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特許7440323制気口の検査装置、検査方法および検査システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】制気口の検査装置、検査方法および検査システム
(51)【国際特許分類】
   G01P 5/00 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
G01P5/00 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020062477
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162408
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 雅明
(72)【発明者】
【氏名】山口 倫明
(72)【発明者】
【氏名】内山 聖士
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-149363(JP,A)
【文献】特開昭61-188399(JP,A)
【文献】実開昭63-073300(JP,U)
【文献】特開2016-202184(JP,A)
【文献】特開2018-084508(JP,A)
【文献】特開2005-300089(JP,A)
【文献】特開2018-173206(JP,A)
【文献】特開平04-333500(JP,A)
【文献】特開2020-042447(JP,A)
【文献】特開平04-324337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 5/00
G01S 17/00 ~ 17/95
F24F 11/00 ~ 11/89
B66F 11/00 ~ 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定時に制気口から吹出す上方からの風又は吸込む下方からの風を集めるフードと、該フード内に取り付けられたセンサとを備えた測定部と、
リフタを備えて前記測定部を上下に昇降可能に支持する昇降部と、
前記昇降部の昇降の度合を検出する昇降検出部と、
対象エリアのマップデータに基づき、該マップデータ上に設定された位置に自動で走行可能に構成された走行部とを備えた制気口の検査装置であって
前記走行部の走行前方には、走行する対象エリアの空間を認識可能とするLiDAR光センサを搭載し、
予め準備する対象エリアのマップデータは、検査対象の制気口が設置される対象エリアの床に対して検査装置自体を案内走行させることにより、前記LiDAR光センサで対象エリアの各構造からの距離データを取得して作成され、
前記マップデータのマップには、検査対象の制気口について位置の設定が入力され、
前記制気口の検査時には、画像処理による制気口の検知を不要にし、前記マップデータと、マップ中の制気口の位置とを用いて制気口の位置まで自動走行し、前記昇降部をリフタにより上昇させ、前記フードを制気口にあてがって検査を行い、
前記測定部の少なくとも風速に関する測定データは、前記昇降検出部で検出された昇降の度合いデータと同時に信号として外部へ連続的に送信されるよう構成した
ことを特徴とする制気口の検査装置。
【請求項2】
測定時に制気口から吹出す上方からの風又は吸込む下方からの風を集めるフードと、該フード内に取り付けられたセンサとを備えた測定部と、
リフタを備えて前記測定部を上下に昇降可能に支持する昇降部と、
前記昇降部の昇降の度合を検出する昇降検出部と、
対象エリアのマップデータに基づき、該マップデータ上に設定された位置に自動で走行可能に構成された走行部とを備えた制気口の検査装置であって
前記走行部の走行前方には、走行する対象エリアの空間を認識可能とするLiDAR光センサを搭載し、
前記マップデータのマップには、検査対象の制気口について位置の設定が入力され、
前記制気口の検査時には、画像処理による制気口の検知を不要にし、前記マップデータと、マップ中の制気口の位置情報と、LiDAR光センサで空間実測した位置情報を照合して認識し、これに基づき前記制気口の位置まで自動で走行し、前記昇降部をリフタにより上昇させ、前記フードを制気口にあてがって検査を行い、
前記測定部の少なくとも風速に関する測定データは、前記昇降検出部で検出された昇降の度合いデータと同時に信号として外部へ連続的に送信されるよう構成した
ことを特徴とする制気口の検査装置。
【請求項3】
前記フード内に取り付けられたセンサは、少なくとも温度と圧力を計測し、
前記昇降検出部は、検査装置の走行部と昇降部との所定位置の離れを計測する光センサを含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の制気口の検査装置。
【請求項4】
請求項に記載の検査装置を用い、前記走行部に対象エリアのマップデータを取得させる際に、検査対象である制気口が設置されている対象エリアの床に対して前記検査装置を人により案内走行させながら、検査装置搭載のLiDAR光センサで部屋の各構造からの距離データを取得するステップと、
前記検査対象である制気口のマップデータ上における位置を設定するステップと、
前記検査装置から測定データを外部へ送信開始するステップと、
前記検査装置が前記マップデータ上に設定された制気口の位置まで自動で走行し、前記リフタを伸ばして前記フードを上方に位置する前記制気口に当てがったあと所定時間前記フードを静置するステップと、
前記リフタを縮めて次の制気口まで自動で走行するステップと、
前記対象エリアのマップデータ上に設定された制気口位置全てに到達した際に前記検査装置から測定データを外部送信することを終了するステップと
を含むことを特徴とする制気口の検査方法。
【請求項5】
前記センサにより取得され外部に送信された測定データから、前記リフタが伸びた状態で停止している間の測定データを抽出し、該当する制気口に関する測定値として演算解析するネットワーク解析部を備え、
該ネットワーク解析部には演算解析したデータをデータベースとして保管するDB部をも備え、
前記ネットワーク解析部に対して外部ハードを用い、
該外部ハードは、データを当てはめて帳票とする各種テンプレートを予め保持し、該テンプレートを前記ネットワーク解析部へアップロードし、前記テンプレートへ測定値などのデータを書き込ませダウンロードすることで帳票を入手可能に記録すること
を特徴とする請求項4に記載の制気口の検査方法。
【請求項6】
前記センサにより取得され外部に送信された測定データのうち、前記リフタが伸びた状態で停止している間の測定データから、さらに最初と最後のデータを除いた測定データを、前記制気口に関する測定値として扱い演算解析するネットワーク解析部を備えたこと
を特徴とする請求項5に記載の制気口の検査方法。
【請求項7】
検査対象である制気口のマップデータ上における位置を設定する前記ステップは、前記検査装置の上部に、鉛直上方へ中心軸が明示されたレーザ光を対象物に照射してその投影光を作業者が観察し、制気口中心とレーザ光とを位置合わせしひいては制気口のマップデータ上における位置を設定することで、正確な位置合わせを可能としたこと
を特徴とする請求項4~6のいずれか一項に記載の制気口の検査方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載の検査装置を備え、
前記検査装置は、前記走行部が取得した対象エリアのマップデータ、および該マップデータ上に設定された検査対象である制気口の位置を予めティーチングされて把握認識し、
当該認識した位置情報とLiDAR光センサの走行部高さで空間実測した位置情報を照合して認識し、これに基づき前記制気口の位置まで自動で走行し、
前記リフタを伸ばして前記フードを上方に位置する前記制気口に当てがった後、前記リフタを縮めたのち、
再度次の制気口の認識した位置情報とLiDAR光センサの走行部高さで空間実測した位置情報を照合して認識し、これに基づき次の制気口まで自動で走行することを繰り返しながら、前記センサは制気口に関する測定を続けて行うよう構成されていること
を特徴とする制気口の検査システム。
【請求項9】
前記検査装置の外部に前記センサにより取得され外部に送信された測定データから、前記リフタが伸びた状態で停止している間の測定データを抽出し、該当する制気口に関する測定値として演算解析するネットワーク解析部を備え、
前記ネットワーク解析部は、前記センサにより取得された測定データから、前記リフタが伸びた状態で停止している間の測定データを抽出するよう構成されたこと
を特徴とする請求項8に記載の制気口の検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の空調設備工事後の試運転調整時に用いる空調空気の制気口での風量測定に関し、各制気口での空気の吹出に関し、風量の測定等の検査を行うための装置、また、該装置を用いた検査方法および検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、事務所ビル、商業施設、病院など居室を主とする建物や、天井を貼る工場など産業用途の建物において、天井面に設置される空調用空気吹出口又は空調用空気吸込口等の制気口を設置する空調設備を含む建物の新築工事や、一部室をリニューアル改修してその部屋の新規の天井に制気口を設置する空調設備改修工事などの際には、施主への引渡し前に、性能検査として各制気口について十分な風量が出ているかどうかや、適切な温度の吹出空気が供給されているか等を検査する必要がある。従来、こうした検査に係る作業は、多くが手動で行われてきた。すなわち、空調を作動させた状態で、天井に設けられた各制気口の下方に脚立等を立て、そこに作業員が登って前記制気口に測定用のフードを当てがい、前記制気口の下方における風量等を測定して記録するのである。この作業を、各制気口毎に順番に行う。
【0003】
こういった作業は、各制気口毎に脚立の移動や上り下り、フードの着脱やセンサの使用を繰り返すことになり、煩雑である。特に高層ビル等の制気口が設置されている居室面積が多大な建物では検査に必要な作業量は膨大となり、非常に手間と時間がかかって工期の長期化を招く場合があった。また、検査は測定用フードを扱って測定する係と数値を記録する係の二人一組で行われることが多く、人件費も嵩むし、人の行う作業(測定・記録)が多ければ、その分だけ人的ミスの生じる可能性も高まってしまう。
【0004】
そこで近年では、例えば下記特許文献1、2のように、風量等の測定・記録作業を機械的に代行あるいは補助するための技術も種々提案されている。特許文献1には、画像処理によって空気吹出口の存在を検出し、該吹出口の位置へロボットを自動的に移動させて空気の風量と温度を測定する技術が記載されている。特許文献2には、飛行手段(所謂ドローン)を用いて集風フードを天井制気口に運び、空気の風量や温度を測定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-149363号公報
【文献】特開2018-91684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているようなロボットの自己位置認識のために画像処理を用いて対象である吹出口を検知する方法では、形状パターンによって吹出口を認識するため、吹出口の識別に関して確実性に欠ける。通常、一個の部屋やフロアには、共通する形状の吹出口が幾つも設けられるので、一度測定を済ませた吹出口を再び測定してしまうといった誤動作が生じる可能性が考えられるのである。
【0007】
また、上記特許文献2に記載されているような飛行手段を用いた方法では、測定対象である吹出口毎に地上に静置された誘導用の外部カメラを設置するあるいは移動して設置する必要があり、誘導カメラを設置する必要があり、該誘導カメラの設置作業に多大な労力と費用を要するほか、飛行手段の操作に習熟した作業員の確保にも手間や費用が生じてしまうという問題がある。さらに、風量を測定する部位に飛行手段を静置させるために、ドローンのプロペラ作動によるホバリングを行っているので、測定フードの周囲に強い気流を作ることとなり、どうしてもプロペラ起因の強い気流に周囲空気の誘引が発生し、正確な風量測定ができないという問題もある。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、空気の制気口に関する検査を簡便且つ好適に実行し得る制気口の検査装置、検査方法および検査システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、測定時に制気口から吹出す上方からの風又は吸込む下方からの風を集めるフードと、該フード内に取り付けられたセンサとを備えた測定部と、
リフタを備えて前記測定部を上下に昇降可能に支持する昇降部と、
前記昇降部の昇降の度合を検出する昇降検出部と、
対象エリアのマップデータに基づき、該マップデータ上に設定された位置に自動で走行可能に構成された走行部とを備えた制気口の検査装置であって
前記走行部の走行前方には、走行する対象エリアの空間を認識可能とするLiDAR光センサを搭載し、
予め準備する対象エリアのマップデータは、検査対象の制気口が設置される対象エリアの床に対して検査装置自体を案内走行させることにより、前記LiDAR光センサで対象エリアの各構造からの距離データを取得して作成され、
前記マップデータのマップには、検査対象の制気口について位置の設定が入力され、
前記制気口の検査時には、画像処理による制気口の検知を不要にし、前記マップデータと、マップ中の制気口の位置とを用いて制気口の位置まで自動走行し、前記昇降部をリフタにより上昇させ、前記フードを制気口にあてがって検査を行い、
前記測定部の少なくとも風速に関する測定データは、前記昇降検出部で検出された昇降の度合いデータと同時に信号として外部へ連続的に送信されるよう構成した
ことを特徴とする制気口の検査装置にかかるものである。
【0010】
本発明は、測定時に制気口から吹出す上方からの風又は吸込む下方からの風を集めるフードと、該フード内に取り付けられたセンサとを備えた測定部と、
リフタを備えて前記測定部を上下に昇降可能に支持する昇降部と、
前記昇降部の昇降の度合を検出する昇降検出部と、
対象エリアのマップデータに基づき、該マップデータ上に設定された位置に自動で走行可能に構成された走行部とを備えた制気口の検査装置であって
前記走行部の走行前方には、走行する対象エリアの空間を認識可能とするLiDAR光センサを搭載し、
前記マップデータのマップには、検査対象の制気口について位置の設定が入力され、
前記制気口の検査時には、画像処理による制気口の検知を不要にし、前記マップデータと、マップ中の制気口の位置情報と、LiDAR光センサで空間実測した位置情報を照合して認識し、これに基づき前記制気口の位置まで自動で走行し、前記昇降部をリフタにより上昇させ、前記フードを制気口にあてがって検査を行い、
前記測定部の少なくとも風速に関する測定データは、前記昇降検出部で検出された昇降の度合いデータと同時に信号として外部へ連続的に送信されるよう構成した
ことを特徴とする制気口の検査装置にかかるものである。
【0011】
本発明の制気口の検査装置においては、前記フード内に取り付けられたセンサは、少なくとも温度と圧力を計測し、前記昇降検出部は、検査装置の走行部と昇降部との所定位置の離れを計測する光センサを含むことができる。
【0012】
また、本発明は、上述の検査装置を用い、前記走行部に対象エリアのマップデータを取得させる際に、検査対象である制気口が設置されている対象エリアの床に対して前記検査装置を人により案内走行させながら、検査装置搭載のLiDAR光センサで部屋の各構造からの距離データを取得するステップと、前記検査対象である制気口のマップデータ上における位置を設定するステップと、前記検査装置から測定データを外部へ送信開始するステップと、前記検査装置が前記マップデータ上に設定された制気口の位置まで自動で走行し、前記リフタを伸ばして前記フードを上方に位置する前記制気口に当てがったあと所定時間前記フードを静置するステップと、前記リフタを縮めて次の制気口まで自動で走行するステップと、前記対象エリアのマップデータ上に設定された制気口位置全てに到達した際に前記検査装置から測定データを外部送信することを終了するステップとを含むことを特徴とする制気口の検査方法にかかるものである。
【0013】
本発明の制気口の検査方法においては、前記センサにより取得され外部に送信された測定データから、前記リフタが伸びた状態で停止している間の測定データを抽出し、該当する制気口に関する測定値として演算解析するネットワーク解析部を備え、該ネットワーク解析部には演算解析したデータをデータベースとして保管するDB部をも備え、前記ネットワーク解析部に対して外部ハードを用い、該外部ハードは、データを当てはめて帳票とする各種テンプレートを予め保持し、該テンプレートを前記ネットワーク解析部へアップロードし、前記テンプレートへ測定値などのデータを書き込ませダウンロードすることで帳票を入手可能に記録することができる。
【0014】
本発明の制気口の検査方法においては、前記センサにより取得され外部に送信された測定データのうち、前記リフタが伸びた状態で停止している間の測定データから、さらに最初と最後のデータを除いた測定データを、前記制気口に関する測定値として扱い演算解析するネットワーク解析部を備えることができる。
【0015】
本発明の制気口の検査方法において、検査対象である制気口のマップデータ上における位置を設定する前記ステップは、前記検査装置の上部に、鉛直上方へ中心軸が明示されたレーザ光を対象物に照射してその投影光を作業者が観察し、制気口中心とレーザ光とを位置合わせしひいては制気口のマップデータ上における位置を設定することで、正確な位置合わせを可能とすることができる。
【0016】
また、本発明は、上述の検査装置を備え、前記検査装置は、前記走行部が取得した対象エリアのマップデータ、および該マップデータ上に設定された検査対象である制気口の位置を予めティーチングされて把握認識し、当該認識した位置情報とLiDAR光センサの走行部高さで空間実測した位置情報を照合して認識し、これに基づき前記制気口の位置まで自動で走行し、前記リフタを伸ばして前記フードを上方に位置する前記制気口に当てがった後、前記リフタを縮めたのち、再度次の制気口の認識した位置情報とLiDAR光センサの走行部高さで空間実測した位置情報を照合して認識し、これに基づき次の制気口まで自動で走行することを繰り返しながら、前記センサは制気口に関する測定を続けて行うよう構成されていることを特徴とする制気口の検査システムにかかるものである。
【0017】
本発明の制気口の検査システムは、前記検査装置の外部に前記センサにより取得され外部に送信された測定データから、前記リフタが伸びた状態で停止している間の測定データを抽出し、該当する制気口に関する測定値として演算解析するネットワーク解析部を備え、前記ネットワーク解析部は、前記センサにより取得された測定データから、前記リフタが伸びた状態で停止している間の測定データを抽出するよう構成されることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の制気口の検査装置、検査方法および検査システムによれば、空気の制気口に関する検査を簡便且つ好適に実行し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施による制気口の検査システムのシステム構成の一例を示すブロック図である。
図2】本発明の実施による制気口の検査装置の形態の一例を示す斜視図である。
図3】検査装置の使用状態を示す正面図である。
図4】マッピングの様子を示す概略図である。
図5】制気口の配置の一例を示す概念図である。
図6】実際の測定対象に位置合わせをしてティーチングを行う様子の概略図である。
図7】各制気口について取得される風量値の推移の一例を示すグラフである。
図8】本発明の実施による制気口の検査方法の測定側における手順の一例を示すフローチャートである。
図9】本発明の実施による制気口の検査方法の記録側における手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1は本発明の実施による制気口の検査システムの形態の一例を示している。本実施例の検査システムは、建築物の空調設備工事後の試運転調整など性能検査を行う際に、天井に制気口が設置された対象エリアである空間内を移動して各制気口の少なくとも風速などを計測して検査を行う検査装置1を備え、該検査装置1により取得される各制気口に関する測定データを解析し、算出された測定値を記録するようになっている。
【0022】
検査装置1の構成の一例を図2図3に示す。検査装置1は、下部に車輪を備えて床面上を走行可能に構成された走行部2と、該走行部2の上に設けられた昇降部3と、該昇降部3の上部に設けられた測定部4とを備えている。
【0023】
本実施例の場合、走行部2は、自動走行可能な走行台車として構成されている。自動走行のための仕組みとしては、例えばLiDAR(Light Detection And Ranging)と称される技術を適用することができる。LiDARは、周囲に測定波としてのレーザ光を照射し、反射波を検出して周囲に存在する物体や構造物の距離を測定する技術であり、これにより、周囲における物体の有無や空間の形状、該空間における自分自身の位置を特定することができる。LiDARを備えた装置としては種々の型式が考えられるが、例えば、測定波の照射と反射波の検出を行うためのスリットを走行前面側面に180度以上の周囲にレーザ光スキャン可能に水平に備え、該スリットの高さに測定波を照射すると共に反射波を検出しつつ対象エリア内を走行させて、これにより、対象エリアの空間の特定の床上高さにおける平面形状をスキャンし、マップデータとして取得するような装置が実用化されている。
【0024】
そして、走行部2は、自動走行させる準備として人が走行部2を案内操作して走行させることで有効なマップデータを取得させるティーチングによってマップデータを有効に取得できる。走行部2は、取得したマップデータと、自動自立運転した場合のLiDAR光センサ照射によって対象エリア内にて特定した自分自身のマップ上の位置に基づき、前記マップデータ上に目的地として設定された座標まで自動で走行できるようになっている。尚、自動走行の仕組みとしては、マップ上における自分自身の位置を検出し、目的の位置に移動するという動作を実行し得る限りにおいて、LiDAR以外にも種々の仕組みを採用することができる。
【0025】
昇降部3は、走行部2の上に測定部4を支持し、且つ該測定部4の昇降を行う機構であり、上下に伸縮するリフタ3aを備え、該リフタ3aの上部に測定部4が取り付けられるようになっている。リフタ3aの仕組みとしては、パンタグラフジャッキ様の構造、あるいは油圧による昇降機構等とすることができるが、その他、測定部4を昇降可能に支持し得る限りにおいて、どのような仕組みを採用してもよい。
【0026】
昇降部3は、昇降の度合(リフタ3aの伸縮度)を検出する昇降検出部として、リミットスイッチ3bと高さセンサ3cを備えている。リミットスイッチ3bは、リフタ3aの上端部と下端部の互いに対向する面に備えられており、降動作時(リフタ3aが縮む時)において、リミットスイッチ3bへの入力によりリフタ3aが縮みきったことを検出するようになっている。高さセンサ3cは、例えばリフタ3aの上端側に取り付けられた赤外線光センサであり、下方に位置する走行部2の上面に取り付けられた反射板に対し検出波としての赤外線光を照射し、反射波を検出して走行部2に対するセンサ自身の高さを高さデータとして出力できるようになっている。尚、図示は省略するが、高さセンサ3cを上方へ検出波を照射する向きに取り付け、後述する測定の際、天井からの距離を測定するようにしてもよい。その他、昇降検出部としては、ここに説明したリミットスイッチ3bや高さセンサ3c以外にも種々の仕組みを採用することができる。
【0027】
走行部2の動作は、走行部2に内蔵する記憶・制御回路によって、ティーチングによって案内走行に従い、LiDAR光センサの照射によって対象エリア内での多種目標との位置関係で特定し取得したマップデータを記憶回路に記憶する。次に走行部2の動作は、自動運転を自身の車輪制御をしながら走行しつつ、走行時のLiDAR光センサの照射によって対象エリア内にて特定した多種目標との距離測定値演算から自身のマップ上の位置に基づき、逐次走行方向を補正して、設定された制気口の座標まで自動で走行する。
【0028】
昇降部3の動作は、制御部5により制御される。制御部5は、昇降部3に対して、走行部2から目標制気口位置への到達信号を受領した後、昇降部のリフタ駆動モータを昇方向(上方向)へ動作させる。次に高さセンサ3cからの出力値が、設定された閾値に到達したか、リミットスイッチ3bの上方スイッチが入りになった場合に、リフタ駆動モータを停止し、タイマ制御によって所定時間経過した後、リフタ駆動モータを降方向(下方向)へ動作させ、下方のリミットスイッチ3Bが入りになった場合に停止させる。このように昇降部3及び制御部5はリフタ3aの動作の制御等を行うようになっている。また、リフタ3aのリミットスイッチ3Bなどから下降完了の信号を、走行部2の記憶・制御回路へ出力するようになっている。その他、制御部5は、検査装置1における各部の動作を必要に応じて種々実行可能に構成することができる。例えば、制御部5に、走行部2の記憶・制御回路を搭載して統合してもよい。
【0029】
測定部4は、図2に示す如く下方に向けて窄まる形状のダクト状のフード4aと、該フード4a内の適宜位置に設けられたセンサ類(圧力センサ4bおよび温度センサ4c)を備えている。検査の際には、図3に仮想線にて示すように、フード4aの上部開口を空間の上方に位置する制気口10に当てがって上方から吹き出される、又は下方から吸い上げられる風をフード4a内で集め、集風された吹出空気に関する測定を前記センサ類で行う。本実施例の場合、圧力センサ4bでフード4a内外の圧力差を、温度センサ4cで吹出空気の温度をそれぞれ測定し、制御部5に入力することで、外部出力に適した信号に変換され、逐次差圧値、補正温度値として出力されるようになっている。
【0030】
制御部5は、上述のようにリフタ3aの位置調節計、および信号変換調節計の役割を少なくとも担っており、リフタ3aの位置値、差圧値、および温度値を、アナログまたはデジタルデータとして出力するのに通信部6を介して外部の機器と情報的に接続されている。本実施例の場合、通信部6はゲートウェイ機7を通じてネットワーク8と通信可能に構成されている。ネットワーク8内のクラウドには、圧力センサ4bや温度センサ4cの取得した測定データを入力し演算式に予め入力されているフード4a断面積と逐次入力される差圧値及び補正温度値から風量を逐次演算し、それらの経時変化を収集し、解析・記録する解析部(ネットワーク解析部)8aが格納されている。ここで解析部8aには演算解析したデータをデータベースとして保管するDB部(データベース部)をも備えている。また、ネットワーク8には、パーソナルコンピュータ、あるいはタッチパネル式のタブレット等の情報処理装置であり外部ハードである端末装置9が接続されている。外部ハードである端末装置9は、圧力センサ4bや温度センサ4cの取得したデータや、解析部8aによって解析・記録されたデータを入手できるようになっている。具体的には、必要に応じてデータを当てはめて帳票とする各種テンプレートを予め保持し、前記解析部(ネットワーク解析部)8aへアップロードし前記テンプレートへ測定値などのデータを書き込ませ、ダウンロードすることで帳票を入手可能にし、あるいは制御部5との間でデータのやり取りを行うことができるようになっている。尚、図1に示したシステム系統の各所には、必要に応じてリレーや指示計、指示調節計等を組み込むことができるが、ここでは図示を省略している。
【0031】
また、検査装置1やこれを備えた検査システムの構成は、ここに示した例に限定されない。例えば、通信部6は検査装置1の一部として構成してもよいし、逆に制御部5を検査装置1から物理的に離して設置し、走行部2や昇降部3と無線で接続してもよく、また、解析部8aは端末装置9の一部としてもよいし、あるいは、端末装置9はネットワーク8を介さず、通信部6や制御部5と直接接続してもよい。その他、各部の必要な機能を実現できる限りにおいて、検査装置や検査システムの構成は適宜変更してよい。
【0032】
次に、上記した本実施例の作動を説明する。
【0033】
検査に先立ち、まず走行部2に対象エリアのマップデータを作成・取得させるマッピングを行う。走行部2がLiDAR機構を備えた自走可能な装置である場合、例えば図4に示すように、対象エリアA内で走行部2(あるいは、該走行部2を備えた検査装置1)を人が案内して走行させると、走行部2は周囲に測定波を照射し、反射波を検出しつつ対象エリアA内を移動して、対象エリアの壁や柱などの多種目標(部屋の各構造)になるものとの距離を測定し、それぞれの自身の位置とそこからの多数目標(部屋の各構造)との距離関係から、対象エリアAのマップデータを自動的に作成する。尚、この際、走行部2は周囲の壁面等に対する自分自身の距離等を自動的に検出しながらマップを作成するので、走行するルートを厳密に設定しておくような必要はない。走行部2の走行は、走行部2に自動で行わせてもよいし、記憶・制御回路を介して外部から操作してもよい。
【0034】
続いて、作成したマップ上における検査対象の位置の設定(ティーチング)を行う。検査対象の位置とは、対象エリアA内における制気口10の位置である(図5参照;制気口10A~10D)。マップに対する各制気口10A~10Dの位置が正確にわかっている場合には、それらの座標を端末装置9から記憶・制御回路を介して走行部2に入力すればよい。この際、制気口10A~10Dの高さ、あるいは検査時におけるリフタ3a(図2参照)の必要な伸縮量を制御部5に同時に入力する。また、各制気口10の測定順序や、対象エリアA内における走行ルートを併せて設定することができる。
【0035】
マップに対する制気口10の正確な位置がわかっていない場合は、例えば図6に示すように、目視により手動で制気口10の位置を設定することもできる。検査装置1あるいは走行部2の適宜位置(ここに示した例では、検査装置1から昇降部3や測定部4を取り外した走行部2の上面)に、上方へ向かって鉛直にレーザ光を照射するよう、レーザポインタ11を取り付ける。そして、該レーザポインタ11からの照射光(図6中に破線にて示す)が制気口10に照射されるよう、走行部2の位置を合わせ、この位置を検査対象である制気口10の位置として設定するのである。尚、ここではレーザポインタ11から十字状のラインレーザが照射され、その交点を基準として位置を設定する場合を図示したが、照射光の形状がどのようであっても良いことは勿論である。
【0036】
こうした位置合わせの方法は、マップデータに対する制気口10の座標が正確に把握できていない場合のほか、制気口10の寸法に対し、フード4aの上部開口の寸法にあまり余裕がない場合など、制気口10に対する走行部2の位置合わせがシビアな場合に好適である。制気口10の検査にあたっては、測定部4のフード4aが制気口10の下面全体を覆っている必要があり、制気口10に対してフード4aの上部開口が十分に大きい場合には、制気口10に対して走行部2がさほど正確に真下に位置していなくても測定は可能であるが、フード4aの上部開口がさほど大きくないと、その分だけ検査にあたって走行部2の位置には精密さが要求される。そういった場合に、図6に示すように実際の位置に基づいて位置合わせをすれば、マップデータ上における制気口10の位置を正確に設定することができる。
【0037】
また、このような位置合わせは、ある対象エリアAに存在する全部の検査対象(制気口10)について行ってもよいが、制気口10同士の位置関係が正確にわかっている場合には、例えば一個の制気口10について上述のようなレーザポインタ11による位置の設定を行い、その他の制気口10については、上述の方法で位置を設定された制気口10の位置を基準として位置を設定することもできる。例えば、一の制気口10について特定されたマップデータ上における座標が(X,Y)である場合に、その他の制気口10の座標は
(X,Y+b),(X,Y+2b),……(X,Y+nb),
(X+a,Y),(X+a,Y+b),(X+a,Y+2b),……(X+a,Y+nb),……,
(X+ma,Y),(X+ma,Y+b),(X+ma,Y+2b),……(X+ma,Y+nb)
などと設定していくのである。
【0038】
ところで、高層ビル等においては、複数の階で間取りや空調設備の配置等が共通していることが多い。そういった建物では、一の階(基準階)でマッピングとティーチングを行っておけば、その際に作成したデータ(マップデータや、制気口10の位置の座標)を、間取りや配置の共通する他の階にもそのまま適用することができる。マッピングやティーチングはそれ自体、ある程度の手間がかかる作業ではあるが、一旦作成したデータを他の対象エリアに適用することで、労力や時間を大幅に低減することができるのである。
【0039】
マッピングとティーチングが済んだら、検査装置1を対象エリアA内で走行させ、制気口10の検査を実行する。検査装置1は、まず昇降部3のリフタ3aを縮めた状態で、対象エリアA内の床上に設置される(図3参照)。走行部2は、周囲に測定波を照射し、反射波を検出して、マップデータ上における自分自身の位置座標を特定する。記憶・制御回路は、走行部2に対し、最初の目標位置(検査対象である制気口10の座標位置)まで走行するよう司令し、走行部2は目標位置まで自動で走行する。同時に、制御部5は、圧力センサ4b、温度センサ4c、高さセンサ3cからの信号を、通信部6へ向けて出力開始する。走行部2が目標位置(制気口10の真下)に到達したら、記憶・制御回路から到達信号を受信した制御部5は図3中に破線にて示す如く、昇降部3のリフタ3aを伸ばし、制気口10に測定部4のフード4aを宛てがう。リフタ3aの伸縮量は、高さセンサ3cから制御部5に入力される信号によって検知することができるので、制御部5は、リフタ3aが測定に適した高さまで伸びた段階でリフタ3aのリフタ駆動モータの動作を停止させる。
【0040】
ここで、高さセンサ3cが図2とは逆に上方へ反射波を照射するようになっている場合には、高さセンサ3cは下方の走行部2からの高さではなく、上方に位置する天井からの距離を検出する。この場合、例えば高さセンサ3cをフード4aの基部端の高さに取り付けておけば、高さセンサ3cによって検出される対象(すなわち、天井)の距離が、フード4aの高さと一致した時点でリフタ3aを停止させればよい。
【0041】
リフタ3aを伸ばした状態においても、センサ類(圧力センサ4b、温度センサ4c、高さセンサ3c)で必要なデータが取得され制御部5へ出力される。出力されたデータは、通信部6からネットワーク8へ送信され、解析部8aに順次記録される。
【0042】
制気口10に関するデータの取得にとって適当な時間、フード4aを制気口10に当ててがったら、制御部5はリフタ3aを縮める。リフタ3aが縮みきると、そのことがリミットスイッチ3bによって検知されるので、制御部5は、リミットスイッチ3bから入力される信号に応じてリフタ3aのリフタ駆動モータの動作を停止させる。リフタ3aを縮めたら、次の検査対象である制気口10まで走行し、同様の測定・記録作業を行う。この作業を、検査対象である制気口10の全てについて繰り返す。全検査対象について検査が終了したら、制御部5、及び通信部6を介して外部へ測定データを送信することを終了した後、検査装置1は停止する。
【0043】
ここで、各制気口10における各センサによる測定値は、例えば次のような方法で取得することができる。
【0044】
一連の検査の工程において、検査センサ類(圧力センサ4b、温度センサ4c)の測定信号は、最初の制気口10の測定を行う前から、最後の制気口10の測定が終了するまで、解析部8aにて逐次取得する。つまり、解析部8aでは、リフタ3aが伸びてフード4aが制気口10に当てがわれている間の測定データのほか、リフタ3aの昇降動作中や、走行部2による走行中の測定データも、ロギング周期毎に時々刻々取得される。一方、検査装置1におけるリフタ3aの昇降、および走行部2での走行は、以下に述べるように圧力センサ4bにおける測定データと並行に個別で動作させる。
【0045】
一般に、制気口10における風量を検査したい場合、ある閾値以上の風量が出ていれば正常、風量が閾値未満であれば、再度の検査や整備が必要である。また、正確な風量値を得るためには、ある程度の時間、フード4aを制気口10に当てがった状態で測定をする必要がある。そこで、リフタ3aが測定に適した高さまで伸びた状態で待機する最低時間(最低待機時間)tminを設定する。この最低待機時間tminは、ロギング周期の少なくとも3倍以上とすると良い。後述するように、リフタ3aが伸びた状態で停止している間の測定データから、最初と最後の測定データを除いたデータを記録するためである。リフタ3aは、走行部2が目標制気口10の位置で停止し、リフタ3aが伸び動作を終えてから、少なくとも最低待機時間tminとして設定された時間、伸びた状態で停止する。
【0046】
リフタ3aが伸びた状態で停止してからtminの間に、圧力センサ4bの測定値として取得された風量が閾値以上であれば、tminが経過した時点でリフタ3aを縮め、次の制気口10へ向かう。tminが経過するまでの間に取得された風量が閾値未満であった場合は、適当な時間まで(閾値以上の風量が取得されるか、最大待機時間tmaxが経過するまで)測定データの取得を続けた後、リフタ3aを縮める。下方のリミットスイッチ3bが入りになって下降停止になった際、リフタ3aのリミットスイッチ3bなどから下降完了の信号を、走行部2の記憶・制御回路へ出力する。これを受けた走行部2は、次の制気口10へ向かう。これを、検査対象である全ての制気口10について完了するまで繰り返す。
【0047】
この間、解析部8aでは上述したように、一連の測定の開始から終了までの間の風量値の測定データが時々刻々取得されている。解析部8aでは、この測定データに基づき、次に述べる方法で各制気口10における風量を算出し、記録する。
【0048】
一連の測定データのうち、どの時間帯の風量値の推移がどの制気口10に相当するのかについては、走行部2の走行や、リフタ3aの上げ下げといった検査装置1の動作を監視し、マップデータ上の走行ルートと照合すれば判別できる。ある制気口10の測定前後における風量値は、差圧センサである圧力センサ4bの測定値に基づいて算出され、例えば図7にグラフとして示すような時系列データとして取得される。
【0049】
これらの測定データから、まず、リフタ3aが特定の範囲の高さに伸びた状態で停止していた時間に該当する測定データを抽出する。「特定の範囲の高さ」とは、即ちフード4aが制気口10に適切に当てがわれるようなリフタ3aの高さであり、例えば目標とするリフタ3aの高さHをH=X[mm]とする場合、X-a≦H≦X+aである間の風量データを抽出する。リフタ3aが特定の範囲の高さにあった時間(X-a≦H≦X+aであった時間)は、高さセンサ3cの測定ログや、リフタ3aへの伸縮動作の指令ログを参照すれば特定できる。高さセンサ3cの測定ログを根拠とする場合には、例えば「X-a≦(高さセンサ3cの測定値)+(走行部2の高さ)≦X+aであった時間」(高さセンサ3cが、走行部2の上面からの高さを測定するよう設置されている場合)、あるいは、「(フード4aの高さ)-a≦高さセンサ3cの測定値≦(フード4aの高さ)+aであった時間」(高さセンサ3cが、フード4aの基部端から天井までの距離を測定するよう設置されている場合)、などとして特定することができる。ここで、リフタ3aの高さについて「特定の値」(H=X)ではなく「特定の範囲」(X-a≦H≦X+a)としているのは、リフタ3aの高さに関し、ある程度の揺れ幅を許容することで測定漏れを防止する趣旨である。
【0050】
「リフタ3aが特定の範囲の高さにあった時間」の風量データとして抽出されるのは、図7に示す例においては、Q~Qの6点である。例えば風量測定のロギング周期が5秒、tminが30秒であり、測定対象である制気口10から正常な風量が出ていた場合には、このように6点程度の風量データが抽出される。また、図示は省略するが、制気口10からの吹出風量が閾値未満である状態が続いた場合には、tminより長い時間(最大でtmax)までリフタ3aが伸びた状態で維持されるので、より多くの個数、風量データが抽出される。抽出された風量データは、測定対象である制気口10の風量データであり、このようにして、圧力センサ4bの取得した測定データから、該当する制気口10の測定データを簡便に抽出することができる。
【0051】
さらに、正確を期すため、抽出された風量データのうち、最初の一点Qと、最後の一点Qのデータを除くとよい。これらのデータは、リフタ3aが伸びきった直後、およびリフタ3aが縮み始める直前にあたるデータであり、フード4aの位置が不安定で、正しい風量が反映されていない可能性があるためである。解析部8aは、最初と最後の一点ずつを除いたQ~Qの4点のデータを、測定対象である制気口10の風量データとして記録する。記録の際には、Q~Qの4点の平均値を記録してもよいし、4点の風量値をそのまま記録してもよい。あるいは、複数(4点)ある風量値の一部を代表値として記録してもよいし、一部の値の平均値を記録してもよい。記録された各制気口10の風量値は、測定の終了後、あるいは測定の実行中にも逐次、端末装置9から参照することができる。
【0052】
こうした風量値の算出やその記録は、各制気口10の測定を行いながら並行して行うこともできるし、一連のデータを解析部8aのDB部に保存しておいて、測定が終了してから別途行ってもよい。
【0053】
尚、リフタ3aの不具合で、該リフタ3aが十分な高さまで伸びきらなかったなど、何らかの理由により、ある制気口10について抽出された測定データの個数が想定される数(例えば、上に述べたようにロギング周期が5秒、tminが30秒の場合は、6点)に満たないような場合も想定されるが、そういった場合、該当する制気口10に関し、風量値は記録されない。
【0054】
また、ここでは風量値を例に説明を行ったが、風量値以外の測定項目、例えば空気の温度等についても、同様の方法(リフタ3aが伸びた状態で停止している間の測定データを抽出し、そのうち最初と最後のデータを除いた測定データを、該当の制気口10に関する測定値として記録する)で測定値を記録することができることは勿論である。
【0055】
上述のような制気口の検査の手順は、図8図9に示す如きフローチャートに整理することができる。
【0056】
検査の作業は、概ね測定と記録に大別されるが、測定を行う側にあたる検査装置1における手順は、例えば図8に示す通りである。まず、準備段階として、対象エリアAのマップデータを走行部2に取得させる(マッピング;ステップS1)。次に、制気口10の位置を設定し(ティーチング)、走行ルート、リフタ3aの高さ、風量の閾値を設定する(ステップS2)。ここまでが準備段階であり、準備を終了する。その後、検査装置1を対象エリアAに設置して測定を開始する(ステップSa)。まず、マップデータ上に位置を設定された制気口10の中に、未だ測定作業を行っていない制気口10があるか否かを判定する(ステップS3)。未測定の制気口10があれば、そのうちの一つの制気口10(ルート上に設定された次の制気口10)へ自動で走行する(ステップS4)。目標の制気口10の座標に到着したら、リフタ3aを伸ばす(ステップS5)。リフタ3aを伸ばしながら、該リフタ3aが適切な測定の可能な高さに達しているか否かを繰り返し判定する(ステップS6)。適切な高さに達した時点でリフタ3aを停止させ(ステップS7)、そのまま少なくとも最低待機時間tminが経過するまで、フード4aを制気口10に当てがったまま、リフタ3aおよび走行部2の停止状態を継続する。より具体的には、リフタ3aが停止した時点からtminが経過したか否かを繰り返し判定し(ステップS8)、tminが経過したと判定されたら、続いて圧力センサ4bによって検出される風量が閾値以上か否かを判定する(ステップS9)。ここで風量が閾値以上であれば、ステップS10に進み、リフタ3aを縮める。ステップS9において、風量が閾値未満と判定される場合には、ステップS11に進み、リフタ3aが停止した時点から最大待機時間tmaxが経過したか否かを判定する。ステップS9とステップS11は、ステップS9で閾値以上の風量を検出したと判定されるか、ステップS11でリフタ3aが停止した時点からtmaxが経過したと判定されるまで繰り返す。ステップS9またはステップS11のいずれかでYESと判定されたら、ステップS10に進んでリフタ3aを縮める。リフタ3aを縮めながら、該リフタ3aが縮みきったか否かを繰り返し判定する(ステップS12)。リフタ3aが縮みきったら、リフタ3aを停止させ(ステップS13)、ステップS3に戻って未測定の制気口10が存在するか否かを判定する。ステップS3~S13を、未測定の制気口10がなくなるまで繰り返し、検査対象として設定された全ての制気口10について測定が完了したら終了する。
【0057】
検査の作業のうち、記録を行う側にあたるシステムにおける手順は、例えば図9に示す通りである。
【0058】
マッピング、ティーチングの済んだ検査装置1を対象エリアAに設置したら、解析部8aは演算および記録を開始する(ステップS20)。検査装置1がステップS3~S13(図8参照)を繰り返し実行している間、圧力センサ4b、温度センサ4c、高さセンサ3cといったセンサ類は時々刻々測定を行う(ステップS21)。また、検査装置1の動作は、この間に取得された圧力センサ4b、温度センサ4cや高さセンサ3cの測定値、あるいはリミットスイッチ3bの検出信号を、必要に応じて参照しつつ行われる(図8、ステップS6,S9,S12参照)。
【0059】
圧力センサ4b、温度センサ4c、高さセンサ3cの測定データは、通信部6、ゲートウェイ機7を通じてネットワーク8の解析部8aへ伝送される(ステップS22)。解析部8aでは、上述の方法により、各制気口10の測定値(風量値)を演算式に入れて逐次演算算出し、解析部8aのDB部に記録する(ステップS23)。また、他に温度など、その他の測定値も必要に応じて算出・記録する。外部ハードである端末装置9では測定値を参照可能な状態にし(ステップS24)、次に、必要に応じてデータを当てはめて帳票とする各種テンプレートを予め保持し、該テンプレートを解析部(ネットワーク解析部)8aへアップロードし(ステップS25)、解析部8aのDB部から、帳票とする各種テンプレートへ各種の測定値などのデータを当てはめるように書き込ませ(ステップS26)、外部ハードである端末装置9へ帳票としてダウンロードすることで帳票を入手することができる(ステップS27)。
【0060】
以上の如き検査装置1、およびこれを用いた検査方法あるいは検査システムによれば、マップデータの取得や制気口10の位置座標の設定が済んだ検査装置1を対象エリアAに設置しておけば、検査装置1により各制気口10に関する測定を自動で行い、測定値を解析部8aにより自動で記録することができる。よって、例えば人のいない夜間等に検査装置1による測定を行い、その後、記録された測定データを人が参照して各制気口10の各種測定値をチェックし、不具合が認められたら改めて手動による測定を行ったり、点検や整備を行うといったことが可能である。測定や記録の全作業を人力で行う場合と比較して、作業にかかる手間を大幅に減じることができ、人件費を抑えて人的ミスの生じる可能性も減らすことができる。また、制気口10の位置はマップデータ上に座標として設定されているので、例えば上記特許文献1に記載されているような方法と異なり、一度測定を済ませた制気口を再び測定してしまうような心配はない。また、上記特許文献2に記載されているような方法と比較しても、誘導カメラの設置が不要でコストを抑えることができ、飛行手段の操作のような特殊な技術に習熟した作業員も必要ない。
【0061】
以上のように、上記本実施例の制気口の検査装置1は、測定時に制気口から吹出す上方からの風又は吸込む下方からの風を集めるフード4aと、該フード4a内に取り付けられたセンサ4b,4cとを備えた測定部と、リフタ3aを備えて前記測定部4を上下に昇降可能に支持する昇降部3と、前記昇降部3の昇降の度合を検出する昇降検出部3b,3cと、対象エリアAのマップデータに基づき、該マップデータ上に設定された位置に自動で走行可能に構成された走行部2とを備え、前記測定部4の少なくとも風速に関する測定データは、前記昇降検出部3b,3cで検出された昇降の度合いデータと同時に信号を外部へ送信し続けるよう構成している。
【0062】
また、本実施例の制気口の検査方法は、上述の検査装置1を用い、前記走行部2に対象エリアAのマップデータを取得させる際に、検査対象である制気口10が設置されている対象エリアAの床に対して前記検査装置1を人により案内走行させながら、検査装置搭載のLiDAR光センサで部屋の各構造からの距離データを取得するステップS1と、前記検査対象である制気口10のマップデータ上における位置を設定するステップS2と、前記検査装置1から測定データを外部へ送信開始するステップS3~S13、S20~S22と、前記検査装置1が前記マップデータ上に設定された制気口10の位置まで自動で走行し、前記リフタ3aを伸ばして前記フード4aを上方に位置する前記制気口10に当てがったあと所定時間前記フード4aを静置するステップS3~S13と、前記リフタ3aを縮めて次の制気口10まで自動で走行するステップS3~S13,S21と、前記対象エリアAのマップデータ上に設定された制気口10位置全てに到達した際に前記検査装置1から測定データを外部送信することを終了するステップS20~S22とを含んでいる。
【0063】
また、本実施例の制気口の検査システムは、上述の検査装置1を備え、前記検査装置1は、前記走行部2が取得した対象エリアAのマップデータ、および該マップデータ上に設定された検査対象である制気口10の位置を予めティーチングされて把握認識し、当該認識した位置情報とLiDAR光センサの走行部高さで空間実測した位置情報を照合して認識し、これに基づき前記制気口10の位置まで自動で走行し、前記リフタ3aを伸ばして前記フード4aを上方に位置する前記制気口10に当てがった後、前記リフタ3aを縮めたのち、再度次の制気口10の認識した位置情報とLiDAR光センサの走行部高さで空間実測した位置情報を照合して認識し、これに基づき次の制気口10まで自動で走行することを繰り返しながら、前記センサは制気口10に関する測定を続けて行うよう構成されている。
【0064】
このようにすれば、マップデータや制気口10の位置座標の設定が済んだ検査装置1を対象エリアAに設置しておけば、検査装置1により各制気口10に関する測定を自動で行い、測定値を自動で記録することができるので、作業にかかる手間を大幅に減じ、人件費を抑えて人的ミスの可能性も減らすことができる。
【0065】
本実施例の制気口の検査装置においては、前記フード4a内に取り付けられたセンサ4b,4cは、少なくとも温度と圧力を計測し、前記昇降検出部3b,3cは、検査装置1の走行部2と昇降部3との所定位置の離れを計測する光センサを含むことができる。さらに上記本実施例の制気口の検査装置においては、前記走行部2において、走行前方にLiDAR光センサを搭載し、走行する対象エリアAの空間を認識可能とすることができる。このようにすれば、センサ4b,4cの測定データから、該当する制気口10の測定データを簡便に抽出することができる。
【0066】
本実施例の制気口の検査方法においては、前記センサ4b,4cにより取得され外部に送信された測定データから、前記リフタ3aが伸びた状態で停止している間の測定データを抽出し、該当する制気口10に関する測定値として演算解析するネットワーク解析部8aを備え、該ネットワーク解析部8aには演算解析したデータをデータベースとして保管するDB部をも備え、前記ネットワーク解析部8aに対して外部ハードを用い、該外部ハードは、データを当てはめて帳票とする各種テンプレートを予め保持し、該テンプレートを前記ネットワーク解析部8aへアップロードし、前記テンプレートへ測定値などのデータを書き込ませダウンロードすることで帳票を入手可能に記録することができる。このようにすれば、該当する制気口10の測定データを帳票として簡便に入手することができる。
【0067】
本実施例の制気口の検査方法においては、前記センサにより取得され外部に送信された測定データのうち、前記リフタ3aが伸びた状態で停止している間の測定データから、さらに最初と最後のデータを除いた測定データを、制気口10に関する測定値として扱い演算解析するネットワーク解析部8aを備えることができる。このようにすれば、制気口10の測定データから、より正確な測定値を簡便に抽出することができる。
【0068】
本実施例の制気口の検査方法においては、検査対象である制気口10のマップデータ上における位置を設定する前記ステップS2は、前記検査装置1の上部に、鉛直上方へ中心軸が明示されたレーザ光を対象物に照射してその投影光を作業者が観察し、制気口10中心とレーザ光とを位置合わせしひいては制気口10のマップデータ上における位置を設定することで、正確な位置合わせを可能とすることができる。このようにすれば、マップデータに対する制気口10の座標が正確に把握できていない場合や、制気口10の寸法に対し、フード4aの上部開口の寸法にあまり余裕がない場合などにおけるティーチングに特に好適である。
【0069】
本実施例の制気口の検査システムにおいては、前記検査装置1の外部に前記センサ4b,4cにより取得され外部に送信された測定データから、前記リフタ3aが伸びた状態で停止している間の測定データを抽出し、該当する制気口10に関する測定値として演算解析するネットワーク解析部8aを備え、前記ネットワーク解析部8aは、前記センサ4b,4cにより取得された測定データから、前記リフタ3aが伸びた状態で停止している間の測定データを抽出するよう構成されることができる。このようにすればセンサ4b,4cの測定データから、該当する制気口10の測定データを簡便に抽出することができる。
【0070】
尚、本発明の制気口の検査装置、検査方法および検査システムは、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0071】
1 検査装置
2 走行部
3 昇降部
3a リフタ
3b 昇降検出部(リミットスイッチ)
3c 昇降検出部(高さセンサ)
4 測定部
4a フード
4b センサ(圧力センサ)
4c センサ(温度センサ)
8a 解析部(ネットワーク解析部)
9 端末装置(外部ハード)
10 制気口
11 レーザポインタ
A 対象エリア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9