(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】細胞培養デバイスおよび細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240221BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12N1/00 B
(21)【出願番号】P 2022205460
(22)【出願日】2022-12-22
【審査請求日】2023-09-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591163960
【氏名又は名称】大阪冶金興業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】522497870
【氏名又は名称】寺内 俊太郎
(73)【特許権者】
【識別番号】501249076
【氏名又は名称】久保木 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保木 芳徳
【審査官】飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-168403(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005349(WO,A1)
【文献】特開2018-000050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12N 1/00
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を定着させた培養基材を収容するための箱体と、
前記箱体内に前記箱体の深さ方向に移動可能に配置された可動蓋体と、
前記箱体外への前記可動蓋体の脱落を防ぐための脱落防止部
と、
を有し、
前記培養基材は、前記箱体の底板と前記可動蓋体との間に配置される、
細胞培養デバイス。
【請求項2】
細胞を定着させた培養基材を収容するための箱体と、
前記箱体内に前記箱体の深さ方向に移動可能に配置された可動蓋体と、
前記箱体内に収容された前記培養基材に向けて前記可動蓋体を押圧するための弾性部材
と、
を有し、
前記培養基材は、前記箱体の底板と前記可動蓋体との間に配置される、
細胞培養デバイス。
【請求項3】
前記底板と前記可動蓋体との間に配置されるスペーサーをさらに有する、請求項
2に記載の細胞培養デバイス。
【請求項4】
前記底板および前記可動蓋体の少なくとも一方は、多孔質体である、請求項1
または請求項2に記載の細胞培養デバイス。
【請求項5】
前記箱体および前記可動蓋体は、チタン製である、請求項1
または請求項2に記載の細胞培養デバイス。
【請求項6】
前記底板および前記可動蓋体は、チタン不織布である、請求項1
または請求項2に記載の細胞培養デバイス。
【請求項7】
請求項1
または請求項2に記載の細胞培養デバイスの前記箱体の前記底板と前記可動蓋体との間に、細胞を定着させた培養基材を収容する工程と、
前記培養基材を収容した前記細胞培養デバイスを回転させながら細胞を培養する工程と、
を有する、細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養デバイスおよび細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療は、幹細胞などを用いて損傷した臓器や組織を再生し、失われた機能を回復させることを目指している。再生医療には様々なものがあるが、例えば、患者の体外において幹細胞などから人工的に構築した臓器や組織を患者の体内に移植する方法がある。
【0003】
本発明者らは、生体外において生体と同様に組織を形成するためには、(1)細胞、(2)三次元培養基材(細胞外マトリックスに対応)、(3)液性制御因子、(4)栄養供給系(血管系に対応)だけでなく、(5)力学的刺激も重要であると考えている。この考えに基づいて、本発明者らは、通常と異なる方向に重力を作用させながら細胞を培養する反重力培養方法およびこれに用いる装置を提案してきた(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-90584号公報
【文献】特開2014-76026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、本発明者らは、(5)力学的刺激として通常と異なる方向に重力を作用させることで細胞増殖を促進させうることを見出したが、(5)力学的刺激としてさらに異なる刺激を細胞に与えることでさらに細胞増殖や組織形成効率を向上させうるのではないかと考えた。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で力学的刺激を与えて細胞増殖を促進させうる細胞培養デバイスおよびこれを用いた細胞培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の細胞培養デバイスおよび細胞培養方法に関する。
[1]細胞を定着させた培養基材を収容するための箱体と、前記箱体内に前記箱体の深さ方向に移動可能に配置された可動蓋体と、を有し、前記培養基材は、前記箱体の底板と前記可動蓋体との間に配置される、細胞培養デバイス。
[2]前記箱体外への前記可動蓋体の脱落を防ぐための脱落防止部をさらに有する、[1]に記載の細胞培養デバイス。
[3]前記箱体内に収容された前記培養基材に向けて前記可動蓋体を押圧するための弾性部材をさらに有する、[1]または[2]に記載の細胞培養デバイス。
[4]前記底板と前記可動蓋体との間に配置されるスペーサーをさらに有する、[1]~[3]のいずれか一項に記載の細胞培養デバイス。
[5]前記箱体の底板および前記可動蓋体の少なくとも一方は、多孔質体である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の細胞培養デバイス。
[6]前記箱体および前記可動蓋体は、チタン製である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の細胞培養デバイス。
[7]前記箱体の底板および前記可動蓋体は、チタン不織布である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の細胞培養デバイス。
[8][1]~[7]のいずれか一項に記載の細胞培養デバイスの前記箱体の底板と前記可動蓋体との間に、細胞を定着させた培養基材を収容する工程と、前記培養基材を収容した前記細胞培養デバイスを回転させながら細胞を培養する工程と、を有する、細胞培養方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡単な構成で、細胞を培養する際に、力学的刺激として圧力またはせん断応力を細胞に加えて細胞増殖を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係る細胞培養デバイスの斜視図である。
【
図2】
図2Aは、実施の形態1に係る細胞培養デバイスの平面図であり、
図2Bは、
図2AのA-A線の断面図である。
【
図3】
図3A~Cは、実施の形態1に係る細胞培養デバイスを用いた細胞培養の一例を示す図である。
【
図4】
図4Aは、箱体の開口部が上方にあるときの細胞培養デバイスの様子を示す断面図であり、
図4Bは、箱体の開口部が下方にあるときの細胞培養デバイスの様子を示す断面図である。
【
図5】
図5Aは、本発明の実施の形態2に係る細胞培養デバイスの平面図であり、
図5Bは、
図5AのB-B線の断面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態2に係る細胞培養デバイスを用いた細胞培養の一例を示す図である。
【
図7】
図7Aは、箱体の開口部が上方にあるときの細胞培養デバイスの様子を示す断面図であり、
図7Bは、箱体の開口部が下方にあるときの細胞培養デバイスの様子を示す断面図である。
【
図8】
図8は、実施例1の実験結果を示すグラフである。
【
図9】
図9A~Cは、実施例2の培養条件を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
[実施の形態1]
(細胞培養デバイスの構成)
図1は、本発明の実施の形態1に係る細胞培養デバイス100の斜視図である。
図2Aは、細胞培養デバイス100の平面図であり、
図2Bは、
図2AのA-A線の断面図である。
【0012】
図1~
図2Bに示されるように、本実施の形態に係る細胞培養デバイス100は、箱体110、可動蓋体120および脱落防止部130を有する。
図2Bに示されるように、細胞培養デバイス100は、箱体110の底板111と可動蓋体120との間に細胞を定着させた培養基材140を配置した状態で使用される。
【0013】
箱体110は、細胞を定着させた培養基材140を収容するための、開口部を有する容器である。本実施の形態では、箱体110は、底板111、側板112および開口部113を有する。箱体110の形状および大きさは、上記機能を発揮できれば特に限定されない。たとえば、箱体110の平面視形状は、縦8~10cm程度、横3~5cm程度の略長方形である。箱体110内において可動蓋体120を箱体110の深さ方向に自由に移動できるようにする観点からは、箱体110の収容部(内部)の深さは、培養基材140および可動蓋体120の合計厚みよりもある程度大きいことが好ましい。
【0014】
箱体110を構成する材料は、細胞培養に悪影響を及ぼさず、かつ必要な強度を有するものであれば特に限定されないが、オートクレーブなどで滅菌できるものが好ましい。箱体110を構成する材料の例には、チタンや窒化チタン、チタン合金、ステンレス鋼などの金属、ポリプロピレンやポリスチレン、ポリエチレンなどの樹脂、セラミックスが含まれる。本実施の形態では、箱体110および可動蓋体120は、チタン製である。
【0015】
培養基材140内の細胞に酸素および栄養を到達させる観点、および液体培地中において可動蓋体120を移動させやすくする観点からは、箱体110および可動蓋体120の少なくとも一方は、貫通穴を有していることが好ましく、少なくともその一部が多孔質体であることがより好ましい。たとえば、箱体110の底板111および可動蓋体120の少なくとも一方が多孔質体であることが好ましく、箱体110の底板111および可動蓋体120の両方が多孔質体であることがより好ましい。本実施の形態では、箱体110の底板111は、多孔質体であるチタン不織布(例えば、株式会社ハイレックスコーポレーションのZellezや大阪冶金興業株式会社のチタン線維膜など)で構成されており、側板112は、チタンプレートで構成されている。箱体110の底板111の厚さは、特に限定されないが、例えば0.5~1mm程度である。
【0016】
また、細胞と接触する可能性がある箱体110の内面は、細胞増殖や細胞接着を促進させるためにコーティングされていてもよい。コーティングの材料は、特に限定されず、培養する細胞の種類などに応じて適宜選択されうる。コーティングの材料の例には、コラーゲンやエラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチンなどの細胞外基質を構成するタンパク質、ポリリジンやポリオルニチンなどのアミノ酸重合体などが含まれる。
本実施の形態では、箱体110の底板111は、コラーゲンでコーティングされている。
【0017】
可動蓋体120は、細胞を定着させた培養基材140を覆うように箱体110内に配置された蓋である。可動蓋体120は、重力などの力を受けることで、箱体110内において箱体110の深さ方向に自由に移動できるように配置される。この後説明するように、可動蓋体120が移動することで、培養基材140に定着した細胞に、圧力やせん断応力などの力学的刺激が加えられることとなる。
【0018】
可動蓋体120の形状および大きさは、上記機能を発揮できれば特に限定されない。本実施の形態では、可動蓋体120は、板状である。箱体110内において可動蓋体120を箱体110の深さ方向に自由に移動できるようにする観点からは、可動蓋体120の水平方向の大きさ(
図2Aにおける上下方向および左右方向の大きさ)は、箱体110の収容部の水平方向の大きさよりもある程度余裕をもって小さいことが好ましい。また、培養基材140に定着した細胞に力学的刺激を加える観点からは、可動蓋体120の水平方向の大きさは、培養基材140水平方向の大きさよりもある程度余裕をもって大きいことが好ましく、可動蓋体120は、ある程度の重量を有するように構成されていることが好ましい。可動蓋体120の厚さは、培養基材140に定着した細胞に加えようとする力学的刺激に応じて適宜調整され、箱体110の底板111よりも厚くてもよい。
【0019】
可動蓋体120を構成する材料は、細胞培養に悪影響を及ぼさず、かつ必要な強度を有するものであれば特に限定されないが、オートクレーブなどで滅菌できるものが好ましい。可動蓋体120を構成する材料の例には、チタンや窒化チタン、チタン合金、ステンレス鋼などの金属、ポリプロピレンやポリスチレン、ポリエチレンなどの樹脂、セラミックスが含まれる。前述のとおり、本実施の形態では、箱体110および可動蓋体120は、チタン製である。
【0020】
前述のとおり、培養基材140内の細胞に酸素および栄養を到達させる観点、および液体培地中において可動蓋体120を移動させやすくする観点からは、箱体110および可動蓋体120の少なくとも一方は、貫通穴を有していることが好ましく、少なくともその一部が多孔質体であることがより好ましい。たとえば、箱体110の底板111および可動蓋体120の少なくとも一方が多孔質体であることが好ましく、箱体110の底板111および可動蓋体120の両方が多孔質体であることがより好ましい。本実施の形態では、可動蓋体120は、多孔質体であるチタン不織布(例えば、株式会社ハイレックスコーポレーションのZellezや大阪冶金興業株式会社のチタン線維膜など)で構成されている。
【0021】
また、細胞と接触する可能性がある可動蓋体120は、細胞増殖や細胞接着を促進させるためにコーティングされていてもよい。コーティングの材料は、特に限定されず、培養する細胞の種類などに応じて適宜選択されうる。コーティングの材料の例には、コラーゲンやエラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチンなどの細胞外基質を構成するタンパク質、ポリリジンやポリオルニチンなどのアミノ酸重合体などが含まれる。
本実施の形態では、可動蓋体120は、コラーゲンでコーティングされている。
【0022】
脱落防止部130は、箱体110外への可動蓋体120の脱落を防ぐための部材である。脱落防止部130の構成は、上記機能を発揮できれば特に限定されない。本実施の形態では、脱落防止部130は、箱体110の開口部113付近に着脱可能に取り付けられた2本の棒である。
図1~
図2Bでは、箱体110の側板112には4つの貫通孔が設けられているが、例えば異なる高さに4つずつ貫通孔が設けられていてもよい。このようにすることで、脱落防止部130として機能する2本の棒の高さを変更して、可動蓋体120の可動範囲を調整することができるようになる。
【0023】
培養基材140は、増殖させたり、組織または臓器を形成させたりするための細胞を培養するための足場である。前述のとおり、培養基材140は、箱体110の底板111と可動蓋体120との間に配置される。可動蓋体120と同様に、培養基材140も、重力などの力(例えば、後述する蓋付き試験管300の回転に伴う重力の方向の変化)を受けることで、箱体110内において箱体110の深さ方向に自由に移動できるように配置される。
【0024】
培養基材140の種類、形状および大きさは、特に限定されず、公知の3次元培養基材から培養する細胞の種類などに応じて適宜選択されうる。培養基材140の例には、コラーゲン線維膜(コラーゲンゲル)、コラーゲンスポンジ(例えば、株式会社高研のコラーゲンスポンジ、コラーゲンスポンジ ハニカム、)、チタン不織布(例えば、株式会社ハイレックスコーポレーションのZellezや大阪冶金興業株式会社のチタン線維膜など)、樹脂製足場材(例えば、3D Biotek社の3D Insert-PSや3D Insert-PCL、Nanofiber solutions社のNanoECMやNanoHep)が含まれる。本実施の形態では、培養基材140は、細胞を含む板状のコラーゲン線維膜である。また、箱体110の底板111と可動蓋体120との間には、1つの培養基材140が配置されてもよいし、複数の培養基材140が配置されてもよい。
【0025】
本実施の形態に係る細胞培養デバイス100を用いて細胞を培養する際には、細胞培養デバイス100は、箱体110の底板111と可動蓋体120とで上下方向の位置が交互に変わるように回転させられる。細胞培養デバイス100は、液体培地中に浸漬された状態で回転させられる。
【0026】
図3A~Cは、細胞培養デバイス100を用いた細胞培養の一例を示す図である。この例では、細胞培養デバイス100は、蓋付き試験管300内に収容されている。
図3Aおよび
図3Bは、蓋付き試験管300の側方から、回転する蓋付き試験管300および細胞培養デバイス100を見た図であり、
図3Cは、
図3BのC-C線の断面を示す図である。細胞培養デバイス100は蓋付き試験管300内に固定されており、蓋付き試験管300を回転させることで細胞培養デバイス100も回転する。蓋付き試験管300の設置方法は、特に限定されない。たとえば、1~2週間程度の短期間の培養では、試験管(BT-30、日電理化硝子株式会社)の開口部にアルミニウム製の開放型キャップ(NE-30、日電理化硝子株式会社)を被せた状態で、試験管を約20~30°傾斜した状態で設置して回転させればよい。これによって、培地に必要な気相(5%CO
2)を安定確保できる。一方、長期間の培養では、蓋付き試験管300には、予め5%CO
2の気相と平衡した培地を供給するためのチューブ310と、蓋付き試験管300内の液体培地を排出するためのチューブ310とが接続されていてもよい。これによって、蓋付き試験管300内には常に新鮮な液体培地が供給され、数日から数カ月といった長期間に亘り連続かつ自動で細胞を培養することが可能となる。蓋付き試験管300内の液体培地を効率よく新しいものに置換する観点からは、2本のチューブ310のうちの一方のチューブ310の先端を蓋付き試験管300の試験管本体の底部付近に配置し、他方のチューブ310の先端を試験管本体の開口部付近に配置することが好ましい。
【0027】
蓋付き試験管300の種類は、特に限定されず、細胞培養デバイス100の構成や培養する細胞の種類などに応じて適宜選択される。蓋付き試験管300は、ガラス製であってもよいし、樹脂製であってもよいし、金属製であってもよい。また、細胞培養デバイス100の固定方法も特に限定されない。たとえば、
図3Cに示されるように、蓋付き試験管300内にぎりぎりで収容できるように(断面視したときに複数箇所で内接するように)細胞培養デバイス100の大きさを調整することで、別途固定器具を用いることなく細胞培養デバイス100を蓋付き試験管300に固定することができる。チューブ310の種類も、特に限定されず、液体培地の種類などに応じて適宜選択される。たとえば、チューブ310は、内径が0.3~0.7mm程度のシリコーン製のチューブである。液体培地の種類も、特に限定されず、培養する細胞の種類などに応じて適宜選択される。液体培地は、適切な温度、気相と平衡にされた状態(例えば、37℃、5%二酸化炭素、95%空気)で供給される。液体培地の供給は、手動で行うこともできるが、長時間に亘り大量の培地を供給する場合などはポンプなどにより行うことが好ましく、その場合には後述する交互回転法で蓋付き試験管300を回転させることが特に好ましい。
【0028】
細胞培養デバイス100を収容した蓋付き試験管300を回転させる方法は、特に限定されない。また、蓋付き試験管300を回転させる際の蓋付き試験管300の角度も、特に限定されず、例えば水平面に対して0~45°の範囲内で適宜調整されうる。また、回転方向および回転速度も、特に限定されず、適宜調整されうる。たとえば、細胞培養デバイス100を収容した蓋付き試験管300を、時計回りまたは反時計回りに連続または断続的に回転させてもよいし、時計回りと反時計回りとを交互に繰り返して回転させてもよい(交互回転法)。また、箱体110の底板111と可動蓋体120とで上下方向の位置が交互に変わるのであれば、細胞培養デバイス100を収容した蓋付き試験管300は、360°回転させられる必要はなく、例えば180°回転させられてもよい。また、細胞培養デバイス100を収容した蓋付き試験管300は、特許文献1に記載の反重力培養装置を用いて連続的に回転させられてもよい。
【0029】
(細胞培養方法)
本実施の形態に係る細胞培養方法は、(1)細胞培養デバイス100に細胞を定着させた培養基材140を収容する工程と、(2)細胞培養デバイス100を回転させながら細胞を培養する工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0030】
まず、細胞培養デバイス100に細胞を定着させた培養基材140を収容する。より具体的には、細胞培養デバイス100の箱体110の底板111と可動蓋体120との間に、細胞を定着させた培養基材140を収容する。
【0031】
培養する細胞の種類は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択されうる。培養する細胞の例には、iPS細胞や、ES細胞、Muse細胞、DFAT細胞などの多能性幹細胞、各種分化細胞が含まれる。培養基材140の種類は、細胞の種類などに応じて適宜選択される。
【0032】
たとえば、1×10
6個/mLの濃度の多能性幹細胞(例えばDFAT細胞)懸濁液とコラーゲン溶液との混合液を線維化させ、1日静置して安定化させる。これにより、多能性幹細胞が包埋されたコラーゲン線維膜(培養基材140)を得られる。また、箱体110の底板111としてのチタン不織布および可動蓋体120としてのチタン不織布には、細胞を含まないコラーゲン溶液を含侵させ、被覆させる。これにより、底板111および可動蓋体120として、コラーゲンでコーティングされたチタン不織布を得られる。そして、底板111の上に多能性幹細胞が包埋されたコラーゲン線維膜(培養基材140)を配置し、さらにその上に可動蓋体120を配置し、脱落防止部130で可動蓋体120が脱落しないようにする(
図2Aおよび
図2B参照)。組み立てられた細胞培養デバイス100を、液体培地で満たされた蓋付き試験管300内に設置する(
図3A~C参照)。
【0033】
次に、培養基材140を収容した細胞培養デバイス100を回転させながら細胞を培養する(
図3A~C参照)。
【0034】
図4Aは、箱体110の開口部113が上方(鉛直上向き)にあるときの細胞培養デバイス100の様子を示す断面図であり、
図4Bは、箱体110の開口部113が下方(鉛直下向き)にあるときの細胞培養デバイス100の様子を示す断面図である。開口部113が上方にあるときは、
図4Aに示されるように、培養基材140は、底板111の上に配置された状態で可動蓋体120により押圧される。一方、開口部113が下方にあるときは、
図4Bに示されるように、培養基材140は、可動蓋体120の上に配置されるが、底板111により押圧されることはない。細胞培養デバイス100を回転させると、
図4Aの状態と
図4Bの状態とを交互に繰り返すことになるので、可動蓋体120は、重力の方向の変化に伴って移動し、培養基材140は、可動蓋体120により断続的に押圧されることとなる。したがって、培養基材140中の細胞にも、断続的に圧力またはせん断応力が加えられることとなる。また、細胞に対する重力の向きも周期的に変化する。その結果、細胞の増殖、細胞の成長、組織の形成、臓器の形成を促進することができる。
【0035】
(効果)
以上のように、本実施の形態に係る細胞培養デバイス100を用いることで、力学的刺激として圧力またはせん断応力を細胞に断続的に加えながら細胞を培養することができる。その結果、細胞の増殖、細胞の成長、組織の形成、臓器の形成を促進することができる。
【0036】
[実施の形態2]
(細胞培養デバイスの構成)
図5Aは、本発明の実施の形態2に係る細胞培養デバイス200の平面図であり、
図5Bは、
図5AのB-B線の断面図である。
【0037】
図5Aおよび
図5Bに示されるように、本実施の形態に係る細胞培養デバイス200は、箱体110、可動蓋体120、弾性部材210およびスペーサー220を有する。
図5Bに示されるように、細胞培養デバイス200は、箱体110の底板111と可動蓋体120との間に細胞を定着させた培養基材140を配置した状態で使用される。
【0038】
実施の形態2に係る細胞培養デバイス200は、脱落防止部130の代わりに弾性部材210およびスペーサー220を有する点において実施の形態1に係る細胞培養デバイス100と異なる。実施の形態1に係る細胞培養デバイス100と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0039】
弾性部材210は、箱体110内に収容された培養基材140に向けて可動蓋体120を押圧する。弾性部材210は、箱体110の開口部113が上方(鉛直上向き)にあるときに、可動蓋体120が培養基材140を押圧するのを促進するとともに、箱体110の開口部113が下方(鉛直下向き)にあるときに、箱体110から可動蓋体120が外れないように脱落防止部として機能するとともに、可動蓋体120の自由落下を制御する。この後説明するように、本実施の形態では、弾性部材210は、可動蓋体120と蓋付き試験管300の試験管本体の側壁との間に配置された状態で、可動蓋体120を押圧する(
図6参照)。弾性部材210の弾性は、上記の機能を発揮できれば特に限定されないが、箱体110の開口部113が下方(鉛直下向き)にあるときに、可動蓋体120が培養基材140を押圧しないように調整されていることが好ましい(
図7B参照)。
【0040】
弾性部材210の構成は、上記の機能を発揮できれば特に限定されない。弾性部材210の例には、コイルばねや板ばね、線細工ばねなどのばね(スプリング)が含まれる。弾性部材210の材料も特に限定されず、例えば金属、ゴム、樹脂、セラミックスなどである。本実施の形態では、弾性部材210は、金属製のコイルばねである。弾性部材210の数も、上記の機能を発揮できれば特に限定されない。本実施の形態では、細胞培養デバイス200は、2つの弾性部材210を有している。
【0041】
スペーサー220は、箱体110の底板111と可動蓋体120との間に配置され、弾性部材210が可動蓋体120を押圧しているときに、底板111と可動蓋体120との間に培養基材140が配置されていない空間が存在することに起因して可動蓋体120が過度に傾くことを防止する。スペーサー220の厚みは、箱体110の開口部113が上方(鉛直上向き)にあるときに、可動蓋体120が培養基材140を押圧するのを妨げず、かつ上記機能を発揮できれば特に限定されない。スペーサー220の厚みは、培養基材140の厚みより少し薄い厚みであることが好ましく、例えば培養基材140の厚みの50~95%程度の厚みであることが好ましい。
【0042】
スペーサー220の構成は、上記の機能を発揮できれば特に限定されない。スペーサー220の材料も特に限定されず、例えば金属、ゴム、樹脂、セラミックスなどである。本実施の形態では、スペーサー220は、矩形の金属板をコの字状に折り曲げたものである。スペーサー220の数も、上記の機能を発揮できれば特に限定されない。本実施の形態では、細胞培養デバイス200は、4つのスペーサー220を有している。
【0043】
培養基材140については、実施の形態1で説明したので説明を省略する。前述のとおり、箱体110の底板111と可動蓋体120との間には、1つの培養基材140が配置されてもよいし、複数の培養基材140が配置されてもよい。本実施の形態では、底板111と可動蓋体120との間には、複数の培養基材140が配置されている。
【0044】
本実施の形態に係る細胞培養デバイス200を用いて細胞を培養する際には、細胞培養デバイス200は、箱体110の底板111と可動蓋体120とで上下方向の位置が交互に変わるように回転させられる。細胞培養デバイス200は、液体培地中に浸漬された状態で回転させられる。
【0045】
図6は、細胞培養デバイス200を用いた細胞培養の一例を示す図である。この例では、細胞培養デバイス200は、蓋付き試験管300(例えばアルミニウム製の開放型キャップ(NE-30、日電理化硝子株式会社)を被せた試験管(BT-30、日電理化硝子株式会社))内に収容されており、蓋付き試験管300は、約20~30°傾斜した状態で回転培養台に設置されている。細胞培養デバイス200は蓋付き試験管300内に固定されており、蓋付き試験管300を回転させることで細胞培養デバイス200も回転する。
【0046】
実施の形態1と同様に、細胞培養デバイス200の固定方法は、特に限定されない。たとえば、蓋付き試験管300内にぎりぎりで収容できるように(断面視したときに複数箇所で内接するように)細胞培養デバイス200の大きさを調整することで、別途固定器具を用いることなく細胞培養デバイス200を蓋付き試験管300に固定することができる。また、実施の形態1と同様に、細胞培養デバイス200を収容した蓋付き試験管300を回転させる方法も、特に限定されない。
【0047】
(細胞培養方法)
実施の形態1と同様に、本実施の形態に係る細胞培養方法は、(1)細胞培養デバイス200に細胞を定着させた培養基材140を収容する工程と、(2)細胞培養デバイス200を回転させながら細胞を培養する工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0048】
まず、細胞培養デバイス200に細胞を定着させた培養基材140を収容する。より具体的には、細胞培養デバイス200の箱体110の底板111と可動蓋体120との間に、細胞を定着させた培養基材140を収容する。
【0049】
たとえば、コラーゲン溶液を線維化させ、1日静置して安定化させる。得られたコラーゲンゲルに3×10
5個/mLの濃度の多能性幹細胞(例えばDFAT細胞)懸濁液を含侵させ、1日静置して細胞を定着させる。これにより、多能性幹細胞が定着したコラーゲン線維膜(培養基材140)を得られる。また、箱体110の底板111としてのチタン不織布および可動蓋体120としてのチタン不織布にも、コラーゲン溶液を含侵させ、被覆させる。これにより、底板111および可動蓋体120として、コラーゲンでコーティングされたチタン不織布を得られる。そして、底板111の上に多能性幹細胞が定着したコラーゲン線維膜(培養基材140)を配置し、さらにその上に可動蓋体120を配置し、弾性部材210で可動蓋体120が脱落しないようにする(
図5Aおよび
図5B参照)。組み立てられた細胞培養デバイス200を、液体培地で満たされた蓋付き試験管300内に設置する(
図6参照)。
【0050】
次に、培養基材140を収容した細胞培養デバイス200を回転させながら細胞を培養する(
図6参照)。
【0051】
図7Aは、箱体110の開口部113が上方(鉛直上向き)にあるときの細胞培養デバイス200の様子を示す断面図であり、
図7Bは、箱体110の開口部113が下方(鉛直下向き)にあるときの細胞培養デバイス200の様子を示す断面図である。開口部113が上方にあるときは、
図7Aに示されるように、培養基材140は、底板111の上に配置された状態で可動蓋体120により押圧される。このとき、培養基材140は、可動蓋体120の重さの分だけでなく、弾性部材210による押圧力の分も押圧される。一方、開口部113が下方にあるときは、
図7Bに示されるように、培養基材140は、可動蓋体120の上に配置されるが、底板111により押圧されることはない。このとき、可動蓋体120は、箱体110に固定された脱落防止部130(実施の形態1参照)ではなく弾性部材210に支持されているので、可動蓋体120の可動範囲は、絶対的な範囲に制限されない。たとえば、細胞が増殖して培養基材140と細胞の複合体の厚みが増大しても、可動蓋体120は、
図7Bの状態のときに複合体の厚みに応じた位置に移動して、複合体にほとんど圧力を加えないようにすることができる。細胞培養デバイス200を回転させると、
図7Aの状態と
図7Bの状態とを交互に繰り返すことになるので、可動蓋体120は、重力の方向の変化に伴って移動し、培養基材140は、可動蓋体120により断続的に押圧されることとなる。したがって、培養基材140中の細胞にも、断続的に圧力またはせん断応力が加えられることとなる。また、細胞に対する重力の向きも周期的に変化する。その結果、細胞の増殖、細胞の成長、組織の形成、臓器の形成を促進することができる。
【0052】
(効果)
以上のように、本実施の形態に係る細胞培養デバイス200を用いることで、実施の形態1に係る細胞培養デバイス100と同様に、力学的刺激として圧力またはせん断応力を細胞に断続的に加えながら細胞を培養することができる。その結果、細胞の増殖、細胞の成長、組織の形成、臓器の形成を促進することができる。また、本実施の形態に係る細胞培養デバイス200では、可動蓋体120が弾性部材210に支持されているので、細胞が増殖して培養基材140と細胞の複合体の厚みが増大しても、細胞に加える圧力またはせん断応力を連続的ではなく断続的に加えることができる。
【0053】
以下の実施例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
(1)培養基材の準備
非特許文献1に記載されている方法で、子牛の皮膚から抽出したコラーゲンを用いて複数のコラーゲン線維膜(fibrous collagen membrane;FCM)を調製した。各コラーゲン線維膜の大きさは、縦5mm×横5mm×厚み2mmとした。本実施例では、これらのコラーゲン線維膜を培養基材として使用した。
[非特許文献1]Yoshinori Kuboki, et al., "Regeneration of periodontal ligament and cementum by BMP-applied tissue engineering", European Journal of Oral Sciences, Vol. 106, pp. 197-203.
【0055】
コラーゲン線維膜の調製方法について簡単に説明しておく。子牛の皮膚から抽出したコラーゲンをペプシン処理して酸性コラーゲン溶液を得た。この酸性コラーゲン溶液を弱アルカリ性溶液を用いて透析することによりコラーゲン線維を得た。このコラーゲン線維を含む懸濁液を縦10cm×横10cm×深さ3cmのステンレス鋼製の鋳型に入れて凍結乾燥し、ヘキサメチレンジイソシアネートで架橋させた後、洗浄、凍結乾燥して、コラーゲン線維膜を得た。最後に、コラーゲン線維膜をプレスして厚みを2mmに調整し、縦5mm×横5mmの大きさで切断した。
【0056】
最小量の液体培地を含ませた各コラーゲン線維膜に、3×105個のDFAT細胞を含む液体培地を含侵させ、24時間静置して細胞を定着させた。コラーゲン線維膜は、厚さが2倍以上に膨潤した。
【0057】
(2)細胞培養デバイスの準備
実施の形態2に係る細胞培養デバイスおよび蓋付き試験管を2セット準備した(
図5A~
図6参照)。厚み0.1mmのチタン板を縦55mm、横26mm、高さ10mmの略角筒形状に加工して、箱体の側板とした。また、縦55mm、横26mm、厚み1mmのチタン不織布を箱体の底板とし、縦50mm、横23mm、厚み1.5mmのチタン不織布を可動蓋体とした。これら2枚のチタン不織布は、上記酸性コラーゲン溶液を含侵させることで、コラーゲンでコーティングした。弾性部材としては、コイルばねを使用した。これら2つのコイルばねは、可動蓋体のみであれば略変形せずに可動蓋体を支持でき、可動蓋体に10枚のコラーゲン線維膜が加わると変形しつつ可動蓋体を支持できる程度の弾性を有している。スペーサーとしては、矩形の金属板をコの字状に折り曲げたものを使用した。スペーサーの厚みは、3mmとした。蓋付き試験管の試験管本体としては、深さ120mm、外径30mm、厚み0.6mmのガラス培養管を使用した。
【0058】
(3)細胞培養
上記(2)で準備した2つの細胞培養デバイスのそれぞれにおいて、箱体の底板と可動蓋体との間に上記(1)で準備したDFAT細胞を定着させた10枚のコラーゲン線維膜を互いに重ならないように配置した。コラーゲン線維膜を収容した細胞培養デバイスを40mLの液体培地を収容した蓋付き試験管内に設置し、さらに可動蓋体と蓋付き試験管の間に2つのコイルばねを設置した。
【0059】
2つの細胞培養デバイスのうち、一方の細胞培養デバイス(実施例)については、細胞培養デバイスを設置した蓋付き試験管を約20~30°傾斜した状態で、1時間当たり240回交互に回転する(1分間に4往復する)ように回転させながら、37℃で二酸化炭素5%、空気95%の気相で7日間培養した(
図6参照)。培地の交換は行わなかった。他方の細胞培養デバイス(比較例)については、細胞培養デバイスを設置した蓋付き試験管を約20~30°傾斜し、かつ箱体の開口部が上方に位置する状態で静置して、37℃で二酸化炭素5%、空気95%の気相で7日間培養した。この対照実験によって、細胞培養デバイスの核心である動的要素のすべてを欠いた比較例とした。この比較例によって、本発明に係る細胞培養デバイスの動的要素の効果、すなわち圧力変動効果と、培地の流動によるせん断応力効果が如実に示されるはずである。
【0060】
(4)結果
7日間培養した後、それぞれの細胞培養デバイスから10枚のコラーゲン線維膜を取り出し、24ウェルプレートの各ウェルに1枚ずつ収容した。各ウェルに0.4mLの液体培地と0.04mLのCell Counting Kit-8(CCK-8)の試薬溶液を加え、90分間培養をした後、各ウェルについて450nmの吸光度を測定した。測定された吸光度は、生細胞数と比例関係にある。
【0061】
図8は、蓋付き試験管を回転させながら培養した場合(実施例)における細胞の数(吸光度)と、蓋付き試験管を回転させずに培養した場合(比較例)における細胞の数(吸光度)を示すグラフである。このグラフに示されるように、実施例に係る細胞培養方法では、比較例に係る細胞培養方法よりも細胞が6倍増殖した。
【0062】
[実施例2]
(1)培養基材の準備
培養基材として、直径6mm、厚さ2mmのコラーゲンスポンジ(ハニカムディスク96、株式会社高研)を30枚準備した。
【0063】
最小量の液体培地を含ませた各コラーゲンスポンジに、3×105個のDFAT細胞を含む液体培地を含侵させ、24時間静置して細胞を定着させた。コラーゲンスポンジは、厚さが2倍以上に膨潤した。
【0064】
(2)細胞培養デバイスの準備
実施の形態1に係る細胞培養デバイスおよび蓋付き試験管を3セット準備した(
図1~
図4B参照)。実施例1と同様に、箱板および可動蓋体を作製した。箱体の側板には4つの貫通孔を形成し、2本のチタン棒を脱落防止部として挿入した。3セットのうち1セットでは、細胞培養デバイスを回転させることで可動蓋体および培養基材が移動できるように(底板と可動蓋体との間隔が変化するように)、箱板の底板から離れた位置に4つの貫通孔を形成した(実施例:
図9A参照)。残りの2セットでは、細胞培養デバイスを回転させても可動蓋体および培養基材が移動できないように(底板と可動蓋体との間隔が変化しないように)、箱板の底板に近い位置に4つの貫通孔を形成した(比較例:
図9Bおよび
図9C参照)。また、実施の形態2に係る細胞培養デバイスのように、箱体の底板と可動蓋体との間に複数のスペーサーを配置した。スペーサーとしては、矩形の金属板をコの字状に折り曲げたものを使用した。スペーサーの厚みは、3mmとした。蓋付き試験管の試験管本体としては、深さ120mm、外径30mm、厚み0.6mmのガラス培養管を使用した。
【0065】
(3)細胞培養
上記(2)で準備した3つの細胞培養デバイスのそれぞれにおいて、箱体の底板と可動蓋体との間に上記(1)で準備したDFAT細胞を定着させた10枚のコラーゲンスポンジを互いに重ならないように配置し、可動蓋体が脱落しないように2本のチタン棒を挿入した。コラーゲンスポンジを収容した細胞培養デバイスを40mLの液体培地を収容した蓋付き試験管内に設置した。
【0066】
3つの細胞培養デバイスのうち、可動蓋体および培養基材が移動できる1つの細胞培養デバイス(実施例)については、細胞培養デバイスを設置した蓋付き試験管を約20~30°傾斜した状態で、1時間当たり240回交互に回転する(1分間に4往復する)ように回転させながら、37℃で二酸化炭素5%、空気95%の気相で7日間培養した(
図9A参照)。培地の交換は行わなかった。
【0067】
可動蓋体および培養基材が移動できない他の1つの細胞培養デバイス(比較例1)についても、細胞培養デバイスを設置した蓋付き試験管を約20~30°傾斜した状態で、1時間当たり240回交互に回転する(1分間に4往復する)ように回転させながら、37℃で二酸化炭素5%、空気95%の気相で7日間培養した(
図9B参照)。培地の交換は行わなかった。
【0068】
可動蓋体および培養基材が移動できない最後の1つの細胞培養デバイス(比較例2)については、細胞培養デバイスを設置した蓋付き試験管を約20~30°傾斜し、かつ箱体の開口部が上方に位置する状態で静置して、37℃で二酸化炭素5%、空気95%の気相で7日間培養した。培地の交換は行わなかった。
【0069】
(4)結果
7日間培養した後、それぞれの細胞培養デバイスから10枚のコラーゲンスポンジを取り出し、実施例1と同様の手順で吸光度を測定した。測定された吸光度は、生細胞数と比例関係にある。
【0070】
図10は、可動蓋体および培養基材が移動できる細胞培養デバイスを回転させながら培養した場合(実施例)における細胞の数(吸光度)と、可動蓋体および培養基材が移動できない細胞培養デバイスを回転させながら培養した場合(比較例1)と、可動蓋体および培養基材が移動できない細胞培養デバイスを回転させずに培養した場合(比較例2)における細胞の数(吸光度)を示すグラフである。このグラフに示されるように、実施例に係る細胞培養方法では、比較例1に係る細胞培養方法よりも細胞が3倍、比較例2に係る細胞培養方法よりも細胞が13倍増殖した。このことから、細胞培養デバイスを回転させるだけでなく、可動蓋体および/または培養基材の移動による力学的刺激をさらに加えることで、細胞の増殖をより促進させうることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る細胞培養デバイスおよび細胞培養方法は、例えば再生医療における臓器または組織の形成などに有用である。また、本発明に係る細胞培養デバイスおよび細胞培養方法は、間もなく訪れるであろう世界的な食料危機、特に食用肉の供給困難に対する、人工の培養肉の製造などにも有用である。
【符号の説明】
【0072】
100、200 細胞培養デバイス
110 箱体
111 底板
112 側板
113 開口部
120 可動蓋体
130 脱落防止部
140 培養基材
210 弾性部材
220 スペーサー
300 蓋付き試験管
310 チューブ
【要約】
【課題】簡単な構成で力学的刺激を与えて細胞増殖を促進させうる細胞培養デバイスを提供すること。
【解決手段】細胞培養デバイスは、細胞を定着させた培養基材を収容するための箱体と、前記箱体内に前記箱体の深さ方向に移動可能に配置された可動蓋体と、を有する。前記培養基材は、前記箱体の底板と前記可動蓋体との間に配置される。
【選択図】
図1