(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】風力発電設備
(51)【国際特許分類】
F03D 80/30 20160101AFI20240221BHJP
【FI】
F03D80/30
(21)【出願番号】P 2020019969
(22)【出願日】2020-02-07
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】511019144
【氏名又は名称】株式会社落雷抑制システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】松本 敏男
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/185753(WO,A1)
【文献】特開2012-246812(JP,A)
【文献】特開2016-081889(JP,A)
【文献】特開2018-081801(JP,A)
【文献】特開2017-227189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 80/30
H05F 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風を受けて回転させられる風車により発電を行うとともに、発電された電力を送電する風力発電設備であって、
前記風車を構成するブレードの本体の先端部分に落雷抑制手段が設けられ、この落雷抑制手段が、前記ブレードの本体の先端部分に電気絶縁状態で装着され良電導体によって半球殻状または扁平半球殻状に形成された第1電極と、この第1電極に電気絶縁状態で前記ブレードが回動する半径方向に対峙させられ良電導体によって半球殻状または扁平半球殻状に形成された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介装され、これらを、所定間隔をおいて接続する電気絶縁体からなる連結部材とを備え、
前記第2電極において、前記ブレード側を向く面は、前記ブレードの本体の断面形状と対応して
形成され、前記ブレードの本体の先端側の面に
接触され、
前記第2電極に、大地に接地された接地線が電気的に接続されていることを特徴とする風力発電設備。
【請求項2】
前記連結部材が環状に形成され、この連結部の中心軸線方向それぞれの端部に、前記第1電極および前記第2電極の開口端縁が圧入固定されていることを特徴とする請求項1に記載の風力発電設備。
【請求項3】
前記第1電極と前記第2電極との間に、それぞれに帯電する電荷を集中させる放電手段が設けられていることを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の風力発電設備。
【請求項4】
前記放電手段が、前記第1電極内面中央部および前記第2電極内面中央部のそれぞれに形成され、所定間隔で対峙させられる突起によって構成されていることを特徴とする請求項3に記載の風力発電設備。
【請求項5】
前記第1電極が略球殻状に形成され、前記第2電極が前記第1電極と相似形の球状に形成され、この第2電極が前記第1電極内に、全周にわたって均一な間隔を置いて配置され、前記第2電極が、前記第1電極を貫通して配置された支持ロッドに固定支持され、この支持ロッドの前記第1電極の貫通部分に、これらを電気絶縁状態で連結するスペーサーが介装されていることを特徴とする請求項1に記載の風力発電設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電設備に係わり、特に、風力発電設備を構成する風車への落雷を抑制して、その損傷を抑制するようにした風力発電設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、再生可能エネルギーの一つとして風力発電エネルギーが知られている。
この風力発電エネルギーを生成する風力発電設備は、高い支柱と、この支柱の上部に装着され、発電機が内装されたナセルと、このナセルに装着されて前記発電機を回転駆動する多数のブレードとからなる風車を備えている。
【0003】
この風力発電設備は、風によって前記ブレードが回転させられることにより、これらのブレードの回転によって前記発電機を駆動して発電を行なうようになっている。
【0004】
このような風力発電設備にあっては、風を効率よく受け止めるために、前記支柱を高くして、前記ブレードの設置位置を高くしている。
また、発電量を大きくするために、前記ブレードも長く大きくしている。
【0005】
ところで、このように高所に伸びるように設置される風力発電設備では、落雷が発生しやすい。
そして、前記ブレードへ落雷すると、その雷撃によってブレードやナセルが破損し、発電が行なえなくなってしまう。また、ブレードが破損し、その一部が落下すると、ナセルに加えて支柱にも損傷を与える事例がある。
【0006】
このような不具合に対し、従来では、たとえば、特許文献1に示されるような対処技術が提案されている。
【0007】
この技術は、ブレードの先端に金属製の受雷部を設け、この受電部に接地線を電気的に接続し、この接地線を前記ブレードの内部を経て地面に埋設した構成となっている。
【0008】
そして、前記風力発電設備へ向かう落雷が発生した場合、その落雷を、前記受雷部に誘導して受け、その雷撃を、前記接地線を介して前記受雷部から地面へ流すことにより、前記雷撃が前記ブレードやナセルを通過することを回避して、このブレードやナセルの損傷を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前述した従来の技術にあっては、なお、つぎのような改善すべき問題点が残されている。
【0011】
すなわち、前記ブレードの回転が停止している状態では、前記受雷部が定位置にある。
この状態で前記ブレードへ向けて落雷が発生した場合、この落雷を、定位置にある前記受雷部に誘導して受け、その雷撃を、前記接地線を通して地面へ放出することができる。
【0012】
しかしながら、前記ブレードが回転していると、その先端の線速度、すなわち、前記受雷部の移動速度が速いために、前記ブレードへ向かう落雷を前記受雷部へ誘導することができないことが想定される。
【0013】
このように、前記ブレードへ向かう落雷を前記受雷部に誘導することができないと、前記落雷が、前記ブレードの、前記受雷部以外の部位において起こり、その雷撃が前記ブレード自体を通過して、前記ナセルや支柱を介して地面へ放出される。
【0014】
そして、前記ブレードやナセル、および、支柱内を通過する雷撃によって、ブレードやナセルに損傷を与えてしまうことが想定される。
【0015】
このような問題点は、落雷を、重要な施設若しくは設備等の被保護体以外の場所に誘導し、これによって、落雷の際に生じる雷撃から前述した被保護体を保護するという思想に基づいていることに起因している。
【0016】
そこで、本発明は、被保護体近傍への落雷自体を抑制してこれらを保護するという思想に基づき、前記ブレードやナセルへの雷撃を抑制することができる風力発電設備を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、前述した課題を解決するために、風を受けて回転させられる風車により発電を行うとともに、発電された電力を送電する風力発電設備であって、前記風車を構成するブレードの本体の先端部分に落雷抑制手段が設けられ、この落雷抑制手段は、前記ブレードの本体の先端部分に電気絶縁状態で装着され良電導体によって形成された第1電極と、この第1電極に電気絶縁状態で対峙させられ良電導体によって形成された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介装され、これらを、所定間隔をおいて接続する電気絶縁体からなる連結部材と、を備え、かつ、前記第2電極に、大地に接地された接地線が電気的に接続されていることを特徴とする。
【0018】
ここで、落雷の現象を詳細に観察すると、夏季に起こる一般的な落雷(夏季雷)の場合、雷雲が成熟すると雷雲からステップトリーダが大気の放電しやすいところを選びながら大地に近づいてくる。
ステップトリーダが大地とある程度の距離になると大地または建築物(避雷針)、木などからステップトリーダに向かって、微弱電流の上向きストリーマ(お迎え放電)が伸びてくる。
このストリーマとステップトリーダが結合すると、その経路を通って、雷雲と大地間に大電流(帰還電流)が流れる。これが落雷現象である。
【0019】
本発明は、前記構成のブレードにより、前述した上向きストリーマの発生を起こりにくくしたものである。
すなわち、前記ブレードは、電気絶縁状態で配置される前記第1電極および前記第2電極を有し、第2電極のみが接地されている。
【0020】
したがって、例えばマイナス電荷が雲底に分布した雷雲が近づくと、それとは逆の電荷(プラス電荷)が大地の表面に分布し、雲底のマイナス電荷に引き寄せられて前記第2電極がプラス電荷に帯電する。
【0021】
すると、絶縁体を介して配置されている第1電極は、コンデンサの作用でマイナス電荷を帯びる。
この作用により、前記ブレードとその周辺における上向きストリーマの発生を起こりにくくし、落雷の発生を抑制する。
【0022】
このような落雷抑制効果は、風車のみならず、風車に併設される給配電施設へも及ぶことが期待される。
【0023】
そして、前記第1電極と前記第2電極との間に、それぞれに帯電する電荷を集中させる放電手段を設けることができる。
【0024】
この放電手段は、雷雲に帯電する電荷量が想定外に大きく、第1電極に帯電させられる電荷によって落雷を抑制することが困難な状況が生じた場合、落雷を第1電極に導くとともに、そのエネルギーを、前記放電手段を介して第2電極および接地線を介して大地へ放出する。
したがって、雷撃を大地へ有効に導き風車の損傷を抑制することができる。
【0025】
前記落雷抑制手段は、前記第1電極および前記第2電極のそれぞれを略半球殻状に形成し、前記連結部材を環状に形成し、この連結部の中心軸線方向それぞれの端部に、前記第1電極および前記第2電極の開口端縁を圧入固定することによって構成することができる。
【0026】
前記放電手段は、前記第1電極内面中央部および前記第2電極内面中央部のそれぞれに形成され、所定間隔で対峙させられる突起によって構成することができる。
【0027】
このような構成とすることにより、各突起の高さを調整することにより、これらの間隔を容易に調整することができる。
したがって、落雷を避けられない状況が生じた際の、雷撃の大地への放出機能の調整を容易に行うことができる。
【0028】
また、落雷抑制手段は、前記第1電極を略球殻状に形成し、前記第2電極を前記第1電極と相似形の球状に形成し、この第2電極を前記第1電極内に、全周にわたって均一な間隔を置いて配置し、前記第2電極を、前記第1電極を貫通して配置された支持ロッドに固定支持し、この支持ロッドの前記第1電極の貫通部分に、これらを電気絶縁状態で連結するスペーサーを介装することによって構成することもできる。
このような構成とすることにより、第1電極の表面積を大きくして、この第1電極に帯電する電荷量を増加させることができる。
【0029】
前記落雷抑制手段の少なくとも一部を、特に、第1電極、第2電極、連結部材を、前記ブレードの本体の断面形状に対応する扁平状に形成することもできる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の風力発電設備によれば、風車のブレードに設けられた、絶縁された第1電極と第2電極により、風力発電設備回りにおけるストリーマの発生を抑えて、落雷の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態1が適用された風力発電設備を示す正面図である。
【
図2】本発明の実施形態1が適用された風車のブレードの要部の拡大縦断面図である。
【
図3】本発明の実施形態1を示すもので、
図2のIII―III線断面図である。
【
図4】本発明の実施形態2が適用された風車のブレードの要部の拡大縦断面図である。
【
図5】本発明の実施形態2を示すもので、
図4のV-V線断面図である。
【
図6】本発明の実施形態3が適用された風車のブレードの要部の拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1において、符号1は、本発明の実施形態1が適用された風力発電設備を示す。この風力発電設備1は、地面Aに立設された風力発電用の風車2と、この風車2において発電された電気エネルギーの給配電を行なう給配電施設3、および、送電線4を備えている。
【0033】
前記風車2は、支柱5、この支柱5の上端に設けられたナセル(図示略)、および、このナセルに装着された複数のブレード6を備えており、これらのブレード6のそれぞれの先端部に落雷抑制手段7が設けられている。
【0034】
また、前記支柱5の内部には接地線8が内装され、その一端部が前記落雷抑制手段7へ電気的に接続され、他端部が地面Aに埋設されて接地されている。
【0035】
そして、前記各ブレード6はナセルの内部に装着されている発電機(図示略)に接続されており、前記ブレード6が、風を受けて回転させられることにより、前記発電機を駆動して発電を行なうようになっている。
【0036】
前記落雷抑制手段7は、
図2および
図3に示すように、略半球殻状の第1電極9および第2電極10と、第1電極9の周縁部と第2電極10の周縁部との間に介装されて、これらを、所定間隔をおいて絶縁状態で連結する連結部材11と、前記第2電極10に取り付けられた支持部材12と、を備えている。連結部材11は電気絶縁体により形成されており、第1電極9の周縁部と第2電極10の周縁部とに連結されて、これらを、所定間隔をおいて連結するようになっている。この連結手段としては、図示例のように嵌め合わせ構造とし、これに接着剤を使用して接着面積を大きくすることで結合強度を高めている。また、ビス止めやねじ止め構造を加えて、さらに結合強度を高めても良い。
【0037】
一方、第1電極9および第2電極10の内面中央には、これらの両電極9・10が連結された状態において、所定距離Lをおいて対峙される突起9a・10aが一体に突設されている。突起9a・10aは、それぞれの先端部が半球面状に形成されている。
【0038】
本実施形態においては、前記突起9a・10aによって放電手段が構成され、雷雲によって発生させられる電荷量が許容値以上に上昇した際に、落雷を第1電極9へ導くとともに、突起9aと突起10aとの間で放電させて、落雷の雷撃(大電流)を、接地線8を介して大地Aへ放出するようになっている。
【0039】
また、支持部材12は、第2電極10に、その下面側から螺着される支持ロッド13と、この支持ロッド13と第2電極10との固定をなす固定手段14とによって構成されている。
【0040】
前記支持ロッド13は、非導電体によって形成されたブレード6の本体内に一体となるように埋設されているとともに接地線8が電気的に接続されている。
【0041】
このように構成された本実施形態においては、
図1に示すように、マイナス電荷が雲底に分布した雷雲が近づくと、それとは逆の電荷(プラス電荷)が大地Aの表面に分布し、この電荷が接地線8を介して第2電極10にプラス電荷が集まるようになる。
【0042】
一方、絶縁体を介して配置されている第1電極9は、コンデンサの作用でマイナス電荷を帯びる。
この作用により、前記ブレード6とその周辺における上向きストリーマの発生が起こりにくく、この結果、落雷の発生を抑制する。
【0043】
このような上向きストリーマの発生抑制作用は、前記ブレード6が回転している状態であっても保持される。
したがって、前記ブレード6が停止している状態であっても回転している状態であっても、前記ブレード6やその他の風車2の構成部材、あるは、風車2に併設される諸設備への落雷を抑制することができる。
【0044】
これによって、前記ブレード6の健全性、ひいては、風力発電設備1の健全性を大幅に高めることができる。
【0045】
図4および
図5は本発明の実施形態2を示す。
本実施形態2は、落雷抑制手段20に変更を加えたもので、第1電極21を略球殻状に形成し、第2電極22を第1電極21と相似形の球状に形成し、この第2電極22を第1電極21内に、全周にわたって均一な間隔を置いて配置し、第2電極22を、第1電極21を貫通して配置された支持ロッド23に固定支持し、この支持ロッド23の第1電極21の貫通部分に、これらを電気絶縁状態で連結するスペーサー24を介装した構成としたものである。第1電極21は、その内部に第2電極22を収容可能にするため、図示例では、半球状に分割製作したものを溶接止めにより球殻状に一体化する構成としている。
【0046】
このような構成とすることにより、第1電極21の表面積を増加させて、第1電極21に帯電する電荷量を増加させることができる。
これによって、雷雲に発生させられるマイナス電荷量が増加した際における落雷抑制効果を高めることができる。
【0047】
図6は本発明の実施形態3を示す。
本実施形態3では、落雷抑制手段30の第1電極31を、本来のブレード6先端の形状に近い形状としたものである。
また、符号32は第2電極を、符号33は連結部材をそれぞれ示している。その他の構成は
図2および
図3に示す実施形態と同様である。
【0048】
このような構成とすることにより、落雷抑制手段30を、ブレード6の形状変更を最小限度に抑えつつ装着することができる。
また、第1電極31の表面積を大きくして、マイナス電荷の帯電量を増加させることができる。
【0049】
なお、前記各実施形態において示した各構成部材の諸形状等は一例であって設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、支持部材12として、パイプ状のものや、断面楕円状のものなどを用いても良い。また、落雷抑制手段7の具体的な輪郭形状として、図示例のものよりも扁平度を高めたり、球形あるいは球形に近い扁平状にしたりすることもできる。
【0050】
ブレードの風力学上の性能向上の点からは、ブレードの本体の断面形状に近い扁平状、あるいはブレードの本体の断面形状と同様の扁平状に形成することが望ましい。
一方、落雷抑制効果向上の観点からは、落雷抑制手段の第1電極の表面積を大きく形成できる立体形状とすることが望ましい。
【符号の説明】
【0051】
1 風力発電設備
2 風車
3 給配電施設
4 送電線
5 支柱
6 ブレード
7 落雷抑制手段
8 接地線
9 第1電極
9a 突起
10a 突起
10 第2電極
11 連結部材
12 支持部材
13 支持ロッド
14 固定手段
20 落雷抑制手段
21 第1電極
22 第2電極
23 支持ロッド
24 スペーサー
30 落雷抑制手段
31 第1電極
32 第2電極
33 連結部材
A 地面