(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】対向ピストンエンジンの排気触媒着火
(51)【国際特許分類】
F01N 3/18 20060101AFI20240220BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20240220BHJP
F01N 3/36 20060101ALI20240220BHJP
F02D 41/30 20060101ALI20240220BHJP
F02B 37/18 20060101ALI20240220BHJP
F02B 37/04 20060101ALI20240220BHJP
F02B 75/18 20060101ALI20240220BHJP
F02B 75/28 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
F01N3/18 D
F01N3/20 S
F01N3/36 B
F02D41/30
F02B37/18 A
F02B37/04 A
F02B75/18 J
F02B75/28 E
(21)【出願番号】P 2021564473
(86)(22)【出願日】2020-04-28
(86)【国際出願番号】 US2020030209
(87)【国際公開番号】W WO2020223199
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-03-06
(32)【優先日】2019-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506405644
【氏名又は名称】アカーテース パワー,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガジ,アフマド
(72)【発明者】
【氏名】シャム,ダニエル エム.
(72)【発明者】
【氏名】レドン,ファビエン ジー.
(72)【発明者】
【氏名】パティル,サムラト エム.
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-511293(JP,A)
【文献】特表2017-501325(JP,A)
【文献】特開2009-024506(JP,A)
【文献】特開2005-351184(JP,A)
【文献】特開2009-191745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/18
F01N 3/20
F01N 3/36
F02D 41/30
F02B 37/18
F02B 37/04
F02B 75/18
F02B 75/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、前記シリンダの第1の端部近くの吸気ポートと、前記シリンダの第2の端部近くの排気ポートと、質量空気流を前記吸気ポートに輸送するように構成された給気通路と、前記排気ポートから排気ガスを輸送するように構成された排気通路と、前記排気通路内の背圧弁と、前記排気通路内の触媒後処理装置と、を備え、前記触媒後処理装置が着火温度を有する触媒を含む、対向ピストンエンジンを動作させる方法であって、
前記対向ピストンエンジンの動作を開始する工程と、
前記シリンダ内で反対方向に移動するように配置された一対のピストンの端面間に形成された燃焼室において噴射された燃料の圧縮点火によって前記対向ピストンエンジンを動作させる工程と、
前記対向ピストンエンジンが動作している間に、前記触媒の温度を示す排気ガス状態を検知する工程と、
前記対向ピストンエンジンの動作状態にしたがって、前記排気ガス状態に応じて触媒着火手順を開始する工程と、
前記対向ピストンエンジンがアイドルしているときに、前記吸気ポートへの前記質量空気流を増加させ且つ前記背圧弁を閉じることによって、前記触媒着火手順を実行する工程と、
前記対向ピストンエンジンがチップイン過渡状態にあるときに、前記吸気ポートへの前記質量空気流を増加させ、前記噴射される燃料の量を増加させ、且つ前記噴射される燃料の噴射タイミングを早めることによって、前記触媒着火手順を実行する工程と、
前記対向ピストンエンジンがチップアウト過渡状態にあるときに、前記吸気ポートへの前記質量空気流を減少させ且つ前記噴射された燃料の噴射タイミングを遅らせることによって、前記触媒着火手順を実行する工程と、
前記排気ガス状態が、前記触媒の温度が前記触媒着火手順中に触媒着火閾値を超えることを示したときに、前記対向ピストンエンジンを通常運転状態に遷移させる工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記排気ガス状態が排気ガス温度である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記吸気ポートへの前記質量空気流を増加させる工程が、前記対向ピストンエンジンのターボチャージャおよびスーパーチャージャを調整することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ターボチャージャを調整することが、前記排気通路内のウェイストゲートを閉じることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ターボチャージャを調整することが、前記ターボチャージャのタービンの調整可能要素を閉じることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記スーパーチャージャを調整することが、前記スーパーチャージャの速度を増加させることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記スーパーチャージャの前記速度を増加させることが、スーパーチャージャ駆動装置の速度比を変更することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記排気ガス状態が排気ガスエンタルピーである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記吸気ポートへの前記質量空気流を増加させる工程が、前記対向ピストンエンジンのターボチャージャおよびスーパーチャージャを調整することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ターボチャージャを調整することが、前記排気通路内のウェイストゲートを閉じることを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ターボチャージャを調整することが、前記ターボチャージャのタービンの調整可能要素を閉じることを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記スーパーチャージャを調整することが、前記スーパーチャージャの速度を増加させることを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記スーパーチャージャの前記速度を増加させることが、スーパーチャージャ駆動装置の速度比を変更することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
対向ピストンエンジンであって、
シリンダの第1の端部近くの吸気ポート、および、前記シリンダの第2の端部近くの排気ポートを有するシリンダと、
前記シリンダ内で反対方向に移動するように配置された一対のピストンと、
質量空気流を前記吸気ポートに輸送するように構成された給気通路と、
前記排気ポートから排気ガスを輸送するように構成された排気通路と、
前記排気通路内の背圧弁と、
前記排気通路内の触媒後処理装置であって、着火温度を有する触媒を含む触媒後処理装置と、を備え、
前記対向ピストンエンジンが、制御ユニットをさらに備え、
前記制御ユニットは、
前記対向ピストンエンジンの動作を開始し、
前記対向ピストンエンジンが前記一対のピストンの端面間に形成された燃焼室に噴射された燃料の圧縮点火によって動作している間に、前記触媒の温度を示す排気ガス状態を検知し、
前記対向ピストンエンジンの動作状態にしたがって、前記排気ガス状態に応じて触媒着火手順を開始し、
前記対向ピストンエンジンがアイドル動作状態にあるときに、前記吸気ポートへの前記質量空気流を増加させ且つ前記背圧弁を閉じることにより、前記触媒着火手順を実行し、
前記対向ピストンエンジンがチップイン過渡状態にあるときに、前記吸気ポートへの前記質量空気流を増加させ、前記噴射される燃料の量を増加させ、且つ前記噴射される燃料の噴射タイミングを早めることによって、前記触媒着火手順を実行し、
前記対向ピストンエンジンがチップアウト過渡状態にあるときに、前記吸気ポートへの前記質量空気流を減少させ且つ前記噴射された燃料の噴射タイミングを遅らせることによって、前記触媒着火手順を実行し、
前記排気ガス状態が、前記触媒の温度が前記触媒着火手順中に触媒着火閾値を超えることを示したときに、前記対向ピストンエンジンを通常運転状態に遷移させる、ようにプログラムされた、対向ピストンエンジン。
【請求項15】
前記排気ガス状態が排気ガス温度である、請求項14に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項16】
前記吸気ポートへの前記質量空気流を増加させることが、前記対向ピストンエンジンのターボチャージャおよびスーパーチャージャを調整することを含む、請求項15に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項17】
前記ターボチャージャを調整することが、前記排気通路内のウェイストゲートを閉じることを含む、請求項16に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項18】
前記ターボチャージャを調整することが、前記ターボチャージャのタービンの調整可能要素を閉じることを含む、請求項16に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項19】
前記スーパーチャージャを調整することが、前記スーパーチャージャの速度を増加させることを含む、請求項16に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項20】
前記スーパーチャージャの前記速度を増加させることが、スーパーチャージャ駆動装置の速度比を変更することを含む、請求項19に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項21】
前記排気ガス状態が排気ガスエンタルピーである、請求項14に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項22】
前記吸気ポートへの前記質量空気流を増加させることが、前記対向ピストンエンジンのターボチャージャおよびスーパーチャージャを調整することを含む、請求項21に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項23】
前記ターボチャージャを調整することが、前記排気通路内のウェイストゲートを閉じることを含む、請求項22に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項24】
前記ターボチャージャを調整することが、前記ターボチャージャのタービンの調整可能要素を閉じることを含む、請求項22に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項25】
前記スーパーチャージャを調整することが、前記スーパーチャージャの速度を増加させることを含む、請求項22に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項26】
前記スーパーチャージャの前記速度を増加させることが、スーパーチャージャ駆動装置の速度比を変更することを含む、請求項25に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項27】
対向ピストンエンジン用の触媒着火装置であって、
前記対向ピストンエンジンのシリンダ内の空気と燃料との混合物の燃焼によって生成された排気ガスの流れを受け取るように構成された排気通路と、
ターボチャージャのタービンと直列に前記排気通路内に配置された触媒装置と、
前記触媒装置の触媒温度を示す前記排気ガスの排気ガス状態を検出するように構成された排気ガスセンサ装置と、
前記排気ガスセンサ装置に電気的に接続されたエンジン制御ユニットであって、
コールドスタート手順を実行して、前記対向ピストンエンジンをクランキングすることにより、燃料噴射式の圧縮点火モードの動作を開始し
前記コールドスタート手順中に安定した燃焼が達成されるかどうかを判定し、
前記安定した燃焼が達成された場合、前記排気ガス状態が、前記触媒の温度が前記触媒の着火温度よりも低いことを示しているかどうかを判定し、
前記触媒の温度が前記触媒の着火温度よりも低い場合、前記シリンダの吸気ポートへの加圧給気の流れを増加させ、前記排気ガス状態が、前記触媒の温度が着火温度を超えることを示すまで、前記排気通路内の前記排気ガスの流れを制限する、ようにプログラムされたエンジン制御ユニットと、を備える、対向ピストンエンジン用の触媒着火装置。
【請求項28】
温度センサ装置をさらに備え、前記排気ガス状態が排気ガス温度であり、前記温度センサ装置が、前記触媒装置の上流側の前記排気通路内に配置された排気ガス温度センサを備える、請求項27に記載の対向ピストンエンジン用の触媒着火装置。
【請求項29】
温度センサ装置をさらに備え、前記排気ガス状態が排気ガス温度であり、前記温度センサ装置が、ターボチャージャのタービン出口と前記触媒装置の入口との間の前記排気通路内に配置された排気ガス温度センサを備える、請求項27に記載の対向ピストンエンジン用の触媒着火装置。
【請求項30】
前記対向ピストンエンジンの給気通路内に質量空気流センサ、および、
温度センサ装置をさらに備え、前記排気ガス状態が排気ガスエンタルピーであり、前記温度センサ装置が、前記触媒装置の上流側の第1の排気ガス温度センサと前記触媒装置の下流側の第2の排気ガス温度センサとを備え、前記エンジン
の制御が、前記対向ピストンエンジンの給気通路を通る空気の質量流量と、前記第1の排気ガス温度センサによって検出された第1の排気ガス温度と前記第2の排気ガス温度センサによって検出された第2の排気ガス温度との差分とに基づいて、前記排気ガスエンタルピーを計算するようにさらにプログラムされる、請求項27に記載の対向ピストンエンジン用の触媒着火装置。
【請求項31】
シリンダと、前記シリンダの第1の端部近くの吸気ポートと、前記シリンダの第2の端部近くの排気ポートと、前記吸気ポートに空気を圧送するように構成されたスーパーチャージャと、前記排気ポートからの排気を輸送するように構成された排気通路と、前記排気通路内のタービンおよび前記スーパーチャージャの上流側の圧縮機を備えたターボチャージャと、前記タービンの下流側にある前記排気通路内の背圧弁と、前記排気通路内の触媒後処理装置であって、着火温度を有する触媒を含む触媒後処理装置と、を備える、対向ピストンエンジンを動作させる方法であって、
前記対向ピストンエンジンをクランキングすることにより、前記シリンダ内で圧縮点火燃焼を開始する工程と、
前記圧縮
点火燃焼が継続するにつれてクランキングが停止するときに、前記触媒後処理装置の触媒温度を上昇させる工程であって、
前記タービンおよび前記スーパーチャージャを調整して、前記吸気ポートへの質量空気流を増加させ、
前記背圧弁を閉じ、
前記触媒温度を示す排気ガス状態を判定し、
示された触媒温度が前記着火温度に近付くと、前記エンジンを通常動作状態に遷移させること、によって前記触媒後処理装置の触媒温度を上昇させる工程と、を含む、方法。
【請求項32】
前記シリンダ内への質量空気流を増加させるように前記タービンおよび前記スーパーチャージャを調整することが、前記タービンのウェイストゲートを閉じることを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記シリンダ内への質量空気流を増加させるように前記タービンおよび前記スーパーチャージャを調整することが、前記タービンの調整可能要素を閉じることを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記シリンダ内への質量空気流を増加させるように前記タービンおよび前記スーパーチャージャを調整することが、前記タービンのアスペクト比を増加させることを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記シリンダ内への質量空気流を増加させるように前記タービンおよび前記スーパーチャージャを調整することが、前記スーパーチャージャの速度を増加させることを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記スーパーチャージャの前記速度を増加させることが、前記スーパーチャージャを前記エンジンのクランクシャフトに結合する駆動装置の速度比を変更することを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記触媒温度を示す排気ガス状態を判定することが、前記触媒後処理装置の入口付近の前記排気通路内の排気ガス温度を検知することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記触媒温度を示す排気ガス状態を判定することが、
前記触媒後処理装置の上流側の前記排気通路内の第1の排気ガス温度を検知することと、
前記触媒
後処理装置の下流側の前記排気通路内の第2の排気ガス温度を検知することと、
前記第1の排気ガス温度および前記第2の排気ガス温度に基づいて前記触媒の温度を判定することと、
前記排気通路内の排気ガスの質量流量を示す排気質量流量値を判定することと、
前記触媒の温度および前記排気質量流量に基づいて、前記触媒後処理装置内の前記排気ガスのエンタルピーを判定することと、を含む、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気/燃料混合物の圧縮点火燃焼によって動作する対向ピストンエンジンの触媒着火に関する。
【背景技術】
【0002】
対向ピストンエンジンは、シリンダの中心軸に沿って対向する方向に往復運動するようにシリンダのボア内に配置された2つのピストンの配置を特徴とする内燃機関である。多くの場合、対向ピストンエンジンは、クランクシャフトの単一の完全な回転およびクランクシャフトに接続されたピストンの2ストロークで動作サイクルを完了する。ストロークは、典型的には、圧縮および動力ストロークとして示される。各ピストンは、シリンダの一方の端部に最も近いボトムセンタ(BC)領域と、一方の端部から最も遠く且つ他方のピストンに最も近いシリンダ内のトップセンタ(TC)領域との間を移動する。圧縮ストローク中、ピストンは、BC位置から離れて互いに向かって移動し、それらの端面間で給気を圧縮する。ピストンがそれらのTC位置を通過すると、圧縮された給気に噴射されて混合された燃料が、圧縮された空気の熱によって点火され、燃焼が続き、動力ストロークを開始する。動力ストローク中、生成された燃焼の圧力は、ピストンをそれらのBC位置に向かって付勢して離す。シリンダは、それぞれのBC領域の近くにポートを有する。対向ピストンのそれぞれは、ポートのそれぞれ1つを制御し、そのBC領域に移動するとポートを開き、BCからそのTC領域に移動するとポートを閉じる。一方のポートは、給気(「掃気」と呼ばれることもある)をボア内に入れるように機能し、他方のポートは、ボアからの燃焼生成物の通路を提供する。これらは、それぞれ、「吸気」ポートおよび「排気」ポートと呼ばれる(いくつかの説明では、吸気ポートは、「空気」ポートまたは「掃気」ポートと呼ばれる)。ユニフロー掃気対向ピストンエンジンでは、加圧給気がシリンダの一方の端部近くのその吸気ポートを通ってシリンダに入ると、排気ガスが反対側の端部近くのその排気ポートから流出する。したがって、ガスは、吸気ポートから排気ポートへと一方向に(「ユニフロー」)シリンダを通って流れる。
【0003】
対向ピストンエンジンの空気処理システムは、その動作中にエンジンに供給される給気およびエンジンによって生成される排気ガスの輸送を管理する。代表的な空気処理システム構造は、給気サブシステムおよび排気サブシステムを含む。給気サブシステムは、空気を受け入れて加圧し、加圧空気をエンジンの1つまたは複数の吸気ポートに供給する給気通路を含む。給気サブシステムは、タービン駆動圧縮機およびスーパーチャージャの一方または双方を備えてもよい。給気通路は、エンジンの吸気ポートに供給される前に給気を受け入れて冷却するように結合された少なくとも1つの空気冷却器を含むことができる。排気サブシステムは、圧縮機を駆動するタービンなどの他の排気サブシステム構成要素に供給するためにエンジン排気ポートから排気ガスを輸送する排気通路と、排気ガスを給気システムに輸送する排気ガス再循環(EGR)ループとを有する。
【0004】
内燃機関は、排気後処理装置を備えてもよい。これらは、触媒、分解、および濾過のうちの1つ以上を含むことができる熱駆動プロセスによって、排気ガス中のNO、NO2、および煤煙および他の未燃焼炭化水素などの燃焼副生成物を無害な化合物に変換するように構築される。窒素酸化物(まとめて、NOx)は、閾値温度(「着火温度」)に到達したときに動作(「着火」)を開始する触媒を含む選択的触媒還元(SCR)技術によって除去される。着火が起こると、触媒活性は、温度と共に増加する。触媒が最適に機能する温度範囲(「有効温度範囲」)が存在する。異なる触媒材料は、異なる有効温度範囲を有する。触媒装置を動作させる熱は、排気ガス自体から得られ、装置は、排気ガスのエンタルピー(熱含有量)が触媒をその有効温度範囲内に維持するのに十分であるときに最も効果的に動作する。SCR装置を含む後処理装置を備えた内燃機関の排気管理戦略は、装置が最適に機能することを可能にするのに十分な排気熱を触媒装置に供給しようとする。触媒の温度がその有効温度範囲を下回ると、触媒活性が低下し、触媒化が完全に停止する可能性がある。これらの状況下では、排気エンタルピーは、効果的な触媒性能を回復するために上昇されなければならない。
【0005】
したがって、触媒後処理装置を備えた内燃機関が最初に低温の内部および周囲状態下で始動される(「コールドスタート」)とき、後処理装置の制御下で望ましくない排出物を迅速にもたらすために、可能な限り迅速に着火を達成することが重要である。また、排気ガスのエンタルピーを、排気ガスの流れを低下させる状態でエンジンが動作しているときに、触媒を有効温度範囲に保つレベルに維持することも重要である。そのような状態は、アイドルおよび低負荷動作を含む。
【0006】
周囲の温度および圧力は、内燃機関における燃焼の質に影響を及ぼす。圧縮着火エンジンでは、シリンダ内の給気は、シリンダ内の空気および燃料の自動着火に必要な温度に到達するまで圧縮される。圧縮着火によって動作する2ストロークサイクル対向ピストンエンジンでは、燃焼の質は、点火前または点火時の掃気中に生じるシリンダ内の温度変動ならびに吸気および排気の相互作用によって影響を受ける場合がある。この感度は、特にシリンダ内の温度が安定した燃焼をサポートするレベルまで上昇する前の低温状態下で、エンジンを始動するときの失火および/または不規則な燃焼によって明らかにされる場合がある。
【0007】
ディーゼル燃焼に関連する排出物に関する政府の方針の主な目的の1つは、テールパイプエンジンからのNOxを歴史的に低いレベルに押し出すことであった。SCRシステムが可能な限り短い時間内に動作有効性に到達することを可能にするために、ディーゼルエンジンの排気エンタルピーを可能な限り迅速に増加させることが特に有益である。エンジンが冷間始動されるとき、その燃焼特性は、通常の動作状態のときとは大きく異なる。エンジンが始動してからその排気エンタルピーが触媒着火を引き起こすレベルまで上昇するまでの期間中、SCRシステムは、エンジンから排出されるNOxを低減するのに有効ではない。コールドスタート中、テールパイプ排出量は、ウォームスタート中よりも高く、エンジンが温かいうちにアイドルするときよりもさらに高い。したがって、NOx排出量を許容可能なレベルに保ちながら、触媒温度を可能な限り迅速に着火レベルに上げることが望ましく、必然的に、これは、安定した燃焼を迅速に達成することを含む。
【0008】
対向ピストンエンジンの排気サブシステムを、排気ガスが大気中に放出される前に装置を通って輸送されるときに望ましくない成分の排気ガスを浄化する後処理装置によって構成することが有用である。特に、2ストロークサイクルユニフロー掃気圧縮着火対向ピストンエンジンにとって、エンジンの通常動作中に触媒を有効温度範囲に維持するレベルで排気エンタルピーを維持しながら、エンジンの冷間始動後に選択的触媒還元装置を迅速に着火するために、排気エンタルピーを迅速に上昇させることができることが望ましい。
【0009】
コールドスタート状態下で対向ピストンエンジンの安定した燃焼を迅速に達成するという問題に対する解決策が、特許文献1に提示されている。この解決策は、燃料を噴射する前に、エンジンに保持された空気を加熱するためにエンジンをクランキングしながらエンジンを通る空気流を防止することと、その後、エンジンを通る質量空気流およびエンジンへの燃料噴射を制御して、安定した燃焼およびアイドル動作状態への移行のために熱を生成および保存することとを含む。
【0010】
特許文献2は、シリンダ内に閉じ込められた給気の質量に対するシリンダに供給される新鮮な空気およびEGRの質量の比の制御に基づいて、EGRを用いて対向ピストンエンジンの排気温度を管理するための戦略を記載している。戦略は、エンジン動作中のエンジンのシリンダ内の閉じ込め温度の値を判定し、その値を所定の範囲内に維持することによって実施される。閉じ込め温度の制御は、エンジンサイクル中のシリンダの最後のポート(典型的には、吸気ポート)の閉鎖時にシリンダ内に保持された給気の質量で割ったシリンダに供給される給気の質量として定義される修正給気比を制御することによって行われる。修正空気供給比の低い値は、高いレベルの内部残留物をもたらし、それによって閉じ込め温度の上昇につながる。
【0011】
特許文献1に提示されている対向ピストンのコールドスタート戦略は、安定した燃焼が達成された後に迅速な触媒着火を達成するためのいかなる特定の手順も含まない。特許文献2に記載されている対向ピストンの排気制御戦略は、シリンダ内の閉じ込め温度に基づいており、場合によっては、シリンダから後処理装置への排気ガスの輸送中の熱損失を考慮に入れることができないため、不正確ではないにしても不完全である場合がある。どちらの特許公報も、対向ピストンのコールドスタート中に熱エネルギが排気システムに迅速に供給されなければならず、始動後のエンジンの通常動作中にピークNOx低減効率が維持されなければならない場合に、動作サイクルにわたって低NOx排出レベルを達成することを目的とした完全な排気制御方法を提示していない。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、対向ピストンエンジンが動作している間に触媒後処理装置の触媒の温度を示す排気ガス状態を検知し、対向ピストンエンジンの動作状態または状態にしたがって排気ガス状態に応じて触媒着火手順を開始することによって実行される、対向ピストンエンジンの排気通路に配置された触媒後処理装置の迅速な着火を達成するように対向ピストンエンジンを動作させる方法を提供することである。
【0013】
対向ピストンエンジンがアイドル状態にあるとき、触媒着火手順は、対向ピストンエンジンへの質量空気流を増加させ、排気通路に配置された背圧弁を閉じることによって行われる。
【0014】
対向ピストンがチップイン過渡状態にあるとき、触媒着火手順は、対向ピストンエンジンへの質量空気流を増加させ、エンジンに噴射される燃料の量を増加させ、噴射された燃料の噴射タイミングを早めることによって行われる。
【0015】
対向ピストンエンジンがチップアウト過渡状態にあるとき、触媒着火手順は、対向ピストンエンジンへの質量空気流を減少させ、噴射された燃料の噴射タイミングを遅らせることによって行われる。
【0016】
排気ガス状態が、触媒着火手順中に触媒の温度が触媒着火閾値を超えることを示す場合、対向ピストンエンジンの遷移は、通常の動作状態に遷移される。
【0017】
本発明の特定の態様では、排気ガス状態が触媒後処理装置の着火温度を示す閾値未満である場合に、触媒着火手順が開始される。監視される排気ガス状態は、排気ガス温度または排気ガスエンタルピーを含むことができる。
【0018】
上述した従来の省略に鑑みて、本発明の目的はまた、排気ガス流の温度またはエンタルピーを制御することによって後処理システムの選択的触媒還元装置を着火し、エンジンがアイドル状態または過渡状態で動作している間に効果的な触媒活性を維持するように構成された、対向ピストンエンジン用の触媒着火装置を提供することである。
【0019】
以下の実施形態によって示される本発明は、これらに限定されるものではないが、車両、船舶、航空機、および定置形態を含む様々な対向ピストンエンジン用途において実施されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】従来技術の例示的な対向ピストンエンジンの概略図である。
【0021】
【
図2】
図1のエンジンの燃料噴射システムの実施形態を示す概略図である。
【0022】
【
図3】
図1のエンジンの空気処理システムの実施形態を示す概略図である。
【0023】
【
図4】本発明にかかる高速触媒着火のために装備された例示的な対向ピストンエンジンを示す概略図である。
【0024】
【
図5】本発明にかかる例示的な対向ピストンエンジンにおける高速触媒着火の方法の第1の実施形態を示すフローチャートである。
【0025】
【
図6】本発明にかかる例示的な対向ピストンエンジンにおける高速触媒着火の方法の第2の実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、例示的な対向ピストンエンジンの概略図である。必須ではないが好ましくは、エンジンは、少なくとも1つのシリンダを含む圧縮着火式の2ストロークサイクルユニフロー掃気対向ピストンエンジン(以下、「対向ピストンエンジン8」という。)である。対向ピストンエンジン8は、1つのシリンダを有してもよく、または2つ以上のシリンダを備えてもよい。いずれの場合でも、シリンダ10は、対向ピストンエンジン8の単一シリンダ構成および複数シリンダ構成の双方を表す。シリンダ10は、ボア12と、そのそれぞれの端部付近に、シリンダ内に機械加工、成形、または他の様態で形成された、長手方向に変位した吸気ポート14および排気ポート16とを含む。対向ピストンエンジン8の空気処理システム15は、これらのポートを介してエンジンへの給気の輸送およびエンジンからの排気を管理する。吸気ポートおよび排気ポートのそれぞれは、シリンダボアと関連するマニホールドまたはプレナムとの間で連通する1つ以上の開口部を含む。多くの場合、ポートは、隣接する開口部がシリンダ壁の中実部分(「ブリッジ」とも呼ばれる)によって分離されている開口部の1つ以上の周方向アレイを備える。説明によっては、各開口部は、「ポート」と呼ばれる。しかしながら、そのような「ポート」の円周方向アレイの構成は、
図1に示すポート構成と変わらない。燃料噴射器17は、シリンダの側壁を貫通して開口するねじ孔に固定されたノズルを含む。対向ピストンエンジン8の燃料システム18は、噴射器17によるシリンダ内への直接側方噴射のための燃料を供給する。2つのピストン20、22は、それらの端面20e、22eを互いに対向させてボア12内に配置される。便宜上、ピストン20は、吸気ポート14を開閉するため、「吸気」ピストンと呼ばれる。同様に、ピストン22は、排気ポート16を開閉するため、「排気」ピストンと呼ばれる。必須ではないが好ましくは、吸気ピストン20および他の全ての吸気ピストンは、対向ピストンエンジン8のクランクシャフト30に結合され、排気ピストン22および他の全ての排気ピストンは、エンジン8のクランクシャフト32に結合される。
【0027】
対向ピストンエンジン8の動作はよく理解されている。それらの端面間で発生する圧縮着火燃焼に応答して、対向ピストンは、それらがシリンダ10内のそれらの最も内側の位置にあるそれぞれのTC位置から離れるように移動する。TCから移動している間、ピストンは、それらがシリンダ内のそれらの最も外側の位置にあり且つそれらの関連するポートが開いているそれぞれのBC位置に近付くまで、それらの関連するポートを閉じたままにする。ピストンは、吸気ポート14および排気ポート16が一致して開閉するように同相で移動することができる。あるいは、吸気ポートおよび排気ポートが異なる開閉時間を有するように、一方のピストンが他方のピストンに同位相で先行してもよい。給気が吸気ポート14を通ってシリンダ10に入ると、吸気ポート開口部の形状は、排気ポート16の方向に渦巻くシリンダの長手方向軸を中心に給気に渦を巻かせる。旋回渦34は、空気/燃料の混合、燃焼、および汚染物質の抑制を促進する。
【0028】
図2は、共通レール直接噴射燃料システムに組み込まれることができる燃料システム18を示している。燃料システム18は、シリンダ内への直接側方噴射によって各シリンダ10に燃料を供給する。好ましくは、各シリンダ10には、シリンダ側壁を通ってピストンの端面間のシリンダ空間に直接噴射するように取り付けられた複数の燃料噴射器が設けられる。例えば、各シリンダ10は、2つの燃料噴射器17を有する。好ましくは、燃料は、燃料ポンプ43によって燃料が圧送される少なくとも1つのレール/アキュムレータ機構41を含む燃料源40から燃料噴射器17に供給される。燃料戻りマニホールド44は、燃料が圧送されるリザーバに戻るために、燃料噴射器17および燃料源40から燃料を収集する。燃料源40の要素は、エンジン制御ユニット(ECU)によって発行された燃料コマンドに応答するそれぞれのコンピュータ制御アクチュエータによって動作される。
図2は、180°未満の角度で配置された各シリンダの燃料噴射器17を示しているが、これは概略図にすぎず、噴射器の位置または噴射器が噴射する噴霧の方向に関して限定することを意図するものではない。
図1に最もよく見られる好ましい構成では、噴射器17は、噴射軸に対してシリンダ8の対向する半径方向に燃料噴霧を噴射するために配置される。好ましくは、各燃料噴射器17は、ECUによって発行された噴射器コマンドに応答するそれぞれのコンピュータ制御アクチュエータによって動作される。
【0029】
図3は、対向ピストンエンジン8に供給される給気および対向ピストンエンジン8によって生成される排気ガスの輸送を管理する空気処理システム15の実施形態を示している。代表的な空気処理システム構造は、給気通路48および排気通路49を含む。空気処理システム15では、給気源は、新鮮な空気を受け取り、それを処理して給気にする。給気通路48は、給気を受け取り、それを対向ピストンエンジン8の吸気ポートに輸送する。排気通路49は、タービン、様々な弁、および排気後処理装置などの排気サブシステム内の他の排気構成要素に供給するために、エンジンの排気ポートから排気ガスを輸送するように構成される。
【0030】
空気処理システム15は、1つ以上のターボチャージャを備えることができるターボチャージャシステムを含む。例えば、ターボチャージャ50は、共通のシャフト53上で回転するタービン51および圧縮機52を含む。タービン51は、排気通路49に配置され、圧縮機52は、給気通路48に配置されている。ターボチャージャ50は、排気ポートを出てエンジン排気ポート16から直接、または排気ポートから流れる排気ガスを収集する排気マニホールド57から排気通路49に流入する排気ガスからエネルギを抽出する。好ましくは、マルチシリンダ対向ピストンエンジンでは、排気マニホールド57は、シリンダブロック70内に支持または鋳造される全てのシリンダ10の排気ポート16と連通する排気プレナムまたはチェストを備える。タービン51は、それを通過する排気ガスによって回転される。これは、圧縮機52を回転させ、新鮮な空気を圧縮することによって給気を生成させる。シリンダ10の排気ポートからの排気ガスは、排気マニホールド57に流入し、そこを通ってタービン51の入口に流れる。タービンの出口から、排気ガスは、1つ以上の後処理装置59を通って排気出口55に流れる。
【0031】
給気サブシステムは、空気フィルタ(図示せず)を介して圧縮機52に吸気を供給することができる。圧縮機52が回転すると、それは吸気を圧縮し、圧縮された(すなわち、「加圧された」)吸気は、加圧された吸気を1つまたは複数のエンジンの吸気ポートに圧送するように構成されたスーパーチャージャ60の入口に流入する。これに関して、圧縮機52によって圧縮され、スーパーチャージャ60によって圧送された空気は、スーパーチャージャの出口から吸気マニホールド68に流入する。加圧された給気は、吸気マニホールド68からシリンダ10の吸気ポート14に供給される。好ましくは、マルチシリンダ対向ピストンエンジンでは、吸気マニホールド68は、全てのシリンダ10の吸気ポート14と連通する吸気プレナムまたはチェストを備える。
【0032】
給気サブシステムは、対向ピストンエンジン8の吸気ポートに供給する前に給気を受け入れて冷却するように結合された少なくとも1つの冷却器をさらに含むことができる。これらの例では、圧縮機52によって供給された給気は、冷却器67を通って流れ、そこからスーパーチャージャ60によって吸気ポートに圧送される。第2の冷却器69がスーパーチャージャ60の出口と吸気マニホールド68との間に設けられてもよい。
【0033】
空気処理システム15は、高圧タイプ、低圧タイプ、またはそれらの組み合わせの排気ガス再循環(EGR)ループを含むことができる。一例は、EGR弁74およびミキサ75を含む高圧EGRループ73である。排気は、EGR弁74の制御下で、EGRループ73を通って再循環される。EGRループ73は、EGRミキサ75を介して給気サブシステムに結合される。場合によっては、必須ではないが、EGR冷却器(図示せず)がEGRループ73に設けられてもよい。
【0034】
図3をさらに参照すると、空気処理システム15は、給気および排気サブシステム内の別々の制御点でガス流を制御するために装備されている。給気サブシステムでは、給気流およびブースト圧力は、スーパーチャージャの出口72からスーパーチャージャの入口71へと空気を循環させるように構成されたスーパーチャージャバイパスループ80(「スーパーチャージャ再循環ループ」または「スーパーチャージャシャントループ」と呼ばれることもある)の動作によって制御されることができる。スーパーチャージャバイパスループ80は、吸気マニホールド68内への給気の流れ、したがって吸気マニホールド内の圧力を制御するスーパーチャージャバイパス弁(以下、「バイパス弁」という。)82を含む。より正確には、バイパス弁82は、スーパーチャージャの出口72(高圧)からその入口71(低圧)へと給気流を分流する。バイパス弁82は、「再循環」弁または「シャント」弁と呼ばれることもある。排気出口通路58内の背圧弁90は、タービンからの排気の流れ、したがって排気ガス温度の変調を含む様々な目的のための排気通路内の背圧を制御する。
図3のように、背圧弁90は、タービン51の出口の下流側において、排気出口通路58に配置されることができる。排気ガスをタービンホイールから遠ざけるためにウェイストゲート92が設けられることができ、これは、タービンの速度の調整を可能にする。タービン速度の調整は、圧縮機速度の調整を可能にし、ひいては給気ブースト圧力の制御を可能にする。弁74、82、90およびウェイストゲート92は、ECUによって発行された回転コマンドに応答するコンピュータ制御のアクチュエータによって開閉される。場合によっては、これらの弁は、全開または全閉の2つの状態に制御されてもよい。他の場合には、弁のいずれか1つ以上は、全開と全閉との間の状態に可変または連続的に調整可能であってもよい。
【0035】
場合によっては、空気処理システム内のガス流および圧力の制御はまた、可変速スーパーチャージャシステムによって提供されてもよい。これらの態様では、スーパーチャージャ60は、スーパーチャージャ駆動機構(以下、「駆動装置」という。)95によって対向ピストンエンジン8のクランクシャフト30または32に結合され、それによって駆動されてもよい。駆動装置95は、段階的変速装置、または無段変速装置を備えてもよく、この場合、給気流、およびブースト圧力は、駆動装置95に提供される信号に応答してスーパーチャージャ60の速度を変えることによって変えられることができる。他の例では、スーパーチャージャは、駆動装置を係合解除する機構を有する単一速度装置であってもよく、したがって2つの異なる駆動状態を与える。さらに他の例では、係合解除機構には、段階的可変駆動装置または無段可変駆動装置が設けられてもよい。あるいは、スーパーチャージャ駆動機構は、電気モータを備えてもよい。いずれにせよ、駆動装置95は、ECUによって発行されたコマンドによって作動される。
【0036】
タービン51は、エンジンの速度および負荷の変化に応じて変化されることができる有効アスペクト比を有する可変ジオメトリタービン(VGT)装置であってもよい。アスペクト比の変更は、タービン51の速度の調整を可能にする。タービン速度の調整は、圧縮機速度の制御を可能にし、ひいては給気圧の制御を可能にする。多くの場合、VGTを備えるターボチャージャは、ウェイストゲートを必要としなくてもよい。VGT装置は、ECUによって発行されたタービンコマンドに応答するコンピュータ制御アクチュエータによって動作される。あるいは、タービン51は、固定ジオメトリ装置を備えてもよい。
【0037】
本開示では、エンジン制御機構は、プログラムされたコントローラ、複数のセンサ、いくつかのアクチュエータ、および対向ピストンエンジン8全体に分散された他の機械装置を備えるコンピュータベースのシステムである。制御機構は、燃料システム、空気処理システム、冷却システム、潤滑システム、および他のエンジンシステムを含む様々なエンジンシステムの動作を管理する。プログラムされたコントローラは、関連するセンサ、アクチュエータ、および他の機械装置に電気的に接続された1つ以上のECUを含む。
図4のように、
図2の燃料システムおよび
図3の空気処理システム(および、場合によっては、対向ピストンエンジン8の他のシステム)の制御は、プログラム可能なECU94を含む制御機械化によって実施される。ECU94は、1つ以上のマイクロプロセッサ、メモリ、I/O部分、コンバータ、ドライバなどから構成され、様々なエンジン動作状態下で燃料処理アルゴリズムおよび空気処理アルゴリズムを実行するようにプログラムされる。そのようなアルゴリズムは、エンジン8の動作を調整するためにECU94によって実行されるエンジンシステム制御プログラムの一部である制御モジュールにおいて具現化される。
【0038】
例示的な共通レール直接噴射システムでは、ECU94は、燃料源40にレール圧力(レール)コマンドを発行し、噴射器17の動作のための噴射器(噴射器)コマンドを発行することによって、シリンダへの燃料の噴射を制御する。空気処理システムの場合、ECU94は、背圧(背圧)、ウェイストゲート(ウェイストゲート)、およびバイパス(バイパス)コマンドを発行して、それぞれ、排気背圧弁90、ウェイストゲート92、およびバイパス弁82を開閉することによって、対向ピストンエンジン8を通るガス(吸気および排気)の輸送を制御する。スーパーチャージャ60が可変駆動装置または電気モータによって動作される場合、ECU94はまた、駆動装置95を作動させるための駆動装置(駆動装置)コマンドを発行することによってガス輸送を制御する。また、タービン51が可変ジオメトリ装置として構成されている場合、ECU94はまた、VGTコマンドを発行してタービンのアスペクト比を設定することによってガス流を制御する。
【0039】
様々なセンサが、対向ピストンエンジン8全体の物理的状態を測定する。センサは、物理装置または仮想装置を備えることができる。ECU94には、物理センサが電気的に接続されている。仮想センサは、ECU94によって実行される計算において具現化される。対向ピストンエンジン8が動作すると、ECU94は、エンジン負荷およびエンジン速度などの様々な条件に基づいて現在のエンジン動作状態を判定し、現在のエンジン動作状態に基づいて、共通レール燃料圧力および噴射持続時間の制御によって各シリンダ10内に噴射される燃料の量、パターン、およびタイミングを制御する。例えば、ECU94は、エンジン負荷の変化を検出するためのエンジン負荷センサ96(これは、アクセルポジションセンサ、トルクセンサ、速度調整器、もしくは巡航制御システム、または任意の均等の手段を表すことができる)、クランクシャフト32の位置(クランク角、またはCA)、回転方向、および回転速度を検出するエンジン速度センサ97、およびレール圧力を検出するセンサ98(エンジンがデュアル共通レール燃料システムを備えている場合、そのようなセンサは2つ存在することができる)に動作可能に接続されることができる。いくつかのセンサは、空気処理システム内の特定の位置におけるガス質量流量、圧力、および温度を検出する。これらのセンサは、対向ピストンエンジン8の動作中に空気処理システム15を制御するタスクをECU94が実行することを可能にする。これらのセンサは、質量空気流センサ100と、第1の排気ガス温度センサ102を備える排気ガス温度センサ装置とを含む。質量空気流センサ100は、給気通路48を通って圧縮機52の入口への空気の質量流量を検出する。排気ガス温度センサ102は、排気通路49を流れる排気ガスの温度を検出する。
【0040】
触媒着火:
図4に示すように、例示的な対向ピストンエンジン8は、背圧弁90の上流側の排気通路49に配置された触媒装置105の迅速な着火のために装備されることができる。触媒装置は、例えばSCR装置を含むことができる。図示の例では、触媒装置105は、タービン51の出口の下流側に配置されている。しかしながら、これは、触媒装置がタービンの入口の上流側に配置されることができるため、限定的な因子ではない。対向ピストンエンジン8がディーゼル燃料を燃焼させることによって動作する場合、SCRは、他の後処理装置を備える排気後処理システムの一部であってもよい。そのような場合、後処理システムの他の構成要素は、ディーゼル酸化触媒(DOC)106、ディーゼル微粒子フィルタ(DPF)108、および場合によっては他の後処理装置を含むことができる。
図4に示す後処理装置の配置は、装置が排気通路49内で様々な順序で分散されることができるため、限定的ではない。対向ピストンエンジンの非ディーゼル、ガソリン、および混合燃料用途では、触媒装置105は、様々な他の後処理装置と組み合わされたSCRを備えることができる。
【0041】
対向ピストンエンジン8がオフであるとき、スタータモータ装置110が対向ピストンエンジン8のクランクシャフトと係合した状態でエンジン動作を開始するために始動手順が実行されてもよい。スタータモータ装置110は、ECU94によってクランクコマンド(クランク)を介して制御される。始動手順は、エンジン始動信号112がイグニッションスイッチ、スタータボタン、または均等物のうちの1つ以上によって生成されたときに、対向ピストンエンジン8をスタータモータ装置110によって最初にクランキングすることを含むことができる。始動手順のプレクランクモードでは、スタータモータ110がクランクシャフトを回転させ始める一方で、ECU94は、これを介してクランクシャフトの速度を記録する。目標クランクシャフト速度に到達すると、エンジン制御は、クランクモードに移行し、その間に燃焼が初期化されて安定化される。クランクモード中にクランクシャフト速度が目標運転速度に到達すると、エンジン制御は、運転モードに移行し、ECU94は、エンジン制御目標を運転モード較正設定に設定し、補助エンジン機能を有効にし、スタータモータ110をオフにする。コールドスタート手順のプレクランクモードの間、ECU94は、燃料を噴射する前に、エンジン内に保持された空気を加熱するためにエンジンをクランキングしながらエンジンからの空気流を防止し、その後、安定した燃焼およびアイドル動作状態への移行のために熱を生成および保存するために、クランクモード中のコールドスタートスケジュールにしたがってエンジンを通る質量空気流およびエンジンへの燃料噴射を制御することができる。例えば、同一出願人が所有する米国特許出願公開第2015/0128907号明細書に記載されている対向ピストンエンジンのコールドスタート戦略を参照されたい。
【0042】
クランキングが終了し、対向ピストンエンジン8が運転モードに到達すると、ECU94は、排気通路内の排気ガス流の検知された状態に基づいて、計算、推定、テーブルルックアップ、または同等の手順のうちの1つ以上によって触媒の温度(「触媒温度」)を示す排気ガス状態を連続的に判定する。場合によっては、触媒温度は、触媒装置の入口に近接して排気通路49に配置された排気ガス温度センサの出力によって示されることができる。したがって、例えば、ECU94に電気的に接続された物理装置とすることができる排気ガス温度センサ102は、排気通路49において、タービン51の出口の下流側とSCR105の入口の上流側との間に配置されることができる。この場合、ECU94によって判定される触媒温度の値は、排気ガス温度センサ102によって検出されるSCR105の入口温度(TCat-in)とみなすことができる。
【0043】
ECU94によって維持される閾値(TCat-LO)は、触媒の着火温度の較正値に対応することができる。ECU94は、触媒の温度がその着火温度付近であるかそれ未満であるかを判定するために、SCR入口温度(TCat-in)と閾値(TCat-LO)とを比較する。そのような場合、ECU94は、触媒装置に供給される排気ガス熱を増加させることによって触媒の温度を上昇させるための触媒着火手順を実行する。この手順は、触媒の温度を上昇および/または維持するために、始動直後、延長されたアイドル状態もしくは他の低負荷状態(例えば、車両が動いていないときのように)中、またはトルク要求に起因する過渡状態中に作動されることができる。
【0044】
図4に示すような対向ピストンエンジン構成では、ECU94は、対向ピストンエンジン8の空気処理システムが制御されて排気ガスを急速に加熱し、エンジンのコールドスタート中に、および/またはエンジンの通常動作中に低エンジン排出NOxを維持しながら、後処理システムの選択的触媒還元装置を迅速に着火する方法を実行することができる。これに関して、ECU94は、対向ピストンエンジン8がオフされた後に最初に始動されると、スタータモータ装置110を作動させる。ECU94は、運転モード制御を開始する前に、安定した燃焼を実現するためのコールドスタート手順を実行してもよい。ECU94は、運転モード制御の開始時に、エンジン運転をアイドル状態に遷移させてもよい。ECU94は、燃焼が安定した状態で、排気ガスの熱状態を監視して触媒の温度を上昇させる触媒着火手順を実行するか否かを判定することにより、触媒動作を評価する。目的は、触媒温度を着火レベルまたは触媒が最適に動作する有効範囲内のレベルに上昇させることとすることができる。
【0045】
対向ピストンエンジンがどのように始動されることができるかに関係なく、対向ピストンエンジンがアイドル状態または高温定常状態で動作するとき、ECU94は、触媒の温度を上昇させるために触媒着火モード制御が必要かどうかを判定するために排気ガスの状態を監視することによって触媒動作を評価する。
【0046】
触媒温度を評価するためにECU94によって監視される排気ガス状態は、排気ガスの温度または排気ガスのエンタルピーなどの熱状態を含むことができる。
【0047】
第1の実施形態:対向ピストンエンジン8を制御する触媒着火方法の第1の実施形態は、
図4および
図5を参照して理解されることができる。エンジン始動信号112が入力されてエンジンを始動すると(ステップS1)、ECU94は、対向ピストンエンジン8のクランキングを開始するスタータモータ装置110を作動させるクランク信号を生成する。クランキングが継続している間、ECU94は、燃焼を迅速に開始および安定化するためにコールドスタート手順を実行することができる。運転モード制御への遷移時には、エンジン動作が安定したアイドル状態に移行する。この初期期間中、ECU94は、エンジン速度およびエンジン負荷を判定するために様々なセンサを読み取り、触媒着火制御モードが作動されるべきかどうかを判定するために排気ガス温度センサ102を読み取る。また、エンジン状態チェックもまた、エンジン制御がクランクモードから外れたことを検出するために、エンジン速度センサ97を使用してECU94によって実行されることができる(ステップS2)。クランクモードが完了すると、ECU94は、運転モード制御手順に遷移する。ECU94は、運転モードに入ると、触媒温度をチェックする(ステップS3)。触媒温度チェックが、触媒着火制御モードが必要ではないことを示す場合、ECU94は、エンジンを最大燃料効率のための通常または定常状態動作状態に遷移するエンジン制御の通常(またはHSS(高温定常状態))運転制御モードに切り替えることができる(ステップS3からステップS9)。
図5のように、触媒着火方法は、ステップS9からステップS3まで連続的にループして、触媒温度をチェックする。通常運転制御モードでは、ECU94は、エンジン速度、エンジン負荷、および他のパラメータをチェックして、空気および燃料処理システムの適切な設定を判定する。
【0048】
ステップS3において、SCR入口温度(TCat-in)と閾値(TCat-LO)とを比較することによって触媒の温度が着火温度付近またはそれ未満であることをECU94が検出すると、ECU94は、次に、センサ96、97を読み取って、エンジン負荷およびエンジン速度がアイドル運転状態であるかどうかを判定する(ステップS4)。対向ピストンエンジン8がアイドル中に触媒着火手順が実行されるべきであるとECU94が判定した場合、ECUは、以下の動作を行うことによってアイドル触媒着火手順を実行する(ステップS5):1つまたは複数の吸気ポートへの質量空気流を増加させ、背圧弁を閉じる。これに関して、ターボチャージャ50は、ECU94によって調整されてタービン51の速度を増加させ、スーパーチャージャ60は、ECU94によって調整されてエンジン8の1つまたは複数の吸気ポートへの質量空気流を加速し、背圧弁90は、ECU94によって閉じられる。タービン51の速度を増加させることは、圧縮機52をより速く回転させ、これは、圧縮機52によって生成される給気の圧力を増加させる(ブーストする)。タービン51が固定ジオメトリ装置である場合、ウェイストゲート92を閉じることによってその速度が増加されることができ、これは、タービン入口への排気ガスの流れを増加させる。可変ジオメトリ(VGT)装置の場合、タービンの速度は、その調整可能な要素(ベーンまたはノズルなど)を閉じることによって増加されることができる。場合によっては、空気処理システムは、1つ以上のEGRループを装備することができる。そのような場合、ECU94は、ステップS5においてEGR弁(または、複数のEGRループが存在する場合、複数の弁)を閉じることができる。これらの動作および背圧弁90の閉鎖は、掃気比の減少をもたらし、ひいてはシリンダ内に閉じ込められる残留ガスの量を増加させる。その結果、これは、シリンダ内および排気ガス温度を上昇させる。同時に、ECU94は、バイパス弁82を閉じることによって、および/または駆動装置95に高駆動比に指令することによって、スーパーチャージャ60を調整することができ、これは、スーパーチャージャが、エンジンの1つまたは複数の吸気ポートへの加圧給気の供給を増加させ、それによって圧縮機52のブーストの度合いを増加させる。これは、より高い圧送損失を引き起こし、これは、同じ速度を維持するためのECU94による試みから生じるECU94によって指令されるより高い燃料量をもたらし、最終的に燃焼の増加およびより高い排気温度をもたらす。ステップS5から、ECU94は、ステップS3におけるTCat-inの試験にループバックし、TCat-inがステップS3におけるチェックに失敗する限り、ステップS5、S3、およびS4を介してループすることによってこれらの触媒着火状態を維持する。ECU94は、TCat-inが閾値を超えて上昇すると、通常のエンジン動作のための運転制御モードに切り替わる(ステップS3からステップS9)。通常制御モードでは、ECU94は、TCat-inのチェックを実行するためにステップS3を連続的に循環しながら、エンジン速度、エンジン負荷、および他のパラメータをチェックして空気および燃料処理システムの適切な設定を判定することによってステップS9を実行する。
【0049】
ステップS4において、触媒着火要件が判定されたときにエンジン負荷センサ96が過渡エンジン状態をECU94に示した場合、ECU94は、過渡状態が「チップイン」過渡状態(例えば、加速、エンジン負荷の増加、燃料またはトルクの増加の要求などに起因する正の過渡強度)であるか、または「チップアウト」過渡状態(例えば、減速、エンジン負荷の減少、燃料またはトルクの要求される減少などに起因する負の過渡強度)であるかをチェックするためにステップS6を実行する。負荷変化がどれだけ積極的であるかに応じて、負荷過渡強度は影響を受ける。したがって、低負荷動作状態下で検知されることができる僅かな変化(低強度過渡)は、ステップS6において、大きな変化(高強度過渡)と同様に、チップインまたはチップアウト過渡状態として分類されることができる。過渡強度は、次に、較正によって空気システムアクチュエータ設定値および燃料システムアクチュエータ設定値の変化の程度を判定する。
【0050】
チップイン過渡状態が検出された場合、ECU94は、以下の動作を行うことによってチップイン触媒着火手順を実行する(ステップS7):対向ピストンエンジン8の1つまたは複数の吸気ポートへの質量空気流の急激な増加を指令し、噴射される燃料の量の増加を指令する。ECU94は、タービンをその速度を増加させるように調整することができ、これは、圧縮機をより速く回転させ、それによって圧縮機によって生成された給気の圧力を増加(ブースト)させる。タービン51が固定ジオメトリ装置である場合、ウェイストゲート92を閉じることによってその速度が増加されることができる。可変ジオメトリ(VGT)装置の場合、タービンの速度は、その調整可能な要素(ベーンまたはノズルなど)を閉じることによって増加されることができる。タービン51を調整すると同時に、ECU94はまた、バイパス弁82を閉じてエンジン8の1つまたは複数の吸気ポートに供給される給気のブーストを増加させることによってスーパーチャージャ60を調整することもできる。チップイン過渡状態の間、空気処理システム構成要素の慣性は、指令された空気流に対する空気処理システムの応答を遅延させる場合がある。バイパス弁82を閉じることは、要求に対するスーパーチャージャ60の応答時間を減少させる。対向ピストンエンジン8が多速度駆動装置95およびバイパス弁82を装備している場合、バイパス弁は閉じられ、駆動装置は、より高い駆動比またはより速い速度に指令される。これは、質量空気流の供給の迅速な増加を確実にする。場合によっては、空気処理システムは、1つ以上のEGRループを装備することができる。そのような場合、ECU94は、所望の角度、例えば、0°(完全に閉じられた)から10°(部分的に開いている)の間の角度だけEGR弁(または複数の弁)を閉じることができる。ECU94は、上昇傾斜過渡中に煤煙を低減するのを助けるために、過渡の強度に基づいて、指令された燃料圧力を達成するためのレール圧力コマンドを発行することができる。例えば、レール圧力は、110%から125%の範囲の量だけ増加されてもよい。ECU94はまた、より多くの燃焼熱を発生させるために噴射タイミングを早めることができ、より高い排気温度をもたらす。例えば、噴射タイミングは、2°(クランク角)から6°(クランク角)の範囲の量だけ早めてもよい。ECU94はまた、煙リミッタが装備されている場合、空気/燃料混合気の過剰な富化を防止するために煙リミッタを実行することができる。触媒の温度は、ステップS3、S4、S6、およびS7を循環しながら、ECU94によって連続的にチェックされる。ECU94は、TCat-inが閾値を超えて上昇すると、通常のエンジン動作のための制御モードに切り替わる(ステップS3からステップS9)。通常運転制御モードでは、ECU94は、TCat-inのチェックを実行するためにステップS3を連続的に循環しながら、エンジン速度、エンジン負荷、および他のパラメータをチェックして空気および燃料処理システムの適切な設定を判定することによってステップS9を実行する。
【0051】
チップアウト過渡状態が検出された場合、ECU94は、以下の動作を行うことによってチップアウト触媒着火手順を実行する(ステップS8):対向ピストンエンジン8の1つまたは複数の吸気ポートへの質量空気流の急激な減少を指令し、噴射される燃料の量の減少を指令する。ECU94は、バイパス弁82を全開にして、スーパーチャージャ60によるエンジンの1つまたは複数の吸気ポートへの空気供給を低減することができる。場合によっては、空気処理システムは、EGRループを装備してもよい。そのような場合、ECU94は、空気供給の低減を支援するために、EGR弁または複数の弁を所望の最大角度まで開くことができる。ECU94は、排気通路内の背圧を増大させるために、背圧弁90を最小角度まで閉じてもよい。例えば、背圧弁角度は、25°から35°の角度まで閉じられてもよい。ECU94は、過渡現象の強度に基づいて、噴射タイミングを遅らせることができる。例えば、噴射タイミングは、2°(クランク角)から4°(クランク角)の範囲の量だけ遅くしてもよい。後処理触媒の温度は、ECU94によって継続的にチェックされる。ECU94は、ステップS3、S4、S6、およびS8を連続的に循環し、TCat-inが閾値を超えて上昇すると、通常のエンジン動作のための運転制御モードに切り替わる(ステップS3からステップS9)。通常運転制御モードでは、ECU94は、TCat-inのチェックを実行するためにステップS3を連続的に循環しながら、エンジン速度、エンジン負荷、および他のパラメータをチェックして空気および燃料処理システムの適切な設定を判定することによってステップS9を実行する。
【0052】
第2の実施形態:対向ピストンエンジン8を制御する触媒着火モードの第2の実施形態は、
図4および
図6を参照して理解されることができる。この実施形態では、ECU94は、推定、計算、およびテーブルルックアップのうちの1つ以上によって、SCR105内の触媒の温度を示す触媒温度値と、排気通路49内の排気ガスの質量流量を示す排気質量流量値とに基づいて排気エンタルピーの値を判定することができる。
【0053】
第2の実施形態では、触媒装置の入口温度(TCat-in)と出口温度(TCat-out)との差分と、場合によっては他のパラメータとに基づいて、ECU94によって触媒温度(TCAT)が判定、計算、または推定される。この実施形態は、TCat-inを検出するための第1の排気ガス温度センサ102と、SCRの出口の下流側の排気ガス温度を検出するために触媒装置の出口に近接して排気通路49内に配置された第2の排気ガス温度センサ103とを含む排気ガス温度センサ装置によって実施されてもよい。この場合、ECU94によって推定される触媒温度値は、第1の排気ガス温度センサ102によって検出されたTCat-inと、第2の排気ガス温度センサ103によって検出されたTCat-outとの差分に基づいて、ECU94で判定、計算、または推定されてもよい。
【0054】
排気通路49内の排気ガスの質量流量を示す排気質量流量値(Mexg)は、エンジンへの質量空気流量、エンジン負荷、エンジン速度、および場合によっては他のパラメータを含むエンジン動作パラメータに基づいてECU94によって判定、計算、または推定される。これらのエンジン動作パラメータの現在値は、質量空気流センサ100、エンジン速度センサ97、エンジン負荷センサ96、および場合によっては他のセンサを含む様々なセンサによって検出される。これらの現在値は、経験的に導出された較正マップまたは数学的モデルを含むことができるECU94によって維持される処理モジュールに提供される。
【0055】
対向ピストンエンジン8を低温で始動させると、ECU94は、対向ピストンエンジン8をクランキングし始めるスタータモータ装置110を作動させるためのクランク信号を生成することによって、
図5のステップS1に関して説明した方法でコールドスタートモードを開始する(ステップS10)。クランキングが継続している間、ECU94は、燃焼の開始および安定化、ならびにエンジン動作の安定したアイドル状態への遷移を含むコールドスタート手順を実行する。
【0056】
この初期コールドスタートモードの間、ECU94は、エンジン速度およびエンジン負荷を判定するために様々なセンサを読み取り、質量空気流センサ100、第1の排気ガス温度センサ102、および第2の排気ガス温度センサ103を読み取る。また、エンジン状態チェックもまた、エンジンがクランクモードから外れたことを検出するために、エンジン速度センサ97を使用してECU94によって実行されることができる(ステップS11)。クランキングが完了すると、ECU94は、運転制御モードに遷移する。安定した燃焼が達成されると、ECU94は、(T
Cat-in)および(T
Cat-out)に基づいて、触媒温度値(T
CAT)を判定、推定、または計算する(ステップS12)。例えば、ECU94は、演算T
CAT=((T
Cat-in)-(T
Cat-out))を実行してもよい。別の例として、ECU94は、2つ以上の差分((T
Cat-in)-(T
Cat-out))の平均値としてT
CATを計算してもよい。あるいは、T
CATは、テーブルルックアップによって判定されてもよい。ECU94はまた、エンジンへの質量空気流量、エンジン速度、およびエンジン負荷に基づいて排気質量流量値(M
exg)を判定、推定、または計算する。触媒温度および排気質量流量を使用して、ECU94はまた、SRC105を流れる排気ガスのエンタルピー値(E
Cat)を判定、推定、または計算する(ステップS13)。例えば、ECU94は、E
CAT=((T
CAT)×(M
exg))の演算を実行してもよい。あるいは、E
Catは、テーブルルックアップによって判定されてもよい。ECU94はまた、排気ガスのエンタルピーの所望の値に対応することができる閾値エンタルピー値(E
Cat-TH)を維持する。ステップS14において、ECU94は、所定の滞留時間の間、SCR105を流れる排気ガスのエンタルピーが閾値エンタルピー値未満であったかどうかを判定する。所定の期間(E
Cat<E
Cat-TH)の場合、結論は、触媒が所望の動作レベルで実行するために十分に加熱されていないということであり、この場合、ステップS14における判定から肯定的な出口が得られる。次いで、第2の実施形態の触媒着火手順の残りの部分は、
図5のステップS4からS8に対応する方法で進行する。これに関して、ステップS15においてエンジン動作のアイドル状態が検出されると、ECU94は、
図5のステップS5と同様にアイドル触媒着火手順を実行する(ステップS16)。一方、ステップS15においてアイドル状態が検出されない場合、ECU94は、現在のエンジン運転の過渡状態を検出し(ステップS17)、
図5のステップS7のようなチップイン触媒着火手順(ステップS18)、または
図5のステップS8のようなチップアウト触媒着火手順(ステップS19)のいずれかを実行する。ステップS14におけるエンタルピーチェックが、触媒着火制御手順が必要でないことを示す場合(ステップS14にける決定からの否定的な出口)、ECU94は、(
図5のステップS9のように)最大燃料効率のために通常制御モードで動作するか、または通常制御モードに切り替えることによってステップS20を実行することができる。
【0057】
追加のステップ:
図5および
図6に示す触媒着火手順の第1および第2の実施形態は、排気温度をさらに上昇させるために、既に説明したステップに加えてステップを使用することができる。例えば、給気通路48内の1つ以上の給気冷却器は、本発明にかかる触媒着火手順中、特にコールドスタートステップ中に、給気から抽出される熱を低減するために冷却剤の流れを低減または停止することによってバイパスされてもよい。これは、その後、排気通路49を通って伝播するより温かい新鮮な給気温度をもたらす。
【0058】
別の例では、ウェイストゲート92は、本発明にかかる触媒着火手順のアイドルステップ中に開位置に調整されてもよい。ウェイストゲートを開くことにより、タービン51を通常加熱する排気ガス流からのエンタルピーの一部が排気ガス流に保持され、それにより触媒へのより高い排気ガス温度を生成する。
【0059】
さらに、本発明にかかる触媒着火手順のアイドルステップ中のアイドル速度は、通常またはHSS運転制御モードと比較して増加されることができる。これは、より高いアイドル速度を維持するためにより多くの燃料注入を必要とする、より高い摩擦をもたらす。したがって、より高い燃料注入の結果として、より高い排気温度が達成される。アイドル速度は、NOx低減を確実にするために後処理触媒の温度が較正値を上回った後、冷却剤温度の関数として通常の目標速度まで低下する。
【0060】
前述の明細書では、実施形態は、実装ごとに異なることができる多数の特定の詳細を参照して記載された。記載された実施形態の特定の適合および変更が行われることができる。他の実施形態は、本明細書の考察および本明細書に開示される本発明の実施から当業者にとって明らかとすることができる。本明細書および実施例は、例示としてのみ考慮され、本発明の真の範囲および精神は、以下の特許請求の範囲によって示されることが意図される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0061】
【文献】米国特許出願公開第2015/0128907号明細書
【文献】国際公開第2013/126347号パンフレット