(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】被膜形成用組成物及び被膜並びに薬液
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240221BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240221BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240221BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/65
C09K3/18 102
(21)【出願番号】P 2022159798
(22)【出願日】2022-10-03
【審査請求日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2021166391
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 僚
(72)【発明者】
【氏名】賀川 みちる
(72)【発明者】
【氏名】山口 央基
(72)【発明者】
【氏名】久保田 浩治
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-075715(JP,A)
【文献】特開2017-100778(JP,A)
【文献】特開2002-051673(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204258(WO,A1)
【文献】特開2018-108692(JP,A)
【文献】国際公開第2021/157449(WO,A1)
【文献】特開2021-080452(JP,A)
【文献】国際公開第2018/150455(WO,A1)
【文献】特開2016-216585(JP,A)
【文献】特開2021-000820(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113429867(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機微粒子と、重合性成分と、撥水性成分とを含み、
前記無機微粒子は、平均粒子径が1nm以上100nm以下である第1の無機微粒子、及び、平均粒子径が500nm以上5μm以下である第2の無機微粒子を含み、
前記第1の無機微粒子の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記重合性成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、
9~25質量部であり、
前記第2の無機微粒子の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記重合性成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、12~27質量部であり、
前記第1の無機微粒子及び前記第2の無機微粒子の総含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記重合性成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、
25質量部以上であり、
前記撥水性成分は、下記一般式(1):
【化1】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX
1X
2基(但し、X
1およびX
2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、もしくは炭素数1~20の直鎖状または分岐状アルキル基であり、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CH
2CH
2N(R
1)SO
2-基(但し、R
1は炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CH
2CH(OY
1)CH
2-基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CH
2)
nSO
2-基(nは1~10であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)であり、R
aは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、分子量300~50000のポリシロキサン、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基である。)で表される化合物に基づく構造単位を少なくとも有する重合体である、被膜形成用組成物。
【請求項2】
前記第2の無機微粒子の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記重合性成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、15~27質量部であり、前記式(1)中、R
aは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基である、請求項1に記載の被膜形成用組成物。
【請求項3】
前記撥水性成分の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記重合性成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、0.1~30質量部である、請求項1又は2に記載の被膜形成用組成物。
【請求項4】
前記重合性成分は、架橋性官能基を有する重合体及び硬化剤である、請求項1又は2に記載の被膜形成用組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の被膜形成用組成物の硬化物を含む、被膜。
【請求項6】
無機微粒子と、バインダー成分と、撥水性成分とを含み、
前記無機微粒子は、平均粒子径が1nm以上100nm以下である第1の無機微粒子、及び、平均粒子径が500nm以上5μm以下である第2の無機微粒子を含み、
前記第1の無機微粒子の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、
9~25質量部であり、
前記第2の無機微粒子の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、12~27質量部であり、
前記第1の無機微粒子及び前記第2の無機微粒子の総含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、
25質量部以上であり、
前記撥水性成分は、下記一般式(1):
【化2】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX
1X
2基(但し、X
1およびX
2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、もしくは炭素数1~20の直鎖状または分岐状アルキル基であり、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CH
2CH
2N(R
1)SO
2-基(但し、R
1は炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CH
2CH(OY
1)CH
2-基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CH
2)
nSO
2-基(nは1~10であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)であり、R
aは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、分子量300~50000のポリシロキサン、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基である。)で表される化合物に基づく構造単位を少なくとも有する重合体である、被膜。
【請求項7】
前記第2の無機微粒子の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、15~27質量部であり、
前記式(1)中、R
aは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基である、請求項6に記載の被膜。
【請求項8】
前記撥水性成分の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、0.1~30質量部である、請求項6又は7に記載の被膜。
【請求項9】
請求項6に記載の被膜であって、
前記無機微粒子は、平均粒子径が1nm以上100nm以下である第1の無機微粒子、及び、平均粒子径が500nm以上5μm以下である第2の無機微粒子を含み、
水の接触角が、150°以上であり、
紙製ウエスを荷重100g/cm
2で少なくとも50回塗擦した後の水の接触角が、150°以上である、被膜。
【請求項10】
下記着雪試験により測定される着雪開始時間が5分以上である、請求項5に記載の被膜。<着雪試験>
1~2℃の範囲で恒温に保った試験室内の試験台に、着雪面が地面に対して鉛直になるように被膜を設置し、該被膜に対し、風速10m/sec、衝突量110kg/m
2/hの条件下で、予め作製した人工雪を吹きつける。この吹きつけは、被膜表面に人口雪が衝突するようにする。この吹きつけ開始時から、サンプルの吹き付け面全面を動画撮影して試験終了後に得られた映像から被膜表面の着雪の有無を目視で確認し、吹きつけ開始から着雪までの時間を着雪開始時間(無着雪時間)として計測する。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の被膜形成用組成物を含む、薬液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被膜形成用組成物及び被膜並びに薬液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超撥水性を対象物の表面に付与しうる被膜が種々提案されている。例えば、特許文献1には、重合性基を有する微粒子及び分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物を用いることで、超撥水性及び耐摩耗性を両立した超撥水性被膜を形成できることが開示されている。特許文献2には、フッ素原子を含む被膜であって、被膜の諸性能を適切に制御することで、超撥水性及び耐摩耗性を両立した超撥水性被膜を形成できる技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献3には、フルオロオレフィン、パーフルオロアルキル基含有単量体、水酸基含有不飽和単量体を含むフッ素系共重合体と、シリカ微粉末を含む、被膜形成用の組成物が開示されている。斯かる組成物によれば、撥水撥油性や離型性、剥離性、保存安定性に優れる被膜を形成できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/056663号
【文献】国際公開第2017/179678号
【文献】特開2011-84745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、優れた撥水性を有し、耐摩耗性にも優れる被膜を形成することができる被膜形成用組成物及び被膜並びに薬液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本開示は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
無機微粒子と、重合性成分と、撥水性成分とを含み、
前記無機微粒子は、平均粒子径が1nm以上100nm以下である第1の無機微粒子、及び、平均粒子径が500nm以上5μm以下である第2の無機微粒子を含み、
前記第1の無機微粒子の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記重合性成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、3~25質量部であり、
前記第2の無機微粒子の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記重合性成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、12~27質量部であり、
前記第1の無機微粒子及び前記第2の無機微粒子の総含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記重合性成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、20質量部以上であり、
前記撥水性成分は、下記一般式(1):
【0007】
【0008】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX1X2基(但し、X1およびX2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、もしくは炭素数1~20の直鎖状または分岐状アルキル基であり、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CH2CH2N(R1)SO2-基(但し、R1は炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がRaに、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CH2CH(OY1)CH2-基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基であり、式の右端がRaに、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CH2)nSO2-基(nは1~10であり、式の右端がRaに、左端がOにそれぞれ結合している。)であり、Raは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、分子量300~50000のポリシロキサン、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基である。)で表される化合物に基づく構造単位を少なくとも有する重合体である、被膜形成用組成物。
項2
前記第2の無機微粒子の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記重合性成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、15~27質量部であり、
前記式(1)中、Raは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基である、項1に記載の被膜形成用組成物。
項3
前記撥水性成分の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記重合性成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、0.1~30質量部である、項1又は2に記載の被膜形成用組成物。
項4
前記重合性成分は、架橋性官能基を有する重合体及び硬化剤である、項1~3のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物。
項5
項1~4のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物の硬化物を含む、被膜。
項6
無機微粒子と、バインダー成分と、撥水性成分とを含み、
前記無機微粒子は、平均粒子径が1nm以上100nm以下である第1の無機微粒子、及び、平均粒子径が500nm以上5μm以下である第2の無機微粒子を含み、
前記第1の無機微粒子の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、3~25質量部であり、
前記第2の無機微粒子の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、12~27質量部であり、
前記第1の無機微粒子及び前記第2の無機微粒子の総含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、20質量部以上であり、
前記撥水性成分は、下記一般式(1):
【0009】
【0010】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX1X2基(但し、X1およびX2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、もしくは炭素数1~20の直鎖状または分岐状アルキル基であり、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CH2CH2N(R1)SO2-基(但し、R1は炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がRaに、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CH2CH(OY1)CH2-基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基であり、式の右端がRaに、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CH2)nSO2-基(nは1~10であり、式の右端がRaに、左端がOにそれぞれ結合している。)であり、Raは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、分子量300~50000のポリシロキサン、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基である。)で表される化合物に基づく構造単位を少なくとも有する重合体である、被膜。
項7
前記第2の無機微粒子の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、15~27質量部であり、
前記式(1)中、Raは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基である、項6に記載の被膜。
項8
前記撥水性成分の含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、0.1~30質量部である、項6又は7に記載の被膜。
項9
無機微粒子を含む被膜において、
前記無機微粒子は、平均粒子径が1nm以上100nm以下である第1の無機微粒子、及び、平均粒子径が500nm以上5μm以下である第2の無機微粒子を含み、
水の接触角が、150°以上であり、
紙製ウエスを荷重100g/cm2で少なくとも50回塗擦した後の水の接触角が、150°以上である、被膜。
項10
下記着雪試験により測定される着雪開始時間が5分以上である、請求項5~9のいずれか1項に記載の被膜。
<着雪試験>
1~2℃の範囲で恒温に保った試験室内の試験台に、着雪面が地面に対して鉛直になるように被膜を設置し、該被膜に対し、風速10m/sec、衝突量110kg/m2/hの条件下で、予め作製した人工雪を吹きつける。この吹きつけは、被膜表面に人口雪が衝突するようにする。この吹きつけ開始時から、サンプルの吹き付け面全面を動画撮影して試験終了後に得られた映像から被膜表面の着雪の有無を目視で確認し、吹きつけ開始から着雪までの時間を着雪開始時間(無着雪時間)として計測する。
項11
項1~4のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物を含む、薬液。
【発明の効果】
【0011】
本開示の被膜形成用組成物によれば、優れた撥水性を有し、耐摩耗性にも優れる被膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
従来の超撥水性被膜は、優れた撥水性を有しているものの、耐摩耗性が十分でないことが多く、結果として、長期的に使用し続けると、摩耗により被膜が劣化し、撥水性が低下する等の問題を抱えていた。この観点から、超撥水性被膜においては、高い撥水性を維持しつつ、耐摩耗性を向上させることも求められていた。
【0013】
本発明者らは、かかる事情に鑑み、優れた撥水性を有し、耐摩耗性にも優れる被膜を形成することを目的として鋭意研究を重ねた。その結果、特定の無機微粒子、重合性成分及び撥水性成分を組み合わせ、特に、無機微粒子として平均粒子径が異なる2種類の微粒子を併用することで、高い撥水性を維持しつつ、耐摩耗性が向上する被膜を形成できることがわかり、上記目的を達成できることを見出した。加えて、斯かる被膜は、優れた着雪防止性能をも有し得ることを見出した。以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0015】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を夫々最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。
【0016】
1.被膜形成用組成物
本開示の被膜形成用組成物は、少なくとも無機微粒子と、重合性成分と、撥水性成分とを含む。まず、これら各成分について詳述する。
【0017】
(無機微粒子)
無機微粒子は、平均粒子径が1nm以上100nm以下である第1の無機微粒子、及び、平均粒子径が500nm以上5μm以下である第2の無機微粒子を含む。本開示の被膜形成用組成物が大きさの異なる2種の無機微粒子を含むことによって、第1の無機微粒子が被膜に埋没することなく、表面に特有の微細な凹凸構造を形成することができ、これにより、撥水性、付着防止性が顕著に向上する。また、本開示の被膜形成用組成物が無機微粒子を含むことで被膜の強度が向上し、さらに摩耗時に第1の無機微粒子の滑落を第2の無機微粒子が防止するので、被膜の耐摩耗性が向上する。
【0018】
本開示の被膜形成用組成物において、第1の無機微粒子の平均粒子径は以下の方法で計測することができる。まず、被膜形成用組成物の揮発分成分を加熱処理(300℃、3時間)により除去する。これにより得られた微粒子を走査型電子顕微鏡によって直接観察し、撮影画像中の微粒子を200個選択する。ただし、この選択にあたって、微粒子の円相当径が450nm以上の微粒子は選択しないようにする。選択した200個の微粒子の円相当径の平均値を算出し、この値を被膜形成用組成物中の第1の無機微粒子の平均粒子径とする。
【0019】
本開示の被膜形成用組成物において、第2の無機微粒子の平均粒子径は以下の方法で計測することができる。まず、被膜形成用組成物の揮発分成分を加熱処理(300℃、3時間)により除去する。これにより得られた微粒子を走査型電子顕微鏡によって直接観察し、撮影画像中の微粒子を200個選択する。ただし、この選択にあたって、微粒子の円相当径が450nm以上の微粒子を選択するようにする。選択した200個の微粒子の円相当径の平均値を算出し、この値を被膜形成用組成物中の第1の無機微粒子の平均粒子径とする。
【0020】
第1の無機微粒子は、平均粒子径が1nm未満となると、凝集が起こりやすくなり、被膜形成用組成物の被膜の撥水性及び耐摩耗性が低下しやすい。また、第1の無機微粒子は、平均粒子径が100nmを超えると、第2の無機微粒子の平均粒子径との差が小さくなり、異なる平均粒子径を併用することの効果を十分に得られず、この結果、被膜形成用組成物の被膜の耐摩耗性が向上しにくくなる。
【0021】
第1の無機微粒子の平均粒子径は、好ましくは2nm以上、より好ましくは3nm以上、さらに好ましくは4nm以上、特に好ましくは5nm以上である。また、第1の無機微粒子の平均粒子径は、好ましくは80nm以下、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。
【0022】
第2の無機微粒子は、平均粒子径が500nm未満となると、第1の無機微粒子の平均粒子径との差が小さくなり、異なる平均粒子径を併用することの効果を十分に得られず、この結果、被膜形成用組成物の被膜の耐摩耗性が向上しにくくなり、また、着雪防止性能も悪化する。また、第2の無機微粒子は、平均粒子径が5μmを超えると、高い撥水性が得られず、また、粒子が被膜から脱落しやすくなって、被膜形成用組成物の被膜の耐摩耗性が向上しにくくなる。
【0023】
第2の無機微粒子の平均粒子径は、好ましくは800nm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上、特に好ましくは2μm以上である。また、第2の無機微粒子の平均粒子径は、好ましくは4.5μm以下、より好ましくは4μm以下、さらに好ましくは3.5μm以下、特に好ましくは3μm以下である。
【0024】
第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子は、前述の平均粒子径を満たす限り、その種類は特に限定されず、例えば、公知の金属酸化物の微粒子を広く例示することができる。具体的に金属酸化物としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア等を挙げることができ、被膜の硬度及び耐水性が高まりやすいという点で、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子はシリカであることが好ましい。第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の種類は同一であってもよいし、異なっていてもよく、好ましくは、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子が同一であり、より好ましくは、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子がいずれもシリカである。
【0025】
第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の比表面積は特に限定されず、例えば、得られる被膜の硬度が向上しやすい点で、30~700m2/gであることが好ましく、80~330m2/gであることがさらに好ましい。本開示の被膜形成用組成物において、前記微粒子の比表面積は、BET法によって計測された値(いわゆるBET比表面積)を意味する。
【0026】
第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子は、表面が親水性であってもよいし、疎水性であってもよい。第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子は、親水性及び疎水性の混合物であってもよい。第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子は濡れ性を制御すべく、表面処理剤で処理されていてもよい。第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子は、表面にラジカル重合性の反応基(例えば、アクリロイル基等の重合性二重結合)を有していないことが好ましく、即ち、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の表面には重合体が共有結合的に結合しないことが好ましい。これにより、被膜の耐摩耗性が向上し、特には着雪防止性能も高まりやすい。
【0027】
第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の形状も特に限定されず、例えば、球状、楕円球状等を挙げることができ、また、異形状等の不定形粒子であってもよい。第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子は、凝集体を形成することもできる。凝集体は球体及び非球体のいずれでもよいし、鎖状的に形成されていてもよい。
【0028】
本開示の被膜形成用組成物に含まれる無機微粒子は、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子を80質量%以上含むことができ、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。本開示の被膜形成用組成物に含まれる無機微粒子は、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子のみであってもよく、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子のみであることが特に好ましい。
【0029】
本開示の被膜形成用組成物において、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の両者の含有比率は特に制限されない。本開示の被膜形成用組成物が、優れた撥水性を有し、かつ、耐摩耗性及び着雪防止性能に優れる被膜を形成しやすい点で、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の総質量に対し、第1の無機微粒子が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の総質量に対し、第1の無機微粒子が90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。
【0030】
(撥水性成分)
本開示の被膜形成用組成物において、撥水性成分は、被膜が形成されたときに被膜に撥水性を付与することができる成分であって、下記一般式(1)で表される化合物に基づく構成単位を有する重合体である。
【0031】
【0032】
前記式(1)中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX1X2基(但し、X1およびX2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、もしくは炭素数1~20の直鎖状または分岐状アルキル基を示す。Xが炭素数3以上のアルキル基又はフルオロアルキル基である場合、これらは環状又は非環状のいずれであってもよい。また、Xがアルキル基の場合、その炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~2である。また、フルオロアルキル基の場合、その炭素数は、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、さらに好ましくは1~2である。
【0033】
前記式(1)中、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CH2CH2N(R1)SO2-基(但し、R1は炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がRaに、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CH2CH(OY1)CH2-基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基であり、式の右端がRaに、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CH2)nSO2-基(nは1~10であり、式の右端がRaに、左端がOにそれぞれ結合している。)を示す。「直接結合」とは、前記式(1)において、Yの両端のRaとOとが直接結合していることを意味し、つまりは、Yは元素を含まないことを意味する。Yが炭素数1~10の炭化水素基である場合、具体的には、炭素数1~10のアルキレン基であり、好ましくは炭素数1~6のアルキレン基、さらに好ましくは炭素数1~2のアルキレン基である。
【0034】
前記式(1)中、Raは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、分子量300~50000のポリシロキサン、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基を示す。フルオロアルキル基は、例えば、パーフルオロアルキル基であることが好ましい。ポリシロキサンは、ポリジメチルシロキサンであることが好ましく、R2-(Si(CH3)2O)n-であることがより好ましい。R2-(Si(CH3)2O)n-において、R2は炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、炭素数1~12が好ましく、炭素数1~6がより好ましい。R2-(Si(CH3)2O)n-において、nは3~680であり、nは10~500が好ましく、nは100~400がより好ましい。フルオロポリエーテル基は、例えば、パーオロポリエーテル基であることが好ましい。
【0035】
式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、前述の特許文献1に開示されているアクリル酸エステルを広く挙げることができる。
【0036】
中でも、形成される被膜の撥水性及び撥油性に優れ、耐摩耗性も向上しやすいという観点から、式(1)で表される化合物は、Xが水素原子、塩素原子、フッ素原子、又はメチル基であり、Yが直接結合又は炭素数1~10のアルキレン基(好ましくは炭素数1~6のアルキレン基、さらに好ましくは炭素数1~2のアルキレン基)であり、Raが炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、分子量300~50000のポリシロキサン、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基である組み合わせを挙げることができる。より好ましい式(1)で表される化合物は、Xが水素原子又はメチル基、Yが炭素数1~2のアルキレン基、Raが炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基若しくは分子量300~50000のポリシロキサンである。また、Xが水素原子又はメチル基、Yが直接結合、Raが炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のアルキル基若しくは分子量300~50000のポリシロキサンである組み合わせも好ましい。
【0037】
式(1)で表される化合物の具体的な化合物として、フルオロアルキル基の炭素数が1~6のフルオロアルキル(メタ)アクリレート及びアルキル基の炭素数が1~20(好ましくは1~18)のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、式(1)で表される化合物は、市販品から入手することもできる。例えば、式(1)で表される化合物において、Raが分子量300~50000のポリシロキサンである化合物としては、JNC社製の商品名「サイラプレーン(登録商標)FM-0711」、「サイラプレーン(登録商標)FM-0721」、「サイラプレーン(登録商標)FM-0725」、「サイラプレーン(登録商標)FM-0701T」を挙げることができる。
【0038】
撥水性成分は、式(1)で表される化合物の他、エポキシ部位を有する(メタ)アクリレートに基づく構成単位又は、アミド結合を有する(メタ)アクリレート(例えば、前記式(1)のYがアミド結合を有する官能基に置き換えられた化合物)に基づく構成単位を含むことができる。例えば、エポキシ部位を有する(メタ)アクリレートとしてはグリシジル(メタ)アクリレートを挙げることができ、アミド結合を有する(メタ)アクリレートとしてはステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0039】
また、式(1)で表される化合物に基づく構造単位を少なくとも有する重合体は、式(1)で表される化合物以外に基づく構成単位を含むことができる。斯かる構成単位として、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに基づく構成単位、エポキシ部位を有する(メタ)アクリレートに基づく構成単位、アミド結合を有する(メタ)アクリレート(例えば、前記式(1)のYがアミド結合を有する官能基に置き換えられた化合物)に基づく構成単位、塩素含有ビニルモノマーに基づく構成単位、塩素含有ビニリデンモノマーに基づく構成単位、アクリルアミドモノマーに基づく構成単位等のいずれか1種以上を挙げることができる。例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに基づく構成単位としてはとしては、2-ヒドロキシエチルメタアクリレート等を挙げることができ、エポキシ部位を有する(メタ)アクリレートとしてはグリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、アミド結合を有する(メタ)アクリレートとしてはステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、塩素含有ビニルモノマーとしては塩化ビニル等を挙げることができ、塩素含有ビニリデンモノマーとしては塩化ビニリデン等を挙げることができ、アクリルアミドモノマーとしてはN-メチロールアクリルアミドを挙げることができる。
【0040】
式(1)で表される化合物に基づく構造単位を少なくとも有する重合体には、さらに他の構造単位が含まれていてもよい。他の構造単位を形成するための単量体としては、種々の単官能単量体及び/又は多官能単量体の1種以上を挙げることができる。斯かる単量体は、エチレン性不飽和二重結合を有するものであって、酸基含有単量体、水酸基含有単量体、塩素含有単量体、窒素含有単量体、アルキレングリコール基含有単量体、アルコキシアルキル基含有単量体、カルボニル基含有単量体、シラン基含有単量体、環構造含有単量体などが挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0041】
酸基含有単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノブチルエステル、ビニル安息香酸などが挙げられる。
【0042】
水酸基含有単量体としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0043】
塩素含有単量体としては、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどが挙げられる。
【0044】
窒素含有単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N-モノメチル(メタ)アクリルアミド、N-モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレート、N-ビニルピロリドン、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0045】
アルキレングリコール基含有単量体としては、エチレングリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
アルコキシアルキル基含有単量体としては、例えば、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシブチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリプロポキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
カルボニル基含有単量体としては、アクロレイン、ホウミルスチロール、ビニルエチルケトン、(メタ)アクリルオキシアルキルプロペナール、アセトニル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートアセチルアセテート、ブタンジオール-1,4-アクリレートアセチルアセテート、2-(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0046】
シラン基含有単量体としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-スチリルエチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヒドロキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルヒドロキシシランなどが挙げられる。
【0047】
環構造含有単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、α-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアリルエーテル、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、ナフチルメチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、tert-メチルスチレン、クロロスチレン、(メタ)アクリロイルアジリジン、(メタ)アクリル酸2-アジリジニルエチル、ビニルトルエン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイル-1-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-シアノ-4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-(メタ)アクリロイル-4-(メタ)アクリロイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-クロトノイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルアミノ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、4-シアノ-4-(メタ)アクリロイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-クロトノイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-(メタ)アクリロイル-4-シアノ-4-(メタ)アクリロイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-クロトノイル-4-クロトノイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンなどが挙げられる。
【0048】
多官能単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの炭素数1~10の多価アルコールのジ(メタ)アクリレート;エチレンオキシドの付加モル数が2~50のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシドの付加モル数が2~50のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの炭素数2~4のアルキレンオキシド基の付加モル数が2~50であるアルキルジ(メタ)アクリレート;エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノヒドロキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレートなどの炭素数1~10の多価アルコールのトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどの炭素数1~10の多価アルコールのテトラ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(モノヒドロキシ)ペンタ(メタ)アクリレートなどの炭素数1~10の多価アルコールのペンタ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの炭素数1~10の多価アルコールのヘキサ(メタ)アクリレート;ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2-(2’-ビニルオキシエトキシエチル)(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリレート;ウレタン(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0049】
式(1)で表される化合物に基づく構造単位を少なくとも有する重合体は、撥水性成分の全質量に対して、式(1)で表される化合物に基づく構造単位を40質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましい。式(1)で表される化合物に基づく構造単位を少なくとも有する重合体は、式(1)で表される化合物に基づく構造単位のみで形成することもできる。撥水性成分は式(1)で表される化合物に基づく構造単位を1種または2種以上を含むことができる。
【0050】
撥水性成分は、市販品から入手することもでき、例えば、ダイキン工業社製の商品名「ユニダイン(登録商標)TGシリーズ」、3M社製の商品名「スコッチガード(登録商標)」、東亞合成社製の商品名「サイマック(登録商標)US-270」、「サイマック(登録商標)US-350」、「サイマック(登録商標)US-352」、「サイマック(登録商標)US-380」、日本触媒社製の商品名「SG-204」を挙げることができる。
【0051】
(重合性成分)
本開示の被膜形成用組成物において、重合性成分は、被膜が形成されたときの後記バインダー成分となる成分であり、バインダー成分前駆体と呼ぶことができる。つまり、重合性成分は硬化すること(例えば、重合反応又は硬化反応)ができる成分であって、硬化後は被膜のバインダー成分を形成する成分である。ただし、重合性成分は、前記式(1)で表される化合物の重合体を除くものである。
【0052】
重合性成分は、バインダー成分を形成することができる限り、その種類は特に限定されず、公知の材料を広く使用することができる。例えば、被膜形成用組成物に含まれる重合性成分は、熱を与えることで硬化反応が進行して硬化物を与えることができる成分、あるいは、UV等の光照射によって硬化物を与えることができる成分である。熱を与えることで硬化反応が進行して硬化物を与えることができる成分を「熱硬化性樹脂成分」と、光照射によって硬化物を与えることができる成分を「光硬化性樹脂成分」と表記する。重合性成分は、熱硬化性樹脂成分及び光硬化性樹脂成分の少なくとも一方であることが好ましい。
【0053】
熱硬化性樹脂成分の種類は特に限定されず、例えば、公知の重合体と、必要に応じて含まれる硬化剤との混合物とすることができる。斯かる重合体は、例えば、架橋性官能基を有することが好ましく、この場合、例えば、熱硬化によって架橋反応が進行しやすい。この観点から、重合性成分(熱硬化性樹脂成分)は、架橋性官能基を有する重合体及び硬化剤であることが好ましい。以下、架橋性官能基を有する重合体を「架橋性重合体」と略記する。
【0054】
架橋性重合体は、フッ素原子(フルオロアルキル基)を有していてもよいし、フッ素原子(フルオロアルキル基)を有していなくてもよい。ただし、被膜の撥水性が向上しやすいという観点から、架橋性重合体は、フルオロアルキル基を有していることが好ましい。
【0055】
フッ素原子を有していない架橋性重合体は、市販品から入手することができ、例えば、日本触媒社製の商品名「ハルスハイブリッド・ユーダブル(登録商標)UWS-2710」、「ハルスハイブリッド・ユーダブル(登録商標)UWS-2740」、「ハルスハイブリッド・ユーダブル(登録商標)UWS-2841」、「ハルスハイブリッド・ユーダブル(登録商標)UWS-2818」、「ハルスハイブリッド・ユーダブル(登録商標)UWS-2816」、「ハルスハイブリッド・ユーダブル(登録商標)UWH-4818」、「ハルスハイブリッドUV-G(登録商標)UV-G12」、「ハルスハイブリッドUV-G(登録商標)UV-G13」、「ハルスハイブリッドUV-G(登録商標)UV-G101」、「ハルスハイブリッドUV-G(登録商標)UV-G301」、「ハルスハイブリッドUV-G(登録商標)UV-G137」、「アクリセット(登録商標)ATH-2060」、「アクリセット(登録商標)ATH-2070」、「アクリセット(登録商標)ATH-2077CR」、「アクリセット(登録商標)ATH-2088CR」を挙げることができる。
【0056】
架橋性重合体において、架橋性官能基は、例えば、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基等が好ましい。この場合において、斯かる化合物はさらに、フルオロアルキル基を有していることが好ましい。架橋性官能基は、例えば、架橋性重合体の側鎖に共有結合していることが好ましい。
【0057】
架橋性重合体がフルオロアルキル基を有している場合、架橋性重合体としては、種々の架橋性官能基を有する含フッ素重合体を挙げることができ、その一例として、
(a)テトラフルオロエチレン構造単位及び/又はクロロトリフルオロエチレン構造単位、
(b)水酸基とカルボキシル基とを含まない非芳香族系のビニルエステルモノマー構造単位、
(c)芳香族基とカルボキシル基とを含まない水酸基含有ビニルモノマー構造単位、
(e)水酸基と芳香族基とを含まないカルボキシル基含有モノマー構造単位および
(f)その他モノマー構造単位(ただし、(d)水酸基とカルボキシル基とを含まない芳香族基含有モノマー構造単位を含まない)
からなる重合体を挙げることができる。以下、この重合体を「重合体F」と表記する。熱硬化性樹脂が重合体Fである場合、被膜の耐水性が特に向上する。
【0058】
前記(a)テトラフルオロエチレン構造単位及び/又はクロロトリフルオロエチレン構造単位の含有割合は、重合体Fの全量中、下限が20モル%、好ましくは30モル%、より好ましくは40モル%、特に好ましくは42モル%であり、上限が49モル%、好ましくは47モル%である。
【0059】
前記非芳香族系のビニルエステルモノマー構造単位(b)を与えるモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニルなどの1種または2種以上があげられる。これらのモノマーは水酸基とカルボキシル基とを含まない非芳香族系モノマーである。特に好ましい非芳香族系のビニルエステルモノマー構造単位(b)を与えるモノマーは、耐候性等に優れる点からバーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニル及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる1種である。これらのなかでも耐薬品性の点から、非芳香族系カルボン酸ビニルエステル、特にカルボン酸の炭素数が6以上のカルボン酸ビニルエステル、さらに好ましくはカルボン酸の炭素数が9以上のカルボン酸ビニルエステルが好ましい。カルボン酸ビニルエステルにおけるカルボン酸の炭素数の上限は20以下、さらには15以下が好ましい。具体例としてはバーサチック酸ビニルが最も好ましい。
【0060】
前記非芳香族系のビニルエステルモノマー構造単位(b)の含有割合は、重合体Fの全量中、下限が25モル%、好ましくは30モル%であり、上限が69.9モル%、好ましくは60モル%、より好ましくは43モル%、特に好ましくは40モル%である。
【0061】
前記水酸基含有ビニルモノマー構造単位(c)を与えるモノマーはカルボキシル基を含まない非芳香族系のモノマーであり、たとえば式(2)で表わされるヒドロキシアルキルビニルエーテル又はヒドロキシアルキルアリルエーテルが挙げられる。
CH2=CHR10 (2)
【0062】
ここで、式(2)中、R10は-OR20または-CH2OR20(ただし、R20は水酸基を有するアルキル基である。)を表す。R20としては、たとえば炭素数1~8の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基に1~3個、好ましくは1個の水酸基が結合したものである。式(2)の例としては、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、4-ヒドロキシ-2-メチルブチルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルアリルエーテル、4-ヒドロキシブチルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテルなどの1種または2種以上が挙げられる。中でも、前記水酸基含有ビニルモノマー構造単位(c)を与えるモノマーは、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテルが好ましい。
【0063】
この水酸基含有ビニルモノマー構造単位(c)の存在によって、被膜の加工性、耐衝撃性、耐汚染性を改善することができる。
【0064】
水酸基含有ビニルモノマー構造単位(c)の含有割合は、重合体Fの全量中、下限が8モル%、好ましくは10モル%であり、さらに好ましくは15モル%、上限が30モル%、好ましくは20モル%である。
【0065】
重合体Fは基本的には(a)、(b)及び(c)(ただし、各単位の内では2種以上共重合してもよい)で構成することができるが、10モル%までは他の共重合可能なモノマー単位(f)を含むことができる。他の共重合可能なモノマー構造単位(f)は、前記(a)、(b)および(c)のほか芳香族基含有モノマー構造単位(d)およびカルボキシル基含有モノマー構造単位(e)以外のモノマー構造単位である。
【0066】
他の共重合可能なモノマー構造単位(f)を与えるモノマーとしては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル;エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブテンなどの非フッ素系のオレフィン等が挙げられる。他の共重合可能なモノマー構造単位(f)が含まれる場合、その含有割合は、重合体F中、10モル%以下、好ましくは5モル%未満、さらに好ましくは4モル%以下である。
【0067】
重合体Fはさらに、(d)水酸基とカルボキシル基とを含まない芳香族基含有モノマー構造単位を含むこともできる。(d)水酸基とカルボキシル基とを含まない芳香族基含有モノマー構造単位としては、例えば、安息香酸ビニル、パラ-t-ブチル安息香酸ビニルなどの安息香酸ビニルモノマーなどの1種または2種以上が挙げられ、特にパラ-t-ブチル安息香酸ビニル、さらには安息香酸ビニルが好ましい。
【0068】
芳香族基含有モノマー構造単位(d)の含有割合は、重合体F中、下限が2モル%、好ましくは4モル%であり、上限は15モル%、好ましくは10モル%、より好ましくは8モル%である。
【0069】
重合体Fはさらに、(e)水酸基と芳香族基とを含まないカルボキシル基含有モノマー構造単位を含むこともできる。カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、桂皮酸、3-アリルオキシプロピオン酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸無水物、フマル酸、フマル酸モノエステル、フタル酸ビニル、ピロメリット酸ビニルなどの1種または2種以上が挙げられる。中でも、単独重合性の低いクロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、3-アリルオキシプロピオン酸が好ましい。
【0070】
カルボキシル基含有モノマー構造単位(e)の含有割合は、重合体F中、下限が0.1モル%、好ましくは0.4モル%であり、上限が2.0モル%、好ましくは1.5モル%である。
【0071】
重合体Fは、テトラヒドロフランを溶離液として用いるゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定する数平均分子量が、例えば、1000から1000000、好ましくは3000から50000である。示差走査熱量計(DSC)により求める重合体Fのガラス転移温度(2nd run)は、例えば、10~60℃、好ましくは20~40℃である。重合体Fの製造方法も特に限定されず、公知の製造方法を広く採用することができる。また、重合体Fは市販品等からの入手も可能である。
【0072】
重合体Fの具体例としては、ダイキン工業社製のゼッフル(登録商標)GKシリーズ、旭硝子社製のルミフロン(登録商標)LFシリーズ、DIC社製のフルオネート(登録商標)シリーズ、Arkema社製のKyner Aquatec(登録商標)やKYNAR 500 Plus等が挙げられる。
【0073】
熱硬化性樹脂成分は、架橋性重合体の他、前述のように硬化剤を含む。硬化剤は特に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂用の硬化剤として使用される化合物を広く適用することができる。特に、硬化剤は、前述の分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物であることが好ましい。
【0074】
硬化剤の具体例としては、イソシアネート系硬化剤が挙げられる。イソシアネート系硬化剤としては、例えば、イソシアネート基を有する化合物(以下、単にイソシアネート化合物と表記)が挙げられる。イソシアネート化合物は、たとえば、下記一般式(20)で表されるが挙げられる。
【0075】
【0076】
式(20)中、Z6は、少なくとも一つの末端にイソシアネート基を有する、少なくとも一つの炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよく、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよく、炭素-炭素間不飽和結合を有していてもよい、直鎖状又は分岐状の1価の炭化水素基又はカルボニル基である。R3は、少なくとも一つの炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよく、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよく、少なくとも一つの炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよく、炭素-炭素間不飽和結合を有していてもよい、分岐状又は環状の2価以上の炭化水素基又はカルボニル基である。式(20)中のoは2以上の整数である。
【0077】
R3は、好ましくは、炭素数1~20であり、より好ましくは炭素数2~15であり、さらに好ましくは炭素数3~10である。
【0078】
Z6は、好ましくは、炭素数1~20であり、より好ましくは炭素数2~15であり、さらに好ましくは炭素数3~10である。
【0079】
イソシアネート化合物は、1種で用いてもよく、又は複数を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
イソシアネート化合物としては、例えば、ポリイソシアネートを挙げることができる。本明細書において、ポリイソシアネートとは、分子内にイソシアネート基を2個以上有する化合物を意味する。イソシアネート化合物は、ジイソシアネートを三量体化することにより得られるポリイソシアネートであってもよい。かかるジイソシアネートを三量体化することにより得られるポリイソシアネートは、トリイソシアネートであり得る。ジイソシアネートの三量体であるポリイソシアネートは、これらが重合した重合体として存在してもよい。
【0081】
ジイソシアネートとしては、特に限定されないが、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等のイソシアネート基が脂肪族基に結合したジイソシアネート;トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等のイソシアネート基が芳香族基に結合したジイソシアネートが挙げられる。
【0082】
具体的なポリイソシアネートとしては、特に限定するものではないが、下記の構造を有する化合物が挙げられる。
【0083】
【0084】
これらのポリイソシアネートは重合体として存在してもよく、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート型ポリイソシアネートである場合、下記構造を有する重合体を有していてもよい。
【0085】
【0086】
好ましい実施形態において、イソシアネート化合物は、イソシアヌレート型ポリイソシアネートである。
【0087】
上記イソシアヌレート型ポリイソシアネートは、これらが重合した重合体であってもよい。イソシアヌレート型ポリイソシアネートは、イソシアヌレート環を1つのみ有する単環式化合物であってもよく、又はこの単環式化合物が重合して得られる多環式化合物であってもよい。
【0088】
二種以上のイソシアネート化合物を用いる一の態様において、イソシアヌレート環を1つのみ有する単環式化合物を含む混合物を用いることができる。
【0089】
二種以上のイソシアネート化合物を用いる別の態様において、イソシアヌレート型ポリイソシアネートであるイソシアネート化合物を含む混合物を用いることができる。イソシアヌレート型ポリイソシアネートは、例えば、トリイソシアネートであってもよく、具体的には、ジイソシアネートを三量体化することにより得られるトリイソシアネートであってもよい。
【0090】
イソシアネート化合物の具体例としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、n-ペンタン-1,4-ジイソシアネート、これらの三量体、これらのアダクト体、ビュウレット体やイソシアヌレート体、これらの重合体で2個以上のイソシアネート基を有するもの、更にブロック化されたイソシアネート類等が挙げられる。より詳しい硬化剤の具体例としては、スミジュール(登録商標)N3300(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュール(登録商標)N3600(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュールT、L、IL、HLシリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュール(登録商標)2460M(住化コベストロウレタン株式会社製)、スミジュール(登録商標)44シリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、SBUイソシアネートシリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュール(登録商標)E、Mシリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、スミジュールHT(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュールNシリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュールZ4470シリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、デュラネートTPA-100(旭化成株式会社製)、デュラネートTKA-100(旭化成株式会社製)、デュラネート24A-100(旭化成株式会社製)、デュラネート22A-75P(旭化成株式会社製)及びデュラネートP301-75E(旭化成株式会社製)、デュラネートMF-K60B(旭化成株式会社製)、デュラネートSBB-70P(旭化成株式会社製)、デュラネートSBN-70D(旭化成株式会社製)、デュラネートMF-B60B(旭化成株式会社製)、デュラネート17B-60P(旭化成株式会社製)、デュラネートTPA-B80E(旭化成株式会社製)、デュラネートE402-B80B(旭化成株式会社製)、デュラネートWM44-L70G(旭化成株式会社製)として市販されているもの等を用いることができる。
【0091】
熱硬化性樹脂成分において、硬化剤の含有割合は、架橋性重合体及び硬化剤の全質量に対して10~100質量%とすることができ、15~35質量%であることが好ましい。
【0092】
一方、重合性成分が光硬化性樹脂成分である場合、UV等の光照射によって重合反応が進行する単量体を挙げることができ、例えば、撥水性塗膜を形成するために使用されている公知の光重合性モノマーを広く採用することができる。重合性成分が光硬化性樹脂成分である場合、例えば、公知の光重合開始剤を使用することも好ましい。光重合開始剤の種類も特に限定されず、例えば、撥水性塗膜を形成するために使用されている公知の光重合開始剤を広く採用することができる。
【0093】
(被膜形成用組成物)
本開示の被膜形成用組成物において、無機微粒子、重合性成分及び撥水性成分の含有割合は、本開示の効果が阻害されない限り、特に限定されない。
【0094】
本開示の被膜形成用組成物において、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記重合性成分及び前記撥水性成分の総質量(以下、「総質量(S1)」と表記する)100質量部あたりの前記第1の無機微粒子の含有量は、3~25質量部である。前記第1の無機微粒子の含有量が、前記総質量(S1)100質量部あたり3質量部を下回ると、第1の無機微粒子の効果を十分に発揮できず、所望の撥水性及び耐摩耗性が得られず、着雪防止性能も低下し、また、25質量部を超えても所望の撥水性及び耐摩耗性が得られず、そればかりか被膜の形成も難しくなる。前記第1の無機微粒子の含有量は、前記総質量(S1)100質量部あたり、5質量部以上であることが好ましく、8質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましい。また、前記第1の無機微粒子の含有量は、前記総質量(S1)100質量部あたり、23質量部以下であることが好ましく、22質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。
【0095】
また、本開示の被膜形成用組成物において、前記総質量(S1)100質量部あたりの前記第2の無機微粒子の含有量は、12~27質量部である。前記第2の無機微粒子の含有量が、前記総質量(S1)100質量部あたり12質量部を下回ると、第2の無機微粒子の効果を十分に発揮できず、所望の撥水性及び耐摩耗性が得られず、着雪防止性能も低下し、また、27質量部を超えても所望の撥水性及び耐摩耗性が得られず、そればかりか被膜の形成も難しくなる。前記第2の無機微粒子の含有量は、前記総質量(S1)100質量部あたり、15質量部以上であることが好ましく、16質量部以上であることがより好ましく、18質量部以上であることがさらに好ましく、また、26質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましい。
【0096】
前記第1の無機微粒子及び前記第2の無機微粒子の総含有量は、前記総質量(S1)100質量部あたり、20質量部以上である。これにより、所望の撥水性及び耐摩耗性が得られ、製膜製にも優れ、着雪防止性能も向上しやすい。前記第1の無機微粒子及び前記第2の無機微粒子の総含有量は、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記重合性成分及び前記撥水性成分の総質量100質量部あたり、25質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、また、50質量部以下であることが好ましく、45質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましい。
【0097】
なお、本開示の被膜形成用組成物において、「前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記重合性成分及び前記撥水性成分の総質量(S1)」とは、固形分換算の質量を意味し、溶媒等の揮発成分は含まない。また、重合性成分が前記熱硬化性樹脂成分である場合は、当該総質量(S1)における前記重合性成分の質量とは、架橋性官能基を有する重合体及び硬化剤の全質量であることを意味し、重合性成分が前記光硬化性樹脂成分である場合は、光重合性モノマー及び光重合開始剤の全質量であることを意味する。重合性成分が前記熱硬化性樹脂成分及び前記光硬化性樹脂成分の両方である場合は、当該総質量(S1)における前記重合性成分の質量とは、架橋性官能基を有する重合体及び硬化剤並びに光重合性モノマー及び光重合開始剤の全質量であることを意味する。
【0098】
本開示の被膜形成用組成物における前記撥水性成分(式(1)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体)の含有量は、優れた撥水性を有し、かつ、耐摩耗性に優れる被膜を形成しやすい点で、前記総質量(S1)100質量部あたり、0.1~30質量部であることが好ましい。前記撥水性成分の含有量は、前記総質量(S1)100質量部あたり、1質量部以上であることがより好ましく、また、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。
【0099】
本開示の被膜形成用組成物において、重合性成分の含有量は、前記総質量(S1)100質量部あたり、40~90質量部であることが好ましい。この場合、被膜の硬度が低下しにくく、撥水性及び耐水性が向上しやすい。重合性成分の含有量は、前記総質量(S1)100質量部あたり、50~90質量部であることがより好ましく、60~80質量部であることがさらに好ましい。
【0100】
より具体的には、重合性成分が前記熱硬化性樹脂成分である場合は、前記熱硬化性樹脂成分の含有量は、前記総質量(S1)100質量部あたり、40~90質量部であることが好ましく、50~90質量部であることがより好ましく、60~80質量部であることがさらに好ましい。これにより、被膜の硬度が低下しにくく、撥水性及び耐水性が向上しやすい。重合性成分が前記光硬化性樹脂成分である場合は、前記光硬化性樹脂成分の含有量は、前記総質量(S1)100質量部あたり、40~90質量部であることが好ましく、50~90質量部であることがより好ましく、60~80質量部であることがさらに好ましい。これにより、被膜の硬度が低下しにくく、撥水性及び耐水性が向上しやすい。
【0101】
本開示の被膜形成用組成物では、前記重合性成分及び前記撥水性成分の少なくとも一方はフッ素原子(つまり、フルオロアルキル基)又はポリシロキサンを有することが好ましく、フッ素原子を有することがさらに好ましく、中でも前記重合性成分がフッ素原子を有することが特に好ましい。これにより、被膜形成用組成物から形成される被膜は、優れた撥水性を有し、硬度も高く、しかも、耐水性にも優れ、さらには耐摩耗性が向上することもある。もちろん、前記重合性成分及び前記撥水性成分の両方がフッ素原子(フルオロアルキル基)を有することもでき、あるいは、前記重合性成分及び前記撥水性成分の両方がフッ素原子を有していなくてもよい。前記重合性成分がフルオロアルキル基を有する場合の一例として、前記熱硬化性樹脂成分に含まれる架橋性重合体が重合体Fである場合が挙げられる。前記撥水性成分がフルオロアルキル基を有する場合の一例としては、式(1)で表される化合物においてフルオロアルキル基の炭素数が1~6のフルオロアルキル(メタ)アクリレートである重合体が挙げられる。
【0102】
本開示の被膜形成用組成物に含まれる撥水性成分がフッ素原子(特にフルオロアルキル基)を有さない場合は、被膜の耐摩耗性がさらに向上しやすい。中でも、撥水性成分が、前記式(1)で表される化合物において、Raが炭素数20以下の直鎖又は分岐状のアルキル基である場合は、被膜の耐摩耗性がより向上しやすい。斯かる化合物としては、例えば、公知の潤滑油に含まれている飽和脂肪酸等を挙げることができ、その例として、ヤシ油、パーム油、菜種油、ヒマシ油等に含まれるカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸またはこれらの飽和脂肪酸と同様の炭素数の直鎖アルキル基を有する構造体が挙げられる。
【0103】
本開示の被膜形成用組成物は、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子と、重合性成分と、撥水性成分とを含む限り、他の成分が含まれていてもよい。例えば、被膜形成用組成物は、前記式(1)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体以外に、撥水性を示し得る成分を含むことができる。斯かる成分の具体例としては、主幹骨格が(メタ)アクリレートであって、その側鎖部位にフルオロアルキル基又はアルキル基を有するポリマーが挙げられる。
【0104】
また、被膜形成用組成物は、必要に応じて、溶媒を含むこともできる。溶媒の種類は限定されず、例えば、被膜を形成するために使用されている溶媒を広く使用することができ、例えば、ハイドロフルオロエーテル等のフッ素系溶剤、エステル化合物、アルコール化合物等を挙げることができる。
【0105】
被膜形成用組成物に含まれる溶媒の含有量は特に限定されず、例えば、第1の無機微粒子、第2の無機微粒子、重合性成分及び撥水性成分の総質量(S1)100質量部あたり、200~2000質量部とすることができる。
【0106】
被膜形成用組成物は、撥水性を示し得る成分及び溶媒以外の他の添加剤を含むこともできる。被膜形成用組成物が他の添加剤を含む場合、その含有割合は、第1の無機微粒子、第2の無機微粒子、重合性成分及び撥水性成分の全質量に対して5質量%以下とすることが望ましい。
【0107】
本開示の被膜形成用組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、第1の無機微粒子と、第2の無機微粒子と、重合性成分(例えば、前記重合体Fと硬化剤を含む熱硬化性樹脂成分)と、撥水性成分(式(1)で表される化合物)とを所定の配合量で混合することで調製することができる。混合方法も特に限定されず、例えば、公知の混合機等を広く使用することができる。
【0108】
本開示の被膜形成用組成物を用いて被膜を形成する方法は特に限定されない。例えば、被膜形成用組成物を、被膜を形成するための基材に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を硬化することで、被膜を形成することができる。斯かる被膜は本開示の被膜形成用組成物の硬化物である。
【0109】
被膜形成用組成物の塗布方法は特に制限されず、公知の塗膜形成方法を広く採用することができる。例えば、刷毛塗り、スプレー、スピンコート、ディスペンサー等の方法で塗布できる。被膜形成用組成物の塗膜を形成するための基材の種類は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の公知の樹脂基材、その他、金属、無機基材等の各種の基材を挙げることができる。
【0110】
被膜形成用組成物の硬化方法も特に限定されず、例えば、熱硬化、光硬化等の種々の方法を採用することができ、熱硬化と光硬化とを組み合わせることもできる。熱硬化を採用する場合、被膜形成用組成物の塗膜を60~150℃に加熱することが好ましく、この場合、被膜形成用組成物の被膜が形成されやすく、硬度も高く、耐水性にも優れる。加熱時間は特に制限されず、加熱温度に応じて適宜設定することができる。
【0111】
本開示の被膜形成用組成物を用いて薬液を調製することができる。斯かる薬液は、本開示の被膜形成用組成物を含むので、被膜を形成するための使用に好適である。薬液は、被膜形成用組成物のみで構成することができ、あるいは、本開示の被膜形成用組成物の目的とする諸性能が阻害されない程度である限り、他の添加剤(例えば、被膜形成溶薬剤として使用される公知の添加剤)を含むことができる。
【0112】
2.被膜
本開示の被膜は、例えば、前述の本開示の被膜形成用組成物を用いて形成することができ、あるいは、本開示の被膜は、前記薬液を用いて形成することができる。この場合、本開示の被膜は、本開示の被膜形成用組成物又は薬液の硬化物である。
【0113】
従って、本開示の被膜は、第1の無機微粒子と、第2の無機微粒子と、バインダー成分と、撥水性成分とを含む。ここで、バインダー成分とは、前記重合性成分が重合して形成される成分である。
【0114】
本開示の被膜において、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子はそれぞれ、本開示の被膜形成用組成物に含まれる第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子と同じである。従って、被膜に含まれる第1の無機微粒子は平均粒子径が1nm以上100nm以下、被膜に含まれる第2の無機微粒子は平均粒子径が500nm以上5μm以下である。
【0115】
第1の無機微粒子の平均粒子径は、好ましくは2nm以上、より好ましくは3nm以上、さらに好ましくは4nm以上、特に好ましくは5nm以上である。また、第1の無機微粒子の平均粒子径は、好ましくは80nm以下、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。
【0116】
第2の無機微粒子の平均粒子径は、好ましくは800nm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上、特に好ましくは2μm以上である。また、第2の無機微粒子の平均粒子径は、好ましくは4.5μm以下、より好ましくは4μm以下、さらに好ましくは3.5μm以下、特に好ましくは3μm以下である。
【0117】
第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子は、前述の平均粒子径を満たす限り、その種類は特に限定されず、例えば、公知の金属酸化物の微粒子を広く例示することができる。具体的に金属酸化物としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア等を挙げることができ、被膜の硬度及び耐水性が高まりやすいという点で、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子はシリカであることが好ましい。第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の種類は同一であってもよいし、異なっていてもよく、好ましくは、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子が同一であり、より好ましくは、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子がいずれもシリカである。
【0118】
第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の比表面積は特に限定されず、例えば、得られる被膜の硬度が向上しやすい点で、30~700m2/gであることが好ましく、800~330m2/gであることがさらに好ましい。本開示の被膜形成用組成物において、前記微粒子の比表面積は、BET法によって計測された値(いわゆるBET比表面積)を意味する。
【0119】
第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子は、表面が親水性であってもよいし、疎水性であってもよい。第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子は、親水性及び疎水性の混合物であってもよい。第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の形状も特に限定されず、例えば、球状、楕円球状等を挙げることができ、また、異形状等の不定形粒子であってもよい。第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子は、表面にラジカル重合性の反応基(例えば、アクリロイル基等の重合性二重結合)を有していないことが好ましく、即ち、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の表面には重合体(例えば、バインダー成分及び撥水性成分)が共有結合的に結合しないことが好ましい。これにより、被膜の耐摩耗性が向上し、特には着雪防止性能も高まりやすい。
【0120】
第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の形状も特に限定されず、例えば、球状、楕円球状等を挙げることができ、また、異形状等の不定形粒子であってもよい。第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子は、凝集体を形成することもできる。凝集体は球体及び非球体のいずれでもよいし、鎖状的に形成されていてもよい。
【0121】
本開示の被膜に含まれる無機微粒子は、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子を80質量%以上含むことができ、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。本開示の被膜に含まれる無機微粒子は、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子のみであってもよく、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子のみであることが特に好ましい。
【0122】
本開示の被膜において、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の両者の含有比率は特に制限されない。本開示の被膜が、優れた撥水性を有し、かつ、耐摩耗性に優れるという点で、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の総質量に対し、第1の無機微粒子が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子の総質量に対し、第1の無機微粒子が90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。
【0123】
本開示の被膜において、バインダー成分は、前述の重合性成分が硬化して形成される成分である。例えば、重合性成分が前述の熱硬化性樹脂成分である場合は、前記重合体Fが前記硬化剤で硬化された(架橋された)重合体である。バインダー成分には、本開示の被膜の性能が損なわれない範囲で、未硬化の重合性成分が混在していても良い。
【0124】
本開示の被膜において、撥水性成分は、前述の本開示の被膜形成用組成物に含まれる撥水性成分と同じである。従って、被膜中の撥水性成分は、前記式(1)で表される化合物に由来する構造単位を有する重合体である。
【0125】
本開示の被膜において、式(1)で表される化合物に由来する構造単位を有する重合体は、式(1)で表される化合物以外に基づく構成単位を含むことができる。斯かる構成単位として、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに基づく構成単位、エポキシ部位を有する(メタ)アクリレートに基づく構成単位、アミド結合を有する(メタ)アクリレート(例えば、前記式(1)のYがアミド結合を有する官能基に置き換えられた化合物)に基づく構成単位、塩素含有ビニルモノマーに基づく構成単位、塩素含有ビニリデンモノマーに基づく構成単位、アクリルアミドモノマーに基づく構成単位等のいずれか1種以上を挙げることができる。例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに基づく構成単位としてはとしては、2-ヒドロキシエチルメタアクリレート等を挙げることができ、エポキシ部位を有する(メタ)アクリレートとしてはグリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、アミド結合を有する(メタ)アクリレートとしてはステアリン酸アミドエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、塩素含有ビニルモノマーとしては塩化ビニル等を挙げることができ、塩素含有ビニリデンモノマーとしては塩化ビニリデン等を挙げることができ、アクリルアミドモノマーとしてはN-メチロールアクリルアミドを挙げることができる。
【0126】
本開示の被膜において、式(1)で表される化合物に基づく構造単位を少なくとも有する重合体には、さらに他の構造単位が含まれていてもよい。他の構造単位を形成するための単量体としては、種々の単官能単量体及び/又は多官能単量体の1種以上を挙げることができる。斯かる単量体は、前述した酸基含有単量体、水酸基含有単量体、塩素含有単量体、窒素含有単量体、アルキレングリコール基含有単量体、アルコキシアルキル基含有単量体、カルボニル基含有単量体、シラン基含有単量体、環構造含有単量体を挙げることができ、それぞれの種類も前述同様である。
【0127】
本開示の被膜において、前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の総質量(以下、「総質量(S2)」と表記する)100質量部あたりの前記第1の無機微粒子の含有量は、3~25質量部である。前記第1の無機微粒子の含有量が、前記総質量(S2)100質量部あたり3質量部を下回ると、第1の無機微粒子の効果を十分に発揮できず、所望の撥水性及び耐摩耗性が得られず、着雪防止性能も低下し、また、25質量部を超えても所望の撥水性及び耐摩耗性が得られず、そればかりか被膜の形成も難しくなる。前記第1の無機微粒子の含有量は、前記総質量(S2)100質量部あたり、5質量部以上であることが好ましく、8質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましい。また、前記第1の無機微粒子の含有量は、前記総質量(S2)100質量部あたり、23質量部以下であることが好ましく、22質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。
【0128】
また、本開示の被膜において、総質量(S2)100質量部あたりの前記第2の無機微粒子の含有量は、12~27質量部である。前記第2の無機微粒子の含有量が、前記総質量(S2)100質量部あたり12質量部を下回ると、第2の無機微粒子の効果を十分に発揮できず、所望の撥水性及び耐摩耗性が得られず、着雪防止性能も低下し、また、27質量部を超えても所望の撥水性及び耐摩耗性が得られず、そればかりか被膜の形成も難しくなる。前記第2の無機微粒子の含有量は、前記総質量(S2)100質量部あたり、15質量部以上であることが好ましく、16質量部以上であることがより好ましく、18質量部以上であることがさらに好ましく、また、26質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましい。
【0129】
前記第1の無機微粒子及び前記第2の無機微粒子の総含有量は、前記総質量(S2)100質量部あたり、20質量部以上である。これにより、所望の撥水性及び耐摩耗性が得られ、製膜製にも優れ、着雪防止性能も向上しやすい。前記第1の無機微粒子及び前記第2の無機微粒子の総含有量は、前記総質量(S2)100質量部あたり、25質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、また、50質量部以下であることが好ましく、45質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましい。
【0130】
なお、本開示の被膜の「前記第1の無機微粒子、前記第2の無機微粒子、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の総質量(S2)」において、バインダー成分が前記熱硬化性樹脂の硬化物である場合は、当該総質量(S2)における前記バインダー成分の質量とは、架橋性官能基を有する重合体及び硬化剤の硬化物の全質量であることを意味し、バインダー成分が前記光硬化性樹脂の硬化物である場合は、光重合性モノマー及び光重合開始剤の全質量であることを意味する。バインダー成分が前記熱硬化性樹及び前記光硬化性樹脂の硬化物の両方である場合は、当該総質量(S2)における前記重合性成分の質量とは、架橋性官能基を有する重合体及び硬化剤の硬化物並びに光重合性モノマー及び光重合開始剤の硬化物の全質量であることを意味する。
【0131】
本開示の被膜における前記撥水性成分の含有量は、優れた撥水性を有し、かつ、耐摩耗性に優れる被膜を形成しやすい点で、前記総質量(S2)100質量部あたり、0.1~30質量部である。前記撥水性成分の含有量は、前記総質量(S2)100質量部あたり、1質量部以上であることが好ましく、また、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。
【0132】
本開示の被膜において、バインダー成分の含有量は、前記総質量(S2)100質量部あたり、40~90質量部であることが好ましい。この場合、被膜の硬度が低下しにくく、撥水性及び耐水性が向上しやすい。バインダー成分の含有量は、前記総質量(S2)100質量部あたり、50~90質量部であることがより好ましく、60~80質量部であることがさらに好ましい。
【0133】
より具体的には、バインダー成分が前記熱硬化性樹脂の硬化物である場合は、前記熱硬化性樹脂の硬化物の含有量は、前記総質量(S2)100質量部あたり、40~90質量部であることが好ましく、50~90質量部であることがより好ましく、60~80質量部であることがより好ましい。これにより、被膜の硬度が低下しにくく、撥水性及び耐水性が向上しやすい。バインダー成分が前記光硬化性樹脂の硬化物である場合は、前記光硬化性樹脂の硬化物の含有量は、前記総質量(S2)100質量部あたり、40~90質量部であることが好ましく、50~90質量部であることがより好ましく、60~80質量部であることがより好ましい。これにより、被膜の硬度が低下しにくく、撥水性及び耐水性が向上しやすい。
【0134】
本開示の被膜では、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の少なくとも一方はフッ素原子(つまり、フルオロアルキル基)又はポリシロキサンを有することが好ましく、フッ素原子を有することがさらに好ましく、中でも前記バインダー成分がフッ素原子を有することがさらに好ましい。これにより、被膜は、優れた撥水性を有し、硬度も高く、しかも、耐水性にも優れ、さらには耐摩耗性が向上することもある。もちろん、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の両方がフッ素原子(フルオロアルキル基)を有することもでき、あるいは、前記バインダー成分及び前記撥水性成分の両方がフッ素原子を有していなくてもよい。前記バインダー成分がフルオロアルキル基を有する場合の一例としては重合体F又はその架橋体が挙げられる。前記撥水性成分がフルオロアルキル基を有する場合、式(1)で表される化合物においてフルオロアルキル基の炭素数が1~6のフルオロアルキル(メタ)アクリレートである重合体が挙げられる。
【0135】
本開示の被膜は、バインダー成分及び撥水性成分は、第1の無機微粒子及び第2の無機微粒子を被覆し得るが、共有結合的には結合せず、例えば、物理的に吸着することが好ましい。これにより、従来トレードオフの関係にあった耐摩耗性及び着雪防止性能の両方を向上させることが可能となる。
【0136】
本開示の被膜に含まれる撥水性成分がフッ素原子(特にフルオロアルキル基)を有さない場合は、被膜の耐摩耗性がさらに向上しやすい。中でも、撥水性成分が、前記式(1)で表される化合物において、Raが炭素数20以下の直鎖又は分岐状のアルキル基である場合は、被膜の耐摩耗性がより向上しやすい。斯かる化合物としては、例えば、公知の潤滑油に含まれている飽和脂肪酸等を挙げることができ、その例として、ヤシ油、パーム油、菜種油、ヒマシ油等に含まれるカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸またはこれらの飽和脂肪酸と同様の炭素数の直鎖アルキル基を有する構造体が挙げられる。
【0137】
また、本開示の被膜は、被膜が形成されたときに被膜に撥水性を付与することができる成分であって、式(1)で表される化合物以外の成分を含むことができる。斯かる成分の具体例としては、主幹骨格が(メタ)アクリレートであって、その側鎖部位にフルオロアルキル基又はアルキル基を有するポリマーが挙げられる。
【0138】
本開示の被膜は、例えば、水の接触角は150°以上である。これにより、本開示の被膜は優れた撥水性が発揮され得る。
【0139】
本開示の被膜は、例えば、紙製ウエスを荷重100g/cm2で少なくとも50回塗擦した後の水の接触角が、150°以上である表面を有する。
【0140】
本開示の被膜は、後記する被膜の着雪試験において、着雪開始時間が例えば5分以上であることが好ましく、7分以上であることがより好ましく、10分以上であることがさらに好ましい。
【0141】
本開示の被膜は、例えば、平均膜厚が10nm~100μm、最低局部膜厚が5nm~50μm、最大局部膜厚が15nm~150μmであり、好ましくは、平均膜厚が15nm~95μm、最低局部膜厚が10nm~45μm、最大局部膜厚が20nm~145μm、より好ましくは、平均膜厚が20nm~90μm、最低局部膜厚が15nm~40μm、最大局部膜厚が25nm~140μm、である。平均膜厚は、例えば、塗布した塗膜量、固形分濃度、組成物の密度より算出した乾燥膜厚により算出可能である。最低局部膜厚、最大局部膜厚は、3次元の形状を測定できる装置を用いることで、算出可能である。その装置の一例として、KEYENCE製の形状解析レーザー顕微鏡VK-X1000が挙げられる。
【0142】
本開示の被膜は、各種基材上に形成され得る。基材としては、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の公知の樹脂基材、その他、アルミニウム等の金属、無機基材等の各種の基材を挙げることができる。
【0143】
本開示の被膜は、優れた撥水性を有し、耐摩耗性にも優れるので、長期的に性能が維持されやすい。また、本開示の被膜形成用組成物から形成される被膜は、着雪防止性能に優れ、雪に晒されたとしても長時間にわたり着雪が生じにくい。例えば、豪雪地帯であっても、本開示の被膜は長時間にわたって着雪防止性能を発揮することができる。
【0144】
従って、本開示の被膜は、撥水性及び/又は撥油性を被処理面に付与するために好適に用いられ、超撥液性が要求される種々の物品等に好適に使用することができる。本開示の被膜の用途は特に限定されず、例えば、撥水撥油剤、着霜遅延用途、防氷効果剤、防雪効果剤、指紋付着防止剤、指紋不認化剤、低摩擦剤、潤滑剤、タンパク質付着制御剤、細胞付着制御剤、微生物付着制御剤、スケール付着抑制剤、防カビ剤、防菌剤等に好適に使用することができる。また、本開示の被膜は、着雪防止機能が要求される種々の物品等に好適に使用することができ、例えば、被膜が形成された基材は、アンテナカバー用として好適に使用することができる。
【0145】
3.被膜の他の態様
本開示の被膜の他の態様(以下、本開示の他の被膜という)として、無機微粒子を含み、平均粒子径が1nm以上100nm以下である第1の無機微粒子、及び、平均粒子径が500nm以上5μm以下である第2の無機微粒子を含み、水の接触角が、150°以上であり、紙製ウエスを荷重100g/cm2で少なくとも50回塗擦した後の水の接触角が、150°以上である被膜を挙げることができる。本開示の他の被膜を形成する方法は特に制限されない。例えば、前述の本開示の被膜形成用組成物又は薬液を用いて形成した場合であっても、前記他の形態の被膜を形成することができる。
【0146】
本開示の他の被膜に含まれる無機微粒子は、前述の本開示の被膜に含まれる無機微粒子と同一である。従って、本開示の他の被膜に含まれる無機微粒子は、平均粒子径が1nm以上100nm以下である第1の無機微粒子、及び、平均粒子径が500nm以上5μm以下である第2の無機微粒子を含む。また、本開示の他の被膜に含まれる第1の無機微粒子、及び、第2の無機微粒子の含有割合も前述の本開示の被膜と同一である。
【0147】
本開示の他の被膜は、本開示の被膜と同様、バインダー成分及び撥水性成分を含むことができ、それらの種類及び含有割合も本開示の被膜と同様とすることができる。本開示の他の被膜の厚みも本開示の被膜と同様の範囲とすることができる。
【0148】
本開示の他の被膜は、水の接触角が150°以上であることで、優れた撥水性が発揮され得る。水の接触角は、例えば、無機微粒子、バインダー成分、撥水性成分の種類及び含有量を適宜選択することで調節することができる。本開示の他の被膜は、紙製ウエスを荷重100g/cm2で少なくとも50回(好ましくは50回)塗擦した後の水の接触角が、150°以上であることにより、優れた耐摩耗性を有することができる。
【0149】
本開示の他の被膜の用途は特に限定されず、例えば、本開示の被膜が適用できる用途と同様の用途を挙げることができる。
【0150】
(本開示の被膜の各種物性の測定方法)
本開示の被膜(前述の他の形態の被膜も含む)の各種物性の測定方法を説明する。
【0151】
<水の接触角(静的接触角)>
水の接触角は、すなわち水の静的接触角である。水の接触角は、接触角計(協和界面科学社「Drop Master 701」)用いて測定され、具体的には、水(2μLの液滴)を用いて、1サンプルに対して5点の測定が行われる。静的接触角が150°以上になると、その液体は自立して基材表面に存在することができなくなる場合がある。このような場合はシリンジのニードルを支持体として静的接触角を測定し、その時の得られた値を静的接触角とする。
【0152】
<着雪試験>
1~2℃の範囲で恒温に保った試験室内の試験台に、着雪面が地面に対して鉛直になるように被膜を設置し、該被膜に対し、風速10m/sec、衝突量110kg/m2/hの条件下で、予め作製した人工雪を吹きつける。この吹きつけは、被膜表面に人口雪が衝突するようにする。この吹きつけ開始時から、サンプルの吹き付け面全面を動画撮影して試験終了後に得られた映像から被膜表面の着雪の有無を目視で確認し、吹きつけ開始から着雪までの時間を着雪開始時間(無着雪時間)として計測する。
【実施例】
【0153】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0154】
(実施例1)
第1の無機微粒子として比表面積が300m2/g、かつ、平均粒子径が7nmであるシリカ微粒子(日本アエロジル製「アエロジル300」)を3質量部、第2の無機微粒子として比表面積が300m2/g、かつ、平均粒子径が2.7μmであるシリカ微粒子(富士シリシア化学製「サイリシア310P」)を27質量部、熱硬化性樹脂として前記重合体Fに該当する、テトラフルオロエチレンと水酸基含有ビニルモノマーの共重合体を55質量部(固形分換算)、硬化剤として「スミジュール N-3300」(住友コベストロウレタン製)を12質量部、撥水性成分(式(1)で表される化合物に基づく構成単位を含む重合体)として特許第5831599の調製例2に記載の含フッ素共重合体を3質量部(固形分換算)、溶媒として酢酸ブチルを準備し、これらを配合することで被膜形成用組成物をバイアルに調製した。当該被膜形成用組成物をスプレー法によってポリカーボネート基材に塗布した後、このポリカーボネート基材を130℃で10分間処理することで、被膜を形成した。
なお、特許第5831599の調製例2に記載の含フッ素共重合体(撥水性成分)は以下のように調製した。撹拌装置、温度計、還流冷却器、滴下漏斗、窒素流入口および加熱装置を備えた容積300mlの反応器を準備し、溶媒のイソプロピルアルコール(IPA)を45質量部添加した。続いて、撹拌下(CF2)6CH2CH2OCOC(CH3)=CH2(C6FMA)65質量部、イソボルニルメタクリレート(IBMA)20質量部、2-ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMA)15質量部からなるモノマー(モノマー合計100質量部)に、連鎖移動剤のラウリルメルカプタン(L-SH)を5質量部追加し、開始剤の過ピバリン酸-t-ブチル1質量部をこの順に添加し、この混合物を60℃の窒素雰囲気下で12時間混合撹拌して共重合を行なった。次にこの反応混合物を室温まで冷却し、含フッ素共重合体溶液を得た。この溶液の固形分濃度は70質量%であった。含フッ素共重合体の単量体組成は、仕込み単量体組成にほぼ一致し、質量平均分子量は9000であった。
【0155】
(実施例2)
第1の無機微粒子を9質量部、第2の無機微粒子を21質量部としたこと以外は、実施例1と同様の処方にて被膜を形成した。
【0156】
(実施例3)
第1の無機微粒子を15質量部、第2の無機微粒子を15質量部としたこと以外は、実施例1と同様の処方にて被膜を形成した。
【0157】
(実施例4)
第1の無機微粒子を20質量部、第2の無機微粒子を20質量部、テトラフルオロエチレンと水酸基含有ビニルモノマーの共重合体を46質量部(固形分換算)、スミジュールN-3300 10質量部、特許第5831599の調製例2に記載の含フッ素共重合体を4質量部(固形分換算)とした以外は、実施例1と同様の処方にて被膜を形成した。
【0158】
(実施例5)
第1の無機微粒子を25質量部、第2の無機微粒子を25質量部、テトラフルオロエチレンと水酸基含有ビニルモノマーの共重合体を37質量部(固形分換算)、スミジュール N-3300 8質量部、特許第5831599の調製例2に記載の含フッ素共重合体を5質量部(固形分換算)とした以外は、実施例1と同様の処方にて被膜を形成した。
【0159】
(実施例6)
第1の無機微粒子として比表面積が300m2/g、かつ、平均粒子径が7nmであるシリカ微粒子(日本アエロジル製「アエロジル300」)を19質量部、第2の無機微粒子として比表面積が300m2/g、かつ、平均粒子径が2.7μmであるシリカ微粒子(富士シリシア化学製「サイリシア310P」)を11質量部、熱硬化性樹脂として「ユーダブルUWS-2816(日本触媒社製)」を44質量部(固形分換算)、硬化剤として「スミジュール N-3300」(住友コベストロウレタン製)を20質量部、撥水性成分として「サイマックUS-352」(東亞合成社製)を6質量部(固形分換算)、溶媒として酢酸ブチルを準備し、これらを配合することで被膜形成用組成物をバイアルに調製した。当該被膜形成用組成物をスプレー法によってポリカーボネート基材に塗布した後、このポリカーボネート基材を130℃で10分間処理することで、被膜を形成した。
【0160】
(実施例7)
第1の無機微粒子として比表面積が300m2/g、かつ、平均粒子径が7nmであるシリカ微粒子(日本アエロジル製「アエロジル300」)を16質量部、第2の無機微粒子として比表面積が300m2/g、かつ、平均粒子径が2.7μmであるシリカ微粒子(富士シリシア化学製「サイリシア310P」)を14質量部、熱硬化性樹脂として「ユーダブルUWS-2816(日本触媒社製)」を38質量部(固形分換算)、硬化剤として「デュラネートE402-B80B」(旭化成社製)を20質量部(固形分換算)、撥水性成分として「サイマックUS-380」(東亞合成社製)を12質量部(固形分換算)、溶媒として酢酸ブチルを準備し、これらを配合することで被膜形成用組成物をバイアルに調製した。当該被膜形成用組成物をスプレー法によってポリカーボネート基材に塗布した後、このポリカーボネート基材を130℃で10分間処理することで、被膜を形成した。
【0161】
(実施例8)
第1の無機微粒子として比表面積が300m2/g、かつ、平均粒子径が7nmであるシリカ微粒子(日本アエロジル製「アエロジル300」)を8質量部、第2の無機微粒子として比表面積が300m2/g、かつ、平均粒子径が2.7μmであるシリカ微粒子(富士シリシア化学製「サイリシア310P」)を20質量部、熱硬化性樹脂として「ユーダブルUWS-2818(日本触媒社製)」を25質量部(固形分換算)、硬化剤として「デュラネートE402-B80B」(旭化成社製)を15質量部(固形分換算)、撥水性成分として「サイマックUS-352」(東亞合成社製)を32質量部(固形分換算)、溶媒として酢酸ブチルを準備し、これらを配合することで被膜形成用組成物をバイアルに調製した。当該被膜形成用組成物をスプレー法によってポリカーボネート基材に塗布した後、このポリカーボネート基材を130℃で10分間処理することで、被膜を形成した。
【0162】
なお、実施例6~8で使用したサイマックUS-352及びサイマックUS-380はシリコーングラフトアクリルポリマーであって、(1)式におけるRaが分子量300~50000のポリシロキサンである化合物にもとづく構造単位を有する重合体である。
【0163】
(比較例1)
第1の無機微粒子を使用せず、第2の無機微粒子を30質量部としたこと以外は、実施例1と同様の方法で被膜を形成した。
【0164】
(比較例2)
第1の無機微粒子を21質量部、第2の無機微粒子を9質量部としたこと以外は、実施例1と同様の処方にて被膜を形成した。
【0165】
(比較例3)
第1の無機微粒子を27質量部、第2の無機微粒子を3質量部としたこと以外は、実施例1と同様の処方にて被膜を形成した。
【0166】
(比較例4)
第1の無機微粒子を30量部、第2の無機微粒子を0質量部としたこと以外は、実施例1と同様の処方にて被膜を形成した。
【0167】
(比較例5)
第1の無機微粒子を30質量部、第2の無機微粒子を30質量部、テトラフルオロエチレンと水酸基含有ビニルモノマーの共重合体を28質量部(固形分換算)、「スミジュール N-3300」 6質量部、特許第5831599の調製例2に記載の含フッ素共重合体を6質量部(固形分換算)とした以外は、実施例1と同様の処方にて被膜を形成した。
【0168】
(比較例6)
第1の無機微粒子を10質量部、第2の無機微粒子を10質量部、テトラフルオロエチレンと水酸基含有ビニルモノマーの共重合体を64質量部(固形分換算)、スミジュール N-3300 14質量部、特許第5831599の調製例2に記載の含フッ素共重合体を2質量部(固形分換算)とした以外は、実施例1と同様の処方にて被膜を形成した。
【0169】
(比較例7)
第1の無機微粒子を5質量部、第2の無機微粒子を5質量部、テトラフルオロエチレンと水酸基含有ビニルモノマーの共重合体を73質量部(固形分換算)、スミジュール N-3300 16質量部、特許第5831599の調製例2に記載の含フッ素共重合体を1質量部(固形分換算)とした以外は、実施例1と同様の処方にて被膜を形成した。
【0170】
<水の接触角(静的接触角)>
水の接触角は、接触角計(協和界面科学社「Drop Master 701」用いた。具体的には、水(2μLの液滴)を用いて、1サンプルに対して5点の測定を行った。静的接触角が150℃以上になると、その液体は自立して基材表面に存在することができなくなる場合はシリンジのニードルを支持体として静的接触角を測定し、その時の得られた値を静的接触角とした。
【0171】
<耐摩耗性評価>
耐摩耗性の評価は、以下に記載するラビング試験にて実施した。実施例又は比較例で得られた各被膜の試験片について、対水接触角を測定して初期接触角を求めた。その後、ラビングテスター(井元製作所製ラビングテスター「耐摩耗試験機151E 3連仕様」)のホルダー(試料に接する面積:1cm2)に紙製ウエスとしてキムワイプ(商標名:キムワイプ、日本製紙クレシア製)を装着し、荷重100g/cm2で一定回数塗擦した。その後対水接触角を測定し、拭き取りに対する耐摩耗性を評価した。ここでの耐摩耗性能は超撥水状態(5回平均の静的接触角の値が150°以上、もしくは、平均140°以上でその標準偏差をあわせると150°以上)を維持できる摩耗回数と定義した。この試験において、接触角は、<水の接触角(静的接触角)>と同様の方法で実施した。
【0172】
<着雪試験>
1~2℃の範囲で恒温に保った試験室内の試験台に、着雪面が地面に対して鉛直になるように評価サンプル(被膜)を設置し、該サンプルに対し、風速10m/sec、衝突量110kg/m2/hの条件下で、予め作製した人工雪を吹きつけた。この吹きつけは、サンプル(被膜)表面に人口雪が衝突するようにした。この吹きつけ開始時から、サンプルの吹き付け面全面を動画撮影して試験終了後に得られた映像から被膜表面の着雪の有無を目視で確認し、吹きつけ開始から着雪までの時間を着雪開始時間(つまり、無着雪時間)とした。
【0173】
【0174】
表1には、水の静的接触角(水20μL)、耐摩耗性評価及び着雪開始時間の結果を示している。実施例で得られた被膜はいずれも耐摩耗性及び着雪防止性能の両方に優れるものであることが確認された。これに対し、比較例で得られた被膜は、無機微粒子の配合が適切でない組成物から形成されているので、耐摩耗性が顕著に悪化するものであった。