前記除去対象物を保持している状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離する剥離工程とを含み、
前記処理液が、溶媒および溶質を含有しており、
前記溶質が、高溶解性成分と前記高溶解性成分よりも前記剥離液に対する溶解性が低い低溶解性成分とを有し、
前記処理膜形成工程が、前記高溶解性成分によって形成される高溶解性固体と前記低溶解性成分によって形成される低溶解性固体とを有する前記処理膜を形成する工程を含み、
前記親水化工程が、前記基板の表面に対する純水の接触角が41.7°よりも小さくなるように前記接触角を低減する接触角低減工程を含み、
前記剥離工程が、前記高溶解性固体を前記剥離液に溶解させて、前記除去対象物を保持している状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離する、基板処理方法。
【請求項12】
Si、SiN、SiO、SiGe、Ge、SiCN、W、TiN、Co、Cu、Ruおよびアモルファスカーボンのうちの少なくともいずれかが前記基板の表面から露出している、請求項11に記載の基板処理方法。
【請求項13】
前記処理膜に対する純水の接触角が52°よりも大きく61°よりも小さい、請求項11または12に記載の基板処理方法。
【請求項14】
基板の表面を親水化する親水化液を前記基板の表面に供給する親水化液供給ユニットと、
基板の表面に処理液を供給する処理液供給ユニットと、
基板の表面に接する処理液を固化または硬化させて処理膜を形成する処理膜形成ユニットと、
基板の表面に形成された処理膜を剥離する剥離液を前記基板の表面に供給する剥離液供給ユニットと、
前記親水化液供給ユニット、前記処理液供給ユニット、前記処理膜形成ユニットおよび前記剥離液供給ユニットを制御するコントローラとを含み、
前記コントローラが、
基板の表面に前記親水化液供給ユニットから親水化液を供給することによって、前記基板の表面を親水化し、
親水化された前記基板の表面に前記処理液供給ユニットから処理液を供給し、
前記基板の表面に供給された前記処理液を前記処理膜形成ユニットによって固化または硬化させて、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成し、
前記剥離液供給ユニットから前記基板の表面に剥離液を供給して、前記除去対象物を保持している状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離し、
前記剥離液によって、前記処理膜を部分的に溶解させて前記処理膜に貫通孔が形成されるようにプログラムされており、
前記親水化が、前記基板の表面に対する純水の接触角が41.7°よりも小さくなるように前記接触角を低減する、基板処理装置。
【請求項15】
基板の表面を親水化する親水化液を前記基板の表面に供給する親水化液供給ユニットと、
基板の表面に処理液を供給する処理液供給ユニットと、
基板の表面に接する処理液を固化または硬化させて処理膜を形成する処理膜形成ユニットと、
基板の表面に形成された処理膜を剥離する剥離液を前記基板の表面に供給する剥離液供給ユニットと、
前記親水化液供給ユニット、前記処理液供給ユニット、前記処理膜形成ユニットおよび前記剥離液供給ユニットを制御するコントローラとを含み、
前記処理液が、溶媒および溶質を含有しており、
前記溶質が、高溶解性成分と前記高溶解性成分よりも前記剥離液に対する溶解性が低い低溶解性成分とを有し、
基板の表面に形成された処理膜が、前記高溶解性成分によって形成される高溶解性固体と前記低溶解性成分によって形成される低溶解性固体とを有し、
前記コントローラが、
基板の表面に前記親水化液供給ユニットから親水化液を供給することによって、前記基板の表面を親水化し、
親水化された前記基板の表面に前記処理液供給ユニットから処理液を供給し、
前記基板の表面に供給された前記処理液を前記処理膜形成ユニットによって固化または硬化させて、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成し、
前記剥離液供給ユニットから前記基板の表面に剥離液を供給して、前記高溶解性固体を前記剥離液に溶解させて、前記除去対象物を保持している状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離するようにプログラムされており、
前記親水化が、前記基板の表面に対する純水の接触角が41.7°よりも小さくなるように前記接触角を低減する、基板処理装置。
【請求項16】
前記処理膜に対する純水の接触角が52°よりも大きく61°よりも小さい、請求項14または15に記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板を処理する基板処理方法および基板処理装置に関する。処理対象になる基板には、たとえば、半導体ウエハ、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、太陽電池用基板、ならびに、液晶表示装置、プラズマディスプレイおよび有機EL(Electroluminescence)表示装置等のFPD(Flat Panel Display)用の基板等の基板が含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程では、基板に付着した各種汚染物、前工程で使用した処理液やレジスト等の残渣、あるいは各種パーティクル等(以下「除去対象物」と総称する場合がある。)を除去する工程が行われる。
具体的には、脱イオン水(DIW:Deionized Water)等を基板に供給することにより、除去対象物をDIWの物理的作用によって除去したり、除去対象物と化学的に反応する薬液を基板に供給することにより、当該除去対象物を化学的に除去したりすることが一般的である。
【0003】
しかし、基板上に形成される凹凸パターンの微細化および複雑化が進んでいる。そのため、凹凸パターンの損傷を抑制しながら除去対象物をDIWまたは薬液によって除去することが容易でなくなりつつある。
そこで、基板の表面に処理液を供給し、基板上の処理液を固めることで基板上に存在する除去対象物を保持する保持層を形成した後、基板の上面に剥離液を供給することによって、除去対象物とともに保持層を基板の表面から剥離して除去する手法が提案されている(下記特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-62171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、剥離液により剥離液の進入経路を形成して保持層内に剥離液が進入する。しかしながら、基板の表面状態によっては基板と保持層との界面に剥離液を充分に進入させることができず、基板の表面からの保持層の剥離が不充分となるおそれがある。
そのため、除去対象物を保持している状態の保持層を基板から効果的に剥離する手法が求められている。そこで、この発明の1つの目的は、除去対象物を保持している状態の処理膜を基板の表面から効果的に剥離することができる基板処理方法および基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一実施形態は、基板の表面を親水化する親水化工程と、親水化された前記基板の表面に処理液を供給する処理液供給工程と、前記基板の表面に供給された前記処理液を固化または硬化させて、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、前記基板の表面に剥離液を供給して、前記除去対象物を保持している状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離する剥離工程とを含む、基板処理方法を提供する。そして、前記剥離工程が、前記剥離液に前記処理膜を部分的に溶解させて前記処理膜に貫通孔を形成する貫通孔形成工程を含む。
【0007】
本願発明者らは、基板の表面状態によって、剥離液が基板から処理膜を剥離させる剥離作用が変化することを見出した。具体的には、基板の表面の親水性が高いほど、剥離液によって処理膜を剥離しやすい。より具体的には、基板の表面の親水性が高いほど、処理膜と基板との界面に剥離液が作用しやすく、基板の表面から処理膜を効果的に剥離することができる。
【0008】
そこで、親水化された基板の表面に処理膜を形成し、処理膜が形成された基板の表面に向けて剥離液を供給する方法であれば、処理膜を基板から効果的に剥離することができる。
さらに、基板の表面に向けて供給された剥離液によって処理膜に貫通孔が形成されるので、貫通孔を介して剥離液を処理膜と基板との界面に到達させることができる。これにより、処理膜において貫通孔を取り囲む部分と基板との界面に剥離液を作用させることができる。したがって、処理膜に貫通孔を形成せずに剥離液を処理膜内に浸透させて、処理膜と基板との界面に剥離液を到達させる方法と比較して、処理膜と基板との界面に剥離液が速やかに作用させることができる。処理膜は、貫通孔の形成のために部分的に剥離液によって溶解されるものの、残りの部分は、固体状態で維持される。したがって、除去対象物を保持している状態の処理膜を基板の表面から効果的に剥離することができる。
【0009】
このように、剥離液を処理膜と基板との界面に速やかに作用させつつ、大部分の処理膜を固体状態に維持できるため、除去対象物を保持している状態の処理膜を基板から効果的に剥離することができる。
この発明の一実施形態では、前記剥離工程が、前記基板の表面と前記処理膜との間に剥離液を進入させる剥離液進入工程を含む。
【0010】
本願発明者らは、基板の表面の親水性が高いほど、基板に対する剥離液の濡れ性(親和性)が高く、剥離液が基板と処理膜との間に進入しやすいことを見出した。そこで、親水化された基板の表面に処理膜を形成し、処理膜が形成された基板の表面に向けて剥離液を供給する方法であれば、剥離液を基板と処理膜との間に効果的に進入させることができる。これにより、処理膜を基板の表面から効果的に剥離することができる。
【0011】
この発明の一実施形態では、前記親水化工程が、前記基板の表面に液状の親水化液を供給することによって、前記基板の表面を親水化する工程を含む。基板の表面に液状の親水化液を供給することによって、基板の表面で親水化液が広がり、基板の表面の全体に親水化液を行き渡らせることができる。そのため、基板の表面の全体を満遍なく親水化することができる。基板の表面の全体が親水化されているので、その後の剥離工程において、基板の表面の全体において処理膜と基板との界面に剥離液が作用しやすい。したがって、基板の表面における処理膜の剥離のむらを低減できる。
【0012】
この発明の一実施形態では、前記親水化液が、酸化液または有機溶剤である。親水化液としてこれらの液体を用いる場合には、基板の表面に存在する疎水性の有機物を除去することで基板の表面を親水化することができる。親水化液として有機溶剤を用いた場合には、基板の表面に存在する疎水性の有機物が有機溶剤に溶解されて基板の表面が親水化される。
【0013】
一方、親水化液として酸化液を用いる場合には、基板の表面付近の部分が酸化される。基板の表面付近の部分が酸化されるので、基板の表面の親水性が向上する。
親水化液として酸化液を用いた場合には、有機物の存在にかかわらず、基板の表面を親水化することができる。親水化液として酸化液を用いた場合には、有機物の存在にかかわらず、基板の表面を親水化することができる。つまり、有機溶剤に溶解されにくい有機物が基板の表面に存在する場合であっても、基板の表面を親水化できる。したがって、親水化液として酸化液を用いる場合、基板の表面の親水性を一層高めることができる。
【0014】
この発明の一実施形態では、Si、SiN、SiO、SiGe、Ge、SiCN、W、TiN、Co、Cu、Ruおよびアモルファスカーボンのうちの少なくともいずれかが前記基板の表面から露出している。これらの物質が基板の表面から露出されていれば、親水化工程によって基板の表面を親水化することができる。
この発明の一実施形態では、前記基板の表層が、前記基板の表面から露出するTiN層を含み、前記親水化液が、酸化液である。親水化液としてフッ酸(HF、DHF)やアンモニア過酸化水素水混合液(SC1)等の酸化液を基板の表面に供給することで、TiN層の表面に酸化膜を形成することができる。TiN層の表面に酸化膜を形成することによって、基板の表面を親水化することができる。
【0015】
この発明の一実施形態では、前記親水化工程が、前記基板の表面に対する純水の接触角が41.7°よりも小さくなるように前記接触角を低減する接触角低減工程を含む。基板の表面に対する純水の接触角は、基板の表面の親水性が高いほど小さくなる。本願発明者らは、基板の表面に対する純水の接触角が41.7°よりも小さければ、剥離液が基板と処理膜との界面に充分に作用することを見出した。
【0016】
そこで、基板の表面に対する純水の接触角が41.7°よりも小さくなるように、基板の表面を親水化して接触角を低減すれば、剥離液を基板と処理膜との界面に充分に作用させることができる。これにより、除去対象物を保持している状態の処理膜を基板から効果的に剥離することができる。
この発明の一実施形態では、前記処理膜に対する純水の接触角が52°よりも大きく61°よりも小さい。本願発明者らは、処理膜に対する純水の接触角が52°よりも大きく61°よりも小さければ、剥離液が基板と処理膜との界面に充分に作用できることを見出した。
【0017】
そこで、処理膜に対する純水の接触角が52°よりも大きく61°よりも小さければ、剥離液を基板と処理膜との界面に充分に作用させて処理膜を効果的に剥離することができる。
この発明の一実施形態では、前記処理液が、溶媒および溶質を含有している。前記溶質が、高溶解性成分と前記高溶解性成分よりも前記剥離液に対する溶解性が低い低溶解性成分とを有する。前記処理膜形成工程が、前記高溶解性成分によって形成される高溶解性固体と前記低溶解性成分によって形成される低溶解性固体とを有する前記処理膜を形成する工程を含む。そして、前記剥離工程が、前記高溶解性固体を前記剥離液に溶解させて、前記除去対象物を保持している状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離する。
【0018】
この方法によれば、剥離液に対する高溶解性成分の溶解性は、剥離液に対する低溶解性成分の溶解性よりも高い。そのため、高溶解性成分によって形成される高溶解性固体は、低溶解性成分によって形成される低溶解性固体よりも剥離液に溶解しやすい。
そのため、基板の表面に剥離液を供給して高溶解性固体を剥離液に溶解させることによって、処理膜中に隙間が形成される。その一方で、低溶解性固体は、剥離液に溶解されずに固体状態で維持される。
【0019】
したがって、高溶解性固体を剥離液に溶解させつつ、低溶解性固体を剥離液に溶解させずに固体状態に維持することができる。そのため、剥離液は、高溶解性固体の溶解によって形成される隙間(経路)を通って、基板と低溶解性固体との界面に到達する。
したがって、低溶解性固体で除去対象物を保持しながら、低溶解性固体と基板との界面に剥離液を作用させることができる。その結果、処理膜を基板から速やかに剥離しつつ、処理膜とともに除去対象物を基板から効率良く除去することができる。
【0020】
この発明の一実施形態は、基板の表面を親水化する親水化工程と、親水化された前記基板の表面に処理液を供給する処理液供給工程と、前記基板の表面に供給された前記処理液を固化または硬化させて、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、前記基板の表面に剥離液を供給して、前記除去対象物を保持している状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離する剥離工程とを含み、前記親水化工程が、前記基板の表面に対する純水の接触角が41.7°よりも小さくなるように前記接触角を低減する接触角低減工程を含む、基板処理方法を提供する。
【0021】
この方法によれば、親水化された基板の表面に処理膜を形成し、処理膜が形成された基板の表面に向けて剥離液が供給される。前述したように、基板の表面の親水性が高いほど、処理膜と基板との界面に剥離液が作用しやすく、基板の表面から処理膜を効果的に剥離することができる。この方法において、基板の表面に対する純水の接触角が41.7°よりも小さくなるように、基板の表面が親水化される。そのため、剥離液を基板と処理膜との界面に充分に作用させることができる。これにより、除去対象物を保持している状態の処理膜を基板から効果的に剥離することができる。
【0022】
この発明の一実施形態では、前記処理膜に対する純水の接触角が52°よりも大きく61°よりも小さい。そのため、剥離液を基板と処理膜との界面に充分に作用させて処理膜を効果的に剥離することができる。
この発明の一実施形態は、基板の表面を親水化する親水化工程と、親水化された前記基板の表面に処理液を供給する処理液供給工程と、前記基板の表面に供給された前記処理液を固化または硬化させて、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、前記基板の表面に剥離液を供給して、前記除去対象物を保持している状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離する剥離工程とを含み、前記処理液が、溶媒および溶質を含有しており、前記溶質が、高溶解性成分と前記高溶解性成分よりも前記剥離液に対する溶解性が低い低溶解性成分とを有する、基板処理方法を提供する。この基板処理方法では、前記処理膜形成工程が、前記高溶解性成分によって形成される高溶解性固体と前記低溶解性成分によって形成される低溶解性固体とを有する前記処理膜を形成する工程を含む。そして、前記剥離工程が、前記高溶解性固体を前記剥離液に溶解させて、前記除去対象物を保持している状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離する。
【0023】
この方法によれば、親水化された基板の表面に処理膜を形成し、処理膜が形成された基板の表面に向けて剥離液が供給される。前述したように、基板の表面の親水性が高いほど、処理膜と基板との界面に剥離液が作用しやすく、基板の表面から処理膜を効果的に剥離することができる。そのため、処理膜を基板から効果的に剥離することができる。
この方法によれば、さらに、剥離液に対する高溶解性成分の溶解性は、剥離液に対する低溶解性成分の溶解性よりも高い。そのため、高溶解性成分によって形成される高溶解性固体は、低溶解性成分によって形成される低溶解性固体よりも剥離液に溶解しやすい。
【0024】
そのため、基板の表面に剥離液を供給して高溶解性固体を剥離液に溶解させることによって、処理膜中に隙間が形成される。その一方で、低溶解性固体は、剥離液に溶解されずに固体状態で維持される。
したがって、高溶解性固体を剥離液に溶解させつつ、低溶解性固体を剥離液に溶解させずに固体状態に維持することができる。そのため、剥離液は、高溶解性固体の溶解によって形成される隙間(経路)を通って、基板と低溶解性固体との界面に到達する。
【0025】
したがって、低溶解性固体で除去対象物を保持しながら、低溶解性固体と基板との界面に剥離液を作用させることができる。これにより、除去対象物を保持している状態の処理膜を基板から効果的に剥離することができる。
その結果、処理膜を基板から速やかに剥離しつつ、処理膜とともに除去対象物を基板から効率良く除去することができる。
【0026】
この基板処理方法では、Si、SiN、SiO2、SiGe、Ge、SiCN、W、TiN、Co、Cu、Ruおよびアモルファスカーボンのうちの少なくともいずれかが前記基板の表面から露出している。これらの物質が基板の表面から露出されていれば、親水化工程によって基板の表面を親水化することができる。
この基板処理方法では、前記親水化工程が、前記基板の表面に対する純水の接触角が41.7°よりも小さくなるように前記接触角を低減する接触角低減工程を含む。そのため、剥離液を基板と処理膜との界面に充分に作用させることができる。これにより、除去対象物を保持している状態の処理膜を基板から効果的に剥離することができる。
上記の基板処理方法において、前記処理膜に対する純水の接触角が52°よりも大きく61°よりも小さいことが好ましい。
【0027】
この発明の一実施形態は、基板の表面を親水化する親水化液を前記基板の表面に供給する親水化液供給ユニットと、基板の表面に処理液を供給する処理液供給ユニットと、基板の表面に接する処理液を固化または硬化させて処理膜を形成する処理膜形成ユニットと、基板の表面に形成された処理膜を剥離する剥離液を前記基板の表面に供給する剥離液供給ユニットと、前記親水化液供給ユニット、前記処理液供給ユニット、前記処理膜形成ユニットおよび前記剥離液供給ユニットを制御するコントローラとを含む、基板処理装置を提供する。
【0028】
そして、この基板処理装置に含まれる前記コントローラは、基板の表面に前記親水化液供給ユニットから親水化液を供給することによって、前記基板の表面を親水化し、表面が親水化された前記基板に前記処理液供給ユニットから処理液を供給し、前記基板の表面に供給された前記処理液を前記処理膜形成ユニットによって固化または硬化させて、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成し、前記剥離液供給ユニットから前記基板の表面に剥離液を供給して、前記除去対象物を保持している状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離し、前記剥離液によって、前記処理膜を部分的に溶解させて前記処理膜に貫通孔が形成されるようにプログラムされている。
【0029】
この構成によれば、上述した基板処理方法と同様の効果を奏する。
この発明の一実施形態は、基板の表面を親水化する親水化液を前記基板の表面に供給する親水化液供給ユニットと、基板の表面に処理液を供給する処理液供給ユニットと、基板の表面に接する処理液を固化または硬化させて処理膜を形成する処理膜形成ユニットと、基板の表面に形成された処理膜を剥離する剥離液を前記基板の表面に供給する剥離液供給ユニットと、前記親水化液供給ユニット、前記処理液供給ユニット、前記処理膜形成ユニットおよび前記剥離液供給ユニットを制御するコントローラとを含み、前記処理液が、溶媒および溶質を含有しており、前記溶質が、高溶解性成分と前記高溶解性成分よりも前記剥離液に対する溶解性が低い低溶解性成分とを有し、前記処理膜が、前記高溶解性成分によって形成される高溶解性固体と前記低溶解性成分によって形成される低溶解性固体とを有する基板処理装置を提供する。
【0030】
そして、この基板処理装置に含まれる前記コントローラが、基板の表面に前記親水化液供給ユニットから親水化液を供給することによって、前記基板の表面を親水化し、親水化された前記基板の表面に前記処理液供給ユニットから処理液を供給し、前記基板の表面に供給された前記処理液を前記処理膜形成ユニットによって固化または硬化させて、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成し、前記剥離液供給ユニットから前記基板の表面に剥離液を供給して、前記高溶解性固体を前記剥離液に溶解させて、前記除去対象物を保持している状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離するようにプログラムされている。
【0031】
この構成によれば、上述した基板処理方法と同様の効果を奏する。
前記親水化は、前記基板の表面に対する純水の接触角が41.7°よりも小さくなるように前記接触角を低減することが好ましい。
また、前記処理膜に対する純水の接触角が52°よりも大きく61°よりも小さいことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、この発明の一実施形態に係る基板処理装置のレイアウトを示す模式的な平面図である。
図2図2は、前記基板処理装置に備えられる処理ユニットの概略構成を示す模式的な部分断面図である。
図3図3は、基板上の純水の液滴およびその周辺の模式図である。
図4A図4Aは、有機溶剤によって基板の表面が親水化される様子を説明するための模式図である。
図4B図4Bは、酸化液によって基板の表面が親水化される様子を説明するための模式図である。
図5図5は、前記基板処理装置の主要部の電気的構成を示すブロック図である。
図6図6は、処理対象となる基板の表層の構成の一例である。
図7図7は、処理対象となる基板の表層の構成の別の例である。
図8図8は、前記基板処理装置による基板処理の一例を説明するための流れ図である。
図9A図9Aは、前記基板処理の親水化工程(ステップS2)の様子を説明するための模式図である。
図9B図9Bは、前記基板処理の第1リンス工程(ステップS3)の様子を説明するための模式図である。
図9C図9Cは、前記基板処理の置換工程(ステップS4)の様子を説明するための模式図である。
図9D図9Dは、前記基板処理の処理液供給工程(ステップS5)の様子を説明するための模式図である。
図9E図9Eは、前記基板処理の処理膜形成工程(ステップS6)の様子を説明するための模式図である。
図9F図9Fは、前記基板処理の処理膜形成工程(ステップS6)の様子を説明するための模式図である。
図9G図9Gは、前記基板処理の剥離工程(ステップS7)の様子を説明するための模式図である。
図9H図9Hは、前記基板処理の第2リンス工程(ステップS8)の様子を説明するための模式図である。
図9I図9Iは、前記基板処理の残渣除去工程(ステップS9)の様子を説明するための模式図である。
図10A図10Aは、処理膜が基板の表面から剥離される様子を説明するための模式図である。
図10B図10Bは、処理膜が基板の表面から剥離される様子を説明するための模式図である。
図10C図10Cは、処理膜が基板の表面から剥離される様子を説明するための模式図である。
図11図11は、前記基板処理装置による基板処理の別の例を説明するための流れ図である。
図12A図12Aは、実験用基板の表面に対する純水の接触角を測定する手順を説明するための模式図である。
図12B図12Bは、実験用基板からの処理膜の剥離の手順について説明するための模式図である。
図13図13は、実験用基板の表面に対する純水の接触角と、剥離液による処理膜の可否とを示すテーブルである。
図14図14は、処理膜の表面に対する純水の接触角を測定する手順を説明するための模式図である。
図15図15は、処理膜の表面に対する純水の接触角を示すテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
<基板処理装置の構成>
図1は、この発明の一実施形態にかかる基板処理装置1のレイアウトを示す模式的な平面図である。
基板処理装置1は、シリコンウエハ等の基板Wを一枚ずつ処理する枚葉式の装置である。この実施形態では、基板Wは、円板状の基板である。
【0034】
基板Wとしては、表面にSi(シリコン)、SiN(窒化シリコン)、SiO(酸化シリコン)、SiGe(シリコンゲルマニウム)、Ge(ゲルマニウム)、SiCN(炭窒化ケイ素)、W(タングステン)、TiN(窒化チタン)、Co(コバルト)、Cu(銅)、Ru(ルテニウム)およびa-C(アモルファスカーボン)のうちの少なくともいずれかが露出している基板を用いることができる。すなわち、基板Wの表面には、上述した物質のうち、1種類の物質のみが露出していてもよいし、上述した物質のうち複数の物質が露出していてもよい。
【0035】
基板処理装置1は、基板Wを流体で処理する複数の処理ユニット2と、処理ユニット2で処理される複数枚の基板Wを収容するキャリヤCが載置されるロードポートLPと、ロードポートLPと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する搬送ロボットIRおよびCRと、基板処理装置1を制御するコントローラ3とを含む。
搬送ロボットIRは、キャリヤCと搬送ロボットCRとの間で基板Wを搬送する。搬送ロボットCRは、搬送ロボットIRと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する。複数の処理ユニット2は、たとえば、同様の構成を有している。詳しくは後述するが、処理ユニット2内で基板Wに供給される処理流体には、親水化液、リンス液、置換液、処理液、剥離液、残渣除去液、熱媒、不活性ガス(気体)等が含まれる。
【0036】
各処理ユニット2は、チャンバ4と、チャンバ4内に配置された処理カップ7とを備えており、処理カップ7内で基板Wに対する処理を実行する。チャンバ4には、搬送ロボットCRによって、基板Wを搬入したり基板Wを搬出したりするための出入口(図示せず)が形成されている。チャンバ4には、この出入口を開閉するシャッタユニット(図示せず)が備えられている。
【0037】
図2は、処理ユニット2の構成例を説明するための模式図である。処理ユニット2は、スピンチャック5と、対向部材6と、処理カップ7と、第1移動ノズル9と、第2移動ノズル10と、第3移動ノズル11と、中央ノズル12と、下面ノズル13とを含む。
スピンチャック5は、基板Wを水平に保持しながら、回転軸線A1(鉛直軸線)まわりに基板Wを回転させる基板保持回転ユニットの一例である。回転軸線A1は、基板Wの中央部を通る鉛直な直線である。スピンチャック5は、複数のチャックピン20と、スピンベース21と、回転軸22と、スピンモータ23とを含む。
【0038】
スピンベース21は、水平方向に沿う円板形状を有している。スピンベース21の上面には、基板Wの周縁を把持する複数のチャックピン20が、スピンベース21の周方向に間隔を空けて配置されている。スピンベース21および複数のチャックピン20は、基板Wを水平に保持する基板保持ユニットを構成している。基板保持ユニットは、基板ホルダともいう。
【0039】
回転軸22は、回転軸線A1に沿って鉛直方向に延びている。回転軸22の上端部は、スピンベース21の下面中央に結合されている。スピンモータ23は、回転軸22に回転力を与える。スピンモータ23によって回転軸22が回転されることにより、スピンベース21が回転される。これにより、基板Wが回転軸線A1のまわりに回転される。スピンモータ23は、回転軸線A1まわりに基板Wを回転させる基板回転ユニットの一例である。
【0040】
スピンチャック5は、複数のチャックピン20を基板Wの周端面に接触させる挟持式のチャックに限らず、基板Wの下面をスピンベース21の上面に吸着させることにより基板Wを水平に保持するバキューム式のチャックであってもよい。
対向部材6は、スピンチャック5に保持された基板Wに上方から対向する。対向部材6は、基板Wとほぼ同じ径またはそれ以上の径を有する円板状に形成されている。対向部材6は、基板Wの上面(上側の表面)に対向する対向面6aを有する。対向面6aは、スピンチャック5よりも上方でほぼ水平面に沿って配置されている。
【0041】
対向部材6において対向面6aとは反対側には、中空軸60が固定されている。対向部材6において平面視で回転軸線A1と重なる部分には、対向部材6を上下に貫通する連通孔6bが形成されている。連通孔6bは、中空軸60の内部空間60aと連通する。
対向部材6は、対向面6aと基板Wの上面との間の空間内の雰囲気を当該空間の外部の雰囲気から遮断する。そのため、対向部材6は、遮断板ともいう。
【0042】
処理ユニット2は、対向部材6の昇降を駆動する対向部材昇降ユニット61と、対向部材6を回転軸線A1まわりに回転させる対向部材回転ユニット62とをさらに含む。
対向部材昇降ユニット61は、下位置から上位置までの任意の位置(高さ)に対向部材6を鉛直方向に位置させることができる。下位置とは、対向部材6の可動範囲において、対向面6aが基板Wに最も近接する位置である。上位置とは、対向部材6の可動範囲において対向面6aが基板Wから最も離間する位置である。対向部材6が上位置に位置するときに、基板Wの搬入および搬出のために搬送ロボットCRがスピンチャック5にアクセスすることができる。
【0043】
対向部材昇降ユニット61は、たとえば、中空軸60を支持する支持部材(図示せず)に結合されたボールねじ機構(図示せず)と、当該ボールねじ機構に駆動力を与える電動モータ(図示せず)とを含む。対向部材昇降ユニット61は、対向部材リフタ(遮断板リフタ)ともいう。対向部材回転ユニット62は、たとえば、中空軸60を回転させるモータ(図示せず)を含む。
【0044】
処理カップ7は、スピンチャック5に保持された基板Wから外方に飛散する液体を受け止める複数のガード71と、複数のガード71によって下方に案内された液体を受け止める複数のカップ72と、複数のガード71および複数のカップ72を取り囲む円筒状の外壁部材73とを含む。
この実施形態では、2つのガード71(第1ガード71Aおよび第2ガード71B)と、2つのカップ72(第1カップ72Aおよび第2カップ72B)とが設けられている例を示している。
【0045】
第1カップ72Aおよび第2カップ72Bのそれぞれは、上向きに開放された環状溝の形態を有している。
第1ガード71Aは、スピンベース21を取り囲むように配置されている。第2ガード71Bは、第1ガード71Aよりも外側でスピンベース21を取り囲むように配置されている。
【0046】
第1ガード71Aおよび第2ガード71Bは、それぞれ、ほぼ円筒形状を有している。各ガード71の上端部は、スピンベース21に向かうように内方に傾斜している。
第1カップ72Aは、第1ガード71Aによって下方に案内された液体を受け止める。第2カップ72Bは、第1ガード71Aと一体に形成されており、第2ガード71Bによって下方に案内された液体を受け止める。
【0047】
処理ユニット2は、第1ガード71Aおよび第2ガード71Bを別々に鉛直方向に昇降させるガード昇降ユニット74を含む。ガード昇降ユニット74は、下位置と上位置との間で第1ガード71Aを昇降させる。ガード昇降ユニット74は、下位置と上位置との間で第2ガード71Bを昇降させる。
第1ガード71Aおよび第2ガード71Bがともに上位置に位置するとき、基板Wから飛散する液体は、第1ガード71Aによって受けられる。第1ガード71Aが下位置に位置し、第2ガード71Bが上位置に位置するとき、基板Wから飛散する液体は、第2ガード71Bによって受けられる。第1ガード71Aおよび第2ガード71Bがともに下位置に位置するときに、基板Wの搬入および搬出のために搬送ロボットCRがスピンチャック5にアクセスすることが可能である。
【0048】
ガード昇降ユニット74は、たとえば、第1ガード71Aに結合された第1ボールねじ機構(図示せず)と、第1ボールねじ機構に駆動力を与える第1モータ(図示せず)と、第2ガード71Bに結合された第2ボールねじ機構(図示せず)と、第2ボールねじ機構に駆動力を与える第2モータ(図示せず)とを含む。ガード昇降ユニット74は、ガードリフタともいう。
【0049】
第1移動ノズル9は、スピンチャック5に保持された基板Wの上面に向けて親水化液を供給(吐出)する親水化液ノズル(親水化液供給ユニット)の一例である。
第1移動ノズル9は、第1ノズル移動ユニット35によって、水平方向および鉛直方向に移動される。第1移動ノズル9は、水平方向において、中心位置と、ホーム位置(退避位置)との間で移動することができる。第1移動ノズル9は、中心位置に位置するとき、基板Wの上面の中央領域に対向する。基板Wの上面の中央領域とは、基板Wの上面において基板Wの回転中心およびその周囲を含む領域のことである。
【0050】
第1移動ノズル9は、ホーム位置に位置するとき、基板Wの上面には対向せず、平面視において、処理カップ7の外方に位置する。第1移動ノズル9は、鉛直方向への移動によって、基板Wの上面に接近したり、基板Wの上面から上方に退避したりできる。
第1ノズル移動ユニット35は、たとえば、第1移動ノズル9に結合され水平に延びるアーム(図示せず)と、アームに結合され鉛直方向に沿って延びる回動軸(図示せず)と、回動軸を昇降させたり回動させたりする回動軸駆動ユニット(図示せず)とを含む。
【0051】
回動軸駆動ユニットは、鉛直な回動軸線まわりに回動軸を回動させることによってアームを揺動させる。さらに、回動軸駆動ユニットは、回動軸を鉛直方向に沿って昇降することにより、アームを昇降させる。アームの揺動および昇降に応じて、第1移動ノズル9が水平方向および鉛直方向に移動する。
第1移動ノズル9は、親水化液を案内する親水化液配管40に接続されている。親水化液配管40に介装された親水化液バルブ50が開かれると、親水化液が、第1移動ノズル9から下方に連続流で吐出される。第1移動ノズル9が中央位置に位置するときに親水化液バルブ50が開かれると、親水化液が基板Wの上面の中央領域に供給される。
【0052】
親水化液は、たとえば、フッ酸(HF、DHF)、アンモニア過酸化水素水混合液(SC1)および、硫酸過酸化水素水混合液(SPM)等の酸化液、イソプロピルアルコール(IPA)等の有機溶剤、ならびに、塩酸(HCl)等が挙げられる。親水化液は、基板Wの表面を親水化する(親水性を高める)ための液体である。
酸化液は、酸化力を有する物質(酸化剤)を含有する液体である。たとえば、SC1は、酸化剤として過酸化水素を含有しており、フッ酸は、酸化剤としてフッ化水素を含有している。SPMは、酸化剤として過硫酸を含有している。
【0053】
親水性は、水に対する親和性のことである。親水性は、濡れ性ともいう。親水性の指標として接触角が挙げられる。接触角とは、或る固体の上に液体を滴下したときにできる液滴のふくらみ(液の高さ)の程度を数値化したものである。具体的には、接触角とは、固体の表面に付着した液を横から見たときに、液面と固体の表面とのなす角度のことである。接触角が大きいほどその固体の表面の濡れ性が低く、接触角が小さいほどその固体の表面の濡れ性が高い。
【0054】
図3は、基板W上の純水の液滴およびその周辺の模式図である。図3に示すように、基板Wの表面に対する純水の接触角θが0°よりも大きく、41.7°よりも小さいことが好ましい。本実施形態では、純水としてDIWが用いられる。基板Wの表面に対する純水の接触角が0°よりも大きく、41.7°よりも小さければ、剥離液(後述する)によって基板Wの表面から処理膜(後述する)が剥離されやすい。基板Wの表面に対する純水の接触角θは、0°よりも大きく、36.0°以下であることがより好ましい。基板Wの表面に対する純水の接触角θは、0°よりも大きく、32.7°以下であることがより一層好ましい。
【0055】
次に、基板Wの表面が親水化される様子について説明する。図4Aおよび図4Bは、親水化液によって基板Wの表面が親水化される様子を説明するための模式図である。
親水化液としてIPA等の有機溶剤を用いた場合には、基板Wの表面に付着している疎水性の有機物170が除去されることによって基板Wの表面が親水化される。具体的には、図4Aに示すように、基板Wの表面に存在する疎水性の有機物170が有機溶剤に溶解されて基板Wの表面が親水化される。そのため、親水化液に溶解しにくい有機物170Aが基板Wの表面に残る場合がある。そのため、有機溶剤による親水化は、基板Wの表面に存在する有機物170の種類の影響を受ける。
【0056】
有機物は、基板Wの表面に存在する除去対象物の一部であり、有機溶剤で有機物を除去したとしても、除去対象物の除去が充分とはいえない。そのため、有機溶剤によって基板Wの表面が親水化される場合であっても、後述するように、処理膜の剥離によって除去対象物を除去する必要がある。
一方、親水化液として、フッ酸やSC1等の酸化液を用いた場合、図4Bに示すように、基板Wの表面が酸化されて基板Wの表面に酸化膜171が形成される。基板Wの表面が酸化されることによって、基板Wの表面から露出する物質に酸素原子が結合する。基板Wの表面から露出する物質に酸素原子が結合されるため、基板Wの表面の親水性が向上する。
【0057】
親水化液として酸化液を用いた場合には、有機物170の存在にかかわらず、基板Wの表面を親水化することができる。つまり、有機溶剤に溶解されにくい有機物170Aが基板Wの表面に存在する場合であっても、基板Wの表面を親水化できる。したがって、親水化液として酸化液を用いる場合の方が、親水化液として有機溶剤を用いる場合よりも基板Wの表面の親水性を効率良く高めることができる。
【0058】
Si、SiN、SiO、SiGe、Ge、SiCN、W、TiN、Co、Cu、Ruおよびa-Cの少なくともいずれか露出している表面を有する基板Wであれば、親水化液によって親水化することができる。特に、Si、SiN、SiO、W、TiN、Co、Cu、Ruおよびa-Cの少なくともいずれか露出している表面を有する基板Wであれば、親水化液によって親水化されやすく、Si、SiN、SiO、W、TiN、CoおよびCuのうちのいずれかが露出している表面を有する基板Wであれば、親水化液によって一層親水化されやすい。
【0059】
図2を再び参照して、第2移動ノズル10は、スピンチャック5に保持された基板Wの上面に向けて処理液を供給(吐出)する処理液ノズル(処理液供給ユニット)の一例である。
第2移動ノズル10は、第2ノズル移動ユニット36によって、水平方向および鉛直方向に移動される。第2移動ノズル10は、水平方向において、中心位置と、ホーム位置(退避位置)との間で移動することができる。第2移動ノズル10は、中心位置に位置するとき、基板Wの上面の中央領域に対向する。
【0060】
第2移動ノズル10は、ホーム位置に位置するとき、基板Wの上面には対向せず、平面視において、処理カップ7の外方に位置する。第2移動ノズル10は、鉛直方向への移動によって、基板Wの上面に接近したり、基板Wの上面から上方に退避したりできる。
第2ノズル移動ユニット36は、第1ノズル移動ユニット35と同様の構成を有する。すなわち、第2ノズル移動ユニット36は、第2移動ノズル10に結合され水平に延びるアーム(図示せず)と、アームに結合され鉛直方向に沿って延びる回動軸(図示せず)と、回動軸を昇降させたり回動させたりする回動軸駆動ユニット(図示せず)とを含んでいてもよい。
【0061】
第2移動ノズル10は、処理液を案内する処理液配管44に接続されている。処理液配管44に介装された処理液バルブ54が開かれると、処理液が、第2移動ノズル10から下方に連続流で吐出される。第2移動ノズル10が中央位置に位置するときに処理液バルブ54が開かれると、処理液が基板Wの上面の中央領域に供給される。
処理液には、溶質および溶媒が含有されている。処理液は、処理液に含まれる溶媒の少なくとも一部が揮発(蒸発)することによって固化または硬化する。処理液は、基板W上で固化または硬化することによって、基板W上に存在するパーティクル等の除去対象物を保持する固形の処理膜を形成する。
【0062】
ここで、「固化」とは、たとえば、溶媒の揮発に伴い、分子間や原子間に作用する力等によって溶質が固まることを指す。「硬化」とは、たとえば、重合や架橋等の化学的な変化によって、溶質が固まることを指す。したがって、「固化または硬化」とは、様々な要因によって溶質が「固まる」ことを表している。
処理液には、溶質として、低溶解性成分および高溶解性成分が含有されている。
【0063】
第2移動ノズル10から吐出される処理液に腐食防止成分が含まれていてもよい。詳しくは後述するが、腐食防止成分は、たとえば、BTA(ベンゾトリアゾール)である。
低溶解性成分および高溶解性成分としては、後述する剥離液に対する溶解性が互いに異なる物質を用いることができる。低溶解性成分は、たとえば、ノボラックである。高溶解性成分は、たとえば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンである。
【0064】
処理液に含有される溶媒は、低溶解性成分および高溶解性成分を溶解させる液体であればよい。処理液に含有される溶媒は、剥離液と相溶性を有する(混和可能である)液体であることが好ましい。相溶性とは、2種類の液体が互いに溶けて混ざり合う性質のことである。
処理膜は、主に、固体状態の低溶解性成分と固体状態の高溶解成分とによって構成されている。処理膜中には、溶媒が残存していてもよい。処理液に含有される各成分(溶媒、低溶解性成分、高溶解性成分および腐食防止成分)の詳細については後述する。
【0065】
処理膜に対する純水の接触角が52°よりも大きく61°よりも小さければ、基板Wと処理膜との界面に後述する剥離液を充分に作用させることができる。後述する処理液を用いれば、純水の接触角が52°よりも大きく61°よりも小さい処理膜を形成することができる。
第3移動ノズル11は、スピンチャック5に保持された基板Wの上面に向けてアンモニア水等の剥離液を連続流で供給(吐出)する剥離液ノズル(剥離液供給ユニット)の一例である。剥離液は、除去対象物を保持している状態の処理膜を、基板Wの上面から剥離するための液体である。
【0066】
第3移動ノズル11は、第3ノズル移動ユニット37によって、水平方向および鉛直方向に移動される。第3移動ノズル11は、水平方向において、中心位置と、ホーム位置(退避位置)との間で移動することができる。
第3移動ノズル11は、中心位置に位置するとき、基板Wの上面の中央領域に対向する。第3移動ノズル11は、ホーム位置に位置するとき、基板Wの上面には対向せず、平面視において、処理カップ7の外方に位置する。第3移動ノズル11は、鉛直方向への移動によって、基板Wの上面に接近したり、基板Wの上面から上方に退避したりできる。
【0067】
第3ノズル移動ユニット37は、第1ノズル移動ユニット35と同様の構成を有している。すなわち、第3ノズル移動ユニット37は、第3移動ノズル11に結合されて水平に延びるアーム(図示せず)と、アームに結合され鉛直方向に沿って延びる回動軸(図示せず)と、回動軸を昇降させたり回動させたりする回動軸駆動ユニット(図示せず)とを含んでいてもよい。
【0068】
第3移動ノズル11は、第3移動ノズル11に剥離液を案内する上側剥離液配管45に接続されている。上側剥離液配管45に介装された上側剥離液バルブ55が開かれると、剥離液が、第3移動ノズル11の吐出口から下方に連続流で吐出される。第3移動ノズル11が中央位置に位置するときに上側剥離液バルブ55が開かれると、剥離液が基板Wの上面の中央領域に供給される。
【0069】
剥離液としては、処理液に含有されている低溶解性成分よりも処理液に含有されている高溶解性成分を溶解させやすい液体が用いられる。剥離液は、たとえば、アンモニア水であり、剥離液中のアンモニアの質量パーセント濃度が0.4%である。
剥離液は、たとえば、アンモニア水以外のアルカリ性水溶液(アルカリ性液体)であってもよい。アンモニア水以外のアルカリ性水溶液の具体例としては、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)水溶液、および、コリン水溶液、ならびにこれらのいずれかの組合せが挙げられる。剥離液は、純水(好ましくはDIW)であってもよいし、中性または酸性の水溶液(非アルカリ性水溶液)であってもよい。
【0070】
剥離液は、アルカリ性であることが好ましい。剥離液のpHは7~13であることが好ましい。詳しくは、剥離液のpHは、8~13であることが好ましく、10~13であることがより好ましく、11~12.5であることがよりさらに好ましい。pHの測定は、空気中の炭酸ガスの溶解による影響を避けるために、脱ガスした後に行うことが好ましい。
【0071】
剥離液の溶媒の大部分は純水である。剥離液の溶媒に占める純水の割合が50~100質量%(好ましくは70質量%~100質量%、より好ましくは90質量%~100質量%、さらに好ましくは95質量%~100質量%、よりさらに好ましくは99~100質量%)である。「質量%」とは、液体の全体の質量に対する或る成分の質量の割合である。剥離液の溶質の質量パーセント濃度は0.1%~10%(好ましくは0.2%~8%、さらに好ましくは0.3%~6%)である。
【0072】
中央ノズル12は、対向部材6の中空軸60の内部空間60aに収容されている。中央ノズル12の先端に設けられた吐出口12aは、連通孔6bから露出しており、基板Wの上面の中央領域に上方から対向している。
中央ノズル12は、流体を下方に吐出する複数のチューブ(第1チューブ31、第2チューブ32および第3チューブ33)と、複数のチューブを取り囲む筒状のケーシング30とを含む。複数のチューブおよびケーシング30は、回転軸線A1に沿って上下方向に延びている。中央ノズル12の吐出口12aは、第1チューブ31の吐出口でもあり、第2チューブ32の吐出口でもあり、第3チューブ33の吐出口でもある。
【0073】
第1チューブ31(中央ノズル12)は、DIW等のリンス液を基板Wの上面に供給するリンス液供給ユニットの一例である。第2チューブ32(中央ノズル12)は、IPA等の有機溶剤を基板Wの上面に供給する有機溶剤供給ユニットの一例である。第3チューブ33(中央ノズル12)は、窒素ガス(N)等の気体を基板Wの上面と対向部材6の対向面6aとの間に供給する気体供給ユニットの一例である。中央ノズル12は、リンス液ノズルでもあり、有機溶剤ノズルでもあり、気体ノズルでもある。
【0074】
第1チューブ31は、リンス液を第1チューブ31に案内する上側リンス液配管41に接続されている。上側リンス液配管41に介装された上側リンス液バルブ51が開かれると、リンス液が、第1チューブ31(中央ノズル12)から基板Wの上面の中央領域に向けて連続流で吐出される。
リンス液は、基板Wの表面に付着した液体を洗い流す液体である。リンス液としては、DIW、炭酸水、電解イオン水、希釈濃度(たとえば、1ppm~100ppm程度)の塩酸水、希釈濃度(たとえば、1ppm~100ppm程度)のアンモニア水、還元水(水素水)等が挙げられる。
【0075】
第2チューブ32は、IPA等の有機溶剤を第2チューブ32に案内する有機溶剤配管42に接続されている。有機溶剤配管42に介装された有機溶剤バルブ52が開かれると、有機溶剤が、第2チューブ32(中央ノズル12)から基板Wの上面の中央領域に向けて連続流で吐出される。
第2チューブ32から吐出される有機溶剤は、リンス液および処理液と相溶性を有することが好ましい。第2チューブ32から吐出される有機溶剤は、剥離液によって基板Wの上面から剥離されて排除された後に基板Wの上面に残る処理膜の残渣を溶解して除去するための残渣除去液として機能する。そのため、残渣除去液は、残渣溶解液ともいう。
【0076】
後述する基板処理では、第2チューブ32から吐出される有機溶剤は、リンス液の液膜で覆われた基板Wの上面に供給され、有機溶剤の液膜で覆われた基板Wの上面に処理液が供給される。リンス液の液膜で覆われた基板Wの上面に有機溶剤が供給されると、基板W上の殆どのリンス液は、有機溶剤によって押し流され、基板Wから排出される。残りの微量のリンス液は、有機溶剤に溶け込み、有機溶剤中に拡散する。拡散したリンス液は、有機溶剤と共に基板Wから排出される。したがって、基板W上のリンス液を効率的に有機溶剤に置換できる。同様の理由により、基板W上の有機溶剤を効率的に処理液に置換できる。これにより、基板W上の処理液に含まれるリンス液を減らすことができる。第2チューブ32から吐出される有機溶剤は、リンス液を置換する置換液として機能する。
【0077】
また、第2チューブ32から吐出される有機溶剤は、表面張力がリンス液よりも低い低表面張力液体であることが好ましい。後述する基板処理では、基板W上のリンス液が振り切られることによって、基板Wの上面が乾燥されるのではなく、基板W上のリンス液が有機溶剤によって置換された後に、基板W上の有機溶剤が振り切られることによって基板Wの上面が乾燥される。そのため、有機溶剤が低表面張力液体であれば、基板Wの上面が乾燥される際に、基板Wの上面に作用する表面張力を低減することができる。
【0078】
残渣除去液、低表面張力液体および置換液として機能する有機溶剤としては、IPA、HFE(ハイドロフルオロエーテル)、メタノール、エタノール、アセトン、PGEE(プロピレングリコールモノエチルエーテル)およびTrans-1,2-ジクロロエチレンのうちの少なくとも1つを含む液等が挙げられる。
残渣除去液、低表面張力液体および置換液として機能する有機溶剤は、単体成分のみからなる必要はなく、他の成分と混合した液体であってもよい。たとえば、IPAとDIWとの混合液であってもよいし、IPAとHFEとの混合液であってもよい。
【0079】
第3チューブ33は、気体を第3チューブ33に案内する気体配管43に接続されている。気体配管43に介装された気体バルブ53が開かれると、気体が、第3チューブ33(中央ノズル12)から下方に連続流で吐出される。
第3チューブ33から吐出される気体は、たとえば、窒素ガス等の不活性ガスである。第3チューブ33から吐出される気体は、空気であってもよい。不活性ガスとは、窒素ガスに限られず、基板Wの上面に対して不活性なガスのことである。不活性ガスの例としては、窒素ガスの他に、アルゴン等の希ガス類が挙げられる。
【0080】
下面ノズル13は、スピンベース21の上面中央部で開口する貫通孔21aに挿入されている。下面ノズル13の吐出口13aは、スピンベース21の上面から露出されている。下面ノズル13の吐出口13aは、基板Wの下面(下側の表面)の中央領域に下方から対向する。基板Wの下面の中央領域とは、基板Wの下面において基板Wの回転中心を含む領域のことである。
【0081】
下面ノズル13には、リンス液、剥離液、および熱媒を下面ノズル13に共通に案内する共通配管80の一端が接続されている。共通配管80の他端には、共通配管80にリンス液を案内する下側リンス液配管81と、共通配管80に剥離液を案内する下側剥離液配管82と、共通配管80に熱媒を案内する熱媒配管83とが接続されている。
下側リンス液配管81に介装された下側リンス液バルブ86が開かれると、リンス液が、下面ノズル13から基板Wの下面の中央領域に向けて連続流で吐出される。下側剥離液配管82に介装された下側剥離液バルブ87が開かれると、剥離液が、下面ノズル13から基板Wの下面の中央領域に向けて連続流で吐出される。熱媒配管83に介装された熱媒バルブ88が開かれると、熱媒が、下面ノズル13から基板Wの下面の中央領域に向けて連続流で吐出される。
【0082】
下面ノズル13は、基板Wの下面にリンス液を供給する下側リンス液供給ユニットの一例である。また、下面ノズル13は、基板Wの下面に剥離液を供給する下側剥離液供給ユニットの一例である。また、下面ノズル13は、基板Wを加熱するための熱媒を基板Wに供給する熱媒供給ユニットの一例である。下面ノズル13は、基板Wを加熱する基板加熱ユニットの一例でもある。
【0083】
下面ノズル13から吐出されるリンス液は、中央ノズル12から吐出されるリンス液と同様であるため、記載を省略する。下面ノズル13から吐出される剥離液は、第3移動ノズル11から吐出される剥離液と同様であるため、記載を省略する。
下面ノズル13から吐出される熱媒は、たとえば、室温よりも高く、処理液に含まれる溶媒の沸点よりも低い温度の高温DIWである。処理液に含まれる溶媒がIPAである場合、熱媒としては、たとえば、60℃~80℃のDIWが用いられる。下面ノズル13から吐出される熱媒は、高温DIWには限られず、室温よりも高く、処理液に含有される溶媒の沸点よりも低い温度の高温不活性ガスや高温空気等の高温気体であってもよい。
【0084】
図5は、基板処理装置1の主要部の電気的構成を示すブロック図である。コントローラ3は、マイクロコンピュータを備え、所定の制御プログラムに従って基板処理装置1に備えられた制御対象を制御する。
具体的には、コントローラ3は、プロセッサ(CPU)3Aと、制御プログラムが格納されたメモリ3Bとを含む。コントローラ3は、プロセッサ3Aが制御プログラムを実行することによって、基板処理のための様々な制御を実行するように構成されている。
【0085】
とくに、コントローラ3は、搬送ロボットIR,CR、スピンモータ23、第1ノズル移動ユニット35、第2ノズル移動ユニット36、第3ノズル移動ユニット37、対向部材昇降ユニット61、対向部材回転ユニット62、ガード昇降ユニット74、親水化液バルブ50、上側リンス液バルブ51、有機溶剤バルブ52、気体バルブ53、処理液バルブ54、上側剥離液バルブ55、下側リンス液バルブ86、下側剥離液バルブ87および熱媒バルブ88を制御するようにプログラムされている。コントローラ3によってバルブが制御されることによって、対応するノズルからの処理流体の吐出の有無や、対応するノズルからの処理流体の吐出流量が制御される。
【0086】
<処理対象となる基板の構成>
図6は、基板処理装置1の処理対象となる基板Wの表層の詳細の一例を示している。基板Wの表層150には、半導体層151と、絶縁層152と、バリア層153とが設けられている。半導体層151は、たとえば、Si(シリコン)によって形成されている。半導体層151の表層部には、不純物領域154が形成されている。
【0087】
絶縁層152は、たとえば、SiO(酸化シリコン)によって形成されている。不純物領域154の上方には、絶縁層152を貫通するコンタクト孔155が設けられている。
バリア層153は、絶縁層152の上面およびコンタクト孔155の内面に形成されている。バリア層153は、TiN(窒化チタン)によって形成されたTiN層であり、ALD(原子層堆積)法等によって成膜されている。そのため、基板Wの表面には、TiNが露出されている。
【0088】
絶縁層152にコンタクト孔155が等間隔で設けられており、絶縁層152およびコンタクト孔155によって微細な凹凸パターンが形成されていてもよい。この場合、バリア層153は、凹凸パターンに倣う形状を有している。
図7は、基板処理装置1の処理対象となる基板Wの表層の詳細の別の例を示している。基板処理装置1の処理対象となる基板Wの表層150には、図7に示すように、基板Wの表層150には、半導体層151、絶縁層152、およびバリア層153に加えて、金属層156が設けられていてもよい。金属層156は、たとえば、W(タングステン)によって形成されたタングステン層であり、CVD(化学気相成長)法等によって成膜されている。金属層156は、コンタクト孔155を埋め、かつ、バリア層153を覆っている。そのため、金属層156の表面は、平坦面である。図7に示す基板Wの表面には、金属層156を構成する金属が露出されている。金属層156がタングステンによって形成されている場合、基板Wの表面には、タングステンが露出される。
【0089】
<基板処理装置による基板処理>
図8は、基板処理装置1による基板処理の一例を説明するための流れ図である。図8は、主として、コントローラ3がプログラムを実行することによって実現される処理が示されている。図9A図9Iは、基板処理の各工程の様子を説明するための模式図である。
基板処理装置1による基板処理では、たとえば、図8に示すように、基板搬入工程(ステップS1)、親水化工程(ステップS2)、第1リンス工程(ステップS3)、置換工程(ステップS4)、処理液供給工程(ステップS5)、処理膜形成工程(ステップS6)、剥離工程(ステップS7)、第2リンス工程(ステップS8)、残渣除去工程(ステップS9)、スピンドライ工程(ステップS10)および基板搬出工程(ステップS11)がこの順番で実行される。
【0090】
以下では、主に図2および図8を参照する。図9A図9Iについては適宜参照する。
まず、未処理の基板Wは、搬送ロボットIR,CR(図1参照)によってキャリヤCから処理ユニット2に搬入され、スピンチャック5に渡される(ステップS1)。これにより、基板Wは、スピンチャック5によって水平に保持される(基板保持工程)。基板Wの搬入時には、対向部材6は、上位置に退避している。
【0091】
スピンチャック5による基板Wの保持は、スピンドライ工程(ステップS10)が終了するまで継続される。基板保持工程が開始されてからスピンドライ工程(ステップS10)が終了するまでの間、ガード昇降ユニット74は、少なくとも一つのガード71が上位置に位置するように、第1ガード71Aおよび第2ガード71Bの高さ位置を調整する。
基板Wがスピンチャック5に保持された状態で、スピンモータ23が、スピンベース21を回転させる。これにより、水平に保持された基板Wの回転が開始される(基板回転工程)。対向部材回転ユニット62は、対向部材6を、スピンベース21と同期回転させてもよい。同期回転とは、スピンベース21と同じ回転方向に同じ回転速度で対向部材6を回転させることである。
【0092】
次に、搬送ロボットCRが処理ユニット2外に退避した後、親水化工程(ステップS2)が開始される。親水化工程では、まず、対向部材6が退避位置に位置する状態で、第1ノズル移動ユニット35が、第1移動ノズル9を処理位置に移動させる。第1移動ノズル9の処理位置は、たとえば、中央位置である。対向部材6が退避位置に位置するとき、各移動ノズルが対向部材6と基板Wとの間を水平移動できる。退避位置は、上位置であってもよい。
【0093】
そして、親水化液バルブ50が開かれる。これにより、図9Aに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第1移動ノズル9からフッ酸等の親水化液が供給(吐出)される(親水化液供給工程、親水化液吐出工程)。基板Wの上面に供給された親水化液は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの上面の全体に行き渡る。これにより、基板Wの上面が親水化されて、基板Wの上面に対する純水の接触角が41.7°よりも小さくなる(接触角低減工程)。
【0094】
第1移動ノズル9からの親水化液の供給は、所定時間、たとえば、30秒の間継続される。親水化工程において、基板Wは、所定の親水化回転速度、たとえば、800rpmで回転される。
次に、基板W上の親水化液を洗い流す第1リンス工程(ステップS3)が実行される。
具体的には、親水化液バルブ50が閉じられる。これにより、基板Wに対する親水化液の供給が停止される。そして、第1ノズル移動ユニット35が第1移動ノズル9をホーム位置に移動させる。そして、対向部材昇降ユニット61が対向部材6を上位置と下位置との間の処理位置に移動させる。対向部材6が処理位置に位置するとき、基板Wの上面と対向面6aとの間の距離は、たとえば、30mmである。
【0095】
対向部材6が処理位置に位置する状態で、上側リンス液バルブ51が開かれる。これにより、図9Bに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、中央ノズル12からリンス液が供給(吐出)される。中央ノズル12から基板Wの上面に供給されたリンス液は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの上面の全体に行き渡る。これにより、基板Wの上面の親水化液が基板W外に洗い流される。
【0096】
上側リンス液バルブ51が開かれるのとほぼ同時に、下側リンス液バルブ86が開かれる。これにより、図9Bに示すように、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル13からリンス液が供給(吐出)される。下面ノズル13から基板Wの下面に供給されたリンス液は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの下面の全体に行き渡る。前述した親水化工程において基板Wの上面に着液した親水化液が基板Wから跳ねて基板Wの下面に付着した場合であっても、下面ノズル13から供給されたリンス液によって、下面に付着した親水化液が洗い流される。
【0097】
中央ノズル12および下面ノズル13からのリンス液の吐出は、所定時間、たとえば、30秒間継続される。第1リンス工程において、基板Wは、所定の第1リンス回転速度、たとえば、800rpmで回転される。
次に、置換工程(ステップS4)が開始される。置換工程では、基板W上のリンス液が置換液としての有機溶剤(たとえば、IPA)によって置換される。
【0098】
具体的には、上側リンス液バルブ51および下側リンス液バルブ86が閉じられる。これにより、基板Wの上面および下面に対するリンス液の供給が停止される。対向部材6は、処理位置に維持される。
対向部材6が処理位置に維持された状態で、有機溶剤バルブ52が開かれる。これにより、図9Cに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、中央ノズル12から置換液としての有機溶剤が供給(吐出)される(置換液供給工程、置換液吐出工程)。中央ノズル12は、置換液ノズルの一例である。
【0099】
中央ノズル12から基板Wの上面に供給された有機溶剤は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの上面の全体に行き渡る。これにより、基板W上のリンス液が有機溶剤によって置換される。
置換工程において、中央ノズル12からの有機溶剤の吐出は、所定時間、たとえば、10秒間継続される。置換工程において、基板Wは、所定の置換回転速度で、たとえば、300rpm~1500rpmで回転される。基板Wは、置換工程において一定の回転速度で回転する必要はない。たとえば、スピンモータ23は、有機溶剤の供給開始時に基板Wを300rpmで回転させ、基板Wに有機溶剤を供給しながら基板Wの回転速度が1500rpmになるまで基板Wの回転を加速させてもよい。
【0100】
次に、基板Wの上面に処理液を供給する処理液供給工程(ステップS5)が実行される。具体的には、有機溶剤バルブ52が閉じられ、対向部材昇降ユニット61が対向部材6を退避位置に移動させる。対向部材6が退避位置に位置する状態で、第2ノズル移動ユニット36が、第2移動ノズル10を処理位置に移動させる。第2移動ノズル10の処理位置は、たとえば、中央位置である。そして、処理液バルブ54が開かれる。これにより、図9Dに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第2移動ノズル10から処理液が供給(吐出)される(処理液供給工程、処理液吐出工程)。基板Wの上面に供給された処理液は、遠心力によって、基板Wの全体に広がる。これにより、基板W上に処理液の液膜101(処理液膜)が形成される(処理液膜形成工程)。
【0101】
第2移動ノズル10からの処理液の供給は、所定時間、たとえば、2秒~4秒の間継続される。処理液供給工程において、基板Wは、所定の処理液回転速度、たとえば、10rpm~1500rpmで回転される。
次に、図9Eおよび図9Fに示す処理膜形成工程(ステップS8)が実行される。処理膜形成工程では、基板W上の処理液が固化または硬化されて、基板W上に存在する除去対象物を保持する処理膜100(図9Fを参照)が基板Wの上面に形成される。
【0102】
処理膜形成工程では、まず、基板W上の処理液の液膜101の厚さを薄くする処理液薄膜化工程(処理液スピンオフ工程)が実行される。具体的には、処理液バルブ54が閉じられる。これにより、基板Wに対する処理液の供給が停止される。そして、第2ノズル移動ユニット36によって第2移動ノズル10がホーム位置に移動される。
図9Eに示すように、処理液薄膜化工程では、基板Wの上面への処理液の供給が停止された状態で基板Wが回転するため、基板Wの上面から処理液の一部が排除される。これにより、基板W上の液膜101の厚さが適切な厚さになる。第2移動ノズル10がホーム位置に移動した後も、対向部材6は、退避位置に維持される。
【0103】
処理液薄膜化工程では、スピンモータ23が、基板Wの回転速度を所定の処理液薄膜化速度に変更する。処理液薄膜化速度は、たとえば、300rpm~1500rpmである。基板Wの回転速度は、300rpm~1500rpmの範囲内で一定に保たれてもよいし、処理液薄膜化工程の途中で300rpm~1500rpmの範囲内で適宜変更されてもよい。処理液薄膜化工程は、所定時間、たとえば、30秒間実行される。
【0104】
処理膜形成工程では、処理液薄膜化工程後に、処理液の液膜101から溶媒の一部を蒸発(揮発)させる処理液溶媒蒸発工程が実行される。処理液溶媒蒸発工程では、基板W上の処理液の溶媒の一部を蒸発させるために、基板W上の液膜101を加熱する。
具体的には、図9Fに示すように、対向部材昇降ユニット61が、対向部材6を、近接位置に移動させる。近接位置は、下位置であってもよい。近接位置は、基板Wの上面から対向面6aまでの距離がたとえば1mmの位置である。
【0105】
そして、気体バルブ53が開かれる。これにより、基板Wの上面(液膜101の上面)と、対向部材6の対向面6aとの間の空間に気体が供給される(気体供給工程)。
基板W上の液膜101に気体が吹き付けられることによって、液膜101中の溶媒の蒸発(揮発)が促進される(処理液溶媒蒸発工程、処理液溶媒蒸発促進工程)。そのため、処理膜100の形成に必要な時間を短縮することができる。処理膜形成工程において、中央ノズル12は、処理液中の溶媒を蒸発させる蒸発ユニット(蒸発促進ユニット)として機能する。
【0106】
液膜101処理液薄膜化工程によって処理液の一部が基板Wから排除された後も、対向部材6および基板Wの回転は継続される。そのため、対向部材6および基板Wの回転に起因する遠心力が中央ノズル12から吐出される気体に作用する。遠心力の作用により、当該気体が基板Wの中心側から周縁側に向かう気流が形成される。そのため、液膜101に接する気体状態の溶媒が対向部材6と基板Wとの間の空間からの排除が促進される。これにより、液膜101中の溶媒の蒸発が促進される。このように、対向部材6およびスピンモータ23は、処理液中の溶媒を蒸発(揮発)させる蒸発ユニット(蒸発促進ユニット)として機能する。対向部材6が回転しておらず、基板Wのみが回転していてもよい。
【0107】
また、熱媒バルブ88が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル13から熱媒が供給(吐出)される(熱媒供給工程、熱媒吐出工程)。下面ノズル13から基板Wの下面に供給された熱媒は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの下面の全体に行き渡る。
基板Wに対する熱媒の供給は、所定時間、たとえば、60秒間継続される。処理液溶媒蒸発工程において、基板Wは、所定の蒸発回転速度、たとえば、1000rpmで回転される
基板Wの下面に熱媒が供給されることによって、基板Wを介して、基板W上の液膜101が加熱される。これにより、液膜101中の溶媒の蒸発(揮発)が促進される(処理液溶媒蒸発工程、処理液溶媒蒸発促進工程)。そのため、処理膜100の形成に必要な時間を短縮することができる。処理膜形成工程においても、下面ノズル13は、処理液中の溶媒を蒸発(揮発)させる蒸発ユニット(蒸発促進ユニット)として機能する。
【0108】
処理液薄膜化工程および処理液溶媒蒸発工程が実行されることによって、処理液が固化または硬化される。これにより、除去対象物を保持する処理膜100が基板Wの上面全体に形成される。
このように、基板回転ユニット(スピンモータ23)、対向部材回転ユニット62、中央ノズル12および下面ノズル13は、処理液を固化または硬化させて固形の処理膜100を形成する処理膜形成ユニットを構成している。
【0109】
気体の吹き付け、基板Wの回転、および基板Wの加熱を利用すれば処理膜100を速やかに形成することができるが、気体の吹き付けおよび基板Wの回転によって処理膜100を形成することも可能である。つまり、処理膜100の形成には、熱媒による加熱は必ずしも必要ではない。そのため、基板Wへの熱媒の供給は、省略することが可能である。
処理液溶媒蒸発工程では、基板Wの温度が溶媒の沸点未満となるように、基板Wが加熱されることが好ましい。基板Wを溶媒の沸点未満の温度に加熱することにより、溶媒が蒸発し尽されることを抑制でき、処理膜100中に溶媒を適度に残留させることができる。これにより、処理膜100内に溶媒が残留していない場合と比較して、その後の剥離工程(ステップS6)において、剥離液を処理膜100に作用させやすい。
【0110】
次に、処理膜100を剥離する剥離工程(ステップS6)が実行される。具体的には、熱媒バルブ88が閉じられる。これにより、基板Wの下面に対する熱媒の供給が停止される。また、気体バルブ53が閉じられる。これにより、対向部材6の対向面6aと基板Wの上面との間の空間への気体の供給が停止される。
そして、対向部材昇降ユニット61が対向部材6を退避位置に移動させる。対向部材6が退避位置に位置する状態で、第3ノズル移動ユニット37が、第3移動ノズル11を処理位置に移動させる。第3移動ノズル11の処理位置は、たとえば、中央位置である。
【0111】
そして、第3移動ノズル11が処理位置に位置する状態で、上側剥離液バルブ55が開かれる。これにより、図9Gに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第3移動ノズル11から剥離液が供給(吐出)される(上側剥離液供給工程、上側剥離液吐出工程)。基板Wの上面に供給された剥離液は、遠心力により、基板Wの上面の全体に広がる。これにより、基板Wの上面の処理膜100が剥離され、剥離液とともに基板W外に排出される。
【0112】
上側剥離液バルブ55が開かれると同時に、下側剥離液バルブ87が開かれる。これにより、図9Gに示すように、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル13から剥離液が供給(吐出)される(下側剥離液供給工程、下側剥離液吐出工程)。基板Wの下面に供給された剥離液は、遠心力により、基板Wの下面の全体に広がる。
基板Wの上面および下面に対する剥離液の供給は、所定時間、たとえば、60秒間継続される。剥離工程において、基板Wは、所定の剥離回転速度、たとえば、800rpmで回転される。
【0113】
ここで、図9Dに示す処理液供給工程(ステップS5)で基板Wの上面に供給された処理液は、基板Wの周縁を伝って基板Wの下面に付着し、基板Wの下面に付着した処理液が固化または硬化して固体を形成することがある。
図9Gに示すように、剥離工程(ステップS6)において基板Wの上面に剥離液が供給されている間、下面ノズル13から基板Wの下面に剥離液が供給(吐出)される。そのため、基板Wの下面に処理液の固体が形成された場合であっても、その固体を基板Wの下面から剥離し除去することができる。
【0114】
剥離工程(ステップS6)の後、リンス液によって基板Wから剥離液を洗い流す第2リンス工程(ステップS7)が実行される。具体的には、上側剥離液バルブ55および下側剥離液バルブ87が閉じられる。これにより、基板Wの上面および下面に対する剥離液の供給が停止される。そして、第3ノズル移動ユニット37が、第3移動ノズル11をホーム位置に移動させる。そして、図9Hに示すように、対向部材昇降ユニット61が、対向部材6を処理位置に移動させる。
【0115】
そして、対向部材6が処理位置に位置する状態で、上側リンス液バルブ51が開かれる。これにより、図9Hに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、中央ノズル12からリンス液が供給(吐出)される(上側リンス液供給工程、上側リンス液吐出工程)。基板Wの上面に供給されたリンス液は、遠心力により、基板Wの上面の全体に広がる。これにより、基板Wの上面に付着していた剥離液がリンス液で洗い流される(リンス工程)。
【0116】
また、上側リンス液バルブ51が開かれると同時に、下側リンス液バルブ86が開かれる。これにより、図9Hに示すように、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル13からリンス液が供給(吐出)される(下側リンス液供給工程、下側リンス液吐出工程)。これにより、基板Wの下面に付着していた剥離液がリンス液で洗い流される。
【0117】
基板Wの上面および下面へのリンス液の供給は、所定時間、たとえば、30秒間継続される。第2リンス工程において、基板Wは、所定の第2リンス回転速度、たとえば、800rpmで回転される。
次に、残渣除去工程(ステップS8)が実行される。残渣除去工程では、剥離工程後に基板Wの上面に残る処理膜100の残渣が、残渣除去液としての有機溶剤(たとえば、IPA)によって除去される。具体的には、上側リンス液バルブ51および下側リンス液バルブ86が閉じられる。これにより、基板Wの上面および下面に対するリンス液の供給が停止される。
【0118】
そして、対向部材6が処理位置に位置する状態で、有機溶剤バルブ52が開かれる。これにより、図9Iに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、中央ノズル12から残渣除去液としての有機溶剤が供給(吐出)される(残渣除去液供給工程、残渣除去液吐出工程)。
中央ノズル12から基板Wの上面に供給された有機溶剤は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの上面の全体に行き渡る。有機溶剤は、基板Wの上面に残る処理膜の残渣を溶解した後、基板Wの上面の周縁から排出される。中央ノズル12は、残渣除去液ノズルの一例である。
【0119】
残渣除去工程において、中央ノズル12からの有機溶剤の吐出は、所定時間、たとえば、30秒間継続される。残渣除去工程において、基板Wは、所定の残渣除去回転速度、たとえば、300rpmで回転される。
次に、基板Wを高速回転させて基板Wの上面を乾燥させるスピンドライ工程(ステップS10)が実行される。
【0120】
具体的には、有機溶剤バルブ52が閉じられる。これにより、基板Wの上面への有機溶剤の供給が停止される。そして、対向部材昇降ユニット61が、対向部材6を処理位置よりも下方の乾燥位置に移動させる。対向部材6が乾燥位置に位置するとき、対向部材6の対向面6aと基板Wの上面との間の距離は、たとえば、1.5mmである。そして、気体バルブ53が開かれる。これにより、基板Wの上面と、対向部材6の対向面6aとの間の空間に気体が供給される。
【0121】
そして、スピンモータ23が基板Wの回転を加速し、基板Wを高速回転させる。スピンドライ工程における基板Wは、乾燥速度、たとえば、1500rpmで回転される。スピンドライ工程は、所定時間、たとえば、30秒間の間実行される。それによって、大きな遠心力が基板W上の有機溶剤に作用し、基板W上の有機溶剤が基板Wの周囲に振り切られる。スピンドライ工程では、基板Wの上面と、対向部材6の対向面6aとの間の空間への気体の供給によって有機溶剤の蒸発が促進される。
【0122】
そして、スピンモータ23が基板Wの回転を停止させる。ガード昇降ユニット74が第1ガード71Aおよび第2ガード71Bを下位置に移動させる。気体バルブ53が閉じられる。そして、対向部材昇降ユニット61が対向部材6を上位置に移動させる。
搬送ロボットCRが、処理ユニット2に進入して、スピンチャック5のチャックピン20から処理済みの基板Wをすくい取って、処理ユニット2外へと搬出する(ステップS11)。その基板Wは、搬送ロボットCRから搬送ロボットIRへと渡され、搬送ロボットIRによって、キャリヤCに収納される。
【0123】
<処理膜の剥離の様子>
図10A図10Cを用いて、処理膜100の除去の様子を詳細に説明する。図10A図10Cは、処理膜100が基板Wから剥離される様子を説明するための模式図である。
処理膜100は、図10Aに示すように、基板Wの表層150に付着している除去対象物103を保持している。処理膜100は、高溶解性固体110(固体状態の高溶解性成分)と、低溶解性固体111(固体状態の低溶解性成分)とを有する。高溶解性固体110および低溶解性固体111は、処理液に含有される溶媒の少なくとも一部が蒸発することによって形成される。
【0124】
処理膜100中には、高溶解性固体110と低溶解性固体111とが混在している。厳密には、処理膜100は、高溶解性固体110と低溶解性固体111とが処理膜100の全体に均一に分布しているわけではない。処理膜100には、高溶解性固体110が偏在している部分と、低溶解性固体111が偏在している部分とが存在している。
図10Bを参照して、剥離液によって、高溶解性固体110が溶解される。すなわち、処理膜100が部分的に溶解される(溶解工程、部分溶解工程)。高溶解性固体110が溶解されることによって、処理膜100において高溶解性固体110が偏在している部分に貫通孔102が形成される(貫通孔形成工程)。
【0125】
貫通孔102は、特に、処理膜100の厚さ方向Tに高溶解性固体110が延びている部分に形成されやすい。貫通孔102は、平面視で、たとえば、直径数nmの大きさである。貫通孔102は、高溶解性固体110が溶解されることによって処理膜100に形成される隙間である。
ここで、処理膜100中に溶媒が適度に残留している場合には、剥離液は、処理膜100に残留している溶媒に溶け込みながら処理膜100を部分的に溶解する。詳しくは、剥離液が高溶解性固体110に残留している溶媒に溶け込みながら処理膜100中の高溶解性固体110を溶解して貫通孔102を形成する。そのため、処理膜100内に剥離液が進入しやすい(溶解進入工程)。
【0126】
剥離液は、貫通孔102を通って、処理膜100と基板Wとの界面に到達し、この界面に作用する。剥離液が処理膜100と基板Wとの界面に作用するとは、剥離液が基板Wに接する部分を僅かに溶解させて処理膜100を基板Wから剥離することをいう。
剥離液に対する低溶解性成分の溶解性は低く、低溶解性固体111は剥離液によって殆ど溶解されない。そのため、低溶解性固体111は、剥離液によってその表面付近が僅かに溶解されるだけである。そのため、貫通孔102を介して基板Wの上面付近まで到達した剥離液は、低溶解性固体111において基板Wの上面付近の部分を僅かに溶解させる。これにより、図10Bの拡大図に示すように、剥離液が、基板Wの上面付近の低溶解性固体111を徐々に溶解させながら、処理膜100と基板Wの上面との間の隙間G1に進入していく(剥離液進入工程)。
【0127】
そして、たとえば、貫通孔102の周縁を起点として処理膜100が分裂して膜片105となり、図10Cに示すように、処理膜100の膜片105が除去対象物103を保持している状態で基板Wから剥離される(処理膜分裂工程、処理膜剥離工程)。
そして、処理膜剥離液の供給を継続することによって、膜片105となった処理膜100が、除去対象物103を保持している状態で、剥離液によって洗い流される。言い換えると、除去対象物103を保持する膜片105が基板W外に押し出されて基板Wの上面から除去される(処理膜除去工程、除去対象物除去工程)。これにより、基板Wの上面を良好に洗浄することができる。
【0128】
<実施形態のまとめ>
剥離液が基板Wから処理膜100を剥離させる剥離作用の強さ(剥離力)は、基板Wの上面の表面状態によって変化する。具体的には、基板Wの上面の親水性が高いほど、剥離液によって処理膜100が剥離されやすい。より具体的には、基板Wの上面の親水性が高いほど、基板Wに対する剥離液の濡れ性(親和性)が高く、剥離液が基板Wと処理膜100との間に進入しやすい。すなわち、基板Wの上面の親水性が高いほど、基板Wの上面から処理膜100を剥離しやすくなる。
【0129】
本実施形態によれば、親水化された基板Wの上面に処理膜100を形成し、剥離液によって処理膜100が剥離される。そのため、処理膜100を基板Wから効果的に剥離することができる。
処理膜100が剥離される際、剥離液によって処理膜100に貫通孔102が形成される。そのため、貫通孔102を介して処理膜100と基板Wとの界面に剥離液を到達させることができる。これにより、処理膜100において貫通孔102を取り囲む部分と基板Wの上面との間に剥離液を進入させることができる。したがって、処理膜100に貫通孔102を形成せずに剥離液に処理膜100内に浸透させて処理膜100と基板Wとの界面に剥離液を到達させる構成と比較して、処理膜100と基板Wとの界面に剥離液を速やかに作用させることができる。処理膜100は、貫通孔102の形成のために部分的に剥離液によって溶解されるものの、残りの部分は、固体状態で維持される。したがって、除去対象物103を保持している状態の処理膜100を基板Wの上面から効果的に剥離することができる。
【0130】
このように、剥離液を処理膜100と基板Wとの界面に速やかに作用させつつ、大部分の処理膜100を固体状態に維持できるため、除去対象物103を保持している状態の処理膜100を基板Wから効果的に剥離することができる。
本実施形態によれば、剥離液に対する高溶解性成分の溶解性は、剥離液に対する低溶解性成分の溶解性よりも高い。そのため、高溶解性固体110は、低溶解性固体111よりも剥離液に溶解しやすい。
【0131】
そのため、基板Wの上面に剥離液を供給して高溶解性固体110を剥離液に溶解させることによって、処理膜100中に貫通孔102が形成される。その一方で、低溶解性固体111は、剥離液に溶解されずに固体状態で維持される。
したがって、高溶解性固体110を剥離液に溶解させつつ、低溶解性固体111を剥離液に溶解させずに固体状態に維持することができる。そのため、剥離液は、高溶解性固体110の溶解によって形成される貫通孔102を通って、基板Wと低溶解性固体111との界面に到達する。
【0132】
したがって、低溶解性固体111で除去対象物103を保持しながら、低溶解性固体111と基板Wとの界面に剥離液を作用させることができる。その結果、処理膜100を基板Wから速やかに剥離しつつ、処理膜100とともに除去対象物103を基板Wから効率良く除去することができる。
また、本実施形態によれば、処理膜100中に含まれる低溶解性固体111を剥離液に僅かに溶解させながら、基板Wと処理膜100との間に剥離液を効果的に進入させることができる。そのため、処理膜100を効果的に剥離することができる。
【0133】
本実施形態によれば、基板Wの上面に親水化液を供給することによって、基板Wの上面が親水化される。基板Wの上面に親水化液を供給することによって、基板Wの上面で親水化液が広がり、基板Wの上面の全体に親水化液を行き渡らせることができる。そのため、基板Wの上面の全体を満遍なく親水化することができる。基板Wの上面の全体が親水化されているので、その後の剥離工程において、基板Wの上面の全体において処理膜100と基板Wとの界面に剥離液が作用しやすい。したがって、処理膜100を基板Wの上面の全体からむらなく剥離することができる。
【0134】
本実施形態によれば、基板Wの上面に対する純水の接触角が41.7°よりも小さくなるように、基板Wの上面が親水化されている。そのため、剥離液を基板Wと処理膜100との界面に充分に作用させることができる。これにより、除去対象物103を保持している状態の処理膜100を基板Wから効果的に剥離することができる。
本実施形態によれば、処理膜100に対する純水の接触角が52°よりも大きく61°よりも小さい。処理膜100に対する純粋の接触角がこの範囲であれば、剥離液と処理膜100との親和性が充分に高い。そのため、基板Wと処理膜100との間に剥離液を充分に進入させて処理膜100を基板Wから効果的に剥離することができる。
【0135】
本実施形態によれば、Si、SiN、SiO、SiGe、Ge、SiCN、W、TiN、Co、Cu、Ruおよびアモルファスカーボンのうちの少なくともいずれかが基板Wの上面から露出しているため、親水化工程によって基板Wの上面を親水化することができる。たとえば、基板Wの表層150がTiN層(バリア層153)を含んでいる場合に、親水化液として酸化液を用いると、TiN層の表面に酸化膜171を形成することによって、基板Wの上面を親水化することができる。このように基板Wの上面を予め親水化さておくことで、基板Wから処理膜100を効果的に剥離できる。
【0136】
<基板処理の別の例>
図11は、基板処理装置1による基板処理の別の例を説明するための流れ図である。図11に示す基板処理が、図8に示す基板処理と異なる点は、第1リンス工程(ステップS3)および置換工程(ステップS4)が省略されている点である。親水化工程で用いられる親水化液が、処理液と相溶性を有する液体であれば、図11に示すように、第1リンス工程(ステップS3)および置換工程(ステップS4)を省略することが可能である。親水化液が、処理液に含有される溶媒と同じ液体であることが好ましい。同じ液体とは、同じ物質によって構成されていることをいう。処理液と相溶性を有する親水化液の例としては、IPA等の有機溶剤が挙げられる。
【0137】
<処理膜剥離実験>
以下では、基板に対する純水の接触角と処理膜の剥離の可否との関係性を調べるために行った処理膜剥離実験の結果について説明する。図12Aは、実験用基板200の表面に対する純水の接触角を測定する手順を説明するための模式図である。図12Bは、実験用基板200からの処理膜の剥離の手順について説明するための模式図である。
【0138】
この実験では、実験用基板200として、Si(ベアシリコン:Bare-Si)、SiN、SiO、W、TiN、Co、Cu、Ruおよびアモルファスカーボン(a-C)のうちのいずれかが表面から露出している基板を用い、親水化液として、塩酸、SC1、フッ酸、SPMおよびIPAのいずれかを用いた。
この実験に用いられた実験用基板200は、平面視で一辺の長さが3cmの正方形状の小片基板である。
【0139】
この実験に用いられた塩酸中の塩化水素の質量パーセント濃度は0.4%である。この実験に用いられたSC1は、アンモニアの質量パーセント濃度が0.4%のアンモニア水と、過酸化水素の質量パーセント濃度が3.5%の過酸化水素水との混合液である。
この実験に用いられたフッ酸中のフッ化水素の質量パーセント濃度は、0.5%である。この実験に用いられたSPMは、硫酸の質量パーセント濃度が64.0%の加熱希硫酸と、過酸化水素の質量パーセント濃度が10.0%の過酸化水素水との混合液である。この実験に用いられた純水は、DIWである。
【0140】
この実験は、基板および親水化液の種々の組み合わせに対して行われた。
実験用基板200に対する純水の接触角を測定するために、図12Aに示すように、実験用基板200を、親水化液に浸漬した。その後、図示しないが、DIWを用いて実験用基板200を洗浄して親水化液を実験用基板200から除去した。親水化された実験用基板200上に純水(DIW)の液滴202を形成し、その液滴202の接触角θ1を測定した。
【0141】
そして、実験用基板200からの処理膜201の剥離の可否について調べるために、図12Bに示すように、未処理の実験用基板200を、親水化液に浸漬した。その後、図示しないが、必要に応じて実験用基板200を純水および/またはIPAによって洗浄した。さらにその後、実験用基板200に処理液を供給しながら実験用基板200を約2秒間10rpmで回転させた後、実験用基板200を30秒間1500rpmで回転させることで処理膜201を形成した。処理膜201が形成された実験用基板200を800rpmで回転させながら、実験用基板200に剥離液を供給した。処理液供給前と剥離液供給後との両方において実験用基板200の表面を観察し、処理膜の剥離可否を判定した。剥離液としては、質量パーセント濃度が0.4%であるアンモニア水を用いた。
【0142】
処理膜剥離実験において用いられる処理液は、溶質として、後述する低溶解性成分のうちから選択した少なくとも1種類の低溶解性成分と、後述する高溶解性成分のうちから選択した少なくとも1種類の高溶解性成分とを含有している。処理膜剥離実験において用いられる処理液は、後述する図14および図15を用いて説明する接触角測定実験に用いたれる処理液PL4である。
【0143】
図13は、実験用基板200の表面に対する純水の接触角θ1と、剥離液による処理膜201の可否とを示すテーブルである。図13は、処理膜剥離実験の結果をまとめたテーブルである。
図13に示すテーブルには、「基板の表面」、「親水化液」、「純水の接触角(°)」および「処理膜の剥離」の欄が示されている。
【0144】
「基板の表面」の各行には、実験用基板200の表面から露出する物質の名称が記載されている。「親水化液」の各行には、実験用基板200の親水化に用いた親水化液の物質の名称が記載されている。「親水化液」に「-」と記載されている行は、親水化を行っていない基板に対して処理膜剥離実験を行ったことを意味する。
「純水の接触角(°)」の各行には、同一行に示す親水化液を用いて親水化した実験用基板200に対する純水の接触角θ1が記載されている。
【0145】
「処理膜の剥離」の各行には、同一行に示す親水化液を用いて親水化した実験用基板200から、処理膜201が剥離液によって剥離されたか否かが記載されている。「OK」は、処理膜201が充分に剥離されたことを意味し、「NG」は処理膜201の剥離が不充分であったことを意味する。
たとえば、図13のテーブルの一行目には、SiNが表面に露出する実験用基板200をHClで親水化した後の実験用基板200に対する純水の接触角θ1が4.8°であり、この実験用基板200から剥離液によって処理膜201が充分に剥離されたことが示されている。
【0146】
図13に示すように、純水の接触角θ1が41.7°以上である場合には、処理膜201が充分に剥離されなかった。
図13に示すように、実験用基板200の表面から露出する物質が同一であっても、親水化液が異なっていれば、実験用基板200の表面に対する純水の接触角θ1は異なる。たとえば、親水化液としてHFを用いて表面からTiNが露出する実験用基板200を親水化した場合、純水の接触角θ1は15.2°であり、処理膜201の除去は充分であった。親水化液としてSC1を用いて表面からTiNが露出する実験用基板200を親水化した場合、純水の接触角θ1は28.3°であり、処理膜201の除去は充分であった。一方、親水化液としてIPAを用いて表面からTiNが露出する実験用基板200を親水化した場合、純水の接触角θ1は41.7°であり、処理膜201の除去は不充分であった。
【0147】
したがって、親水化液として酸化液を用いる場合の方が、親水化液として有機溶剤を用いる場合よりも基板の表面の親水性を高めることができることが推察される。その理由としては、以下のような理由が挙げられる。
親水化液として有機溶剤を用いた場合には、基板の表面に付着している疎水性の有機物が有機溶剤に溶解されて基板の表面が親水化される。基板の表面に付着している有機物の種類等によっては、有機溶剤に溶解されないものも存在する。そのため、全ての有機物が除去されるわけではない。
【0148】
一方、親水化液として酸化液を用いる場合には、基板の表面付近の部分が酸化されて基板の表面に酸化膜が形成される。そのため、基板の表面に付着している有機物の種類等にかかわらず、基板の表面の親水性を効率良く高めることができる。
なお、親水化を行っていない場合、表面からTiNが露出する実験用基板200に対する純水の接触角が59.6°であった。したがって、IPA、HF、およびSC1のいずれの親水化液を用いた場合であっても、表面からTiNが露出する実験用基板200が親水化された。
【0149】
<処理膜についての接触角測定実験>
次に、実験用基板の表面に形成された処理膜に対する純水の接触角を測定した接触角測定実験の結果について説明する。図14は、処理膜の表面に対する純水の接触角を測定する手順を説明するための模式図である。
この実験では、実験用基板203として、Si(ベアシリコン:Bare-Si)が表面から露出している基板を用い、親水化液として、IPAを用いた。処理液として、4種類の処理液PL1~PL4を用いた。各処理液PL1~PL4は、溶媒としてIPAを含有している。各処理液PL1~PL4は、溶質として、後述する低溶解性成分のうちから選択した少なくとも1種類の低溶解性成分と、後述する高溶解性成分のうちから選択した少なくとも1種類の高溶解性成分とを含有している。処理液PL1~PL4に含有される低溶解性成分は共通している。処理液PL1~PL4に含有される高溶解性成分は互いに異なる物質である。
【0150】
図15に示すように、実験用基板203を、親水化液としてのIPAに浸漬した。その後、図示しないが、DIWを用いて実験用基板203を洗浄した。その後、実験用基板203の表面に処理液を滴下した。その後処理液中の溶媒を蒸発させることで、実験用基板203の表面に処理膜204を形成した。さらにその後、実験用基板203に形成された処理膜204に純水(DIW)の液滴205を形成し、その液滴205の接触角θ2を測定した。
【0151】
図15は、処理膜204の表面に対する純水の接触角θ2と、剥離液による処理膜204の可否とを示すテーブルである。
図15に示すテーブルには、「処理液」および「純水の接触角(°)」の欄が示されている。「処理液」の各行には、処理膜204の形成にいずれの処理液PL1~PL4が用いられたかが記載されている。「純水の接触角(°)」の各行には、同一行に示す処理液を用いて形成された処理膜204に対する純水の接触角θ2が記載されている。処理膜204に対する純水の接触角θ2は、52°以上61°以下の範囲内の角度であった。したがって、処理膜204に対する純水の接触角θ2であれば、親水化された基板に形成された処理膜を、剥離液を用いて、効果的に剥離することができることが推察される。
【0152】
<処理液の詳細>
以下では、上述の実施形態に用いられる処理液中の各成分について説明する。
以下では、「Cx~y」、「Cx~」および「C」などの記載は、分子または置換基中の炭素の数を意味する。例えば、C1~6アルキルは、1以上6以下の炭素を有するアルキル鎖(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等)を意味する。
【0153】
ポリマーが複数種類の繰り返し単位を有する場合、これらの繰り返し単位は共重合する。特に限定されて言及されない限り、これら共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、またはこれらの混在のいずれであってもよい。ポリマーや樹脂を構造式で示す際、括弧に併記されるnやm等は繰り返し数を示す。
<低溶解性成分>
(A)低溶解性成分は、ノボラック、ポリヒドロキシスチレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸誘導体、ポリマレイン酸誘導体、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール誘導体、ポリメタクリル酸誘導体、およびこれらの組合せの共重合体、の少なくとも1つを含む。好ましくは、(A)低溶解性成分は、ノボラック、ポリヒドロキシスチレン、ポリアクリル酸誘導体、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸誘導体、およびこれらの組合せの共重合体、の少なくとも1つを含んでいてもよい。さらに好ましくは、(A)低溶解性成分は、ノボラック、ポリヒドロキシスチレン、ポリカーボネート、およびこれらの組合せの共重合体、の少なくとも1つを含んでいてもよい。ノボラックはフェノールノボラックであってもよい。
【0154】
処理液は(A)低溶解性成分として、上記の好適例を1または2以上組み合わせて含んでもよい。たとえば、(A)低溶解性成分はノボラックとポリヒドロキシスチレンの双方を含んでもよい。
(A)低溶解性成分は乾燥されることで膜化し、前記膜は剥離液で大部分が溶解されることなく除去対象物を保持したまま剥がされることが、好適な一態様である。なお、剥離液によって(A)低溶解性成分のごく一部が溶解される態様は許容される。
【0155】
好ましくは、(A)低溶解性成分はフッ素および/またはケイ素を含有せず、より好ましくは双方を含有しない。
前記共重合はランダム共重合、ブロック共重合が好ましい。
権利範囲を限定する意図はないが、(A)低溶解性成分の具体例として、下記化学式1~化学式7に示す各化合物が挙げられる。
【0156】
【化1】
【0157】
【化2】
【0158】
【化3】
(アスタリスク*は、隣接した構成単位への結合を示す。)
【0159】
【化4】
(RはC1~4アルキル等の置換基を意味する。アスタリスク*は、隣接した構成単位への結合を示す。)
【0160】
【化5】
【0161】
【化6】
【0162】
【化7】
(Meは、メチル基を意味する。アスタリスク*は、隣接した構成単位への結合を示す。)
(A)低溶解性成分の重量平均分子量(Mw)は好ましくは150~500,000であり、より好ましくは300~300,000であり、さらに好ましくは500~100,000であり、よりさらに好ましくは1,000~50,000である。
【0163】
(A)低溶解性成分は合成することで入手可能である。また、購入することもできる。購入する場合、例として供給先は以下が挙げられる。供給先が(A)ポリマーを合成することも可能である。
ノボラック:昭和化成(株)、旭有機材(株)、群栄化学工業(株)、住友ベークライト(株)
ポリヒドロキシスチレン:日本曹達(株)、丸善石油化学(株)、東邦化学工業(株)
ポリアクリル酸誘導体:(株)日本触媒
ポリカーボネート:シグマアルドリッチ
ポリメタクリル酸誘導体:シグマアルドリッチ
処理液の全質量と比較して、(A)低溶解性成分が0.1~50質量%であり、好ましくは0.5~30質量%であり、より好ましくは1~20質量%であり、さらに好ましくは1~10質量%である。つまり、処理液の全質量を100質量%とし、これを基準として(A)低溶解性成分が0.1~50質量%である。すなわち、「と比較して」は「を基準として」と言い換えることが可能である。特に言及しない限り、以下においても同様である。
【0164】
<高溶解性成分>
(B)高溶解性成分は(B’)クラック促進成分である。(B’)クラック促進成分は、炭化水素を含んでおり、さらにヒドロキシ基(-OH)および/またはカルボニル基(-C(=O)-)を含んでいる。(B’)クラック促進成分がポリマーである場合、構成単位の1種が1単位ごとに炭化水素を含んでおり、さらにヒドロキシ基および/またはカルボニル基を有する。カルボニル基とは、カルボン酸(-COOH)、アルデヒド、ケトン、エステル、アミド、エノンが挙げられ、カルボン酸が好ましい。
【0165】
権利範囲を限定する意図はなく、理論に拘束されないが、処理液が乾燥され基板上に処理膜を形成し、剥離液が処理膜を剥離する際に(B)高溶解性成分が、処理膜が剥がれるきっかけとなる部分を生むと考えられる。このために、(B)高溶解性成分は剥離液に対する溶解性が、(A)低溶解性成分よりも高いものであることが好ましい。(B’)クラック促進成分がカルボニル基としてケトンを含む態様として環形の炭化水素が挙げられる。具体例として、1,2-シクロヘキサンジオンや1,3-シクロヘキサンジオンが挙げられる。
【0166】
より具体的な態様として、(B)高溶解性成分は、下記(B-1)、(B-2)および(B-3)の少なくともいずれか1つで表される。
(B-1)は下記化学式8を構成単位として1~6つ含んでなり(好適には1~4つ)、各構成単位が連結基(リンカーL)で結合される化合物である。ここで、リンカーLは、単結合であってもよいし、C1~6アルキレンであってもよい。前記C1~6アルキレンはリンカーとして構成単位を連結し、2価の基に限定されない。好ましくは2~4価である。前記C1~6アルキレンは直鎖、分岐のいずれであっても良い。
【0167】
【化8】
CyはC5~30の炭化水素環であり、好ましくはフェニル、シクロヘキサンまたはナフチルであり、より好ましくはフェニルである。好適な態様として、リンカーLは複数のCyを連結する。
【0168】
はそれぞれ独立にC1~5アルキルであり、好ましくはメチル、エチル、プロピル、またはブチルである。前記C1~5アルキルは直鎖、分岐のいずれであっても良い。
b1は1、2または3であり、好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。nb1’は0、1、2、3または4であり、好ましくは0、1または2である。
下記化学式9は、化学式8に記載の構成単位を、リンカーLを用いて表した化学式である。リンカーLは単結合、メチレン、エチレン、またはプロピレンであることが好ましい。
【0169】
【化9】
権利範囲を限定する意図はないが、(B-1)の好適例として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’-メチレンビス(4-メチルフェノール)、2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール、1,3-シクロヘキサンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,6-ナフタレンジオール、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、が挙げられる。これらは、重合や縮合によって得てもよい。
【0170】
一例として下記化学式10に示す2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノールを取り上げ説明する。同化合物は(B-1)において、化学式8の構成単位を3つ有し、構成単位はリンカーL(メチレン)で結合される。nb1=nb1’=1であり、Rはメチルである。
【0171】
【化10】
(B-2)は下記化学式11で表される。
【0172】
【化11】
21、R22、R23、およびR24は、それぞれ独立に水素またはC1~5のアルキルであり、好ましくは水素、メチル、エチル、t-ブチル、またはイソプロピルであり、より好ましくは水素、メチル、またはエチルであり、さらに好ましくはメチルまたはエチルである。
【0173】
リンカーL21およびリンカーL22は、それぞれ独立に、C1~20のアルキレン、C1~20のシクロアルキレン、C2~4のアルケニレン、C2~4のアルキニレン、またはC6~20のアリーレンである。これらの基はC1~5のアルキルまたはヒドロキシで置換されていてもよい。ここで、アルケニレンとは、1以上の二重結合を有する二価の炭化水素を意味し、アルキニレンとは、1以上の三重結合を有する二価の炭化水素基を意味するものとする。リンカーL21およびリンカーL22は、好ましくはC2~4のアルキレン、アセチレン(Cのアルキニレン)またはフェニレンであり、より好ましくはC2~4のアルキレンまたはアセチレンであり、さらに好ましくはアセチレンである。
【0174】
b2は0、1または2であり、好ましくは0または1、より好ましくは0である。
権利範囲を限定する意図はないが、(B-2)の好適例として、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、が挙げられる。別の一形態として、3-ヘキシン-2,5-ジオール、1,4-ブチンジオール、2,4-ヘキサジイン-1,6-ジオール、1,4-ブタンジオール、シス-1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、1,4-ベンゼンジメタノールも(B-2)の好適例として挙げられる。
【0175】
(B-3)は下記化学式12で表される構成単位を含んでなり、重量平均分子量 (Mw)が500~10,000のポリマーである。Mwは、好ましくは600~5,000であり、より好ましくは700~3,000である。
【0176】
【化12】
ここで、R25は-H、-CH、または-COOHであり、好ましくは-H、または-COOHである。1つの(B-3)ポリマーが、それぞれ化学式12で表される2種以上の構成単位を含んでなることも許容される。
【0177】
権利範囲を限定する意図はないが、(B-3)ポリマーの好適例として、アクリル酸、マレイン酸、またはこれらの組合せの重合体が挙げられる。ポリアクリル酸、マレイン酸アクリル酸コポリマーがさらに好適な例である。
共重合の場合、好適にはランダム共重合またはブロック共重合であり、より好適にはランダム共重合である。
【0178】
一例として、下記化学式13に示す、マレイン酸アクリル酸コポリマーを挙げて説明する。同コポリマーは(B-3)に含まれ、化学式12で表される2種の構成単位を有し、1の構成単位においてR25は-Hであり、別の構成単位においてR25は-COOHである。
【0179】
【化13】
言うまでもないが、処理液は(B)高溶解性成分として、上記の好適例を1または2以上組み合わせて含んでも良い。例えば、(B)高溶解性成分は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオールの双方を含んでも良い。
【0180】
(B)高溶解性成分は、分子量80~10,000であってもよい。高溶解性成分は、好ましくは分子量90~5000であり、より好ましくは100~3000である。(B)高溶解性成分が樹脂、重合体またはポリマーの場合、分子量は重量平均分子量(Mw)で表す。
(B)高溶解性成分は合成しても購入しても入手することが可能である。供給先としては、シグマアルドリッチ、東京化成工業、日本触媒が挙げられる。
【0181】
処理液中において、(B)高溶解性成分は、(A)低溶解性成分の質量と比較して、好ましくは1~100質量%であり、より好ましくは1~50質量%である。処理液中において、(B)高溶解性成分は、(A)低溶解性成分の質量と比較して、さらに好ましくは1~30質量%である。
<溶媒>
(C)溶媒は有機溶剤を含むことが好ましい。(C)溶媒は揮発性を有していてもよい。揮発性を有するとは水と比較して揮発性が高いことを意味する。例えば、(C)1気圧における溶媒の沸点は、50~250℃であることが好ましい。1気圧における溶媒の沸点は、50~200℃であることがより好ましく、60~170℃であることがさらに好ましい。1気圧における溶媒の沸点は、70~150℃であることがよりさらに好ましい。(C)溶媒は、少量の純水を含むことも許容される。(C)溶媒に含まれる純水は、(C)溶媒全体と比較して、好ましくは30質量%以下である。溶媒に含まれる純水は、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。溶媒に含まれる純水は、よりさらに好ましくは5質量%以下である。溶媒が純水を含まない(0質量%)ことも、好適な一形態である。純水とは、好適にはDIWである。
【0182】
有機溶剤としては、イソプロパノール(IPA)等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGEE)等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)等の乳酸エステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、2-ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、γ-ブチロラクトン等のラクトン類等を挙げることができる。これらの有機溶剤は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0183】
好ましい一態様として、(C)溶媒が含む有機溶剤は、IPA、PGME、PGEE、EL、PGMEA、これらのいかなる組合せから選ばれる。有機溶剤が2種の組合せである場合、その体積比は、好ましくは20:80~80:20であり、より好ましくは30:70~70:30である。
処理液の全質量と比較して、(C)溶媒は、0.1~99.9質量%である。処理液の全質量と比較して、(C)溶媒は、好ましくは50~99.9質量%であり、より好ましくは75~99.5質量%である。処理液の全質量と比較して、(C)溶媒は、さらに好ましくは80~99質量%であり、よりさらに好ましくは85~99質量%である。
【0184】
<その他の添加物>
本発明の処理液は、(D)その他の添加物をさらに含んでいてもよい。本発明の一態様として、(D)その他の添加物は、界面活性剤、酸、塩基、抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、または抗真菌剤を含んでなり(好ましくは、界面活性剤)、これらのいずれの組合せを含んでいてもよい。
【0185】
本発明の一態様として、処理液中の(A)低溶解性成分の質量と比較して、(D)その他の添加物(複数の場合、その和)は、0~100質量(好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%、さらに好ましくは0~3質量%、よりさらに好ましくは0~1質量%)である。処理液が(D)その他の添加剤を含まない(0質量%)ことも、本発明の態様の一つである。
【0186】
<腐食防止成分>
(F)腐食防止成分としては、BTA以外にも、尿酸、カフェイン、ブテリン、アデニン、グリオキシル酸、グルコース、フルクトース、マンノース等が挙げられる。
<その他の実施形態>
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、さらに他の形態で実施することができる。
【0187】
たとえば、基板Wの上面の親水化は、UV照射、プラズマ処理、酸素アッシング等の手法、すなわち親水化液による処理以外の手法で行われてもよい。
また、上述した実施形態では、置換液および残渣除去液として同一の有機溶剤が用いられる。しかしながら、置換液としての有機溶剤を吐出するノズルと残渣除去液を吐出するノズルとをそれぞれ設ければ、置換液として用いる有機溶剤と残渣除去液としての有機溶剤とを互いに異なる有機溶剤とすることができる。たとえば、置換液として、メタノールを用い、残渣除去液としてIPAを用いることができる。
【0188】
また、上述した実施形態では、剥離液によって処理膜100が部分的に溶解されることによって貫通孔102が形成され、この貫通孔102を介して剥離液が処理膜100と基板Wとの界面に達するとしている。しかしながら、必ずしも目視可能な貫通孔102が形成される必要はなく、剥離液によって処理膜100中の高溶解性固体110が溶解されることによって処理膜100に形成される隙間を通って処理膜100と基板Wとの界面に達することもあり得る。
【0189】
各処理流体を吐出するノズルは、上述した実施形態のものに限られない。たとえば、上述した実施形態では、処理液、親水化液、および剥離液が移動ノズルから基板Wの上面に向けて吐出され、リンス液、有機溶剤および気体が固定ノズル(中央ノズル12)から基板Wの上面に向けて吐出される。しかしながら、リンス液、有機溶剤および気体が移動ノズルから吐出される構成であってもよいし、リンス液、有機溶剤および気体に加えて処理液、親水化液、および剥離液も中央ノズル12から吐出されてもよい。
【0190】
全ての処理流体が移動ノズルから吐出される構成や、全ての処理流体が平面視で基板Wの外方に配置された固定ノズルから吐出される構成であれば、対向部材6が設けられていなくてもよい。
この明細書において、「~」または「-」を用いて数値範囲を示した場合、特に限定されて言及されない限り、これらは両方の端点を含み、単位は共通する。
【0191】
その他、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0192】
1 :基板処理装置
3 :コントローラ
9 :第1移動ノズル(親水化液供給ユニット)
10 :第2移動ノズル(処理液供給ユニット)
11 :第3移動ノズル(剥離液供給ユニット)
12 :中央ノズル(処理膜形成ユニット)
13 :下面ノズル(処理膜形成ユニット)
21 :スピンベース(基板保持ユニット)
23 :スピンモータ(処理膜形成ユニット)
62 :対向部材回転ユニット(処理膜形成ユニット)
100 :処理膜
102 :貫通孔
103 :除去対象物
110 :高溶解性固体
111 :低溶解性固体
150 :表層
153 :バリア層(TiN層)
W :基板
θ :接触角
θ1 :接触角(基板の表面に対する純水の接触角)
θ2 :接触角(処理膜に対する純水の接触角)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図9G
図9H
図9I
図10A
図10B
図10C
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15