(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】無フラックスろう付用アルミニウムブレージングシート
(51)【国際特許分類】
B23K 35/28 20060101AFI20240220BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20240220BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
B23K35/28 310B
B23K35/22 310E
C22C21/00 D
C22C21/00 E
(21)【出願番号】P 2020065307
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】吉野 路英
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】千葉 一
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-303161(JP,A)
【文献】特開平06-182582(JP,A)
【文献】特開2019-013981(JP,A)
【文献】特開平05-228684(JP,A)
【文献】特開2013-220461(JP,A)
【文献】特開昭51-096749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00 - 35/40
C22C 21/00 - 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、
質量%で、Mgを0.05~2.0%、Siを2.0~14.0%含有し、
さらに0.01~0.3%のBi、Ga、Sn、In、Pbのうち、1種
または2種以上を含有し、かつ、Bi、Ga、Sn、In、Pbの総量が0.5%以下であり
、
残部Al及び不純物の組成を有するAl-Si-Mg-X系ろう材が心材の片面または両面の最表面に位置し、
前記Al-Si-Mg-X系ろう材の表面の酸化皮膜中のMgOの割合が面積率で2%以下であり、かつ、前記酸化皮膜中のMgOの内、結晶性を有する領域が面積率で4%以下であることを特徴とする無フラックスろう付用アルミニウムブレージングシート。
ただし、前記XはBi、Ga、Sn、In、Pbのうち、1種または2種以上を示す。
【請求項2】
前記ろう材が、質量%で、Mgを0.1~1.5%、Siを3.0~12.5%含有し、さらに、Bi、Ga、Sn、In、Pbのうち、1種
または2種以上を総量で0.03~0.25%含有することを特徴とする請求項1に記載の無フラックスろう付用アルミニウムブレージングシート。
【請求項3】
前記心材が、質量%で、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005
~1.5%およびZn:0.1~9.0%の
うち、1種または2種以上を含有する請求項1または請求項2に記載の無フラックスろう付用アルミニウムブレージングシート。
【請求項4】
前記心材が、質量%で、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%を含有し、さらにMn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%およびZn:0.1~9.0%の
うち、1種または2種以上を含有する請求項1または請求項2に記載の無フラックスろう付用アルミニウムブレージングシート。
【請求項5】
前記心材に犠牲材がクラッドされ、前記犠牲材が質量%で、Zn:0.1~9.0%を含有し、さらに、Si:0.05~1.2%、
Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%の
うち、1種または2種以上を含有する請求項1または請求項2に記載の無フラックスろう付用アルミニウムブレージングシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無フラックスろう付用などとして好適なアルミニウムブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサやエバポレーターなどのアルミニウム製自動車用熱交換器は、これまでの小型軽量化と共にアルミニウム材料の薄肉高強度化が進んできている。アルミニウム製熱交換器の製造では、継手を接合するろう付が行われるが、現在主流のフッ化物系フラックスを使用するろう付方法では、フラックスが材料中のMgと反応して不活性化しろう付不良を生じ易いため、Mg添加高強度部材の利用が制限される。このため、フラックスを使用せずにMg添加アルミニウム合金を接合するろう付方法が望まれている。
【0003】
Al-Si-Mg系ろう材を用いるフラックスフリーろう付(無フラックスろう付)では、溶融して活性となったろう材中のMgが接合部表面のAl酸化皮膜(Al2O3)を還元分解することで接合が可能となる。閉塞的な面接合継手などにおいては、Mgによる酸化皮膜の分解作用によりろう材を有するブレージングシート同士を組合せた継手や、ブレージングシートとろう材を有さない被接合部材(ベア材)を組合せた継手において良好な接合状態が得られる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4547032号公報
【文献】特開2014-50861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、コンデンサやエバポレーターなど、一般的な熱交換器の代表的な継手形状であるチューブとフィン接合部などにおいては、ろう付時の雰囲気の影響を受け易く、Mg添加ろう材の表面でMgO皮膜が成長し易くなる。MgO皮膜は分解され難い安定な酸化皮膜であるため、MgO皮膜が存在すると接合が著しく阻害される。
このため、一般的な熱交換器にフラックスフリー技術を適用するためには、開放部を有する継手で安定した接合状態が得られるフラックスフリーろう付用ブレージングシートが強く望まれている。
【0006】
フラックスフリーろう付の接合状態を安定させる方法として、本発明者らは、例えば特許文献2などに示すAl-Si-Mg-Bi系ろう材を用い、このろう材中のBi粒子やMg-Bi化合物粒子の分布状態を制御する技術について研究している。この技術によれば、円相当径5.0~50μmの単体BiあるいはBi-Mg化合物をろう材中に分散させておくことで、これら化合物が材料製造時にろう材表面に露出し、化合物の露出部において酸化皮膜形成を抑制することにより、短時間のろう付加熱時間でフラックスフリーろう付性を向上できる見込みが得られている。
しかし、現在主流のフッ化物系フラックスを使用するろう付方法を代替できるほどに安定した接合性が得られているとは言い難く、一般的な熱交換器に広く適用するためにはさらなる技術の向上が必要である。
【0007】
そこで本発明者らは上記課題に鑑み、Biを添加したAl-Si-Mg系ろう材のろう付過程におけるBiの挙動とろう付性を精査した。
その結果、従来知見に加え、Biを添加したAl-Si-Mg系ろう材であってもMgOが多量に生成した場合にはろう付性が低下すること、すなわち、酸化皮膜中のMgOの割合が少ない場合にろう付性が向上することを知見した。
さらに、本発明者らの研究の結果、Biを添加したAl-Si-Mg系ろう材の場合には、ろう付昇温過程において生成した溶融金属Biが酸化皮膜(MgO)中に濃化し、MgOが脆弱化することが、ろう付性が良化する原因であることを知見した。
【0008】
さらに、本発明者らの研究の結果、MgO中への溶融金属Biの濃化のし易さはMgOの膜質によって異なり、結晶性を有する場合には生成した溶融金属Biが酸化皮膜内に浸透しにくく、一方、結晶性を有さないMgOの場合には、溶融金属Biが皮膜内に浸透しやすく、よりMgOが脆弱化しやすいことを知見した。
すなわち、本発明らは、Biを添加したAl-Si-Mg系ろう材のろう付性を向上させるためには、MgOの膜質を制御することが重要であることを見出した。
なお、先に説明したBiを濃化させる技術において、MgOの膜質を制御できていない場合、MgOへBiを浸透させるため、より多量の溶融金属Biを生成させる必要がある。このため、先に説明したBiを濃化させる技術においては、ろう付前のMg-Bi化合物の分散状態を制御する必要があると推測している。
さらに、本発明者らの研究により、MgO中に濃化してMgOを脆弱化させる元素を探索した結果、Ga、Sn、In、PbもBiと同様の効果があることを見出した。
【0009】
本願発明は、以上説明の背景に鑑みなされたもので、フラックスフリーろう付けにおいて良好な接合性が得られる無フラックスろう付用アルミニウムブレージングシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本形態に係る無フラックスろう付用アルミニウムブレージングシートは、少なくとも二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、質量%で、Mgを0.05~2.0%、Siを2.0~14.0%含有し、さらに0.01~0.3%のBi、Ga、Sn、In、Pbのうち、1種または2種以上を含有し、かつ、Bi、Ga、Sn、In、Pbの総量が0.5%以下であり、残部Al及び不純物の組成を有するAl-Si-Mg-X系ろう材が心材の片面または両面の最表面に位置し、前記Al-Si-Mg-X系ろう材の表面の酸化皮膜中のMgOの割合が面積率で2%以下であり、かつ、前記酸化皮膜中のMgOの内、結晶性を有する領域が面積率で4%以下であることを特徴とする。ただし、前記XはBi、Ga、Sn、In、Pbのうち、1種または2種以上を示す。
【0011】
(2)本形態に係る無フラックスろう付用アルミニウムブレージングシートにおいて、前記ろう材が、質量%で、Mgを0.1~1.5%、Siを3.0~12.5%含有し、さらに、Bi、Ga、Sn、In、Pbのうち、1種または2種以上を総量で0.03~0.25%含有することが好ましい。
【0012】
(3)本形態に係る無フラックスろう付用アルミニウムブレージングシートにおいて、前記心材が、質量%で、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%およびZn:0.1~9.0%のうち、1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0013】
(4)本形態に係る無フラックスろう付用アルミニウムブレージングシートにおいて、前記心材が、質量%で、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%を含有し、さらにMn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%およびZn:0.1~9.0%のうち、1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0014】
(5)本形態に係る無フラックスろう付用アルミニウムブレージングシートにおいて、前記心材に犠牲材がクラッドされ、前記犠牲材が質量%で、Zn:0.1~9.0%を含有し、さらに、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%のうち、1種または2種以上を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、良好で安定した無フラックスろう付接合を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態におけるフラックスフリーろう付用のブレージングシートを示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態におけるアルミニウム製自動車用熱交換器を示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施例におけるろう付モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
第1実施形態の無フラックスろう付用ブレージングシートは、少なくとも二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、心材と心材の片面または両面にクラッドされて最表面に位置するAl-Si系ろう材を具備する。
本実施形態のブレージングシートは、心材の片面にろう材をクラッドし、心材の他面に犠牲材をクラッドした三層構造のブレージングシートであっても良い。
また、ブレージングシートは、ろう材/心材/犠牲材/ろう材の四層構造でも良いし、ろう材/犠牲材/心材/犠牲材/ろう材の五層構造であっても良く、クラッド構成は特に限定されるものではない。
前記Al-Si系ろう材は、質量%で、Mgを0.05~2.0%、Siを2.0~14.0%含有し、さらに0.01~0.3%のBi、Ga、Sn、In、Pbのうち、1種あるいは2種以上を含有し、かつ、Bi、Ga、Sn、In、Pbの総量が0.5%以下であり、残部Alの組成を有する。
また、前記Al-Si-Mg-X系ろう材の表面に生成している酸化皮膜中のMgOの割合が2%以下であり、かつ、前記酸化皮膜中のMgOの内、結晶性を有する領域が4%以下であることを特徴とする。ただし、前記XはBi、Ga、Sn、In、Pbのうち、1種または2種以上を示す。
【0018】
以下に、本実施形態のブレージングシートにおいて規定される組成等について説明する。なお、含有量の記載はいずれも質量比で示され、質量比の範囲について「~」を用いて表記する場合、特に指定しない限り、下限と上限を含む表記とする。よって、例えば、0.05~2.0%は、0.05質量%以上2.0質量%以下を意味する。
【0019】
「ろう材」
「Mg:0.05~2.0%」
Mgは、Al酸化皮膜(Al2O3)を還元分解するために添加される。Mg含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると、ろう付雰囲気中の酸素と反応して接合を阻害するMgOが生成する(酸化皮膜中のMgOの割合が増加する)。Mg含有量が少ない場合、結晶性のMgOが生成しやすい。このため、Mgの含有量を上記範囲に定める。
なお、同様の理由でMg含有量を、0.1~1.5%の範囲とするのが望ましい。さらに望ましくは、Mg含有量0.2~1.5%の範囲である。
【0020】
「Bi、Ga、Sn、In、Pb:0.005~0.3%:総量で0.5%以下」
Bi、Ga、Sn、In、Pbのうち、1種または2種以上をXと称する。
Xは、ろう付昇温過程でMgO皮膜中に浸透・濃化し、MgOを脆弱化することでろう付性を向上させる。Xの含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると効果が飽和することに加えて、酸化皮膜中のMgOの割合が増加する。また、Xの総量が0.5%を超えると材料表面においてXの酸化物が生成し易くなり、ろう付け接合性が阻害される。このため、Xである個々の元素の含有量と総量を上記範囲に定めることが望ましい。なお、同様の理由でXの含有量を0.03~0.25%の範囲とするのがより望ましい。
【0021】
Si:2.0~14.0%
Siは、ろう付時に溶融ろうを形成し、接合部のフィレットを形成するために添加される。Si含有量が下限未満であると、溶融ろう量が不足する。一方、Si含有量が上限超であると、粗大なSiが形成され、素材製造が困難になる。あるいは、粗大なSi粒子が多く析出する。このため、Siの含有量を上記範囲に定めることが望ましい。なお、同様の理由でSi含有量を、3.0~12.5%の範囲とするのがより望ましい。
鋳造起因の粗大Si粒子は塊状、あるいは板状で熱間圧延でも破砕されずにブレージングシートにそのまま残存することがある。この粗大Si粒子はろう付時にエロージョンと呼ばれる局所溶融を引きおこし、穴あきの原因となる。
【0022】
なお、ろう材にはMgとSi、あるいは、上述の元素の他、Fe、Mn、Cuなどの不純物元素を0.3%以下、例えば0.01~0.2%程度、含んでいても良い。あるいは、ろう材には、前述の不純物元素が含まれていても、本実施形態において目的とする作用には影響しない。また、前記した不純物元素については本発明の効果を妨げず許容されるので積極的に添加しても差し支えない。
【0023】
「酸化皮膜表面のMgOの割合:面積率2%以下」
ろう付はろう溶融前に酸化皮膜を分解してアルミ新生面が露出することで接合がなされる。MgOはAl2O3などよりも緻密で強固な酸化皮膜であり、ろう付中に分解しにくいため、MgOの生成量が多いとろう付性が低下する。そのため、MgOは所定量以下にする必要がある。
ろう付昇温中のMgOの生成はろう付雰囲気(O2濃度)やろう付条件によっても変わるが、ろう付前の状態にも影響される。すなわち、ろう付前の酸化皮膜のMgOの割合が高い場合、もともと存在したMgOが成長する形でMgOが生成するため、同じろう付条件であってもMgOの生成量が増加する。したがって、ろう付中のMgOの生成を抑制するためにはろう付前の酸化皮膜のMgOの割合を低減しておくことが重要である。
ろう付前の酸化皮膜表面のMgOの割合はろう材およびクラッド材の製造条件によって制御することができる。
【0024】
「MgOの内、結晶性を有する領域:面積率4%以下」
Bi、Ga、Sn、In、PbはMgO皮膜中に浸透し、MgOを脆弱化させることでろう付性を向上させるが、浸透の程度はMgOの膜質によって異なり、結晶性の部分では浸透しにくく、非結晶性の部分では容易に浸透することができる。そのため、MgOの内、結晶性を有する領域が少なく、非結晶性の部分が多いほうがろう付性が向上する。そのため、MgOの内、結晶性を有する領域の面積率を所定量以下にする必要がある。
MgOの膜質はろう付雰囲気(O2濃度)やろう付条件によっても変わるが、ろう付前の状態に影響される。すなわち、ろう付前の酸化皮膜中のMgOが結晶性の場合、もともと存在した結晶性のMgOが成長するため、同じろう付条件であっても結晶性のMgOの割合が増加する。したがって、MgOの内、結晶性を有する領域を少なくするためには、ろう付前のMgO内の結晶性を有する領域を少なくしておくことが重要である。
ろう付前のMgO内の結晶性を有する領域の面積率の大小は素材製造条件によって制御することができる。
【0025】
「心材」
本形態における心材の組成は特定のものに限定されるものではないが、 以下の成分が好適に示される。
心材は、一例として、質量%で、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~ 1.5%およびZn:0.1~9.0%の内1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金で構成できる。
また、心材は、他の例として、質量%で、Si:0.05~1.2%、Mg:0.01~2.0%を含有し、さらにMn:0.1~2.5%、Cu:0.01~2.5%、Fe:0.05~1.5%、Zr:0.01~0.3%、Ti:0.01~0.3%、Cr:0.01~0.5%、Bi:0.005~1.5%およびZn:0.1~9.0%の内1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金で構成できる。
【0026】
Si:0.05~1.2%
Siは、固溶により材料強度を向上させる他、Mg2SiやAl-Mn-S i化合物として析出し材料強度を向上させる効果がある。但し、含有量が過小であると、効果が不十分となる。一方、含有量が過大であると、心材の固相線温度が低下し、ろう付時に溶融する。これらのため、心材にSiを含有させる場合、Si含有量は前記範囲とする。なお、同様の理由で、Si含有量を下限で0.1%、上限で1.0%とするのが望ましい。なお、Siを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.05%以下心材に含有してもよい。
【0027】
Mg:0.01~2.0%
Mgは、Siなどとの化合物が析出することで材料強度を向上する。一部はろう材に拡散し、酸化皮膜(Al2O3)を還元分解する。ただし、含有量が過小であると効果が不十分であり、一方、過大に含有すると、効果が飽和するだけでなく、材料が硬く脆くなるため、素材製造が困難になる。これらのため、心材にMgを含有させる場合、Mg含有量は前記範囲とする。なお、同様の理由で、Mg含有量を、下限で0.05%、上限で1.0%とするのが望ましい。なお、Mgを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
【0028】
Mn:0.1~2.5%
Mnは、金属間化合物として析出して材料強度を向上させる。さらに固溶により材料の電位を貴にして耐食性を向上させる。ただし、含有量が過小であると効果が不十分であり、一方、過大に含有すると、材料が硬くなり素材圧延性が低下する。これらのため、心材にMnを含有させる場合、Mn含有量は前記範囲とする。なお、同様の理由で、Mn含有量を下限で0.3%、上限で 1.8%とするのが望ましい。なお、Mnを積極的に含有しない場合でも、 不可避不純物として、例えば0.1%以下含有する心材であってもよい。
【0029】
Cu:0.01~2.5%
Cuは、固溶して材料強度を向上させる。ただし、含有量が過小であると効果が不十分であり、一方、過大に含有すると、心材の固相線温度が低下し、ろう付時に溶融する。これらのため、心材にCuを含有させる場合、Cu含有量は前記範囲とする。なお、同様の理由で、Cu含有量を下限で0.02%、上限で1.2%とするのが望ましい。なお、Cuを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
【0030】
Fe:0.05~1.5%
Feは、金属間化合物として析出して材料強度を向上させる。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると、ろう付後の腐食速度が速くなる。これらのため、心材にFeを含有させる場合、Fe含有量を前記範囲とする。
なお、同様の理由で、Fe含有量を下限で0.1%、上限で0.6%とするのが望ましい。なお、Feを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.05%以下含有する心材であってもよい。
【0031】
Zr:0.01~0.3%
Zrは、微細な金属間化合物を形成し材料強度を向上させる。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると、材料が硬くなり加工性が低下する。これらのため、心材にZrを含有させる場合、Zr含有量を前記範囲とする。なお、同様の理由で、Zr含有量を下限で0.05%、上限で0.2%とするのが望ましい。なお、Zrを積極的に含有しな い場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
【0032】
Ti:0.01~0.3%
Tiは、微細な金属間化合物を形成し材料強度を向上させる。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると、材料が硬くなり加工性が低下する。これらのため、心材にTiを含有させる場合、Ti含有量を前記範囲とする。なお、同様の理由で、Ti含有量を下限で0.05%、上限で0.2%とするのが望ましい。なお、Tiを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
【0033】
Cr:0.01~0.5%
Crは、微細な金属間化合物を形成し、材料強度を向上させる。ただし、 含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると、材料が硬くなり加工性が低下する。これらのため、心材にCrを含有させる場合、Cr含有量を前記範囲とする。なお、同様の理由で、Cr含有量を下限で0. 05%、上限で0.3%とするのが望ましい。なお、Crを積極的に含有し ない場合でも、不可避不純物として、例えば0.01%以下含有する心材であってもよい。
【0034】
Bi:0.005~1.5%
Biは、一部がろう材層に拡散することで溶融ろうの表面張力を低下させる。また、材料表面の緻密な酸化皮膜成長を抑制する。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると効果が飽和するとともに、材料表面でBiの酸化物が生成し易くなり接合が阻害される。これらのため、心材にBiを含有させる場合、Bi含有量を前記範囲とする。なお、同様の理由で、Bi含有量を下限で0.05%、上限で0.5%とするのが望ましい。なお、Biを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.005%以下含有する心材であってもよい。
【0035】
Zn:0.1~9.0%
Znは、材料の孔食電位を他部材よりも卑にし、犠牲防食効果を発揮する。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると効果が飽和する。これらのため、心材にZnを含有させる場合、Zn含有量を前記範囲とする。なお、同様の理由で、Zn含有量を下限で0.5%、上限で7.0%とするのが望ましい。なお、Znを積極的に含有しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.1%以下含有する心材であってもよい。
【0036】
「犠牲材」
本形態では、心材に犠牲材をクラッドしたアルミニウムブレージングシートとすることができる。
本形態における犠牲材の組成は特定のものに限定されるものではないが、以下の成分が好適に示される。
Zn:0.1~9.0%
Znは、材料の自然電位を他部材よりも卑にし、犠牲防食効果を発揮させ、クラッド材の耐孔食性を向上させるために犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると電位が卑となりすぎて犠牲材の腐食消耗速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるZn量を下限で1.0%、上限で8.0%とするのが望ましい。
【0037】
Si:0.05~1.2%
Siは、Al-Mn-Si、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると腐食速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるSi量を下限で0.3%、上限で1.0%とするのが望ましい。
【0038】
Mg:0.01~2.0%
Mgは、酸化皮膜を強固にすることで耐食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると材料が硬くなりすぎて圧延製造性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるMg量を下限で0.05%、上限で1.5%とするのが望ましい。
【0039】
Mn:0.1~2.5%
Mnは、Al-Mn、Al-Mn-Si、Al-Mn-Fe、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると腐食速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるMn量を下限で0.4%、上限で1.8%とするのが望ましい。
【0040】
Fe:0.05~1.5%
Feは、Al-Mn-Fe、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると腐食速度が速くなり、犠牲材の早期消失によってクラッド材の耐孔食性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるFe量を下限で0.1%、上限で0.7%とするのが望ましい。
【0041】
Zr:0.01~0.3%
Zrは、Al-Zr系金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることや、固溶Zrの濃淡部を形成させることで腐食形態を層状とすることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると鋳造時に巨大な金属間化合物を形成し圧延性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるZr量を下限で0.05%、上限で0.25%とするのが望ましい。
【0042】
Ti:0.01~0.3%
Tiは、Al-Ti系金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることや、固溶Tiの濃淡部を形成させることで腐食形態を層状とすることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると鋳造時に巨大な金属間化合物を形成し圧延性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるTi量を下限で0.05%、上限で0.25%とするのが望ましい。
【0043】
Cr:0.01~0.5%
Crは、Al-Cr系金属間化合物として析出して腐食の起点を分散させることや固溶Crの濃淡部を形成させることで腐食形態を層状とすることでクラッド材の耐孔食性を向上させるため、所望により犠牲材に添加される。含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、上限超えであると鋳造時に巨大な金属間化合物を形成し圧延性が低下する。なお、同様の理由で、犠牲材に含まれるCr量を下限で0.1%、上限で0.4%とするのが望ましい。
【0044】
Bi:0.005~1.5%
Biは、溶融ろうが犠牲材表面に接触した際に溶融ろうに拡散することで溶融ろうの表面張力を低下させ、また、材料表面の緻密な酸化皮膜成長を抑制するので、所望により犠牲材に添加される。ただし、含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、過大であると効果が飽和するとともに、材料表面でBiの酸化物が生成し易くなり接合が阻害される。これらのため、犠牲材に含まれるBi含有量を前記範囲とする。なお、同様の理由で、Bi含有量を下限で0.05%、上限で0.5%とするのが望ましい。ただし、Biを積極的に添加しない場合でも、不可避不純物として、例えば0.005%以下含有する犠牲材であってもよい。
【0045】
「クラッドする前のろう材の製造方法」
本実施形態で望ましいろう材組成に調製してアルミニウム合金を溶製する。該溶製は半連続鋳造法によって行うことができる。得られたアルミニウム合金鋳塊に対し、必要に応じて所定条件で均質化処理を行う。均質化処理温度は440℃以下で行うことが望ましい。
【0046】
アルミニウム合金鋳塊に対し、熱間圧延と冷間圧延を行うことでシート状のろう材を得ることができる。
なお、ろう材用のアルミニウム合金鋳塊の表面は、面削しておくことが望ましい。例えば、Raで2.0μm以下とする。Raが2.0μm超であるとMgOが生成しやすく、また、MgOが結晶化しやすくなると考えられる。
熱間圧延の温度と時間はMgOの結晶化に影響があると考えられ、熱間圧延を440℃超で行う場合にMgOが結晶化しやすいので、440℃超の熱間圧延の時間は5分以下とすることが望ましい。
【0047】
「クラッド材の熱間圧延」
次に、前記ろう材を心材などと組み付けて熱間でクラッド圧延するが、このとき、本実施形態では、均熱処理温度、熱間圧延時間、焼鈍温度、焼鈍時O2濃度を適宜制御することが望ましい。
また、クラッド時に均熱処理する場合、400℃以上520℃以下の温度範囲で行うことが望ましい。均熱温度が520℃を超えるとMgOが生成しやすくなると考えられる。
具体的には、熱間圧延時に440℃超の圧延時間を5分以下とする条件が望ましい。440℃超の圧延時間が5分を超えるようではMgOが結晶化しやすくなると考えられる。
【0048】
また、焼鈍温度は400℃以下とすることが望ましい。焼鈍温度が400℃を超えるとMgOが結晶化しやすくなる。また、焼鈍雰囲気の酸素濃度については、0.2%以下とすることが望ましい。酸素濃度(O2濃度)が高い場合にMgOが生成しやすく、また、MgOが結晶化しやすいと考えられる。
【0049】
その後、冷間圧延などを経て、本形態のブレージングシートが得られる。
冷間圧延では、例えば、75%以上の総圧下率で冷間圧延を行い、温度300~400℃にて中間焼鈍を行い、その後圧延率40%の最終圧延を行うことができる。冷間圧延の条件は特に限定されるものではないが一例として上述の条件を採用できる。また、中間焼鈍は行わなくてもよい。また、冷間圧延後に最終焼鈍する工程を採用することもできる。
【0050】
本形態の材料を得るには、鋳造後の面削条件、均質化条件、熱間圧延条件、および、焼鈍条件を適正に組み合わせることが望ましい。
熱間圧延、冷間圧延を行って心材の一方または両方の面にろう材が重ね合わされて接合されたクラッド材を得ることができる。
【0051】
前記工程を経ることにより、
図1に示すように、アルミニウム合金心材2の一方の面にアルミニウム合金ろう材3がクラッドされたろう付け用のアルミニウムブレージングシート1が得られる。なお、
図1では、心材の片面にろう材がクラッドされているアルミニウムブレージングシート1が記載されているが、心材の両面にろう材がクラッドされているアルミニウムブレージングシートであってもよい。また、心材の片面にろう材がクラッドされ、心材の他の面に犠牲材などがクラッドされているアルミニウムブレージングシートであってもよい。
【0052】
ろう付対象部材4として、例えば、質量%で、Mg:0.1~0.8%、Si:0.1~1.2%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成などのアルミニウム合金を調製し、フィン材などの適宜形状に加工される。なお、本形態としては、ろう付対象部材の組成が特に限定されるものではない。
前記冷間圧延などによって熱交換機用のフィン材を得た場合には、その後、必要に応じてコルゲート加工などを施す。コルゲート加工は、回転する2つの金型の間を通すことによって行うことができ、良好に加工を行うことを可能とし、優れた成形性を示す。
【0053】
前記工程で得られたフィン材は、熱交換器の構成部材として、他の構成部材(チューブやヘッダーなど)と組み合わされた組み付け体として、ろう付に供される。
前記組み付け体は、常圧下の非酸化性雰囲気とされた加熱炉内に配置される。非酸化性雰囲気は、窒素ガス、あるいは、アルゴンなどの不活性ガス、または、水素、アンモニアなどの還元性ガス、あるいはこれらの混合ガスを用いて構成することができる。ろう付炉内雰囲気の圧力は常圧を基本とする。また、例えば、製品内部のガス置換効率を向上させるために、ろう付炉内雰囲気をろう材溶融前の温度域で100kPa~0.1Pa程度の中低真空とすることや、炉内への外気(大気)混入を抑制するために、大気圧よりも5~100Pa程度陽圧としてもよい。これらの圧力範囲は、本形態における「減圧を伴わない」の範囲に含まれる。
【0054】
加熱炉は密閉した空間を有することを必要とせず、ろう付材の搬入口、搬出口を有するトンネル型であってもよい。このような加熱炉でも、不活性ガスを炉内に吹き出し続けることで非酸化性雰囲気が維持される。該非酸化性雰囲気としては、酸素濃度として体積比で50ppm以下が望ましい。
【0055】
前記非酸化性雰囲気下で、例えば、昇温速度10~200℃/minで加熱して、 組み付け体の到達温度が559~630℃となる熱処理条件にてろう付接合を行う。
ろう付条件において、昇温速度が速くなるほどろう付時間が短くなるため、材料表面の酸化皮膜成長が抑制されてろう付性が向上する。到達温度は少なくともろう材の固相線温度以上とすればろう付可能であるが、液相線温度に近づけることで流動ろう材が増加し、開放部を有する継手で良好な接合状態が得られ易くなる。ただし、あまり高温にするとろう浸食が進み易く、ろう付後の組付け体の構造寸法精度が低下するため好ましくない。
【0056】
このとき、Al-Si-Mg系の共晶温度は560~570℃程度であり、前記ろう付条件では共晶部が溶融する。なお、ろう材(Al-Si-Mg-X系ろう材)表面に存在する酸化皮膜中のMgOの割合が2%以下であり、かつ、前記酸化皮膜中のMgOの内、結晶性を有する領域が4%以下であることが好ましい。
【0057】
図2は、前記アルミニウムブレージングシート1を用いてフィン6を形成し、ろう付対象材としてアルミニウム合金製のチューブ7を用いたアルミニウム製熱交換器5を示している。フィン6、チューブ7を、補強材8、ヘッダプレート9と組み込んで、フラックスフリーろう付によって自動車用などのアルミニウム製熱交換器5を得ることができる。
【0058】
図3は、フィン6の湾曲部とチューブ7との間に形成されたフィレットからなる接合部10の幅W(フィン6の湾曲部頂点とチューブ7の接点部分を挟むようにチューブ7の長さ方向に沿って存在するフィレットの全幅)を示す。
図3は接合部10の幅Wが大きく形成された例と小さく形成された例について、左右に対比して示す。
図3に示すように接合部10の幅Wが大きいならば、良好なろう付け接合ができたこととなる。
本実施形態に係るブレージングシート1からなるフィン6を用いてろう付け接合し、製造された熱交換器5であるならば、ろう付け接合部分に十分に大きなフレットを形成できるので、良好なろう付け接合部分を有する熱交換器5を提供できる。
【実施例】
【0059】
表1、表2に示す組成(残部:Alと不可避不純物)のAl合金ろう材を用いた各種ブレージングシートを表3に示す鋳造条件、および熱間圧延条件にて得た熱間圧延板から作製する。心材は全ての試料でAl-1.0Mn-0.2Si-0.15Cu-0.3Mgなる組成のアルミニウム合金板である。なお、クラッド率は心材に対しろう材10%である。
その後、中間焼鈍を含む冷間圧延によって、H14相当調質の0.20mm厚の冷間圧延板を作製する。
【0060】
また、ろう付対象部材としてA3003合金、H14のアルミニウムベア材(0.06mm厚)のコルゲートフィンを用いる。
前記アルミニウムクラッド材を用いて幅25mmのチューブを製作し、該チューブとコルゲートフィンとを該チューブろう材とコルゲートフィンが接するように組み合わせ、ろう付評価モデルとしてチューブ15段、長さ300mmの評価用コアとする。
前記評価用コアを、窒素雰囲気中(酸素含有量15ppm)のろう付炉にて、600℃まで加熱してろう付けすることで、該評価用コアのろう付状態を評価する。その際の昇温と冷却は、それぞれ、室温から600℃までの平均昇温速度が30℃/min、ろう付終了後の冷却速度が100℃/minである。
なお、ろう付条件は上記に限定されるものではない。以下に各評価項目について説明する。
【0061】
「酸化皮膜中のMgOの面積率の測定」
酸化皮膜中のMgOの面積率は、ろう付け前の評価用コアから、任意に選択した10箇所を切り出し、個々の断面をFIB加工(収束イオンビーム加工)し、TEM-ASTAR(透過電子顕微鏡ベース結晶方位解析システム)、およびEDS(エネルギー分散型X線分光器)を用いて測定する。
TEMの明視野像観察およびEDS分析(エネルギー分散型X線分析)から、酸化皮膜面積を算出する。さらに、酸化皮膜面積からAl2O3皮膜領域とMgAlO4皮膜領域を差し引いた領域をMgO領域と判定し(解析不能領域を含む)、酸化皮膜中のMgOの割合(面積率:%)を算出する。酸化皮膜中のMgOの面積率は、10箇所の測定箇所の平均値とする。
【0062】
「MgO内の結晶性を有する領域の測定」
MgO内の結晶性を有する領域の測定は、ろう付け前の評価用コアから、任意に選択した10箇所を切り出し、個々の断面をFIB加工して、TEM-ASTAR、およびEDSを用いて測定する。
TEMの明視野像観察およびEDS分析から酸化皮膜面積を算出する。さらに、酸化皮膜面積からAl2O3皮膜領域とMgAlO4皮膜領域を差し引いた領域をMgO領域と判定する(解析不能領域を含む)。さらに、MgO領域において電子線回折パターンが得られる領域を結晶性MgOと判断し、MgO内の結晶性を有する領域(面積率)を算出する。
【0063】
「ろう付性の評価」
「接合率」
以下の式による接合率(フィン接合率)を求め、各ろう付け評価用コア間の優劣を評価した。
フィン接合率=(フィンとチューブの総ろう付長さ/フィンとチューブの総接触長さ)×100(%)
フィン接合率では、95%以上が○、95%未満を×である。
フィンとチューブの総接触長さとは、上述のように組み付けた評価用コアにおいて、組み付けた時点におけるフィンとチューブの接触長の合計を意味する。
総ろう付長さとは、ろう付後、実際にフィンとチューブがろう付接合されている箇所の合計長さを意味する。ろう付接合箇所の特定と未接合箇所の特定は、ろう付け後のチューブからフィンをはぎ取り、ろう付されている箇所とろう付されていない箇所を目視判定し、区別した。ろう付されていない箇所は、溶融ろうの回り込みがない部分であるので目視で容易に判別することができる。
フィン接合率100%の場合、総接触長さ=総ろう付長さとなり、ろう付接合性が悪い場合に、総接触長さ>総ろう付長さ(フィンとチューブが接しているが接合されていない領域がある)となる。
【0064】
「フィレット長さ」
ろう付けコアサンプルを樹脂包埋、鏡面研磨し、光学顕微鏡を用いて
図3に示す接合部におけるフィレット長さを測定し、優劣を評価する。
フィレット長さでは、700μm以上が○○、600μm以上700μm未満が○、600μm未満が×である。
以上の評価結果を以下の表1、表2に記載する。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
表1に示す結果が示すように、実施例No.1~26は、質量%で、Mgを0.05~2.0%、Siを2.0~14.0%含有し、さらに0.01~0.30%のBi、Ga、Sn、In、Pbのうち、1種あるいは2種以上を含有し、かつ、Bi、Ga、Sn、In、Pbの総量が0.5%以下であるAl-Si-Mg-X系ろう材が心材の片面または両面にクラッドされて最表面に位置し、前記Al-Si-Mg-X系ろう材の表面に生成した酸化皮膜表面のMgOの割合が面積率で2%以下であり、かつ、前記酸化皮膜表面のMgOの内、結晶性を有する領域が面積率で4%以下のブレージングシートである。
このため、上述のブレージングシートを用いてろう付けした場合、エロージョンの生じ難い、ろう付け接合性に優れた熱交換器などのろう付け接合物を得ることができる。
また、表1に示す実施例No.1~26の試料の作製方法は、表3に示すA、B、C(条件1)の何れかの方法による。
【0069】
実施例試料に対し、表2に示す比較例1の試料は、ろう材のMg含有量が少ない試料であり、比較例2の試料はろう材のMg含有量が多い試料であるが、結晶性MgOの割合あるいはMgOの割合が多くなり、ろう付けの接合率が悪く、フィレット長さが不足している。
比較例3の試料は、ろう材のSi含有量が少ない試料であるが、ろう付けの接合率が悪く、フィレット長さが不足している。
比較例4の試料は、ろう材のSi含有量が多い試料であるが、粗大Si粒子が多く発生することで、著しいエロージョンを生じている。
【0070】
比較例5の試料は、ろう材のBi含有量が少ない試料であるが、ろう付けの接合率が悪く、フィレット長さが不足している。
比較例6の試料はろう材のBi含有量が多い試料であるが、MgOの割合が多く、フィレット長さが不足している。
比較例7の試料はろう材のX含有量(総量)が多い試料であるが、MgOの割合が多く、ろう付けの接合率が悪く、フィレット長さが不足している。
比較例8の成分含有量は良好な範囲であるが、製造方法として表3に示すDを採用しているため、結晶性MgOの面積割合が多くなり、フィレット長さが不足している。Dは面削のRaを3.0μmとして表面を粗くして製造する方法である。
【0071】
比較例9の成分含有量は良好な範囲であるが、製造方法として表3に示すEを採用しているため、MgOの割合と結晶性MgOの面積割合がいずれも多くなり、フィレット長さが短い。Eはろう材の均質化処理を500℃で行う製造方法である。
比較例10の成分含有量は良好な範囲であるが、製造方法として表3に示すFを採用しているため、MgOの割合と結晶性MgOの面積割合がいずれも多くなり、フィレット長さが短い。Fはろう材の熱間圧延時間が8分と長い製造方法である。
比較例11の成分含有量は良好な範囲であるが、製造方法として表3に示すGを採用しているため、MgOの割合と結晶性MgOの面積割合がいずれも多くなり、フィレット長さが短い。Gはクラッド時の熱間圧延時間が7分と長い製造方法である。
【0072】
比較例12の成分含有量は良好な範囲であるが、製造方法として表3に示すHを採用しているため、MgOの割合と結晶性MgOの面積割合がいずれも多くなり、フィレット長さが短い。Hは焼鈍時の酸素濃度が0.3%の製造方法である。
比較例13の成分含有量は良好な範囲であるが、製造方法として表3に示すIを採用しているため、MgOの割合と結晶性MgOの面積割合がいずれも多くなり、フィレット長さが短い。Iは面削のRaが2.2μm、ろう材の均質化処理が500℃、ろう材の熱間圧延時間が6分、クラッド時の均熱処理温度が550℃、クラッド時の熱間圧延時間が7.3分である。
【0073】
比較例14~19は、成分含有量は良好な範囲であるが、比較例8~比較例13と同様に製造方法として表3に示すE~Iのいずれかを採用しているため、MgOの割合と結晶性MgOの面積割合がいずれも多くなり、フィレット長さが短い。
【0074】
比較例8~13と比較例14~19が示すように、ろう材の成分含有量が上述した望ましい範囲であっても、製造工程においてろう材を製造するための鋳塊の面削条件と、ろう材の均質化処理温度と、ろう材の熱間圧延時間と、クラッド時の均熱処理温度と、クラッド時の熱間圧延時間と、焼鈍時の酸素濃度を上述のように好適な範囲とすることが重要であることがわかる。
これは、上述の製造条件により酸化皮膜の状態が変わり、酸化皮膜におけるMgOの割合が変わり、MgO内の結晶性MgOの割合が変わるので、ろう付け時の接合率に影響が及び、ろう付け時に生成するフィレット長さに影響が及ぶことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のブレージングシートは、空調設備の室内機、室外機などの熱交換器あるいは自動車用熱交換器などのろう付けに広く用いることができる。
【符号の説明】
【0076】
1…アルミニウムブレージングシート、2…アルミニウム合金心材、3…アルミニウム合金ろう材、4…対象部材、5…アルミニウム製熱交換器、6…フィン、7…チューブ、
10…接合部。