(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】平ベルト伝動システム及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
F16H 7/20 20060101AFI20240220BHJP
F16H 7/12 20060101ALI20240220BHJP
F16H 55/36 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
F16H7/20
F16H7/12 A
F16H55/36 A
(21)【出願番号】P 2020131155
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉見 武将
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-249092(JP,A)
【文献】特開昭56-132206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/20
F16H 7/12
F16H 55/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動プーリと、
従動プーリと、
上記駆動プーリ及び上記従動プーリに掛けられる平ベルトと、
上記平ベルトに当接し、該平ベルトの蛇行を制御する蛇行制御プーリと、
アーム支持軸に揺動可能に支持されるテンションアームと、
上記テンションアームに設けられ、上記蛇行制御プーリを回転自在に支持すると共に、枢軸の周りに揺動自在に支持するプーリ軸とを備え、
上記枢軸は、上記駆動プーリの
逆転時に、上記プーリ軸の方向に沿って見て、
枢軸の平ベルトに近い側の端部が、軸荷重の方向に対して上記蛇行制御プーリに正転方向前側に-15°以上でかつ0°よりも小さい角度で傾倒し、
上記枢軸は、上記駆動プーリの正転時には、上記平ベルトの張力により、上記プーリ軸の方向に沿って見て、枢軸の平ベルトに近い側の端部が、軸荷重の方向に対して上記蛇行制御プーリに正転方向前側に0°よりも大きい角度で傾倒している
ことを特徴とする平ベルト伝動システム。
【請求項2】
駆動プーリと、
従動プーリと、
上記駆動プーリ及び上記従動プーリに掛けられる平ベルトと、
上記平ベルトに当接し、該平ベルトの蛇行を制御する蛇行制御プーリと、
アーム支持軸に揺動可能に支持されるテンションアームと、
上記テンションアームに設けられ、上記蛇行制御プーリを回転自在に支持すると共に、枢軸の周りに揺動自在に支持するプーリ軸とを備えた平ベルト伝動システムの使用方法であって、
上記駆動プーリの
逆転時に、上記枢軸を、上記プーリ軸の方向に沿って見て、
枢軸の平ベルトに近い側の端部が、軸荷重の方向に対して上記蛇行制御プーリに正転方向前側に-15°以上でかつ0°よりも小さい角度で傾倒するように調整し、かつ、
正転時には、上記枢軸を、上記プーリ軸の方向に沿って見て、
枢軸の平ベルトに近い側の端部が、軸荷重の方向に対して上記蛇行制御プーリに正転方向前側に0°よりも大きい角度で傾倒するように調整する
ことを特徴とする平ベルト伝動システムの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛇行制御プーリを有する平ベルト伝動システム及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平ベルトを用いた伝動システムにおいては、平ベルトが走行中に蛇行したり、プーリの片側に寄って片寄り走行したりすることがある。これは、平ベルトが、他の平ベルトに比べて、プーリ軸の正規位置からのずれや、軸荷重の変化によるプーリ軸のたわみ、プーリの揺れなどに敏感なためである。このような蛇行及び片寄り走行を防ぐために、平ベルトの蛇行を防止する平ベルト蛇行制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2のように、ワンウェイクラッチを有する蛇行制御プーリが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-25932号公報
【文献】特許第6412293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
送風機などのファンを有する平ベルト伝動システムでは、風などでファンが逆方向に回転(以下、逆転という)することがある。このような場合、上述したように、平ベルトはプーリからずれやすく、逆転すると平ベルトが蛇行する方向に動き、平ベルトがプーリのフランジに接触し、ベルト側面を損傷する。また、場合によっては、平ベルトがフランジに乗り上げてプーリから脱落してしまうおそれがある。
【0006】
また、特許文献2のようなワンウェイクラッチを設けなくても逆転による脱落を防止できる簡易なものが求められている。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単な構造で確実に逆転時におけるベルトの脱落を阻止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、逆転時にも蛇行防止機能を発揮できるように、停止時にプーリ軸を敢えて正転時とは逆方向にミスアライメントするようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明の平ベルト伝動システムは、
駆動プーリと、
従動プーリと、
上記駆動プーリ及び上記従動プーリに掛けられる平ベルトと、
上記平ベルトに当接し、該平ベルトの蛇行を制御する蛇行制御プーリと、
上記蛇行制御プーリを回転自在に支持すると共に、枢軸の周りに揺動自在に支持するプーリ軸とを備え、
上記枢軸は、上記駆動プーリの停止時に、上記プーリ軸の方向に沿って見て、軸荷重の方向に対して上記蛇行制御プーリに正転方向前側に-15°以上でかつ0°よりも小さい角度で傾倒している。
【0010】
同様に第3の発明の平ベルト伝動システムの使用方法は、
駆動プーリと、
従動プーリと、
上記駆動プーリ及び上記従動プーリに掛けられる平ベルトと、
上記平ベルトに当接し、該平ベルトの蛇行を制御する蛇行制御プーリと、
上記蛇行制御プーリを回転自在に支持すると共に、枢軸の周りに揺動自在に支持するプーリ軸とを備えた平ベルト伝動システムの使用方法であって、
上記駆動プーリの停止時に、上記枢軸を、上記プーリ軸の方向に沿って見て、軸荷重の方向に対して上記蛇行制御プーリに正転方向前側に-15°以上でかつ0°よりも小さい角度で傾倒するように調整し、かつ、
正転時には、上記枢軸を、上記プーリ軸の方向に沿って見て、軸荷重の方向に対して上記蛇行制御プーリに正転方向前側に0°よりも大きい角度で傾倒するように調整する構成とする。
【0011】
通常、蛇行制御プーリは、正転時に、プーリ軸の傾きを調整して平ベルトの蛇行を防止する蛇行防止機能を発揮する。しかし、強風などによりファンが逆回転するような逆転時には、構造上、その機能を発揮できず、蛇行制御プーリが一方向に傾いたままとなり、そこを起点にベルト位置がずれていき、最終的に脱落に至る。
【0012】
全体の剛性の低い平ベルト伝動システムの場合、平ベルトを掛ける前の駆動プーリの停止時において、駆動時に平ベルトから加わる軸荷重の逆方向にミスアライメントをとることで、正転時の荷重がかかった際にミスアライメントが0となるように調整を行っている。しかし、上記の構成によると、停止時における枢軸の傾倒角度を敢えて正転方向前側に-15°以上でかつ0°よりも小さい角度(言い換えると、正転方向後ろ側に0°よりも大きく15°以下の角度)とすることにより、荷重の加わらない状態の逆転時に正転時とは逆方向の傾倒角度が保たれていることから、逆転時でも蛇行制御プーリにより蛇行制御が行われる。このため、逆転時でも平ベルトが脱落することはない。一方、正転時には、平ベルトの荷重により、ミスアライメントが0とはならずに正転方向前側にプラスとなるようにすることで、この場合も従来通り蛇行制御可能である。
【0013】
第2の発明では、第1の発明において、
上記枢軸は、上記駆動プーリの正転時には、上記平ベルトの張力により、上記プーリ軸の方向に沿って見て、軸荷重の方向に対して上記蛇行制御プーリに正転方向前側に0°よりも大きい角度で傾倒している。
【0014】
上記の構成によると、逆転時でも蛇行制御が可能なため、ワンウェイクラッチなどで強制的に逆転を回避する部品を設ける必要はなく、正転時及び逆転時に平ベルトが脱落することはない。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、簡単な構造で正転時及び逆転時に蛇行制御可能な平ベルト伝動システムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るベルト伝動システムの概要を示す斜視図である。
【
図2A】正転時の枢軸の傾倒角度を示す正面図である。
【
図3A】逆転時の枢軸の傾倒角度を示す正面図である。
【
図4】逆転時の軸間距離の変化について説明するための側面図である。
【
図5】蛇行制御デバイスの詳細を説明するための正面図である。
【
図7】蛇行制御プーリの使用状態における支持ロッド周りの概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1~
図3は、本発明の実施形態に係る平ベルト伝動システム1を示す。各図において、正転方向を矢印Fで示し、逆転方向を矢印Rで示す。
【0019】
この平ベルト伝動システム1は、詳しくは図示しないが、例えば冷却塔、送風機等の駆動システムとして用いられ、電動モータ等のアクチュエータに駆動される駆動プーリ2と、ファン等の回転軸に連結された従動プーリ3と、これらに掛けられる平ベルト6とを備えている。この平ベルト伝動システム1は、送風機に限定されず、空調機、コンプレッサーなどにも用いられる。特にエンジンの出力軸に取り付けられるベルト伝動システムと違って回転変動がない、又はほとんどないものを対象とする。平ベルト6は、例えば、厚さ方向中心に心線を備え、この心線が上ゴム及び底ゴムによって挟持されているような構造とする。しかし、平ベルト6の種類は特に限定されず、材質等も特に限定されず、走行時に蛇行しやすいベルトも対象となり得る。
【0020】
本実施形態の平ベルト伝動システム1は、上記平ベルト6の伝動面に当接する蛇行制御プーリ5の傾きを調整して平ベルト6の蛇行を制御する蛇行制御デバイス4を備えている。この蛇行制御デバイス4は、送風機などに取り付けられるベース部4aと、このベース部4aの一端のアーム支持軸4bに揺動可能に支持されるテンションアーム4cとを備え、このテンションアーム4cに上記蛇行制御プーリ5を回転可能に支持するプーリ軸7が設けられている。
【0021】
具体的には、蛇行制御デバイス4は、
図5及び
図6にも示すように、平ベルト6が巻き掛けられる蛇行制御プーリ5と、蛇行制御プーリ5を回転軸J3周りに回転自在に支持するプーリ軸7とを備えている。
【0022】
プーリ軸7は、蛇行制御プーリ5をベアリング12によって支持する軸部材11と、支持ロッド13と、枢軸Cを構成するピン17とを備えている。
【0023】
上記軸部材11は、平面視長孔状で軸方向に貫通する挿入孔11’を有し、この挿入孔11’の内周面には、平坦かつ互いに平行な摺動面11a,11aと、これら摺動面11a,11aを両側で接続する円弧面11b,11bとが形成されている。また、各摺動面11aの略中央部には、支持孔11cが貫通形成されている。
【0024】
支持ロッド13は、テンションアーム4cに締結された取付部13aと、軸部材11の挿入孔11’に挿入された支持部13bとからなる。支持部13bには、
図5に示すように、互いに平行かつ平坦な摺動面13c,13cが、軸部材11の摺動面11a,11aに対向して摺動自在に接触するように形成されている。また、支持部13bの摺動面11a,11aの両側には、円弧面13d,13dが形成されている。また、支持部13bには、上記摺動面13c,13cの略中央部で開口する貫通孔13eが形成されている。
【0025】
プーリ軸7のピン17は、支持ロッド13の支持部13bに形成された貫通孔13eに嵌められ、ピン17の両端は軸部材11に形成された支持孔11cに嵌められている。したがって、ピン17は、蛇行制御プーリ5の幅方向中央付近に位置し、支持ロッド13の摺動面13c,13cに直交している。
【0026】
軸部材11の円弧面11b,11bと、支持ロッド13の円弧面13d,13dとの間には、ピン17を軸として軸部材11が蛇行制御プーリ5と共に揺動することを許容する隙間15,15が形成されている。したがって、蛇行制御プーリ5は、回転軸J3周りに回転自在に、かつ回転軸J3に直交する枢軸C周りに揺動自在に支持されている。
【0027】
蛇行制御デバイス4は、
図2、
図5及び
図7に示すように、軸荷重(平ベルト6の張力によって軸部材11にかかる荷重)Pの方向を基準として、ピン17を正転方向前側に、角度αだけ傾倒させて使用される。言い換えれば、
図2Bに拡大して示すように、この蛇行制御プーリ5に加わる軸荷重Pは、蛇行制御プーリ5に巻き付く平ベルト6の巻付き部分の中央と、プーリ軸7の軸心とをつないだ線分に加わることになるが、ピン17との角度差がαとなる。このαの値は、駆動プーリ2のモータが駆動した場合の平ベルト6の進行方向に対し、蛇行制御プーリ5に加わる軸荷重Pの方向を基準としてピン17を正転方向前側に向けた場合、プラスの値とする。正転時には、蛇行制御機能を発揮するために、αの値は正転方向前側にプラスである必要がある。αの値が正転方向前側とは逆方向のマイナスになると、蛇行制御プーリ5の中央から平ベルト6が脱落するように作用する。例えば、
図2Bでは、α=8°であり、蛇行制御が働く。
【0028】
図3Bに対し、
図2Bの状態では、テンションアーム4cが21°ほど左回転しており、その分、ピン17の方向が回転している。このため、
図3Bでは、α=-13°となっている。
【0029】
α=-13°となると、平ベルト6がF方向に正転した場合、平ベルト6は脱落するが、R方向に逆転すると、蛇行制御が働き脱落しない。
【0030】
すなわち、
図3A及び
図3Bの場合、従動プーリ3側のファンが強風などの外力によって逆回転するような逆転時でも、蛇行制御プーリ5は、その蛇行制御機能を発揮する。
【0031】
このように、
図2Aに示したように、平ベルト6の正転方向Fが時計回りで、蛇行制御プーリ5が反時計回りのとき蛇行制御機能が発揮され、平ベルト6の正転方向Fが時計回りで、蛇行制御プーリ5が時計回りのときは、蛇行制御機能は発揮されない。
【0032】
図8において実線で示すように、蛇行制御プーリ5の幅方向中央付近に掛かっていた平ベルト6が、二点鎖線で示す如く蛇行制御プーリ5の中央からその片側へ寄ると、軸荷重はピン17の位置から蛇行制御プーリ5の片側にずれて軸部材11に作用するようになる。これにより、軸部材11にピン17を中心とする(枢軸C周りの)回転モーメントが働き、軸部材11が蛇行制御プーリ5と共にピン17の周りを回転変位する。
【0033】
すなわち、
図7に示すように、軸荷重の方向がピン17と平行であるとき(P0のとき)には、ピン17周りの回転モーメントは発生しない。これに対して、軸荷重の方向がピン17の方向に対して角度αだけ傾いたPの方向になると、その分力P1によって、ピン17周りの回転モーメントが発生し、軸部材11は回転変位することになる。
【0034】
軸荷重Pによって、蛇行制御プーリ5が傾倒したピン17周りに回転変位することにより、蛇行制御プーリ5は、
図8において二点鎖線で示すように、平ベルト6が片寄ってきた側が正転方向Fの前側となるように、この平ベルト6に対して斜交い状態になり、また、
図9(
図5のIX方向矢視図)の二点鎖線に示すように、平ベルト6が片寄ってきた側が低く、反対側が高くなるように軸荷重Pの方向において傾斜する。
【0035】
したがって、平ベルト6には、蛇行制御プーリ5が斜交い状態になることによる戻し力(片寄りを戻す力)と、蛇行制御プーリ5が傾斜することによる戻し力とが働き、これによって、平ベルト6の片寄りが防止される。すなわち、平ベルト6は、蛇行制御プーリ5が斜交いになり、かつ傾斜することによる戻し力と、ファン1全体の特性によって平ベルト6に作用する片寄り力とがつり合う位置で走行することになる。このように、蛇行制御デバイス4は、平ベルト6の走行位置を一定に規制することができるように構成されている。
【0036】
また、テンションアーム4cは、ベース部4aの他端側に設けた引っ張りバネ4dにより所定の引っ張り力で付勢されることで、オートテンショナとしての機能も果たしている。この蛇行制御デバイス4により、平ベルト6の走行位置が自律制御され、張力付与が引っ張りバネ4dで安定維持されるので、平ベルト6の長寿命化及びメンテナンスフリーを達成できるようになっている。
【0037】
そして、本実施形態の特徴として、平ベルト伝動システム1の枢軸であるピン17は、
図3に示すように、駆動プーリ2が駆動されず、平ベルト6が停止した状態で、プーリ軸7の方向に沿って見て、軸荷重の方向に対して蛇行制御プーリ5に正転方向前側に-15°以上でかつ0°よりも小さい角度βで傾倒している。すなわち、正転時の角度αが正転方向前側にプラスであるのに対し、この角度βは正転方向前側とは逆方向を意味するマイナスの値となっている(-15°≦β<0°)。
【0038】
-平ベルト伝動システムの作動-
例えば、送風機に平ベルト伝動システム1が使用された例について説明する。
【0039】
電動モータ等を駆動しない、停止状態においては、
図3A、
図3B及び
図4に示したように、
図2A及び
図2Bで示す正転時に比べて平ベルト6が緩んだ分、駆動プーリ2の回転軸が例えば、距離L3=5mmで、角度γ=約3°移動する。
図3に示すように、例えば、軸荷重の方向がピン17の方向に対して角度β=-13°だけ傾いた状態となる。
【0040】
例えば、正転時の軸間距離がL1=1295mmである場合、逆転時の軸間距離L2はL3=5mm程度増えて約1300mmとなる。このときの
図3に示す角度βは、例えばβ=-13°に設定されている。この角度βは-15°≦β<0°で設定される。
【0041】
このように軸間距離が変化するのは、駆動プーリ2にトルクが生じた場合、蛇行制御プーリ5のある上側スパンの張力は、大きく変化しないにもかかわらず、下側スパンの張力は、モータトルクにより高くなるために駆動プーリ2に加わる軸力が大きくなり、駆動プーリの角度γが変化するためである。
【0042】
通常、モータ軸がベルト張力変化により傾斜角度が変化するように不安定な固定は避けるべきであるが、取付位置によっては支える鋼材が多大になる場合もあり、モータ支持部分の強度を確保できる場合には、モータ自体がベルト張力により動くような支持も許容される。
【0043】
本実施形態では、モータ軸がベルト張力変化により傾斜角度を変えるような柔構造の構成を利用して平ベルト6が逆転した場合においても、脱落を避けることができるようにしている。
【0044】
上述したように、
図3Bに対し、
図2Bの場合には、駆動プーリ2と従動プーリ3間の軸間距離は、L3=5mm短くなるγ=0°となるが、その長さの変化に対し、アーム支持軸4bに対してテンションアーム4cが左方向に回転し、蛇行制御プーリ5が下側に移動することにより、平ベルト6に所定の張力を加えるようにしている。
【0045】
そして、停止時に、従動側のファンが強風などにより外力が加わって逆回転するような逆転時でも、蛇行制御プーリ5は、その蛇行制御機能を発揮する。すなわち、逆転時には、平ベルト6の走行方向が
図2の場合と逆になるが、そのときの角度βが正転時とは逆方向側にあるので、結果として、
図2の正転時のαが正転方向前側にプラスの場合と同様に、平ベルト6が蛇行しようとすると、その蛇行を戻すような方向にプーリ軸7が、プーリ軸7に直交するピン17を中心に傾いて蛇行を防止する蛇行防止機能を発揮する。そして、平ベルト6には、蛇行制御プーリ5が斜交い状態になることによる戻し力(片寄りを戻す力)と、蛇行制御プーリ5が傾斜することによる戻し力とが働き、これによって逆転時でも平ベルト6の片寄りが防止される。
【0046】
一方、駆動モータを駆動すると、
図4に実線で示すように、平ベルト6に引張張力が働き、平ベルト伝送システム1全体の剛性が低いことから、少し寝ていた駆動プーリ2の回転軸が起き上がる。また、平ベルト6は、張力により全体で約5.5mm程度延びる。この力関係による各部材の変動により、
図2に示すように、角度αは正転方向前側にプラス(例えば11°)となる。
図3に示すように、駆動プーリ2が正転方向に回転し、従動プーリ3が回転する。この動力により、ファンが回転する。蛇行制御デバイス4は、オートテンショナ機能も有するので、引っ張りバネ4dの張力により、平ベルト6が適度な張力に保たれている。
【0047】
蛇行制御プーリ5は、このような正転時に平ベルト6が蛇行した場合、その蛇行を戻すような方向にプーリ軸7が、プーリ軸7に直交するピンを中心に傾いて蛇行を防止する蛇行防止機能を発揮する。そして、平ベルト6には、蛇行制御プーリ5が斜交い状態になることによる戻し力(片寄りを戻す力)と、蛇行制御プーリ5が傾斜することによる戻し力とが働き、これによって平ベルト6の片寄りが防止される。
【0048】
したがって、本実施形態に係る平ベルトの駆動装置1によると、停止時のミスアライメント角度βを敢えて正転時とは逆方向に設定し、正転時には、角度αが正転方向前側にプラスになるようにしたことにより、正転時の蛇行防止機能を確保しつつ、簡単な構造で確実に逆転時における平ベルト6の脱落を阻止できる。このため、簡単な構造で正転時及び逆転時に蛇行制御可能な平ベルト伝動システムが得られる。また、蛇行制御デバイス4特有の弱点を解消できる。
【0049】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0050】
すなわち、上記実施形態は、送風機などの特に回転変動のない平ベルト伝動システム1に適しているが、多少回転変動がある場合にも適用できる。
【0051】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0052】
1 平ベルト伝動システム
2 駆動プーリ
3 従動プーリ
4 蛇行制御デバイス
4a ベース部
4b アーム支持軸
4c テンションアーム
4d 引っ張りバネ
5 蛇行制御プーリ
6 平ベルト
7 プーリ軸
10 脱落防止部材
11 軸部材
11’ 挿入孔
11a 摺動面
11a,11a 摺動面
11b,11b 円弧面
11c 支持孔
12 ベアリング
13 支持ロッド
13a 取付部
13b 支持部
13c,13c 摺動面
13d,13d 円弧面
13e 貫通孔
15,15 隙間
17 ピン(枢軸C)