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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20240221BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20240221BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K5/10
B60C1/00 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022021284
(22)【出願日】2022-02-15
(65)【公開番号】P2023118364
(43)【公開日】2023-08-25
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】酒井 直子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-501834(JP,A)
【文献】特表2019-522088(JP,A)
【文献】特開2019-206651(JP,A)
【文献】特開2017-214566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、ガラス転移温度が-100℃以下である可塑剤Xと、1種のシランカップリング剤とを含有し、前記1種のシランカップリング剤が、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基、スルフィド基、又は、ブロックメルカプト基を有し、
前記可塑剤Xの1H-NMRスペクトルが下記指標I及びIIを満たし、前記可塑剤Xが不飽和脂肪酸とモノアルコールとのエステルを含み、前記可塑剤Xの含有量が前記ジエン系ゴム100質量部に対して15質量部以上20質量部未満である、タイヤ用ゴム組成物。
指標I:0≦{c÷(a+b+c)}×100≦0.1
指標II:1.0≦log{(a+b)÷b}≦2.0
前記指標I、II中、aは、前記1H-NMRスペクトルの領域A:0.2~2.2ppmにおけるシグナルの積分比aを表し、
前記指標I、II中、bは、前記1H-NMRスペクトルの領域B:2.2ppm超4.0ppm以下におけるシグナルの積分比bを表し、
前記指標I中、cは、前記1H-NMRスペクトルの領域C:6.0~10ppmにおけるシグナルの積分比cを表す。
【請求項2】
更に、シリカを含有する、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の枯渇問題や、地球温暖化防止を目的とする炭酸ガス排出の規制などの諸事情により、石油資源に由来しない材料が求められている。タイヤにおいても非石油資源由来の材料開発が行われている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-64222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようななか、本発明者らは特許文献1を参考にしてゴム組成物を調製しこれを評価したところ、このようなゴム組成物から得られる加硫ゴムの、破断強度、転がり抵抗性、耐摩耗性の少なくともいずれかが悪い場合があることが明らかとなった。
そこで、本発明は、破断強度、転がり抵抗性、耐摩耗性が優れる、タイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の指標及びガラス転移温度を満たす可塑剤Xを使用することによって所望の効果が得られることを見出し、本発明に至った。
本発明は上記知見等に基づくものであり、具体的には以下の構成により上記課題を解決するものである。
【0006】
[1] ジエン系ゴムと、ガラス転移温度が-100℃以下である可塑剤Xとを含有し、
上記可塑剤Xの1H-NMRスペクトルが下記指標I及びIIを満たす、タイヤ用ゴムゴム組成物。
指標I:0≦{c÷(a+b+c)}×100≦0.1
指標II:1.0≦log{(a+b)÷b}≦2.0
上記指標I、II中、aは、上記1H-NMRスペクトルの領域A:0.2~2.2ppmにおけるシグナルの積分比aを表し、
上記指標I、II中、bは、上記1H-NMRスペクトルの領域B:2.2ppm超4.0ppm以下におけるシグナルの積分比bを表し、
上記指標I中、cは、上記1H-NMRスペクトルの領域C:6.0~10ppmにおけるシグナルの積分比cを表す。
[2] 上記可塑剤Xの含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、5~100質量部である、[1]に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、破断強度、転がり抵抗性、耐摩耗性が優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明について以下詳細に説明する。
本明細書において、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
本明細書において、特に断りのない限り、各成分はその成分に該当する物質をそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。成分が2種以上の物質を含む場合、成分の含有量は、2種以上の物質の合計の含有量を意味する。
本明細書において、各成分の製造方法は特に制限されない。例えば、従来公知の方法が挙げられる。
【0009】
本明細書において、破断強度、転がり抵抗性、及び、耐摩耗性のうちの少なくとも1つがより優れることを、本発明の効果がより優れると言うことがある。
【0010】
[タイヤ用ゴム組成物]
本発明のタイヤ用ゴム組成物(本発明のゴム組成物)は、ジエン系ゴムと、ガラス転移温度が-100℃以下である可塑剤Xとを含有し、
上記可塑剤Xの1H-NMRスペクトルが下記指標I及びIIを満たす、タイヤ用ゴムゴム組成物である。
指標I:0≦{c÷(a+b+c)}×100≦0.1
指標II:1.0≦log{(a+b)÷b}≦2.0
上記指標I、II中、aは、上記1H-NMRスペクトルの領域A:0.2~2.2ppmにおけるシグナルの積分比aを表し、
上記指標I、II中、bは、上記1H-NMRスペクトルの領域B:2.2ppm超4.0ppm以下におけるシグナルの積分比bを表し、
上記指標I中、cは、上記1H-NMRスペクトルの領域C:6.0~10ppmにおけるシグナルの積分比cを表す。
以下、本発明のゴム組成物に含有される各成分について詳述する。
【0011】
[ジエン系ゴム]
本発明のゴム組成物に含有されるジエン系ゴムは、ジエン系モノマーに由来する繰り返し単位を有するポリマーであれば特に制限されない。
ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br-IIR、Cl-IIR)、クロロプレンゴム(CR)などの共役ジエン系ゴムが挙げられる。
芳香族ビニル-共役ジエン共重合体ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレン共重合体ゴムなどが挙げられる。
ジエン系ゴムは、変性されていてもよい。上記変性は特に制限されない。本明細書において、ジエン系ゴムは、特に断りがない限り、変性されていても、変性されていなくともいなくともよい(以下同様)。
【0012】
ジエン系ゴムは、本発明の効果がより優れるという観点から、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)及びブタジエンゴム(BR)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0013】
ジエン系ゴムは、本発明の効果がより優れるという観点から、NRを含むことが好ましい。
ジエン系ゴムがNRを含む場合、NRの含有量は、ジエン系ゴム中の80~100質量%であることが好ましく、90~100質量%がより好ましい。
【0014】
ジエン系ゴムを組み合わせて使用する場合、上記組合せとしては、例えば、BR及びSBRの組合せが挙げられ、BR及び変性されたSBRの組合せが好ましい態様の1つとして挙げられる。
ジエン系ゴムがBR及びSBRを含む場合、SBRの含有量は、ジエン系ゴム中の70~90質量%であることが好ましい。
ジエン系ゴムがBR及びSBRを含む場合、BRの含有量は、ジエン系ゴム中の10~30質量%であることが好ましい。
ジエン系ゴムがBR及びSBRを含む場合、BR及びSBRの合計含有量は、ジエン系ゴム全量中の90~100質量%であることが好ましい。
【0015】
[可塑剤X]
本発明のゴム組成物に含有される可塑剤Xの1H-NMR(プロトン核磁気共鳴)スペクトルは、下記の指標I及びIIを満たす。
指標I:0≦{c÷(a+b+c)}×100≦0.1
指標II:1.0≦log{(a+b)÷b}≦2.0
【0016】
[指標I、II中のa]
上記指標I、II中のaは、可塑剤Xの1H-NMRスペクトルの、0.2~2.2ppmの領域Aにおけるシグナルの積分比aを表す。積分比aは、領域Aにおけるシグナルの積分比(面積比)の合計である。
領域Aには、例えば、可塑剤Xが有する、飽和脂肪族炭化水素又は飽和脂肪族炭化水素基を構成する、メチル基、メチレン基、メチン基のプロトンに起因するシグナルが現れる。ここで、上記の飽和脂肪族炭化水素は直鎖状、分岐状、及び、環状の飽和脂肪族炭化水素、並びに、これらの組合せを含む概念とする。飽和脂肪族炭化水素基も同様である。
上記飽和脂肪族炭化水素の炭素数は2以上(環状の場合は3以上)とできる。飽和脂肪族炭化水素基も同様である。
なお、本明細書において、「飽和脂肪族炭化水素又は飽和脂肪族炭化水素基」を「飽和脂肪族炭化水素(基)」と称することがある。「芳香族炭化水素又は芳香族族炭化水素基」についても同様である。
【0017】
[指標I、II中のb]
上記指標I、II中のbは、可塑剤Xの1H-NMRスペクトルの、2.2ppm超4.0ppm以下の領域Bにおけるシグナルの積分比bを表す。積分比bは、領域Bにおけるシグナルの積分比(面積比)の合計である。
領域Bには、例えば、芳香族炭化水素(基)やカルボニル基、ヘテロ原子に直接結合するメチル基、メチレン基、メチン基や活性メチレンのプロトンに起因するシグナルが現れる。
【0018】
[指標I中のc]
上記指標I中のcは、可塑剤Xの1H-NMRスペクトルの、6.0~10ppmの領域Cにおけるシグナルの積分比cを表す。積分比cは、領域Cにおけるシグナルの積分比(面積比)の合計である。
領域Cには、例えば、芳香族炭化水素(基)に直接結合するプロトンに起因するシグナルが現れる。
【0019】
本発明において、可塑剤Xの1H-NMRスペクトルは以下の条件で測定された。
装置:AV400M(Bruker社製)
1H共鳴周波数:400MHz
測定温度:室温(23℃)
積算回数:16
溶媒:重クロロホルム
【0020】
[指標I]
本発明において、指標Iは、0≦{c÷(a+b+c)}×100≦0.1である。
指標Iは、可塑剤Xに含まれ得る芳香族炭化水素(基)等に起因するプロトンの、領域A,B及びCにおけるプロトンの合計に対する割合を表すことができる。可塑剤Xに含まれ得る芳香族炭化水素等が多い程、指数Iは大きくなると考えられる。
指標Iは、本発明の効果がより優れるという観点から、0以上0.05以下が好ましい。
【0021】
[指標II]
本発明において、指標IIは、1.0≦log{(a+b)÷b}≦2.0である。上記対数の底は10である。
指標IIは、可塑剤Xに含まれ得る飽和脂肪族炭化水素(基)に起因するプロトン(a+b)の、領域Bにおけるプロトンの合計(芳香族炭化水素(基)に直接結合するメチル基等に起因するプロトンの合計)に対する割合を表すことができる。
指標IIは、可塑剤Xにおける飽和脂肪族炭化水素(基)を構成する炭素原子(又はこれに結合する水素原子)が多い程、大きくなると考えられる。
指標IIは、本発明の効果がより優れるという観点から、1.1~1.4が好ましい。
【0022】
(可塑剤Xの分子量)
可塑剤Xの重量平均分子量は、本発明の効果がより優れるという観点から、200~1500であることが好ましく、500~800がより好ましい。
可塑剤Xの数平均分子量の好適範囲も上記と同様とできる。
【0023】
(可塑剤Xの分子量の測定方法)
可塑剤Xの重量平均分子量、数平均分子量は以下の条件で測定された。
GPC:HLC-8320GPC EcoSEC-WorkStation(東ソー(株)製)
カラム:商品名PLgel MIXED-b(Agilent社製)3本を直列につなぐ
溶媒:テトラヒドロフラン
温度:40℃
流速:0.5ml/min
試料濃度:0.2mg/ml
【0024】
[可塑剤Xのガラス転移温度]
本発明において、可塑剤Xのガラス転移温度(Tg)は、-100℃以下である。
可塑剤XのTgは、本発明の効果がより優れるという観点から、-150~-100℃であることが好ましく、-130~-105℃がより好ましい。
【0025】
(可塑剤Xのガラス転移温度の測定方法)
可塑剤Xのガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて20℃/分の昇温速度で測定し、中点法にて算出することができる。
【0026】
(可塑剤Xの種類)
可塑剤Xとしては、例えば、植物油、その変性物が挙げられる。
可塑剤Xは、本発明の効果がより優れるという観点から、植物油又はその変性物を含むことが好ましく、植物油の変性物を含むことがより好ましい。
植物油の変性物としては、例えば、脂肪酸(脂肪酸は不飽和脂肪酸を含む。以下同様)とモノアルコール又はジアルコールとのエステルが挙げられる。
可塑剤Xは、本発明の効果がより優れるという観点から、高級不飽和脂肪酸とモノアルコールとのエステルを含むことが好ましくオレイン酸2-エチルヘキシルを含むことがより好ましい。
【0027】
(オレイン酸2-エチルへキシル)
オレイン酸2-エチルへキシル(オレイン酸2-エチルへキシルエステル)は、オレイン酸と2-エチルヘキサノールとのエステルである。
【0028】
オレイン酸2-エチルヘキシルは、本発明の効果がより優れるという観点から、植物油由来又は植物油の変性物であることが好ましい。
オレイン酸2-エチルヘキシルが植物油由来又は植物油の変性物である場合、オレイン酸2-エチルヘキシルの原料となり得る植物油としては、例えば、オレイン酸エステルを有する植物油が挙げられ、具体的には例えば、ヒマワリ油のような種子油、穀類の油、いも類の油、豆類の油、野菜類の油が挙げられる。
植物油は、本発明の効果がより優れるという観点から、植物油を構成する全脂肪酸成分のうち、オレイン酸が70質量%以上を占めることが好ましく、オレイン酸が80質量%以上を占めることがより好ましい。
植物油を構成する脂肪酸成分がオレイン酸を含む場合、オレイン酸以外の脂肪酸成分は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0029】
オレイン酸2-エチルヘキシルは、本発明の効果がより優れるという観点から、オレイン酸エステルを有する植物油を2―エチルヘキサノールでエステル交換して得られたものであることが好ましい。
可塑剤Xに含まれるオレイン酸2-エチルヘキシルが、上記のエステル交換による場合、可塑剤Xはオレイン酸2-エチルヘキシル以外に更に、オレイン酸2-エチルヘキシルの原料である植物油の脂肪酸成分の組成(脂肪酸成分の種類及びその量の割合)を反映した、脂肪酸2-エチルヘキシル(脂肪酸2-エチルヘキシルエステル)を含むことができる。
脂肪酸2-エチルヘキシルの種類としては、例えば、ステアリン酸のような飽和脂肪酸の2-エチルヘキシルエステル、オレイン酸以外の一価不飽和脂肪酸の2-エチルヘキシルエステル、リノール酸のような多価不飽和脂肪酸の2-エチルヘキシルエステルが挙げられる。
オレイン酸2-エチルヘキシル及びこれ以外の脂肪酸2-エチルヘキシルの合計量のうち、オレイン酸2-エチルヘキシルの含有量が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0030】
オレイン酸2-エチルヘキシルの製造方法は特に制限されないが、本発明の効果がより優れるという観点から、オレイン酸エステル(例えばグリセリンエステル)を有する植物油を2-エチルヘキサノールでエステル交換する方法が好ましい。上記エステル交換としては、例えば、従来公知の方法が挙げられる。
オレイン酸2-エチルヘキシルを製造した後、反応物を精製してもよい。
オレイン酸エステルを有する植物油を2-エチルヘキサノールでエステル交換し、反応物を精製した場合、得られた精製物は、オレイン酸2-エチルヘキシルを少なくとも含有すればよい。精製物は、原料である植物油に由来するグリセリンやグリセリンエステル、未反応の2-エチルヘキサノールを含まないことが好ましい。
【0031】
(可塑剤Xの含有量)
可塑剤Xの含有量は、本発明の効果がより優れるという観点から、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、5~100質量部であることが好ましく、5質量部以上20質量部未満がより好ましい。
【0032】
可塑剤Xを原料ゴム(ジエン系ゴム)に後添加する場合、ジエン系ゴム100質量部に対する可塑剤Xの添加量を、上述の可塑剤Xの含有量と同様にできる。
【0033】
(充填剤)
本発明のゴム組成物は、本発明の効果がより優れる理由から、更に、充填剤を含有することが好ましく、カーボンブラック及び白色充填剤からなる群より選択される少なくとも1種の充填剤を含有することがより好ましく、カーボンブラック及び白色充填剤の両方を含有することが更に好ましい。
【0034】
・カーボンブラック
上記カーボンブラックは特に限定されず、例えば、SAF-HS、SAF、ISAF-HS、ISAF、ISAF-LS、IISAF-HS、HAF-HS、HAF、HAF-LS、FEF、GPF、SRFのような各種グレードのものを使用することができる。
上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、50~200m2/gであることが好ましく、70~150m2/gであることがより好ましい。
窒素吸着比表面積(N2SA)は、カーボンブラック表面への窒素吸着量をJIS K6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」にしたがって測定できる。
【0035】
・白色充填剤
上記白色充填剤は特に限定されないが、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウム等が挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、シリカを含むことが好ましい。
【0036】
上記シリカは特に限定されないが、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、湿式シリカであることが好ましい。
【0037】
上記シリカのセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)吸着比表面積は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、100~400m2/gであることが好ましく、150~300m2/gであることがより好ましい。
CTAB吸着比表面積は、シリカ表面へのCTAB吸着量をJIS K6217-3:2001「第3部:比表面積の求め方-CTAB吸着法」にしたがって測定できる。
【0038】
・充填剤の含有量
本発明のゴム組成物が充填剤を更に含有する場合、充填剤の含有量は、本発明の効果がより優れる理由から、上述したジエン系ゴム100質量部に対して、5~100質量部であることが好ましい。
【0039】
本発明のゴム組成物がカーボンブラックを更に含有する場合、カーボンブラックの含有量は、本発明の効果がより優れる理由から、上述したジエン系ゴム100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましい。
【0040】
本発明のゴム組成物が白色充填剤(特に、シリカ)を更に含有する場合、白色充填剤の含有量は、本発明の効果がより優れる理由から、上述したジエン系ゴム100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましい。
【0041】
(任意成分)
本発明のゴム組成物は、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲で更に他の成分(任意成分)を含有することができる。
上記任意成分としては、例えば、可塑剤X以外の可塑剤、テルペン樹脂(例えば、芳香族変性テルペン樹脂)、熱硬化性樹脂、熱膨張性マイクロカプセル、加工助剤、老化防止剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、加硫促進剤、加硫剤(例えば、硫黄)などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤などが挙げられる。
【0042】
(シランカップリング剤)
本発明のゴム組成物は、本発明の効果がより優れる理由から、シランカップリング剤を更に含有することが好ましい。シランカップリング剤は、加水分解性基および有機官能基を有するシラン化合物であれば特に限定されない。
上記シラン化合物において、加水分解性基は、シラン化合物が有するケイ素原子に結合することができる。
上記加水分解性基は特に限定されないが、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、アルコキシ基であることが好ましい。加水分解性基がアルコキシ基である場合、アルコキシ基の炭素数は、本発明の効果がより優れる理由から、1~16であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
【0043】
上記有機官能基は特に限定されないが、有機化合物と化学結合を形成し得る基であることが好ましく、例えば、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基、スルフィド基(特に、ポリスルフィド基(-S-:nは2以上の整数))、メルカプト基、ブロックメルカプト基(保護メルカプト基)(例えば、オクタノイルチオ基)などが挙げられ、なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、スルフィド基(特に、ジスルフィド基、テトラスルフィド基)、メルカプト基、ブロックメルカプト基が好ましい。
シランカップリング剤において、加水分解性基と有機官能基とは連結基を介して結合することができる。上記連結基は特に制限されない。
シランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
シランカップリング剤は、本発明の効果がより優れる理由から、硫黄含有シランカップリング剤を含むことが好ましい。
【0045】
シランカップリング剤の具体例としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル-メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル-メタクリレート-モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシランのような硫黄含有シランカップリング剤が挙げられる。
【0046】
本発明のゴム組成物がシランカップリング剤を更に含有する場合において、シランカップリング剤の含有量は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、上述した充填剤(特にシリカ)の含有量に対して2~20質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。
【0047】
(タイヤ用ゴム組成物の調製方法)
本発明のゴム組成物の製造方法は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混合する方法などが挙げられる。本発明のゴム組成物が硫黄又は加硫促進剤を含有する場合は、硫黄及び加硫促進剤以外の成分を先に高温(好ましくは100~155℃)で混合し、冷却してから、硫黄又は加硫促進剤を更に混合することが好ましい。
本発明のゴム組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0048】
〔用途〕
本発明のゴム組成物は、加硫ゴムとしたときの破断強度等が優れるため、タイヤ(特にタイヤトレッド)に有用である。
【実施例
【0049】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
【0050】
<ゴム組成物の製造>
下記表1の各成分を同表に示す組成(質量部)で用いて、これらを撹拌機で混合し、各ゴム組成物を製造した。
【0051】
<評価>
上記のとおり製造された各ゴム組成物を用いて以下の評価を行った。結果を表1に示す。
[加硫ゴムシートの作製]
上記のとおり製造された各ゴム組成物を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、160℃で20分間プレス加硫して、加硫ゴムシートを作製した。
【0052】
[破断強度]
・破断強度の測定
上記のように作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6251:2010に準拠し、JIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度100℃、引張り速度500mm/分の条件下で破断強度を測定した。
そして、破断強度の結果を、表1(その1)では比較例3の破断強度を100とする指数で表した。表1(その2)では比較例7の破断強度を100とする指数で表した。
・破断強度の評価基準
本発明において、上記指数が100を超えた場合、破断強度が優れると評価した。また、上記指数が100より大きいほど破断強度がより優れる。
一方、上記指数が100以下であった場合、破断強度が悪いと評価した。
【0053】
[転がり抵抗性]
・tanδ(60℃)の測定
上記のように作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6394:2007に準拠し、温度60℃の条件下の損失正接を測定した。
上記tanδ(60℃)のとおり得られた結果を、表1(その1)では比較例3のtanδ(60℃)の逆数を100とする指数で表した。表1(その2)では比較例7のtanδ(60℃)の逆数を100とする指数で表した。
・転がり抵抗性の評価基準
本発明において、上記指数が100を超えた場合、転がり抵抗が低く、転がり抵抗性が優れると評価した。また、上記指数が100より大きいほど、転がり抵抗がより低く、転がり抵抗性がより優れる。
一方、上記指数が100以下であった場合、転がり抵抗が大きく、転がり抵抗性が悪いと評価した。
【0054】
[耐摩耗性]
・摩耗体積の測定
上記のように作製した加硫ゴムシートについて、岩本製作所(株)製のランボーン摩耗試験機を用い、試験片表面速度:毎分80m、荷重5kg(49N)、スリップ率25%、時間4分、打粉剤落下量毎分20g、23℃の条件にて測定し、試験開始から1分間の摩耗体積を測定した。
上記のとおり得られた結果を、表1(その1)では比較例3の摩耗体積の逆数を100とする指数で表した。表1(その2)では比較例7の摩耗体積の逆数を100とする指数で表した。
・耐摩耗性の評価基準
本発明において、上記指数が100を超えた場合、摩耗体積が少なく、耐摩耗性が優れると評価した。また、上記指数が100より大きいほど、摩耗体積がより少なく、耐摩耗性がより優れる。
一方、上記指数が100以下であった場合、摩耗体積が多く、耐摩耗性が悪いと評価した。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
表1に示した各成分の詳細は以下のとおりである。可塑剤の詳細を表2に示す。
(ジエン系ゴム)
・NR:未変性の天然ゴム。
・SBR:エポキシ基で変性されたスチレンブタジエンゴム。
・BR:未変性のブタジエンゴム。
【0058】
・カーボンブラック:Cabot製N339
・シリカ:Solvay製ZEOSIL1165MP(CTAB吸着比表面積:159m2/g)
【0059】
【表3】
【0060】
・老化防止剤:EASTMAN製6PPD
・シランカップリング剤:Si69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックデグッサ社製)
・亜鉛華:酸化亜鉛。正同化学製酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日本油脂製ビーズステアリン酸YR
・加硫促進剤:三新化学製サンセラーNS-G
・硫黄:四国化成工業製ミュークロンOT-20
【0061】
表1(その1)及び(その2)において、指標II及び特定のガラス転移温度を満たさない比較可塑剤1を含有する比較例1、5は、破断強度が悪かった。
指標I及び特定のガラス転移温度を満たさない比較可塑剤2、3を含有する比較例2、3、6、7は、破断強度及び耐摩耗性が悪かった。比較例3、7は、転がり抵抗性も悪かった。
特定のガラス転移温度を満たさない比較可塑剤4を含有する比較例4、8は、破断強度が悪かった。比較例4は、転がり抵抗性、耐摩耗性も悪かった。
【0062】
一方、本発明ゴム組成物は、破断強度、転がり抵抗性、耐摩耗性が優れた。