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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】切断多価多量体
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/08 20060101AFI20240220BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240220BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
C12P21/08 ZNA
C07K16/46
A61K39/395 D
A61K39/395 N
C12N15/13
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021532958
(86)(22)【出願日】2019-12-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 NL2019050880
(87)【国際公開番号】W WO2020141974
(87)【国際公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】62/786,806
(32)【優先日】2018-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510340757
【氏名又は名称】メルス ナムローゼ フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】コルネリス・アドリアーン・デ・クライフ
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-531588(JP,A)
【文献】特表2014-533249(JP,A)
【文献】特表2017-507944(JP,A)
【文献】特表2008-505605(JP,A)
【文献】Bacterial Pathogenesis Methods and Protocols, Chapter 21,Methods in Molecular Biology,Vol.1535, pp.319-329,<DOI 10.1007/978-1-4939-6673-8_21>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つのFabドメイン(Fab1、Fab2、Fab3)を含み、各々が、可変領域(VL)及び定常領域(CL)を含む共通軽鎖領域と対合されている可変領域(VH)及び定常領域(CH1)を含む重鎖領域を含み、Fab2及びFab3は、Fab2の重鎖可変領域及びFab3のCH1ドメインを接続するポリペプチドリンカーにより接続され、Fab1及びFab2は、Fab1の重鎖領域及びFab2の重鎖領域のC末端に存在する少なくとも2つのジスルフィド結合を含むヒンジにより対合されている、三価多量体の製造方法であって、
共通軽鎖可変領域及び未再構成重鎖可変領域をコードする核酸を含むトランスジェニック動物を、2つ以上の抗原で免疫化することと、
前記2つ以上の抗原に特異的に結合する、前記共通軽鎖可変領域及び再構成重鎖領域を含む、抗体のパネルを得ることと、
前記2つ以上の抗原に特異的に結合する、前記共通軽鎖可変領域及び3つの再構成重鎖領域をコードする、核酸を宿主細胞に組み込むことであって、前記再構成重鎖領域のうちの2つが、ジスルフィド架橋の形成により対合可能なCH1、CH2、及び/又はCH3ドメインを含む定常領域を含み、前記再構成重鎖領域のうちの2つがポリペプチドリンカーにより接続されている、組み込むことと、
前記宿主細胞を、前記共通軽鎖可変領域及び2つ以上の再構成重鎖領域を含む無傷の三価多量体発現するために培養することであって、前記再構成重鎖領域のうちの2つが、前記2つの再構成重鎖の各々の前記CH1とCH2ドメインとの間でジスルフィド架橋により対合される、培養することと、
前記無傷の三価多量体を、前記2つの再構成重鎖領域の各々から前記CH2及び/又はCH3領域を切断する酵素により処理し、前記2つの再構成重鎖領域のジスルフィド架橋による前記対合を維持して、前記三価多量体を形成することと、を含む、方法。
【請求項2】
CH1、CH2、及び/又はCH3ドメインを含む定常領域を含む、前記2つの重鎖領域が、相補的な修飾を含み、ヘテロ二量体化を促進する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記修飾が、免疫グロブリンCH2又はCH3領域にある、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記相補的な修飾が、孔修飾、静電修飾、又はDEKK修飾したノブを含む、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記2つの重鎖領域のうちの第1の重鎖領域が、前記2つの重鎖領域のうちの第2の重鎖領域の第2のCH3ドメインと二量体化する第1のCH3ドメインを含み、そのうちの前記第1のCH3は、351位及び366位又はそれに対応する位置にアミノ酸残基リジンを含み、そのうちの前記第2のCH3は、351位又はそれに対応する位置にアスパラギン酸のアミノ酸残基、及び368位又はそれに対応する位置にグルタミン酸のアミノ酸残基を含む、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記共通軽鎖可変領域が、その生殖細胞系列中の、再構成可変鎖核酸配列を含むトランスジェニックげっ歯類によってコードされる核酸から得られるか、それに由来するか、又はそれに基づく核酸によってコードされる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記共通軽鎖が、配列番号1の配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
Fab2及びFab3を接続する前記リンカーが、配列番号2~25のいずれか1つの配列を含み、又は前記配列番号2~25のいずれか1つと少なくとも約85%の同一性を有するポリペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
Fab2及びFab3を接続する前記リンカーが、配列番号2~25のいずれか1つの配列を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
Fab2及びFab3を接続する前記リンカーのアミノ酸配列が、天然に生じる配列を含む、又は天然に生じる配列に由来する配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記リンカーが、中央ヒンジ領域配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記リンカーが、上部及び下部ヒンジ配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記リンカーが、らせん形成配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記2つ以上の重鎖領域の前記可変領域が、異なるエピトープに特異的に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記多量体が、少なくとも2つの異なる抗原に結合する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記多量体が、3つの異なる抗原に結合する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記酵素をタグ付けし、前記酵素を抗タグ親和性カラムにより除去することによって、前記三価多量体を回収することを更に含む、請求項16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項17のいずれか一項に記載の方法によって製造された、又は得ることが可能な、三価多量体。
【請求項19】
請求項18に記載の三価多量体に組み立てることが可能なポリペプチドをコードする1つ以上の核酸配列を含む、細胞。
【請求項20】
請求項18に記載の三価多量体と、医薬的に許容される担体及び/又は希釈剤と、を含む、医薬組成物。
【請求項21】
医療上の適応症に罹患している対象の治療するための、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項22】
治療に使用するための、請求項18に記載の三価多量体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C末端でヒンジにより対合されている2つ以上の結合ドメインを有する多価多量体、及びこのような多価多量体の作製方法に関する。本発明は更に、2つ以上のエピトープ又は抗原に結合することが可能な多価多量体の構成ポリペプチドに関するものであり、このようなポリペプチドは、ジスルフィド架橋を含む共有結合により対合されている。
【背景技術】
【0002】
2つの抗原又は2つのエピトープに結合することが可能な二重特異性抗体などの多価抗体は、当該技術分野において既知である。このような多価結合タンパク質は、細胞融合、化学的コンジュゲーション、又は組換えDNA技術を含む様々な技術を使用して生成することができる。
【0003】
抗体は、典型的には、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を含む4つのタンパク質で構成される多量体であり、重鎖は可変ドメイン(VH)、及び3つの定常領域(CH1、CH2、CH3)で構成され、軽鎖は可変軽鎖ドメイン(VL)及び定常領域(CL)から構成される。典型的には、軽鎖は、非共有相互作用の影響を通じて、更にはジスルフィド結合により重鎖と対合する。2つの重鎖は、ヒンジ領域でジスルフィド結合により、及び2つのCH3ドメイン間の界面でのアミノ酸相互作用を通じて、対合する。VHとVLとの対合により、抗原結合ドメインを形成し、典型的には、可変性は、相補性決定領域又はCDRである、VH及びVLドメイン内の3つの表面ループ形成領域において見出される。
【0004】
2つの異なる抗原、又は同じ抗原内の2つの異なるエピトープに結合し得る、二重特異性抗体などの2つの異なる結合ドメインを有する抗体など、特定の多価フォーマットは、当該技術分野において既知である。このようなフォーマットでは、多価多量体が、1つの抗原を発現する正常な細胞を標的化することも、又はより低いレベルで1つの抗原を発現するこのような正常な細胞を標的化することもなく、腫瘍細胞などの2つの抗原又はエピトープを発現する細胞又は標的を選択的に標的化することを可能にする調整された結合の使用を可能にし得る。同様に、多価多量体上に、二重特異性抗体などの2つの異なる結合ドメインを有することにより、異なる抗原の結合が可能となり、それにより、当該多価多量体を使用して、単一細胞又は2つの相互作用する細胞上の阻害分子及び刺激分子の両方を標的化することができ、その結果、多価多量体の効力が高まる。多価フォーマットはまた、腫瘍にリダイレクトされ得る、例えば免疫調節細胞といった細胞をリダイレクトするために使用され得る。
【0005】
特定の多価抗体が当該技術分野において記載されてきたが、当該技術分野では、多価抗体フォーマットの効率的な製造を可能にし、一連の抗原に対するその結合ドメインを容易に作製及び効率的かつ安定的に多価多量体に変換でき、そして、CH2及び/又はCH3領域を含むFc領域を(部分的に若しくは全体的に)欠くフォーマットをはじめとする、多岐にわたる抗原及びエピトープに結合することが可能な、新たなフォーマット及び新たなリンカー及びそのようなフォーマットを製造するための方法論が必要とされている。
【0006】
F(ab’)2又はF(ab’)n(但し、n=2以上)フォーマットなどのFcを欠く多重特異性フォーマットを生成することにより、既存の多重特異性抗体に対して効果をもたらすことができる。例えば、免疫調節細胞の結合又はリダイレクティングが、このような細胞及び対象とする抗原を標的化することによって望まれ得る場合、このような標的部分上のFc構成要素の存在は、特定の用途に関して、効力に悪影響を及ぼすことがある。
【0007】
同様に、F(ab’)n多重特異的フォーマットは、固体腫瘍を浸潤する可能性のため、及び/又はこのような特徴により投与レジメンに効果を得ることができる短い半減期を提供するためになど、より小さいサイズが好ましい完全長フォーマットと比較して望ましい場合がある。重要なことに、異なる標的を有する3つ以上の結合ドメインを含有するF(ab’)nを遺伝子操作することは、従来から、時間がかかり、非効率的であり、及び/又はコストがかかっている。例えば、様々な方法を通じてF(ab’)2部分を生成することは当該技術分野において既知であり、治療用途のためのこのような部分の均質なバッチの大量生産をもたらすことが目標である場合、これらの各々には欠点がある。
【0008】
当該技術分野において既知のF(ab’)2を生成する1つの方法は、化学的手段によるものであった。Nisonoff及びRiversは、化学的な対合の製造を数十年前に採用した。Nisonoff A,Rivers MM(1961)Arch Biochem Biophys 93:460。その後、ホモ二官能性及びヘテロ二官能性化学試薬を使用する様々な方法が開発されてきた。今日まで、治療用多重特異的F(ab’)n候補の開発のためのアプローチとして効率的に又は実行可能に使用することができる化学的方法論は、このような化学的手段によって生じることがある時間、コスト、低量、及び不均一性により、存在しない。同様に、F(ab’)n部分の化学合成のこのような手段もまた、2つのFabドメインを対合する合成手段の使用によって不利であり、これによると、治療用途の使用に関する別個の懸念、及び製造の問題を引き起こす。
【0009】
例えば、F(ab’)2は、o-PDMを使用して作製することができる。抗体「A」のFab’断片をo-PDMと反応させることにより、ビシナルジチオールがo-PDM(R)と錯形成し、o-PDMに結合したSH基のうちの1つが、残っている遊離マレイミド基と結合する。Fab A-o-PDMを遊離Fab’「B」断片と反応させて、2つのFab間でチオエーテル結合を得る。これらの生成の合成手段に関連する困難性には、このような実体を均質になるまで精製することの困難性、並びに免疫原性及びインビボでの安定性の欠如につながる可能性があるヒト抗体のヒンジ領域の変更なしにこのような部分を構築することの困難性が含まれることに留意されたい。
【0010】
実際に、このような人工抗体は、2000年代中に生成され、化学的に対合されているFabを用いた臨床試験は、様々な種類の癌の治療に関して行われたが、この概念は、それらの実現可能性の欠如などにより、取り下げられたと見られる。
【0011】
F(ab’)2部分を生成する別の手段は、パパインなどの非特異的プロテアーゼによるIgGの部分的なタンパク質分解消化によっていた。このような酵素は、重鎖を対合するジスルフィド結合を含有する、IgG抗体のヒンジ領域を切断することができるばかりでなく、軽鎖と重鎖との間のジスルフィド結合の部位の下方も切断することができる。このような技術は、未消化のIgGの存在、過剰消化、及び再現性の欠如に悩まされている。このような非特異的プロテアーゼの使用はまた、完全長抗体の消化によってFcを切断することによる、F(ab’)2部分を生成する手段として採用されている。これらの技術ではまた、時間がかかり、IgG特異的な最適化及びプロテアーゼの阻害、又はそれらの分解を防止するためのFabの精製も必要とされている。更に、これらの消化は、過剰に消化された部分、不十分に消化された部分、及び切断部位に関して精度のない部分の異種集団につながり、研究及び治療用途のためのこのような部分の使用を非実用的にしてきた。上部ヒンジ領域のみが切断されるように、及び、切断される抗体の構造及び柔軟性に応じて生じることがある代替の部位で更に切断されないように、パパイン消化を制御することは困難であった。したがって、2つ以上の結合ドメインを有する多価抗体のパパインによる消化は、特定の用途には不十分であり、実行不可能である。同様に、ペプシンは、無傷のF(ab’)2を得ることを目標として、ヒンジ領域の下方で抗体を切断するために採用されている。ペプシンによる欠点は、パパインと同様であった。
【0012】
最近、酵素は、完全長の免疫グロブリンのFcから離れたFab部分を切断して、個々のFab部分又はF(ab’)2を生成することが可能であると文献に記載された。このような酵素は、アビディティ対親和性の差を評価すること、又は所与の多量体の分子量若しくは構成部分の組成を分析することをはじめとする、限定的な特性決定用途について記載されている。
【0013】
したがって、Fab領域(F(ab’)n)を対合又は架橋する天然(非化学的に合成された)ヒンジを有し、かつ効率的で均質に生成することができる、Fcの全て又は一部分を欠いている、切断多価多量体の製造のため、2つ以上のヒト可変領域及びリンカーを有する多価抗原結合多量体について新規で有用なフォーマットが必要とされている。抗原を標的化することが可能であり、治療用途に使用することが可能な、Fc領域を欠いている、切断多価多量体の生成が、本明細書に記載される。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、2つ以上の結合ドメインを含む多価多量体であって、各結合ドメインが、異なる抗原若しくはエピトープ又は同じ抗原若しくはエピトープに結合し、当該結合ドメインのうちの2つがヒンジ領域により対合され、多量体は、CH2又はCH3領域を含む定常ドメインを欠いている、多価多量体を対象とする。
【0015】
本発明は、ジスルフィド架橋を含むそれぞれのC末端又はその付近で対合されている2つのポリペプチドであって、当該ポリペプチドの各々が、可変領域を含み、各可変領域は、抗原上の同じ又は異なる、抗原又はエピトープに結合する、ポリペプチドを更に含む。当該結合ドメインは、好ましくは、可変領域と対合され、結合ドメイン、典型的にはVL-CLと対合されているVH-CH1Lを形成し、VL又はVHは、多量体の各結合ドメインにおいて共有されている共通鎖である。
【0016】
一実施形態では、多価多量体は、可変領域(VH1)の短いアームと、2つの可変領域(VH2及びVH3)を含む長いアームとを含む、3つ以上のヒト重鎖可変領域を含む。別の実施形態では、各重鎖は、scFvを含む。別の実施形態では、各重鎖領域は、CH1ドメインを含む。別の実施形態では、各重鎖可変領域は、共通軽鎖(VLc)と対合されている。別の実施形態では、共通軽鎖は、VL-CLを含む。別の実施形態では、共通軽鎖は、配列番号1の配列を含む。別の実施形態では、多量体の各重鎖は、共通可変領域(VHc)を含む。
【0017】
一実施形態では、可変領域、好ましくは重鎖可変領域のうちの2つは、可変領域及びCH1ドメインにより連結されている(図1中の破線線を参照のこと)。別の実施形態では、可変領域は、ポリペプチドリンカーにより連結されている。別の実施形態では、ポリペプチド上の可変領域を接続するリンカーは、配列番号2~25を含む群から選択される配列を含み、又は当該配列のうちの1つと少なくとも約85%の同一性を有するポリペプチドを含む。別の実施形態では、リンカーは、短い、長い、帯電している、剛性である、又は柔軟性である。別の実施形態では、リンカーのアミノ酸配列は、天然に生じる配列を含む、又は天然に生じる配列に由来する配列を含む。別の実施形態では、リンカーは、中央ヒンジ領域配列を含む。別の実施形態では、リンカーは、上部及び下部ヒンジ配列を含む。別の実施形態では、リンカーは、らせん形成配列を含む。
【0018】
別の実施形態では、2つ以上の当該重鎖可変領域のうちの2つは、それぞれのC末端又はその付近で互いに対合(二量体化)され、好ましくは2つ以上のジスルフィド架橋を含み、当該ジスルフィド架橋は、CH1とCH2領域との間に存在する天然IgG抗体のジスルフィド架橋と同じ、又は実質的に同じである。ヒンジジスルフィド結合の数は、免疫グロブリンのサブクラスのうちで変化し、これらの各々は、本明細書に記載の本発明に包含されることが理解される(Papadea and Check1989)。
【0019】
一実施形態では、多量体の各可変領域は、異なるエピトープに特異的に結合する。
【0020】
別の実施形態では、多価多量体は、少なくとも2つの異なる抗原に結合する。
【0021】
本発明はまた、多価多量体の製造方法であって、
2つ以上の標的に特異的に結合する、共通軽可変領域及び再構成重鎖を含む、抗体のパネルを得ることと、
共通軽鎖可変領域及び2つ以上の再構成重鎖をコードする核酸を宿主細胞に組み込むことであって、当該再構成重鎖のうちの2つが、対合可能なCH1、CH2、及び/又はCH3ドメインを含む定常領域を含む、組み込むことと、
宿主細胞を、共通軽鎖及び2つ以上の再構成重鎖を含む無傷の多価多量体の発現をもたらす条件下で培養することであって、当該再構成重鎖のうちの2つが、当該2つの再構成重鎖の各々のCH1とCH2ドメインとの間で対合される、培養することと、
無傷の多価多量体を、当該2つの再構成重鎖の各々からCH2及び/又はCH3領域を切断する酵素により処理し、当該2つの再構成重鎖の対合を維持して、多価多量体を形成することと、を含む、方法を対象とする。
【0022】
本明細書に開示される別の実施形態では、抗体のパネルは、共通軽鎖可変領域及び未再構成重鎖可変領域をコードする核酸を含むトランスジェニック動物を、標的で免疫化することによって得られる。
【0023】
本明細書に開示される別の実施形態では、対合は、2つ以上のジスルフィド架橋によっている。
【0024】
一実施形態では、CH1、CH2及び/又はCH3ドメインを含む2つの当該再構成重鎖の重鎖定常領域は、ヘテロ二量体化を促進する修飾を含む。別の実施形態では、修飾は、免疫グロブリンCH2又はCH3領域にある。別の実施形態では、修飾は、それぞれの2つの重鎖に対して、孔修飾、静電修飾、又はDEKK修飾したノブである。別の実施形態では、宿主細胞によって発現された多量体は、第2のCH3ドメインと二量体化する第1のCH3ドメインを含み、EU付番に従い、第1の方は、351位及び366位又はそれに対応する位置にアミノ酸残基リジンを含み、第2の方は、351位又はそれに対応する位置にアスパラギン酸のアミノ酸残基、及び368位又はそれに対応する位置にグルタミン酸のアミノ酸残基を含む。
【0025】
別の実施形態では、宿主細胞には、異なる抗原に結合することが可能な2つ以上の異なる軽鎖可変領域をコードする核酸が組み込まれ、2つ以上の重鎖可変領域は共通であり、それにより、多重特異的多量体の、2つ以上の抗原又はエピトープに結合する能力には、軽鎖可変領域の異なる結合特異性が寄与する。
【0026】
一実施形態では、共通可変領域は、再構成可変鎖をコードする生殖細胞系列中の核酸を含む、トランスジェニック動物、好ましくはげっ歯類によってコードされる核酸から得られたか又はそれに基づく核酸によってコードされる核酸によって、コードされる。
【0027】
一実施形態では、方法は、多価多量体を回収することを更に含む。
【0028】
一実施形態では、当該2つの重鎖のCH2及び/又はCH3ドメインを切断する酵素は、親和性クロマトグラフィーによって取り出すことができるようにタグ付けされ、次いで、酵素、多価多量体、及び定常ドメイン断片の混合物が精製される。更なる実施形態では、酵素は帯電しており、それにより、多価多量体と切断された定常ドメインとの混合物から、電荷に基づくクロマトグラフィーにより取り出すことができる。
【0029】
本発明はまた、本発明の方法によって製造された、又は得ることが可能な、多価多量体を対象とする。
【0030】
本発明はまた、本発明の多価多量体に組み立てることが可能な、ポリペプチドをコードする核酸を含む細胞を対象とする。
【0031】
本発明はまた、本発明の多価多量体と、医薬的に許容される担体及び/又は希釈剤とを含む、医薬組成物を対象とする。
【0032】
本発明はまた、医療上の適応症に罹患している対象の治療方法であって、治療有効量の、本発明の多価多量体を対象に投与することを含む、方法を対象とする。
【0033】
本発明はまた、治療に使用するための、本発明の多価多量体を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1a】上述の多価多量体の例示的なフォーマットを示している。
図1b】本明細書に開示される本発明の例示的なフォーマットを示している。本明細書に開示される本発明の多価多量体は、2つ以上のジスルフィド架橋によりそれぞれのC末端で対合されている2つのポリペプチドを含む。
図2a】還元及び非還元条件下でのIgG、Fab、F(ab’)2のSDS-PAGE分析である。
図2b】還元及び非還元条件下でのIgG、Fab、F(ab’)2のSDS-PAGE分析である。
図2c】還元及び非還元条件下でのIgG、Fab、F(ab’)2のSDS-PAGE分析である。
図2d】還元及び非還元条件下でのIgG、Fab、F(ab’)2のSDS-PAGE分析である。
図2e】還元及び非還元条件下でのIgG、Fab、F(ab’)2のSDS-PAGE分析である。
図3】本明細書に開示される方法によって生成された二重特異性F(ab’)2の効力を実証する、ヘレグリン依存性MCF-7増殖アッセイである。
図4a】共通軽鎖、異なる抗原に結合することが可能な3つの別個の再構成重鎖を含む、先に開示された例示的な多重特異的フォーマットを示しており、当該別個の重鎖のうちの2つは、DEKKヘテロ二量体化により対合されている。参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2019/190327号を参照する。
図4b】本明細書に開示される本発明の例示的な多価多量体を示しており、4b1ではF(ab’)3を含み、2つの重鎖が、2つのジスルフィド架橋によりそれぞれのC末端で対合されている。また、4b2では2Fab’が示されており(重鎖を対合するジスルフィド架橋が切断され、2つのFabが本明細書に記載のリンカーによって接続されている)、4b3ではFabが示されている。本明細書に記載のように、2Fab’及びFabは、三価多量体が、それぞれの重鎖ごとにCH1とCH2との間の領域で切断されるときに製造される。この図は限定的ではなく、追加の結合ドメインが、VL又はVH領域のいずれかのN末端領域にリンカーを追加し、同族ドメインと対合して追加の結合ドメインを形成することが可能なCH1-VH又はCL-VLドメインを接続することによって、ベースF(ab’)2部分にモジュール式フォーマット中で追加され得る。
図5a】還元及び非還元条件下での三価IgG分子のSDS-PAGE分析であり、IgG、Fab、F(ab’)3多量体の順調な製造を示している。
図5b】還元及び非還元条件下での三価IgG分子のSDS-PAGE分析であり、IgG、Fab、F(ab’)3多量体の順調な製造を示している。
図5c】還元及び非還元条件下での三価IgG分子のSDS-PAGE分析であり、IgG、Fab、F(ab’)3多量体の順調な製造を示している。
図5d】還元及び非還元条件下での三価IgG分子のSDS-PAGE分析であり、IgG、Fab、F(ab’)3多量体の順調な製造を示している。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、2つ以上の可変領域を含む多価多量体のための新規でモジュール式のフォーマットであって、可変領域のうちの2つが、それぞれのC末端で、当該可変領域を天然IgG抗体におけるように対合する2つ以上のジスルフィド架橋を含み、当該多価多量体は、2つ以上の異なる抗原又はエピトープに結合することが可能な、フォーマットに基づくものである。当該多価多量体は、抗体Fc領域(CH2ドメイン及び/又はCH3ドメインを含む)を欠いており、また、当該多価多量体がF(ab’)n(但し、n=2以上)を含むように、製造することができる。
【0036】
本明細書に記載のF(ab’)2又はF(ab’)nを含む多価多量体は、同じ抗原又は異なる抗原に結合することができ、IgGのペプシン消化後に得られたFab’断片の還元及び再酸化によっては得られず、むしろ、DEKK遺伝子操作後にジスルフィド架橋によってF(ab’)nポリペプチドを接続する天然ヒンジを無傷で完全に残す、Fcの酵素切断をはじめとする、ヘテロ二量体化対合後に得られるので、これらの多価多量体は、従来のF(ab’)2などの典型的な抗体断片とは異なる。これらの多価多量体は、任意選択的に、各結合ドメインにおいて共通鎖(重鎖又は軽鎖のいずれか)を含み、リンカーを使用して、2つ以上の当該結合ドメインを結合させる。
【0037】
これらの多価多量体は、より短い半減期という潜在的利点を有し、これは、体内での蓄積が少なくなることに関連する場合があり、それにより、それらの分解産物から生じ得るリスクを低減することができ、また、抗体濃度に対する迅速な調節は、例えば、治療用多価多量体が臨床的効力を有するが、身体からの迅速なクリアランスを必要とする場合、有益な場合がある。また、多価多量体は、(scFv)2、ジ-scFv、及びダイアボディ部分などの結合ドメインを対合するための合成成分を含有する、無傷の抗体又は抗体結合断片よりも、免疫原性が低い場合がある。F(ab’)n部分の本明細書に開示される発明は、新規で容易に製造可能なものであり、Fabなどの各結合ドメインにおいて共通鎖を有しており、安定性を増すCH1/CL対合を含むと共に、リンカーにより2つ以上のFabを接続しており、当該リンカーは、好ましくは、本明細書に記載の方法において使用されるタンパク質分解酵素によって認識されるモチーフを含まない。
【0038】
定義
「抗体」は、抗原上のエピトープに結合する1つ以上のドメインを含有するタンパク質の免疫グロブリンクラスに属するタンパク質分子を意味し、このようなドメインは、抗体の可変領域に由来するか又はそれとの配列相同性を共有する。抗体結合は、特異性及び親和性を含む異なる性質を有する。特異性は、どの抗原又はそのエピトープが結合ドメインによって特異的に結合されているかを判定する。親和性は、特定の抗原又はエピトープへの結合の強度についての尺度である。本明細書では、抗体の「特異性」は、特定の抗原に対するその選択性を指し、「親和性」は、抗体の抗原結合部位とそれが結合するエピトープとの間の相互作用の強度を指すことに注意しておくとよい。
【0039】
したがって、本明細書で使用するとき、「結合特異性」は、個々の抗体結合部位の、抗原決定基と反応する能力を指す。典型的には、本発明の多量体の結合部位は、Fabドメインに位置し、重鎖及び/又は軽鎖の超可変領域から構築される。
【0040】
「親和性」は、単一抗原結合部位とその抗原との間の相互作用の強度である。本発明の多量体の抗原に対する単一抗原結合部位は、解離定数(KD)で表すことができる。典型的には、治療用途のための抗体は、最大1×1010M又は更により高い親和性を有し得る。
【0041】
「抗原」は、宿主生物において(抗体を産生するために)免疫応答を誘導することが可能である、及び/又は抗体によって標的化されることが可能である分子である。分子レベルにおいて、抗原は、抗体の抗原結合部位によって結合される能力を特徴とする。また、抗原の混合物も「抗原」とみなすことができ、すなわち、当業者であれば、場合により、腫瘍細胞の溶解物、又はウイルス粒子が「抗原」として示されてもよく、その一方で、このような腫瘍細胞溶解物又はウイルス粒子の調製物は、多くの抗原決定基(例えばエピトープ)を含むことについて認識するであろう。抗原は、少なくとも1つ、但し多くの場合、より多くのエピトープを含む。
【0042】
「エピトープ」又は「抗原決定基」は、免疫グロブリン又は抗体が特異的に結合する抗原上の部位である。エピトープは、タンパク質の3次フォールディングによって並置された連続アミノ酸又は非連続アミノ酸から形成することができる(それぞれ、いわゆる直鎖及び立体構造エピトープ)。連続的な直鎖アミノ酸から形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒に曝露された際に保持される一方で、3次フォールディングにより形成されたエピトープでは、その構造が、典型的には、変性溶媒により処理された際に失われる。エピトープは、典型的には、固有の空間的コンフォメーションにおいて3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15個のアミノ酸を含んでもよい。
【0043】
用語「重鎖」又は「免疫グロブリン重鎖」は、任意の生物由来の免疫グロブリン重鎖定常領域配列(又はその機能的断片)を含み、特に明記されない限り、重鎖可変ドメイン(又はその機能的断片)を含む。用語「重鎖可変ドメイン」は、特に明記されない限り、3つの重鎖CDR及び4つのフレームワーク(FR)領域を含む。重鎖の断片としては、CDR及びFR、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。典型的な重鎖は、(N末端からC末端まで)、可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを有する。重鎖の機能的断片は、抗原を特異的に認識することが可能な、少なくとも1つのCDRを含む断片を含む。本発明で使用することができる軽鎖としては、例えば、同族軽鎖によって選択的に結合されたエピトープに選択的に結合しないものが挙げられる。
【0044】
用語「軽鎖」又は「免疫グロブリン軽鎖」は、任意の生物由来の、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン、又はV(又はその機能的断片)、及び免疫グロブリン定常ドメイン、又はC(又はその機能的断片)配列を含む。特に明記されない限り、用語「軽鎖」は、ヒトのカッパ、ラムダ、及びこれらの組み合わせから選択される軽鎖を含み得る。軽鎖可変(V)ドメインは、典型的には、特に明記されない限り、3つの軽鎖CDR及び4つのフレームワーク(FR)領域を含む。概して、全長軽鎖は、N末端からC末端まで、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を含むVドメイン、及び軽鎖定常ドメインを含む。本発明で使用することができる軽鎖としては、同族重鎖によって選択的に結合されたエピトープに選択的に結合しないものが挙げられる。
【0045】
多価多量体の発明に使用するのに好適な軽鎖には、既存の抗体ライブラリ(ウェットライブラリ又はin silico)で最も一般的に採用されている軽鎖をスクリーニングすることにより特定できるものなどの共通軽鎖が含まれ、当該軽鎖は、重鎖のエピトープ結合ドメインの親和性及び/又は選択性を実質的に阻害しないばかりでなく、一連の重鎖と対合するのにも好適である。例えば、好適な軽鎖は、そのゲノムに組み込まれた共通軽鎖を含むトランスジェニックげっ歯類などのトランスジェニック動物由来のものを含み、これは、抗原への曝露時に重鎖に多様性を有する共通軽鎖抗体の大きなパネルを生成するために使用することができる。多価多量体の発明に使用するのに好適な重鎖は、同様に共通重鎖を含んでもよい。
【0046】
本発明による用語「共通軽鎖」は、同一であっても、又はいくつかのアミノ酸配列の相違を有してもよい軽鎖であって、本発明の多量体の結合特異性が影響を受けない、すなわち、その相違は機能的結合領域の形成に実質的に影響を与えない、軽鎖を指す。
【0047】
例えば、本明細書において使用される共通鎖の定義の範囲内で、同一ではないがなお機能的に同等である可変鎖を調製又は発見することが可能である(例えば、保存的アミノ酸変化、同族鎖と対合する場合に結合特異性に寄与しないか、又は部分的にのみ寄与する領域におけるアミノ酸の変化などを導入及び試験することにより)。したがって、このような変異体は、異なる同族鎖を結合し、機能的抗原結合ドメインを形成することも可能である。したがって、本明細書で使用するとき、用語「共通軽鎖」は、同一であっても、又はいくつかのアミノ酸配列の相違を有してもよく、重鎖との対合後に得られた抗体の結合特異性を保持する、軽鎖を指す。特定の共通軽鎖とこのような機能的に同等である変異体との組み合わせは、用語「共通軽鎖」に包含される。
【0048】
用語「天然ヒンジ領域」は、免疫グロブリンクラスの重鎖の中央部分における非修飾の柔軟性ドメイン間領域であって、これらの2つの鎖をジスルフィド結合によって連結する、領域を指す。
【0049】
ヒンジ領域は、免疫グロブリンクラスの重鎖の中央部分(すなわち、FabをFcに接続する部分)における柔軟性アミノ酸伸張であり、これらの2つの重鎖をジスルフィド結合により対合する。これは、システイン及びプロリンアミノ酸が豊富であり、任意の他の免疫グロブリン領域とほとんど類似しない。
【0050】
「Fabドメイン」は、可変領域を含む結合ドメイン、典型的には、対合されている重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む結合ドメインを意味する。Fabドメインは、定常軽ドメイン(CL)及びVLドメインと対合されているCH1及びVHドメインを含む、定常領域ドメインを含み得る。このような対合は、例えば、CH1ドメイン及びCLドメインにおいてジスルフィド架橋による共有結合として行ってもよい。
【0051】
「修飾Fabドメイン」は、CH1及びVHドメインを含む結合ドメインを意味し、VHはVLドメインと対合されており、CLドメインは存在しない。あるいは、修飾Fabドメインは、CLドメイン及びVLドメインを含む結合ドメインであり、VLはVHドメインと対合されており、CH1ドメインは存在しない。CH1又はCL領域が対合されていない形態で存在し得るように、疎水性の領域の長さを除去又は低減することが必要であり得る。一本鎖抗体を自然に発現する動物の種、例えば、ラマ若しくはラクダなどのラクダ科動物、又はサメ由来のCH1領域を使用してもよい。修飾Fabドメインの他の例としては、定常領域、CH1又はCLであって、その同族領域及び/又は可変領域が対合されておらず、及び/又は可変領域VH若しくはVLが存在し、それはその同族領域と対合するものではないものが挙げられる。
【0052】
本明細書で使用するとき、「無傷の」抗体は、抗原結合部位並びにCL及び少なくとも重鎖定常ドメイン、CH1、CH2、及びCH3を含むものである。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)であっても、そのアミノ酸配列変異体であってもよい。
【0053】
用語「組換え宿主細胞」又は「宿主細胞」は、外来性DNAが導入された細胞を指す。このような用語は、特定の対象細胞を指すばかりでなく、このような細胞の子孫を指す。特定の修飾が、変異又は環境の影響のいずれかにより後続世代で生じ得るので、このような子孫は、実際には親細胞と同一ではないが、本明細書で使用するとき、用語「宿主細胞」の範囲内になお含まれる。一実施形態では、宿主細胞としては、原核細胞及び真核細胞が挙げられる。一実施形態では、真核細胞としては、原生生物細胞、真菌細胞、植物細胞、及び動物細胞が挙げられる。別の実施形態では、宿主細胞としては、原核細胞株、大腸菌;哺乳類細胞株、CHO、HEK293、COS、NS0、SP2、及びPER.C6;昆虫細胞株、Sf9;並びに真菌細胞サッカロマイセス・セレビシエ(出芽酵母)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
本明細書で使用するとき、用語「免疫エフェクター細胞」又は「エフェクター細胞」は、標的細胞の生存力に影響を及ぼすように活性化され得る、哺乳類免疫系内の細胞の自然なレパートリー内の細胞を指す。免疫エフェクター細胞は、リンパ系細胞、例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、細胞傷害性T細胞を含むT細胞、又はB細胞を含むが、骨髄系細胞もまた、免疫エフェクター細胞、例えば、単球又はマクロファージ、樹状細胞、及び好中球顆粒球とみなすことができる。好ましいエフェクター細胞としては、NK細胞、T細胞、B細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、又は好中球顆粒球が挙げられる。
【0055】
本明細書において、核酸又はアミノ酸配列について言及する場合、「パーセント(%)同一性」は、最適な比較目的のために配列をアラインメントした後、選択された配列中の残基と同一である候補配列中の残基の百分率として定義される。核酸配列を比較する配列同一性パーセントは、デフォルト設定を使用して、Vector NTI Program Advance10.5.2ソフトウェアのAlignXアプリケーションを使用し、修正ClustalWアルゴリズム(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.,and Gibson T.J.(1994)Nuc.Acid Res.22:4673-4680)、swgapdnarntスコアマトリックス、15のギャップオープンペナルティ、及び6.66のギャップ伸長ペナルティを採用して決定される。アミノ酸配列は、デフォルト設定を使用して、Vector NTI Program Advance11.5.2ソフトウェアのAlignXアプリケーションを使用し、れは、修正ClustalWアルゴリズム(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.,and Gibson T.J.1994)、blosum62mt2スコアマトリックス、10のギャップオープンペナルティ、及び0.1のギャップ伸長ペナルティを採用して、アライメントされる。
【0056】
本明細書において、用語「接続された」は、一次アミノ酸配列においてペプチド結合によって互いに接合されているドメインを指す。例えば、VH-CH1-CH2-CH3を含む可変領域部分の重鎖は、追加の結合ドメインVH-CH1(又はある追加の結合ドメインに対する、ある追加の結合ドメイン)の重鎖に、リンカーにより接続され得(CH1で追加の結合ドメインの重鎖を可変領域部分のVH領域に接続する)、これは一緒に1つのポリペプチド鎖を構成する。同様に、CH1ドメインは、可変重領域に接続されてもよく、CLドメインは可変軽領域に接続されてもよい。用語「リンカー」は、2つのポリペプチドを連結するために使用される、アミノ酸残基、又はペプチド結合により接合された2つ以上のアミノ酸残基を含むポリペプチドを意味する。
【0057】
「対合」は、本発明の多価多量体を構成するポリペプチド間での、それらが多量体化することができるような相互作用を指す。例えば、追加の結合ドメインは、軽鎖領域(VL-CL)と対合された重鎖領域(VH-CH1)を含んでもよく、CH1及びCLは対合して当該結合ドメインを形成する。同様に、可変領域CH1、CH2、及び/又はCH3ドメインを各々が含む、2つの重鎖ポリペプチドは、IgG1(又は、例えば、IgG3におけるように、より多くのジスルフィド結合)の場合に起きるように、2つ以上のジスルフィド結合形成により、各ポリペプチドの対応するCH1ドメインとCH2ドメインとの間で一緒に対合されてもよい。2つの重鎖ポリペプチドは、CH3ドメインで更に対合されてもよい。本明細書に記載のように、抗体ドメイン(例えば、重鎖及び軽鎖)の対合は、非共有相互作用により、またジスルフィド結合により更に生じ得、本明細書に開示される技術及び当該技術分野において既知の方法によって遺伝子操作することができる。
【0058】
本明細書及び添付の特許請求の範囲を通じて、「含む(comprise)」、「含む(include)」、及び「有する(having)」という単語、並びに「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」などの変形は、包括的に解釈されるべきである。すなわち、これらの単語は、文脈によって許される場合、具体的に列挙されていない他の要素又は整数の可能な包含を伝えることを意図している。
【0059】
冠詞「a」及び「an」は、本明細書では、2つ以上の(すなわち、1つ又は少なくとも1つ)文法的対象の物品を指すために使用される。一例として、「要素」は、1つの要素又は2つ以上の要素を意味し得る。
【0060】
多価多量体の異なるフォーマット
本発明は、切断多価多量体であって、その単複の標的に、その2つ以上の結合ドメインにより結合することが可能な、切断多価多量体を提供する。本発明の多価多量体は、抗原に結合することが可能な、2つ以上の可変領域又はその一部分を含んでもよい。重要なことに、多量体は、Fc領域の全て又は一部分、好ましくはFc全体を欠いている。本明細書に開示される本発明の多量体は、ヒンジ、好ましくは天然ヒンジ、より好ましくは2つ以上のジスルフィド結合を含むヒンジによりそれぞれのC末端で対合されている、2つの重鎖領域を含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、多量体は、1つ以上の追加の結合ドメインを含む。一実施形態では、多量体は、VL-CL領域と対合されているVH-CH1領域を含むFabドメインを含む。
【0062】
したがって、当該多価多量体は、3つのVH領域、及び3つのVL領域を含んでもよい。VH又はVLのいずれかは、同族鎖の再構成可変領域と対合されている共通可変領域(VHc若しくはVLc)であってもよく、又はエピトープ又は抗原に対する結合特異性が非共通鎖によって付与されているものであってもよい。例えば、3つのVL領域は、共通鎖(VLc)であってもよく、各VH領域(VH1~VH3)は、再構成可変領域を含んでもよく、当該VH1、VH2、及びVH3領域は、同じエピトープに結合しても、又は3つの異なるエピトープに結合してもよい。図1aに示されるように、VH1は、短いアームを指すのに使用され、VH2及びVH3は、長いアームを指すのに使用され、VH2は、それぞれのC末端でVH1と対合されている内部アームであり、VH3は遠位アームを指すのに使用される。
【0063】
多価多量体は、共通軽鎖(VLc)及び3つの重鎖可変領域(VH1~VH3)を含み、VLc-CLと対合されているVH3-CH1から構成される追加のFabドメインは、VH2領域又はVLcと、追加のFabドメインのCH1又は追加のFabドメインのCLとの間に位置決めされたリンカーにより、可変領域に接続されてもよい。
【0064】
別の実施形態では、多価多量体を構成する個々のポリペプチドで、同じタンパク質内で重鎖及び軽鎖を混合することができる。本発明の多価多量体は、修飾Fabドメインを含んでもよい。修飾Fabドメインは、修飾CH1を含んでもよく、それにより、CLと対合する必要性がなくなる。例えば、CH1は、ラクダ科CH1であってもよく、又はラクダ科CH1に基づいてもよく、又は当該技術分野において既知の技術を介して疎水性残基を欠くように修飾されてもよい。各VH又はVLは、共通可変領域であっても、再構成可変領域であってもよい。
【0065】
本発明の多価多量体は、CH1との対合を必要としない修飾Fabドメインを含んでもよい。例えば、CLは、疎水性領域を除去するように遺伝子操作され得る。修飾Fabドメインの各VH又はVLは、共通可変領域であっても、再構成可変領域であってもよい。追加の修飾Fabドメインは、可変領域部分のVLと修飾FabドメインのCLとの間に位置決めされたリンカーにより、可変領域部分に接続されてもよい。修飾FabドメインのVH及びVLは、システイン架橋により対合されてもよい。本発明の多価多量体は、CH1との対合を必要としない修飾CLを含む修飾Fabドメインを含んでもよい。
【0066】
多価多量体の生成
一実施形態では、多価多量体は、無傷の多価抗体の酵素消化、又は、当該多価多量体のポリペプチドの天然ヒンジ若しくは対合を無傷で残す特定の領域での当該多価抗体の切断によって、製造することができる。無傷の抗体は、全長免疫グロブリン、例えば、全長IgG、IgA、IgE、IgD又はIgM部分であってもよいが、好ましくはIgG、より好ましくはIgG1であってもよい。
【0067】
多価多量体の重鎖は、当業者に既知の技術、例えば、無傷の抗体のCH3領域におけるDEKK修飾の遺伝子操作を通じて優先的に対合するように設計されてもよい。重鎖のヘテロ二量体化を推進するためのCH3領域における遺伝子操作について示す、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2013/157954号及びDe Nardis Et al.,J.Biol.Chem.(2017)292(35)14706-14717を参照のこと。本発明において使用することができるヘテロ二量体化を推進するための代替的なアプローチとしては、ノブインホールフォーマット(国際公開第1998/050431号)、及び電荷遺伝子操作の使用(Gunasekaran,JBC 2010,vol 285,pp 19637-19646)、及び当該技術分野において既知の他の好適な技術が挙げられる。
【0068】
多価多量体フォーマットに使用するためのリンカー
本発明の多価多量体は、1つ以上の可変領域を接続する、1つ以上のリンカーを含んでもよい。リンカーは、リンカーが接続される結合ドメインと共に、多価多量体の機能性を少なくとも部分的に決定する。
【0069】
リンカーは、ヒンジ配列を含んでもよく、又はヒンジ配列に基づく配列を含んでもよい。したがって、好適なリンカーのアミノ酸配列は、天然に生じる配列を含んでもよく、又は天然に生じる配列に由来する、若しくはそれに基づく配列を含んでもよい。このような配列の使用は、本発明の多価抗体の展開可能性に役立ち得、及び/又は低免疫原性を確保するのに役立ち得る。本出願の目的のために、リンカーは、Fcから、Fab又はF(ab’)nを切断するために使用される任意の酵素の酵素認識部位を含有しておらず、それにより、酵素は、結合ドメイン間の結合を同様に切断することが好ましい。例えば、共通軽鎖(VLc)及び3つの重鎖可変領域(VH1~VH3)を含む、3つのFabドメインを含む、切断多価多量体が製造される場合、VLc-CLと対合されたVH3-CH1をVH1若しくはVH2領域又はVLc領域に接続するリンカーは、Fcを、Fab、2Fab’、又はF(ab’)3から切断することが可能な酵素により認識されるアミノ酸モチーフを含まないことが好ましい。
【0070】
したがって、1つ以上の追加の結合ドメインを2つ以上の可変領域に接続するのに好適なリンカーは、IgG又はIgAヒンジ配列由来であってもよい。リンカー領域は、IgG1ヒンジ領域、IgG2ヒンジ領域、IgG3ヒンジ領域、又はIgG4ヒンジ領域に基づいてもよい。
【0071】
典型的には、使用されるヒンジ領域の種類は、リンカーが接続される追加のFabドメインの定常領域、例えばCH1の種類と一致する。すなわち、リンカーが、IgG1ヒンジ領域由来の配列又は複数の配列に基づく場合、当該リンカーが接続している追加のFabドメインのCH1は、IgG1由来のCH1である。
【0072】
抗体のリンカーは、上部、中央、若しくは下部ヒンジ領域、又はこのような領域のサブセットに基づいてもよい。
【0073】
IgG1ヒンジ領域は、配列:
【化1】
を有する。
【0074】
上部ヒンジ領域は、EPKSCDKTHT(配列番号3)として定義される。
【0075】
中央ヒンジ領域は、CPPCP(配列番号27)として定義される。
【0076】
下部ヒンジ領域は、APELLGG(配列番号28)として定義される。
【0077】
したがって、本発明の多量体では、リンカーは、これらの配列のうちの1つ以上を含んでもよく、及び/又はこれらの配列のうちの1つ以上に由来する、若しくはそれらに基づく配列を含んでもよい。
【0078】
IgG2ヒンジ領域は、配列:
【化2】
を有する。
【0079】
上部ヒンジ領域は、ERKCCVE(配列番号30)として定義される。
【0080】
中央ヒンジ領域は、CPPCP(配列番号27)として定義される。
【0081】
下部ヒンジ領域は、APPVAG(配列番号31)として定義される。
【0082】
したがって、本発明の多量体では、リンカーは、これらの配列のうちの1つ以上を含んでもよく、及び/又はこれらの配列のうちの1つ以上に由来する、若しくはそれらに基づく配列を含んでもよい。
【0083】
IgG3ヒンジ領域は、配列:ELKTPLGDTTHTCPRCPEPKSCDTPPPCPRCPEPKSCDTPPPCPRCPEPKSCDTPPPCPRCPAPEFLGG(配列番号32)を有する。
【0084】
上部ヒンジ領域は、ELKTPLGDTTHT(配列番号7)として定義される。
【0085】
中央ヒンジ領域は、CPRCPEPKSCDTPPPCPRCPEPKSCDTPPPCPRCPEPKSCDTPPPCPRCP(配列番号33)として定義される。
【0086】
下部ヒンジ領域は、APEFLGG(配列番号34)として定義される。
【0087】
IgG4ヒンジ領域は、配列:ESKYGPPCPSCPAPEFLGG(配列番号35)を有する。
【0088】
上部ヒンジ領域は、ESKYGPP(配列番号2)として定義される。
【0089】
中央ヒンジ領域は、CPSCP(配列番号36)として定義される。
【0090】
下部ヒンジ領域は、APEFLGG(配列番号34)として定義される。
【0091】
コンセンサス配列CXXCを有する中央領域は、野生型IgGと関連して両方のIgG重鎖を接続し、剛性である。これらのジスルフィド架橋は、本出願には必須ではなく、したがって、リンカーは中央ヒンジ配列を含み、好ましくはCXXCコンセンサス中の一方又は両方のCys残基は、例えば、Ser残基で置換される。したがって、一実施形態では、CxxCは、SxxSであってもよい。
【0092】
本発明の多価多量体に使用するのに好適なリンカーは、中央ヒンジ配列に由来する、又はそれに基づくもの、例えば中央ヒンジ配列を含むが、下部及び/若しくは上部ヒンジ配列を含まない配列に由来する、又はそれに基づくものであってもよい。本発明の多価多量体に使用するのに好適なリンカーは、上部ヒンジ配列に由来する、又はそれに基づくもの、例えば上部ヒンジ配列を含むが、下部及び/若しくは中央ヒンジ配列を含まない配列に由来する、又はそれに基づくものであってもよい。本発明の多価多量体に使用するのに好適なリンカーは、中央ヒンジ配列を含まないもの、例えば下部及び上部ヒンジ配列の組み合わせを含む配列のものであってもよい。
【0093】
したがって、本発明の多量体では、リンカーは、これらの配列のうちの1つ以上、及び/又はこれらの配列のうちの1つ以上に由来する、若しくはそれに基づくに基づく配列を含んでもよい。リンカーは、本質的に中央ヒンジ領域配列からなるか、若しくはこのような配列に基づいていてもよく、又は本質的に上部及び下部ヒンジ領域配列からなるか、若しくはこのような配列に基づいていてもよい。
【0094】
本発明の多量体に使用するのに好適なリンカーは、中に0~5個のアミノ酸挿入、欠失、置換、又は付加(又はこれらの組み合わせ)が作製される、本明細書に記載の任意のリンカー配列のアミノ酸配列を含む配列を参照して定義することができる。いくつかの実施形態では、リンカーは、本明細書に記載のリンカー配列に関して、0~4、好ましくは0~3、好ましくは0~2、好ましくは0~1、好ましくは0のアミノ酸挿入、欠失、置換、又は付加(又はこれらの組み合わせ)を含むアミノ酸配列を含む。
【0095】
好適なリンカーは、約7~約29アミノ酸長、例えば約10~約20アミノ酸長であってよい。しかし、好適なリンカーは、短いリンカー、例えば約7~約10のアミノ酸長であってもよく、又は長いリンカー、例えば約20~約29アミノ酸長であってもよい。
【0096】
リンカーは、Igヒンジ領域を含んでもよく、又はリンカーと同じサブクラスのCH1領域に接続されたIgGヒンジ領域に由来する、若しくはそれに基づく配列を含んでもよく、共通軽鎖の共有結合のためのシステインを含んでもよい。
【0097】
本発明の多量体に使用するのに好適なリンカーは、IgG1ヒンジ領域、IgG2ヒンジ領域、IgG3ヒンジ領域、若しくはIgG4ヒンジ領域に由来していてもよく、又はそれに基づいていてもよい。
【0098】
(GS)配列が使用される場合、好ましくは、それは、IgG以外のアイソタイプ又はIgG1以外のサブクラス由来のヒンジ配列と組み合わせて使用され、CH1領域を含む。
【0099】
本発明の多量体では、リンカーは剛性であっても柔軟性であってもよく、荷電配列を含んでもよく、直線状であっても屈曲していてもよい。
【0100】
本発明の目的のための剛性配列は、約1.015以下のKarplus及びSchulz柔軟性予測を有する配列である。部分的に柔軟性の配列は、約1.015~約1.04のKarplus及びSchulz柔軟性予測を有するものである。本発明の目的のための柔軟性配列は、少なくとも約1.015のKarplus及びSchulz柔軟性予測を有する配列である(Karplus PA,Schulz GE.タンパク質中の鎖の柔軟性予測-ペプチド抗原の選択のためのツールNaturwissenschaften 1985;72:212-3;(http://tools.immuneepitope.org/bcell/)。柔軟性予測は、配列に沿った7つの残基の連続したウィンドウにわたって計算され(1残基刻み)、ウィンドウごとに予測される「柔軟性」指数が得られる。リンカー配列全体にわたる全体的な柔軟性は、配列全体にわたって平均として与えられる。
【0101】
IgGヒンジ領域内のCys残基の除去又は置換により、Cys残基をセリン(Ser)と置換することなどによって、そのヒンジに基づくリンカーをより柔軟にすることができる。あるいは、リンカーは、らせん形成配列の存在を考慮して剛性リンカーであってもよい。したがって、中央ヒンジ領域、例えば、保存されたCPPCP(配列番号90)モチーフは、らせん形成配列、例えば(EAAAK)(配列番号91)によって置換されてもよく、これは、リンカー中に短い剛性のらせんをもたらす。したがって、本発明の多量体では、リンカーは、例えばアミノ酸配列(EAAAK)(配列番号91)を含む、らせん形成配列を含んでもよい。このような配列の使用は、剛性を加えるのに役立ち得る。
【0102】
本発明のリンカーは、配列番号4~6、8~12、若しくは14~25のいずれか1つに記載のアミノ酸配列、又はこれらのいずれか1つに対して少なくとも約90%の配列同一性、好ましくは、これらのいずれか1つに対して少なくとも約95%の配列同一性を有するアミノ酸配列、より好ましくは、これらのいずれか1つに対して少なくとも約97%の配列同一性、より好ましくは、これらのいずれか1つに対して少なくとも約98%の配列同一性、より好ましくは、これらのいずれか1つに対して少なくとも約99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0103】
例えば、本発明の多価多量体に使用するのに好適なリンカーは、中に0~5個のアミノ酸挿入、欠失、置換、又は付加(又はこれらの組み合わせ)が作製される、配列番号2~25のいずれか1つのアミノ酸配列を含む配列を参照して定義することができる。いくつかの実施形態では、リンカーは、配列番号4~6、8~12、又は14~25に記載の配列に関して、0~4、好ましくは0~3、好ましくは0~2、好ましくは0~1、好ましくは0のアミノ酸挿入、欠失、置換、又は付加(又はこれらの組み合わせ)を有するアミノ酸配列を含む。
【0104】
本発明の多価多量体に使用するのに好適なリンカーは、配列番号2~25のいずれか1つのアミノ酸配列、又はこれらのいずれか1つに対して少なくとも約85%の配列同一性を有するアミノ酸配列、例えば、これらのいずれか1つに対して少なくとも約90%の配列同一性、例えば、これらのいずれか1つに対して少なくとも約95%の配列同一性、例えば、これらのいずれか1つに対して約98%の配列同一性、例えば、これらのいずれか1つに対して少なくとも約99%の配列同一性を含む配列を参照して定義することができる。
【0105】
【表1】
【0106】
追加の結合ドメインの領域と対合するためのリンカーの使用
本明細書で使用されるリンカーによって、1つ以上の可変領域を少なくとも1つの追加の結合ドメインに接続することができる。加えて、少なくとも1つの追加の結合ドメインがFabドメインであるか、又は重鎖可変領域と軽鎖可変領域との対合から構成される場合、リンカーによって、共有結合により、典型的にはジスルフィド架橋により、重鎖及び軽鎖を対合することができる。したがって、リンカーによって可変領域を接続する場合、それは、ポリペプチドの一次アミノ酸配列の一部、例えば、VH1-CH1-リンカー-VH2-CH1を形成する。対照的に、リンカーによって2つの可変ドメインを対合する場合、それにより、例えば、別個のポリペプチドを構成する、2つの可変ドメイン間で接点、共有結合、例えば、ジスルフィド結合を作ることによって、これらのドメインを一緒に架橋する。
【0107】
ジスルフィド架橋は、リンカー中のシステイン残基と追加の結合ドメイン(複数可)の可変領域との間に形成されてもよい。リンカーによって引き起こされるこのような対合は、共通軽鎖及び対応する再構成重鎖可変領域を含むFabドメイン、又は共通重鎖及び対応する再構成軽鎖可変領域を含むFabドメイン、を含む追加の結合ドメインに適用することができる。
【0108】
表2は、リンカー配列がCH1及びVH2領域にどのように接続され得るかを示す。
【0109】
【表2】
【0110】
なお、リンカー(上記において下線を付した)の後のVH2配列は、使用される特定の可変領域に応じて、変化してもよい。他の実施形態では、リンカーの後の配列は、共通軽鎖を含む軽鎖可変領域であってもよい。
【0111】
多価性及び多重特異性
2つ以上の可変ドメインが異なる抗原に結合する場合、第1の抗原及び第2の抗原は、1つの細胞又は異なる細胞型に位置する2つの異なる分子又は部分であってもよい。内因性免疫細胞を動員及び活性化することによって細胞傷害を媒介する2つの結合ドメインを含む抗体は、新たなクラスの抗体治療薬である。これは、標的細胞(すなわち、腫瘍細胞)及びエフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、及びマクロファージ)の抗原結合特異性を1分子中で組み合わせることによって得ることができる(例えば、国際公開第2014/051433号を参照のこと)。本発明の多量体は、少なくとも2つの結合ドメインを含む。3つ以上の結合ドメインを含む多価多量体は、1つ、2つ、3つ、又はそれ以上の腫瘍関連抗原を標的化して、正常細胞に対する有害細胞の特異的標的化を可能にし得る。例えば、多価多量体の1つの結合ドメイン又は2つの結合ドメインは、異常な(腫瘍)細胞上の抗原に結合し得、一方で、多価多量体の第2又は第3の結合ドメインは、1つ以上の腫瘍関連抗原を発現する腫瘍細胞の方向付けられた殺傷を引き起こし得る免疫エフェクター細胞上の抗原に結合し得る。あるいは、多価多量体の2つの結合ドメインは、腫瘍細胞で発現される同一の抗原又は異なる抗原上の2つの異なるエピトープに特異的に結合し得、一方で、これらのアームの親和性は、1つの抗原のみを発現する細胞への結合を軽減するために、又は多価多量体の1つの結合ドメインのみが結合する場合に弱められる。あるいは、本発明の多価多量体の3つの結合ドメインは、3つの異なる抗原又は同一の抗原に、但し、免疫エフェクター細胞の異なるエピトープで結合し得る。
【0112】
同様に、3つ以上の結合ドメインを含む多価多量体は、リガンド又は酵素などの機能的標的に結合し得、生物学的応答を誘発するか、又は標的の機能を遮断し、阻害性又はアゴニスト性の細胞活性をもたらす。本発明の多価多量体の少なくとも1つの結合ドメインは、可変領域部分の結合ドメインにリンカーによって接続される。
【0113】
可変領域のうちの少なくとも1つの結合ドメインがFabドメインである場合、これは、例えば、VH-CH1-リンカー-VH-CH1の形態をとることができ、リンカーにより、1つの可変領域の重鎖を少なくとも1つの追加の結合ドメイン、好ましくはFabドメインに接続する。
【0114】
あるいは、これは、例えば、VL-CL-リンカー-VL-CLの形態をとることができ、リンカーにより、1つの可変領域の軽鎖を少なくとも1つの追加の結合ドメイン、好ましくはFabドメインに接続する。
【0115】
Fabドメインなどの追加の結合ドメインは、2つの可変領域に各々別個のリンカーによって接続することができる。追加の可変領域又は追加の結合ドメインを接続する2つ以上のリンカーは、同じであっても異なっていてもよい。更に、リンカーは、結合ドメインの同族鎖の対合を可能にし得る。
【0116】
本発明の多量体が2つ以上のリンカーを含む場合、それらのリンカーは同じであっても異なっていてもよく、又はこれらの組み合わせであってもよい。後者の状況の一例は、多価多量体が3つのリンカーを含み、これらのうちの2つは同じであり、第3のリンカーは(他の2つと)異なるという状況である。
【0117】
更に、別の可変領域にリンカーによって接続された可変領域は、それ自体が、本明細書に記載のリンカーによって接続された可変領域に付着されてもよく、他の可変領域は、追加の結合ドメインにリンカーを通じて接続し、その可変領域を第2の追加の結合ドメインにリンカーを通じて接続することなどにより、モジュール式に伸長し得る。
【0118】
このようにして、本発明の多量体は、2つ、3つ、又はそれ以上のエピトープに結合することが可能であり得る。
【0119】
本発明の多量体は、2つ、3つ、又はそれ以上の抗原に結合することが可能であり得る。
【0120】
本発明の多量体は、1つの抗原上の異なるエピトープに結合することが可能な、2つ以上のFabドメインなどの2つ以上の可変領域を含んでもよい。
【0121】
一実施形態では、本発明の多量体は、少なくとも2つのFabが異なる、3つ以上のFabドメインなどの少なくとも3つの結合ドメインを含む。
【0122】
本発明の別の態様は、少なくとも3つのFabドメインを含む多価多量体を含み、したがって、典型的には全て互い異なる3つのエピトープに結合することが可能である。
【0123】
本発明の多量体はまた、多重特異性であってもよい。多価は、抗体が、少なくとも2つの結合ドメインを有し、したがって少なくとも2つの抗原結合部位を有することを示す。多重特異性は、抗体が、少なくとも2つの異なるエピトープ、例えば、同じ抗原上の2つの異なる抗原又は2つのエピトープに結合することが可能であることを示す。三重特異性は、抗体が、3つの異なるエピトープに結合することが可能であることを示す。四重特異性は、抗体が、4つの異なるエピトープなどに結合することが可能であることを示す。
【0124】
本発明の多量体は、同じ標的上に位置する標的エピトープに結合し得る。これは、1つのエピトープのみが標的化されている状況と比較して、当該標的分子の(生物学的)機能のより効率的な拮抗作用を可能にし得る。例えば、本発明の多量体は、抗原細胞上、例えば、成長因子受容体上、又は腫瘍細胞が増殖するのに重要な可溶性分子上に存在する2つ、3つ、又はそれ以上のエピトープに同時に結合し得、それにより、制御されていない増殖をもたらすいくつかの独立したシグナル伝達経路を効果的に遮断する。
【0125】
本発明の少なくとも2つの多量体の任意の組み合わせは、成長因子受容体又は可溶性分子などの標的分子上に存在する、2つ、3つ、4つ、又はそれ以上のエピトープに同時に結合し得る。本発明の少なくとも2つの多量体の組み合わせでは、2つの多量体は、少なくとも1つの共通結合ドメインを共有し得る。
【0126】
標的部分は、可溶性部分であってもよく、又は膜結合部分であってもよく、又は結合時に内在化する細胞表面上に存在する部分であってもよい。
【0127】
標的エピトープは、異なる部分、例えば2つ(すなわち、第1の部分上の2つ以上の標的エピトープ及び第2の部分上の1つ以上の標的エピトープ)又は3つの異なる部分上(すなわち、3つの部分の各々で少なくとも1つの標的エピトープ)に位置し得る。この場合、異なる標的部分の各々は、可溶性部分若しくは膜結合部分、又は結合時に内在化する細胞表面上に存在する部分のいずれかであってもよい。一実施形態では、異なる標的部分は可溶性部分である。あるいは、少なくとも1つの標的部分は可溶性部分であり、一方で少なくとも1つの標的部分は膜結合部分である。更に別の代替例では、全ての標的部分は膜結合部分である。一実施形態では、異なる標的部分は同じ細胞上で発現されるが、他の実施形態では、異なる標的部分は異なる細胞上で発現される。
【0128】
非限定的な例として、本発明の任意の多量体、又は本発明の多量体と追加の抗体との任意の組み合わせは、複数の膜結合受容体を同時に遮断するのに、腫瘍細胞のサイトカイン又は成長因子などの複数の可溶性分子を中和するのに、又は異なるウイルス血清型若しくはウイルス株を中和するのに好適な場合がある。
【0129】
一実施形態では、少なくとも1つの標的エピトープは、腫瘍細胞上に位置してもよい。あるいは、又はそれに加えて、少なくとも標的エピトープは、エフェクター細胞の表面上に位置してもよい。これは、例えば、腫瘍細胞殺傷のためのT細胞又はNK細胞の動員に好適である。例えば、本発明の多量体は、免疫エフェクター細胞上に位置する標的分子に特異的に結合することによって、免疫エフェクター細胞、好ましくはヒト免疫エフェクター細胞を動員することが可能であり得る。更なる実施形態では、当該免疫エフェクター細胞は、本発明の多量体の標的分子への結合時に活性化される。エフェクター機構の動員は、例えば、T細胞受容体又はFcガンマ受容体などの細胞傷害性トリガー分子に結合し、それにより下流の免疫エフェクター経路又は免疫エフェクター細胞を活性化することが可能な、本発明による方法によって製造されたIg様分子を投与することにより免疫調節された細胞傷害のリダイレクトを包含し得る。
【0130】
共通可変領域
本発明の多価多量体では、2つ以上の結合ドメイン(可変領域)の各々において共通鎖を使用することができる。記載のように、一実施形態では、多価多量体は、1つの抗原に結合する第1の重鎖可変領域/軽鎖可変領域(VH/VL)の組み合わせ、及び第2の抗原に結合する第2のVH/VLの組み合わせを有する。各々の追加の結合ドメインはまた、抗原上の更なるエピトープに結合する追加のVH/VLの組み合わせを含んでもよい。
【0131】
一実施形態では、多価多量体は、2つの重鎖(一方又は両方が1つ以上の追加のCH1及びVHドメインを含む)、並びに各々CH1及びVHドメインと対合する軽鎖、を含む。一実施形態では、2つの重鎖は適合性ヘテロ二量体化ドメインを有し、軽鎖は共通軽鎖である。別の実施形態では、多量体は、2つの軽鎖(一方又は両方が1つ以上の追加のCL及びVLドメインを含む)、並びに各々CL及びVLドメインと対合する重鎖可変領域、を含み、重鎖可変領域は、共通重鎖可変領域を含む。
【0132】
多価多量体が共通軽鎖を含み、当該軽鎖は、2つ以上の重鎖可変領域をコードするDNAを含む宿主細胞内で発現される場合、当該軽鎖は、各々の利用可能な重鎖(又はCH1-VH1領域)と対合することにより、少なくとも3つの機能的抗原結合ドメインを形成することが可能である。
【0133】
機能的抗原結合ドメイン(可変領域)は、抗原上のエピトープに特異的に結合することが可能である。一実施形態では、共通軽鎖は、製造された全ての重鎖(又はCH1-VH1領域)と対合することが可能であり、それにより、不整合の重鎖及び軽鎖の誤対合は回避され、又は多価多量体よりも著しく低い比で作られる。
【0134】
一実施形態では、本発明の多価多量体は、一連の重鎖可変領域と組み合わせて機能的抗原結合ドメインを有する多量体を形成することができる共通軽鎖(可変領域)を有する。(国際公開第2004/009618号、同第2009/157771号)。
【0135】
本発明の多価多量体に使用するための共通軽鎖(可変領域)は、好ましくはヒト軽鎖である。一実施形態では、共通軽鎖(可変領域)は、生殖細胞系列配列を有する。一実施形態では、生殖細胞系列配列は、ヒトレパートリーで頻繁に使用され、良好な熱力学的安定性、収率、及び溶解度を有する、軽鎖可変領域である。好ましい生殖細胞系列軽鎖は、ヒトIgVカッパ1-3901/IGJカッパ101及びヒト定常領域(配列番号1)である。共通軽鎖可変領域をコードする核酸は、好ましくは、再構成された生殖細胞系列ヒトカッパ軽鎖IgVカッパ1-3901/IGJカッパ101(配列番号62)である。共通軽鎖は、好ましくは、0~5個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加、又はこれらの組み合わせを有する、配列番号63の軽鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号64のヒト軽鎖定常領域アミノ酸配列を含む。共通軽鎖は、軽鎖定常領域、好ましくはカッパ軽鎖定常領域を更に含んでもよい。共通軽鎖(配列番号1)をコードする核酸は、共通軽鎖タンパク質を発現するのに使用される細胞系に対してコドン最適化され得る。コード核酸は、生殖細胞系列核酸配列から逸脱し得る。
【0136】
本発明の多価抗体に使用するための共通軽鎖(可変領域)は、ラムダ軽鎖であり得、したがってこれもまた本発明の文脈内で提供されるが、カッパ軽鎖が好ましい。本発明の共通軽鎖は、カッパ又はラムダ軽鎖定常領域を含み得る。一実施形態では、カッパ軽鎖の定常領域が使用され、好ましくは、当該共通軽鎖は、生殖細胞系列軽鎖、好ましくは、IgVI-39遺伝子セグメントを含む再構成生殖細胞系列ヒトカッパ軽鎖、例えば、再構成生殖細胞系列ヒトカッパ軽鎖IgVl-3901/IGJ01である。当業者は、「共通」がまた、アミノ酸配列が同一ではない軽鎖の機能的等価物を指すことも認識するであろう。当該軽鎖の多くの変異体が存在し、機能的結合領域の形成に実質的に影響を与えない変異(欠失、置換、付加)が存在する。
【0137】
IgVκ1-39は、免疫グロブリン可変カッパ1-39遺伝子についての短縮形である。この遺伝子はまた、免疫グロブリンカッパ可変1-39、IGKV139、IGKV1-39とも呼ばれる。この遺伝子についての外部IDは、HGNC:5740、Entrez Gene:28930、Ensembl:ENSG00000242371である。IgVκ1-39の好ましいアミノ酸配列は、配列番号65で示される。これはV領域の配列を列挙している。V領域は、5つのJ領域のうちの1つと組み合わせることができる。共通軽鎖可変領域は、カッパ軽鎖定常領域に連結することが好ましい。好ましい実施形態では、本発明の多価多量体において使用される軽鎖可変領域は、カッパ軽鎖IgVκ1-3901/IGJκ101又はIgVκ1-3901/IGJκ501を含む。好ましい実施形態では、多価多量体中の共通軽鎖はIgVκ1-3901/IGJκ101である。
【0138】
共通軽鎖を産生する細胞は、例えば、再構成生殖細胞系列ヒトカッパ軽鎖IgVκ1-3901/IGJκ101及びラムダ定常領域に融合された前述の軽鎖の可変領域を含む軽鎖を産生することができる。本明細書で生殖系列配列を参照する場合、一実施形態では、可変領域は、生殖系列配列である。
【0139】
本発明の多価多量体に使用するための好ましい共通軽鎖は、配列番号1に記載の配列を含むものである。
【0140】
本発明の多価抗体に使用するための共通鎖はまた、重鎖であってもよく、したがって、これもまた本発明の文脈において提供される。共通重鎖は、二重特異性抗体を作製するために当該技術分野において使用されており、本明細書では3つ以上の結合ドメインを含む多価多量体を作製する際に使用することができ、当該結合ドメインのうちの2つ以上は、当該技術分野において既知の共通重鎖を含む。例えば、重鎖可変ドメインが全てのライブラリメンバーに関して同じであり、したがって、多様性が軽鎖可変ドメインに基づく抗体ライブラリの使用である。このようなライブラリは、例えば、国際出願番号第PCT/US2010/035619号、及び同第PCT/US2010/057780号に記載されており、これらは各々参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。共通重鎖を有する結合ドメインを生成するこれらの及び他の技術は、当業者によって作られ得、本発明では、本明細書に開示される新規なフォーマットを有する多価抗体を製造するために採用することができる。
【0141】
切断多価多量体の製造
一実施形態では、宿主細胞は、2つ以上の重鎖可変領域及び共通軽鎖可変領域をコードする核酸と共トランスフェクションされて多価多量体を産生し得、当該重鎖可変領域のうちの2つは、CH1、CH2及び/又はCH3を含む定常領域を含み、これらは、CH1ドメインとCH2ドメインとの間のヒンジでの対合によりヘテロ二量体化が可能であり、当該2つの重鎖は各々、CH2及び/又はCH3領域を切断することが可能なタンパク質分解酵素によって認識される当該ヒンジの下方で、アミノ酸配列を含む。あるいは、本発明の多価多量体は、2つ以上の軽鎖可変領域及び共通重鎖を一緒にコードする1つ以上の遺伝子構築物により個々の細胞の共トランスフェクションによって製造することができ、2つの共通重鎖は、CH1、CH2及び/又はCH3を含む、定常領域を含み、これらは、CH1ドメインとCH2ドメインとの間のヒンジでの対合によりヘテロ二量体化が可能であり、当該2つの重鎖は各々、CH2及び/又はCH3領域を切断することが可能なタンパク質分解酵素によって認識される当該ヒンジの下方で、アミノ酸配列を含む。
【0142】
本発明の多価多量体はまた、対象とする2つ以上の抗原で共通可変鎖を有するトランスジェニック動物を免疫化することによって製造することもできる。対象とする抗原に特異的に結合する、共通可変鎖及び再構成抗体鎖を含む抗体のパネルは、トランスジェニック動物から得られる。次いで、共通鎖及び可変結合鎖をコードする核酸は、無傷の多価抗体を産生する宿主細胞に組み込まれる。次いで、多価多量体が形成される。当該多価多量体は、共通軽鎖及び2つ以上の可変結合鎖を含んでもよく、好ましくは、当該可変結合鎖のうちの2つは、CH1、CH2、及び/又はCH3を含む重鎖であり、当該重鎖は、典型的にはCH1ドメインとCH2ドメインとの間の2つ以上のジスルフィド架橋から構成されるヒンジによって対合される。次いで、多価多量体は、残っている当該重鎖から重鎖のC末端でCH2及び/又はCH3領域を除去する酵素によって切断され、ヒンジは、多価多量体の重鎖を典型的には2つ以上のジスルフィド結合によって対合する。
【0143】
ヘテロ二量体である抗体の製造を優先するための、いくつかの方法が公開されている。本発明において、細胞は、それぞれのホモ二量体の産生よりもヘテロ二量体の産生を優先する。このことは、典型的には、ホモ二量体化よりもヘテロ二量体化(すなわち、1つの重鎖を第2の重鎖と組み合わせる二量体化)を優先するように、重鎖の重鎖定常領域、好ましくはCH3領域をコードする核酸によって達成される。好ましい実施形態では、本発明の多量体は、適合性ヘテロ二量体化ドメインを有する2つの異なる免疫グロブリン重鎖を含む。
【0144】
この適合性ヘテロ二量体化ドメインは、好ましくは、適合性免疫グロブリン重鎖CH3ヘテロ二量体化ドメインである。野生型CH3ドメインが使用される場合、2つの異なる重鎖(A及びB)と共通軽鎖との共発現は、3つの異なる抗体種、AA、AB及びBBをもたらすであろう。AA及びBBは、2つのホモ二量体抗体の表記であり、ABはヘテロ二量体抗体の表記である。所望のヘテロ二量体産物(AB)の百分率を増加させるために、CH3遺伝子操作を採用することができ、又は言い換えれば、適合性ヘテロ二量体化ドメインを有する重鎖を使用することができる。当該技術分野では、重鎖のこのようなヘテロ二量体化が達成され得る様々な方法が記載されている。
【0145】
本明細書で使用するとき、用語「適合性ヘテロ二量体化ドメイン」は、遺伝子操作ドメインA’が遺伝子操作ドメインB’を有するヘテロ二量体を優先的に形成し、逆もまた同様になり、A’-A’間及びB’-B’間のホモ二量体化が減少するように遺伝子操作された、タンパク質ドメインを指す。
【0146】
米国特許出願番号第13/866,747号(現在、米国特許第9,248,181号として発行)、米国特許出願番号第14/081,848号(現在、米国特許第9,358,286号として発行)、国際公開第2013/157953号、及び同第2013/157954号に、適合性ヘテロ二量体化ドメインを使用して多価抗体を製造するための方法及び手段が開示されている。本発明では、これらの手段及び方法を有利に採用することができる。具体的には、本発明の多量体は、好ましくは、本質的に二重特異性全長IgG分子のみを製造するために、第1及び第2の重鎖の定常領域において残基を含む。好ましい残基は、第1のCH3ドメイン中の、若しくはそれに対応する位置(「KK-変異体重鎖」)での、アミノ酸L351K及びT366K(EU付番)(但し、第1の文字は野生型CH3ドメインの残基に対応し、第2の文字は、ヘテロ二量体対合において優先的に遺伝子操作することが可能なCH3によってコードされる残基に対応する)、並びに第2のドメイン中の、若しくはそれに対応する位置(「DE-変異体」重鎖)での、アミノ酸L351D及びL368Eであり、又はその逆も同様である。DE-変異体及びKK-変異体が優先的に対合してヘテロ二量体(いわゆる「DEKK」二重特異性分子)を形成することは、本発明者らの米国特許第9,248,181号及び同第9,358,286号の特許、並びに国際公開第2013/157954号で以前に実証された。DE-変異体重鎖のホモ二量体化(DEDEホモ二量体)又はKK-変異体重鎖のホモ二量体化(KKKKホモ二量体)は、同一の重鎖間のCH3-CH3界面における荷電残基間の反発力により、生じないか、又は無視可能な量でのみ生じる。
【0147】
多価多量体を形成するために多量体化するタンパク質を発現することが可能な本発明の好ましい宿主細胞では、宿主細胞は、3つのタンパク質をコードする核酸で形質転換される。N末端からC末端までの順に、コードされたタンパク質は、VH3-CH1---VH2-CH1-CH2-CH3を含む第1のタンパク質を含み、リンカーは、N末端からC末端までの方向で、CH1及びVH2を第1のタンパク質上に接続(「---」によって表記)し、第2のコードされたタンパク質は、VLc-CLを含み、第3のコードされたタンパク質は、VH1-CH1-CH2-CH3を含み、第1及び第3のコードされたタンパク質のCH1ドメインは、第2のコードされたタンパク質のCLと対合し、第1及び第3のタンパク質のコードされたCH3領域は、それぞれ、第1のCH3タンパク質若しくはそれに対応する位置でアミノ酸L351K及びT366K(EU付番)をコードし、第3のタンパク質若しくはそれに対応する位置でアミノ酸L351D及びL368Eをコードし、又はその逆も同様である。あるいは、当該第1及び第3のタンパク質は、これらのタンパク質の各々のCH3ドメインの効率的な対合を引き起こす他の適合性ヘテロ二量体化ドメインを含む。
【0148】
当該タンパク質をコードする核酸は、本発明の多価多量体を生成するために、1つ以上のベクター上に存在し得る。当該タンパク質をコードする当該核酸は、宿主細胞のゲノムに、好ましくは、高発現、及び遺伝子サイレンシングの非存在又は減少について既知の染色体領域で、安定的に更に組み込まれてもよい。
【0149】
本発明の宿主細胞は、全発現免疫グロブリンに基づいて、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%の純度の本発明の多価多量体にて、多価多量体を産生することが可能である。
【0150】
本発明の宿主細胞は、多価多量体を産生することが可能であり得、産生される多価多量体の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%は、全ての結合部位に対して同族の共通鎖と対合した可変再構成領域を含む。
【0151】
本発明の宿主細胞は、多価多量体を産生することが可能であり得、発現した共通鎖の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%は多価多量体と対合しており、遊離した会合していないタンパク質ではない。
【0152】
多価多量体を、二量体化された2つの重鎖のヒンジの下方で当該多量体を切断するタンパク質分解酵素に曝露した際、得られた本発明の切断多価多量体は、元のタンパク質の濃度の少なくとも約50%、好ましくは60%、より好ましくは70%超、最大90%超が本発明の切断多価多量体に変換されて、得ることが可能である。
【0153】
非ヒト動物
本明細書に記載の方法及び組成物は、好適な方法から得られる、それに由来する、又はそれに基づいて、結合ドメインを有する好適な多価結合タンパク質を作製することを可能にする。好適な方法としては、ファージディスプレイ法(ファージディスプレイシステムにおいて生成された生殖細胞系列配列の修飾を含む)、及び当該技術分野において既知の他のin vitro法を挙げることができる。特に有用な方法は、遺伝子組換え非ヒト動物に、体細胞組換えの自然なプロセス、及び親和性成熟により、共通軽鎖と会合して発現することができる好適な重鎖可変ドメインを作製させることである。
【0154】
一実施形態では、本発明の多価多量体において使用される可変ドメインは、生殖細胞系列内に再構成されていない重鎖可変遺伝子座を含み、単一の再構成ヒト軽鎖可変ドメインを発現する非ヒトトランスジェニック動物、例えば、げっ歯類などの共通軽鎖哺乳動物の重鎖及び軽鎖可変領域から得られるか、それに由来するか、又はそれに基づく。このような非ヒトトランスジェニック動物は、抗原への曝露時に、共通軽鎖と対合した多様な体細胞再構成重鎖可変領域を発現し、次いで、それを使用して、多価抗体の産生のために宿主細胞に効率的に形質転換することが可能な、当該トランスジェニック動物から得られるか、それに由来するか、又はそれに基づく重鎖可変領域をコードする核酸配列を発達させることができる。
【0155】
特に、ヒトVL遺伝子セグメントに由来するヒト軽鎖可変ドメインを発現するように遺伝子操作された免疫化共通軽鎖動物の好適なB細胞由来のヒト可変領域配列は、本発明の多価多量体の潜在的VHドメインの供給源として使用され得る。当該動物由来のB細胞は、様々な実施形態において、多価多量体が結合する抗原である、1つ以上の対象とする抗原で免疫化される。当該動物の細胞、組織、又は血清、脾臓又はリンパ材料をスクリーニングして、対象とする抗原に関する所望の特性、例えば、高親和性、低親和性、遮断能、活性化、内在化、又は他の特性を示す重鎖可変ドメイン(又はそれらを発現するB細胞)を得る。当該トランスジェニック動物における抗原刺激に応答して生成される重鎖可変ドメインのほぼ全てが、好ましくは1つ以下、又は2つ以下のVL遺伝子セグメントに由来するヒト免疫グロブリン軽鎖の発現と共に作られるので、重鎖可変領域は、トランスジェニック動物において発現される共通軽鎖ドメインで発現及び会合することが可能である。
【0156】
一態様では、本明細書に記載のエピトープ結合タンパク質が提供され、ヒトVL及びVH配列は、対象とするエピトープを含む抗原で免疫化されている、本明細書に記載のトランスジェニックマウス、及び/又は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2009/157771号に開示されているトランスジェニック動物のB細胞から得られる核酸に基づいて核酸によりコードされる。
【0157】
核酸配列、ポリペプチド、ベクター、及び細胞
本発明は、本発明の多価多量体の組み立てに使用することができるポリペプチド又はリンカーをコードする核酸配列、このような核酸配列を含むベクター、本発明の多価多量体を産生することが可能な細胞、及びこのような細胞を使用してこのような多価多量体を調製する方法を、更に提供する。
【0158】
本発明による多価抗体は、典型的には、本発明の多量体を形成するように一緒に組み立てるポリペプチドをコードする核酸配列を発現する細胞によって産生される。
【0159】
したがって、本発明は、配列番号2~25のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むリンカー、又はそれらのいずれかと少なくとも約85%の配列同一性、それらのいずれかと少なくとも約85%の配列同一性、例えばそれらのいずれかと少なくとも約90%の配列同一性、例えばそれらのいずれかと少なくとも約95%の配列同一性、例えばそれらのいずれかと少なくとも約98%の配列同一性、例えばそれらのいずれかと少なくとも約99%の配列同一性を有するポリペプチドを提供する。
【0160】
本発明は、VH3-CH1-ヒンジ-ベースとするリンカー-VH2-CH1を含む、ポリペプチドを更に提供する。
【0161】
特定の実施形態では、VH3及びVH2は、同じエピトープに結合する。特定の実施形態では、VH3及びVH2は、同じ抗原に、但し異なるエピトープに結合する。特定の実施形態では、VH3及びVH2は、別個のエピトープ及び抗原に結合する。
【0162】
また、このようなリンカー又はポリペプチドをコードする核酸配列、及びこのような核酸配列を含むベクターも、本発明によって提供される。
【0163】
記載のポリペプチドを作製するために採用される核酸配列は、任意の好適な発現ベクター内に配置されてもよく、適切な状況では、単一の宿主細胞内の2つ以上のベクター内に配置されてもよい。
【0164】
概して、可変ドメインをコードする核酸配列は、適切なリンカー及び/又は定常領域でクローニングされ、配列は、発現に好適な細胞株において好適な発現構築物内のプロモーターと作動可能に連結して配置される。
【0165】
多価多量体の発現
組換え宿主細胞における抗体の発現は、当該技術分野において記載されている。本発明の多量体の軽鎖及び重鎖をコードする核酸分子は、染色体外コピーとして存在してもよく、及び/又は宿主細胞の染色体に安定的に組み込まれてもよい。後者が好ましく、その場合には遺伝子サイレンシングを欠くこと、又はそれを低減することが知られている、遺伝子座を標的化し得る。
【0166】
本発明の多量体として組み立てるポリペプチドをコードする核酸配列の発現を得るために、このような発現を推進することが可能な配列は、ポリペプチドをコードする核酸配列に機能的に連結され得ることが、当業者には周知である。機能的な連結は、ポリペプチド又はその前駆体をコードする核酸配列が、これらの配列がポリペプチド又はその前駆体の発現を推進することができるように、発現を推進することが可能な配列に連結されていることを説明することを意味する。有用な発現ベクターは、例えば、InvitrogenのpcDNAベクターシリーズが、当該技術分野において利用可能である。対象とするポリペプチドをコードする配列が、コードされたポリペプチドの転写及び翻訳を調節する配列を参照して適切に挿入される場合、得られる発現カセットは、発現と呼ばれる対象とするポリペプチドを産生するのに有用である。発現を推進する配列としては、プロモーター、エンハンサーなど、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。これらは、宿主細胞において機能することにより、それらに機能的に連結された核酸配列の発現を推進することが可能である必要がある。プロモーターは、構成的であるか又は調節されていてもよく、ウイルス、原核生物、若しくは真核生物源、又は人工的に設計されたものを含む様々な供給源から得ることができる。
【0167】
本発明の核酸配列の発現は、天然プロモーター若しくはその誘導体由来、又は完全に異種プロモーター由来であってもよい。真核細胞において発現するためのいくつかの周知の多用されるプロモーターは、ウイルス由来のプロモーター、例えば、アデノウイルス、例えば、E1Aプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)由来のプロモーター、例えば、CMV最初期(IE)プロモーター、Simian Virus 40(SV40)由来のプロモーターを含む。好適なプロモーターはまた、例えばメタロチオネイン(MT)プロモーター、伸長因子la(EF-la)プロモーター、アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、熱ショックプロモーターなどの真核細胞に由来し得る。宿主細胞における本発明の核酸配列の発現を推進することが可能な任意のプロモーター又はエンハンサー/プロモーターは、本発明において好適である。一実施形態では、発現を推進することが可能な配列は、CMVプロモーター由来の領域、好ましくはCMV最初期遺伝子エンハンサー/プロモーターのヌクレオチド-735~+95を含む領域を含む。当業者であれば、本発明において使用される発現配列が、インスレーター、マトリックス付着領域、STARエレメントなどの発現を安定化又は向上させることができるエレメントと好適に組み合わせられ得ることを認識するであろう。これにより、発現の安定性及び/又はレベルを向上させることができる。
【0168】
組換え核酸配列を発現させるのに好適な任意の細胞を使用して、本発明の多量体を生成することができる。好ましくは、当該細胞は懸濁増殖に適合される。
【0169】
本発明の多価多量体は、典型的には、本発明の好適な細胞を培養し、当該培養物から当該抗体を採取することによって、宿主細胞において発現させることができる。好ましくは、当該細胞は、無血清培地中で培養される。本発明の多量体は、細胞から回収することができ、又は好ましくは、当業者に概ね知られている方法によって細胞培養培地から回収することができる。
【0170】
回収後、無傷の抗体を処理して、抗体からFcドメイン(例えば、CH2及び/又はCH3)を切断する。本発明の多量体は、当該技術分野において既知の方法を使用することによって回収することができる。このような方法としては、沈降、遠心分離、濾過、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、カチオン及び/又はアニオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用、クロマトグラフィーなどを挙げることができる。リンカー配列をベースとするものなど、親和性クロマトグラフィーを、本発明の多価多量体を分離する手段として使用することができる。
【0171】
切断多価多量体の効率的な生成
当該技術分野では、F(ab’)2の製造のため、酵素消化及び化学的結合を採用してきた。例えば、抗体の親和性対アビディティ結合は、F(ab’)2と比較したとき、Fabの生成及び標的との比較を通じて、一価の標的物により抗原との結合が二価標的物よりも少なくなるかどうかについて試験し、及び二価性がアビディティにつながるかどうかを理解することで、分析されてきた。化学コンジュゲーション及びタンパク質分解消化によりF(ab’)2部分を生成する従来方法は、非効率的であること、不安定又は潜在的に免疫原性部分の生成、並びにこのような部分の分離及び使用を非実用的にする抗体断片の不均質混合物の生成により、研究及び治療用途にとってつまらないものであった。Fcの特異的切断が可能な酵素の使用と組み合わせて本明細書に記載の技術により高純度で発現された、新規な多価多量体フォーマットの出現によって、ペプシン消化から観察されるC末端不均一性を排除することによる、当該切断多価多量体の産物の高濃度の生成が可能である。
【0172】
F(ab’)n又は(修飾F(ab’)n)を含む多価多量体は、任意の好適な酵素的切断及び/又は消化技術を使用して任意の完全長多量体(例えば、モノクローナル多重特異性抗体全体)から得られるように、本明細書に記載の方法に関連して製造することができる。特定の実施形態では、抗体断片は、ヒンジの下方の特定の部位でヒトIgG1を切断し、無傷のF(ab’)n多量体を残す、IdeSプロテアーゼ、すなわちストレプトコッカス・ピオゲネスのIgG分解酵素で切断することにより得ることができ、F(ab’)nの一方の側の重鎖が、それらのそれぞれのC末端で他方の側の重鎖と対合され、対合は2つ以上のジスルフィド架橋を含む。(図4b1)。
【0173】
あるいは、Fc領域を欠いている多価多量体は、ヒンジ(KSCDK/THTCPPC)(配列番号92)の上方の特定の部位でヒトIgG1を消化する、無傷のFab(図4b2)、2Fab’(図4b3)、及びFc(図4b4)断片を生成する、ポルフィロモナス・ジンジバリス由来のシステインプロテアーゼを使用することにより得ることができる。可変ドメイン及び定常ドメイン(例えば、CH1、CH2及び/又はCH3)を含む重鎖の発現を通じてこの技術によって形成することができる多量体は、本明細書に記載のリンカーによって追加の可変ドメインに接続され、又は軽鎖と対合され、これは、本明細書に記載のリンカーによって追加の可変ドメインに接続され、ポルフィロモナス・ジンジバリス由来などのタンパク質分解酵素が、当該重鎖の定常ドメインを切断し、いくつの結合ドメインが長いアーム上に存在するかに応じて、無傷の切断2Fab’又はより多くの結合ドメインの多量体を残す。
【0174】
本明細書に記載の宿主細胞及びヘテロ二量体化技術を使用することにより、二重特異性部分及び多重特異性部分の効率的な生成は、Fc領域(例えば、CH2及び/又はCH3)が除去された大型バッチで起こすことができ、F(ab’)n部分の高濃度のプールを生成することで効率的な研究及び潜在的な治療用途が可能になり、サイレンシング(例えば、非存在)Fc、より短い半減期、及びより小さいサイズに関連する効果をもたらす。
【0175】
タンパク質分解酵素の除去
必須ではないが、切断多価多量体の生成時にタンパク質分解酵素を除去することが好ましい場合がある。固定化酵素(例えば、アガロースに固定化)の使用もまた、好ましい場合がある。酵素の除去は、酵素の末端(好ましくはN末端)に存在するHIS-NiNTI、ビオチン-アビジン、又はVSV/FLAG -抗VSV/FLAGタグなどのタグを含むタンパク質分解酵素を使用することなど、当該技術分野において既知の様々な手段によって達成することができ、酵素を抗タグ親和性カラムによって除去することを可能にする。Fcなどの抗体断片はまた、親和性クロマトグラフィー法を用いて単離することができる。同様に、タンパク質分解酵素は、電荷クロマトグラフィーによって除去することができ、又は電荷クロマトグラフィーによって後で除去することができるよう、強められた電荷を有する修飾酵素を製造することができる。
【0176】
あるいは、本発明の多価多量体の混合物、タンパク質分解酵素、及び定常ドメイン断片は、タンパク質分解酵素を変性させることが可能なpH条件又は温度条件に曝露することができるが、多価多量体対合を実質的に阻害せず、それにより、目的の多価多量体を損傷することなく、酵素の不活性化及び分離を促進する。
【0177】
医薬組成物及び使用方法
また、本発明の多量体と、医薬的に許容される担体及び/又は希釈剤と、を含む医薬組成物が、本発明によって提供される。
【0178】
したがって、本発明は、治療によってヒト又は動物の身体の処置に使用するための、本明細書に記載の多価多量体を提供する。
【0179】
医学的病態に罹患しているヒト又は動物を処置するための方法であって、治療有効量の、本明細書に記載の多価多量体をヒト又は動物に投与することを含む、方法が、本発明によって更に提供される。
【0180】
患者に投与されるべき本発明による多量体の量は、典型的には、治療用ウィンドウ内にあり、これは、治療効果を得るために十分な量が使用されるが、その量は、許容不可能な程度の副作用をもたらす閾値を超えないことを意味する。所望の治療効果を得るために必要とされる多価多量体の量が少なくなるほど、治療用ウィンドウは、典型的には大きくなる。したがって、低用量で十分な治療効果を発揮する本発明による多価多量体が好ましい。
【0181】
先行技術として示される特許文献又は他の事項への本明細書での言及は、その文書若しくは事項が既知であったこと、又はそれが有する情報が、特許請求の範囲のいずれかの優先日における共通の全般知識の一部であったことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0182】
本明細書に記載の各参考文献の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0183】
実施例1.多価多量体の無傷の抗体対応物に対する比較
5つの異なる抗体(PG6058p02(HER3 IgG Fc WT)配列番号66及び67;PG3004p04(HER2 IgG Fc WT)配列番号68及び69;二重特異性PB11247 MF6058(HER3)xMF3004(HER2)Biclonics(登録商標)Fc WT DEKK(米国特許出願公開第2017/0058035号)配列番号66~69;PG1337(TT IgG FcWT)配列番号70及び71;PB4248(TTxTT)Biclonics(登録商標)Fc WT DEKK(国際公開第2017/069628号)を、GingisKHAN Fabキット及びFabRICATORキット(Genovis)を使用して消化し、それぞれFab及びF(ab’)2断片を生成した。抗体配列を表3に示す。
【0184】
【表3】
【0185】
40単位及び200単位のGingisKHAN酵素を、2mMのシステイン(弱い還元剤)の存在下、37℃で2時間、100μg/mL及び500μg/mLのHER2/HER3多価抗体と共にインキュベートした。40単位及び200単位のFabRICrATOR LEもまた、還元剤を添加せずに37℃で2時間、100μg/mL及び500μg/mLのHER2/HER3多価抗体と共にインキュベートした。次いで、CaptureSelect CH1親和性カラム(Genovis)を使用して、両方の反応物を精製した。IgG、Fab及びF(ab’)2の濃度を、Protein Lセンサを使用してOctetで測定した。これを以下の表4に示す。
【0186】
【表4】
【0187】
純度もまた、図2a~図2eに示されるようにSDS-PAGE分析により測定した。図2a~図2eに示されるように、未精製のFab消化物及びそれらのフロースルーサンプル(Fc)の両方が、非還元性ゲルにおいて部分的に減少して見える。これは、切断緩衝液中の弱い還元剤(2mMのシステイン)によって引き起こされた可能性が高い。非還元条件下では、F(ab’)2反応物中にFcは観察されていない。代わりに、「ハーフFc’バンド」が見え、これは、切断酵素が、2つの重鎖を接続するヒンジシステインの下方を切断するためである。したがって、「粗」F(ab’)2断片の非還元性ゲルは、F(ab’)2については97kDaの予想バンドサイズ、ハーフFc断片については25kDaを辛うじて上回る予想バンドサイズを与える。
【0188】
無傷のIgG、Fab及びF(ab’)2断片の、MCF7細胞に結合する能力を、FACS分析によって分析した。MCF7細胞は、HER2及びHER3の両方を発現するので選択された。
【0189】
【表5】
【0190】
表5に見られるように、生成されたFab及びF(ab’)2断片は、それらの結合特性を保持しており、IgG及び対応するF(ab’)2断片は、同様の親和性によって結合する。Fab断片もまた、予想されるとおり、より低い親和性によってであるが、結合する。このことは、PB11247(MF6058(HER3)xMF3004(HER2))Biclonics(登録商標)を使用して生成されたF(ab’)2断片中のHER2及びHER3アームの両方が利用可能であり機能的であることを示している。
【0191】
IgG又はbiclonics由来のF(ab’)2断片の、機能的活性を保持する能力については、ヘレグリン依存性MCF-7増殖アッセイを使用して測定した。抗体PG3004(Her2)、PG6058(Her3)、PG1337(TT)、MF6058(HER3)xMF3004(HER2)Biclonic(登録商標)Fc WT DEKK(米国特許出願公開第2017/0058035号)及びMF1337xMF1337)(TTxTT)、並びに上記抗体の、ヒンジの下方で切断可能な酵素への曝露時に製造されたF(ab’)2断片(粗500μg/mLの反応混合物及び精製F(ab’)2断片の両方)を、9点片対数滴定シリーズで、100%遮断対照としての10μg/mL(Octetで測定したとき)から下げていって試験した。スタウロスポリン(1:200)を100%遮断対照として使用した。各プレート上に、ヘレグリンなしの2つのウェル、ヘレグリンありであるが阻害剤なしの2つのウェル、及び1:200のスタウロスポリンありの2つのウェル(最大阻害)を入れた。図3に示されるように、PB11247F(ab’)2断片は、増殖アッセイにおいて、それらの対応するBiclonics(登録商標)の程度に機能的であり、精製又は未精製F(ab’)2活性の間に明確な差異がない。
【0192】
実施例2.三価IgG分子由来のF(ab’)3の製造
F(ab’)n断片(F(ab’)3、2Fab’、及びFab断片を含む)を多価多量体から生成する能力も、分析した。図4に示されるように、F(ab’)3と、2Fab’又はFab断片との両方が、選択されたプロテアーゼ(例えば、FabRICATOR又はGingisKHAN)に基づいて生成される。異なる抗原結合特性及び共通軽鎖を含む以下の三価多量体、すなわち、PT23103p09(配列番号72及び73の重鎖VH2-リンカー-CH1-VH3配列を有する);PT23103p15(配列番号74及び75の重鎖VH2-リンカー-CH1-VH3配列を有する);PT23103p04(配列番号76及び77の重鎖VH2-リンカー-CH1-VH3配列を有する);PT23103p08(配列番号78及び79の重鎖VH2-リンカー-CH1-VH3配列を有する);PT23103p03(配列番号80及び81の重鎖VH2-リンカー-CH1-VH3配列を有する);PT23103p11(配列番号82及び83の重鎖VH2-リンカー-CH1-VH3配列を有する);及びPT23103p12(配列番号84及び85の重鎖VH2-リンカー-CH1-VH3配列を有する)を分析した。各PTは、MF1337(破傷風トキソイド)配列番号70及び71をVH3の位置(頂部の長いアーム)で含み、MF1122(フィブリノーゲン)配列番号86及び87をVH2の位置(内部の長いアーム)で含み、MF1025(サイログロブリン)配列番号88及び89をVH1の位置(短いアーム)で含み、各VHがcLCと対合されている、以下の三価多量体をコードする。図4を参照のこと。三価多量体配列を表6に示す。
【0193】
【表6-01】
【表6-02】
【表6-03】
【表6-04】
【表6-05】
【0194】
各酵素反応について、400μLの最終反応体積中200μg/mLのIgGを、10倍希釈還元緩衝液中で、80単位のFabRICATOR LE又は80単位のGingisKHANのいずれかと共にインキュベートし、37℃で2時間インキュベートした。PT23103p09、PT23103p015、PT23103p04について、250μLの反応混合物を、CaptureSelect CH1カラムを使用するF(ab’)nの精製に使用した。Fc及び酵素を含有するフロースルーを、溶出画分と共に回収した。得られた全てのF(ab’)n調製物のタンパク質濃度を、A280nmで測定した。表7は、各消化物のタンパク質濃度を示している。
【0195】
【表7】
【0196】
粗抽出物で得られたF(ab’)3の百分率は、PT23103p09、PT23103p15、及びPT23103p04について、55~74%の範囲であった。消化粗抽出物について、全タンパク質濃度を多価多量体の出発物質に対して分析し、これは、全ての多価多量体を有する場合に、タンパク質の100%を占める結果になるものであった。分子量(Da)に対して濃度(mg/mL)を分析することにより、また、多価多量体、切断多価多量体、及び切断Fcの、表8に示される値を有する分子量により多価多量体の出発物質と比較して、収率パーセントを計算する。
【0197】
【表8】
【0198】
抗体断片の特異的結合を確認するのに、破傷風、フィブリノーゲン、及びサイログロブリンに対する特異的結合を測定するためのELISA反応を行った。生成された切断多価多量体、Fab、及び非消化IgGを、2μg/mLでコーティングされた破傷風トキソイド、10μg/mLでコーティングされたフィブリノーゲン、又は10μg/mLでコーティングされたサイログロブリンに対する滴定範囲で、結合について試験した。2.5μg/mLでコーティングされたhuEGFR-Fcの陰性対照を使用した。各精製部分:F(ab’)3、Fab及び2Fab’について、7.5μg/mLのタンパク質濃度を分析し、PG1337p324を陰性対照及び陽性対照の両方として含めた。結合F(ab’)nの検出を、1/2000希釈で、CH-1検出抗体を使用して実施した。
【0199】
表9に示されるように、全てのサンプル(非消化、粗、及び精製Fab)は、VH3の位置で、又はF(ab’)3の「長いアーム」上の頂部位置で破傷風トキソイドへの結合を保持していた(図4を参照のこと)。結合シグナル(450nmでの吸収)は、非消化サンプルと消化サンプルとで非常に類似している。
【0200】
【表9】
【0201】
次に、三価切断多量体を、F(ab’)3の長いアームの内部位置であるVH2の位置に位置する、フィブリノーゲン結合について分析した(図4を参照のこと)。FabRICATOR F(ab’)3消化サンプル(非消化、粗、び精製Fab)は全て、フィブリノーゲンへの結合を保持していた(表10)。結合シグナル(450nmでの吸収)は、非消化サンプルと消化サンプルとで非常に類似していた。GingisKHAN 2Fab’(図4を参照のこと)では、結合は保持されていたが、リンカーIgG1G4S、IgG2AMH、IgG2AH、及びIgG2BHでは減少した。したがって、リンカーIgG1H、IgG1MH、及びIgG1UHによるIgGは全て、フィブリノーゲンへの結合を失った。
【0202】
【表10】
【0203】
三価多量体を、VH1、すなわち、F(ab’)3の短いアーム位置に位置するサイログロブリン結合についても分析した(図4を参照のこと)。FabRICATOR F(ab’)3サンプル(非消化、粗、び精製Fab)は全て、サイログロブリンへの結合を保持していた(表11)。結合シグナル(450nmでの吸収)は、非消化サンプルと消化サンプルとで非常に類似していた。このFabは三価切断多量体における、VH1、短いアームの位置にあり、酵素消化により影響を受けなかった。GingisKHANでは、サンプル(非消化、粗、び精製Fab)の全てが、サイログロブリンへの結合を保持していた。結合シグナル(450nmでの吸収)は、非消化サンプルと消化サンプルとで非常に類似していた。
【0204】
【表11】
【0205】
断片産生を、SDS-PAGE電気泳動法によっても確認した。図5(a~d)に示されるように、Fabricatorは、各三価の切断多価多量体の(Fab’)3断片の生成によく作用した。PT23103p09については、非処理IgG(非還元(NR)及び還元(R))は、適切なタンパク質バンドを示した。還元及び非還元条件下の両方で、FabRICATOR反応物中にFcは観察されなかった。代わりに、「ハーフFc」バンドが観察され、これは、この酵素が、2つの重鎖を接続するヒンジシステインの下方を切断し、2つのCH2-CH3ポリペプチドがもたらされるためである。未精製GingisKHAN反応物及びそのフロースルーサンプル(Fc)の両方が、非還元性ゲルにおいて減少して見えた。これは、切断緩衝液中に存在する弱い還元剤(2mMのシステイン)によって引き起こされた可能性が高く、これにより、SDS-PAGEサンプル調製時にジスルフィド結合の減少をもたらす。精製GingisKHAN反応物中に、予想された断片が見えている(図5a)。
【0206】
PT23103p15については、非処理IgG(NR及びR)も適切に見えた。FabRICATORサンプルは、適切なタンパク質バンドを示した。還元及び非還元条件下の両方で、FabRICATOR反応物中にFcは観察されなかった。代わりに、「ハーフFc」バンドが観察され、これは、この酵素が、2つの重鎖を接続するヒンジシステインの下方を切断し、2つのCH2-CH3ポリペプチドがもたらされるためである。未精製GingisKHAN反応物及びそのフロースルーサンプル(Fc)の両方が、非還元性ゲルにおいて減少して見えた。これは、切断緩衝液中で弱い還元剤(2mMのシステイン)によって引き起こされた可能性が高く、これにより、SDS-PAGEサンプル調製時にジスルフィド結合の減少をもたらす。非還元SDS-PAGEで分析した精製GingisKHAN反応物中、3つのバンドは50kDa前後で現れる。これらの3つのバンドは、F(ab’)3の3つの単一のFabを表しており、リンカーの部分が長いアームからの2つのFabとこれらのFabに接続されたヒンジの部分との間にあるので、異なる高さで動く。還元条件下では、全てのタンパク質が、VL-CL又はVH-CH1ポリペプチドの高さで、ほぼ25kDaにて動いた。ELISAでのフィブリノーゲンに対する結合能力は、粗反応物及び精製反応物の両方で失われたが、ELISAでの破傷風及びサイログロブリンに対する結合能力は、依然として失われていなかった。(図5b)。
【0207】
PT23103p04については、非処理IgG(NR及びR)は、適切に見えた。全てのFabRICATORサンプルが、適切なタンパク質バンドを示した。非還元条件下では、FabRICATOR反応物中にFcは観察されなかった。代わりに、「ハーフFc」バンドが見え、これは、この酵素が、2つの重鎖を接続するヒンジシステインの下方を切断し、2つのCH2-CH3ポリペプチドがもたらされるためである。未精製GingisKHAN反応物及びそのフロースルーサンプル(Fc)の両方が、非還元性ゲルにおいて減少して見えた。これは、切断緩衝液中で弱い還元剤(2mMのシステイン)によって引き起こされた可能性が高く、これにより、SDS-PAGEサンプル調製時にジスルフィド結合の減少をもたらす。精製GingisKHAN反応物中に、予想された断片が見えていた(図5c)。
【0208】
PT23103p08、PT23103p03、PT23103p11、及びPT23103p12については、非処理IgG(NR及びR)が適切に見えた。全てのFabRICATORサンプルが、適切なタンパク質バンドを示した。非還元条件下では、FabRICATOR反応物中にFcは観察されなかった。代わりに、「ハーフFc」バンドが見え、これは、この酵素が、2つの重鎖を接続するヒンジシステインの下方を切断し、SDS-PAGEサンプル調製時にジスルフィド結合の減少をもたらすためである。粗GingisKHAN反応物は、非還元性ゲルにおいて減少して見えた。これは、切断緩衝液中で弱い還元剤(2mMのシステイン)によって引き起こされた可能性が高く、これにより、SDS-PAGEサンプル調製時にジスルフィド結合の減少をもたらす。PT23103p08及びPT23103p03サンプルについては、FabRICATOR反応物は、予想のとおりにF(ab’)3を示しているが、GingisKHAN反応物は2Fab’断片を示さず、代わりに、単一のFab断片におおよそ相当する、より小さいバンドが特定された。FabRICATORで消化したPT23103p11及びPT23103p12については、F(ab’)3が生成する。PT23103p11及びPT23103p12については、消化されたGingisKHANによって、予想のとおりに2Fab’断片を生成するが、GingisKHANで消化されたときに特定の成分が減少する(図5d)。還元は、使用される時間又は試薬を調整することによって容易に軽減し得ることが理解される。
【0209】
まとめると、FabRICATORで消化した反応物では、全てのサンプルが、予想されたタンパク質バンドを示した。非還元条件下では、FabRICATOR反応物中にFcは観察されていない。代わりに、「ハーフFc」バンド又は「CH2-CH3」バンドが見え、これは、酵素が、2つの重鎖を接続するシステイン架橋の下方を切断し、2つのCH2-CH3ポリペプチドがもたらされるためである。
【0210】
2Fab’を生成するGingisKHANで消化した反応物については、いくつかのリンカー中に存在する配列(KSCDK/THTCPPC)(配列番号92)は、GingisKHANによって認識され、以下の三価分子については、リンカー配列は類似している。
【化3】
【0211】
したがって、これらのサンプル中の2Fab’は、SDS-PAGEプロファイルと相関する2つの別個のFabに切断された可能性が高い。これらのサンプルでは、遊離リンカーは、結合部位の妨げになることがあり、これによりフィブリノーゲンへの結合の損失を説明することができる。
【0212】
まとめると、FabRICATORは良好に作用し、本明細書に開示される方法により、高濃度で、特定の結合が維持された切断三価多量体(F(ab’)3)が生成され、各々のFabにおいて共通軽鎖を有する、DEKKなどのヘテロ二量体化により対合された切断多重特異性多量体(F(ab’)n)を高濃度で容易に生成することができるということが達成される。一方で、GingisKHAN酵素を使用することによる2Fab’断片の生成は、修飾IgG1ヒンジ配列KSCDK/THTSPPS(配列番号93)を欠いているリンカーに作用した。
【0213】
したがって、本明細書に開示される教示を用いると、当業者であれば、FabRICATOR酵素の使用によることなどで、実質的に純粋な切断多価(及び多重特異性)多量体を製造することができる。あるいは、多価多量体を使用することは、追加の結合ドメインが本明細書に開示される教示に従ってGingisKHANにより認識されるモチーフを欠いているリンカーによって当該多量体に接続される場合、当業者が、nFab’及びFabの混合物を製造することを可能にするものである。但し、nは2以上であり、nFab’は、本明細書に記載のリンカーにより1つ以上の追加の可変ドメインに接続された可変ドメインを含む重鎖で構成され、又は本明細書に記載のリンカーにより1つ以上の追加の可変ドメインに接続される軽鎖と対合される。
図1a
図1b
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図5c
図5d
【配列表】
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