(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】均一延伸率及び加工硬化率に優れた鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240220BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20240220BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/60
C21D9/46 G
C21D9/46 J
(21)【出願番号】P 2022516337
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 KR2020007845
(87)【国際公開番号】W WO2021054578
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】10-2019-0115873
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100134382
【氏名又は名称】加藤 澄恵
(72)【発明者】
【氏名】アン、 ヨン-サン
(72)【発明者】
【氏名】リュ、 ジュ-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 カン-ヒョン
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-168876(JP,A)
【文献】特開2012-117148(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126678(WO,A1)
【文献】特開2015-113505(JP,A)
【文献】特開2016-084520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.08~0.15%、シリコン(Si):1.2%以下(0%を除く)、マンガン(Mn):1.4~2.4%、クロム(Cr):1.0%以下、リン(P):0.1%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、アルミニウム(sol.Al):1.0%以下(0%を除く)、窒素(N):0.01%以下(0%を除く)、アンチモン(Sb):0.05%以下(0%を除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1を満たし、
微細組織として、面積分率60%以上のフェライト、面積分率5~20%のマルテンサイト
、面積分率8~30%のベイナイト及び
残部残留オーステナイトを含み、平均結晶粒径が3μm以下、長短径比(長径/短径)が4未満であるマルテンサイトの個数が全体マルテンサイトの総個数の70%以上である、均一延伸率及び加工硬化率に優れた鋼板。
[関係式1]
(C+Si+Al)/(Mn+Cr+(10×Nb)+(10×Ti))≧0.42
(関係式1において、各元素は重量含有量を意味する。)
【請求項2】
前記鋼板は少なくとも一面に亜鉛系めっき層を含む、請求項1に記載の均一延伸率及び加工硬化率に優れた鋼板。
【請求項3】
前記鋼板は490MPa以上の引張強度を有し、
変形区間10~Uniform Elongation(%)で測定した加工硬化指数(Nu)、引張強度(TS)及び均一延伸率(UE)の関係が下記関係式2を満たす、請求項1に記載の均一延伸率及び加工硬化率に優れた鋼板。
[関係式2]
(TS×UE×Nu)≧1900
(ここで、単位はMPa%である。)
【請求項4】
重量%で、炭素(C):0.08~0.15%、シリコン(Si):1.2%以下(0%を除く)、マンガン(Mn):1.4~2.4%、クロム(Cr):1.0%以下、リン(P):0.1%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、アルミニウム(sol.Al):1.0%以下(0%を除く)、窒素(N):0.01%以下(0%を除く)、アンチモン(Sb):0.05%以下(0%を除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1を満たす鋼スラブを用意する段階;
前記鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階;
前記加熱された鋼スラブをAr3変態点以上で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;
前記熱延鋼板を400~700℃の温度範囲で巻き取る段階;
前記巻き取った後に常温まで0.1℃/s以下の冷却速度で冷却する段階;
前記冷却後に40~70%の冷間圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;
前記冷延鋼板をAc1+30℃~Ac3-20℃の温度範囲で連続焼鈍する段階;
前記連続焼鈍後に段階的冷却を行う段階;及び
前記段階的冷却後に30秒以上維持する段階を含み、
前記段階的冷却は、630~670℃まで10℃/s以下(0℃/sを除く)の冷却速度で1次冷却する段階及び前記1次冷却後に水素冷却設備で下記関係式3を満たす温度範囲まで5℃/s以上の冷却速度で2次冷却する段階を含み、
微細組織として、面積分率60%以上のフェライト、面積分率5~20%のマルテンサイト
、面積分率8~30%のベイナイト及び
残部残留オーステナイトを含み、平均結晶粒径が3μm以下、長短径比(長径/短径)が4未満であるマルテンサイトの個数が全体マルテンサイトの総個数の70%以上である、均一延伸率及び加工硬化率に優れた鋼板の製造方法。
[関係式1]
(C+Si+Al)/(Mn+Cr+(10×Nb)+(10×Ti))≧0.42
(関係式1において、各元素は重量含有量を意味する。)
[関係式3]
560-(440×C)-(14×(Si+Al))-(26×Mn)-(11×Cr)-(0.97×RCS)>0
(関係式3において、各元素は重量含有量を意味し、RCSは2次冷却終了温度(℃)を意味する。)
【請求項5】
前記仕上げ熱間圧延時に出口側の温度がAr3~Ar3+50℃を満たすものである、請求項
4に記載の均一延伸率及び加工硬化率に優れた鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記維持後に溶融亜鉛めっきする段階;及び
前記溶融亜鉛めっき後、Ms-100℃以下まで3℃/s以上の平均冷却速度で最終冷却する段階をさらに含む、請求項
4に記載の均一延伸率及び加工硬化率に優れた鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記最終冷却後に1%未満の圧下率で調質圧延する段階をさらに含む、請求項
6に記載の均一延伸率及び加工硬化率に優れた鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車構造部材用などに好適に用いられる鋼板に関するものであり、より詳細には、高強度を有しつつ均一延伸率及び加工硬化率に優れた鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車産業において環境及び安全規制が次第に厳しくなると同時に、二酸化炭素(CO2)の排出規制もますます厳しくなっており、これに伴う燃費規制が強化されている実情がある。
【0003】
一方、米国の高速道路安全保険協会は、搭乗者保護のための衝突安全性規制を徐々に強化してきており、2013年からは25%small overlapなどの厳しい衝突性能を求めている。
【0004】
このような環境及び安全の問題を解決することができる唯一の解決策は、自動車の軽量化を達成することである。自動車の軽量化のためには、鋼材の高強度化が必要であり、高強度鋼材を適用するためには高い成形性も併せて求められる。
【0005】
通常、鋼を強化する方法には、固溶強化、析出強化、結晶粒微細化による強化、変態強化などがある。
【0006】
このうち、固溶強化及び結晶粒微細化による強化では、引張強度490MPa級以上の高強度鋼を製造するのに限界がある。
【0007】
析出強化型の高強度鋼は、Cu、Nb、Ti、Vなどの炭・窒化物の形成元素を添加することで炭・窒化物を析出させて鋼板を強化させたり、微細析出物による結晶粒の成長抑制によって結晶粒を微細化させる技術を用いて強度を確保する。このような析出強化技術には、低い製造原価に対して高い強度を容易に得ることができるという利点があるが、微細析出物により再結晶の温度が急激に上昇するため、十分な再結晶を引き起こして延性を確保するためには、高温焼鈍を行う必要があるという欠点がある。
【0008】
また、フェライト基地に炭・窒化物を析出させて強化する析出強化鋼では、600MPa以上の高強度鋼を得るのに限界がある。
【0009】
一方、変態強化型の高強度鋼としては、フェライト基地に硬質のマルテンサイト相を形成させたフェライト-マルテンサイト2相組織(Dual Phase、DP)鋼、残留オーステナイトの変態誘起塑性を利用したTRIP(Tranformation Induced Plasticity)鋼、またはフェライトと、硬質のベイナイトまたはマルテンサイト組織で構成されるCP(Complexed Phase)鋼など、様々な鋼が開発されてきた。
【0010】
最近では、自動車用鋼板は燃費向上、耐久性向上などのために強度がさらに高い鋼板が求められており、衝突安全性及び乗客の保護の観点から、車体構造用や補強材として引張強度490MPa以上の高強度鋼板の使用量が増大している。
【0011】
しかし、素材の強度が高強度化とともに、自動車部品をプレス成形する過程でクラックまたはシワなどの欠陥が発生し、複雑な部品を製造するのに限界がある。
【0012】
変態強化型の高強度鋼のうち、DP鋼は現在最も広く用いられている素材であり、このようなDP鋼の均一延伸率と10%以上の変形区間における加工硬化率を向上させることができれば、プレス成形時に発生するクラックまたはシワなどの加工欠陥を防止して複雑な部品への高強度鋼の適用を拡大させることができると予測される。
【0013】
高張力鋼板の加工性を向上させる技術として、特許文献1はマルテンサイト相を主体とする複合組織からなる鋼板を開示し、このような鋼板の加工性を向上させるために組織内部に粒径1~100nmの微細析出銅粒子を分散させる方法を開示している。
【0014】
ところが、微細Cu粒子を析出させるためには、2~5重量%の高い含有量でCuを添加する必要があり、この場合、Cuによる赤熱脆性が発生するおそれがあり、製造費用が過度に上昇するという問題がある。
【0015】
別の例として、特許文献2はフェライト(ferrite)を基地組織としてパーライト(pearlite)相を2~10面積%含む組織を有し、析出強化型元素であるTiなどの元素を添加して析出強化及び結晶粒微細化によって強度を向上させた鋼板を開示している。この場合、鋼板の穴拡張性は良好であるが、引張強度を高めるのに限界があり、降伏強度が高くて延性が低いため、プレス成形時にクラックなどの欠陥が発生するという問題がある。
【0016】
また別の例として、特許文献3は焼戻しマルテンサイト(tempered martensite)相を活用して高強度及び高延性を同時に得るとともに、連続焼鈍後の板状も優れた冷延鋼板を製造する方法を開示している。しかし、この技術は鋼中の炭素含有量が0.2%以上と高いことから、溶接性が低下するという問題及びSiの多量含有に起因する炉内デント欠陥が発生するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2005-264176号公報
【文献】韓国公開特許第2015-0073844号公報
【文献】特開2010-090432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の一態様は、自動車構造部材用などに好適な鋼板であって、引張強度490MPa級の高強度を有しつつ、均一延伸率(UE)及び加工硬化率(Nu)に優れた鋼板を提供することである。
【0019】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明の課題は本明細書の全体内容から理解することができ、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一態様は、重量%で、炭素(C):0.08~0.15%、シリコン(Si):1.2%以下(0%を除く)、マンガン(Mn):1.4~2.4%、クロム(Cr):1.0%以下、リン(P):0.1%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、アルミニウム(sol.Al):1.0%以下(0%を除く)、窒素(N):0.01%以下(0%を除く)、アンチモン(Sb):0.05%以下(0%を除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1を満たし、
微細組織として、面積分率60%以上のフェライトと残部ベイナイト、マルテンサイト及び残留オーステナイトを含む均一延伸率及び加工硬化率に優れた鋼板を提供する。
[関係式1]
(C+Si+Al)/(Mn+Cr+(10×Nb)+(10×Ti))≧0.42
(関係式1において、各元素は重量含有量を意味する。)
【0021】
本発明の他の一態様は、上述した合金組成及び関係式1を満たす鋼スラブを用意する段階;上記鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階;上記加熱された鋼スラブをAr3変態点以上で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;上記熱延鋼板を400~700℃の温度範囲で巻き取る段階;上記巻き取った後に常温まで0.1℃/s以下の冷却速度で冷却する段階;上記冷却後に40~70%の冷間圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;上記冷延鋼板をAc1+30℃~Ac3-20℃の温度範囲で連続焼鈍する段階;上記連続焼鈍後に段階的冷却を行う段階;及び上記段階的冷却後に30秒以上維持する段階を含み、
上記段階的冷却は、630~670℃まで10℃/s以下(0℃/sを除く)の冷却速度で1次冷却する段階及び上記1次冷却後に水素冷却設備で下記関係式3を満たす温度範囲まで5℃/s以上の冷却速度で2次冷却する段階を含むことを特徴とする均一延伸率及び加工硬化率に優れた鋼板の製造方法を提供する。
[関係式3]
560-(440×C)-(14×(Si+Al))-(26×Mn)-(11×Cr)-(0.97×RCS)>0
(関係式3において、各元素は重量含有量を意味し、RCSは2次冷却終了温度(℃)を意味する。)
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、鋼の合金成分系及び製造条件を最適化することから高強度を有しつつ、加工性が向上した鋼板を提供することができる。
【0023】
このように、加工性が向上した本発明の鋼板は、プレス成形時にクラックまたはシワなどの加工欠陥を防止することができるため、複雑な形状への加工が要求される構造用などの部品に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施例において、鋼中のC、Si、Al、Mn、Cr、Nb、Tiの成分比(関係式1に該当)による引張強度、均一延伸率及び加工硬化指数間の関係(関係式2に該当)の変化をグラフ化して示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の発明者らは、自動車用素材のうち複雑な形状への加工が要求される部品などに好適に用いることができるレベルの加工性を有する素材を開発するために鋭意研究した。
【0026】
その結果、合金組成及び製造条件を最適化することで、目標とする物性の確保に有利な組織を有する高強度鋼板を提供することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0027】
特に、本発明は合金成分のうち、特定元素の含有量を制御し、一連の工程を経て製造される鋼板の焼鈍操業条件を最適化することにより、軟質相及び硬質相を適切に分散させた複合組織を得ながら、このとき、微細なマルテンサイト相を形成することができることを発見した。このため、塑性変形初期段階だけでなく、10%以上の塑性変形後期段階まで鋼全体への加工硬化を均一に進行させることができるため、変形率の全区間における加工硬化率を増加させることができる。また、応力及び変形が鋼のある一部分に集中されないように緩和することで、均一延伸率を大きく増加させることに技術的意義がある。
【0028】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0029】
本発明の一態様による均一延伸率及び加工硬化率に優れた鋼板は、重量%で、炭素(C):0.08~0.15%、シリコン(Si):1.2%以下(0%を除く)、マンガン(Mn):1.4~2.4%、クロム(Cr):1.0%以下、リン(P):0.1%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)、アルミニウム(sol.Al):1.0%以下(0%を除く)、窒素(N):0.01%以下(0%を除く)、アンチモン(Sb):0.05%以下(0%を除く)を含むことができる。
【0030】
以下では、本発明で提供する鋼板の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。
【0031】
一方、本発明において特に断りのない限り、各元素の含有量は重量を基準とし、組織の割合は面積を基準とする。
【0032】
炭素(C):0.08~0.15%
炭素(C)は鋼の変態組織強化のために添加する重要な元素である。このようなCは鋼の高強度化を図り、複合組織鋼においてマルテンサイトの形成を促進する。上記C含有量が増加するほど、鋼中のマルテンサイト量が増加するようになる。
【0033】
ところが、このようなC含有量が0.15%を超過すると、鋼中のマルテンサイト量の増加によって強度は高くなるが、比較的炭素濃度が低いフェライトとの強度の差が増加するようになる。このような強度の差は応力付加時に相(phase)間の界面で破壊が容易に発生するため、延性及び加工硬化率が低下するという問題がある。また、溶接性が低下して顧客社部品加工時に溶接欠陥が発生するという問題がある。一方、上記C含有量が0.08%未満であると、目標とする強度を確保することが難しくなる。
【0034】
したがって、本発明では、上記C含有量を0.08~0.15%に制御することが好ましい。より好ましくは0.10%以上、さらに好ましくは0.11%以上含むとよい。
【0035】
シリコン(Si):1.2%以下(0%を除く)
シリコン(Si)はフェライト安定化元素であって、フェライト変態を促進し、未変態オーステナイトへのC濃縮を助長することで、マルテンサイト形成を促進する元素である。また、固溶強化能が良く、フェライトの強度を高めて相(phase)間の硬度差を減らすのに効果的であり、鋼板の延性を低下させることなく強度を確保するのに有用な元素である。
【0036】
このようなSi含有量が1.2%を超過すると、表面スケール欠陥を誘発させてめっきの表面品質が劣化し、化成処理性を阻害するという問題がある。
【0037】
したがって、本発明では上記Si含有量を1.2%以下に制御することが好ましく、0%は除く。より好ましくは0.2~1.0%含むとよい。
【0038】
マンガン(Mn):1.4~2.4%
マンガン(Mn)は延性を低下させることなく粒子を微細化させ、鋼中の硫黄(S)をMnSとして析出させてFeSの生成による熱間脆性を防止する効果がある。また、上記Mnは鋼を強化させる元素であると共に、複合組織鋼においてマルテンサイト相が得られる臨界冷却速度を下げる役割を果たし、マルテンサイトをより容易に形成させるのに有用である。
【0039】
このようなMn含有量が1.4%未満であると、上述した効果が得られないのみならず、目標レベルの強度を確保するのに困難がある。一方、その含有量が2.4%を超過すると、溶接性、熱間圧延性などの問題が発生する可能性が高く、マルテンサイトが過剰に形成されて材質が不安定となり、組織内のMn-Band(Mn酸化物の帯)が形成され、加工クラック及び板破断の発生リスクが高くなるという問題がある。また、焼鈍時にMn酸化物が表面に溶出し、めっき性を大きく阻害するという問題がある。
【0040】
したがって、本発明では、上記Mn含有量を1.4~2.4%に制御することが好ましい。より好ましくは1.5~2.3%含むとよい。
【0041】
クロム(Cr):1.0%以下
クロム(Cr)は、鋼の硬化能を向上させ、高強度を確保するために添加する元素である。このようなCrは、マルテンサイトの形成に有効であり、強度上昇に対する延性の低下を最小化させて高延性を有する複合組織鋼の製造に有利である。特に、熱間圧延過程でCr23C6などのCr系炭化物を形成するが、この炭化物は焼鈍過程で一部は溶解し、一部は溶解せずに残り、冷却後にマルテンサイト内の固溶C量を適正レベル以下に制御することができるため、降伏点延伸(YP-El)の発生が抑制され、降伏比が低い複合組織鋼の製造に有利な効果がある。
【0042】
本発明において、上記Crの添加によって硬化能の向上を図り、マルテンサイトの形成を容易にするが、その含有量が1.0%を超過すると、その効果が飽和するだけでなく、熱延強度が過度に増加して冷間圧延性が低下するという問題がある。また、Cr系炭化物の分率が高くなって粗大化して、焼鈍後にマルテンサイトの大きさが粗大化することで、延伸率の低下をもたらすという問題がある。
【0043】
したがって、本発明では、上記Cr含有量を1.0%以下に制御することが好ましく、その含有量が0%であっても目標とする物性の確保には困難がない。
【0044】
リン(P):0.1%以下(0%を除く)
リン(P)は、固溶強化の効果が最も大きい置換型元素であり、面内異方性を改善し、成形性を大きく低下させることなく、強度確保に有利な元素である。しかし、このようなPを過剰添加する場合、脆性破壊の発生可能性が大きく増加して熱間圧延の途中にスラブの板破断の発生可能性が高くなり、めっき表面特性を阻害するという問題がある。
【0045】
したがって、本発明では上記P含有量を0.1%以下に制御することが好ましく、不可避に添加される程度を考慮して0%は除外する。
【0046】
硫黄(S):0.01%以下(0%を除く)
硫黄(S)は、鋼中の不純物元素であって、不可避に添加される元素であり、延性及び溶接性を阻害するため、その含有量をできるだけ低く管理することが好ましい。特に、上記Sは、赤熱脆性を発生させる可能性を高めるという問題があるため、その含有量を0.01%以下に制御することが好ましい。但し、製造過程中に不可避に添加される程度を考慮して0%は除く。
【0047】
アルミニウム(sol.Al):1.0%以下(0%を除く)
アルミニウム(sol.Al)は鋼の粒度微細化及び脱酸のために添加される元素である。また、フェライト安定化元素であって、フェライト内の炭素をオーステナイトに分配してマルテンサイトの硬化能を向上させるのに有効な成分であり、ベイナイト領域で維持する際にベイナイト内の炭化物の析出を効果的に抑制することで、鋼板の延性を向上させるのに有用な元素である。
【0048】
このようなAl含有量が1.0%を超過すると、結晶粒微細化の効果による強度上昇には有利であるのに対し、製鋼連鋳の操業時に介在物の形成が過度になって、めっき鋼板において表面不良が発生する可能性が高くなる。また、製造原価の上昇をもたらすという問題がある。
【0049】
したがって、本発明では上記Al含有量を1.0%以下に制御することが好ましく、0%は除く。より好ましくは0.7%以下含むとよい。本発明において、アルミニウムは酸可溶アルミニウム(sol.Al)を意味する。
【0050】
窒素(N):0.01%以下(0%を除く)
窒素(N)はオーステナイトを安定化させるのに有効な元素であるが、その含有量が0.01%を超過する場合、鋼の精錬費用が急激に上昇し、AlN析出物の形成によって連鋳時にクラックが発生する危険性が大きく増加する。
【0051】
したがって、本発明では上記N含有量を0.01%以下に制御することが好ましいが、不可避に添加される程度を考慮して0%は除く。
【0052】
アンチモン(Sb):0.05%以下(0%を除く)
アンチモン(Sb)は結晶粒界に分布してMn、Si、Alなどの酸化性元素の結晶粒界による拡散を遅延させる役割を果たす。これにより、酸化物の表面濃化を抑制し、温度上昇及び熱延工程の変化による表面濃化物の粗大化を抑制するのに有利な効果がある。
【0053】
このようなSb含有量が0.05%を超過すると、その効果が飽和するだけでなく、製造費用が上昇し、加工性が低下するという問題がある。
【0054】
したがって、本発明では上記Sb含有量を0.05%以下に制御することが好ましく、0%は除く。
【0055】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入されることがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かることができるものであるため、そのすべての内容を特に本明細書では言及しない。
【0056】
一方、本発明の鋼板はチタン(Ti)及びニオブ(Nb)を含まない。鋼中にTi、Nbが含有されると、フェライトの強度を大きく増加させるため、外部から応力が加わったときに効果的なフェライトの変形を制限し、その結果、加工硬化率及び均一延伸率を大きく阻害するおそれがある。
【0057】
したがって、本発明では上記Ti及びNbを含まない。但し、鋼製造過程で不純物の程度に添加される可能性があるが、この場合、本発明の物性を損なわない。具体的には、それぞれの含有量が0.008%以下である場合であれば、不純物の程度である。
【0058】
上述した合金組成を有する本発明の鋼板は、鋼内のC、Si、Al、Mn、Cr、Nb、Tiの含有量が下記関係式1を満たすことが好ましい。ここで、鋼内(鋼内部)とは、鋼板の厚さ方向1/4t地点(tは鋼板の厚さ(mm)を意味する)を意味する。
[関係式1]
(C+Si+Al)/(Mn+Cr+(10×Nb)+(10×Ti))≧0.42
(関係式1において、各元素は重量含有量を意味する。)
【0059】
本発明は、高強度に加え、均一延伸率及び加工硬化率を向上させることを主目的とし、このためには鋼の合金組成及び製造条件を最適化して意図する物性の確保に有利な組織を形成する必要がある。
【0060】
上述したように、本発明者らは鋼組織として軟質相及び硬質相を均一に分布させる場合、均一延伸率及び加工硬化率の向上を図ることができることを発見した。
【0061】
これによって、鋼の均一延伸率を阻害するおそれがある元素であるTi及びNbは、その含有量を最大限に下げて、微細なマルテンサイト相の形成に有利な元素(C、Si、Al)の含有量を高めながら、硬化能向上に有利なMn及びCrとの割合を制御することが好ましい。より具体的には、上記関係式1で表す成分関係式の値を0.42以上に確保することで、本発明で意図する組織構成及び物性が有利に得られる。
【0062】
もし、上記関係式1の値が0.42未満であると鋼の硬化能が過度に高くなり、鋼の強度は容易に達成できるのに対し、均一延伸率及び加工硬化率が低下するという問題がある。
【0063】
本発明で目標とする高強度とともに、均一延伸率及び加工硬化率を向上させるためには、上述した合金組成に加えて鋼板の微細組織が以下を満たす必要がある。
【0064】
具体的には、本発明の鋼板は微細組織として、面積分率60%以上のフェライトと残部ベイナイト、マルテンサイト及び残留オーステナイトを含むことができる。
【0065】
上記フェライト相の分率が60%未満であると、鋼の延性を十分に確保することができなくなる。
【0066】
本発明の鋼板は、上記残部組織中にマルテンサイト相を面積分率5~20%含むことができる。上記マルテンサイト相の分率が5%未満であると目標水準の強度が確保できず、一方、その分率が20%を超過するようになると鋼の延性が低下して均一延伸率の向上を図ることができなくなる。
【0067】
また、平均結晶粒径が3μm以下、長短経比(長径/短径)が4未満であるマルテンサイトの個数が全体マルテンサイトの総個数の70%以上であることが好ましい。
【0068】
すなわち、本発明は、鋼中に微細マルテンサイト相を主に分布することで、塑性変形時に加工硬化を均一に進行させる効果が得られる。
【0069】
本発明の鋼板は、上述したフェライト相及びマルテンサイト相の他にベイナイト相を含み、鋼製造過程中に上記ベイナイト相を8%以上に形成することで、最終組織として上述した微細マルテンサイト組織と一定分率の残留オーステナイト相を確保することができる。
【0070】
ベイナイト相は鋼の強度に寄与し、残留オーステナイト相の形成にも影響を及ぼす。鋼中にSiを添加する場合、ベイナイト変態によってベイナイト周辺部のオーステナイトに炭素が濃化する際に、炭化物の析出が遅延されてオーステナイトの熱的安定性が向上するため、常温で残留オーステナイト相を確保することができる。
【0071】
残留オーステナイト相は成形中に変態誘起塑性を引き起こして鋼の延性を確保するのに有利である。但し、残留オーステナイト相の分率が過度の場合、めっき後の自動車部品組立てのためのスポット溶接時に液液金属脆性(LME)に脆弱な傾向にあるため、本発明では面積分率5%未満(0%を除く)に制御することが好ましい。
【0072】
本発明において、上記ベイナイト相の分率が8%以上である場合、未変態オーステナイト内にCを濃縮させることで、鋼の延性に寄与する残留オーステナイト相を一部確保することができ、ベイナイト周辺に微細なマルテンサイト相が形成される。もし、上記ベイナイト相の分率が8%未満であると、未変態オーステナイト内のC含有量が低くて、延性に寄与する残留オーステナイト相を確保することができず、フェライト相の周辺に粗大なマルテンサイトが形成されて均一延伸率及び加工硬化率が顕著に低下するという問題がある。より好ましくは、上記ベイナイト相は面積分率8~30%含むとよい。
【0073】
このように、本発明の鋼板は、微細なマルテンサイト相及び少量の残留オーステナイト相がフェライト相及びベイナイト相の周辺に均一に分散した複合組織を形成することで、塑性変形初期段階だけでなく、10%以上の塑性変形後期段階まで鋼全体において加工硬化が均一に進行されることができる。これにより、均一延伸率が大きく増加され、変形率の全区間における加工硬化率が増加される効果が得られる。
【0074】
特に、本発明の鋼板は、変形区間10~Uniform Elongation(%)で測定した加工硬化指数(Nu)、引張強度(TS)及び均一延伸率(UE)の関係が下記関係式2を満たすことができる。
【0075】
さらに、本発明の鋼板は490MPa以上の引張強度を有することができる。
[関係式2]
(TS×UE×Nu)≧1900
(ここで、単位はMPa%である。)
【0076】
本発明の高強度鋼板は、少なくとも一面に亜鉛系めっき層を含むことができる。
【0077】
このとき、上記亜鉛系めっき層は特に限定しないが、亜鉛を主に含有する亜鉛めっき層、亜鉛以外にアルミニウム及び/またはマグネシウムを含有する亜鉛合金めっき層であってもよい。
【0078】
以下、本発明の他の一態様である本発明で提供する均一延伸率及び加工硬化率に優れた鋼板を製造する方法について詳細に説明する。
【0079】
簡単に説明すると、本発明は、[鋼スラブ再加熱-熱間圧延-巻き取り-冷間圧延-連続焼鈍-冷却]を経て目的とする鋼板を製造することができ、この後、[溶融亜鉛めっき-(最終)冷却]の工程をさらに行うことができる。
【0080】
各段階別の条件については下記で詳細に説明する。
【0081】
[鋼スラブ加熱]
まず、上述した合金組成と関係式1を満たす鋼スラブを用意した後、これを加熱することができる。
【0082】
本工程は、後続する熱間圧延工程を円滑に行い、目標とする鋼板の物性を十分に得るために行われる。本発明では、このような加熱工程の工程条件については特に制限せず、通常の条件であればよい。一例として、1100~1300℃の温度範囲で加熱工程を行うことができる。
【0083】
[熱間圧延]
上記のように加熱された鋼スラブをAr3変態点以上で仕上げ熱間圧延することができ、このとき、出口側の温度がAr3~Ar3+50℃を満たすことが好ましい。
【0084】
上記仕上げ熱間圧延時に出口側の温度がAr3未満であると、フェライト及びオーステナイトの2相域圧延が行われ、材質の不均一をもたらすおそれがある。一方、その温度がAr3+50℃を超過すると、高温圧延による異常粗大粒の形成により材質の不均一が引き起こされるおそれがあり、これによって後続の冷却時にコイルの歪み現象が発生するという問題がある。
【0085】
より具体的には、上記仕上げ熱間圧延は800~1000℃の温度範囲で行うことができる。
【0086】
[巻き取り]
上記のように製造された熱延鋼板を巻き取ることが好ましい。
【0087】
上記巻き取りは400~700℃の温度範囲で行うことが好ましいが、上記巻き取り温度が400℃未満であると、過度のマルテンサイトまたはベイナイト形成により、熱延鋼板の過度の強度上昇をもたらすことになるため、この後の冷間圧延時に負荷による形状不良などの問題が引き起こされる可能性がある。一方、巻き取り温度が700℃を超過する場合、鋼中にSi、Mn、及びBなどの溶融亜鉛めっきの濡れ性を低下させる元素の表面濃化及び内部酸化が著しくなり得る。
【0088】
[冷却]
上記巻き取られた熱延鋼板を常温まで0.1℃/s以下(0℃/sを除く)の冷却速度で冷却することが好ましい。より好ましくは0.05℃/s以下、さらに好ましくは0.015℃/s以下の冷却速度で行うとよい。ここで、冷却は平均冷却速度を意味する。
【0089】
このように巻き取られた熱延鋼板を一定速度で冷却することによって、オーステナイトの核生成サイト(site)となる炭化物を微細に分散させた熱延鋼板を得ることができる。
【0090】
すなわち、熱延過程で微細な炭化物を鋼内に均一に分散させ、この後の焼鈍時にこの炭化物が溶解されながら鋼中にオーステナイト相を微細に分散及び形成させることができ、これによって焼鈍が完了した後には、均一に分散した微細マルテンサイト相が得られる。
【0091】
[冷間圧延]
上記のように巻き取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板として製造することができる。
【0092】
このとき、上記冷間圧延は40~70%の冷間圧下率で行うことが好ましいが、上記冷間圧下率が40%未満であると、目標とする厚さを確保することが困難であるだけでなく、鋼板の形状矯正が難しくなるという問題がある。一方、上記冷間圧下率が70%を超過するようになると、鋼板のエッジ(edge)部でクラックが発生する可能性が高く、冷間圧延の負荷をもたらすという問題がある。
【0093】
[連続焼鈍]
上記のように製造された冷延鋼板を連続焼鈍処理することが好ましい。上記連続焼鈍処理は、一例として連続合金化溶融めっき炉で行われることができる。
【0094】
上記連続焼鈍段階は、再結晶と同時にフェライト及びオーステナイト相を形成し、炭素を分解するための工程である。
【0095】
上記連続焼鈍処理は、Ac1+30℃~Ac3-20℃の温度範囲で行うことが好ましく、より好ましくは780~830℃の温度範囲で行うとよい。
【0096】
上記連続焼鈍時に、その温度がAc1+30℃未満であると、十分な再結晶が行われないだけでなく、オーステナイトを十分に形成することが困難であるため、焼鈍後に目標レベルのマルテンサイト相及びベイナイト相の分率を確保することができない。一方、その温度がAc3-20℃を超過すると、生産性が低下し、オーステナイト相が過度に形成され、冷却後にマルテンサイト相及びベイナイト相の分率が大きく増加することで降伏強度が上昇し、延性が減少することで低降伏比及び高延性の確保が難しくなるという問題がある。また、Si、Mn、Bなどの溶融亜鉛めっきの濡れ性を阻害する元素による表面濃化が著しくなり、めっき表面品質が低下するおそれがある。
【0097】
[段階的冷却]
上記のように連続焼鈍処理された冷延鋼板を段階的に冷却することが好ましい。
【0098】
具体的に、上記冷却は、630~670℃まで10℃/s以下(0℃/sを除く)の平均冷却速度で冷却(このときの冷却を1次冷却と称する)した後、下記関係式3を満たす温度範囲まで5℃/s以上の平均冷却速度で冷却(このときの冷却を2次冷却と称する)することが好ましい。
[関係式3]
560-(440×C)-(14×(Si+Al))-(26×Mn)-(11×Cr)-(0.97×RCS)>0
(関係式3において、各元素は重量含有量を意味し、RCSは2次冷却終了温度(℃)を意味する。)
【0099】
<1次冷却>
上記1次冷却時の終了温度が630℃未満である場合、低すぎる温度によって炭素の拡散活動度が低く、フェライト内の炭素濃度が高くなって降伏比が増加し、加工時にクラックが発生する可能性が高くなる。一方、終了温度が670℃を超過する場合、炭素の拡散においては有利であるが、後続の冷却(2次冷却)時に、過度に高い冷却速度が要求されるという欠点がある。また、上記1次冷却時に平均冷却速度が10℃/sを超過すると、炭素拡散が十分に生じなくなる。
【0100】
一方、上記平均冷却速度の下限は特に限定しないが、生産性を考慮して1℃/s以上で行うことができる。
【0101】
<2次冷却>
上述の条件で1次冷却を完了した後、2次冷却を行うことが好ましいが、このとき、冷却終了温度(RCS、急冷終了温度)を鋼中のC、Si、Al、Mn及びCrとの関係で制御することにより、目標とする微細組織を形成するように誘導することができる。
【0102】
鋼の相(phase)変態温度及び各相(phase)の分率は、合金組成及び焼鈍温度によって異なってもよいが、本発明では2次冷却時の冷却終了温度によって最終組織のベイナイト、残留オーステナイト及びマルテンサイト相の分率が異なる。
【0103】
上記関係式3の値が0よりも小さくなると、ベイナイト相を十分な分率で確保することができなくなり、これによって未変態オーステナイト内のC含有量が低くなり、延性に寄与する残留オーステナイト相を確保することができなくなる。また、フェライト周辺に粗大なマルテンサイト相が形成されて鋼の均一延伸率及び加工硬化率が顕著に減少するようになる。
【0104】
一方、上記関係式3の値が0よりも大きい場合、最終組織で8%以上のベイナイト相を確保しつつ、平均結晶粒径が3μm以下であり、その長短径比(長径/短径)が4未満であるマルテンサイトの個数が全体マルテンサイトの総個数の70%以上を占める微細マルテンサイト及び少量の残留オーステナイトがフェライト及びベイナイト相の周辺に均一に分散された複合組織を形成することができる。
【0105】
上記関係式3を満たす温度で2次冷却を行う際に、その平均冷却速度が5℃/s未満であると、ベイナイト相が目標レベルに形成されないおそれがある。上記2次冷却時の平均冷却速度の上限は特に限定されず、通常の技術者が冷却設備の仕様を考慮して適宜選択することができる。一例として、100℃/s以下で行うことができる。
【0106】
また、上記2次冷却は、水素ガス(H2 gas)を利用する水素冷却設備を利用することができる。このように、水素冷却設備を用いて冷却を行うことで、上記2次冷却時に発生し得る表面酸化を抑制する効果が得られる。
【0107】
一方、上述のように段階的に冷却を行う際に、1次冷却時の冷却速度よりも2次冷却時の冷却速度を速く行うことができ、本発明では、上述の条件で2次冷却を行った後、後続維持工程でベイナイト相を形成することができる。
【0108】
[維持]
上述のように、段階的冷却を完了した後、冷却された温度範囲で30秒以上維持することが好ましい。
【0109】
上述した2次冷却後に維持工程を行うことで、ベイナイト相を形成し、形成されたベイナイト相に隣接している未変態オーステナイト上に炭素を濃縮させることができる。これは、後続する工程を全て完了した後、ベイナイトに隣接した領域に微細なマルテンサイト相を形成させようとするものである。
【0110】
このとき、維持時間が30秒未満であると、未変態オーステナイト相に濃縮される炭素量が不十分であって、目標とする微細組織を確保することができなくなる。一方、上記維持工程時にその時間が200秒を超過すると、ベイナイト分率が過度になるため、最終組織としてマルテンサイト相が十分に確保できなくなるおそれがある。
【0111】
[溶融亜鉛めっき]
上記のように段階的冷却及び維持工程を経た後、鋼板を溶融亜鉛系めっき浴に浸漬して溶融亜鉛系めっき鋼板を製造することが好ましい。
【0112】
このとき、溶融亜鉛めっきは通常の条件で行うことができるが、一例として430~490℃の温度範囲で行うことができる。また、上記溶融亜鉛めっき時の溶融亜鉛系めっき浴の組成については特に限定せず、純粋亜鉛めっき浴であるか、Si、Al、Mgなどを含む亜鉛系合金めっき浴であってもよい。
【0113】
[最終冷却]
上記溶融亜鉛めっきを完了した後には、Ms(マルテンサイトの変態開始温度)-100℃以下まで3℃/s以上の冷却速度で冷却することが好ましい。この過程で鋼板(ここで、鋼板はめっき層の下部の母材に該当する)のベイナイト相に隣接した領域で微細なマルテンサイト(fresh martensite)相を形成することができる。
【0114】
上記冷却時に、その終了温度がMs-100℃を超過すると、微細マルテンサイト相及び適正分率の残留オーステナイト相を十分に確保できなくなり、平均冷却速度が3℃/s未満であると、遅すぎる冷却速度によりマルテンサイト分率が低くなって目標レベルの強度が確保できなくなる。上記冷却時の冷却速度の上限は特に限定しないが、10℃/s以下で行うことができる。
【0115】
上記冷却時に、常温まで冷却しても目標とする組織を確保する上で問題がなく、ここで、常温とは10~35℃程度を示すことができる。
【0116】
必要に応じて、最終冷却する前に、溶融亜鉛系めっき鋼板を合金化熱処理することにより、合金化溶融亜鉛系めっき鋼板を得ることができる。本発明では、合金化熱処理工程の条件については、特に制限せず、通常の条件であればよい。一例として、480~600℃の温度範囲で合金化熱処理工程を行うことができる。
【0117】
さらに、必要に応じて、最終冷却された溶融亜鉛系めっき鋼板または合金化溶融亜鉛系めっき鋼板を調質圧延することにより、マルテンサイトの周りに位置したフェライトに多量の転位を形成することで、焼付硬化性をより向上させることができる。
【0118】
このとき、圧下率は1%未満(0%を除く)であることが好ましい。もし、圧下率が1%以上である場合には、転位形成の側面では有利であるが、設備能力の限界によって板破断の発生などの副作用が引き起こされることがある。
【0119】
上述のように製造された本発明の鋼板は、微細組織として、面積分率60%以上のフェライトと残部ベイナイト、マルテンサイト及び残留オーステナイトを含むことができる。このとき、平均結晶粒径が3μm以下、長短径比(長径/短径)が4未満であるマルテンサイトの個数が全体マルテンサイトの総個数の70%以上に形成されることができる。
【0120】
このような微細マルテンサイト相及び残留オーステナイト相がベイナイト及びフェライト相の周辺に均一に分散して形成されることで、均一延伸率及び加工硬化率の向上を図る効果がある。
【0121】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明の例示としてより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推できる事項によって決定されるものであるためである。
【実施例】
【0122】
(実施例)
下記表1に示した合金組成を有する鋼スラブを製作した後、上記鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱してから、下記表2に示した温度で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造した後、これを巻き取り炉内に装入して巻き取った後、0.002℃/sの速度で常温まで炉冷した。このとき、各熱延鋼板の巻き取り温度は下記表2に示した。
【0123】
この後、それぞれの熱延鋼板を酸洗した後、40~70%の冷間圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造してから、下記表2に示した条件で連続焼鈍処理した後、段階的冷却(1次及び2次)を行ってから、2次冷却終了温度で30秒以上維持した。上記維持時に200秒を超えないようにした。
【0124】
その後、430~490℃の溶融亜鉛めっき浴で亜鉛めっき処理してから最終冷却した後、1%未満に調質圧延して溶融亜鉛系めっき鋼板を製造した。
【0125】
上記のように製造されたそれぞれの鋼板に対して微細組織を観察し、機械的特性を評価した後、その結果を下記表3に示した。
【0126】
このとき、それぞれの試験片に対する引張試験は、DIN規格を用いてL方向に実施し、加工硬化率(n)は変形率10~UE%区間での加工硬化率値を測定した。
【0127】
また、微細組織分率は焼鈍処理された鋼板の板厚1/4t地点で基地組織を分析した。具体的には、ナイタル(Nital)腐食後、FE-SEM及びイメージ分析器(Image analyzer)、XRD(X-ray diffractor)を用いてフェライト(ferrite、F)、ベイナイト(bainite、B)、マルテンサイト(martensite、M)、残留オーステナイト(retained-austenite、R-A)の分率を測定し、微細マルテンサイトの占有比を計算した。微細マルテンサイトの占有比を計算するためのマルテンサイトの個数は、ポイントカウント(point count)法で実施した。
【0128】
【0129】
【0130】
【表3】
(表3において、微細Mの占有比は、全体マルテンサイトの個数(Mt)に対する平均粒度3μm以下であり、長短径比(長径/短径)の比が4未満であるマルテンサイトの個数(M*)の比(M*/Mt)を計算して示したものである。)
(表3において、TSは引張強度、UEは均一延伸率、TEは総延伸率、Nuは加工硬化指数を意味し、関係式2の単位はMPa%である。)
【0131】
上記表1~3に示したように、鋼の合金成分系及び製造条件が本発明で提案することを全て満たす発明例1~11は、意図する微細組織が形成されることによって引張強度490MPa以上の高強度を有しつつ、引張強度、均一延伸率及び加工硬化指数の関係(関係式2に該当)が1900以上に確保されることで、目標とする加工性を確保することができる。
【0132】
一方、鋼の合金成分系及び製造条件のうち1つ以上の条件が本発明で提案することを満たさない比較例1~9は、本発明で意図する微細組織が形成できず、これによって引張強度、均一延伸率及び加工硬化指数の関係(関係式2に該当)が1900未満に確保されることによって加工性が確保できないことが確認できる。
【0133】
図1は、発明鋼と比較鋼のC、Si、Al、Mn、Cr、Nb、Tiの成分比(関係式1に該当)による引張強度、均一延伸率及び加工硬化指数間の関係(関係式2に該当)の変化をグラフ化して示したものである。
【0134】
図1に示したように、C、Si、Al、Mn、Cr、Nb、Tiの成分比が0.42以上で満たすとき、関係式2の値が1900以上に確保できることが分かる。