(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240220BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240220BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240220BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240220BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/36 C
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2021120297
(22)【出願日】2021-07-21
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】10-2020-0140017
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517113750
【氏名又は名称】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ECOPRO BM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】チェ グァン ソク
(72)【発明者】
【氏名】チェ ムン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ス ジュン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ユン ジン キョン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュン ハン
(72)【発明者】
【氏名】チェ スン ウ
(72)【発明者】
【氏名】ペ ジュン ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム ドゥ ヨル
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-081626(JP,A)
【文献】特開2018-020949(JP,A)
【文献】特表2015-536558(JP,A)
【文献】特開2004-335278(JP,A)
【文献】特表2018-506140(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2081858(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0076425(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0049648(US,A1)
【文献】特開2012-230898(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0099424(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0081452(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムのインターカレーション/デインターカレーションが可能なhigh-Niタイプのリチウム複合酸化物を含み、
前記リチウム複合酸化物中少なくとも1つの金属元素は、前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって(+)の傾きを有する第1濃度勾配区間および(-)の傾きを有する第2濃度勾配区間を含む濃度勾配を示し、
前記リチウム複合酸化物の平均直径をdというとき、前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間は、前記リチウム複合酸化物の最表面から0.05d~0.33dの深さの範囲内に存在し、
前記リチウム複合酸化物の最表面から所定の深さまで前記第1濃度勾配区間が存在し、前記第2濃度勾配区間は、前記第1濃度勾配区間の内側に位置し、
前記第1濃度勾配区間内前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度が前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって減少し、コバルト、マンガンおよびアルミニウムから選ばれる少なくとも1つの濃度が増加し、
前記第2濃度勾配区間内前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度が前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって増加し、コバルト、マンガンおよびアルミニウムから選ばれる少なくとも1つの濃度が減少し、
前記リチウム複合酸化物は単一のバルク構造を有し、前記単一のバルク構造内に第1濃度勾配区間と第2濃度勾配区間とが存在する、正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム複合酸化物の最表面から前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間が連続的に存在する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間は、前記リチウム複合酸化物の最表面から1μmの深さ内に存在する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記第2濃度勾配区間の内側に位置し、前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって前記リチウム複合酸化物中少なくとも1つの金属元素の濃度が維持される濃度維持区間が存在する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記濃度維持区間内少なくとも1つの金属元素の濃度変化率の絶対値が、5mol%以下である、請求項4に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度は、前記濃度維持区間内濃度が前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間内濃度より大きい、請求項4に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記リチウム複合酸化物中、コバルト、マンガンおよびアルミニウムから選ばれる少なくとも1つの濃度は、前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間内濃度が前記濃度維持区間内濃度より大きい、請求項4に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記リチウム複合酸化物は、下記の化学式1で表示される、請求項1に記載の正極活物質。
Li
wNi
1-(x+y+z)Co
xM1
yM2
zO
2+δ
(ここで、
M1は、MnまたはAlから選ばれる少なくとも1つであり、
M2は、P、Sr、Ba、B、Ti、Zr、Mn、Al、W、Ce、Hf、Ta、F、Mg、Cr、V、Fe、Zn、Si、Y、Ga、Sn、Mo、Ge、Nd、GdおよびCuから選ばれる少なくとも1つであり、かつ、
M1とM2は、互いに異なる元素であり、
0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0≦y≦0.20、0≦z≦0.20、0≦δ≦0.02である)
【請求項9】
前記リチウム複合酸化物中、Ni、Co、M1およびM2の濃度(mol%)が、下記の式1を満たす、請求項8に記載の正極活物質。
[式1]
Ni/(Ni+Co+M1+M2)≧
0.80
【請求項10】
前記リチウム複合酸化物は、層状結晶構造の1次粒子および前記1次粒子が凝集した2次粒子を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項11】
前記2次粒子の平均粒径は、3μm~20μmである、請求項10に記載の正極活物質。
【請求項12】
前記正極活物質は、前記1次粒子間の界面および前記2次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部をカバーするコーティング層を含み、
前記コーティング層は、下記の化学式2で表示される少なくとも1つのリチウム合金酸化物を含む、請求項10に記載の正極活物質。
[化学式2]
Li
aM3
bO
c
(ここで、
M3は、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、V、Ba、Ta、Sn、Hf、Ce、GdおよびNdから選ばれる少なくとも1つであり、
0≦a≦10、0≦b≦8、2≦c≦13である)
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極。
【請求項14】
請求項13に記載の正極を使用するリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム複合酸化物中の金属元素の濃度勾配方向を調節することによって、前記リチウム複合酸化物を含む正極活物質の電気化学的特性および安定性を向上させることが可能な正極活物質および前記正極活物質が含まれた正極を使用するリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池は、正極と負極に電気化学反応が可能な物質を使用することによって、電力を貯蔵するものである。このような電池のうち代表的な例としては、正極および負極でリチウムイオンがインターカレーション/デインターカレーションされるときの化学電位(chemical potential)の差異によって電気エネルギーを貯蔵するリチウム二次電池がある。
【0003】
前記リチウム二次電池は、リチウムイオンの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションが可能な物質を正極と負極活物質として使用し、前記正極と負極との間に有機電解液またはポリマー電解液を充填させて製造する。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム複合酸化物が使用されており、その例として、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiMnO2等の複合酸化物が研究されている。
【0005】
前記正極活物質のうちLiCoO2は、寿命特性および充放電効率に優れていて、最も多く使用されているが、原料として使用されるコバルトの資源的限界によって高価なので、価格競争力に限界があるという短所を有している。
【0006】
LiMnO2、LiMn2O4等のリチウムマンガン酸化物は、熱的安全性に優れ、価格が安いという長所があるが、容量が小さくて、高温特性が悪いという問題点がある。また、LiNiO2系正極活物質は、高い放電容量の電池特性を示しているが、Liと遷移金属との間のカチオンミキシング(cation mixing)問題に起因して合成が難しく、これにより、レート(rate)特性に大きな問題点がある。
【0007】
また、このようなカチオンミキシングの深化程度に応じて多量のLi副産物が発生することとなり、これらのLi副産物の大部分は、LiOHおよびLi2CO3の化合物からなるので、正極ペーストの製造時にゲル(gel)化する問題点と電極の製造後に充放電の進行によるガス発生の原因となる。残留のLi2CO3は、セルのスウェリング現象を増加させて、サイクルを減少させると共に、バッテリーが膨らむ原因となる。
【0008】
このような短所を補完するために、二次電池の正極活物質としてNi含量が50%以上のHigh-Ni正極活物質の需要が増加し始めた。しかしながら、このようなHigh-Ni正極活物質は、高容量特性を示すが、正極活物質中のNi含量が増加するにつれて、Li/Ni cation mixingによる構造的不安定性をもたらす問題点がある。このような正極活物質の構造的不安定性によって高温だけでなく常温でもリチウム二次電池が急激に劣化することがある。
【0009】
したがって、このようなHigh-Ni正極活物質の問題点を補完するための正極活物質の開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】韓国特許公開第10-2015-0069334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
リチウム二次電池の市場では、電気自動車用リチウム二次電池の成長が市場の牽引役としての役割をしている中で、リチウム二次電池に使用される正極材の需要も持続的に変化している。
【0012】
例えば、従来、安全性の確保等の観点から、LFPを用いたリチウム二次電池が主に使用されてきたが、最近になって、LFPに比べて重量当たりのエネルギー容量が大きいニッケル系リチウム複合酸化物の使用が拡大される傾向にある。
【0013】
このような正極材の動向に符合して、本発明は、自動車用セルの高容量化を実現するためのhigh-Niタイプのリチウム複合酸化物または前記リチウム複合酸化物を含む正極活物質を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明の他の目的は、本願に定義された正極活物質を含む正極を提供することにある。
【0015】
また、本発明のさらに他の目的は、本願に定義された正極を使用するリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様によれば、リチウムのインターカレーション/デインターカレーションが可能なリチウム複合酸化物を含み、前記リチウム複合酸化物中少なくとも1つの金属元素は、前記リチウム複合酸化物の最表面(an outermost surface)から中心部に向かって(+)の傾きを有する第1濃度勾配区間および(-)の傾きを有する第2濃度勾配区間を同時に含む濃度勾配を示す正極活物質が提供される。
【0017】
ここで、前記リチウム複合酸化物の最表面から前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間が連続的に存在することができる。また、前記リチウム複合酸化物の最表面から所定の深さまで前記第1濃度勾配区間が存在し、前記第2濃度勾配区間は、前記第1濃度勾配区間の内側に位置することができる。
【0018】
本発明による正極活物質は、前記第1濃度勾配区間内前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度が前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって減少し、コバルト、マンガンおよびアルミニウムから選ばれる少なくとも1つの濃度が増加し、前記第2濃度勾配区間内前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度が前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって増加し、コバルト、マンガンおよびアルミニウムから選ばれる少なくとも1つの濃度が減少する濃度勾配を示すことができる。
【0019】
前記リチウム複合酸化物は、下記の化学式1で表示され得る。
【0020】
LiwNi1-(x+y+z)CoxM1yM2zO2+δ
【0021】
(ここで、
M1は、MnまたはAlから選ばれる少なくとも1つであり、
M2は、P、Sr、Ba、B、Ti、Zr、Mn、Al、W、Ce、Hf、Ta、F、Mg、Cr、V、Fe、Zn、Si、Y、Ga、Sn、Mo、Ge、Nd、GdおよびCuから選ばれる少なくとも1つであり、かつ、
M1とM2は、互いに異なる元素であり、
0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0≦y≦0.20、0≦z≦0.20、0≦δ≦0.02である)
【0022】
また、本発明の他の態様によれば、本願に定義された正極活物質を含む正極が提供される。
【0023】
また、本発明のさらに他の態様によれば、本願に定義された正極を使用するリチウム二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0024】
一般的に、リチウム二次電池の高容量化を実現するためのhigh-Niタイプの正極活物質は、熱的安定性が低いという問題があるが、本発明による正極活物質は、前記正極活物質を構成するリチウム複合酸化物内金属元素の濃度勾配方向を調節することによって、high-Niタイプの正極活物質の低い熱的安定性を改善すると同時に、高温動作特性を向上させることができるという利点がある。
【0025】
なお、high-Niタイプの正極活物質の場合、Ni含量が相対的に少ない正極活物質に比べて、表面中LiOHおよびLi2CO3等のようなLi副産物が多量で存在するが、前記Li副産物は、前記正極活物質を用いた正極ペーストの製造時にゲル化(gelation)の原因として作用したり、リチウム二次電池の充放電および/または貯蔵中にガス発生の原因として作用することができる。
【0026】
しかしながら、本発明による正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物内金属元素が、前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって(+)の傾きを有する第1濃度勾配区間および(-)の傾きを有する第2濃度勾配区間を同時に含む濃度勾配を示すようにする場合、前記正極活物質の表面中Li副産物の含量を減らすことが可能である。
【0027】
また、正極活物質の表面は、リチウム二次電池の充放電および/または貯蔵中に電解質と副反応が起こりうる領域であり、正極活物質の表面積(例えば、BET比表面積という指標で示すことができる)が広いほど副反応の可能性が高くなって、正極活物質の表面内結晶構造が相変態(phase transformation)することができる(例えば、層状構造→岩塩構造)。このような正極活物質の表面内結晶構造の相変態は、リチウム二次電池の寿命特性を減少させる原因の1つとして提起されている。
【0028】
本発明による正極活物質の場合、前記リチウム複合酸化物内金属元素が前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって(+)の傾きを有する第1濃度勾配区間および(-)の傾きを有する第2濃度勾配区間を同時に含む濃度勾配を示すようにするに従って、リチウム二次電池の充放電および/または貯蔵中に電解質と副反応が起こりうる表面積(例えば、BET比表面積という指標で示すことができる)を減らすことができることが確認され、これによって、二次電池の充放電および/または貯蔵中に電解質と副反応が起こる可能性を低減することができる。
【0029】
結果的に、本発明による正極活物質は、前記正極活物質を構成するリチウム複合酸化物内金属元素の濃度勾配方向を調節することによって、前記正極活物質の基本的な物性だけでなく、寿命特性および効率特性等のような電気化学的特性の向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施例2による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物をFIB(Ga-ion source)を用いて断面処理した後に得られた断面SEMイメージである。
【
図2】
図1の断面SEMイメージに対するEDX分析を通じて確認した前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かう方向に沿って存在する金属元素(Ni、Co、Mn)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
【
図3】比較例1による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物をFIB(Ga-ion source)を用いて断面処理した後に得られた断面SEMイメージである。
【
図4】
図3の断面SEMイメージに対するEDX分析を通じて確認した前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かう方向に沿って存在する金属元素(Ni、Co、Mn)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
【
図5】実施例3の断面SEMイメージに対するEDX分析を通じて確認した前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かう方向に沿って存在する金属元素(Ni、Co、Mn)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
【
図6】実施例4の断面SEMイメージに対するEDX分析を通じて確認した前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かう方向に沿って存在する金属元素(Ni、Co、Mn)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
【
図7】実施例5の断面SEMイメージに対するEDX分析を通じて確認した前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かう方向に沿って存在する金属元素(Ni、Co、Mn)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
【
図8】実施例6の断面SEMイメージに対するEDX分析を通じて確認した前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かう方向に沿って存在する金属元素(Ni、Co、Mn)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明による正極活物質および前記正極活物質を含む正極を使用するリチウム二次電池についてより詳細に説明することとする。
【0032】
正極活物質
本発明の一態様によれば、リチウムのインターカレーション/デインターカレーションがリチウム複合酸化物を含む正極活物質が提供される。前記リチウム複合酸化物は、層状結晶構造の1次粒子および前記1次粒子が凝集した2次粒子を含むことができる。
【0033】
ここで、1次粒子は、1つの結晶粒(grain or crystallite)を意味し、2次粒子は、複数の1次粒子が凝集して形成された凝集体を意味する。前記2次粒子を構成する前記1次粒子の間には、空隙および/または結晶粒界(grain boundary)が存在することができる。
【0034】
例えば、前記1次粒子は、前記2次粒子の内部で隣り合った1次粒子から離隔して内部空隙を形成することができる。また、前記1次粒子は、隣り合った1次粒子と互いに接して結晶粒界を形成せず、内部空隙と接することによって前記2次粒子の内部に存在する表面を形成することができる。
【0035】
なお、前記2次粒子の最表面に存在する前記1次粒子が外気に露出した面は、前記2次粒子の表面を形成する。
【0036】
ここで、前記1次粒子の平均粒径は、0.1μm~5μm、好ましくは、0.1μm~3μmの範囲内に存在することによって、本発明の多様な実施例による正極活物質を使用して製造された正極の最適密度を具現することができる。また、2次粒子の平均粒径は、凝集した1次粒子の数によって変わることができるが、3μm~20μmでありうる。
【0037】
本発明の多様な実施例による正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物は、前記リチウム複合酸化物中少なくとも1つの金属元素は、前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって(+)の傾きを有する第1濃度勾配区間および(-)の傾きを有する第2濃度勾配区間を同時に含む濃度勾配を示すことができる。
【0038】
ここで、前記リチウム複合酸化物中少なくとも1つの金属元素が示す濃度勾配と関連して、(+)の傾きおよび(-)の傾きは、例えば、前記リチウム複合酸化物の断面に対するEDX分析を通じて前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって測定された前記金属元素の濃度変化グラフから導き出され得る。また、(+)および/または(-)の傾きを有する濃度勾配区間を称するにあたって使用された序数は、(+)の傾きを有する濃度勾配区間と(-)の傾きを有する濃度勾配区間とを区別するために使用されたものに過ぎない。
【0039】
前記リチウム複合酸化物の断面に対するEDX分析を通じて前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって測定された前記金属元素の濃度変化または濃度勾配から断面でなくバルク(bulk)形態の前記リチウム複合酸化物に対する全体的な濃度勾配を予測することができる。
【0040】
前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって(+)の傾きを有する濃度勾配を示すというのは、前記リチウム複合酸化物中少なくとも1つの金属元素の濃度が前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって増加することを意味する。他方で、前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって(-)の傾きを有する濃度勾配を示すというのは、前記リチウム複合酸化物中少なくとも1つの金属元素の濃度が前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって減少することを意味する。
【0041】
また、前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって(+)の傾きを有する濃度勾配を示すというのは、(+)の傾きを有する濃度勾配区間の始点と終点との間の特定の金属元素の濃度値に対する傾きが(+)であると十分であり、前記(+)の傾きを有する濃度勾配区間の始点と終点との間の一部の区間で特定の金属元素の濃度値の微差による傾きの変化は考慮しない。この際、前記濃度値の微差とは、前記(+)の傾きを有する濃度勾配区間内一部の区間で前記(+)の傾きを有する濃度勾配区間の始点における金属元素の濃度値未満であるか、終点における金属元素の濃度値を超過する濃度値が存在しないことを意味する。
【0042】
同様に、前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって(-)の傾きを有する濃度勾配を示すというのは、(-)の傾きを有する濃度勾配区間の始点と終点との間の特定の金属元素の濃度値に対する傾きが(-)であると十分であると理解しなければならない。これによって、前記(-)の傾きを有する濃度勾配区間の始点と終点との間の一部の区間で特定の金属元素の濃度値の微差による傾きの変化は考慮せず、これは、前記(-)の傾きを有する濃度勾配区間内一部の区間で前記(-)の傾きを有する濃度勾配区間の始点における金属元素の濃度値を超過するか、終点における金属元素の濃度値未満の濃度値が存在しないことを意味する。
【0043】
例えば、前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって(+)の傾きを有する濃度勾配を示すというのは、(+)の傾きを有する濃度勾配区間の始点と終点との間の特定の金属元素の濃度値に対する傾きが(+)であり、かつ、(+)の傾きを有する濃度勾配の始点と終点との間の特定の金属元素の濃度値の差異に対する絶対値が5.0mol%を超過することを意味し得る。
【0044】
また、前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって(-)の傾きを有する濃度勾配を示すというのは、(-)の傾きを有する濃度勾配区間の始点と終点との間の特定の金属元素の濃度値に対する傾きが(-)であり、かつ、(-)の傾きを有する濃度勾配の始点と終点との間の特定の金属元素の濃度値の差異に対する絶対値が5.0mol%を超過することを意味し得る。
【0045】
一実施例において、前記リチウム複合酸化物中の濃度勾配は、前記リチウム複合酸化物の最表面から現れることができる。より具体的に、前記リチウム複合酸化物の最表面から前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間が連続的に存在することができる。
【0046】
すなわち、本願によるリチウム複合酸化物は、前記リチウム複合酸化物の最表面から前記リチウム複合酸化物中少なくとも1つの金属元素の濃度が増減する濃度勾配を示し、これによって、前記リチウム複合酸化物の電気化学的特性および安定性等を向上させることができる。また、前記リチウム複合酸化物の最表面から前記リチウム複合酸化物中少なくとも1つの金属元素の濃度が増減する濃度勾配を示すことによって、前記リチウム複合酸化物の比表面積を減らして、前記リチウム複合酸化物の表面副反応を低減することができるという利点がある。
【0047】
また、本発明によれば、前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間は、前記リチウム複合酸化物(2次粒子)の平均粒径(D50)をdというとき、前記リチウム複合酸化物の最表面から0.05d~0.33dの深さの範囲内に存在することが好ましい。
【0048】
また、前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間は、前記リチウム複合酸化物の最表面から1μmの深さ、好ましくは、0.75μm、より好ましくは、0.50μm内に存在することが好ましい。前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間が前記リチウム複合酸化物の最表面から1μmを超過する深さまで存在する場合、前記リチウム複合酸化物の表面部内の結晶構造の不安定性を招く恐れがある。
【0049】
この際、前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間は、前記リチウム複合酸化物の最表面から0.33dの深さまで存在する場合であっても、および前記第2濃度勾配区間が存在する深さは、前記リチウム複合酸化物の最表面から1μm以内であることが好ましい。
【0050】
この場合、相対的に前記リチウム複合酸化物の中心部に隣接する前記第2濃度勾配区間の終点(すなわち、前記第2濃度勾配区間の内側)からは、前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって前記リチウム複合酸化物中少なくとも1つの金属元素の濃度が維持される濃度維持区間が存在することができる。
【0051】
ここで、前記濃度維持区間は、少なくとも1つの金属元素の濃度変化率の絶対値が5.0mol%、好ましくは、3.0mol%、より好ましくは、2.0mol%以下の区間を意味し得る。
【0052】
これによって、前記リチウム複合酸化物は、前記リチウム複合酸化物の最表面から所定の深さ内に前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間が順次に存在し、前記第2濃度勾配区間の内側に濃度維持区間が存在することによって、前記リチウム複合酸化物の結晶構造を安定化させることができる。
【0053】
上述したように、前記リチウム複合酸化物の最表面から所定の深さまで前記第1濃度勾配区間が存在し、前記第2濃度勾配区間は、前記第1濃度勾配区間の内側に位置する。
【0054】
この際、前記第1濃度勾配区間内前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度が前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって減少し、コバルト、マンガンおよびアルミニウムから選ばれる少なくとも1つの濃度が増加し、前記第2濃度勾配区間内前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度が前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって増加し、コバルト、マンガンおよびアルミニウムから選ばれる少なくとも1つの濃度が減少することができる。
【0055】
このように、前記リチウム複合酸化物の最表面に隣接する領域に前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度が増減、より具体的に、前記リチウム複合酸化物の最表面から前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度が一定量減少した後、さらに増加する濃度勾配が存在するにつれて、前記リチウム複合酸化物の表面部でLiイオンとNiイオンのカチオンミキシング(cation mixing)を減らすことができるという利点がある。
【0056】
前記リチウム複合酸化物の平均組成中、ニッケルの含量が高いhigh-Ni(Ni≧ 80mol%)リチウム複合酸化物の場合、表面部でLi/Niカチオンミキシングが発生するにつれて、電気化学的特性が低下し、前記リチウム複合酸化物中のニッケルの含量が過度に高まるにつれて、結晶構造が不安定化される問題がある。
【0057】
しかしながら、本願に開示されたリチウム複合酸化物のように、前記リチウム複合酸化物の最表面から前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度が一定量減少した後、さらに増加する濃度勾配(この場合、コバルト、マンガンおよびアルミニウムから選ばれる少なくとも1つはニッケルと相反する濃度勾配を有する)が存在する場合、前記リチウム複合酸化物の表面部でLi/Niカチオンミキシングを低減し、また、前記リチウム複合酸化物の全体的な結晶構造の安定化が可能であるという利点がある。
【0058】
また、一実施例において、前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度は、前記濃度維持区間内濃度が前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間内濃度より大きいことがある。これによって、上述したように、前記リチウム複合酸化物の平均組成中、ニッケルの含量が高くても(Ni≧80mol%)、相対的に前記リチウム複合酸化物の表面部に隣接する前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間内ニッケルの含量を調整することによって、表面部でLi/Niカチオンミキシングが発生する可能性を低減することができる。
【0059】
この場合、前記リチウム複合酸化物中、コバルト、マンガンおよびアルミニウムから選ばれる少なくとも1つの濃度は、前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間内濃度が前記濃度維持区間内濃度より大きく調整されることによって、前記リチウム複合酸化物の全体的な結晶構造の安定化が可能である。
【0060】
なお、本願に定義された前記リチウム複合酸化物は、コア-シェル構造の酸化物でありうる。この場合、前記第1濃度勾配区間、前記第2濃度勾配区間および前記濃度維持区間は、前記コアに存在し、前記コアの表面のうち少なくとも一部には、後述するコーティング層がシェルとして存在することができる。この際、前記コアの最表面から順次に前記第1濃度勾配区間、前記第2濃度勾配区間および前記濃度維持区間が存在することができる。
【0061】
また、他の実施例において、前記コア-シェル構造において、前記第1濃度勾配区間が前記シェルに存在し、前記第2濃度勾配区間および前記濃度維持区間は、前記コアに存在することができる。さらに他の実施例において、前記コア-シェル構造において、前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間は、前記シェルに存在し、前記濃度維持区間は、前記コアに存在することができる。もし前記第1濃度勾配区間または前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間が前記シェルに存在する場合、前記シェルの表面のうち少なくとも一部には、後述するコーティング層が選択的に存在することができる。
【0062】
さらに他の実施例において、前記リチウム複合酸化物は、コア-シェル構造の酸化物であり、かつ、前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間は、前記シェルの表面を囲むように存在することもできる。
【0063】
上述した多様なコア-シェル構造の前記リチウム複合酸化物において、前記コアと前記シェルは、互いに区分される別個の層で存在したり、前記コアと前記シェルが実質的に区分されない(例えば、固溶された)層で存在することができる。
【0064】
また、本願に定義された前記リチウム複合酸化物は、コア-シェル構造でなく、単一のバルク構造を有することができ、前記第1濃度勾配区間、前記第2濃度勾配区間および前記濃度維持区間は、前記単一のバルク構造内に存在することができる。
【0065】
本願に定義された前記リチウム複合酸化物は、下記の化学式1で表示され得る。
【0066】
LiwNi1-(x+y+z)CoxM1yM2zO2+δ
【0067】
ここで、
M1は、MnまたはAlから選ばれる少なくとも1つであり、
M2は、P、Sr、Ba、B、Ti、Zr、Mn、Al、W、Ce、Hf、Ta、F、Mg、Cr、V、Fe、Zn、Si、Y、Ga、Sn、Mo、Ge、Nd、GdおよびCuから選ばれる少なくとも1つであり、かつ、
M1とM2は、互いに異なる元素であり、
0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0≦y≦0.20、0≦z≦0.20、0≦δ≦0.02である。
【0068】
この際、前記リチウム複合酸化物中、Ni、Co、M1およびM2の濃度(mol%)が下記の式1を満たすhigh-Niリチウム複合酸化物でありうる。
【0069】
[式1]
Ni/(Ni+Co+M1+M2)≧80.0
【0070】
また、本発明のいくつかの実施例による正極活物質は、前記1次粒子(例えば、前記1次粒子間の界面)および/または前記1次粒子が凝集して形成された2次粒子の表面のうち少なくとも一部をカバーするコーティング層を含むことができる。
【0071】
例えば、前記コーティング層は、前記1次粒子の露出した表面のうち少なくとも一部をカバーするように存在することができる。特に、前記コーティング層は、前記2次粒子の最外郭に存在する前記1次粒子の露出した表面のうち少なくとも一部をカバーするように存在することができる。
【0072】
これによって、前記コーティング層は、前記1次粒子および/または前記1次粒子が凝集して形成された前記2次粒子の表面を連続的または不連続的にコーティングする層として存在することができる。前記コーティング層が不連続的に存在する場合、アイランド(island)形態で存在することができる。
【0073】
このように存在するコーティング層は、正極活物質の物理的および電気化学的特性の向上に寄与することができる。
【0074】
また、前記コーティング層は、前記1次粒子および/または前記1次粒子が凝集して形成された前記2次粒子と境界を形成しない固溶体の形態で存在することもできる。
【0075】
前記コーティング層は、下記の化学式2で表示される少なくとも1つの酸化物を含むことができる。すなわち、前記コーティング層は、下記の化学式2で表示される酸化物が存在する領域として定義され得る。
【0076】
[化学式2]
LiaM3bOc
【0077】
ここで、
M3は、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、V、Ba、Ta、Sn、Hf、Ce、GdおよびNdから選ばれる少なくとも1つであり、
0≦a≦10、0≦b≦8、2≦c≦13である。
【0078】
また、前記コーティング層は、1つの層内異種の酸化物が同時に存在したり、上記の化学式2で表示される異種の酸化物がそれぞれ別個の層に存在する形態でありうる。
【0079】
上記の化学式2で表示される酸化物は、上記の化学式1で表示される1次粒子と物理的および/または化学的に結合した状態でありうる。また、前記酸化物は、上記の化学式1で表示される1次粒子と固溶体を形成した状態で存在することもできる。
【0080】
本実施例による正極活物質は、前記1次粒子(例えば、前記1次粒子間の界面)および/または前記1次粒子が凝集して形成された2次粒子の表面のうち少なくとも一部をカバーするコーティング層を含むことによって、構造的な安定性が高くなりえる。また、このような正極活物質をリチウム二次電池に使用する場合、正極活物質の高温貯蔵安定性および寿命特性が向上することができる。また、前記酸化物は、前記正極活物質内残留リチウムを低減させると同時に、リチウムイオンの移動経路(pathway)として作用することによって、リチウム二次電池の効率特性を向上させるのに影響を与えることができる。
【0081】
また、場合によって、前記酸化物は、前記1次粒子間の界面および前記2次粒子の表面のうち少なくとも一部だけでなく、前記2次粒子の内部に形成された内部空隙にも存在することができる。
【0082】
前記酸化物は、リチウムとAで表示される元素が複合化された酸化物であるか、Aの酸化物であり、前記酸化物は、例えば、LiaWbOc、LiaZrbOc、LiaTibOc、LiaNibOc、LiaBbOc、WbOc、ZrbOc、TibOcまたはBbOc等でありうるが、上述した例は、理解を助けるために便宜上記載したものに過ぎず、本願に定義された前記酸化物は、上述した例に制限されない。
【0083】
他の実施例において、前記酸化物は、リチウムとAで表示される少なくとも2種の元素が複合化された酸化物であるか、リチウムとAで表示される少なくとも2種の元素が複合化された酸化物をさらに含むことができる。リチウムとAで表示される少なくとも2種の元素が複合化された酸化物は、例えば、Lia(W/Ti)bOc、Lia(W/Zr)bOc、Lia(W/Ti/Zr)bOc、Lia(W/Ti/B)bOc等でありうるが、必ずこれらに制限されるものではない。
【0084】
ここで、前記酸化物は、前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。これによって、前記酸化物の濃度は、前記2次粒子の最表面から前記2次粒子の中心部に向かって減少することができる。
【0085】
上述したように、前記酸化物が前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことによって、前記正極活物質の表面に存在する残留リチウムを効果的に減少させて、未反応の残留リチウムによる副反応を未然に防止することができる。また、前記酸化物によって前記正極活物質の表面内側領域における結晶性が低くなるのを防止することができる。また、電気化学反応中に前記酸化物により正極活物質の全体的な構造が崩壊されるのを防止することができる。
【0086】
追加的に、前記コーティング層は、上記の化学式2で表示される少なくとも1つの酸化物を含む第1酸化物層と、上記の化学式2で表示される少なくとも1つの酸化物とを含み、かつ、前記第1酸化物層に含まれた酸化物と異なる酸化物を含む第2酸化物層を含むことができる。
【0087】
例えば、前記第1酸化物層は、前記2次粒子の最外郭に存在する前記1次粒子の露出した表面のうち少なくとも一部をカバーするように存在することができ、前記第2酸化物層は、前記第1酸化物層によりカバーされていない前記1次粒子の露出した表面および前記第1酸化物層の表面のうち少なくとも一部をカバーするように存在することができる。
【0088】
リチウム二次電池
本発明のさらに他の態様によれば、正極集電体と、前記正極集電体上に形成された正極活物質層とを含む正極が提供され得る。ここで、前記正極活物質層は、本発明の多様な実施例による正極活物質を含むことができる。したがって、正極活物質は、上記で説明したことと同一なので、便宜上、具体的な説明を省略し、以下では、残りの前述しない構成のみについて説明することとする。
【0089】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を誘発せず、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えばステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀等で表面処理したもの等が使用され得る。また、前記正極集電体は、通常、3~500μmの厚みを有し得、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して、正極活物質の接着力を高めることもできる。例えばフィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体等多様な形態で使用され得る。
【0090】
前記正極活物質層は、前記正極活物質と共に、導電材および必要に応じて選択的にバインダーを含む正極スラリー組成物を前記正極集電体に塗布して製造され得る。
【0091】
この際、前記正極活物質は、正極活物質層の総重量に対して80~99wt%、より具体的には、85~98.5wt%の含量で含まれ得る。上記した含量範囲で含まれるとき、優れた容量特性を示すことができるが、必ずこれに制限されるものではない。
【0092】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こさず、電子伝導性を有するものであれば、特別な制限なしに使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維等の炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀等の金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー;酸化チタン等の導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体等の導電性高分子等が挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用され得る。前記導電材は、正極活物質層の総重量に対して0.1~15wt%で含まれ得る。
【0093】
前記バインダーは、正極活物質粒子間の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割をする。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体等が挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用され得る。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して0.1~15wt%で含まれ得る。
【0094】
前記正極は、上記した正極活物質を利用することを除いて、通常の正極の製造方法により製造され得る。具体的に、上記した正極活物質および選択的に、バインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した正極スラリー組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することによって製造することができる。
【0095】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般的に使用される溶媒であってもよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水等が挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用され得る。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚み、製造収率を考慮して前記正極活物質、導電材およびバインダーを溶解または分散させ、以後、正極の製造のための塗布時に優れた厚み均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0096】
また、他の実施例において、前記正極は、前記正極スラリー組成物を別の支持体上にキャストした後、該支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネーションすることによって製造されることもできる。
【0097】
また、本発明のさらに他の態様によれば、上述した正極を含む電気化学素子が提供され得る。前記電気化学素子は、具体的に電池、キャパシタ等であってもよく、より具体的には、リチウム二次電池であってもよい。
【0098】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と前記負極との間に介在される分離膜および電解質とを含むことができる。ここで、前記正極は、上記で説明したことと同一なので、便宜上、具体的な説明を省略し、以下では、前述しない残りの構成のみについて具体的に説明する。
【0099】
前記リチウム二次電池は、前記正極、前記負極および前記分離膜の電極組立体を収納する電池容器および前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0100】
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含むことができる。
【0101】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく、高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀等で表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金等が使用され得る。また、前記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚みを有し得、正極集電体と同様に、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して、負極活物質の結合力を強化させることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体等多様な形態で使用され得る。
【0102】
前記負極活物質層は、前記負極活物質と共に、導電材および必要に応じて選択的にバインダーを含む負極スラリー組成物を前記負極集電体に塗布して製造され得る。
【0103】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が使用され得る。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素等の炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金等リチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO2、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープおよび脱ドープし得る金属酸化物;またはSi-C複合体またはSn-C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物等が挙げられ、これらのうちいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用され得る。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜が使用されることもできる。また、炭素材料は、低結晶性炭素および高結晶性炭素等がすべて使用され得る。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)および硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球形状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)等の高温焼成炭素が代表的である。
【0104】
前記負極活物質は、負極活物質層の全体重量を基準として80~99wt%で含まれ得る。
【0105】
前記バインダーは、導電材、活物質および集電体間の結合に助力する成分であって、通常、負極活物質層の全体重量を基準として0.1~10wt%で添加され得る。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの多様な共重合体等が挙げられる。
【0106】
前記導電材は、負極活物質の導電性をさらに向上させるための成分であって、負極活物質層の全体重量を基準として10wt%以下、好ましくは5wt%以下で添加され得る。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発することなく、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛;アセチレンブラック、ケチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維等の導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末等の金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー;酸化チタン等の導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体等の導電性素材等が使用され得る。
【0107】
一実施例において、前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した負極スラリー組成物を塗布し乾燥することによって製造されたり、または前記負極スラリー組成物を別の支持体上にキャストした後、該支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネーションすることによって製造され得る。
【0108】
なお、前記リチウム二次電池において、分離膜は、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであって、通常、リチウム二次電池において分離膜として使用されるものであれば、特別な制限なしに使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗でありかつ電解液含浸能力に優れていることが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えばエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体およびエチレン/メタクリレート共重合体等のようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が使用され得る。また、通常の多孔性不織布、例えば高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等からなる不織布が使用されることもできる。また、耐熱性または機械的強度の確保のためにセラミック成分または高分子物質が含まれたコートされた分離膜が使用されることもでき、選択的に単層または多層構造で使用され得る。
【0109】
また、本発明において使用される電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル状高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質等が挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0110】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含むことができる。
【0111】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動できる媒質の役割をすることができるものであれば、特別な制限なしに使用され得る。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)等のエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)等のエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)等のケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)等の芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)等のカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒;R-CN(Rは、炭素数2~20の直鎖状、分岐状または環状構造の炭化水素基であり、二重結合の芳香環またはエーテル結合を含むことができる)等のニトリル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;1,3-ジオキソラン等のジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類等が使用され得る。これらの中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネート等)と、低粘度の線状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネート等)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して使用することが、電解液の性能が優秀に現れることができる。
【0112】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供できる化合物であれば、特別な制限なしに使用され得る。具体的に前記リチウム塩は、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAl04、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(C2F5SO3)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiCl、LiI、またはLiB(C2O4)2等が使用され得る。前記リチウム塩の濃度は、0.1~2.0Mの範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれる場合、電解質が適切な伝導度および粘度を有するので、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0113】
前記電解質には、前記電解質構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池容量減少の抑制、電池の放電容量の向上等を目的として例えば、ジフルオロエチレンカーボネート等のようなハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウム等の添加剤が1種以上さらに含まれることもできる。この際、前記添加剤は、電解質の総重量に対して0.1~5wt%で含まれ得る。
【0114】
上記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性および寿命特性を安定的に示すので、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ等の携帯用機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)等の電気自動車分野等に有用である。
【0115】
本発明によるリチウム二次電池の外形は、特別な制限がないが、缶を使用した円筒形、角形、パウチ(pouch)形またはコイン(coin)形等になり得る。また、リチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用され得ると共に、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好ましく使用され得る。
【0116】
本発明のさらに他の態様によれば、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよび/またはこれを含む電池パックが提供され得る。
【0117】
前記電池モジュールまたは前記電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのうちいずれか1つ以上の中大型デバイス電源として用いられる。
【0118】
以下では、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。ただし、これらの実施例は、ただ本発明を例示するためのものであって、本発明の範疇がこれらの実施例により制限されるものと解されないと言える。
【0119】
製造例1.正極活物質の製造
実施例1
バッチ反応器(90L batch reactor)に蒸留水20リットルとアンモニア1kgを入れた後、N2ガスを反応器に1.5リットル/分の速度で供給し、反応器の温度を45℃に維持しつつ、350rpmで撹拌した。コア形成用水溶液として硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンのモル比が95:3.5:1.5の比率で混合された2.5M濃度の水溶液を53g投入した。
【0120】
上記で製造された2.5Mのコア形成用水溶液を2.4リットル/時間で、28%アンモニア水を0.3リットル/時間で連続的に投入した。また、反応器内のpHが11~12に維持されるように、25%水酸化ナトリウム溶液の投入量を調整しつつ、連続反応を行った。この際、撹拌速度は、350rpmに調節した。
【0121】
シェル形成用水溶液として硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンのモル比が54:44.5:1.5の比率で混合された2.5M濃度のシェル形成用水溶液を作成し、前記バッチ反応器(90L batch reactor)に2.4リットル/時間で、28%濃度のアンモニア水を0.3リットル/時間で投入し、25%水酸化ナトリウム溶液はpHが11~12になるように投入した。
【0122】
コアおよびシェル形成反応が終結した後、前記バッチ反応器の内部pHを高めて結晶化反応を誘導した。
【0123】
前記結晶化反応が終結した後、前記バッチ反応器から球形の金属複合水酸化物沈殿物を得た。前記金属複合水酸化物を濾過し、水洗した後、温風乾燥器で12時間110℃で乾燥させた。
【0124】
乾燥した金属複合水酸化物とLiOH(Li/(Ni+Co+Mn)mol ratio=1.06)を混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、690℃まで1分当り2℃で昇温して、10時間熱処理(第1熱処理)して、リチウム複合酸化物を収得した。
【0125】
次に、前記リチウム複合酸化物にAl2O3、TiO2およびZrO2を混合し、O2雰囲気を維持しつつ、680℃まで1分当り2℃で昇温して、10時間追加熱処理(第2熱処理)を進めた。この際、前記Al2O3は、混合物中Alの含量が1,600ppmになるように称量され、TiO2は、混合物中Tiの含量が1,600ppmになるように称量され、ZrO2の含量は、混合物中Zrの含量が500ppmになるように称量された。
【0126】
その後、前記リチウム複合酸化物に蒸留水を投入した後、1時間水洗し、水洗した前記リチウム複合酸化物を濾過し、乾燥して、正極活物質を収得した。前記正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物の平均粒径(D50)は、16.5μmで測定された。
【0127】
実施例2
前記リチウム複合酸化物にH3BO3を混合し、O2雰囲気を維持しつつ、300℃まで1分当り2℃で昇温して、8時間追加熱処理(第3熱処理)したことを除いて、実施例1と同一に正極活物質を製造した。この際、前記H3BO3は、混合物中Bの含量が400ppmになるように称量された。前記正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物の平均粒径(D50)は、16.5μmで測定された。
【0128】
実施例3
硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが97:3:0のモル比で混合されたコア形成用水溶液を使用し、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが40:50:10のモル比で混合されたシェル形成用水溶液を使用したことを除いて、実施例1と同一に正極活物質を製造した。前記正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物の平均粒径(D50)は、16.5μmで測定された。
【0129】
実施例4
硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが90:10:0のモル比で混合されたコア形成用水溶液を使用し、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが65:15:20のモル比から40:20:40の比率になるまで濃度変化を与えたシェル形成用水溶液を使用し、第1熱処理時に800℃まで1分当り2℃で昇温して10時間熱処理し、第2熱処理時に720℃まで1分当り2℃で昇温して10時間熱処理したことを除いて、実施例1と同一に正極活物質を製造した。前記正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物の平均粒径(D50)は、13.0μmで測定された。
【0130】
実施例5
バッチ反応器(90L batch reactor)に蒸留水20リットルとアンモニア1kgを入れた後、N2ガスを反応器に1.5リットル/分の速度で供給し、反応器の温度を45℃に維持しつつ、350rpmで撹拌した。硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンのモル比が80:10:10の比率で混合された2.5M濃度の水溶液を80g投入した。
【0131】
前記製造された2.5M濃度の前駆体水溶液を2.4リットル/時間で、28%濃度のアンモニア水溶液を0.3リットル/時間で反応器に連続的に投入した。また、反応器内のpHが11~12に維持されるように、25%水酸化ナトリウム溶液の投入量を調整しつつ、連続反応を行った。この際、撹拌速度は、350rpmに調節した。
【0132】
反応が終結した後、前記バッチ反応器の内部pHを高めて結晶化反応を進めることによって、球形の金属複合水酸化物沈殿物を得た。前記金属複合水酸化物を濾過し、水洗した後、温風乾燥器で12時間110℃で乾燥させた。
【0133】
乾燥した金属複合水酸化物とLiOH(Li/(Ni+Co+Mn)mol ratio=1.06)を混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、800℃まで1分当り2℃で昇温して10時間熱処理して、リチウム複合酸化物を収得した。
【0134】
その後、前記リチウム複合酸化物に蒸留水を投入した後、1時間水洗し、水洗した前記リチウム複合酸化物を濾過し、乾燥して、正極活物質を収得した。前記正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物の平均粒径(D50)は、13.0μmで測定された。
【0135】
実施例6
硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが92:8.0:0.0のモル比で混合された前駆体水溶液を使用してNi0.92Co0.08(OH)2の金属複合水酸化物前駆体を製造し、前記金属複合水酸化物とLiOHおよび1.4mol%のAl(OH)3を混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、650℃まで1分当り2℃で昇温して、10時間熱処理して、リチウム複合酸化物を収得したことを除いて、実施例5と同一に正極活物質を製造した。前記正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物の平均粒径(D50)は、14.0μmで測定された。
【0136】
比較例1
コアおよびシェル形成反応が終結した後、前記バッチ反応器の内部pHを高めて結晶化反応を誘導しないことを除いて、実施例1と同一に正極活物質を製造した。
【0137】
比較例2
コアおよびシェル形成反応が終結した後、前記バッチ反応器の内部pHを高めて結晶化反応を誘導しないことを除いて、実施例3と同一に正極活物質を製造した。
【0138】
比較例3
コアおよびシェル形成反応が終結した後、前記バッチ反応器の内部pHを高めて結晶化反応を誘導しないことを除いて、実施例4と同一に正極活物質を製造した。
【0139】
比較例4
コアおよびシェル形成反応が終結した後、前記バッチ反応器の内部pHを高めて結晶化反応を誘導しないことを除いて、実施例5と同一に正極活物質を製造した。
【0140】
比較例5
コアおよびシェル形成反応が終結した後、前記バッチ反応器の内部pHを高めて結晶化反応を誘導しないことを除いて、実施例6と同一に正極活物質を製造した。
【0141】
製造例2.リチウム二次電池の製造
製造例1によって製造された正極活物質それぞれ94wt%、人造黒鉛3wt%、PVDFバインダー3wt%をN-メチル-2ピロリドン(NMP)3.5gに分散させて、正極スラリーを製造した。前記正極スラリーを厚さ20μmの正極集電体であるアルミニウム(Al)薄膜に塗布および乾燥し、ロールプレス(roll press)を実施して、正極を製造した。正極のローディングレベルは、7mg/cm2であり、電極密度は、3.2g/cm3であった。
【0142】
前記正極に対してリチウムフォイルを対電極(counter electrode)とし、多孔性ポリエチレン膜(Celgard 2300、厚さ:25μm)を分離膜とし、エチレンカーボネートおよびエチルメチルカーボネートが3:7の体積比で混合された溶媒にLiPF6が1.15Mの濃度で存在する液体電解液を使用して通常的に知られている製造工程によってコイン電池を製造した。
【0143】
実験例1.金属複合水酸化物および正極活物質のSEM/EDX分析
図1は、実施例2による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物をFIB(Ga-ion source)を用いて断面処理した後に得られた断面SEMイメージであり、
図2は、
図1の断面SEMイメージに対するEDX分析を通じて確認した前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かう方向に沿って存在する金属元素(Ni、Co、Mn)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
【0144】
図3は、比較例1による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物をFIB(Ga-ion source)を用いて断面処理した後に得られた断面SEMイメージであり、
図4は、
図3の断面SEMイメージに対するEDX分析を通じて確認した前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かう方向に沿って存在する金属元素(Ni、Co、Mn)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
【0145】
図2を参照すると、前記正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物中少なくとも1つの金属元素は、前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かって(+)の傾きを有する第1濃度勾配区間および(-)の傾きを有する第2濃度勾配区間を含む濃度勾配を示すことを確認することができる。
【0146】
より具体的に、前記リチウム複合酸化物の最表面から所定の深さ(概略最表面から0.1μmの深さ)まで前記第1濃度勾配区間が存在し、前記第2濃度勾配区間は、前記第1濃度勾配区間の内側に位置し、前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間は、前記リチウム複合酸化物の最表面から1μmの深さ内(
図2を基準として約0.5μmの深さ)に存在することを確認することができる。
【0147】
また、前記第1濃度勾配区間内前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度が前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって減少し、コバルトおよびマンガンの濃度が増加し、前記第2濃度勾配区間内前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度が前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって増加し、コバルトおよびマンガンの濃度が減少することを確認することができる。
【0148】
前記第2濃度勾配区間の内側(すなわち、前記第2濃度勾配区間から中心部方向にさらに深い位置)では、前記リチウム複合酸化物中少なくとも1つの金属元素の濃度が維持される濃度維持区間(概略前記リチウム複合酸化物の最表面から0.5μmの深さから前記リチウム複合酸化物の中心部まで)が存在することを確認することができる。前記濃度維持区間内ニッケル、コバルトおよび/またはマンガンの濃度変化率の絶対値は、5.0mol%以下であることが示された。
【0149】
なお、比較例1による正極活物質のline sum spectrumである
図4を参照すると、
図2に示すグラフとは異なって、前記リチウム複合酸化物の最表面から所定の深さまで明確に区分される前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間が示されないことを確認することができる。
【0150】
また、比較例2~比較例5による正極活物質のline sum spectrumでも、
図2に示された濃度勾配パターンを観察することができなかった。
【0151】
図5は、実施例3の断面SEMイメージに対するEDX分析を通じて確認した前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かう方向に沿って存在する金属元素(Ni、Co、Mn)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
【0152】
図6は、実施例4の断面SEMイメージに対するEDX分析を通じて確認した前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かう方向に沿って存在する金属元素(Ni、Co、Mn)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
【0153】
図7は、実施例5の断面SEMイメージに対するEDX分析を通じて確認した前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かう方向に沿って存在する金属元素(Ni、Co、Mn)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
【0154】
図8は、実施例6の断面SEMイメージに対するEDX分析を通じて確認した前記リチウム複合酸化物の最表面から中心部に向かう方向に沿って存在する金属元素(Ni、Co、Mn)の含量を示すグラフ(line sum spectrum)である。
【0155】
図5~
図8を参照すると、
図2に示された濃度勾配パターンと同様に、前記リチウム複合酸化物の最表面から所定の深さ(概略最表面から0.1μmの深さ)まで前記第1濃度勾配区間が存在し、前記第2濃度勾配区間は、前記第1濃度勾配区間の内側に位置し、前記第1濃度勾配区間および前記第2濃度勾配区間は、前記リチウム複合酸化物の最表面から1μmの深さ内(
図5を基準として約0.5μmの深さ、
図6を基準として約0.4μmの深さ、
図7を基準として約0.2μmの深さ、
図8を基準として約0.2μmの深さ)に存在することを確認することができる。
【0156】
同様に、前記第1濃度勾配区間内前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度が前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって減少し、コバルトおよびマンガンの濃度が増加し、前記第2濃度勾配区間内前記リチウム複合酸化物中のニッケルの濃度が前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって増加し、コバルトおよびマンガンの濃度が減少することを確認することができる。
【0157】
前記第2濃度勾配区間の内側(すなわち、前記第2濃度勾配区間から中心部方向にさらに深い位置)では、前記リチウム複合酸化物中少なくとも1つの金属元素の濃度が維持される濃度維持区間が存在することを確認することができる。前記濃度維持区間内ニッケル、コバルトおよび/またはマンガンの濃度変化率の絶対値は、5.0mol%以下であることが示された。
【0158】
実験例2.正極活物質のXPS分析
製造例1によって製造された正極活物質に対してXPS分析を行うことで、リチウム複合酸化物の表面にコーティング層が存在するか否かを確認した。XPS分析は、K-Alpha+(ThermoFisher Scientific)(加速電圧:0.5~2keV、エネルギー分解能:約0.5eV、最小分析領域:30micro、Monatomic and Gas cluster ion source)を使用して行われた。前記XPS分析結果は、下記の表1に示す。
【0159】
【0160】
上記表1の結果を参考にすると、実施例1、実施例3および実施例4による正極活物質の場合、Al、ZrおよびTiに特異的なピークが検出されたとを考慮すると、実施例1、実施例3および実施例4による正極活物質では、Al、ZrおよびTiを含むコーティング層がリチウム複合酸化物に表面に存在することを確認することができる。
【0161】
また、実施例2による正極活物質の場合、Al、ZrおよびTiに特異的なピークとともに、Bに特異的なピークも検出されるところ、実施例2による正極活物質では、Al、ZrおよびTiを含むコーティング層とBを含むコーティング層がリチウム複合酸化物に表面に存在することを確認することができる。
【0162】
実験例3.正極活物質の残留リチウムおよび比表面積の測定
残留リチウムの測定は、pH滴定によりpH4になるまで使用された0.1M HClの量で測定する。まず、正極活物質5gをDIW 100mlに入れ、15分間撹拌した後、フィルタリングする。次に、フィルタリングした溶液50mlを取った後、これに0.1M HClを加えて、pH変化によるHCl消耗量を測定してQ1およびQ2を決定し、下記の計算式によって残留LiOHおよびLi2CO3を計算した。
【0163】
M1=23.94(LiOH Molecular weight)
M2=73.89(Li
2CO
3 Molecular weight)
【数1】
【数2】
【0164】
また、BET比表面積は、ガス吸着法比表面積測定装置(MicrotaracBEL社、BELSORP-mini II)を用いて液体窒素温度下(77K)での窒素ガス吸着量から算出した。
【0165】
前記残留リチウムおよびBET比表面積の測定結果は、下記の表2に示す。
【0166】
【0167】
上記表2の結果を参考にすると、実施例1、実施例3~実施例6による正極活物質は、それぞれ、これに対応する比較例1~比較例5による正極活物質に比べて、残留リチウムの含量およびBET比表面積が同時に減少したことを確認することができる。
【0168】
すなわち、バッチ反応器の内部pHを高めて結晶化反応を誘導する追加的な工程を伴うにつれて、最終産物である正極活物質における残留リチウムおよびBET比表面積を減少させることができることを確認することができる。
【0169】
実験例4.リチウム二次電池容量および寿命特性の評価
製造例2によって製造されたリチウム二次電池(コインセル)に対して電気化学分析装置(Toyo、Toscat-3100)を用いて25℃、電圧範囲3.0V~4.3V、0.1Cの放電率を適用して充放電実験を実施して、充電および放電容量を測定した
【0170】
また、同一のリチウム二次電池に対して25℃、3.0V~4.4Vの駆動電圧範囲内で1C/1Cの条件で50回充放電を実施した後、初期容量に対する50サイクル目の放電容量の割合(サイクル容量維持率;capacity retention)を測定した。
【0171】
上記測定結果は、下記の表3に示す。
【0172】
【0173】
上記表3の結果を参考にすると、実施例1、実施例3~実施例6による正極活物質は、それぞれ、これらに対応する比較例1~比較例5による正極活物質に比べて、充放電効率およびサイクル容量維持率が向上したことを確認することができる。
【0174】
また、B含有コーティング層が追加的に導入された実施例2による正極活物質は、実施例1、実施例3~実施例6による正極活物質よりサイクル容量維持率の観点から改善された効果を示すことを確認することができる。
【0175】
以上、本発明の実施例について説明したが、当該技術分野における通常の知識を有する者なら、特許請求範囲に記載された本発明の思想を逸脱しない範囲内で、構成要素の付加、変更、削除または追加等により本発明を多様に修正および変更させることができ、これも、本発明の権利範囲内に含まれるといえる。