(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】止水剤組成物およびその硬化物としての弾性止水材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20240221BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C09K3/10 E
C09K3/10 Q
C08F2/44 A
(21)【出願番号】P 2020140088
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】520320457
【氏名又は名称】株式会社エヌ・エス・テック
(73)【特許権者】
【識別番号】512290344
【氏名又は名称】株式会社コーケン
(73)【特許権者】
【識別番号】304059775
【氏名又は名称】飯森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】飯森 博
(72)【発明者】
【氏名】平山 翊志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 則雄
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-099911(JP,A)
【文献】特開2017-095622(JP,A)
【文献】特開2010-254800(JP,A)
【文献】特表2007-505967(JP,A)
【文献】特開2003-213260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/10- 3/12
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(I)
【化1】
(式中、R
1は水素原子又はメチル基でnは2以上で50以下の整数)
で表されるポリエチレングリコ-ルモノ(メタ)アクリレ-トと、
(B)末端(メタ)アクリロイル基含有多価金属塩と、
(C)無機充填剤と、
を主成分として含み、
前記(C)無機充填剤が、水膨潤性粘土鉱物、スクメタイト系粘度鉱物、多孔性材料、ガラスフレーク、珪石、またはこれらの任意の混合物であり、
前記主成分100質量部における(B)末端(メタ)アクリロイル基含有多価金属塩の配合割合が、(50/99.4×100)~70質量部であり、
前記主成分の合計100質量部における(C)無機充填剤の配合割合が30質量部を超過し、70質量部以下であり、
さらに(D)一般式(II)
【化2】
(式中、R
2、R
3はそれぞれ水素原子又はメチル基でmが2以上で50以下の整数)で表されるポリエチレングリコ-ルジ(メタ)アクリレ-トを含み、
前記主成分100質量部に対する(D)ポリエチレングリコ-ルジ(メタ)アクリレ-トの配合割合が、
0.1~0.6質量部であることを特徴とする止水剤組成物。
【請求項2】
前記(C)無機充填剤が、水膨潤性粘土鉱物である、請求項1に記載の止水剤組成物。
【請求項3】
前記主成分100質量部における、前記(A)ポリエチレングリコ-ルモノ(メタ)アクリレ-トの配合割合が2~15質量
部であることを特徴とする、請求項1または2に記載の止水剤組成物。
【請求項4】
R
1、R
2、R
3のいずれもメチル基である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の止水剤組成物。
【請求項5】
更に、(E)グリコ-ル類を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の止水剤組成物。
【請求項6】
更に、酸化剤及び還元剤を含む請求項1~
5のいずれか1項に記載の止水剤組成物。
【請求項7】
更に、水分散剤を含む請求項1~
6のいずれか1項に記載の止水剤組成物。
【請求項8】
更に、水溶性物質を含む請求項1~
7のいずれか1項に記載の止水剤組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の止水剤組成物の硬化物であることを特徴とする弾性止水材。
【請求項10】
表面上に水溶性物質による皮膜を有する請求項
9に記載の弾性止水材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水材組成物およびその硬化物としての弾性止水材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、土木、建築においてコンクリ-トの打継部、施工上のジョイント部等の止水には、アスファルト系、ゴム系、樹脂系のシ-ル材、あるいはセメント系、スメクタイト(膨潤性の粘度鉱物)系の止水材などが用いられている。
【0003】
このうち、スメクタイトの一種であり、水膨潤性を有するベントナイト等を含む止水材は、止水性、長期安定性に優れ、吸水により膨張して自己シ-ル性を有する。ベントナイトなどの水膨潤性材料は、粉末もしくは粒状物の状態でそのまま用いる方法もあるが、施工性を考慮して、樹脂シ-ト、段ボ-ル、不織布等により水膨潤性材料を挟持することにより止水パネル、もしくは止水シ-トとて用いる方法、および樹脂シ-ト、段ボ-ル、不織布等に水膨潤性材料を接着剤で貼り付けて得られる複合止水材を用いる方法も知られている。
【0004】
しかし、上記のような水膨潤性材料を主成分とした止水材は、応力負荷後歪(変形)発生後は復元することが難しく、再漏水を回避できないことがある。すなわち、長期間にわたって、持続的止水効果を維持と下地変形時の追従性は十分とは言えず、恒久的に止水効果を持続する打継部止水材は実用化されていない。
【0005】
また、近年の大震災による地下構造物の耐震基準の見直しや大深度地下空間利用の増加等により打継部止水材に求められる機能も高水準化し、大変形吸収、高圧漏水止水などの要求も高度化している。また、地震等によりの応力負荷を受けた後には、止水材の変形の復元、止水性の維持等、これまでとは異なる多様な機能も求められている。
【0006】
可塑性止水材としては、例えば、特許文献1~3に、水膨潤性粘土鉱物とゲル化油、水膨潤性粘土鉱物と水溶性高分子等又は水膨張性粘土鉱物と吸水性樹脂を含むエラストマ-からなる可塑性止水材が提案されている。しかしながら、このような可塑性止水材は応力負荷による変形復元性が低く、水膨張性粘土鉱物が水に浸漬された後に止水材適用部分に崩壊等が生ずれば、必ずしも十分に再漏水防止や、恒久止水ができるものではない。
【0007】
また、特許文献4には、水膨潤性粘土鉱物、金属水酸化物、芳香族炭化水素系油等から構成されるゲル化油を用いて粘土状可塑性止水材を作成し、その表面に水溶性物質を被覆した複合止水材が提案されている。しかし、特許文献4によれば可塑性止水材のべたつき解消として水溶性物質を被覆する機能の提案がなされているのみであり、恒久止水効果の解決策が提示されているものではない。
【0008】
特許文献5は、水膨潤性粘土鉱物、アスファルト、感温性改善剤及び補強性充填剤から選ばれる少なとも1つを含有する水膨潤性組成物を提供するものであるが、同文献の組成物によっても、特に可塑性止水材の応力負荷による復元性は改善されていない。
【0009】
さらに、特許文献6には、繊維状物質またはゴム弾性物質による芯材と、水膨潤性粘土組成物からなる表面との複層構成の止水材が、継ぎ目の目開きが生じても止水機能が低下しない止水材であるとして提案されている。しかしながら、この止水材も応力の部分負荷時の復元力に乏しく、再漏水の解決には至っていない。
【0010】
また、特許文献7はポリエチレングリコ-ルモノ(メタ)アクリレ-ト、ポリエチレングリコ-ルジ(メタ)アクリレ-ト、末端(メタ)アクリロイル基含有多価金属塩並びにグリコ―ル類からなる止水剤組成物、およびこの止水剤組成物にさらに水硬性セメントを添加した止水剤組成物も提案されている。しかし、前者の止水剤組成物は含水ゲル化物であるため、強度特性には改善の余地があり、施工時に切断がされれば再漏水の懸念が生じる。また、後者の水硬性セメントを含んだ止水剤組成物は、硬化後の止水材の弾力性に着目されておらず、が曲面部施工の際に局面の湾曲に十分に追従しない場合がある。さらに、長期にわたり使用された止水材においては、吸水率が低下する傾向にある上、小さな応力が加わっても大変形が生じ、その変形の回復が困難な場合もある。すなわち、材質の経年変化および使用条件により、止水材が乾燥時に収縮した後、再び水中に浸漬しても、十分に再膨潤できない状態となれば再漏水を防げないことになりかねない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平8-231956号公報
【文献】特許第4009462号公報
【文献】特開2001-32694号公報
【文献】特許第3497027号公報
【文献】特許第3467403号公報
【文献】特開2001-20692号公報
【文献】特許第6074484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、従来技術における止水剤組成物においては、圧縮復元性、乾燥後の水浸漬再膨潤性、耐衝撃性、および止水処理施工面の、入隅などの湾曲部への曲面追従性について更なる改善が望まれている。
【0013】
従って、本発明の目的は、従来技術の不具合を解消し、圧縮復元性、乾燥後の水浸漬再膨潤性、特に長期使用後の水浸漬再膨潤性、および追従性(特に入隅などの湾曲部への曲面追従性)に優れた止水材を製造するための止水剤組成物、およびその止水剤組成物による止水材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、鋭意検討の結果、
(A)一般式(I)
【化1】
(式中、R
1は水素原子又はメチル基でnは2以上で50以下の整数)
で表されるポリエチレングリコ-ルモノ(メタ)アクリレ-トと、
(B)末端(メタ)アクリロイル基含有多価金属塩と、
(C)無機充填剤と、
を主成分として含み、
(C)無機充填剤が、水膨潤性粘土鉱物、スクメタイト系粘度鉱物、多孔性材料、ガラスフレーク、珪石、またはこれらの任意の混合物であり、
主成分100質量部における(B)末端(メタ)アクリロイル基含有多価金属塩の配合割合が、(50/99.4×100)~70質量部であり、
主成分の合計100質量部における(C)無機充填剤の配合割合が30質量部を超過し、70質量部以下であり、
さらに(D)一般式(II)
【化2】
(式中、R
2、R
3はそれぞれ水素原子又はメチル基でmが2以上で50以下の整数)で表されるポリエチレングリコ-ルジ(メタ)アクリレ-トを含み、
主成分100質量部に対する(D)ポリエチレングリコ-ルジ(メタ)アクリレ-トの配合割合が、
0.1~0.6質量部であることを特徴とする止水剤組成物により解決されることを見出した。
【0015】
上記止水剤組成物において、(C)無機充填剤は、水膨潤性粘土鉱物であることが好ましい。
【0017】
上記止水剤組成物の主成分100質量部に対し、(A)ポリエチレングリコ-ルモノ(メタ)アクリレ-トの配合割合が2~15質量部であり、かつ前記(B) 末端(メタ)アクリロイル基含有多価金属塩の配合割合が20~70質量部であることが好ましい。
【0018】
一般式(I)および一般式(II)におけるR1、R2、R3のいずれもメチル基であることが好ましい。
【0019】
本発明の水剤組成物は、更に、(E)グリコ-ル類を含むことが好ましい。
【0020】
本発明の止水剤組成物は、更に、酸化剤及び還元剤を含むことが好ましい。
【0021】
本発明の止水剤組成物は、更に、水分散剤を含むことが好ましい。
【0022】
本発明の水剤組成物は、更に、水溶性物質を含むことが好ましい。
【0023】
本発明の上記課題は、上記各止水剤組成物の硬化物である弾性止水材によっても達成される。
【0024】
上記弾性止水材は、その表面上に水溶性物質による皮膜を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の止水剤組成物を用いることにより、ビルや家屋などの各種建築物、トンネル等の構造体におけるコンクリート等の無機材料の打継部、配管のつなぎ目、および外壁目地の止水が良好に行われる。更に、本発明の止水剤組成物の硬化物は、その圧縮復元性、乾燥後の水浸漬再膨潤、耐衝撃性、機械強度、及び耐久性等に優れるため、優れた止水効果を発揮し、長期間にわたる設置においても止水効果に優れ、再漏水防止性が飛躍的に向上する。本発明の止水剤組成物は現場で施工対象物に注入して硬化する方法により、または予め所望の形状の硬化物として成形し、これを施工現場にて敷設することも可能であり、いずれの場合にも上述の各効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の止水剤組成物は、(A)一般式(I)
【化3】
(式中、R
1は水素原子又はメチル基でnは2以上で50以下の整数)
で表されるポリエチレングリコ-ルモノ(メタ)アクリレ-ト(成分(A)ともいう)と、
(B)末端(メタ)アクリロイル基含有多価金属塩(成分(B)ともいう)と、
(C)無機充填剤(成分(C)ともいう)と、
を主成分として含み、主成分の合計100質量部における(C)無機充填剤の配合割合が30質量部を超過し、70質量部以下であることを特徴とする。
【0027】
<成分(A):ポリエチレングリコ-ルモノ(メタ)アクリレ-ト>
本発明の止水材組成物の必須成分の一つである成分(A)は
一般式(I)
【化4】
(式中、R
1は水素原子又はメチル基、好ましくはメチル基で、nは2以上で50以下、好ましくは2以上で18以下、特に好ましくは2以上12以下の整数)で表されるポリエチレングリコ-ルモノ(メタ)アクリレ-ト化合物(以下ポリエチレングリコールをPEGと、ポリエチレングリコールをPEGモノ(メタ)アクリレ-トと略記する)であり、1種類以上、すなわち単独で用いても、もしくは上記式で表されるもののうち異なる化合物の混合物であってもよい。
【0028】
式(I)のR1がメチルである場合、すなわち成分(A)の化合物がポリエチレングリコールモノメタアクリレ-トである場合、反応速度が向上し、組成物の硬化速度が上昇する。また、式(I)のn(すなわちEO付加モル数)を2以上とすることにより、十分な強度の硬化物を得ることが可能となる他、化合物の蒸気圧も低くなることから、作業場の安全性も向上する。一方、式(I)のnを50以下とすることにより、重合密度が低くなりすぎず、所望の弾性を有する硬化物を得ることができる。また、式(I)中のnを50以下とすることにより、この化合物を含む止水剤組成物の粘度向上を抑制することができる。これをコンクリート躯体等の漏水箇所に圧入する場合にはヘヤークラック(一般に幅0.3mm以下の微小クラック)への浸透も良好となる。
【0029】
PEGモノ(メタ)アクリレ-ト化合物は、エチレンオキサイド(アルキレンオキサイド)付加モル数2~50(2以上で50以下の整数)からなるポリオキシエチレグリコ-ル(ポリオキシアルキレングリコ-ル)の末端の一方のOH基と、アクリル酸(またはメタクリル酸)とのエステル化反応あるいは上記一方のOH基と、(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応によって得られる。
【0030】
PEGモノ(メタ)アクリレ-トとしては、例えばジエチレングリコ-ルモノアクリレ-ト、トリエチレングリコ-ルモノアクリレ-ト、ジエチレングリコ-ルモノメタアクリレ-ト、PEG#200(平均付加モル数4.5)モノメタクリレ-ト、PEG#200(平均付加モル数4.5)モノアクリレ-ト、PEG#350(平均付加モル数8)モノメタアクリレ-ト、PEG#400(平均付加モル数10)モノアクリレ-ト、PEG#600(平均付加モル数14)モノメタクリレ-ト、PEG#1000(平均付加モル数23)モノアクリレ-ト、PEG#2000(平均付加モル数46)モノメタアクリレ-ト等が挙げられる。これらは単独(1種類)で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いても良い。特に、メタクリレ-トが好ましい。
【0031】
水溶性を低下させない程度であれば、ポリプロピレングリコ-ルモノアクリレ-ト、メトキシポリエチレングリコ-ルモノアクリレ-ト、エチルジエチレングリコ-ルアクリレ-ト、メチルトリエチレングリコ-ルアクリレ-ト等を併用しても差し支えない。
【0032】
本発明では成分(A)、成分(B)、および成分(C)を主成分とするが、この主成分の合計100質量部に対して、(A)成分は2~15質量部の範囲とすることが好ましく、7質量部~15質量部の範囲とすることが特に好ましい。(A)成分を2~15質量部とすることにより、水浸漬後の膨潤率、圧縮復元及び不透水性を良好に確保できる。更に組成物の硬化物の弾性と強度のバランスが上昇し、強靭性が増大する。また(A)成分を7質量部~15質量部の範囲とすることで、コンクリ-トの打設の際にコンクリート表面に生ずる凹凸への追従性が向上し、一旦乾燥した場合にも同様の追従性が得られ再漏水の危険性が極めて低くなる。
【0033】
コンクリ-ト(未硬化の生コンクリ-ト)の打設の際、コンクリ-ト硬化時に発熱が生ずるが、この発熱由来の亀裂を回避するため、コンクリ-ト(生コンクリ-ト)打設は複数層に分けて行うことが好ましいとされている。その場合の先行打設コンクリ-トを「先打ちコンクリ-ト」と、次の打設コンクリ-トを「後打ちコンクリ-ト」と、呼ぶ。これを踏まえ、建築物等の建設では、先打ちコンクリ-トと後打ちコンクリ-トとの両者を構造的に一体化するため鉄筋が挿入される。しかしながら、先打ちコンクリ-トと後打ちコンクリ-トの層間は構造的には鉄筋で一体化しても、先打ちコンクリ-ト硬化後に後打ちコンクリ-トを打設する時間差が生ずるため、先打ちと後打ちのコンクリ-トの層間に空隙が発生する。この空隙に、地下構造物では地下水が、地上構造物では雨水が侵入すれば、構造物内部または屋内への漏水の原因となる。この点、本発明の止水剤組成物の硬化物からなる弾性止水材を、打設・硬化後の先打ちコンクリ-トに予め固定することにより、上述の侵入水が生じた際には弾性止水材が侵入水と接触可能となり、その水膨潤性により膨潤して不透水層として機能することが可能となり、良好な止水効果と、上述の追従性を発揮する。
【0034】
なお、本発明の弾性止水材の追従性は、JISK5600-5-1(塗料-一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第一節:耐屈曲性(円筒形マンドレル法)に従った測定により、マンドレル直径10mmでも厚み1mmの試験片を90度折り曲げても追従することが実証されており、コンクリ-ト躯体の入隅のRに一般的に採用されている直径10mmの屈曲部への適用に好適であることがわかっている。
【0035】
<成分(B):末端(メタ)アクリロイル基含有多価金属塩>
本発明の止水剤組成物の必須成分の一つである(B)末端(メタ)アクリロイル基含有多価金属塩としては、公知の材料を使用可能である。多価金属とは、例えばアルカリ土類金属や、遷移金属などの二価以上の金属のであり、末端(メタ)アクリロイル基含有多価金属塩とは、多価金属が1個以上、好ましくは1種類以上の(メタ)アクリロイル基含有化合物との反応により形成される化合物であって、当該化合物の分子の末端に1個以上、好ましくは2個またはそれ以上(メタ)アクリロイル基を有する化合物を言う。多価金属は金属の価数対応するアクリロイル基を有していることが好ましい。
【0036】
本発明において、末端(メタ)アクリロイル基含有多価金属塩の製造方法は、(メタ)アクリル酸とアルカリ土類金属を、公知の製造法である常温(25℃程度)ないし、やや高めの温度(例えば 25℃ ~35℃)で反応させて中和する方法、又は、(メタ)アクリル酸エステルをアルカリ土類金属で鹸化する方法が代表的である。
【0037】
成分(B)の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸マグネシウム、(メタ)アクリル酸カルシウム、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸バリウム、(メタ)アクリル酸ストロンチウム、(メタ)アクリル酸鉛、(メタ)アクリル酸ニッケル等の二価金属のジアクリレートおよび(メタ)アクリル酸アルミニウム、(メタ)アクリル酸クロム等の三価金属のトリアクリレートが挙げられる。これらの中で、前記組成物の硬化体が高圧縮率でも復元性機能を発揮し再漏水を防止するためには、二価金属のジアクリレート、特にアクリル酸マグネシウム、アクリル酸アルミニウム及びアクリル酸ストロンチウムがより好ましい。
【0038】
上記末端(メタ)アクリロイル基含有多価金属塩は、単独あるいは2種類以上を組み合わせて用いてもよく、主成分を構成する成分(A)~(C)の合計100質量部に対し20~70質量部、特に 25~60質量部であることが好ましい。
【0039】
主成分(成分(A)、(B)、(C))の合計100質量部に対して、成分(B)の配合量を20質量部以上とすることにより組成物の硬化物の強靭性が増大し、さらに繰り返し圧縮変形への追従性も更に向上する。一方、主成分100質量部あたりの成分(B)の配合量を70質量部以下とすることにより圧縮強度が良好に維持され、コンクリ-ト打設時の部分的に応力負荷を受けて硬化物が一時的に変形するような場合にも良好な復元性が得られる。
【0040】
<成分(C):無機充填剤>
本発明において、止水剤組成物の必須成分の一つである(C)無機充填剤としては公知の固体材料、例えば粒子状または繊維状の材料を使用することができる。粒子状充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、カオリン、クレイ、タルク、マイカ、硅石粉、石膏、無水ケイ酸、ガラス粉末等が挙げられる。繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維などが使用可能であり、1種類または複数種類の混合物であってもよい。なお、添加方法は、例えば(A)、(B)、(D)および(E)および還元剤を添加、混合し、次に(C)無機充填剤を添加し、混合後、水に溶解した硬化剤に混合後してから型枠に充填する。
【0041】
(C)無機充填剤の更なる具体例としては、例えば粒子状ないし粉体状の、水膨潤性粘土鉱物(例えばベントナイト(膨潤性雲母ベンナイト)、スメクタイト系粘土鉱物(ヘクトライト等)、の及び天然に産する粘土セメント、多孔性材料(ゼオライト、フライアッシュ、珪藻土、活性白土、シリカ、セラミック、活性炭等)、ガラスフレ-ク、硅石等、またはこれらの任意の混合物を挙げることができる。水膨潤性粘土鉱物および多孔性材料が好ましく、特にベントナイト、フライアッシュまたはこれを含む混合物を用いることが好ましい。
【0042】
繊維状の無機充填剤を使用する場合は、アスペクト比が3以上である繊維状物質を用いることが好ましい。アスペクト比は、JISZ 8900-1:「粒子径測定装置検定用粒子」に記載されている顕微鏡法によって測定することができる。粒子用の無機充填剤を使用する場合は、平均粒径を一般的に1~700μm、好ましくは5~600μm、さらに好ましくは50~100μmとすることができる。なお、この平均粒径は粒度分布デ-タの積算%の粒子径の50%径(メデアン径と呼ばれれている)を採用して求めたものである。
【0043】
成分(C)は、主成分(成分(A)、(B)、(C))の合計100質量部に対し、30質量部を超過し、70質量部以下の量で配合されるが、30質量部を超過し、55質量部以下であると更に好ましい。
【0044】
成分(C)の配合量を主成分100質量部のうちの30質量部~70質量部の範囲とすることにより、これを含む組成物の硬化物が、良好な圧縮復元性(圧縮応力に対する復元性)を有することとなり、水膨潤性も良好となる。
【0045】
<成分(D)>
本発明の止水剤組成物は、さらに
(D)一般式(II):
【化5】
(式中、R
2、R
3はそれぞれ水素原子又はメチル基、好ましくはメチル基で、mが2以上で50以下の整数、好ましくは4以30以下、特に好ましくは6以上で25以下の整数)で表されるポリエチレングリコ-ルジ(メタ)アクリレ-ト(以下PEGジ(メタ)アクリレ-トとの略記も用いる)を含み、これらは単一種類であっても、複数種類の混合物であってもよい。
【0046】
成分(D)のPEGジ(メタ)アクリレ-トとしては、R2、R3が、共にメチル基であることが好ましい。即ち、式(I)の化合物は、メタクリレ-トであることが好ましい。これにより、反応性が向上し、圧縮復元性、乾燥後の水浸漬再膨潤による再漏水防止性、耐衝撃性等が大幅に向上する。また、一般式(b)中のmは、エチレンオキシドの平均付加モル数を意味し、2~50の範囲(好ましくは4~30、特に好ましくは6~25)である。
【0047】
式(I)のnを2未満の場合は、以上とすることにより、十分な強度の硬化物を得ることが可能となり、水膨潤・乾燥により収縮した後にも再度水浸漬した場合に十分な水膨張率が得られる。式(I)のnを50以下とすることにより、混合物の粘度が上昇を抑制し、且つ重合物の架橋密度の低下を防ぎ、硬化物の強靭性と、耐水性を十分なものにすることができる。
【0048】
成分(D)は、主成分(成分(A)、(B)、(C))の合計100質量部に対し、0.1~1.0質量部であると好ましく、0.1~0.5質量部であると更に好ましい。
【0049】
本発明において、(D)PEGジ(メタ)アクリレ-トは、公知方法により例えば特開2001-354731号公報に記載の、(メタ)アクリル酸クロライドと、記載のアルキレングリコ-ル鎖含有アルコ-ルを塩基の存在下でエステル化反応させることにより得ることができる。エステル化反応に用いる塩基としては、第三級アミンおよび無機塩基が挙げられる。
【0050】
具体例としては、例えばトリエチルアミン、ピリジン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。これらの中では、反応性の高いトリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンが好ましい。
【0051】
エステル化反応は通常有機溶媒中で行われる。例えば、塩化メチレン、クロロホルムのようなハロゲン系溶媒、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンのような芳香族炭化水素溶媒、脂肪族炭化水素溶媒等が挙げられる。
【0052】
エステル化反応の温度は、通常-10~80℃、好ましくは0~60℃である。必要に応じて重合禁止剤が用いられる。重合禁止剤としてはハイドロキノン、メチルハイドロキノンなどのハイドロキノン類、ベンゾキノン、メチル-P-ベンゾキノンなどのベンゾキノン類、t-ブチルカテコ-ルなどのカテコ-ル類等が挙げられる。
【0053】
PEGジ(メタ)アクリレ-トの具体例、例えばジエチレングリコ-ルジアクリレ-ト、ジエチレングリコ-ルジメタアクリレ-ト、トリエチレングリコ-ルジアクリレ-ト、トリエチレングリコ-ルジメタアクリレ-ト、テトラエチレングリコ-ルジアクリレ-ト、テトラエチレングリコ-ルジメタアクリレ-ト、PEG#150(平均付加モル数3)ジメタクリレ-ト、PEG#200(平均付加モル数4)ジメタクリレ-ト、PEG#200(平均付加モル数4)ジアクリレ-ト、PEG#400(平均付加モル数9)ジメタクリレ-ト、PEG#400(平均付加モル数9)ジアクリレ-ト、PEG#600(平均付加モル数14)ジメタクリレ-ト、PEG#1000(平均付加モル数23)ジメタクリレ-ト、PEG#2000(平均付加モル数46)ジメタクリレ-ト等が挙げられる。
【0054】
水溶性を低下させない程度であれば、ポリプロピレングリコ-ルジメタクリレ-ト、ポリテトラメチレングリコ-ルジアクリレ-ト等を併用しても差し支えない。
【0055】
成分(D)を、主成分(成分(A)、(B)、(C))の合計100質量部に対し、0.1質量部以上の量で用いると、硬化物の強靭性が増し、吸水・乾燥後の収縮後水膨張率が良好とされる。また、成分(D)を、1.0質量部以下の量で使用することにより、硬化物の架橋密度の低下が抑制され、耐水性も良好とされる。
【0056】
本発明の組成物には、更に(E)グリコ-ル類を添加することができる。主成分(成分(A)、(B)、(C))に対し、20~100質量部の(E)グリコ-ル類を含むことが好ましい。その場合、上述の成分(D)の添加は任意である。
【0057】
(E)グリコール類の使用量を、止水剤組成物の主成分((A)、(B)及び(C))の合計量100質量部に対して、20質量部以上とすることにより、これから得られる本発明の止水剤組成物の硬化物(弾性硬化物ともいう)を空気中に長期放置しても乾燥収縮がほとんど生じず、減量変化が抑制される。すなわち、重量・寸法安定性が向上するため、再漏水が防止できるさらに、100質量部以下とすることにより、弾性硬化物に圧縮応力が負荷されたときの復元性を更に高く維持することができ、変形率を最低限に抑制することが可能となる。
【0058】
本発明において(E)グリコ-ル類としては、公知のグリコールを使用可能であるが、例えば、エチレングリコ-ル、プロピレングリコ-ル、ジエチレングリコ-ル、トリエチレングリコ-ル、1,3ブチレングリコ-ル、ヘキシレングリコ-ル、グリセリンなどが上げられる。その中でも特にエチレングリコ-ル、あるいはプロピレングリコ-ルが好ましい。これらは単独使用又は併用してもよい。これらのグリコ-ル類は止水剤組成物の弾性硬化物は気中放置後寸法及び質量安定性を付与するにはグリコ-ルの蒸気圧が、25℃で0.1mmHg以下が好ましい。前記グリコ-ル類は収縮安定機能の他に凝固点降下機能を有するため、冬期止水剤硬化物の凍結を防止する。
【0059】
本発明に用いる酸化剤及び還元剤は通常レドックス触媒が使用され、酸化剤としては、例えば公知の過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、過塩素酸のアルカリ金属塩等が用いられる。
【0060】
還元剤としては、例えば公知の亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、チオ硫酸ソ-ダ、硫酸第一鉄、トリエチルアミン、トリエタノ-ルアミン、N-メチルモルフォリン、ニトリロトリスプロピオンアミドあるいはナトリウム又はカリウムのメタ重亜硫酸塩等である。
【0061】
酸化剤及び還元剤もそれぞれ1種類又は複数種類使用することができる。
【0062】
本発明の止水剤組成物には水分散剤を添加することができる。水分散剤としては公知の材料を使用することが可能であり、AE減水剤、高性能AE減水剤、またはこれらの混合物が好ましく使用できる。高性能AE減水剤又はAE減水剤の添加量は,例えば(C)成分全体100質量部に対して5質量%以下とすることが好ましい。
【0063】
これらの水分散剤は1種類または複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
水分散剤を使用することにより、本発明の弾性止水材を硬化させる際に適当な流動性を確保することができため、性能・無機充填剤の均一分散(外観のムラの低減)に寄与する。
【0065】
また、本発明では、所望の効果を阻害しない範囲において、有機充填剤を添加することもできる。有機充填剤の例としては、アスファルト、ゴム、生物材料由来の粉体・繊維材料、及び各種合成樹脂の粉体・繊維材料を添加してもよい。
【0066】
上記のうち、アスファルトとして、例えば、ストレ-トアスファルト、ブロ-ンアスファルト、改質アスファルト等、ゴムとして、例えば、天然ゴム、スチレンブタジェンゴム、エチレンプロピレンゴム、イソプロピレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンゴム等、生物材料由来の粉体・繊維材料として、例えば紙粉、木粉、パルプ、綿、および各種合成樹脂の粉体・繊維材料として、例えばカ-ボン繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、ポリエチレンテレフタレ-ト等のポリエステル繊維、又はポリブテン樹脂等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0067】
更に、本発明の止水剤組成物には、液状樹脂として、例えば液状ポリブテン、液状ポリブタジェン、液状ポリイソブチレン、アタクチックポリプロピレンなどを用いることもできる。
【0068】
この他、本発明の止水剤組成物には、本発明の所望の硬化を阻害しない限り、ゲル化油、例えば油、脂肪酸、及び金属の水酸化物又は酸化物を脂肪酸とアルカリ土類金属の水酸化物又は酸化物との反応により、ゲル化させた油等を添加してもよい。
【0069】
また、本発明の止水剤組成物には、希釈剤として通常、水を用いることができるが、水希釈率が大きくなると乾燥収縮率が増大し、乾燥後水浸漬での弾性止水材のゲル化物の水膨張復元速度に影響することがあるため、水膨張復元速度の向上のためには水を添加しないほうがよい。また、本発明の止水剤組成物に、水の一部を有機溶媒(エチレングリコ-ル等)に換えて添加することもできる。この場合は、水のみを添加した場合と比較して、乾燥収縮を大幅に低減することができる。すなわち、本発明に適した希釈剤は、水を主成分(50質量%以上)とし、必要に応じて有機溶媒を含有することができる。
【0070】
<硬化物の作製>
上述の各成分より本発明の止水剤組成物を調製し、これを硬化することにより得られる弾性を有する硬化物(弾性硬化物)は、上述の優れた止水効果を発揮する。
【0071】
この他、止水組成物は、従来公知の漏水止水工法により使用することができる。上記本発明の止水剤組成物は、トンネルや下水管路継手部、クラックなどにおける湧水、漏水を止水するため使用可能である。例えば、本発明の止水剤組成物は、成分(A)~(C)と、必要に応じて成分(E)及び/または成分(D)、及び更に必要な他の添加剤を予め混合した混合物を用いるか、使用直前に混合する、あるいは混合しながら使用する。好ましくは、還元剤および酸化剤を含む成分を、止水剤組成物の使用開始直前に混合するか、混合しながら使用(注入、塗布など)する。すなわち本発明の止水材組成物は、従来の工法により既存の建造物または構造部分(躯体)、例えばトンネル、下水管路継手部等のクラックに対し、液状の組成物の状態でこれを注入し、注入後に躯体上またはその近傍で硬化させることでも弾性体として硬化させることができる。
【0072】
このように、本発明の止水剤組成物は、一般に2液混合方式として使用される。漏水量が多くない場合、前記主剤と硬化剤のいずれか一方又は両方に、水などの希釈剤を最大30質量%添加することができる。注入に用いる装置は特に限定されないが、例えば、主剤と硬化剤を別々に収容する調整容器と、耐圧ホースを介して各調整容器に接続された先端混合室と、先端混合室に接続されたノズルとを有する。主剤及び硬化剤は、それぞれ調整容器から送液ポンプにより耐圧ホ-スを経由して送液される。これら主剤及び硬化剤を先端混合室に400kgf/cm2以下の圧力で噴射し、均一に混合する。コンクリ-ト構造物の漏水箇所にクラック及びクラックの延長線に沿って構造物の表面から複数削孔した後、これらの削孔箇所にノズルを挿入し、先端混合室で均一に混合された混合液をノズルから注入する。ノズルの先端は、スプリングとボ-ルを装着した逆止弁により均一混合液が逆流しない機能を備えている。この逆止弁は、セラミツクボ-ル及び耐酸ウレタン保護塗膜で保護されていることが、耐久性の点から好ましい。
【0073】
ノズルから均一混合液を吐出する際の吐出圧は、先端混合室における混合と同様に400kgf/cm2以下であるが、ヘヤ-クラック幅を対象とした漏水を止水する場合は、200kgf/cm2以上であることが好ましい。なお、注入ノズルは、注入の際には急結セメントで固定し、注入ノズルの抜去後、削孔空間には無収縮セメントモルタルを充填し、封鎖するのが一般的である。また、止水後、クラックは無収縮セメントモルタルで、幅約20mmで塗り付けることにより処理することが一般的である。
【0074】
本発明の止水剤組成物は、更に、予め所定形状を有する硬化物(弾性硬化物)に成形して用いることができる。すなわち、成分(A)~(C)と、必要に応じて成分(E)及び/または成分(D)、及び更に必要な他の添加剤を予め混合し、または成形直前にこれらを混合し、あるいは混合しながら止水材組成物の成形体の作成を行う。各成分は、大気圧下では通常、10~35℃の温度環境下で、5~50分にわたり反応して硬化物となる。本発明の止水材組成物からの製造法、製造使用される器具、成形体の形状に特に制限はなく、ビルや家屋などの各種建築物、トンネル等の構造体におけるコンクリート等の無機材料の打継部、配管のつなぎ目、および外壁目地等からの浸水を防止・阻止すること等が可能な防水機能を有する膜(防水膜)ないし防水機能を有する構造体(防水構造体)として、所望の弾性、圧縮復元性、乾燥後の水浸漬再膨潤による再漏水防止性、耐衝撃性等を発揮できるような形状とされる。
【0075】
成形法の例としては、止水剤組成物を、押出成形機、プレス成型機、流し込み型枠成形機に導入して反応させる押出成型法、プレス成形法、流し込み型枠成形法等を挙げることができる。止水材の形状は、通常、帯状、板体状、角柱状、円柱状、円筒状、湾曲部材状、の他、場合によっては亜鉛メッキ鋼板を芯材として前記形状、又は不定形状であってもよい。
【0076】
また、本発明の止水剤組成物には水溶性物質を加えることが可能であり、或いは止水剤組成物から得られた成形体を更に水溶性物質で処理してもよい。
【0077】
水溶性物質としては、天然、合成、半合成の水溶性高分子などを用いることができる。例えばヒドロキシプロピルセルロ-ス、ヒドロキシプロピルメチルセルロ-ス、カルボキシメチルエチルセルロ-ス、カルボキシメチルセルロ-ス、メチルセルロ-ス、セルロ-スアセテ-トフタレ-ト、ヒドロシプロピルメチルセルロ-スフタレ-ト、グアガム、ロ-カストビ-ンガム、ゼラチン、キサンタンガム、カンテン、デンプン、ポリビニルアルコ-ル、ポリビニルアセタ-ル、ジエチルアミノアセテ-ト、メタクリル酸/メタクリル酸メチル共重合体、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ソ-ダ、アクリル酸ソ-ダ/メタクリル酸ソ-ダ共重合体、アクリル酸ソ-ダ/マレイン酸ソ-ダ共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸ソ-ダ共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド系高分子等であり、好ましくはポリビニルアルコ-ル、メチルアルコ-ル、ポリビニルアセタ-ルの1種または複数種類を組み合わせて使用することができる。
【0078】
これらの水溶性物質で、本発明の組成物の弾性硬化物としての成形体の表面をコ-ティングしたり、成形体の表面に水溶性物質の溶液を塗布後、乾燥したりすることによって、水溶性物質の被膜を形成することができる。被膜の厚さは、内部の弾性を損なわず、水に接したときに水溶性被膜が溶けて内部の弾性止水材が水を吸収、膨潤し、なおかつ表面がベトつかず取り扱いやすい形状とする厚さであればよく、通常5~200μmであり、好ましくは20~50μmである。前記弾性止水材を厚さ10~80μm、好ましくは20~50μmのポリビニルアルコ-ルフィルムでコ-トしたものが特に好ましい。なお、上記水溶性物質は本発明の弾性硬化物に未硬化状態で混合することも可能であり、増粘効果、接着効果を発揮する。
【0079】
このように得られた成形体(弾性体)は、新築または既設の、コンクリート躯体の先打ちコンクリ-ト等の打継部に敷設され、その上部に更に後打ちコンクリート打設して止水する方法、または地中壁、型枠の凹凸部、コ-ナ-への取り付けにより止水する方法に用いられる。さらに、本発明の弾性止水材は、芯材入りとすることもできる。芯材入りの弾性止水材は、一般に未硬化の先打ちコンクリ-トの厚さ方向の略中心に、例えばベルト状に成形した弾性止水材の幅方向の長さの半分を挿入し、次いで後打ちコンクリ-トを打設して、先打ちコンクリートに挿入されていない残りの半分の弾性止水材を後打ちコンクリ-トの厚さ方向の略中心に挿入することにより一体化させることができる。このように先打ち、後打ちコンクリートのつなぎ目となる部分にコンクリート内部に埋設された芯材入り弾性止水材の止水効果が発揮される。
【実施例】
【0080】
次に、本発明の実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例中「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0081】
[参考例1-3、実施例4、参考例5、実施例6、参考例7-9および比較例1-20]
表1(参考例1~3、比較例1~3)、表2(実施例4、参考例5、比較例4~12)、表3(実施例6、参考例7、比較例13~16)及び表4(参考例8~9、比較例17~20)に記載の成分を記載の配合比で混合して、参考例1-3、実施例4、参考例5、実施例6、参考例7-9、比較例1~20の止水剤組成物を得た。
【0082】
各組成物から、試験ごとに弾性硬化物(止水材)を製造し、その特性(環境条件別質量変化率、50%圧縮時復元性、耐衝撃性・落錘時クラック発生有無、透水係数、ゲルタイム、50%圧縮変形時負荷応力、耐屈曲性試験、水浸漬質量変化率)を下記のようにして測定し、評価した。各実施例、参考例、比較例の測定結果を表1、表2、表3及び表4に示す。
【0083】
[評価方法]
1)環境条件別質量変化率:
200mlポリエチレン容器(直径×高さ=70mm×80mm)に、止水剤組成物を100mlの容量を充填、硬化させた(硬化条件:温度20℃、相対湿度50%)。2時間後脱型し、下記環境条件中に7日間放置し、質量変化率を測定した。
【0084】
質量変化率(%)=([Wt/(Wt-W0)]×100)
[但し、W0;初期質量(g)、Wt:7日放置後の質量(g)]
水中:25℃恒温水槽中浸漬7日放置後、測定。
気中(大気中):大気中恒温恒湿(温度25℃、相対湿度50%)7日放置後、測定。
気中→水中:大気中恒温恒湿(温度25℃、相対湿度50%)7日放置後、25℃恒温水槽中に7日放置後、測定。
【0085】
2)50%圧縮率後復元性:
内面に離型用ポリエステルフィルム(東レ製マイラ-フィルム、厚み100μm)を巻いた底部密閉二つ割り鋼製モ-ルド(内径×高さ=35mm×50mm、モ-ルド厚み5mm)に各実施例、参考例、比較例の止水剤組成物を充填し、硬化させた(硬化条件:温度20℃、相対湿度50%)。2時間後脱型して供試体とし、圧縮試験機により圧縮速度5mm/分で圧縮応力を負荷して50%変形後、圧縮負荷を開放し、初期寸法への回復時間を測定した。
【0086】
3)耐衝撃性・落錘時クラック発生有無:
内面に離型用ポリエステルフィルム(東レ製マイラ-フィルム、厚み100μm)を巻いた底部密閉二つ割鋼製の金型(内径35mm×高さ50mmの円盤状)に、各実施例、参考例、比較例の止水剤組成物を充填、硬化させ(硬化条件:温度20℃、相対湿度50%)、供試体を作成した。得らえた供試体に対する試験を、JIS-K-5400(塗料一般試験方法)記載の耐衝撃性のデュポン式(耐重り落下性)試験に準拠して実施した鋼球質量は300g、落下高さは300mmとし、供試体の破壊、クラックの有無を観察した。
【0087】
4)透水係数:
各実施例、参考例、比較例の止水剤組成物を、それぞれ透水円筒(内径100mm×長さ120mm)製の金型に充填し、硬化させ(硬化条件:温度20℃、相対湿度50%)供試体とした。このように得られた供試体の透水係数を、JISA1218(土の透水試験方法)変水位透水試験方法に準拠して算出した。
【0088】
5)ゲルタイム:
試験管(直径φ20mm、高さ150mm)に各実施例、参考例、比較例の止水剤組成物を20ml容量で充填し、25℃の環境温度で流動性が消失までの時間(配合物表面から長い糸が引かなくなる、すなわち変形できなくなるまでの時間、JIS K5600-9-1:2006)をゲルタイムとした。
【0089】
6)50%圧縮率時負荷応力:
内面に離型用ポリエステルフィルム(東レ製マイラ-フィルム、厚み100μm)を巻いた底部密閉二つ割り鋼製モ-ルド(内径×高さ=35mm×50mm、モ-ルド厚み5mm)に各実施例、参考例、比較例の止水剤組成物を充填し、硬化させた(硬化条件:温度20℃、相対湿度50%)。2時間後脱型して供試体とし、圧縮試験機により圧縮速度5mm/分で圧縮応力を負荷して50%変形後まで負荷した時の負荷応力を測定した。
【0090】
7)樹脂濃度(%):
各実施例、参考例、比較例の止水剤組成物の樹脂濃度を、下記の算出方法にて求めた。
【0091】
表1の場合:
樹脂濃度(%)=
[(A)+(B)]/[(A)+(B)÷0.35+(E)+水+酸化剤+還元剤)]×100
【0092】
【0093】
なお、(B)アクリル酸マグネシウムは上記の組成物の調製において35%濃度水溶液として用いたが、各表にはそのうちの固形分換算値を記載した。
【0094】
8)耐屈曲性試験(屈曲追従性評価)
JISK5600-5-1:1999塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質第1節、耐屈曲性(円筒形マンドレル法)により表1、2、3及び4の配合を使用して耐屈曲性試験を行った。試験板寸法は、厚み1mm、100mm×50mmの長方形である。マンドレルはステンレス鋼製、直径10mmのものを選択し上記の試験板に据付けた。試験板の表面及び裏面に亀裂が発生しない状態を合格とした。
【0095】
9)水浸漬質量変化率
表1、2、3及び4の組成物を使用し,内面に離型用ポリエステルフィルム(東レ製マイラ-フィルム、厚み100μm)を巻いた底部密閉二つ割り鋼製モ-ルド(内径×高さ=35mm×50mm、モ-ルド厚み5mm)に組成物を投入、2時間後に脱型し、24時間室温環境(温度25℃×相対湿度60%)で養生後、水中(液温:25℃)に24時間浸漬した後、質量変化率を測定した。
【0096】
24時間水浸漬後質量変化率(%)=([W24/(W24-W0)]×100)
[但し,W0:初期質量(g)、W24:水中24時間浸漬後質量(g)]
【0097】
【0098】
表1に記載した材料の詳細は以下の通りである。
無機充填剤...クニミネ工業株式会社製、クニゲルVI
水分散剤....株式会社フロ-リック製、フロ-リックSF-500H
過硫酸アンモニウム...酸化剤として使用
トリエタノ-ルアミン(50%濃度水溶液)...還元剤として使用
【0099】
【0100】
表2に記載した材料の詳細は以下の通りである。
【0101】
無機充填剤...クニミネ工業株式会社製、クニゲルVI
水分散剤....株式会社フロ-リック製、フロ-リックSF-500H
過硫酸アンモニウム...酸化剤として使用
トリエタノ-ルアミン(50%濃度水溶液)...還元剤として使用
注:*印(比較例12)―普通ポルトランドセメント使用
【0102】
【0103】
表3に記載した材料の詳細は以下の通りである。
【0104】
無機充填剤...J-POWERジェネレ-ションサ-ビス株式会社製ジェイパウダ-(フライアッシュII種)
水分散剤....株式会社フロ-リック製、フロ-リックSF-500H(ポリカルボン酸系減水剤)
過硫酸アンモニウム...酸化剤として使用
トリエタノ-ルアミン(50%濃度水溶液)...還元剤として使用
【0105】
【0106】
表4に記載した材料の詳細は以下の通りである。
【0107】
無機充填剤...竹折鉱業所製硅石粉末特粉(平均粒径24μm)
水分散剤....株式会社フロ-リック製、フロ-リックSF-500H(ポリカルボン酸系減水剤)
過硫酸アンモニウム...酸化剤として使用
トリエタノ-ルアミン(50%濃度水溶液)...還元剤として使用
【0108】
実施例、比較例により示されたとおり、本発明の止水剤組成物から得られた止水剤は、透水係数が低く、優れた止水効果を発揮する上、圧縮からの復元性および耐衝撃性に優れることから応力付加された場合にも良好に止水効果を発揮するものといえる。
【0109】
以上本発明者等によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。