IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコの特許一覧

<>
  • 特許-方向性電磁鋼板およびその製造方法 図1
  • 特許-方向性電磁鋼板およびその製造方法 図2
  • 特許-方向性電磁鋼板およびその製造方法 図3
  • 特許-方向性電磁鋼板およびその製造方法 図4
  • 特許-方向性電磁鋼板およびその製造方法 図5
  • 特許-方向性電磁鋼板およびその製造方法 図6
  • 特許-方向性電磁鋼板およびその製造方法 図7
  • 特許-方向性電磁鋼板およびその製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240220BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240220BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20240220BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240220BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240220BHJP
   C23C 28/04 20060101ALI20240220BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 B
C21D9/46 501A
C23C26/00 C
C23C28/04
H01F1/147 183
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022538352
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 KR2020018282
(87)【国際公開番号】W WO2021125728
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0172303
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クォン, ミン-セルク
(72)【発明者】
【氏名】イ, サングォン
(72)【発明者】
【氏名】ベ, ジン-ス
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0078491(KR,A)
【文献】特表2019-508577(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1850133(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0078059(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0078229(KR,A)
【文献】特開2004-197154(JP,A)
【文献】特開2004-060040(JP,A)
【文献】特開昭63-303009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板、および
前記素地鋼板の表面上に接触して位置するセラミックコーティング層を含み、
65℃、湿度95%、72時間条件で表面に生成された錆発生領域で耐候性が35%未満であり、
前記セラミックコーティング層は、Al 、ZrO 、MgO、およびSiO から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記セラミックコーティング層の厚さは、0.1~10μmであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記セラミックコーティング層は、表面粗さが1μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記方向性電磁鋼板は、セラミックコーティング層上に絶縁コーティング層をさらに含むことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
全体100重量%を基準にしてSi:2.0~7.0重量%、Sn:0.01~0.10重量%、Sb:0.01~0.05重量%、酸可溶性Al:0.020~0.040重量%、Mn:0.01~0.20重量%、C:0.04~0.07重量%、N:10~50ppm、S:0.001~0.005重量%を含み、残りがFeおよびその他不可避不純物からなるスラブを加熱する段階、
前記加熱したスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、
前記冷延板を脱炭焼鈍する段階、
前記脱炭焼鈍された冷延板の一面または両面の一部または全部に化学気相蒸着(CVD)工程を用いてセラミックコーティング層を形成する段階、および
前記セラミックコーティング層を形成した冷延板を最終焼鈍する段階を含み、
前記セラミックコーティング層を形成する段階は、金属アルコキシド系化合物であるセラミック前駆体を使用することであり、
前記金属アルコキシド系化合物は、マグネシウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、シリカアルコキシド、およびアルミナアルコキシドからなる群より選択された1種以上であることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記化学気相蒸着工程は、CVD、LPCVD(Low Pressure CVD)、APCVD(Atmospheric Pressure CVD)、PECVD(Plasma Enhanced CVD)および常圧プラズマ化学蒸着工程(APP-CVD:Atmospheric Pressure Plasma enhanced-Chemical Vapor Deposition)工程からなる群より選択された1以上であることを特徴とする請求項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記セラミックコーティング層形成段階は
大気圧条件で高密度無線周波数を用いて鋼板表面に電場を形成してプラズマを発生させる段階、および
Ar、HeおよびNのうちの1種以上からなる第1ガスと気相のセラミック前駆体を混合して鋼板表面に接触反応させる段階を含むことを特徴とする請求項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記Ar、HeおよびNのうちの1種以上からなる第1ガスと気相のセラミック前駆体を混合して鋼板表面に接触反応させる段階は、
、OおよびHOのうちの1種からなる第2ガスを前記第1ガスおよびセラミック前駆体に追加的に混合することを含むことを特徴とする請求項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記第1ガスと第2ガスは前記セラミック前駆体の気化点以上の温度で加熱されていることを特徴とする請求項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記セラミックコーティング層を形成した冷延板を最終焼鈍する段階、以後に
絶縁被膜を形成する段階をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より具体的には、フォルステライト層を形成せず脱炭焼鈍段階後にセラミックコーティング層を形成した方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、方向性電磁鋼板とは、鋼板に3.1%前後のSi成分を含有したものであって、結晶粒の方位が{100}<001>[0002]方向に整列された集合組織を有していて、圧延方向に極めて優れた磁気的特性を有する電磁鋼板をいう。このような{100}<001>集合組織を得ることは様々な製造工程の組み合わせによって可能であり、特に鋼スラブの成分をはじめとして、これを加熱、熱間圧延、熱延板焼鈍、1次再結晶焼鈍、および最終焼鈍する一連の過程が非常に厳密に制御されなければならない。具体的に、方向性電磁鋼板は1次再結晶粒の成長を抑制させ、成長が抑制された結晶粒のうちの{100}<001>方位の結晶粒を選択的に成長させて得られた2次再結晶組織によって優れた磁気特性を示すようにするものであるので、1次再結晶粒の成長抑制剤がより重要である。そして、最終焼鈍工程では、成長が抑制された結晶粒のうち、安定的に{100}<001>方位の集合組織を有する結晶粒が優先的に成長できるようにすることが方向性電磁鋼板製造技術において主な事項の一つである。
【0003】
前述の条件が充足でき現在工業的に広く用いられている1次結晶粒の成長抑制剤としては、MnS、AlN、およびMnSeなどがある。具体的に、鋼スラブに含まれているMnS、AlN、およびMnSeなどを高温で長時間再加熱して固溶させた後に熱間圧延し、以後の冷却過程で適正な大きさと分布を有する前記成分が析出物として作られて前記成長抑制剤として用いられることになる。しかし、これは必ず鋼スラブを高温で加熱しなければならないという問題点がある。これに関連して、最近は鋼スラブを低温で加熱する方法で方向性電磁鋼板の磁気的特性を改善するための努力があった。このために、方向性電磁鋼板にアンチモン(Sb)元素を添加する方法が提示されたが、最終高温焼鈍後、結晶粒大きさが不均一であり粗大であって変圧器騒音品質が劣位になるという問題点が指摘された。
【0004】
一方、方向性電磁鋼板の電力損失を最少化するために、その表面に絶縁被膜を形成することが一般的であり、この時、絶縁被膜は基本的に電気絶縁性が高く素材との接着性に優れ、外観に欠陥がない均一な色を有しなければならない。これと共に、最近、変圧器騒音に対する国際規格強化および関連業界の競争深化によって、方向性電磁鋼板の絶縁被膜の騒音を低減するために、磁気ひずみ(磁歪)現象に関する研究が必要であるのが実情である。具体的に、変圧器鉄心として使用される電磁鋼板に磁場が印加されると、収縮と膨張を繰り返して震え現象が誘発され、このような震えによって変圧器で振動と騒音が引き起こされる。一般に知られた方向性電磁鋼板の場合、鋼板およびフォルステライト(Forsterite)系ベース被膜の上に絶縁被膜を形成し、このような絶縁被膜の熱膨張係数差を用いて鋼板に引張応力を付与することによって、鉄損を改善し磁気ひずみに起因した騒音減少効果を図っているが、最近要求されている高級方向性電磁鋼板での騒音水準を満足させるには限界がある。一方、方向性電磁鋼板の90°磁区を減少させる方法として湿式コーティング方式が知られている。ここで、90°磁区とは、[0010]磁界印加方向に対して直角に向かっている磁化を有する領域を言い、このような90°磁区の量が少ないほど磁気ひずみが小さくなる。しかし、一般的な湿式コーティング方式では引張応力付与による騒音改善効果が不足し、コーティング厚さが厚い厚膜でコーティングしなければならない短所があって、変圧器占積率と効率が悪くなるという問題点がある。
よって、方向性電磁鋼板の表面に高張力特性を付与することに対する研究が持続されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が目的とするところは、フォルステライト層のない素地鋼板上にセラミックコーティング層を形成した方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の方向性電磁鋼板は、素地鋼板、および前記素地鋼板の表面上に接触して位置するセラミックコーティング層を含み、65℃、湿度95%、72時間条件で耐喉性が35%未満であり得る。
前記セラミックコーティング層は、TiO、Al、ZrO、MgO、SiOおよびTiから選択される少なくとも1種以上であってもよい。
前記素地鋼板は、素地鋼板全体100重量%を基準にしてSi:2.0~7.0重量%、Sn:0.01~0.10重量%、Sb:0.01~0.05重量%、酸可溶性Al:0.020~0.040重量%、Mn:0.01~0.20重量%、C:0.04~0.07重量%、N:10~50ppm、S:0.001~0.005重量%を含み、残りがFeおよびその他不可避不純物からなることができる。
前記セラミック層の厚さは、0.1~10μmであってもよい。
前記セラミック層は、表面粗さが1μm以下であってもよい。
前記方向性電磁鋼板は、セラミックコーティング層上に絶縁コーティング層をさらに含むことができる。
【0007】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、全体100重量%を基準にしてSi:2.0~7.0重量%、Sn:0.01~0.10重量%、Sb:0.01~0.05重量%、酸可溶性Al:0.020~0.040重量%、Mn:0.01~0.20重量%、C:0.04~0.07重量%、N:10~50ppm、S:0.001~0.005重量%を含み、残りがFeおよびその他不可避不純物からなるスラブを加熱する段階、前記加熱したスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、前記冷延板を脱炭焼鈍する段階、前記脱炭焼鈍された冷延板の一面または両面の一部または全部に化学気相蒸着(CVD)工程を用いてセラミックコーティング層を形成する段階、および前記セラミックコーティング層を形成した冷延板を最終焼鈍する段階を含むことができる。
【0008】
前記セラミックコーティング層を形成する段階は、セラミック前駆体を使用することであってもよい。
前記セラミック前駆体は、金属アルコキシド系化合物であってもよい。
前記金属アルコキシド系化合物は、マグネシウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、シリカアルコキシド、チタニアアルコキシド、およびアルミナアルコキシドからなる群より選択された1種以上であってもよい。
前記化学気相蒸着法は、CVD、LPCVD(Low Pressure CVD)、APCVD(Atmospheric Pressure CVD)、PECVD(Plasma Enhanced CVD)および常圧プラズマ化学蒸着工程(APP-CVD:Atmospheric Pressure Plasma enhanced-Chemical Vapor Deposition)工程からなる群より選択された1以上であってもよい。
【0009】
前記セラミックコーティング層形成段階は、大気圧条件で高密度無線周波数を用いて鋼板表面に電場を形成してプラズマを発生させる段階、およびAr、HeおよびNのうちの1種以上からなる第1ガスと気相のセラミック前駆体を混合して鋼板表面に接触反応させる段階を含むことができる。
前記Ar、HeおよびNのうちの1種以上からなる第1ガスと気相のセラミック前駆体を混合して鋼板表面に接触反応させる段階はH、OおよびHOのうちの1種からなる第2ガスを前記第1ガスおよびセラミック前駆体に追加的に混合することを含むことができる。
前記第1ガスと第2ガスは、前記セラミック前駆体の気化点以上の温度で加熱されているものであってもよい。
前記セラミックコーティング層を形成した冷延板を最終焼鈍する段階以後に絶縁被膜を形成する段階をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉄損が低く絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することができる。
本発明によれば、本発明のセラミックコーティング層は高張力の被膜層であって、通常のMgO焼鈍分離剤とは異なり除去が必要でない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】通常の方向性電磁鋼板製造工程フローチャートを示したものである。
図2】本発明の方向性電磁鋼板製造工程フローチャートを示したものである。
図3】2次再結晶焼鈍工程での焼鈍熱処理過程の温度変化グラフであって、(a)は従来例の温度変化を、(b)は本発明一実施形態の温度変化を示したものである。
図4】本発明の一実施形態の常圧プラズマ-CVD工程を用いて1次再結晶焼鈍された上板表面にセラミックコーティング層が形成されるメカニズムを示す模式図である。
図5】本発明の一実施形態の常圧プラズマ-CVD工程でRF パワーソース(RF Power Source)によって生成されたプラズマ領域内でセラミック前駆体の一例であるTTIPが解離された状態を示したものである。
図6】本発明の一実施形態の素地鋼板上にセラミックコーティング層および絶縁被膜コーティング層が形成された方向性電磁鋼板を示したものである。
図7】本発明の一実施形態の素地鋼板上にセラミックコーティング層が形成された鋼板の断面をFIB-SEMで撮影したものを示したものである。
図8】本発明の一比較例の素地鋼板上にセラミックコーティング層が形成された鋼板の断面をFIB-SEMで撮影したものを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1、第2、および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語はある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及できる。
ここで使用される専門用語は単に特定実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される“含む”の意味は特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるのではない。
ある部分が他の部分“の上に”または“上に”あると言及する場合、これは直ぐ他の部分の上にまたは上にあり得るか、その間に他の部分が伴われることがある。対照的に、ある部分が他の部分“の真上に”あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
また、特別に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
本発明の一実施形態で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部である鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
異なるように定義しなかったが、ここに使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り理想的であるか非常に公式的な意味に解釈されない。
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々の異なる形態に実現でき、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0013】
図1は、通常の方向性電磁鋼板製造工程のフローチャートを示したものである。
図1に示しているように、焼鈍酸洗工程(APL:Annealing & Pickling Line)は、熱延板のスケールを除去し、冷間圧延性を確保し、熱延板のInhibitor(AlN)を磁性に有利に析出し分散させる段階である。その次に、冷間圧延工程は、最終製品の厚さで熱延板を圧延し、磁性に有利な結晶方位を確保する段階である。そして、1次再結晶焼鈍工程は、脱炭浸窒焼鈍工程(DNL:Decarburizing & Nitriding Line)で冷延板の炭素を除去し、適正温度で窒化反応を行って1次再結晶を形成する段階である。その次に、2次再結晶焼鈍工程である高温焼鈍工程(COF)で金属酸化物層(MgSiO)を形成し2次再結晶を形成する。最後に、HCL工程で素材形状を校正し、前記焼鈍分離剤を除去した後、絶縁被膜層を形成して電磁鋼板表面に張力を付与する工程を経る。
前記従来製造技術では、1次再結晶工程で脱炭浸窒処理後に、焼鈍分離剤(MgO)を塗布する工程を経る。そして、これにより、2次再結晶焼鈍工程で1次加熱して1次均熱処理し、その次に、2次加熱後に2次均熱処理する工程を経るようになる。
【0014】
図2は、本発明の実施形態の方向性電磁鋼板の製造工程フローチャートを示したものである。
図2に示しているように、本発明の実施形態は1次再結晶焼鈍工程で焼鈍分離剤(MgO)を塗布する代わりに、常圧プラズマCVD工程(APP-CVD)を用いてセラミックコーティング層を形成する。そして、その次に2次再結晶焼鈍工程で2段加熱後に1次均熱処理する段階を経る。即ち、本発明はスラブ加熱する段階、熱間圧延する段階、冷間圧延する段階、および1次再結晶焼鈍する段階までは従来の製造方法と同一であるが、従来の焼鈍分離剤MgOを塗布する段階の代わりに、1次再結晶焼鈍された鋼板の一面または両面の一部または全部に常圧プラズマCVD工程(APP-CVD)を用いてプラズマ状態で気相のセラミック前駆体を接触反応してセラミックコーティング層を形成する段階を含む。
【0015】
以下、本発明の方向性電磁鋼板製造方法についてより具体的に開示する。
まず、従来の製造方法と同一に1次再結晶焼鈍まで終えた鋼板を準備する。この時、前記冷延鋼板は方向性電磁鋼板であればよく、特別にその組成を限定しない。但し、例えば、全体100重量%を基準にして、Si:2.0~7.0重量%、Sn:0.01~0.10重量%、Sb:0.01~0.05重量%、酸可溶性Al:0.020~0.040重量%、Mn:0.01~0.20重量%、C:0.04~0.07重量%、N:10~50ppm、S:0.001~0.005重量%を含み、残りがFeおよびその他不可避不純物からなる冷延鋼板であってもよい。
【0016】
以下、各成分の限定理由について説明する。
Si:2.0~7.0重量%
シリコン(Si)は鋼の比抵抗を増加させて鉄損を減少させる役割を果たし、Siの含量が過度に少ない場合には鋼の比抵抗が小さくなって鉄損特性が劣化し、高温焼鈍時、相変態区間が存在して2次再結晶が不安定になる問題が発生することがある。Siの含量が過度に多い場合には脆性が大きくなって冷間圧延が難しくなる問題が発生することがある。したがって、前述の範囲でSiの含量を調節することができる。さらに具体的に、Siは2.0~7.0重量%含まれてもよい。
Sn:0.01~0.10重量%
Snは、結晶粒界偏析元素として結晶粒界の移動を妨害する元素であるため、結晶粒成長抑制剤として{110}<001>方位のゴス結晶粒の生成を促進して2次再結晶がよく発達するようにするので、結晶粒成長抑制力補強に重要な元素である。
Sn含量が0.01重量%未満であればその効果が低下し、0.10重量%を超過すれば結晶粒界偏析が過度に起こって鋼板の脆性が大きくなって圧延時に板破断が発生するようになる。したがって、Sn含量は0.01~0.04重量%であるのが好ましい。
【0017】
Sb:0.01~0.05重量%
Sbは{110}<001>方位のゴス結晶粒の生成を促進する元素であって、その含量が0.01重量%未満である場合にはゴス結晶粒生成促進剤として十分な効果を期待することができず、0.05重量%を超過すれば表面に偏析されて酸化層形成を抑制し表面不良が発生するようになる。したがって、Sb含量は0.01~0.03重量%であるのが好ましい。
酸可溶性Al:0.020~0.040重量%
Alは、最終的にAlN、(Al、Si)N、(Al、Si、Mn)N形態の窒化物になって抑制剤として作用する元素である。酸可溶性Al含量が0.02重量%未満である場合には抑制剤として十分な効果を期待することができない。反面、酸可溶性Al含量が0.040重量%超過である場合にはAl系統の窒化物が過度に粗大に析出および成長するので、抑制剤としての効果が不足するようになる。したがって、Al含量は0.020~0.040重量%であるのが好ましい。
【0018】
Mn:0.01~0.20重量%
Mnは、Siと同一に比抵抗を増加させて鉄損を減少させる効果があり、Siと共に窒化処理によって導入される窒素と反応して(Al、Si、Mn)Nの析出物を形成することによって1次再結晶粒の成長を抑制して2次再結晶を起こすのに重要な元素である。しかし、Mnの含量が過度に多い場合、熱延途中にオーステナイト相変態を促進するので1次再結晶粒の大きさを減少させて2次再結晶を不安定にする。また、Mnの含量が過度に少ない場合、オーステナイト形成元素として熱延再加熱時にオーステナイト分率を高めて析出物の固溶量を多くして在析出時に析出物微細化とMnS形成を通じた1次再結晶粒が過度に過大でないようにする効果が不充分に起こることがある。したがって、前述の範囲でMnの含量を調節することができる。
C:0.04~0.07重量%
Cは本発明による実施形態で方向性電磁鋼板の磁気的特性向上に大きく役に立たない成分であるので、できるだけ除去することが好ましい。しかし、一定水準以上含まれている場合、圧延過程では鋼のオーステナイト変態を促進して熱間圧延時に熱間圧延組織を微細化させて均一な微細組織が形成されることを助ける効果があるので、前記C含量は0.04重量%以上に含まれることが好ましい。しかし、C含量が過多であれば粗大な炭化物が生成され脱炭時に除去が困難になるので、0.07重量%以下であることが好ましい。
【0019】
N:10~50ppm
Nは、Alなどと反応して結晶粒を微細化させる元素である。これら元素が適切に分布する場合には前述のように冷間圧延後に組織を適切に微細にして適切な1次再結晶粒度を確保するのに役立つ。しかし、その含量が過度であれば1次再結晶粒が過度に微細化され、その結果、微細な結晶粒によって2次再結晶時に結晶粒成長を招く駆動力が大きくなって好ましくない方位の結晶粒まで成長することがある。また、N含量が過多であれば最終焼鈍過程で除去するのに多くの時間がかかるので好ましくない。したがって、前記窒素含量の上限は50ppmとし、スラブ再加熱時、固溶される窒素の含量が10ppm以上にならなければならないので、前記窒素含量の下限は10ppmとすることが好ましい。
S:0.001~0.005重量%
S含量が0.005重量%超過である場合には、熱間圧延スラブ加熱時、再固溶されて微細に析出するので1次再結晶粒の大きさを減少させて2次再結晶開始温度を低めて磁性を劣化させる。また、最終焼鈍工程の2次均熱区間で固溶状態のSを除去するのに多くの時間がかかるので方向性電磁鋼板の生産性を落とす。一方、S含量が0.005%以下で低い場合には、冷間圧延前の初期結晶粒大きさが粗大になる効果があるので1次再結晶工程の変形帯で核生成される{110}<001>方位を有する結晶粒の数が増加する。したがって、2次再結晶粒の大きさを減少させて最終製品の磁性を向上させるために、S含量は0.005重量%以下であることが好ましい。
また、SはMnSを形成して1次再結晶粒大きさにある程度影響を与えるので、0.001重量%以上含むことが好ましい。したがって、本発明で、S含量は0.001~0.005重量%であることが好ましい。
【0020】
図3(a)、および(b)は2次再結晶焼鈍工程での焼鈍熱処理過程の温度グラフであって、(a)は従来の製造方法を、(b)は本発明の製造方法を示す。図3に示しているように、本発明は従来の製造方法とは異なり、1次均熱処理する工程を省略することができ、これにより、生産性を向上させることができるのが分かる。さらに、本発明は従来の製造方法とは異なり、焼鈍分離剤を除去する必要もない。
その次に、前記1次再結晶焼鈍処理された鋼板の一面または両面の一部または全部に化学気相蒸着(CVD)工程を用いてプラズマ状態で気相のセラミック前駆体を接触反応させることによってセラミックコーティング層を形成する。
前記化学気相蒸着(CVD)工程は、一般CVD、LPCVD(Low Pressure CVD)、APCVD(Atmospheric Pressure CVD)、PECVD(Plasma Enhanced CVD)および常圧プラズマ化学蒸着工程(APP-CVD:tmospheric Pressure Plasma enhanced-Chemical Vapor Deposition)からなる群より選択された1以上であってもよい。具体的に、常圧プラズマ化学蒸着工程であってもよい
【0021】

前記セラミック前駆体は金属アルコキシド系化合物であってもよい。
前記金属アルコキシド系化合物はM(OR)、M(OR)、M(OR)の化学構造式を有し、Rはメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチルまたはs-ブチル基などの炭素数1~4のアルキル基であってもよい。ここで、Mは金属を意味する。もし、前記炭素数が4を超過すれば、炭素含量が高まってセラミックコーティング層に欠陥を誘発することがある。
前記金属アルコキシド系化合物はマグネシウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、シリカアルコキシド、チタニアアルコキシド、およびアルミナアルコキシドからなる群より選択された1種以上であってもよい。前記マグネシウムアルコキシドは化学構造式がMg(OR)、前記ジルコニウムアルコキシドは化学式がZr(OR)、シリカアルコキシド化合物は化学式がSi(OR)、チタニアアルコキシド化合物は化学式がTi(OR)、アルミナアルコキシド化合物は化学式がAl(OR)であってもよい。
前記シリカアルコキシド、チタニアアルコキシドおよびアルミナアルコキシドはそれぞれシリカ、チタニアおよびアルミナの前駆体であって、構造式は下記の通りである。
より具体的に、本発明一実施形態のセラミックコーティング層は、MgO、ZrO、SiO、TiO、Al、およびTiから選択される少なくとも1種以上を含むことができる。
【0022】
本発明の実施形態によって形成されたセラミックコーティング層を含む素地鋼板は、65℃、湿度95%、72時間条件で耐喉性が35%未満であり得る。本開示で耐喉性とはセラミックコーティング層を含む素地鋼板を65℃、湿度95%、72時間条件で処理して表面に生成された錆発生領域を意味するものであって、数字が小さいほど耐喉性に優れたのである。具体的に、セラミックコーティング層を含む素地鋼板は、耐喉性が0.5~32%、より具体的に0.5~20%、より具体的に0.5~10%であり得る。これはセラミックコーティング層の形成だけでなく製造方法上の差にも起因する。既存の方法である焼鈍分離剤塗布後に最終焼鈍してフォルステライト被膜を除去しセラミック層を形成した場合には、耐喉性が35%以上で高く示されることがある。
前記化学気相蒸着(CVD)工程を通じて形成されたセラミックコーティング層は厚さが0.01~10μm、具体的に0.1~5μm、より具体的に0.2~3μmであってもよい。セラミックコーティング層の厚さが0.01μm未満であれば、セラミックコーティング層によって方向性電磁鋼板の表面に発生される張力の大きさが過度に小さくて鉄損低減効果および絶縁効果が不充分である問題があることがある。反面、セラミックコーティング層の厚さが10μm超過であれば、セラミックコーティング層の密着性が低下して剥離が起こることがある。
【0023】
また、前記セラミックコーティング層の表面粗さ(Ra)は1μm以下であってもよい。具体的に、表面粗さ(Ra)は0.01~0.60μm、より具体的に0.05~0.40μmであってもよい。表面粗さが1μmを超過する場合には、占積率が劣位になって変圧器無負荷損が低下するという問題点が発生することがある。また、表面粗さが0.01μm未満である場合には、大面積高速生産観点で技術的な困難があり得る。
前記セラミックコーティング層が形成された鋼板は、2段加熱後、1回均熱処理される2次再結晶焼鈍、即ち、高温焼鈍工程を経ることができる。通常、2次再結晶焼鈍で2回の均熱処理を行う従来の製造方法に比べて、セラミックコーティング層を形成する場合には1回の均熱処理のみ行えば良い点から技術的意義がある。
2次再結晶焼鈍後、HCL工程で鋼板の形状を校正する段階を含むことができる。
その後、前記鋼板のセラミックコーティング層上に絶縁被膜を形成する段階をさらに含むことができる。前記セラミックコーティング層上に金属リン酸塩を含む絶縁被膜層をさらに形成して絶縁特性を改善することができる。
前記金属リン酸塩は、Mg、Ca、Ba、Sr、Zn、AlおよびMnからなる群より選択された1種以上を含むリン酸塩であってもよい。
金属リン酸塩は、金属水酸化物およびリン酸(HPO)の化学的な反応による化合物からなるものであってもよい。前記金属水酸化物は、Mg(OH)、Ca(OH)、Ba(OH)、Sr(OH)、Zn(OH)、Al(OH)、およびMn(OH)を含む群より選択された少なくとも1種以上のものであってもよい。
【0024】
具体的に、前記金属水酸化物の金属原子はリン酸のリンと置換反応して単一結合、二重結合、または三重結合を形成してなったものであり、未反応自由リン酸(HPO)の量が25%以下である化合物からなるものであってもよい。
金属リン酸塩は、金属水酸化物およびリン酸(HPO)の化学的な反応による化合物からなるものであり、リン酸に対する金属水酸化物の重量比率は1:100~40:100で表されるものであってもよい。
金属水酸化物が過度に多く含まれる場合には化学的な反応が完結しなくて沈殿物ができる問題が発生することがあり、金属水酸化物が過度に少なく含まれる場合には耐食性が劣位になる問題が発生することがあるので、前記のように範囲を限定することができる。
【0025】
以下、本発明の実施形態のAPP-CVD工程についてより具体的に記述する。
本発明の一実施形態でセラミックコーティング層を形成するのに用いた工程は常圧プラズマ化学蒸着工程(APP-CVD)工程である。APP-CVD工程は他の工程よりラジカルの密度が高くて蒸着率が高いという長所がある。また、他の工程とは異なり、高真空設備または低真空設備が必要でなくて、費用が少ないという長所がある。即ち、真空設備が必要なくて設備の稼働が相対的に容易であり、蒸着性能に優れる。
また、本発明一実施形態のAPP-CVD工程は、大気圧条件で高密度無線周波数を用いて鋼板表面に電場を形成してプラズマを発生させた状態で、Ar、HeおよびNのうちの1種以上からなる主ガスである第1ガスと気相のセラミック前駆体を混合した後、これを反応炉に供給して鋼板表面に接触反応させる。
【0026】
図4は、本発明の実施形態のAPP-CVD工程を用いて鋼板表面上にセラミックコーティング層を形成させるメカニズムを示したものである。
図4に示すように、APP-CVD工程は、大気圧条件で高密度の無線周波数(RF、Radio Frequency)(例、13.56MHz)を用いて鋼板の一面または両面に電場を形成する。そして、Ar、HeまたはNのような第1ガス(Primary Gas)を孔ノズル、線ノズル、または面ノズルを通じて噴射させると、電場下で電子が分離されてラジカル化されて極性を帯びるようになる。
本発明の実施形態でRFプラズマソース(RF Plasma Source)は、場合によって複数のラインソース(Line Source)または2D スクエヤーソース(2D Squre Source)を使用することができる。これは最適化されたコーティング速度と素地層の進行速度によってSourceの種類も異にすることができる。
【0027】
その次に、RF パワーソース(RF Power Source)と鋼板間50~60Hzの交流電力下で反応炉内でArラジカルと電子が往復運動しながら第1ガスに混合された気相のセラミック前駆体(例えば、TTIP:Titanium Isopropoxide、Ti{OCH(CHと衝突しながら前駆体を解離させて前駆体ラジカルを形成するようになる。
この時、本発明の実施形態のTTIPのようなセラミック前駆体は液体状態で保管され、50~100℃で加熱されて気化する。そして、Ar、HeおよびNのうちの1種以上からなる第1ガス(Primary Gas)がTTIPと混合された後、RF パワーソース(RF Power Source)を過ぎてガス噴射ノズルを通過して反応炉内に流入する。
この時、本発明の実施形態はコーティング層の品質をさらに向上させるために、必要によってO、HおよびHOからなる群より選択された1種以上である第2ガス(補助ガス、Secondary Gas)を前記第1ガスと共に投入してセラミックコーティング層の純度を向上させることができる。即ち、セラミックコーティング層の純度を向上させるために第2ガスを投入して、望まない組成の化合物を第2ガスとの反応を通じて除去することができる。本発明の一実施形態で第2ガスの投入有無は、素地鋼板の加熱有無などのような諸般条件によって投入有無が決定される。
【0028】
前述のように、本発明の実施形態では液体状態のセラミック前駆体を沸点以上に加熱し、第1ガスと第2ガスは事前にスチーム加熱器または電気加熱器を用いて前記セラミック前駆体沸点以上の温度で加熱した後、セラミック前駆体と混合して反応炉内部にガス状態で供給することによって気化したセラミック前駆体ガスをプラズマソース(Plasma Source)に供給することができる。
例えば、本発明の実施形態で使用した前駆体Al(O-sec-Bu)の沸点は206℃であり、Mg(OMe)の沸点は270℃であり、Si(OMe)の沸点は169℃である。したがって、第1ガスおよび第2ガスは、各前駆体を使用する場合、温度を150℃以上に加熱した後に供給できる。
この時、第1ガスは流入量を100~10,000SLM、第2ガスは流入量を0~1,000SCCMおよび気化したセラミック前駆体流入量は10~1,000SLM使用してセラミックコーティング層を形成することができる。
また、本発明の実施形態では、電気的にgroundまたは(-)電極を帯びる方向性電磁鋼板に解離されたラジカルが衝突しながら表面にセラミックコーティング層(例えば、TiO)を形成するようになる。
【0029】
本発明の実施形態でプラズマ発生原理は、高密度RF パワーソース(RF Power Source)によって印加された電場下で電子が加速するようになって、原子、分子などの中性粒子が衝突しながらイオン化(Ionization)、励起(Excitation)、解離(Dissociation)が発生するようになる。二重励起と解離を通じて形成された活性化された種とラジカルが反応して最終的に所望のセラミックコーティング層を形成することができる。
本発明の実施形態のセラミックコーティング層TiO積層メカニズムを単純化して説明すれば、セラミック前駆体TTIPは電場下のプラズマによって次のような反応式で分解し素地層表面に積層できる。
Ti(OR)→Ti*(OH)x-1(OR)4-x→(HO)(RO)3-xTi-O-Ti(OH)x-1(OR)4-1→Ti-O-Ti network
図5は、本発明の実施形態のAPP-CVD工程でRF パワーソース(RF Power Source)によって生成されたプラズマ領域内でセラミック前駆体の一例であるTTIPが解離された状態を示したものである。
【0030】
一方、本発明の実施形態で、100mpmの速度で進行する鋼板幅1mをAPP-CVDを用いて0.05~0.5μm厚さのセラミックコーティング層を積層するためには、RF パワーソース(RF Power Source)は500kW~10MW程度が必要になる。また、1以上のRF パワーソース(RF Power Source)はパワーマッチングシステム(Power Matching System)によって電場を安定的に維持することができる。
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板100は、素地鋼板10上にセラミックコーティング層20が形成されていてもよい。また、セラミックコーティング層20上に絶縁コーティング層30を形成して被膜張力効果を付与し、方向性電磁鋼板の鉄損改善効果を極大化することができる。
【0031】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がここに限定されるのではない。
【実施例
【0032】
実験例-セラミック前駆体種類別特性
実施例1~9
シリコン(Si)を3.4重量%、アルミニウム(Al):0.03重量%、マンガン(Mn):0.10重量%、アンチモン(Sb)を0.05重量%、および錫(Sn)を0.05重量%含み、残部はFeおよびその他不可避不純物からなるスラブを準備した。
スラブを1150℃で220分間加熱した後、2.3mm厚さで熱間圧延して、熱延板を製造した。
熱延板を1120℃まで加熱した後、920℃で95秒間維持した後、水に急冷して酸洗した後、0.23mm厚さで冷間圧延して、冷延板を製造した。
冷延板を850℃で維持された炉(Furnace)の中に投入した後、露点温度および酸化能を調節し、水素、窒素、およびアンモニア混合気体雰囲気で脱炭浸窒および1次再結晶焼鈍を同時に行って、脱炭焼鈍された鋼板を製造した。
その後、そして前記のように製造された1次再結晶焼鈍処理された鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布せずAPP-CVD工程を用いてセラミックコーティング層を形成した。
具体的に、APP-CVD工程に先立ち、方向性電磁鋼板を200℃温度で間接加熱した後、APP-CVD反応炉内に鋼板を投入した。
【0033】
一方、この時、APP-CVD工程は、大気圧下条件で13.56MHzの無線周波数(Radio Frequency)を用いて方向性電磁鋼板一面または両面に電場を形成し、Arガスを反応炉内に流入した。そして、RF Power Sourceと鋼板間50~60Hzの交流電力下で液状であるセラミック前駆体を加熱して気化させた後、ArガスとHガスと混合して反応炉内に投入して電磁鋼板表面にその厚さを異にするセラミックコーティング層をそれぞれ形成した。
そして、前記セラミックコーティング層が形成された鋼板を最終焼鈍した。この時、最終焼鈍時均熱温度は1200℃とし、昇温区間の温度区間では15℃/hrとした。また、1200℃までは窒素50体積%および水素50体積%の混合気体雰囲気とし、1200℃到達した後には100体積%の水素気体雰囲気で15時間維持した後、炉冷(furnace cooling)した。
そして、最終焼鈍が完了した鋼板表面にコロイダルシリカとアルミニウムとマグネシウムが1:1重量比で混合されたリン酸塩を4:6比率で混合した溶液を塗布した後、920℃温度条件で45秒間熱処理し空気中で冷却した。リン酸塩絶縁被膜の塗布量は3.5g/mである。
【0034】
比較例1~3
比較例1および2は、従来の方法でMgOが主成分である焼鈍分離剤に蒸留水を混合してスラリーを製造し、ロール(Roll)などを用いてスラリーを塗布した後、最終焼鈍することを除いては実施例と同一に製造した。
比較例3は、コーティング厚さを5.5μmに厚くしたことを除いては実施例と同様な方法で製造した。
1.7T、50Hz条件で、前記製造された各方向性電磁鋼板に対して磁気特性および騒音特性を評価し、その結果を表1に示した。
電磁鋼板の磁気特性は、通常W17/50とB8を代表値として使用する。W17/50は周波数50Hzの磁場を1.7Teslaまで交流で磁化させた時に現れる電力損失を意味する。ここで、Teslaは、単位面積当り磁束(flux)を意味する磁束密度の単位である。B8は、電磁鋼板周囲を巻いた捲線に800A/m大きさの電流量を流した時、電磁鋼板に流れる磁束密度値を示す。耐喉性は、表1のコーティング物質を脱炭板表面に塗布あるいは蒸着して最終焼鈍が完了した鋼板を65℃、湿度95%、72時間条件で表面に生成された錆発生面積を示す。
【0035】
【表1】
【0036】
前記実施例で、Meはメチル(methyl)、Etはエチル(ethyl)、Prはプロパン(propane)、Buはブチル(buthyl)を意味する。
表1に示しているように、焼鈍分離剤であるMgOを塗布した比較例1~2に対比して、APP-CVD工程を用いてセラミック被膜を形成した本実施例1~9がより優れた鉄損特性を示すのを確認することができる。
セラミックコーティング層を厚く形成した場合、被膜張力が増加して鉄損品質に有利であるが、実施例10の場合のようにセラミックコーティング層が過度に厚く形成された場合には被膜に均熱が発生してむしろ鉄損が劣位になるという問題点がある。
既存のMgO焼鈍分離剤を塗布して最終焼鈍が完了した試片は表面に形成されたセラミック層が不均一であって耐喉性評価結果60%以上の錆が発生されるという問題点が確認された。表面に発生した錆は磁区の移動を妨害して鉄損を悪化させ絶縁性、密着性など表面品質が劣位になる。反面、セラミック前駆体を蒸着した場合、比較例に対比して薄い厚さを形成しても耐喉性に優れ、特にAl前駆体を蒸着した場合、緻密で均一なセラミックコーティング層形成で非常に優れた耐喉性結果を示した。反面、セラミックコーティング層であるとしても過度に厚く形成する場合には耐喉性が劣位になることが確認され、これは被膜剥離が発生したためと思われる。
【0037】
実験例2:絶縁性、占積率および密着性評価
実施例10~20
シリコン(Si)を3.3重量%、アルミニウム(Al):0.28重量%、マンガン(Mn):0.15重量%、アンチモン(Sb)を0.02重量%、および錫(Sn)を0.06重量%含み、残部はFeおよびその他不可避不純物からなるスラブを準備した。
スラブを1150℃で220分間加熱した後、2.3mm厚さで熱間圧延して、熱延板を製造した。熱延板を1120℃まで加熱した後、920℃で95秒間維持した後、水に急冷して酸洗した後、0.23mm厚さで冷間圧延して、冷延板を製造した。
冷延板を820℃に維持された炉(Furnace)の中に投入した後、露点温度および酸化能を調節し、水素、窒素、およびアンモニア混合気体雰囲気で脱炭浸窒および1次再結晶焼鈍を同時に行って、脱炭焼鈍された鋼板を製造した。
その後、1次再結晶焼鈍された鋼板表面にAPP-CVD方法を適用してセラミック前駆体をコーティングした。セラミック前駆体の塗布量は4.5g/mで同一に行った。この時、セラミック前駆体を異にした。
最終焼鈍時、1次均熱温度は700℃、2次均熱温度は1200℃とし、昇温区間の温度区間では15℃/hrとした。また、1200℃までは窒素25体積%および水素75体積%の混合気体雰囲気とし、1200℃到達した後には100体積%の水素気体雰囲気で15時間維持した後、炉冷(furnace cooling)した。
そして、最終焼鈍が完了した鋼板表面にコロイダルシリカとアルミニウムとマグネシウムが2:1重量比で混合されたリン酸塩を4:6比率で混合した溶液を塗布した後、760℃温度条件で50秒間熱処理して空気中で冷却した。リン酸塩絶縁被膜の塗布量は3.2g/mである。
【0038】
比較例4
比較例4は、従来の方法でMgOが主成分である焼鈍分離剤に蒸留水を混合してスラリーを製造し、ロール(Roll)などを用いてスラリーを塗布した後、最終焼鈍することを除いては実施例10~20と同一に製造した。
絶縁性は、ASTM A717国際規格によってFranklin測定器を活用してコーティング上部を測定した。
占積率はJIS C2550国際規格によって測定器を活用して測定した。電磁鋼板試片を複数で積層した後、表面に1MPaの均一な圧力を加えた後、試片の4面の高さ精密測定を通じて電磁鋼板積層による実重量比率を理論重量で割って測定した。
密着性は、試片を10~100mm円弧に接して180°曲げる時に被膜剥離がない最小円弧直径で表したものである。
【0039】
【表2】
表2に示しているように、発明例10~20の結果が絶縁、占積率、および密着性に優れたのを確認することができる。
【0040】
実験例3:1000kVA変圧器の磁気特性、占積率および騒音特性評価
方向性電磁鋼板として、実施例17~19および比較例4をそれぞれ選択し、レーザ磁区微細化処理を実行し、1000kVA変圧器を製作して設計磁束密度によって60Hz条件で評価した結果を表3に示した。
【表3】
セラミックコーティング層を形成した実施例17~19が既存の焼鈍分離剤を塗布した比較例4に比べて鉄損特性、占積率および騒音特性がさらに優れていることが分かる。
【0041】
実験例4:セラミックコーティング層形成順序を異にした場合の比較
方向性電磁鋼板として、実施例6条件で1次再結晶焼鈍処理された鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布せずAPP-CVD工程を用いてAlコーティング層を形成した。そして、前記セラミックコーティング層が形成された鋼板を最終焼鈍した。この時、最終焼鈍時、均熱温度は1200℃とし、昇温区間の温度区間では10℃/hrとした。また、1200℃までは窒素30体積%および水素70体積%の混合気体雰囲気とし、1200℃到達した後には100体積%の水素気体雰囲気で18時間維持した後、炉冷(furnace cooling)した(実施例21)。
比較例5は、従来の方法でMgOが主成分である焼鈍分離剤に蒸留水を混合してスラリーを製造し、ロール(Roll)などを用いてスラリーを塗布した後、最終焼鈍してフォルステライト被膜を形成した。最終焼鈍が完了した鋼板は1%フッ酸を含む過酸化水素混合溶液で3分間反応してフォルステライト被膜を除去した。そして、実施例21と同一な条件でAPP-CVD工程を用いてAlコーティング層を形成した。実施例21と比較して、最終焼鈍後にセラミックコーティング層を形成する点が異なる。
鉄損(W17/50)は、周波数50Hzの磁場を1.7Teslaまで交流で磁化させた時に現れる電力損失を意味する。耐喉性は、最終焼鈍が完了した鋼板を65℃、湿度95%、72時間条件で処理後、表面に生成された錆発生面積を示す。絶縁性は、ASTM A717国際規格によってFranklin測定器を活用してコーティング上部を測定した。密着性は、試片を10~100mm円弧に接して180°曲げる時に被膜剥離がない最小円弧直径で表したものである。
実施例21と比較例5の表面形状をFIB-SEMで観察してそれぞれ図7図8に示した。
【0042】
【表4】
本発明による実施例20は、1次再結晶焼鈍時形成されたSiO内部酸化層上部にAlを蒸着して、工程が3段階であって単純であり、磁性および表面品質に優れる。しかし、比較例5は、最終焼鈍後、フォルステライト被膜を化学的に除去後、APP-CVDを用いてセラミックコーティング層を形成して形成された電磁鋼板であって、実施例に対比して磁性および表面品質が劣位になり、工程が5段階であって複雑であり、量産適用に困難が予想される。
以上で本発明の実施形態および発明について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるのではなく、請求範囲に記載された本発明の技術的な思想を逸脱しない範囲内で多様な修正および変形が可能であるということは当該技術分野の通常の知識を有する者には自明である。
【符号の説明】
【0043】
100:方向性電磁鋼板
10:素地鋼板
20:セラミックコーティング層
30:絶縁被膜コーティング層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8