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特許7440505マイクロ流体ガス交換装置及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】マイクロ流体ガス交換装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/22 20060101AFI20240220BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20240220BHJP
   B01D 63/08 20060101ALI20240220BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20240220BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20240220BHJP
   B81C 3/00 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
A61M1/22 525
A61M1/22 505
B01J19/00 321
B01D63/08
B01D71/02
B81B1/00
B81C3/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021523680
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2019079274
(87)【国際公開番号】W WO2020089116
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】18306405.4
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ハギリ、アンヌ-マリー
(72)【発明者】
【氏名】ジョグラフ、リヤ
(72)【発明者】
【氏名】ラショー、ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】パリス、アリジー
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ギルグエン
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/187372(WO,A2)
【文献】特表2010-523268(JP,A)
【文献】特表2013-534461(JP,A)
【文献】特表2015-529155(JP,A)
【文献】国際公開第2011/150216(WO,A1)
【文献】特表2002-528147(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0125235(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/22
B01D 53/22;61/00-71/82;C02F1/44-1/44
B01J 19/00
B81B 1/00
B81C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の交換モジュール(100)を備えたマイクロ流体ガス交換装置であって、
前記交換モジュールの各々は、
第1層と、
第2層と、を備え、
前記第1層は、
1つ以上の第1入口(108)と、
1つ以上の前記第1入口に接続された第1毛管ネットワークと、
前記第1毛管ネットワークに接続された1つ以上の第1出口(110)と、を備え、
前記第2層は、半透膜を備え、
前記第1毛管ネットワークは、前記第1入口の少なくとも1つから径方向に外側に延び、
前記第1毛管ネットワークは、1つ以上の注入ブランチ(104)と、一連のマイクロチャネル(106)と、を備え、
前記1つ以上の注入ブランチは、流体の流れを前記一連のマイクロチャネルに分岐するように構成され、
前記半透膜は、前記第1毛管ネットワークに接触し、前記流体のガス交換を可能にするように構成され
前記1つ以上の第1入口(108)は、前記流体を軸方向に分配するセンタリングして配置された1つ以上の入口であり、
前記第1入口(108)に軸方向に分配される流体の向きと、径方向に外側に延びる前記第1毛管ネットワークの向きは直交していることを特徴とするマイクロ流体ガス交換装置。
【請求項2】
2つ以上の交換モジュールを備え、
前記2つ以上の交換モジュールの各々の1つ以上の第1入口(108)は、共通の供給ラインに接続され、
前記2つ以上の交換モジュールの各々の1つ以上の第1出口(110)は、共通のドレインラインに接続されることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体ガス交換装置。
【請求項3】
前記第1毛管ネットワークの前記一連のマイクロチャネルは、並列に配置された曲がったマイクロチャネルを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロ流体ガス交換装置。
【請求項4】
前記曲がったマイクロチャネルの曲率は、前記第1毛管ネットワーク内の血流の圧力低下が2Pa以下となるように選ばれることを特徴とする請求項3に記載のマイクロ流体ガス交換装置。
【請求項5】
前記1つ以上の交換モジュールの各々は、
第3層をさらに備え、
前記第3層は、
1つ以上の第2入口(302)と、
1つ以上の第2出口(304)と、
前記1つ以上の第2入口(302)及び前記1つ以上の第2出口(304)に接続された第2毛管ネットワークと、を備え、
前記半透膜は、前記第2毛管ネットワークに接触することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマイクロ流体ガス交換装置。
【請求項6】
前記第2毛管ネットワークは、前記1つ以上の第2入口(302)及び前記1つ以上の第2出口(304)に接続された2つ以上の同心マイクロチャネル(306)を備えることを特徴とする請求項5に記載のマイクロ流体ガス交換装置。
【請求項7】
前記第2毛管ネットワークは、前記第1毛管ネットワークとは別であることを特徴とする請求項5又は6に記載のマイクロ流体ガス交換装置。
【請求項8】
前記第3層の前記第2入口(302)及び前記第2出口(304)の少なくとも1つは、1つ以上のマイクロチャネル(308)を備えることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載のマイクロ流体ガス交換装置。
【請求項9】
2つ以上の交換モジュールを備え、
前記2つ以上の交換モジュールの各々の1つ以上の第2入口(302)は、共通の供給ラインに接続され、
前記2つ以上の交換モジュールの各々の1つ以上の第2出口(304)は、共通のドレインラインに接続されることを特徴とする請求項5から8のいずれかに記載のマイクロ流体ガス交換装置。
【請求項10】
前記交換モジュールの直径は、略10mmであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のマイクロ流体ガス交換装置。
【請求項11】
前記交換モジュールの全交換表面積は、略0.0040m以上略0.0050m以下であることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のマイクロ流体ガス交換装置。
【請求項12】
少なくとも一部分は、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリブチレン、スチレンコポリマー、フッ化ポリビニリデン、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリオクタメチレンマレイン酸(無水物)クエン酸塩及びポリジメチルシロキサンの中から選ばれた1つ以上の材料から形成されることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のマイクロ流体ガス交換装置。
【請求項13】
湿式接着を用いたマイクロ流体ガス交換装置の製造方法であって、
第1層と第2層との組み合わせを生成するために、第1層を第2層に接着することにより交換モジュールを作成するステップを備え、
前記第1層は、
1つ以上の第1入口(108)と、
前記1つ以上の第1入口に接続された第1毛管ネットワークと、
前記第1毛管ネットワークに接続された1つ以上の第1出口と、を備え、
前記第1毛管ネットワークは、前記第1入口の少なくとも1つから径方向に外側に延び、
前記第1毛管ネットワークは、1つ以上の注入ブランチ(104)と、一連のマイクロチャネル(106)と、を備え、
前記1つ以上の注入ブランチは、流体の流れを前記一連のマイクロチャネルに分岐するように構成され、
前記第2層は、半透膜を備え、
前記半透膜は、前記第1毛管ネットワークに接触し、
交換モジュールを作成するステップは、前記第1層又は前記第2層の少なくとも1つに溶媒混合液を供給するステップを備え
前記1つ以上の第1入口(108)は、前記流体を軸方向に分配するセンタリングして配置された1つ以上の入口であり、
前記第1入口(108)に軸方向に分配される流体の向きと、径方向に外側に延びる前記第1毛管ネットワークの向きは直交していることを特徴とする方法。
【請求項14】
前記第1層と第2層との組み合わせに第3層を接着するステップをさらに備え、
前記第1層と第2層との組み合わせに第3層を接着するステップは、前記第3層又は第1層と第2層との組み合わせの少なくとも1つに溶媒混合液を供給するステップを備えることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記交換モジュールと1つ以上の追加的な交換モジュールとを接着するステップをさらに備えることを特徴とする請求項13又は14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロ流体ガス交換装置に関する。特に本開示は、単層又は複層のマイクロ流体装置の設計及び製造、こうした装置の製造方法、使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肺の急性及び慢性疾患は、最も強く患者数に影響し、その治療が最も求められているものである。肺急性疾患は、不完全発達肺、重症感染、火傷その他の肺損傷、急性呼吸促迫症候群(ARDS)に関す新生児の状態を含む。これらの状態はしばしば、肺の回復中に患者の酸素レベルを維持するため、機械的換気を用いて治療される。集中治療や緊急治療では、ガス交換はしばしば機械的換気を用いて行われる。しかしながらこの方法は、肺機能の担保を必要とする。肺機能が低下した患者の場合、効果的な治療は込み入ったものとなる可能性がある。
【0003】
ガス交換のためのより新しいアプローチに、膜に基づく交換装置(例えば、ホローファイバに基づくシステム、平面シート構造、螺旋型又は巻線型システム等)を用いた、血液への酸素の直接供給及び二酸化炭素の除去がある。これらの装置は、システムの中心部品としての人工肺の他、気泡トラップ、流体回路、ポンプ、熱交換器その他の部品を含んでもよい。
【0004】
別のガス交換装置は、空気交換のための表面領域を最大化するために、マイクロ流体技術を用いる。これにより効率が向上し、設計上の床面積全体が減少する。例えば、Gimbel et al., Development of a biomimetic microfluidic oxygen transfer device. Lab Chip, 2016, 16, 3227; Potkay, "The promise of microfluidic artificial lungs," Lab Chip, 2014, 14, 4122-4138; 及び Wagner et al., "Comment on "The promise of microfluidic artificial lungs" by J. A. Potkay," Lab Chip, 2014, 14, 4122-4138."を参照のこと。
【0005】
米国特許7、371、400号は、血管組織の細胞技術のための3次元の複層構造を製造するためのマイクロ製造技術に関する。複層構造は、細胞接着及び装置内で相互接続されたチャネルを通した成長のテンプレートとして機能する。これは、隣の複層に続くモジュールにリンクする垂直の毛管ネットワークを含む。
【0006】
米国特許8、647、410号は、微細加工された人工肺装置内のガス交換システム及び方法に関する。このシステム及び方法は、ガス交換率を最大化するように構成された空気チャネルの第2アレイから半透膜により分離された、血流のための直線状配置のマイクロ流体チャネルを有する装置に関する。
【0007】
国際出願公開第2018/187372号は、中心軸及び外面を有する円柱状の基板と、円柱状基板の中心軸から径方向に外側に延びる複数の同心膜層と、を備えたマイクロ流体拡散装置に関する。ガスの液体内への拡散及び/又は液体のガス内への拡散を可能とするために、複数のガス流チャネルを定義するために少なくとも1つの膜層はパターン化され、複数の液体流チャネルを定義するために少なくとも1つの膜層はパターン化される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、こうしたガス交換装置が持つ利点にも関わらず、ガス交換率、製造の容易さ(特に、マルチチャネル及びマルチコンポーネントのマイクロ流体の場合)、及び動作効率を損なわずにサイズ全体を小型化することには限界がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様では、本開示はマイクロ流体ガス交換装置に関する。このマイクロ流体ガス交換装置は、1つ以上の交換モジュールを備える。交換モジュールの各々は、第1層と、第2層と、を備える。第1層は、1つ以上の第1入口と、第1入口に接続された第1毛管ネットワークと、第1毛管ネットワークに接続された1つ以上の第1出口と、を備える。第2層は、半透膜を備える。第1毛管ネットワークは、第1入口の少なくとも1つから径方向に外側に延びる。第1毛管ネットワークは、1つ以上の注入ブランチと、一連のマイクロチャネルと、を備える。1つ以上の注入ブランチは、流体の流れを一連のマイクロチャネルに分岐するように構成される。半透膜は、第1毛管ネットワークに接触し、流体のガス交換を可能にするように構成される。
【0010】
一般的な実施の形態では、半透膜の第1表面によって囲まれた第1層によって第1チェンバが形成される。この第1チェンバは、流体を輸送するように構成されてよい。流体の流れを一連のマイクロチャネルに分岐する1つ以上の注入ブランチが「ツリー構造」を生成する。このツリー構造により、圧力低下及びせん断応力を制御し、力を受けて壊れやすい流体内成分(タンパク質や細胞など)の、マイクロ流体装置内でのダメージを最小化又は低減することができる。
【0011】
本開示に係るマイクロ流体ガス交換装置は、半透膜との界面となる高効率な交換表面と最小の床面積を持つ。これにより、低い動作圧力で高いフローレートを実現することができる。マイクロ流体ガス交換装置はまた、1つ以上の交換モジュールを含んでもよい。この交換モジュールは、装置内を流れる流体及びガスのフローレート及び交換スループットを改善するために、並列的に動作してもよい。本開示に係る装置はまた、ユニークなデザイン特性を持つ。これは例えば、流体及び/又はガスを軸方向に分配するセンタリングして配置された入口であり、これにより半透膜との交換表面積が最大化される。さらに流体の流れを分岐し、交換表面積を増加させる毛管ネットワークは、一連のマイクロチャネルを含んでもよい。このマイクロチャネルは、所定の曲率を有してもよい。これによりマイクロチャネル密度が増し、装置の全床面積が最小化される。
【0012】
1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体ガス交換装置は、直列的又は並列的に動作する2つ以上の交換モジュールを含んでもよい。交換モジュールの並列配置は、各交換モジュールの入口を装置内に延びる共通の供給ラインに接続してもよく、さらに交換モジュールの出口を共通のドレインラインに接続してもよい。並列的に動作させることにより、高い交換効率を維持したまま、交換モジュールのスループットを向上することができる。
【0013】
1つ以上の実施の形態では、第1毛管ネットワークは、チャネル幅が変化する1つ以上の注入ブランチを含んでもよい。この注入ブランチは、流体の流れを一連のマイクロチャネルに徐々に分岐する。
【0014】
1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体ガス交換装置は、並列配置された一連のマイクロチャネルを有する毛管ネットワークを含んでもよい。並列配置により、半透膜との界面をなすマイクロチャネル密度が最大化される。
【0015】
1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体ガス交換装置は、並列配置された一連の曲がったマイクロチャネルを有する毛管ネットワークを含んでもよい。一連のマイクロチャネルの曲率を定義することにより、交換モジュールの全床面積を減らしつつ、装置内の流れの特性(圧力低下及び流れの均一性を含む)を制御することができる。いくつかの実施の形態では、曲がったマイクロチャネルの曲率は、マイクロ流体ガス交換装置内の全圧力が2Pa以下となるように選んでもよい。
【0016】
1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体ガス交換装置は、3層構造を含んでもよい。3層構造内の第3層は、1つ以上の第2入口と、1つ以上の第2出口と、を含む。第1チェンバを形成する表面と反対側の半透膜の第2表面によって囲まれた第2層によって、第2チェンバが形成されてもよい。この第2チェンバは、ガス又は流体を輸送するように構成されてもよい。
【0017】
いくつかの実施の形態では、第3層はまた、第1毛管ネットワークとは別の又は第1毛管ネットワークに対して補完的である第2毛管ネットワークを含んでもよい。いくつかの実施の形態では、第2毛管ネットワークは、2つ以上の同心マイクロチャネルを含むようにデザインされてもよい。同心マイクロチャネルは、第1毛管ネットワーク内の流体の流れを横断する流体又はガスの流れを生成するために使われてもよい。これにより交換効率が向上する。第2毛管ネットワーク内の第2入口及び第2出口はまた、装置内への流れを制御する1つ以上のマイクロチャネルを含んでもよい。
【0018】
1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体ガス交換装置は、様々なサイズに設計されてよい。例えば円のデザインは、直径が略10mmであってよい。いくつかの実施の形態では、マイクロ流体ガス交換装置の全交換表面積は、略0.0040m以上略0.0050m以下であってもよい。
【0019】
本明細書では「略」という用語は、各値に関してプラスマイナス10%以内の範囲内(例えば5%)にあることを意味する。
【0020】
1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体ガス交換装置は、同じ又は異なる材料から作られる1つ以上の層を含んでもよい。
【0021】
1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体ガス交換装置は、様々な医療行為において血液の酸素化のために使われる酸素化装置であってもよい。
【0022】
第2の態様では、本開示は、第1の態様のマイクロ流体ガス交換装置を用いて血液を酸素化する方法に関する。
【0023】
第3の態様では、本開示は、湿式接着を用いたマイクロ流体ガス交換装置の製造方法に関する。この方法は、第1層と第2層との組み合わせを生成するために、第1層を第2層に接着することにより交換モジュールを作成するステップを備える。第1層は、1つ以上の第1入口と、第1入口に接続された第1毛管ネットワークと、第1毛管ネットワークに接続された1つ以上の第1出口と、を備える。第1毛管ネットワークは、第1入口の少なくとも1つから径方向に外側に延びる。第1毛管ネットワークは、1つ以上の注入ブランチと、一連のマイクロチャネルと、を備える。1つ以上の注入ブランチは、流体の流れを一連のマイクロチャネルに分岐するように構成される。第2層は、半透膜を備える。半透膜は、第1毛管ネットワークに接触する。交換モジュールを作成するステップは、第1層又は第2層の少なくとも1つに溶媒混合液を供給するステップを備える。
【0024】
1つ以上の実施の形態では、本開示に係る方法は、第1層と第2層との組み合わせに第3層を接着するステップをさらに備え、第1層と第2層との組み合わせに第3層を接着するステップは、第3層又は第1層と第2層との組み合わせの少なくとも1つに溶媒混合液を供給するステップを備えてもよい。湿式接着法はまた、マルチモジュールデバイスを製造するために、交換モジュールを1つ以上の追加的な交換モジュールに接着するステップを備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1Aから1Cは、流体毛細管ネットワークの実施の形態を示す模式図である。
【0026】
図2】本開示の実施の形態に係る曲がった毛管ネットワークのデザインの模式図である。
【0027】
図3図3A及び3Bは、本開示の実施の形態に係るマイクロ流体装置のガス毛管ネットワークの模式図である。
【0028】
図4図4A及び3Bは、本開示の実施の形態に係る複数の交換モジュールを有するマイクロ流体装置の組み立てられた交換モジュールの模式図である。
【0029】
図5図5Aから5Dは、本開示の実施の形態に係る複数の交換モジュールを有するマイクロ流体装置の模式図である。
【0030】
図6図6Aから6Dは、本開示の実施の形態に係るマイクロ流体装置を製造するための湿式アセンブリのステップを示す図である。
【0031】
図7】フローレートを、本開示の実施の形態に係るマイクロ流体装置内の圧力の関数で表したグラフである。
【0032】
図8図8A及び8Bは、本開示の実施の形態に係る細胞培養及びニューロン培養のためのマイクロ流体装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
ある態様では、本開示の実施の形態は、フローレート、圧力低下、表面積-体積比率、交換レート及び充填容量などを含む様々な性能を調整するための、マイクロパターン化された毛管を用いたマイクロ流体交換装置の設計及び製造を目的とする。本開示に係るマイクロ流体装置は、マイクロチャネルのアレイにより形成され、広い交換面積を形成する第1チェンバを有する1つ以上の交換モジュールを含んでもよい。これらの交換モジュールは、半透膜で流入流体と接する。この半透膜はまた、第1チェンバ内の液体と様々な成分を交換するガス又は液体を含む第2チェンバと接する。別の態様では、本開示の実施の形態は、酸素、窒素、混合空気等を血液に混入させるためのマイクロ流体血液ガス交換装置を目的とする。
【0034】
本開示の実施の形態に係るマイクロ流体交換装置は、半透膜により隔てられた少なくとも2つのチェンバを含んでもよい。マイクロ流体交換装置内のチェンバは、液体(又はガス)の流れをマイクロチャネルに細分するマイクロ流体毛管ネットワークを含んでもよい。これらのマイクロ流体毛管ネットワークは、部分的には、半透膜の表面で形成される。流体を細かく分岐することによって、膜と接触する液体の全表面積が増し、膜の厚さ及び多孔性に応じて、ガス及び流体の、装置の反対側にあるガスや流体との間の交換レートが増す。
【0035】
1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体交換装置は、ほぼ均一な流れ及び流体力学的抵抗を与え、目標アプリケーションに対して広く適用可能な圧力調整ができるように構成されたマイクロチャネルの毛管ネットワークを含んでもよい。血液の酸素化のような多くのアプリケーションにおいて、現在の酸素化装置の限界のうち重要なものの1つは、フローレートである。患者の健康と利便性に関し、治療時間が適切とできるように、血液はガス交換装置内を十分速く流れる必要がある。体積流量はマイクロチャネルのサイズを大きくすることによって増加させることができる。しかしこれにより、膜表面からの拡散距離が増加し、交換効率が低下する。さらにフローレートが増加すると、せん断応力が増加する。これにより、取り扱われる流体、の成分がダメージを受ける(例えば、血液細胞の破壊やタンパク質の変性)可能性がある。
【0036】
マイクロ流体装置内のガス交換における別の要素は、膜との接触時間である。この場合、接触時間の増加は、ガス交換レートの増加を意味する。ガス交換に影響する別の設計要因は、交換膜の多孔性及び厚さである。膜により交換レートを速くすることができる。しかしその一方、膜は構造的安定性を低下させ、破裂を防ぐためにある程度の補助を必要とする。いくつかの実施の形態では、マイクロ流体装置は、最小充填容量を有してもよい。最小充填容量は、処理液体の容量が有限である多くのアプリケーション(特に、最小充填容量により、輸血等による血液供給の必要性を低減する血液酸素化アプリケーション)で有用である。
【0037】
マイクロチャネルに基づく人工肺内の酸素圧力(PO2B)のための簡単かつ1次の数学的モデルは、Potkay et al., Biomed. Microdevices, 2013, 15(3), 397-406により提案された。Potkayは、所定のチャネルの高さ及び距離に基づき、血液チャネル内の酸素圧力を評価する数学的モデルを提案している。Potkayのモデルは、システム内のガス交換を制御するパラメータ(これは、有効ガス交換面、血液を輸送するチャネルの高さ及び膜の厚さを含む)の数に着目する。その関係は式(1)に示される。ここで、Qは血流、Aはガス交換に利用可能な表面積、PO2B,iは血液出口内の分圧、PO2は血液供給内の酸素分圧、PO2は血液出口内の酸素分圧、SB,O2は試験対象の血液サンプル内における酸素拡散に対する平均有効抵抗を示す。
【数1】
【0038】
D,O2は、式(2)に示すように近似された、酸素拡散に対する有効抵抗である。ここでδはガス拡散膜の厚さ、PM,O2は酸素に対する膜の透過性、Hは血液チャネルの平均高さ、DB,O2は試験対象の血液サンプル内における酸素の有効拡散率である。
【数2】
【0039】
Potkayによって示された関係は、膜を通して流体が流れるマイクロ流体システム内でガス交換を促進するために、3つの重要なパラメータ、すなわち標準フローレート、充填容量及び有効交換表面が存在することを示す。人工肺の標準フローレートは、70%の酸素飽和入力から95%の酸素飽和出力を得るためことができる最大血流によって定義される。従って標準フローレートは、ガス交換と、人工肺の血液循環容量とから、簡単かつ直接的に測定することができる。標準フローレートは、チャネルの高さH及び膜厚δが小さいほど増加する。充填容量は、多孔性膜と接触する血液の全容量として定義される。この値は、酸素化効率を高めるために最大化される必要があり、H及びδの値が増加するとともに減少する。
【0040】
特定の実施の形態では、マイクロ流体交換装置は、交換表面積Aを最大化し、血液チャネルの高さH及び膜の厚さδを最小化してもよい。これらのパラメータの選択は、大きな血液チャネルネットワークを有するマイクロ流体装置(これは、大きな孔と、薄く、機械的に弱い膜を有する)の設計上の課題を生む。1つ以上の実施の形態では、本開示のに係る交換モジュールに関する設計基準は、Hの値が30μm、δの値が10μm、毛管の幅Wの値が350μmとして設定される。これらの値は、血液酸素化アプリケーションに関しては一般化される。しかしながら当業者は、式(1)及び(2)に示される関係を利用して、この技術の全般的な手法を他のアプリケーションに適用することができるだろう。
【0041】
本開示の実施の形態に係るマイクロ流体交換装置は、アプリケーションに応じて、前述の特徴のいくつかを考慮した様々な設計(フローレート、せん断応力、作動容積を含む)がなされてもよい。例えば、血液酸素化アプリケーションでは、交換デバイスは、生体模倣型及び生理学的の、血液のための実流路を与えてもよい。これにより、マイクロチャネル内のセルなどの流体成分にダメージを与えることなく、ミクロンスケールの拡散距離、高い比率の表面積-体積比、最小の充填容量などを用いて、極めて効率的なガス交換が実現される。
【0042】
1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体交換装置は、材料の複数の層によって形成された1つ以上の交換モジュールを含んでもよい。当該材料は、半透膜によって隔てられた2つのチェンバを含む基本構造を形成する。1つ以上のチェンバは、液体及び/又はガスを導いて半透膜に接触させる毛管ネットワークを含んでもよい。これにより、多孔性膜を通して、第2チェンバとの間の成分交換が可能となる。
【0043】
いくつかの実施の形態では、本開示に係るマイクロ流体交換装置は、円形のアーキテクチャを有してもよい。特に図1Aでは、交換モジュール100の流体輸送チェンバに統合された円形流体輸送チェンバの例が示される。円形流体輸送チェンバは、10cmの直径を持つ。動作中、流体は、1つ以上の第1入口108を通って、径方向に外側に延びる毛管ネットワークに導かれる。特に図1B及び1Cを参照すると、毛管ネットワークは、チャネル幅が変化する1つ以上の注入ブランチ104を含む。注入ブランチ104は、流体をマイクロチャネル106(これは曲がったマイクロチャネルを含む)に導く。本明細書では、「直列」「一連」とは2つ以上のマイクロチャネルの配置のことを指す。図1Aに戻ると、注入された流体は、一連のマイクロチャネル106から収集された後、1つ以上の第1出口110内でガス交換される。第1出口110は、留意帯を交換モジュールから排出する。1つ以上の実施の形態では、マイクロチャネル106は、流体を1つ以上の第1出口110に導く前に、共通ドレイン112に排出してもよい。
【0044】
本開示の実施の形態に係るマイクロ流体装置は、直列又は並列に配置された1つ以上の交換モジュールを含み、複数層ネットワークを形成してもよい。これにより交換レートと出力体積が増加する。本開示に係る交換モジュールは、床面積に対して大きな接触面積を持つような大きな容積を有してもよい。これにより交換効率が向上する。
【0045】
[毛管ネットワーク]
【0046】
一般に毛管ネットワークは、半透膜を通した、交換デバイスのチェンバ間における、ガス、液体及び/又は処理液体の成分の交換を最適化するように設計されてもよい。本開示に係る流体輸送チェンバは、流体の流れを段階的に分岐する機能を有する1つ以上の注入ブランチを含んでもよい。この注入ブランチは、力を受けて壊れやすい流体内成分(タンパク質や細胞など)の、マイクロ流体装置内でのダメージを最小化又は低減するために、圧力低下及びせん断応力を制御する。フローチャネルは、所望のアプリケーション、動作圧力、膜厚、交換される液体やガスの特性などに応じた機能を実現するサイズを持つように設計されてもよい。最適化は、毛管ネットワークの物理特性(例えば、チャネルの高さ、幅、長さ、曲率、数並びに1つ以上の入口、出口及び分岐点の配置など)を変更することにより実現されてもよい。
【0047】
1つ以上の実施の形態では、毛管ネットワーク構造は、(1)注入ブランチに関するMurrayの法則に基づき集中化した入口、(2)半透膜に接触する交換領域の表面積を増加させるために曲げられたマイクロチャネルネットワークに基づいてもよい。毛管ネットワークを注入ブランチとして構造化することにより、毛管内の流れを均一にし、接続部でのせん断応力を低減することができる。
【0048】
哺乳類の心血管系及び呼吸系における血管の幾何学的配置は、系の活動及び維持に必要な生体活動量を最小化するのに最適な配置となるように進化してきた。生体供給系の最も顕著な特徴は、その階層構造と血管の連続分裂(分岐)にある。これにより血管は、長さ及び直径の両方が小さくなる。親血管の直径と子血管の直径との間の関係は、最初にMurray, Proc. Nat. Acad. Sc., 1926, 12, 207で導かれた。この論文は、親血管の直径(d)と2つの子血管の直径(d1a及びd1b)との間の最適な関係が
【数3】
と表せることを開示している。これはMurrayの法則として知られる。
【0049】
1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体交換装置は、センタリングされた注入ブランチ構造を含んでもよい。これにより、流体は1つ以上の注入ブランチを通って径方向に流れ、マイクロチャネルの数は256以上となる。いくつかの実施の形態では、各円形注入ブランチの幅は、毛管の最小幅が200μmとなるように、Murrayの法則を基に選んでもよい。例えば、マイクロチャネル/毛管の幅を200μmに設定すると、W=d=200μm、d=316μm;d=453μm;d=921μm;d=1535μmのツリー構造においてN=5となる。
【0050】
本開示の実施の形態に係るフローチェンバはまた、ガス交換表面積を拡張するために、一連の曲がったマイクロチャネルを含んでもよい。1つ以上の実施の形態では、マイクロチャネルの曲率は、半径によって定義されてもよく、チャネル長を延長するために変化してもよい。例えば約17mmの曲率半径にすることにより、約24mmに相当する直線的なマイクロチャネルの長さを、同じ床面積のまま全体設計を変えることなく、35mmまで延長することができる。
【0051】
特に図2を参照すると、マイクロ流体装置の実施の形態が模式的に示される。ここでは、流体輸送チェンバ内のマイクロチャネルのマイクロパターンの設計パラメータが強調されている。ここで、aは毛管ネットワーク全体の半径、αは入口チャネルの半径、bは交換表面全体の半径、Rはマイクロチャネルの曲率半径である。直径4インチの円形交換モジュールの例では、マイクロチャネルの曲率半径Rは約17mm以上で、マイクロチャネルの長さは約24mm以上約35mm以下である。
【0052】
本開示の実施の形態に係るマイクロ流体交換装置はまた、圧力低下ΔPを制御するように設計されてもよい。これは、圧力の急激な変化に起因するせん断応力の増加による生体液内の成分破壊が問題となる生理学的アプリケーションの場合、特に有用である。いくつかの実施の形態では、ΔPは10.6kPa(80mmHg)以下であってよい。ΔPを制御するために、毛管ネットワークは、例えばマイクロパターニングを用いてフローチェンバのジオメトリを調整することにより、チャネルサイズの減少及び増加を制御してもよい。
【0053】
圧力低下ΔPは、毛管の長さLに比例する。さらにマイクロ流体装置内のΔPは、式(3)で近似することができる。ここでμはPa・s単位での流体粘性、Lはm単位でのチャネルの長さ、Wはm単位でのチャネルの幅、Hはチャネルの高さの3乗、Qはm/s単位での流体のフローレートである。
【数4】
【0054】
式(3)を使うことで、マイクロ流体装置の幾何学的パラメータを評価することができる。ある例では、直径4インチの円形交換モジュールで、マイクロチャネルの設計値がL=5.5cm、W=200μm、H=35μm、μ=0.0045Pa・s(人間の標準的な血液粘性)のとき、Q=0.5mL/分で、圧力低下ΔP=11.5kPa(86mmHg)が得られる。さらにΔPはWに反比例するので、Wを最大400μm(又は600μm)にまで変えることにより、ΔPを調整することもできる。
【0055】
式(3)では近似値だけが与えられるが、COMSOLmultiphysics(登録商標)を用いた流体シミュレーションにより同様の結果が得られる。このシミュレーションは、32個の直線状の毛管(これは、本開示の実施の形態に係る交換モジュールで使われる毛管と同じ長さを持つ)を有するフローチェンバをモデル化する。せん断応力τは、約4.5Paと見積もられる。これは、多くの生理学的アプリケーションで妥当な値である。シミュレーションは、2つのケース、すなわち「対称」配置のケースと、「非対称」配置のケースとで実行された。「対称」配置では、流体は対称的な注入ブランチを用いて出入りし、32個の直線状の毛管を通る。「非対称」配置では、流体は注入ブランチに入り、32個の直線状の毛管を通り、収集トラフに達する。小さいフローレートQ=0.016mL/分では、ΔPは、平均圧力4.12kPaの48.5%(すなわち、ΔP=2kPa(15mmHg))と見積もられる。より大きなフローレートQ=0.5mL/分では、ΔP=62.5kPa(468mmHg)と見積もられる。この結果を確認するためには、より大きなフローレートでのシミュレーションをCOMSOLを用いて実行する必要がある。結果を表1にまとめる。
【表1】
【0056】
これらの初期的発見によると、入口及び出口の両方にツリー構造を有する対称的構造では、曲がったマイクロチャネルの実効長が減少し、交換表面積の減少により酸素化フラックスが減少する。これに対し、入口に単一のツリー構造を有する非対称的構造では、対称的構造に比べ酸素交換の表面積が大きく、せん断応力及び圧力低下の増加は僅かである。従って、装置の床面積を最小化する目的では、非対称的デザインが好ましいだろう。
【0057】
1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体交換装置は、圧力低下を所定の範囲内に制御するように設計された1つ以上の交換モジュールを含んでもよい。例えば、タンパク質及び/又は生体液に関するアプリケーションでは、せん断応力による流体成分のダメージを避けるために、圧力低下ΔPは11.5kPa(86.2mmHg)未満に維持されてよい。例えば血液を扱うアプリケーションでは、細胞溶解その他のマイナス効果を避けるため、マイクロ流体装置は、血液を輸送するフローチェンバの動作時の圧力が、流体の受けるせん断応力が所定の閾値(例えば2Pa)以下となる条件を満たすように設計されてもよい。しかしながらアプリケーションによっては(特に流体の酸素化又はカーボネーションのようにせん断応力が重要でない場合は
)、毛管ネットワークは、圧力低下がそれより大きく又は小さくなるように設計されてもよい。
【0058】
本開示の実施の形態に係るマイクロ流体交換装置は、半透膜を通した透過レートが最大となるように、大きな交換表面積を有してもよい。直径4インチの円形ウェハ上に構成される装置の実施の形態では、半透膜と接触する表面積は、0.0045mm以上であってもよい。
【0059】
本開示の実施の形態に係る毛管ネットワーク内に存在するマイクロチャネルは、血管又は毛細血管に自然に見られるものと同じサイズ(血管の直径及び膜厚を含む)を有してもよい。1つ以上の実施の形態では、マイクロチャネルの直径又は幅は、最小値が0.5μm、1μm、5μmから選ばれてよく、最大値が10μm、50μm、100μmから選ばれてよい。これらの最小値及び最大値の候補から、任意の組み合わせが選ばれてもよい。1つ以上の実施の形態では、交換モジュールのチェンバを形成するために使われる組成層は、長方形、三角形、円、半球その他の幾何学的断面を有するマイクロチャネル壁を含むために、マイクロパターン化されてよい。
【0060】
1つ以上の実施の形態では、流体輸送チェンバは、円形又はほぼ円形であってもよい。いくつかの実施の形態では、流体輸送チェンバ及び/又は対応する交換モジュールは、直径2から10インチの円である。いくつかの実施の形態のデザインでは、直径4インチの単一層構造で、最大25mL/分のフローレートを実現する。これに対し既存のデザインでは、同じフローレートを実現するために、10層の多層構造を必要とする。
【0061】
4インチの円形デザインに関して、いくつかのパラメータの数を議論した。一方、所定のアプリケーションに関しては、ガス及び液体の交換効率及び/又はフローレートは、円形デザインの直径の増減を制御することにより制御されてよい。さらに本開示に係る実施の形態は、非円形デザインや、1交換モジュールが流体を入口から毛管ネットワークに向けて径方向に供給するように構成された複数の流体入口を有するデザインを含んでもよい。
【0062】
[ガスのための毛管ネットワーク]
【0063】
本開示に係るマイクロ流体交換装置は、反対側のチェンバに輸送された液体とのガス交換を促進するために、ガスを半透膜表面に輸送するように構成された1つ以上のチェンバを含んでもよい。1つ以上の実施の形態では、チェンバは、流入ガスをマイクロチャネル内に導く複数のマイクロチャネルを含むように設計されてよい。これらのマイクロチャネルにより方向性が与えられ、対応する流体毛管ネットワークとの相互作用が促進される。いくつかの実施の形態では、ガス輸送チェンバは、ガス(このガスは、半透膜によって隔てられた反対側のチェンバのガスト同じ(相補的)でも異なっていてもよい)を導くための毛管ネットワークを含んでもよい。マイクロ流体交換装置は、複数のポテンシャルガスソース(空気や、酸素、窒素、二酸化炭素などの精製ガス、混合ガスなどを含む)とともに動作するように構成されてもよい。
【0064】
特に図3A及び3Bには、ガス輸送のために構成された交換モジュール300のチェンバに統合されたガス毛管ネットワークの実施の形態が示される。ガスは、1つ以上の第1入口302を通して、1つ以上の第1出口304に導かれる。特に図3A及び3Bを参照すると、毛管ネットワークは、チャネル幅が変化する1つ以上のマイクロブランチを有する注入ツリー304を含んでもよい。このマイクロブランチは、フローを一連のマイクロチャネル306内に導く。いくつかの実施の形態では、1つ以上の第2入口302及び第3層の1つ以上の出口304の少なくとも1つは、1つ以上のマイクロチャネル308を備える。マイクロチャネル308は、ガス又は流体をマイクロチャネルのネットワークに導く。
【0065】
マイクロチャネルは、所望のアプリケーションに応じて機能するようなサイズを有してもよい。1つ以上の実施の形態では、交換モジュールは、直径が約10cmの円形の床面と、直径が約1cmの注入ツリー304と、を有してもよい。
【0066】
[半透膜]
【0067】
本開示の実施の形態に係るマイクロ流体交換装置は、隣のチェンバ内の媒質間でのガス及び/又は様々な物質の選択的交換を可能とする半透膜によって構成されてもよい。1つ以上の実施の形態では、アプリケーションに応じて、半透膜は、ガスから液体への交換又は液体からガスへの交換を行うように設計されてもよい。例えば半透膜は、ガスのみを透過し、マイクロ流体交換装置内の液体は実質的に透過しないように設計されてもよい。別の例では半透膜は、ある種のガス及び液体は透過するが、特定の基準(粒子の直径、イオン電荷、分子質量等)に応じて、別の種類の粒子は遮断してもよい。
【0068】
半透膜は、化学的特性(ポリマー組成、表面電荷、疎水性/親水性、化学的機能等)又は機械的特性(厚さ、多孔性等)を調整することにより、変わってもよい。ここで、膜を通した交換レートは、膜に接触する液体及び/又はガスの性質に依存する。本開示の実施の形態に係る半透膜を準備するには、既存の技術(例えば、スピンキャスティング、押し出し、3Dプリント等)を使ってよい。スピンキャスティングに関する実施の形態では、膜を生成するために、ポリマーの溶媒混合液が層内にキャストされてもよい。ここで膜を通した交換レートは、膜厚及び溶媒混合液内のポリマー濃縮により制御されてもよい。
【0069】
1つ以上の実施の形態では、半透膜の厚さは、最小値が5μm、7μm、10μm、20μmから選ばれてよく、最大値が12μm、15μm、25μm、30μmから選ばれてよい。これらの最小値及び最大値の候補から、任意の組み合わせが選ばれてもよい。このように複数の選択肢を示したが、特定のアプリケーションに応じて、膜厚はより厚いことも薄いこともある。
【0070】
[交換モジュール]
【0071】
本開示の実施の形態に係るマイクロ流体交換装置は、複数の機能層から形成された1つ以上の交換モジュールを含んでもよい。一般的な実施の形態では、交換モジュールは、半透膜によって隔てられた第1及び第2チェンバを形成する3層構造を有してもよい。第1チェンバは、半透膜によって閉じ込められた第1層によって形成されてもよく、流体を輸送するように構成されてもよい。同様に第2チェンバは、第2層によって形成されてもよく、第1チェンバを形成する面と反対側の半透膜の第2表面によって閉じ込められてもよく、ガス又は液体を輸送するように構成されてもよい。
【0072】
特に図4A及び4Bは、図1の輸送層を図3Aに示される半透膜及びガス交換層に組み合わせることによって形成した交換モジュールの実施の形態を上から見た模式図である。
交換モジュール400は、流体を入口402に注入し、選択された交換ガスを1つ以上のガス入口406に注入することによって動作する。ガス交換の後、処理対象の液体が1つ以上のドレイン404に収集され、交換されたガスが1つ以上のドレイン410を通って出る。特に図4Bには、第1及び第2の毛管ネットワークが垂直なフローを形成する3層構造408の実施の形態が示される。これにより、流体輸送層内の流体とガス交換層内のガスとの間の交換が改善される。
【0073】
1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体交換装置への流体の流れ及び交換モジュールは、重力、外部又は内部のポンプ、毛管の運動、及びこれらの組み合わせによって起動されてよい。
【0074】
[複数の交換モジュールを含む装置]
【0075】
単一の交換モジュールのデザインに加えて、拡張的な機能アレイを形成するために並列又は直列に配置された複数の交換モジュールを組み合わせることによって、より複雑なアーキテクチャが生成されてもよい。これにより、効率、体積スループット及びフローレートを改善することができる。1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体装置は、並列又は直列に単一装置に統合された1つ以上の交換モジュールを含んでもよい。本開示の実施の形態に係る交換モジュールは、共通の入口を共用するために、組み合わされてもよい。この共通入口を通って、流体は、同時に(又はほぼ同時に)複数の交換モジュールに導かれる。特に図5A及び5Bには、複数の交換モジュールを有するマイクロ流体ガス交換装置500の流体輸送面が示される。図5Aは、流体の流れ全体を示す模式図である。この中を、血液(又は流体)が、装置の中心に位置する共通入口502内に流れ込み、交換が行われた後、出口504のいずれかを通って出る。
【0076】
図5Bは、並列に配置された交換モジュールを有するマイクロ流体交換装置の断面図である。共通入口502は、層505及び507に入り込む。処理流体は、共通入口又はドレイン504内に収集された後、装置から排出される。特に図5C及び5Dには、複数の交換モジュールを有するマイクロ流体ガス交換装置のガス交換面が示される。特に図5Cには、ガスの流れ全体が模式的に示される。このガスは、1つ以上の入口506内に流れ込み、交換が行われた後、1つ以上の出口508を通って出る。図5Dは、流入ガスが1つ以上の入口506、層505及び507を通って流れ、その後1つ以上の出口508を通って出るプロセスの断面を示す。
【0077】
1つ以上の実施の形態では、血液酸素化を目的とするマイクロ流体装置は、並列配置された交換モジュールを含んでもよい。これにより、フローレートを1L/分以上に向上させることができる。例えば図1Aから1Cに示される直径4インチの交換モジュールは、1L/分のフローレートを実現するために、40個の交換モジュールを並列に積層した構造を持ってもよい。これは、従来のアプローチに比べ著しい改善を実現していることを示す。
【0078】
2つの2層交換モジュールを含む装置が示されるが、より多くの交換モジュールが含まれてもよい。さらにここで示される交換モジュールは、半透膜によって隔てられる2つの対向するチェンバを有するデザインを想起させるが、本開示の原理に従う別のデザインが採用されてもよい。例えば、2つの半透膜の間に流体又はガスチェンバが形成されるような交換モジュールが構成されてもよい。あるいは、2つの交換チェンバが、中心チェンバから、膜の反対側に形成されてもよい。
【0079】
[ポリマー材料]
【0080】
本開示の実施の形態に係るマイクロ流体交換装置は、少なくとも部分的には、1つ以上のポリマー材料から作られてもよい。本開示の実施の形態に係るポリマー材料は、シリコンモノマーから作られたポリマー及びコポリマーを含んでよい。このようなシリコンモノマーの例には、ジメチルシロキサン、ジメチルビニル末端ジメチルシロキサン、フェニルビニルメチルシロキサン、ビニルメチルシロキサン、スチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン等を含むアルファオレフィンのようなモノマーなどがある。1つ以上の実施の形態では、ポリマー材料は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のようなシロキサンポリマー、フロロシリコンポリマー、フッ化ポリビニリデン、ポリスチレン、スチレンエチレンブチレンスチレンブロックコポリマー(SEBS)、ポリカーボネート、ポリメチルアクリレート、アクリル酸2-メトキシエチル(PMEA)などのポリアクリレート及びポリメタアクリレート、環状オレフィンコポリマー、ポリスルホン、ポリウレタン、生分解性及び生体適合性材料、例えばポリ乳酸-グリコール酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリオクタエチレンマレイン(無水)クエン酸、ポリオクタンジオールセバシン酸、ポリジオールセバシン酸、シルクフィブロイン、ポリエステルアミド、ポリカプロラクトン等を含んでもよい。
【0081】
1つ以上の実施の形態では、ポリマー材料によって形成された表面は、装置内のチャネルの化学的特性を変化させるように機能してもよい(たとえば、処理流体又はガスに含まれる物質による変質に対する抵抗の改善、装置内の吸着種の成長を低減する分解性コーティング、表面化学及びその後の疎水性/親水性を変えるエネルギー的処理など)。流体ベースの生理的アプリケーションに特有な表面変更は、凝固を抑制するヘパリンのような表面係留混合物や、装置変タンパク質吸着を制御する疎水性/親水性の単一層を含んでよい。1つ以上の実施の形態では、チャネルの内面は、部分的に又は全体的に変更されてもよい。
【0082】
全体的なコンセプトを例示により説明するために、限られた数の実施の形態を示した。しかしデザインに関しては、様々な変形が可能である。例えば交換モジュールは、頂部及び底部にある2つの半透膜の間にガス交換層を配置し、各半透膜の上に流体輸送層を配置することにより形成されてもよい。このようにすると、単一のガス交換層が、2つの流体輸送層に接する。この交換モジュールの変形例はまた、複数交換モジュール装置を形成するために、組み合わされても(又は積層されても)よい。
【0083】
[マイクロ流体交換装置の製造]
【0084】
1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体交換装置の製造は、流体又はガスのための1つ以上のチェンバを形成するために、複数のレイヤを形成するステップを含んでもよい。本開示の実施の形態に係る装置の層は、ソフトリソグラフィ、フォトレジストリフトオフ、3Dプリンティング等の複数の技術を用いて設計されてもよい。マイクロ流体装置の成分層を形成した後、1つ以上の交換モジュールを形成するために、これらの層は接着される。
【0085】
1つ以上の実施の形態では、層間の接着は、乾式接着、湿式接着及びこれらの技術の組み合わせを用いて行われてよい。1つ以上の実施の形態では、マイクロ流体装置は、成分層を個別に製造し、その後、少なくとも1つの層を組み合わせるために、湿式製造法を用いて、交換モジュール又は一連の交換モジュールを形成する層を製造することにより作られてよい。いくつかの実施の形態では、より単純なチャネルデザインを有する層を接着するために、標準的な製造技術が使われてもよい。このとき乾式接着技術が使われる場合は、配置はそれほど重要でなく、配置誤差は許容可能な範囲にある。例えばガス輸送層が内部構造を持たない(又は僅かな内部構造しか持たない)ようなデザインでは、層を交換モジュールに組み合わせるために乾式接着が使われてもよい。一方、湿式接着は、流体輸送層を方向づけ、接着するために使われる。
【0086】
1つ以上の実施の形態では、本開示に係るマイクロ流体ガス交換装置は、「湿式接着技術」を用いて製造されてもよい。これにより、成分層は、硬化及び固定の前に組み立て及び調整される。湿式接着は、組み立て中における層の瞬間接着技術(例えば、プラズマアッシャ内の酸素プラズマ処理)と対比することができる。湿式接着は、隣接する層(特に大きな表面積を持つ)の間で対応する特性を合致させるために、マイクロパターン化した層を調整するのに有用である。例えば動作中のガス交換を促進及び向上するために、流体輸送層内のマイクロチャネルがガス輸送層内のチャネルに対して適切な向きを向くことを確実にするために、湿式接着が使われてよい。
【0087】
本開示の実施の形態に係る湿式接着は、一般に3つのステップ、すなわち、溶媒混合液を与えることにより成分を生成するステップと、成分を組み合わせるステップと、組み合わされた成分を硬化するステップと、を含む。成分を生成するステップでは、組み合わせる前に、全ての又は一部の成分に、成分同士を接着するために使われる溶媒混合液が与えられてもよい。溶媒混合液を用いた処理の後、成分を接触させることにより接着を開始する。混合液内で溶媒が蒸発するとともに、これは硬化し接着が形成される。溶媒の蒸発による硬化時間が経過すると、成分は硬化し調整及び整復される。このとき、成分界面で形成される最終乾燥の整合性は維持される。
【0088】
硬化するステップにおいて、組み合わされた成分は、溶媒混合液の溶媒成分を蒸発させるために一定時間加熱されてもよい。1つ以上の実施の形態では、組み合わされた成分は、溶媒の蒸発温度以上にまで加熱されてもよい。これは、硬化温度である60℃から70℃までの範囲を含む。いくつかの実施の形態では、硬化時間は0.5時間以上時間以下であってもよいが、溶媒混合液の溶媒の量及び種類に応じてそれより長くても短くてもよい。
【0089】
特に図6Aから6Cには、マイクロ流体ガス交換装置を製造するための、湿式接着の実施の形態が示される。先ず図6Aで、輸送層及び/又は半透膜の表面が溶媒混合液でコーティングされ、接着され、硬化を待つ状態にされる。特に図6Aで、PDMS層602が溶媒混合液604で処理される。この溶媒混合液604は、活性化PDMS層606を形成するために、ヘキサン内のPDMSの希薄ポリマー溶液を含む。図6Bに示される第1接着ステップでは、成分を接触させ、組み合わせた成分を成分及び溶媒混合液のポリマー混合物に適した時間及び温度(PDMS及びヘキサンの溶媒混合液の場合、2時間で60℃-70℃)でアニール/硬化することにより、活性化PDMS層606がPDMS膜608に接着される。図6Cに示される次のステップでは、第2PDMS層612が溶媒混合液でコーティングされ、組み立てられた成分610に接着される。特に図6Dでは、完全に組み立てられた交換モジュール614がアニールされ、最終的なマイクロ流体交換装置内での組み立てのために準備される。
【0090】
湿式接着に使われる溶媒混合液は、1つ以上の溶媒及び1つ以上のポリマーを含んでもよい。特定の理論に限定されることなく、溶媒混合液は、成分と溶液内のポリマーとの間の物理的架橋を促進することにより、組み立てられた成分間の接着及び接合を引き起こしてもよい。混合物内の溶媒が蒸発すると、境界面で架橋されたポリマーは、成分同士を結びつける安定な接着を生む。
【0091】
1つ以上の実施の形態では、溶媒混合液は、対応するポリマー成分を可溶化するのに適した任意の溶媒を含んでもよい。いくつかの実施の形態では、標準又は分枝C5-C20アルカンなどの疎水性溶媒、ベンゼン及びトルエンなどの芳香族化合物、ピリジン及びその誘導体などのヘテロ芳香族化合物、ジオキセタン及びテトラヒドロフランなどのヘテロ環、塩化メチレン、クロロホルム、1-2ジクロロエタン、イソブチルクロライドなどのハロゲン化溶媒、エチルアセテートなどのエステル、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド、メチルエチルケトンなどのケトン、ジメチルホルムアミドなどが使われてもよい。
【0092】
1つ以上の実施の形態では、溶媒混合液は、1つ以上の溶媒ポリマーを含んでもよい。溶媒混合液に含まれるポリマーは、ホモポリマー及び/又はコポリマーを含んでもよい。いくつかの実施の形態では、ポリマーは、組み立てられる成分の片方又は両方に使われるものと同じポリマーを含んでもよい。あるいはポリマーは別の種類のポリマーであってもよい。いくつかの実施の形態では、溶媒混合液に含まれるポリマーは、反応基を含むように変えられてもよい。これは、組み立てられる成分の少なくとも1つの表面と共有結合的に接合する。
【0093】
本開示の実施の形態に係る湿式接着は、大抵の種類のポリマーに適用できる。1つ以上の実施の形態では、溶媒混合液は、組み立てられる成分を構成するポリマーに対応するポリマを溶媒和することにより作られてもよい。いくつかの実施の形態では、溶媒混合液内のポリマーは、組み立てられる成分を構成するポリマーと同じでもよいし、異なっていてもよい。例えば各成分が別個のポリマーから構成される場合、溶媒混合液内のポリマーは、これらの別個のポリマーの中から選ばれてもよいし、これの混合であってもよいし、これらとは別の種類のポリマーであってもよい。
【0094】
製造される層が大きな表面積を持ち、隣接する層又は基板との間でマイクロパターンの精密な調整が必要な場合、湿式接着は特に有用である。例えばプラズマ活性接着などの乾式接着は層間を接触させる前に正確に調整しておくことが必要だが、湿式接着であれば硬化中にも層間を調整することが可能である。位置付けのための時間が長いほど、調整誤差と材料の廃棄を減らすことができる。これにより、より大きな表面積及び詳細なマイクロパターンを持つデザインの組み立てが可能となる。例えば湿式接着により、交換モジュールの製造中に、マイクロ流体ネットワークを次の層に向き付けることができる。
【0095】
1つ以上の実施の形態では、湿式接着は、複数層構造(例えば、マイクロ流体ガス交換装置のための交換モジュール)を生成するために使われてもよい。いくつかの実施の形態では、湿式接着は、直列又は並列に接続された2つ以上の交換モジュールを有する複数交換モジュール構造を構成するために使われてもよい。湿式接着は、本開示の実施の形態に係るマイクロ流体装置を構成するために使われてもよい。しかし湿式接着は、同じ材料から作られる他のタイプのマイクロ流体装置や、より大規模な構造を構成するための3Dプリンティングの材料を組み立てるために使われてもよい。
【0096】
[アプリケーション]
【0097】
本開示の実施の形態に係るマイクロ流体装置のアプリケーションは、ガスから液体(又は液体からガス)のガス交換装置(血液酸素化を含む)を含んでもよい。血液酸素化は可能なアプリケーションの1つだが、交換モジュールは、交換モジュール又は半透膜を設計するため使われる材料に適合する任意の液体の濃縮を扱うために変形されてもよい。例えば液体は、水又は任意の水をベースとする溶液、例えば細胞培養液、リンパ液、PBS緩衝液等を含んでもよい。
【0098】
マイクロ流体装置のアプリケーションは、微生物又は真核生物、哺乳類の細胞、ニューロン等の培養、オンチップデバイス上の器官、液体の窒素化、酸素化、炭素化等を目的とするものを含んでもよい。
【0099】
図8A及び8Bは、本開示の実施の形態に係る細胞培養及びニューロン培養のためのマイクロ流体装置の断面図である。図8A又は8Bに示される交換モジュールは、3層構造、すなわち、高さh(hは、例えば約15μm)の半透膜802によって隔てられた第1チャンバ及び第2チェンバ(801、803)を有する。より具体的には、第1チェンバ801は、半透膜802の第1表面によって囲まれた第1層によって形成され、ニューロン(図8A)又は内皮細胞(802b)を含む液体を輸送するように構成される。同様に、第2チェンバ803は、半透膜802の第2表面(これは第1表面の反対側にある)によって囲まれた第2層によって形成され、ガスを輸送するように構成される。半透膜802は、細胞やニューロン等のより長い培養に向き、培養が発生するマイクロ流体交換装置全体でのよりよい酸素化を実現する。このようなセル又はニューロンの培養に向くマイクロ流体ガス交換装置を製造するために、図6Aから6Dで説明した湿式接着法が使われてもよい。
【0100】
[例]
【0101】
[例1:湿式接着]
【0102】
この例では、交換モジュールは、湿式接着法を用いて作成される。この製造方法は、一般に(1)溶媒混合液を作るステップ、(2)1つ以上のモジュール成分を溶媒混合液でコーティングするステップ、(3)成分を組み合わせるステップ、(4)組み合わされた成分を硬化するステップで進行する。
【0103】
[溶媒混合液の作成]
【0104】
この例では、ポリジメチルシロキサン(PDMS)プレポリマーのヘキサン混合液が1:3の比率で作られる。その後溶媒混合液は、均質になるまで3分間撹拌される。さらにPDMSのヘキサン混合液が、質量比10:1で作られる。溶媒混合液は、半透膜の製造の他、湿式接着で使われてもよい。
【0105】
[半透膜の作成]
【0106】
半透膜を作成するために、1:3のPDMS:ヘキサン混合液が、2000rpmで回転、400rpm/秒で30秒間加速するCee200スピン(登録商標)(これは、BrewerScience、Rolla、MOから入手できる)を用いてシリコンウェハ上に沈殿された。これらのパラメータを用いて、約1μmのPDMSの薄層が得られた。スピンコースターの調整は、高分解能のスキャン電子顕微鏡を用いた試験サンプル断面の厚さ測定を基になされた。膜は60℃で1時間硬化された。PDMSの接着を低減するために、スピンコーティングの前に、シリコンウェハは、真空チェンバ内で60μLのトリクロロシラン(Sigma-Aldrich、StLouisMOから入手できる)でコーティングされた。
【0107】
[溶媒混合液による交換モジュール成分の作成]
【0108】
毛管ネットワークを含む第1のマイクロパターン化されたPDMS層は、溶媒混合液でコーティングされ、PDMS膜と接触した。その後、接着される成分が、オーブン内で60℃で1時間アニールされた。アニーリングのステップの間に溶媒は蒸発し、PDMSの薄層が、第1層と半透膜との間の界面に残った。これにより、空気と液体の間の強い結合が形成された。次に第2のPDMS層が溶媒混合液でコーティングされ、第1層と半透膜との組み合わせに組み入れられた。組み立てられた成分間でPDMSの薄層との架橋結合を形成するため、得られた3層デバイスはオーブン内に60℃で1時間置かれた。
【0109】
[例2:直径4インチのマイクロ流体交換装置の動作]
【0110】
次に、標準的な酸素プラズマ接着を用いて作成されたマイクロ流体ガス交換装置と、本開示の実施の形態に係る湿式接着を用いて作成されたマイクロ流体ガス交換装置との間の比較がなされた。対象となる装置は、頂部及び底部の毛管ネットワークのための相補的マイクロパターンを持つ4インチの装置である。
【0111】
以下の例では、毛管ネットワークでマイクロパターン化された流体輸送チェンバと、流体輸送チェンバ内でマイクロパターン化するための相補的デザインを持つガス交換チェンバとを有する完全な3層デバイスを用いてテストが行われた。装置は、例1に記載の湿式接着法を用いて組み立てられた。流体テストは、半透膜で隔てられた各チェンバ内に2種類の異なる液体ダイを注入することにより実行された。
【0112】
これら2つの方法の比較の結果、プラズマ接着により作成された装置では封止が適切でなく、低圧力でリークがあることが分かった。一方、湿式接着では、気密な装置が作成され、1バール以上でも、液体及びガス輸送チェンバで独立なフローレートが得られた。この例では、例1の方法で作成されたマイクロ流体ガス交換装置は、700ミリバールで最大24mL/分のフローレートを得ることができた。これは、装置の部品が確実に風刺されていることを示す。特に図7は、4インチの3層交換モジュールにおいて、フローレートを圧力の関数で表したグラフを示す。
【0113】
次に、256個の毛管を持ち、25ミクロンの厚さの半透膜を持つ図1Aのデザインの4インチのマイクロ流体交換装置が作成された。これを用いて豚の静脈血を用いた酸素化の一連の予備実験を行うことにより、同一の血液と空気の圧力レベルの研究がなされた。本開示の実施の形態に係るマイクロ流体ガス交換装置内の酸素化の前及び後に、ABL800Flex血液ガスシステムを用いて、豚の血液内の酸素圧力(PO)及び二酸化炭素圧力(PCO)が測定された。これにより、フローレートが10mL/分に近い満足すべき酸素化を実現することができた。
図1A-1B】
図1C
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8A
図8B