(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-19
(45)【発行日】2024-02-28
(54)【発明の名称】異常判断装置、制御装置、および圧延設備、並びに異常判断方法、および制御方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/04 20060101AFI20240220BHJP
B21B 38/04 20060101ALI20240220BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20240220BHJP
B21B 37/16 20060101ALI20240220BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20240220BHJP
B21B 37/58 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
G01B11/04 H
B21B38/04 A
B21C51/00 J
B21B37/16
B21B37/00 241
B21B37/58 B
(21)【出願番号】P 2023500233
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006162
(87)【国際公開番号】W WO2022176119
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】314017543
【氏名又は名称】Primetals Technologies Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】望月 智俊
(72)【発明者】
【氏名】小村 明寛
(72)【発明者】
【氏名】金森 信弥
(72)【発明者】
【氏名】シャーク ピーター
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-042904(JP,A)
【文献】国際公開第2008/105479(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104942019(CN,A)
【文献】特開2019-104063(JP,A)
【文献】特開平03-163303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/04
B21B 38/04
B21C 51/00
B21B 37/16
B21B 37/00
B21B 37/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延機により圧延される金属帯板の板幅の異常を判断する異常判断装置であって、
前記金属帯板を含む画像を撮像するカメラと、
前記カメラが撮像した前記画像に基づき、前記板幅の異常を判断する画像処理部と、を備え、
前記画像処理部は、前記金属帯板の前記カメラで撮像された部分のうち、圧延定常部の板幅をW
0、前記カメラで逐次撮像された部分の前記金属帯板の板幅をWとしたときに、前記板幅の変化率(W
0-W)/W
0が閾値以上となったときに、前記板幅が狭まる異常部が存在すると判断する
ことを特徴とする異常判断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の異常判断装置において、
前記カメラは、異なる時刻Aと時刻B(A<B)における前記画像を連続して撮像し、
前記画像処理部は、前記時刻Aにおける前記板幅の変化率が前記閾値以上であり、かつ前記時刻Bにおける前記板幅の変化率が前記閾値以上であるときに、前記異常部が存在すると判断する
ことを特徴とする異常判断装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の異常判断装置を備えた制御装置において、
前記異常判断装置において前記異常部が存在すると判断されたときは、その判断された時刻に前記異常部より前記金属帯板の搬送方向の下流側に設けられている圧延機のレベリング制御を前記時刻後に停止する、又は/かつ、前記圧延機のロールのギャップをあらかじめ定められた条件に応じて前記時刻後に開放する指令部と、を備える
ことを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の制御装置において、
前記異常部の前記搬送方向への移動量を演算するトラッキング演算部を更に備え、
前記指令部は、前記トラッキング演算部が演算した移動量に基づき、前記圧延機に前記異常部が到達するタイミングで、前記レベリング制御を停止する、又は/かつ、前記圧延機のロールのギャップをあらかじめ定められた条件に応じて開放する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の制御装置において、
前記指令部は、前記ギャップを、前記搬送方向の一つ上流側に設けられた圧延機における前記レベリング制御の停止したときのギャップより小さくなるように、且つ前記金属帯板に上下のワークロールが接触する範囲とする
ことを特徴とする制御装置。
【請求項6】
請求項3乃至5の何れか1項に記載の制御装置と、
金属帯板を圧延する圧延機と、を備える
ことを特徴とする圧延設備。
【請求項7】
圧延機により圧延される金属帯板の板幅の異常を判断する異常判断方法であって、
前記金属帯板を含む画像を撮像する撮像工程と、
前記撮像工程で撮像された前記画像に基づき、前記板幅の異常を判断する画像処理工程と、を備え、
前記画像処理工程では、前記金属帯板の前記撮像工程で撮像された部分のうち、圧延定常部での板幅をW
0、前記撮像工程で逐次撮像された部分の前記金属帯板の板幅をWとしたときに、前記板幅の変化率(W
0-W)/W
0が閾値以上となったときに、前記板幅が狭まる異常部が存在すると判断する
ことを特徴とする異常判断方法。
【請求項8】
請求項7に記載の異常判断方法において、
前記撮像工程では、異なる時刻Aと時刻B(A<B)において前記画像を連続して撮像し、
前記画像処理工程では、前記時刻Aにおける前記板幅の変化率が前記閾値以上であり、かつ前記時刻Bにおける前記板幅の変化率が前記閾値以上であるときに、前記異常部が存在すると判断する
ことを特徴とする異常判断方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の異常判断方法を有する制御方法において、
前記異常判断方法における前記画像処理工程において前記異常部が存在すると判断されたときは、その判断された時刻に前記異常部より前記金属帯板の搬送方向の下流側に設けられている圧延機のレベリング制御を前記時刻後に停止する、又は/かつ、前記圧延機のロールのギャップをあらかじめ定められた条件に応じて前記時刻後に開放する指令工程と、を備える
ことを特徴とする制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の制御方法において、
前記異常部の前記搬送方向への移動量を演算するトラッキング演算工程を更に備え、
前記指令工程では、前記トラッキング演算工程が演算した移動量に基づき、前記圧延機に前記異常部が到達するタイミングで、前記レベリング制御を停止する、又は/かつ、前記圧延機のロールのギャップをあらかじめ定められた条件に応じて開放する
ことを特徴とする制御方法。
【請求項11】
請求項10に記載の制御方法において、
前記指令工程では、前記ギャップを、前記搬送方向の一つ上流側に設けられた圧延機における前記レベリング制御の停止したときのギャップより小さくなるように、且つ前記金属帯板に上下のワークロールが接触する範囲とする
ことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被圧延材である金属帯板の板幅異常を検出するための異常判断装置および異常判断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
費用面及びメンテナンス面で好適な構成で、適切に尾端クロップを検出することができる尾端クロップ検出装置の一例として、特許文献1には、熱間圧延ライン外に、熱間圧延ラインの仕上圧延スタンド間を通過する被圧延材を連続的に撮像するカメラを設置して、カメラで撮像した被圧延材の連続画像から被圧延材の尾端画像を検出し、その尾端画像から被圧延材の尾端のエッジ部を抽出し、さらに、そのエッジ画像に対して画角合わせ処理を施すことで、圧延方向に対して斜めから見たエッジ画像を圧延方向に対して直交する方向から見た画像に変換し、被圧延材の尾端クロップ形状を認識することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱間圧延では、張力の作用しない板尾端部を安定して搬送することが重要である。通常、板を安定して搬送させるためには、熱間圧延ラインに設けたカメラにて撮像して求めた板蛇行量や、圧延機に設置した荷重検出器(ロードセル)にて検出した荷重の左右差を用いて、レベリング制御を行っている。
【0005】
しかしながら、特に、仕上げ圧延機の入側にクロップシャー装置がないプラントでは、尾端部に曲がりや幅の狭まりが存在すると、板蛇行量や荷重の左右差などの検出値が急激に変化するなどして、安定した制御が難しくなり、尾端絞りが起きやすくなる。同様に、尾端部に限らず金属帯板の定常部を圧延する際においても、安定して搬送することは重要である。
【0006】
これに対し、上述した特許文献1には、適切な圧延制御をするために、撮像手段で撮像した被圧延材の表面画像からエッジ部を抽出し、輝度情報の解析や2値化処理、位置補正等により精度良く尾端画像を検出してモニタ表示することで、作業者が容易に尾端クロップの形状を認識することが開示されている。
【0007】
しかし、上記の従来技術では、あらゆる板幅の尾端部に対してクロップの発生を作業者が画一的に判断することは難しく、品質の均質性には改良の余地があり、更なる技術改良が待たれていた。
【0008】
本発明は、あらゆる幅の金属帯板に対して板幅の異常を画一的に判断することが可能な異常判断装置、圧延機の制御装置、および圧延設備、並びに異常判断方法、および制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、圧延機により圧延される金属帯板の板幅の異常を判断する異常判断装置であって、前記金属帯板を含む画像を撮像するカメラと、前記カメラが撮像した前記画像に基づき、前記板幅の異常を判断する画像処理部と、を備え、前記画像処理部は、前記金属帯板の前記カメラで撮像された部分のうち、圧延定常部の板幅をW0、前記カメラで逐次撮像された部分の前記金属帯板の板幅をWとしたときに、前記板幅の変化率(W0-W)/W0が閾値以上となったときに、前記板幅が狭まる異常部が存在すると判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、あらゆる幅の金属帯板に対して、板幅異常を画一的に判断することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例の異常判断装置とそれを備えた圧延設備の構成を示す概略図。
【
図2】実施例の制御装置における異常時の制御ストップ操作のイメージ図。
【
図3】実施例の制御装置による制御動作の一例を示す図。
【
図4】実施例の制御装置における制御フローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の異常判断装置、制御装置、および圧延設備、並びに異常判断方法、および制御方法の実施例について
図1乃至
図4を用いて説明する。本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0013】
なお、本発明における圧延の対象材料の金属帯板は、一般に圧延が可能な金属材料の帯板であり、その種類は特に限定されず、鋼板に加えて、アルミや銅などの非鉄材料とすることができる。
【0014】
最初に、異常判断装置や制御装置、圧延機を含めた圧延設備の全体構成について
図1を用いて説明する。
図1は本実施例1の異常判断装置とそれを備えた圧延設備の構成を示す概略図である。
【0015】
図1に示した圧延設備100は被圧延材1を圧延するための設備であって、F1スタンド10、F2スタンド20、F3スタンド30、F4スタンド40、F5スタンド50、F6スタンド60、F7スタンド70、カメラ81,82、制御部90、表示装置95等を備えている。
【0016】
このうち、カメラ81、および制御部90の画像処理部91により圧延機により圧延される被圧延材1の板幅の異常を判断する異常判断装置が構成される。また、カメラ81、および制御部90の画像処理部91により構成される異常判断装置、制御部90の指令部92、制御部90のトラッキング演算部93により制御装置が構成される。
【0017】
なお、圧延設備100については、
図1に示すような7つの圧延スタンドが設けられている形態に限られず、最低2スタンド以上であればよい。
【0018】
F1スタンド10や、F2スタンド20、F3スタンド30、F4スタンド40、F5スタンド50、F6スタンド60、F7スタンド70の各々は、上ワークロールおよび下ワークロール、これら上ワークロールおよび下ワークロールにそれぞれ接触することで支持する上バックアップロール、下バックアップロール、上バックアップロールの上部に設けられた圧下シリンダ11,21,31,41,51,61,71と荷重検出器12,22,32,42,52,62,72とを備えている圧延機である。なお、各々の上下ワークロールと各々の上下バックアップロールとの間に、更に上下中間ロールを各々設けた6段の構成とすることができる。
【0019】
カメラ81は、F1スタンド10の入側の被圧延材1を含む画像を撮像することが可能な位置に設けられており、例えば、被圧延材1の真上、あるいは斜め上方から被圧延材1を含む画像を0.1秒間隔で撮像する。カメラ81により撮像された被圧延材1を含む画像のデータは、通信線85を介して制御部90に送信される。
【0020】
カメラ82はF4スタンド40の出側、かつF5スタンド50の入側のうち、被圧延材1を含む画像を撮像することが可能な位置に設けられており、カメラ81と同様に、例えば、被圧延材1の真上、あるいは斜め上方から被圧延材1を含む画像を0.1秒間隔で撮像する。カメラ82により撮像された画像のデータも、通信線85を介して制御部90に送信される。
【0021】
これらカメラ81,82のうち、カメラ81により、被圧延材1を含む画像を撮像する撮像工程が実行される。
【0022】
なお、カメラがF1スタンド10の入側と、F4スタンド40とF5スタンド50との間の2か所に設けられている場合について説明するが、カメラは最低1カ所に設けられていればよく、1個、あるいは2個以上とすることができ、すべてのスタンドの入側に設けてもよい。
【0023】
制御部90は、圧延設備100内の各機器の動作を制御する装置であり、画像処理部91、指令部92、およびトラッキング演算部93を有する。
【0024】
画像処理部91は、カメラ81が撮像した画像に基づき、板幅の異常を判断する部分である。
【0025】
図3は、カメラの位置と圧延機の位置における板幅やレベリング量、ギャップの変化を時刻に対して示す。ここで、被圧延材1が駆動側に移動したりするなどの板の蛇行に関係なく、
図3(A)に示すように形状が変化した場合、カメラで逐次撮像された部分の金属帯板の板幅が、
図3(B)に示すように急激に変化する場合もあり得る。
【0026】
このような場合、被圧延材1のカメラ81で撮像された圧延定常部の板幅をW0、カメラ81で逐次撮像された部分の被圧延材1の任意の位置における板幅をWとしたときに、画像処理部91は、板幅の変化率(W0-W)/W0が閾値Wth以上となったときには、板幅が狭まる異常部が存在すると判断する。この画像処理部91により、撮像工程で撮像された画像に基づき、板幅の異常を判断する画像処理工程が実行される。
【0027】
被圧延材1の板幅Wの求め方については特に限定されないが、例えば撮像された被圧延材1を含む画像をピクセルごとに輝度を閾値と比較して被圧延材1の2つの端部(駆動側および作業側)を検出し、2つの端部の間のピクセル数を求め、求めたピクセル数を板幅Wとみなす処理とする。
【0028】
被圧延材1のカメラ81で撮像された圧延定常部の板幅W0の求め方についても特に限定されないが、例えば、ある時刻にカメラ81で撮像された画像から求められる被圧延材1の作業側の端部と駆動側の端部との間隔が、被圧延材1の圧延方向で所定基準を満たす範囲で安定している部分の値とすることができる。また、ある一定時刻の間、被圧延材1の作業側の端部と駆動側の端部との間隔が圧延方向で所定基準を満たす範囲で安定している部分の値とすることができる。更には、操業条件に規定されている被圧延材1の板幅が、最終仕上圧延機の出側に設置された板幅計において、安定して板幅が検出されている時刻に、カメラ81で撮像された画像から求められる被圧延材1の作業側の端部と駆動側の端部との間隔を、圧延定常部の板幅W0として用いることができる。得られた圧延定常部の板幅W0を基準値として保存する。
【0029】
判断基準となる閾値Wthは、例えば、圧延定常部の板幅W0の変化率3%などとすることができるが、特に限定されず、より大きな値、あるいは小さな値とすることができ、被圧延材1の種類やパススケジュールなどに応じて適宜決定することができる。
【0030】
この画像処理部91では、ある時刻Aで一回だけ板幅の変化率が閾値以上であったと判断されたときに板幅の異常部が存在すると判断することができるが、時刻Aにおける板幅の変化率が閾値以上であっても、ある時刻Aより後、好適には直後の時刻Bにおいてカメラ81で撮像された画像で、時刻Bにおける板幅の変化率が閾値未満となったときは、板幅が正常部であると判断することができる。すなわち、少なくとも2回以上連続して異常部が存在すると判断されて初めて異常部が存在すると判断する処理とすることができる。この場合は、時刻Bにて、異常部が存在すると判断する。
【0031】
指令部92は、画像処理部91において異常部が存在すると判断されたときは、その判断された時刻に異常部より被圧延材1の搬送方向の下流側に設けられている圧延機のレベリング制御を判断時刻後に停止する部分である。この指令部92により、異常判断方法における画像処理工程において異常が存在すると判断されたときに、その判断時刻を起点として、トラッキングを開始し、異常部より被圧延材1の搬送方向の下流側に設けられている圧延機のレベリング制御を、異常部が、その圧延機に到達したタイミングで停止する指令工程が実行される。
【0032】
例えば、
図1および
図2に示すように、カメラ81がF1スタンド10の入側にあるときに、画像処理部91において異常部が存在すると判断されたときは、この指令部92は、
図3(D)に示すように、異常部がF1スタンド10に到達するタイミングで、F1スタンド10(制御圧延機(1))の圧延機のレベリング制御をストップするよう圧下シリンダ11に対して制御信号を出力する。
【0033】
また、指令部92は、加えて、
図2や
図3(G)に示すように、任意の後段複数圧延機(制御圧延機(2):F2スタンド20やF3スタンド30、F4スタンド40、F5スタンド50、F6スタンド60、F7スタンド70のうち少なくとも1つ以上)についてもF1スタンド10と同様に、異常部が各スタンドに到達するタイミングで、レベリング制御をストップするよう圧下シリンダ21,31,41,51,61,71に対して制御信号を出力する。
【0034】
また、指令部92は、レベリング制御を停止すると同時に、レベリング制御を停止した圧延機のロールのギャップをあらかじめ定められた条件に応じて開放することができる。
【0035】
本実施例では、レベリング制御の停止とロールのギャップの開放を併用しているが、レベリング制御の停止のみを行うこともできる。この場合は、異常部が各スタンドに到達するタイミングで、被圧延材1の搬送方向の下流側に設けられている圧延機のレベリングを停止し、ロールギャップの開放は行わない。また、ロールのギャップの開放のみを行うこともできる。この場合は、異常部が各スタンドに到達するタイミングで、被圧延材1の搬送方向の下流側に設けられている圧延機のロールのギャップを、あらかじめ定められた条件に応じて開放する一方で、全ての圧延機のレベリング制御を引き続き行うものである。
【0036】
ロールギャップを開くタイミングは、異常部が存在すると判断された時刻のタイミングでも良いが、後述するトラッキング演算部93により板幅異常部のトラッキングを行い、板幅異常部が対象制御圧延機に到達するタイミングとすることが望ましい。
【0037】
例えば、F1スタンド10であれば
図3(E)に示すように異常部が存在すると判断された時刻を起点として、異常部がF1スタンド10に到達するタイミングとする。
【0038】
後段複数圧延機(F2スタンド20やF3スタンド30、F4スタンド40、F5スタンド50、F6スタンド60、F7スタンド70のうち少なくとも1つ以上)であれば、
図3(H)に示すように、制御圧延機(2)のスタンドに異常部が到達するタイミングとする。
【0039】
この板幅が狭くなった位置が各スタンドに到達した際のギャップを開く量を決める「あらかじめ定められた条件」は、被圧延材1の種類やパススケジュールに応じて決定することができ、スタンドごとに事前に決めておくことが望ましい。
【0040】
この際、各スタンドのロールギャップは、搬送方向の一つ上流側に設けられた圧延機におけるレベリング制御の停止したときのロールギャップより小さくなるように、且つ被圧延材1に上下のワークロールが接触する範囲とすることができる。
【0041】
なお、「あらかじめ定められた条件」によっては、板幅が狭くなってもギャップを開かず、定常圧延時のギャップ量を維持するケースもあり得る。
【0042】
また、画像処理部91は、
図3に示すような「安定圧延時」では、板幅の変化率(W
0-W)/W
0は閾値W
th未満と判断されることから、この場合は特段何も信号を出力しないか、正常部である旨の信号を指令部92に出力する。指令部92では、この場合は、レベリング制御を継続するとともに、ロールギャップの制御を継続する。
【0043】
トラッキング演算部93は、カメラ81により撮像された画像に基づいて異常部の搬送方向への移動量を演算して、異常部が後段の圧延機(各スタンド)へ到達するタイミングを求める部分である。このトラッキング演算部93により、異常部の搬送方向への移動量を演算するトラッキング演算工程が実行される。
【0044】
このトラッキング演算部93では、カメラ82により撮像された画像に基づいて、それ以降の圧延機(F5スタンド50、F6スタンド60、F7スタンド70)に板幅異常と判断された箇所が各々のスタンドに到着するタイミングを修正することができる。
【0045】
なお、カメラ81により撮像された画像のみに基づいて板幅異常の判断を行う場合について説明するが、カメラ82により撮像された画像に基づいて、それ以降の圧延機(F5スタンド50、F6スタンド60、F7スタンド70)の制御を行う形態とすることができる。
【0046】
表示装置95は、ディスプレイなどの表示機器や警報機などの音響機器であり、例えばオペレータに対して制御部90が板幅異常であると判断したときに板幅異常の発生やその対処作業について伝えるための装置である。
【0047】
オペレータは、操業中、表示装置95の表示画面や各スタンド自体、各スタンド間を目視することで板幅異常の有無を確認する。例えば、オペレータは、表示装置95に、板幅異常と行うべき操作が表示されている場合、その指示に従って手動で操作をすることにより、板幅異常に対する制御を行うことができる。
【0048】
なお、オペレータに板幅異常を伝えてその操作を待つ形態である必要はなく、表示装置95に表示するとともに制御部90側で板幅異常に対する操業を自動で行う形態や、表示せずに自動で操業する形態であることが望ましい。
【0049】
次いで、本実施例における被圧延材1の板幅異常を判断する異常判断方法とそれを用いた制御の流れについて以下
図3および
図4を用いて説明する。
【0050】
制御部90は、操業中は
図4に示すフローを絶えず実行する。
【0051】
まず、
図4に示すように、制御部90では、制御圧延機(1)(検出スタンド)での入側の板幅の変化率の閾値(W
th)を設定する(ステップS41)。
【0052】
その後、画像処理部91は、カメラ81が撮像した画像に基づき、板幅の異常の判断処理を実行して、被圧延材1の圧延定常部の板幅をW0、カメラ81で逐次撮像された部分の被圧延材1の板幅をWとしたときに、板幅の変化率(W0-W)/W0が閾値Wth以上となったか否かを判定する(ステップS42)。
【0053】
例えば
図3に示すように、被圧延材1が「安定圧延時」の時は、板幅が狭まる異常部が存在せずに板幅の変化率(W
0-W)/W
0は閾値W
th未満となる(ステップS42のNo)ため、指令部92は、通常の圧延制御を継続して(ステップS43)、処理を完了させる。
【0054】
これに対し、
図3(A)に示すように被圧延材1の形状に変化が生じて板幅の変化率が閾値W
th以上となった(ステップS42のYes)ときは、画像処理部91は板幅が狭まる異常部が存在すると判断し、トラッキング演算部93は異常部のトラッキングを開始する(ステップS44)。
【0055】
その後は、各々の対象スタンドに異常部が到達するタイミングで、レベリング制御を速やかにストップし(ステップS45)、ロールギャップを予め定められた条件に応じて開放停止位置まで開放して(ステップS46)、処理を完了させる。
【0056】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0057】
上述した本実施例の異常判断装置は、圧延機により圧延される被圧延材1の板幅の異常を判断する装置であって、被圧延材1を含む画像を撮像するカメラ81と、カメラ81が撮像した画像に基づき、板幅の異常を判断する画像処理部91と、を備え、画像処理部91は、被圧延材1のカメラ81で撮像された部分のうち、圧延定常部の板幅をW0、カメラ81で逐次撮像された部分の被圧延材1の板幅をWとしたときに、板幅の変化率(W0-W)/W0が閾値以上となったときに、板幅が狭まる異常部が存在すると判断する。
【0058】
このように撮像画像から板幅を求め、その板幅の変化率で判定をすることにより、金属帯板の板幅の絶対値が変わったとしても同じ比率の指標で板幅変化を検出することができ、あらゆる幅の金属帯板に対して板幅の異常を画一的に判断することができる。従って、例えば尾端部等における急激な板幅減少が生じても、あらゆる幅の金属帯板に対して板幅の異常を精度良く確実に判断することができる。
【0059】
また、ある時刻で板幅が細くなっていることを検出したとしても、その後の時刻で板幅が所定値以上に復帰していることが検出された場合は、板幅が何らかの要因でたまたま一部が細くなっただけで、いわゆる先細りの形状の様に不安定な制御を誘発する形状ではなく、形状は正常と判断すべき場合が多い。そこで、カメラ81は、異なる時刻Aと時刻B(A<B)における画像を連続して撮像し、画像処理部91は、時刻Aにおける板幅の変化率が閾値以上であり、時刻Bにおける板幅の変化率も閾値以上となったときのように、2回以上連続して異常部が存在すると判断された場合に、時刻Bで異常部が存在すると正式に判断することによって、誤検知を防止し、必要以上に異常と判定されることを抑制し、操業を停止するまでもない異常時の存在により操業が停止されてしまうことを抑制することができる。
【0060】
更に、板幅の異常、特に尾端部に異常がある場合は不安定な制御となり、蛇行、ひいては尾端絞りが起きやすくなる。そのため、制御装置が、異常判断装置と、異常判断装置において異常部が存在すると判断されたときは、その判断された時刻に異常部より被圧延材1の搬送方向の下流側に設けられている圧延機のレベリング制御を判断時刻後に停止する指令部92と、を備えることで、不安定な制御を回避して、尾端絞り等の異常の発生を低減することができる。いち早く不安定な制御を回避するため、異常部が存在すると判断されると同時に異常部より被圧延材の搬送方向の下流側に設けられている圧延機のレベリング制御を停止することもできる。
【0061】
また、指令部92を、レベリング制御を停止するかわりに、あるいは加えて、ロールのギャップをあらかじめ定められた条件に応じて判断時刻後に開放するものとすることにより、既に尾端絞りのようなロールに損傷を与えるような板幅不良が発生していたとしても、ロール表面の損傷を低減することができる。
【0062】
また、指令部92は、レベリング制御を停止し、かつ、圧延機のロールのギャップをあらかじめ定められた条件に応じて開放することにより、既に尾端絞りのようなロールに損傷を与えるような板幅不良が発生していたとしても、ロール表面の損傷を低減することができる。
【0063】
更に、異常部の搬送方向への移動量を演算するトラッキング演算部93を更に備え、指令部92は、トラッキング演算部93が演算した移動量に基づき圧延機に異常部が到達するタイミングで、レベリング制御を停止することにより、板幅が狭くなった箇所の不適切なレベリング制御による圧延不良を防止することができる。また、指令部92は、レベリング制御を停止するかわりに、あるいは加えて、圧延機のロールのギャップをあらかじめ定められた条件に応じて開放することで、被圧延材1の異常部による板の絞り込み発生等を抑制し、ワークロール表面の損傷発生も低減することができる。
【0064】
また、指令部92は、ギャップが、搬送方向の一つ上流側に設けられた圧延機におけるレベリング制御の停止したときのギャップより小さくなるように、且つ被圧延材1に接触する範囲とすることにより、当該圧延機を通過する被圧延材1は、上下ロールに軽く挟まれた状態で搬送されることになるので、被圧延材1の蛇行を低減すると共に、異常部によるロール表面の損傷も低減することができる。
【0065】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【符号の説明】
【0066】
1…被圧延材(金属帯板)
10…第1スタンド
11,21,31,41,51,61,71…圧下シリンダ
12,22,32,42,52,62,72…荷重検出器
20…第2スタンド
30…第3スタンド
40…第4スタンド
50…第5スタンド
60…第6スタンド
70…第7スタンド
81,82…カメラ(異常判断装置)
85…通信線
90…制御部(制御装置)
91…画像処理部(異常判断装置)
92…指令部
93…トラッキング演算部
95…表示装置
100…圧延設備