IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 藤倉化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-水系塗料組成物及び塗装方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】水系塗料組成物及び塗装方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240221BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240221BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20240221BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240221BHJP
   C09D 7/43 20180101ALI20240221BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20240221BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240221BHJP
   E04F 13/02 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
C09D183/04
C09D7/65
C09D7/43
B05D7/00 L
B05D7/24 302Y
E04F13/02 A
E04F13/02 J
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020104611
(22)【出願日】2020-06-17
(65)【公開番号】P2021195485
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】四ツ▲柳▼ 雄太
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-205980(JP,A)
【文献】特開2000-178448(JP,A)
【文献】特表2014-512257(JP,A)
【文献】特表2018-538422(JP,A)
【文献】特表2005-510344(JP,A)
【文献】特開2015-110766(JP,A)
【文献】特開2002-235004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 5/02
C09D 183/04
C09D 7/65
C09D 7/43
B05D 7/00
B05D 7/24
E04F 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、前記水に分散されたゲル状粒子とを含み、
前記ゲル状粒子は、エマルション塗料を含む液滴と、前記液滴の表面を覆うゲル化膜とを有し、
前記ゲル状粒子100質量%のうち20質量%以上が、23℃において液状のシリコーンを含む、水系塗料組成物。
【請求項2】
併設された複数の壁材の表面に、請求項1に記載の水系塗料組成物を、少なくとも壁材間の継目を覆うように塗装する、塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系塗料組成物及び塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の壁面においては、外壁ボード等の複数の壁材が敷き詰められ、その表面に塗装によって塗膜が設けられる場合がある。このような壁面においては、気温変化等によって壁材間の継目において壁材間の間隔が変化してしまい、その結果、壁材間の継目において、塗膜に亀裂が生じてしまうことがある。
【0003】
壁材間の継目における塗膜の亀裂を抑える方法としては、壁材間の間隔が広がる際の広がり方向の力を緩和して塗膜に伝えないようにする帯状の継目処理材を、壁材間の継目及び該継目の両側の壁材の側縁を覆うように設け、継目処理材の表面及び継目処理材の両側の壁材の表面に塗装によって塗膜を設ける継目処理方法が知られている。
【0004】
継目処理材としては、例えば、下記のものが提案されている。
・壁材間の継目を覆うように貼着される粘着層と、粘着層の外側に設けられる、不織布によって補強されたアクリルゴムからなる補強層と、粘着層と補強層との間に形成された、シリコーン樹脂からなる緩衝材が部分的に設けられた緩衝部とを有する帯状の継目処理材(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-233611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の継目処理材を用いた継目処理方法は、施工の手間がかかる他、塗料以外に継目処理材が余計に必要となる。
【0007】
本発明は、壁材間の継目に予め継目処理材を設けなくても、壁材間の間隔の変動による亀裂が発生しにくい塗膜を形成できる水系塗料組成物及び塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1]水と、前記水に分散されたゲル状粒子とを含み、
前記ゲル状粒子は、エマルション塗料を含む液滴と、前記液滴の表面を覆うゲル化膜とを有し、
前記ゲル状粒子100質量%のうち20質量%以上が、23℃において液状のシリコーンを含む、水系塗料組成物。
[2]併設された複数の壁材の表面に、前記[1]の水系塗料組成物を、少なくとも壁材間の継目を覆うように塗装する、塗装方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、壁材間の継目に予め継目処理材を設けなくても、壁材間の間隔の変動による亀裂が発生しにくい塗膜を形成できる水系塗料組成物及び塗装方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の塗装方法によって被塗物の表面に設けられた塗膜及びその近傍を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔水系塗料組成物〕
本発明の水系塗料組成物は、水と、水に分散されたゲル状粒子とを含む。
ゲル状粒子は、エマルション塗料を含む液滴と、液滴の表面を覆うゲル化膜とを有する。
水系塗料組成物中のゲル状粒子100質量%のうち20質量%以上は、23℃において液状のシリコーン(以下、「液状シリコーン」とも記す。)を含む。以下、液状シリコーンを含むゲル状粒子を「ゲル状粒子(1)」とも記す。
水系塗料組成物は、ゲル状粒子として、ゲル状粒子(1)のみを含んでいてもよく、液状シリコーンを含まないゲル状粒子(以下、「ゲル状粒子(2)」とも記す。)をさらに含んでいてもよい。
水系塗料組成物は、必要に応じて、バインダ樹脂をさらに含んでいてもよい。なお、ゲル状粒子がバインダとして機能するので、水系塗料組成物はバインダ樹脂を含まなくてもよい。
水系塗料組成物は、必要に応じて、上記以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0012】
<水>
水の含有量は、水系塗料組成物100質量%中、30~85質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましい。
【0013】
<ゲル状粒子(1)>
ゲル状粒子(1)は、液滴と、液滴の表面を覆うゲル化膜とを有し、かつ液状シリコーンを含む。
【0014】
(液状シリコーン)
ゲル状粒子(1)が液状シリコーンを含むことにより、水系塗料組成物の塗膜に伸び性が付与され、壁材間の間隔の変動等によって塗膜に応力が掛かった時に、亀裂が発生することを抑制できる。これは、液状シリコーンにより、ゲル状粒子の表面にスリップ性が付与され、塗膜に応力が掛かった時にゲル状粒子がずれ、応力が緩和されることによると考えられる。
液状シリコーンは、典型的には、液滴のエマルション塗料に配合される。エマルション塗料中の低分子シリコーンは、ゲル化膜を通ってゲル状粒子の表面に移行する。
23℃において固体のシリコーンは、ゲル状粒子の表面に移行できない。
【0015】
液状シリコーンとしては、例えば塗料用のレベリング剤やスリップ剤として用いられるシリコーンを使用できる。
液状シリコーンとしては、液滴の樹脂エマルションと相溶するものが好ましく、スリップ性と相溶性の面で、ポリシロキサンが好ましい。
ポリシロキサンとしては、スリップ性の面で、アルキルポリシロキサンが好ましい。アルキルポリシロキサンとしては、ジメチルポリシロキサン、ポリメチルアルキルシロキサン等が挙げられる。これらのアルキルポリシロキサンは変性されていてもよい。これらの中でも、スリップ性の面で、ジメチルポリシロキサンが好ましい。これらポリシロキサンは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドで変性されていてもよい。
【0016】
ゲル状粒子(1)中の液状シリコーンの含有量は、ゲル状粒子(1)100質量%に対し、2~10質量%が好ましい。液状シリコーンの含有量が前記下限値以上であれば、塗膜に充分な伸び性を付与でき、前記上限値以下であれば、ゲル状粒子(1)を形成しやすい。
【0017】
(液滴)
液滴は、エマルション塗料を含む。
エマルション塗料は、樹脂エマルションを含む。
エマルション塗料は、典型的には、親水性コロイド形成物質をさらに含む。
ゲル状粒子(1)の場合、エマルション塗料は、典型的には、液状シリコーンをさらに含む。
エマルション塗料は、上記以外の成分(以下、「任意成分」とも記す。)をさらに含んでいてもよい。
【0018】
「樹脂エマルション」
樹脂エマルションは、樹脂を形成材料とする懸濁粒子又は乳化粒子と、前記懸濁粒子又は乳化粒子を分散させる分散媒とを有する。
懸濁粒子又は乳化粒子の形成材料の樹脂としては、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル、ベオバ(分岐脂肪酸ビニルエステル)、天然又は合成ゴム、及びこれらの共重合体のエマルション等が挙げられる。これらの樹脂は1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アクリル樹脂が好ましい。
樹脂エマルションの分散媒としては、水が好ましい。
樹脂エマルションしては、一般に市販されている樹脂エマルションを使用することができる。
【0019】
「親水性コロイド形成物質」
親水性コロイド形成物質は、ゲル化剤と反応し、ゲル化膜を形成可能な物質である。ゲル化剤については後述する。
親水性コロイド形成物質としては、例えば、セルロース誘導体、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、天然高分子(カゼイン、デンプン、ガラクトマンノン、グアルゴム、ローカストビーンゴム等)等を含有する水溶液が挙げられる。これらの中でもグアルゴムの水溶液が好ましい。水溶液の濃度は0.5~5質量%が好ましく、1.0~3質量%がより好ましい。親水性コロイド形成物質は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
親水性コロイド形成物質の含有量は、樹脂エマルション100質量部に対して、0.05~5質量部が好ましく、0.1~3.0質量部がより好ましい。親水性コロイド形成物質の含有量を上記範囲内とすることにより、安定したゲル化膜が得られる。
【0021】
「液状シリコーン」
液状シリコーンは前記したとおりである。
エマルション塗料中の液状シリコーンの含有量は、ゲル状粒子(1)中の液状シリコーンの含有量に応じて設定される。
【0022】
「任意成分」
エマルション塗料は、本発明の効果を損なわない範囲で、着色顔料、体質顔料等の顔料を含んでいてもよい。なお、エマルション塗料は、顔料を含まない、いわゆるクリヤー塗料であってもよい。
エマルション塗料は、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の添加剤、例えば、増粘剤、分散剤、消泡剤、レベリング剤等を含んでいてもよい。
【0023】
(ゲル化膜)
ゲル化膜は、液滴の表面を覆い、ゲル状粒子の輪郭を形成している。液滴の表面がゲル化膜で覆われていることにより、ゲル状粒子が分散媒中で安定して分散することができる。
ゲル化膜としては、エマルション塗料に含まれる親水性コロイド物質と、ゲル化剤とが反応し架橋することで形成された三次元的網状組織を含むものが挙げられる。ゲル化膜は、エマルション塗料よりも流動性が低く、液滴を内部に包含している。
【0024】
ゲル化剤としては、例えば、マグネシウムモンモリロナイト粘土、ナトリウムペンタクロロフェノール、ホウ酸塩、タンニン酸、乳酸チタン、塩化カルシウム等が挙げられる。中でもホウ酸塩が好ましい。ゲル化剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
ゲル状粒子(1)の平均粒子径は5~50mmが好ましく、10~40mmがより好ましい。平均粒子径が5mm以上であれば、壁材間の間隔の広がりに、塗膜がひび割れることなく追従しやすい。一方、平均粒子径が50mm以下であれば、塗膜の平滑性が良好である。
なお、ゲル状粒子の平均粒子径は、無作為に20個のゲル状粒子を選択し、その長径をノギスで測定した平均値である。
【0026】
<ゲル状粒子(2)>
ゲル状粒子(2)は、液状シリコーンを含まない以外は、ゲル状粒子(1)と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0027】
水系塗料組成物中の全てのゲル状粒子(ゲル状粒子(1)とゲル状粒子(2)との合計)100質量%のうち、ゲル状粒子(1)の割合は、20質量%以上であり、100質量%であってもよい。ゲル状粒子(1)の割合が20質量%以上であれば、壁材間の間隔の広がりに、ひび割れることなく追従できる塗膜が得られる。
【0028】
水系塗料組成物中の全てのゲル状粒子の合計の含有量は、水系塗料組成物100質量%に対して、30~100質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましい。ゲル状粒子の合計の含有量が30質量%以上であれば、水系塗料組成物の被塗物への塗装作業性が良好である。
【0029】
<バインダ樹脂>
バインダ樹脂としては、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル、ベオバ(分岐脂肪酸ビニルエステル)、天然又は合成ゴム、及びこれらの共重合体のエマルション等が挙げられる。これらの樹脂は1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アクリル樹脂が好ましい。
バインダ樹脂は、樹脂エマルションの形態で配合されてもよい。樹脂エマルションしては、一般に市販されている樹脂エマルションを使用することができる。樹脂エマルションの分散媒としては、水が好ましい。
【0030】
水系塗料組成物がバインダ樹脂を含む場合、バインダ樹脂の含有量(樹脂エマルションの場合は樹脂分換算)は、ゲル状粒子100質量部に対して、5~40質量部が好ましく、10~30質量部がより好ましい。バインダ樹脂の含有量が前記範囲内であれば、塗装作業性に優れると共に、壁材間の間隔の広がりに、ひび割れることなく追従できる塗膜が得られやすい。
【0031】
<他の成分>
水系塗料組成物は、体質顔料を含んでいてもよい。体質顔料については後述する。
水系塗料組成物は、水溶性高分子化合物を含んでいてもよい。水溶性高分子化合物については後述する。
水系塗料組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の添加剤、例えば、増粘剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、レベリング剤等を含んでいてもよい。
【0032】
<水系塗料組成物の製造方法>
水系塗料組成物は、例えば、ゲル状粒子(1)の水分散液を調製し、必要に応じて、ゲル状粒子(1)の水分散液に、ゲル状粒子(2)の水分散液、樹脂エマルション、任意成分、水等を配合することにより製造できる。
【0033】
ゲル状粒子(1)の水分散液は、例えば、樹脂エマルションと親水性コロイド形成物質と液状シリコーンとを含むエマルション塗料を調製し、得られたエマルション塗料を、攪拌下で、ゲル化剤及び水を含む分散媒に添加することにより調製できる。
【0034】
エマルション塗料は、例えば、樹脂エマルションに、親水性コロイド形成物質、液状シリコーン、必要に応じて任意成分、水を加え、攪拌混合することにより調製できる。
液状シリコーンは、水分散体の形態で用いられてもよい。
【0035】
分散媒は、ゲル化剤及び水を含む。
ゲル化剤の含有量(固形分量)は、分散媒100質量%に対し、0.05~5質量%が好ましく、0.1~3質量%がより好ましい。ゲル化剤の含有量を上記範囲内とすることにより、安定したゲル化膜が得られる。
水の含有量は、分散媒100質量%に対し、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。
【0036】
分散媒は、必要に応じて、体質顔料を含んでいてもよい。
体質顔料としては、カオリン、硫酸バリウム、含水ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。中でも含水ケイ酸マグネシウムが好ましい。体質顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
体質顔料の含有量(固形分量)は、分散媒100質量%に対し、0.05~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。
【0037】
分散媒は、必要に応じて、水溶性高分子化合物を含んでいてもよい。
水溶性高分子化合物としては、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。中でもカルボキシメチルセルロースが好ましい。水溶性高分子化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
水溶性高分子化合物の含有量(固形分量)は、分散媒100質量%に対し、0.05~3質量%が好ましく、0.1~2質量%がより好ましい。
【0038】
分散媒は、例えば、ゲル化剤の水溶液と、体質顔料の水分散液と、水溶性高分子化合物の水溶液とを混合し、必要に応じて水で希釈することにより調製できる。
ゲル化剤の水溶液におけるゲル化剤の濃度は0.05~10質量%が好ましく、0.5~8質量%がより好ましい。
体質顔料の水分散液における体質顔料の濃度は、0.05~20質量%が好ましく、2~10質量%がより好ましい。
水溶性高分子化合物の水溶液における水溶性高分子化合物の濃度は、0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。
【0039】
分散媒中でエマルション塗料を攪拌すると、エマルション塗料の液滴が形成され、その表面で、エマルション塗料の親水性コロイド形成物質と、分散媒のゲル化剤とが反応して三次元的網状組織が形成される。また、エマルション塗料の液滴は、ゲル化剤との反応によって凝集しながら、攪拌により細分化される。細分化の過程においても継続的に親水性コロイド形成物質とゲル化剤とが反応して三次元的網状組織が形成される。
このようにして得られるゲル状粒子は水分を多く含み、柔らかい粒子である。
【0040】
エマルション塗料の配合量は、分散媒100質量部に対して100~500質量部が好ましく、150~400質量部がより好ましい。エマルション塗料の配合量を上記範囲内とすることにより、形状が均一なゲル状粒子が得られやすい。
【0041】
攪拌方法は、公知の方法であってよく、例えばディソルバ等の分散機で攪拌する方法が挙げられる。
エマルション塗料や分散媒の粘度、分散機の回転数、攪拌時間、親水性コロイド形成物質及びゲル化剤の組み合わせや配合量によって、得られるゲル状粒子の平均粒子径を自由にコントロールできる。通常、エマルション塗料や分散媒の粘度を高くすれば平均粒子径は大きくなり、分散機の回転数を早くすれば平均粒子径は小さくなる。
【0042】
各々のエマルション塗料が互いに異なる色調の着色顔料を含む2種以上のゲル状粒子(1)の水分散液を調製し、それらを混合してもよい。これにより、水系塗料組成物を多彩模様塗料組成物とすることができる。
【0043】
ゲル状粒子(2)の水分散液は、エマルション塗料が液状シリコーンを含まない以外は、ゲル状粒子(1)の水分散液と同様にして調製できる。
ゲル状粒子(1)のエマルション塗料が着色顔料を含む場合、ゲル状粒子(2)のエマルション塗料を、ゲル状粒子(1)のエマルション塗料とは異なる色調の着色顔料を含むものとしてもよい。これにより、水系塗料組成物を多彩模様塗料組成物とすることができる。
【0044】
〔塗装方法〕
本発明の塗装方法は、併設された複数の壁材の表面に、本発明の水系塗料組成物を、少なくとも壁材間の継目を覆うように塗装する方法である。
以下、図1を参照しながら、本発明の塗装方法の一実施形態について説明する。なお、図1における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0045】
本実施形態に係る塗装方法における被塗物は、並設された複数の壁材10を備える。隣り合う壁材10間の継目Cには、目地材12が充填されている。
壁材10としては、例えば建築物の外壁材、内壁材が挙げられる。壁材10の材質としては、例えばモルタル、コンクリート、窯業系素材、プラスチック、金属、木材が挙げられる。壁材10の表面は平滑でもよく、凹凸を有していてもよい。壁材10の表面に塗膜が設けられていてもよい。
目地材12としては、例えばシーリング材、パテ材が挙げられる。
なお、継目Cに目地材12が充填されていなくてもよい。
【0046】
本実施形態に係る塗装方法では、並設された複数の壁材10の表面に、本発明の水系塗料組成物を、少なくとも壁材10間の継目Cを覆うように塗装し、乾燥する。
【0047】
水系塗料組成物の塗装方法としては、特に制限はなく、ローラー、スプレー、刷毛、こて等の公知の方法を用いることができる。
乾燥温度は、例えば5~80℃である。乾燥時間は、乾燥温度によっても異なるが、例えば5分間~8時間である。
【0048】
水系塗料組成物の塗装量は、特に制限はないが、150~800g/mが好ましい。塗装量が前記範囲内であれば、より壁材間の間隔の広がりに追従できる塗膜を形成できる。水系塗料組成物の塗装量は、乾燥前の値である。
【0049】
このようにして、複数の壁材10の表面及び壁材10間の継目Cを覆う連続した塗膜1が形成される。
形成された塗膜1は、優れた伸び性を有している。そのため、壁材10間の間隔の広がりに追従でき、継目Cにおいて亀裂が生じにくい。
必要に応じて、塗膜1の上に、他の塗料を塗装してもよい。
【実施例
【0050】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下において「部」は「質量部」を示す。
【0051】
<エマルション塗料の調製>
(製造例A-1)
アクリル樹脂エマルション(DIC株式会社製、「ボンコートCF-6140」、分散媒:水、樹脂分:48質量%)31.7部と、非イオン性グアルゴム誘導体の1.5質量%水溶液28.5部(固形分0.43部)と、白顔料10部と、ポリシロキサン(1)5部をディゾルバにて混合し、混合液(a)を調製した。
アニオン性高分子分散剤(日本アクリル化学社製、「オロタン731」)1部と、水23.8部とを混合し、混合液(b)を調製した。
混合液(a)に混合液(b)を加え撹拌し、エマルション塗料A-1を得た。
【0052】
(製造例A-2~A-10)
混合液(a)、混合液(b)それぞれに配合する成分の種類と配合量(部)を表1に示すようにしたこと以外は製造例A-1と同様にして、エマルション塗料A-2~A-10を製造した。
【0053】
【表1】
【0054】
使用したポリシロキサン及び顔料を以下に示す。
ポリシロキサン(1):液状シリコーン(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)、ビックケミージャパン製「BYK-378」。
ポリシロキサン(2):液状シリコーン(アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン)、ビックケミージャパン製「BYK-323」。
白顔料:酸化チタン、石原産業社製、「チタンR930」。
黒顔料:酸化鉄・黒、ランクセス社製、「バイフェロックス318」。
茶顔料:鉄-亜鉛複合酸化物、チタン工業社製、「T-10」。
体質顔料:竹原化学工業社製、「SL-1000」。
【0055】
<ゲル状粒子水分散液の製造>
(製造例B-1)
含水ケイ酸マグネシウムの4質量%水分散液25部(固形分1部)に、重ホウ酸アンモニウムの5質量%水溶液5部(固形分0.25部)と、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの1質量%水溶液25部(固形分0.25部)を加え撹拌混合した後、水45部を加えて希釈し、分散媒を得た。
【0056】
得られた分散媒の40部に、エマルション塗料A-1の60部を加え、ディソルバで平均粒子径が30mmになるまで撹拌して、ゲル状粒子水分散液B-1を得た。
ゲル状粒子水分散液B-1から無作為に20個のゲル状粒子を選択し、その長径をノギスで測定した平均値は約30mmであった。
【0057】
(製造例B-2~B-9)
エマルション塗料A-1を、表2に示すエマルション塗料に変更した以外は製造例B-1と同様にして、ゲル状粒子水分散液B-2~B-9を製造した。
【0058】
(製造例B-10)
エマルション塗料A-1をエマルション塗料A-10に変更した以外は製造例B-1と同様の操作を行ったところ、ゲル状粒子が形成されなかった。
【0059】
【表2】
【0060】
<水系塗料組成物の製造及び評価>
(実施例1~13、比較例1~2)
表3~4に示すゲル状粒子水分散液と、水又はアクリル樹脂エマルション(DIC株式会社製、「ボンコートCF-6140」、分散媒:水、樹脂分48質量%)とを、表3~4に示す割合(部)で混合して、水系塗料組成物を得た。
得られた水系塗料組成物について、以下の手順で、伸び性及び塗装後外観を評価した。結果を表3~4に示す。
【0061】
「伸び性の評価」
離型紙上に水系塗料組成物を、ローラーで、塗布量(乾燥前)が300g/mになるように塗装し、23℃2週間の条件で乾燥して塗膜を形成した。
ついで、塗膜を形成した離型紙を、幅10mm、長さ40mmの大きさに裁断し、離型紙を剥離して測定片を得た。得られた測定片について、引張試験機(株式会社オリエンテック製、「テンシロンRTC-1210」)を用い、測定雰囲気23℃、定格荷重250N、引張速度20mm/分の条件で引張伸度(伸び率)を測定した。同様の操作を3回行い、その平均値を求めた。
【0062】
「塗装後外観の評価」
予め下地として白色の着色塗料が塗布されたスレート板の表面に、塗布量(乾燥前)が300g/mになるようスプレーにより塗布し、23℃2週間の条件で乾燥して塗膜を形成した。
形成された塗膜を目視で観察し、以下の基準で塗装後外観を評価した。ここで、ニジミとは、ゲル状粒子がくずれ、塗膜が濁って見える状態を示す。
A:ニジミがなく、外観が良好。
B:ややニジミがある。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
実施例1~13の水系塗料組成物の塗膜は、優れた伸び性を有していた。そのため、壁材間の間隔の広がりに、ひび割れることなく追従できると判断できる。
一方、ゲル状粒子が液状シリコーンを含まない比較例1の水系塗料組成物の塗膜は、伸び性に劣っていた。
ゲル状粒子100質量%のうち液状シリコーンを含むゲル状粒子の割合が15質量%の比較例2の水系塗料組成物の塗膜は、伸び性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の水系塗料組成物により形成される塗膜は、優れた伸び性を有する。これは、ゲル状粒子表面に移行している液状シリコーンによってゲル状粒子同士が塗膜内部である程度ずれることが可能になることによると考えられる。塗膜が優れた伸び性を有するため、壁材間の継目に予め継目処理材を設けることなく、壁材間の継目を覆うように塗膜を形成した場合でも、塗布された壁材間の間隔が広がったときに、塗膜に亀裂が入ることなく伸び、壁材間の間隔の広がりに対応できる。
【符号の説明】
【0067】
1 塗膜
C 継目
10 壁材
12 目地材
図1