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特許7440406蛍光X線測定のための方法および測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】蛍光X線測定のための方法および測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20240220BHJP
   A61B 6/00 20240101ALI20240220BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20240220BHJP
   A61B 6/50 20240101ALI20240220BHJP
【FI】
G01N23/223
A61B6/00 530Z
A61B6/00 533
A61B6/03 573
A61B6/50 511G
A61B6/50 511Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020505967
(86)(22)【出願日】2018-04-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-11
(86)【国際出願番号】 EP2018058859
(87)【国際公開番号】W WO2018189051
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-02-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】102017003517.2
(32)【優先日】2017-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519365942
【氏名又は名称】アクシオム・インサイツ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン・グリューナー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ヘーシェン
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン・ブルーメンドルフ
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】伊藤 幸仙
【審判官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0188629(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102012023344(DE,A1)
【文献】国際公開第2016/082006(WO,A1)
【文献】特表2011-505228(JP,A)
【文献】特表2006-519647(JP,A)
【文献】M.West et al.,Atomic spectroscopy update - X-ray fluorescence spectroscopy,J.Anal.At.Spectrom.,2012年08月07日,Vol.27,No.10,pp.1603-1644,doi:10.1039/c2ja90045a
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - 23/2276
A61B 6/00 - 6/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光を発する標的粒子の存在が検査される対象(1)内で検出され、存在する標的粒子が前記対象(1)内で位置特定される、蛍光X線測定のための方法であって、
(a)X線ビーム(2)が第1の投影方向に平行なX線ビーム方向に前記対象(1)を通って延びる、線源装置(10)によって前記X線ビーム(2)を生成するステップと、
(b)第1の投影面内の多数の走査位置において前記X線ビーム(2)により前記対象(1)を照射するステップであって、前記走査位置は、走査装置(20)によって設定され、前記走査装置によって、前記線源装置(10)および前記対象(1)が互いに動かされる、ステップと、
(c)前記線源装置(10)に接続された検出器アレイ装置(30)を使用して各走査位置において前記対象(1)から複数の空間方向に放射された放射X線を検出するステップであって、前記放射X線は、標的粒子の蛍光X線及び背景ノイズX線散乱放射を含み、前記検出器アレイ装置(30)は、多数の空間方向において前記放射X線を検出するように配置された多数のスペクトル選択的な検出器要素(31)と、前記X線ビーム方向に対して放射方向に延び、前記対象(1)内の直接照射されていない場所で散乱された放射X線から前記検出器要素(31)を遮蔽し、前記検出器要素(31)が前記対象(1)内の前記X線ビームが照射されたすべての場所からの放射X線を検出することができるように配置された、複数のスクリーン薄板(32)であって、前記スクリーン薄板(32)が、遮断されていない見通し線が前記対象(1)内のX線ビームが照射されたすべての場所から前記検出器要素まで延び、前記対象(1)内の直接照射されていない場所から前記検出器要素までの見通し線が前記スクリーン薄板(32)によって遮断されるように配置される、複数のスクリーン薄板(32)とを含む、ステップと、
(d)被検出放射X線内の標的粒子の蛍光X線を検出するために、および、前記蛍光X線が検出された場合、前記対象(1)内の前記標的粒子を位置特定するために、前記検出器要素の検出器信号を処理するステップと、
を含み、
- 多数の所定の走査位置の各々に関して、前記対象から生じる前記放射X線のエネルギースペクトルが、各検出器要素によって測定され、有意な検出器要素(31)のサブセットが求められ、前記有意な検出器要素の前記検出器信号が、残りの前記検出器要素(31)と比較して増大する統計的有意性によって前記標的粒子の前記蛍光X線の検出を可能にし、
- 有意な検出器要素(31)が少なくとも1つの走査位置において見つけられた場合、標的粒子の存在が検出され、この走査位置は標的走査位置として確立され、そこで、前記標的粒子が前記第1の投影面内で位置特定されるか、または、有意な検出器要素(31)がどの走査位置にも見つからない場合、標的粒子の存在がまったく検出されず、
- 前記多数の所定の走査位置の各々に関して、前記有意な検出器要素(31)の前記サブセットは、2段階の選択によって求められ、
- 第1の選択ステップにおいて、背景ノイズX線散乱放射を主に検出する検出器要素(31)が除去され、
- 第2の選択ステップにおいて、前記検出器信号が残りの前記検出器要素(31)の総和信号の前記統計的有意性の増大をまったくもたらさない、さらなる検出器要素(31)が除去される
方法。
【請求項2】
- 前記多数の所定の走査位置の各々に関して、前記有意な検出器要素(31)の前記サブセットは、前記有意な検出器要素(31)の前記検出器信号が、最大の統計的有意性によって前記標的粒子の前記蛍光X線の検出を可能にするように求められる、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
- 前記多数の所定の走査位置の各々に関して、有意な検出器要素(31)の前記サブセットは、前記検出器信号が残りの前記検出器要素(31)の総和信号の前記統計的有意性の上昇をまったくもたらさない、検出器要素(31)を除去することによって求められる、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
- 前記多数の所定の走査位置の各々に関して、有意な検出器要素(31)の前記サブセットは、検査される前記対象(1)に関する先験的な情報に基づいて事前に確立された、検出器要素(31)の事前選択されたサブセットにおいて求められる、
請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
- 前記ステップ(a)から(d)は、前記第1の投影面内の標的走査領域を表す予備の標的走査位置を確立するために、第1の直径を有する第1のX線ビームによる予備測定において実行され、前記標的粒子の存在が検出された場合、その後、
- 前記ステップ(a)から(d)は、前記第1の直径と同じか、または前記第1の直径よりも小さい第2の直径を有する第2のX線ビームによる主測定において実行され、それによって、前記求められている標的走査位置は、前記標的走査領域内に確立される、
請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
- 前記検出器アレイ装置(30)は、前記X線ビームの進行方向の半分のスペースをカバーする表面上の前記検出器要素(31)の配置を含み、および/または
- 前記検出器アレイ装置(30)は、球面もしくは円柱面上の前記検出器要素(31)の配置を含む、
請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの標的走査位置が確立された場合、
- 前記X線ビーム(2)が、前記第1の投影方向から外れた第2の投影方向に平行に延びるように、前記線源装置および検出器アレイ装置(10、30)を旋回させるステップと、
- 前記第1の投影面から外れた第2の投影面内の走査線に沿って多数の走査位置において前記X線ビーム(2)により前記対象(1)を照射するステップであって、それによって、前記走査線は前記標的走査位置を含む、ステップと、
- 前記走査線に沿って前記標的粒子の位置を検出するステップと
がさらに提供される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
- 前記線源装置および検出器アレイ装置(10、30)の旋回は、前記第2の投影方向が前記第1の投影方向に垂直に向けられ、前記第2の投影面が前記第1の投影面に垂直に向けられるように行われる、
請求項に記載の方法。
【請求項9】
- 前記対象(1)の少なくとも1つの吸収投影画像を収集するステップ
をさらに有する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
- 前記対象(1)は、ヒトの被験者であり、および/または
- 前記標的粒子は、ヨウ素から金の質量数の範囲の質量数を有する原子を含み、マーカー物質または薬物で機能を持たせる、
請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
検査される対象(1)内の蛍光を発する標的粒子を位置特定するように構成された蛍光X線測定装置(100)であって、
- 前記対象(1)を収容するように構成された保持装置(50)と、
- 第1の投影方向に平行なX線ビーム方向に、検査される前記対象(1)を通って延びる、X線ビームを生成するように構成された線源装置(10)と、
- 前記線源装置(10)に接続され、前記対象(1)から複数の空間方向に放射された放射X線を検出するように構成された検出器アレイ装置(30)であって、前記放射X線は、標的粒子の蛍光X線及び背景ノイズX線散乱放射を含む、検出器アレイ装置(30)と、多数の空間方向において前記放射X線を検出するように配置された前記多数のスペクトル選択的な検出器要素(31)と、前記X線ビーム方向に対して放射方向に延び、前記対象(1)内の直接照射されていない場所で散乱された放射X線から前記検出器要素(31)を遮蔽し、前記検出器要素(31)が前記対象(1)内の前記X線ビームが照射されたすべての場所からの放射X線を検出することができるように配置された複数のスクリーン薄板(32)であって、前記スクリーン薄板(32)が、遮断されていない見通し線が前記対象(1)内のX線ビームが照射されたすべての場所から前記検出器要素まで延び、前記対象(1)内の直接照射されていない場所から前記検出器要素までの見通し線が前記スクリーン薄板(32)によって遮断されるように配置される、複数のスクリーン薄板(32)と、
- 前記X線ビーム(2)が第1の投影面内の多数の走査位置において前記対象(1)を走査することができるように、前記線源装置および検出器アレイ装置(10、30)ならびに前記保持装置(50)を互いに動かすことができる、走査装置(20)と、
- 被検出放射X線内の標的粒子の蛍光X線を検出するために、および、前記蛍光X線が検出された場合、前記対象(1)内の前記標的粒子を位置特定するために、前記検出器要素の検出器信号を処理するように構成された制御装置(40)と
を備え、
- 前記制御装置(40)は、多数の所定の走査位置の各々に関して、有意な検出器要素(31)のサブセットを求め、前記有意な検出器要素の前記検出器信号が残りの前記検出器要素(31)と比較して増大した統計的有意性によって前記標的粒子の前記蛍光X線の検出を可能にするが、有意な検出器要素(31)が少なくとも1つの走査位置において見つけられた場合、標的粒子の存在を検出し、前記標的粒子が前記第1の投影面内で位置特定される標的走査位置としてこの走査位置を確立し、または、有意な検出器要素(31)がどの走査位置においても見つけられない場合、標的粒子がまったく存在しないことを検出するように構成され
- 前記制御装置(40)は、2段階の選択に基づいて有意な検出器要素(31)の前記サブセットを求めるように構成され、
- 第1の選択ステップにおいて、背景ノイズX線散乱放射を主に検出する検出器要素(31)が除去され、
- 第2の選択ステップにおいて、前記検出器信号が残りの前記検出器要素(31)の総和信号の前記統計的有意性の上昇をまったくもたらさない、さらなる検出器要素(31)が除去される
蛍光X線測定装置。
【請求項12】
- 前記制御装置(40)は、有意な検出器要素(31)の前記サブセットを求めるように構成され、前記検出器要素の前記検出器信号が、最大の統計的有意性によって前記標的粒子の前記蛍光X線の検出を可能にする、
請求項11に記載の蛍光X線測定装置。
【請求項13】
- 前記制御装置(40)は、前記検出器信号が残りの前記検出器要素(31)の総和信号の前記統計的有意性の上昇をまったくもたらさない、検出器要素(31)を除去することによって有意な検出器要素(31)の前記サブセットを求めるように構成される、
請求項11または12に記載の蛍光X線測定装置。
【請求項14】
- 前記検出器アレイ装置(30)は、前記X線ビームの進行方向の半分のスペースをカバーする表面上の前記検出器要素(31)の配置を含み、および/または
- 前記検出器アレイ装置(30)は、球面もしくは円柱面上の前記検出器要素(31)の配置を含む、
請求項11から13のいずれか一項に記載の蛍光X線測定装置。
【請求項15】
- 前記X線ビーム(2)が、前記第1の投影方向から外れた第2の投影方向に平行に延びるように、前記線源装置および検出器アレイ装置(10、30)が旋回できる旋回装置(60)
を備え、
- 前記走査装置(20)は、前記X線ビーム(2)が、前記第1の投影面から外れた第2の投影面内の走査線に沿って前記対象(1)を走査することができるように、前記線源装置および検出器アレイ装置(10、30)ならびに前記保持装置(50)を互いに動かすように構成され、
- 前記制御装置(40)は、少なくとも1つの標的走査位置が確立された場合、前記走査線に沿って前記標的粒子の位置を検出するように構成される、
請求項11から14のいずれか一項に記載の蛍光X線測定装置。
【請求項16】
- 前記線源装置および検出器アレイ装置(10、30)を旋回させるための旋回装置(60)は、前記第2の投影方向が、前記第1の投影方向に垂直に向けられ、前記第2の投影面が、前記第1の投影面に垂直に向けられるように構成される、
請求項15に記載の蛍光X線測定装置。
【請求項17】
- 前記検出器アレイ装置(30)および前記制御装置(40)は、前記対象(1)の少なくとも1つの吸収投影画像を取得するように構成される、
請求項11から16のいずれか一項に記載の蛍光X線測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線測定のための方法に関し、より詳細には、蛍光を発する標的粒子が、検査される対象内、より詳細には検査される被験者の体内に存在するかどうかが検出され、対象内に存在する標的粒子が位置特定される、蛍光X線イメージングのための方法に関する。本発明はまた、蛍光X線測定装置に関し、より詳細には、上記の方法を実行するための蛍光X線イメージング装置に関する。本発明の用途は、蛍光X線イメージングにおいて、より具体的には医療目的で、この文脈ではより詳細にはヒトのサイズ程度の対象用に存在する。
【背景技術】
【0002】
医用イメージングの役割は、検査されている身体の病理変化および/または薬物動態の検出、特徴づけ、および監視であり、それによって、体内の薬物の分布が生体内で測定される。これらの方法を改善するために、「分子イメージング」として知られているものの技法が、例えば、初期の腫瘍診断、および腫瘍組織のより十分な特徴づけ、または薬物動態試験を可能にするように開発されている。この文脈では、特徴づけにより、治癒の機会を増大させるための、処置に対する階層化された取組みが可能になる。医薬における分子イメージングは、より具体的には、腫瘍組織内の抗体などの、体内のバイオマーカーの位置特定を目的とし、いつどの場所に適用薬物量のどれくらいの割合が存在するかを検査するための、体内の薬物の分布の生体内測定を可能にする。分子イメージングは、標的部位に十分な量で存在しない薬物が臨床効果を有することができないので、前の試験段階から、より迅速に新しい薬物の効果を試験することができる。
【0003】
これまで、分子イメージングの分野では、陽電子放出断層撮影(PET)が確立されてきたが、PETは、核医学方法として、患者に対する重大な欠点を有する。これらは、比較的高い放射線量、疾患のない臓器の被曝、短寿命の放射性医薬品を含み、したがって、経過観察のための検査は、新たな注射、4~6mmの低空間分解能、および限られた時間分解能を求め、その結果、腫瘍のケアまたは治療における関連の経過を検査することができない。より具体的には、比較的長い期間にわたる薬物動態試験は、したがって、事実上、不可能である。薬物担体によって標的部位に薬物を届け、そこで薬物を放出することができる場合、PETの「診断時間ウィンドウ」は、あまりにも短い。
【0004】
PETに代わるものとしてここ何年間も議論されている蛍光X線イメージング(XRFイメージング)を用いれば、PETの欠点を回避することができる。XRFイメージングでは、バイオマーカーは、例えば、蛍光X線を放射するために走査X線ビームによって励起される金のナノ粒子に結合される。蛍光X線の検出により、バイオマーカーの位置特定が可能になる。XRFイメージング信号が、身体から発された放射X線の測定スペクトルの極めて限られたエネルギー範囲にあるので、蛍光X線のエネルギー選択的検出によるバイオマーカーの検出がサポートされる。しかし、従来のXRFイメージング方法は、以下に記載する欠点によって特徴づけられ、したがって、これまで、比較的低い感度で、かつ医学的応用にはあまりにも高い放射線量で、小動物モデル(マウス、小動物ファントム)に対してのみ試験することができたが、患者のサイズの検査対象に対してはこれまで検査されてこなかった。
【0005】
XRFイメージング方法の主な欠点は、PETとは対照的に、無背景ノイズではなく、背景ノイズの振幅が、検査される対象のサイズとともに急激に増大することである。従来のXRFイメージング方法は、したがって、大きい対象に関してはあまりにも低い感度を有し、その結果、これらの技法は、患者に対する臨床用途には不可能であった。例えば金のナノ粒子の予想濃度は、小動物モデル(例えば、N.Manoharら、(2016)「Quantitative imaging of gold nanoparticle distribution in a tumor-bearing mouse using benchtop X-ray fluorescence computed tomography」、「Sci Rep」6:22079頁参照)からわかるが、このようなXRFイメージング方法は、ヒトではこれらの金のナノ粒子量を検出することができず、それは、その際に、感度が十分でなくなるからである。
【0006】
XRFイメージングの背景ノイズは、対象のサイズとともに大きくなるが、それは、同時に、照射されるX線光子が複数のコンプトン散乱を受ける確率が増加するからである。これらの散乱の結果、光子のエネルギーが低減される場合があり、したがって、散乱された光子は、蛍光光子と同じエネルギー範囲において検出される。これらの光子は、通常のエネルギー範囲においては、信号光子として背景ノイズ光子と区別することができないので、バイオマーカーの検出の感度が制限される。背景ノイズの低減がなければ、例えば、1000個の信号光子は、その信号が統計的に重要でないとき、約100万個の光子の疑問の余地があるXRFイメージングエネルギー範囲の背景ノイズにおいては見つからない場合がある。これまで、XRFイメージングの背景ノイズを低減するために、コリメータの幾何学が提案されてきたが、それが機能するには、豊富な造影剤を有する体積が対象のどこにあるかに関する事前情報が必要である。さらに、従来のコリメータは、検出器要素の視野を制限するが、それは、どの信号の結果が見つからないかを、より高い放射線量によってしか補償することができないからである。
【0007】
最後に、蛍光X線イメージングは、これまで、大型のシンクロトロン設備において、または従来の小型のX線管によってのみ試験されてきた。しかし、どちらの方法も臨床用途には適しておらず、それは、シンクロトロン設備は大きすぎ、従来のX線管は、通常、発散が大きすぎる、および/または発散が小さいX線の強度が低すぎる放射線を放射し、あまりにも大きいエネルギーバンド幅を有するからである。
【0008】
DE102012023344A1には、比較的低いエネルギー範囲においてフィルタリングされる平行なX線源を使用した、対象における造影剤の分散の蛍光X線分析について記載されている。ここで、蛍光X線を通して生成された放射X線は、コリメータによって分離され、多様な散乱X線から離れ、その後、モノクロメータ結晶層およびX線検出器を用いてエネルギー選択的に測定される。対象に対する測定装置の回転および変位を通して、コンピュータ断層イメージングが容易になる。大きい対象に対する医用イメージングは、DE102012023344A1による技法によって達成されるはずであるが、現実的な用途は、以下の欠点のために限定される。第1に、モノクロメータ結晶層を用いると、励起ビーム方向に垂直に放射される蛍光光子のみを検出することができるが、それは、モノクロメータ結晶の反射に関するブラッグ条件が、他のどの方向に関しても満たされないからである。これは、より具体的には、例えば、対象におけるビーム体積の開始時点において放射された光子が、ビーム方向に垂直でないにもかかわらず、箔を通過することができるが、モノクロメータ結晶上で反射されないことを意味し、それは、ブラッグ条件がこの光子方向からは満たされないからである。このように、この光子は、信号光子であるにもかかわらず、測定信号に寄与せず、したがって、DE102012023344A1に記載された技法は、極めて非効率である。第2に、低い信号収率のために、低い信号対ノイズ比による、かなりの欠点が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】DE102012023344A1
【非特許文献】
【0010】
【文献】N.Manoharら、(2016)「Quantitative imaging of gold nanoparticle distribution in a tumor-bearing mouse using benchtop X-ray fluorescence computed tomography」、「Sci Rep」6:22079頁
【文献】K.Khrennikovら、「Tunable All-Optical Quasimonochromatic Thomson X-ray Source in the Nonlinear Regime」、「Phys. Rev. Lett.」、Vol.114、195003頁(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、蛍光X線測定のための改善された方法、より具体的には、蛍光X線イメージングのための改善された方法、および/または、従来の技法の欠点が回避される、改善された蛍光X線測定装置を提供することである。本発明は、より具体的には、増大した感度によって対象内の標的粒子の蛍光X線を検出し、背景ノイズをより効率的に抑圧し、放射線強度を低下させ、および/または空間分解能を改善することを可能にするものである。さらに、本発明は、より具体的には、以前は不可能だった、より大きい対象の検査を可能にし、より具体的にはヒトにおける臨床蛍光X線イメージングを容易にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的は、蛍光X線測定のための方法、および独立クレームの特徴を有する蛍光X線測定装置によって達成される。本発明の有利な実施形態および用途は、従属クレームから明らかになるであろう。
【0013】
本発明の第1の概略的な態様によれば、前述の目的は、蛍光を発する標的粒子の存在が検査される対象内で検出され、存在し得る任意の標的粒子が少なくとも1つの投影面において対象内で位置特定される、蛍光X線測定のための方法によって達成される。(以下、第1の投影面)
【0014】
線源装置によって、第1の投影方向に平行なX線ビーム方向に対象を通して向けられるX線ビームが生成される。X線ビームは、一定の直径または小さい発散(例えば、1mrad以下)を有する針状のビーム(ペンシルビーム)であることが好ましい。X線ビームの直径は、XRFイメージング方法の空間分解能を定義し、したがって、少なくとも0.1mm、より具体的には少なくとも0.2mm、および/または、たかだか1mm、より具体的には、たかだか2mmであることが好ましい。
【0015】
対象は、第1の投影面における多数の走査位置においてX線ビームを用いて照射される(走査される)。これらの走査位置(照射が行われる位置)は、走査装置によって設定され、走査装置によって、線源装置および対象が、互いに動かされる。各走査位置では、X線ビームが、様々な座標において第1の投影面に交差する。X線ビームが第1の投影面に垂直に向けられるのが好ましい。走査位置は、例えば、行列として行方向および列方向に第1の投影面内に分布する。
【0016】
各走査位置において、対象から複数の空間方向に放射された放射X線は、線源装置にしっかりと接続された検出器アレイ装置を使用して検出される。走査装置によって、線源装置および検出器装置ならびに対象は、互いに動かされる。線源装置および検出器装置は、定置された対象に対して動かされるのが好ましい。
【0017】
検出器アレイ装置は、対象の周りの複数の様々な空間方向に分布する、スペクトル選択的な検出器要素(ピクセルとも呼ばれる)の配置(arrangement)を有する。検出器要素は、湾曲し、部分的に湾曲し、および/または、平面的な構成要素表面で構成された、アレイ表面に沿って配置される。各走査位置では、対象から出る被検出X線光子のエネルギースペクトルは、スペクトル感度が高い各検出器要素を用いて測定され、これらの個別のスペクトルは、組み合わせて、選択されたおよび/またはすべての検出器要素の総和エネルギースペクトルにすることができる。検出器要素を用いたエネルギースペクトルの測定は、検出器が、一定のエネルギーを有しX線ビーム方向に垂直に放射された信号光子のみを測定することができる、DE102012023344A1との基本的な違いを示す。さらに、総和エネルギースペクトル(総和信号)の形成は、より具体的には、例えば、以上に引用された小動物モデルから予想される少量の標的粒子の場合に、個別の検出器要素内の信号光子の数があまりにも少ないので、有意性のどんな判定も難しくなるか、または認められないことさえある、個別の検出器要素のスペクトルの検討を介した利点を有する。
【0018】
検出器要素は、複数の空間方向における放射X線の検出のために配置される。この「検出器要素」は、個別のスペクトル分解用の検出用要素、複数(例えば、4×4)の検出用要素の組合せ、または複数の検出用下位要素から構成された検出用構成要素であり得る。複数の検出用要素の組合せは、より具体的には、被検出X線光子の統計の利点を有することができる。下位要素から成る構成要素は、より具体的には、線源装置としてレーザーベースのトムソン線源を使用したスペクトル分解検出の利点を有することができるが、それは、この文脈では、光子がほぼ同時に検出され、下位要素につき、検出器時間ウィンドウ当り1個以下の光子が検出される下位要素によって確実にされるからである。
【0019】
さらに、検出器アレイ装置は、対象と検出器要素との間に対象内のX線ビームに対して放射方向に延び、対象内で散乱された放射X線から検出器要素を単独でまたは複数で、より具体的にはX線の外側で遮蔽し、検出器要素が対象内のX線ビームの体積内のすべての場所から放射X線を検出することができるように配置された、複数のスクリーン薄板を有する。より具体的には、各個別の検出器要素は、対象内のX線ビームの体積内のすべての場所から放射X線を検出することができる。スクリーン薄板は、自由な(遮断されていない)視線が対象内のX線ビームの全体積から検出器要素まで延び、対象内の他の直接照射されていない体積から検出器要素までの視線がスクリーン薄板によって遮断されるように配置される。スクリーン薄板は、好ましくは、各々が一定の厚さを有する平面的な箔であるか、あるいは、ビームに向かって先細になる厚さ勾配を有することができる。薄板の有限のサイズのために、少ない割合の信号光子が吸収されるが、吸収された信号光子の割合が好ましくは10%未満であるとき、それらは蛍光X線測定の誤差として無視できる。
【0020】
スクリーン薄板は、有利にも、走査位置において現在照射される体積の外側の対象の体積からの散乱放射線の遮蔽を通して背景ノイズ低減に対する第1の寄与を提供する。
【0021】
検出器要素の検出器信号は、被検出放射X線内の標的粒子の蛍光X線を検出するために、および、蛍光X線の検出の際に対象内の標的粒子を位置特定するために処理される。この目的で、本発明によれば、検出器要素のサブセット(有意なまたは識別された検出器要素として知られている)は、多数の所定の走査位置の各々に関して識別され、前記検出器要素の検出器信号は、残りの検出器要素と比較して増大する統計的有意性によって標的粒子の蛍光X線の検出を容易にする。有意な(または識別された)検出器要素の群は、例えば、各走査位置に関してそれぞれ求められるか、または走査位置の選択(例えば、走査位置の行列内の1つおきの走査位置)に関してのみ求められる。この文脈では、より具体的には、検出器要素の(すなわち、識別されたサブセットの)総和信号(総和スペクトル)の有意性が、検出器要素の他の各サブセットの総和信号(総和スペクトル)の有意性と比較される。
【0022】
有意な検出器要素が、有意な検出器要素の検出器信号に基づいて、残りの検出器要素の検出器信号を考慮することなく、少なくとも1つの走査位置において見つけられた場合、標的粒子の存在、および有意な検出器要素が見つけられるこの走査位置は、少なくとも1つの標的走査位置として確立される。標的走査位置は、標的粒子が位置特定される、第1の投影面内の座標を表す。それ以外では、有意な検出器要素がどの走査位置においても識別されない場合、対象内で標的粒子がまったく検出できないことが検出される。
【0023】
有意な検出器要素の選択は、背景ノイズ低減に実質的な、有利にも最も大きい寄与を提供する。本発明のこの態様は、より具体的には、体内に照射された光子の複数のコンプトン散乱によって生成された固有の背景ノイズの発明者による綿密な検査に基づいている。背景ノイズが方向依存すなわち異方性がある一方で、標的粒子の蛍光信号が等方的に放射され、すなわち、どんな方向も区別しないという知見は、背景ノイズの低減には極めて重要である。言い換えれば、発明者は、背景ノイズ放射X線が、複数のコンプトン散乱のために、より具体的には臨床用途と同様に大きい対象に関して、不均一な特殊な分布(異方性)を有することがわかった。X線ビームが標的粒子に当たり蛍光X線が生成される走査位置では、検出器アレイ装置の検出器要素は、各場合に異なる背景ノイズとともに(X線ビーム方向に対して)様々な空間方向に蛍光X線を検出する。有意な検出器要素を求めることによって、これらの検出器要素が検出され、その蛍光X線総和スペクトルは、残りの検出器要素と比較して比較的低い背景ノイズ信号とともに検出される。その結果、固有の背景ノイズの異方性の定量的な知見は、方向依存検出の助けによって背景ノイズの低減に転換される。
【0024】
発明者は、より具体的には、複数のコンプトン散乱のために信号エネルギー範囲にエネルギーを有する光子の異方性が、励起に使用されるX線光子のエネルギーに依存することがわかった。励起に使用されるX線光子は、異方性がその最大値にあるエネルギーを有するのが好ましい。有利にも、このことは、背景ノイズの特に効果的な抑圧を容易にする。異方性がその最大値にあるエネルギーは、実験的検査を通して(例えば、ファントムにおいて)、または数値シミュレーションを通して特定することができる。特に、励起用のX線ビームの光子のエネルギーが、約85keVの金標的粒子の場合に、標的粒子内の蛍光を発する成分のK吸収端より上の狭いエネルギー区間において選択されるのが好ましい。
【0025】
コンピュータシミュレーションの助けによって、発明者は、背景ノイズを約600~1000の倍率だけ低減し、それに応じて有意性の効果的な増大を伴い、実際に、30cmの直径の試験ファントムおよび最小の放射線量を使用すると、ヒトに対するイメージングの要件を満たすことができることを示すことができた。有利にも、腫瘍診断などの臨床用途では、このように、ヒトなどの対象内で、少量の試験粒子を検出することができる。これは、いくつかの方向のみにおいて測定される信号と背景ノイズの両方によって、すなわち、より具体的には、識別された検出器要素の総和スペクトルの助けによって達成される。明らかなように、これらの方向は、例えば、全立体角の約30%~40%のみを形成する。しかし、この制限は、有意性の効果的な増大への鍵である。本発明によって達成される有意性の増大のみにより、ヒトに対する医用イメージングにおいて必要となる感度が可能になる。
【0026】
本発明による方法は、測定が通常1つの方向(通常照射の方向に対して90°以上)のみにおいてなされ、および/または、コリメータにより常にビーム体積の一部分の観測のみが可能になる、すべての従来のXRFイメージング方法とは異なる。全ビーム体積に沿った検出のための蛍光信号の総合的な有意性に対するすべての方向の個別の寄与による定量的な検査が、これまで知られていなかった。より具体的には、DE102012023344A1による技法と比較して、大幅に改善された、すべての空間方向からの蛍光光子の検出率および背景ノイズ信号が急激に低減された検出が達成され、それによって、放射線量および照射時間に関して本方法の著しく高い効率が達成される。
【0027】
発明者は、さらに、最大の蛍光信号が期待される、すべての空間方向における等方的な検出が、同時に、最大の背景ノイズ検出をもたらすことがわかった。その際、蛍光信号の得られた有意性は非常に小さいので、より具体的には、ヒトの被験者のサイズの対象に関して、例えば医学的に不適切なサイズの金のナノ粒子の量しか測定することができない。それにもかかわらず、本発明では、空間方向を選択することが提案され、有意な検出器要素の事前の選択を通して、放射X線が検出される。発明者の数値解析は、例えば、検出が、すべての考え得る空間方向の約40%における大幅な背景ノイズ低減をもたらすことを示した。発明者によって最初に実行された、大きい対象に関するコンプトン背景ノイズの異方性の定量的な検査は、より具体的には、蛍光X線測定における有意な(識別された)検出器要素からの総和信号のみを測定するために、本発明の根本的な概念を提供した。
【0028】
本発明は、固有の背景ノイズの急激な低減を可能にするので、蛍光X線イメージングが、臨床診療におけるイメージングモダリティとしてヒトに対して使用可能になる。CTおよびMRTなどの従来の技法の達成可能な感度はあまりにも低いが、初期の腫瘍診断として機能するために、本発明による蛍光X線測定は、感度の大幅な増大を可能にしながら、同時にPETイメージングの前述の欠点を回避する。本発明は、感度の増大を定量化することを可能にする。したがって、蛍光X線イメージングのポテンシャルは、他のイメージングモダリティと比較して定量的に特徴づけられるということができる。
【0029】
本発明の第2の概略的な態様によれば、前述の目的は、検査される対象内の蛍光を発する標的粒子を位置特定するように構成され、対象を収容する保持装置と、第1の投影方向に平行なX線ビーム方向に検査される対象を通って延びるX線ビームを生成する線源装置と、対象から複数の空間方向に放射される放射X線を検出する検出器アレイ装置と、線源装置および検出器アレイ装置ならびに保持装置を互いに動かすことができる走査装置と、検出器アレイ装置の検出器信号を受信し処理する制御装置とを備える、蛍光X線測定装置によって達成される。蛍光X線測定装置は、本発明の第1の概略的な態様による方法を実行するために設計されるのが好ましい。
【0030】
線源装置は、例えば、K.Khrennikovら、「Tunable All-Optical Quasimonochromatic Thomson X-ray Source in the Nonlinear Regime」、「Phys. Rev. Lett.」、Vol.114、195003頁(2015)に記載されるように、小型のレーザーベースのトムソン線源(相対論的電子に対するレーザー光のトムソン散乱に基づいて放射X線を生成する放射X線源)であることが好ましいが、シンクロトロン線源、または一般的に、発散が十分に低く、強度が高い、より具体的には標的粒子の成分のK吸収端より上のエネルギー範囲の放射X線を生成するX線管などのX線源も含むことができる。検出器アレイ装置は、線源装置にしっかりと接続され、本発明の第1の態様に関して上述したように、多数のスペクトル選択的な検出器要素および複数のスクリーン薄板を有する。走査装置により、第1に線源装置および検出器アレイ装置を、第2に保持装置を互いに動かすことができ、したがって、X線ビームは、第1の投影面内の多数の走査位置において対象を走査することができる。
【0031】
制御装置(計算装置、評価装置、または制御/評価装置とも呼ばれる)は、多数の所定の走査位置の各々に関して、有意な検出器要素のサブセットを識別し、前記検出要素の検出器信号、より具体的には総和信号、好ましくは総和スペクトルが残りの検出器要素と比較して増大した統計的有意性によって標的粒子の蛍光X線の検出を容易にするが、有意な検出器要素が少なくとも1つの走査位置において見つけられた場合、標的粒子の存在を検出し、標的粒子が第1の投影面内で位置特定される標的走査位置としてこの走査位置を確立し、または、検出器要素がどの走査位置においても見つけられない場合、標的粒子がまったく検出できないことを検出するように構成される。制御装置は、例えば、検出器信号の処理を実行するためのプログラムが実行されるか、または検出器信号の処理を実行するための特別なコンピュータとして構成される、コンピュータである。制御装置は、例えば、線源装置、走査装置、および検出器アレイ装置を制御するか、またはこれらから信号を受信するために、蛍光X線測定装置の構成要素と結合される。
【0032】
蛍光X線イメージングにおける本発明の好ましい用途によれば、検査される対象は、ヒトもしくは動物の被験者またはこれらの身体の一部である。標的粒子は、例えば、経口投与もしくは他の投与または注射を介して事前に被験者に供給される。より具体的には注射を介した被験者の体内への標的粒子の供給に関する準備工程は、本発明の一部ではない。あるいは、他の非生物学的な対象を検査することができる。標的粒子は、粒子、より具体的には、少なくとも15keVのエネルギーを有する照射光子を含む蛍光X線を励起するのに適し、好ましくはヨウ素から金の質量数の範囲の質量数を有するナノ粒子を含む。これらの成分は、K殻蛍光光子が被験者の体内で十分に伝搬され、したがって、標的粒子が(光学的な蛍光とは対照的に)任意の深さで検出できるという利点を有する。さらに、標的粒子には、マーカー物質で機能を持たせる。マーカー物質(またはバイオマーカー)は、腫瘍細胞または腫瘍組織などの、所定の細胞もしくは細胞群または所定の組織などの、検査される対象の一部分に特に結合する物質を含む。しかし、標的粒子はまた、薬物で機能を持たせ、したがって、生体内の薬物動態試験を可能にすることができる。
【0033】
検査される対象内の蛍光を発する標的粒子の存在は、例えば、経口で摂取されるか、またはそれ以外に注射されるなど、事前に導入される標的粒子が、固有の結合を通して検査される対象の少なくとも1つの下位領域に豊富にあったことを意味する。標的粒子の存在の検出は、組織または細胞群などの少なくとも1つの下位領域内の標的粒子の濃縮度(濃度)の検出を含む。標的粒子の位置特定は、少なくとも第1の投影面に関する、しかし好ましくは3つすべての空間次元に関する、濃縮度の場所の検出を含む。本発明は、より具体的には、医療用途のための以下の利点を有する。医用蛍光X線イメージングにおける固有の背景ノイズを、あまりにも急激に低減させることができるので、許容可能な放射線量によって、最小量の官能基付き金ナノ粒子を体内で検出し、したがって、例えば初期の腫瘍診断を可能にすることができる。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によれば、有意な検出器要素のサブセットは、多数の所定の走査位置の各々に関して、有意な検出器要素の検出器信号、より具体的にはその総和信号が最大の統計的有意性によって標的粒子の蛍光X線の検出を容易にするように求められる。制御装置は、標的粒子の求められている蛍光X線の総和信号を最大の統計的有意性によって検出することができる検出器信号から、検出器要素を選択するように構成される。有利にも、蛍光X線測定の最大感度は、このようにして達成される。この文脈では、最大感度は、より具体的には、検出器要素の任意の他のサブセットが信号の有意性が小さい総和信号を有することを意味する。
【0035】
有利にも、様々な方法は、有意な検出器要素のサブセットを識別するのに利用できる。第1の好ましい変形形態によれば、検出器要素の検出器信号が、検討される走査位置において、好ましくは制御装置によって標的粒子の求められている蛍光X線の出現の分析を段階的に受ける、単一段階の方法が提供され、その制御装置によって、検討される検出器要素および残りの検出器要素の検出器信号の総和において蛍光X線の統計的有意性が検査される。検出器信号が残りの検出器要素の総和信号の統計的有意性の増大をまったくもたらさない、これらの検出器要素は除去される。除去されなかったすべての検出器要素は、有意な検出器要素の群を形成する。単一段階の方法は、より具体的には、有意な検出器要素を高い処理速度で確立することができるという利点を有する。
【0036】
第2の好ましい変形形態によれば、第1の選択ステップでは、背景ノイズX線散乱放射を主に検出する検出器要素が除去され、第2の選択ステップでは、検出器信号が残りの検出器要素の総和信号の統計的有意性の増大をまったくもたらさない、さらなる検出器要素が除去される、2段階の方法が提供される。第1の選択ステップにおいて背景ノイズX線散乱放射を主に検出する検出器要素の検出は、検出器要素によるスペクトル選択的な検出に基づいている。背景ノイズ光子のみが出現し得る(背景ノイズ)エネルギー範囲は、背景ノイズ光子と蛍光光子の両方が出現し得る(蛍光)エネルギー範囲の評価のために参照として使用される。検討される検出器要素の検出器信号が、純粋な背景ノイズエネルギー範囲における信号振幅とは統計的にはあまり異ならない、より具体的には(蛍光範囲において)期待される信号振幅よりもはるかに大きい背景ノイズエネルギー範囲における振幅を提供する場合、検出器要素は、背景ノイズX線散乱放射を主に検出するときに検出され、その結果、除去される。好ましくは制御装置によって実行される2段階の方法は、より具体的には、有意な検出器要素を正確性および再現性とともに確立することができるという利点を有する。
【0037】
有利にも、前述の変形形態を、より具体的には事前選択によって組み合わせることができ、多数の所定の走査位置の各々に関して、検出器要素の初期のサブセットが事前選択され、そのサブセットは、検査される対象に関する先験的な情報(事前情報)に基づいて事前に確立され、それによって、識別される有意な検出器要素のサブセットは、事前選択された初期のサブセット内で求められる。先験的な情報は、例えば、数値シミュレーション、実験シミュレーション、CT検査もしくはMRT検査からの患者画像などの対象の既存の画像、および/または、疾患(例えば、肝臓腫瘍)位置特定もしくは薬物動態試験のための標的体積などの標的粒子のすでに知られている位置特定に基づいている場合がある。有利にも、有意な検出器要素の選択は、初期のサブセットの検討によって単純化され、処理速度は上昇する。
【0038】
本発明のさらなる有利な実施形態によれば、蛍光X線測定は、予備測定および主測定を有する2つの段階において行われ、本発明による方法は、第1の比較的大きい直径と例えば第2の比較的小さい直径を有し、異なる局所分解能を有する、各場合のX線ビームを使用して実行される。しかし、第1のビームは、必ずしもより大きくなる必要がない。第1のビームは、第2のビームとちょうど同じ大きさとすることができるが、より少ない放射線量が適用され、その後、統計的な評価のための十分なデータを得るために、隣接するピクセルが合計される。この変形形態は、予備走査のデータを第2の測定のためにさらに使用することができるという利点を有する。予備測定では、第1の投影面における標的走査領域を表す予備の標的走査位置は、標的粒子の存在が検出された場合、第1の直径を有する第1のX線ビームによって確立される。第2の直径を有する第2のX線ビームによる主測定では、求められている標的走査位置は、標的走査領域内に確立される。有利にも、標的粒子が対象内で検出できるか、どの標的走査領域に標的粒子が位置特定され得るかを高速で発見するために、予備測定を使用することができる。標的粒子の蛍光X線がまったく検出されない場合、主測定を省略することができる。標的粒子の蛍光X線が検出された場合、主測定は、標的粒子の正確な位置特定を提供し、主測定にかかった時間は、もっぱら標的走査領域に限定する(標的領域に「ズーミングする」)ことを通して低減することができる。
【0039】
検出器アレイ装置は、照射ウィンドウを通してX線ビームを放射し、任意選択で、案内ウィンドウを通して検出器アレイ装置内に対象を案内するために立体角領域を除いて対象を完全に取り囲むことができる(4π検出器)。照射ウィンドウは、X線ビームの直径に適合する小さい横方向寸法を有する。案内ウィンドウは、対象および任意選択の保持装置の一部分の形状およびサイズに依存する横方向寸法を有する。有利にも、対象からのほぼすべてのX線光子は、それらによって検出される。
【0040】
本発明の代替の実施形態によれば、検出器アレイ装置は、X線ビームの進行方向の半分のスペースのみをカバーし、より具体的にはそのほぼ半分のスペースをカバーする表面上の検出器要素の構成を含む。発明者は、有意な検出器要素が主に進行方向の半分のスペースに見つけられることがわかった。有利にも、本発明のこの実施形態は、検出器アレイ装置の簡略化された設定および検査される対象への簡略化されたアクセスを可能にする。
【0041】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、検出器アレイ装置は、球面および/または円柱面に沿った検出器要素の構成を含むことができる。この場合、スクリーン薄板の放射状の配置が簡略化される。
【0042】
第1の投影面における標的粒子の位置特定は、全体的に、検査される対象およびその中の標的粒子の位置に関する評価可能な画像情報をすでに提供した。本発明の特に好ましい実施形態によれば、イメージングを完了するために、対象に対する線源装置および検出器アレイ装置の旋回は、旋回した状態でX線ビームが第1の投影方向から外れた第2の投影方向に平行な対象を通って延びるように、第1の投影面内で標的粒子を位置特定した後、もたらされる。旋回を実行するために、蛍光X線測定装置は、旋回装置を設けられ、それによって、線源装置および検出器アレイ装置は、好ましくは走査装置とともに、対象の保持装置に対して旋回可能であり、したがって、X線ビームは、第2の投影方向に平行に延びる。
【0043】
旋回状態では、X線ビームによる対象のさらなる照射が、多数の走査位置において行われ、この場合、照射は、第1の投影方向から外れた第2の投影面内の走査線に限定され、この走査線は、事前に確立された標的走査位置、および好ましくは制御装置による走査線に沿った標的粒子の位置の検出を含む。第1の投影面内の走査位置および第2の投影面内の走査線上の走査位置に関する位置情報により、対象内の標的粒子の位置が完全に特徴づけられる。
【0044】
第2の投影方向は、全体的に、第1のビーム方向に平行ではなく、すなわち、走査方向をスペース内で互いに交差することができるようにだけしなければならず、それによって、この交差点は、その際、2つの走査方向が各々信号を表示する場合、標的粒子の位置をマーキングする。しかし、本発明の好ましい変形形態によれば、線源装置および検出器アレイ装置の旋回が行われ、したがって、第2の投影方向が、第1の投影方向に垂直に向けられ、第2の投影面が、第1の投影面に垂直に向けられることが提供される。
【0045】
本発明のさらに好ましい態様によれば、対象の少なくとも1つの吸収投影画像の取得を提供することができる。有利にも、検出器要素は、この場合、例えば、検査される被験者に関する解剖的情報を確立するために、蛍光X線を検出し、従来のX線吸収画像を検出する二重の機能を実行する。吸収投影画像は、例えば、後の診断用に対象画像を得るために、第1の投影面内の標的走査位置またはスペース内の標的位置の完全な特徴づけと組み合わせられることが好ましい。
【0046】
本発明のさらなる詳細については、次に示す添付の図面を参照して以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】球面上に検出器要素を配置した、本発明による蛍光X線測定装置の好ましい実施形態の概略図である。
図2】球面上に検出器要素を配置した、本発明による蛍光X線測定装置の好ましい実施形態の概略図である。
図3】球面上に検出器要素を配置した、本発明による蛍光X線測定装置の好ましい実施形態の概略図である。
図4】球面上に検出器要素を配置した、本発明による蛍光X線測定装置の好ましい実施形態の概略図である。
図5】球面上に検出器要素を配置した、本発明による蛍光X線測定装置の好ましい実施形態の概略図である。
図6】球面上に検出器要素を配置した、本発明による蛍光X線測定装置の好ましい実施形態の概略図である。
図7】円柱面上に検出器要素を配置した、本発明による蛍光X線測定装置の好ましい実施形態の概略図である。
図8】円柱面上に検出器要素を配置した、本発明による蛍光X線測定装置の好ましい実施形態の概略図である。
図9】円柱面上に検出器要素を配置した、本発明による蛍光X線測定装置の好ましい実施形態の概略図である。
図10】本発明による方法の好ましい実施形態の特徴を示すフローチャートである。
図11】本発明による方法の好ましい実施形態の特徴を示すフローチャートである。
図12】有意な検出器要素の選択のグラフである。
図13】標的走査位置におけるスペクトル総和信号のグラフである。
図14】測定可能なX線スペクトルを使用して本発明により達成される背景ノイズ抑圧のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
蛍光X線測定装置、ならびに、より具体的には検査される対象内の蛍光を発する標的粒子の存在の検出のための方法、および、標的粒子の蛍光が検出される場合は、標的粒子の位置特定のための方法の特徴に関して、本発明の実施形態が以下に説明される。線源装置、走査装置、検出器要素、または旋回装置の詳細などの蛍光X線測定装置の詳細は、従来の技法の対応する機械的、電気的、またはX線の光学的構成要素からそれ自体が知られているように、理解することができるので、これらの構成要素は、本明細書では詳細に説明しない。医用イメージングにおける用途では、蛍光X線測定装置は、従来の技法からそれ自体が知られているように、例えば、保持装置を作動させる駆動装置、操作装置、表示装置などのさらなる構成要素を設けることができる。
【0049】
例として、走査位置の設定のために、線源および検出器アレイ装置が固定位置の対象に対して動かされる、実施形態が参照される。本発明は、例えば、従来のシンクロトロン線源などの固定線源に関して、それに応じて使用可能であり、したがって、対象は、固定位置の線源および検出器アレイ装置に対して動かされる。
【0050】
図1図6は、球面上に検出器要素31(例として、1つの検出器要素が示される)が配置された蛍光X線測定装置100の様々な斜視図を概略的に示し、検出器要素31の配置は、対象を、ほぼ完全に取り囲む(図1図3)か、またはX線ビームの進行方向の半分の空間のみ取り囲む(図4図6)。
【0051】
図1によれば、蛍光X線測定装置100は、概略的に示された患者などの対象1を収容する寝椅子などの保持装置50と、第1の投影方向(z方向)にX線ビーム2を生成する線源装置10と、走査装置20と、(図1にのみ概略的に示される)線源装置10にしっかりと接続された検出器アレイ装置30と、検出器アレイ装置30の検出器信号を受信し処理する制御装置40と、任意選択で設けられる旋回装置60とをそれぞれ備える。サーボモータを有する機械的駆動装置を含むのが好ましい走査装置20を用いれば、線源装置10および検出器アレイ装置30は、第1の投影面(xy平面)に平行に行方向および列方向に動かすことができ、したがって、X線ビーム2は、第1の投影面に垂直に対象1を通して走査される。旋回装置60を用いれば、線源装置10および検出器アレイ装置30は、走査装置20とともに回転させることができ、したがって、X線ビームは、第2の投影方向(例えば、負のy方向)に向けられる。残りの図2図6では、保持装置、走査装置、制御装置、および旋回装置は、示されないが、図1に表されるように設けられる。
【0052】
線源装置10は、例えば、レーザーベースのトムソン線源タイプの線源である。検出器アレイ装置30は、例えば120cmの内径を有する中空球の形態を有し、中空球の内表面上に、検出器要素31、および、これらの間に、中空球内に突き出すスクリーン薄板32が配置される。中空球は、完全な球(図1図3)または半球(図4図6)である。検出器要素31およびスクリーン薄板32は、概略的に示されている。実際には、検出器要素の数およびサイズ、ならびにスクリーン薄板32の数、サイズ、および方位は、特定の測定作業に応じて選択される。検出器要素31は、対象1内で放射された放射X線のスペクトルの検出用に構成され、例えば、CdTeタイプの検出器要素(例えば、Amptek製)を含む。スクリーン薄板32は、対象内の照射された体積の拡がりに向かって、すなわちX線ビーム2に向かって減少する厚さ(図3の概略断面図参照)を有するプレートまたは平面的なダイヤフラムである。スクリーン薄板32は、例えばモリブデンから成る。例えば、3600個までのスクリーン薄板32が設けられる。検出器アレイ装置30は、照射ウィンドウ33と対象1を含む保持装置50のための案内ウィンドウ34とを備える、2つの開口部をさらに有する。加えて、さらなるアクセスウィンドウ35を設けることができる(図2参照)。
【0053】
図7図9は、円柱面上に検出器要素31を配置した蛍光X線測定装置100の様々な斜視図を概略的に示すが、円柱の平面的な端面上の検出器要素は示されていない。対象は、検出器要素によってほぼ完全に取り囲まれている。あるいは、X線ビームの進行方向の半分のスペースにおいて検出を提供することができる(図示せず)。図7図9では、保持装置、走査装置、制御装置、および旋回装置は、示されていないが、図1に表されるように設けられる。
【0054】
本発明による蛍光X線測定は、対象1上で実行され、対象1内に標的粒子を含む溶液が事前に注入される。対象1は、蛍光X線測定装置100内に案内され、したがって、X線ビーム2は、対象1の関心のある部分に向けることができる。線源装置10は作動され、X線ビーム2は、走査装置20を用いて対象1全体にわたって走査される。対象から複数の空間方向に放射された放射X線は、検出器アレイ装置30を用いて検出される。検出信号は、以下に説明され図10および図11のフローチャートに示されるように、制御装置40を用いて受信され処理される。
【0055】
本発明による蛍光X線測定は、より具体的には、発明者の以下の考察に基づいている。背景ノイズの方向依存性または異方性の情報は別として、2つの必須の要件が、本方法によって満たされる。
(1)本方法は、走査X線ビーム2に沿った標的粒子の位置の事前情報を前提とするべきでない。しかし、従来のXRFイメージング方法は、事前情報を前提とし、その結果、走査は、複数回実行しなければならず(患者の腫瘍がどこにあるのかが、その時点では単にわからないので)、したがって、放射線量は、著しく高い。
(2)複数のコンプトン散乱が、可能な限り低減されるべきである。コンプトン散乱光子は、蛍光光子と同じ領域から来るので、簡単に遮断することができない。
【0056】
要件(1)は、走査ビームに沿った制限された視体積のみを可能にする、コリメータおよび/または測定方法(例えば、DE102012023344A1など)を認めない。それでもなお、多くの他の方法は、この制限を使用し、それは、この制限が背景ノイズを大幅に低減することができるからであるが、この制限は、信号を等しく大幅に弱め、したがって、感度を最大にすることができない。しかし、要件(2)は、そのようなコリメータを可能にし、コリメータは、当然、針状のビームの体積をカットしないが、ビーム体積の外側のすべての領域を最大限に遮断する。
【0057】
どちらの要件も、走査X線ビーム2に沿って配置された放射状のスクリーン薄板32によって満たすことができる。これらは、ビーム体積全体の視野を制限しないが、ビーム体積の外側でもう一度散乱された光子を遮断する。
【0058】
例えば倍率570の背景ノイズ低減における基本的な利得は、第1の背景ノイズ低減がスクリーン薄板32により存在した後、上述のように、すなわち、すべての既存の検出器要素のサブセットの識別を通して、検出器信号のいわゆる「空間フィルタリング」によって達成される。この方法は、図12に示された背景ノイズの異方性に基づいている(図14も参照)。図12は、検出器要素31、すなわち従来の方法の信号処理において考慮された検出器要素31(図12A)および本発明による方法において例として考慮された検出器要素31(図12B)の現像図を概略的に示す。選択された検出器要素31の識別は、以下の考察に基づいている。
【0059】
(1)(例えば、対象1の周りのビーム方向に沿った円柱面上の)各検出器要素(またはピクセル)31は、一定のエネルギー分解能を有するそれ自体の検出器であり、すなわち、各ピクセルがエネルギースペクトルを測定する。
(2)検出器要素31の各々は、信号光子と背景ノイズ光子の両方の入力を有する。この文脈では、信号光子は、ビーム体積内のすべての場所から放射され検出され得る。XRFイメージングが患者に関しても機能することができるように、すなわち、大きい対象においてもさらに高い感度が可能になるように、背景ノイズは、信号光子の数を過剰に減らすことなく、既存の方法よりもはるかに低減させなければならない。
(3)本発明による背景ノイズの低減は、すべてのピクセルが読まれるわけではなく、いくつかのピクセルのみが読まれる、ピクセル選択に基づいている。あまりにも多くのピクセルが(または、すべてのピクセルさえも)読まれる場合、大きい背景ノイズが検出されるので、信号光子は、完全に隠される。対照的に、極めて少ないピクセルのみが読まれる場合、背景ノイズは、低減されるであろうが、信号も低減される。本発明による方法は、各場合において信号処理からそのピクセルを正確に反復して除去することによって明確な最適条件に近づくか、またはその最適条件にさえ至り、そのピクセルの除去は、残りのピクセルの総和信号の有意性を増大させる。ピクセル選択の方法は、除去されるべき次のピクセルが有意性のさらなる増大をもたらさないとき、終了する。次いで、図12Bの状態に達し、すなわち、依然として存在するピクセルの総和スペクトルは、最大の信号有意性を有し、その結果として、図13に例として示される、信号曲線に達し、すなわち、蛍光信号がここで認識できる。
【0060】
図10および図11は、第1の選択ステップ(図10、フィットなしの背景ノイズベースのピクセル選択)において、背景ノイズX線散乱放射を主に検出する検出器要素が除去され、第2の選択ステップ(図11、フィットありの有意性ベースのピクセル選択)において、検出器信号が残りの検出器要素の総和信号の統計的有意性の増大をまったくもたらさない、さらなる検出器要素が除去される、有意な検出器要素の識別の2段階の変形形態を示す。あるいは、有意な検出器要素の識別の性能が、図10による方法に制限され得る。
【0061】
有意な検出器要素の識別前に、針状のX線ビーム2が、横断面に沿って対象1を走査し、それによって、各ステップは、走査位置と呼ばれる。したがって、対象1の投影面におけるすべての位置がカバーされる。X線ビーム2は、投影面に垂直に当たる。
【0062】
その後、識別された検出器要素は、各走査位置に関して個別に選択される(これは、複数の方向に平行に行われ得るか、または、その後、すなわち、すべての検出器要素の検出中にデータが記憶される)。
【0063】
蛍光信号すなわち2つの金蛍光線が存在する場合(図13参照)、これらは、純粋な背景ノイズ領域によって、検討される検出器要素の総和信号のエネルギースペクトルにおいて互いに分離され、信号領域の左側および右側に同様に背景ノイズ領域が存在し(図13参照)、すなわち、背景ノイズ領域には背景ノイズ光子のみが存在し信号光子は存在しない場合がある。したがって、これらの領域は、参照値である。蛍光信号が存在しない場合、信号領域は、背景ノイズ領域とは統計的にあまり異ならない。
【0064】
ステップS1_3~S1_7では、図10による方法は、3つの背景ノイズ領域B1、B2、およびB3(図13)における入力が大幅に低減され、存在する場合、2つの信号領域における背景ノイズ上昇の統計的有意性が、例えば、2以上の値を超えるまで(ステップS1_2における試験)、さらなる検討対象から検出器要素を除去する(すなわち、これらのピクセルの検出されたエネルギースペクトルを無視する)。信号がまったく存在しない場合(または、すべてのピクセルの例えば80%がすでに除去されたとき)、この終了基準には決して到達せず、アルゴリズムは、最後の残りのピクセルにおいて停止する(ステップS1_10)。
【0065】
試験がステップS1_2(移行条件)において実行される場合、第2のアルゴリズムが次に開始され(図11)、ここで、さらなるピクセル選択のために、まだ残っているピクセルのすべてのスペクトルが合計されて総和スペクトルになり、信号の有意性は、2つの信号領域によってフィット関数を通して直接判定される(ステップS2_1~S2_8)。このアルゴリズムの極めて重要な利点は、フィット関数が背景ノイズ領域をより十分にマッピングすることであり(図10の第1のステップでは、背景ノイズは、すべての領域にわたって一定であると仮定されているが、単なる概算値である)、蛍光信号は、フィットによって背景ノイズと区別することができ、すなわち、蛍光光子対背景ノイズ光子の数を総和スペクトルから特定することができ、したがって、信号よりも背景ノイズにより寄与するピクセルが除去されるのは、フィットを通してのみである。
【0066】
この「フィットベースの」ピクセル選択は、除去されるべき次の検出器要素がそれ以上増加せず(ステップS2_10)、有意性を低減させるとすぐ、停止する(さらに背景ノイズが除去されるが、そこからかなりの信号も除去され、したがって、単にそれ以上何も得ることができないので)。ステップS2_11の結果として、識別された検出器要素の最適な選択が出力される。次いで、標的粒子が検出された走査位置が、標的走査位置として出力される。
【0067】
その後、線源装置10、検出器アレイ装置30、および走査装置20を含む組合せは、第2の投影面(xz平面)における標的走査位置に従って走査線を走査するために、旋回装置60を用いて旋回される。走査線に沿った走査位置は、z方向における標的粒子の位置、したがって、第1の投影面における走査位置とともに、標的粒子の座標をもたらす。
【0068】
図14は、図12に示される、検出器要素31のシミュレーションされたX線スペクトルを使用した本発明の利点のさらなる実証を示す。図14Aは、コリメータが使用される場合、本発明による方法が適用されない(図12Aによるすべての検出器要素を使用)、測定されるX線スペクトルを示す。測定信号は、コンプトン散乱によって強く重ね合わされる(1~5回)。図14Bは、本発明に従って測定されるX線スペクトル(図12Bによる識別された検出器要素を使用)を示し、かなりの背景ノイズ低減によって特徴づけられる。図14Bの2つの蛍光線からの信号の統計的有意性は、標準偏差の10倍よりも大きい。
【0069】
上記の説明、図面、およびクレームにおいて開示された本発明の特徴は、本発明をその様々な実施形態において実現するために、個別に、およびさらに組み合わせてまたは部分的に組み合わせて、重要であり得る。
【符号の説明】
【0070】
1 対象
2 X線ビーム
10 線源装置
20 走査装置
30 検出器アレイ装置
31 検出器要素
32 スクリーン薄板
33 照射ウィンドウ
34 案内ウィンドウ
35 アクセスウィンドウ
40 制御装置
50 保持装置
60 旋回装置
100 蛍光X線測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14