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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】高電圧増幅回路、及び分析装置
(51)【国際特許分類】
   H03F 3/08 20060101AFI20240220BHJP
   G05F 1/10 20060101ALI20240220BHJP
   H03F 3/16 20060101ALI20240220BHJP
   G01N 23/2273 20180101ALI20240220BHJP
   G01N 23/2276 20180101ALI20240220BHJP
   H01J 49/48 20060101ALI20240220BHJP
   H03K 17/785 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
H03F3/08
G05F1/10 B
H03F3/16 220
G01N23/2273
G01N23/2276
H01J49/48 400
H03K17/785
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021181024
(22)【出願日】2021-11-05
(65)【公開番号】P2023069273
(43)【公開日】2023-05-18
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】有光 正浩
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-220857(JP,A)
【文献】特開2012-255784(JP,A)
【文献】特開平09-097924(JP,A)
【文献】特開昭61-203554(JP,A)
【文献】特開2008-217780(JP,A)
【文献】特開2006-112704(JP,A)
【文献】米国特許第04712020(US,A)
【文献】特開2005-079925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00-3/72
G05F 1/10
G01N 23/2273
G01N 23/2276
H01J 49/48
H03K 17/785
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子に入力される第1電圧信号を増幅し第2電圧信号を出力端子から出力する高電圧増幅回路であって、
前記出力端子に定電流信号を出力する定電流回路と、
前記第1電圧信号に基づく増幅制御信号を出力する増幅演算器と、
前記定電流信号と前記増幅制御信号とに基づいて、前記第2電圧信号を出力する増幅電圧出力回路と、
を備え、
前記定電流回路は、
一端に定電圧信号が供給され、他端にグラウンド電位が供給される第1発光素子と、
前記第1発光素子の発光に応じた駆動信号を出力する第1受光発電素子と、
第1端子に供給される前記駆動信号に基づいて駆動することで、第2端子に入力される数kV以上の電圧値の増幅電圧信号に基づき前記定電流信号を生成し、第3端子から出力する第1トランジスターと、
前記第3端子から出力される前記定電流信号の電流値を検出し、検出結果に基づいて前記第1端子への前記駆動信号の供給を制御する電流制御回路と、
を有し、
前記増幅電圧出力回路は、
前記増幅制御信号に基づく電流によって発光する第2発光素子と、
前記第2発光素子の発光に応じた電流を出力する第2受光発電素子と、
-端子側に-数kV以下の負側高電圧信号が入力されるフローティング電源を含み、前記第2受光発電素子が出力する電流を増幅制御電圧信号に変換するIV変換回路と、
ドレイン端子が前記出力端子と電気的に接続され、ゲート端子に前記増幅制御電圧信号が入力され、ソース端子に前記負側高電圧信号が入力される第2トランジスターと、
を有し、
前記増幅制御電圧信号に応じて前記第2トランジスターのゲート端子とソース端子との導通状態が制御されることで、前記増幅電圧出力回路は、電圧値が数kVと-数kVとの間で変化する前記第2電圧信号を出力する、高電圧増幅回路。
【請求項2】
請求項において、
前記IV変換回路は、オペアンプを有する集積回路装置を含む、高電圧増幅回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高電圧増幅回路を含む、分析装置。
【請求項4】
請求項において、
前記第2電圧信号が供給される静電レンズを含む、分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧増幅回路、及び分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力される数V~数十Vの電圧信号を数kVの高電圧信号に増幅し、出力する高電圧増幅回路が知られている。例えば、特許文献1には、電圧信号が入力されるオペアンプと、オペアンプが出力する信号を増幅し高電圧信号を出力するプッシュ・プル回路とを有し、プッシュ・プル回路が出力する高電圧信号を、抵抗素子を介してオペアンプに帰還することで、所望の電圧値の高電圧信号の出力が可能な高出力直流増幅回路(高電圧増幅回路)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-079925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の高電圧増幅回路では、プッシュ・プル回路に含まれるプッシュ側電界効果トランジスターが、プッシュ側フォトカプラ13Aの出力電流に基づいて駆動される。しかしながら、プッシュ側フォトカプラ13Aの出力電流は微弱であり、それ故に、プッシュ側電界効果トランジスターの入力容量をチャージするのに時間を要する。そのため、特許文献1に記載の高電圧増幅回路では、高電圧信号の電圧値の変更要求に対する高電圧信号の応答速度の高速化が困難であった。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、高速に応答する高電圧増幅回路及び分析装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る高電圧出力回路の一態様は、
入力端子に入力される第1電圧信号を増幅し第2電圧信号を出力端子から出力する高電圧増幅回路であって、
前記出力端子に定電流信号を出力する定電流回路と、
前記第1電圧信号に基づく増幅制御信号を出力する増幅演算器と、
前記定電流信号と前記増幅制御信号とに基づいて、前記第2電圧信号を出力する増幅電圧出力回路と、
を備え、
前記定電流回路は、
一端に定電圧信号が供給され、他端にグラウンド電位が供給される第1発光素子と、
前記第1発光素子の発光に応じた駆動信号を出力する第1受光発電素子と、
第1端子に供給される前記駆動信号に基づいて駆動することで、第2端子に入力される数kV以上の電圧値の増幅電圧信号に基づき前記定電流信号を生成し、第3端子から出力する第1トランジスターと、
前記第3端子から出力される前記定電流信号の電流値を検出し、検出結果に基づいて前記第1端子への前記駆動信号の供給を制御する電流制御回路と、
を有し、
前記増幅電圧出力回路は、
前記増幅制御信号に基づく電流によって発光する第2発光素子と、
前記第2発光素子の発光に応じた電流を出力する第2受光発電素子と、
-端子側に-数kV以下の負側高電圧信号が入力されるフローティング電源を含み、前記第2受光発電素子が出力する電流を増幅制御電圧信号に変換するIV変換回路と、
ドレイン端子が前記出力端子と電気的に接続され、ゲート端子に前記増幅制御電圧信号が入力され、ソース端子に前記負側高電圧信号が入力される第2トランジスターと、
を有し、
前記増幅制御電圧信号に応じて前記第2トランジスターのゲート端子とソース端子との導通状態が制御されることで、前記増幅電圧出力回路は、電圧値が数kVと-数kVとの間で変化する前記第2電圧信号を出力する。
【0007】
この高電圧出力回路によれば、発光素子に定電圧信号が継続して供給されるが故に、受
光発電素子は、駆動信号を継続して生成し、第1トランジスターに出力する。そのため、出力端子に定電流信号を出力する第1トランジスターの入力容量には、継続して電荷が蓄えられる。これにより、高電圧増幅回路が出力する第2電圧信号の電圧値の変更要求として、入力端子に入力される第1電圧信号の電圧値が変化した場合であっても、第1トランジスターの入力容量に電荷を蓄える時間を短縮することができ、高電圧増幅回路が出力する第2電圧信号の電圧値の変更要求に対する応答性を高めることができる。
【0008】
また、この高電圧出力回路によれば、発光素子に定電圧信号が継続して供給されるが故に、受光発電素子は駆動信号を継続して生成する。これにより、高耐圧のフローティング電源を用いることなく、定電流回路を動作することができ、高電圧出力回路の回路規模が大きくなるおそれが低減するとともに、高耐圧のフローティング電源を用いた際に生じる結合ノイズが重畳するおそれも低減する。
【0009】
また、この高電圧出力回路によれば、定電流回路が出力端子に増幅電圧信号に基づく定電流信号を出力することで、高電圧出力回路に接続される負荷容量によって、高電圧増幅回路が出力する第2電圧信号の電圧値の変更要求に対する応答性が変動するおそれが低減するとともに、高電圧出力回路に接続される負荷容量の変動により、回路損失が増加するおそれが低減する。
【0010】
本発明に係る分析装置の一態様は、
前記高電圧増幅回路を含む。
【0011】
この分析装置によれば、第2電圧信号の電圧値の変更要求に対する応答性を高めることができる前記高電圧増幅回路を有することで、分析に伴い生じる応答待ち時間を短縮することができ、その結果、迅速な分析を行うことができる。
【0012】
また、この分析装置によれば、前記高電圧増幅回路を有することで、高電圧出力回路の回路規模が大きくなるおそれを低減できるとともに、高耐圧のフローティング電源を用いた際に生じる結合ノイズが重畳するおそれも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の高電圧増幅回路1の構成の一例を示す図。
図2】第2実施形態の高電圧増幅回路1の構成の一例を示す図。
図3】分析装置の一例としての電子分光装置の構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて説明する。用いる図面は説明の便宜上のものである。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0015】
1.高電圧増幅回路
1.1 第1実施形態
図1は、第1実施形態の高電圧増幅回路1の構成の一例を示す図である。図1に示すように、高電圧増幅回路1は、増幅演算器10、増幅電圧出力回路20、及び定電流回路50を備える。そして、高電圧増幅回路1は、端子Inに入力される入力電圧Vinを増幅し、数kV以上の出力電圧Voutを端子Outから出力する。ここで、高電圧増幅回路1が数kV以上の出力電圧Voutを出力するとは、高電圧増幅回路1が常に数kV以上の出力電圧Voutを出力することに限られるものではなく、高電圧増幅回路1が数kV以上の出力電圧Voutの出力が可能であるとの意味が含まれる。
【0016】
具体的には、高電圧増幅回路1が備える定電流回路50が、端子Hvに入力される電圧信号VHに基づく定電流信号を端子Outに出力し、高電圧増幅回路1が備える増幅演算器10が、端子Inに入力される入力電圧Vinに基づく増幅制御信号を出力する。そして、高電圧増幅回路1が備える増幅電圧出力回路20が、増幅演算器10が出力する増幅制御信号と、定電流回路50が出力する定電流信号とに基づいて、出力電圧Voutを生成し、端子Outから出力する。すなわち、高電圧増幅回路1は、端子Outに定電流信号を出力する定電流回路50と、入力電圧Vinに基づく増幅制御信号を出力する増幅演算器10と、増幅演算器10が出力する増幅制御信号と定電流回路50が出力する定電流信号とに基づいて、出力電圧Voutを出力する増幅電圧出力回路20と、を備える。
【0017】
以上のような高電圧増幅回路1の構成の詳細について図1を用いて説明する。図1に示すように、定電流回路50は、抵抗51~57、トランジスター61~63、及びフォトカプラ70を有する。ここで、第1施形態におけるトランジスター61,62は、Nチャネル型のMOSトランジスターであり、トランジスター63は、NPN型のバイポーラトランジスターである。また、図1には、トランジスター62のゲート端子とソース端子との間に存在する電気容量59を図示している。
【0018】
フォトカプラ70は、発光ダイオード71及び光電変換素子72を含む。発光ダイオード71のアノード端子には抵抗57を介して電圧信号VDHが供給され、発光ダイオード71のカソード端子にはグラウンド電位GNDが供給されている。ここで、電圧信号VDHは、例えば、+15Vの直流電圧信号である。
【0019】
光電変換素子72は、1又は複数のフォトダイオードを含む。光電変換素子72が、1個のフォトダイオードを含む場合、当該フォトダイオードのアノード端子とカソード端子とが、光電変換素子72の外部に設けられた電子部品と電気的に接続する。一方で、光電変換素子72が、複数のフォトダイオードを含む場合、当該複数のフォトダイオードは、隣り合うフォトダイオードの一方のアノード端子と、隣り合うフォトダイオードの他方のカソード端子とが接続されることで直列に接続されている。そして、直列に接続された複数のフォトダイオードの一方の端部に位置するフォトダイオードのアノード端子と、直列に接続された複数のフォトダイオードの他方の端部に位置するフォトダイオードのカソード端子とが、光電変換素子72の外部に設けられた電子部品と電気的に接続する。ここで、以下の説明において、1又は複数のフォトダイオードの一方の端部に位置するフォトダイオードのアノード端子を、光電変換素子72のアノード端子と称し、1又は複数のフォトダイオードの他方の端部に位置するフォトダイオードのカソード端子を、光電変換素子72のカソード端子と称する。
【0020】
光電変換素子72のアノード端子は、抵抗53の一端、及び抵抗54の一端と電気的に接続している。光電変換素子72のカソード端子と抵抗54の他端とは、端子Outと電気的に接続している。すなわち、光電変換素子72と抵抗54とは並列に接続されている。
【0021】
抵抗53の他端は、トランジスター62のゲート端子と電気的に接続している。トランジスター62のドレイン端子は、トランジスター61のソース端子と電気的に接続し、トランジスター62のソース端子は、抵抗55の一端と電気的に接続している。そして、トランジスター62のゲート端子とトランジスター62のソース端子との間には、電気容量59が存在する。この電気容量59は、トランジスター62の入力容量に相当する。
【0022】
トランジスター61のドレイン端子は、抵抗51の一端と電気的に接続しているとともに、端子Hvと電気的に接続している。トランジスター61のゲート端子は、抵抗51の
他端、及び抵抗52の一端と電気的に接続している。そして、抵抗52の他端は、端子Outと電気的に接続している。
【0023】
抵抗55の他端は、抵抗56の一端と電気的に接続している。抵抗56の他端は、端子Outと電気的に接続している。また、抵抗55の他端及び抵抗56の一端は、トランジスター63のベース端子とも電気的に接続している。そして、トランジスター63のコレクタ端子が、トランジスター62のゲート端子と電気的に接続し、トランジスター63のソース端子が、端子Outと電気的に接続している。
【0024】
以上のように構成された定電流回路50の動作について説明する。定電流回路50において、フォトカプラ70が有する発光ダイオード71に電圧信号VDHが供給されることで、発光ダイオード71は、電圧信号VDHに基づいて生じる電流量に応じて発光する。フォトカプラ70が有する光電変換素子72は、発光ダイオード71の発光を受光し、発光ダイオード71の発光量に応じた電流を出力する。ここで、本実施形態の発光ダイオード71には、電圧信号VDHが継続して供給される。したがって、光電変換素子72は、高電圧増幅回路1の動作に依らず継続して電流を出力する。
【0025】
光電変換素子72が出力する電流は、抵抗53を介して、電気容量59に供給される。これにより、電気容量59に電荷が蓄えられる。そして、電気容量59に電荷が蓄えられることで、トランジスター62のゲート端子に、光電変換素子72が出力する電流量と抵抗54の抵抗値とにより規定される電圧が供給される。その結果、トランジスター62のドレイン端子とソース端子との間、及びトランジスター61のドレイン端子とソース端子との間に電圧信号VHに基づく電流が流れる。
【0026】
トランジスター61のドレイン端子とソース端子との間、及びトランジスター62のドレイン端子とソース端子との間を流れる電圧信号VHに基づく電流は、抵抗55,56を介して端子Outに供給される。この場合において、抵抗56の両端には、電圧信号VHに基づく電流と抵抗56の抵抗値とに応じた電圧が生じる。この抵抗56の両端に生じた電圧の電圧値が、トランジスター63の閾値電圧を上回ると、トランジスター63のコレクタ端子とエミッタ端子との間に電流が流れる。これにより、トランジスター63のコレクタ端子と電気的に接続するトランジスター62のゲート端子に供給される電圧値が制御され、その結果、トランジスター62のドレイン端子とソース端子との間に流れる電流値が制限される。
【0027】
すなわち、定電流回路50は、一端に電圧信号VDHが供給され、他端にグラウンド電位GNDが供給される発光ダイオード71と、発光ダイオードの発光に応じた電流を出力する光電変換素子72と、ゲート端子に供給される光電変換素子72が出力する電流に基づいて駆動されることで、ドレイン端子に入力される電圧信号VHに基づく信号を、ソース端子から出力するトランジスター62と、トランジスター62のソース端子から出力される電圧信号VHに基づく信号の電流値を検出し、検出結果に基づいてトランジスター62のゲート端子への電流及び電圧の供給を制御する抵抗56及びトランジスター63と、を有する。
【0028】
すなわち、定電流回路50は、抵抗56において、トランジスター62のドレイン端子とソース端子との間を流れる電流値を検出するととともに、抵抗56の検出結果に応じて、トランジスター63の動作を制御することで、トランジスター62のドレイン端子とソース端子との間を流れる電流量を一定に制御する。そして、定電流回路50は、電流量が一定に制御されたトランジスター62のドレイン端子とソース端子との間を流れる電流を端子Outに出力する。ここで、電流量が一定に制御されたトランジスター62のドレイン端子とソース端子との間を流れる電流が定電流信号に相当する。
【0029】
ここで、トランジスター61は、端子Hvと端子Outとの間の耐電圧を確保するために設けられている。それ故に、定電流回路50は、電圧信号VHの電圧値、及びトランジスター62の耐電圧に応じて複数のトランジスター61を有してもよく、また、トランジスター61を有さなくてもよい。また、本実施形態において、発光ダイオード71と光電変換素子72とは、1つのフォトカプラ70に含まれているとして説明を行ったが、発光ダイオード71と光電変換素子72とのそれぞれが個別の電子部品として構成されていてもよい。
【0030】
次に、増幅演算器10、及び増幅電圧出力回路20の構成及び動作について説明する。
【0031】
図1に示すように、増幅演算器10の-側入力端子は、抵抗11を介して端子Inと電気的に接続するとともに、抵抗12を介して端子Outと電気的に接続している。増幅演算器10の+側入力端子には、グラウンド電位GNDが供給されている。また、増幅演算器10の出力端子は、増幅電圧出力回路20と電気的に接続している。
【0032】
増幅電圧出力回路20は、抵抗21~26,201~205、トランジスター31~33,211~213、フォトカプラ40、及び電源209を有する。ここで、本実施形態におけるトランジスター31は、PNP型のバイポーラトランジスターであり、トランジスター32,33は、それぞれがNチャネル型のMOSトランジスターであり、トランジスター211~213は、それぞれがNPN型のバイポーラトランジスターである。また、図1には、トランジスター33のゲート端子とソース端子との間に存在する電気容量29を図示している。
【0033】
増幅演算器10の出力端子は、抵抗21の一端と電気的に接続している。抵抗21の他端は、トランジスター31のベース端子と電気的に接続している。トランジスター31のエミッタ端子には、抵抗22を介してグラウンド電位GNDが供給されている。また、トランジスター31のコレクタ端子は、フォトカプラ40と電気的に接続している。
【0034】
フォトカプラ40は、発光ダイオード41及び光電変換素子42を含む。発光ダイオード41のアノード端子は、トランジスター31のコレクタ端子と電気的に接続している。また、発光ダイオード41のカソード端子には、抵抗23を介して電圧信号VDLが供給されている。ここで、電圧信号VDLは、例えば、-15Vの直流電圧信号である。
【0035】
光電変換素子42は、1又は複数のフォトダイオードを含む。光電変換素子42が、1個のフォトダイオードを含む場合、当該フォトダイオードのアノード端子とカソード端子とが、光電変換素子42の外部に設けられた電子部品と電気的に接続する。一方で、光電変換素子42が、複数のフォトダイオードを含む場合、当該複数のフォトダイオードは、隣り合うフォトダイオードの一方のアノード端子と、隣り合うフォトダイオードの他方のカソード端子とが接続されることで直列に接続されている。そして、直列に接続された複数のフォトダイオードの一方の端部に位置するフォトダイオードのアノード端子と、直列に接続された複数のフォトダイオードの他方の端部に位置するフォトダイオードのカソード端子とが、光電変換素子42の外部に設けられた電子部品と電気的に接続する。ここで、以下の説明において、1又は複数のフォトダイオードの一方の端部に位置するフォトダイオードのアノード端子を、光電変換素子42のアノード端子と称し、1又は複数のフォトダイオードの他方の端部に位置するフォトダイオードのカソード端子を、光電変換素子42のカソード端子と称する。
【0036】
光電変換素子42のアノード端子は、抵抗201の一端、及びトランジスター211のベース端子と電気的に接続している。光電変換素子42のカソード端子は、抵抗202の
一端、抵抗203の一端、トランジスター213のコレクタ端子、及び電源209の+側端子と電気的に接続している。
【0037】
電源209の-側端子は、端子Lvと電気的に接続している。
【0038】
抵抗202の他端は、トランジスター211のコレクタ端子と電気的に接続し、トランジスター211のエミッタ端子は、端子Lvと電気的に接続している。抵抗202の他端は、トランジスター212のベース端子とも電気的に接続している。
【0039】
抵抗203の他端は、トランジスター212のコレクタ端子、及びトランジスター213のベース端子と電気的に接続している。トランジスター212のエミッタ端子は、抵抗201の他端、及び抵抗204の一端と電気的に接続している。抵抗204の他端は、端子Lvと電気的に接続している。
【0040】
トランジスター213のエミッタ端子は、抵抗205の一端と電気的に接続している。抵抗205の他端は、端子Lvと電気的に接続している。また、トランジスター213のエミッタ端子は、抵抗26の一端とも電気的に接続している。
【0041】
以上のように構成された抵抗201~205、トランジスター211~213、及び電源209は、フォトカプラ40が出力する電流を電圧に変換する。具体的には、フォトカプラ40が出力する電流の電流量に応じてトランジスター211~213の導通状態が能動的に変化する。その結果、抵抗205の両端には、フォトカプラ40が出力する電流の電流値と電源209が出力する電圧の電圧値とに基づく電圧が生じる。そして、抵抗205の両端に生じた電圧が抵抗206の一端に入力される。ここで、フォトカプラ40が出力する電流を電圧に変換する抵抗201~205、トランジスター211~213、及び電源209を含む構成を、IV変換回路200と称する。換言すれば、IV変換回路200は、増幅演算器10が出力する電圧に基づく電流を、電圧に変換する。
【0042】
ここで、増幅演算器10が出力する電圧が、増幅制御信号に相当し、増幅演算器10が出力する電圧に基づいてフォトカプラ40が有する出力する光電変換素子42が出力する電流が増幅制御電流信号に相当し、IV変換回路200が、フォトカプラ40が有する出力する光電変換素子42が出力する電流から変換した電圧が、増幅制御電圧信号に相当する。
【0043】
抵抗26の他端は、トランジスター33のゲート端子と電気的に接続する。トランジスター33のドレイン端子は、トランジスター32のソース端子と電気的に接続し、トランジスター33のソース端子は、端子Lvと電気的に接続している。そして、トランジスター33のゲート端子とトランジスター33のソース端子との間には、電気容量29が存在する。この電気容量29は、トランジスター33の入力容量に相当する。
【0044】
トランジスター32のドレイン端子は、抵抗24の一端と電気的に接続しているとともに、端子Outと電気的に接続している。トランジスター32のゲート端子は、抵抗24の他端、及び抵抗25の一端と電気的に接続している。そして、抵抗25の他端は、端子Lvと電気的に接続している。
【0045】
以上のように構成された増幅演算器10、及び増幅電圧出力回路20の動作について説明する。
【0046】
増幅演算器10は、端子Inから入力される入力電圧Vinと、端子Outに生じる出力電圧Voutと、抵抗11,12とに基づいて規定される電圧値の電圧を出力端子から
出力する。増幅演算器10が出力する電圧は、抵抗21を介してトランジスター31のベース端子に入力される。
【0047】
トランジスター31は、ベース端子に入力される電圧の電圧値に応じて、エミッタ端子とコレクタ端子との間を導通に制御する。これより、トランジスター31のエミッタ端子とコレクタ端子との間にベース端子に供給される電圧の電圧値に応じた電流量の電流が流れる。そして、トランジスター31のエミッタ端子とコレクタ端子との間に流れる電流は、フォトカプラ40が有する発光ダイオード41に供給される。これにより、発光ダイオード41が発光し、フォトカプラ40が有する光電変換素子42は、発光ダイオード41の発光量に応じた電流を出力する。
【0048】
光電変換素子42が出力する電流は、IV変換回路200に入力され、光電変換素子42が出力する電流に応じた電圧値の電圧に変換される。すなわち、IV変換回路200は、増幅演算器10が出力する電圧の電圧値に基づく電流を電圧に変換する。そして、IV変換回路200が出力する電圧は、抵抗26を介してトランジスター33のゲート端子に供給される。
【0049】
トランジスター33は、ゲート端子に供給されるIV変換回路200が出力する電圧によって、ドレイン端子とソース端子との間が導通に制御される。また、トランジスター33のドレイン端子とソース端子との間が導通に制御されることで、トランジスター32のドレイン端子とソース端子との間も導通に制御される。この場合において、トランジスター33のドレイン端子とソース端子との間に流れる電流量は、トランジスター33のゲート端子に供給される電圧の電圧値であって、IV変換回路200が出力する電圧の電圧値により規定される。すなわち、トランジスター33は、IV変換回路200が出力する電圧であって、増幅演算器10が出力する電圧に基づいて、定電流回路50が端子Outに供給する定電流信号の電流の内、端子Outから端子Lvに向かい流れる電流量を制御する。これにより、端子Outに生じる出力電圧Voutの電圧値が制御される。
【0050】
増幅演算器10が出力する電圧に基づいてIV変換回路200が出力する電圧の電圧値が高くなると、トランジスター33のドレイン端子とソース端子との間を流れる電流量が増加する。その結果、端子Outに生じる電圧値は、電圧信号VLの電圧値に向かい低下する。一方で、増幅演算器10が出力する電圧に基づいてIV変換回路200が出力する電圧の電圧値が低くなると、トランジスター33のドレイン端子とソース端子との間を流れる電流量が低減する。その結果、端子Outに生じる電圧値は、電圧信号VHの電圧値に向かい増加する。
【0051】
すなわち、増幅電圧出力回路20は、定電流回路50が出力する電流の内、端子Lvに向かい流れる電流量を、増幅演算器10が出力する電圧に応じて制御することで、端子Outに生じる出力電圧Voutの電圧値を電圧信号VHの電圧値から電圧信号VLの電圧値の間で制御する。
【0052】
また、前述の通り、端子Outに生じた出力電圧Voutは、抵抗12を介して、増幅演算器10に帰還する。そして、増幅演算器10は、端子Inから入力される入力電圧Vinの電圧値と、抵抗12を介して帰還する出力電圧Voutの電圧値と、抵抗11,12の抵抗値とに基づいて、増幅演算器10の出力端子から出力する電圧の電圧値を制御する。すなわち、増幅演算器10、増幅電圧出力回路20、及び抵抗11,12は、反転増幅回路を構成している。これにより、高電圧増幅回路1は、端子Inに入力する入力電圧Vinの電圧値を電圧信号VHの電圧値、及び電圧信号VLの電圧値に応じて増幅した出力電圧Voutを生成し、端子Outから出力する。すなわち、高電圧増幅回路1は、端子Inに入力される電圧値が±数十Vの入力電圧Vinに応じて、端子Hvを介して入力
される電圧値が数kVの電圧信号VHと、端子Lvを介して入力される電圧値が-数kVの電圧信号VLとの間で電圧値が変化する出力電圧Voutを生成し、端子Outから出力する。
【0053】
ここで、端子Inが入力端子の一例であり、端子Outが出力端子の一例であり、端子Inから高電圧増幅回路1に入力される入力電圧Vinが第1電圧信号の一例であり、端子Outから出力される出力電圧Voutが第2電圧信号の一例である。
【0054】
また、定電流回路50が有するフォトカプラ70に含まれる発光ダイオード71が発光素子の一例であり、発光ダイオード71のアノード端子に供給される電圧信号VDHが定電圧信号の一例であり、フォトカプラ70に含まれる光電変換素子72が受光発電素子の一例であり、当該光電変換素子72が出力する電流、及び当該電流に基づいて抵抗54の両端に生じる電圧が駆動信号の一例である。そして、トランジスター62が第1トランジスターの一例であり、トランジスター62のゲート端子が第1端子の一例であり、トランジスター62のドレイン端子が第2端子の一例であり、トランジスター62のソース端子が第3端子の一例であり、トランジスター61を介してトランジスター62のドレイン端子に供給される電圧信号VHが増幅電圧信号の一例である。
【0055】
また、トランジスター62のドレイン端子とソース端子の間に流れる電流であって、定電流回路50が端子Outに供給する電流の電流量を検出する抵抗56と、抵抗56による検出結果に基づいてトランジスター62のゲート端子への電圧の供給を制御するトランジスター63と、を含む構成が電流制御回路の一例である。
【0056】
また、ドレイン端子がトランジスター32を介して端子Outと電気的に接続しているトランジスター33が第2トランジスターの一例である。
【0057】
1.2 作用効果
従前の高電圧増幅回路においてMOSトランジスターの駆動に必要な電流をフォトカプラから供給する場合、フォトカプラが出力する電流が微弱であるが故に、MOSトランジスターの入力容量に電荷を蓄える際に時間を要し、高電圧増幅回路の高速な制御が困難であった。
【0058】
このような問題に対して、本実施形態の高電圧増幅回路1では、定電流回路50が有するトランジスター62の入力容量に相当する電気容量59には、フォトカプラ70を介して一定の電流が継続して供給される。これにより、電気容量59には継続して電荷が蓄えられる。その結果、高電圧増幅回路1の動作状態が変化した場合であって、例えば、高電圧増幅回路1が出力する出力電圧Voutの電圧値が変更された場合であっても、当該変更の都度、電気容量59に電荷を蓄える必要がなく、その結果、当該変更要求に対して、出力電圧Voutの電圧値の高い応答性を実現することができる。
【0059】
また、トランジスターの入力容量の充電効率を高めるとの観点においては、大電流の出力が可能な電源回路を用いることも可能かもしれないが、当該構成を採用した場合、高耐圧のフローティング電源が必要となり、その結果、高電圧増幅回路の回路規模が大きくなる懸念があるとともに、当該フローティング電源の結合容量により、高電圧増幅回路にノイズが重畳するおそれも増加する。
【0060】
これに対して、本実施形態の高電圧増幅回路1では、発光ダイオード71と、発光ダイオード71の発光に応じて動作する光電変換素子72とを用いて定電流回路50に電流を供給することで、定電流回路50の動作の基準電位が変動する場合であっても、大型の電源回路を必要とせず、その結果、高電圧増幅回路1の回路規模が増加するおそれが低減す
るとともに、高電圧増幅回路1にノイズが重畳するおそれも低減する。
【0061】
さらに、第1実施形態の高電圧増幅回路1では、増幅電圧出力回路20が、トランジスター33に流れる電流量を制御することで、端子Outから出力される出力電圧Voutの電圧値を制御することができる。これにより、出力電圧Voutにクロスオーバー歪が生じるおそれも低減される。
【0062】
1.3 第2実施形態
次に、第2実施形態の高電圧増幅回路1について説明する。なお、第2実施形態の高電圧増幅回路1の構成を説明するにあたり、第1実施形態の高電圧増幅回路1と同様の構成については同じ符号を付し、その説明を簡略、若しくは省略する。
【0063】
図2は、第2実施形態の高電圧増幅回路1の構成の一例を示す図である。図2に示すように、第1実施形態の高電圧増幅回路1においてIV変換回路200は、抵抗201~205、及びトランジスター211~213を含み構成されていたが、第2実施形態の高電圧増幅回路1において、IV変換回路200は、オペアンプ221を含む集積回路装置220で構成されている。換言すれば、第2実施形態の高電圧増幅回路1において、IV変換回路200は、オペアンプ221を有する集積回路装置220を含む。
【0064】
IV変換回路200が1つの集積回路装置220で構成されることで、ノイズ等の影響を受け難く、IV変換回路200がトランジスター33に出力する電圧信号の精度が向上し、トランジスター33の駆動精度が向上するとともに、IV変換回路200における損失が低減し、電源209の電源容量を第1実施形態の高電圧増幅回路1よりも小さくすることができ、IV変換回路200の小型化が可能となる。
【0065】
その結果、第2実施形態の高電圧増幅回路1では、第1実施形態の作用効果に加えて、トランジスター33の駆動精度の向上に伴い出力電圧Voutの電圧値の精度が向上するとともに、IV変換回路200及びIV変換回路200を含む高電圧増幅回路1の回路規模の小型化を実現できる。
【0066】
2.分析装置
次に上述した高電圧増幅回路1を備えた分析装置の一例について説明する。図3は、高電圧増幅回路1を備える分析装置の一例としての電子分光装置100の構成の一例を示す図である。本実施形態における電子分光装置100は、上述した高電圧増幅回路1を複数個備えるとともに、複数の高電圧増幅回路1が出力する複数の出力電圧Voutの少なくともいずれかが供給される静電レンズ151,152を有する。
【0067】
図3に示すように、電子分光装置100は、高電圧増幅回路1a~1e、制御部120、検出器130、インプットレンズ150、エネルギー分光部160、入射スリット170、X線源180、及び電源ユニット181を有する。そして、電子分光装置100は、使用者がコンピューター110を操作することにより入力される操作信号に基づいて、試料140の分析を行う。
【0068】
X線源180は、X線を発生させ、試料140にX線を照射する。試料140にX線が照射されると試料140から光電子やオージェ電子等が放出される。
【0069】
インプットレンズ150は、静電レンズ151,152を含む。静電レンズ151,152は、電子(光電子、オージェ電子)を入射スリット170に集束させる。
【0070】
入射スリット170は、エネルギー分光部160の入口に配置されている。入射スリッ
ト170は、エネルギー分光部160に入射する電子を制限する。
【0071】
エネルギー分光部160は、試料140から放出された電子をエネルギー分光する。エネルギー分光部160は、例えば、静電半球型アナライザーであって、内半球電極161と外半球電極162とを有する。この内半球電極161と外半球電極162との間には、例えば所定の設定電圧が印加され、この設定電圧により電子のパスエネルギーが決定される。
【0072】
検出器130は、エネルギー分光部160でエネルギー分光された電子を検出する。検出器130の出力信号は、増幅器で増幅され、AD変換器でデジタル信号に変換された後、制御部120が有する不図示の処理部に送られる。なお、検出器130の出力信号は、制御部120において、増幅器で増幅され、AD変換器でデジタル信号に変換されてもよい。
【0073】
電源ユニット181は、制御部120からの指令に基づいて、X線源180にX線を発生させるための制御信号を送る。
【0074】
複数の高電圧増幅回路1の内の1個に相当する高電圧増幅回路1aは、制御部120から入力される入力電圧Vin-aを増幅することで、例えば、-4kV~+1kVの高電圧の出力電圧Vout-aを生成し、エネルギー分光部160に含まれる外半球電極162に供給する。
【0075】
複数の高電圧増幅回路1の内の異なる1個に相当する高電圧増幅回路1bは、制御部120から入力される入力電圧Vin-bを増幅することで、例えば、-4kV~+1kVの高電圧の出力電圧Vout-bを生成し、エネルギー分光部160に含まれる内半球電極161に供給する。
【0076】
複数の高電圧増幅回路1の内の異なる1個に相当する高電圧増幅回路1cは、制御部120から入力される入力電圧Vin-cを増幅することで、例えば、-4kV~+1kVの高電圧の出力電圧Vout-cを生成し、入射スリット170に供給する。
【0077】
複数の高電圧増幅回路1の内の異なる1個に相当する高電圧増幅回路1dは、制御部120から入力される入力電圧Vin-dを増幅することで、例えば、-1kV~+15kVの高電圧の出力電圧Vout-dを生成し、静電レンズ152に供給する。
【0078】
複数の高電圧増幅回路1の内の異なる1個に相当する高電圧増幅回路1eは、制御部120から入力される入力電圧Vin-eを増幅することで、例えば、-1kV~+15kVの高電圧の出力電圧Vout-eを生成し、静電レンズ151に供給する。
【0079】
以上のような電子分光装置100を用いて、例えば、0~3000eVのエネルギー範囲の分析を実行しようとする場合に、エネルギー分光部160を通り抜けるエネルギー範囲を3000eVにすると、検出器130の位置判別分解能により分析するエネルギー分解能が制限されてしまう。具体的には、例えば検出器130が10個のチャンネルを有する場合、各チャンネルは、約300eVごとの広範囲にわたりエネルギーを検出することとなり、分析に必要な分解能が得られないおそれが生じる。そのため、電子分光装置100では、エネルギー分光部160を通り抜けるエネルギー範囲を、例えば10eV程度に設定し、静電レンズ151,152、内半球電極161、外半球電極162、及び入射スリット170に供給される電圧値を、分析しようとするエネルギーに応じて変化させながら、検出器130が強度を検出することで、広いエネルギー範囲でのスペクトルの取得を実現している。
【0080】
しかしながら、高電圧増幅回路1a~1eが出力した出力電圧Vout-a~Vout-eの電圧値を変化させる場合、高電圧増幅回路1a~1eの応答性に起因して、制御部120が出力する当該電圧値の変更要求が生じたタイミングと、高電圧増幅回路1a~1eが静電レンズ151,152、内半球電極161、外半球電極162、及び入射スリット170に出力する出力電圧Vout-a~Vout-eの電圧値が所定の電圧値に到達するタイミングとの間に時間差が生じる。それ故に、電子分光装置100には、分析エネルギーの条件を変更した場合に、高電圧増幅回路1a~1eが出力する出力電圧Vout-a~Vout-eの電圧値が所定の電圧値に到達するまでの時間を確保するための待ち時間が設けられている。
【0081】
これに対して、本実施形態の電子分光装置100では、高電圧増幅回路1a~1eのそれぞれが、入力される入力電圧Vin-a~Vin-eの電圧値の変化に対する、出力する出力電圧Vout-a~Vout-eの電圧値の応答性に優れるが故に、高電圧増幅回路1a~1eが出力する出力電圧Vout-a~Vout-eの電圧値が所定の電圧値に到達するための待ち時間を短くすることができる。これにより、本実施形態の電子分光装置100では、従来よりも迅速にエネルギー分析を行うことが可能となる。
【0082】
ここで、本実施形態では、分析装置の一例として、電子分光装置100を例示して説明を行ったが、高電圧増幅回路1が適用できる分析装置は、電子分光装置100に限るものではなく、質量分析装置や、走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡等の電子顕微鏡や、オージェ電子顕微鏡等の各種の分析装置に適用することができる。
【0083】
以上、実施形態及び変形例について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。例えば、上記の実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【0084】
本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0085】
1,1a~1e…高電圧増幅回路、10…増幅演算器、11,12…抵抗、20…増幅電圧出力回路、21~26…抵抗、29…電気容量、31~33…トランジスター、40…フォトカプラ、41…発光ダイオード、42…光電変換素子、50…定電流回路、51~56…抵抗、59…電気容量、61~63…トランジスター、70…フォトカプラ、71…発光ダイオード、72…光電変換素子、100…電子分光装置、110…コンピューター、120…制御部、130…検出器、140…試料、150…インプットレンズ、151,152…静電レンズ、160…エネルギー分光部、161…内半球電極、162…外半球電極、170…入射スリット、180…X線源、181…電源ユニット、200…IV変換回路、201~206…抵抗、209…電源、211~213…トランジスター、220…集積回路装置、221…オペアンプ、Hv,In,Lv,Out,Vl…端子
図1
図2
図3