IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電子株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】試料加工装置および試料加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20240220BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20240220BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20240220BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
H01J37/317 D
H01J37/08
H01J37/20 A
G01N1/28 G
G01N1/28 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021205944
(22)【出願日】2021-12-20
(65)【公開番号】P2023091280
(43)【公開日】2023-06-30
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】小塚 心尋
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110676148(CN,A)
【文献】特開2019-021440(JP,A)
【文献】特開2005-030799(JP,A)
【文献】特表2013-524467(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0248179(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
G01N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料にイオンビームを照射して前記試料を加工する試料加工装置であって、
アノードと、
カソードと、
前記カソードから放出された電子がガスに衝突することによって生成されたイオンを引き出す引出電極と、
前記カソードと前記引出電極との間に配置されたフォーカス電極と、
前記試料をスイングさせるスイング機構と、
前記フォーカス電極に印加されるフォーカス電圧および前記試料をスイング動作させるときのスイング角度を制御する制御部と、
を含み、
記フォーカス電圧を変化させることによって、前記イオンビームの空間プロファイルを制御し、
前記制御部は、
目標加工領域の指定を受け付け、指定された前記目標加工領域の形状に基づいて、前記フォーカス電圧および前記スイング角度を組み合わせた加工条件を設定し、
前記加工条件に応じた前記フォーカス電圧を前記フォーカス電極に印加して空間プロファイルが制御された前記イオンビームを前記試料に照射しながら、前記加工条件に応じた前記スイング角度で前記試料が連続して往復傾斜するように前記スイング機構を制御する、試料加工装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記加工条件と加工形状とに関するデータベースを含み、
前記制御部は、指定された前記目標加工領域の形状に基づき前記データベースを検索して前記加工条件を設定する、試料加工装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記制御部は、設定された前記加工条件で前記試料を加工したときの加工形状を求めて
、求めた加工形状を表示部に表示させる、試料加工装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記制御部が前記目標加工領域の形状に基づいて、複数の前記加工条件の組み合わせを設定した場合に、前記複数の加工条件のうちの第1加工条件の前記スイング角度は、前記複数の加工条件のうちの第2加工条件の前記スイング角度とは異なる、試料加工装置。
【請求項5】
アノードと、
カソードと、
前記カソードから放出された電子がガスに衝突することによって生成されたイオンを引き出す引出電極と、
前記カソードと前記引出電極との間に配置されたフォーカス電極と、
試料をスイングさせるスイング機構と、
を含み、前記試料にイオンビームを照射して前記試料を加工する試料加工装置を用いた試料加工方法であって、
前記試料の目標加工領域の形状に基づいて、前記フォーカス電極に印加されるフォーカス電圧および前記試料をスイング動作させるときのスイング角度を組み合わせた加工条件を設定する工程と、
前記加工条件に応じた前記フォーカス電圧を前記フォーカス電極に印加して空間プロファイルが制御された前記イオンビームを前記試料に照射しながら、前記加工条件に応じた前記スイング角度で前記試料が連続して往復傾斜するように前記スイング機構を制御する工程と、
を含む、試料加工方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記加工条件を設定する工程では、前記目標加工領域の形状に基づいて、前記加工条件と加工形状とに関するデータベースを検索して前記加工条件を設定する、試料加工方法。
【請求項7】
請求項5または6において、
前記フォーカス電圧を第1電圧に設定して、前記イオンビームを前記試料に照射して前記試料を加工する工程と、
前記フォーカス電圧を前記第1電圧とは異なる第2電圧に設定して、前記イオンビームを前記試料に照射して前記試料を加工する工程と、
を含む、試料加工方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項において、
設定された前記加工条件で前記試料を加工したときの加工形状を求めて、求めた加工形状を表示部に表示させる工程を含む、試料加工方法。
【請求項9】
請求項5ないし8のいずれか1項において、
前記スイング角度を第1スイング角度に設定し、前記イオンビームを前記試料に照射しながら、前記第1スイング角度で前記試料を連続して往復傾斜させて、前記試料を加工する工程と、
前記スイング角度を前記第1スイング角度とは異なる第2スイング角度に設定し、前記イオンビームを前記試料に照射しながら、前記第2スイング角度で前記試料を連続して往復傾斜させて、前記試料を加工する工程と、
を含む、試料加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料加工装置および試料加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンビームを用いて試料を加工する試料加工装置として、試料の断面を加工するためのクロスセクションポリッシャ(登録商標)や、薄膜試料を作製するためのイオンスライサ(登録商標)などが知られている。
【0003】
このような試料加工装置では、イオン源として、ペニング型イオン源が用いられている。例えば、特許文献1には、筒状のアノードと、対向する2つのカソードと、引出電極と、を含むペニング型イオン源が開示されている。ペニング型イオン源では、アノードと引出電極との間には加速電圧が印加され、アノードとカソードとの間には、放電電圧が印加される。
【0004】
特許文献1のイオン源では、筒状のアノードが形成する空間(イオン化室)にアルゴンガスが供給されると、アルゴンガスはカソードから放出された電子と衝突し、イオン化する。発生したイオンは、アノードと引出電極との間に印加された加速電圧によって加速し、カソードに設けられた電極穴からイオンビームとして放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-135972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
試料加工装置において、加工対象となる試料は、材質や、目標物の大きさ、目標物の深さなど様々である。そのため、このような様々な試料に対して、効率よく加工できる試料加工装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る試料加工装置の一態様は、
試料にイオンビームを照射して前記試料を加工する試料加工装置であって、
アノードと、
カソードと、
前記カソードから放出された電子がガスに衝突することによって生成されたイオンを引き出す引出電極と、
前記カソードと前記引出電極との間に配置されたフォーカス電極と、
前記試料をスイングさせるスイング機構と、
前記フォーカス電極に印加されるフォーカス電圧および前記試料をスイング動作させるときのスイング角度を制御する制御部と、
を含み、
記フォーカス電圧を変化させることによって、前記イオンビームの空間プロファイルを制御し、
前記制御部は、
目標加工領域の指定を受け付け、指定された前記目標加工領域の形状に基づいて、前記フォーカス電圧および前記スイング角度を組み合わせた加工条件を設定し、
前記加工条件に応じた前記フォーカス電圧を前記フォーカス電極に印加して空間プロファイルが制御された前記イオンビームを前記試料に照射しながら、前記加工条件に応じた前記スイング角度で前記試料が連続して往復傾斜するように前記スイング機構を制御する
【0008】
このような試料加工装置では、フォーカス電極に印加されるフォーカス電圧を変化させることによってイオンビームの空間プロファイルを制御できるため、材質や、目標物の大きさ、目標物の深さなどが異なる様々な試料を効率よく加工できる。
【0009】
本発明に係る試料加工方法の一態様は、
アノードと、
カソードと、
前記カソードから放出された電子がガスに衝突することによって生成されたイオンを引き出す引出電極と、
前記カソードと前記引出電極との間に配置されたフォーカス電極と、
試料をスイングさせるスイング機構と、
を含み、前記試料にイオンビームを照射して前記試料を加工する試料加工装置を用いた試料加工方法であって、
前記試料の目標加工領域の形状に基づいて、前記フォーカス電極に印加されるフォーカス電圧および前記試料をスイング動作させるときのスイング角度を組み合わせた加工条件を設定する工程と、
前記加工条件に応じた前記フォーカス電圧を前記フォーカス電極に印加して空間プロファイルが制御された前記イオンビームを前記試料に照射しながら、前記加工条件に応じた前記スイング角度で前記試料が連続して往復傾斜するように前記スイング機構を制御する工程と、
を含む。
【0010】
このような試料加工方法では、フォーカス電極に印加されるフォーカス電圧を変化させることによってイオンビームの空間プロファイルを制御するため、材質や、目標物の大きさ、目標物の深さなどが異なる様々な試料を効率よく加工できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る試料加工装置の構成を示す図。
図2】第1実施形態に係る試料加工装置の構成を示す図。
図3】イオン源の構成を示す図。
図4】フォーカス電極の動作を説明するための図。
図5】フォーカス電極の動作を説明するための図。
図6】フォーカス電極の動作を説明するための図。
図7】フォーカス電極の動作を説明するための図。
図8】フォーカス電極の動作を説明するための図。
図9】フォーカス電極の動作を説明するための図。
図10】試料の加工断面の走査電子顕微鏡像。
図11】試料の加工断面の走査電子顕微鏡像。
図12】試料の加工断面の走査電子顕微鏡像。
図13】試料の加工断面の走査電子顕微鏡像。
図14】試料の加工断面の走査電子顕微鏡像。
図15】試料の加工断面の走査電子顕微鏡像。
図16】第1実施形態に係る試料加工装置で加工された試料の加工断面を模式的に示す図。
図17】参考例に係る試料加工装置で加工された試料の加工断面を模式的に示す図。
図18】第1実施形態に係る試料加工装置で加工された試料の加工断面を模式的に示す図。
図19】参考例に係る試料加工装置で加工された試料の加工断面を模式的に示す図。
図20】第1実施形態に係る試料加工装置で加工された試料の加工断面を模式的に示す図。
図21】参考例に係る試料加工装置で加工された試料の加工断面を模式的に示す図。
図22】第1実施形態に係る試料加工装置で加工された試料の加工断面の走査電子顕微鏡像。
図23】フォーカス電極を用いて径を大きくしたイオンビームを用いた加工と、フォーカス電極を用いて径を小さくしたイオンビームを用いた加工を組み合わせて作製された試料の加工断面を模式的に示す図。
図24】第1実施形態に係る試料加工装置で加工された試料の加工断面を模式的に示す図。
図25】参考例に係る試料加工装置で加工された試料の加工断面を模式的に示す図。
図26】第1実施形態に係る試料加工装置で試料を平面加工する様子を模式的に示す図。
図27】参考例に係る試料加工装置で試料を平面加工する様子を模式的に示す図。
図28】加速電圧2kVで加工された試料の走査電子顕微鏡像。
図29】加速電圧3kVで加工された試料の走査電子顕微鏡像。
図30】第1実施形態に係る試料加工装置を用いた仕上げ加工の一例を説明するための図。
図31】参考例に係る試料加工装置を用いた仕上げ加工の一例を説明するための図。
図32】第1実施形態に係る試料加工装置において、スイング動作させた試料を加工する手法を説明するための図。
図33】第1実施形態に係る試料加工装置において、スイング動作させた試料を加工する手法を説明するための図。
図34】参考例に係る試料加工装置において、スイング動作させた試料を加工する手法を説明するための図。
図35】第1実施形態に係る試料加工装置において、スイング動作させた試料を加工する手法を説明するための図。
図36】データベースの作成方法を説明するための図。
図37】画像処理装置の処理を説明するための図。
図38】第2実施形態に係る試料加工装置の構成を示す図。
図39】制御部の処理の一例を説明するための図。
図40】制御部の処理の一例を説明するための図。
図41】制御部の処理の一例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0013】
1. 第1実施形態
1.1. 試料加工装置
第1実施形態に係る試料加工装置について図面を参照しながら説明する。図1および図2は、第1実施形態に係る試料加工装置100の構成を示す図である。図1および図2には、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、およびZ軸を図示している。
【0014】
試料加工装置100は、試料Sにイオンビームを照射して試料Sを加工し、観察や分析用の試料を作製するイオンビーム加工装置である。試料加工装置100は、例えば、試料の断面を加工するためのクロスセクションポリッシャ(登録商標)である。
【0015】
試料加工装置100は、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)や、透過電子顕微鏡(TEM)、走査透過電子顕微鏡(STEM)などの電子顕微鏡用の試料を作製するために用いられる。また、試料加工装置100は、例えば、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)やオージェマイクロプローブなどの電子顕微鏡以外の分析装置用の試料を作製するためにも用いられる。
【0016】
試料加工装置100は、図1および図2に示すように、イオン源10と、試料ステージ引出機構20と、試料ステージ30と、スイング機構40と、位置合わせ用カメラ50と、加工観察用カメラ60と、試料室チャンバー70と、画像処理装置80と、を含む。なお、図1は、試料ステージ引出機構20を閉じて試料室72に試料ステージ30を押し入れている状態を図示し、図2は、試料ステージ引出機構20を開いて試料室72から試料
ステージ30を引き出している状態を図示している。
【0017】
イオン源10は、イオンビームを発生させる。イオン源10は、試料Sにイオンビームを照射する。イオン源10は、試料室チャンバー70の上部に取り付けられている。イオン源10から放出されるイオンビームの光軸は、Z軸に平行である。イオン源10の詳細については後述する。
【0018】
試料ステージ引出機構20は、試料室チャンバー70に開閉可能に取り付けられている。試料ステージ引出機構20は、試料室チャンバー70の蓋を構成している。試料ステージ引出機構20には試料ステージ30が取り付けられている。試料ステージ引出機構20を開くことで、図2に示すように、試料室72から試料ステージ30を引き出すことができる。これにより、試料室チャンバー70内を大気開放できる。また、試料ステージ引出機構20を開くことで、位置合わせ用カメラ50が試料Sの上に位置し、位置合わせ用カメラ50で試料Sを観察できる。
【0019】
試料ステージ引出機構20を閉じることで、図1に示すように、試料ステージ30を試料室72に押し入れることができる。これにより、試料室チャンバー70を気密にすることができる。この状態で、不図示の排気装置を動作させることによって試料室72は真空排気され、試料室72を真空状態(減圧状態)にできる。また、試料ステージ引出機構20を閉じることで、イオン源10が試料Sの上に位置し、イオン源10から放出されたイオンビームで試料Sを加工できる。
【0020】
試料ステージ30は、スイング機構40に取り付けられている。試料ステージ30は、加工対象となる試料Sを支持する。試料ステージ30は、X移動機構32と、Y移動機構34と、を有している。X移動機構32は、試料SをX軸に沿って移動させることができる。Y移動機構34は、試料SをY軸に沿って移動させることができる。X移動機構32およびY移動機構34によって、試料Sを水平方向に2次元的に移動させることができる。これにより、試料Sの位置合わせを行うことができる。図示はしないが、試料加工装置100は、イオンビームを遮蔽する遮蔽板を備えており、試料ステージ30で支持された試料Sは、遮蔽板から突き出た部分がスパッタリングされる。
【0021】
スイング機構40は、試料ステージ引出機構20に取り付けられている。試料ステージ引出機構20を開くことで、スイング機構40が引き出され、試料ステージ30が引き出される。
【0022】
スイング機構40は、試料ステージ30をスイング軸A(傾斜軸)まわりに傾斜させる。スイング機構40は、例えば、一定の周期で、試料ステージ30をスイング軸Aまわりに傾斜させることで、試料Sをスイングさせる。図示の例では、スイング軸Aは、Y軸に平行な軸である。
【0023】
位置合わせ用カメラ50は、試料ステージ引出機構20の上端部に取り付けられている。位置合わせ用カメラ50は、例えば、光学顕微鏡に取り付けられたカメラである。すなわち、位置合わせ用カメラ50が取得した画像は、光学顕微鏡で観察された画像である。位置合わせ用カメラ50は、イオンビームの照射位置に試料Sの目標加工位置を合わせるためのカメラである。位置合わせ用カメラ50で取得された画像は、画像処理装置80に送られる。例えば、位置合わせ用カメラ50で取得された画像の中心に、目標加工位置を合わせることで、イオン源10から放出されたイオンビームで目標加工位置を加工できる。
【0024】
位置合わせ用カメラ50は、試料ステージ引出機構20が開いた状態で、試料Sを観察
可能な位置に配置される。試料ステージ引出機構20が開いた状態で、位置合わせ用カメラ50の光軸は、Z軸に平行である。位置合わせ用カメラ50は、試料ステージ引出機構20が閉じた状態では、カメラ傾倒機構52によって試料室72の外に配置される。
【0025】
加工観察用カメラ60は、試料室72の外に配置されている。加工観察用カメラ60は、試料室チャンバー70に設けられた観察窓74を通して試料室72内の試料Sを観察可能である。加工観察用カメラ60は、加工中の試料Sを観察するためのカメラである。加工観察用カメラ60では、加工中の試料Sの断面を観察できる。加工観察用カメラ60の光軸は、Y軸に平行である。加工観察用カメラ60で撮影された画像は、画像処理装置80に送られる。
【0026】
試料室チャンバー70内には、試料ステージ30が配置されている。試料室72は、試料室チャンバー70内の空間である。試料室72において、試料Sにイオンビームが照射される。
【0027】
画像処理装置80は、位置合わせ用カメラ50で撮影された画像を表示部に表示させる処理を行う。また、画像処理装置80は、加工観察用カメラ60で撮影された画像を表示部に表示させる処理を行う。
【0028】
図3は、イオン源10の構成を示す図である。
【0029】
イオン源10は、ペニング型イオン源である。イオン源10は、図3に示すように、アノード110と、カソード120と、引出電極130と、フォーカス電極140と、アノード用電源150と、カソード用電源160と、フォーカス電源170と、を含む。
【0030】
アノード110は、筒状である。アノード110の内側の空間は、イオンを発生させるためのイオン化室112となる。図示はしないが、イオン化室112には、ガス供給部からガスが導入される。イオン化室112に導入されるガスは、例えば、アルゴンガスである。
【0031】
カソード120は、電子を放出する。また、カソード120は、イオン化室112に磁場を発生させるポールピースを構成する。カソード120から放出された電子は、ポールピースが発生させる磁場によって旋回運動を行う。カソード120は、第1電極122と、第2電極124と、を含む。第1電極122と第2電極124は、対向して配置されており、第1電極122と第2電極124との間にイオン化室112が設けられている。第2電極124には、イオン化室112で発生したイオンを通過させるための孔125が設けられている。
【0032】
引出電極130は、イオン化室112で発生したイオンを引き出す。引出電極130がつくる電界によって、イオンが加速し、イオン源10からイオンビームIBとして放出される。引出電極130は、第2電極124の後段に配置されている。図示の例では、引出電極130は、フォーカス電極140の後段に配置されている。引出電極130には、イオン化室112で発生したイオンを通過させるための孔132が設けられている。
【0033】
フォーカス電極140は、カソード120(第2電極124)と引出電極130との間に配置されている。フォーカス電極140は、イオンビームIBの空間プロファイルを制御するための電極である。ここで、イオンビームIBの空間プロファイルとは、イオンビームIBの空間的な強度分布をいう。フォーカス電極140には、イオン化室112で発生したイオンを通過させるための孔142が設けられている。
【0034】
アノード用電源150は、アノード110と引出電極130との間に、イオンを加速させるための加速電圧を印加するための電源である。アノード用電源150のプラス側端子はアノード110に電気的に接続され、アノード用電源150のマイナス側端子はグラウンドに電気的に接続されている。
【0035】
カソード用電源160は、アノード110とカソード120との間に、放電を起こすための放電電圧を印加するための電源である。カソード用電源160のマイナス側端子はカソード120に電気的に接続され、カソード用電源160のプラス側端子はアノード用電源150のプラス側端子に電気的に接続されている。すなわち、カソード用電源160は、プラス側の出力がアノード用電源150に接続されたフローティング電源であり、アノード110とカソード120との間に電位差を設けている。
【0036】
引出電極130は、グラウンドに電気的に接続されている。
【0037】
フォーカス電源170は、フォーカス電極140に、イオンビームIBの空間プロファイルを制御するためのフォーカス電圧を印加する。
【0038】
ここで、フォーカス電極140には、イオンが衝突するため、電荷がたまってしまう。そのため、フォーカス電源170は、フォーカス電極140に電荷がたまることを防ぐための電流シンク機能を有している。これにより、フォーカス電極140は、設定された電圧を維持できる。
【0039】
図示の例では、フォーカス電源170は、電源172と、電源174と、抵抗176と、を含む。電源172のプラス側端子は、フォーカス電極140に電気的に接続され、電源172のマイナス側端子はグラウンドに電気的に接続されている。また、電源174のマイナス側端子は、抵抗176を介してフォーカス電極140に電気的に接続され、電源174のプラス側端子は、グラウンドに電気的に接続されている。そのため、電源172でフォーカス電極140にフォーカス電圧を印加するとともに、フォーカス電極140にたまった電荷を抵抗176を介してグラウンドに流すことができる。
【0040】
なお、フォーカス電源170は、電流シンク機能を有さなくてもよい。この場合、図示はしないが、フォーカス電源170のプラス側端子はフォーカス電極140に電気的に接続され、フォーカス電源170のマイナス側端子はグラウンドに電気的に接続される。
【0041】
1.2. 動作
1.2.1. イオンビームの放出
イオン源10では、アノード110とカソード120との間に印加された放電電圧によってカソード120から電子が放出され、カソード120から放出された電子はアノード110に向かって加速する。このとき、カソード120から放出された電子は、カソード120(ポールピース)が発生させる磁場によって、旋回運動する。イオン化室112に導入されたガスがイオン化室112を旋回運動する電子と衝突すると、当該ガスがイオン化する。このイオン化によってイオン化室112に陽イオンが発生する。
【0042】
イオン化室112で発生した陽イオンは、アノード110と引出電極130との間に印加された加速電圧によってイオン化室112から引き出され、加速する。イオン化室112で発生した陽イオンは、カソード120の孔125、フォーカス電極140の孔142、および引出電極130の孔132を通ってイオン源10から放出される。このようにして、イオン源10からイオンビームIBが放出される。
【0043】
1.2.2. フォーカス電極の動作
試料加工装置100では、イオンビームIBの空間プロファイルが試料Sの加工断面の形状や加工レートに直接的に関係している。試料加工装置100では、イオンビームIBの軸とスイング軸Aが直交する位置に試料Sと遮蔽板を配置して断面を加工するため、イオンビームIBの空間プロファイルが、作製される試料Sの加工断面の形状を顕著に表す。
【0044】
具体的には、試料加工装置100では、イオンビームIBで加工された試料Sの加工断面の形状は、イオンビームIBの断面プロファイルを反映する。イオンビームIBの断面プロファイルは、イオンビームIBの断面における、イオンビームの強度分布である。
【0045】
試料加工装置100では、フォーカス電極140に印加されるフォーカス電圧を変更することによって、イオンビームIBの断面プロファイルを制御できる。
【0046】
図4図9は、フォーカス電極140の動作を説明するための図である。図4では、参考例に係る試料加工装置で試料Sを加工している様子を図示している。参考例に係る試料加工装置は、図4に示すように、イオン源10がフォーカス電極140を有していない。図5図9では、試料加工装置100で試料Sを加工している様子を図示している。図5図9では、加速電圧を一定とし、放電電圧を一定とし、イオン化室112に導入されるガスの流量を一定とした状態で、フォーカス電極140に印加されるフォーカス電圧を変更した場合を図示している。
【0047】
図4に示す試料加工装置100では、加速電圧を設定し、設定された加速電圧で安定したイオンビームIBを照射できる放電電圧およびイオン化室112に導入されるガスの流量を調整して照射条件を決定し、イオンビームIBを試料Sに照射する。
【0048】
図4の照射条件から、フォーカス電圧Vを初期値V=V0とし、アノード110とカソード120との間に印加される放電電圧を高くする。放電電圧を高くすることによって、図5に示すように、イオンビームIBの径は大きくなり、イオンビームIBの出力電流は増加する。この結果、図5に示す加工断面C2の幅は、図4に示す加工断面C1の幅よりも大きくなる。
【0049】
図5の照射条件からフォーカス電圧を上げてフォーカス電圧V=V1(V1>V0)を印加する。これにより、図6に示すように、フォーカス電極140の孔142を規定する内面141に近い軌道のイオン、すなわち、イオンビームIBの外縁付近を通るイオンが、フォーカス電極140がつくる電界の影響を強く受ける。そのため、イオンビームIBの外縁付近を通るイオンがイオンビームIBの中心に寄る。したがって、イオンビームIBにおいて、3つのピークを持つ断面プロファイルが得られる。この結果、図6に示すように、断面プロファイルの3つのピークに対応する3つの凹部を有する加工断面C3が得られる。
【0050】
図6の照射条件からフォーカス電圧を上げてフォーカス電圧V=V2(V2>V1)を印加する。これにより、図6に示す例と比べて、イオンビームIBの外縁付近を通るイオンが、よりイオンビームIBの中心に寄る。そのため、イオンビームIBの断面プロファイルにおいて、3つのピークが重なりあって矩形状のプロファイルが得られる。すなわち、強度が均一なビームが得られる。この結果、図7に示すように、矩形状の加工断面C4が得られる。
【0051】
図7の照射条件からフォーカス電圧を上げてフォーカス電圧V=V3(V3>V2)を印加する。これにより、断面プロファイルの3つのピークがビームの中心に集まる。この結果、図8に示すように、半円状の加工断面C5が得られる。
【0052】
図8の照射条件からフォーカス電圧を上げてフォーカス電圧V=V4(V4>V3)を印加する。これにより、図9に示すように、イオンビームIBの径が最小となり、ビームの電流密度が最大となる。これにより、加工幅が最も小さい加工断面C6が得られる。
【0053】
図10図15は、試料の加工断面の走査電子顕微鏡像である。なお、図10図15に示す各SEM写真は、加速電圧および放電電圧を一定とし、フォーカス電圧を変更して加工された試料の加工断面を撮影したものである。
【0054】
具体的には、加速電圧を8.0kVとし、放電電圧を0.9kVとした。また、図10に示すSEM写真は、フォーカス電極140がないイオン源で得られたイオンビームIB(図4参照)で加工された試料の加工断面を撮影したものである。図11に示すSEM写真は、フォーカス電圧V=4.0kVで加工された試料の加工断面を撮影したものである。図12に示すSEM写真は、フォーカス電圧V=5.6kVで加工された試料の加工断面を撮影したものである。図13に示すSEM写真は、フォーカス電圧V=6.2kVで加工された試料の加工断面を撮影したものである。図14に示すSEM写真は、フォーカス電圧V=6.4kVで加工された試料の加工断面を撮影したものである。図15に示すSEM写真は、フォーカス電圧V=6.6kVで加工された試料の加工断面を撮影したものである。
【0055】
このように、フォーカス電極140に印加されるフォーカス電圧を制御することによって、イオンビームIBの空間プロファイルを制御できる。この結果、加速電圧や、放電電圧、ガスの流量などを変更することなく、試料Sの加工断面を様々な形状に加工できる。
【0056】
1.3. 加工方法
試料加工装置100では、上述したように、フォーカス電極140に印加されるフォーカス電圧を変化させることによって、イオンビームIBの空間プロファイルを制御することができる。試料加工装置100における試料加工方法は、フォーカス電極140に印加されるフォーカス電圧を変化させることによって、イオンビームIBの空間プロファイルを制御する工程を含む。
【0057】
(1)フォーカス電極を用いて径を小さくしたイオンビームを用いた加工
図9および図15に示すように、フォーカス電極140を用いることによって、イオンビームIBの径を小さくできる。この状態では、イオンビームIBの電流密度が高いため、加工レートを高くできる。したがって、目標物が深さ方向に長く、かつ、幅が狭い場合や、目標物が小さい場合に、効率よく加工を行うことができる。
【0058】
図16は、試料加工装置100で加工された試料Sの加工断面を模式的に示す図である。図17は、図4に示す参考例に係る試料加工装置で加工された試料Sの加工断面を模式的に示す図である。図16および図17では、同じ試料Sを加工している。
【0059】
試料加工装置100では、図16に示すように、フォーカス電極140を用いてイオンビームIBの径を小さくできる。これにより、図17に示す参考例に係る試料加工装置で加工した場合と比べて、深さ方向に長く、かつ、幅が狭い目標物P1を短時間で加工できる。
【0060】
図18は、試料加工装置100で加工された試料Sの加工断面を模式的に示す図である。図19は、図4に示す参考例に係る試料加工装置で加工された試料Sの加工断面を模式的に示す図である。図18および図19では、同じ試料Sを加工している。
【0061】
試料加工装置100では、図18に示すように、フォーカス電極140を用いてイオンビームIBの径を小さくできる。これにより、図19に示す参考例に係る試料加工装置で加工した場合と比べて、小さい目標物P2を短時間で断面加工できる。さらに、図18に示すように、フォーカス電極140を用いてイオンビームIBの径を小さくすることで、加工幅を狭くできる。そのため、目標物P2の周囲に存在する異なる材質の構造物2が加工されない。したがって、構造物2が加工されることによって、目標物P2にスパッタ粒子が付着することを防ぐことができる。
【0062】
(2)フォーカス電極を用いて径を大きくしたイオンビームを用いた加工
図6および図12に示すように、フォーカス電極140を用いることによって、イオンビームIBの径を大きくできる。
【0063】
図20は、試料加工装置100で加工された試料Sの加工断面を模式的に示す図である。図21は、図4に示す参考例に係る試料加工装置で加工された試料Sの加工断面を模式的に示す図である。
【0064】
図20に示す試料加工装置100では、フォーカス電極140を用いてイオンビームIBの径を大きくした。これに対して、図21に示す参考例に係る試料加工装置では、加速電圧、放電電圧、およびガスの流量を調整することによってイオンビームIBの径を大きくした。
【0065】
図21に示すように、加速電圧、放電電圧、およびガスの流量を調整してイオンビームIBの径を大きくしても、ビームの中心の強度が高く、ビームの外側に向かうにしたがって強度が低下する。したがって、加工断面の深さの半分の位置での加工幅Wは、イオンビームIBの径Dの半分程度になる。
【0066】
これに対して、図20に示すように、フォーカス電極140を用いて径を大きくした場合、加工断面の深さの半分の位置での加工幅Wを、イオンビームIBの径Dと同程度にできる。
【0067】
図22は、試料加工装置100で加工された試料Sの加工断面のSEM写真である。
【0068】
図22のSEM像に示すように、フォーカス電極140を用いることによって、深さが500μmの加工断面において、加工断面の深さの半分の位置(深さ250μm)での加工幅を、2mm以上にできる。
【0069】
(3)フォーカス電極を用いて径を大きくしたイオンビームとフォーカス電極を用いて径を小さくしたイオンビームを組み合わせた加工
試料加工装置100では、フォーカス電圧Vを第1電圧に設定してイオンビームIBを試料Sに照射して試料Sを加工した後、フォーカス電圧Vを第1電圧とは異なる第2電圧に設定してイオンビームIBを試料Sに照射して試料Sを加工することができる。
【0070】
図23は、フォーカス電極140を用いて径を大きくしたイオンビームIBを用いた加工と、フォーカス電極140を用いて径を小さくしたイオンビームIBを用いた加工を組み合わせて作製された試料Sの加工断面を模式的に示す図である。
【0071】
図23に示すように、フォーカス電圧V=V1として、径を大きくしたイオンビームIBで試料Sを加工した後(図6参照)、フォーカス電圧V=V4として、径を小さくしたイオンビームIBで試料Sを加工する(図9参照)。これにより、試料表面近傍の広い領域と試料の深い領域を効率よく断面加工できる。
【0072】
このように、加工中にフォーカス電圧を切り替えることによって、試料Sの深さ方向において、加工幅を大きく変化させることができる。
【0073】
(4)フォーカス電極を用いて強度を均一にしたイオンビームを用いた加工
図7および図13に示すように、フォーカス電極140を用いることによって、強度が均一なイオンビームIB(断面プロファイルが矩形状のイオンビームIB)を得ることができる。
【0074】
図24は、試料加工装置100で加工された試料Sの加工断面を模式的に示す図である。図25は、図4に示す参考例に係る試料加工装置で加工された試料Sの加工断面を模式的に示す図である。
【0075】
図25に示す参考例に係る試料加工装置で試料Sを加工した場合には、目標物P3の深さよりも2倍程度深く加工しなければ、目標物P3を断面加工できない場合がある。このように目標物P3を加工するために深い領域まで加工すると、目標物P3よりも深い位置にある金属層Bまで加工されてしまう。金属層Bのような異種材料が加工されると、スパッタ粒子が目標物P3に付着してしまう場合がある。また、目標物P3にスパッタ粒子を付着することを防ぐためには、金属層Bよりも深く加工する必要がある。
【0076】
これに対して、図24に示すように、試料加工装置100では、フォーカス電極140を用いてイオンビームIBの強度を均一にできる。強度を均一にしたイオンビームIBを用いることによって、加工幅の深さ方向の変化を小さくできる。そのため、目標物P3と同じ深さ、あるいは目標物P3よりも少し深い位置まで加工すれば、目標物P3を断面加工できる。したがって、図24に示すように、目標物P3よりも深い位置に金属層Bなどの異種の材料の層がある場合に、目標物P3にスパッタ粒子が付着することを防ぐことができる。
【0077】
図26は、試料加工装置100で試料Sを平面加工する様子を模式的に示す図である。図27は、図4に示す参考例に係る試料加工装置で試料Sを平面加工する様子を模式的に示す図である。
【0078】
イオンビームIBに対して傾斜させた試料Sを、回転させながらイオンビームIBを照射することで、試料Sの表面を加工することができる。このとき、図27の(A)に示すように、試料Sの回転中心にイオンビームIBの中心を合わせると、加工された試料Sの表面の平坦な領域が狭くなる。
【0079】
そのため、試料Sの回転中心と、イオンビームIBの中心をずらすと、図27の(B)に示すように、比較的平坦な領域を大きくすることができる。しかしながら、試料Sの回転中心とイオンビームIBの中心との間の距離が大きくなると、図27の(C)に示すように、平坦な領域を大きくできない。そのため、試料Sの回転中心とイオンビームIBの中心との間の距離を適切な大きさに調整する必要がある。
【0080】
これに対して、図26に示すように、試料加工装置100では、フォーカス電極140を用いてイオンビームIBの強度を均一にできる。強度を均一にしたイオンビームIBを用いて試料Sを平面加工することによって、試料Sの回転中心にイオンビームIBの中心を合わせることで、容易に、平坦な領域を大きくできる。
【0081】
(5)低加速のイオンビームを用いた加工
試料加工装置100では、アノード110の電位に近いフォーカス電極140を有する
ため、プラズマ生成に必要な放電電圧を維持した状態で、アノード110の電位を低下させても(加速電圧を低下させても)、プラズマ生成に必要な電子をイオン化室112に閉じ込めることができる。また、フォーカス電極140と引出電極130との間の電位差により、イオンを引き出すための引出電圧を維持できるため、低加速電圧でもイオン源10から試料Sの加工が可能なイオンビームIBを放出できる。
【0082】
図28は、試料加工装置100を用いて加速電圧2kVで加工された試料のSEM写真である。図29は、試料加工装置100を用いて加速電圧3kVで加工された試料のSEM写真である。
【0083】
図28および図29に示すように、試料加工装置100では、フォーカス電極140を有するため、加速電圧を2~3kV(イオンエネルギー2~3KeV)でも、試料Sを断面加工できる。このように、試料加工装置100では、低加速電圧で試料Sを加工できるため、イオンダメージや熱ダメージを受けやすいため加工が困難であった試料を加工できる。
【0084】
(6)仕上げ加工
図30は、試料加工装置100を用いた仕上げ加工の一例を説明するための図である。図31は、図4に示す参考例に係る試料加工装置を用いた仕上げ加工の一例を説明するための図である。
【0085】
目標物P4が試料Sの表面近くにある場合や、スパッタレートの高い試料の断面加工を行う場合には、試料Sからスパッタされて弾き出されたスパッタ粒子が、加工断面に再付着してしまう。
【0086】
図31に示すように、加工断面と未加工の領域との境界部分から放出されたスパッタ粒子が再付着の主な原因となる。そのため、境界部分からのスパッタ粒子の放出がなくなり、かつ、加工断面に再付着したスパッタ粒子がなくなるまで、時間をかけて加工することで、再付着の影響が低減された加工断面を得ることができる。しかしながら、この手法では、加工に時間がかかるという問題がある。
【0087】
これに対して、試料加工装置100では、図30に示すように、加工断面が試料Sを厚さ方向に貫通した段階で、フォーカス電極140を用いてイオンビームIBの径を小さくできる。これにより、加工断面と未加工の領域との境界部分にイオンビームIBがあたらないため、再付着の影響が低減された加工断面を短時間で効率よく作製できる。
【0088】
(7)スイング動作を組み合わせた加工
図9および図15に示すように、フォーカス電極140を用いることによって、イオンビームIBの径を小さくできる。この状態では、イオンビームIBの電流密度が高いため、加工レートを高くできる。したがって、加工断面のアスペクト比(加工幅に対する加工深さ)を大きくできる。
【0089】
ここで、試料Sをスイング動作させるときのスイング角度を制御することによって、加工断面の形状を制御できる。試料加工装置100では、目標加工領域に基づいて、イオンビームIBの空間プロファイルおよびスイング角度を制御することによって、様々な試料を効率よく加工できる。
【0090】
図32および図33は、試料加工装置100において、スイング動作させた試料Sを加工する手法を説明するための図である。図34は、図4に示す参考例に係る試料加工装置において、スイング動作させた試料Sを加工する手法を説明するための図である。図32
図34には、加工中の試料Sの様子、および加工後の試料SのSEM写真を示している。
【0091】
図34に示す例では、試料Sを±30°の角度でスイング動作させている。このとき、図34に示すように、加工幅Wは、イオンビームIBの径Dと同程度になる。
【0092】
これに対して、試料加工装置100では、図32に示すように、フォーカス電極140を用いて径を小さくしたイオンビームIBを用いることによって、試料Sを±30°の角度でスイング動作させた場合に、試料Sの深い位置で、加工幅WをイオンビームIBの径Dよりも大きくできる。図32に示す例では、試料Sの深い位置での加工幅Wが試料Sの浅い位置での加工幅Wよりも大きい。
【0093】
図33に示す例では、試料Sを±15°の角度でスイング動作させている。さらに、図33に示す例では、最大スイング角度となる位置(+15°の位置および-15°の位置)でスイング動作を一時停止している。これにより、加工幅WをイオンビームIBの径Dと同程度にできる。なお、最大スイング角度となる位置で、試料Sのスイング動作の速度を低下させてもよい。この場合も、最大スイング角度となる位置でスイング動作を一時停止させた場合と同様に、加工幅WをイオンビームIBの径Dと同程度にできる。この結果、例えば、深さ方向の加工速度を向上できる。
【0094】
このように、試料加工装置100では、スイング角度とフォーカス電圧を変更することができるため、様々な試料を効率よく加工できる。
【0095】
図35は、試料加工装置100において、スイング動作させた試料Sを加工する手法を説明するための図である。図35に示す例では、目標加工領域として、目標物P5の全体を含む領域が設定されている。
【0096】
図35に示すように、加工の初期段階では、スイング角度を小さくし、アスペクト比が高くなる条件で加工を進め、目標物P5の一部を露出させる。その後、スイング角度を大きくし、最大スイング角度でスイング動作を停止させたり、最大スイング角度となる位置でスイング動作の速度を低下させたりして、試料Sの深い位置での加工幅を大きくする。これにより、目標物P5の全体を露出させる。このように加工中にスイング角度を変更することによって、試料Sの深い位置にある目標物P5を効率よく加工できる。
【0097】
1.4. ユーザーインターフェース
試料加工装置100では、位置合わせ用カメラ50で取得された画像上に、設定されたフォーカス電圧や、加速電圧、放電電圧、ガスの流量などの照射条件に応じたイオンビームIBの径(照射領域)およびイオンビームIBの照射位置を示す画像を表示させることができる。これにより、ユーザーは、容易に、加工目標位置をイオンビームIBの照射位置に合わせることができる。
【0098】
試料加工装置100では、イオンビームIBの照射条件によって、イオンビームIBの径および照射位置が変わる。例えば、加速電圧が高いほど、イオンビームIBの径が小さくなる。また、フォーカス電極140に印加されるフォーカス電圧を変更することで、イオンビームの径が変わる。また、加速電圧およびフォーカス電圧を変更することで、イオンビームIBの照射位置が変わる。
【0099】
画像処理装置80は、イオンビームIBの照射条件と、イオンビームIBの径および照射位置の情報と、が関連付けて記憶されたデータベースを有している。画像処理装置80は、データベースから、設定された照射条件に対応するイオンビームIBの径および照射
位置の情報を取得し、イオンビームIBの径およびイオンビームIBの照射位置を示す画像を表示させる。
【0100】
図36は、データベースの作成方法を説明するための図である。図36には、位置合わせ用カメラ50で試料Sを撮影している様子、および撮影された画像I2を図示している。
【0101】
例えば、照射条件を任意に設定し、テスト用試料SにイオンビームIBを照射する。これにより、図36に示すように、テスト用試料S上にイオンビームIBの照射痕Tが形成される。
【0102】
次に、位置合わせ用カメラ50でテスト用試料Sを撮影し、画像I2を取得する。次に、取得した画像I2から、照射痕Tの大きさ(輪郭)の情報および照射痕Tの位置の情報を取得する。ここで、照射痕Tの大きさは、イオンビームIBの径に対応し、照射痕Tの位置はイオンビームIBの照射位置に対応する。したがって、設定された照射条件と、イオンビームIBの径およびイオンビームIBの照射位置の情報を関連付けることができる。
【0103】
これらの処理を照射条件を変更しながら繰り返すことで、データベースを作成できる。
【0104】
図37は、画像処理装置80の処理を説明するための図である。
【0105】
画像処理装置80は、イオンビームIBの照射条件が設定されると、データベースを参照して、設定された照射条件に応じたイオンビームIBの径および照射位置の情報を取得する。画像処理装置80は、取得したイオンビームIBの径および照射位置の情報に基づいて位置合わせ用カメラ50で取得された画像I2上に、イオンビームIBの径および照射位置を示す画像I4を表示させる。図37に示す例では、画像処理装置80は、画像I4として、イオンビームIBの照射位置に、イオンビームIBの径と同じ大きさの径を持つ円を表示させている。なお、画像I4は、図37に示す例に限定されず、イオンビームIBの径および照射位置を示すことができればよい。
【0106】
試料加工装置100では、上述したように、画像処理装置80が、位置合わせ用カメラ50で撮影された画像I2上に、イオンビームIBの径と照射位置を示す画像I4を表示させる。この結果、画像I4の位置に、目標加工位置を合わせれば、イオンビームの照射位置に目標加工位置を合わせることができる。したがって、試料加工装置100では、容易に、イオンビームIBの照射位置に目標加工位置を合わせることができる。
【0107】
1.5. 効果
試料加工装置100は、カソード120と引出電極130との間に配置されたフォーカス電極140を含み、フォーカス電極140に印加されるフォーカス電圧を変化させることによって、イオンビームIBの空間プロファイルを制御する。そのため、試料加工装置100では、様々な空間プロファイルを持つイオンビームIBで試料Sを加工できる。すなわち、試料加工装置100では、径が小さいイオンビームIBや、径が大きいイオンビームIB、強度が均一なイオンビームIBなどを用いて、試料Sを加工できる。したがって、試料加工装置100では、材質や、目標物の大きさ、目標物の深さなどが異なる様々な試料を効率よく加工できる。
【0108】
例えば、試料加工装置100では、上述したように、加速電圧や、放電電圧、導入されるガスの流量を変更することなく、イオンビームIBの空間プロファイルを制御できる。したがって、試料加工装置100では、2~3kVの極めて低い加速電圧の場合でも、フ
ォーカス電極140を用いてイオンビームIBを集束することができ、試料Sを加工できる。
【0109】
試料加工装置100における試料加工方法は、フォーカス電極140に印加されるフォーカス電圧を変化させることによって、イオンビームIBの空間プロファイルを制御する工程を含む。そのため、試料加工装置100における試料加工方法では、材質や、目標物の大きさ、目標物の深さなどが異なる様々な試料を効率よく加工できる。
【0110】
試料加工装置100における試料加工方法は、フォーカス電圧を第1電圧に設定して、イオンビームIBを試料Sに照射して試料Sを加工する工程と、フォーカス電圧を第1電圧とは異なる第2電圧に設定して、イオンビームIBを試料Sに照射して試料Sを加工する工程と、を含む。そのため、試料加工装置100における試料加工方法では、様々な試料を効率よく加工できる。
【0111】
2. 第2実施形態
2.1. 試料加工装置
次に、第2実施形態に係る試料加工装置について、図面を参照しながら説明する。図38は、第2実施形態に係る試料加工装置200の構成を示す図である。以下、第2実施形態に係る試料加工装置200において、第1実施形態に係る試料加工装置100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0112】
試料加工装置200は、図38に示すように、イオン源10を制御する制御部210を含む。制御部210は、イオン源10を制御する。制御部210は、例えば、CPU(Central Processing Unit)および記憶装置(RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)など)を含む。制御部210では、CPUで記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、各種計算処理、各種制御処理を行う。
【0113】
2.2. 動作
図39図41は、制御部210の処理の一例を説明するための図である。
【0114】
試料加工装置200では、画像処理装置80が、目標加工領域を指定するためのGUI(Graphical User Interface)を表示させる。例えば、GUI画面には、図39に示すように、加工観察用カメラ60で撮影された画像I6上に、目標加工領域の位置と大きさを指定するため画像I8が表示される。画像I8は、例えば、目標加工領域の位置と大きさを示す枠であり、当該枠の内側が目標加工領域として指定される。図示の例では、目標物P6を含む領域が画像I8によって目標加工領域に指定されている。
【0115】
制御部210は、目標加工領域が指定されると、指定された目標加工領域の位置と大きさに基づいて加工条件を決定する。加工条件は、例えば、フォーカス電圧、加速電圧、放電電圧、およびスイング条件(スイング角度、スイング速度など)を含む。
【0116】
制御部210は、あらかじめ種々の加工条件での加工形状および加工時間に関するデータベースを有しており、指定された目標加工領域の幅および深さに基づきデータベースを検索し、加工条件を決定する。例えば、制御部210は、指定された目標加工領域を断面加工するためにかかる時間が最短となる加工条件をデータベースから導く。制御部210は、図40に示すように、決定した加工条件で試料Sを加工したときの加工断面の形状および加工時間を求めて、求めた加工断面の形状および予想加工時間をGUI画面に表示させる。
【0117】
ユーザーは、GUI画面に表示された加工条件が適切でないと判断した場合には、GU
I画面において別の加工条件を提示する操作を行うことができる。制御部210は、当該操作に基づいて、図41に示すように、別の加工条件を提示する。
【0118】
制御部210は、あらかじめ複数の加工条件の候補をGUI画面に表示して、複数の加工条件の候補から1つを指定できるようにしてもよい。例えば、制御部210は、加工条件の候補ごとに、加工断面の形状および予想加工時間をGUI画面に表示させる。ユーザーは、GUI画面に表示された、複数の加工条件の候補から、1つの加工条件を指定してもよい。
【0119】
ユーザーが加工条件を指定すると、制御部210は、指定された加工条件に基づいてイオン源10およびスイング機構40を制御する。例えば、制御部210は、加工条件としてフォーカス電圧が指定されると、フォーカス電極140に指定されたフォーカス電圧が印加されるようにフォーカス電源170を制御する。
【0120】
なお、図40に示すように、2つの加工条件を組み合わせて加工を行う場合には、制御部210は、加工観察用カメラ60で撮影された画像I6に基づいて、加工条件を切り替える。例えば、制御部210は、試料Sをスイング角度を第1角度として加工を行った後、画像I6において加工断面があらかじめ設定された加工幅となったタイミングで試料Sのスイング角度を第2角度に切り替える。そして、制御部210は、指定された目標加工領域の全体が露出するまで、加工を行う。
【0121】
ここで、イオンビームIBで加工された加工断面と未加工領域との境界に形成される傾斜領域は、試料Sを同軸落射照明することによって、加工観察用カメラ60で撮影された画像において他の部分と区別できる。そのため、制御部210は、同軸落射照明された試料Sを加工観察用カメラ60で撮影することによって、傾斜領域を特定できる画像を取得する。制御部210は、この画像から加工断面の形状(加工幅や加工断面の大きさ等)を特定して加工状況をモニターし、加工条件を切り替えるタイミングや加工を終了するタイミングを判断する。
【0122】
上記では、目標加工領域を指定して加工条件を決定する場合について説明したが、加工したくない領域を指定して加工条件を決定してもよい。
【0123】
また、上記では、制御部210が加工条件の候補を提示し、提示された加工条件の候補からユーザーが加工条件を指定する場合について説明したが、制御部210は、指定された目標加工領域に基づいてイオン源10およびスイング機構40を制御してもよい。この場合、制御部210は、加工時間が最短となる加工条件を採用して、加工を行ってもよい。
【0124】
2.3. 効果
試料加工装置200では、フォーカス電源170を制御する制御部210を含む。また、制御部210は、試料Sの目標加工領域の指定を受け付け、指定された目標加工領域に基づいてフォーカス電源170を制御する。そのため、試料加工装置200では、最適な空間プロファイルのイオンビームIBで試料Sを加工できる。例えば、加工時間が最短となる空間プロファイルのイオンビームIBで試料Sを加工できる。
【0125】
試料加工装置200では、制御部210は指定された目標加工領域に基づいてスイング機構40を制御する。そのため、試料加工装置200では、効率よく試料Sを加工できる。
【0126】
3. 変形例
上述した第1実施形態および第2実施形態では、試料加工装置が断面試料を作製するためのクロスセクションポリッシャ(登録商標)である場合について説明したが、試料加工装置は薄膜試料を作製するためのイオンスライサ(登録商標)であってもよい。イオンスライサ(登録商標)は、イオンビームを遮蔽するためのシールドベルトを備えており、シールドベルトでイオンビームを遮蔽することで試料を薄片化できる。
【0127】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0128】
10…イオン源、20…試料ステージ引出機構、30…試料ステージ、32…X移動機構、34…Y移動機構、40…スイング機構、50…位置合わせ用カメラ、52…カメラ傾倒機構、60…加工観察用カメラ、70…試料室チャンバー、72…試料室、74…観察窓、80…画像処理装置、100…試料加工装置、110…アノード、112…イオン化室、120…カソード、122…第1電極、124…第2電極、125…孔、130…引出電極、132…孔、140…フォーカス電極、142…孔、150…アノード用電源、160…カソード用電源、170…フォーカス電源、172…電源、174…電源、176…抵抗、200…試料加工装置、210…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41