(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】プレコート鋼ブランク及び関連するブランクのレーザ切断
(51)【国際特許分類】
B23K 26/38 20140101AFI20240220BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240220BHJP
B23K 26/322 20140101ALI20240220BHJP
B23K 26/342 20140101ALI20240220BHJP
【FI】
B23K26/38 A
B23K26/21 F
B23K26/322
B23K26/342
(21)【出願番号】P 2022537466
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 IB2019061122
(87)【国際公開番号】W WO2021123891
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベルナルディ,カンタン
(72)【発明者】
【氏名】リュケ,ベルナール
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/077560(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/077395(WO,A1)
【文献】特開2001-353588(JP,A)
【文献】特開平07-236984(JP,A)
【文献】Edgardo Gerck, Jorge L. Lima,AN EXPERIMENTAL STUDY OF LASER CUTTING OF MILD STEEL SHEETS WITH METALLIC SURFACE COATINGS,97 Proceedings of the Symposium on Lasers and Their Applications (SLA'97),,1997年12月,https://www.researchgate.net/publication/287106431_An_Experimental_Comparative_Study_of_Laser_Cutting_of_Mild_Steel_Sheets_With_and_Without_Zinc_or_Aluminum_Surface_Coating
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
B32B 15/00 - 15/01
C22C 38/00 - 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレコート鋼ブランク(1)を製造するための方法であって、連続する、
主表面の少なくとも1つにプレコート(5)を有する鋼基板(3)を備えるプレコート鋼帯(2)を設けるステップであって、前記プレコート(5)が、金属間合金層(9)と、前記金属間合金層(9)の上に延びる金属層(11)とを備え、前記金属層(11)は、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウム系合金の層である、設けるステップと、
少なくとも1つのプレコート鋼ブランク(1)を得るために、前記プレコート鋼帯(2)をレーザ切断するステップであって、前記プレコート鋼ブランク(1)が、当該レーザ切断操作から生じるレーザカットエッジ面(13)を備え、前記レーザカットエッジ面(13)は、基板部分(14)及びプレコート部分(15)を備える、レーザ切断するステップとを含み、
前記レーザ切断するステップは、
少なくとも10重量%の酸素を含有するアシストガスを使用して、当該切断操作から直接生じる前記レーザカットエッジ(13)の前記基板部分(14)が15重量%以上の.
酸素含有量を有するように実行される、方法。
【請求項2】
前記レーザ切断するステップが
、少なくとも18重量%の酸素を含有するアシストガスを使用して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザ切断が、アシストガスとして純酸素を使用して行われる、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記アシストガスの体積%での前記酸素含有量と、前記レーザ切断操作に使用される前記レーザ
の直線エネルギーの積が、0.09kJ/cm以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記レーザカットエッジ(13)の少なくとも一部に対する前記レーザ切断後にブラシング操作が実行されて、被ブラシングカットエッジ(17)を形成し、前記被ブラシングカットエッジ(17)が、被ブラシング基板部分(18)と、少なくとも1つの被ブラシングプレコーティング部分(19)とを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記被ブラシング基板部分(18)の重量におけるアルミニウム含有量が6.0%未満である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記被ブラシングカットエッジ(17)が、前記レーザカットエッジ(13)の全長にわたって延在する、請求項
5に記載の方法。
【請求項8】
前記被ブラシングカットエッジ(17)が、前記レーザカットエッジ(13)の一部のみにわたって延在する、請求項
5に記載の方法。
【請求項9】
前記アシストガスの体積%での前記酸素含有量と、前記レーザ切断操作に使用される前記レーザ
の直線エネルギーの積が、0.03kJ/cm以上である、請求項5から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
溶接ブランクを製造するための方法であって、
第1及び第2のプレコート鋼ブランク(1)を製造するステップであって、前記第1及び前記第2のプレコート鋼ブランク(2)のうちの少なくとも1つが、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を使用して製造され、前記プレコート鋼ブランク(2)の少なくとも1つにレーザカットエッジ(13)又は被ブラシングカットエッジ(17)を形成する、製造するステップと、
前記プレコート鋼ブランク間に溶接継手を形成して溶接ブランクを得るために、前記第1のプレコート鋼ブランク(1)の溶接縁部を前記第2のプレコート鋼ブランク(1)の溶接縁部に突合せ溶接するステップであって、これにより、前記プレコート鋼ブランク(2)の少なくとも1つの前記レーザカットエッジ(13)又は前記被ブラシングカットエッジ(17)が溶接縁部となるように、前記第1及び第2のプレコート鋼ブランクを配置するステップを含む、突合せ溶接するステップ、を含む、方法。
【請求項11】
前記溶接操作がレーザ溶接操作である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記突合せ溶接するステップの前に、前記第1及び第2のプレコート鋼ブランク(2)の少なくとも一方について、前記プレコート鋼ブランク(1)の前記溶接縁部に隣接する除去領域(25)の金属層(11’)を除去するステップをさらに含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記金属層(11’)の前記除去が、レーザビームを使用して行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記除去するステップの最中に、金属間合金層(9’)が、その高さの少なくとも一部にわたって前記除去領域(25)に残される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記レーザ溶接が、フィラーワイヤ又は粉末の添加を使用して行われる、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記フィラーワイヤ又は粉末が、オーステナイト形成合金元素を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
プレス硬化鋼部品を製造するための方法であって、連続する、
溶接ブランクを得るために、請求項10から16のいずれか一項に記載の方法を実施するステップと、
少なくとも部分的にオーステナイト構造の前記溶接ブランクを得るために前記溶接ブランクを加熱するステップと、
プレス成形鋼部品を得るために、前記溶接ブランクをプレスにおいて熱間成形するステップと、
プレス硬化鋼部品を得るために、前記プレスにおいて前記鋼部品を冷却するステップとを含む、方法。
【請求項18】
前記冷却速度が、前記鋼ブランクの臨界マルテンサイト速度又はベイナイト冷却速度と同じかそれを超えている、請求項17に記載の鋼部品の製造方法。
【請求項19】
プレコート鋼ブランク(1)であって、
その面の少なくとも1つにプレコート部(5’)を有する鋼基板部分(3’)であって、前記プレコート部(5’)は、金属間合金層部分(9’)と、前記金属間合金層部分(9’)の上に延びる金属層部分(11’)とを含み、前記金属層部分(11’)は、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層、又はアルミニウム系合金の層であり、前記プレコート鋼ブランク(1)の厚さは、0.5mm~5mmに含まれる、鋼基板部分(3’)と、
前記プレコート鋼ブランク(1)の前記面の間に延在し、基板部分(14)と少なくとも1つのプレコート部分(15)とを含む少なくとも1つのレーザカットエッジ(13)とを含み、
前記レーザカットエッジの前記基板部分(14)は、15%以上の重量の酸素含有量及び6.0%以下の重量のアルミニウム含有量を有する、プレコート鋼ブランク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコートをその面の少なくとも1つに有する鋼基板を含むプレコート鋼帯からプレコート鋼ブランクを製造する方法に関し、プレコートは、金属間合金層と、金属間合金層の上に延びる金属層とを含み、金属層は、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層、又はアルミニウム系合金の層である。
【背景技術】
【0002】
自動車用の鋼製部品は、以下の方法を用いて製造することができる。まず、溶融めっきコーティングによって一般に得られるプレコート鋼帯を設け、レーザ切断によってブランクに切断する。次いで、各ブランクは、レーザアブレーションによってカットエッジに隣接する除去領域内の金属層を除去することによって溶接用に準備され、このようにして準備されたブランクは一緒にレーザ溶接されて溶接ブランクを形成する。次いで、この溶接ブランクをホットスタンプし、プレス硬化して最終部品を得る。
【0003】
そのような鋼部品は、特に自動車産業において、より具体的には、自動車車両の安全性に寄与する侵入防止部品、構造部品又は部品の製造に使用される。
【0004】
個々の鋼ブランクを作製するためレーザ切断を使用することは、非常に良好な切断面の質、切断形状の非常に高い幾何学的精度を達成する可能性及び非常に高強度の鋼を加工する可能性などの多くの工業的利点をもたらす。レーザ切断はまた、ブランク形状を変更するために新しい切断ダイを製造する必要がないため、機械的切断よりも柔軟性を与える。
【0005】
レーザ切断は、鋼コイルから機械的に切断されたブランクに対して行うことができる。レーザ切断は、コイルに直接行うこともでき、この場合、レーザブランキングとしても知られている。レーザ切断のための高出力産業用レーザの出現のおかげで、レーザブランキングは、産業において実行可能な選択肢になりつつあり、コイルに対して実行される中間機械的な切断ステップが有利に省かれる。
【0006】
しかしながら、レーザ切断にはいくつかの制限もある。それらのうちの1つは、アルミナイズプレス硬化鋼のレーザ切断の場合のカットエッジにアルミニウムが存在していることである。
【0007】
このアルミニウムは、後続のレーザアブレーション工程によって除去されず、レーザ溶接中に溶接金属領域に導入され、溶接金属領域のアルミニウム含有量が増加するに至る。アルミニウムは、マトリックスの固溶体のフェライト形成元素であり、したがって、熱間成形に先行するステップの最中に起こるオーステナイトへの変態を防止する。その結果、熱間成形後の冷却中に溶接継手に完全なマルテンサイト又はベイナイト組織を得ることはもはや不可能であり、溶接継手はフェライトを含む。
【0008】
その結果、鋼部品の溶接継手は、プレス硬化後に、2つの隣接するブランクの硬度及び機械的強度よりも低い硬度及び機械的強度を示す。
【0009】
アルミニウム汚染を除去するために、縁部を機械的に洗浄することが可能である。しかしながら、本発明者らは、従来技術で知られているレーザ切断パラメータを使用する場合、アルミニウム粒子がカットエッジに対して高い接着性を示すため、カットエッジのアルミニウム汚染を機械的に除去することが困難であることを見出した。したがって、アルミニウム汚染が効率的に除去されることを確実にするために、縁部のスクラビング又は研削などの高価な手段を実施する必要がある。これは、製造業者が特定のツールに投資する必要があり、製造時間及び作業場空間の一部をこの特定のタスクに専念させる必要があることを意味する。
【0010】
ブラシングという用語は、硬質剛毛を備えたブラシを使用して縁部が洗浄される工程を示す。縁部に沿って移動する回転ブラシが一般的に使用される。スクラビングという用語は、所望の結果を得るために縁部の一定量の通常の作用力を使用して縁部をスクラビングする研磨ベルトを使用して縁部が洗浄される工程を示す。研削という用語は、縁部が、例えば0.1mm~0.3mmの深さでフライス加工することによって洗浄される工程を示す。処理コスト及び保守コストの観点から、ブラシングは、スクラブ及び研削の両方よりもはるかに容易であり、実装及び保守に費用がかからない。
【0011】
欧州特許出願公開第2016/082267号明細書は、レーザ切断パラメータを調整することによって、レーザカットエッジに堆積されるアルミニウムの量を最小限に抑える方法を開示している。このような方法の欠点は、切断の生産性を低下させ、生産コストを増加させることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】欧州特許出願公開第2016/082267号明細書
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的の1つは、アルミニウム汚染をその後の溶接作業で許容可能なレベルまで除去するために、容易に洗浄することができるカットエッジ面を有するプレコート鋼ブランクを製造する方法である。本発明のさらなる目的は、追加の洗浄を必要とせずに、レーザ溶接に直接使用することができるカットエッジ面を有するプレコート鋼ブランクを製造する方法である。
【0014】
この目的のために、本発明は、プレコート鋼ブランクを製造するための方法であって、連続する、
主表面の少なくとも1つにプレコートを有する鋼基板を備えるプレコート鋼帯を設けるステップであって、プレコートが、金属間合金層と、前記金属間合金層の上に延びる金属層とを備え、金属層は、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウム系合金の層である、設けるステップと、
少なくとも1つのプレコート鋼ブランクを得るために、前記プレコート鋼帯をレーザ切断するステップであって、前記プレコート鋼ブランクが、レーザ切断操作から生じるレーザカットエッジ面を備え、前記レーザカットエッジ面は、基板部分及びプレコート部分を備える、レーザ切断するステップとを含み、
レーザ切断するステップは、切断操作から直接生じるレーザカットエッジの基板部分が15重量%以上の酸素含有量を有するように実行される、方法に関する。
【0015】
本発明者らは、上述の方法が、切断工程から生じる縁部のアルミニウム汚染がその後のブラシング操作において除去されやすい、レーザ切断されたプレコート鋼ブランクを製造することを可能にすることを見出した。本発明者らはまた、溶接前に縁部をブラシングすることなく、そのようなプレコート鋼ブランクをレーザ溶接に直接使用できることを見出した。
【0016】
本発明の他の任意選択の特徴によれば、単独で、又は任意の可能な技術的な組み合わせに従って考慮される:
レーザ切断は、少なくとも10重量%の酸素、最も好ましくは少なくとも18重量%の酸素を含有するアシストガスを使用して行われる、
レーザ切断は、アシストガスとして純酸素を用いて行われる、
アシストガスの体積%での酸素含有量と、レーザ切断操作に使用されるレーザの直線エネルギーの積は、0.09kJ/cm以上である、
ブラシング操作は、レーザカットエッジの少なくとも一部に対するレーザ切断後に実行されて、被ブラシングカットエッジを形成し、前記被ブラシングカットエッジは、被ブラシング基板部分と、少なくとも1つの被ブラシングプレコーティング部分とを含む、
被ブラシング基板部分の重量におけるアルミニウム含有量が6.0%未満である、
被ブラシングカットエッジは、レーザカットエッジの全長にわたって延在する、
被ブラシングカットエッジは、レーザカットエッジの一部のみにわたって延在する、
アシストガスの体積%での酸素含有量と、レーザ切断操作に使用されるレーザの直線エネルギーとの積が、0.03kJ/cm以上である。
【0017】
本発明はまた、溶接ブランクを製造するための方法であって、
第1及び第2のプレコート鋼ブランクを製造するステップであって、第1及び第2のプレコート鋼ブランクのうちの少なくとも1つが、前述の方法を使用して製造され、プレコート鋼ブランクの少なくとも1つにレーザカットエッジ又は被ブラシングカットエッジを形成する、製造するステップと、
前記プレコート鋼ブランク間に溶接継手を形成して溶接ブランクを得るために、第1のプレコート鋼ブランクの溶接縁部を第2のプレコート鋼ブランクの溶接縁部に突合せ溶接するステップであって、これにより、プレコート鋼ブランクの少なくとも1つのレーザカットエッジが溶接縁部となるように、第1及び第2のプレコート鋼ブランクを配置するステップを含む、突合せ溶接するステップ、を含む方法に関する。
【0018】
単独で、又は任意の可能な技術的な組み合わせに従って考慮される、本発明の他の任意選択の特徴によれば、
溶接操作は、レーザ溶接操作である、
突合せ溶接するステップの前に、第1及び第2のプレコート鋼ブランクの少なくとも一方について、前記プレコート鋼ブランクの溶接縁部に隣接する除去領域内の金属層を除去するステップがある、
金属層の除去は、レーザ光を用いて行われる、
除去ステップの間、金属間合金層は、その高さの少なくとも一部にわたって除去領域内に残される、
レーザ溶接は、フィラーワイヤ又は粉末の添加を利用して行われる、
フィラーワイヤ又は粉末は、オーステナイト形成合金元素を含む。
【0019】
本発明はまた、プレス硬化鋼部品を製造するための方法であって、連続する、
溶接ブランクを得るために、前述の方法を実施するステップと、
少なくとも部分的にオーステナイト構造の前記溶接ブランクを得るために前記溶接ブランクを加熱するステップと、
プレス成形鋼部品を得るために、溶接ブランクをプレスにおいて熱間成形するステップと、
プレス硬化鋼部品を得るために、プレスにおいて鋼部品を冷却するステップとを含む、方法に関する。
【0020】
本発明の他の任意選択の特徴によれば、単独で、又は任意の可能な技術的組み合わせに従って考慮される:
冷却速度は、鋼ブランクの臨界マルテンサイト又はベイナイト冷却速度かそれを超えたものである。
【0021】
本発明はまた、プレコート鋼ブランクであって、
その面の少なくとも1つにプレコート部を有する鋼基板部分であって、プレコート部は、金属間合金層部分と、金属間合金層部分の上に延びる金属層部分とを含み、金属層部分は、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層、又はアルミニウム系合金の層であり、プレコート鋼ブランクの厚さは、0.5mm~5mmに含まれる、鋼基板部分と、
プレコート鋼ブランクの面の間に延在し、基板領域と少なくとも1つのプレコート領域とを含む少なくとも1つのレーザカットエッジ面とを含み、
レーザカットエッジの基板領域は、15%以上の重量の酸素含有量及び6.0%以下の重量のアルミニウム含有量を有する、プレコート鋼ブランクに関する。
【0022】
本発明はまた、プレコート鋼ブランクであって、
その面の少なくとも1つにプレコート部を有する鋼基板部分であって、プレコート部は、金属間合金層部分と、金属間合金層部分の上に延びる金属層部分とを含み、金属層部分は、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層、又はアルミニウム系合金の層であり、プレコート鋼ブランクの厚さは、0.5mm~5mmに含まれる、鋼基板部分と、
プレコート鋼ブランクの面の間に延在し、被ブラシング基板領域と少なくとも1つの被ブラシングプレコート領域とを含む少なくとも1つの被ブラシングカットエッジ表面とを含み、
被ブラシング基板領域の重量での酸素含有量は、0.5%以上であり、被ブラシング基板領域の重量でのアルミニウム含有量は6.0%未満である、プレコート鋼ブランクに関する。
【0023】
本発明はまた、少なくとも、
第1及び第2のプレコート鋼ブランクであって、各プレコート鋼ブランクがその面の少なくとも1つにプレコート部を有する鋼基板部分を含み、プレコート部は、金属間合金層部分と、金属間合金層部分の上に延びる金属層部分とを含み、金属層部分は、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層、又はアルミニウム系合金の層であり、プレコート鋼ブランクの厚さは、0.5mm~5mmに含まれる、第1及び第2のプレコート鋼ブランクと、
前記第1及び第2のプレコート鋼ブランクを接合する溶接領域と
を含む溶接ブランクであって、
溶接領域の重量でのアルミニウム含有量が、0.3%以下であり、溶接領域が、2マイクロメートル以下の直径を有する酸化アルミニウム粒子を少なくとも0.2体積%で含有する、溶接ブランクに関する。
【0024】
他の任意選択の特徴によれば、
溶接領域が、2マイクロメートル以下の直径を有する少なくとも0.4体積%の酸化アルミニウム粒子を含む。
【0025】
本発明はまた、上述の方法に従って溶接ブランクをプレス硬化することによって製造されたプレス硬化部品に関する。
【0026】
本発明の他の態様及び利点は、例として与えられ、添付の図面を参照して行われる以下の説明を読むと明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ストリップの長手方向に垂直に取ったプレコート鋼帯の概略断面図である。
【
図2】プレコート鋼ブランクの概略的な斜視図である。
【
図3】
図2のプレコート鋼ブランクの概略的な側面図である。
【
図4】レーザ切断ステップ後にブラシング操作が行われたプレコート鋼ブランクの概略的な側面図である。
【
図5】除去領域を備えるプレコート鋼ブランクの概略的な斜視図である。
【
図6A】本発明によるプレコート鋼ブランクのレーザ切断操作後かつ鋼ブランクの任意のさらなる処理の前に行われたレーザカットエッジの断面観察である。
図6Aはレーザカットエッジ面のアルミニウムマッピングを示す。
図6Bはレーザカットエッジ面の酸素マッピングを示す。
【
図6B】本発明によるプレコート鋼ブランクのレーザ切断操作後かつ鋼ブランクの任意のさらなる処理の前に行われたレーザカットエッジの断面観察である。
図6Aはレーザカットエッジ面のアルミニウムマッピングを示す。
図6Bはレーザカットエッジ面の酸素マッピングを示す。
【
図7A】ブラシング後の本発明によるプレコート鋼ブランクの被ブラシングカットエッジの断面観察図である。
図7Aはレーザカットエッジ面のアルミニウムマッピングを示し、
図7Bはレーザカットエッジ面の酸素マッピングを示す。
【
図7B】ブラシング後の本発明によるプレコート鋼ブランクの被ブラシングカットエッジの断面観察図である。
図7Aはレーザカットエッジ面のアルミニウムマッピングを示し、
図7Bはレーザカットエッジ面の酸素マッピングを示す。
【
図8】本発明による溶接ブランクの断面観察図であり、溶接継手と2つのプレコート鋼ブランクとを含み、溶接継手全体の硬度変化を示す。
【
図9】レーザ切断ステップと溶接するステップとの間にプレコート鋼ブランクのそれぞれのレーザカットエッジ面がブラシングされなかった溶接ブランクの溶接継手のアルミニウムマッピングにより断面を観たものである。
【
図10】レーザ切断ステップと溶接するステップとの間にプレコート鋼ブランクのそれぞれのレーザカットエッジ面がブラシングされた、本発明による溶接ブランクの溶接継手のアルミニウムマッピングにより断面を観たものである。
【
図11】レーザ切断後にブラシングが行われていない場合のレーザカットエッジの重量におけるアルミニウム含有量のプロットである。
【
図12】レーザ切断後にブラシングが行われる場合の、被ブラシングカットエッジの重量におけるアルミニウム含有量のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、プレコート鋼ブランク1を製造する方法に関する。
【0029】
この方法は、
図1の断面に示すように、プレコート鋼帯2を設ける第1のステップを含む。
【0030】
図1に示すように、プレコート鋼帯2は、その面の少なくとも1つにプレコート5を有する金属基板3を備える。プレコート5は、基板3に重ねられて接触している。
【0031】
金属基板3は、より詳細には鋼基板である。
【0032】
基板3の鋼は、より詳細には、フェライト-パーライト微細構造を有する鋼である。
【0033】
基板3は、有利には、熱処理用の鋼、より具体的にはプレス硬化性鋼、及び例えば22MnB5型の鋼などのマンガン-ホウ素鋼で作製される。
【0034】
一実施形態によれば、基板3の鋼は、重量で、
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残りは鉄及び製造に起因する不純物である。
【0035】
より具体的には、基板3の鋼は、重量で、
0.15%≦C≦0.25%
0.8%≦Mn≦1.8%
0.1%≦Si≦0.35%
0.01%≦Cr≦0.5%
Ti≦0.1%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.005%
を含み、残りは鉄及び製造に起因する不純物である。
【0036】
代替の形態によれば、基板3の鋼は、重量で、
0.040%≦C≦0.100%
0.80%≦Mn≦2.00%
Si≦0.30%
S≦0.005%
P≦0.030%
0.010%≦Al≦0.070%
0.015%≦Nb≦0.100%
Ti≦0.080%
N≦0.009%
Cu≦0.100%
Ni≦0.100%
Cr≦0.100%
Mo≦0.100%
Ca≦0.006%、
を含み、残りは鉄及び製造に起因する不純物である。
【0037】
代替の形態によれば、基板3の鋼は、重量で、
0.24%≦C≦0.38%
0.40%≦Mn≦3%
0.10%≦Si≦0.70%
0.015%≦AI≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含み、チタン及び窒素の含有量は、以下の関係
Ti/N>3.42
を満たし、
炭素、マンガン、クロム及びケイ素の含有量は、以下の関係
【0038】
【数1】
を満たし、鋼は、任意選択に、以下の要素
0.05%≦Mo≦0.65%
0.001%≦W≦0.30%%
0.0005%≦Ca≦0.005%
の1つ以上を含み、残りは鉄、及び製造から必然的に生じる不純物である。
【0039】
基板3は、その所望の厚さに応じて、熱間圧延及び/又は冷間圧延とそれに続く焼鈍によって、又は任意の他の適切な方法によって得ることができる。
【0040】
基板3は、典型的には、0.5mm~5mmに含まれる厚さを有する。
【0041】
プレコート5は、溶融めっきコーティングによって、すなわち溶融金属槽へ基板3を浸漬することによって得られる。それは、基板3と接触している金属間合金層9と、金属間合金層9の上に延在する金属層11とを含む。
【0042】
金属間合金層9は、基板3と槽の溶けた金属との反応によって形成される。これは、金属層11からの少なくとも1つの元素及び基板3からの少なくとも1つの元素を含む金属間化合物を含む。
【0043】
金属間合金層9の厚さは、一般に数マイクロメートル程度である。特に、その平均の厚さは、典型的には2~7マイクロメートルの間に含まれる。
【0044】
金属層11は、槽の溶融金属に近い組成を有する。これは、溶融めっきコーティング中に溶融金属槽を経て移動するときに帯によって運び去られる溶融金属によって形成される。
【0045】
金属層11は、例えば、19μm~33μm又は10μm~20μmに含まれる厚さを有する。
【0046】
金属層11は、アルミニウムの層、又はアルミニウム合金の層又はアルミニウム系合金の層である。
【0047】
これに関連して、アルミニウム合金は、重量で50%を超えるアルミニウムを含む合金を指す。アルミニウム系合金とは、重量でアルミニウムを主成分とする合金である。
【0048】
金属間合金層9は、Fex-Aly型の金属間化合物、より詳細にはFe2Al5を含む。
【0049】
溶融めっきコーティングによって得られたプレコート5の特定の構造は、特に欧州特許第2007545号明細書に開示されている。
【0050】
一実施形態によれば、金属層11は、シリコンをさらに含むアルミニウム合金の層である。
【0051】
一例によれば、金属層11は、重量で、
-8%≦Si≦11%、
-2%≦Fe≦4%、
を含み、残りはアルミニウム及び可能な不純物である。
【0052】
有利には、
図1に示されるように、基板3は、その両面に上述のようなプレコート5を備える。
【0053】
プレコート鋼ブランク1を製造する方法は、少なくとも1つのプレコート鋼ブランク1を得るために、レーザ切断によって前記プレコート鋼帯2を切断するステップをさらに含む。
【0054】
図2は、そのようなプレコート鋼ブランク1の概略的な斜視図である。
【0055】
プレコート鋼ブランク1は、基板部分3’と、少なくとも1つのプレコート部5’とを備え、プレコート部5’は、金属間合金層部分9’及び金属層部分11’を含む。
【0056】
プレコート鋼ブランク1は、2つの主な対向面4’と、ブランク1の周囲の面4’間に延在する周縁部12とをさらに備える。周縁部12の長さは、ブランク1の外周に等しい。周縁部12の高さhは、ブランク1の厚さに等しい。
【0057】
本特許出願の文脈では、要素の高さは、プレコートブランク1の厚さの方向(図のz方向)に沿ったこの要素の寸法である。
【0058】
周縁部12は、面4’に対して実質的に垂直に延在する。これに関連して、「実質的に」とは、周縁部12が面4’の一方に対して50°~90°に含まれる角度で延在することを意味する。面4’に対する周縁部12の角度は、ブランク1の周囲に沿って変化してもよい。
【0059】
図2に示す例では、周縁部12は、4つの直線側面を含む実質的に長方形の輪郭を有する。しかしながら、用途次第で、任意の他の輪郭が使用されてもよい。
【0060】
周縁部12は、レーザ切断操作から生じるレーザカットエッジ面13を含む。
【0061】
レーザカットエッジ面13は、プレコート鋼ブランク1の面4’間で一方の面4’から他方の面まで延在する。これは、周縁部12の高さh全体にわたって延在する。
【0062】
有利には、プレコート鋼ブランク1は、その輪郭全体に沿ってレーザ切断することによって得られる。この場合、周縁部12は、レーザカットエッジ面13からなる。これにより、レーザカットエッジ面13は、ブランク1の全周にわたって延在する。代替形態によれば、カットエッジ面13は、周縁部12の長さの一部にわたってのみ延在する。この場合、周縁部12の残りの部分は、帯2の元の側縁部と一致してもよい。
【0063】
本特許出願の文脈では、要素の長さは、プレコート鋼帯2の所与の面4’の平面のこの要素の寸法である。したがって、レーザカットエッジ面13の長さは、特に、レーザ切断中のレーザビームの経路に沿ったレーザカットエッジ面13の寸法に対応する。
【0064】
図2及び
図3に見られるように、レーザカットエッジ面13は、基板部分14及び少なくとも1つのプレコート部分15を含む。基板部分14は、レーザカットエッジ面13に位置する基板3’の表面に対応する。プレコート部分15は、レーザカットエッジ面13に位置するプレコート5’の表面に対応する。これは、プレコート5’の材料から本質的になる。
【0065】
プレコート鋼ブランク1の厚さは、プレコート鋼帯2の厚さと同一である。それは、1.0mm~5mmに含まれ、より具体的には1.0mm~3.0mmに含まれ、より具体的には1.0mm~2.5mmに含まれ、さらにより具体的には1.2mm~2.5mmに含まれる。
【0066】
レーザ切断ステップでは、レーザ切断装置のレーザ光を所定の経路で鋼帯2に照射し、レーザカットエッジ面13を得る。この所定の経路は、ブランク1の面4’の平面に延在する。
【0067】
特定の実施形態では、レーザ切断に使用されるレーザは、有利には連続レーザである。
【0068】
本発明によれば、レーザカットエッジ13の基板部分14は、15%を超える酸素の重量含有率を示す。
【0069】
縁部の酸素の重量含有量は、走査型電子顕微鏡に組み込まれたエネルギー分散型分光検出器を使用する従来の測定によって測定された重量含有量として定義されることに留意されたい。このような測定技術は、典型的には、表面から約1マイクロメートルの深さまでの元素の濃度を測定する。以降の説明では、エッジのアルミニウム含有量についても同じ定義を用いる。
【0070】
これに関連して、「直接得られる」とは、特に、レーザ切断装置のレーザビームがプレコート鋼帯2からプレコート鋼ブランク1を切断した直後、特にプレコート鋼ブランク1のカットエッジ面13に対して任意のさらなるステップが実行される前、例えば、ブラシング、機械加工、フライス加工、サンドブラスト又はストリッピングなどのカットエッジ面13の可能な仕上げステップの前に、アルミニウムの割合又は比率が測定されることを意味する。
【0071】
特定の実施形態では、レーザカットエッジ13の基板部分14の重量%でのアルミニウム含有量は、6.0%以下である。
【0072】
有利には、レーザカットエッジ面13は、少なくとも3mm、より具体的には少なくとも10mmに等しい長さにわたって延在する。
【0073】
例えば、プレコート鋼ブランク1が長方形の輪郭を有する
図2に示す例では、レーザカットエッジ面13は長方形の1つ又は複数の側にわたって延在する。
【0074】
レーザ切断は、絶対体積で少なくとも10%の酸素を含有するアシストガスを使用して行われる。例えば、レーザ切断は、アシストガスとして空気を使用して行われ、アシストガスは、19%~21%の重量の酸素を含有し、残りは主に窒素である。レーザ切断は、例えば、アシストガスとして純酸素を用いて行われる。有利には、酸素含有アシストガスを使用することにより、純粋な窒素又はアルゴンなどの不活性ガスをアシストガスとして使用するレーザ切断工程と比較して、レーザ切断操作の生産性を高めることが可能である。これは、酸素と鉄との間、並びに場合によっては酸素とアルミニウムとの間で起こる発熱反応のためである。
【0075】
本文脈において、純酸素は、絶対体積で99%を超える酸素含有量を有するガスであると定義されることに留意されたい。
【0076】
切断動作中、帯2のプレコート5に含まれるアルミニウムは、レーザによって発生した熱によって加熱され、溶融される。その結果、溶融金属アルミニウムは、レーザカットエッジ13に流れる傾向があり、それによってレーザカットエッジ13をアルミニウムで汚染し、これは、先に説明したように、レーザカットエッジ13が溶接継手に組み込まれる場合の溶接のその後の強度に潜在的に有害である。
【0077】
実施形態によれば、
図4に示すように、レーザカットエッジ13の少なくとも一部に対してレーザ切断操作の後にブラシング操作が実行されて、被ブラシングカットエッジ17が形成される。例えば、ブラシング操作は、以下のパラメータを使用して実行することができる
-ブラシ回転数:1180rpm
-Brush基準:Novofil(R)NH-S 80
前記被ブラシングカットエッジ17は、被ブラシング基板部分18と、少なくとも1つの被ブラシングプレコーティング部分19とを備える。例えば、プレコート鋼ブランク1が長方形の輪郭を有する場合、被ブラシングカットエッジ17は、長方形の一部の側のみ、例えば長方形の1つの側のみにわたって延在してもよい。
【0078】
実施形態によれば、被ブラシングカットエッジ17は、レーザカットエッジ13の全長にわたって延在し、この場合、被ブラシングカットエッジ17の長さは、レーザカットエッジ13の長さに等しい。
【0079】
ブラシング操作の目的は、レーザカットエッジ13に堆積し、レーザ切断操作から直接生じる汚染を除去することである。特に、ブラシング操作の目的は、レーザ切断操作から生じるレーザカットエッジ13のアルミニウムの汚染を除去することである。
【0080】
実施形態によれば、被ブラシング基板部分18の重量におけるアルミニウムの含有量は、6.0%未満である。ブラシング操作のおかげで、縁部に存在し、レーザ切断操作から生じるアルミニウムの汚染を少なくとも部分的に除去することができる。驚くべきことに、本発明者らは、少なくとも10%の体積の酸素を含むアシストガスを使用する場合、アシストガスとして不活性ガスを使用してレーザ切断操作を行う場合よりも、ブラシングによってレーザカットエッジ13からアルミニウムの汚染を除去することがより容易であることを見出した。
【0081】
いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、アシストガスの中に相当の量の酸素を使用すると、レーザカットエッジ13に酸化アルミニウムが形成され、前記酸化アルミニウムは、不活性ガスの下での切断の結果として縁部に存在するであろう金属アルミニウムよりも、縁部に対する接着性が低く、切断操作によって生成された熱から生じる溶融アルミニウムが酸素に曝されず、したがって金属が未酸化又はわずかにだけ酸化された形態のままである工程が可能である。レーザカットエッジ13に酸化アルミニウムがより低い付着する結果として、ブラシング操作は、本発明によるレーザ切断によって得られたプレコート鋼ブランク1の場合により効率的である。
【0082】
本発明者らはまた、本発明によるレーザ切断操作から生じるレーザカットエッジ13が、不活性ガスがアシストガスとして使用されるレーザ切断されたプレコート鋼ブランクのものとは異なる明確な視覚的側面を呈することを観察した。特に、レーザカットエッジ13は、鋼帯2のプレコート5に由来する酸化アルミニウム及び酸化鉄などの酸化金属粒子、並びに鋼帯2の基板3に由来する例えばマンガンなどの他の酸化金属元素の存在から生じる青みがかった又は暗い色合いを有する。この特定の視覚的態様は、軽く見ただけの観察者が質の悪さの指標と解釈する可能性があるものであり、これは、良質のプレコート鋼ブランク1を得るために本発明の記載された工程を適用することを妨げる。しかしながら、先に説明したように、10体積%以上の酸素を含有するアシストガスを使用して、少なくとも15重量%の酸素を含有する基板領域14を有するレーザカットエッジ13を生成するレーザ切断は、アルミニウム含有量が低い被ブラシングカットエッジ17を形成するために、レーザカットエッジ13を効率的にブラシングすることを実際に可能にする。
【0083】
本発明者らはまた、本発明を適用することによって得られたレーザカットエッジ13が、驚くべきことに、不活性補助ガスを使用するレーザ切断工程によって得られたレーザカットエッジよりも良好な耐食性を有することを観察した。本発明に従って製造されたプレコート鋼ブランクを、湿度100%のパップに入れ、70°Cの温度に維持した。アシストガスとして純窒素を使用してレーザカットされたプレコート鋼ブランクを、参照プレコート鋼ブランクと同じパップに入れた。96時間後、第一セットのプレコート鋼ブランクをパップから取り出し、レーザカットエッジの態様を観察した。本発明に従って製造されたプレコート鋼ブランクのレーザカットエッジに赤錆は見られなかったが、参照プレコート鋼ブランクのレーザカットエッジに赤錆が観察された。1週間後、第二セットのプレコート鋼ブランクをパップから取り出し、レーザカットエッジの態様を観察した。本発明に従って製造されたプレコート鋼ブランクのレーザカットエッジに赤錆は見られなかったが、参照プレコート鋼ブランクのレーザカットエッジに赤錆が観察された。
【0084】
いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、レーザカットエッジ13の上述の金属酸化物の存在は、大気腐食に対する障壁を形成する可能性がある。観察された改善された耐食性は、プレコート鋼ブランク1がレーザ溶接ブランクを形成するために使用される前に、縁部の錆の形成を防止するための高額な対策を講じることなく保管され得るので、著しい工業的利点を呈する。
【0085】
実施形態によれば、被ブラシングカットエッジ17の酸素の重量は、0.5%を超える。実際、ブラシング操作は、アルミニウム汚染の一部、及びレーザカットエッジ13の表面に存在する酸化物の一部を除去することができる。しかしながら、本発明者らは、本発明によるレーザ切断工程から引き継がれた酸素のかなりの部分が、ブラシング操作が行われた後に表面に依然として見えることを見出した。縁部の酸素含有量の測定は、好ましくは、ブラシングのステップの直後及びプレコート鋼ブランクを保管する前に行われることに留意されたい。実際、保管中、空気中に存在する酸素は縁部を酸化し、したがって縁部の測定された酸素含有量を増加させる。
【0086】
本発明者らは、レーザカットエッジ13の少なくとも一部に適用されるブラシング操作が、アルミニウムの縁部の汚染を低下させる上記の効果に加えて、レーザ切断操作に起因するバリの一部又は全部を除去するさらに有益な効果を有することをさらに観察した。実際、酸素富化アシストガスを使用した切断操作は、不活性アシストガスを使用したレーザ切断と比較して、レーザカットエッジ13の底部にバリを形成する頻度が高くなる。このバリは、レーザカットエッジ13から容易に取り外し可能であり、ブラシング操作によって大部分を除去することができる。
【0087】
実施形態によれば、レーザカットエッジ13は、別のプレコート鋼ブランク1に溶接されるように意図されたプレコート鋼ブランク1の少なくとも縁部を形成する。この場合、レーザカットエッジ13の少なくとも一部は、溶接継手に組み込まれるように意図される。この実施形態では、レーザカットエッジ13は、その後のブラシング操作なしに、溶接縁部としてそのまま使用される。
【0088】
実施形態によれば、被ブラシングカットエッジ17は、別のプレコート鋼ブランク1に溶接されるように意図されたプレコート鋼ブランク1の少なくとも縁部を形成する。この場合、被ブラシングカットエッジ17の少なくとも一部は、溶接継手に組み込まれるように意図されている。
【0089】
実施形態によれば、被ブラシングカットエッジ17は、別のプレコート鋼ブランク1に溶接されるように意図されたプレコート鋼ブランク1にのみ延びる。有利には、これにより、プレコート鋼ブランク1の製造工程の生産性を最適化することが可能になる。実際、ブラシング操作は、ブラシングされるレーザカットエッジ13の長さに関連するコストを有する。この長さを溶接されるように意図されたレーザカットエッジ13の部分に制限することによって、ブラシング操作は、アルミニウムの汚染の減少及び縁部の質の全体的な改善を通じて、実際に溶接ブランクの最終的な質に利益をもたらす場所でのみ実行される。
【0090】
レーザ切断パラメータに目を向けると、本発明者らは、アシストガスの直線エネルギーと酸素含有量との特定の組み合わせが有利な結果をもたらすことができることを見出した。レーザ切断直線エネルギーは、単位長さ当たりのレーザ切断の間にレーザビームによって送られるエネルギーの量に対応する。これは、レーザビームのパワーを切断速度で割ることによって計算することができる。本発明者らは、アシストガスの直線エネルギーと酸素の量との複合パラメータを用いることにより、レーザ切断後に縁部の満足する量のアルミニウムを得るための工程ウインドウを規定できることを見出した。このパラメータは、アシストガスの酸素含有量と直線エネルギーの積である。補助ガスの酸素は、鉄及び場合によってはアルミニウムの発熱酸化のおかげで切断操作のエネルギーバランスにおいて役割を果たすので、補助ガスに含まれる酸素の量にレーザの直線エネルギーを乗じたものは、切断エネルギーの形態を測定し、したがって工程ウインドウを画定するために使用することができることが理解され得る。
【0091】
レーザの切断は、有利には、アシストガスの体積%での酸素含有量とレーザ切断操作に使用されるレーザの直線エネルギーとの積が0.09kJ/cm以上であるように選択された直線エネルギー及びアシストガスを使用して実行され得る。本明細書で後述する実施例の表1に示すように、この最小値は、酸素含有量が15重量%以上であり、アルミニウム含有量が6.0重量%以下である基板部分14を有するレーザカットエッジ13を一貫して得ることを可能にする。
【0092】
レーザの切断は、有利には、アシストガスの体積%での酸素含有量によるレーザ切断操作に使用されるレーザの直線エネルギーの積が0.03kJ/cm以上であるように選択された直線エネルギー及びアシストガスを使用して実行され得る。本明細書で後述する実施例の表1に示すように、この最小値は、酸素含有量が0.5重量%以上であり、アルミニウム含有量が6.0重量%以下である基板部分を有する被ブラシングカットエッジ17を一貫して得ることを可能にする。
【0093】
言い換えれば、ブラシング操作を使用して、縁部の許容可能なレベルのアルミニウム(6.0重量%未満)を維持しながら、上記で定義された化合物のパラメータの最小値を0.09kJ/cm~0.03kJ/cmに下げることにより、レーザ切断操作の工程ウインドウを広げることができる。
【0094】
一実施形態によれば、レーザ切断ステップは、CO2レーザを使用して実行される。CO2レーザは、有利には連続レーザである。
【0095】
CO2レーザは、例えば、2kW~10kWの出力を有する。
【0096】
別の実施形態によれば、レーザ切断ステップは、固体レーザを使用して実行される。固体レーザは、例えば、Nd:YAG(ネオジムドープ・イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザ、ファイバレーザ、ダイオードレーザ、又はディスクレーザである。
【0097】
固体レーザは、例えば、2kW~20kWの出力を有する。
【0098】
本発明はまた、プレコート鋼ブランク1に関する。これは、上で開示された方法を使用して得ることができる。このプレコート鋼ブランク1は、
図2、
図3及び
図4を参照して上述されている。
【0099】
プレコート鋼ブランク1は、基板領域14において15%を超える酸素の重量含有量を有する。
【0100】
特定の実施形態では、プレコート鋼ブランク1は、被ブラシング基板領域において6.0%未満であるアルミニウムの重量含有率と、被ブラシング基板領域において0.5%を超える酸素の表面分率とを有する。
【0101】
さらに、プレコート鋼ブランク1は、カットエッジ面13に熱影響領域を備える。この熱影響領域は、レーザ切断中のカットエッジ面13の加熱から生じる。これは、熱影響領域の存在を検出するための従来の手段、例えば、マイクロ硬度又はナノ硬度の測定、又は適応エッチング後の金属組織学的観察によって観察することができる。
【0102】
本発明はまた、溶接ブランクを製造するための方法であって、
第1及び第2のプレコート鋼ブランク1を製造するステップであって、第1及び第2のプレコート鋼ブランク1のうちの少なくとも1つ、好ましくは第1のプレコート鋼ブランク1及び第2のプレコート鋼ブランク1が、上で開示された方法を使用して製造される、製造するステップと、
前記鋼ブランク1の間に溶接継手を形成し、溶接ブランクを得るために、第1及び第2のプレコート鋼ブランク1を突合せ溶接するステップと、を含む方法に関する。
【0103】
突合せ溶接するステップは、プレコート鋼ブランク1の少なくとも1つのレーザカットエッジ13が他方のプレコート鋼ブランク1の縁部に面するように、第1及び第2のプレコート鋼ブランク1を配置するステップを含む。
【0104】
特定の実施形態では、突合せ溶接するステップは、プレコート鋼ブランク1の少なくとも1つの被ブラシングカットエッジ17が他のプレコート鋼ブランク1の縁部に面するように、第1及び第2のプレコート鋼ブランク1を配置するステップを含む。
【0105】
前記第1及び第2のプレコート鋼ブランク1間の溶接継手は、それらの対向する縁部の溶融から、特にレーザカットエッジ13の少なくとも一方から得られる。特定の実施形態では、溶接継手は、プレコート鋼ブランク1の少なくとも1つの被ブラシングカットエッジ17の少なくとも1つの溶融から得られる。
【0106】
溶接は、有利にはレーザ溶接である。
【0107】
溶接は、自生溶接、すなわち、例えばワイヤ又は粉末の形態の充填材料を添加しない溶接であってもよい。
【0108】
代替形態によれば、溶接は、適切な充填材料、例えば充填ワイヤ又は粉末を使用して行われる。フィラーワイヤ又は粉末は、特に、プレコーティングに由来するアルミニウム汚染のフェライト形成及び/又は金属間化合物形成効果のバランスをとるように、オーステナイト形成要素を含むことができる。
【0109】
有利には、
図5に示すように、突合せ溶接の前に、プレコート鋼ブランク1の少なくとも1つについて、金属層11’は、考慮されるプレコート鋼ブランク1のレーザカットエッジ13に隣接する除去領域25にわたってプレコート鋼ブランク1の少なくとも1つの面4’上で除去され、突合せ溶接するステップの最中、プレコート鋼ブランク1は、金属層11’が除去された少なくとも1つの縁部に沿って溶接される。好ましくは、金属層11’は、突合せ溶接の前に第1及び第2のプレコート鋼ブランク1の各々から除去される。
【0110】
金属層11’の除去は、先行出願のWO2007/118939に開示されているように、レーザアブレーションによって有利に実行される。
【0111】
鋼ブランク1の各々の除去領域25の幅は、例えば、0.2mm~2.2mmに含まれる。
【0112】
好ましくは、除去ステップは、
図5に示すように、金属間合金層9’を残して金属層11’のみを除去するように実行される。したがって、金属間合金層9’は、その高さの少なくとも一部にわたって除去領域に残される。この場合、残留している金属間合金層9’は、溶接継手に直接隣接する溶接ブランクの領域が、後続の熱間成形ステップの最中に酸化及び脱炭、並びに熱間成形鋼部品の使用中のサービスの最中に腐食するのを保護する。
【0113】
任意選択に、溶接ブランクの製造方法は、溶接ステップを実施する前に、第1及び第2のプレコート鋼ブランク1のうちの少なくとも1つ、好ましくは第1及び第2のプレコート鋼ブランク1の両方の溶接されるべきプレコート鋼ブランク1の縁部をブラシングするステップを含む。
【0114】
方法が溶接前の金属層11’の除去を含む場合、この除去ステップの後にブラシングが実行されることが好ましい。この場合、ブラシングは、除去作業の間に、溶接されるブランク1の縁部に飛散した可能性があるアルミニウムトレースを、除去する。このようなスパッタリングは、特に、レーザアブレーションによる除去が行われるときに起こり得る。このようなスパッタは、縁部への付着が比較的少なく、したがって、ブラシングによって比較的容易に除去することができる。したがって、ブラシングは、溶接継手中のアルミニウム含有量をさらに減少させることができる。
【0115】
本発明者らは、本発明を適用することにより、形成されるレーザ溶接ブランクがプレコート鋼ブランク1を使用し、そのために溶接される両方の縁部がレーザカットエッジ13であり、それには溶接前にブラシング操作が行われず、溶接継手が、0.3重量%未満であり、4マイクロメートル未満の直径を有し、溶接継手の体積の少なくとも0.4%を覆う酸化アルミニウムの特徴的な包含集合を示すアルミニウム含有量を有することを見出した。
【0116】
本文脈において、粒子の直径は、前記粒子をカプセル化することができる可能な最小の球の直径であると定義される。
【0117】
本発明者らは、本発明を適用することにより、形成されるレーザ溶接ブランクがプレコート鋼ブランク1を使用し、そのために溶接される両方の縁部が被ブラシングレーザカットエッジ17であり、溶接継手が、0.3重量%未満であり、2マイクロメートル未満の直径を有し、溶接継手の体積の少なくとも0.2%を覆う酸化アルミニウムの特徴的な包含集合を示すアルミニウム含有量を有することを見出した。
【0118】
驚くべきことに、本発明者らは、アシストガスの酸素が存在していることに起因して、溶接前に縁部に酸素が存在しているにもかかわらず、また溶接継手に酸化アルミニウムが存在しているにもかかわらず、前記溶接継手が、実施例で後述するように良好な機械的強度及び靱性を示すことを見出した。溶接継手中の酸素の存在、特に酸化アルミニウムの存在は、前記溶接継手の可塑性及び靱性に悪影響を及ぼし得ることが文献で知られている。
【0119】
本発明はまた、プレス硬化鋼部品を製造するための方法であって、
上で開示された方法を使用して溶接ブランクを製造するステップと、
溶接ブランクを形成する鋼ブランク1において少なくとも部分的にオーステナイト構造を得るために、溶接ブランクを加熱するステップと、
プレス成形鋼部品を得るために、溶接ブランクをプレス内で熱間成形するステップと、
プレス硬化鋼部品を得るために、プレス内で鋼部品を冷却するステップとを含む方法に関する。
【0120】
より詳細には、溶接ブランクは、鋼ブランク1の上側オーステナイト変態温度Ac3よりも高い温度に加熱される。
【0121】
冷却ステップの最中、冷却速度は、有利には、鋼ブランクの臨界マルテンサイト又はベイナイト冷却速度と同じかそれを超えている。
【0122】
溶接継手の上述の酸化アルミニウム含有物は、熱間成形前にレーザ溶接ブランクを加熱するために使用される温度で安定しているため、得られたプレス硬化鋼部品は、プレス成形操作前に元のレーザ溶接ブランクに溶接継手が存在していた場所に同じ酸化アルミニウム含有物を保持する。プレス硬化鋼部品内部の溶接継手の前記位置は、前記プレス硬化鋼部品の各面の表面の少なくとも一部を含み、前記プレス硬化鋼部品の少なくとも2つの縁部間に延在する体積部である。
【0123】
より具体的には、溶接される両方の縁部が溶接前にブラシング操作が行われていないレーザカットエッジ13であるプレコート鋼ブランク1を使用してレーザ溶接ブランクから形成されたプレス硬化鋼部品の場合、レーザ溶接ブランクの溶接継手が元々存在していた場所は、4マイクロメートル未満の直径を有し、少なくとも0.4体積%を覆う酸化アルミニウムの特徴的な含有集合を有する。
【0124】
溶接される両方の縁部が被ブラシングレーザカットエッジ17であるプレコート鋼ブランク1を使用してレーザ溶接ブランクから形成されたプレス硬化鋼部品の場合、レーザ溶接ブランクの溶接継手が元々存在していた場所は、4マイクロメートル未満の直径を有し、溶接継手の少なくとも0.2体積%を覆う酸化アルミニウムの特徴的な含有集合を有する。
【0125】
本発明の本発明者らは、以下の実験を行った。第一組の実験は、本発明によるプレコート鋼ブランクのレーザカットエッジ13及び被ブラシングカットエッジ17を分析することに焦点を合わせている。第二組の実験は、本発明によるプレス硬化鋼部品の分析に焦点を当てている。
【0126】
第一組の実験セットでは、純酸素及び空気をアシストガスとして用いるCO2レーザを使用し、異なるレーザ切断速度及びエネルギーを使用して、レーザ切断によってプレコート鋼ブランク1をプレコート鋼帯2から切断した。プレコート鋼ブランク1は、長方形の形状を有していた。異なる厚さの鋼帯2を使用した。次いで、このようにして製造されたプレコート鋼帯1の一部を、そのままの状態で、ブラシングによってその後加工されなかったレーザカットエッジ13を用いて観察した。このようにして製造されたプレコート鋼帯1の別の部分をブラシング操作に供して、観察前に被ブラシングカットエッジ17を形成した。
【0127】
プレコート鋼帯2は、上に開示された組成及びプレコーティングを有するストリップであった。
【0128】
より具体的には、帯2の鋼は、重量%で、
C:0.22%
Mn:1.16%
Al:0.03%
Si:0.26%
Cr:0.17%
B:0.003%
Ti:0.035%
S:0.001%
N:0.005%
を含み、残りは鉄及び精緻化に起因する可能な不純物である。
【0129】
この鋼は、Usibor(R)1500の商品名で知られている。
【0130】
プレコート5は、溶融金属の槽で鋼帯2を溶融めっきすることによって得られている。
【0131】
プレコート5の金属層は、重量で、
Si:9%
Fe:3%、
を含み、残りはアルミニウム及び精緻化に起因する可能な不純物である。
【0132】
金属層の平均総厚は20μmであった。
【0133】
金属間合金層は、Fex-Aly型の金属間化合物を含み、主にFe2Al3、Fe2AI5、FexAIySizを含んでいた。平均の厚さは5μmである。
【0134】
このようにして製造された各プレコート鋼ブランク1について、本発明者らは、ブラシングされていないサンプルのレーザカットエッジ13の基板領域14のアルミニウム及び酸素の重量含有量、並びに被ブラシング基板領域19のアルミニウム及び酸素の重量含有量を測定した。
【0135】
測定は、以下のパラメータを使用して、走査型電子顕微鏡で撮影された、考察されるエッジ表面の画像に基づいて実行された。
【0136】
倍率:x60
分析する長さ:3mm
電子ビームエネルギー:15keV~25keV。
【0137】
4kWの公称の出力を有するCO2レーザを使用して実験を実施し、実験では、1.9kW~3.8kWで異なる出力レベルを使用した。アシストガスの圧力は、3~15バールに含まれた。切断速度は、3~20メートル/分に含まれた。アシストガスを吹き付けるノズルの直径は、純酸素の場合は0.8mm、空気の場合は1.4mmとした。ノズルをレーザビーム衝撃点から隔てるスタンドオフ距離は、0.7mmであった。使用された鋼帯2の厚さは、0.8mm~1.6mmに含まれていた。
【0138】
ブラシング操作は、0.3ニュートンメートルのトルクを加え、1180RPMで回転するモータによって動力供給される、10メートル/分で移動する7つのブラシを使用して行った。使用されるブラシは、市販のNovofil(R)NH-S 80を有する。
【0139】
試験の結果を表1において報告する。結果は、レーザカットエッジ13の基板領域14又は被ブラシングカットエッジ17の被ブラシング基板部分19の酸素及びアルミニウムの重量含有量に関して、及び縁部の質という観点で、表されている。
図11及び
図12は、アシストガス中の酸素の量による直線エネルギーの積の関数として、レーザカットエッジ13の基板部分14及び被ブラシングカットエッジ18の被ブラシング基板領域19について、それぞれAlの割合をプロットした、表1の結果をグラフで表したものである。
【0140】
ここで、現文脈では、縁部の質は、以下の、非常に良好、小さなバリ、強いバリという3つのカテゴリのうちの1つに分類されることに留意されたい。非常に良好とは、レーザカットエッジ13又は被ブラシングカットエッジ17の底部にバリが観察されなかったことを意味する。小さなバリとは、レーザ切断工程から生じるバリの高さが厳密に0.1mm未満であることを意味する。強いバリとは、レーザ切断工程によるバリの高さが0.1mm以上であることを意味する。溶接されることを意図したプレコート鋼ブランクの縁部にバリが存在すると、溶接継手の機械的強度に有害な欠陥を溶接継手にもたらす可能性がある。
【0141】
モダリティ1から14はブラシング前であり、1bから14bはブラシング後である。
【0142】
表1及び
図11に見られるように、アシストガスの中の酸素の量と直線エネルギーの積が0.09kJ/cm以上である場合、基板領域14のアルミニウムの量は6.0%未満である。
【0143】
表1及び
図12に見られるように、アシストガスの中の酸素の量と直線エネルギーの積が0.03kJ/cm以上である場合、被ブラシング基板領域19のアルミニウムの量は6.0%未満である。
【0144】
表1に見られるように、レーザ切断操作から直接生じる基板部分14の酸素の量は、モダリティ7を除いて、15%を超える。これは、縁部の酸素含有量が9%であることを示す。モダリティ7は、0.02kJ/cmのアシストガスの中の酸素の割合による非常に低い直線エネルギーを使用して実施された。
【0145】
表1に見られるように、アシストガスとして純酸素を使用する場合、レーザカットエッジ13の基板部分14の酸素の重量含有量は常に15%を超える。
【0146】
表1はまた、レーザカットエッジ13又は被ブラシングカットエッジ17の縁部の質を報告する。見て分かるように、レーザカットエッジ13の質は、非常に良好から強いバリまで多様である。本発明に従って製造されたレーザカットエッジ13は、縁部の質を改善するよう、ブラシングに非常に良く適合する。実際、ブラシング後の縁部の質は、表1に見られるように、ブラシング操作後に常に非常に良好と常に評価されている。
【0147】
図6A及び
図6Bは、表1のモダリティ1に対応する、すなわち、0.8mmのプレコート鋼ブランクの厚さ、切断操作のための1.9kWのレーザ出力、毎分3メートルの切断速度、及びアシストガスとしての18バールの純酸素ガス圧力を有するプレコート鋼ブランクのレーザカットエッジ13の断面を観ているものである。
図6Aは、レーザカットエッジ13の表面のアルミニウムマッピングを示しており、アルミニウムの画素は灰色の背景で白色に見える。
図6Bは、レーザカットエッジ13の表面の酸素マッピングを示し、酸素の画素は灰色の背景全体に対応し、一方で灰色の背景上の黒い点は酸素以外の画素である。レーザ切断工程から生じるバリ20は、断面6A及び6Bの底部に見ることができる。
【0148】
図7A及び
図7Bは、表1のモダリティ1bに対応するプレコート鋼ブランクの被ブラシングカットエッジ17の断面を観たものである。レーザ切断パラメータは、上の詳細なモダリティ1と同じであるが、モダリティ1bの場合、レーザカットエッジ13は、被ブラシングカットエッジ17を得るために上の詳細なブラシングパラメータを使用してブラシングした。
図7Aは、被ブラシングカットエッジ17の表面のアルミニウムマッピングを示しており、アルミニウムの画素は灰色の背景上で白色に見える。
図7Bは、被ブラシングカットエッジ17の表面の酸素マッピングを示し、酸素の画素は、暗い背景の灰色の画素に対応する。
図6A及び
図6Bで観察されたバリ20は、
図7A及び
図7Bにはもはや存在しないことも分かり、本発明によるプレコート鋼ブランクに対して行われたブラシング操作が、切断操作から直接生じるバリを除去することを可能にすることを確認する。
【0149】
第二の組の実験では、本発明に従って製造されたプレス硬化鋼部品を分析した。第1のステップでは、本発明に従ってプレコート鋼ブランク1を製造した。
【0150】
プレコート鋼ブランク1は、0.8mm及び1.6mmの厚さを有し、第一の組の実験について上に詳述したのと同じ化学組成を有するプレコート帯から製造された。レーザ切断操作は、切断されたプレコート鋼ブランクとしてブラシングされていない場合には0.09kJ/cm超であり、被ブラシングプレコート鋼ブランクの場合には0.03kJ/cm超である、アシストガスの酸素含有量と、直線エネルギーの積を使用して行った。
【0151】
次いで、プレコート鋼ブランク1は、パルスレーザを使用してプレコート鋼ブランク1の両面4’上の溶接縁部に隣接する除去領域の金属層を除去するステップ、及び以下のパラメータを適用するステップにかけられた。
【0152】
スポットサイズ:0.5*2mm
走行速度:2.5m/分
周波数:6kHz
出力:450W
レーザ源:Rofin DQx45s
プレコート鋼ブランク1の一部に対してブラシング操作を行った。ブラシング操作は、以下のパラメータを使用して実施した:0.3ニュートンメートルのトルクを適用するモータにより、1180のRPMで動力を供給され、市販のNovofil(R)NH-S 80のブラシを使用して、10メートル/分で移動する7つのブラシでブラシングした。
【0153】
次いで、このようにして作製されたプレコート鋼ブランク1をレーザ溶接し、第1及び第2のプレコート鋼ブランク1を、レーザカットエッジ13、又はブラシングが行われた場合には被ブラシングカットエッジ17が溶接縁部となるように配置した。レーザ溶接は、フィラーワイヤを用いて行った。以下のレーザ溶接パラメータをすべてのモダリティに使用した:
フィラー線径:1mm
コリメーション/集束:200/200
繊維径:600マイクロメートル
保護ガス:ヘリウム(毎分15リットルの流量)
使用されたフィラーワイヤは、重量%で表される以下の組成を有する。
【0154】
0.65%≦C≦0.75%
1.95%≦Mn≦2.05%
0.35%≦Si≦0.45%
0.95%≦Cr≦1.05%
0.15% Ti≦0.25%
残りは鉄、及び加工からの不可避の不純物である。
【0155】
次いで、このようにして製造された溶接ブランクを、前記溶接ブランクをオーステナイト化温度超に加熱し、次いでプレコート鋼ブランク1の臨界マルテンサイト冷却速度よりも速い速度でツールで焼入れすることによって、プレス硬化鋼部品を形成するように加工した。
【0156】
各モダリティに固有の詳細なレーザ溶接パラメータ、並びに第二の組の実験の結果を表2にて報告する。
【0157】
第一の組の結果は、プレコート鋼ブランクの基板に対応するプレス硬化鋼部品の部分の硬度と比較して、溶接金属領域内の硬度の低下の有無に関する。表2から分かるように、いずれの場合も、ブラシングの有無にかかわらず、溶接金属領域の硬度の低下は見られなかった。これは、溶接金属領域が部品で良好な機械的挙動を有し、部品の弱い領域を構成しないことを示している。これは、部品の早期損傷につながる可能性がある。
【0158】
硬度は、NF規格 EN規格 ISO 6507-1規格に従ってビッカース硬度試験を使用して測定した。試験は、0.5kgf(HV0.5)の試験力を使用して、溶接継手に対して横方向に行った。
【0159】
図8は、モダリティ15bで実行された硬度の測定を示しており、表1及び上の説明において詳述したパラメータに従って、それぞれ1.6mmの厚さを有する2つのプレコート鋼ブランクが作製され、溶接された。
図8の上部は、溶接されたサンプルの断面顕微鏡写真であり、中央に文字Wで識別される溶接部と、溶接部の両側に文字Pで識別される2つのプレコート鋼ブランク1とを含む。顕微鏡写真の3つの水平な黒い点線は、微小硬度試験が実行された領域に対応し、黒い点は、微小硬度を測定するために実行された押し込みによって残されたトレースである。線は、文字T、M及びBと識別され、これらは、上、中央及び下を意味する。
図8の下部は、線T、M、及びBに沿った微小硬度測定の結果を示している。見て分かるように、溶接部内には、プレコート鋼ブランク1と比較して、硬度の低下がない。
【0160】
第2の組の結果は、走査型電子顕微鏡に組み込まれたエネルギー分散型分光検出器を使用して溶接金属領域に溶解したアルミニウムの量に関する。
【0161】
表2に見られるように、溶接領域に溶解したアルミニウムの量は、一貫して、0.3重量%未満である。この低レベルのアルミニウムのおかげで、溶接部は、完全なマルテンサイト微細構造をもたらす冶金的な変形を経ることができ、これは、上で説明した硬度測定で見られるように、周囲の基板ほど低い硬度を示さない。
【0162】
モダリティ15及び15bのサンプルの溶接金属領域で行われた観察に対応する第三の組の結果は、溶接金属領域の包含集合、より詳細には溶接金属領域の小さな酸化アルミニウム粒子の特性評価に関する。
図9及び
図10は、それぞれモダリティ15及び15bに対応する溶接金属領域の断面のアルミニウムマッピングである。写真は、1万倍に設定した走査型電子顕微鏡を使用し、エネルギー分散型X線分析プローブセットを使用してアルミニウム及び酸素を検出して撮影した。
図9及び
図10に見られるように、検出された酸化アルミニウム粒子は、略球形の形状であり、2マイクロメートルを超えない直径を有する。前記酸化アルミニウムの体積密度を表2にて報告する。体積密度は、モダリティ15については平均0.6%、モダリティ15bについては0.3%であると測定された。15と15bとの間の密度の減少は、一部のアルミニウムがブラシング操作によって縁部から除去され、溶接部に溶解するアルミニウムが少なくなるという事実によって説明される。これらの小さな酸化アルミニウム粒子は、機械的切断又は不活性補助ガスによるレーザ切断のいずれかを使用して切断されたプレコート鋼ブランクに対して行われた溶接部では、観察されないことに、留意されたい。
【0163】
理論に束縛されることを望まないが、本発明者らは、溶接金属領域で観察される酸化アルミニウム粒子が溶接金属領域の全体的な機械的強度に悪影響を及ぼさない理由を説明するために以下の理由を示す。1つ目は、これらの酸化物の中に存在するアルミニウムは、溶接金属領域の鉄マトリックスに溶解するように利用可能ではなく、したがって、ホットスタンピング工程の間に生じる冶金現象に影響を及ぼさないことである。より詳細には、オーステナイト化温度に影響を与えず、溶接金属領域の焼入れ性にも影響を与えない。2つ目の理由は、酸化アルミニウム粒子が十分に小さく、溶接金属領域の機械的抵抗にいずれの大きな影響をも与えないためである。サイズが小さいため、これらの粒子は、著しい応力集中の領域を表すことがなく、したがって、溶接部の故障につながるマイクロクラックも発生の原因とはならない。
【0164】
【0165】