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特許7440566親水性ポリマー・ナノコーティングを有する担体層を生成するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】親水性ポリマー・ナノコーティングを有する担体層を生成するための方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 10/02 20060101AFI20240220BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20240220BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240220BHJP
   C23C 14/12 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
D06M10/02 C
B32B27/12
D04H1/728
C23C14/12
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022077398
(22)【出願日】2022-05-10
(65)【公開番号】P2022177805
(43)【公開日】2022-12-01
【審査請求日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】21174477
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506161108
【氏名又は名称】シーファー アーゲー
【氏名又は名称原語表記】SEFAR AG
【住所又は居所原語表記】Hinterbissaustrasse 12 9410 Heiden Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(72)【発明者】
【氏名】ムハンマド モクブル オサン
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ エレンベルゲル
(72)【発明者】
【氏名】マッテオ カマニ
(72)【発明者】
【氏名】カリム チャカリ
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-512479(JP,A)
【文献】特表2018-523588(JP,A)
【文献】特表2022-553468(JP,A)
【文献】特表2002-526219(JP,A)
【文献】特表2008-518105(JP,A)
【文献】特開昭59-164342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C23C14/00-14/58
D03D1/00-27/18
D04H1/00-18/04
D06M10/00-16/00
19/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ポリマー・ナノコーティングを有する担体層(11)を生成するための方法であって、
前記担体層(11)は、ポリマー材料の織糸で生成され、前記親水性ポリマー・ナノコーティングは、有機前駆体モノマーを使用する低圧プラズマ重合プロセスによって、前記担体層(11)上に塗布され
プラズマ処理は、13.56MHzの無線周波数で動作するロール・ツー・ロール・システムにおける複数のローラを有するプラズマ・チャンバー内で実行され、前記プラズマ・チャンバー内に、第1の電極および第2の電極があり、
前記担体層(11)は、基板として前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置され、それにより、前記基板の両側に処理が施される、方法。
【請求項2】
細孔構造を有する少なくとも1つの膜層(12)が設けられ、前記膜層(12)は、重ね合わされた繊維のエレクトロスピニングによって生成され、前記担体層と前記膜層(12)とを接続して複合膜(10)を形成する結合が設けられ、前記親水性ポリマー・ナノコーティングは、前記有機前駆体モノマーを使用する前記低圧プラズマ重合プロセスによって、前記担体層(11)および前記少なくとも1つの膜層(12)上に塗布される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前処理は、500ワットから1800ワットである第1の電力出力で、2分から5分である第1の期間、70mTorrから150mTorrである第1のベース圧力で、20℃から60℃である第1の温度で実行され、
コーティング・ステップは、100ワットから800ワットである第2の電力出力で、2分から5分である第2の期間、15mTorrから100mTorrである第2のベース圧力で、20℃から60℃である第2の温度で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
プラズマ活性化(前処理)のためのガス用のマス・フロー・コントローラと、前記親水性ポリマー・ナノコーティングの堆積のための液体モノマー用のモノマー蒸気供給システムとを有するプラズマ・チャンバーの幅にわたる入口システムを使用して、ガスおよびモノマー蒸気を前記プラズマ・チャンバーに均一に分布させる、請求項に記載の方法。
【請求項5】
プラズマ処理は、規定された条件下で、前記基板上で実行され、官能層としての前記親水性ポリマー・ナノコーティングは、モノマーからなるモノマー蒸気、またはモノマーとヘリウムまたはアルゴンの混合物を使用して、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基およびこれらの混合物からなる基から選択される化学官能基で生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記親水性ポリマー・ナノコーティングは、1つのプロセス・ステップ、および/または、時間的にオフセットされた2つのプロセス・ステップで堆積され、第1のコーティング・ステップは、接着層として使用され、第2のコーティング・ステップは、10から80nmの層厚を有する官能層として使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記担体層(11)および/または前記複合膜(10)の前処理は、接着層および/または官能層の堆積前に、アルゴン、ヘリウム、窒素および酸素、ならびにそれらの組合せを使用して実行される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記前処理、前記接着層、および前記官能層は、同じステップで、または時間的にオフセットされた3つの別個のステップで生成される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記担体層(11)および/または前記複合膜(10)は、規定された条件下でアルゴン、ヘリウム、窒素および/または水素でさらに処理され、プラズマは、各プロセス・ステップ後、時間的にオフセットされる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記親水性ポリマー・ナノコーティングは、各プロセス・ステップあたり4分以下の処理時間で、前記担体層(11)および/または前記複合膜(10)上に塗布され、ASTM F1980-16に準拠した加速時効処理に対する耐性が向上し、濾過における液体の輸送、ウィッキングおよび液体スループットが向上し、および/または、水接触角が0°(完全な湿潤)から60°(中程度の湿潤)の表面張力が得られる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
織布メッシュが、同じポリマー材料の織糸または少なくとも2つの織糸を有する前記担体層(11)として使用され、第1の織糸は、第1のポリマー材料で作られ、第2の織糸は、前記第1のポリマー材料とは異なる第2のポリマー材料で作られる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記織布メッシュは、前記第1の織糸および前記第2の織糸を使用して異なるパターンで織られ、前記第1の織糸および前記第2の織糸は、任意の断面形状または幾何学的配置またはパターンで生成することができる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記膜層(12)は、エレクトロスピニングによって、前記担体層(11)上に直接生成され、および/または、前記膜層(12)は、エレクトロスピニングによって、異なる担体基板上に生成され、次いで、結合のため積層プロセスによって、前記担体層(11)上に転写される、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性ポリマー・ナノコーティングを有する担体層を生成するための方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、本発明の方法に従って生成されるポリマー親水性・ナノコーティングを有する担体層に関する。
【背景技術】
【0003】
薄膜技術における進化する技術開発において、たとえば、潜在的な医療用途向けに、独特の官能特性を示す永久的な親水性官能基の薄膜を調製するための化学蒸着プロセスを開発する継続的な必要性がある。適切な揮発性前駆体の欠如およびコーティングにおける組成制御の困難さは、この目的の達成を遅延させる主な障壁である。
【0004】
一般的な複合膜およびその生成のための方法は、特許文献1から得ることができる。ともに繊維からなる担体層およびバリア層を備えた不織布について説明している。
【0005】
特許文献2から、布地層とコーティングされたナノファイバーの層とを備えた衣服が得られる。最初に、ナノファイバーの層が生成され、その後、液体コーティングが設けられる。その後、このようにコーティングされた繊維層は、布地層に結合される。
【0006】
特許文献3は、コーティングされたナノファイバーの不織布織物に関する。
【0007】
内側の布地層、外側の布地層、および繊維の不織布膜からなるバリア層を有する衣服用の複合繊維は、特許文献4から得ることができる。繊維膜には、布地層に結合される前にプラズマ・コーティングが施される。
【0008】
特許文献5は、支持構造に塗布されるエレクトロスピン膜を備えた濾材を説明している。支持構造は、金属、セラミック、ガラス繊維、グラファイト、またはポリマー材料で構成することができる。
【0009】
電子デバイス用の微孔膜を備えた音響構成要素は、特許文献6から収集できる。音響構成要素には微孔膜層があり、そこに細い繊維の層が塗布される。ここで、微孔膜層は支持層として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願公開第2011/0177741A1号
【文献】米国特許出願公開第2008/0220676A1号
【文献】米国特許出願公開第2010/0136865A1号
【文献】WO2013/043397A2
【文献】米国特許出願公開第2013/0197664A1号
【文献】米国特許出願公開第2014/0060330A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、医療、ヘルスケア、食品などの衛生用途のための恒久的な親水性布および/または複合膜を、費用対効果の高い手法で製造するための、堅牢で信頼性の高い方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、目的は、一方では、請求項1の特徴を有する親水性ポリマー・ナノコーティングを有する担体層を生成するための方法によって、および請求項15の特徴を有するポリマー親水性・ナノコーティングを有する担体層によって達成される。
【0013】
本発明の好ましい実施形態は、それぞれの従属請求項に記載される。
【0014】
本発明による方法は、ポリマー担体層がポリマー材料の織糸(フィラメント)で生成され、親水性ポリマー・ナノコーティングは、有機前駆体モノマーを使用する低圧プラズマ重合プロセスによって、ポリマー担体層上に塗布されることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明による担体層は、本発明の方法に従って生成されるポリマー親水性・ナノコーティングを有し、複合膜を形成し、ポリマー親水性・ナノコーティングは、担体層および/または複合膜上に塗布されることを特徴とする。
【0016】
本発明の基本的な考えは、布地上の親水性ポリマー・ナノコーティングが、プラズマ処理法、詳細にはプラズマ化学気相堆積法(PECVD)によって生成されるという事実にある。したがって、他の薄膜とは特に、官能基が網目構造に組み込まれた高度に架橋したポリマー網目構造によって異なり、したがって、修正された表面の、高度な長期安定性を得ることができる。
【0017】
さらに、プラズマ化学気相堆積法によって堆積されたプラズマ・ポリマーのバルク構造は、従来のポリマーのバルク構造とはかけ離れており、完全に不規則である。本発明のナノコーティングのようなプラズマ・ポリマー・コーティングは、体積あたりの官能基の高い密度、高度に架橋および分岐したプラズマ・ポリマー網目構造、わずかナノメートル厚のコーティング(<100nm)、基板に対するコーティングの高い接着性、および基板のバルク特性の不変性によって、従来のポリマーとは異なる。
【0018】
プラズマ重合中に得られるプラズマ・ポリマーにおける官能基の保持は、高度の湿潤性を得るための重要な課題のうちの1つである。したがって、布地や複合膜などのポリマー基板材料に、新しい独自の特性を導入することができる。
【0019】
好ましくは、細孔構造を有する少なくとも1つの膜層が設けられ、膜層は、重ね合わされた繊維(ファイバー)のエレクトロスピニングによって生成され、担体層と膜層とを接続して複合膜を形成する結合が設けられ、親水性ポリマー・ナノコーティングは、有機前駆体モノマーを使用する低圧プラズマ重合プロセスによって、ポリマー担体層および少なくとも1つの膜上に塗布され、それにより、追加の少なくとも1つの膜層によって、担体層にさらなる特性を提供することが可能である。これらの特性の例は、濾過用途に使用できる非常に微細な構造である可能性がある。
【0020】
プラズマ処理は、好ましくは約13.56MHzの無線周波数で動作するロール・ツー・ロール・システムにおける複数のローラおよび/またはエキスパンダを有するプラズマ・チャンバー内で実行され得る。チャンバーは、第1の電極セットおよび第2の電極セットをさらに備え、担体層および/または複合膜は、第1の電極セットと第2の電極セットとの間に配置され、それにより、基板の両側に処理が施される。
【0021】
実施形態では、前処理は、好ましくは約500ワットから約1800ワットである第1の電力出力で、好ましくは約2分から約5分である第1の期間、好ましくは約70mTorrから約150mTorrである第1のベース圧力で、好ましくは約20℃から約60℃である第1の温度で実行される。その後、コーティング・ステップは、好ましくは約100ワットから約800ワットである第2の電力出力で、好ましくは約2分から約5分である第2の期間、好ましくは約15mTorrから約100mTorrである第2のベース圧力で、好ましくは約20℃から約60℃である第2の温度で実行される。
【0022】
基板の表面、すなわち担体層および/または複合膜は、官能層の堆積前に、化学的および/または形態学的に修正することができる。これは前処理によって行われる。結果として、プラズマ・ポリマーは、プラズマ重合中、すなわちコーティング・ステップ中に、基板に特にしっかりと付着することができる。
【0023】
好ましくは、プラズマ活性化(前処理)のためのガス用のマス・フロー・コントローラと、ナノコーティングの堆積のための液体モノマー用のモノマー蒸気供給システムとを有するプラズマ・チャンバー幅にわたる入口システムを使用して、ガスおよびモノマー蒸気をプラズマ・チャンバーに均一に分布させる。
【0024】
実施形態では、プラズマ処理は、規定された条件下で、基板上で実行され、ここでは、官能層としてのナノコーティングは、モノマーからなるモノマー蒸気、またはモノマーとヘリウムまたはアルゴンとの混合物を使用して、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、およびこれらの混合物からなる基から選択される化学官能基で生成される。これらの提案された基は、長期のコーティング安定性に適している。追加の焼戻しステップまたは後処理ステップなしで官能層が形成されることはさらに有利である。非重合性ガスおよび/または、アルゴン、酸素、およびヘリウムのガス状混合物を使用して、基板表面を活性化および洗浄することができる。
【0025】
ナノコーティングは、1つのプロセス・ステップ、および/または、時間的にオフセットされた2つのプロセス・ステップで堆積され、第1のコーティング・ステップは、接着層として使用され、第2のコーティング・ステップは、好ましくは10から80nmの層厚を有する官能層として使用することが可能である。これにより、第1のステップでは、表面の活性化および洗浄を実施して、アルゴン、酸素などの非重合性ガスを使用して接着を促進することができ、第2のステップでは、その後のナノ薄膜の堆積が、重合性ガスおよび/または重合性ガス/非重合性ガスのガス状混合物を使用して実行される。結果として、官能層は、一官能性および/または二官能性の親水基を含み得る。
【0026】
さらに、担体層および/または複合膜の前処理は、接着層および/または官能層の堆積前に、アルゴン、ヘリウム、窒素および酸素、ならびにそれらの組合せを使用して実行することができる。それにより、非重合性ガスおよび/またはアルゴン、酸素、およびヘリウムのガス状混合物を使用して、基板表面を活性化および洗浄する。
【0027】
一般に、前処理、接着層、および官能層は、同じステップで、または時間的にオフセットされた3つの別個のステップで生成され得る。
【0028】
担体層および/または複合膜は、規定された条件下でアルゴン、ヘリウム、窒素および/または水素でさらに処理することができ、プラズマは、各プロセス・ステップ後、時間的にオフセットされる。
【0029】
1つの実施形態では、たとえば、(各プロセス・ステップあたり)約4分以下の処理時間で、担体層および/または複合膜上に親水性ナノコーティングが塗布され、これによって、ASTM F1980-16に準拠した加速劣化処理に対する耐性が向上し、濾過における液体の輸送、ウィッキングおよび液体スループットが向上し、および/または、水接触角が0°(完全な湿潤)から60°(中程度の湿潤)の表面張力が得られる。
【0030】
湿潤性や地形変化などの修正された表面特性は、それぞれ接触角測定と走査型電子顕微鏡(SEM)によって検査された。布地の静的接触角の決定により、繊維の湿潤性および親水性の程度の特性評価が可能になった。コーティングの耐久性、すなわちコーティングの自己寿命は、ASTM F1980-16に準拠した加速時効試験を使用して調査された。
【0031】
担体層のために任意の材料を使用できる。しかしながら、織布メッシュが、同じポリマー材料の織糸または少なくとも2つの織糸を有する担体層として使用される場合、第1の織糸は、第1のポリマー材料で作られ、第2の織糸は、第1のポリマー材料とは異なる第2のポリマー材料で作られることが好ましい。
【0032】
織布メッシュは、第1の織糸および第2の織糸を使用して異なるパターンで織ることができ、第1の織糸および第2の織糸は、任意の断面形状または幾何学的な配置またはパターンで生成することができる。
【0033】
メッシュを様々なパターンで織り上げて最大の湿潤性を得ることができるため、水接触角がゼロの超親水性表面を得ることができる。プラズマによる親水化の程度は、繊維構造および織布構造に密接に関連している。繊維構造へのプラズマ種の浸透は、より高い湿潤性を可能にする。したがって、基材の湿潤性は、布地の横および縦両方の織糸の配置、最終的な織糸の細かさ、布地の密度と織り構造、および/または繊維の含有量に依存する。
【0034】
好ましくは、膜層は、エレクトロスピニングによって、担体層上に直接生成され、および/または膜層は、エレクトロスピニングによって、異なる担体基板上に生成され、次いで、結合のための積層プロセスによって、担体層上に転写される。
【0035】
濾材の好ましい実施形態では、たとえば、本発明による複合膜は、プラズマ処理が、モノフィラメントメッシュなどの温度に敏感なポリマー材料に適したPECVD法を使用する低圧プラズマ(コールド・プラズマ)を使用して行われることである。
【0036】
本発明はまた、本発明の方法に従って生成される親水性ポリマー・ナノコーティングを有する担体層に関し、任意に複合膜を備え、親水性ポリマー・ナノコーティングは、担体層および/または複合膜上に塗布される。
【0037】
本発明に基づいて、複合膜のようなコーティングされた濾材を介した高速液体輸送、ス測定可能な高スループット液体濾過(高濾過効率)、生体適合性コーティング、堅牢で信頼性の高いコーティング方法、医療、ヘルスケア、食品などの高品質な用途に適した、環境に優しく洗浄されたプロセス、および/または、廃棄コストが低いかまたは発生しない高い一貫性および高効率のプロセスを提供することが可能である。
【0038】
以下では、本発明は、以下に示す添付の図面に概略的に示されている好ましい例示的な実施形態によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】最も単純な実施形態(「単層」)における本発明による複合材の概略断面図である。
図2】いわゆる「サンドイッチ」配置における本発明による複合材の概略断面図である。
図3】多層構造(「多層」)を有する本発明による複合材の概略断面図である。
図4】2つの異なる担体層を備えた「ハイブリッド」配置における本発明による複合材の概略断面図である。
図5】本発明による好ましい方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、担体層11を備えた複合材10の断面図を示している。担体層11上に、エレクトロスピニング法に従って形成された膜12が配置され、担体層11上に塗布される。膜12の担体層11への接着性の向上のために、両方の層を互いにしっかりと結合する、少なくとも1つの結合点13を有する複合材とすることができる。結合点13は、点または線の形態で、溶融または接着結合の箇所とすることができる。担体材料11および膜12の層の厚さが薄いため、複合材は、結合箇所における結合点13によって完全に貫通されてもよい。
【0041】
複合材10、特にエレクトロスピニングされた膜12は、多くの孔を有して形成することができる。複合材10の表面および細孔を形成する複数の繊維は、特にプラズマ・コーティング法に従って塗布されるコーティングでコーティングすることができる。繊維の表面コーティングは、図示される点および線14によって、図面において概略的に示される。本発明によれば、複合材10は、プラズマ・ポリマーで完全に表面コーティングすることができる。複合材10の内部またはより深くに配置された、膜12の細孔の領域の繊維にも表面コーティングを備えることができる。したがって、複合材の巨視的な外面だけでなく、微視的な内面、すなわち、たとえば、単繊維、くぼみ、および不均一な部分もコーティングすることができる。
【0042】
図2は、いわゆる「サンドイッチ」配置における本発明による複合材10を示している。この場合、膜12は2つの担体層11の間に配置され、これにより、膜12は、特に、層間で、機械的応力から保護される。サンドイッチ配置の実施形態では、たとえば、15.6 l/m.s@200Paの空気透過性を達成することができた。基本的に、最大80 l/m.s@200Paの空気透過性は、サンドイッチ、多層、またはハイブリッド配置でも達成できる。
【0043】
複合材10における層の可能なすべての配置において、これらの層は、単純な積層によって互いの上に配置することができる。しかしながら、層はまた、点13を結合することによって互いにしっかりと結合することができ、これにより、複合材10の特に信頼性の高い機械的強度を達成することができる。
【0044】
図3には、複合材10(多層)の多層配置が示される。この配置では、担体層11および膜層12は、交互に互いの上に支持されるように設けられる。図3によれば、2つの担体層11および2つの膜層12が設けられる。多層配置はまた、ランダムな数の担体層11および/または膜層12を有することができる。必要に応じて、2つの膜層12が、2つ以上の担体層の間に互いの上に直接設けられることも可能である。多層配置の場合でさえ、プラズマ・コーティングは、互いの上に支持されたすべての膜層12および担体層11の巨視的表面に設けることができる。したがって、多層構造においても、プラズマ・コーティングを複合材10の内面に設けることができる。
【0045】
図4は、膜12が第1の担体層11と第2の担体層15との間に配置された複合材10の実施形態の変形例を示している。基本的に、第1の担体層11は、特に布地とすることができるが、第2の担体層15は、第1の担体層11とは異なり、特にフリースまたは不織布とすることができる。そのような「ハイブリッド」配置によって、複合材では、異なる材料の特性を有利に組み合わせることができ、これにより、複合材10において、濾過、保護特性、および音響透過特性を有利な方式で実現することができる。また、図4に示されるようなハイブリッド配置では、プラズマ・コーティングを複合材10の表面全体に提供することができ、その場合、プラズマ重合は、細孔構造内などのより深い層の複合材10内でも引き起こる。
【0046】
図5のスキームは、本発明の担体層を含む複合材の製造プロセスの例を示している。エレクトロスピニング膜が形成される収集基板(上の図)が設けられる(第1の生成ステップ)。エレクトロスピニング膜は、一般的に知られている概念に従って形成され、以下でさらに説明される。
【0047】
第2のステップにおいて、膜は、担体層上に転写および結合され(結合1)、エレクトロスピニング膜が形成されていた元の収集基板は、任意選択的に除去され得る(収集基板除去)。上記の図によると、担体層はメッシュ/布地である。
【0048】
任意選択的に、膜と担体層の第2の結合(結合2)は、第2の外層の導入とそれに続く任意選択的なカレンダ・プロセスの後に行うことができる。したがって、膜は、任意選択的に、2つの等しい層、または異なる層の間に配置され、サンドイッチ構造を形成することができる。第2の外層は、たとえば、メッシュ、ライニング、または不織布材料とすることができる。最後に、プラズマ・コーティングが、少なくとも1つの担体層および膜に塗布される。
【0049】
エレクトロスピニング
ナノファイバー織物を作製するためのプロセスは、WO2006/131081およびWO2008/106903に示され、各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0050】
簡単に言えば、エレクトロスピニング・プロセスでは、高電圧を使用して、ポリマー溶液の帯電したジェットを生成するか、ピペットから溶融する。収集スクリーンに到達する前に、溶液ジェットは蒸発または固化し、相互に結合された小さな繊維の織物として収集される。一方の電極は紡糸液/溶融物に配置され、もう一方はコレクタに取り付けられる。ほとんどの場合、コレクタは単純に接地される。電界は、その表面張力によって保持された溶液流体を含む毛細管の端にさらされる。これにより、液体の表面に電荷が発生する。相互電荷の反発と対極への表面電荷の収縮により、表面張力とは正反対の力が発生する。電界の強度が増すと、毛細管の先端にある流体の半球形の表面が伸びて、テイラ・コーンとして知られている円錐形を形成する。電界をさらに増加させると、反発する静電力が表面張力に打ち勝ち、流体の帯電したジェットが、テイラ・コーンの先端から放出される臨界値が達成される。放出されたポリマー溶液ジェットは、不安定性および伸長プロセスを経ることで、このジェットは非常に長く薄くなる。その間、溶媒は蒸発し、帯電したポリマー繊維が残る。溶融物の場合、放出されたジェットは、空中を移動するときに固化する。
【0051】
接着方法
様々な結合技術が利用可能である。ホットメルト・グラビア積層技術、超音波結合技術、浸漬結合技術、UFDファイバー・スプレイ技術(ホットメルト)、スピン織物結合技術、および熱結合技術。
【0052】
ホットメルト・グラビア積層技術は、イン・ライン・プロセス用に工業的に確立される。したがって、「サンドイッチ」タイプの膜の場合、2段階の結合を1つのラインで行うこともできる。これは、ドット・コーティング用のグラビア・ローラと、リボルバ・ドージング・ヘッド(pos/posまたはneg/neg)および塗布ローラと、ラミネート・ローラおよび逆圧ローラとで構成される多目的ホットメルト積層およびコーティング・システムを使用する。
【0053】
グラビア・ローラは、接着剤でドット・コーティングするために使用され、これにより、2つの異なる反応性PUベースの接着剤(1つはPU e-スピニング膜用、もう1つはPA6膜用)を使用できる。約15~25%の通気性損失により、高い接着強度を得ることができる。接着剤は、膜の最終塗布中の問題(適合性、物理的および化学的適合性、医療および食品グレードなど)を回避するために慎重に選択する必要がある。接着剤による材料の硬化が観察される。
【0054】
浸漬結合技術(化学結合)は、エレクトロスピニング・プロセスの前に担体を前処理するために使用でき、これはしばしば好ましい。また、結合のための追加のプロセス・ステップを排除することができ、これは大きな利点である。次に、2層ラミネートを、たとえば、ホットメルト、スピン織物、UFDなどの第2の結合用に使用して、多層ベントを形成することができる。
【0055】
UFDは、ファイバー・スプレイ技術であり、ホットメルト接着剤アプリケータ向けの最先端技術である。積層平板技術(LPT)は、接着剤の織糸の螺旋構造を生成するために適用される。加熱された空気を使用して、これらの螺旋構造を伸ばし、ランダムまたは順序付けられたパターンで配置する。多くの場合、UFD技術を使用することにより、接着剤の高精度の塗布によって接着強度や耐久性に悪影響を与えることなく、接着剤の使用量を20~50%削減できる。非接触モードが利用可能であり、積層中にeスピン繊維が損傷する可能性が低くなる。UFD技術は、ホットメルト・グラビア積層よりもクリーンなプロセスである。
【0056】
スピン織物結合技術は、表面が閉じた膜以外の三次元構造を生み出す。開いた構造により、得られる積層はより柔軟で高通気性になる。織物は、コポリアミド、コポリエステル、コポリオレフィン、ポリウレタンなど、様々な材料で作られる。スピン織物技術は、非常に単純なプロセスである。積層中に考慮すべき3つの主要なパラメータは、温度、圧力、および時間である。
【0057】
熱結合を生成するために、熱カレンダまたは熱アニーリング・ステップが実行されることが好ましい。これらのステップは、膜層が織布メッシュ上に配置された後に実行できる。
【0058】
高品質の複合膜を得るために、第1の織糸織布メッシュが、膜の繊維と熱結合を形成することが好ましい。特に、織布メッシュは、異なるポリマー材料から、または異なるポリマー材料を用いて作られた2つ以上の織糸を備えることができる。少なくとも、織布メッシュの第1の織糸の材料は、両方の材料の組合せが熱結合を確立することを可能にするように、膜の第1の繊維のポリマー材料に従って選択される。織布メッシュの第1の織糸の規定された分布により、織布メッシュと膜との間の規定された熱結合のパターンを実現することができる。これにより、織布メッシュと膜との間の熱結合の程度または強度を微調整できる。
【0059】
任意選択的に、膜は、材料が異なる少なくとも2つのタイプの繊維で作られている。第1の繊維は、第1のポリマー材料から、または第1のポリマー材料を用いて作られ、これにより、織布メッシュのポリマー材料への熱結合が可能になる。織布メッシュと第1の繊維層との間の結合は、第1の繊維の直接エレクトロスピニングによって直ちに確立することができ、および/または熱結合は、第1の繊維、第2の繊維、および織布メッシュにともに熱および圧力を加えることによって、別個のステップで実行される。
【0060】
熱または溶接のような結合は、繊維の一部によってのみ形成されるため、溶融材料によって塞がれる開口部の数は低く抑えられる。したがって、高い透過性の複合膜を得ることができる。
【0061】
カレンダリング
カレンダリングは、布地、メッシュ、積層ベントなどの材料に使用され、材料が高温高圧でローラ間またはローラの下を通過することで、より滑らかで薄い材料を得る。細孔のサイズと形状は、カレンダリング条件によって影響を受ける可能性がある。
【0062】
プラズマPECVD
繊維材料のプラズマ処理は、技術的および医療用繊維のみならず複合材料のための、撥水性や撥油性などの表面特性を向上させるための繊維仕上げプロセスとして適用できる。従来の湿式化学繊維仕上げと比較して、プラズマ技術は、環境問題に関して利点を示す。PECVD処理を使用すると、たとえば接着特性の向上、親水性の向上、表面への特殊な官能基の導入、または表面形態の修正ができる。
【0063】
一般にプラズマ重合またはPECVDとして知られているプラズマ堆積では、非常に薄いポリマー層(ナノスケール)を基板表面に堆積させることができる。この層は、基板表面で直接重合される有機ガスの重合によって形成される。古典的な重合とは対照的に、プラズマ重合では、反応性に限らず、すべてのモノマー・ガスまたは蒸気を使用できる。プラズマ・ポリマーは、分岐してランダムに終端された鎖と、高度な架橋とを伴う、非従来的な重合挙動を示す。
【0064】
本発明に基づいて、複合膜のようなコーティングされた濾材を介した高速液体輸送を提供することが可能である。本発明はまた、医療、ヘルスケア、食品などの衛生用途のための恒久的な親水性布地および/または複合材を費用効果の高い手法で製造するための、堅牢で信頼性の高い方法を提供する。

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図2
図3
図4
図5