(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】繊維物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 14/00 20060101AFI20240221BHJP
D06M 11/46 20060101ALI20240221BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20240221BHJP
D06M 15/15 20060101ALI20240221BHJP
D06M 13/46 20060101ALI20240221BHJP
D06M 13/192 20060101ALI20240221BHJP
D06M 13/385 20060101ALI20240221BHJP
D06M 23/08 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
D06M14/00
D06M11/46
D06M11/83
D06M15/15
D06M13/46
D06M13/192
D06M13/385
D06M23/08
(21)【出願番号】P 2023530675
(86)(22)【出願日】2023-01-06
(86)【国際出願番号】 JP2023000185
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2022089764
(32)【優先日】2022-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515205510
【氏名又は名称】株式会社ステムズ
(73)【特許権者】
【識別番号】516372893
【氏名又は名称】ケイ.アンビエンテ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100138254
【氏名又は名称】澤井 容子
(72)【発明者】
【氏名】宮内 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】浅井 信太郎
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-108203(JP,A)
【文献】特開2018-002597(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109281161(CN,A)
【文献】国際公開第2013/002151(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/196108(WO,A1)
【文献】特開平10-273875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00-16/00
19/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材と、これに固定される無機微粒子とを有する繊維物品を製造する方法であって、
水系媒体中において前記繊維基材またはその原料繊維よりなる繊維材料に対して架橋剤を作用させ、前記繊維材料を両イオン化させる繊維両イオン化工程と、
前記繊維両イオン化工程によって両イオン化された繊維材料と、前記無機微粒子とを水系媒体中において接触させる無機微粒子固定工程とを有し、
前記架橋剤として、電荷プラス剤と、2つのカルボキシ基を有する物質とを含有するものを用いることを特徴とする繊維物品の製造方法。
【請求項2】
前記電荷プラス剤として、
第4級アンモニウム塩、タンパク質、エポキシ系変性物質、の群から選ばれる少なくとも一種を含有するものを用いることを特徴とする請求項1に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項3】
前記無機微粒子として、ルチル型酸化チタンの含有量が50モル%以上である酸化チタンと、前記酸化チタンの表面に担持された一価銅化合物及び二価銅化合物とを有する銅化合物担持酸化チタン光触媒を用いることを特徴とする請求項1に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項4】
前記銅化合物担持酸化チタン光触媒が、グラム陽性菌またはグラム陰性菌に対して抗菌作用、或いはウイルスに対して抗ウイルス作用を有するものであることを特徴とする請求項3に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項5】
前記繊維材料に対する前記銅化合物担持酸化チタン光触媒の割合が、0.1~20.0質量%であることを特徴とする請求項3に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項6】
前記繊維基材が、繊維により構成された不織布、織布、編布、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の繊維物品の製造方法。
【請求項7】
前記繊維物品が、医療用衣類として用いられることを特徴とする請求項1に記載の繊維物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機微粒子を繊維基材に担持させた繊維物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、菌やウイルスの増殖による種々の問題を防止するための抗菌剤や抗ウイスル剤、これらを含有する抗菌性素材、抗ウイスル性素材の使用が拡大している。
例えば、衛生マスクや医療用ガウン等の医療用衣類は、病原性細菌やウイルス等が浮遊する空間に曝露されたときに病原性細菌やウイルス等が、直接、着用者に付着することを防ぐ目的で用いられ、また、衛生マスクはさらに保菌者から病原性細菌、ウイルス等の飛散を防ぐ目的でも用いられている。着用後の医療用衣類は病原性細菌やウイルスが付着していることを前提として脱衣時に付着面に触れないように指導されるが、脱衣の時間的制約や場所的制約、さらには個々人の意識等によってもその効果は異なってくる。そのため、元から抗菌性の高い医療用衣類の必要性が高まっている。
【0003】
一方、酸化チタンを用いた光触媒は、安価で化学的安定性に優れ、高い触媒活性を有し、人体に無害であること等により、酸化チタンの光触媒反応を利用した抗菌性物質、抗ウイルス性(ウイルス不活化性)物質としてとして広く用いられている(例えば、特許文献1及び2参照)。
しかしながら、酸化チタンは一般的には紫外線照射下でしか光触媒活性を発現しないため、紫外線成分を殆ど含まない室内光の下では十分な触媒活性を発現することができない。そのため、蛍光灯のような室内光下でも光触媒活性を発現する可視光応答型光触媒が提案されている(例えば、特許文献3及び特許文献4参照)が、これらの可視光応答型光触媒はウイルス不活化性や抗菌性に乏しく、実用上、十分な抗菌作用や抗ウイルス作用が得られるとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-51263号公報
【文献】特開2006-346651号公報
【文献】特開2004-143032号公報
【文献】特開2006-232729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の問題点を解決するものであり、抗ウイルス性や抗菌性に優れた繊維物品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の繊維物品の製造方法は、繊維基材と、これに固定される無機微粒子とを有する繊維物品を製造する方法であって、
水系媒体中において前記繊維基材またはその原料繊維よりなる繊維材料に対して架橋剤を作用させ、前記繊維材料を両イオン化させる繊維両イオン化工程と、
前記繊維両イオン化工程によって両イオン化された繊維材料と、前記無機微粒子とを水系媒体中において接触させる無機微粒子固定工程とを有し、
前記架橋剤として、電荷プラス剤と、2つのカルボキシ基を有する物質とを含有するものを用いることを特徴とする。
【0007】
本発明の繊維物品の製造方法においては、前記電荷プラス剤として、第4級アンモニウム塩、タンパク質、エポキシ系変性物質、の群から選ばれる少なくとも一種を含有するものを用いることが好ましい。
【0008】
本発明の繊維物品の製造方法においては、前記無機微粒子として、ルチル型酸化チタンの含有量が50モル%以上である酸化チタンと、前記酸化チタンの表面に担持された一価銅化合物及び二価銅化合物とを有する銅化合物担持酸化チタン光触媒を用いることが好ましい。
また、前記銅化合物担持酸化チタン光触媒が、グラム陽性菌またはグラム陰性菌に対して抗菌作用、或いはウイルスに対して抗ウイルス作用を有することが好ましい。
【0009】
本発明の繊維物品の製造方法においては、前記繊維材料に対する前記銅化合物担持酸化チタン光触媒の割合が、0.1~20.0質量%であることが好ましい。
【0010】
本発明の繊維物品の製造方法においては、前記繊維基材が、繊維により構成された不織布、織布、編布、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
本発明の繊維物品の製造方法においては、前記繊維物品が、医療用衣類として用いられるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の繊維物品の製造方法は、繊維材料を両イオン化させる繊維両イオン化工程と、両イオン化された繊維材料に無機微粒子を水系媒体中において接触させる無機微粒子固定工程とを有することによって、繊維材料に対して無機微粒子が強力に担持され、例えばこの製造方法によって得られる繊維物品を洗濯、水洗い等しても無機微粒子の脱離の発生を防止することができる。
また、本発明の繊維物品の製造方法によって製造された繊維物品は、特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒を含有することにより、人体への安全性が高く、優れた抗菌性および抗ウイルス性が得られる。従って、本発明の繊維物品を例えば衛生マスクや医療用ガウン、ユニフォーム等の医療用衣類とすること、またはその素材として使用することによって、着用後の医療用衣類について病原性細菌やウイルスの付着の程度を極めて低いものとすることができ、その結果、着用後の医療用衣類の脱衣に高い安全性が得られる。
特に、本発明の繊維物品の製造方法によって製造された繊維物品は暗状態および明状態のいずれにおいても抗菌作用や抗ウイルス作用が得られるので、暗状態においてもある程度の抗菌作用が得られる。
また、特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒が環境負荷の低減された成分であることによって、本発明の繊維物品全体も環境負荷を低減させることができる。また、特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒は動物由来のものではないので、動物愛護感情に配慮することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】参考例B1で用いた銅化合物担持酸化チタン光触媒の電子顕微鏡写真である。
【
図2】参考例B1で用いた銅化合物担持酸化チタン光触媒の別の電子顕微鏡写真である。
【
図3】銅化合物担持酸化チタン光触媒をエネルギー分散型X線分光法(EDX)で分析した結果である。
【
図4】銅化合物担持酸化チタン光触媒のエックス線吸収端近傍構造の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態に係る繊維物品の製造方法および繊維物品について説明する。
【0015】
[繊維物品]
本発明の繊維物品は、繊維基材と、これに固定される無機微粒子とを含有するものである。
本発明において、繊維基材またはその原料繊維よりなる繊維材料に対する無機微粒子の固定とは、何らかの相互作用により付着し、水洗、漂白などの物理的処理又は化学的処理によっても無機微粒子が繊維材料から脱離しない状態をいう。無機微粒子の繊維材料への固定化の態様には制限はなく、物理的、化学的な吸着、反応による結合、水素結合性の相互作用による結合など、いずれの態様であっても本発明における固定化に包含される。
本発明の繊維物品は、繊維製品全般として、或いは繊維製品全般の素材として用いることができるが、特に、術着用ガウン等の医療用ガウン、ドレープ、マスク、ユニフォーム等の医療用衣類;シーツ、ガーゼ等の衛生資材等の医療用繊維製品の素材として好適に用いることができる。
本発明の繊維物品としては、無機微粒子として、特に、後記に詳述する特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒が用いられているものであることが好ましい。特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒は、抗菌性および抗ウイルス性(ウイルス不活化性)を発揮する物質であり、特に、暗状態および明状態のいずれにおいてもその機能を発揮するものである。なお、本明細書において、抗菌性を発揮するとは、殺菌(微生物を殺す)、静菌(微生物の繁殖を抑える)、滅菌、消毒、制菌、除菌、防腐、防カビ等の性能を発揮することをいう。また、抗ウイスル性を発揮するとは、ウイルスを死滅させて感染性を失わせる不活化等の性能を発揮することをいう。
本発明の繊維物品は、特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒を繊維基材に固定し、存在させておくことによってその機能を発揮するものである。
本発明の繊維物品によれば、その表面における病原体となるウイルスや細菌が低減され、その効果が持続的に得られる。しかも、その効果は暗状態においてもある程度得られ、光照射があればより高い効果が得られ、全体として十分な効果が得られる。
【0016】
本発明の繊維物品が抗菌性や抗ウイルス性を発揮する対象としては、肺炎桿菌、大腸菌、緑膿菌、サルモネラ菌、モラクセラ菌、レジオネラ菌、歯周病原因菌等のグラム陰性菌;黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、アクネ菌、クロストリジウム属細菌等のグラム陽性菌;カンジダ菌、ロドトルラ、パン酵母等の酵母類、白癬菌、その他のカビ類等の真菌;インフルエンザウイルス、ノロウイルス、新型コロナウィルス(COVID-19)等のRNAウイルス;DNAウイルスなどが挙げられる。また、汗腺から分泌された汗等から体臭の原因物質を作り出す種々の菌なども挙げることができる。
歯周病原因菌には、アクチノバチルス・アクチノマイセテムコミタンス、プロフィロモナス・ジンジバリス、プレボテーラ・インテルメディア、スピロヘータ等が含まれる。
【0017】
[繊維物品の製造方法]
本発明の繊維物品の製造方法は、水系媒体中において繊維基材またはその原料繊維よりなる繊維材料に対して架橋剤を作用させ、繊維材料を両イオン化し、繊維材料表面にプラスの電荷およびマイナスの電荷が固定された両イオン化繊維を得る繊維両イオン化工程と、水系媒体中において、両イオン化繊維材料に必要に応じてアニオン浸透剤を吸着させた状態で無機微粒子を接触させてこれを繊維内部に浸透させる無機微粒子固定工程とを有する。さらに、圧力を付与したり液流染色機等を用いることによって繊維を動かす押し込み工程を行うことによって無機微粒子をさらに繊維内部に押し込むことができる。その後、洗浄、脱水、乾燥することにより、無機微粒子が固定された繊維材料を得ることができる。繊維物品に固定された特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒は、例えば洗濯等の摩擦を与えても脱離しにくい。
各工程における水系媒体のpHや温度、作用時間等は、繊維材料の種類(例えばセルロース繊維やたんぱく質繊維、人造繊維、合成繊維等)や用いた架橋剤の成分等によって、それぞれ適宜に設定することができる。
【0018】
金属や鉱石の微粉末等の無機微粒子は、通常、カチオン性を有するため、水系媒体中に添加されると無機微粒子の周囲の電荷がマイナスになる。そこで、水系媒体中において繊維基材あるいはその原料繊維よりなる繊維材料がカチオン化されていると、無機微粒子をイオン吸着により繊維材料に固定することができる。一般的に、電荷プラス材を含有する架橋剤を用いた無機微粒子の固定が多く行われており、繊維材料がプラスの電荷を帯び、無機微粒子がマイナスの電荷を帯びた状態で固定させる。ただし、この固定方法だと無機微粒子の固定後、繊維物品が使用される際に摩擦、洗濯時の流水での圧力などに影響され無機微粒子が繊維材料から脱離、脱落してしまうことがある。
一方、後記する特定の架橋剤のような、使用する架橋剤の中に電荷プラス材に加えて2つのカルボキシル基を有する物質が含有されている場合には、繊維材料に電荷がマイナスの物質が固定されることとなり繊維材料を両イオン化することができ、これにより、無機微粒子が繊維構造の中に引っ張り込まれて、プラス電荷およびマイナス電荷で結合することによって繊維材料から脱離されない状態に固定することができる。これは、一般的なカチオン化を施した繊維材料に対するよりも極めて高い固定力である。
【0019】
〔架橋剤〕
本発明において、架橋剤としては、電荷プラス剤Aと、2つのカルボキシル基を有する物質Bと、A,B以外の界面活性剤等のその他の物質Cとを混ぜ合わせた特定の架橋剤を好ましく用いることができる。
電荷プラス剤Aは、いずれも水溶性でアニオン電荷を有し、繊維材料をカチオン化することができるものである。電荷プラス剤Aとしては、具体的には、(a)第4級アンモニウム塩、(b)キトサンやセリシン等のタンパク質、(c)カチオン剤、(d)エポキシ系変性物質、(e)多孔質を有するカチオン系で、水溶性の物質とアニオン電荷を持つ界面活性剤を混合したもの、の群から選ばれる少なくとも一種を含有する。
2つのカルボキシ基を有する物質Bを含有する。2つのカルボキシ基を有する物質としては、例えばポリアクリル酸を加えたカチオン剤を挙げることができる。
【0020】
〔繊維基材〕
繊維基材は、繊維により構成された不織布、織布、編布、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。繊維基材やその原料繊維よりなる繊維材料としては、セルロース等のパルプ系繊維や、非パルプ系繊維からなるものが挙げられ、非パルプ系繊維を50質量%以上含有するものが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは100質量%含有するものである。非パルプ系繊維としては、綿、麻などのセルロース繊維、絹、毛などのタンパク質繊維、ナイロン、ビニロン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアクリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリウレタン等の合成繊維、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維の単体若しくは複合繊維等が挙げられるが、合成繊維が好適に用いられる。
繊維基材の目付量は30g/m2 ~300g/m2のものが好ましい。
【0021】
不織布としては、メルトブローン不織布、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、サーマルボンド不織布、レジンボンド不織布、ナノファイバー不織布等が用いられる。編布としてはメリヤス編み、ガーター編み、ゴム編み、ネット編み、レース編み、こま編み、長編み、玉編み等が挙げられる。また織布としては、オックスフォード、ブロードクロス、シーチング、ウェザークロス、キャンバス、ガーゼ等の平織物、サージ、キャバジン、デニム等の綾織物、サテンと呼ばれている繻子織物等が挙げられる。
【0022】
〔無機微粒子〕
無機微粒子としては、カチオン性を有し、水系媒体中に添加されると周囲の電荷がマイナスになるものであれば公知の種々のものを使用することができる。無機微粒子としては、金属や鉱石の微粉末を挙げることができる。
無機微粒子としては、例えば酸化チタンを用いることが好ましく、特に、下記の特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒を用いることが好ましい。
特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒は、銅化合物の部位が水系媒体中において電荷がマイナスに傾き、別のイオン結合で両イオン化された繊維材料にイオン吸着する。
【0023】
[特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒]
特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒は、ルチル型酸化チタンの含有量が50モル%以上である酸化チタンと、この酸化チタンの表面に担持された一価銅化合物及び二価銅化合物とを有するものであり、特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒としては、特許第5129897号公報に開示されているものを使用することができる。
この特定の銅化合物担持酸化チタン触媒によれば、一価銅化合物及び二価銅化合物の両方を含んでいるため、暗状態および明状態のいずれにおいても抗菌作用や抗ウイルス作用が得られ、特に、酸化チタンの表面に二価銅化合物が担持されているため、可視光による光触媒活性に優れる。すなわち、特定の銅化合物担持酸化チタン触媒は、二価銅化合物よりもウイルス不活化性に優れている一価銅化合物を含むため、暗状態においても一価銅化合物の存在に起因して抗菌作用や抗ウイルス作用が得られ、また、可視光による光触媒活性に優れる二価銅化合物を含むため、明状態においては二価銅化合物の存在に起因してより一層優れた抗菌作用や抗ウイルス作用が得られる。なお、この特定の銅化合物担持酸化チタン触媒は、紫外光によっても上記抗菌作用や抗ウイルス作用を発揮する。
さらに、特定の銅化合物担持酸化チタン触媒は、酸化チタンの主成分がルチル型酸化チタンであるため、アナターゼ型酸化チタンやブルッカイト型酸化チタンが主成分である場合と比べて、抗菌性や抗ウイルス性に優れる。その理由は明らかではないが、前述した一価銅と二価銅との間の酸化還元反応が、ルチル型酸化チタンの存在下でより効率よく行われるためであると推測される。
この特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒において、銅化合物は酸化チタンの表面に不均一核生成して析出させるため、
図1や
図2に示すように、酸化チタンおよび銅化合物は物理的に結合している複合粒子である。また、特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒を構成する酸化チタンには、一価銅化合物及び二価銅化合物以外の金属酸化物は担持されていない。このように特定の銅化合物が酸化チタンに物理的に担持されているため、酸化チタンと銅化合物との間の界面において可視光照射による界面電荷移動遷移が促進され、光触媒機能を発現するための電子・正孔が効率的に生成するという効果が得られる。
【0024】
明状態とは、任意の光線の存在下にある状態をいう。光線としては、可視光であってもよく、紫外光であってもよい。可視光照射では、太陽光、水銀灯、キセノンランプ、白色蛍光灯、LEDなどの光源から発する光で、L-42光学フィルター(AGCテクノグラス株式会社製)を透過した光を用いることができる。紫外光照射では、太陽光、水銀灯、キセノンランプ、ブラックライト、白色蛍光灯のいずれかを用いることができる。
暗状態とは、光照射が極めて小さいあるいは全くない状態をいう。暗状態の例としては、衣服に覆われた皮膚と衣服との間の空間、夜間の室内、機械内部や冷蔵庫の収納室、夜間又は不使用時に暗所となる病院施設(待合室や手術室など)室内等が挙げられる。
また、特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒は、乾燥状態(例えば冬季などにおける低湿度の状態など)、高湿度の状態、あるいは有機物の共存下においても高い抗菌作用や抗ウイルス作用が得られ、しかも持続的にその作用が得られる。
【0025】
<酸化チタン>
特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒中の酸化チタンは、ルチル型酸化チタンを多く含むため、抗菌性および抗ウイルス性に優れる。
酸化チタン全量中におけるルチル型酸化チタンの含有量は、50モル%以上であることが好ましい。50モル%未満であると、抗菌性および抗ウイルス性に劣るものとなる。この観点から、ルチル型酸化チタンの含有量は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%であり、更に好ましくは80モル%以上であり、特に好ましくは85モル%以上である。
酸化チタンの比表面積は、好ましくは1~200m2 /gであることが好ましい。1m2 /g以上であることにより、比表面積が十分に確保されて抗菌性および抗ウイルス性に優れる。200m2 /g以下であることにより、取扱性に優れる。これらの観点から、酸化チタンの比表面積は、下限値が、好ましくは1m2 /gであり、より好ましくは3m2 /gであり、更に好ましくは4m2 /gであり、より更に好ましくは8m2 /gであり、また、上限値が、好ましくは200m2 /gであり、より好ましくは100m2 /gであり、更に好ましくは70m2 /gであり、より更に好ましくは50m2 /gである。また、酸化チタンの比表面積は、より好ましくは3~100m2 /gであり、更に好ましくは4~70m2 /gであり、特に好ましくは8~50m2 /gである。ここで比表面積とは、窒素吸着によるBET法にて測定した値である。
酸化チタンとしては、市販されている酸化チタンをそのまま使用するほうが、触媒調製の工程を考えると有利である。例えば、市販品の酸化チタンのうち、比表面積が大きくルチルの結晶性が低いものを使用する場合には、焼成等を行って最適な比表面積及び結晶性を有する酸化チタンにしなければならない。このような焼成する工程を経ると、その分、余計な手間がかかり、コスト高の原因となる。また、焼成時に着色してしまうというトラブルも発生しかねない。このような観点からも、適度な結晶性と比表面積を有する、気相法で得られた酸化チタンの市販品を、そのまま使用することができる。
【0026】
<銅化合物>
特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒における酸化チタンに対する銅化合物の含有量は、酸化チタン100質量部に対して銅イオン(一価銅イオンと二価銅イオンの合計)が0.01~10質量部であることが好ましい。0.01質量部以上の場合、銅化合物担持による抗ウイルス効果や可視光応答性が良好に発現する。10質量部以下であると、酸化チタン表面が被覆されてしまうことが防止され、光触媒の機能が良好に発現する。一方、10質量部を超えると、特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒の色味が黒ずんだものとなるおそれがある。その結果、これを繊維基材に担持させる際に、例えば着色剤等をさらに添加しても色味のコントロールを十分な範囲で幅広く行うことが困難となることがあり、従って、例えば術着用ガウン等は所定の色のものが望まれるところ、所望の色とすることができないおそれがある。これらの観点から、銅イオンの含有量は、酸化チタン100質量部に対して、下限値が、好ましくは0.01質量部、より好ましくは0.05質量部、更に好ましくは0.07質量部、より更に好ましくは0.1質量部であり、上限値が、好ましくは10質量部、より好ましくは7質量部、更に好ましくは5質量部、より更に好ましくは2質量部である。また、銅イオンの含有量は、酸化チタン100質量部に対して、より好ましくは0.05~7質量部であり、更に好ましくは0.07~5質量部であり、特に好ましくは0.1~2質量部であり、更に特に好ましくは0.1~1.0質量部である。
酸化チタンに担持された銅化合物の平均粒径は、好ましくは0.5~100nmである。0.5nm以上であると、結晶性がよくなり抗菌性、抗ウイルス性が向上する。100nm以下であると、(i)比表面積が大きくなり抗菌性、抗ウイルス性に優れる、(ii)酸化チタンの表面に良好に担持することができる、等の効果を有する。これらの観点から、銅化合物の平均粒径は、より好ましくは0.5~80nmであり、更に好ましくは1~70nmであり、特に好ましくは2~50nmである。なお、これらの粒子径は、電子顕微鏡を用いて観察することによって、確認することができる。
【0027】
一価銅(Cu(I))及び二価銅(Cu(II))の合計に対する一価銅(Cu(I))の存在比は、好ましくは20~70モル%である。20モル%以上であると、抗ウイルス性(ウイルス不活化性)に優れたものとなる。70モル%以下であると、相対的に二価銅(Cu(II))の量が多くなり、光触媒活性に優れたものとなる。これらの観点から、上記存在比は、下限値が、好ましくは20モル%であり、より好ましくは25モル%であり、上限値が、好ましくは70モル%であり、より好ましくは60モル%であり、更に好ましくは45モル%であり、より更に好ましくは35モル%である。当該存在比は、より好ましくは25~60モル%であり、更に好ましくは25~45モル%であり、特に好ましくは25~35モル%である。
【0028】
一価銅化合物としては、特に制限はないが、酸化銅(I)、硫化銅(I)、ヨウ化銅(I)、塩化銅(I)、及び水酸化銅(I)の1種又は2種以上が挙げられ、特に酸化銅(I)が好適に用いられる。
二価銅化合物としては、特に制限はないが、水酸化銅(II)、酸化銅(II)、塩化銅(II)、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、フッ化銅(II)、ヨウ化銅(II)、及び臭化銅(II)の1種又は2種以上が挙げられ、特に水酸化銅(II)(Cu(OH)2)が好適に用いられる。
なお、酸化チタンに担持された一価銅化合物及び二価銅化合物は、酸価銅(I)及び水酸化銅(II)を含むことが好ましく、酸価銅(I)及び水酸化銅(II)からなっていても好ましい。また、酸化チタンに担持された一価銅化合物及び二価銅化合物は、酸価銅(I)及び水酸化銅(II)を含み、かつ酸化チタンに担持された一価銅化合物及び二価銅化合物の総量中における酸価銅(I)及び水酸化銅(II)の割合は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上であり、より更に好ましくは100質量%である。
【0029】
特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒は、ルチル型酸化チタンの含有量が80モル%以上であり、かつ一価銅(Cu(I))及び二価銅(Cu(II))の合計に対する一価銅(Cu(I))の存在比が20~70モル%であることが好ましい。
【0030】
特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒は、特許第5129897号公報に開示されている通りに製造することができる。具体的には、ルチル型酸化チタンの含有量が50モル%以上である酸化チタンの表面に、一価銅化合物及び二価銅化合物を担持することにより製造することができる。
第1の製造例としては、ルチル型酸化チタンの含有量が50モル%以上である酸化チタンと二価銅化合物とを配合した懸濁液に、二価銅(Cu(II))を一価銅(Cu(I))に還元するための還元剤を添加する方法が挙げられ、第2の製造例としては、ルチル型酸化チタンの含有量が50モル%以上である酸化チタンと、酸化チタンの表面に担持された二価銅化合物とを含む触媒前駆体に対して、好ましくは窒素及びアルコールを含む雰囲気中で光照射して二価銅化合物の一部を一価銅化合物に還元する工程を含む方法が挙げられる。
【0031】
本発明の繊維物品において、繊維基材に対する無機微粒子の使用割合は、例えば無機微粒子として特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒を用いる場合は、有効成分として少なくとも抗菌性や抗ウイルス性が発揮される程度であればよく、具体的には0.1~20.0質量%とすることが好ましく、より好ましくは1.0~12.0質量%、特に好ましくは5.0~10.0質量%である。この用途において銅化合物担持酸化チタン光触媒の含有割合が過多である場合は、得られる繊維物品が銅化合物担持酸化チタン光触媒により劣化を起こしたり 、手触りが硬化したりする場合がある。一方、銅化合物担持酸化チタン光
触媒の含有割合が過少である場合は、十分な抗菌性や抗ウイルス性が得られないおそれがある。
本発明の繊維物品の製造方法においては、工程中に添加された特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒は、例えばその40質量%程度が繊維の内部に固定させることができるので、最終的に得られる繊維物品における特定の銅化合物担持酸化チタン光触媒の量から計算される量を製造方法において添加すればよい。
【0032】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0034】
<実施例1:ポリエステル繊維の加工>
アニオン電荷を有する浸透材を、0.3~3%/OWFとなるよう20倍の水に投入した。また、液流機に浴比15倍の常温~70℃の水を張り、ポリエステル繊維を固定して、前述のアニオン浸透材を投入し、10分間回した。その後、架橋剤としてポリエステル専用カチオン剤(シオンテック社製、電荷プラス剤およびマイナスの電荷を有する2つのカルボキシ基を有する物質を含有するもの)を10~30%/OWFとなるよう投入し、5分間以上回し、苛性ソーダを添加して浴比pH8~11に上げ、80~130℃に昇温し、ブローした。浴比15倍の繊維重量対応に対し、銅化合物担持酸化チタン光触媒「ウィルアン」(ナカ工業株式会社製)を1~20%/OWFとなるよう投入し、110~130℃まで昇温し、0.1~0.3%のクエン酸を加え、10分間ソーピングし、ブローして洗浄した。その後、通常の脱水を行い、テンターによって繊維を整えた。
得られた繊維物品を洗濯、水洗い等しても銅化合物担持酸化チタン光触媒の脱離は発生しなかった。
【0035】
<実施例2:綿の加工>
精練漂白された綿100%のGポプリン(目付量、280g/m2 )を、ジッカー染色機のローラに巻き付け、バスに浴比を張り、操行して水分を着け、アニオン浸透材を0.25~3%/OWFの1/2となるようバスに入れて染色機を回し、生地の浸透の逆から、残りのアニオン浸透材を入れて染色機を回した。その後、電荷プラス剤およびマイナスの電荷を有する2つのカルボキシ基を有する物質を含有する架橋剤10~50%を1/2ずつ、生地の前後に入れ、染色機を回した。その後、カチオン剤を溶解した液を1/4ずつ2~5%/OWFになるように、pH9~12の設定で投入し、昇温を開始して80℃まで昇温し、45~60分間バスに浴比を入れ、ソーピングし、常温で45~60分間。生地のpHが7~8までの確認後、銅化合物担持酸化チタン光触媒「ウィルアン」(ナカ工業株式会社製)を1~20%/OWFとなるよう1/2ずつ前後平均的に固着させるように投入し、80℃まで昇温し、45分間前後に回し、さらに、40分間ソーピングし、脱水した後、テンターによって繊維を整えながら乾燥させた。
得られた繊維物品を洗濯、水洗い等しても銅化合物担持酸化チタン光触媒の脱離は発生しなかった。
【0036】
<参考例B1:抗ウイルス試験片>
銅化合物担持酸化チタン光触媒「ウィルアン」(ナカ工業株式会社製)のスラリーを、50mm×50mmの大きさの不織布「6620T-20(PP)」(オーミケンシ株式会社製、目付量38g/m2 )に不織布の重量に対して10質量%となるようにコーティング方法により付着させて、試験片〔B1〕を得た。
【0037】
用いた銅化合物担持酸化チタン光触媒の電子顕微鏡写真を
図1および
図2に示す。
図1に示されるように、大きさ数百ナノメートルの粒子の表面に大きさが数ナノメートルのナノ粒子(
図1において黒矢印で示す)が担持されていることが確認される。銅化合物を担持させる工程を行わない試料においてはナノ粒子が観察されないことから、大きさ数百ナノメートルの粒子が酸化チタンであり、ナノ粒子が銅化合物であると考えられる。また、
図2において丸で囲ったポイント1とポイント2について、エネルギー分散型X線分光法(EDX)で分析した結果を
図3に示す。
図3に示されるように、EDXにおいてポイント1の銅のシグナルが大きいことから、大きさ10nm程度の銅化合物が酸化チタンの表面に担持されていることが確認された。
次に、銅化合物担持酸化チタン光触媒(Cu
x O/TiO
2 )における、一価銅(Cu
(I))及び二価銅(Cu(II))の存在を調べるため、エックス線吸収端近傍構造(X-ray Absroption Near Edge Structure:XANES)を測定した。一価銅、二価銅の標
準試料として、市販のCu
2 O、Cu(OH)
2 を用いた結果を
図4に示す。8979eVに現れるピークが一価銅、8994eVに現れるピークが二価銅に帰属され、本発明に係る銅化合物担持酸化チタン光触媒(Cu
x O/TiO
2 )には、一価銅と二価銅の両方
が含まれていることがわかった。
【0038】
<比較参考例B1:標準試験片>
参考例B1において、銅化合物担持酸化チタン光触媒を付着させなかった同じサイズの不織布を、比較用試験片〔B1X〕とした。
【0039】
上記の試験片〔B1〕および比較用試験片〔B1X〕を用いて、予備照射(紫外光(FL20S・BLB)1.0mW/cm2 で24時間)後、表裏それぞれを波長254nmの紫外光を15分間ずつ照射して無菌化した後、JIS R 1756:2020に準拠してバクテリオファージを用いた抗ウイルス性能評価試験を行った。
具体的には、シャーレ内に少量の滅菌水を加えたろ紙を敷き、ろ紙の上に厚さ5mm程度のガラス製の台を置き、その上に試験片〔B1〕あるいは比較用試験片〔B1X〕を置いた。この上にあらかじめ馴化しておき濃度(1.2×106 PFU/mL)も明らかとなっているQBファージ(NBRC20012)〔宿主大腸菌(NBRC 106373)〕懸濁液を0.3mL滴下し、試験片表面とファージを接触させるために60mm×60mmの大きさの密着ガラスを被せた。このシャーレに硼珪酸ガラス板で蓋をしたものを、測定用セットとした。同様の測定用セットを複数個用意した。この測定用セットを光照射用暗幕の中に入れ、白色蛍光灯「FL20SSW/18」にシャープカットフィルタB(N169、380nm以下の波長をカット)を取り付けたものを使用し、照度が500ルクス(光の照度は「IM-600M」(株式会社トプコン製)で測定した。)になる位置に複数個の測定用キットを静置し、4時間の光照射を行った後、試験片〔B1〕および比較用試験片〔B1X〕からQBファージを回収し、10倍の段階希釈を行い、それぞれ培養後、プラーク数をカウントして活性値を求めた。結果を表1に示す。
【0040】
表1において、
・VF-I :明所(照度条件F及びI(フィルタTypeB、500ルクス))での参考例に係る試験片の抗ウイルス活性値
・F:試験で用いたシャープカットフィルタの種類(TypeB)
・I:試験で用いた可視光照度(500ルクス)
・A:比較用試験片(無加工品)の接種直後の3試験片のバクテリオファージ感染価の平均値(PFU/sample)
・BF-I :比較用試験片(無加工品)を照度条件F及びIで4時間光照射した後の3試験片のバクテリオファージ感染価の平均値(PFU/sample)
・CF-I :参考例に係る試験片を照度条件F及びIで4時間光照射した後の3試験片のバクテリオファージ感染価の平均値(PFU/sample)
・VD :暗所での参考例に係る試験片の抗ウイルス活性値
・BD :比較用試験片(無加工品)を4時間暗所に保存した後の3試験片のバクテリオファージ感染価の平均値(PFU/sample)
・CD :参考例に係る試験片を4時間暗所に保存した後の3試験片のバクテリオファージ感染価の平均値(PFU/sample)
・ΔV:参考例に係る試験片の光照射による効果
であり、
式(1):VF-I =[log(BF-I /A)-log(CF-I /A)]=log(BF-I /CF-I )=log(BF-I )-log(CF-I )
式(2):VD =[log(BD /A)-log(CD /A)] =log(BD /CD )=log(BD )-log(CD )
式(3):ΔV=VF-I -VD
でそれぞれ計算した。
【0041】
【0042】
<参考例B2:抗菌試験片>
銅化合物担持酸化チタン光触媒「ウィルアン」(ナカ工業株式会社製)のスラリーを、50mm×50mmの大きさの不織布「6620T-20(PP)」(オーミケンシ株式会社製、目付量38g/m2 )に不織布の重量に対して10質量%となるようにコーティング方法により付着させて、試験片〔B2〕を得た。
【0043】
<比較参考例B2:標準試験片>
参考例B2において、銅化合物担持酸化チタン光触媒を付着させなかった同じサイズの不織布を、比較用試験片〔B2X〕とした。
【0044】
上記の試験片〔B2〕および比較用試験片〔B2X〕を用いて、予備照射(紫外光(FL20S・BLB)1.0mW/cm2 で24時間)後、表裏それぞれを波長254nmの紫外光を15分間ずつ照射して無菌化した後、JIS R 1752:2020に準拠して細菌(黄色ブドウ球菌)を用いた抗菌性能評価試験を行った。
具体的には、シャーレ内に少量の滅菌水を加えたろ紙を敷き、ろ紙の上に厚さ5mm程度のガラス製の台を置き、その上に試験片〔B2〕あるいは比較用試験片〔B2X〕を置いた。この上にあらかじめ濃度(1.1×105 PFU/mL)が明らかとなっている黄色ブドウ球菌(NBRC12732)の懸濁液を0.3mL滴下し、試験片表面と細菌を接触させるために60mm×60mmの大きさの密着ガラスを被せた。このシャーレに硼珪酸ガラス板で蓋をしたものを、測定用セットとした。同様の測定用セットを複数個用意した。この測定用セットを光照射用暗幕の中に入れ、白色蛍光灯「FL20SSW/18」にシャープカットフィルタB(N169、380nm以下の波長をカット)を取り付けたものを使用し、照度が500ルクス(光の照度は「IM-600M」(株式会社トプコン製)で測定した。)になる位置に複数個の測定用キットを静置し、8時間の光照射を行った後、試験片〔B2〕および比較用試験片〔B2X〕から細菌を回収し、10倍の段階希釈を行い、それぞれ培養後、コロニー数をカウントして活性値を求めた。結果を表2に示す。
【0045】
<参考例B3および比較参考例B3>
参考例B2および比較参考例B2において、試験片〔B2〕および比較用試験片〔B2X〕と同じものを用意して、黄色ブドウ球菌の代わりに大腸菌(NBRC3972)(濃度9.4×104 PFU/mL)を用いて同様に抗菌性能評価試験を行った。結果を表3に示す。
【0046】
表2、表3において、
・RF-I :明所(照度条件F及びI(フィルタTypeB、500ルクス))での参考例に係る試験片の抗菌活性値
・F:試験で用いたシャープカットフィルタの種類(TypeB)
・I:試験で用いた可視光照度(500ルクス)
・A:比較用試験片(無加工品)の接種直後の3試験片の生菌数の平均値(PFU/sample)
・BF-I :比較用試験片(無加工品)を照度条件F-Iで8時間光照射した後の3試験片の生菌数の平均値(PFU/sample)
・CF-I :参考例に係る試験片を照度条件F-Iで8時間光照射した後の3試験片の生菌数の平均値(PFU/sample)
・RD :暗所での参考例に係る試験片の抗菌活性値
・BD :比較用試験片(無加工品)を8時間暗所に保存した後の3試験片の生菌数の平均値(PFU/sample)
・CD :参考例に係る試験片を8時間暗所に保存した後の3試験片の生菌数の平均値(PFU/sample)
・ΔR:参考例に係る試験片の光照射による効果
であり、
式(4):RF-I =[log(BF-I /A)-log(CF-I /A)]=log(BF-I /CF-I )=log(BF-I )-log(CF-I )
式(5):RD =[log(BD /A)-log(CD /A)] =log(BD /CD )=log(BD )-log(CD )
式(6):ΔR=RF-I -RD
でそれぞれ計算した。
【0047】
【0048】
【要約】
本発明は、抗ウイルス性や抗菌性に優れた繊維物品の製造方法および繊維物品を提供することを目的とする。
本発明の繊維物品の製造方法は、繊維基材と、これに固定される無機微粒子とを有する繊維物品を製造する方法であって、水系媒体中において前記繊維基材またはその原料繊維よりなる繊維材料に対して架橋剤を作用させ、前記繊維材料を両イオン化させる繊維両イオン化工程と、前記繊維両イオン化工程によって両イオン化された繊維材料と、前記無機微粒子とを水系媒体中において接触させる無機微粒子固定工程とを有することを特徴とする。